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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053275
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】直流き電システム
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/02 20060101AFI20240408BHJP
   B60M 3/06 20060101ALI20240408BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B60M3/02 D
B60M3/06 D
H02J1/00 304A
H02J1/00 306B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159415
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷内田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
【テーマコード(参考)】
5G165
【Fターム(参考)】
5G165CA01
5G165DA07
5G165EA01
5G165GA09
5G165HA01
(57)【要約】
【課題】路線の一方端にしか変電所がない線区における直流き電線の電圧降下を補償することができる、高電圧直流き電方式を採用した直流き電システムを提供する。
【解決手段】直流き電線Tは、変電所10から直流き電電圧VTの供給を受ける。高電圧直流き電線Fは、直流き電線Tに並設され、直流き電電圧VTよりも高い直流き電電圧VFを有する。DC/DC変換装置20Aは、変電所10と直流き電線Tの終端との間に位置する。DC/DC変換装置20Bは、DC/DC変換装置20Aと直流き電線Tの終端との間に位置する。DC/DC変換装置20Bは、直流き電圧VTと第1の参照電圧との偏差に応じた直流電力を、直流き電線Tと高電圧直流き電線Fとの間で授受するように双方向の直流/直流変換を実行する。DC/DC変換装置20Aは、直流き電電圧VFが第2の参照電圧となるように双方向の直流/直流変換を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所から第1の直流き電電圧の供給を受けて、線路を走行する電気車に直流電力を供給する第1の直流き電線と、
前記第1の直流き電線に並設され、前記第1の直流き電電圧よりも高い第2の直流き電電圧を有する第2の直流き電線と、
前記変電所と前記第1の直流き電線の終端との間に位置し、前記第1の直流き電線と前記第2の直流き電線との間に接続された第1のDC/DC変換装置と、
前記第1のDC/DC変換装置と前記第1の直流き電線の前記終端との間に位置し、前記第1の直流き電線と前記第2の直流き電線との間に接続された、少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置とを備え、
前記少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、前記第1の直流き電電圧と所定の第1の参照電圧との偏差に応じた直流電力を、前記第1の直流き電線と前記第2の直流き電線との間で授受するように、前記第1の直流き電線と前記第2の直流き電線との間で双方向の直流/直流変換を実行し、
前記第1のDC/DC変換装置は、前記第2の直流き電電圧が所定の第2の参照電圧となるように、前記第1の直流き電線と前記第2の直流き電線との間で双方向の直流/直流変換を実行する、直流き電システム。
【請求項2】
前記第1のDC/DC変換装置は、前記第1の直流き電線の前記終端に最も近い前記変電所に配置される、請求項1に記載の直流き電システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、複数の第2のDC/DC変換装置を含み、
前記複数の第2のDC/DC変換装置は、前記第1のDC/DC変換装置と前記第1の直流き電線の前記終端との間に、互いに離間して配置される、請求項1に記載の直流き電システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、
前記第1の直流き電圧が前記第1の参照電圧よりも大きいときに、前記偏差に応じた直流電力を、前記第1の直流き電線から前記第2の直流き電線に供給し、
前記第1の直流き電圧が前記第1の参照電圧よりも小さいときに、前記偏差に応じた直流電力を、前記第2の直流き電線から前記第1の直流き電線に供給する、請求項1から3のいずれか1項に記載の直流き電システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、前記偏差の大きさが閾値未満である場合には、双方向の直流/直流変換を実行しない、請求項4に記載の直流き電システム。
【請求項6】
前記第1のDC/DC変換装置は、
前記第2の直流き電圧が前記第2の参照電圧よりも大きいときに、前記第2の直流き電線から前記第1の直流き電線に直流電力を供給し、
前記第2の直流き電圧が前記第2の参照電圧よりも小さいときに、前記第1の直流き電線から前記第2の直流き電線に直流電力を供給する、請求項1から3のいずれか1項に記載の直流き電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流き電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-40455号公報(特許文献1)には、線路を走行する電気車に直流き電線を介して直流電力を供給する直流き電システムが開示されている。この直流き電システムでは、直流き電線に対して高電圧直流き電線を並設し、直流き電線と高電圧直流き電線との間に設けられた電力変換装置を用いて、直流き電線および高電圧直流き電線の間で直流電力を融通することにより、直流き電電圧の高電圧化する「高電圧直流き電方式」を採用している。
【0003】
