(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053277
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】病原菌の消毒方法および病原菌の消毒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240408BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20240408BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240408BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20240408BHJP
A01N 59/08 20060101ALI20240408BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240408BHJP
A61K 33/20 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K45/06
A61L2/18
A01P3/00
A01N59/00
A01N59/08 Z
A61P17/00 101
A61P31/00
A61K33/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159417
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】506310050
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内海 洋
【テーマコード(参考)】
4C058
4C084
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA05
4C058AA23
4C058AA29
4C058BB07
4C058JJ06
4C084AA20
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA901
4C084ZB321
4C086AA01
4C086HA09
4C086HA24
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA90
4C086ZB32
4H011AA02
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】毒性が低く少ない環境負荷で病原菌を有効に消毒できる病原菌の消毒方法および病原菌の消毒剤を提供する。
【解決手段】細胞壁8に保護物質を含む病原菌3を消毒する病原菌3の消毒方法であって、病原菌3に対してアルカリ性液を接触させる第一工程と、アルカリ性液を接触させてから所定時間以上経過後の病原菌3に対して酸性液又は中性液を接触させる第二工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞壁に保護物質を含む病原菌を消毒する病原菌の消毒方法であって、
前記病原菌に対してアルカリ性液を接触させる第一工程と、
前記アルカリ性液を接触させてから所定時間以上経過後の前記病原菌に対して酸性液又は中性液を接触させる第二工程と、
を備えることを特徴とする病原菌の消毒方法。
【請求項2】
細胞壁に保護物質を含む病原菌を消毒する病原菌の消毒方法であって、
前記病原菌に対してアルカリ性液を接触させる第一工程と、
前記アルカリ性液を接触させてから所定時間以上経過後の前記病原菌に対して酸性液を接触させる第二工程と、を備え、
前記第一工程で用いる前記アルカリ性液は、被電解水を電気分解する電解装置の陰極側から得られるアルカリ性電解水であり、
前記第二工程で用いる前記酸性液は、前記電解装置の陽極側から得られる次亜塩素酸水である
ことを特徴とする病原菌の消毒方法。
【請求項3】
アルカリ性電解水および次亜塩素酸水は、それぞれ無塩型又は低塩型の電解水である
ことを特徴とする請求項2記載の病原菌の消毒方法。
【請求項4】
請求項1又は2に用いる病原菌の消毒剤であって、
アルカリ性液を主成分とする第一液と、
酸性液又は中性液を主成分とする第二液と、を有する
