(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053368
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】杭打機の制御装置
(51)【国際特許分類】
E02D 7/00 20060101AFI20240408BHJP
E21B 15/00 20060101ALI20240408BHJP
E21B 7/00 20060101ALI20240408BHJP
E02D 13/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
E02D7/00 A
E21B15/00
E21B7/00 A
E02D13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159593
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友治
【テーマコード(参考)】
2D050
2D129
【Fターム(参考)】
2D050CA01
2D050CB02
2D050EE10
2D050FF01
2D050FF07
2D129AB16
2D129BA03
2D129BB04
2D129CA04
2D129CA13
2D129CB03
2D129CB07
2D129CB13
2D129CB14
2D129CB15
2D129DA12
2D129DA18
2D129DC01
2D129DC13
2D129DC52
2D129DC64
(57)【要約】
【課題】オーガの昇降ストロークを大きくとりながら地質構造に応じた施工を進めることが可能な杭打機の制御装置を提供する。
【解決手段】ベースマシン14に起伏可能に立設したベースリーダ15の前方に、該ベースリーダに対して昇降可能に装着されるスライドリーダ16と、該スライドリーダに対して昇降可能に装着される掘削用のオーガ25とを設け、スライドリーダを昇降させる動力を油圧シリンダの伸縮駆動で発生させ、オーガを昇降させる動力を油圧モータの回転駆動で発生させる杭打機11の制御装置において、一定の掘削速度で掘削を進めるための速度制御を実行する速度制御部を備え、速度制御は、オーガとスライドリーダとを互いに反対方向に、かつ、速度差を設けて同時に昇降させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンに起伏可能に立設したベースリーダの前方に、該ベースリーダに対して昇降可能に装着されるスライドリーダと、該スライドリーダに対して昇降可能に装着される掘削用のオーガとを設け、前記スライドリーダを昇降させる動力を油圧シリンダの伸縮駆動で発生させ、前記オーガを昇降させる動力を油圧モータの回転駆動で発生させる杭打機の制御装置において、
一定の掘削速度で掘削を進めるための速度制御を実行する速度制御部を備え、
前記速度制御は、前記オーガと前記スライドリーダとを互いに反対方向に、かつ、速度差を設けて同時に昇降させることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記速度制御は、前記スライドリーダが前記油圧シリンダの全伸長状態及び全縮小状態で定まる昇降限界に達したときに、前記スライドリーダの昇降動作を逆転し、該逆転前の昇降速度に前記速度差を考慮して加減速された速度で昇降させることを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機の制御装置に関し、詳しくは、掘削用のオーガを備えた杭打機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リーダに沿って昇降する掘削用のオーガを備えた杭打機は、その構造上、1回あたりの掘削長さ(オーガ昇降における1ストローク長さ)が、リーダの長さを限度として制限される。そのため、比較的小型の杭打機では、輸送性と作業性とが両立する設計範囲で、オーガの昇降ストロークを大きくとれる各種機構を備えたリーダ装置が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-121474号公報
【特許文献2】特開2007-277869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各特許文献に記載のリーダ装置は、いずれも可動側の部材と固定側の部材とを組み合わせて構成され、可動側の部材を長さ方向にスライドさせる油圧駆動装置を備えている。しかしながら、こうした油圧駆動装置は、オーガの昇降ストロークが得られる反面、機構を成立させるための専用部品が増えてしまうことから、コストアップの要因になりやすい。また、当該装置を油圧モータで動かす場合(特許文献1)と、油圧シリンダで動かす場合(特許文献2)とでは、力や速度に関して異なる特性を有しているものであるから、現場によっては、地質構造の変化に柔軟に対応することができないという不都合がある。