特許文献1に記載される直流き電システムでは、直流き電線に直流電力を供給する変電所毎に電力変換装置が併設されるとともに、当該変電所と隣り合う他の変電所との中間に、複数の電力変換装置が互いに間隔を置いて配置されている。これら複数の電力変換装置の各々は、直流き電線の直流き電電圧と、高電圧直流き電線の直流き電高電圧とが所定の比率となるように、直流き電電圧の変化に対応して直流き電高電圧を増減する制御を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-40455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、直流き電電圧と直流き電高電圧との比率を所定の比率に保つように、複数の電力変換装置が直流き電高電圧の調整を協調して行うことにより、複数の電力変換装置がそれぞれ接続されている複数の地点の間には、各地点における直流き電電圧を反映して、直流き電高電圧の電圧勾配が形成される。この電圧勾配に従って直流き電線および高電圧直流き電線に直流電流が流れることにより、複数の変電所からの直流電力を力行している電気車に供給することができる。また、他の電気車が回生ブレーキにより生成した回生電力を、力行している電気車に供給することができる。
【0006】
しかしながら、路線の一方端にしか変電所がなく、当該路線の他方端(終端)が行き止まりとなっている線区(例えば、盲腸線)においては、特許文献1に記載される技術の適用が困難になることが懸念される。
【0007】
例えば、当該線区を他の電気車が走行していない状況下では、変電所から線路を走行している電気車に対して直流電力が供給されることになる。このような場合、変電所から電気車の走行位置までの距離が大きくなるに従って、直流き電線の抵抗および負荷電流の大きさに比例して、直流き電線における電圧降下が大きくなるために、電気車の走行に支障が生じる虞がある。そのため、当該線区において電気車が走行できる範囲が、直流き電電圧が電気車の走行に必要な下限値を下回らない範囲に制限されることになる。
【0008】
上述したように特許文献1では、変電所毎、または、隣接する変電所の中間に所定の間隔を隔てて配置された複数の電力変換装置によって、直流き電電圧の変化に対応して、直流き電電圧と直流き電高電圧とが所定の比率に保つように、直流き電高電圧が増減されるものの、直流き電電圧の電圧降下を補償する観点については考慮されていない。
【0009】
本開示は、このような問題点を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、路線の一方端にしか変電所がない線区における直流き電線の電圧降下を補償することができる、高電圧直流き電方式を採用した直流き電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある局面によれば、直流き電システムは、第1の直流き電線と、第2の直流き電線と、第1のDC/DC変換装置と、少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置とを備える。第1の直流き電線は、変電所から第1の直流き電電圧の供給を受けて、線路を走行する電気車に直流電力を供給する。第2の直流き電線は、第1の直流き電線に並設され、第1の直流き電電圧よりも高い第2の直流き電電圧を有する。第1のDC/DC変換装置は、変電所と第1の直流き電線の終端との間に位置し、第1の直流き電線と第2の直流き電線との間に接続される。少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、第1のDC/DC変換装置と第1の直流き電線の終端との間に位置し、第1の直流き電線と第2の直流き電線との間に接続される。少なくとも1つの第2のDC/DC変換装置は、第1の直流き電電圧と所定の第1の参照電圧との偏差に応じた直流電力を、第1の直流き電線と第2の直流き電線との間で授受するように、第1の直流き電線と第2の直流き電線との間で双方向の直流/直流変換を実行する。第1のDC/DC変換装置は、第2の直流き電電圧が所定の第2の参照電圧となるように、第1の直流き電線と第2の直流き電線との間で双方向の直流/直流変換を実行する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高電圧直流き電方式を採用した直流き電システムにより、路線の一方端にしか変電所がない線区における直流き電線の電圧降下を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る直流き電システムの構成を説明する概略ブロック図である。
図2】DC/DC変換装置20Aの構成例を示す回路ブロック図である。
図3】制御部42AによるDC/DC変換器40Aの制御を説明するための図である。
図4】DC/DC変換装置20Bの構成例を示す回路ブロック図である。
図5】電圧制御部60の動作を説明するための図である。
図6】電気車が力行している場合における直流き電システムの動作を説明する図である。
図7】複数の電気車が走行している場合における直流き電システムの動作を説明する図である。
図8】実施の形態2に係る電圧制御部の動作を説明するための図である。
図9】実施の形態3に係る直流き電システムの構成を説明する概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰り返さないものとする。
【0014】
[実施の形態1]
<直流き電システムの構成>
図1は、実施の形態1に係る直流き電システムの構成を説明する概略ブロック図である。実施の形態1に係る直流き電システム100は、線路R上を走行する電気車30に直流電力を供給するシステムである。直流き電システム100は、路線の一方端にしか変電所10がなく、路線の他方端(終端)が行き止まりとなっている線区に適用され得る。
【0015】
図1に示すように、直流き電システム100は、電気車30に対して直流電力を供給する直流き電線Tと、高電圧直流き電線Fと、DC/DC変換装置20Aと、DC/DC変換装置20Bとを備える。
【0016】
直流き電線T、高電圧直流き電線Fおよび線路Rは、線路R上を走行する電気車30に電力を送るための送電線を構成する。線路Rの終端に対応して、直流き電線Tおよび高電圧直流き電線Fの各々は終端を有している。
【0017】
直流き電線Tは、変電所10から直流電力の供給を受ける。変電所10は、図示しない発電所から送られる交流電力を直流電力に変換して直流き電線Tに供給する。変電所10は、例えば、ダイオード整流器、または、PWM(パルス幅変調)整流器などを含んで構成される。変電所10は、直流き電線Tの終端に最も近い変電所に相当する。直流き電線Tの直流き電電圧VTの標準値は、例えば1500Vである。直流き電線Tは「第1の直流き電線」の一実施例に対応し、直流き電電圧VTは「第1の直流き電電圧」の一実施例に対応する。
