(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000532
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】複合無機膜、流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20231225BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20231225BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20231225BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20231225BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20231225BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20231225BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/08
B01D71/32
B01D71/36
B01D71/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098948
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022098611
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柿山 創
(72)【発明者】
【氏名】田中 慧
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA02
4D006HA03
4D006JA01B
4D006JA13C
4D006JA25A
4D006JA25C
4D006JB06
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4D006MB11
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC05X
4D006MC07
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4D006MC33
4D006MC39X
4D006MC45
4D006MC46
4D006MC48
4D006MC51
4D006MC52
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC68
4D006NA05
4D006NA39
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB64
4D006PB66
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】本発明の複合無機膜は、モジュール製造装置やモジュール部材との引っ掛かりが低減されることで、モジュール化やモジュール運転時の無機膜の破断や破損の発生を抑制することができる。
【解決手段】
中空糸状の無機膜と繊維状の樹脂組成物を含む複合無機膜であって、前記樹脂組成物はJIS L 1095(2010)で測定した前記樹脂組成物同士の静摩擦係数が0.01以上0.60以下であり、前記無機膜の表面の一部が前記樹脂組成物で被覆された複合無機膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸状の無機膜の表面の一部が繊維状の樹脂組成物で被覆された複合無機膜であって、 前記樹脂組成物はJIS L 1095(2010)で測定した前記樹脂組成物同士の静摩擦係数が0.01以上0.60以下である
複合無機膜。
【請求項2】
前記無機膜に前記樹脂組成物が螺旋状に巻き付けられた、請求項1に記載の複合無機膜。
【請求項3】
螺旋状に巻き付けられた前記樹脂組成物のピッチが、以下の式1を満たす、請求項2に記載の複合無機膜。
r < L < 2(2Rr+r2)0.5 ・・・式1
[式中Lは前記樹脂組成物のピッチ、rは前記樹脂組成物の外径、Rは前記無機膜の曲げ半径を表す。]
【請求項4】
前記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、及びパーフルオロアルコキシアルカンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する、請求項1に記載の複合無機膜。
【請求項5】
前記無機膜の表面の少なくとも一部にコーティング層を有する、請求項4に記載の複合無機膜。
【請求項6】
前記コーティング層がシリコーン樹脂を含む、請求項5に記載の複合無機膜。
【請求項7】
前記樹脂組成物が前記複合無機膜の最外層に配置された、請求項1~6のいずれかに記載の複合無機膜。
【請求項8】
前記無機膜の外径が、50μm以上2,000μm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の複合無機膜。
【請求項9】
前記無機膜の曲げ半径が、0.1cm以上100cm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の複合無機膜。
【請求項10】
前記無機膜が、炭素膜である、請求項1~6のいずれかに記載の複合無機膜。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の複合無機膜が複数本収納された流体分離膜モジュールであって、
前記流体分離膜モジュールの内断面に対する前記無機膜の充填率が30%以上70%以下である、流体分離膜モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の流体分離膜モジュールを含む、洋上用流体分離膜プラント。
【請求項13】
請求項4~6のいずれかに記載の複合無機膜が複数本収納された流体分離膜モジュールを含む流体分離膜プラントであって、
前記複合無機膜へ供給される分離対象ガスが液体成分を含む、流体分離膜プラント。
【請求項14】
請求項11に記載の流体分離膜モジュールで精製された、精製流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機膜及びそれを用いた流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種混合ガスや混合液体から特定の成分を選択的に分離・精製する分離法として、膜分離法が知られている。膜分離法は圧力差や濃度差を利用するため、他の分離・精製法と比較して熱エネルギーの使用量が少ない利点がある。膜分離法で用いられる分離膜としては、高分子膜や無機膜が知られているが、特に耐熱性や耐薬品性が要求される用途においては、無機膜が好適に用いられる。この際、単位体積あたりの膜面積を大きくするため、複数本の無機膜をベッセルに収納した膜モジュールが使用される。
