(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053326
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】多層フィルム、包装用シート、及び、食品用容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240408BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B32B27/32 101
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159516
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】竹田 啓人
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD18
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB03
3E086BB05
3E086BB51
3E086CA01
3E086DA08
4F100AK04B
4F100AK04E
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK07E
4F100AK12C
4F100AK69D
4F100AK71A
4F100BA03
4F100BA07
4F100EC03
4F100GB16
4F100GB23
4F100JD02D
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】エチレン系樹脂に比較的高い温度で熱融着させた場合でも、エチレン系樹脂に対する剥離が容易な外層を有する多層フィルムを実現する。
【解決手段】多層フィルム10は、エチレン系樹脂を有する対外層面73aに対して接着及び剥離可能な外層11と、ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を有する対内層面31aに接着可能な内層と、を備え、外層11がカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーとランダムポリプロピレンとを含み、外層11中、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合が10重量%から56重量%であり、ランダムポリプロピレンの配合割合が44重量%から90重量%である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系樹脂を有する対外層面に対して接着及び剥離可能な外層と、
ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を有する対内層面に接着可能な内層と、を備え、
前記外層が、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、ランダムポリプロピレンと、を含み、
前記外層中、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合が10重量%から56重量%であり、ランダムポリプロピレンの配合割合が44重量%から90重量%である、多層フィルム。
【請求項2】
温度170℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、前記外層を前記エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度が、1N/15mm以上、4N/15mm以下である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
温度140℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、前記外層を前記エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度が、1N/15mm以上、4N/15mm以下である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記エチレン系樹脂は、極性基を有さないエチレン系樹脂である、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
温度150℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で前記内層と前記対内層面とを熱融着させたときの剥離強度が4N/15mm以上である請求項1から3のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記外層と、前記外層と接する第1保持層と、ガスバリア層と、前記内層と接する第2保持層と、前記内層とを記載の順に備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記第1保持層と前記第2保持層とが互いに同種の樹脂を含み、
前記同種の樹脂は、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂を含む、請求項6に記載の多層フィルム。
【請求項8】
前記ガスバリア層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、請求項6に記載の多層フィルム。
【請求項9】
前記対内層面を有する基材と、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層フィルムと、を備え、前記対内層面に前記内層が熱溶着されることで前記基材に前記多層フィルムがラミネートされている、包装用シート。
【請求項10】
請求項9に記載の包装用シートを成形した載置体と、前記対外層面を有する蓋材と、を備え、
前記蓋材の前記対外層面に前記外層が熱溶着されることで、前記対外層面と前記外層との間に食品が収容可能である、食品用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム、包装用シート、及び食品用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器の基材に予めラミネートされ、蓋材に対して接着及び易剥離機能を付与した多層フィルムが知られている。例えば特許文献1にはポリスチレン発泡体からなる包装用容器の基材に多層フィルムが貼り付けられ、蓋材が接着及び剥離可能な多層フィルム(共押出積層フィルム)が開示されている。このような多層フィルムは、蓋材の接着に用いられることで、内容物を容易に密封、開封が可能であることから、食品等の包装においても活用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、包装の形態によっては、スキンパック包装のように比較的高い温度で多層フィルムと蓋材とを接着することが求められる場合がある。しかし、多層フィルムを比較的高い温度で接着すると、その温度の上昇に伴って蓋材の対外層面と多層フィルムの外層との剥離強度が上昇し易くなる。このため、蓋材を開封することが困難になる場合があった。
