(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053267
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】オイル室監視装置、水中ポンプ及びオイル室監視方法
(51)【国際特許分類】
F04D 13/08 20060101AFI20240408BHJP
F04B 51/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F04D13/08 J
F04B51/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159400
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000150844
【氏名又は名称】株式会社鶴見製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(74)【代理人】
【識別番号】100192692
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 星斗
【テーマコード(参考)】
3H130
3H145
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AA27
3H130AB13
3H130AB23
3H130AB46
3H130AC07
3H130BA87F
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3H130BA87Z
3H130BA90F
3H130BA90H
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3H130DF03Z
3H130DH05Z
3H130ED05F
3H130ED05H
3H145AA06
3H145AA12
3H145AA23
3H145BA44
3H145CA01
3H145CA20
3H145CA30
3H145EA13
3H145EA16
3H145FA02
3H145FA17
3H145FA23
3H145FA25
(57)【要約】
【課題】オイル室内を適切に監視可能なオイル室監視装置、水中ポンプ及びオイル室監視方法を提供することである。
【解決手段】オイル室監視装置は、オイル室13の圧力を検知する圧力センサ110と、オイル室13の空間温度を検知する空間温度センサ120と、オイル室13のオイル温度を検知するオイル温度センサ130と、第1時点における第1圧力P、第1空間温度T
1及び第1オイル温度T
2と、第2時点における、第2圧力P’、第2空間温度T
1’及び第2オイル温度T
2’と、に基づいて、第1時点と第2時点とにおけるオイル室の空間容積V
1,V
1’及びオイル容積V
2,V
2’の変位からオイル室13のオイル漏れ量V
W又は浸水量V
Wを算出する算出手段と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ポンプのメカニカルシールに供給されるオイルが封入されたオイル室を監視するオイル室監視装置であって、
前記オイル室の圧力を検知する圧力センサと、
前記オイル室の空間温度を検知する空間温度センサと、
前記オイル室のオイル温度を検知するオイル温度センサと、
第1時点における、前記圧力である第1圧力、前記空間温度である第1空間温度及び前記オイル温度である第1オイル温度と、第2時点における、前記圧力である第2圧力、前記空間温度である第2空間温度及び前記オイル温度である第2オイル温度と、に基づいて、前記第1時点と前記第2時点とにおける前記オイル室の空間容積及びオイル容積の変位から前記オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する算出手段と、を備える、
オイル室監視装置。
【請求項2】
前記算出手段は、
前記第1圧力及び第1空間温度と、前記第2圧力及び第2空間温度とを用いて、前記第1時点に対する前記第2時点における前記オイル室の空間容積を算出し、
前記第1オイル温度と前記第2オイル温度とを用いて、前記第1時点に対する前記第2時点における前記オイル室のオイル容積を算出する、
請求項1に記載のオイル室監視装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記第1時点に対する前記第2時点における前記オイル室の空間容積、前記第1時点に対する前記第2時点における前記オイル室のオイル容積、及び前記オイル室の容積に基づいて、前記オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する、
