(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053321
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】車いす
(51)【国際特許分類】
A61G 5/10 20060101AFI20240408BHJP
A61G 5/02 20060101ALI20240408BHJP
A61G 5/12 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61G5/10 715
A61G5/02 701
A61G5/10 703
A61G5/12 706
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159504
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】502327953
【氏名又は名称】三貴ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 永佳
(72)【発明者】
【氏名】紙屋 潤一郎
(57)【要約】
【課題】座部に着座した使用者の体重が後方へかかっても後方へ転倒し難く、優れた安定性を有する車いすを提供する。
【解決手段】主車輪3を設けた前側杆部42と補助輪5を設けた後側杆部43とを一体形成した傾動フレーム部41が、前輪4を設けたベースフレーム部11に、座部6の後端よりも後方の位置で傾動可能に設けられると共に、傾動フレーム部41の後側杆部43がガススプリング34によって下方へ付勢された構成である。かかる構成によれば、使用者が後方へ体重をかけても、後方へ転倒し難く、転倒への恐怖感を抑制できる。さらに、傾動フレーム部41の傾動によって、前輪4、主車輪3、および補助輪5が路面に応じて追従できるため、優れた路面追従性を有し、様々な路面を安定して走行できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部と背もたれ部とを支持するベースフレーム部と、
前記ベースフレーム部の前部に配設された左右一対の前輪と、
前記ベースフレーム部の、前記座部の後端よりも後方に位置する支持部位に、上下方向へ傾動可能にそれぞれ設けられ、該支持部位よりも前方へ突出する前側突出部と該支持部位よりも後方へ突出する後側突出部とが一体形成された左右一対の傾動フレーム部と、
前記左右の傾動フレーム部の前側突出部にそれぞれ配設された左右一対の主車輪と、
前記左右の傾動フレーム部の後側突出部にそれぞれ配設された左右一対の補助輪と、
前記傾動フレーム部の後側突出部を下方へ付勢する傾動フレーム付勢手段と
を備えたものであることを特徴とする車いす。
【請求項2】
傾動フレーム付勢手段は、
伸縮可能なバネ部材により構成され、該バネ部材の一端がベースフレーム部に上下方向へ回動自在に取り付けられ且つ該バネ部材の他端が傾動フレーム部の後側突出部に連結機構部を介して取り付けられてなるものであり、
前記連結機構部は、
前記バネ部材の他端と前記後側突出部とを、相対的に上下方向へ回動自在かつ前記後側突出部の突出方向に沿って所定幅で移動自在に連結させたものであることを特徴とする請求項1に記載の車いす。
【請求項3】
主車輪に圧接されてブレーキをかける制動位置と、該主車輪から離間される非制動位置とに位置変換操作されるブレーキ部を備えたものであって、
前記ブレーキ部が、
傾動フレーム部の前側突出部に固結され、該傾動フレーム部と一体的に傾動されるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車いす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主車輪と、該主車輪の前方に配設された前輪と、該主車輪の後方に配設された補助輪とを、左右にそれぞれ備えた六輪タイプの車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1では、六輪タイプの車いすが提案されている。