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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053358
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ワイヤソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20240408BHJP
   B24B 57/02 20060101ALI20240408BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20240408BHJP
   B28D 7/02 20060101ALI20240408BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B24B27/06 D
B24B57/02
B28D5/04 C
B28D7/02
H01L21/304 611W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159571
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 健司
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】大矢 純
【テーマコード(参考)】
3C047
3C069
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C047FF06
3C047GG03
3C069AA01
3C069BA06
3C069BB01
3C069BC02
3C069CA04
3C069DA06
3C069EA01
3C158AA05
3C158AA07
3C158AC04
3C158CB01
3C158DA03
5F057AA37
5F057BA01
5F057CA02
5F057DA15
5F057FA39
(57)【要約】
【課題】加工液をワイヤ列へ均一に供給可能なワイヤソーを提供する。
【解決手段】回転駆動される複数のワイヤガイド2と、ワイヤガイドに巻回されてワイヤ列を形成するワイヤ3と、ワイヤ列へ供給する加工液を貯留するタンク5と、タンクから、下方へ傾斜してワイヤ列の上方へ延びるガイド6と、タンクとガイドとを区画するように立設する堰7と、タンク内に設けられ、ワイヤ列のワイヤ並び方向へ延び、長手方向に複数の吐出口82を有するインナーノズル8と、を備え、吐出口は、堰の上端部よりも低い位置に設けられ、インナーノズルは、ワイヤの軸方向において、堰と対向するタンクの奥壁53からインナーノズルまでの間隔Xが、堰からインナーノズルまでの間隔Yよりも広くなる位置に設けられ、タンク内において、吐出口から吐出された加工液が、ガイドから離れる方向に流れる流路が形成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される複数のワイヤガイドと、
前記ワイヤガイドに巻回されてワイヤ列を形成するワイヤと、
前記ワイヤ列へ供給する加工液を貯留するタンクと、
前記タンクから、下方へ傾斜して前記ワイヤ列の上方へ延びるガイドと、
前記タンクと前記ガイドとを区画するように立設する堰と、
前記タンク内に設けられ、前記ワイヤ列のワイヤ並び方向へ延び、長手方向に複数の吐出口を有するインナーノズルと、を備え、
前記吐出口は、前記堰の上端部よりも低い位置に設けられ、
前記インナーノズルは、前記ワイヤの軸方向において、前記堰と対向する前記タンクの奥壁から前記インナーノズルまでの間隔が、前記堰から該インナーノズルまでの間隔よりも広くなる位置に設けられ、
前記タンク内において、前記吐出口から吐出された加工液が、前記ガイドから離れる方向に流れる流路が形成されることを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
前記吐出口と対向する前記タンクの対向面が、前記吐出口から吐出される加工液の吐出方向に対して垂直でないことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【請求項3】
前記吐出口と対向する前記タンクの対向面が、前記ガイドから離れる方向に向かって降下する傾斜面であることを特徴とする請求項2に記載のワイヤソー。
【請求項4】
複数の前記吐出口の断面積の合計が、前記インナーノズルの長手方向に対して略垂直方向に切断した際の断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項5】
前記インナーノズルは、前記タンクの長手方向両端部に架設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項6】
前記堰の上端部は、平滑面又は湾曲面であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソーは、シリコンインゴット等の被加工物を、スライス上に切断加工する装置として知られている。ワイヤソーにおいて、一方側のボビンから繰り出されたワイヤは、複数のワイヤガイドの周囲に巻回されてワイヤ列を形成し、他方側のボビンに巻き取られる。ワイヤは高速駆動され、ワイヤ列へ被加工物を押し当てることにより、複数枚の工作物へ切断する。
