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特開2024-53345アルツハイマー型認知症抑制剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053345
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】アルツハイマー型認知症抑制剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20240408BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240408BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P25/28
A61K31/7048
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159550
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】598092270
【氏名又は名称】有限会社 坂本薬草園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山原 條二
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD56
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086EA11
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA16
4C088AB12
4C088AC02
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA10
4C088BA14
4C088BA32
4C088CA06
4C088CA09
4C088NA14
4C088ZA16
(57)【要約】
【課題】本発明は、安全であり毎日の服用も可能で健康食品としての利用もでき、アルツハイマー型認知症を抑制することができるアルツハイマー型認知症抑制剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、胡麻(Sesamum indicum)の地上部、又はその抽出物を有効成分として含むことを特徴とする。本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤の製造方法は、胡麻(Sesamum indicum)の種子を播種し、生育させる工程、及び、生育した胡麻の地上部を採取する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胡麻(Sesamum indicum)の地上部、又はその抽出物を有効成分として含むことを特徴とするアルツハイマー型認知症抑制剤。
【請求項2】
前記胡麻地上部が葉である請求項1に記載のアルツハイマー型認知症抑制剤。
【請求項3】
前記地上部またはその抽出物がペダリインを含む請求項1に記載のアルツハイマー型認知症抑制剤。
【請求項4】
アルツハイマー型認知症抑制剤を製造するための方法であって、
胡麻(Sesamum indicum)の種子を播種し、生育させる工程、及び、
生育した胡麻の地上部を採取する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
1以上の蕾が見られ且つ種子が熟するまでに採取する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更に、胡麻の地上部から溶媒を使って有効成分を抽出し、抽出溶液を得る工程を含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒としてアルコール系溶媒を用いる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
更に、アルコール系溶媒抽出物を、炭化水素溶媒で抽出し、抽出残渣を得る工程を含む請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全であり毎日の服用も可能で健康食品としての利用もでき、アルツハイマー型認知症を抑制することができるアルツハイマー型認知症抑制剤とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省発表の“一万人コホート年齢階級別の認知症有病率”をみると、65-69歳の認知症有病率は1.5%であるのが、85-89歳の認知症有病率は44.3%にも達している(非特許文献1)。また、非特許文献2に記載の報告にも、同様の傾向が見られる。
【0003】
認知症の中でもアルツハイマー型認知症の患者数は、2019年の時点で全世界において5,700万人であり、2050年には1億5000万人に達すると推定されている。アルツハイマー型認知症は、長年に及ぶアミロイドβ(以下、「Aβ」と略記する)の脳内蓄積によって誘発される。よって、Aβ前駆物質の蓄積を早期に排除し、またAβの凝集を阻害することがアルツハイマー型認知症の抑制に重要であると考えられる。また、Aβと類似するhuman islet amyloid polypeptide(以下、「hIAPP」と略記する)がヒト膵臓β細胞にそれぞれ蓄積し、アルツハイマー病やII型糖尿病の発症に関連するということも言われている(非特許文献2)。
