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特開2024-53305分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053305
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/18 20060101AFI20240408BHJP
   G01J 3/36 20060101ALI20240408BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/36
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159474
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘康
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 創太
【テーマコード(参考)】
2G020
2H249
【Fターム(参考)】
2G020CB02
2G020CC06
2G020CC11
2G020CC46
2G020CC63
2G020CD06
2H249AA07
2H249AA37
2H249AA44
2H249AA50
2H249AA58
(57)【要約】
【課題】小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することを可能にする分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】分光素子10は、基板2によって構成されている。基板2は、表面21と、裏面22と、入射孔23と、回折格子構造6と、を含んでいる。表面21には、入射光L1が入射する。入射孔23は、表面21に開口している。回折格子構造6は、入射孔23の側面の少なくとも一部に形成されている。回折格子構造6は、入射孔23に入射した入射光L1を分光する。回折格子構造6は、基板2に直接的に形成され且つZ軸方向に沿って並んでいる複数の凹部61を含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板によって構成された分光素子であって、
前記シリコン基板は、
入射光が入射する表面と、
前記表面とは反対側の裏面と、
前記表面に開口する入射孔と、
前記入射孔の側面の少なくとも一部に形成され、前記入射孔に入射した前記入射光を分光する回折格子構造と、を含み、
前記回折格子構造は、前記シリコン基板に直接的に形成され且つ前記入射孔の深さ方向に沿って並んでいる複数の凹部を含む、分光素子。
【請求項2】
前記入射孔は、前記表面及び前記裏面の両方に開口している、請求項1に記載の分光素子。
【請求項3】
前記入射孔は、前記表面に開口する表側領域と、前記裏面に開口する裏側領域と、を含み、
前記回折格子構造は、前記裏側領域に形成されており、
前記表側領域の幅は、前記裏側領域の幅よりも小さい、請求項2に記載の分光素子。
【請求項4】
前記入射孔は、前記表面には開口しており、前記裏面には開口していない、請求項1に記載の分光素子。
【請求項5】
前記回折格子構造は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔の前記側面の全周に亘って形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の分光素子。
【請求項6】
請求項1に記載の分光素子と、
前記回折格子構造によって分光された光を検出する光検出素子と、を備える、分光器。
【請求項7】
前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔の前記側面のうち前記回折格子構造が形成された領域に交差する第1方向に沿って並んでいる複数の第1画素を含む、請求項6に記載の分光器。
【請求項8】
前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記第1方向に沿って並んでいる複数の第2画素を更に含み、
前記複数の第2画素のそれぞれは、前記深さ方向から見た場合に、前記第1方向に交差する第2方向において前記複数の第1画素のそれぞれと隣り合っており、
前記複数の第1画素のそれぞれは、第1スリットを含む第1マスクを有し、
前記複数の第2画素のそれぞれは、第2スリットを含む第2マスクを有し、
前記第2方向において互いに隣り合う前記第1マスク及び前記第2マスクにおいて、前記第1方向における前記第1スリットの位置は、前記第1方向における前記第2スリットの位置と異なっている、請求項7に記載の分光器。
【請求項9】
前記分光素子と前記光検出素子とは、互いに固定されている、請求項6に記載の分光器。
【請求項10】
前記入射孔は、前記深さ方向から見た場合に、矩形状、三角形状又は円形状を呈している、請求項6に記載の分光器。
【請求項11】
前記入射孔は、前記表面及び前記裏面の両方に開口しており、
前記光検出素子は、前記裏面に対して前記表面とは反対側に配置され、前記回折格子構造によって分光され前記入射孔における前記裏面側の開口から出射した光を検出する、請求項6に記載の分光器。
【請求項12】
前記入射孔は、前記表面に開口する表側領域と、前記裏面に開口する裏側領域と、を含み、
前記回折格子構造は、前記裏側領域に形成されており、
前記表側領域の幅は、前記裏側領域の幅よりも小さい、請求項11に記載の分光器。
【請求項13】
前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔と重なっていない、請求項11に記載の分光器。
【請求項14】
前記シリコン基板との間に前記光検出素子が配置される内部空間が形成されるように前記シリコン基板と一体化されたベース基板を更に備え、
前記光検出素子は、前記ベース基板に作り込まれている、請求項11に記載の分光器。
【請求項15】
前記光検出素子は、前記表面に対して前記裏面とは反対側に配置され、前記回折格子構造によって分光され前記入射孔における前記表面側の開口から出射した光を検出する、請求項6に記載の分光器。
【請求項16】
前記入射孔は、前記表面には開口しており、前記裏面には開口していない、請求項15に記載の分光器。
【請求項17】
前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔と重なっていない、請求項15に記載の分光器。
【請求項18】
シリコン基板を用意する第1工程と、
前記シリコン基板のうち入射光が入射する表面に開口する入射孔を形成する第2工程と、を備え、
前記第2工程では、前記入射孔の側面の少なくとも一部に、前記入射孔の深さ方向に沿って並んでいる複数の凹部を含み且つ前記入射孔に入射した前記入射光を分光する回折格子構造を形成し、
前記第2工程では、前記回折格子構造をボッシュプロセスによって前記シリコン基板に直接的に形成する、分光素子の製造方法。
【請求項19】