【0005】
そこで、エチレン系樹脂に比較的高い温度で多層フィルムの外層を熱融着させた場合でも、剥離が容易な多層フィルムの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多層フィルムは、
エチレン系樹脂を有する対外層面に対して接着及び剥離可能な外層と、
ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を有する対内層面に接着可能な内層と、を備え、
前記外層が、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、ランダムポリプロピレンと、を含み、
前記外層中、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合が10重量%から56重量%であり、ランダムポリプロピレンの配合割合が44重量%から90重量%である。
【0007】
また、本発明に係る包装用シートは、前記対内層面を有する基材と、上記の多層フィルムと、を備え、前記対内層面に前記内層が熱溶着されることで前記基材に前記多層フィルムがラミネートされている。
【0008】
また、本発明に係る食品用容器は、上記の包装用シートを成形した載置体と、前記対外層面を有する蓋材と、を備え、前記蓋材の前記対外層面に前記外層が熱溶着されることで、前記対外層面と前記外層との間に食品が収容可能である。
【0009】
これらの構成によれば、外層がランダムポリプロピレンと、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、を含むため、エチレン系樹脂に多層フィルムの外層を比較的高い温度で熱融着させた場合でも、エチレン系樹脂に対する多層フィルムの外層の剥離が容易となる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
上記の多層フィルムは、一態様として、温度170℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、前記外層を前記エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度が、1N/15mm以上、4N/15mm以下であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、前記エチレン系樹脂に多層フィルムの外層を比較的高い温度で熱融着させた場合に、前記エチレン系樹脂に対する多層フィルムの外層の剥離を、1N/15mmから4N/15mmという比較的小さな力で容易に行うことができる。
【0013】
上記の多層フィルムは、一態様として、温度140℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、前記外層を前記エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度が、1N/15mm以上、4N/15mm以下であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、前記エチレン系樹脂に多層フィルムの外層を比較的低い温度で熱融着させた場合にも、前記エチレン系樹脂に対する多層フィルムの外層の剥離を、1N/15mmから4N/15mmという比較的小さな力で容易に行うことができる。
【0015】
上記の多層フィルムは、一態様として、前記エチレン系樹脂は、極性基を有さないエチレン系樹脂であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、極性基を有さないエチレン系樹脂に多層フィルムの外層を熱融着させた場合にも、前記エチレン系樹脂に対する多層フィルムの外層の剥離を、1N/15mmから4N/15mmという比較的小さな力で容易に行うことができる。
【0017】
上記の多層フィルムは、一態様として、温度150℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で前記内層と前記対内層面とを熱融着させたときの剥離強度が4N/15mm以上である。
【0018】
この構成によれば、蓋材を剥離する際に、容器と多層フィルムとの間で剥離が発生することを抑制できる。
【0019】
上記の多層フィルムは、一態様として、前記外層と、前記外層と接する第1保持層と、ガスバリア層と、前記内層と接する第2保持層と、前記内層とを記載の順に備えることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、多層フィルムにガスバリア性を付与することができ、且つ、外層或いは内層と多層フィルムのその他の部分とが剥離しにくくなる。
【0021】
上記の多層フィルムは、一態様として、前記第1保持層と前記第2保持層とが互いに同種の樹脂を含み、前記同種の樹脂は、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、多層フィルムの第1保持層と第2保持層とが互いに同種の樹脂を含むことで積層方向における層構造の対称性が高くなる。よって、加熱時に積層方向の一方側と他方側とで挙動の差が小さくなるので、熱融着する際の多層フィルムの湾曲を比較的少なく抑えることができる。
【0023】
上記の多層フィルムは、一態様として、前記ガスバリア層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、多層フィルムに高いガスバリア性を付与することができる。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図5】多層フィルムの外層側における剥離強度の試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔多層フィルム10の構成及び製造方法〕
