IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 樫山工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水封式真空ポンプおよびインペラ 図1
  • 特開-水封式真空ポンプおよびインペラ 図2
  • 特開-水封式真空ポンプおよびインペラ 図3
  • 特開-水封式真空ポンプおよびインペラ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053284
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】水封式真空ポンプおよびインペラ
(51)【国際特許分類】
   F04C 25/02 20060101AFI20240408BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240408BHJP
   F04C 19/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F04C25/02 P
F04C29/00 D
F04C19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159429
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】591255689
【氏名又は名称】樫山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 慎矢
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA07
3H129AA17
3H129AB06
3H129BB21
3H129BB41
3H129CC05
(57)【要約】
【課題】キャビテーションの発生を抑制できる形状を備えた水封式真空ポンプのインペラを提供すること。
【解決手段】水封式真空ポンプ1のインペラ10は、円筒状のハブ20の円形外周面21から放射状に延びる複数枚の板状の羽根30を備えている。羽根30におけるインペラ回転方向Rを向く羽根前面31は、羽根幅方向Wの中心を頂点とし、当該頂点から羽根幅方向Wの両側に向かうに連れて、インペラ回転方向Rの反対側に徐々に後退している凸面形状をしている。羽根前面31に沿ってインペラ半径方向の外方に向かう封水の流れの一部を羽根幅方向Wに徐々に逃がすことができる。これにより、羽根先端の封水の流速変化が抑制されインペラ回転時における封水の最大差圧を低減できる。よって、キャビテーションの発生を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水封式真空ポンプのインペラであって、
ハブを中心として当該ハブの外周面から放射状に延びる複数枚の板状の羽根を備えており、
前記羽根におけるインペラ回転方向を向く羽根前面は、インペラ中心軸線に沿った方向である羽根幅方向において、前記羽根幅方向の中心を頂点とし、当該頂点から前記羽根幅方向の両側に向かうに連れて、前記インペラ回転方向とは反対側に徐々に後退している凸面形状をしていることを特徴とする水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項2】
請求項1において、
前記羽根前面の凸面形状は凸曲面によって規定されている水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項3】
請求項1において、
前記羽根は、前記インペラ回転方向とは反対側に凸となるように湾曲した一定幅の湾曲板形状をしている水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項4】
請求項1において、
前記羽根における前記インペラ回転方向とは反対側の羽根後面は、前記羽根幅方向において、前記インペラ中心軸線に平行な面によって規定されており、
前記羽根の板厚は、前記羽根幅方向の中心において最も厚く、当該羽根幅方向の両側に向けて漸減している水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項5】
請求項4において、
前記羽根におけるインペラ半径方向の外方を向いている羽根先端面と前記羽根前面とが交差する羽根先端前側角部は、フィレットあるいは面取りが施された前側傾斜面となっており、