請求項2に記載のオイル室監視装置。
【請求項4】
前記オイル室の空間容積は、ボイルシャルルの法則を用いて算出される、
請求項1に記載のオイル室監視装置。
【請求項5】
前記オイル室のオイル容積は、前記オイルのオイル膨張係数に基づいて算出される、
請求項1に記載のオイル室監視装置。
【請求項6】
前記第1時点は、前記水中ポンプの停止中であり、
前記第2時点は、前記水中ポンプの運転中である、
請求項1に記載のオイル室監視装置。
【請求項7】
前記オイル室のオイル容積について、前記オイル室に予め設定された既定量のオイルを封入していると仮定して前記圧力センサによって検知された圧力に基づいて、前記オイル室に実際に封入されているオイル実封入量を算出するオイル実封入量算出手段を、さらに備える、
請求項1に記載のオイル室監視装置。
【請求項8】
前記オイル実封入量は、所定の温度変化に応じて算出される、
請求項7に記載のオイル室監視装置。
【請求項9】
前記オイル実封入量は、前記水中ポンプの停止中に算出される、
請求項8に記載のオイル室監視装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のオイル室監視装置と、
モータと、
前記モータを駆動させることにより回転する回転軸と、
前記回転軸の回転に伴ってポンプ室において回転することにより、吸込口から液体を引き込み、吐出し口に向けた流れを発生させる羽根車と、を備える、
水中ポンプ。
【請求項11】
水中ポンプのメカニカルシールに供給されるオイルが封入されたオイル室を監視するオイル室監視装置によって実行されるオイル室監視方法であって、
圧力センサによって検知された前記オイル室の圧力を取得すること、
空間温度センサによって検知された前記オイル室の空間温度を取得すること、
オイル温度センサよって検知された前記オイル室のオイル温度を取得すること、
第1時点における、前記圧力である第1圧力、前記空間温度である第1空間温度及び前記オイル温度である第1オイル温度と、第2時点における、前記圧力である第2圧力、前記空間温度である第2空間温度及び前記オイル温度である第2オイル温度と、に基づいて、前記第1時点と前記第2時点とにおける前記オイル室の空間容積及びオイル容積の変位から前記オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出すること、を含む、
オイル室監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル室監視装置、水中ポンプ及びオイル室監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚水用や排水用など様々な用途で用いられる水中ポンプがある。水中ポンプは、モータによって主軸を回転させることによって水を吸い上げて排水などを行うが、モータ内への水の侵入を防ぐために主軸にはメカニカルシール(軸封装置)が取り付けられている。さらに、当該主軸の近傍には、オイルが封入されたオイル室が備えられ、当該オイルは、メカニカルシールに供給されて、その摺動面を潤滑にし、水中ポンプの品質や信頼性に貢献している。
【0003】
一般的には、このオイルの漏れなどが発生すれば、水中ポンプの不具合に繋がるため、オイル室に封入されているオイル量を監視することが重要になる。例えば、特許文献1では、ポンプの運転を停止した後のメカニカルシールに流通する潤滑油の温度を測定し、測定された温度の変化傾向をもとに潤滑油の充填量を推定することによって、ポンプの故障又はその兆候を検知するポンプの診断方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポンプの診断方法では、ポンプの運転を停止した後に、潤滑油の充填量を推定しているだけであって、オイル室におけるオイル漏れや浸水などを含むオイル室の状況を適切に監視できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的の1つは、オイル室内を適切に監視可能なオイル室監視装置、水中ポンプ及びオイル室監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るオイル室監視装置は、水中ポンプのメカニカルシールに供給されるオイルが封入されたオイル室を監視するオイル室監視装置であって、オイル室の圧力を検知する圧力センサと、オイル室の空間温度を検知する空間温度センサと、オイル室のオイル温度を検知するオイル温度センサと、第1時点における、圧力である第1圧力、空間温度である第1空間温度及びオイル温度である第1オイル温度と、第2時点における、圧力である第2圧力、空間温度である第2空間温度及びオイル温度である第2オイル温度と、に基づいて、第1時点と第2時点とにおけるオイル室の空間容積及びオイル容積の変位からオイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する算出手段と、を備える。