【0003】
無機膜を収納した膜モジュールに関して、これまでに、複数の中空糸分離膜からなる束の外周に糸状物質を巻き付けて補強された中空糸束(1)と、前記中空糸束(1)を多数本集束させた中空糸束(2)と、前記中空糸束(2)の少なくとも一方の端部に設けられた管板とを含んで構成されることを特徴とする中空糸分離膜エレメント(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、複数の中空糸分離膜からなる束の外周に糸状物質を巻き付けて補強された中空糸束(1)を用いることで、モジュール製造時の中空糸分離膜の破損や破断を防ぐ方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、中空糸束の作製、中空糸束のモジュール化、及びモジュールの運転時に、中空糸分離膜や中空糸束がモジュール製造装置やモジュール部材(隣接する中空糸束や筐体等)に引っ掛かり、中空糸分離膜に破断や破損が生じる課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、モジュール化やモジュール運転時の引っ掛かりを抑制し、取り扱い性が向上した無機膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。すなわち本発明は、中空糸状の無機膜の表面の一部が繊維状の樹脂組成物で被覆された複合無機膜であって、前記樹脂組成物はJIS L 1095(2010)で測定した前記樹脂組成物同士の静摩擦係数が0.01以上0.60以下である、複合無機膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合無機膜は、モジュール製造装置やモジュール部材との引っ掛かりが低減されることで、モジュール化やモジュール運転時の無機膜の破断や破損の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の複合無機膜の一態様を示す模式図である。
【
図2】本発明の複合無機膜の別の一態様を示す模式図である。
【
図3】本発明の流入口および流出口を有する流体分離膜モジュールの一態様の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合無機膜は、中空糸状の無機膜の表面の一部が繊維状の樹脂組成物で被覆された複合無機膜であって、前記樹脂組成物はJIS L 1095(2010)で測定した前記樹脂組成物同士の静摩擦係数が0.01以上0.60以下であることを特徴とする。
前述のとおり、従来の技術においては、無機膜は、モジュール化やモジュール運転時に、モジュール製造装置やモジュール部材(隣接する無機膜や筐体等)との引っ掛かりによって、破断や破損を生じる課題があった。本発明の複合無機膜は、静摩擦係数が小さい樹脂組成物で表面の一部が被覆されることによって、複合無機膜の表面の滑り性が向上するため、モジュール化やモジュール運転時の、複合無機膜とモジュール製造装置やモジュール部材(隣接する無機膜や筐体等)との引っ掛かりが低減され、無機膜の破断や破損を抑制することができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、JIS L 1095(2010)で測定した樹脂組成物同士の静摩擦係数(以下、単に「静摩擦係数」とも記載する)が0.01以上0.60以下であることを特徴とする。樹脂組成物の静摩擦係数が0.60以下であることで、複合無機膜の表面の滑り性を向上させることができる。樹脂組成物の静摩擦係数は、0.50以下であることがより好ましく、0.40以下であることがさらに好ましい。一方で、樹脂組成物の静摩擦係数の下限は特に限定されないが、0.01以上であることが好ましい。
【0012】
以下図面を参照して本発明について例をあげて説明する。しかし本発明は例に限定して解釈されるものではない。
【0013】
本発明の複合無機膜は、表面の一部が繊維状の樹脂組成物で被覆された無機膜である。ここで、表面の一部が「被覆」された態様とは、外見上、樹脂組成物によって無機膜の外表面の一部が遮られて見えない状態となっている態様を表す。当該態様としては、例えば、繊維状の樹脂組成物が中空糸状の無機膜に螺旋状に巻き付けられた態様や繊維状の樹脂組成物と中空糸状の無機膜が引き揃えられた態様が挙げられ、こうすることで流体透過性を損ねずに無機膜表面の滑り性を向上させる効果を奏する。
【0014】
なお、「被覆」の態様について、無機膜の表面にコート層や本発明の樹脂組成物とは異なる樹脂組成物(以下、「別の樹脂組成物」と記載する場合がある)が存在していても良い。このような態様においては、本発明の樹脂組成物は複合無機膜の最外層に配置されることが好ましく、こうすることで複合無機膜としての取り扱い性を向上させつつ、コート層や別の樹脂組成物による複合無機膜の高機能化が可能となる。
【0015】
図1に、本発明の一態様の模式図を示す。
図1は、無機膜1に繊維状の樹脂組成物2がピッチ3の間隔をもって螺旋状に巻き付けられた複合無機膜を表す模式図である。
図1において、樹脂組成物2によって無機膜1の外表面の一部が遮られて見えない状態となっている。
【0016】
本発明の複合無機膜は、繊維状の樹脂組成物(以下、「カバリング糸」と記載する場合がある)が螺旋状に巻き付けられた無機膜であることが好ましい。こうすることで、カバリング糸が無機膜近傍に緩やかに巻き付くためモジュール化やモジュール運転時の外力や振動に対する耐性が向上する。加えて、カバリングのピッチを制御することで複合無機膜の滑り性を均一に向上することができる。
【0017】
カバリング糸のピッチは、以下の式1を満たすことが好ましい。
【0018】
r < L < 2(2Rr+r2)0.5 ・・・式1
[式中Lは前記樹脂組成物のピッチ、rは前記樹脂組成物の外径、Rは前記無機膜の曲げ半径を表す。]
Lが2(2Rr+r2)0.5以下であることで、無機膜を曲げ半径まで曲げた場合であっても外部の平面に対して無機膜の表面が露出せず、無機膜の表面とモジュール製造装置やモジュール部材との引っ掛かりを低減することができる。Lは1.6(2Rr+r2)0.5未満であることがより好ましい。一方で、Lがrを超えることで、カバリング糸の重なりが抑制されるため、モジュール化時の充填率を損なうことなく複合無機膜としての取り扱い性を向上させることができる。Lは2r以上であることが好ましく、5r以上であることがさらにより好ましい。
【0019】
カバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様としては、1本の無機膜に対して1本以上のカバリング糸が巻き付けられた態様や、2本以上の無機膜に対して1本以上のカバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様が挙げられる。無機膜同士の引っ掛かりをより低減できる観点からは、1本の無機膜に対して1本以上のカバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様が好ましい。一方で、無機膜を補強できる観点からは、2本以上の無機膜に対して1本以上のカバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様が好ましく、粒子である樹脂組成物で表面の一部が被覆された無機膜の複数本に対して1本以上のカバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様や、カバリング糸が多段に巻き付けられた態様(以下、「多段カバリング」と記載する)とすることがより好ましい。
【0020】
多段カバリングとは、カバリング糸が螺旋状に巻き付けられた無機膜の複数本に対して、さらに1本以上のカバリング糸が螺旋状に巻き付けられた態様を表す。
図2に、多段カバリングの一態様として、二段カバリングの模式図を示す。
図2は、繊維である一段目の樹脂組成物11がピッチ13の間隔をもって螺旋状に巻き付けられた無機膜1を5本引き揃えた芯糸に対して、さらに繊維である二段目の樹脂組成物12がピッチ14の間隔をもって螺旋状に巻き付けられた多段カバリング複合無機膜10の模式図である。多段カバリングの態様をとることで、無機膜同士の引っ掛かりを低減しつつ、無機膜束の強度を向上させることができる。なお、多段カバリングは、三段以上であってもよく、低段に、未カバリングの無機膜が含まれていても良い。
【0021】
なお、1本以上の無機膜に対して2種類以上のカバリング糸を巻き付ける態様において、本発明の樹脂組成物であるカバリング糸を最外層に配置することが好ましい。こうすることで、別の樹脂組成物からなる内層のカバリング糸で嵩高性などを担保しつつ、複合無機膜としての取り扱い性を向上させることができる。
【0022】
樹脂組成物同士の静摩擦係数を小さくする方法としては、表面の少なくとも一部に低摩擦性の樹脂を有する樹脂組成物を用いる方法や、カバリング糸を油剤等で処理する方法が挙げられる。モジュール化工程やモジュール運転のプロセスウィンドウを大きくできることから、表面の少なくとも一部に化学的に安定で摩擦係数が小さいフッ素樹脂を含有する樹脂組成物を使用することが好ましく、後述のフッ素樹脂を用いることがより好ましい。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(以下FEPという)、及びパーフルオロアルコキシアルカン(以下PFAという)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する樹脂組成物であることが好ましい。PFAは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体を表す。パーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、フッ素樹脂以外の樹脂(以下、「非フッ素樹脂」と記載する)や樹脂以外の組成物(以下、「非樹脂」と記載する)を含んでいても良い。非フッ素樹脂や非樹脂は、上記のフッ素樹脂でコーティングされた態様であることが好ましく、こうすることで非フッ素樹脂や非樹脂の特性を活かしつつ樹脂組成物の表面に滑り性を付与することができる。上記の非フッ素樹脂としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン、ポリアセタール、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。樹脂組成物が繊維である場合に特性を制御しやすい観点からは、ポリエステルであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。一方で、上記の非樹脂としては、金属や金属酸化物等が挙げられ、樹脂組成物の強度を向上できる効果を奏する。
【0025】
本発明の一つの態様において、複合無機膜は無機膜の表面の少なくとも一部にコーティング層を有することが好ましい。つまり、表面の少なくとも一部にコーティング層を有する無機膜の外表面の一部が樹脂組成物によって遮られて見えない状態となっていることが好ましい。こうすることで、モジュール化における無機膜とモジュール部材(隣接する無機膜や筐体等)との引っ掛かりを低減しつつ、コーティング層によって無機膜の流体透過性能を制御できるため、モジュール生産時の収率とモジュールの分離性能の両立が可能となる。また、当該態様において、本発明の樹脂組成物は複合無機膜の最表層に配置されることが好ましい。即ち、本発明の樹脂組成物はコーティング層を有さないことが好ましい。
【0026】
コーティング層としては、例えば、シリコーン樹脂又はマイクロポーラスポリマー(以下、PIM)を含む層が挙げられる。無機膜表面の微細欠陥を修復できコーティングが容易であることから、コーティング層はシリコーン樹脂を含むことがより好ましい。本発明の複合無機膜は、樹脂組成物によって滑り性が向上しているため、摩擦の大きなコーティング層であっても好適に用いることができる。
【0027】
無機膜の表面の一部にコーティング層を有するモジュールは、例えば、無機膜をモジュール化後に無機膜の表面へコーティング層を形成する方法や、表面の一部にコーティング層を有する無機膜をモジュール化する方法で製造することができる。
【0028】
無機膜は、分離対象流体に含まれる特定の成分(透過成分)の透過性が他の成分(非透過成分)の透過性に対して高い膜である。
【0029】
無機膜の形状としては、流体分離膜モジュールとした際に、モジュール単位体積当たりの膜面積を大きくしやすく、かつ、流体の通過性を向上できることから中空糸状のものを用いる。中空糸状無機膜の外径は、50μm以上2,000μm以下が好ましい。無機膜の外径を50μm以上とすることにより、流体の通過性を向上させることができる。無機膜の外径は、100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。一方、無機膜の外径を2,000μm以下とすることにより、流体分離膜モジュールとした場合の単位体積あたりの無機膜の膜面積を増加させることができる。無機膜の外径は1,000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。なお、無機膜の外径が小さくなると、無機膜の表面と周囲との接触頻度が増大して破断や破損のリスクが大きくなるが、本発明の複合無機膜は引っ掛かりを低減できるため、好適に用いることができる。