前記羽根先端面と前記羽根後面とが交差する羽根先端後側角部は、フィレットあるいは面取りが施された後側傾斜面となっており、
前記前側傾斜面の幅に比べて前記後側傾斜面の幅が狭い水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項6】
請求項1において、
前記ハブにおける隣接する一対の前記羽根の間において、半径方向に貫通して延びるねじ装着穴と、
前記ねじ装着穴に装着して前記ハブをポンプ回転軸に締結固定するための六角穴付き止めねじと、
を備えている水封式真空ポンプのインペラ。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれか一つの項に記載のインペラを、1つまたは、複数備えていることを特徴とする水封式真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水封式真空ポンプに関し、更に詳しくは、水封式真空ポンプにおいてキャビテーションの発生を抑制するのに適した形状のインペラに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、水封式真空ポンプ100は、ポンプ本体110および電動機120から構成されており、ポンプ本体110は、円筒形のケーシング130、ケーシング130の内部において偏心した位置に配置したポンプ回転軸140およびポンプ回転軸140に同軸に取り付けたインペラ150(羽根車)を備えている。また、ケーシング130における電動機120とは反対側の端に、円盤状のポートプレート160を挟み取り付けたカバーユニット170等を備えている。インペラ150は放射状に延びる複数枚の板状の羽根151を備えている。カバーユニット170には、気体の吸入口171、吐出口172および水等の封液の給水口173が形成されており、ポートプレート160には、吸入口171に連通する吸入ポート161および吐出口172に連通する吐出ポート162が形成されている。
【0003】
公知のように、水封式真空ポンプ100において、インペラ150を回転させると、ケーシング内の水が遠心力によってケーシングの円形内周面に沿って円環状の水膜180を形成する。水膜180と、隣接する一対の羽根151との間に、それぞれ、密閉空間が形成され、インペラ150の回転に伴って隣接する羽根の間の密閉空間の容積が変化して、気体の吸込、圧縮、排出が繰り返される。
【0004】
水封式真空ポンプにおいて、インペラが高速回転することにより液体の流れが加速されて圧力が液体の飽和蒸気圧まで低下するとキャビテーションが発生し、圧力が回復すると(高くなると)、キャビテーションが消滅(崩壊)する。キャビテーションの発生・消滅に起因してポンプ性能の低下、振動・騒音の発生、インペラ表面等における壊食の発生などの弊害が引き起こされる。
【0005】
キャビテーションの発生を抑制あるいは防止するために、特許文献1(実開平5-7987号公報)においては、インペラの羽根先端部における回転方向の前側の角を傾斜面とすることが提案されている。特許文献2(実開昭58-70496号公報)においては、給水口を改良することにより、キャビテーションの発生を減らすようにした水封式ポンプが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5-7987号公報
【特許文献2】実開昭58-70496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来において、水封式真空ポンプにおけるキャビテーションの抑制あるいは防止に適したインペラ形状の改良については、特許文献1に記載されているように羽根先端部の角の面取りを行うこと以外は着目されておらず、また、具体的な形状についても提案されていない。
【0008】
本発明の目的は、キャビテーションの発生を抑制するために、ポンプ室内の最大差圧を小さくできるようにした水封式真空ポンプのインペラ、および当該インペラを備えた水封式真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水封式真空ポンプのインペラは、
ハブを中心として当該ハブの外周面から放射状に延びる複数枚の板状の羽根を備えており、
羽根におけるインペラ回転方向を向く羽根前面は、