【0008】
上記態様において、算出手段は、第1圧力及び第1空間温度と、第2圧力及び第2空間温度とを用いて、第1時点に対する第2時点におけるオイル室の空間容積を算出し、第1オイル温度と第2オイル温度とを用いて、第1時点に対する第2時点におけるオイル室のオイル容積を算出してもよい。
【0009】
上記態様において、算出手段は、第1時点に対する第2時点におけるオイル室の空間容積、第1時点に対する第2時点におけるオイル室のオイル容積、及びオイル室の容積に基づいて、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出してもよい。
【0010】
上記態様において、オイル室の空間容積は、ボイルシャルルの法則を用いて算出されてもよい。
【0011】
上記態様において、オイル室のオイル容積は、オイルのオイル膨張係数に基づいて算出されてもよい。
【0012】
上記態様において、第1時点は、水中ポンプの停止中であり、第2時点は、水中ポンプの運転中であってもよい。
【0013】
上記態様において、オイル室のオイル容積について、オイル室に予め設定された既定量のオイルを封入していると仮定して圧力センサによって検知された圧力に基づいて、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量を算出するオイル実封入量算出手段を、さらに備えてもよい。
【0014】
上記態様において、オイル実封入量は、所定の温度変化に応じて算出されてもよい。
【0015】
上記態様において、オイル実封入量は、水中ポンプの停止中に算出されてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る水中ポンプは、上記オイル室監視装置と、モータと、モータを駆動させることにより回転する回転軸と、回転軸の回転に伴ってポンプ室において回転することにより、吸込口から液体を引き込み、吐出し口に向けた流れを発生させる羽根車と、を備える。
【0017】
本発明の一態様に係るオイル室監視方法は、水中ポンプのメカニカルシールに供給されるオイルが封入されたオイル室を監視するオイル室監視装置によって実行されるオイル室監視方法であって、圧力センサによって検知されたオイル室の圧力を取得すること、空間温度センサによって検知されたオイル室の空間温度を取得すること、オイル温度センサよって検知されたオイル室のオイル温度を取得すること、第1時点における、圧力である第1圧力、空間温度である第1空間温度及びオイル温度である第1オイル温度と、第2時点における、圧力である第2圧力、空間温度である第2空間温度及びオイル温度である第2オイル温度と、に基づいて、第1時点と第2時点とにおけるオイル室の空間容積及びオイル容積の変位からオイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出すること、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、オイル室内を適切に監視可能なオイル室監視装置、水中ポンプ及びオイル室監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ10の概要を示す構造図である。
【
図3】オイル室のオイル漏れ及び浸水を監視することを説明するために、オイル室の様子を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ10に含まれるオイル室監視装置によって実行されるオイル室監視方法M100の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】オイル室に実際に封入されているオイル実封入量を算出することを説明するために、オイル室の様子を模式的に示す図である。
【
図6】オイル室に実際に封入されているオイル実封入量の場合において圧力センサ110によって検知されたオイル室の圧力と、オイル室に既定量のオイルが封入されていると仮定した場合におけるオイル室の圧力との推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な各実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する各実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。
【0021】
<第1実施形態>
[水中ポンプの構造について]
図1は、本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ10の概要を示す構造図である。