【0030】
無機膜の材質としては、例えば、ゼオライト膜、シリカ膜、金属有機構造体(MOF)膜、炭素膜等が挙げられる。耐熱性と耐薬品性を兼ね揃えることから、無機膜として炭素膜を用いることが好ましい。
【0031】
炭素膜としては、例えば、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等を炭化した膜が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0032】
本発明の一つの態様として、無機膜は、支持体を含んでいてもよい。本発明の無機膜が支持体を含む場合、支持体は無機膜の一方の表面のみに配置されることがより好ましい。
【0033】
支持体としては、例えば、アルミナ、シリカ、コージェライト、ジルコニア、チタニア、バイコールガラス、ゼオライト、マグネシア、焼結金属等の多孔質無機材料や、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、及びポリフェニレンオキシドなどのホモポリマー並びにコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含有する多孔質有機材料、炭化可能樹脂からなる多孔質有機材料を炭化した多孔質炭素材料等が挙げられる。炭化可能樹脂としては、例えば、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0034】
本発明の無機膜は、曲げ半径が0.1cm以上100cm以下であることが好ましい。無機膜の曲げ半径が100cm以下であることで、無機膜は湾曲できるため、外部応力を緩和して破断や破損を抑制できる。さらに、本発明の複合無機膜は引っ掛かりを抑制できることから、湾曲時の引っ掛かりを防ぐことができる。無機膜の曲げ半径は、10cm以下であることがより好ましく、1cm以下であることがさらに好ましい。無機膜の曲げ半径の下限は特に限定されないが、0.1cm以上であることで無機膜に自立性を付与できるため、0.1cm以上であることが好ましい。
【0035】
無機膜の曲げ半径は、10cm以上の無機膜を円柱の法線方向に沿って360°以上巻き付けた時に無機膜が破断しない円柱の半径より求めることができる。無機膜の曲げ半径が1.5cm以上である場合、無機膜を円柱の法線方向に沿って巻き付ける角度を適宜小さくして評価を行い、無機膜が破断しない円柱の半径を、無機膜の曲げ半径とみなすことができる。
【0036】
本発明の流体分離膜モジュール(以下、単に「モジュール」と記載する場合がある)は、本発明の複合無機膜が複数本収納された、モジュールである。モジュールに収納される複合無機膜の本数は、100本以上1,000,000本以下であることが好ましい。モジュールに収納される複合無機膜の本数が100本以上であることで、単位体積当たりの膜面積を大きくでき、一定量の分離対象流体を処理することができる。モジュールに収納される複合無機膜の本数は、1,000本以上がより好ましく、10,000本以上がさらに好ましい。モジュールに収納される複合無機膜の本数は、特に限定されないが、1,000,000本以下であることで、モジュールの運搬が容易となる。
【0037】
本発明のモジュールは、無機膜の充填率が30%以上70%以下であることが好ましい。ここで、無機膜の充填率は、モジュールの内断面積に対する無機膜の断面積の占める割合を表す。モジュールの内断面積は、無機膜の長手方向に直交するモジュールの断面における、ベッセルやエレメント筐体の壁面を除いた内側の断面積を表す。無機膜の断面積は、そのモジュールの断面におけるモジュール内に収納された全ての無機膜の断面積(中空部を含む外表面で囲まれた面積を表し、支持体を有する場合はそれも含めた面積)を表し、樹脂組成物の面積は含めない。無機膜の充填率が30%以上であることでモジュールの単位体積当たりの膜面積を担保することができる。無機膜の充填率は40%以上であることがより好ましい。一方で、無機膜の充填率が70%以下であることで過充填による無機膜の破断や損傷を抑制することができる。無機膜の充填率は60%以下であることがより好ましい。本発明の複合無機膜は、樹脂組成物によって表面の滑り性が向上しているため、破損しやすい無機膜であっても充填率を向上させることができる。
【0038】
図3に、本発明のモジュールの一態様の断面模式図を示す。
図3は、表面にコーティング層を有する、中空糸膜である無機膜に樹脂組成物が螺旋状に巻き付けられた複合無機膜が複数本収納されたモジュールの、分離対象流体の流出入口を含む断面の模式図である。
【0039】
本発明のモジュールは、無機膜の表面の一部が樹脂組成物で被覆され、無機膜の表面の少なくとも一部にコーティング層を有することが好ましい。つまり
図3の中空部21を有する無機膜1は、樹脂組成物2が螺旋状に巻き付けられていると同時に、表面にコーティング層22を有する。並列に束ねられた無機膜1は、その両端がポッティング部位23において相互に固定(ポッティング)されるとともに、ベッセル24に固定されている。ベッセル24は、分離対象流体の流出入口25と透過流体の回収口26を有し、図示しない外部流路(分離対象流体の供給流路や非透過流体及び透過流体を回収する流路等)に接続される。
【0040】
本発明のモジュールが分離対象とする混合ガスや混合液体は特に限定されるものではないが、無機膜の耐熱性や耐薬品性を活かし、耐熱性や耐薬品性が必要な用途において好適に用いることができる。耐熱性や耐薬品性が必要な用途としては、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素の精製等が挙げられる。本発明のモジュールは、滑り性の高い樹脂組成物で無機膜が被覆されているため、モジュール運転時に、無機膜とモジュール部材(隣接する無機膜や筐体等)との引っ掛かりが低減され、複雑な揺動下での運転が必要な洋上での流体分離に好適に用いることができる。
【0041】
本発明のモジュールにおいて、ベッセルの断面形状は、ベッセルの耐圧性を向上させる観点から、楕円形や円形などが好ましく、円形がより好ましい。ここで、ベッセルの断面とは、ベッセルの、無機膜の長さ方向に垂直な断面を言う。ベッセルの材質としては、例えば、金属、樹脂、繊維強化プラスチック(以下、FRP)等が挙げられ、設置場所の環境や使用される状況に応じて、適宜選択することができる。耐圧性や耐熱性が要求される用途においては、強度と成形加工性を兼ね備えた金属が好ましく、ステンレス等がより好ましい。
【0042】
ベッセルに配置される流入口および流出口は、無機膜へ流体を導く機能を有する。無機膜が全量ろ過方式で用いられる場合には、流入出口を1箇所有していればよく、クロスフローろ過方式で用いられる場合には、流入口および流出口を合わせて2箇所以上有することが好ましい。ベッセルの機械的強度を保つ範囲において、複数の流入口および流出口を有してもよい。この場合、流入口および/または流出口と無機膜との間に、流体の通過を妨げない範囲でメッシュやフェルト等の布帛を配置することが好ましく、流体の拡散や無機膜の保護の効果を奏する。