前記第2工程では、前記シリコン基板における前記表面とは反対側の裏面側から前記入射孔を形成する、請求項18に記載の分光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分光器として、入射光が入射する入射孔と、入射孔から離れている回折格子とを備える分光器が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような分光器では、入射孔を通過した入射光が、回折格子によって分光された後、光検出器によって検出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004‐108781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような分光器には、小型化が求められる場合がある。しかし、分光器が小型化されるほど、入射孔と回折格子とのアライメントがシビアになる傾向にある。そのため、アライメント精度の確保が難しくなる結果、分光精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することを可能にする分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の分光素子は、[1]「シリコン基板によって構成された分光素子であって、前記シリコン基板は、入射光が入射する表面と、前記表面とは反対側の裏面と、前記表面に開口する入射孔と、前記入射孔の側面の少なくとも一部に形成され、前記入射孔に入射した前記入射光を分光する回折格子構造と、を含み、前記回折格子構造は、前記シリコン基板に直接的に形成され且つ前記入射孔の深さ方向に沿って並んでいる複数の凹部を含む、分光素子」である。
【0007】
[1]に記載の分光素子では、入射光を分光する回折格子構造が、入射孔の側面の少なくとも一部に形成されている。つまり、入射孔が、入射光の入射の機能及び入射光の分光の機能の両方を兼ね備えている。これにより、例えば回折格子構造が入射孔から離れている場合に比べ、分光素子の小型化を図ることができる。また、回折格子構造が入射孔の側面に形成されているため、回折格子構造と入射孔とのアライメントが不要となる。これにより、分光精度の低下を抑制することができる。したがって、この分光素子によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明の分光素子は、[2]「前記入射孔は、前記表面及び前記裏面の両方に開口している、上記[1]に記載の分光素子」であってもよい。この構成によれば、光検出素子が、裏面に対して表面とは反対側に配置されている場合に、入射光以外の環境光がシリコン基板によって遮られるため、環境光がノイズとして光検出素子へ入射するのを抑制することができる。
【0009】
本発明の分光素子は、[3]「前記入射孔は、前記表面に開口する表側領域と、前記裏面に開口する裏側領域と、を含み、前記回折格子構造は、前記裏側領域に形成されており、前記表側領域の幅は、前記裏側領域の幅よりも小さい、上記[2]に記載の分光素子」であってもよい。この構成によれば、表側領域の幅が裏側領域の幅よりも小さいため、環境光がノイズとしてシリコン基板の表面側から光検出素子へ入射するのを抑制することができる。また、環境光が表面側から光検出素子へ入射するのが抑制されるため、裏側領域のアスペクト比を比較的小さくすることができる。これにより、入射光の多重反射に起因する光損失を抑制することができる。
【0010】
本発明の分光素子は、[4]「前記入射孔は、前記表面には開口しており、前記裏面には開口していない、上記[1]に記載の分光素子」であってもよい。この構成によれば、光検出素子が、表面に対して裏面とは反対側に配置されている場合に、回折格子構造によって分光され入射孔における表面側の開口から出射した偏光依存性の少ない光を検出することができる。
【0011】
本発明の分光素子は、[5]「前記回折格子構造は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔の前記側面の全周に亘って形成されている、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の分光素子」であってもよい。この構成によれば、入射光の入射方向の自由度を高めることができる。
【0012】
本発明の分光器は、[6]「上記[1]に記載の分光素子と、前記回折格子構造によって分光された光を検出する光検出素子と、を備える、分光器」である。
【0013】
[6]に記載の分光器によれば、上述したように、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる。
【0014】
本発明の分光器は、[7]「前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔の前記側面のうち前記回折格子構造が形成された領域に交差する第1方向に沿って並んでいる複数の第1画素を含む、上記[6]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、各第1画素に対応する周波数範囲の光を検出することで、入射光の分光スペクトルを得ることができる。
【0015】
本発明の分光器は、[8]「前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記第1方向に沿って並んでいる複数の第2画素を更に含み、前記複数の第2画素のそれぞれは、前記深さ方向から見た場合に、前記第1方向に交差する第2方向において前記複数の第1画素のそれぞれと隣り合っており、前記複数の第1画素のそれぞれは、第1スリットを含む第1マスクを有し、前記複数の第2画素のそれぞれは、第2スリットを含む第2マスクを有し、前記第2方向において互いに隣り合う前記第1マスク及び前記第2マスクにおいて、前記第1方向における前記第1スリットの位置は、前記第1方向における前記第2スリットの位置と異なっている、上記[7]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、第2方向において互いに隣り合う第1画素及び第2画素のそれぞれによって、略同一の周波数範囲の光を検出することができる。しかも、第1方向における第1スリットの位置は、第1方向における第2スリットの位置と異なっているため、第1方向における各画素の幅よりも狭いレベルで、波長分解能を高めることができる。
【0016】
本発明の分光器は、[9]「前記分光素子と前記光検出素子とは、互いに固定されている、上記[6]~[8]のいずれか一つに記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、分光素子と光検出素子との位置ずれを抑制すると共に分光器の小型化を図ることができる。
【0017】
本発明の分光器は、[10]「前記入射孔は、前記深さ方向から見た場合に、矩形状、三角形状又は円形状を呈している、上記[6]~[9]のいずれか一つに記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、様々な方向において入射光を分光することができ、光検出素子の配置の自由度を高めることができる。
【0018】
本発明の分光器は、[11]「前記入射孔は、前記表面及び前記裏面の両方に開口しており、前記光検出素子は、前記裏面に対して前記表面とは反対側に配置され、前記回折格子構造によって分光され前記入射孔における前記裏面側の開口から出射した光を検出する、上記[6]~[10]のいずれか一つに記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、入射光以外の環境光がシリコン基板によって遮られるため、環境光がノイズとして光検出素子へ入射するのを抑制することができる。