この従来構成は、本体部分に回動可能に連結されて略垂直に配された大車輪支持フレームと該大車輪支持フレームから後方へ突出された上下の後側フレームとからなる可動部分を備え、該大車輪支持フレームに主車輪が回転可能に連結され、後側フレームの後端部に補助輪が回転可能に連結されたものである。ここで、可動部分は、その大車輪支持フレームの上端が、本体部分の座部の直下部位に回動可能に連結される。さらに、伸縮部材が、一端を本体部分に軸着し且つ他端を後側フレームに軸着して設けられている。かかる従来構成は、座部の後方に体重をかけると、伸縮部材が伸縮することに伴って、大車輪フレームに対して本体部分が後方へ傾き、前輪を容易に持ち上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車いすでは、背もたれ部の傾きを変更できるリクライニング機構を備えたものが一般的に知られている。かかる構成では、背もたれ部を後方へ倒した場合に、背もたれ部にかかる使用者の体重が増える傾向にある。また、座部と背もたれ部とを一体的に傾けるティルト機構を備えた車いすにあっても、同様に、傾けた状態で背もたれ部にかかる使用者の体重が増える傾向にある。
前述した特許文献1の車いすには、こうしたリクライニング機構やティルト機構が適用され得る。しかし、背もたれ部を後方へ倒した状態で使用者の体重がかかると、伸縮部材の伸縮に伴って本体部分が後方へ傾き易くなる。そのため、後方へ急激に体重がかかった場合には、後方へ転倒する虞があった。また、転倒しない場合にも、後方へ容易に傾くと、転倒という恐怖感が使用者に想起されてしまう。
【0005】
本発明は、背もたれ部に使用者の体重がかかっても後方へ転倒し難く、優れた安定性を有する車いすを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、座部と背もたれ部とを支持するベースフレーム部と、前記ベースフレーム部の前部に配設された左右一対の前輪と、前記ベースフレーム部の、前記座部の後端よりも後方に位置する支持部位に、上下方向へ傾動可能にそれぞれ設けられ、該支持部位よりも前方へ突出する前側突出部と該支持部位よりも後方へ突出する後側突出部とが一体形成された左右一対の傾動フレーム部と、前記左右の傾動フレーム部の前側突出部にそれぞれ配設された左右一対の主車輪と、前記左右の傾動フレーム部の後側突出部にそれぞれ配設された左右一対の補助輪と、前記傾動フレーム部の後側突出部を下方へ付勢する傾動フレーム付勢手段とを備えたものであることを特徴とする車いすである。
【0007】
かかる構成にあっては、前後に主車輪と補助輪とを設けた傾動フレーム部が、ベースフレーム部の支持部位で傾動可能に支持されたものであるから、座部に着座した使用者の体重を該主車輪と該補助輪とで支えることができる。そして、前記支持部位が座部の後方に設けられていることから、座部の後方へ体重がかけられた場合(換言すると、重心が座部の後方へかかった場合)にも、傾動フレーム部を介して主車輪と補助輪とで支えることができ、後方へ転倒し難い。さらに、本構成では、傾動フレーム付勢手段によって、補助輪が下方へ付勢されていることから、座部の後方へ体重がかかった場合にも、後方へ一層転倒し難くなっている。
【0008】
ここで、前述した従来構成(特許文献1の構成)は、大車輪支持フレームが座部の直下で略垂直に配設されていることから、使用者の体重を主車輪で支える。そして、後方へ体重がかけられると、本体部分が主車輪の軸心を中心として傾動するため、前輪が容易に持ち上がって後方へ転倒し易い。
【0009】
このように本発明の構成は、座部の後方へ体重がかかった場合にも後方へ転倒し難いことから、安定性に優れている。これにより、後方への転倒という恐怖感が使用者に想起されることを抑制できるため、使用者が安心して後方へ体重をかけることができる。
【0010】
さらに、本発明の構成は、主車輪と補助輪とを配設した傾動フレーム部がベースフレーム部に傾動可能に設けたものであるから、走行する路面に応じて傾動フレーム部とベースフレーム部とが相対的に傾動して、前輪、主車輪、および補助輪が該路面に追従して動く。このように前輪、主車輪、および補助輪の路面追従性に優れることから、例えば障害物や段差を越える際やスロープに入出する際にも、前輪、主車輪、および補助輪が追従でき、安定して走行できる。尚、こうした優れた路面追従性は前進と後進とのいずれでも同様に発揮され、前進と後進との両方で安定走行できる。