【0003】
このようなワイヤソーでは、複数のワイヤが平行に配されたワイヤ列に対し、冷却効果、潤滑効果及びワイヤへの砥粒の供給等を担う加工液を供給しながら加工が行われる。ワイヤソーには、遊離砥粒方式と固定砥粒方式の2種類の加工方式がある。遊離砥粒方式では、ワイヤ列へ砥粒を懸濁させたスラリーと呼ばれる加工液を供給する。固定砥粒方式では、ワイヤ表面にダイヤモンド等の砥粒を固着させたダイヤモンドワイヤのワイヤ列へ、砥粒を含まない加工液を供給する。
【0004】
従来、ワイヤソーの加工液供給装置は、上記のような加工方式によって異なる構造が採用されている。遊離砥粒方式のワイヤソーでは、加工液の粘度が比較的高いため、例えば特許文献1に開示されるように、スリット状の加工液供給口からワイヤ上へカーテン状に加工液を落下させるのが一般的である。また、固定砥粒方式のワイヤソーでは、加工液の粘度が比較的低いため、例えば特許文献2に開示されるように、被加工物の近傍へ向かって傾斜する傾斜部を備えたクーラント供給経路を経由してクーラントを供給するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-76231号公報
【特許文献2】特許第6795899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの加工方式においても、加工液をワイヤ列へ均一に供給することが従来からの課題であるが、上記のように加工方式に合わせて加工液供給装置を交換するのは非効率的である。また、いずれの加工方式においても、加工開始から時間が経過すると加工液が切粉を含む等して加工液の粘度が変化するが、加工液の粘度が変化した場合、加工液を貯留するタンク内の圧力分布も変化し、タンク長手方向の流量バランスが崩れて加工液を均一に供給できなくなるという問題もある。さらに、加工に細線、特にφ0.10以下のワイヤを使用した場合、加工液の流量が多すぎるとワイヤの振れが生じ易くなるために流量を抑える対策がなされるが、流量を抑えるとタンク長手方向の流量バランスが崩れて加工液を均一に供給できなくなるという問題もある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工液の粘度や流量が変化しても加工液をワイヤ列へ均一に供給可能なワイヤソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、タンク内において加工液が一旦ガイドから離れる方向へ流れるような流路とすることで、流れの勢いを抑えて波うちを低減するものとした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
回転駆動される複数のワイヤガイドと、
前記ワイヤガイドに巻回されてワイヤ列を形成するワイヤと、
前記ワイヤ列へ供給する加工液を貯留するタンクと、
前記タンクから、下方へ傾斜して前記ワイヤ列の上方へ延びるガイドと、
前記タンクと前記ガイドとを区画するように立設する堰と、
前記タンク内に設けられ、前記ワイヤ列のワイヤ並び方向へ延び、長手方向に複数の吐出口を有するインナーノズルと、を備え、
前記吐出口は、前記堰の上端部よりも低い位置に設けられ、
前記インナーノズルは、前記ワイヤの軸方向において、前記堰と対向する前記タンクの奥壁から前記インナーノズルまでの間隔が、前記堰から該インナーノズルまでの間隔よりも広くなる位置に設けられ、
前記タンク内において、前記吐出口から吐出された加工液が、前記ガイドから離れる方向に流れる流路が形成されることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によると、ワイヤ列のワイヤ並び方向へ延びるインナーノズルが、その長手方向に複数の吐出口を有するため、インナーノズルからタンク内へ長手方向に均一に加工液が供給され、流量のばらつきを抑えることができる。また、ワイヤの軸方向において、堰と対向するタンクの奥壁からインナーノズルまでの間隔が、堰からインナーノズルまでの間隔よりも広くなるようにタンク内にインナーノズルが配置されることで、吐出口から吐出された加工液は、直接ガイドへ向かって流れるよりも、一旦、ガイドから離れる方向に流れた後、タンクの奥壁とインナーノズルとの間を通り、インナーノズルの上方を通過してガイドへ流れるような流路を形成することができる。そのため、加工液の流れの勢いがタンク内で抑えられて波打ちが低減され、流量バランスの安定した加工液をガイドからワイヤ列に均一に供給することが可能となる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、前記吐出口と対向する前記タンクの対向面が、前記吐出口から吐出される加工液の吐出方向に対して垂直でないことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によると、吐出口と対向する対向面が、吐出口から吐出される加工液の吐出方向に対して垂直の場合、吐出口から吐出した加工液は流れの勢いを保ったまま流れるが、吐出口と対向する対向面が、吐出方向に対して垂直でない場合は、対向面が加工液の流れの勢いを低減することが可能となり、上記の効果をより高めることが可能となる。