本発明に係る多層フィルム10の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、多層フィルム10の層構成を示す断面模式図である。多層フィルム10は、第一の面の側に設けられた外層11と、第二の面の側に設けられた内層17とを備える。本実施形態では、多層フィルム10は、外層11と、外層11と接する第1保持層12と、ガスバリア層14と、内層17と接する第2保持層16と、内層17とを記載の順に備えている。図示の例では、多層フィルム10は、第1中間接着層13と第2中間接着層15とをさらに備え、外層11と内層17の間に外層11側から順に、第1保持層12、第1中間接着層13、ガスバリア層14、第2中間接着層15、及び、第2保持層16を備える。
【0028】
外層11は、エチレン系樹脂に対して接着及び剥離可能である。本実施形態では、外層11はエチレン系樹脂に熱融着可能な熱融着層である。外層11はランダムポリプロピレンと、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、を含む。外層11は、ランダムポリプロピレン及びカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーのみからなってもよいし、ランダムポリプロピレンとカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと他の材料との混合物からなってもよい。すなわち、上述の「外層11はランダムポリプロピレンと、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、を含む」という記載は、外層11ランダムポリプロピレンとカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーとは異なる材料が含まれることを排除する意図を有さない。この点は、以下に説明する他の層についても同様であり、各層を構成する材料に関する例示は、例示されている材料とは異なる材料が当該層に含まれることを妨げない。
【0029】
本実施形態では、外層11におけるカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合は、10重量%以上、56重量%以下である。好適には、外層11におけるカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合は、12重量%以上、56重量%以下である。更に、好適には、外層11におけるカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合は、20重量%以上、50重量%以下である。また、本実施形態では、外層11におけるランダムポリプロピレンの配合割合は、44重量%以上、90重量%以下である。好適には、外層11におけるランダムポリプロピレンの配合割合は、44重量%以上、82重量%以下である。更に、好適には、外層11におけるランダムポリプロピレンの配合割合は、50重量%以上、80重量%以下である。
【0030】
カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合が上記下限以上であることで、凝集剥離性を担保し、剥離強度が弱くなり過ぎないようにすることができる。また、上記上限以下であることで、剥離時の糸引き現象を抑え、剥離強度が強くなり過ぎないようにすることが出来る。なお、ランダムポリプロピレン及びカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマー以外の成分が外層11に含まれてもよい。この成分の配合割合は、好適には10重量%以下であり、より好適には5重量%以下であり、更に好適には1重量%以下である。
【0031】
ここで、「ランダムポリプロピレン」とは、ポリプロピレンのランダムコポリマーであり、例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマーが挙げられる。
【0032】
また、「カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマー」としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合樹脂(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合樹脂(EMAA)や、それらのアイオノマー(ION)樹脂等が挙げられる。また、外層11に含まれるポリエチレン系ポリマーが、カルボキシ基を有するポリエチレン系ポリマーであってもよい。
【0033】
また、「エチレン系樹脂」とは、エチレンを少なくともモノマー単位として含む樹脂である。エチレン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂等から構成される樹脂が例示される。「ポリエチレン系樹脂」とは、エチレンを少なくともモノマー単位として含む高分子である。ポリエチレン系樹脂は、ポリエチレン単独であってもよいし、ポリエチレンと他の材料との混合物により構成されていてもよい。例えば、ポリエチレン系樹脂がエチレンの単独重合体、エチレンと他の単量体とのブロック共重合体、又はエチレンと他の単量体とのランダム共重合体により構成されていてもよい。ポリエチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール系樹脂、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸系樹脂、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル系樹脂、アイオノマー樹脂(ION)等が挙げられる。ポリエチレンとしては、特に限定されないが、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDEP)等が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エチレンと酢酸ビニルとの混合物又は共重合体(EVA)等が挙げられる。好適には、エチレン系樹脂は、極性基を有さないエチレン系樹脂である。
【0034】
また、後述の「ポリプロピレン系樹脂」とは、プロピレンを少なくともモノマー単位として含む高分子である。ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン単独であってもよいし、ポリプロピレンと他の材料との混合物により構成されていてもよい。ここで、単独で、又は他の材料と混合して使用されるポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン(すなわち、ポリプロピレンのブロックコポリマーであり、例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ランダムポリプロピレン等が挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂がポリプロピレン以外の材料を含む場合、当該材料の例としては、ポリエチレンやエラストマーなどの高分子等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂として、ポリプロピレンと他の材料との混合物を用いると、耐寒衝撃性を付与することができる。