【0043】
本発明のモジュールにおいて、1つのベッセルに収納される膜エレメントの数は、1つであっても複数であってもよいが、大きな膜面積が求められる用途の場合は、複数の膜エレメントをベッセル内へ収納することが好ましい。複数の膜エレメントは、直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。
【0044】
本発明のモジュールを構成する膜エレメントは、無機膜がポッティング材で固定されたものであり、ベッセルの内面に固定されることが好ましい。膜エレメントをベッセルの内面に固定する方法としては、例えば、ポッティング材そのものを用いて直接ベッセルの内面に固定する方法、液密性あるいは気密性を確保できるアダプター等(一例として、Oリング等)を介してベッセル内に固定する方法などが挙げられる。膜エレメントの性能が経時劣化した際に、膜エレメントのみを交換することができることから、アダプター等を介してベッセル内に固定することが好ましい。
【0045】
膜エレメントのポッティング部分は、1箇所であっても複数箇所であっても構わないが、無機膜の位置を十分に固定し、無機膜の有効表面積を維持する観点から、略直線状に束ねた複数本の無機膜の両端2箇所をポッティング材により固定することが好ましい。また、束ねた複数本の無機膜をU字型に折り曲げた状態で両端を1箇所でポッティング材により固定してもよいし、無機膜の一端のみをポッティング材で固定し、他端をポッティング材以外の手段で封止してもよい。
【0046】
ポッティング材としては、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。さらに、他の添加剤を含有してもよい。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、成形性、硬化時間や接着性、硬度等のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。
【0048】
添加剤としては、例えば、フィラー、界面活性剤、シランカップリング剤、ゴム成分などが挙げられる。フィラーとしては、例えば、シリカ、タルク、ゼオライト、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、硬化発熱の抑制、強度向上、増粘等の効果を奏する。また、界面活性剤やシランカップリング剤により、ポッティング材混合時の取扱い性向上やポッティング材注入時の無機膜間への浸潤性向上等の効果を奏する。また、ゴム成分により、硬化成形したポッティング材の靭性向上等の効果を奏する。ゴム成分は、ゴム粒子の形態で含有してもよい。
【0049】
また、本発明の一つの態様として、膜エレメントは、ベッセルとは別のケーシング(以下、「エレメントケーシング」と記載)を有してもよい。エレメントケーシングを有することで、膜エレメントがベッセルに収納されていない交換時や輸送時であっても、無機膜が保護され、膜エレメントの取り扱い性が向上する。エレメントケーシングは、分離対象流体を無機膜に供給するための開口部を有する。エレメントケーシングの開口部は、ベッセルの流入口および流出口に対応する位置に存在することが好ましく、こうすることで無機膜への分離対象流体の供給や、膜エレメント内部からの非透過成分の回収が容易になる。エレメントケーシングの形状は、ベッセル内への収納を妨げない限り、特に限定されない。エレメントケーシングの素材としては、例えば、金属、樹脂、FRP等が挙げられ、使用される状況に応じて適宜選択することができる。ポッティング材の硬化収縮に対する追従性が高いことから、樹脂が好ましく、成型性と耐薬品性を兼ね備えることから、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホンがより好ましい。
【0050】
本発明の流体分離膜プラント(以下、単に「プラント」と記載する場合がある)は、本発明の流体分離膜モジュールを含む、プラントである。プラントは、モジュールに加え、前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備等を含むことが好ましい。前処理設備は、分離前の分離対象流体からあらかじめ不純物を除去したり分離前の分離対象流体の組成を調整したりするための設備である。精製流体回収設備は、分離前の分離対象流体から不要な成分を除去した精製流体を回収し、必要に応じてさらに精製したりパイプライン等に供給したりするための設備である。副生流体回収設備は、分離前の分離対象流体から除去された副生流体を回収し、一例として、無害化後に排出する設備である。本発明のプラントにおいて、モジュールと前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備は配管等で接続され、分離前の分離対象流体が連続的に精製流体と副生流体に分離されることが好ましい。
【0051】
プラントは、分離対象流体の処理量に応じて、モジュールを複数含むことが好ましい。複数のモジュールは、分離対象流体に対して直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよい。モジュールの作製効率の観点からは、モジュールは直列に接続されることが好ましく、モジュールを部分的に交換できる観点からは、モジュールは並列に接続されることが好ましい。本発明のプラントの好ましい一態様として、モジュールが直列に接続され、直列に接続されたモジュールがさらに並列に接続された態様が挙げられる。このようにすることで、モジュールを直列に接続するメリットと並列に接続するメリットを両立させることができる。
【0052】
本発明のプラントが分離対象とする混合ガスや混合液体は特に限定されるものではないが、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素の精製等が挙げられる。本発明のプラントは、滑り性の高い樹脂組成物で無機膜が被覆されているため、モジュール運転時に、無機膜とモジュール部材(隣接する無機膜や筐体等)との引っ掛かりが低減され、複雑な揺動下での運転が必要な洋上での流体分離に好適に用いることができる。即ち、本発明のプラントは、洋上に設置されていることが好ましい。
【0053】