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、前記吐出口と対向する前記タンクの対向面が、前記ガイドから離れる方向に向かって降下する傾斜面であることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によると、吐出口から吐出した加工液が対向面へ向かって流れると、対向面が加工液をガイドから離れる方向へ導いて流れの勢いを低減することが可能となり、上記の効果をより高めることが可能となる。
【0015】
第4の発明では、第1から第3の発明のいずれか1つにおいて、複数の前記吐出口の断面積の合計が、前記インナーノズルの長手方向に対して略垂直方向に切断した際の断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0016】
上記の構成によると、吐出口の断面積の合計がインナーノズルの断面積よりも小さければ、インナーノズル内に満たされた加工液によってインナーノズルに内圧がかかる状態となり、加工液の流量を抑えたり、インナーノズルの片方の端部からインナーノズル内へ加工液を導入したりしても(両端部から導入しなくとも)、各吐出口から吐出する加工液の量が均一になりやすい。また、このように構成したインナーノズルの片方の端部から加工液を導入する構成とすれば、タンクを小型化することも可能となる。
【0017】
第5の発明では、第1から第3の発明のいずれか1つにおいて、インナーノズルは、前記タンクの長手方向両端部に架設されていることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によると、インナーノズルはタンクの両端に架設されることでタンクへ取り付けられているため、メンテナンスの際にインナーノズルを取り外しやすく、作業性が良い。
【0019】
第6の発明では、第1から第3の発明のいずれか1つにおいて、堰の上端部は、平滑面又は湾曲面であることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によると、堰の上端部を平滑面又は湾曲面とすることで、タンクから堰を乗り越えてガイドへ流れる加工液の波打ちをさらに低減し、流量バランスが安定した加工液をガイドからワイヤ列に均一に供給する効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本開示の技術により、加工液の粘度や流量が変化しても加工液をワイヤ列へ均一に供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ワイヤソーの要部を示す概略正面図である。
図2】一方側の加工液供給装置の斜視図である。
図3】他方側の加工液供給装置の斜視図である。
図4】本実施形態の加工液供給装置の断面図である。
図5】インナーノズルの斜視図である。
図6図4の一部拡大図である。
図7】他の実施形態の加工液供給装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
(ワイヤソー)
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤソー1の要部を示す概略正面図である。このワイヤソー1は、例えば半導体装置や太陽電池等の製造に用いられるシリコンインゴット等の被加工物Wを、複数箇所で同時に切断し、薄板状ウエハ等の工作物を得るために使用される。ワイヤソー1は、それぞれが互いに平行な回転軸を有し、回転軸を中心に回転駆動される円柱状の一対のワイヤガイド2,2と、一対のワイヤガイド2,2間に巻回されたワイヤ3と、ワイヤ3へ加工液を供給する加工液供給装置4を備える。本実施形態において、ワイヤガイド2,2は左右に配置され、ワイヤガイド2,2の回転軸はワイヤソーの前後方向に延びる。
【0025】
ワイヤ3は、このような左右のワイヤガイド2,2に巻回されて、複数本のワイヤ3が互いに略平行に並ぶワイヤ列を形成する。ワイヤ列の並び方向は、ワイヤガイドの回転軸の延びる方向と平行な方向であり、本実施形態における前後方向である。ワイヤ3は、軸方向に高速で往復駆動することにより、ワイヤ列が切断領域を有する。このようなワイヤ列に対して、被加工物Wが上方から下方へ押し付けられるように駆動されることで、被加工物Wから複数の薄片状の加工物が切り出される。
【0026】
ワイヤ列の切断領域の左右両側には、ワイヤ列の上方に加工液を供給するための加工液供給装置4,4が配置される。2つの加工液供給装置4,4は、ワイヤ列の切断領域を挟んで互いに向かい合うように配置され、左右略対称に形成される。
【0027】
(加工液供給装置)