ことを特徴とする病原菌の消毒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞壁に保護物質を含む病原菌を消毒する病原菌の消毒方法および病原菌の消毒剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば牛、羊、山羊等の反芻動物の疾病として、ヨーネ病が知られている。ヨーネ病については、現在のところ、感染防御に効果のあるワクチン、あるいは治療に有効な抗生物質がなく、また、細胞壁に多量の脂質を有して消毒に対する耐性効果が高いことから、ヨーネ病の病原菌であるヨーネ菌の消毒剤として、消石灰や塩素剤等の劇薬が用いられる(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】永田礼子、-最新の家畜疾病情報(XIII)-ヨーネ病、日本獣医師会雑誌、Vol.69 No.2(2016) p.66-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に劇薬はヒトや動物への毒性を有しているだけでなく、環境負荷も大きい。そこで、例えばヨーネ菌等、脂質やその他の保護物質により菌自体を保護する、消毒に対する耐性効果が高い病原菌を、より毒性が低く、かつ少ない環境負荷で有効に消毒できる方法が望まれている。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、毒性が低く少ない環境負荷で病原菌を有効に消毒できる病原菌の消毒方法および病原菌の消毒剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の病原菌の消毒方法は、細胞壁に保護物質を含む病原菌を消毒する病原菌の消毒方法であって、前記病原菌に対してアルカリ性液を接触させる第一工程と、前記アルカリ性液を接触させてから所定時間以上経過後の前記病原菌に対して酸性液又は中性液を接触させる第二工程と、を備えるものである。
【0007】
請求項2記載の病原菌の消毒方法は、細胞壁に保護物質を含む病原菌を消毒する病原菌の消毒方法であって、前記病原菌に対してアルカリ性液を接触させる第一工程と、前記アルカリ性液を接触させてから所定時間以上経過後の前記病原菌に対して酸性液を接触させる第二工程と、を備え、前記第一工程で用いる前記アルカリ性液は、被電解水を電気分解する電解装置の陰極側から得られるアルカリ性電解水であり、前記第二工程で用いる前記酸性液は、前記電解装置の陽極側から得られる次亜塩素酸水であるものである。
【0008】
請求項3記載の病原菌の消毒方法は、請求項2記載の病原菌の消毒方法において、アルカリ性電解水および次亜塩素酸水は、それぞれ無塩型又は低塩型の電解水であるものである。
【0009】
請求項4記載の病原菌の消毒剤は、請求項1又は2に用いる病原菌の消毒剤であって、アルカリ性液を主成分とする第一液と、酸性液又は中性液を主成分とする第二液と、を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、毒性が低く少ない環境負荷で病原菌を有効に消毒できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態の病原菌の消毒方法を(a)および(b)に模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
本実施の形態の消毒剤は、アルカリ性液を主成分とする第一液1と、酸性液又は中性液、好ましくは酸性液を主成分とする第二液2と、を有し、病原菌(病原性細菌)3の消毒(殺菌)に用いるものである。ここで、「主成分とする」とは、液を構成する成分中の主なものであることを意味する。したがって、本実施の形態では、第一液1および第二液2に、主成分の機能を阻害しない他の成分を含むことを排除するものではない。
【0014】
アルカリ性液は、脂質等の保護物質を分解する効果を有する。アルカリ性液は、脂質等の保護物質を分解する洗剤等でもよいが、本実施の形態では、好ましくはアルカリ性電解水(電解生成アルカリ性水)が用いられる。また、酸性液および中性液は、任意の薬液等の液でもよいが、酸性液としては、好ましくは酸性電解水(電解生成酸性水)が用いられ、中性液としては、好ましくは中性電解水(電解生成中性水)が用いられる。
【0015】
アルカリ性電解水および酸性電解水は、既知の二室型、あるいは三室型の電解装置により塩化ナトリウム水溶液、塩酸、あるいはそれらの混合水等の被電解水を電気分解することで生成される還元水である。アルカリ性電解水および酸性電解水は、塩害を防止するために、無塩、又は、低塩のものが好ましく、本実施の形態では、例えば三室型の電解装置により生成される無塩型のアルカリ性電解水および酸性電解水が用いられる。
【0016】
一例として、アルカリ性電解水は、電解装置の陰極側での電気分解反応により生成されるものである。アルカリ性電解水としては、例えばpH10、好ましくはpH11.0以上のものが好適に用いられる。本実施の形態のアルカリ性電解水は、経時的に空気に触れることで中性に戻っていく、毒性や環境負荷が極めて低いものである。
【0017】
また、酸性電解水は、以下の通り、電解装置の陽極側での電気分解反応により生成される次亜塩素酸(HClO)水である。
【0018】
H2O → 2H++1/2O2+2e-
2Cl- → Cl2+2e-
Cl2+H2O ⇔ HClO+HCl
【0019】