樹脂組成物が表面の少なくとも一部にポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、及びパーフルオロアルコキシアルカンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を有する態様において、複合無機膜へ供給される分離対象ガスは、液体成分を含むことが好ましい。液体成分としては、水やベンゼン、トルエン、ヘキサン等が挙げられ、気体で供給された成分がモジュール内で凝集して液化した場合も含まれる。上記の態様では、撥水・撥油性を有する樹脂組成物によって液体成分の無機膜間での滞留が抑制できるため、分離対象ガスが液体成分を含む場合であっても分離性能を維持することが可能である。従って、液体成分を除去するための前処理負荷を低減することが可能となる。
【0054】
本発明の精製流体は、本発明の流体分離膜モジュールで精製された流体である。精製流体は、本発明のモジュールにおける精製工程の前後に別の精製工程や追加工程を含んで精製されていてもよく、異なる精製工程で精製された精製流体と混合して用いられてもよい。別の精製工程や異なる精製工程としては、例えば、蒸留、吸着、吸収等が挙げられる。また、追加工程としては、例えば、別の流体と混合する成分調整等が挙げられる。
【0055】
本発明の精製流体は、耐久性と分離性能が両立された本発明のモジュールで精製されることから、モジュール作製や上記の追加工程におけるエネルギー消費が抑制され、低環境負荷な精製流体として各種産業用途において好適に用いることができる。
【0056】
次に、本発明のモジュールの製造方法について、まず、炭素膜を製造し、繊維である樹脂組成物を螺旋状に巻き付けた後に、エレメントケーシングまたはベッセルに挿入し、ポッティング材により固定する場合を例に説明する。
【0057】
炭素膜の製法としては、まず、炭化可能樹脂により高分子膜を製膜し、乾燥した後、必要に応じて酸化処理等の不融化処理を行い、不活性雰囲気下において炭化する方法などが挙げられる。
【0058】
高分子膜の製膜方法としては、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸などが挙げられ、炭化可能樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。また、成膜時には適宜溶媒を用いることができる。
【0059】
中空糸膜状の炭素膜の製膜方法としては、例えば、炭化可能樹脂を含む溶液を二重管構造の中空糸膜紡糸ノズルの外管から押し出し、紡糸ノズルの内管から、空気や窒素等のガス、紡糸原液と同一の溶媒、消失樹脂が溶解した溶液、非溶媒、あるいはそれらの混合物等を押し出し、次いで凝固浴中を通過させた後、乾燥等により溶媒を除去する方法等が挙げられる。凝固液としては、例えば、水、アルコール、飽和食塩水やそれらと有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
【0060】
高分子膜を炭化する方法としては、不活性ガス雰囲気において加熱する方法が好ましく、一定温度に保たれた加熱装置内に、ローラーやコンベヤ等を用いて高分子膜を連続的に供給しつつ加熱することがより好ましい。ここで不活性ガスとは、加熱時に化学的に不活性であるものを言い、例えば、ヘリウム、ネオン、窒素、アルゴン、クリプトン、キセノン、二酸化炭素等が挙げられる。これらの中でも、窒素、アルゴンが好ましい。加熱温度は500℃以上1,000℃以下が好ましい。
【0061】
続いて、カバリング装置を用いて、得られた炭素膜に繊維である樹脂組成物を螺旋状に巻き付ける。カバリング装置としては、例えば、カバリング撚糸機やダブルカバリング撚糸機等が挙げられる。
【0062】
続いて、炭素膜複数本を束にし、エレメントケーシングまたはベッセルへ挿入した後、炭素膜の片端または両端をポッティング材によってポッティングする。ポッティング方法としては、例えば、遠心力を利用してポッティング材を炭素膜間に浸透させる遠心ポッティング法、流動状態のポッティング材を定量ポンプやヘッドにより送液して炭素膜間に浸透させる静置ポッティング法等が挙げられる。
【0063】
ポッティングし炭素膜を、ポッティング部位において切断し、炭素膜を開口させることが好ましい。炭素膜モジュールの切断面には、管継手部材としてのキャップを装着し、外部流路(炭素膜を透過した流体を回収するための流路等)に接続可能とすることが好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、以下の方法により行った。
【0065】
(複合無機膜の耐久性)
実施例及び比較例の無機膜約10cmを平滑なステンレス板の上に置き、無機膜を上からメラミン製スポンジで押さえつけた状態で、無機膜の繊維軸と平行方向にメラミン製スポンジを10往復させ、無機膜をステンレス板にこすりつけた。続いて、無機膜の一端をエポキシ樹脂により封止し、他端を無機膜が封止されないようにチューブに固定し、評価サンプルを作製した。
【0066】
評価サンプルのチューブ側から圧力0.2MPaGの圧空を供給し、無機膜の中空部が加圧された状態で無機膜全体を水中へ浸漬した。1分間浸漬後に、水中の無機膜の表面に付着した気泡の数を目視により計数し、水中の無機膜の長さで除することにより、単位長さあたりの欠陥数を算出した。測定は5回ずつ行い、5回の平均を無機膜の欠陥数とした。無機膜の耐久性は、5回の評価の1回でも無機膜が破断したり激しい気泡が連続して発生したりした場合に「不可」とし、5回の評価全てで激しい気泡が連続して発生しない場合は、欠陥数が10個/cm超で「可」、欠陥数が3個/cm超10個/cm以下で「良」、欠陥数が0個/cm超3個/cm以下である場合に「優」、5回の評価全てで欠陥が確認されない場合に「秀」とした。
【0067】
(無機膜の曲げ半径)
製造例の無機膜約30cmを円柱の法線方向に沿って360°以上巻き付けた時に無機膜が破断しない円柱の半径を求めた。
【0068】
(樹脂組成物同士の静摩擦係数)
樹脂組成物同士の静摩擦係数の測定は、JIS L 1095(2010)一般紡績糸試験方法に記載の方法に準拠し、いずれもN=30の結果を平均した値を用いた。具体的な測定方法を次に示す。まず、実施例及び比較例のモジュールから樹脂組成物をサンプリングし、YR-1レーダー法摩擦係数測定装置(インテック社製)を用いて、初荷重5cNで測定を行った。
【0069】
(モジュールの耐久性)
実施例及び比較例のモジュールをマイクロミキサーE-36(TAITEC社製)へ固定し、2,5000rpmで1日間振とうさせた。
【0070】
モジュールの透過流体の回収口にアダプターを介して圧力計と真空ポンプを接続した。続いて、真空ポンプを運転し膜モジュールの透過側を減圧し、モジュールの透過側の圧力が100Pa以下になった時点で真空ポンプを停止し、真空ポンプ停止からモジュールの透過側圧力が10000Pa以上になるまでの圧力上昇時間を測定した。振とう前のモジュールについても同様にして、圧力上昇時間を測定した。
【0071】
モジュールの耐久性は、振とう前の圧力上昇時間が10秒以下の場合「不良」とし、振とう前の圧力上昇時間が10秒超の場合は、振とう前後の圧力上昇時間の比(「振とう後の圧力上昇時間」/「振とう前の圧力上昇時間」)が0.02以下で「可」、0.02超0.1以下で「良」、0.1超0.9以下で「優」、0.9超で「秀」とした。