【0019】
本発明の分光器は、[12]「前記入射孔は、前記表面に開口する表側領域と、前記裏面に開口する裏側領域と、を含み、前記回折格子構造は、前記裏側領域に形成されており、前記表側領域の幅は、前記裏側領域の幅よりも小さい、上記[11]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、表側領域の幅が裏側領域の幅よりも小さいため、環境光がノイズとしてシリコン基板の表面側から光検出素子へ入射するのを抑制することができる。また、環境光が表面側から光検出素子へ入射するのが抑制されるため、裏側領域のアスペクト比を比較的小さくすることができる。これにより、入射光の多重反射に起因する光損失を抑制することができる。
【0020】
本発明の分光器は、[13]「前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔と重なっていない、上記[11]又は[12]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、回折格子構造によって分光されずに入射孔を通過した入射光が光検出素子へ入射するのを抑制することができる。
【0021】
本発明の分光器は、[14]「前記シリコン基板との間に前記光検出素子が配置される内部空間が形成されるように前記シリコン基板と一体化されたベース基板を更に備え、前記光検出素子は、前記ベース基板に作り込まれている、上記[11]~[13]のいずれか一つに記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、光検出素子がベース基板に作り込まれているため、例えば光検出素子がベース基板に対して取り付けられている場合に比べ、分光器の小型化を図ることができる。また、光検出素子がシリコン基板とベース基板との間の内部空間に配置されているため、光検出素子への環境光等の入射及び内部空間への異物等の侵入を抑制することができる。
【0022】
本発明の分光器は、[15]「前記光検出素子は、前記表面に対して前記裏面とは反対側に配置され、前記回折格子構造によって分光され前記入射孔における前記表面側の開口から出射した光を検出する、上記[6]~[10]のいずれか一つに記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、回折格子構造によって反射された光がノイズとして光検出素子へ入射するのを抑制することができる。
【0023】
本発明の分光器は、[16]「前記入射孔は、前記表面には開口しており、前記裏面には開口していない、上記[15]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、回折格子構造によって分光され入射孔における表面側の開口から出射した偏光依存性の少ない光を検出することができる。
【0024】
本発明の分光器は、[17]「前記光検出素子は、前記深さ方向から見た場合に、前記入射孔と重なっていない、上記[15]又は[16]に記載の分光器」であってもよい。この構成によれば、入射孔への入射光の入射が光検出素子によって妨げられるのを抑制することができる。
【0025】
本発明の分光素子の製造方法は、[18]「シリコン基板を用意する第1工程と、前記シリコン基板のうち入射光が入射する表面に開口する入射孔を形成する第2工程と、を備え、前記第2工程では、前記入射孔の側面の少なくとも一部に、前記入射孔の深さ方向に沿って並んでいる複数の凹部を含み且つ前記入射孔に入射した前記入射光を分光する回折格子構造を形成し、前記第2工程では、前記回折格子構造をボッシュプロセスによって前記シリコン基板に直接的に形成する、分光素子の製造方法」である。
【0026】
[18]に記載の分光素子の製造方法では、入射孔を形成する第2工程において、入射光を分光する回折格子構造が、ボッシュプロセスによって入射孔の側面の少なくとも一部に直接的に形成される。つまり、入射光の入射の機能及び入射光の分光の機能の両方を兼ね備えた入射孔が同一の工程で形成される。これにより、例えば回折格子構造が入射孔から離れている場合に比べ、分光素子の小型化を図ることができる。また、回折格子構造が入射孔の側面に形成されるため、回折格子構造と入射孔とのアライメントが不要となる。これにより、分光精度の低下を抑制することができる。したがって、この分光素子の製造方法によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる分光素子を製造することが可能となる。
【0027】
本発明の分光素子の製造方法は、[19]「前記第2工程では、前記シリコン基板における前記表面とは反対側の裏面側から前記入射孔を形成する、上記[18]に記載の分光素子の製造方法」であってもよい。これにより、入射孔のうちの表面側の部分に比べ、入射孔のうちの裏面側の部分において、回折格子構造を精度よく形成することができる。そのため、表面側から入射孔に入射した入射光を入射孔のうちの裏面側の部分に形成された回折格子構造によって精度よく分光することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することを可能にする分光素子、分光器、及び分光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態の分光器の断面図である。
図2図1に示される分光器の平面図である。
図3図1に示される入射孔の断面図である。
図4図1に示される光検出素子の平面図である。
図5図1に示される分光器によって検出された分光スペクトルの模式図である。
図6図1に示される分光器の製造方法のフローチャートである。
図7図1に示される分光器の製造方法の各工程を示す図である。
図8】変形例の分光器を示す図である。
図9】変形例の分光器を示す図である。
図10】変形例の分光器を示す図である。
図11】変形例の分光器を示す図である。
図12】変形例の分光器を示す図である。
図13】変形例の分光器の製造方法の各工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
[分光器の構成]
図1及び図2に示されるように、分光器1は、分光素子10と、基板(ベース基板)3と、スペーサ4と、光検出素子5と、を備えている。分光素子10は、基板2を有している。分光素子10は、基板2によって構成されている。基板2は、板状を呈している。基板2は、Z軸方向(基板2の厚さ方向)から見た場合に、例えば矩形状を呈している。基板2は、表面21と、裏面22と、入射孔23と、を含んでいる。表面21には、入射光L1が入射する。裏面22は、基板2における表面21とは反対側の面である。基板2の厚さは、例えば数百μm~数千μm程度である。基板2の材料は、シリコンである。つまり、基板2は、シリコン基板である。
【0032】
入射孔23は、表面21及び裏面22の両方に開口している。つまり、入射孔23は、Z軸方向において基板2を貫通している。入射孔23は、Z軸方向(入射孔23の深さ方向)から見た場合に、例えば矩形状を呈している。入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、Y軸方向に沿って延在している。つまり、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向(第1方向)を幅方向とすると共にY軸方向(第1方向に交差する第2方向)を長さ方向とする長方形状を呈している。
