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特開2024-53311電流注入型アクティブフィルタ及び回路
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  • 特開-電流注入型アクティブフィルタ及び回路 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053311
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電流注入型アクティブフィルタ及び回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/12 20060101AFI20240408BHJP
   H03H 11/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H02M1/12
H03H11/04 P
H03H11/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159488
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾花 晃平
【テーマコード(参考)】
5H740
5J098
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740NN03
5J098AA02
5J098AA04
5J098AA11
5J098AA14
5J098AA16
5J098AB02
5J098AD11
5J098CA08
(57)【要約】
【課題】発振を抑制しつつ、高いフィルタ効果を持つアクティブフィルタ及びそれを用いた回路を提供する。
【解決手段】電流注入型アクティブフィルタは、検出トランスと、増幅回路と、発振抑制回路と、注入トランスとを備える。検出トランスは、電源ラインに接続される第1の主巻線と、第1の主巻線に近接して配置される第1の副巻線とを有する。増幅回路は、入力端子が第1の副巻線に接続されるオペアンプと、オペアンプの入力端子と出力端子との間に接続される帰還回路とを含む。発振抑制回路は、帰還回路に挿入され、増幅回路の発振を抑制する。注入トランスは、電源ラインに接続される第2の主巻線と、第2の主巻線に近接して配置されるとともに増幅回路の出力端子に接続される第2の副巻線とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源ラインに接続される第1の主巻線と、前記第1の主巻線に近接して配置される第1の副巻線とを有する検出トランスと、
入力端子が前記第1の副巻線に接続されるオペアンプと、前記オペアンプの前記入力端子と出力端子との間に接続される帰還回路とを含む増幅回路と、
前記帰還回路に挿入され、前記増幅回路の発振を抑制する発振抑制回路と、
前記電源ラインに接続される第2の主巻線と、前記第2の主巻線に近接して配置されるとともに前記増幅回路の出力端子に接続される第2の副巻線とを有する注入トランスと、
を具備する電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項2】
前記帰還回路は、前記オペアンプの負入力端子と出力端子との間に接続される第1の抵抗を有し、
前記発振抑制回路は、前記第1の抵抗に直列に接続される第2のコンデンサと、前記第1の抵抗に並列に接続される第2の抵抗とを有する、
請求項1に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項3】
前記帰還回路は、さらに、前記第1の抵抗に並列に接続される第1のコンデンサを有する、
請求項2に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項4】
前記増幅回路と前記第2の副巻線との間に挿入されるエミッタフォロワ回路をさらに具備する、
請求項1に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項5】
前記第1の副巻線及び前記第2の副巻線は、アースに対して絶縁されている、
請求項1に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項6】
前記検出トランス及び前記注入トランスに接続されるサージ保護素子をさらに具備する請求項1に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項7】
前記第1の主巻線及び前記第2の主巻線は、それぞれ、前記電源ラインに発生するコモンモードノイズを低減するコモンモードチョークコイルを形成している、