【0004】
上記の通り、アルツハイマー型認知症に対しては、長年に及ぶAβの脳内蓄積によって誘発されることから、日常的に手軽に、長年に亘って摂取可能で安全性が高く、安価な薬剤が求められている。例えば、特許文献1~5には、Aβ凝集阻害活性を有する天然物由来抽出物として、ブドウ種子抽出物、ウコン抽出物、ウンカリア・トメントーサ抽出物、緑茶抽出物、及びチリメンアオジソ抽出物がそれぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/137818号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/109210号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/042429号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2001/049307号パンフレット
【特許文献5】特許第6707251号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】厚生労働省,“認知症施策の動向”,[online],[令和4年8月23日検索],インターネット <https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/000237803.pdf>
【非特許文献2】篠原もえ子,ファルマシア,2022年,58巻,8号,p.768-771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、植物由来のAβ凝集阻害物質は知られている。しかし、日本で実際に上市されているアルツハイマー型認知症はドネペジル塩酸塩錠のみであるが、ドネペジル塩酸塩錠は重大な副作用を示し得ることに加え、アルツハイマー型認知症を根本的に治療できるものではなく、症状の進行を抑制できるものでしかない。よって、Aβ前駆物質の生成やAβの凝集を抑制するなど、アルツハイマー型認知症を根本的に治療できるものであり、且つ安全な薬剤が求められている。
そこで、本発明は、安全であり毎日の服用も可能で健康食品としての利用もでき、アルツハイマー型認知症を抑制することができるアルツハイマー型認知症抑制剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、食用にも付され安全な胡麻の地上部に、アルツハイマー型認知症を根本的に抑制できる成分が含まれていることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 胡麻(Sesamum indicum)の地上部、又はその抽出物を有効成分として含むことを特徴とするアルツハイマー型認知症抑制剤。
[2] 前記胡麻地上部が葉である前記[1]に記載のアルツハイマー型認知症抑制剤。
[3] 前記地上部またはその抽出物がペダリインを含む前記[1]または[2]に記載のアルツハイマー型認知症抑制剤。
[4] アルツハイマー型認知症抑制剤を製造するための方法であって、
胡麻(Sesamum indicum)の種子を播種し、生育させる工程、及び、
生育した胡麻の地上部を採する工程を含むことを特徴とする方法。
[5] 1以上の蕾が見られ且つ種子が熟するまでに採取する前記[4]に記載の方法。
[6] 更に、胡麻の地上部から溶媒を使って有効成分を抽出し、抽出溶液を得る工程を含む前記[4]または[5]に記載の方法。
[7] 前記溶媒としてアルコール系溶媒を用いる前記[6]に記載の方法。
[8] 更に、アルコール系溶媒抽出物を、炭化水素溶媒で抽出し、抽出残渣を得る工程を含む前記[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルツハイマー型認知症の有効成分は、食用にも付される胡麻の地上部に含まれるものであるので安全であり、毎日の恒常的な摂取も可能である。また、本発明に係るアルツハイマー型認知症は、Aβ前駆物質を低減したり、Aβの凝集を阻害する等、アルツハイマー型認知症の原因を直接除去してアルツハイマー型認知症を根本的に予防および/または治療できると考えられる。従って本発明は、アルツハイマー型認知症の予防薬や治療薬として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、正常老化マウスSAM-Rと老化促進モデルマウスSAM-P8のゲノム発現の差異を示すPCA図である。
図2図2は、正常老化マウスSAM-Rと、胡麻黒八(登録商標)の葉(SSa)のエキスの粉末を7日間経口投与した老化促進モデルマウスSAM-P8のゲノム発現の差異を示すPCA図である。
図3図3(1)は、対照群とドネペジル投与群との間の遺伝子レベルでのPCA分析結果を示す図であり、図3(2)は、エキソンレベルでのPCA分析結果を示す図である。