図1に示されるように、水中ポンプ10は、モータ11と、回転軸12と、オイル室13と、メカニカルシール(軸封装置)14と、ポンプ室15と、羽根車16とを有し、その他ベアリングやオイルリフタなどの部材も含まれるが、ここでは、詳細な構成に関する説明は省略する。
【0022】
モータ11は、回転軸12を介して、当該回転軸12の先端部に接続されている羽根車16を回転駆動させるように構成されている。例えば、モータ11は、固定子(コイル)及び回転子を有し、固定子に発生する磁界によって回転子を回転させる。
【0023】
回転軸12は、モータ11からオイル室13を貫通してポンプ室15まで延伸するように配置され、その先端部には、羽根車16が配置されている。モータ11が駆動することにより、回転軸12は、当該モータ11の駆動力(トルク)を羽根車16に伝えるように構成されている。
【0024】
オイル室13は、モータ11とポンプ室15との間に配置されており、当該オイル室13には、オイルが封入されている。そして、オイル室13には、メカニカルシール14が配置されており、当該メカニカルシール14は、オイル室13を貫通する回転軸12の外周を囲むように円環状に取り付けられている。
【0025】
メカニカルシール14は、摺動面に油膜形成部を有することにより、ポンプ室15からオイル室13への浸水を抑制したり、オイル室13のオイルがモータ11(モータ室)に流入することを抑制したりしている。また、摺動面は、オイル室13に充填されたオイルによって、潤滑されるとともに焼きつかないように冷却される。
【0026】
ポンプ室15には、羽根車16が配置されており、モータ11が駆動することによって、回転軸12を介してその先端部に接続される羽根車16が回転駆動する。そして、羽根車16の回転駆動に伴って、ポンプ室15には、吸込口から液体が流入するとともに、吐出し口から液体が流出するように構成されている。
【0027】
羽根車16は、回転軸12の先端部に取り付けられており、ポンプ室15に配置されている。上述したように、羽根車16は、モータ11が駆動することによって、回転軸12を介して回転駆動し、吸込口から液体を引き込むとともに、吐出し口に向けた流れを発生させて、当該吐出し口から液体を流出するように構成されている。
【0028】
さらに、水中ポンプ10には、オイル室13を監視するオイル室監視装置として、圧力センサ110と、空間温度センサ120と、オイル温度センサ130とが配置され、それらで検知されたデータを処理する制御部(算出手段)が構成されている。
【0029】
[オイル室監視装置について]
次に、オイル室監視装置の構成及び機能について説明する。
図2は、オイル室の様子を模式的に示す図である。
図2では、オイル室は、例えば、(A)水中ポンプ10の停止時(停止状態)、及び(B)水中ポンプ10の運転時(運転状態)の2つの状態が示されている。
【0030】
これらの2つの時点(状態)において、圧力センサ110は、オイル室の圧力を検知し、空間温度センサ120は、オイル室の空間温度を検知し、オイル温度センサ130は、オイル室のオイル温度を検知する。そして、それぞれ検知されたデータに基づいて、例えば、オイル室監視装置における制御部(算出手段)は、停止時と運転時とにおけるオイル室の空間容積及びオイル容積の変位からオイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する。以下に、その算出処理について詳しく説明する。
【0031】
(A)停止時(第1時点)では、オイル室の圧力である第1圧力P、オイル室の空間温度である第1空間温度T1、及びオイル室のオイル温度である第1オイル温度T2であり、さらに、オイル室容積V、第1空間容積V1及び第1オイル容積V2である。
【0032】
(B)運転時(第2時点)では、オイル室の圧力である第2圧力P’、オイル室の空間温度である第2空間温度T1’、及びオイル室のオイル温度である第2オイル温度T2’であり、さらに、オイル室容積V、第2空間容積V1’及び第2オイル容積V2’である。
【0033】
例えば、水中ポンプ10を運転させることによって、オイル室の温度が上昇して、オイル室に封入されているオイルが膨張することはあるが、(A)停止時及び(B)運転時において、オイル室容積Vは一定であり、下記(数1)(数2)を満たす。なお、一般的に、オイル室に封入されるオイル量は、例えば、所定のオイル温度で、オイル室容積Vの80%等と規定されており、当該規定に沿って封入されるとよい。
【数1】
【数2】
【0034】
ここで、2つの時点(状態)に関して、ボイルシャルルの法則を用いると、下記(数3)を満たす。
【数3】
【0035】
また、第2オイル容積V
