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特開2024-53310輝度分布推定装置及び輝度分布推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053310
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】輝度分布推定装置及び輝度分布推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/42 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
G01J1/42 K
G01J1/42 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159486
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 規敏
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩明
(72)【発明者】
【氏名】常岡 優吾
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 貴司
(72)【発明者】
【氏名】高井 勇志
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA02
2G065AA11
2G065AA15
2G065BA05
2G065BA06
2G065BC13
(57)【要約】
【課題】撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる輝度分布推定装置及び輝度分布推定プログラムを得る。
【解決手段】輝度分布推定装置10は、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得する第1取得部11Aと、第1輝度分布及び第1寄与行列を用いて、昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出する導出部11Bと、昼光が第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得する第2取得部11Cと、発光強度分布及び第2寄与行列を用いて、第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する推定部11Dと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得する第1取得部と、
前記第1輝度分布及び前記第1寄与行列を用いて、前記昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出する導出部と、
前記昼光が前記第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得する第2取得部と、
前記発光強度分布及び前記第2寄与行列を用いて、前記第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する推定部と、
を備えた輝度分布推定装置。
【請求項2】
前記第1取得部は、人工照明による照明光の調光率が100%である場合の前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第3寄与行列、及び前記調光率を更に取得し、
前記導出部は、前記第1輝度分布、前記第1寄与行列、前記第3寄与行列、及び前記調光率を用いて、前記発光強度分布を導出し、
前記第2取得部は、前記照明光が前記第2測定点に与える影響の大きさを示す第4寄与行列を更に取得し、
前記推定部は、前記発光強度分布、前記第2寄与行列、前記第4寄与行列、及び前記調光率を用いて、前記第2輝度分布を推定する、
請求項1に記載の輝度分布推定装置。
【請求項3】
予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得し、
前記第1輝度分布及び前記第1寄与行列を用いて、前記昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出し、
前記昼光が前記第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得し、
前記発光強度分布及び前記第2寄与行列を用いて、前記第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する、
処理をコンピュータに実行させるための輝度分布推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝度分布推定装置及び輝度分布推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
室内の光環境の形成においては、寄与の大きい窓から入射する外光の影響を適切、かつ、簡便に考慮することが重要であり、近年、輝度分布をカメラ等の撮影装置を用いて窓を含む領域の輝度分布を測定し、そこから算出される視環境の指標を基に、建物の照明やブラインド等を制御する手法がある。
【0003】
従来、建物の照明を制御するための技術として、次の技術があった。
【0004】
特許文献1には、窓面等のある照明空間において、在室者の感覚に適合した照明制御を行うことができるようにすることを目的とした照明制御システムが開示されている。