図4図4(1)は、対照群とアクティオサイド投与群との間の遺伝子レベルでのPCA分析結果を示す図であり、図4(2)はエキソンレベルでのPCA分析結果を示す図である。
図5図5(1)は、対照群とSSaエキス粉末投与群との間のPCA分析結果を示す図であり、図5(2)はエキソンレベルでのPCA分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、胡麻(Sesamum indicum)の地上部、又はその抽出物を有効成分として含む。本開示において有効成分とは、本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤に含まれる成分のうちアルツハイマー型認知症の抑制作用を有する成分をいい、換言すれば、本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、アルツハイマー型認知症の抑制効果が発揮される量の胡麻の地上部又はその抽出物を含む。具体的には、特に制限されないが、例えば、本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤における胡麻の地上部又はその抽出物の割合を10質量%以上、100質量%以下とすることができる。なお、本発明において抑制には、アルツハイマー型認知症の発症を抑制する予防の概念と、アルツハイマー型認知症の症状を緩和および/または寛容する治療の概念が含まれるものとする。
【0013】
胡麻(Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草であり、大きさや色調など種子の形状の違いに基づくと約3000種あると言われる。胡麻の種類は特に制限されないが、本発明者により、胡麻黒八(登録商標)の葉の優れたアルツハイマー型認知症抑制作用が実験的に確認されている。
【0014】
胡麻黒八(登録商標)は、Sa Mong Nan Net Thaeの名でミャンマーの特定地域において古くから栽培されているものであり、小粒の黒胡麻であり、その種子は、品種登録されているリグナン胡麻(登録番号:19697,出願番号:20790,農林水産植物の種類:Sesamum indicum L.,品種名称:ITCFA2001;登録番号:19698,出願番号:20791,農林水産植物の種類:Sesamum indicum L.,品種名称:ITCFA2002)の種子と重量や外観が非常によく似ているが、本発明者は、ゲノム解析の結果、両者ゲノム間には大きな配列の挿入や欠失が見られるなど、進化的に異なる品種であることが明らかにした。胡麻黒八とリグナン胡麻のゲノムの差異は、PCRにより検証することが可能である。
【0015】
地上部とは、胡麻種子を播種して育成したとき、地中に無く、地上から見られる部分をいうものとする。胡麻の地上部は、育成した胡麻から地下部を切断除去することにより得ることができる。
【0016】
胡麻の地上部は、例えば、本葉が2枚以上見られる株のものであることが好ましい。また、胡麻の地上部は、完熟種子が結実するまで、例えば未熟果を有するものを採取することが好ましい。また、草丈が50cm以上のものや、1以上の蕾を有するもので開花前のもの、1以上の開花が見られるまでのもの等も採取することができる。播種から採取までの期間は適宜調整すればよいが、例えば、1ヵ月以上とすることができ、2ヵ月以上または2.5ヵ月以上が好ましく、また、5ヵ月以下とすることができ、4ヵ月以下が好ましく、3.5ヵ月以下がより好ましい。
【0017】
胡麻の地上部としては、葉が好ましい。葉としては、葉柄を含むものであっても含まないものであってもよい。葉柄を含まない葉の方が、重量あたりの有効成分の含有量は多いが、葉柄を含む葉は、採取の手間がよりかからないという利点がある。
【0018】
胡麻の地上部は、そのまま用いてもよいが、例えば、水洗、乾燥、粉砕、加水分解および抽出から選択される1以上の処理を行ってもよい。加水分解処理としては、例えば、25±5℃、湿度90%以上で、1時間以上、5時間以下程度処理したり、ドラム中で回転させた後に加熱して加水分解を停止させることが挙げられる。加水分解処理により、苦味を低減できる可能性がある。
【0019】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤の有効成分の形態は特に制限されず、例えば、液状、ペースト状、及び粉末状が挙げられる。粉末には、粗粉末、マイクロパウダー、及びナノマイクロパウダーが含まれる。
【0020】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤の形態は特に制限されないが、例えば、固形状、ゲル状、及び液状が挙げられる。より具体的には、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、トローチ剤、及び液剤などが挙げられる。
【0021】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、その剤形に応じて、有効成分以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、安定剤、吸収促進剤、分化剤、及び防腐剤が挙げられ、その配合量は特に制限されず、適宜調整すればよい。