【0018】
高電圧直流き電線Fは、直流き電線Tに並設されている。高電圧直流き電線Fの直流き電電圧VFは、直流き電電圧VTよりも高い。直流き電電圧VFの標準値は、例えば6000Vである。高電圧直流き電線Fは「第2の直流き電線」の一実施例に対応し、直流き電電圧VFは「第2の直流き電電圧」の一実施例に対応する。
【0019】
DC/DC変換装置20AおよびDC/DC変換装置20Bは、直流き電線Tと高電圧直流き電線Fとの間に接続されている。DC/DC変換装置20AおよびDC/DC変換装置20Bの各々は、双方向のDC/DC変換装置である。DC/DC変換装置20AおよびDC/DC変換装置20Bにおける双方向のDC/DC変換によって、直流き電線Tと高電圧直流き電線Fとの間で電力が授受される。
【0020】
具体的には、DC/DC変換装置20Aは、変電所10と直流き電線Tの終端との間に位置している。好ましくは、DC/DC変換装置20Aは、変電所10またはその近傍に位置している。DC/DC変換装置20Aは、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fへ電力を供給する場合に、直流き電電圧VTを昇圧して高電圧直流き電線Fに出力する。DC/DC変換装置20Aは、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tへ電力を供給する場合に、直流き電電圧VFを降圧して直流き電線Tに出力する。DC/DC変換装置20Aは「第1のDC/DC変換装置」の一実施例に対応する。
【0021】
DC/DC変換装置20Bは、DC/DC変換装置20Aと直流き電線Tの終端との間に位置している。図1のようにDC/DC変換装置20Bが1台である場合には、好ましくは、DC/DC変換装置20Bは、直流き電線Tの終端またはその近傍に位置している。DC/DC変換装置20Bは、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fへ電力を供給する場合に、直流き電電圧VTを昇圧して高電圧直流き電線Fに出力する。DC/DC変換装置20Bは、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tへ電力を供給する場合に、直流き電電圧VFを降圧して直流き電線Tに出力する。DC/DC変換装置20Bは「第2のDC/DC変換装置」の一実施例に対応する。
【0022】
DC/DC変換装置20AとDC/DC変換装置20Bとは、双方向のDC/DC変換の制御構成が異なる。以下では、DC/DC変換装置20AおよびDC/DC変換装置20Bの各々の構成および動作について説明する。
【0023】
<DC/DC変換装置20Aの構成例>
図2は、DC/DC変換装置20Aの構成例を示す回路ブロック図である。図2に示すように、DC/DC変換装置20Aは、低電圧側直流端子T1と、高電圧側直流端子T3と、負側直流端子T2,T4と、DC/DC変換器40Aと、制御部42Aと、電圧検出器44とを含んで構成される。
【0024】
低電圧側直流端子T1は直流き電線Tに接続され、低電圧側直流端子T2は線路Rに接続される。高電圧側直流端子T3は高電圧直流き電線Fに接続され、高電圧側直流端子T4は線路Rに接続される。
【0025】
DC/DC変換器40Aは、低電側直流端子T1,T2と高電圧側直流端子T3,T4との間に接続される。DC/DC変換器40Aは、複数の半導体スイッチング素子および複数のダイオードを含む周知のものである。図2の例では、DC/DC変換器40Aは、チョッパ回路であり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)Q1,Q2、ダイオードD1,D2、およびリアクトルL1を含む。
【0026】
IGBTQ1のコレクタは高電圧側直流端子T3に接続され、そのエミッタはノードN1に接続される。IGBTQ2のコレクタはノードN1に接続され、そのエミッタは負側直流端子T2,T4に接続される。IGBTQ1,Q2のゲートは、それぞれ制御部42Aからのゲート信号G1,G2を受ける。
【0027】
ダイオードD1,D2は、それぞれIGBTQ1,Q2に逆並列に接続される。リアクトルL1は、ノードN1と低電圧側直流端子T1との間に接続され、電磁エネルギーを蓄える。
【0028】
降圧動作時、ゲート信号G1が一定周期でHレベルおよびLレベルにされてIGBTQ1が一定周期でオンおよびオフされる。ゲート信号G2はLレベルに維持されてIGBTQ2はオフ状態に維持される。
【0029】
IGBTQ1がオンされると、高電圧直流き電線FからIGBTQ1、リアクトルL1および直流き電線Tを介して線路Rに電流が流れ、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tに直流電力が供給されるとともに、リアクトルL1に電磁エネルギーが蓄えられる。
【0030】
IGBTQ1がオフされると、リアクトルL1の一方端子から直流き電線T、線路RおよびダイオードD2を介してリアクトルL1の他方端子に電流が流れ、リアクトルL1の電磁エネルギーが放出される。
【0031】
ゲート信号G1の一周期T1内におけるゲート信号G1がHレベルにされる時間T2の割合T2/T1は、デューティ比D1と呼ばれる。デューティ比D1を増大させると直流き電電圧VTが上昇し、デューティ比D1を減少させると直流き電電圧VTが低下する。したがって、デューティ比D1を調整することにより、直流き電電圧VTを所望の電圧に調整することが可能となっている。
【0032】
昇圧動作時、ゲート信号G2が一定周期でHレベルおよびLレベルにされてIGBTQ2が一定周期でオンおよびオフされる。ゲート信号G1はLレベルに維持されてIGBTQ1はオフ状態に維持される。
【0033】
IGBTQ2がオンされると、直流き電線TからリアクトルL1およびIGBTQ2を介して線路Rに電流が流れ、リアクトルL1に電磁エネルギーが蓄えられる。
【0034】
IGBTQ2がオフされると、直流き電線TからリアクトルL1およびダイオードD1を介して高電圧直流き電線Fに電流が流れ、直流き電線Tから高電圧き電線Fに直流電力が供給されるともに、リアクトルL1の電磁エネルギーが放出される。
【0035】
ゲート信号G2の一周期T3内におけるゲート信号G2がHレベルにされる時間T4の割合T4/T3は、デューティ比D2と呼ばれる。デューティ比D2を増大させると直流き電電圧VFが上昇し、デューティ比D2を減少させると直流き電電圧VFが低下する。したがって、デューティ比D2を調整することにより、直流き電電圧VFを所望の電圧に調整することが可能となっている。