【0033】
基板3は、基板2の裏面22に対して表面21とは反対側に配置されている。基板3は、板状を呈している。基板3は、Z軸方向(基板3の厚さ方向)から見た場合に、例えば矩形状を呈している。基板3は、表面31と、裏面32と、を含んでいる。裏面32は、基板2の裏面22に対向している。表面31は、基板3における裏面32とは反対側の面である。Z軸方向から見た場合に、基板3の外縁は、基板2の外縁と略一致している。基板3の厚さは、例えば数百μm程度である。基板3の材料は、例えば、シリコン、石英又はセラミック等である。つまり、基板3は、例えば、シリコン基板、石英基板又はセラミック基板等である。基板3の材料は、例えば遮光性を有していることが好ましい。
【0034】
スペーサ4は、基板2と基板3との間に配置されている。スペーサ4は、板状を呈している。スペーサ4は、Z軸方向(スペーサ4の厚さ方向)から見た場合に、例えば矩形枠状を呈している。Z軸方向から見た場合に、スペーサ4の外縁は、基板2及び基板3のそれぞれの外縁と略一致している。基板2の裏面22、基板3の裏面32及びスペーサ4の内面41は、分光器1の内部空間Sを画定している。スペーサ4は、例えば、樹脂接合、熱接合又はプラズマ接合等の種々の接合方法によって、基板2及び基板3のそれぞれに固定されている。樹脂接合の場合には、例えば遮光性を有する樹脂が用いられることが好ましい。このように、基板2と基板3とは、スペーサ4のような支持部材を介して、互いに固定されている。基板3は、基板2との間に光検出素子5が配置される内部空間Sが形成されるように基板2と一体化されている。スペーサ4の厚さは、例えば数百μm程度である。スペーサ4の材料は、例えば遮光性を有することが好ましい。スペーサ4の材料は、例えば、シリコン、石英又はセラミック等である。つまり、スペーサ4は、例えば、シリコン基板、石英基板又はセラミック基板等である。スペーサ4の内面41又は外側面には、遮光膜が形成されていてもよい。
【0035】
光検出素子5は、基板2の裏面22に対して表面21とは反対側に配置されている。光検出素子5は、基板3の裏面32に設けられている。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23と重なっていていない。具体的には、光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向(入射孔23の幅方向)における入射孔23の中心Cと重なっていない。光検出素子5は、入射孔23の中心Cに対してX軸方向における一方側に配置されている。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、後述する表側領域231と重なっていない。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、後述する裏側領域232と重なっていない。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23の全体と重なっていない。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23から離れている。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、裏側領域232の一部と重なっていてもよい。光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、表側領域231の一部と重なっていてもよい。
【0036】
光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、X軸及びY軸のそれぞれに沿って並んでいる複数の画素50を含んでいる。画素50は、例えばフォトダイオード等である。光検出素子5は、例えばフォトダイオードアレイチップである。画素50は、基板3の裏面32に作り込まれている。基板3の内部には、画素50の信号読み出し回路が形成されている。基板2によって構成された分光素子10と基板3に作り込まれた光検出素子5とは、スペーサ4を介して互いに固定されている。つまり、分光素子10と光検出素子5とは、チップ化されている。
【0037】
次に、入射孔23について詳細に説明する。図2及び図3に示されるように、入射孔23は、表側領域231と、裏側領域232と、を含んでいる。表側領域231は、入射孔23のうち表面21に開口する部分である。裏側領域232は、入射孔23のうち裏面22に開口する部分である。表側領域231と裏側領域232とは、互いに連通している。表側領域231における表面21側の開口は、入射孔23における表面21側の開口23aを構成する。裏側領域232における裏面22側の開口は、入射孔23における裏面22側の開口23bを構成する。表側領域231の深さ(Z軸方向における表側領域231の長さ)H1は、裏側領域232の深さ(Z軸方向における裏側領域232の長さ)H2よりも小さい。深さH1は、例えば1μm~50μm程度である。深さH2は、例えば100μm~1000μm程度である。
【0038】
表側領域231及び裏側領域232のそれぞれは、Y軸方向に沿って延在している。Y軸方向における表側領域231の長さは、Y軸方向における裏側領域232の長さと同じである。Y軸方向における表側領域231の両端は、Y軸方向における裏側領域232の両端と一致している。表側領域231の幅(X軸方向における表側領域231の長さ)D1は、裏側領域232の幅(X軸方向における裏側領域の長さ)D2よりも小さい。幅D1は、幅D2の1/2以下である。幅D1は、例えば1μm~50μm程度である。幅D2は、例えば100μm~1000μm程度である。X軸方向における表側領域231の中心は、X軸方向における裏側領域232の中心と略一致している。
【0039】
基板2は、回折格子構造6を含んでいる。回折格子構造6は、入射孔23の側面の少なくとも一部に形成されている。回折格子構造6は、入射孔23の周方向において入射孔23の側面の少なくとも一部に形成されている。回折格子構造6は、裏側領域232に形成されている。回折格子構造6は、裏側領域232の側面の少なくとも一部に形成されている。回折格子構造6は、裏側領域232の周方向において裏側領域232の側面の少なくとも一部に形成されている。本実施形態では、回折格子構造6は、裏側領域232の側面の全領域に形成されている。つまり、本実施形態では、回折格子構造6は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23の側面の全周に亘って形成されている。
【0040】
回折格子構造6は、スキャロップ(Scallop)のような微小な凹凸構造である。具体的には、回折格子構造6は、複数の凹部(溝)61を含んでいる。凹部61は、裏側領域232の周方向に沿って延在している。複数の凹部61は、Z軸方向に沿って並んでいる。凹部61の深さは、例えば10nm~100nm程度である。Z軸方向における凹部61の幅は、例えば50nm~1000nm程度である。Z軸方向において互いに隣接する凹部61の間のピッチdは、例えば50nm~1000nm程度である。
【0041】