【0022】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、例えば、以下の工程を含む方法により製造することができる。
【0023】
1.胡麻の播種生育工程
本工程では、胡麻の種子を播種し、生育させる。本工程は、胡麻の通常の育て方に準じて行えばよい。例えば、胡麻の種子は、最高気温が20℃を超えるようになってから、日本では5月中旬から6月中旬に播けばよい。具体的には、深さ1cm程の穴を開け、穴1つ当たり5~6粒の種を入れた後、土を被せて水を十分に与える。本葉が1~2枚のところで、1ヶ所に3本くらいになるよう、生育の悪いものを間引き、本葉が3~4枚のときに2本、本葉が5~6枚のときに1本になるよう間引く。
【0024】
2.胡麻の地上部の採取工程
本工程では、生育した胡麻の地上部を採取する。具体的には、生育した胡麻の地下部から地上部を分離すればよい。採取の時期や後処理などは、上述した通りである。
【0025】
3.抽出工程
本工程では、胡麻の地上部から溶媒を使って有効成分を抽出する。本工程は、実施しても実施しなくてもよいが、抽出により、有効成分のアルツハイマー型認知症抑制作用をより一層高めることができる可能性がある。
【0026】
本工程で抽出に用いる溶媒は、特に制限されず適宜選択すればよいが、安全性の観点から、例えば水系溶媒が挙げられる。水系溶媒は、水、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒をいう。混合溶媒における水溶性有機溶媒の割合は、適宜調整すればよいが、例えば、20質量%以上とすることができ、30質量%以上または40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。当該割合の上限は特に制限されないが、例えば、当該割合としては98質量%以下または95質量%以下が好ましく、90質量%以下または80質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒:ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒を挙げることができる。人体に害が比較的少ないという観点から、水溶性有機溶媒としてはエタノールが好適である。また、水の種類は特に制限されず、精製水、蒸留水、純水、水道水などを特に制限なく使用することができる。
【0027】
本工程における抽出条件は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、胡麻の地上部1gあたり5mL以上、100mL以下程度の溶媒を加え、30分間以上、10時間以下程度抽出すればよい。抽出温度も特に制限されず、常温で抽出してもよいし、溶媒の沸点以下で抽出してもよいし、加熱還流してもよい。例えば溶媒として水を使う場合には、60℃以上、100℃以下で加熱してもよい。
【0028】
抽出後は、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、抽出後の混合物から濾過や遠心分離により固形分を除去してもよい。更に、得られた溶液を、蒸留したり、濃縮したり、乾燥してもよい。乾燥方法としては、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレードライが挙げられる。また、クロマトグラフィ等により、有効成分を更に精製してもよい。
【0029】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤の使用量は、予防的使用であるか治療的使用であるか、患者の重篤度、その他の状態、年齢、性別などに応じて適宜調整すべきであり、特に制限されない。例えば、本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、服用する場合には固形分換算で1日あたり10mg以上、外用の場合には100mg以上用いることができる。本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は非常に安全なものであることから、使用量の上限は特に制限されないが、例えば、服用の場合には固形分換算で1日あたり2g以下、外用の場合には5g以下とすることができる。また、1日あたりの使用回数は、1回以上、5回以下程度とすることができる。
【0030】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、ヒトに限らず、ヒト以外の動物にも投与可能である。投与対象動物としては、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ラマなどの家畜;競走馬などの競技動物;イヌ、ネコなどの愛玩動物;マウス、ラット、モルモット、ウサギなどの実験動物;ニワトリ、アヒル、七面鳥、駝鳥などの家禽;養殖魚などの魚介類などが挙げられる。
【0031】
本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、極めて優れるAβ凝集抑制効果を有する。具体的には、Aβ前駆物質の低減、延いてはAβ凝集体の生成抑制、遺伝子発現の正常化といった作用を示す。よって、本発明に係るアルツハイマー型認知症抑制剤は、アルツハイマー型認知症の予防薬および/または治療薬として有用である。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実施例1: SSaエキス粉末の製造