【0005】
この照明制御システムは、屋外との間に光が透過する窓面を設けた屋内の照明空間を照明する照明器具と、照明空間内で互いに異なる方向から人の視野内の画像を撮像する複数の撮像手段と、を備えている。また、この照明制御システムは、各撮像手段が撮像した画像内の輝度分布を測定する輝度分布測定手段と、各撮像手段が撮像した画像内の窓面の輝度を測定する窓面輝度演算手段と、を備えている。更に、この照明制御システムは、撮像手段が撮像した画像内に存在する人の視野方向を検出する視野方向検知手段と、当該検出された人の視野方向を撮像した画像内の輝度分布および窓面の輝度に基づいて照明器具を調光制御する制御手段と、を備えている。
【0006】
しかしながら、この技術では、複数の撮影装置を用いる必要がある。この場合、窓等の光源となる面は、見る角度によって輝度が大きく異なるため、人の視環境をよく代表する指標とするためには建物の利用者(執務者等)の視線位置に撮影装置を設置することが望ましいが、利用者の邪魔になるため設置位置が限られる。例えば、天井等から吊り下げることになり、視線位置から離れる。また、意匠性も悪く、利用者に対して監視されている心理的圧迫感を与える可能性もある。更に、利用者の視線毎に設置するには、費用がかかる。
【0007】
この問題を解決するために適用することができる技術として、特許文献2には、あらゆる方向に複数のカメラを設置する必要がなく、人にとって快適な照明空間が得られる照明制御ができるようにすることを目的とした照明制御システムが開示されている。
【0008】
この照明制御システムは、可視画像を取得する可視画像取得部と、人の視野領域が入力され、前記可視画像取得部が取得した前記可視画像を前記視野領域における人視点の可視画像に画像変換する視点変換部と、を備えている。また、この照明制御システムは、前記人視点の可視画像に基づいて前記視野領域の輝度分布を算出する輝度分布算出部と、前記輝度分布に基づいて照明器具の調光を制御する調光制御部と、前記可視画像取得部が取得した前記可視画像を撮影時刻と共に蓄積する画像蓄積部と、を備えている。更に、この照明制御システムは、前記可視画像取得部が取得した前記可視画像と前記画像蓄積部に蓄積された前記可視画像との中から前記撮影時刻が異なる複数の前記可視画像を抽出し、前記撮影時刻が異なる複数の前記可視画像に基づいて前記可視画像取得部が取得した前記可視画像を構成する複数の部分領域毎に散乱特性を推定する散乱特性推定部を備え、前記輝度分布算出部は、前記散乱特性に基づいて前記輝度分布を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-9874号公報
【特許文献2】特許第6863475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術では、ある位置において撮影された可視画像を人の視点による可視画像に変換しているため、上記撮影時に死角となった領域については輝度分布を得ることができない、という問題点があった。
【0011】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる輝度分布推定装置及び輝度分布推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明に係る輝度分布推定装置は、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得する第1取得部と、前記第1輝度分布及び前記第1寄与行列を用いて、前記昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出する導出部と、前記昼光が前記第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得する第2取得部と、前記発光強度分布及び前記第2寄与行列を用いて、前記第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する推定部と、を備えている。
【0013】
請求項1に記載の本発明に係る輝度分布推定装置によれば、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得し、第1輝度分布及び第1寄与行列を用いて、昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出し、昼光が第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得し、発光強度分布及び第2寄与行列を用いて、第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定することで、第2測定点での可視画像を用いる必要がなくなる結果、撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係る輝度分布推定装置は、請求項1に記載の輝度分布推定装置であって、前記第1取得部は、人工照明による照明光の調光率が100%である場合の前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第3寄与行列、及び前記調光率を更に取得し、前記導出部は、前記第1輝度分布、前記第1寄与行列、前記第3寄与行列、及び前記調光率を用いて、前記発光強度分布を導出し、前記第2取得部は、前記照明光が前記第2測定点に与える影響の大きさを示す第4寄与行列を更に取得し、前記推定部は、前記発光強度分布、前記第2寄与行列、前記第4寄与行列、及び前記調光率を用いて、前記第2輝度分布を推定するものである。