複数の凹部61(回折格子構造6)は、基板2に直接的に形成されている。すなわち、複数の凹部61は、基板2の一部である。複数の凹部61は、基板2の一部を除去することによって形成されている。複数の凹部61は、基板2の部分的な除去によって露出した基板2の表面によって構成されている。複数の凹部61は、例えば基板2に形成された層に形成されていない。複数の凹部61は、基板2と別体的に形成されていない。複数の凹部61は、基板2に対してボッシュプロセスを施すことによって形成されている。回折格子構造6の形状は、表面21から裏面22に向かうに従って均一になる。具体的には、凹部61間のピッチdは、表面21から裏面22に向かうに従って均一になる。凹部61の深さは、表面21から裏面22に向かうに従って均一になる。
【0042】
回折格子構造6は、入射孔23に入射した入射光L1を分光する。具体的には、入射光L1は、表面21に対して入射される。入射光L1は、表側領域231を通過した後、裏側領域232の側面に到達する。入射光L1は、裏側領域232のうち表面21よりも裏面22に近い部分の側面において反射されると共に分光される。裏側領域232の側面で反射された光L2は、開口23bから内部空間Sへ向かって出射する。回折格子構造6によって分光された光L3は、開口23bから光検出素子5へ向かって出射する。これにより、光検出素子5は、光L3を検出する。入射光L1の入射角(入射光L1が裏側領域232の側面の法線Nに対して成す角度)をαとし、入射光L1の回折角(光L3が法線Nに対して成す角度)をβとし、凹部61間のピッチをdとし、光L3の波長をλとすると、式d(sinα-sinβ)=mλが成立する。ただし、mは整数である。
【0043】
入射光L1の入射角αの範囲は、表側領域231のアスペクト比(表側領域231の深さH1を表側領域231の幅D1で除した値)によって規定される。入射角αは、表側領域231のアスペクト比が大きくなるほど大きくなる傾向にある。例えば、深さH1を比較的大きくし、又は幅D1を比較的小さくすることによって、入射角αを大きくすることができる。裏側領域232の側面のうち入射光L1の照射範囲(裏側領域232の側面のうち入射光L1が反射されると共に分光される位置の範囲)は、表側領域231のアスペクト比によって規定される。入射光L1の照射範囲は、表側領域231のアスペクト比が大きくなるほど裏面22に近くなる傾向にある。例えば、幅D1を比較的小さくすることによって、入射光L1の照射範囲を裏面22に近づけることができる。本実施形態では、幅D1が幅D2の1/2以下であるため、入射光L1を裏面22に近い部分に容易に照射させることができる。
【0044】
回折格子構造6の表面には、保護膜7が形成されている。保護膜7の材料は、例えばAl(酸化アルミニウム)又はPt(白金)等である。保護膜7は、例えば、原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)によって形成されている。保護膜7は、回折格子構造6の凹部61が埋もれない程度(回折格子構造6の分光機能を損ねない程度)の薄膜である。保護膜7の厚さは、凹部61の深さよりも小さい。このような構成によれば、入射孔23に入射した入射光L1が基板2によって吸収されるのを抑制することができ、分光効率を向上させることができる。
【0045】
表側領域231の側面は、プレーナプロセスによって平坦化されている。表側領域231の側面は、凹凸をほぼ含んでいない。これにより、仮に入射光L1が表側領域231の側面に入射したとしても、入射光L1が表側領域231の側面で分光されるのを抑制することができる。換言すると、表側領域231は、分光の機能を有しておらず、アパーチャとして機能する。
【0046】
次に、光検出素子5について詳細に説明する。図4に示されるように、光検出素子5は、画素50として、XY面において二次元マトリックス状に配置されている画素51,52,53を含んでいる。具体的には、光検出素子5は、複数の画素(第1画素)51、複数の画素(第2画素)52及び複数の画素(第3画素)53を含んでいる。複数の画素51は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向(入射孔23の側面のうち回折格子構造6が形成された領域に交差する方向)に沿って並んでいる。複数の画素52は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向に沿って並んでいる。複数の画素53は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向に沿って並んでいる。画素52は、Z軸方向から見た場合に、画素51と画素53との間に配置されている。
【0047】
光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、光検出領域50a,50b,50cを含んでいる。各光検出領域50a,50b,50cは、Z軸方向から見た場合に、Y軸方向に沿って並んでいる画素51、画素52及び画素53を含んでいる。各光検出領域50a,50b,50cにおいて、画素51,52,53は、Y軸方向において互いに隣り合っている。光検出領域50bは、Z軸方向から見た場合に、光検出領域50aに対して入射孔23とは反対側に配置されている。光検出領域50cは、Z軸方向から見た場合に、光検出領域50bに対して光検出領域50aとは反対側に配置されている。
【0048】
画素51は、マスク(第1マスク)511を有している。マスク511は、フォトダイオードの表面を覆っている。マスク511は、スリット(第1スリット)512を含んでいる。スリット512は、Y軸方向に沿って延在している。スリット512は、Y軸方向におけるマスク511の両端に至っている。画素52は、マスク(第2マスク)521を有している。マスク521は、フォトダイオードの表面を覆っている。マスク521は、スリット(第2スリット)522を含んでいる。スリット522は、Y軸方向に沿って延在している。スリット522は、Y軸方向におけるマスク521の両端に至っている。画素53は、マスク(第3マスク)531を有している。マスク531は、フォトダイオードの表面を覆っている。マスク531は、スリット(第3スリット)532を含んでいる。スリット532は、Y軸方向に沿って延在している。スリット532は、Y軸方向におけるマスク531の両端に至っている。
【0049】
各光検出領域50a,50b,50cにおいて、スリット512,522,532は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向において互いに異なる位置に形成されている。具体的には、Y軸方向において互いに隣り合うマスク511,521,531において、X軸方向におけるスリット512の位置、X軸方向におけるスリット522の位置、及びX軸方向におけるスリット532の位置は、互いに異なっている。より具体的には、各光検出領域50a,50b,50cにおいて、スリット522は、Z軸方向から見た場合に、スリット512に対して入射孔23とは反対側に位置している。各光検出領域50a,50b,50cにおいて、スリット532は、Z軸方向から見た場合に、スリット522に対してスリット512とは反対側に位置している。
【0050】