請求項1に記載の電流注入型アクティブフィルタ。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の電流注入型アクティブフィルタと、
前記電源ラインの相間に挿入されるXコンデンサと、
前記電源ラインの相対地間に挿入されるYコンデンサと、
を具備する回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、コモンモードノイズを低減するための電流注入型アクティブフィルタ及びそれを用いた回路に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の負荷の駆動にスイッチングインバータが用いられることがある。このようなスイッチングインバータでは、スイッチング動作の際にコモンモードノイズが発生する。コモンモードノイズに起因するコモンモード電流の別回路への流入及び放射の抑制のためにノイズフィルタが利用されている。ノイズフィルタとしては、例えば、コモンモードチョークコイル及びYコンデンサ等の受動素子で構成されるパッシブフィルタが用いられている。また、ノイズフィルタとして、半導体素子によって構成される増幅回路等の能動素子を用いて積極的にノイズをキャンセルするアクティブフィルタも提案されている。アクティブフィルタは、電源ラインを流れるコモンモード電流を検出し、検出したコモンモード電流を増幅回路によって増幅し、増幅した電流を電源ラインに逆相で戻すことでノイズをキャンセルする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-76979号公報
【特許文献2】特許第5993886号公報
【特許文献3】特許第5528543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクティブフィルタは、検出されたコモンモード電流に対して逆相(-180°)の電流を電源ラインへ注入することで、ノイズをキャンセルする。しかしながら、コモンモード電流の周波数によっては、コモンモード電流と同相(0°)方向に位相が変化した電流が電源ラインへ注入されることによってかえってノイズが増加してしまうことがある。具体的には、コモンモード電流に対して注入電流の利得が0以上の時に、位相が-90°よりも0°側に変化するとノイズを増幅し続け、回路が発振を起こす。
【0005】
実施形態は、発振を抑制しつつ、高いフィルタ効果を持つアクティブフィルタ及びそれを用いた回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の電流注入型アクティブフィルタは、検出トランスと、増幅回路と、発振抑制回路と、注入トランスとを備える。検出トランスは、電源ラインに接続される第1の主巻線と、第1の主巻線に近接して配置される第1の副巻線とを有する。増幅回路は、入力端子が第1の副巻線に接続されるオペアンプと、オペアンプの入力端子と出力端子との間に接続される帰還回路とを含む。発振抑制回路は、帰還回路に挿入され、増幅回路の発振を抑制する。注入トランスは、電源ラインに接続される第2の主巻線と、第2の主巻線に近接して配置されるとともに増幅回路の出力端子に接続される第2の副巻線とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態のアクティブフィルタを含むインバータ回路の構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。図1は、実施形態のアクティブフィルタを含むインバータ回路の構成例を概略的に示す図である。
【0009】
インバータ回路100は、電源1と、アクティブフィルタ9と、整流回路10と、インバータ11とを有する。インバータ回路100と電源1との間には、電源ラインL(Live)、N(Neutral)が配線されている。また、アクティブフィルタ9の入力側の電源ラインLと電源ラインNとの相間及びアクティブフィルタ9の出力側の電源ラインLと電源ラインNとの相間には、それぞれ、Xコンデンサ2が接続されている。Xコンデンサ2は、電源ラインL、Nの相間に発生するノーマルモードノイズをバイパスさせるために電源ラインL、Nの相間に挿入されている。また、アクティブフィルタ9の出力側の電源ラインL、Nのそれぞれとアースとの相対地間には、Yコンデンサ13が接続されている。Yコンデンサ13は、スイッチング動作に起因して電源ラインL、Nに発生するコモンモードノイズをバイパスさせるために電源ラインL、Nに挿入されている。
【0010】