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係る輝度分布推定装置によれば、人工照明による照明光の調光率が100%である場合の第1測定点に与える影響の大きさを示す第3寄与行列、及び当該調光率を更に取得し、第1輝度分布、第1寄与行列、第3寄与行列、及び上記調光率を用いて、発光強度分布を導出し、上記照明光が第2測定点に与える影響の大きさを示す第4寄与行列を更に取得し、上記発光強度分布、第2寄与行列、第4寄与行列、及び上記調光率を用いて第2輝度分布を推定することで、昼光に加えて人工照明が存在する場合における、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を、より高精度に推定することができる。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係る輝度分布推定プログラムは、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が前記第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得し、前記第1輝度分布及び前記第1寄与行列を用いて、前記昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出し、前記昼光が前記第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得し、前記発光強度分布及び前記第2寄与行列を用いて、前記第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0017】
請求項3に記載の本発明に係る輝度分布推定プログラムによれば、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得し、第1輝度分布及び第1寄与行列を用いて、昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出し、昼光が第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得し、発光強度分布及び第2寄与行列を用いて、第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定することで、第2測定点での可視画像を用いる必要がなくなる結果、撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る輝度分布推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る寄与行列の説明に供する図であり、光源が2つで、かつ、測定点が2箇所である場合における光の進行方向と測定点との組み合わせの一例を示す断面図である。
図3】実施形態に係る輝度分布推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る建物関連情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図5】実施形態に係る輝度分布情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図6】実施形態に係る輝度分布推定処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図8】従来の技術の説明に供する図であり、光源位置の離散化の一例として、マルチ・フェーズ法における直射日光の光源位置の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、本実施形態では、本発明を、予め定められた建物に設けられた部屋における、所望の位置を測定点とした場合の輝度分布を推定する輝度分布推定装置に適用した場合について説明する。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る輝度分布推定装置10の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る輝度分布推定装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。なお、輝度分布推定装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る輝度分布推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0023】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、輝度分布推定プログラム13A、及び物理照明シミュレーション・プログラム13Bが記憶されている。輝度分布推定プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。また、物理照明シミュレーション・プログラム13Bも、当該プログラム13Bが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記プログラム13Bの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、輝度分布推定プログラム13A、及び物理照明シミュレーション・プログラム13Bの各プログラムを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、当該各プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0024】