図5は、分光器1によって検出された分光スペクトルTの模式図である。図5に示されるように、光検出領域50a,50b,50cは、互いに異なる周波数範囲内の光L3を検出する。具体的には、光検出領域50aは、周波数範囲F1内の光L3を検出する。光検出領域50bは、周波数範囲F2内の光L3を検出する。光検出領域50cは、周波数範囲F3内の光L3を検出する。
【0051】
各光検出領域50a,50b,50cにおいて、各画素51,52,53は、互いに異なる周波数を有する光L3を検出する。具体的には、光検出領域50aの画素51は、周波数範囲F1内の周波数F11を有する光L3を検出する。光検出領域50aの画素52は、周波数範囲F1内の周波数F12を有する光L3を検出する。光検出領域50aの画素53は、周波数範囲F1内の周波数F13を有する光L3を検出する。光検出領域50bの画素51は、周波数範囲F2内の周波数F21を有する光L3を検出する。光検出領域50bの画素52は、周波数範囲F2内の周波数F22を有する光L3を検出する。光検出領域50bの画素53は、周波数範囲F2内の周波数F23を有する光L3を検出する。光検出領域50cの画素51は、周波数範囲F3内の周波数F31を有する光L3を検出する。光検出領域50cの画素52は、周波数範囲F3内の周波数F32を有する光L3を検出する。光検出領域50cの画素53は、周波数範囲F3内の周波数F33を有する光L3を検出する。このように、光検出素子5によれば、分光スペクトルTの波長分解能を高めることができる。
【0052】
以上説明したように、分光素子10では、入射光L1を分光する回折格子構造6が、入射孔23の側面の少なくとも一部に形成されている。つまり、入射孔23が、入射光L1の入射の機能及び入射光L1の分光の機能の両方を兼ね備えている。これにより、例えば回折格子構造6が入射孔23から離れている場合に比べ、分光素子10の小型化を図ることができる。また、回折格子構造6が入射孔23の側面に形成されているため、回折格子構造6と入射孔23とのアライメントが不要となる。これにより、分光精度の低下を抑制することができる。したがって、分光素子10によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる。同様に、分光器1によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる。また、回折格子構造6は、シリコン基板である基板2に直接的に形成されているため、分光素子10をシリコンプロセスによって製造することができ、分光素子10の量産性を向上させることができる。また、入射光L1が裏側領域232の側面で多重反射される場合には、S偏光の反射率がP偏光の反射率よりも大きいため、開口23bから出射されるP偏光に比べ、開口23bから出射されるS偏光の量が大きくなる。これにより、S偏光を選別して検出することができる。
【0053】
回折格子構造6は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23の側面の全周に亘って形成されている。この構成によれば、入射光L1の入射方向の自由度を高めることができる。
【0054】
光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向に沿って並んでいる複数の画素50を含んでいる。この構成によれば、各画素50に対応する周波数範囲の光L3を検出することで、入射光L1の分光スペクトルを得ることができる。
【0055】
光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、X軸方向に沿って並んでいる複数の画素51、X軸方向に沿って並んでいる複数の画素52、及びX軸方向に沿って並んでいる複数の画素53を含んでいる。各画素51,52,53は、Z軸方向から見た場合に、Y軸方向において互いに隣り合っている。画素51は、スリット512を含むマスク511を有している。画素52は、スリット522を含むマスク521を有している。画素53は、スリット532を含むマスク531を有している。Y軸方向において互いに隣り合うマスク511,521,531において、X軸方向におけるスリット512,522,532の位置は、互いに異なっている。この構成によれば、Y軸方向において互いに隣り合う各画素51,52,53によって、略同一の周波数範囲の光L3を検出することができる。しかも、X軸方向におけるスリット512,522,532の位置は、互いに異なっているため、X軸方向における各画素51,52,53の幅よりも狭いレベルで、波長分解能を高めることができる。このような効果は、分光器1の小型化に起因して光路長が短くなった結果、波長分解能が低下した場合に特に有効である。
【0056】
分光素子10と光検出素子5とは、互いに固定されている。この構成によれば、分光素子10と光検出素子5との位置ずれを抑制すると共に分光器1の小型化を図ることができる。
【0057】
入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、矩形状を呈している。この構成によれば、入射孔23の側面のうち回折格子構造6が形成された領域に交差する方向(X軸方向)において入射光L1を分光することができる。
【0058】
入射孔23は、表面21及び裏面22の両方に開口している。光検出素子5は、基板2の裏面22に対して表面21とは反対側に配置されている。光検出素子5は、回折格子構造6によって分光され入射孔23における裏面22側の開口23bから出射した光L3を検出する。この構成によれば、入射光L1以外の環境光が基板2によって遮られるため、環境光がノイズとして光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。
【0059】
入射孔23は、表面21に開口する表側領域231と、裏面22に開口する裏側領域232と、を含んでいる。回折格子構造6は、裏側領域232に形成されている。表側領域231の幅D1は、裏側領域232の幅D2よりも小さい。この構成によれば、表側領域231の幅D1が裏側領域232の幅D2よりも小さいため、環境光がノイズとして基板2の表面21側から光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。また、環境光が表面21側から光検出素子5へ入射するのが抑制されるため、裏側領域232のアスペクト比(裏側領域232の深さH2を裏側領域232の幅D2で除した値)を比較的小さくすることができる。これにより、入射光L1の多重反射に起因する光損失及び入射光L1の多重反射に起因する偏光依存性を抑制することができる。また、入射光L1は、裏側領域232のうち表面21よりも裏面22に近い部分(回折格子構造6の形状が比較的均一な部分)で反射されるため、入射光L1の高精度な分光を実現することができる。
【0060】
光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23と重なっていない。この構成によれば、回折格子構造6によって分光されずに入射孔23を通過した入射光L1が光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。
【0061】