2’は、オイル膨張係数αを用いて求めることができる。オイル膨張係数αは、オイル室に封入されるオイルの種類などに応じて予め規定されているものである。オイルは、例えば、温度上昇に応じてオイル容積が膨張する等、温度変化に応じてオイル容積が変化するため、ここでは、オイル膨張係数αを、停止時の第1オイル温度T
2及び運転時の第2オイル温度T
2’を用いて、下記(数4)のように示すこととする。
【数4】
【0036】
水中ポンプ10の停止時から運転時において、オイル室の温度が上昇して、当該オイル室に封入されているオイルが膨張したとすると、停止時に対する運転時における第2オイル容積V
2’は、オイル膨張係数α及び第1オイル容積V
2を用いて、下記(数5)のように示すことができる。
【数5】
【0037】
上記(数2)に、第2空間容積V
1’(上記(数3))及び第2オイル容積V
2’(上記(数5))を代入すると、オイル室容積Vは、下記(数6)のように示すことができる。
【数6】
【0038】
オイル室容積Vは、水中ポンプ10の停止時及び運転時において、圧力センサ110、空間温度センサ120及びオイル温度センサ130によって検知された第1圧力P、第1空間温度T1、第1オイル温度T2、及び第2圧力P’、第2空間温度T1’、第2オイル温度T2’を用いて、上記(数6)の関係を満たすことになる。
【0039】
[オイル室のオイル漏れ及び浸水について]
図3は、オイル室のオイル漏れ及び浸水を監視することを説明するために、オイル室の様子を模式的に示す図である。
図3では、
図2と同様に、オイル室は、例えば、(A)水中ポンプ10の停止時(停止状態)、及び(B)水中ポンプ10の運転時(運転状態)の2つの状態が示されている。
【0040】
ここでは、(B)運転時においてオイル室への浸水(浸水量V
W)が発生していると仮定して、オイル室容積Vは、下記(数7)の関係を満たすことになる。
【数7】
【0041】
上記(数7)を浸水量V
Wについて解くと、下記(数8)のように示すことができる。
【数8】
【0042】
ここで、第2空間容積V
1’及び第2オイル容積V
2’に関して、
図2を用いて説明したのと同様に、ボイルシャルルの法則及びオイル膨張係数αを用いて、上記(数3)及び上記(数5)を代入すると、浸水量V
Wは、下記(数9)のように示すことができる。
【数9】
【0043】
そして、オイル室容積Vは、予め設定されて一定であるため、上記(数9)で示されるように、浸水量VWは、水中ポンプ10の停止時及び運転時において、圧力センサ110、空間温度センサ120及びオイル温度センサ130によって検知された第1圧力P、第1空間温度T1、第1オイル温度T2、及び第2圧力P’、第2空間温度T1’、第2オイル温度T2’を用いて算出することができる。
【0044】
なお、浸水量VW>0(浸水量VWがプラス)である場合、オイル室への浸水があることを示し、浸水量VW<0(浸水量VWがマイナス)である場合、オイル室のオイル漏れがあることを示す。
【0045】
[オイル室監視方法について]
次に、水中ポンプ10のオイル室を監視するオイル室監視装置によって実行されるオイル室監視方法について、具体的に詳しく説明する。
【0046】
図4は、本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ10に含まれるオイル室監視装置によって実行されるオイル室監視方法M100の処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示されるように、オイル室監視方法M100は、ステップS110~S140を含み、各ステップは、オイル室監視装置に含まれる制御部(プロセッサ)によって実行される。
【0047】
ステップS110では、水中ポンプ10の停止時(第1時点)において、圧力センサ110は、オイル室の圧力を検知し(第1圧力)、空間温度センサ120は、オイル室の空間温度を検知し(第1空間温度)、オイル温度センサ130は、オイル室のオイル温度を検知する(第1オイル温度)。
【0048】
ステップS120では、水中ポンプ10の運転時(第2時点)において、圧力センサ110は、オイル室の圧力を検知し(第2圧力)、空間温度センサ120は、オイル室の空間温度を検知し(第2空間温度)、オイル温度センサ130は、オイル室のオイル温度を検知する(第2オイル温度)。
【0049】
ここで、水中ポンプ10の運転時(第2時点)は、水中ポンプ10が稼働してから所定の温度変化(例えば、10℃上昇など)があったタイミングなどとすればよい。ここで、所定の温度変化は、オイル室の空間温度の温度変化でもよいし、オイル温度の温度変化でもよいし、さらには、これらの組み合わせであってもよい。
【0050】