本実施形態では、物理照明シミュレーション・プログラム13Bとして既存のプログラムであるRadianceを適用している。但し、この形態に限るものではなく、物理照明シミュレーション・プログラム13Bとして、既存の同様の機能を有する他のプログラムや、専用のプログラムを適用する形態としてもよい。
【0025】
また、記憶部13には、建物関連情報データベース13C及び輝度分布情報データベース13Dが記憶される。建物関連情報データベース13C及び輝度分布情報データベース13Dについては、詳細を後述する。
【0026】
一方、通信I/F部18には、輝度分布の推定対象とする部屋(以下、「推定対象部屋」という。)に設けられた撮影装置30が接続されている。
【0027】
本実施形態では、撮影装置30として、推定対象部屋の天井面に従前から設けられている監視カメラが適用されている。これにより、推定対象部屋に対して新たな撮影装置を設ける必要がなくなるため、コストアップを招くことがなく、更に、新たに撮影装置を設置する場合に必要となる設置スペースを設ける必要もない。但し、この形態に限るものではなく、推定対象部屋に対して新たに専用の撮影装置30を設置する形態としてもよいことは言うまでもない。また、本実施形態では、撮影装置30としてカラー画像を撮影するものを適用しているが、これに限るものではない。例えば、モノクロ画像を撮影するものを撮影装置30として適用する形態としてもよい。
【0028】
本実施形態に係る輝度分布推定装置10では、昼光が測定点に与える影響の大きさを示す行列であり、従来既知の物理照明シミュレーション・プログラム(本実施形態では、物理照明シミュレーション・プログラム13B)によって得られる寄与行列を用いる。ここで、寄与行列について説明する。
【0029】
従来のRadiance等の物理照明シミュレーション・プログラムの利用において、昼光は天候や時刻によって計算結果が異なる。このため、その条件毎にシミュレーションを実行することになるが、この計算を高速に行うために、マルチ・フェーズ法(multi-phase method)がある。
【0030】
マルチ・フェーズ法では、予め、離散化した光源の基準強さ当たりの計算点別の計算結果行列(光源位置×計算点)を作成しておき、天候及び時刻に応じた光源の強さベクトル(光源位置)と積和することで、指定した天候及び時刻の条件下における計算点の結果を瞬時に得るようにしている。上記計算結果行列は、昼光が測定点に与える影響の大きさを示すものであり、この計算結果行列を寄与行列Mと呼ぶ。
【0031】
寄与行列Mの使われ方にはいくつかのバリエーションがある。例えば、光源を天空光と直射日光とした場合は、次の式(1)のように寄与行列と光源の発光強度分布を用いて測定点の測光量を算出することができる。式(1)における「Direct Daylight Coefficients」は直射昼光の寄与行列であり、「Sky Daylight Coefficients」は天空光の寄与行列である。また、式(1)における「Sun vecor」は直射昼光の発光強度分布であり、「Sky vecor」は天空光の発光強度分布であり、「sensor values」は測定点の測光量である。更に、式(1)におけるmは撮影装置のセンサにおける画素数(測定点数)であり、nは直射昼光及び天空光の発光強度分布の要素数である。
【0032】
【数1】
【0033】
図8に、光源位置の離散化の例として、マルチ・フェーズ法における直射日光の光源位置の例を示す(出典:「“Standard daylight coefficient model for dynamic daylighting simulations”、[online]、[令和4年9月18日検索]、インターネット<URL:https://www.researchgate.net/publication/228683789_Standard_daylight_coefficient_model_for_dynamic_daylighting_simulations>」)。実際の太陽は太い枠線の中のあらゆる位置を取り得るが、離散化し、+印の位置のみで計算点の値を求め、実際の太陽の位置に隣接する複数の光源位置(+印)の計算結果を加重平均する。この平均化処理によって、空間分解能(エッジの強さ)を犠牲にするが、物理量の正確さを担保している。なお、本明細書では、上記直射日光を「直射昼光」とも称する。
【0034】
図2は、本実施形態に係る寄与行列Mの説明に供する図であり、光源が2つで、かつ、測定点が2箇所である場合における光の進行方向と測定点との組み合わせの一例を示す断面図である。
【0035】
本実施形態に係る輝度分布推定装置10では、光源を窓面のみ、あるいはブラインド等の窓装置を有する窓面と見なして寄与行列Mを利用する。
【0036】
例えば、図2に示す例では、次の2つの方程式を立てることができる。なお、次の方程式におけるfijは基準強さの光源jが測定点iに与える照度であり、Lは光源jの発光強度であり、Eは測定点iの照度である。
【0037】
11×L+f21×L=E
【0038】
12×L+f22×L=E
【0039】
一例として図2に示すように、ある光源から出射された光が反射を繰り返して最終的に、ある測定点に到達して与える照度がfijであり、fijを一般化して行列化したものを寄与行列Mとしている。
【0040】