【0005】
そこで本発明は、オーガの昇降ストロークを大きくとりながら地質構造に応じた施工を進めることが可能な杭打機の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機の制御装置は、ベースマシンに起伏可能に立設したベースリーダの前方に、該ベースリーダに対して昇降可能に装着されるスライドリーダと、該スライドリーダに対して昇降可能に装着される掘削用のオーガとを設け、前記スライドリーダを昇降させる動力を油圧シリンダの伸縮駆動で発生させ、前記オーガを昇降させる動力を油圧モータの回転駆動で発生させる杭打機の制御装置において、一定の掘削速度で掘削を進めるための速度制御を実行する速度制御部を備え、前記速度制御は、前記オーガと前記スライドリーダとを互いに反対方向に、かつ、速度差を設けて同時に昇降させることを特徴としている。
【0007】
また、前記速度制御は、前記スライドリーダが前記油圧シリンダの全伸長状態及び全縮小状態で定まる昇降限界に達したときに、前記スライドリーダの昇降動作を逆転し、該逆転前の昇降速度に前記速度差を考慮して加減速された速度で昇降させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の杭打機の制御装置によれば、ベースリーダに装着されたスライドリーダを該ベースリーダに対して昇降させる油圧シリンダ駆動と、スライドリーダに装着されたオーガを該スライドリーダに対して昇降させる油圧モータ駆動とをそれぞれ制御可能に構成し、一定の掘削速度で掘削を進めるために、オーガとスライドリーダとを互いに反対方向に、かつ、速度差を設けて同時に昇降させる速度制御部を備えているので、油圧モータ駆動だけでは得られないオーガの昇降ストロークを大きくとりながら、オーガの下降する速度をスライドリーダの上昇する速度で減殺して、掘削速度を安定的かつ正確に低下させることができる。とりわけ、油圧モータが安定して回転する作動油量を維持したまま、掘削速度を限りなく0「ゼロ」に近い極低速域で掘削を進めることが可能となり、一般的な油圧部品をそのまま用いた安価な構成で、精度の高い定速制御を行うことができる。これにより、従来方式に比べて昇降速度の調整可能範囲が拡大され、現場の多様な地質構造に応じた施工を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一形態例における制御装置が適用される杭打機の側面図である。
【
図2】同じく定速制御における2つの駆動方式の対応関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1及び
図2は、本発明の一形態例における制御装置を杭打機に適用した図である。杭打機11は、
図1に示すように、クローラを備えた下部走行体12と、該下部走行体12上に旋回可能に設けられた上部旋回体13とで構成されたベースマシン14と、上部旋回体13の前部に立設したベースリーダ15と、該ベースリーダ15に対して長さ方向(
図1の上下方向)にスライド自在に組み付けられたスライドリーダ16とを備えている。また、上部旋回体13の前部には、ベースリーダ15を起伏可能に支持するリーダサポート17が設けられている。さらに、上部旋回体13の前後左右の4箇所に安定用のジャッキ18が設けられるとともに、上部旋回体13の後端部に杭打機11のバランスをとるためのカウンタウエイト19が搭載されている。
【0011】
ベースリーダ15は、後方から起伏シリンダ20で回動可能に支持され、前部側には長さ方向にスライドリーダ16を摺動させる係合構造を備え、上部側にはスライドシリンダ21が組み付けられている。各シリンダ20,21は、油圧駆動される一般的な復動型油圧シリンダであって、所定のストローク長さを有している。スライドリーダ16は、輸送性や作業性などを考慮して最大限長く形成され、長さ方向中間部後面にはスライドシリンダ21のピストンロッドが軸支されるブラケット16aが設けられている。スライドリーダ16の上端部には吊りロープが巻き掛けられるトップシーブ22が、下端部には施工部材(例えばロッド)23の振れ止め用として下部ガイド24がそれぞれ装着されており、スライドリーダ16の前面には掘削用のオーガ(回転駆動装置)25が昇降可能に装着されている。
【0012】