ステップS130では、制御部(算出手段)は、ステップS110で検知された第1圧力及び第1空間温度と、ステップS120で検知された第2圧力及び第2空間温度とに基づいて、第1時点に対する第2時点におけるオイル室の空間容積を算出する。具体例としては、制御部は、第2空間容積V1’を、ボイルシャルルの法則を用いて、上記(数3)により算出する。
【0051】
また、制御部(算出手段)は、ステップS110で検知された第1オイル温度と、ステップS120で検知された第2オイル温度とに基づいて、第1時点に対する第2時点におけるオイル室のオイル容積を算出する。具体例としては、制御部は、第2オイル容積V2’を、オイル温度変化に関連するオイル膨張係数を用いて、上記(数5)により算出する。
【0052】
ステップS140では、制御部(算出手段)は、ステップS130で算出された第2時点におけるオイル室の空間容積及びオイル容積に基づいて、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する。具体例としては、制御部は、上記(数9)を用いて、第1時点から第2時点でのオイル室におけるオイルの漏れ量VW(<0の場合)又は浸水量VW(>0の場合)を算出する。
【0053】
以上のように、本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ10によれば、オイル室監視装置は、水中ポンプ10の停止時及び運転時において、圧力センサ110によってオイル室の圧力を検知し、空間温度センサ120によってオイル室の空間温度を検知し、オイル温度センサ130によってオイル室のオイル温度を検知する。そして、それぞれ検知されたデータに基づいて、例えば、オイル室監視装置における制御部(算出手段)は、停止時と運転時とにおけるオイル室の空間容積及びオイル容積の変位からオイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出し、オイル室内を適切に監視することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、水中ポンプ10の停止時を第1時点とし、運転時を第2時点として、圧力センサ110、空間温度センサ120及びオイル温度センサ130によって、それぞれデータを検知していたが、検知するタイミングはこれに限定されるものではない。例えば、水中ポンプ10の停止時の2つのタイミングを第1時点及び第2時点として、水中ポンプ10の運転前のオイル室のオイル漏れ及び浸水を確認してもよいし、水中ポンプ10の運転時の2つのタイミングを第1時点及び第2時点として、水中ポンプ10の運転中の任意の時点でのオイル室のオイル漏れ及び浸水を確認してもよい。また、継続的に第1時点及び第2時点を設定すれば、オイル室のオイル漏れ及び浸水を連続的に監視することもできる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態では、オイル室に実際に封入されたオイル量を算出することについて説明する。本実施形態に係る水中ポンプの基本的な構成は、本発明の第1実施形態で説明した水中ポンプ10と同様であり、ここでは、主に、本発明の第1実施形態と異なる点について説明する。
【0056】
一般的に、オイル室に封入されるオイル量は、例えば、所定のオイル温度で、オイル室容積Vの80%程度と規定されており、当該規定に沿って封入されるが、適切なオイル量が封入されず、又は適切なオイル量を封入した場合であっても実際には誤差が生じている場合も考えられる。
【0057】
本発明の第2実施形態に係る水中ポンプ10に含まれるオイル室監視装置において、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量を算出するオイル実封入量算出手段(図示せず)を、さらに備える。
【0058】
オイル実封入量算出手段は、オイル室のオイル容積について、予め設定された既定量のオイルをオイル室に封入していると仮定して、圧力センサ110によって検知されたオイル室の圧力に基づいてオイル実封入量を算出する。
【0059】
[オイル実封入量について]
図5は、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量を算出することを説明するために、オイル室の様子を模式的に示す図である。
図5では、オイル室は、例えば、(A)水中ポンプ10の停止時(停止状態)、及び(B)水中ポンプ10の運転時(運転状態)の2つの状態が示されている。
【0060】
(A)停止時(第1時点)では、オイル室の圧力である第1圧力P、オイル室の空間温度である第1空間温度T1、及びオイル室のオイル温度である第1オイル温度T2であり、さらに、オイル室容積Vである。そして、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量として、第1オイル容積Xであり、その際の第1空間容積VXであるとする。