【0035】
また、後述の「ポリスチレン系樹脂」とは、モノマー単位としてスチレンを50mol%以上含む高分子を指し、スチレン以外のモノマー単位を有さないホモポリスチレンであってもよいし、スチレン以外のモノマー単位を含む変性ポリスチレンであってもよい。
【0036】
本実施形態では、第1保持層12と第2保持層16とが互いに同種の樹脂を含み、前記の同種の樹脂は、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂を含んでいる。ここで、「同種の樹脂」とは、共通の構成単位を有する樹脂同士であって、構成単位の全量(mol)対する共通の構成単位の量(mol)の割合がいずれも20mol%以上であるものを意味する。
【0037】
本実施形態では、第1保持層12は、外層11に接して設けられている。第1保持層12は、外層11と多層フィルム10のその他の部分とが剥離することを防止する機能を有する層であり、たとえば外層11を構成する材料と共通する分子構造を有する材料や、外層11を構成する材料と融点が近い材料などが用いられる。第1保持層12としては、例えば、前述のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0038】
本実施形態では、第2保持層16は、内層17に接して設けられている。第2保持層16は、内層17と多層フィルム10のその他の部分とが剥離することを防止する機能を有する層であり、たとえば内層17を構成する材料と共通する分子構造を有する材料や、内層17を構成する材料と融点が近い材料などが用いられる。第2保持層16としては、例えば、前述のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、第1中間接着層13及び第2中間接着層15は、それぞれ、その両側に隣接する層同士を接着させる機能を有する層である。すなわち、第1中間接着層13は第1保持層12とガスバリア層14とを接着させる層であり、第2中間接着層15はガスバリア層14と第2保持層16とを接着させる層である。第1中間接着層13及び第2中間接着層15を構成する材料としては、公知の接着性ポリマーを用いることができ、各層が接着させるべき二層の組合せに応じて使用する材料が選択される。
【0040】
本実施形態では、ガスバリア層14は、ガスバリア性を多層フィルム10に付与するための機能層である。「ガスバリア性」とは、ガスの透過しにくさのことを指す。ガスバリア層14は、例えば、炭酸ガス(CO2)、窒素ガス(N2O)、酸素ガス(O2)に対するガスバリア性を多層フィルム10に付与する。本実施形態では、ガスバリア層14は、特に酸素ガス(O2)に対するガスバリア性を多層フィルム10に付与するものであり、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む構成とされている。ここで、エチレン-ビニルアルコール共重合体として、エチレン含有率が38mol%以下のものを用いると、ガスバリア性が特に高くなるため好ましい。なお、エチレン-ビニルアルコール共重合体の他に、ガスバリア層14に含まれる材料として好適な材料の例としては、ポリアミドMXD6、ポリ塩化ビニリデンが挙げられる。また、ガスバリア層14に、ガスバリア性を有する添加剤(マイカ、粘土など)が配合されていてもよい。
【0041】
ガスバリア層14の材料及び厚さは、多層フィルム10のガスバリア性に対して大きく影響するため、要求されるガスバリア性を発現する範囲でガスバリア層14の材料及び厚さが選択される必要がある。ガスバリア層14の材料及び厚さは、当該材料を当該厚さに成形したフィルムについてJIS K 7126-2:2006(等圧法)により測定した酸素透過度が、5.0ml/m2・day・atm以下であるように決定される。例えば、ガスバリア層14をエチレン含有率が38mol%以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体により構成し、その厚さを6μm以上とすると、酸素透過度5.0ml/m2・day・atm以下の基準を達成しやすい。なお、ガスバリア層14の材料及び厚さは、当該材料を当該厚さに成形したフィルムの酸素透過度が3.0ml/m2・day・atm以下であるように決定されることがより好ましく、1.0ml/m2・day・atm以下であるように決定されることが更に好ましい。
【0042】
内層17は、ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂に接着可能である。本実施形態では、内層17は、ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂に熱融着可能な熱融着層である。また、本実施形態では、内層17は接着性ポリマーを含む。内層17の接着性ポリマーとしては、例えば、酢酸ビニルをモノマー単位として含む共重合体(以下、酢酸ビニル共重合体という。)、ポリエチレン等が挙げられる。好適には、接着性ポリマーは、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(変性EVA)を含む。この接着性ポリマーは、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体の単一成分からなってもよい。また、接着性ポリマーは、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体と、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体をモノマー単位として含まない樹脂(ポリエチレン、エチレンブテン共重合体など)と、の混合物からなってもよい。
【0043】
多層フィルム10を構成する各層に用いられる高分子材料には、公知の添加剤が添加されてもよい。かかる添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、撥水材、撥油材などが例示される。
【0044】
本実施形態の多層フィルム10の製造方法としては、例えば共押出成形が用いられる。すなわち、外層11、第1保持層12、第1中間接着層13、ガスバリア層14、第2中間接着層15、第2保持層16、及び内層17を構成する各材料を押出機から押し出して、これをTダイから吐出させることによって、上記の構成の多層フィルム10が得られる(押出工程の例)。なお、その他に、層ごとにフィルム状に成形した外層11、第1保持層12、第1中間接着層13、ガスバリア層14、第2中間接着層15、第2保持層16、及び内層17を互いに熱融着させる方法によっても多層フィルム10が得られる。