【0011】
前述した本発明の車いすにあって、傾動フレーム付勢手段は、伸縮可能なバネ部材により構成され、該バネ部材の一端がベースフレーム部に上下方向へ回動自在に取り付けられ且つ該バネ部材の他端が傾動フレーム部の後側突出部に連結機構部を介して取り付けられてなるものであり、前記連結機構部は、前記バネ部材の他端と前記後側突出部とを、相対的に上下方向へ回動自在かつ前記後側突出部の突出方向に沿って所定幅で移動自在に連結させたものである構成が提案される。
【0012】
ここで、例えば、バネ部材が後側突出部に回動自在にのみ取り付けられた構成(連結機構部の無い構成)の場合には、該バネ部材の仕様(最大伸縮量など)や、該バネ部材の弾性力と傾動フレーム部の重量(主車輪と補助輪とを含む)とのバランス等によって、傾動フレーム部を後方へ傾斜できる最大傾斜量(換言すれば、補助輪を降下できる下限位置)が定まる。そのため、この最大傾斜量における補助輪の下限位置よりも深い段差に、補助輪を降下させた場合、該補助輪が段差の底に接触できない。これでは、特に車いすの後進時に、この段差を安定して越えることが難しい。
【0013】
本発明の構成は、バネ部材の他端と後側突出部とが連結機構部により連結されていることから、該バネ部材の他端と後側突出部とが該後側突出部の突出方向に沿って相対的に移動できる。そのため、補助輪を、前記したバネ部材による下限位置を越えて下方へ降下できる。すなわち、補助輪の下限位置よりも深い段差を越える場合にも、該段差の底に補助輪が接触できるため、車いすの後進時に当該段差を安定して走行できる。
【0014】
前述した本発明の車いすにあって、主車輪に圧接されてブレーキをかける制動位置と、該主車輪から離間される非制動位置とに位置変換操作されるブレーキ部を備えたものであって、前記ブレーキ部が、傾動フレーム部の前側突出部に固結され、該傾動フレーム部と一体的に傾動されるものである構成が提案される。
【0015】
かかる構成にあっては、主車輪にブレーキをかけるブレーキ部を、傾動フレーム部と一体的に傾動するように設けたことから、該傾動フレーム部の傾動如何に関わらず、ブレーキ部と主車輪との相対的な位置関係が一定に保たれ得る。したがって、本構成によれば、ブレーキ部を制動位置に位置変換操作することによって、主車輪に常に安定してブレーキをかけることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車いすによれば、座部に着座した使用者が後方へ体重をかけた場合にも、後方へ転倒し難く、後方への転倒という恐怖感が該使用者に想起されることを抑制できる。加えて、傾動フレーム部が路面に応じて傾動することによって、前輪、主車輪、および補助輪が路面に追従して動くことから、優れた路面追従性を有し、様々な路面を安定して走行できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】車いす1の、揺動フレーム部12をティルト作動させる態様を示す説明図である。
【
図3】(A)傾動案内部40と傾動フレーム部41の被案内部48とを示す側面図と、(B)傾動フレーム部41の一部を示す平面図である。
【
図4】車いす1の前進時に、前輪4が段差103に乗り上げた状態を示す説明図である。
【
図5】車いす1の後進時に、補助輪5が段差105を降りた状態を示す説明図である。
【
図6】車いす1の後進時に、補助輪5が段差109を降りた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる車いすを具体化した実施例を、以下で詳細に説明する。
本実施例の車いす1は、
図1に示すように、主車輪3、前輪4、および補助輪5がそれぞれ左右一対に設けられた構成であり、所謂六輪タイプのものである。車いす1は、金属製パイプまたはFRP製パイプ等で構成された本体フレーム2を備える。本体フレーム2は、左右の主車輪3を支持するベースフレーム部11と、座部6および背もたれ部7を有する揺動フレーム部12とを備え、該揺動フレーム部12がベースフレーム部11に前後方向へ揺動可能に設けられている。
【0019】