【0061】
(B)運転時(第2時点)では、オイル室の圧力である第2圧力PX、オイル室の空間温度である第2空間温度T1’、及びオイル室のオイル温度である第2オイル温度T2’であり、さらに、オイル室容積Vである。そして、第2空間容積VX’及び第2オイル容積X’であるとする。
【0062】
図6は、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量の場合において圧力センサ110によって検知されたオイル室の圧力と、オイル室に既定量のオイルが封入されていると仮定した場合におけるオイル室の圧力との推移を示すグラフである。
【0063】
図6では、
図5で示されたように、第1時点でオイル室に封入されている第1オイル容積Xの場合において圧力センサ110によって検知される実測値圧力601、及び
図2で示されたように、第1時点でオイル室に封入されている第1オイル容積V
2の場合(例えば、オイル室の容積Vの80%を既定量として)を仮定して予め算出された理論値圧力602を示している。
【0064】
また、水中ポンプ10の停止時(第1時点)の第1空間温度T1及び第1オイル温度T2であり、水中ポンプ10の運転を開始し、第1空間温度T1や第1オイル温度T2からの温度変化(ここでは、10℃上昇)時を、水中ポンプ10の運転時(第2時点)として、その時の実測値圧力601は、第2圧力PXであり、理論値圧力602は、第2圧力P’である。
【0065】
換言すると、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量は、例えば、オイル室の容積Vの80%を既定量とするオイル量と誤差があるため、圧力センサ110によって検知される実測値圧力と理論値圧力とで差が生じる。第2時点における実測値圧力(第2圧力P
X)と、理論値圧力(第2圧力P’)との差圧ΔPは、下記(数10)のように示すことができる。
【数10】
【0066】
さらに、
図2で示される2つの時点(状態)に関して、ボイルシャルルの法則を用いると、理論値圧力602における第2圧力P’は、下記(数11)を満たす。
【数11】
【0067】
また、
図5で示される2つの時点(状態)に関して、ボイルシャルルの法則を用いると、実測値圧力601における第2圧力P
Xは、下記(数12)を満たす。
【数12】
【0068】
上記(数10)に、理論値圧力としての第2圧力P’(上記(数11))、及び実測値圧力としての第2圧力P
X(上記(数12))を代入すると、差圧ΔPは、下記(数13)のように示すことができる。
【数13】
【0069】
さらに、
図5で示される2つの時点(状態)に関して、オイル室の空間容積の変位として、上記(数13)を第1空間容積V
X/第2空間容積V
X’について解くと、下記(数14)のように示すことができる。
【数14】
【0070】
このように、オイル室の空間容積の変位として、第1空間容積V
X/第2空間容積V
X’は、
図5で示される2つの時点(状態)において空間温度センサ120によって検知された第1空間温度T
1、第2空間温度T
1’、及び圧力センサ110によって検知された第1圧力Pを用いて、さらに、
図2で示される2つの時点(状態)においてオイル室の容積Vの80%を既定量としてオイルが封入された場合を仮定して、予め算出された第1空間容積V
1及び第2空間容積V
1’用いて算出することができる。
【0071】
そして、オイル実封入量算出手段は、
図5に示されたオイル室に実際に封入されたオイル実封入量Xを算出する。
【0072】
先ず、第1時点では、オイル室に封入されているオイルの膨張前であることから、オイル室容積Vは、下記(数15)を満たす。
【数15】
【0073】
次に、水中ポンプ10の運転が開始されることによって、オイル室の温度が上昇して、オイル室に封入されているオイルが膨張する。第2時点におけるオイル室容積Vは、第2空間容積V
X’及び第2オイル容積X’を用いて、下記(数16)のように示すことができる。なお、第2オイル容積X’は、オイル膨張係数αを用いて示すことができる。
【数16】
【0074】
上記(数15)を第1空間容積V
Xについて解くと、下記(数17)のように示すことができる。
【数17】
【0075】
上記(数16)を第2空間容積V
X’について解くと、下記(数18)のように示すことができる。
【数18】
【0076】
上記(数17)及び(数18)から、オイル室の空間容積の変位として第1空間容積V
X/第2空間容積V
X’について解くと、下記(数19)のように示すことができる。
【数19】
【0077】
そして、上記(数19)から、オイル室に実際に封入されたオイル実封入量Xは、下記(数20)のように示すことができる。
【数20】