分光器1は、基板3を備えている。基板3は、基板2との間に光検出素子5が配置される内部空間Sが形成されるように基板2と一体化されている。光検出素子5は、基板3に作り込まれている。この構成によれば、光検出素子5が基板3に作り込まれているため、例えばディスクリートの光検出素子が基板3に対して取り付けられている場合に比べ、分光器1の小型化を図ることができる。また、光検出素子5が基板2と基板3との間の内部空間Sに配置されているため、光検出素子5への迷光等の入射を抑制することができる。また、内部空間Sは、基板2の裏面22、基板3の裏面32及びスペーサ4の内面41によって画定されているため、内部空間Sへの異物(例えばほこり等)等の侵入を抑制することができる。
【0062】
[分光素子の製造方法]
次に、分光素子10の製造方法について説明する。図6及び図7の(a)に示されるように、まず、基板2が用意される(ステップS1、第1工程)。続いて、図7の(b)に示されるように、基板2に入射孔23が形成される(ステップS2,第2工程)。ステップS2では、入射孔23の側面の少なくとも一部に、回折格子構造6が形成される。具体的には、ステップS2では、まず、回折格子構造6を含む裏側領域232が基板2の裏面22側から形成される。
【0063】
裏側領域232は、ボッシュプロセスによって基板2に直接的に形成される。ボッシュプロセスは、等方性エッチング、保護膜の形成、及び異方性エッチング(保護膜の除去)の各ステップを繰り返すエッチング技術である。エッチングガスは、例えばSF等である。保護膜は、例えばC等である。裏側領域232は、裏面22に形成される。つまり、エッチングガスは、裏面22側から導入される。この場合、入射孔23の深さが大きくなるに従って、エッチングガスが入射孔23へ入り難くなる結果、エッチングの制御が難しくなる傾向にある。そのため、回折格子構造6の形状は、裏面22から表面21に向かうに従って不均一になる傾向にある。つまり、回折格子構造6の形状は、裏面22に近いほど均一である。
【0064】
図7の(c)に示されるように、ステップS2では、表側領域231が形成される。表側領域231は、例えばプレーナプロセスによって形成される。続いて、保護膜7が、例えば原子層堆積法によって回折格子構造6の表面に形成される。上記の各工程は、基板2によって構成された分光素子10(図1参照)の製造方法に相当する。続いて、分光素子10と光検出素子5とが一体化される(ステップS3)。光検出素子5は、基板3に予め作り込まれている。ステップS3では、基板2の裏面22及び基板3の裏面32のそれぞれにスペーサ4が固定される。これにより、分光素子10と光検出素子5との一体化が実施される。上記の各工程は、分光素子10を備える分光器1(図1参照)の製造方法に相当する。なお、光検出素子5は、配線電極(図示省略)を備えている。
【0065】
以上説明したように、分光素子10の製造方法では、入射孔23を形成するステップS2において、入射光L1を分光する回折格子構造6が、ボッシュプロセスによって入射孔23の側面の少なくとも一部に直接的に形成される。つまり、入射光L1の入射の機能及び入射光L1の分光の機能の両方を兼ね備えた入射孔23が同一の工程で形成される。これにより、例えば回折格子構造6が入射孔23から離れている場合に比べ、分光素子10の小型化を図ることができる。また、回折格子構造6が入射孔23の側面に形成されるため、回折格子構造6と入射孔23とのアライメントが不要となる。これにより、分光精度の低下を抑制することができる。したがって、分光素子10の製造方法によれば、小型化を図ると共に分光精度の低下を抑制することができる分光素子10を製造することが可能となる。
【0066】
ステップS2では、基板2の裏面22側から入射孔23が形成される。これにより、基板2の表面21及び裏面22の両方に開口する入射孔23のうちの表面21側の部分に比べ、入射孔23のうちの裏面22側の部分において、回折格子構造6を精度よく形成することができる。そのため、表面21側から入射孔23に入射した入射光L1を入射孔23のうちの裏面22側の部分に形成された回折格子構造6によって精度よく分光することができる。
【0067】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されない。図8に示されるように、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、例えばZ軸方向に平行な軸線Bを中心とした周方向に沿って延在していてもよい。つまり、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、例えば半円環状を呈していてもよい。この場合、光検出素子5は、1つの画素50を含んでいてもよい。この構成によれば、所定の周波数範囲内の光L3を軸線B近傍に集光することができる。これにより、光検出素子5によって検出される信号であって、当該所定の周波数範囲内の光L3に対応する信号を増大させることができる。
【0068】
図9に示されるように、基板2は、Y軸方向において並んでいる複数の入射孔23を含んでいてもよい。この構成によれば、実施形態の分光器1と同様に、分光スペクトルTの波長分解能を高めることができる。また、この構成によれば、光検出素子5の画素位置に対応して複数の入射孔23のそれぞれを配置することで、光検出素子5の各画素に入射する光以外の光の内部空間Sへの侵入を抑制することができる。これにより、内部空間Sにおける光の多重反射に起因する迷光の発生を抑制することができる。
【0069】
図10に示されるように、基板2が複数の入射孔23を含んでいる場合、各入射孔23の幅は、互いに異なっていてもよい。各入射孔23の回折格子構造の凹部間のピッチは、異なっていてもよい。この構成によれば、各入射孔23における回折角が異なるため、各入射孔23に対応して光検出素子5を配置することができ、光検出素子5の配置の自由度を高めることができる。
【0070】
入射孔23は、例えば光透過性を有する樹脂等によって充填されていてもよい。これによれば、内部空間Sを封止することで、比較的繊細な回折格子構造6を保護するだけではなく、内部空間Sへの異物(例えばほこり等)等の侵入を確実に抑制することができる。この場合、内部空間Sには、窒素等の不活性ガスが充填されていてもよい。また、複数の入射孔23のうち、一部の入射孔23(測定に使用しない入射孔23)は、遮光性を有する樹脂等の遮蔽部材によって遮蔽されていてもよい。これにより、当該一部の入射孔23を介しての入射光L1の透過を抑制することができる。また、各入射孔23の回折格子構造の凹部間のピッチが異なっている場合には、所望の回折角で分光される光を得ることができる。
【0071】
図11の(a)に示されるように、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、例えば円形状を呈していてもよい。この場合、入射孔23の側面のうち回折格子構造6が形成された領域に交差する第1方向は、当該領域の曲線上における法線に平行な方向である。図11の(b)に示されるように、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、例えば三角形状を呈していてもよい。図11の(c)に示されるように、入射孔23は、Z軸方向から見た場合に、例えば正方形状(矩形状)を呈していていもよい。これらの構成によれば、様々な方向において入射光L1を分光することができ、光検出素子5の配置の自由度を高めることができる。
【0072】