オーガ25は、油圧で回転駆動され、出力軸に連結した施工部材23に回転力を付与するものである。オーガ25の上下には、スライドリーダ16の上下端の一方側に設けられた駆動スプロケットと、他方側に設けられた従動スプロケットとの間に架け渡された昇降用チェーン26の両端がそれぞれ取り付けられ、チェーン式の昇降装置を構成する。昇降装置は、図示は省略するが、駆動スプロケットを昇降駆動用油圧モータで回転駆動し、該駆動スプロケットと従動スプロケットとに掛け回された昇降用チェーン26を上下方向に移動させることにより、スライドリーダ16の前面に沿ってオーガ25を昇降させる。昇降駆動用油圧モータは、固定容量型油圧モータ(例えばギヤモータ)である。
【0013】
ここで、昇降駆動用油圧モータとスライドシリンダ21とは、異なる油圧源(油圧ポンプ)を有し、単独あるいは両方とも同時に駆動される。油圧源は、エンジンに直結のポンプ駆動軸で複数の油圧ポンプが回転駆動される多連ポンプであって、そのうちの2つを使用することで、昇降駆動用油圧モータ及びスライドシリンダ21の油圧源が別々に確保されている。
【0014】
また、オーガ25は、装置本体内の減速機構に接続される回転駆動用油圧モータ25aと、これに付設される電磁比例減圧弁(図示せず)とを備えている。回転駆動用油圧モータ25aは、斜板の傾転角を変更することで容量の変更が可能な斜板式の可変容量型油圧モータである。斜板の傾転角、すなわち、押しのけ容積(モータ1回転当たりの吐出量)は、レギュレータによって調節される。このレギュレータは、電磁比例減圧弁から出力される制御圧力によって制御される。
【0015】
電磁比例減圧弁は、杭打機11に実装される施工管理装置の制御指令に基づいて制御圧力を変化させる。具体的には、ソレノイドに入力される制御電流の増減に伴い減圧度を変更するように構成され、制御指令が入力されると、発生する指令パイロット圧(2次圧力)が大きくなっていき、レギュレータの作動によって押しのけ容積を漸次減少させてモータを稼動する。一方、制御指令を最小に固定すると、押しのけ容積を最大に調節してモータを稼動する。すなわち、電磁比例減圧弁の制御電流と制御圧力とは比例関係にあるが、制御圧力と押しのけ容積とは反比例の関係にある。これにより、回転駆動用油圧モータ25aは、流量一定ならば、押しのけ容積が小さいほどモータは高速回転し、押しのけ容積が大きいほど回転数は低くなるものの、多くの作動油を使用して回転することから、大きなトルクを発生させる。
【0016】
ここで、杭打機11を鋼管杭の埋設を目的として使用する場合には、施工部材23として鋼管杭が使用される。鋼管杭(図示せず)は、オーガ25の出力軸下端にロッドキャップを介して連結され、回転駆動用油圧モータ25aの駆動を受けて、ロッドキャップを回転させながらオーガ25を下降させることにより地中に圧入される。
【0017】
一方、杭打機11を地盤改良を目的として使用する場合には、
図1に示すように、施工部材23としてロッドが使用される。ロッドは、回転駆動用油圧モータ25aの駆動を受けて回転され、上端がオーガ25の上方でスイベルジョイント27と連結されるとともに下端が掘削ヘッド28と連結される。これにより、ロッドを回転させながらオーガ25を下降させることにより、ロッドの内部流路を通じて掘削ヘッド28の先端から噴射したセメントミルクなどの地盤改良剤が地盤内に注入される。
【0018】
また、近年、杭打機11の多機能化が進むなかで、杭打機11をケーシング掘削を目的として使用する場合には、掘削ヘッド28に代えてケーシング(図示せず)が使用される。ケーシングは、ロッドの下端にカップリングを介して連結される。これにより、ケーシングは、円筒状の本体がロッドの回転軸と同心に設けられて一体回転され、ロッドを回転させながらオーガ25を下降させることによってケーシング先端の掘削ビットで地盤を掘削、あるいは、旧基礎などの障害物を切削する。
【0019】
こうした各種施工を行うために、オペレータの搭乗するキャブ29内には、走行や旋回、オーガ25の昇降・回転駆動、ベースリーダ15の起伏、スライドリーダ16の昇降などを行う操作レバーや操作ペダル、押しボタンスイッチ、タッチパネル式のディスプレイなどの機器が操作性を考慮して運転席の近傍に集約的に配置されており、さらに、これらの機器や杭打機11の動作状態を検出する動作センサ(検出部)などと電気的に接続された制御装置として、施工管理装置が設置されている。
【0020】
施工管理装置は、施工管理(工法制御)のための制御プログラムを実行して、データ処理や判定などの演算処理を行うCPUを中心に構成されており、制御プログラムを記憶するFLASH ROMや処理中の各種データを一時的に記憶するRAM、さらには、施工現場における施工計画データ及び制御プログラムの実行により作成された実施工時の各種データを記憶する記憶部や、オペレータが制御プログラムの実行結果を表示画面で確認したり、タッチパネル操作でデータ入力を行ったりするディスプレイなどを備えている。
【0021】