次に、図3を参照して、本実施形態に係る輝度分布推定装置10の機能的な構成について説明する。図3は、本実施形態に係る輝度分布推定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0041】
図3に示すように、本実施形態に係る輝度分布推定装置10は、第1取得部11A、導出部11B、第2取得部11C、及び推定部11Dを含む。輝度分布推定装置10のCPU11が輝度分布推定プログラム13Aを実行することで、第1取得部11A、導出部11B、第2取得部11C、及び推定部11Dとして機能する。
【0042】
本実施形態に係る第1取得部11Aは、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得する。なお、本実施形態では、第1輝度分布を、撮影装置30から取得する。また、本実施形態では、第1寄与行列を、物理照明シミュレーション・プログラム13Bを用いて取得する。
【0043】
また、本実施形態に係る導出部11Bは、取得した第1輝度分布及び第1寄与行列を用いて、昼光が入射する入射面(本実施形態では、窓面)における発光強度分布を導出する。
【0044】
なお、本実施形態に係る導出部11Bでは、一例として次に示す式(2)を用いて、発光強度分布を導出する。式(2)における「view matrix A」は第1寄与行列であり、「light vector」は発光強度分布であり、「sensor vector A」は第1輝度分布である。また、式(2)におけるmは撮影装置30のセンサにおける画素数(測定点数)であり、pは昼光の発光強度分布の要素数である。
【0045】
【数2】
【0046】
式(2)における右辺(第1輝度分布)は、撮影装置30による撮影によって得ることができる。また、式(2)における左辺の第1寄与行列は、事前の物理照明シミュレーション・プログラム13Bによるシミュレーションによって得ることができる。
【0047】
これにより、発光強度分布の要素数pが測定点数mより小さければ(p<mであれば)、p個の未知数である発光強度分布を求めることが理論上可能となる。
【0048】
即ち、本実施形態に係る輝度分布推定装置10では、式(2)における左辺の発光強度分布、即ち、最も不確実性が高く、影響力が大きい光源(窓面)の発光強度分布を未知数として、測定が比較的容易な測定点の測光量(第1輝度分布)を撮影装置30により取得する。そして、本実施形態に係る輝度分布推定装置10では、単位発光強度が当該測定点に与える影響の大きさを示す寄与行列(第1寄与行列)をシミュレーションによって取得することで、未知数である発光強度分布を最小二乗法等の従来既知の方法で導出する。
【0049】
一方、本実施形態に係る第2取得部11Cは、昼光が第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得する。そして、本実施形態に係る推定部11Dは、発光強度分布及び第2寄与行列を用いて、第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する。
【0050】
なお、本実施形態に係る推定部11Dでは、一例として次に示す式(3)を用いて、第2輝度分布を推定する。式(3)における「view matrix B」は第2寄与行列であり、「light vector」は式(2)によって導出した発光強度分布であり、「sensor vector B」は第2輝度分布である。
【0051】
【数3】
【0052】
即ち、導出部11Bによって発光強度分布が導出されれば、式(3)により、任意の測定点の寄与行列(第2寄与行列)を用いて、当該任意の測定点の測光量(第2輝度分布)を算出することができる。これにより、現地での測定が困難な測定点(例えば、執務者の視線位置からの窓面や天井面等)の測光量を推定することが可能となる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る輝度分布推定装置10では、式(2)及び式(3)を用いて、任意の測定点における輝度分布を推定している。
【0054】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cについて説明する。図4は、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cの構成の一例を示す模式図である。なお、建物関連情報データベース13Cは、本実施形態に係る輝度分布推定装置10が輝度分布の推定対象としている建物に関する情報が記憶されたデータベースである。
【0055】
図4に示すように、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cは、輝度分布推定装置10が取り扱い対象としている建物毎に、建物名称、建物位置情報、及び3次元CAD(Computer Aided Design)情報の各情報が関連付けられて記憶されている。
【0056】
上記建物名称は、対応する建物の名称を示す情報であり、上記建物位置情報は、対応する建物の建設位置を示す情報である。なお、本実施形態では、上記建物位置情報として、対応する建物の住所を適用しているが、これに限定されるものではない。上記建物位置情報として、緯度及び経度の各情報を適用する形態としてもよいし、これらの住所や、緯度及び経度に対して高度を付加して適用する形態等としてもよい。
【0057】
一方、上記3次元CAD情報は、対応する建物の形状を示す建物形状情報や、当該建物に設けられた各部屋の内面の光の反射率を示す反射率情報を含むモデル(以下、「建物関連モデル」という。)を示す情報とされている。なお、本実施形態に係る建物関連モデルには、対応する建物における各部屋を特定するための特定情報も含まれている。