インペラ中心軸線に沿った方向である羽根幅方向において、羽根幅方向の中心を頂点とし、当該頂点から羽根幅方向の両側に向かうに連れて、インペラ回転方向とは反対側に徐々に後退している凸面形状をしていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、インペラの各羽根の羽根前面は、当該羽根前面に衝突する封水を羽根幅方向の両側に向けて徐々に逃がすことのできる凸面形状をしている。これにより、羽根先端における封水の流速変化が抑制され、インペラ回転時における封水の最大差圧を低減できる。これにより、キャビテーションの発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は本発明を適用した水封式真空ポンプのポンプ本体を示す説明図、(B)はインペラを示す斜視図である。
図2】(A)はインペラの1枚の羽根を示す部分斜視図、(B)はインペラ中心軸線の方向から見た場合の1枚の羽根を示す部分側面図、(C)は羽根をC-C線で切断した場合の横断面図、(D)はD-D線で切断した場合の縦断面図である。
図3】(A)~(F)はインペラの正面図、背面図、左側面図、右側面図、背面図、平面図および底面図である。
図4】(A)は従来の水封式真空ポンプの一部を分解した状態で示す説明図、(B)はポンプ本体を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したインペラを備えた水封式真空ポンプの実施の形態を説明する。実施の形態に係るインペラは、本発明の一例を示すものであり、本発明を当該インペラに限定することを意図したものではない。また、水封式真空ポンプの基本構成は、一般的な水封式真空ポンプ、例えば図4に示す水封式真空ポンプ100と同様であるので、本発明に関連する部分のみを説明し、それ以外の部分の説明は省略する。
【0013】
図1に示すように、水封式真空ポンプ1のポンプ本体2は、円筒形のケーシング3、ケーシング3の内部において偏心した位置に配置したポンプ回転軸4、ポンプ回転軸4に同軸に取り付けたインペラ10(羽根車)を備えている。インペラ10は、ポンプ回転軸4に締結固定される円筒状のハブ20およびハブ20の円形外周面から放射状に延びる複数枚の板状の羽根30を備えている。ケーシング3に取り付けたカバーユニット5には、気体の吸入口6、吐出口7および封水の給水口(図示せず)が形成されており、ケーシング3の内部には、吸入口6に連通する吸入ポート8および吐出口7に連通する吐出ポート9が開口している。
【0014】
図1、2を参照して、インペラ10の羽根30について説明する。インペラ10の羽根30は、ハブ20の円形外周面21から一定の角度間隔でインペラ半径方向の外方に延びている。本例では等角度間隔で16枚の羽根30が配置されている。羽根30の枚数は16枚に限定されるものではない。各羽根30は、インペラ中心軸線10a(ポンプ中心軸線)に沿った方向である羽根幅方向Wに一定の幅で、ハブ20の円形外周面21からインペラ半径方向である羽根長さ方向に湾曲状に延びる湾曲板形状をしている。羽根30は、インペラ半径方向の外方に向かって直線状に延びる平板形状とすることも可能である。各羽根30は、インペラ回転方向Rを向く羽根前面31、インペラ回転方向Rとは反対側を向く羽根後面32、羽根幅方向W(インペラ中心軸線10aに沿った方向)の両側の羽根側面33、34およびインペラ半径方向の外方を向く羽根先端面35によって規定される。
【0015】
インペラ回転方向Rを向く羽根前面31は、図2(C)にその横断面を示すように、羽根幅方向Wにおいて、当該羽根幅方向Wの中心31aを頂点とし、両側に向かってインペラ回転方向Rとは反対側に徐々に後退する凸面形状をしている。本例の羽根前面31は、羽根幅方向Wの中心31aを頂点とする左右対称な一定の曲率の凸曲面形状をしている。羽根前面31の形状は凸曲面に限定されるものではない。羽根幅方向Wの中心31aを頂点とする左右対称な複合曲面(曲率の異なる曲面を滑らかに繋げた曲面)によって規定される凸曲面形状、中心31aを頂点とする左右対称な傾斜平面によって規定される扁平なV字形状でもよい。また、羽根幅方向Wの中心31aを含む中央部分がインペラ回転方向に突出する凸曲面等によって規定され、両側の部分が羽根幅方向Wに延びる平面によって規定される断面形状を採用することも可能である。
【0016】
これに対して、インペラ回転方向Rの反対側を向く羽根30の羽根後面32は、図2(C)に示すように、羽根幅方向Wにおいては、インペラ中心軸線10aに平行な平面によって規定されている。羽根後面32として、羽根前面31と相似な凹曲面形状、逆V字形状等とすることも可能である。本例のように羽根後面32を平面によって規定すると、ケーシング3の円形内周面3aに対峙する羽根先端面35におけるインペラ回転方向とは反対側の羽根先端後側角部36(羽根後面32と羽根先端面35との交差部)が、羽根幅方向Wにおいて円形内周面3aに平行になる。ケーシング3と羽根30の先端のクリアランスの測定、管理を確実かつ精度良く行うことができる。