【0045】
本実施形態に係る多層フィルム10の厚さは、例えば60μmである。その厚さの内訳は、外層11が6μm(多層フィルム10の厚さの10%。以下同様。)、第1保持層12が9.6μm(16%)、第1中間接着層13が4.8μm(8%)、ガスバリア層14が7.2μm(12%)、第2中間接着層15が4.8μm(8%)、第2保持層16が15.6μm(26%)、内層17が12μm(20%)である。なお、多層フィルム10の厚さは特に限定されないが、40以上100μm以下が望ましい。多層フィルム10の厚さが40μm未満であると、ガスバリア層14が薄くなり、ガスバリア性が必要とされる水準に満たない場合がある。また、多層フィルム10の厚さが40μm未満であると、多層フィルム10を製造する際の歩留まりが低くなる可能性がある。一方、多層フィルム10の厚さが100μmを超えると、内層17を他部材と熱融着させる際に接着面に熱が伝わりにくくなり、熱融着不良が生じやすくなる場合がある。なお、各層の厚さの絶対値及び多層フィルム10の厚さに対する割合についても、上記の例示に限定されるわけではない。
【0046】
本実施形態では、内層17を、温度150℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、ポリスチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度は、好適には、4N/15mm以上である。更に好適には、9N/15mm以上である。内層17側の上記剥離強度は、外層11側の上記剥離強度より大きいことが望ましいが、小さくてもよい。
【0047】
本実施形態では、外層11を、温度170℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度は、好適には、1N/15mm以上、4N/15mm以下である。より好適には、1N/15mm以上、3.5N/15mm以下である。更に好適には、1N/15mm以上、3N/15mm以下である。
【0048】
また、本実施形態では、外層11を、温度160℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度は、好適には、1N/15mm以上、4N/15mm以下である。より好適には、1N/15mm以上、3.5N/15mm以下である。更に好適には、1N/15mm以上、3N/15mm以下である。
【0049】
また、本実施形態では、外層11を、温度150℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度は、好適には、1N/15mm以上、4N/15mm以下である。より好適には、1N/15mm以上、3.5N/15mm以下である。更に好適には、1N/15mm以上、3N/15mm以下である。
【0050】
また、本実施形態では、外層11を、温度140℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で、エチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度は、好適には、1N/15mm以上、4N/15mm以下である。より好適には、1N/15mm以上、3.5N/15mm以下である。更に好適には、1N/15mm以上、3N/15mm以下である。
【0051】
このように、本実施形態では、少なくとも140℃以上170℃以下の温度域全体で、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で外層11をエチレン系樹脂に熱融着させた場合の剥離強度が、好適には4N/15mm以下、より好適には3.5N/15mm以下、更に好適には3N/15mm以下に抑えられる。このようにすれば、エチレン系樹脂に多層フィルム10の外層11を比較的低い温度のみならず比較的高い温度で熱融着させた場合にも、エチレン系樹脂に対する多層フィルム10の外層11の剥離を容易とすることができる。特に、後述のスキンパック包装では、剥離する面積が大きいために、剥離強度が4N/15mmを超えると剥離することが困難となる。
【0052】
また、外層11のランダムポリプロピレンのメルトフローレート(MFR1)と、外層11のカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーのメルトフローレート(MFR2)の比をMFR2/MFR1とする。このMFR2/MFR1は1.5以上であることが好ましい。このようにすれば、外層11内において凝集破壊を伴いながら剥離する凝集剥離を発生させることで界面剥離を抑制し易い。また、MFR2/MFR1が2.5以下であることが好ましい。このようにすれば、糸引きの発生を抑制し易い。糸引きとは、剥離時に剥離箇所間で樹脂成分が糸を引いた状態となって、剥離面が平坦にならない現象である。なお、MFRは、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0053】
〔包装用シート30の構成及び製造方法〕
本実施形態に係る包装用シート30は、対内層面31aを有する基材31と多層フィルム10とを備える多層構造の包装用シートである。
図2に包装用シート30の断面模式図を示す。
【0054】
対内層面31aは、ポリスチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂を有している。本実施形態では、包装用シート30は、対内層面31aに内層17が熱溶着されることで基材31に多層フィルム10がラミネートされている。基材31は、例えば、ポリスチレン系樹脂、又は、ポリプロピレン系樹脂を含むシートであり、そのシートの少なくとも一面が対内層面31aである。好適には、基材31が含むポリスチレン系樹脂は発泡ポリスチレンである。また、好適には、基材31が含むポリプロピレン系樹脂は発泡ポリプロピレン樹脂である。ポリプロピレン系樹脂が非発泡ポリプロピレン樹脂であってもよい。「ポリスチレン系樹脂」及び「ポリプロピレン系樹脂」の定義は前述の通りである。
【0055】
基材31は、例えば、基材31として厚さが3mm以下、密度が0.05から0.5g/cm3、発泡率が2から20倍の発泡スチレンシートが使用される。発泡スチレンシートは、任意の形状の容器を形成しやすいことから好適に用いられる。例えば、ポリプロピレン製の容器を同形状の発泡スチレンシートから形成された容器に変更すると、包材の重量をおよそ半分に低減できる。
【0056】