【0072】
(液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能)
実施例及び比較例のモジュールに対して、CO2=50vol%、CH4=50vol%の混合ガスを供給し、精製ガス中のCH4濃度を評価した。供給ガスが湿度0%の場合に精製ガス中のCH4濃度を90vol%まで濃縮可能な運転条件で、95RH%の水蒸気を含む供給ガスを用いたガス分離評価を実施し、精製ガス中のCH4濃度が85%以上である場合を「合格」、85%以下である場合を「不合格」とした。
【0073】
(製造例1:外径300μmの炭素膜の作製)
ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(重量平均分子量15万)10重量部、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(重量平均分子量4万)10重量部および富士フイルム和光純薬製ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)80重量部を混合し、100℃で撹拌して紡糸原液を調製した。
【0074】
得られた紡糸原液を25℃まで冷却した後、同心円状の三重口金の口金を用いて、内管からDMSO80重量%水溶液を、中管から前記紡糸原液を、外管からDMSO90重量%水溶液をそれぞれ同時に吐出した後、25℃の純水からなる凝固浴へ導き、ローラーに巻き取ることにより原糸を得た。得られた原糸を水洗した後、循環式乾燥機を用いて25℃で24時間乾燥し、中空糸膜状の多孔質炭素膜の前駆体を作製した。
【0075】
得られた多孔質炭素膜の前駆体を250℃の電気炉中に通し、空気雰囲気下において1時間加熱して不融化処理を行い、不融化糸を得た。続いて、不融化糸を炭化温度650℃で炭化処理し、外径300μm、内径100μmの炭素膜である、製造例1の無機膜を得た。前述の方法により評価した結果、製造例1の無機膜の曲げ半径は10cmであった。
【0076】
(製造例2:表面にシリコーン樹脂層を有する炭素膜の作製)
製造例1の無機膜をSilgard(東レデュポン社製)の10wt%ヘキサン溶液(以下、PDMS溶液という)に浸漬し、無機膜の外表面を十分にPDMS溶液で浸漬させた後に、PDMS溶液を除去し、乾燥後に70℃のオーブンで30分間加熱することで、表面の少なくとも一部にシリコーン樹脂からなるコーティング層を有する、製造例2の無機膜を製造した。前述の方法により評価した結果、製造例2の無機膜の曲げ半径は15cmであった。
【0077】
(製造例3:外径1cmの炭素膜の作製)
平均孔径が100nm~250nm、外径が1cm、長さが10cmのアルミナ多孔管を支持体に、製造例1の紡糸原液をディップコートした。コート後に、25℃の純水からなる凝固浴で水洗し、循環式乾燥機を用いて25℃で24時間乾燥し、中空糸膜状の多孔質炭素膜の前駆体を作製した。
【0078】
得られた多孔質炭素膜の前駆体を250℃の電気炉中に通し、空気雰囲気下において1時間加熱して不融化処理を行い、不融化糸を得た。続いて、不融化糸を炭化温度650℃で炭化処理し、外径1cmの炭素膜である、製造例3の無機膜を得た。前述の方法により評価した結果、製造例3の無機膜の曲げ半径は200cm以上であった。
【0079】
(製造例4:外径3cmの炭素膜の作製)
平均孔径が100nm~250nm、外径が1cm、長さが10cmのアルミナ多孔管に代えて平均孔径が100nm~250nm、外径が3cm、長さが10cmのアルミナ多孔管を用いたこと以外は製造例3と同様にして、製造例4の無機膜を得た。前述の方法により評価した結果、製造例4の無機膜の曲げ半径は200cm以上であった。
【0080】
(実施例1)
製造例1の無機膜1本を芯糸に、PTFE繊維である総繊度220dtexの"トヨフロン"(東レ株式会社製)を1cmのピッチでZ方向に巻き付け、PTFE繊維が螺旋状に巻き付けられた、実施例1の複合無機膜を製造した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲内であり、実施例1の複合無機膜の耐久性は「秀」であった。
【0081】
(実施例2)
ピッチを1cmから5cmに代えた以外は実施例1と同様にして実施例2の複合無機膜を製造した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲内であり、実施例2の複合無機膜の耐久性は「良」であった。
【0082】
(実施例3)
ピッチを1cmから10cmに代えた以外は実施例1と同様にして実施例3の複合無機膜を製造した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲外であり、実施例3の複合無機膜の耐久性は「可」であった。
【0083】
(実施例4)
製造例1の無機膜の代わりに製造例2の無機膜を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の複合無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲内であり、実施例4の複合無機膜の耐久性は「良」であった。
【0084】
(実施例5)
製造例1の無機膜の代わりに製造例3の無機膜を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の複合無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲内であり、実施例5の複合無機膜の耐久性は「良」であった。
【0085】
(実施例6)
製造例1の無機膜の代わりに製造例4の無機膜を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6の複合無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、トヨフロン同士の静摩擦係数は0.39、ピッチは式1の範囲内であり、実施例6の複合無機膜の耐久性は「可」であった。
【0086】
(実施例7)
トヨフロンの代わりにポリフッ化ビニリデン繊維である4号の“シーガー”(クレハ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の複合無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、シーガー同士の静摩擦係数は0.63、ピッチは式1の範囲内であり、実施例7の複合無機膜の耐久性は「可」であった。
【0087】
(実施例8)