ベースフレーム部11は、左右一対のベースサイドフレーム部14により構成されており、左右のベースサイドフレーム部14が、両者間に配設された前記揺動フレーム部12を介して対設されてなる。ベースサイドフレーム部14は、前後方向の第一ベースフレーム部15と、該第一ベースフレーム部15の下側に設けられた第二ベースフレーム部16と、下端に前輪4が旋回可能に取り付けられた前側ベースフレーム部17とを備えており、前側ベースフレーム部17が第一ベースフレーム部15と第二ベースフレーム部16とに固結されて一体化されている。尚、第一ベースフレーム部15と第二ベースフレーム部16との間には、傾動フレーム部41が設けられており、該傾動フレーム部41に主車輪3と補助輪5とが設けられている。この傾動フレーム部41は、本発明の要部にかかることから、詳細は後述する。
【0020】
揺動フレーム部12は、
図1,2に示すように、左右一対のサイドフレーム部21と、左右のサイドフレーム部21を連結するクロスフレーム部22とを備える。サイドフレーム部21には、主フレーム部24と、主フレーム部24に取り付けられた前後方向の座フレーム部25と、主フレーム部24の後部に取り付けられた上下方向の背もたれフレーム部26と、主フレーム部24の前部に取り付けられたフットフレーム部27とを備える。左右の座フレーム部25には布製の着座シート部材(図示せず)が差し渡されており、該着座シート部材と左右の座フレーム部25とによって前記座部6が構成されている。左右の背もたれフレーム部26には布製の背もたれシート部材(図示せず)が差し渡されており、該背もたれシート部材と左右の背もたれフレーム部26とによって前記背もたれ部7が構成されている。左右の背もたれフレーム部26の上端部には、介助者により操作される操作ハンドル9がそれぞれ取り付けられている。
【0021】
さらに、左右の主フレーム部24には、肘掛け部29が夫々設けられている。左右のフットフレーム部27には、フットレスト部28が夫々取り付けられている。
【0022】
本実施例の車いす1は、前述したように、揺動フレーム部12がベースフレーム部11に前後方向へ揺動可能に支持されており、該揺動フレーム部12の揺動を安定させ且つ任意の位置(姿勢)で保持するティルト作動補助部材30を備えている。これにより、
図2に示すように、揺動フレーム部12をベースフレーム部11に対して傾けることで、座部6と背もたれ部7とを一体的にティルト作動させることができる。尚、こうしたティルト作動させる構造は、従来から公知の構成を適用できることから、詳細な説明を省略する。
【0023】
本発明の要部について説明する。
図1に示すように、ベースフレーム部11を構成する左右のベースサイドフレーム部14には、第一ベースフレーム部15の後部と第二ベースフレーム部16の後部とに差し渡された上下方向の傾動支持部31がそれぞれ取り付けられており、左右の傾動支持部31に傾動軸32を介して前記傾動フレーム部41が上下方向へ傾動自在にそれぞれ設けられている。傾動支持部31は、少なくとも前記傾動軸32が前記した揺動フレーム部12の座部6の後端よりも後方に位置するように配されて、ベースサイドフレーム部14に固結されている。
【0024】
傾動フレーム部41は、前後方向に沿う杆状を成し、前端寄り部位に前記主車輪3が回転可能に支持されると共に、該傾動フレーム部41の後端部に前記補助輪5が旋回自在に取り付けられている。そして、傾動フレーム部41は、主車輪3と補助輪5との間の部位で、前記傾動支持部31に傾動自在に取り付けられている。こうした傾動フレーム部41は、傾動支持部31に取り付けられた部位を境界として、前側に突出された前側杆部42と後側に突出された後側杆部43とに分けて示すと、前側杆部42に前記主車輪3が支持され、後側杆部43に前記補助輪5が取り付けられている。そして、傾動フレーム部41は、前側杆部42と後側杆部43との一体物であることから、前記傾動軸32を中心として上下方向へ傾動することによって、前側杆部42と後側杆部43とがシーソーの様に作動する。
【0025】