電源1は、例えば商用電源であって所定の周波数の交流電圧を生成する。電源1で生成された交流電圧は、アクティブフィルタ9を介して整流回路10に印加される。
【0011】
アクティブフィルタ9は、電源1と整流回路10との間に挿入され、インバータ11のスイッチング動作に起因して電源ラインL、Nに発生するコモンモードノイズを能動的に低減するフィルタである。アクティブフィルタ9については、後で説明される。
【0012】
整流回路10は、アクティブフィルタ9を介して電源1に接続され、電源1によって印加される交流電圧を直流電圧に変換する。整流回路10によって変換された直流電圧は、インバータ11に印加される。
【0013】
インバータ11は、例えば複数の半導体スイッチング素子をブリッジ接続することで構成されたブリッジインバータ回路を含み、それぞれの半導体スイッチング素子のスイッチング動作によって、整流回路10から印加される直流電圧を負荷12の駆動に必要な所望の周波数及び振幅の交流電圧に変換する。インバータ11によって変換された交流電圧は、負荷12に印加される。
【0014】
負荷12は、例えば空気調和機の圧縮機を駆動する三相モータであり、インバータ11によって印加される交流電圧に従って動作する。
【0015】
次に、アクティブフィルタ9について説明する。実施形態におけるアクティブフィルタ9は、検出トランス3と、増幅回路4と、発振抑制回路5と、エミッタフォロワ回路7と、注入トランス8とを有する。
【0016】
検出トランス3は、電源ラインL、Nの電源1の側にそれぞれ挿入される主巻線Wm1と、電源ラインNに挿入される主巻線Wm1と近接して配置される副巻線Ws1とを有する。主巻線Wm1は、コモンモードチョークコイルを形成していて、コモンモードノイズを低減する。また、主巻線Wm1は、副巻線Ws1とともにトランスを形成している。トランスは、コモンモードノイズに起因して主巻線Wm1に流れるコモンモード電流を主巻線Wm1と副巻線Ws1との電磁誘導によって検出する。副巻線Ws1の一端は、増幅回路4に接続されている。副巻線Ws1のもう一端は、グラウンドに接続されている。すなわち、副巻線Ws1は、アースに対して絶縁されている。
【0017】
増幅回路4は、オペアンプ18を用いた反転増幅回路である。オペアンプ18の負入力端子は、抵抗16を介して副巻線Ws1に接続されている。また、オペアンプ18の正入力端子は、グラウンドに接続されている。オペアンプ18の出力端子は、エミッタフォロワ回路7に接続されている。さらに、オペアンプ18の出力端子と負入力端子との間には負帰還回路が挿入されている。負帰還回路は、オペアンプ18の出力端子と負入力端子との間に挿入される抵抗17と、抵抗17に並列に接続されたコンデンサ6とを含む。増幅回路4は、検出トランス3の出力を電圧増幅する。増幅回路4の増幅率は、副巻線Ws1の巻数、抵抗16と抵抗17との抵抗比等を考慮した回路シミュレーションによって決定される。
【0018】
さらに、実施形態では、オペアンプ18の負帰還回路に発振抑制回路5が挿入されている。発振抑制回路5は、抵抗17に直列に接続されたコンデンサCと、抵抗17及びコンデンサ6に並列に接続された抵抗Rとを含む。発振抑制回路5は、オペアンプ18の出力端子から負帰還される電流の特定の低周波数成分における位相を進ませて増幅回路4の利得を調整することによって、増幅回路4における発振を抑制する。発振抑制回路5の位相及び利得の調整量は、副巻線Ws1の巻数、抵抗16と抵抗17との抵抗比、コンデンサCの静電容量、抵抗Rの抵抗値等を考慮した回路シミュレーションによって決定される。
【0019】
エミッタフォロワ回路7は、例えばプッシュプル型のエミッタフォロワ回路である。エミッタフォロワ回路7は、オペアンプ18の出力を電流増幅する。
【0020】
注入トランス8は、電源ラインL、Nの整流回路10の側にそれぞれ挿入される主巻線Wm2と、電源ラインNに挿入される主巻線Wm2と近接して配置される副巻線Ws2とを有する。主巻線Wm2は、コモンモードチョークコイルを形成していて、コモンモードノイズを低減する。また、主巻線Wm2は、副巻線Ws2とともにトランスを形成している。トランスは、エミッタフォロワ回路7から副巻線Ws2に流入する電流を副巻線Ws2と主巻線Wm2との電磁誘導によって電源ラインNに注入する。副巻線Ws2の一端は、エミッタフォロワ回路7に接続されている。副巻線Ws2のもう一端は、グラウンドに接続されている。すなわち、副巻線Ws2は、アースに対して絶縁されている。
【0021】