【0036】
電圧検出器44は、直流き電電圧VFを検出する。電圧検出器44による検出信号は制御部42Aに送られる。制御部42Aは、電圧検出器44の出力信号などに基づいてゲート信号G1,G2を生成することにより、DC/DC変換器40Aを制御する。
【0037】
制御部42Aは、直流き電電圧VFが一定になるように、DC/DC変換器40Aを制御するように構成される。具体的には、制御部42Aは、直流き電電圧VFと、予め定められた参照電圧VFRとを比較し、その比較結果に応じて、DC/DC変換器40Aに昇圧動作および降圧動作を選択的に実行させる。参照電圧VFRは、例えば、直流き電電圧VFの標準値(6000V)に設定される。
【0038】
VF>VFRである場合には、制御部42Aは、降圧動作を実行するように、DC/DC変換器40Aを制御する。高電圧直流き電線Fから直流き電線Tへ電力を供給されることによって直流き電電圧VFが低下し、直流き電電圧VFが参照電圧VFRに一致すると、制御部42Aは、DC/DC変換器40Aの降圧動作を停止させる。
【0039】
VF<VFRである場合には、制御部42Aは、昇圧動作を実行するように、DC/DC変換器40Aを制御する。直流き電線Tから高電圧直流き電線Fへ電力が供給されることによって直流き電電圧VFが上昇し、直流き電電圧VFが参照電圧VFRに一致すると、制御部42Aは、DC/DC変換器40Aの昇圧動作を停止させる。
【0040】
VF=VFRである場合には、制御部42Aは、DC/DC変換器40Aを停止状態とする。
【0041】
図2に示すように、制御部42Aは、減算器50と、制御器52と、ゲート信号生成部54とを含む。制御部42Aは、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、および入出力回路を含んで構成される。CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで、減算器50、制御器52、およびゲート信号生成部54の機能を実現することができる。あるいは、制御部42Aの少なくとも一部については、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成することが可能である。また、制御部42Aの少なくとも一部について、アナログ回路によって構成することも可能である。
【0042】
減算器50は、電圧検出器44により検出される直流き電電圧VFと参照電圧VFRとの偏差ΔVFを算出する。
【0043】
制御器52は、直流き電電圧VFを参照電圧VFRに追従させるためのフィードバック制御により、デューティ比D1,D2の指令値であるデューティ比指令値Da*を生成する。制御器52は、偏差ΔVFを規定値よりも小さくするための制御演算を実行することによりデューティ比指令値Da*を生成する。VF>VFRの場合には、デューティ比指令値Da*は、降圧動作時のデューティ比D1の指令値であるデューティ比指令値D1a*となる。VF<VFRの場合には、デューティ比指令値Da*は、昇圧動作時のデューティ比D2の指令値であるデューティ比指令値D2a*となる。VF=VFRの場合には、デューティ比指令値Da*=0となる。
【0044】
ゲート信号生成部54は、図示しないキャリア信号生成部および比較器を含む。キャリア信号生成部は、三角波状のキャリア信号を生成する。比較器は、デューティ比指令値Da*とキャリア信号との高低を比較し、比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。
【0045】
降圧動作時には、ゲート信号G1はデューティ比指令値Da*(Da*=D1a*)に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G2はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Aは、ゲート信号G1によって駆動され、直流き電電圧VFを直流き電電圧VTに変換する。
【0046】
昇圧動作時には、ゲート信号G2はデューティ指令値Da*(Da*=D2a*)に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G1はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Aは、ゲート信号G2によって駆動され、直流き電電圧VTを直流き電電圧VFに変換する。
【0047】
図3は、制御部42AによるDC/DC変換器40Aの制御を説明するための図である。図3には、直流き電電圧VTと直流き電電圧VFとの関係が示される。図3の横軸は直流き電電圧VTを示し、縦軸は直流き電電圧VFを示す。上述したように制御部42Aは、直流き電電圧VFが一定になるように、DC/DC変換器40Aを制御する。そのため、直流き電電圧VTの大きさによらず、直流き電電圧VFは一定値(参照電圧VFRに相当)に維持される。
【0048】
<DC/DC変換装置20Bの構成例>
図4は、DC/DC変換装置20Bの構成例を示す回路ブロック図である。図4に示すように、DC/DC変換装置20Bは、低電圧側直流端子T1と、高電圧側直流端子T3と、負側直流端子T2,T4と、DC/DC変換器40Bと、制御部42Bと、電圧検出器46と、電流検出器48とを含んで構成される。
【0049】
低電圧側直流端子T1は直流き電線Tに接続され、低電圧側直流端子T2は線路Rに接続される。高電圧側直流端子T3は高電圧直流き電線Fに接続され、高電圧側直流端子T4は線路Rに接続される。
【0050】
DC/DC変換器40Bは、低電側直流端子T1,T2と高電圧側直流端子T3,T4との間に接続される。DC/DC変換器40Bは、複数の半導体スイッチング素子および複数のダイオードを含む周知のものである。図4の例では、DC/DC変換器40Bは、チョッパ回路であり、図2に示したDC/DC変換器40Aと同じ構成を有している。
【0051】
電圧検出器46は、直流き電電圧VTを検出し、その検出値を示す信号を制御部42Bに与える。電流検出器48は、リアクトルL1に流れる電流(リアクトル電流)ILを検出し、その検出値を示す信号を制御部42Bに与える。
【0052】