傾動フレーム部41の後側杆部43には、ベースサイドフレーム部14(ベースフレーム部11)に対して下方へ付勢するガススプリング34が取り付けられている。ガススプリング34は、一端が前記第一ベースフレーム部15に回動自在に連結され、他端が前記後側杆部43に連結部45を介して連結されており、該他端側へ伸長させる弾性力を生ずる構成となっている。連結部45は、前記傾動軸32と補助輪5との間に配設されており、後側杆部43(傾動フレーム部41)の長手方向に沿った長孔46を有する。ガススプリング34の他端には、連結部45の長孔46に回転自在かつ長手方向へ移動自在に挿通される連結軸部35が設けられており、該連結軸部35が長孔46に挿通されることによって該連結部45と連結される。このように連結部45を介してガススプリング34の他端と後側杆部43とが連結されることにより、該ガススプリング34の他端が、後側杆部43に対して回転自在かつ長孔46に沿って(長孔46の長幅の範囲)で移動自在である。尚、ガススプリング34は、従来から公知のものを適用できることから、詳細は省略する。
【0026】
傾動フレーム部41の前側杆部42には、駐車ブレーキ装置37がブレーキ取付杆部36を介して取り付けられている。駐車ブレーキ装置37は、使用者等により操作される操作部38と、該操作部38の操作により位置変換作動するブレーキ部39とを備える。ブレーキ部39は、主車輪3に圧接する制動位置(図示せず)と、該主車輪3から離間される非制動位置(
図1および
図4~6参照)とに、前記操作部38の操作により位置変換されるものであり、制動位置とされることで主車輪3にブレーキをかける。こうした駐車ブレーキ装置37は、従来から公知の構成を適用できるため、詳細な説明を省略する。
【0027】
駐車ブレーキ装置37は、前記ブレーキ取付杆部36に固結され、該ブレーキ取付杆部36は、前記傾動フレーム部41の前側杆部42に固結されていることから、駐車ブレーキ装置37と該ブレーキ取付杆部36とは、傾動フレーム部41と一体的に傾動する(
図4~6参照)。これにより、傾動フレーム部41の傾動に関わらず、駐車ブレーキ装置37と主車輪3との相対的な位置関係が一定に保たれるため、操作部38の操作によりブレーキ部39を常に安定して位置変換でき、主車輪3に安定してブレーキをかけることができる。
【0028】
また、前記したベースサイドフレーム部14には、前記傾動支持部31の前方に、該傾動支持部31の傾動軸32を中心とした円弧形状に形成された傾動案内部40が設けられている。一方、傾動フレーム部41の前側杆部42には、その前端に、
図3に示すように、傾動案内部40により案内される略コ字状の被案内部48が配設されている。この被案内部48が前記傾動支持部31に沿って移動自在に嵌め合わされることにより、傾動フレーム部41が傾動支持部31の傾動軸32を中心として上下方向に一層安定して傾動することができる。そして、被案内部48と傾動案内部40とによって、傾動フレーム部41が左右方向にずれてしまうことを防止できるため、主車輪3にキャンバー角やトー角がついてしまうことを抑制できる。
【0029】
次に、前述した車いす1の走行態様について説明する。
本実施例の車いす1は、
図1に示すように平地101を走行する際、前輪4、主車輪3、および補助輪5が全て接地することから、安定して走行できる。
【0030】
また、例えば、平地101から段差103を介して連なる高地102に、車いす1を前進させて乗り上げる際には、
図4に示すように、先ず前輪4のみが段差103に乗り上げて高地102上に乗ると、ベースフレーム部11および揺動フレーム部12が、傾動フレーム部41に対して前側が上方へ傾斜した姿勢(後傾姿勢)となって、主車輪3と補助輪5とが平地101に接地される。これは、傾動フレーム部41とベースフレーム部11とを連結した傾動支持部31で重量(使用者の体重等)がかかることによって、主車輪3と補助輪5とが平地101に接地するように該傾動フレーム部41が相対的に傾動することに因る。ここで、傾動フレーム部41は、ガススプリング34の付勢力によって、主車輪3と補助輪5とが平地101に接地した状態で安定する。この後傾姿勢では、座部6に着座する使用者が後傾して該使用者の体重が後方へかかるものの、該体重を、座部6より後方位置の傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで支えることから、安定する。特に、補助輪5がガススプリング34の付勢力により平地101に接地されていることから、使用者の体重を主車輪3と共に一層安定して支えることができると共に、車いす1が後方へ倒れ難くなっている。