図3は、ラミネート方法の一例を示す模式図である。包装用シート30は、多層フィルム10の内層17が基材31の対内層面31aに熱融着されることで、基材31に多層フィルム10がラミネートされている。ここで、ラミネート方法は公知の方法であってよく、例えば
図3に示すロール装置50を用いた溶融圧着方式が用いられ得る。原料ロール51に多層フィルム10の原反ロールを、原料ロール52に基材31の原反ロールを設置する。原料ロール51及び原料ロール52からそれぞれ送り出された多層フィルム10及び基材31は、加熱ロール53A及び対向ロール53Bから構成される溶融圧着ロール53の手前で互いに接触し、溶融圧着ロール53において溶融圧着される。より詳細には、溶融圧着ロール53の手前で、多層フィルム10の内層17が基材31の対内層面31aに接触する。なお、基材31が多層フィルム10と接触する前に基材31が予熱されるように構成されてもよい。この多層フィルム10の内層17が基材31の対内層面31aとの溶融圧着は、好適には、温度150℃、時間2.0秒、圧力0.2MPaの条件で行われる。
【0057】
溶融圧着ロール53のうち、加熱ロール53Aは加熱されている。加熱ロール53Aに対向して設けられている対向ロール53Bは、加熱されている場合と加熱されていない場合とが適宜選択される。加熱ロール53Aと対向ロール53Bにより多層フィルム10及び基材31は圧着され、圧着されて得られた包装用シート30は、製品ロール54に巻き取られる。
【0058】
なお、
図3の例に示す溶融圧着方式のラミネート方法に替えて、押出ラミネート法を用いてもよい。押出ラミネート法によるラミネートを行う場合、基材31に対して多層フィルム10を溶融状態で押し出したのちに、冷却及び圧着することによってラミネートを完成させる。この場合の多層フィルム10を溶融状態で押し出す方法は、上述の多層フィルム10の製造方法と同じとすることができる。
【0059】
包装用シート30は、例えば食品や薬品等の包装に用いられ得る。この場合、多層フィルム10の内層17は基材31に熱融着されるのに対し、外層11は食品や薬品等と接する。従って、多層フィルム10の外層11は、耐油性、耐薬品性、又は、耐油性及び耐薬品性を有することが望ましい。
【0060】
〔食品用容器70の構成及び製造方法〕
図4は、包装用シート30を備える食品用容器70を示す図である。本実施形態では、食品用容器70は、包装用シート30を成形した載置体71と、対外層面73aを有する蓋材72とを備えている。対外層面73aは、エチレン系樹脂を有している。本実施形態では、蓋材72がエチレン系樹脂からなるエチレン系樹脂部73を備え、エチレン系樹脂部73が対外層面73aを備えている。対外層面73aはエチレン系樹脂を有し、多層フィルム10の外層11が接着される面である。食品用容器70は、蓋材72が有する対外層面73aに載置体71の外層である多層フィルム10の外層11が熱融着されることで、蓋材72と外層11との間に食品Fが収容可能となっている。
【0061】
図4は、スキンパック包装用の食品用容器70の載置体71と蓋材72であるスキンフィルムとの間に食品Fを挟んで密着した状態で載置体71とスキンフィルムの対外層面73aとを熱融着した状態を示している。「スキンパック包装」とは、トレー、台紙、エアキャップ、或いはフィルム等の載置体71上に製品を置き、加熱したスキンフィルムを蓋材72として上から被せ、同時に下方から空気を抜き、蓋材72であるスキンフィルムを食品Fと載置体71に密着させて好適には密封する包装方法である。蓋材72であるスキンフィルムを構成する樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系樹脂、低密度ポリエチレン(LDPE)系樹脂等が挙げられる。
図4の例では蓋材72全体がエチレン系樹脂部73となっている。
【0062】
本実施形態では、蓋材72のエチレン系樹脂部73と、包装用シート30から成形された載置体71の外層11とが熱融着されている。このため、多層フィルム10と蓋材72とにより画定される空間に食品Fを密封することが可能である。例えば、多層フィルム10はガスバリア層14に由来する高いガスバリア性(特に酸素バリア性であり、酸素透過度5.0ml/m2・day・atm以下である。)を有する。蓋材72が同様に高いガスバリア性を有することにより、食品Fを高いガスバリア性を有する部材により密封することができるので、食品Fの劣化を抑制できる。
【0063】
輸送や陳列時に蓋材72が剥がれないために、蓋材72のエチレン系樹脂部73と載置体71の外層11との剥離強度は1N/15mm以上が求められる。また、食品用容器70から食品Fを取り出す場合は、蓋材72のエチレン系樹脂部73を載置体71から剥離する。この場合は、蓋材72のエチレン系樹脂部73を載置体71の外層11から剥離する一方で、載置体71の内層17は基材31から剥離しないことが求められる。このため、蓋材72のエチレン系樹脂部73と外層11との剥離強度は、内層17と基材31との剥離強度より小さい値であることが好ましい。また、蓋材72を載置体71から剥離する操作は一般的に手作業で行われるので、蓋材72のエチレン系樹脂部73と外層11との剥離強度は手作業で剥離しやすい程度とすることが好ましく、具体的には11N/15mm以下とすることが好ましい。
【0064】
包装用シート30から載置体71を得るための加工方法(容器成形工程)としては、公知の方法を用いることができる。かかる加工方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチフォーミング成形、プレス成形などの方法が例示される。
【0065】
従来用いられてきたガスパック包装(Modified Atmosphere Packaging)では、多層フィルム10と蓋材72が有する対外層面73aとの接着面積が比較的小さいことから、剥離強度を例えば4以上12N/15mm以下としても容易に開封可能であった。しかし、接着面積が比較的大きいスキンパック包装では、剥離強度を4以上12N/15mm以下とすると容易に蓋材72を開封出来ない場合があった。また、スキンパック包装では、内容物に対する蓋材72の追従性が温度によって変化し、より高い温度帯であるほど蓋材72の追従力が上昇する傾向がある。そのため、蓋材72の性能を十分に活かすために、より高温領域でのシールが望まれるが、それに伴い剥離強度が上昇し、スキンパック包装の蓋材72を開封することがより困難になる場合があった。さらに、スキンパック包装では、蓋材72として代表的な低密度ポリエチレン(LDPE)系樹脂のみならず、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系樹脂がシーラントとして使用されることがあり、極性基を有するエチレン系樹脂に対してもシール性が求められる。