胡麻黒八(登録商標)の種子を2019年4月に播種し、約3ヵ月後、蕾が見られる頃の葉を採取し、60℃で12時間乾燥した。乾燥した葉(100g)を60%エタノール水(1L)に加え、よく振り混ぜて、常温で一晩放置した。次いで、濾過により固形分を除去して抽出液を得た。得られた抽出液を60℃以下で減圧濃縮することにより、抽出物粉末を得た(収量:15.5g)。以下、得られた粉末を「SSaエキス粉末」という。
【0034】
実施例2: 動物実験
7週齢の雄性正常老化マウスSAM-Rと雄性老化促進モデルマウスSAM-P8(それぞれ日本エスエルシー社から入手)を、それぞれ10匹の2群ずつに任意に分け、1週間馴化飼育した。次いで、SAM-R SSaエキス粉末投与群とSAM-P8 SSaエキス粉末投与群には、SSaエキス粉末500mg/kgを7日間にわたり経口投与した。それ以外、各群マウスには、通常飼料と水を自由摂取させた。その後、30日間飼育した後、麻酔により安楽死させ、全脳を摘出し、ゲノム解析まで-80℃で保管した。
脂質や組織などの溶解試薬(「QIAzol Lysis Reagent」QIAGEN社製)を脳試料(100~150mg)に加え、ホモジナイザー(「ポリトロン」セントラル科学貿易社製)を使って20~40秒間粉砕処理した後、室温で5分間放置することにより脳試料を溶解した。次いで、クロロホルム(0.2mL)を加え、15秒間よく攪拌した後、2~3分間静置した。4℃、13000gで15分遠心分離したところ、水層、中間層、フェノール・クロロホルム層に分離した。RNAは水層に含まれるので、水層を別のチューブに回収し、イソプロピルアルコール(0.5mL)を加えて攪拌した後、室温で10分間静置した。更に、4℃、13000gで15分間遠心分離し、上清を除去し、沈殿に70%エタノール(1mL)を加えてよく攪拌後、4℃、13000gで5分間遠心分離し、上清を除去した。アルコール分を揮発させる為に5~10分間風乾した。純水(50μL)を加え、RNAシークエンスまで-80℃で保存した。
RNAサンプル調製キット(「TruSeq Standard mRNA Library Prep kit」Illumina社製)を用い、得られた総RNAから特異的なmRNAを濃縮し、これらのmRNAを鋳型としてcDNAを合成してシークエンス用ライブラリーを作成した。次に、cDNAライブラリーを、次世代シークエンサー(「NoVaSeq6000」Illumina社製)にて、100bp、Paired-end,1サンプル4000万リードでシークエンスした。
解析結果を比較する為にSTAR>cufflinks>cuffdif解析を行った。用いたマウスゲノムデータベースはGRCm38.92で、遺伝子レベルおよびその構成要素であるエキソンレベルの遺伝子発現量の解析を行った。具体的には、STARと呼ばれるマッピングツールを用い、参照マウス配列(GRCm38.92)にマッピングを行い、更にCufflinksを用いてアセンブルを行い、このマッピングされたリードを遺伝子単位およびエキソン単位で数えた。更に、cuffdiffを用いて、遺伝子発現量を定量し、2群間で発現量が変動している遺伝子/エキソン部位を特定した。
次にPCA(Principal Component Analysis:主成分分析)を行い、ゲノム発現量の差を主成分軸(PC1軸とPC2軸)にプロットした。その場合、PC1軸やPC2軸の下に示す寄与率(アイゲンベクター)が重要で、寄与率の高い軸を基準として、2群間の比較ができる。
【0035】
図1に、正常老化マウスSAM-Rと老化促進モデルマウスSAM-P8の遺伝子発現量の差異を示すPCA図を示す。
図1の通り、寄与率(アイゲンベクター)がより大きな横軸(PC1軸)においても、正常老化マウスSAM-Rと老化促進モデルマウスSAM-P8とでは、遺伝子発現に大きな差異があることが分かる。
【0036】
図2に、正常老化マウスSAM-Rと、SSaエキス粉末を7日間経口投与した老化促進モデルマウスSAM-P8のゲノム発現の差異を示すPCA図を示す。
図2の通り、寄与率(アイゲンベクター)がより大きな横軸(PC1軸)において、老化促進モデルマウスSAM-P8にSSaエキス粉末を投与した場合には、ゲノム発現が正常老化マウスSAM-Rに近くなっていることが分かった。
【0037】
実施例3: 動物実験
7週齢の雄性老化促進モデルマウスSAM-P8(日本エスエルシー社から入手)を、任意に10匹ずつ、対照群、市販のアルツハイマー病薬であるドネペジル(商品名:アリセプト,エーザイ社製)投与群、Aβ凝集阻害作用が知られているアクティオサイド(南京春秋生物社製)投与群、及びSSaエキス粉末投与群の4群に分けた。
それぞれの群に、ドネペジルを5mg/kg、アクティオサイドを100mg/kg、SSaエキス粉末を500mg/kg、7日間連続経口投与した。それ以外、各群マウスには、通常飼料と水を自由摂取させた。その後、30日間飼育した後、麻酔により安楽死させ、全脳を摘出し、ゲノム解析まで-80℃で保管した。次いで、実施例2と同様にして、遺伝子レベルとエキソンレベルでのPCA分析を行った。