【0058】
本実施形態では、建物関連モデルを、予め定められた3次元CADソフトウェアを用いて作成している。本実施形態では、上記3次元CADソフトウェアとして、ライノセラス(Rhinoceros)(登録商標)を適用しているが、これに限定されるものではない。例えば、レビット(Revit)(登録商標)等の他のソフトウェアを上記3次元CADソフトウェアとして適用する形態としてもよい。
【0059】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る輝度分布情報データベース13Dについて説明する。図5は、本実施形態に係る輝度分布情報データベース13Dの構成の一例を示す模式図である。なお、輝度分布情報データベース13Dは、本実施形態に係る輝度分布推定装置10により推定された輝度分布を示す情報を記憶するためのデータベースである。
【0060】
図5に示すように、本実施形態に係る輝度分布情報データベース13Dは、輝度分布推定装置10が取り扱い対象としている建物毎に、建物名称、部屋名称、推定測定点位置、及び輝度分布の各情報が関連付けられて記憶される。
【0061】
上記建物名称は、建物関連情報データベース13Cの建物名称と同一の情報であり、上記部屋名称は、対応する建物に設けられている部屋の名称を示す情報である。また、上記推定測定点位置は、輝度分布の推定対象とする位置を示す情報であり、上記輝度分布は、対応する推定測定点の位置における、推定された輝度分布を示す情報である。
【0062】
なお、本実施形態では、推定測定点位置を示す情報として、対応する建物における予め定められた位置(本実施形態では、当該建物の重心位置)を原点として予め定められた3次元座標系の位置を示す情報を適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0063】
次に、図6図7を参照して、本実施形態に係る輝度分布推定装置10の作用を説明する。ユーザによって輝度分布推定プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、輝度分布推定装置10のCPU11が当該プログラム13Aを実行することにより、図6に示す輝度分布推定処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、建物関連情報データベース13Cが構築済みであり、輝度分布情報データベース13Dの建物名称及び部屋名称の各情報が登録済みである場合について説明する。
【0064】
図6のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた初期情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0065】
図7には、本実施形態に係る初期情報入力画面の一例が示されている。図7に示すように、本実施形態に係る初期情報入力画面では、処理対象とする部屋(以下、「対象部屋」という。)に関する情報の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、対象部屋が設けられている建物、当該対象部屋、実測定点の位置、及び推定対象とする測定点の位置の各情報を入力するための入力領域15Aが表示される。
【0066】
一例として図7に示す初期情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域15Aに入力した後に、終了ボタン15Bを指定する。これに応じて、ステップ102が肯定判定となって、ステップ104に移行する。なお、上記実測定点の位置は、撮影装置30による測定点の位置であり、当該位置は固定された位置とされているため、当該位置を予め記憶しておく形態としてもよい。
【0067】
ステップ104で、CPU11は、初期情報入力画面において入力された建物に対応する3次元CAD情報(以下、「建物関連情報」という。)を建物関連情報データベース13Cから読み出す。ステップ106で、CPU11は、読み出した建物関連情報に含まれる建物形状情報及び反射率情報を用いて、物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより、実測定点の位置における第1寄与行列を導出する。
【0068】
ステップ108で、CPU11は、撮影装置30から第1輝度分布を取得し、ステップ110で、CPU11は、導出した第1寄与行列及び取得した第1輝度分布を式(2)に適用することで発光強度分布を導出する。
【0069】
ステップ112で、CPU11は、読み出した建物関連情報に含まれる建物形状情報及び反射率情報を用いて、物理照明シミュレーション・プログラム13Bにより、推定対象とする何れか1つの測定点の位置における第2寄与行列を導出する。ステップ114で、CPU11は、導出した第2寄与行列及びステップ110の処理によって得られた発光強度分布を式(3)に適用することで、当該測定点における第2輝度分布を推定する。
【0070】
ステップ116で、CPU11は、推定した第2輝度分布を輝度分布情報データベース13Dの対応する記憶領域に記憶(登録)する。ステップ118で、CPU11は、ユーザによって入力された、推定対象とする測定点の全てについて第2輝度分布の導出及び登録が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ112に戻る一方、肯定判定となった場合は本輝度分布推定処理を終了する。