【0066】
本発明に係る多層フィルムは、エチレン系樹脂を有する対外層面73aに対して接着及び剥離可能な外層11と、ポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を有する対内層面31aに接着可能な内層17と、を備え、外層11が、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、ランダムポリプロピレンと、を含み、外層11中、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの配合割合が10重量%から56重量%であり、ランダムポリプロピレンの配合割合が44重量%から90重量%である。このようにすれば、極性基を有さないエチレン系樹脂或いは極性基を有するエチレン系樹脂に多層フィルム10の外層11を比較的高い温度で熱融着させた場合でも、エチレン系樹脂に対する多層フィルム10の外層11の剥離が容易となる。
【0067】
〔その他の実施形態〕
次に、本発明に係る多層フィルム10、包装用シート30、及び食品用容器70のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0068】
上記の実施形態では、多層フィルム10が、外層11、第1保持層12、第1中間接着層13、ガスバリア層14、第2中間接着層15、第2保持層16、及び内層17を備える構成を例として説明した。しかし、そのような例に限定されることなく、例えば、多層フィルム10が、外層11及び内層17以外の層を備えない構成であってもよいまた、ガスバリア以外の機能を有する機能層が外層11と内層17との間に設けられていてもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、外層11及び内層17が単層である構成を例として説明した。しかし、そのような例に限定されることなく、例えば、外層11が多層構造であってもよい。この場合は、外層11を構成する複数の層の最も外側に位置する最外層がランダムポリプロピレンと、カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーと、を含んでいればよい。また、内層17が多層構造であってもよい。この場合は、内層17を構成する複数の層の最も内側に位置する層、すなわち他部材に接する最内層がポリスチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を有する対内層面31aに接着可能であればよい。
【0070】
また、上記の実施形態では、包装用シート30の基材31が発泡スチレンシートであり、スキンパック包装用の食品用容器70の載置体71として成形される構成を例として説明した。しかし、そのような例に限定されることなく、例えば、包装用シート30において、多層フィルム10がラミネートされる基材31の材質がプラスチック、天然樹脂、紙、木材、金属等でもよい。また、包装用シート30がトップシール包装用の食品用容器70に用いられてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態では、蓋材72の対外層面73aに外層11が熱融着されることで、蓋材72と載置体71の外層11との間に食品Fが密封可能である構成を例として説明した。しかし、そのような例に限定されることなく、例えば、食品Fを密封できなくともよい。すなわち、対外層面73aに外層11が熱融着されることで、蓋材72と外層11との間に食品Fが収容可能であればよい。また、
図4に示す例では、載置体71は板状に成形されていたが、包装用シート30を成形して得られる載置体71の形状は特に限定されない。
【0072】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0073】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
表1に試料1から試料6の多層フィルムの構成を示す。
【表1】
【0075】
〔多層フィルムの作製〕
表1の試料1から試料6の多層フィルムの製造手順を以下に示す。
【0076】
<試料1の原料樹脂>
試料1の多層フィルムの製造に使用した各層の原料樹脂は、以下のとおりである。
「外層11」
樹脂(A)エチレン-メタクリル酸共重合体樹脂
原料:三井・ダウポリケミカル(株)製、ニュクレル(商標)N0903HC
密度:0.930g/cm3
樹脂(B)ランダムポリプロピレン樹脂
原料:住友化学(株)製、住友ノーブレン(商標)S131
密度:0.890g/cm3
「第1保持層12」
・ランダムポリプロピレン樹脂
原料:住友化学(株)製、住友ノーブレン(商標)FL8115A
密度:0.900g/cm3
「第1中間接着層13」
・ポリプロピレン系接着性樹脂
原料:三井化学(株)製、アドマー(商標)QF551
密度:0.890g/cm3
「ガスバリア層14」
・エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂
原料:(株)クラレ製、エバール(商標)J171B
エチレン含有量:32モル%
「第2中間接着層15」
・ポリエチレン系接着性樹脂
原料:三井化学(株)製、アドマー(商標)NF536
密度:0.905g/cm3
「第2保持層16」
・直鎖状低密度ポリエチレン
原料:宇部丸善ポリエチレン(株)製、ユメリット(商標)1520F
密度:0.913g/cm3
「内層17」
・変性ポリオレフィン樹脂
原料:東ソー(株)製、メルセン(商標)MX71A
密度:0.940g/cm3
【0077】
<試料1の製造>
上記の原料樹脂を用い、共押出成形により試料1を製造した。試料1の多層フィルムは、外層11(厚さ=6μm)、第1保持層12(厚さ=9.6μm)、第1中間接着層13(厚さ=4.8μm)、ガスバリア層14(厚さ=7.2μm)、第2中間接着層15(厚さ=4.8μm)、第2保持層16(厚さ=15.6μm)、及び内層17(厚さ=12μm)がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された、厚さが60μmのものである。また、外層11の配合割合は、(A)EMAA36%、(B)ランダムポリプロピレン64%である。
【0078】
<試料2の製造>
外層11を構成する樹脂(A)の代わりにエチレン-アクリル酸共重合体樹脂(三井・ダウポリケミカル(株)製、ニュクレル(商標)AN4221C)を、外層11を構成する樹脂(B)の代わりにランダムポリプロピレン(住友化学(株)製、ノーブレン(商標)FL6737)を用いた点以外は、試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料2とした。