図3~5に、それぞれ、対照群と、ドネペジル投与群、アクティオサイド投与群、及びSSaエキス粉末投与群との間のPCA分析結果を示す。図3~5において、上段(1)は遺伝子レベルでのPCA分析結果であり、下段(2)はエキソンレベルでのPCA分析結果である。
【0038】
図3図4の通り、寄与率(アイゲンベクター)がより大きな横軸(PC1軸)において、対照群とドネペジル投与群およびアクティオサイド投与群との間の発現パターンに大きな差は認められなかった。
一方、図5の通り、対照群とSSaエキス粉末投与群との間には、寄与率(アイゲンベクター)がより大きな横軸(PC1軸)において、発現パターンに有意な差が認められた。また、その発現パターンは、図2に示す正常老化マウスの発現パターンに近いものであった。
即ち、ドネペジルやアクティオサイドは、おそらくAβの凝集や認知症の発症の後に、Aβの凝集を軽減したり症状を緩和するものであるのに対して、本発明に係るSSaエキス粉末から何らかの成分が吸収され、脳内ゲノム発現に何らかの影響を与え、その発現パターンを正常にしている可能性がある。
【0039】
実施例4: 臨床実験
SSaの血漿中アミロイドβ前駆物質の低減作用に関する単施設プラセボ対照ランダム化単盲検並行群間比較試験を、倫理委員会承認の下で、以下の通り行った。
外観上健常な65歳以上の高齢者12名(平均年齢:68.75歳)を、男女3名ずつ、プラセボ群としてモロヘイヤ粉末投与群と、SSaエキス粉末投与群とに分けた。なお、実施例3で、SSaエキス粉末は、500m/kgの投与で老化促進モデルマウスSAM-P8の脳内ゲノム発現に有用な作用を示したことから、ヒトに対しては3~4g/日の摂取が必要と考えた。
SSaエキス粉末投与群には、SSaエキス粉末を1回1.5g、朝夕の1日2回、2ヶ月間にわたり投与し、プラセボ群には、モロヘイヤ粉末を1回1.5g、朝夕の1日2回、2ヶ月間にわたり投与した。
試験開始前の試験開始日の午前中と、最終投与終了から4~5時間経過後の2回、採血し、免疫沈降法と質量分析を組み合わせたIP-MS(特許第6410810号公報;Akinori Nakamura et al.,Nature,554,249-254,2018)によって、血中のアミロイドβ(Aβ)前駆物質の量を測定した。具体的には、採血した血液をEDTAで処理した後、3,000rpmで遠心分離し、分離した血漿を-77~-79℃で保管し、アミロイドβ前駆物質の測定に供した。アミロイドβ前駆物質蓄積量を表すバイオマーカー指数を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示される結果の通り、SSaエキス粉末投与群およびプラセボ群共に、試料摂取前のバイオマーカー指数が1以上の被験者は2/6と33.3%を占めた。
「SSaエキス粉末投与群 摂取前」と「SSaエキス粉末投与群 摂取後」のバイオマーカー値の差の平均値は-1.207であり、「プラセボ群 摂取前」と「プラセボ群 摂取後」のバイオマーカー値の差の平均値は-0.4925であった。t検定によれば、0.05<p<0.1の危険率で群間のアミロイドβ前駆物質量の差には有意傾向があった。即ち、SSaエキス粉末の投与により、プラセボ群に比して、血中のアミロイドβ前駆物質が有意に低減されたことが明らかとなった。
【0042】
実施例5: 成分分析
(1)分画とAβ凝集阻害活性
2019年京都の花脊産乾燥SSa葉(500g)を粗切りして、室温でn-ヘキサン(1L)に2時間浸漬し、濾過により固形分を分離した。n-ヘキサンへの浸漬と固形分の分離を繰り返した。得られた濾液をn-ヘキサン分画とする。その後、分離した固形分に80%エタノール水(1L)を加え、室温で時々かき混ぜながら、2時間浸漬し、濾過により固形分を分離した。80%エタノール水への浸漬と固形分の分離を繰り返した。得られた濾液を150mLまで減圧濃縮した。
得られた濃縮80%エタノールSSaエキス(150mL)を吸着カラム(「ダイヤイオン(登録商標)HP-20」三菱ケミカル社製)に付し、メタノールで溶出することにより、クロロフィルを除去した。メタノール溶出液を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルを加え、濾過し、濾液を減圧濃縮することより酢酸エチル分画を得た。n-ブタノール液と水を用い、同様にしてn-ブタノール分画と水分画を得た。各分画を減圧濃縮した。
以下の通り、Thioflavin-Tを使って、各分画のAβ凝集阻害活性を試験した。ヒト由来Aβ(「Human,1-42」Peptide Institute社製)を0.1%アンモニア水で250μMの濃度となるよう溶解した。リン酸塩緩衝液(0.05Mリン酸ナトリウム+0.1M塩化ナトリウム,pH7.4)(以下、「PBS」と略記)に、終濃度が0.01g/L、0.05g/L、及び0.1g/Lとなる様に各分画の各検体を加えた。そこに終濃度25μMとなるようAβ溶液を加え、37℃で反応させた。反応開始後、0、4、8、及び24時間目の反応液を一部採取して、蛍光測定用96well plate(「Nuncフルオロヌンクプレート」Thermo Fisher Science社製)の各wellに2.5μL分注した。