【0071】
以上の輝度分布推定処理により、一例として図5に示した輝度分布情報データベース13Dが構築されることになる。輝度分布情報データベース13Dに登録された第2輝度分布は、当該第2輝度分布における所定閾値以上の領域の立体角を計算し、眩しさや明るさ等の指標を導出するといった分析を行ったり、当該分析の結果を用いて、室内の照明光や窓部のブラインドの開閉率等の調整を行ったりすること等に利用される。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め定められた第1測定点における測定によって得られた輝度の分布を示す第1輝度分布、及び昼光が第1測定点に与える影響の大きさを示す第1寄与行列を取得し、第1輝度分布及び第1寄与行列を用いて、昼光が入射する入射面における発光強度分布を導出する。また、本実施形態によれば、昼光が第1測定点とは異なる第2測定点に与える影響の大きさを示す第2寄与行列を取得し、発光強度分布及び第2寄与行列を用いて、第2測定点における輝度の分布を示す第2輝度分布を推定する。従って、第2測定点での可視画像を用いる必要がなくなる結果、撮影時の死角による影響を受けることなく、実際の測定点とは異なる測定点における輝度分布を推定することができる。
【0073】
なお、上記実施形態では、輝度分布の推定対象とする部屋に設けられた人工照明による照明光については考慮しない場合について説明したが、これに限定されるものではなく、当該人工照明による照明光も考慮する形態としてもよい。
【0074】
この形態では、第1取得部11Aが、人工照明による照明光の調光率が100%である場合の第1測定点に与える影響の大きさを示す第3寄与行列、及び当該調光率を更に取得する。また、この形態では、導出部11Bが、第1輝度分布、第1寄与行列、第3寄与行列、及び上記調光率を用いて、発光強度分布を導出する。
【0075】
そして、この形態では、第2取得部11Cが、上記照明光が第2測定点に与える影響の大きさを示す第4寄与行列を更に取得し、推定部11Dが、上記発光強度分布、第2寄与行列、第4寄与行列、及び上記調光率を用いて、第2輝度分布を推定する。以下、この形態について具体的に説明する。
【0076】
本実施形態に係る輝度分布推定装置10の実際の建物での運用を想定すると、撮影装置30によって測定される測光量には、窓による光源だけでなく人工照明による成分も含まれることがある。その場合は人工照明による照度を差し引けばよい。
【0077】
以下にその場合の式を示す。なお、以下の式におけるAとBの添え字は、wが窓を、aが人工照明を、tが窓と人工照明の合計を各々表す。また、以下の式におけるqは人工照明の発光強度分布の要素数である。
【0078】
以下の式(4)における左辺の第2項が人工照明による照度を計算している。寄与行列aAは上記第3寄与行列に相当し、調光率100%の場合における人工照明1灯あるいは1制御ゾーンが測定点に与える照度である。この寄与行列aAもまた、物理照明シミュレーション・プログラム13B等によるシミュレーションにより求めることが可能であるが、昼光のない夜間に寄与行列aAを撮影装置30による測定値から求めることも可能である。
【0079】
各人工照明、あるいは各制御ゾーンの調光率は中央監視設備の監視データ等から得ることが可能である。よって、寄与行列aAに人工照明の調光率のベクトルを乗じることで、人工照明による照度を得ることができる。
【0080】
【数4】
【0081】
また、式(4)を用いて窓の発光強度分布が得られた後に、任意の測定点の測光量を算出するフェーズにおいても以下の式(5)で示すように人工照明による照度を加算すれば、当該任意の測定点における測光量、即ち、上記第2輝度分布を導出(推定)することができる。但し、この場合の寄与行列aB、即ち、上記第4寄与行列は、物理照明シミュレーション・プログラム13B等によるシミュレーションにより求めることは可能であるが、撮影装置30による測定値から求めることはできない。
【0082】
【数5】
【0083】
また、上記実施形態で適用した各種データベースの構成は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0084】
また、上記実施形態において、例えば、第1取得部11A、導出部11B、第2取得部11C、及び推定部11Dの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0085】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0086】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0087】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 輝度分布推定装置
11 CPU
11A 第1取得部
11B 導出部
11C 第2取得部
11D 推定部
12 メモリ
13 記憶部
13A 輝度分布推定プログラム
13B 物理照明シミュレーション・プログラム
13C 建物関連情報データベース
13D 輝度分布情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A 入力領域
15B 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
30 撮影装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8