【0017】
各羽根30は、図2(B)に示すように、羽根長さ方向においては湾曲板形状をしている。すなわち、各羽根30は、ハブ20の円形外周面21から羽根長さ方向に沿って、インペラ回転方向Rとは反対側が凸となる湾曲板形状をしている。すなわち、インペラ中心軸線10aに直交する直交面で切断した場合の羽根30の縦断面形状は、図2(D)に示すように、羽根前面31が凹曲面によって規定され、羽根後面32が同一曲率の凸曲面によって規定されている。
【0018】
このように、本例の羽根30の羽根前面31は、羽根幅方向Wにおいてはインペラ回転方向Rに凸、羽根長さ方向においてはインペラ回転方向に凹の複合曲面によって規定されている。これに対して、羽根後面32は、羽根幅方向Wにおいては平面(曲率が零)、羽根長さ方向においてはインペラ回転方向に凹の曲面によって規定されている。また、羽根30は、羽根長さ方向の各位置において同一の横断面形状をしており、板厚は、羽根幅方向Wの中心31aにおいて最も厚く、羽根幅方向の両側に向けて漸減し、両側の羽根側面33、34において最も薄い。
【0019】
次に、各羽根30の羽根先端面35はインペラ半径方向の外方を向く平面によって規定されており、ケーシング3の円形内周面3aとの間に一定のクリアランスが形成される。羽根先端面35と羽根前面31とが交差する羽根先端前側角部37は、一定幅で羽根幅方向にフィレット掛けが施されて、前側傾斜曲面となっている。同様に、羽根先端面35と羽根後面32とが交差する羽根先端後側角部36は、フィレット掛けが施されて後側傾斜面となっている。本例では、羽根先端前側角部37の側において広幅でフィレット掛けが施されて広幅の前側傾斜曲面が形成され、羽根先端後側角部36においては、前側傾斜曲面よりも細幅のフィレット掛けが施されて細幅の後側傾斜曲面が形成されている。本例ではフィレット掛けを行っているが、面取りを行って、前側傾斜平面、後側傾斜平面を形成してもよい。この場合においても、前側傾斜平面を広幅とし、後側傾斜平面を細幅とする。
【0020】
一方、各羽根30において、羽根幅方向の両側の縁部、すなわち、羽根前面31と羽根側面33、34のそれぞれとの交差縁、羽根後面32と羽根側面33、34のそれぞれとの交差縁、および、羽根先端面35と羽根側面33、34のそれぞれとの間の交差縁には、それぞれ、C面取り加工が施される。羽根30の両側の端と、これらに対峙するケーシング3の側面との間に所定のシール性を確保できるように、C面取りの加工幅をなるべく小さくすることが望ましい。
【0021】
なお、本例のインペラ10は六角穴付き止めねじによってポンプ回転軸4に締結固定されている。図1に示すように、インペラ10のハブ20の中心穴はキー溝付きの軸穴22となっており、ここに、ポンプ回転軸4が同軸に挿入される。ハブ20には、ハブ20の円形外周面21から軸穴22の内周面に至る半径方向に貫通して延びる複数、例えば一対のねじ穴23が形成されている。ねじ穴23に装着される六角穴付き止めねじ(図示せず)によって、インペラ10がポンプ回転軸4に締結固定される。止めねじを用いてインペラ10を回転軸4に取り付ける締結構造を採用すると、締結部分の部品点数の削減、組立工数の削減、組立作業の簡素化を実現でき、製造コストの削減に有利である。
【0022】
このように構成された羽根30を備えたインペラ10が組み込まれた水封式真空ポンプ1において、電動機(図示せず)を駆動してポンプ回転軸4を回転すると、ポンプ回転軸4と共にインペラ10が回転する。ケーシング3内において、封水が遠心力によってケーシング3の円形内周面3aに沿って円環状の水膜50を形成する。水膜50と、隣接する一対の羽根30との間に、それぞれ、三日月形の密閉空間が形成される。インペラ10の回転に伴って隣接する羽根30の間の密閉空間の容積が変化して、気体の吸入、圧縮、排出が繰り返される。
【0023】