その後、各wellに50mMグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.5)に溶解した1mM Thioflavin-T溶液(250μL)を加えた。Thioflavin-TがAβ線維のβシート構造を標識した時に発する蛍光強度を測定した。蛍光強度はマイクロプレートリーダー(「Wallac 1420 ARVO MX」Perkin Elmer社製)を用いて、Excitation:420nm,Emission:485nmの波長条件で測定した。24時間後の蛍光強度をもとにして、Aβの蛍光強度を100として各検体添加量0.01、0.05、及び0.1g/Lの阻害率から、統計解析ソフトフェアPriProbitを用いてIC50値を示した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示される結果の通り、Aβタンパク質の凝集阻害活性はSSaのn-ブタノール分画に集約されている事が明らかとなった。
【0045】
(2)Aβ凝集阻害活性成分とhIAPP凝集阻害活性成分
その塊茎部分が御節料理に使われるシソ科植物であるチョロギ等に含まれるアクティオサイドには、Aβ凝集阻害作用が知られている(特許第6424757号公報;Manami Kurisu et al.,Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,77,1329-1332,2013)。そこで、実施例5(1)と同様にしてフラボノイドであるペダリインとアクティオサイドのAβ凝集阻害活性を比較した。また、ヒト膵島アミロイドポリペプチド(hIAPP)はランゲルハンスの膵島におけるアミロイド形成性ペプチド沈着物成分であり、アミロイド前駆体タンパク質に由来し、Aβと高い配列類似性を有している。そこで、hIAPP凝集阻害活性についても試験した。具体的には、PBS(0.05M NaH2Po4,0.1M NaCl,pH7.4)に終濃度が1μM、10μM、及び100μMになる様に各化合物を加え、Aβの代わりにhIAPP(Karebay Biochem社製)を用いた以外は実施例5(1)と同様にして、hIAPP凝集阻害活性を測定した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示される結果の通り、Aβ凝集阻害活性が知られているアクティオサイドに比べて、ペダリインはより強いAβ凝集阻害活性を有することが明らかとなった。また、hIAPP凝集阻害活性も、アクティオサイドよりペダリインの方が強かった。
【0048】
(3)SSaの好適採集時期の検討
花脊産の胡麻黒八(登録商標)を、A:草丈50~60cmの時期、B:蕾の付き始める時期、又はC:未熟果のできる時期に採取し、葉柄を含む葉を乾燥し、微細に粉砕した。各粉砕乾燥葉(0.4g)をメタノール(500mL)に加え、時々攪拌しつつ12時間抽出した。混合物を濾過した後、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。得られた残渣をメタノール(1mL)に溶解し、以下の条件のLC/MSで分析した。
LC条件
カラム: ODS ACQUITY UPLC BEH c18 1.7・m 2.1×100mm(Waters社製)
移動相: A(0.1%ギ酸含有アセトニトリル):B(0.1%ギ酸含有H2O)=5:95 イニシャル → A:B=65:35 8min → B=100 10min → A:B=5:95 15min
流速: 0.3mL/min
MS条件
ESI TOF ms Positive ion mode
Capillary voltage: 3.2 kV
Cone voltage: 20 eV
Source temperature: 120℃
4μLの各試料を注入し、ペダリインのMSイオンを検出し、相対的組成パーセントを求めた。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4に示される結果の通り、蕾の付きはじめから未熟果の出来る時期の葉柄を含む葉に、優れたAβ凝集阻害活性とhIAPP凝集阻害活性を示すペダリインが多く含まれていることがわかった。よって、アルツハイマー型認知症抑制剤のためには、胡麻黒八(登録商標)を蕾が見られる時期から未熟種子の見られる期間に採取することと決定した。
【0051】
実施例6: ゲノム解析
胡麻黒八(登録商標)の種子は、1g中の種子数および色調から、いわゆるリグナン胡麻の種子と非常によく似ている。そこで、両者からDNAを調製し、ゲノム解析を行った。
胡麻ゲノムの塩基数は約2億7000万塩基であることがわかっており、我々のゲノム解析では、1品種当たり胡麻ゲノムの塩基数の約55倍の配列データを得たので、任意のゲノム領域を55回解析したことになる。従って、確率論的には、全てのゲノム領域が網羅されており、解析プログラムにより、読み間違いは補正できていると判断される。
ゲノム解析の結果、胡麻黒八(登録商標)とリグナン胡麻のゲノム間には大きな配列の挿入や欠失が見られるなど、胡麻黒八(登録商標)とリグナン胡麻は進化的に異なる品種であることが明らかとなった。得られた解析データより、胡麻黒八とリグナン胡麻のゲノムの差異は、PCRにより検証することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5