図2は一方側の加工液供給装置の斜視図であり、図3は他方側の加工液供給装置の斜視図であり、図4は加工液供給装置をワイヤの軸方向に切断した断面を示す断面図である。図2から図4に示すように、加工液供給装置4は、加工液を貯留するタンク5と、タンク5から、下方へ傾斜して延びるガイド6と、タンク5とガイド6とを区画するように立設する堰7と、タンク内に設けられるインナーノズル8と、を備える。加工液供給装置4は、ワイヤ列のワイヤ並び方向に延びる。
【0028】
タンク5は、ワイヤ列へ供給する加工液を貯留する。タンク5は、ガイド6よりもワイヤ列の切断領域から遠い位置に配置される。タンク5の底面は、ガイド6から離れる方向に向かって降下する傾斜面51と、傾斜面51の下端部に連接する水平な底部52を有する。底部52はタンク5の最深部に位置する。
【0029】
本実施形態において、ワイヤソー1の加工方式は遊離砥粒方式であり、加工液には砥粒を懸濁させてある。本実施形態の加工液供給装置は、加工方式に関わらず加工液を均一に供給可能であるが、遊離砥粒方式の場合、底部52に貫通孔52aを設ける。図2に示すように、貫通孔52aは、底部52においてワイヤ列のワイヤ並び方向両端部に設けられる。貫通孔52aは、所定量の加工液を常時流出し、タンク5の底部52に加工液中の砥粒が堆積するのを防ぐことができる。
【0030】
傾斜面51の上端部には、堰7の一部を形成するタンク側区画壁56が立設している。底部52から立設する奥壁53は、ワイヤ3の軸方向において堰7と対向する。ワイヤ3の軸方向とは、ワイヤ列の並び方向と略直交してワイヤ3が延びる方向であり、本実施形態における左右方向である。
【0031】
タンク5のワイヤ列の並び方向両端部から立設する側壁54,54には、傾斜面51の上部にインナーノズル8を架設するための取付孔54aが設けられている。タンク5は、上部を開閉可能な蓋部55によって覆われている。タンク側区画壁56の上方に間隔をあけて蓋部55が位置する。タンク5内の加工液は、溢れ出るように堰7を超えてガイド6側へ流れる。蓋部55は、ガイド6のタンク側端部の上部も覆うようにガイド6側へ延びている。蓋部55は、加工中に飛散した加工液や切粉の混入を防ぐ。
【0032】
ガイド6は、タンク5の上部から下方へ傾斜して、ワイヤ列の切断領域の上方へ延びる。ガイド6は、タンク側区画壁56とともに堰7を形成するガイド側区画壁61を有する。ガイド側区画壁61の下端部は、傾斜面51の上部に位置する。ガイド6は、ガイド側区画壁61の下端部からワイヤ列の切断領域へ向かって下方へ傾斜するガイド面62を有する。ガイド面62のワイヤ列の並び方向両端部には、側壁63,63が立設し、ガイド6は、上部をカバー部64によって覆われている。カバー部64は、タンク5の蓋部55と一部が重なり合っている。タンク5から離れる側のカバー部64端部には、ガード壁65が立設する。ガード壁65は、カバー部64上に飛散した加工液や切粉がワイヤ列へ落下するのを防ぐ。
【0033】
切断領域近傍のガイド6端部において、ガイド面62、側壁63,63及びカバー部64に囲まれて形成される開口である供給口66が形成される。タンク5内から堰7を超えて溢れ出た加工液はガイド面62を流れ、供給口66から切断領域へ供給される。
【0034】
タンク5とガイド6とを区画するように立設する堰7は、タンク側区画壁56とガイド側区画壁61とがワイヤの軸方向に重なり合って形成される。堰7は、加工液の波打ちを低減するための補助部材9を有する。
【0035】
補助部材9は、ワイヤ列の並び方向に延びる1枚の板材から形成されている。補助部材9は、ガイド面62からガイド側区画壁61へ斜めに立て掛けるように設けられた傾斜部91と、傾斜部91からタンク側区画壁56及びガイド側区画壁61を跨ぐようにタンク5側へ湾曲する湾曲部92とを有する。湾曲部92は、堰7の上端部において上に凸の湾曲面が形成されている。湾曲部92の端部は、タンク側区画壁56から間隔をあけてタンク5側に位置する。本実施形態のように補助部材9を必ずしも備える必要はないが、タンク5から堰7を乗り越えてガイド6へ流れる加工液の波打ちを低減するために、堰7の上端部は、平滑面又は湾曲面であることが好ましい。堰7の上端部を平滑面又は湾曲面とすることで、タンク5から堰7を乗り越えてガイド6へ流れる加工液の波打ちを低減し、流量バランスが安定した加工液をガイドからワイヤ列に均一に供給する効果を高めることができる。
【0036】
図5は、インナーノズルの斜視図である。インナーノズル8は、ワイヤ列のワイヤ並び方向へ延びる円筒状の部材である。インナーノズル8は、長手方向一端部に、加工液を導入する導入口81を有し、他端部は閉塞される。図2及び図3に示されるように、左右の加工液供給装置4,4において、インナーノズル8は同じ方向に導入口81を有する。
【0037】
インナーノズル8は、長手方向に複数の吐出口82を有する。本実施形態において吐出口82は、断面円形状の孔である。複数の吐出口82の断面積(孔に対して垂直に切断した際の孔の断面積)の合計は、インナーノズル8の長手方向に略垂直な方向に切断した場合のインナーノズル8内部の断面積よりも小さい。
【0038】