【0078】
ここで、上記(数20)について、上記(数14)に示される(VX/VX’)を代入すると、オイル実封入量Xを算出することができる。
【0079】
[オイル室のオイル漏れ量及び浸水量について]
上述したように、オイル室に実際に封入されたオイル実封入量Xを算出した上で、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出する手順について説明する。
【0080】
オイル室のオイル漏れ量又は浸水量は、
図3を用いて説明したように、上記(数9)で示される浸水量V
Wとして算出される。ここで、(A)停止時(第1時点)では、オイル室の圧力である第1圧力P、オイル室の空間温度である第1空間温度T
1、及びオイル室のオイル温度である第1オイル温度T
2であり、さらに、オイル室容積Vである。そして、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量として、第1オイル容積X(上記(数9)ではV
2)であり、その際の第1空間容積V
X(上記(数9)ではV
1)は、オイル室容積V-第1オイル容積Xで示すことができる。
【0081】
(B)運転時(第2時点)では、オイル室の圧力である第2圧力PX(上記(数9)ではP’)、オイル室の空間温度である第2空間温度T1’、及びオイル室のオイル温度である第2オイル温度T2’であり、さらに、オイル室容積Vである。そして、第2空間容積VX’及び第2オイル容積X’であるとする。
【0082】
これらを上記(数9)に照らしつつ整理すると、オイル室への浸水量V
W(オイル室のオイル漏れV
W)は、下記(数21)のように示すことができる。
【数21】
【0083】
そして、上記(数21)に、上記(数20)により算出されたオイル実封入量Xを代入することによって、浸水量VWを算出する。
【0084】
以上のように、本発明の第2実施形態に係る水中ポンプ10によれば、オイル実封入量算出手段は、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量Xを算出し、その上で、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出するため、オイル室内をより精度良く適切に監視することができる。
【0085】
オイル室に封入されるオイル量として、既定量が定められているものの、実際に封入されるオイル量には誤差が生じる可能性がある。これらの誤差が生じていた場合であっても、オイル室に実際に封入されているオイル実封入量Xを算出した上で、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出するため、オイル室内をより精度良く適切に監視することができる。
【0086】
なお、本実施形態は、
図5及び
図6を用いて説明したように、オイル実封入量Xを10℃の温度上昇に応じて算出していたが、これに限定されるものではなく、所定の温度変化に応じて、例えば、5℃、15℃や20℃などの温度上昇又は温度下降に応じて算出してもよい。所定の温度変化が生じていれば、オイル実封入量Xを算出することは可能であるが、温度変化が大きい程、適切な算出結果が得られる。
【0087】
また、本実施形態では、水中ポンプ10の停止時を第1時点とし、運転時を第2時点として、所定の温度変化(10℃の温度上昇)が生じてオイル実封入量Xを算出していたが、これに限定されるものではなく、例えば、水中ポンプ10の停止中の2つのタイミングを第1時点及び第2時点としてもよい。当該を第1時点と第2時点との間で所定の温度変化が生じれば、適切にオイル実封入量Xを算出することができる。
【0088】
さらには、水中ポンプ10の運転開始前に、所定の温度変化(第1時点と第2時点とnおける温度変化)が生じれば、オイル実封入量Xを算出して、オイル室のオイル漏れ量又は浸水量を算出することができる。その結果、水中ポンプ10の運転開始前に、オイル室のオイル漏れ又は浸水が発生しているかを確認することができる。
【0089】
なお、各実施形態では、オイル室の圧力として、オイル室の空間部分の圧力を示していたが、オイル室内では、空間部分と圧力の均衡が取れているオイル部分(浸水が発生した場合の液体部分を含む)の圧力を検知してもよい。
【0090】
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。各実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
10…水中ポンプ、11…モータ、12…回転軸、13…オイル室、14…メカニカルシール(軸封装置)、15…ポンプ室、16…羽根車、110…圧力センサ、120…空間温度センサ、130…オイル温度センサ、M100…オイル室監視方法