制御部42Bは、電圧検出器46および電流検出器48の出力信号などに基づいてゲート信号G1,G2を生成することにより、DC/DC変換器40Bを制御する。制御部42Bは、直流き電電圧VTと、予め定められた参照電圧VTRとの偏差に応じた直流電力を出力するように、DC/DC変換器40Bを制御するように構成される。
【0053】
図4に示すように、制御部42Bは、電圧制御部60と、電力検出部62と、減算器64と、制御器66と、ゲート信号生成部68とを含む。制御部42Bは、CPU、メモリ、および入出力回路を含んで構成される。CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで、電圧制御部60、電力検出部62、減算器64、制御器66およびゲート信号生成部68の機能を実現することができる。あるいは、制御部42Bの少なくとも一部については、FPGAまたはASICなどの回路を用いて構成することが可能である。また、制御部42Bの少なくとも一部について、アナログ回路によって構成することも可能である。
【0054】
電圧制御部60は、電圧検出器46により検出される直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じて、DC/DC変換器40Bから出力される直流電力POの指令値である直流電力指令値PO*を生成する。図5は、電圧制御部60の動作を説明するための図である。図5には、直流き電電圧VTとDC/DC変換器40Bの直流電力指令値PO*との関係が示されている。図5の横軸は直流き電電圧VTを示し、縦軸は直流電力指令値PO*を示す。
【0055】
本明細書では、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tに電力(電流)が供給される方向を「正」と定義し、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fに電力(電流)が供給される方向を「負」と定義する。
【0056】
図5に示すように、VT>VTRの場合には、PO*<0となる。すなわち、VT>VTRの場合には、負の直流電力指令値PO*に従って、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fに電力が供給される。一方、VT<VTRの場合には、PO*>0となる。すなわち、VT<VTRの場合には、正の直流電力指令値PO*に従って、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tに電力が供給される。
【0057】
直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTが大きくなるに従って、直流電力指令値PO*の絶対値は大きくなる。なお、VT=VTRの場合には、PO*=0となる。この場合、DC/DC変換器40Bは停止状態となる。
【0058】
図5において、VTHは直流き電電圧VTの上限値を示し、VTLは直流き電電圧VTの下限値を示す。上限値VTHは、電気車30の許容電圧(耐圧)以下の任意の電圧とすることができる。下限値VTLは、電気車30の走行に必要な下限値以上の任意の電圧とすることができる。
【0059】
下限値VTLから上限値VTHまでの電圧範囲において、直流電力指令値PO*は、直流き電電圧VTと比例関係を有している。この比例関係を示す直線の傾きは、DC/DC変換器40Bの制御応答性によって決まる。DC/DC変換器40Bの制御応答性を高めるに従って、直線の傾きが急峻になる。ただし、DC/DC変換器40Bの制御応答性が高くなるほど、高電圧直流き電線Fおよび直流き電線Tの間の電力の授受に起因して、直流き電電圧VTおよび/または直流き電電圧VFの過渡変動が増大する虞がある。したがって、直線の傾きは、直流き電電圧VTおよび直流き電電圧VFの安定性を考慮して適宜に設定することができる。
【0060】
図4に戻って、電圧制御部60は、図5に示す直流電力指令値PO*と直流き電電圧VTとの関係を参照することにより、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに基づいて、直流電力指令値PO*を生成する。電圧制御部60は、直流き電電圧VTと直流電力指令値PO*との関係を示す関係式またはテーブルを予め用意しておくことにより、当該関係式またはテーブルを用いて、直流き電電圧VTから直流電力指令値PO*を生成することができる。
【0061】
電力検出部62は、電流検出器48により検出されるリアクトル電流ILおよび電圧検出器46により検出される直流き電電圧VTに基づいて、DC/DC変換器40Bから出力される直流電力POを算出する。
【0062】
減算器64は、直流電力指令値PO*と、電力検出部62により算出された直流電力POとの偏差ΔPOを算出する。
【0063】
制御器66は、直流電力POを直流電力指令値PO*に追従させるためのフィードバック制御により、デューティ比D1,D2の指令値であるデューティ比指令値Db*を生成する。PO*>0の場合には、デューティ比指令値Db*は、降圧動作時のデューティ比D1の指令値であるデューティ比指令値D1b*となる。PO*<0の場合には、デューティ比指令値Db*は、昇圧動作時のデューティ比D2の指令値であるデューティ比指令値D2b*となる。PO*=0の場合には、デューティ比指令値Db*=0となる。
【0064】
ゲート信号生成部68は、図示しないキャリア信号生成部および比較器を含む。キャリア信号生成部は、三角波状のキャリア信号を生成する。比較器は、デューティ比指令値Db*とキャリア信号との高低を比較し、その比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。
【0065】
降圧動作時には、ゲート信号G1はデューティ比指令値Db*(Db*=D1b*)に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G2はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Bは、ゲート信号G1によって駆動され、直流き電電圧VFを直流き電電圧VTに変換する。
【0066】
昇圧動作時には、ゲート信号G2はデューティ指令値Db*(Db*=D2b*)に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G1はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Bは、ゲート信号G2によって駆動され、直流き電電圧VTを直流き電電圧VFに変換する。