実施例1の複合無機膜を100本束ね、流入口を有するアクリルパイプ(内径5mm)内に収納し、エポキシ樹脂を用いてアクリルパイプの両端を一方ずつ静置ポッティングした。エポキシ樹脂硬化後に一端のポッティング部位を回転鋸で切断して無機膜を開口させ、実施例8のモジュールを得た。前述の方法により評価した結果、実施例8のモジュールの耐久性は「優」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「合格」であった。
【0088】
(実施例9)
実施例8と同様にしてモジュールを作製した。続いて、モジュールの流入口よりSilgard(東レデュポン社製)の10wt%ヘキサン溶液(以下、PDMS溶液という)を注入した。無機膜の外表面を十分にPDMS溶液で浸漬させた後に、モジュールの流入口よりPDMS溶液を排出し、乾燥後に70℃のオーブンで30分間加熱することで、無機膜の表面の少なくとも一部にシリコーン樹脂からなるコーティング層を有する、実施例9のモジュールを製造した。前述の方法により評価した結果、実施例9のモジュールの耐久性は「良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「合格」であった。
【0089】
(実施例10)
実施例1の複合無機膜の代わりに実施例2の複合無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして実施例10のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、実施例10のモジュールの耐久性は「良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「合格」であった。
【0090】
(実施例11)
実施例1の複合無機膜の代わりに実施例3の複合無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして実施例11のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、実施例11のモジュールの耐久性は「良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「合格」であった。
【0091】
(実施例12)
実施例1の複合無機膜の代わりに実施例4の複合無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして実施例12のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、実施例12のモジュールの耐久性は「可」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「不合格」であった。
【0092】
(実施例13)
実施例1の複合無機膜の代わりに実施例7の複合無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして実施例13のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、実施例13のモジュールの耐久性は「可」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「合格」であった。
【0093】
(比較例1)
製造例1と同様にして比較例1の無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、比較例1の無機膜の耐久性は「不良」であった。
【0094】
(比較例2)
製造例2と同様にして比較例2の無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、比較例2の無機膜の耐久性は「不良」であった。
【0095】
(比較例3)
製造例3と同様にして比較例3の無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、比較例3の無機膜の耐久性は「不良」であった。
【0096】
(比較例4)
製造例4と同様にして比較例4の無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、比較例4の無機膜の耐久性は「不良」であった。
【0097】
(比較例5)
トヨフロンの代わりに総繊度220dtexの仮撚り加工PET繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の複合無機膜を作製した。前述の方法により評価した結果、仮撚り加工PET繊維同士の静摩擦係数は0.88、ピッチは式1の範囲内であり、比較例5の複合無機膜の耐久性は「不良」であった。
【0098】
(比較例6)
実施例1の無機膜の代わりに比較例1の無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして比較例6のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、比較例6のモジュールの耐久性は「不良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「不合格」であった。
【0099】
(比較例7)
比較例6と同様にしてモジュールを作製した。続いて、モジュールの流入口よりPDMS溶液を注入した。無機膜の外表面を十分にPDMS溶液で浸漬させた後に、モジュールの流入口よりPDMS溶液を排出し、乾燥後に70℃のオーブンで30分間加熱することで、無機膜の表面の少なくとも一部にシリコーン樹脂からなるコーティング層を有する、比較例7のモジュールを製造した。前述の方法により評価した結果、比較例7のモジュールの耐久性は「不良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「不合格」であった。
【0100】
(比較例8)
実施例1の無機膜の代わりに比較例2の無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして比較例8のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、比較例8のモジュールの耐久性は「不良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「不合格」であった。
【0101】
(比較例9)
実施例1の無機膜の代わりに比較例5の無機膜を用いた以外は、実施例8と同様にして比較例9のモジュールを作製した。前述の方法により評価した結果、比較例8のモジュールの耐久性は「不良」、液体成分を含む分離対象ガス供給時のモジュール性能は「不合格」であった。
本発明の流体分離用炭素膜モジュールは、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素精製等に好適に用いることができる。