ケーシング3内を高速回転するインペラ10の各羽根30によって生じる遠心力によって、内部の封水には、インペラ回転方向Rを向く羽根前面31に沿ってインペラ半径方向の外方および羽根幅方向W(インペラ中心軸線10aの方向)に高速流が形成される。羽根前面31は、羽根幅方向Wの中心31aを頂点とし、両側に向かってインペラ回転方向Rとは反対側に徐々に後退する凸曲面形状をしている。よって、羽根前面31に衝突する封水の流れにおけるインペラ半径方向の外方に向かう流れの一部が、羽根前面31を規定している凸曲面に案内されて羽根幅方向の中央側から羽根幅方向Wの両側に向かう。封水の半径方向の外方への流れの一部を羽根幅方向に逃がすことができるので、羽根前面31が羽根幅方向において平面の場合、インペラ回転方向とは反対側に凹の凹曲面の場合に比べて、封水に生じる最大差圧を低減できる。これにより、キャビテーションの発生を抑制できるので、キャビテーションの発生に起因する弊害を回避あるいは低減できる。
【0024】
羽根30における羽根後面32は、羽根幅方向Wにおいてはインペラ中心軸線10aに平行な平面によって規定されている。羽根30の横断面形状は、羽根幅方向の中央において厚さが最も厚く、両側に向かって厚さ漸減する形状となっている。羽根幅方向に厚さが一定で、断面積が同一の平板状の羽根と比べて、断面二次モーメントを大きくでき、したがって折れにくい羽根30を実現できる。この結果、インペラ半径方向に直線状に延びる平板状の羽根の場合には、その幅方向の一方の端に補強用のリブ等を形成して剛性を確保する必要があるが、本例の羽根30は、そのようなリブを形成しなくても、十分な剛性を確保でき、羽根幅方向に左右対称な断面形状の羽根30を実現できるので、羽根30に沿った封水の流れが左右非対称になることがなく、左右方向に均一な流れを形成できる。これも、封水に生じる最大差圧を低減でき、キャビテーションの発生防止に有効である。
【0025】
また、各羽根30は、その長さ方向においては、インペラ回転方向Rの前側が凹となる湾曲板形状をしている。羽根30を、インペラ回転方向Rに凹の湾曲板形状とすることにより、遠心力によりインペラ半径方向の外方に向かう封水の流速を、インペラ半径方向に直線状に延びる平板形状の羽根を用いる場合に比べて低減できる。これによっても、封水の流速を低減できるので、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0026】
さらに、各羽根30における羽根先端前側角部37にはフィレット掛けによる広幅の傾斜曲面が形成されている。羽根先端前側角部37を広幅の傾斜曲面とすることで、羽根30の羽根前面31に沿ってインペラ半径方向の外方に流れてケーシング3の円形内周面3aの側に衝突する封水の流速変化を、傾斜曲面が付いていない場合に比べて緩和することができる。これにより、封水の流速変化による最大差圧を低減でき、キャビテーションの発生を抑制できる。また、本例では、羽根先端後側角部36にも傾斜曲面が形成されている。羽根先端前側角部37が広幅の傾斜曲面であるのに対して、羽根先端後側角部36の傾斜曲面を、それよりも細幅、例えば、幅が半分以下の細幅の傾斜曲面としている。このように、羽根先端におけるインペラ回転方向Rの前後の角を傾斜曲面とすると共に、前側の傾斜曲面を広幅とすることで、同一幅の傾斜曲面を形成する場合に比べて、封水の流速変化を低減でき、キャビテーションの発生がより抑制される。
【0027】
なお、羽根30の幅寸法、長さ寸法、羽根前面31の凸面の曲率あるいはインペラ回転方向への突出量、羽根30の長さ方向の湾曲形状の曲率、曲がり量などは、個々の設計条件に応じて適宜設定されるべきものである。例えば、設計において、CFD(数値流体力学)解析を行い、羽根30の羽根前面31の寸法、枚数、羽根幅方向の凸面形状、インペラ半径方向の湾曲形状等を設定することができる。
【0028】
また、本発明のインペラは、ポンプ回転軸に2つ、あるいは3以上の複数のインペラが取り付けられた構成の2段型あるいは多段型の水封式真空ポンプにも適用可能なことは勿論である。この場合には、各段のインペラのそれぞれに本発明のインペラを用いることができる。または、複数のインペラのうちの一部のインペラを本発明のインペラとし、残りのインペラには既存の形状のインペラを用いることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 水封式真空ポンプ
2 ポンプ本体
3 ケーシング
3a 円形内周面
4 ポンプ回転軸
5 カバーユニット
6 吸入口
7 吐出口
8 吸入ポート
9 吐出ポート
10 インペラ
10a インペラ中心軸線
20 ハブ
21 円形外周面
22 軸穴
23 ねじ穴
30 羽根
31 羽根前面
31a 中心
32 羽根後面
33 羽根側面
34 羽根側面
35 羽根先端面
36 羽根先端後側角部
37 羽根先端前側角部
50 水膜
W 羽根幅方向
R インペラ回転方向
図1
図2
図3
図4