図12に示されるように、光検出素子5は、基板2の表面21に対して裏面22とは反対側に配置されていてもよい。この場合、光検出素子5は、回折格子構造6によって分光され入射孔23における表面21側の開口23aから出射した光L3を検出する。入射孔23は、表側領域231を含んでいなくてもよい。入射光L1の入射角(入射光L1が入射孔23の側面の法線Nに対して成す角度)をαとし、入射光L1の回折角(光L3が法線Nに対して成す角度)をβとし、凹部61間のピッチをdとし、光L3の波長をλとすると、式d(sinα+sinβ)=mλが成立する。ただし、mは整数である。この構成によれば、回折格子構造6によって反射された光L2がノイズとして光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。また、光L3が開口23aから出射するため、入射光L1が入射孔23の側面で多重反射したとしても、光検出素子5の検出結果において、多重反射に起因する偏光依存性の影響を抑制することができる。また、この場合においても、光検出素子5は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23と重なっていなくてもよい。この構成によれば、入射孔23への入射光L1の入射が光検出素子5によって妨げられるのを抑制することができる。また、この場合においては、入射孔23は、裏面22に開口していなくてもよい。つまり、入射孔23は、基板2を貫通していなくてもよい。この構成によれば、回折格子構造6によって分光され入射孔23における表面21側の開口23aから出射した偏光依存性の少ない光L3を検出することができる。光検出素子5が表面21に対して裏面22とは反対側に配置されている場合においても、入射孔23は、基板2を貫通していてもよい。この場合、入射孔23内部で多重反射した光L3が裏面22側の開口から出射するため、多重反射した光L3がノイズとして光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。
【0073】
光検出素子5が裏面22に対して表面21とは反対側に配置されている場合においても、入射孔23は、表側領域231を含んでいなくてもよい。この場合、入射孔23のアスペクト比(入射孔23の深さを入射孔23の幅で除した値)を比較的大きくすることで、環境光がノイズとして光検出素子5へ入射するのを抑制することができる。
【0074】
内部空間Sは、光透過性を有する樹脂等の封止部材によって封止されていてもよい。この場合、分光精度の確保のため、当該封止樹脂内には気泡が存在しないことが好ましい。
【0075】
基板2と基板3とは、スペーサ4に代えて、その他の支持部材を介して、互いに固定されていてもよい。基板2と基板3とは、直接的に固定されていてもよい。具体的には、基板2と基板3とは、基板2及び基板3の少なくとも一方に形成された凹部が内部空間Sとなるように、互いに接合されていてもよい。基板2又は基板3の凹部は、例えばエッチング等によって形成されていてもよい。また、分光器1は、スペーサ4に代えて、光透過性を有し且つ矩形板状を呈するスペーサ基板(例えばガラス基板等)を備えていてもよい。この場合、基板2と基板3との間には、内部空間が形成されていない。スペーサ基板は、Z軸方向から見た場合に、入射孔23及び光検出素子5と重なるように、基板2と基板3との間に設けられている。この場合、スペーサ基板の外面には遮光膜が形成されていることが好ましい。
【0076】
入射孔23の幅は、表面21から裏面22に向かうに従って変化していてもよい。入射孔23の幅は、表面21から裏面22に向かうに従って増加又は減少していてもよい。
【0077】
光検出素子5が入射孔23の中心Cに対してX軸方向における一方側に配置されているため、基板2、基板3及びスペーサ4のうち、中心Cに対してX軸方向における他方側の部分は、形成されていなくてもよい。この構成によれば、X軸方向における分光器1の更なる小型化を図ることができる。
【0078】
光検出素子5が入射孔23の中心Cに対してX軸方向における一方側に配置されている例を示したが、光検出素子5は、入射孔23の中心Cに対してX軸方向における他方側に更に配置されていてもよい。また、光検出素子5は、Y軸方向における入射孔23の中心に対してY軸方向における一方側及び他方側の少なくとも一方に更に配置されていてもよい。これらの構成によれば、入射光L1の入射方向の自由度を高めることができる。換言すると、Z軸方向から見た場合に、いずれの方向から入射した入射光L1に対応する光L3も検出することができる。
【0079】
光検出素子5が基板3に作り込まれている例を示したが、光検出素子5は、例えば、基板3に対して取り付けられていてもよい。基板3には、基板3とは別に製造された光検出素子5が配置されていてもよい。この場合、光検出素子5は、例えば、フォトダイオードチップ、リニアタイプ(1Dタイプ)又はエリアタイプ(2Dタイプ)のフォトダイオードアレイチップであってもよい。この構成によれば、光検出素子5が基板3に作り込まれていないため、光検出素子5を作り込むための工程を省略することができ、分光器1の製造工程を簡略化することができる。
【0080】
表側領域231の側面がプレーナプロセスによって平坦化されている例を示したが、表側領域231は、裏側領域232と同様に、ボッシュプロセスによって形成されていてもよい。この場合、同一のプロセスにより表側領域231及び裏側領域232の両方を形成することができ、製造工程の簡略化を図ることができる。なお、表側領域231の深さH1が十分に小さい場合には、たとえ表側領域231の側面がボッシュプロセスによって形成され、これにより、表側領域231の側面に回折格子構造が形成されたとしても、表側領域231の側面で回折される光量が少ないため、表側領域231での分光を抑制することができる。また、ボッシュプロセスの1サイクルあたりの長さを短くすることで深さH1を小さくすることができ、これにより、回折を抑制することができる。
【0081】
分光器1の製造方法において、表側領域231が裏側領域232の形成後に形成される例を示したが、表側領域231は、裏側領域232の形成前に形成されてもよい。具体的には、図13の(a)に示されるように、実施形態と同様に、まず、基板2が用意される。続いて、図13の(b)に示されるように、表側領域231が基板2の表面21側から形成される。続いて、図13の(c)に示されるように、回折格子構造6を含む裏側領域232が基板2の裏面22に形成される。このような場合には、回折格子構造6を含む裏側領域232が表側領域231よりも後に形成されるため、表側領域231の加工時の影響に起因して、分光の機能の確保するうえで重要な回折格子構造6の形状等に変化が生じるのを抑制することができる。これにより、高精度な分光素子10を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1…分光器、2…基板(シリコン基板)、5…光検出素子、6…回折格子構造、10…分光素子、21…表面、22…裏面、23…入射孔、23a,23b…開口、50…画素、51…画素(第1画素)、52…画素(第2画素)、61…凹部、231…表側領域、232…裏側領域、511…マスク(第1マスク)、512…スリット(第1スリット)、521…マスク(第2マスク)、522…スリット(第2スリット)、L1…入射光、L3…光。
図1
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