酸性電解水としては、例えばpH2.2~7.5、有効塩素濃度10~100ppm、好ましくはpH2.7~5.0、有効塩素濃度10~60ppmの弱酸性次亜塩素酸水が好適に用いられる。すなわち、本実施の形態の酸性電解水は、食品添加物として指定される次亜塩素酸水であって、安定性が低く、空気との接触等により短時間で分解される、毒性や環境負荷が極めて低いものである。
【0020】
中性電解水としては、上記のアルカリ性電解水と酸性電解水とを適宜の割合で混合したものが好適に用いられ、より好ましくは、有効塩素濃度以外が食品衛生法で規定される食品製造用水に合致するものが用いられる。中性電解水としては、水道水基準の、例えばpH5.8~8.6のものが好適に用いられる。
【0021】
図1(a)に、病原菌3の一例を模式的に示す。一般に、病原菌3は、染色体を含む核4およびタンパク質等を含む細胞質5を有する原形質、原形質を覆う例えば二重の細胞膜6,7、および、細胞膜6,7を覆う細胞壁8等を有する。細胞壁8に多量の脂質あるいはタンパク質等の保護物質を含む病原菌3は、その多量の保護物質によって保護されているために消毒液が細胞壁8を通過しにくく、消毒液に対する耐性効果つまり抵抗性が高く、消石灰や塩素剤等の劇薬の消毒液でないと消毒効果が弱い一方で、劇薬の消毒液は環境負荷が大きい。このような病原菌3の一例として、特に牛、羊、山羊等の反芻動物や野生鳥獣における感染性腸炎(ヨーネ病)の原因菌としての抗酸菌であるヨーネ菌は、現在のところ有効なワクチンや治療薬もなく、飼育環境を清浄に保ったり、動物の感染を早期発見して隔離したりする等の対策が取られているものの、その効果が十分とは言えない。
【0022】
そこで、本実施の形態による病原菌の消毒方法は、当該病原菌3に対して、まず、
図1(a)に示すように、アルカリ性液を含む第一液1を十分量接触させることで、病原菌3の細胞壁8に含まれる保護物質を溶かして除去し、抵抗性を低下させる第一工程と、
図1(b)に示すように、この第一工程において第一液(アルカリ性液)1を接触させてから所定時間以上経過した後の病原菌3に対してさらに酸性液又は中性液を含む第二液2を接触させることで、消毒(殺菌)する第二工程と、を含む。つまり、「所定時間」は、病原菌3に応じて設定される時間であり、病原菌3の細胞壁8に含まれる保護物質を所定以上取り除くのに必要な、例えば数十秒~数分、例えば5分以下の予め決められた時間とする。なお、第二工程については、第二液2を接触させた病原菌3に対して、第一工程よりも短時間で、基本的に瞬時に殺菌、消毒効果が生じる。
【0023】
このように、アルカリ性液を用いて細胞壁8に含まれる脂質等の保護物質を除去して保護物質による消毒に対する耐性効果を低下させた病原菌3に対して、酸性液又は中性液を用いて消毒をすることにより、毒性が低く、少ない環境負荷で当該病原菌3を効果的に消毒できる。特に、酸性液は、保護物質が除去された病原菌3の細胞膜6,7を透過し、内部の核4、タンパク質、膜輸送系等を酸化作用により破壊し細胞を分断するので、中性液よりも病原菌3の消毒効果が大きい。
【0024】
また、「所定時間」は、数分以下の予め決められた時間であるため、短時間での消毒が可能になる。例えば、施設等の広範囲を消毒する場合等、アルカリ性液の接触開始から範囲全体への接触が終了するまでの時間が所定時間以上掛かる消毒対象であれば、第一工程が終了した時点で、最初にアルカリ性液を接触させた部分から順次病原菌3の細胞壁8に含まれる保護物質の除去が進んでいるので、実質的に待機時間が生じることなくそのまま第二工程に移行することが可能になる。
【0025】
また、第一液1に含まれるアルカリ性液と第二液2に含まれる酸性液とは、塩化ナトリウム水溶液あるいは塩酸等の被電解水を電気分解する同一の電解装置での電気分解反応によって陰極側と陽極側とにそれぞれアルカリ性電解水および次亜塩素酸水として製造し別個に取り出すことができるため、消毒剤の製造が容易で、安価な消毒剤を提供できる。第二液2に中性液を含むものを用いる場合でも、中性液は、同一の電解装置での電気分解反応によって製造されたアルカリ性電解水と酸性電解水との混合により中性電解水として容易に製造できるため、消毒剤の製造が容易で、安価な消毒剤を提供できる。
【0026】
特に、アルカリ性電解水および次亜塩素酸水を、無塩型又は低塩型の電解水とすることで、消毒に使用した後の消毒液による塩害を防止できる。
【0027】
そして、上記の消毒剤は、第一液1および第二液2のそれぞれについて、ヒトや動物への毒性が低く、環境負荷が小さいため、例えば畜産農場において、手指、衣服、靴、物品、車両、施設等の定期的な消毒・除菌処理に利用しやすく、踏込消毒槽や施設内の洗浄、散布、あるいは病原菌の住処である土や堆肥に対して噴霧する等して好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 第一液
2 第二液
3 病原菌
8 細胞壁