【0067】
<直流き電システムの動作>
次に、図6および図7を参照して、実施の形態1に係る直流き電システム100の動作について説明する。
【0068】
(第1動作例)
図6は、電気車30が力行している場合における直流き電システム100の動作を説明する図である。図6では、電気車30は、変電所10と線路Rの終端との間を走行している。電気車30には変電所10から直流電力が供給される。図6中の矢印A1(実線)は、実施の形態1に係る直流き電システム100による直流電力の流れを表している。図6中の矢印A2(破線)は、従来の直流き電システムによる直流電力の流れを表している。なお、従来の直流き電システムとは、高電圧直流き電線Fを有しない一般的な直流き電システムである。
【0069】
従来の直流き電システムでは、変電所10から直流き電線Tを経由して電気車30に電力が供給される。この場合、直流き電線Tの直流き電電圧VTに、変電所10から電気車30の走行位置までの距離に応じた電圧降下が生じる。この電圧降下によって直流き電電圧VTが電気車30の走行に必要な下限値を下回ると、電気車30の走行に支障が生じる虞がある。そのため、電気車30の走行可能範囲は、直流き電電圧VTが下限値を下回らない範囲に制限されてしまう。
【0070】
一方、実施の形態1に係る直流き電システム100では、直流き電線Tの電圧降下によって直流き電電圧VTが参照電圧VTRよりも低くなったことに応じて、変電所10と線路Rの終端との間に配置されたDC/DC変換装置20Bは、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じた直流電力POを出力する。
【0071】
具体的には、DC/DC変換装置20Bの内部において、制御部42Bは、図5に示した直流電力指令値PO*と直流き電電圧VTとの関係を参照することにより、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに基づいて、直流電力指令値PO*を生成する。VT<VTRであるため、直流電力指令値PO*は正の値となる。制御部42Bは、直流電力POを直流電力指令値PO*に追従させるためのフィードバック制御により、デューティ比指令値Db*を生成する。PO*>0の場合、デューティ比指令値Db*は、降圧動作時のデューティ比指令値D1b*となる。制御部42Bは、デューティ比指令値Db*とキャリア信号との高低を比較し、その比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。ゲート信号G1はデューティ比指令値D1b*に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G2はLレベルに維持される。
【0072】
DC/DC変換器40Bは、ゲート信号G1,G2によって駆動され、直流き電電圧VFを直流き電電圧VTに変換する。このDC/DC変換器40Bの降圧動作によって、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tへ直流電力が供給される。そして、直流き電線Tから電気車30に直流電力が供給される。
【0073】
DC/DC変換装置20Bによる直流き電線Tへの電力供給によって、高電圧直流き電線Fの直流き電電圧VFが低下して参照電圧VFRよりも低くなったことに応じて、変電所10の近傍に配置されたDC/DC変換装置20Aは、直流き電電圧VFが一定になるようにDC/DC変換を実行する。
【0074】
具体的には、DC/DC変換装置20Aの内部において、制御部42Aは、直流き電電圧VTを参照電圧VTRに追従させるためのフィードバック制御により、降圧動作時におけるデューティ比指令値D1a*を生成するとともに、直流き電電圧VFを参照電圧VFRに追従させるためのフィードバック制御により、昇圧動作時のデューティ比指令値D2a*を生成する。
【0075】
VF<VFRであるため、制御部42Aは、デューティ比指令値Da*として、昇圧動作時のデューティ比指令値D2a*を選択する。制御部42Aは、デューティ比指令値Da*とキャリア信号との高低を比較し、その比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。
【0076】
ゲート信号G2は昇圧動作時のデューティ比指令値D2a*に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G1はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Aは、ゲート信号G2によって駆動され、直流き電電圧VTを直流き電電圧VFに変換する。DC/DC変換器40Aの昇圧動作によって、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fへ直流電力が供給される。
【0077】
このようにDC/DC変換装置20Bが降圧動作を実行するとともに、DC/DC変換装置20Aが昇圧動作を実行することにより、矢印A1に示すように、変電所10からDC/DC変換装置20A、高電圧直流き電線F、DC/DC変換装置20Bおよび直流き電線Tを経由して、電気車30に直流電力が供給されることになる。
【0078】
上記構成によれば、DC/DC変換装置20Bの降圧動作によって、直流き電線Tの電圧降下を補償することができる。これによると、図6に示すように、DC/DC変換装置20Bを線路Rの終端付近に配置することで、終端付近を走行する電気車30に対しても直流き電線Tの電圧降下を補償することが可能となる。したがって、路線の一方端にしか変電所10がない線区において、電気車30の走行可能範囲に対する制限を解消することができる。
【0079】
また、変電所10から高電圧直流き電線Fを通じて電気車30に直流電力が送られるため、直流き電線Tを通じて直流電力を送る従来の直流き電システムと比較して、負荷電流が小さくなるため、直流き電損失を削減することができる。
【0080】
(第2動作例)
図7は、複数の電気車30A,30Bが変電所10と線路Rの終端との間を走行している場合における直流き電システム100の動作を説明する図である。図7では、電気車30Bが線路Rの終端付近で回生ブレーキを掛け、電気車30Aが変電所10付近を力行している場合を想定している。
【0081】