【0031】
この後に、主車輪3が段差103に乗り上げて高地102上に乗ると(
図5参照)、ガススプリング34の付勢力によって傾動フレーム部41が後傾して、主車輪3が高地102に接地されると共に補助輪5が平地101に接地される。ここで、主車輪3と補助輪5とが前記ガススプリング34の付勢力によりそれぞれ接地され、使用者の体重を、傾動支持部31を介して該主車輪3と該補助輪5とで安定して支えることができると共に、後方へ倒れ難くなる。
【0032】
一方、例えば、平地101から段差105を介して連なる低地104に、車いす1を後進させて降りる際には、
図5に示すように、先ず補助輪5のみが低地104に降りて接地すると、傾動フレーム部41がガススプリング34の付勢力により後傾して、主車輪3が平地101に接地され且つ補助輪5が低地104に接地される。この状態では、使用者の体重を、傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで安定して支えることができると共に、ガススプリング34の付勢力によって補助輪5が低地104に接地されていることから、後方へ倒れ難くなっている。
【0033】
この後に、主車輪3が段差105を降りて低地104上に乗ると(
図4参照)、傾動フレーム部41が後傾を解消するように傾動して、該主車輪3と補助輪5とが低地104に接地される。この状態では、ベースフレーム部11および揺動フレーム部12が後傾姿勢となるものの、使用者の体重を傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで安定し支えることができると共に、後方へ倒れ難くなる。
【0034】
また、
図5に比して高低差の大きい低地108に車いす1を後進させて降りる際には、
図6に示すように、補助輪5が低地108に降りて接地する。ここで、ガススプリング34は、伸長できる限界(製品仕様)が定まっている。そのため、ガススプリング34の伸長限界で補助輪5を接地できない段差109を降りる場合には、該ガススプリング34に設けた連結軸部35が、傾動フレーム部41の連結部45の長孔46内を移動することによって、さらに該傾動フレーム部41が後傾でき、補助輪5を低地108に接地できる。このように比較的大きい段差109を後進して降りる場合には、傾動フレーム部41が、ガススプリング34の伸長限界における後傾姿勢よりも大きく傾動して、主車輪3を平地101に接地させつつ、補助輪5を低地108に接地できる。これにより、使用者の体重を傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで安定して支えることができ、後方へ倒れ難い。尚、この後には、前述の後進(低地104の場合)と同様に主車輪3が段差109を降りて後進できる。
【0035】
実施例の車いす1にあっては、前述したように、傾動フレーム部41が、座部6の後端よりも後方に位置する傾動支持部31でベースフレーム部11に傾動可能に設けられていることから、座部6に着座した使用者の体重を、傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで支えることができる。そして、前記使用者が後方へ体重をかけた場合にも、該体重を傾動支持部31を介して主車輪3と補助輪5とで支えることができるため、後方へ転倒し難くなっている。これは、重心の作用する傾動支持部31が座部6よりも後方にあることから、使用者が後方へ体重をかけても、主車輪3と補助輪5とで安定して支えられることに因る。さらに、本実施例では、ベースフレーム部11と傾動フレーム部41とに介装されたガススプリング34によって補助輪5を下方へ付勢する構成としたから、後方へ一層転倒し難くなっている。これにより、座部6と背もたれ部7とをティルト作動させた場合にあっても、後方への転倒し難く、使用者に安心感を与えることができる。
【0036】