さらに、実施形態では、雷等の高電圧のサージがインバータ回路100に入ったときの増幅回路4等の部品破壊を防止するために、検出トランス3の例えば電源ラインN側の主巻線Wm1及び注入トランス8の例えば電源ラインN側の主巻線Wm2のそれぞれに対して並列にサージ保護素子としてのガスアレスタ14が挿入されている。同様に、実施形態では、雷等の高電圧のサージがインバータ回路100に入ったときの増幅回路4等の部品破壊を防止するために、検出トランス3の副巻線Ws1及び注入トランス8の副巻線Ws2のそれぞれに対して並列にサージ保護素子としてのツェナーダイオード15が挿入されている。サージ保護素子は、ガスアレスタ、ツェナーダイオードに限るものではない。サージ保護素子として、バリスタ等の他のサージ保護素子が用いられてもよいし、アレスタとバリスタとが組み合わせて用いられる等されてもよい。
【0022】
次に、インバータ回路100の動作を説明する。電源1で生成された交流電圧は、整流回路10において整流されることで直流電圧に変換される。整流回路10において変換された直流電圧に基づき、インバータ11のスイッチング動作によって負荷12の動作に必要な交流電圧が生成される。インバータ11において生成された交流電圧によって負荷12は駆動する。
【0023】
インバータ11のスイッチング動作により発生したコモンモード電圧に起因するコモンモード電流が負荷12の浮遊容量を介して電源1の側に戻ることによって、電源ラインNにコモンモード電流が流入する。電源ラインNに流入したコモンモード電流は、検出トランス3によって検出される。
【0024】
検出トランス3で検出されたコモンモード電流は増幅回路4において電圧増幅され、エミッタフォロワ回路7において電流増幅される。エミッタフォロワ回路7で増幅された電流は、注入トランス8によって電源ラインNにコモンモード電流の逆相で戻される。これにより、コモンモード電流と注入電流が打ち消しあい、コモンモード電流はキャンセルされる。
【0025】
ここで、実施形態では、増幅回路4に対して発振抑制回路5が設けられている。アクティブフィルタとしての効果を上げるためには、増幅回路4の増幅率が大きくされればよい。ここで、発振抑制回路5が設けられていない場合には、ある一定以上の増幅率が設定されると、ある低周波数成分において、コモンモード電流の位相に対して注入電流の位相が-90°から0°方向に変化し、かつ利得が0dB以上となってアクティブフィルタ9が発振を起こす。
【0026】
実施形態における発振抑制回路5は、オペアンプ18の出力端子から負帰還される電流の特定の低周波数成分における位相を進ませることで、問題となる低周波数成分における位相を調整する。これにより、アクティブフィルタ9は、発振を起こす条件を回避し得る。一方で、発振抑制回路5は、ノイズを減らしたい周波数成分には影響を与えない。つまり、発振抑制回路5は、増幅回路4の増幅率が増大されても問題となる低周波数成分だけに影響する。したがって、増幅回路4の増幅率を増大させることによるフィルタ効果の向上が可能である。また、発振抑制回路5は、増幅回路4を構成するオペアンプ18の負帰還回路に挿入される。発振抑制回路5がオペアンプ18の負帰還回路に挿入されることにより、増幅回路4の入力インピーダンスの低下を生じさせずに発振抑制効果が得られる。
【0027】
また、実施形態では、増幅回路4の後段にエミッタフォロワ回路7が設けられている。エミッタフォロワ回路7によって、増幅回路4の出力が電流増幅されることにより、注入トランス8によって注入される電流を増大させることができる。結果として、アクティブフィルタ9としての効果の向上が可能である。
【0028】
また、実施形態では、電源ラインの相間にXコンデンサ2が接続されている。また、実施形態では、電源ラインとアースとの相対地間にYコンデンサ13が接続されている。Xコンデンサ2によって、ノーマルモードノイズが受動的に抑制され得る。また、Yコンデンサ13によってコモンモードノイズが受動的に抑制され得る。
【0029】
また、実施形態では、検出トランス3及び注入トランス8にはサージ保護素子としてのガスアレスタ14、ツェナーダイオード15が取り付けられている。また、検出トランス3の副巻線Ws1及び注入トランス8の副巻線Ws2は、それぞれ、アースから絶縁されている。これにより、雷等の高電圧サージによる増幅回路4及びエミッタフォロワ回路7の部品破壊が防止される。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1 電源、2 Xコンデンサ、3 検出トランス、4 増幅回路、5 発振抑制回路、R 抵抗、C コンデンサ、6 コンデンサ、7 エミッタフォロワ回路、8 注入トランス、9 アクティブフィルタ、10 整流回路、11 インバータ、12 負荷、13 Yコンデンサ、14 ガスアレスタ、15 ツェナーダイオード、16 抵抗、17 抵抗、18 オペアンプ、100 インバータ回路。
図1