図7中の矢印A3(実線)は、実施の形態1に係る直流き電システム100による直流電力の流れを表している。図7中の矢印A4(破線)は、従来の直流き電システムによる直流電力の流れを表している。なお、従来の直流き電システムとは、高電圧直流き電線Fを有しない一般的な直流き電システムである。
【0082】
従来の直流き電システムでは、電気車30Bが回生ブレーキによる回生電力を生成し、生成した回生電力を直流き電線Tに逆潮流した場合には、直流き電線Tを通じて、電気車30Bの近傍を走行する他の電気車30Aに対して回生電力を供給することができる。
【0083】
しかしながら、電気車30Bの許容電圧の制限によって、回生電力の出力電圧は所定の上限値までに制限される。また、回生電流が直流き電線Tを流れると、回生電流の大きさに比例した電圧降下が発生する。そのため、電気車30Aが電気車30Bから離れている場合には、電圧降下を抑えるために回生電流の大きさが制限されることから、電気車30Bに対して遠方に位置している電気車30Aに回生電力を供給することが困難となってしまう。このような場合には、回生電力として生成できるはずの電気エネルギーが、電気車30Bにおける機械ブレーキの熱として消費されることになり、回生電力を有効に利用することができなくなる。
【0084】
一方、実施の形態1に係る直流き電システム100では、電気車30Bが生成した回生電力の逆潮流によって直流き電電圧VTが参照電圧VTRよりも上昇したことに応じて、変電所10と線路Rの終端との間に配置されたDC/DC変換装置20Bは、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じた直流電力POを出力する。
【0085】
具体的には、DC/DC変換装置20Bの内部において、制御部42Bは、図5に示した直流電力指令値PO*と直流き電電圧VTとの関係を参照することにより、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに基づいて、直流電力指令値PO*を生成する。VT>VTRであるため、直流電力指令値PO*は負の値となる。制御部42Bは、直流電力POを直流電力指令値PO*に追従させるためのフィードバック制御により、デューティ比指令値Db*を生成する。PO*<0の場合には、デューティ比指令値Db*は、昇圧動作時のデューティ比指令値D2b*となる。制御部42Bは、デューティ比指令値Db*とキャリア信号との高低を比較し、その比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。ゲート信号G2はデューティ比指令値D2b*に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G1はLレベルに維持される。
【0086】
DC/DC変換器40Bは、ゲート信号G1,G2によって駆動され、直流き電電圧VTを直流き電電圧VFに変換する。DC/DC変換器40Bの昇圧動作によって、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fへ直流電力が供給される。これにより、直流き電線Tの電圧上昇が補償される。
【0087】
DC/DC変換装置20Bによる高電圧直流き電線Fへの電力供給によって、高電圧直流き電線Fの直流き電電圧VFが上昇して参照電圧VFRよりも高くなったことに応じて、変電所10近傍に配置されたDC/DC変換装置20Aは、直流き電電圧VFが一定になるようにDC/DC変換を実行する。
【0088】
具体的には、DC/DC変換装置20Aの内部において、制御部42Aは、直流き電電圧VTを参照電圧VTRに追従させるためのフィードバック制御により、降圧動作時におけるデューティ比指令値D1a*を生成するとともに、直流き電電圧VFを参照電圧VFRに追従させるためのフィードバック制御により、昇圧動作時のデューティ比指令値D2a*を生成する。
【0089】
VF>VFRであるため、制御部42Aは、デューティ比指令値Da*として、降圧動作時のデューティ比指令値D1a*を選択する。制御部42Aは、デューティ比指令値Da*とキャリア信号との高低を比較し、その比較結果を示すゲート信号G1,G2を出力する。
【0090】
ゲート信号G1は降圧動作時のデューティ比指令値D1a*に応じた値のデューティ比を有し、ゲート信号G2はLレベルに維持される。DC/DC変換器40Aは、ゲート信号G1によって駆動され、直流き電電圧VFを直流き電電圧VTに変換する。DC/DC変換器40Aの降圧動作によって、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tへ直流電力が供給される。直流き電線Tへ供給された直流電力は、変電所10の付近で力行している電気車30Aに供給される。
【0091】
このようにDC/DC変換装置20Bが昇圧動作を実行するとともに、DC/DC変換装置20Aが降圧動作を実行することにより、矢印A3に示すように、回生ブレーキにより電気車30Bが発生した回生電力は、直流き電線T、DC/DC変換装置20B、高電圧直流き電線F、DC/DC変換装置20Aおよび直流き電線Tを経由して、力行している電気車30Aに供給されることになる。
【0092】
上記構成によれば、回生ブレーキを掛けた電気車30Bが発生した回生電力を、電気車30Bから離れて力行している電気車30Aに対しても供給することができる。したがって、回生電力を有効に利用することができる。
【0093】
また、高電圧直流き電線Fを通じて回生電力が送られるため、直流き電線Tを通じて回生電力を送る従来の直流き電システムと比較して、回生電流が小さくなり、結果的に直流き電損失を削減することができる。したがって、回生電力の利用効率を向上させることが可能となる。
【0094】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1に記載の直流き電システム100では、DC/DC変換装置20Bは、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じて降圧動作および昇圧動作を選択的に実行することによって、直流き電線Tの電圧降下および電圧上昇を補償することができる。また、DC/DC変換装置20Aは、高電圧直流き電線Fの直流き電圧VFが一定になるように昇圧動作および降圧動作を選択的に実行することによって、高電圧直流き電線Fを通じて、変電所10または電気車30Aと電気車30Bとの間で直流電力を授受することができる。
【0095】