この車いす1は、前述したように、前進により段差に乗り上げる際と後進により段差を降りる際とのいずれにあっても、前記ガススプリング34の付勢力により傾動フレーム部41が段差に応じて傾動して主車輪3と補助輪5とを安定して接地させる。これにより、使用者を安定して支えることができると共に後方へ転倒し難く、使用者が安心して走行できる。さらに、本実施例の構成では、ガススプリング34と傾動フレーム部41の後側杆部43とが、連結軸部35と連結部45とにより回動自在かつ該傾動フレーム部41に沿って移動自在に連結されていることから、ガススプリング34の伸長限界における傾斜姿勢を越えて傾動フレーム部41を傾動させることができるため、比較的大きな段差を降りる場合にも補助輪5を接地させ得る。これにより、後進して比較的大きな段差を降りる場合に、主車輪3と補助輪5とを安定して接地させることができ、使用者を安定して支えながら後進できる。このように本実施例の車いす1は、前輪4と主車輪3と補助輪5とが路面に追従して動くことから、様々路面形態への追従性に優れ、高い走行安定性を有している。
【0037】
また、本実施例の車いす1は、主車輪3にブレーキをかける駐車ブレーキ装置37が傾動フレーム部41に固定されているから、傾動フレーム部41の傾動に関わらず、駐車ブレーキ装置37と主車輪3との相対的な位置関係が一定に保たれる。これにより、路面に追従して傾動フレーム部41が傾動した状態でも、駐車ブレーキ装置37の操作により主車輪3に安定してブレーキをかけることができる。
【0038】
こうした実施例の構成にあって、傾動フレーム部41を傾動可能に支持する傾動支持部31の傾動軸32を設けた部位が、本発明にかかる支持部位に相当する。実施例の前側杆部42が、本発明にかかる前側突出部に相当し、実施例の後側杆部43が、本発明にかかる後側突出部に相当する。そして、後側杆部43(傾動フレーム部41)の長手方向が、本発明にかかる後側突出部の突出方向に相当する。実施例のガススプリング34が、本発明にかかる傾動フレーム付勢手段(およびバネ部材)に相当する。ガススプリング34の他端に設けた連結軸部35と傾動フレーム部41に設けた連結部45とにより、本発明にかかる連結機構部が構成されている。
【0039】
本発明は、前述した実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、前述の実施例における各部の寸法形状は、適宜変更することができる。
【0040】
実施例では、車いすがティルト機能を備えた構成としたが、これに限らず、該ティルト機能を備えない構成としても良い。また、ティルト機能に加えて、背もたれ部を座部に対して前後方向へ傾動させるリクライニング機能を備えた構成とすることもできる。さらには、ティルト機能を備えず、リクライニング機構を備えた構成であっても良い。こうしたリクライニング機構を備えた構成では、背もたれ部を後方へ倒した場合に、使用者の体重が後方へかかっても、後方へ倒れ難くでき、実施例と同様の作用効果を奏し得る。
【0041】
実施例にあって、傾動フレーム部における、傾動支持部と傾動可能に取り付けられる部位は、該傾動フレーム部の長手方向で適宜変更して設定することが可能である。ここで、傾動フレーム部における当該部位の設定については、主車輪と補助輪とへ配分する重量のバランスを考慮して設定されることが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1,101 車いす
2 本体フレーム
3 主車輪
4 前輪
5 補助輪
6 座部
7 背もたれ部
9 操作ハンドル
11 ベースフレーム部
12 揺動フレーム部
14 ベースサイドフレーム部
15 第一ベースフレーム部
16 第二ベースフレーム部
17 前側ベースフレーム部
21 サイドフレーム部
22 クロスフレーム部
24 主フレーム部
25 座フレーム部
26 背もたれフレーム部
27 フットフレーム部
28 フットレスト部
29 肘掛け部
30 ティルト作動補助部材
31 傾動支持部
32 傾動軸
34 ガススプリング(傾動フレーム付勢手段)
35 連結軸部
36 ブレーキ取付杆部
37 駐車ブレーキ装置
38 操作部
39 ブレーキ部
40 傾動案内部
41 傾動フレーム部
42 前側杆部(前側突出部)
43 後側杆部(後側突出部)
45 連結部
46 長孔
48 被案内部
101 平地
102 高地
103,105,109 段差
104,108 低地