インナーノズル8は、タンク5に形成された一方側の取付孔54aから挿入されて、両側の取付孔54aに挿通され、タンク5の外側から固定部材83を固定されることにより、タンク5の長手方向両端部に架設されている。インナーノズル8は、タンク5内において、傾斜面51の上方に間隔をあけて配置される。インナーノズル8は吐出口82を真下へ向けて配置される。インナーノズル8は、吐出口82が堰7の上端部よりも低い位置に設けられるように配置される。吐出口82と対向するタンク5の対向面は、吐出口82から吐出される加工液の吐出方向に対して垂直ではない。吐出方向とは、吐出口82が本実施形態のように孔形状の場合、その孔の中心軸方向である。吐出口82と対向するタンク5の対向面は、傾斜面51である。
【0039】
インナーノズル8は、ワイヤ3の軸方向において、堰7と対向するタンク5の奥壁53からインナーノズル8までの間隔が、堰7からインナーノズル8までの間隔よりも広くなる位置に設けられる。本実施形態において、インナーノズル8は、奥壁53からインナーノズル8までの間隔Xが、補助部材9のタンク側端部とインナーノズル8までの間隔Yよりも広くなる位置に設けられている。
【0040】
インナーノズル8を上記のような位置に配置することで、タンク5内において、吐出口82から吐出された加工液が、ガイド6から離れる方向に流れる流路が形成される。図6は、図4の一部拡大図であり、タンク5中の加工液の流路を説明するための図である。より具体的には、図6に矢印で示すように、加工液は、吐出口82から下方へ吐出され、吐出口82に対向する傾斜面51へ当たると、流れの勢いが抑制されつつ、傾斜面51の傾斜に沿ってガイド6から離れる方向に流れる。その後、加工液は、奥壁53に当たって上昇し、インナーノズル8の上方を乗り越えて、堰7から溢れ出る。堰7から溢れ出た加工液は、補助部材9を伝ってガイド6へ流れ、供給口66からワイヤ列へと供給される。
【0041】
以上のように構成したワイヤソー1は、ワイヤ3の軸方向において、堰7と対向するタンク5の奥壁53からインナーノズル8までの間隔が、堰7からインナーノズル8までの間隔よりも広くなる位置に設けられることで、吐出口82から吐出された加工液は、直接ガイド6へ向かって流れるよりも、一旦、ガイド6から離れる方向に流れた後、タンク5の奥壁53とインナーノズル8との間を通り、インナーノズル8の上方を通過してガイド6へ流れるような流路を形成することができる。そのため、加工液の流れの勢いがタンク内で抑えられて波打ちが低減され、流量バランスが安定した加工液をガイドからワイヤ列に均一に供給することが可能となる。
【0042】
複数の吐出口82の断面積の合計が、インナーノズル8の長手方向に対して略垂直方向に切断した際のインナーノズル8内部の断面積よりも小さくすることで、インナーノズル8内に満たされた加工液によって、インナーノズル8は内圧がかかる状態となる。そのため、インナーノズル8の長手方向両側ではなく、長手方向一方側の端部からインナーノズル8内へ加工液を導入しても、各吐出口から吐出する加工液の量が均一になりやすい。インナーノズル8の一方側の端部から加工液を導入する構成とすれば、加工液供給装置4を小型化することができる。
【0043】
タンク5内の洗浄等のメンテナンスを行う際には、タンク5の両端部に取り付けた固定部材83の固定を解除し、インナーノズル8をワイヤ列並び方向の一方側から引き抜くことにより、インナーノズル8を容易に取り外すことができる。また、蓋部55を開放すれば、タンク5の上部が開口し、タンク5内部を容易に洗浄することが可能となる。インナーノズル8は、タンク5の両端部に架設して取り付けられるため、インナーノズル8をタンク5に取り付けるための部材がタンク5内には存在せず、洗浄作業が容易である。
【0044】
(他の実施形態に係る加工液供給装置)
図7は、他の実施形態にかかる加工液供給装置をワイヤの軸方向に切断した断面を示す断面図である。上記実施形態と同様の部材については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図7の加工液供給装置は、タンク5内に緩衝材10が取り付けられている点で上記実施形態と異なる。
【0045】
本実施形態において、吐出口82と対向してタンク5内に緩衝材10が取り付けられている。緩衝材10は、インナーノズル8から吐出された加工液を通過させることが可能である。緩衝材10は、加工液を通過させることでその流れの勢いを抑制させることのできるものである。緩衝材10の形態や材質は問わないが、例えばメッシュである。緩衝材10は、タンク5内のインナーノズル8よりも下方に、吐出口82に対向して取り付けられる。
【0046】
以上のように構成したワイヤソー1は、緩衝材10によって加工液の流れの勢いがタンク内で抑えられて波打ちが低減され、流量バランスが安定した加工液をガイドからワイヤ列に均一に供給することが可能となる。
【0047】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 ワイヤソー
2 ワイヤガイド
3 ワイヤ
4 加工液供給装置
5 タンク
6 ガイド
7 堰
8 インナーノズル
9 補助部材
10 緩衝材
51 傾斜面
53 奥壁
82 吐出口
W 被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7