【0079】
<試料3の製造>
外層11の配合割合を(A)EMAA9%、(B)ランダムポリプロピレン91%に変更した以外、試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料3とした。
【0080】
<試料4の製造>
外層11の配合割合を(A)EMAA60%、(B)ランダムポリプロピレン40%に変更した以外、試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料4とした。
【0081】
<試料5の製造>
外層11を構成する樹脂(B)としてランダムポリプロピレンの代わりにホモポリプロピレン(住友化学(株)製、ノーブレン(商標)FS2011DG2)を用いた点以外は、試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料5とした。
【0082】
<試料6の製造>
外層11を構成する樹脂(A)としてカルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの代わりに低密度ポリエチレン(住友化学(株)製、スミカセン(商標)L211)を用いた点以外は、試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料6とした。
【0083】
〔包装用シートの作製〕
試料1から試料6の多層フィルムの内層17を基材31の対内層面31aに熱融着して包装用シート30を作成した。熱融着条件、及び、基材31は、以下の通りである。
「熱融着条件」
・温度:150℃
・時間:2.0秒
・圧力:0.2MPa
「基材31」
・発泡PS
【0084】
〔包装用シートの剥離強度試験1〕
試料1から試料6の包装用シート30の外層11をエチレン系樹脂に熱融着した後、JIS Z 0238:1998に準拠して、15mm幅で、MD方向(Machine Direction)の剥離強度を測定した。熱融着条件及びエチレン系樹脂は、以下の通りである。
「熱融着条件」
・温度:140℃、170℃
・時間:2.0秒
・圧力:0.2MPa
「エチレン系樹脂」
・極性基を有さないエチレン系樹脂:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)
・極性基を有するエチレン系樹脂 :エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA):
【0085】
〔試験結果〕
試料1から試料6の外層11とエチレン系樹脂との上記剥離強度試験の結果を表2に示す。
【表2】
【0086】
(試料1及び試料2)
熱融着条件が140℃及び170℃において、極性基を有さないエチレン系樹脂であるLLDPEに対する試料1及び試料2の外層11側の剥離強度は、それぞれ1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。また、極性基を有さないエチレン系樹脂であるEVAに対する試料1及び試料2の外層11側の剥離強度は、それぞれ1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。
【0087】
(試料3)
EMAAの配合割合が9重量%、ランダムポリプロピレンの配合割合が91重量%である、試料3の外層11側の剥離強度は、熱融着条件が170℃において1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。しかし、熱融着条件が140℃においては、剥離強度が1.0N/15mmより低く、好ましい結果ではなかった。
【0088】
(試料4)
EMAAの配合割合が36重量%、ランダムポリプロピレンの配合割合が64重量%である、試料4の外層11側の剥離強度は、熱融着条件が140℃において1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。しかし、熱融着条件が170℃においては、剥離強度が4.0N/15mmより高く、好ましい結果ではなかった。
【0089】
(試料5)
ランダムポリプロピレンの代わりにホモポリプロピレンを用いた試料5の外層11側の剥離強度は、熱融着条件が140℃及び170℃において1.0N/15mmより低く、好ましい結果ではなかった。
【0090】
(試料6)
カルボニル基を有するポリエチレン系ポリマーの代わりに低密度ポリエチレンを用いた試料6の外層11側の剥離強度は、熱融着条件が140℃において1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。しかし、熱融着条件が170℃においては、剥離強度が4.0N/15mmより高く、好ましい結果ではなかった。
【0091】
上記のように、試料3から試料6では外層11側の剥離強度に温度依存性が見られたが、試料1及び試料2では外層11側の剥離強度が140℃及び170℃において、それぞれ良好な結果が得られた。
【0092】
〔包装用シートの剥離強度試験2〕
熱融着温度を変更し、〔包装用シートの剥離強度試験1〕と同様の試験を行った。熱融着条件、エチレン系樹脂、包装用シート30は、以下の通りである。
「熱融着条件」
・温度:140℃、150℃、160℃、170℃
・時間:2.0秒
・圧力:0.2MPa
「エチレン系樹脂」
・エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)
「包装用シート30」
<試料1-1> 試料1と同じ
<試料1-2> 試料1と同じ
<試料7>
・樹脂(A):カルボニル基を有さないポリエチレン
・樹脂(B):ポリプロピレン系樹脂
【0093】
〔試験結果〕
試料1-1、試料1-2、試料7の外層11とエチレン系樹脂(EVA)との上記剥離強度試験の結果を
図5に示す。
【0094】
図5に示すように、試料1-1、試料1-2では、140℃から170℃において、外層11側の剥離強度が1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であり、良好な結果が得られた。比較例である試料7は、140℃から150℃では、外層11側の剥離強度が1.0N/15mm以上、4.0N/15mm以下であったが、外層11側の剥離強度が4.0N/15mmより高く、温度依存性が見られ好ましい結果ではなかった。
【符号の説明】
【0095】
10 :多層フィルム
11 :外層
12 :第1保持層
13 :第1中間接着層
14 :ガスバリア層
15 :第2中間接着層
16 :第2保持層
17 :内層
30 :包装用シート
31 :基材
31a :対内層面
70 :食品用容器
71 :載置体
72 :蓋材
73a :対外層面
F :食品