しかしながら、DC/DC変換装置20AとDC/DC変換装置20Bとの間でDC/DC変換の制御にずれが生じた場合には、DC/DC変換装置20Aが接続される地点における直流き電電圧VTおよび直流き電電圧VFと、DC/DC変換装置20Bが接続される地点における直流き電電圧VTおよび直流き電電圧VFとの間に、ずれが生じてしまう場合がある。このような場合には、直流き電線Tと高電圧直流き電線Fとの間、および/または、DC/DC変換装置20AとDC/DC変換装置20Bとの間に循環電流が発生する可能性がある。循環電流が発生することによって、DC/DC変換装置20AおよびDC/DC変換装置20Bの損失が増大するため、直流き電システム100の効率を低下させることが懸念される。
【0096】
実施の形態2では、循環電流の発生を抑制するための手法について説明する。実施の形態2に係る直流き電システム100の構成は、実施の形態1に係る直流き電システム100の構成と同じであるため、説明を省略する。
【0097】
実施の形態2に係る直流き電システム100は、実施の形態1に係る直流き電システム100とは、DC/DC変換装置20Bの制御構成が異なる。実施の形態2においても、図4で説明したように、DC/DC変換装置20Bの内部において、制御部42Bは、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じた直流電力を出力するように、DC/DC変換器40Bを制御するように構成される。具体的には、電圧制御部60は、電圧検出器46により検出される直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じて、DC/DC変換器40Bから出力される直流電力POの指令値である直流電力指令値PO*を生成する。
【0098】
図8は、実施の形態2に係る電圧制御部60の動作を説明するための図であって、図5と対比される図である。図8には、直流き電電圧VTとDC/DC変換器40Bの直流電力指令値PO*との関係が示されている。図8の横軸は直流き電電圧VTを示し、縦軸は直流電力指令値PO*を示す。
【0099】
図8において、図5と異なる点は、直流き電電圧VTと直流電力指令値PO*との関係に、不感帯を設けている点である。不感帯は、直流き電電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTの絶対値が予め定められた閾値Vth以下となる領域に設けられている。不感帯では、PO*=0に設定される。
【0100】
これによると、偏差ΔVTの絶対値が閾値Vth以下となる領域(不感帯)では、DC/DC変換器40Bは、DC/DC変換の実行を停止して直流電力を出力しないように制御される。一方、直流き電電圧VTが不感帯を超えて上昇すると、負の直流電力指令値PO*に従って、DC/DC変換器40Bは、昇圧動作を実行するように制御される。これにより、直流き電線Tから高電圧直流き電線Fに電力が供給される。反対に、直流き電電圧VTは不感帯を超えて低下すると、正の直流電力指令値PO*に従って、DC/DC変換器40Bは、降圧動作を実行するように制御される。これにより、高電圧直流き電線Fから直流き電線Tに電力が供給される。
【0101】
このように参照電圧VTRに対する直流き電電圧VTの偏差ΔVTの絶対値が小さい領域に、DC/DC変換装置20Bが直流電力を出力しない、すなわち、DC/DC変換装置20Bを停止させる不感帯を設けたことによって、DC/DC変換装置20AとDC/DC変換装置20Bとの制御のずれに起因して循環電流が発生することを抑制することができる。
【0102】
[実施の形態3]
上述した実施の形態1では、変電所10と線路Rの終端との間に1台のDC/DC変換装置20Bを配置する構成例について説明したが、変電所10と線路Rの終端との間に、複数のDC/DC変換装置20Bを配置する構成としてもよい。
【0103】
図9は、実施の形態3に係る直流き電システム100の構成を説明する概略ブロック図である。図9に示すように、直流き電システム100は、直流き電線Tと、高電圧直流き電線Fと、DC/DC変換装置20Aと、複数(例えば2台)のDC/DC変換装置20Bとを備える。
【0104】
DC/DC変換装置20Aは、変電所10と直流き電線Tの終端との間に位置している。好ましくは、DC/DC変換装置20Aは、変電所10またはその近傍に位置している。
【0105】
複数のDC/DC変換装置20Bは、DC/DC変換装置20Aと直流き電線Tの終端との間に位置している。好ましくは、複数のDC/DC変換装置20Bは、直流き電線Tの終端との間に、互いに離間して配置されている。
【0106】
図9には、直流き電線Tの直流き電電圧VTのグラフが併せて示されている。当該グラフの横軸は線路R上を力行している電気車30の走行位置を示し、縦軸は走行位置における直流き電電圧VTを示している。
【0107】
直流き電線Tには、変電所10から電気車30の走行位置までの距離に応じた電圧降下が発生する。この電圧降下は、直流き電線Tの抵抗および負荷電流に比例し、変電所10からの距離が大きくなるに従って大きくなる。
【0108】
複数のDC/DC変換装置20Bの各々は、DC/DC変換装置20Bが接続される地点における直流き電圧VTと参照電圧VTRとの偏差ΔVTに応じた直流電力を出力するように構成されている。そのため、直流き電線Tの各地点における電圧降下を補償することができる。
【0109】
これによると、複数のDC/DC変換装置20Bを互いに離間して配置することによって、電気車30の走行可能範囲に対する制限を解消することができる。したがって、路線の一方端にしか変電所10がなく、路線の他方端(終端)が行き止まりとなっている線区の長さを拡張することが可能となる。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
10 変電所、20A,20B DC/DC変換装置、30,30A,30B 電気車、40A,40B DC/DC変換器、42A,42B 制御器、44,46 電圧検出器、48 電流検出器、50,64 減算器、52,66 制御器、54,58 ゲート信号生成部、60 電圧制御部、62 電力検出部、100 直流き電システム、Q1~Q4 IGBT、D1~D4 ダイオード、F 高電圧直流き電線、T 直流き電線、R 線路、T1,T2 低電圧側直流端子、T3,T4 高電圧側直流端子、VF,VT 直流き電電圧、VFR 参照電圧、PO* 直流電力指令値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9