オーガ25の動作センサを構成する複数のセンサには、昇降位置センサや深度センサ、トルクセンサ、回転センサなどが挙げられる。昇降位置センサは、スライドリーダ16に対するオーガ25の上昇限界位置及び下降限界位置を検出するオーガ昇降位置センサと、ベースリーダ15に対するスライドリーダ16の上昇限界位置及び下降限界位置を検出するリーダ昇降位置センサとからなる。オーガ昇降位置センサは、例えば、スライドリーダ16の上下端に設けられたリミットスイッチである。一方、リーダ昇降位置センサは、例えば、スライドシリンダ21が伸縮ストロークエンドに達したときに、作動圧がリリーフ状態となっていることを検出する油圧スイッチである。
【0022】
深度センサは、掘削長さ(深度)に対応する杭打機11の可動部の移動量を検出するセンサであって、オーガ25の移動量を検出するオーガ移動センサと、スライドリーダ16の移動量を検出するリーダ移動センサとからなる。オーガ移動センサは、例えば、昇降装置の従動スプロケットの回転角度を検出するロータリーエンコーダである。一方、リーダ移動センサは、スライドシリンダ21の伸縮移動量(伸縮ストローク)を検出するリニアエンコーダである。
【0023】
トルクセンサは、オーガ25に作用する回転トルクを測定するセンサであって、回転駆動用油圧モータ25aの駆動圧力(ポンプ負荷圧力)を測定する駆動圧センサと、制御圧力を測定する制御圧センサとからなる。駆動圧センサは、上部旋回体13に設けられ、メイン油圧ポンプの出口の圧力を測定する。一方、制御圧センサは、オーガ25に設けられ、パイロット油圧ポンプからの圧油を電磁比例減圧弁で減圧して得た圧力を測定する。回転センサは、出力機構の歯車の歯を近接センサで検出し、そのパルス信号をカウントしている。
【0024】
各センサによって検出あるいは測定された信号は施工管理装置に伝達され、例えば、回転駆動用油圧モータ25aの駆動圧力と、制御圧力に対応する押しのけ容積とに基づき、施工負荷として回転トルク(施工トルク)が算出される。深度や昇降速度(昇降動作に係るフィード速度)、積算回転数についても、各部に設けられたエンコーダや近接センサなどで測定した信号に基づいてそれぞれ算出される。
【0025】
また、施工管理装置は、通信接続によって制御プログラムや施工計画データなどをダウンロードすることが可能である。施工計画データは、施工現場におけるボーリング調査(地盤調査の一例)の結果などを踏まえて作成した施工計画書に基づき、あらかじめ事務所内のコンピュータに入力されるもので、杭番号の他、該杭番号に関連付けられた施工順序や、目標深度、掘削速度(昇降速度)、回転数、セメントミルク流量などの各種の施工目標値が含まれる。例えば、掘削速度は、地質構造の変化に応じて深度区間毎に詳細に設定される。
【0026】
施工計画データの入力作業は、施工図面と対比して杭位置データを入力することによって行われ、具体的には、施工地点(杭の埋設予定位置)を、座標上の原点からの相対的位置(距離)として二次元座標で指定することになる。作成された施工計画データは、施工現場の住所の位置情報や施工する杭打機11の号機情報などが付加されて、ネットワーク上のデータサーバにアップロードされる。また、施工計画データに基づいて実施される工法のための制御プログラムや、該制御プログラムの設定パラメータのデータも作成され、同様にして、データサーバにアップロードされる。
【0027】
このように構成された施工管理装置は、一定の掘削速度で掘削を進めるために、追加的に組み込まれる掘削速度制御プログラムを実行させ、速度制御を行う速度制御部として機能するCPUの演算によって、オーガ25とスライドリーダ16とを互いに反対方向に、かつ、掘削に十分な速度差を設けて同時に昇降させる定速制御モードを有している。
【0028】
定速制御モードによる速度制御(定速制御)は、スライドリーダ16がスライドシリンダ21の全伸長状態及び全縮小状態で定まる昇降限界に達したときに、スライドリーダ16の昇降動作を逆転し、該逆転前の昇降速度に、オーガ25とスライドリーダ16との速度差を考慮して加減速された速度で昇降させる。一方、このタイミングでオーガ25の昇降動作についても逆転し、スライドリーダ16に対して加減速された速度(速度差)に応じて加減速され、総合して、地面に接近していく方向に昇降動作が継続される。
【0029】
例えば、速度制御を開始して、オーガ25の下降速度を0.5m/minで、スライドリーダ16の上昇速度を0.3m/minで昇降した場合、オーガ25とスライドリーダ16との速度差の絶対値が0.2m/minとなる。これにより、オーガ25の下降速度の方が大きく支配的になるため、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。ここで、速度制御部は、リーダ昇降位置センサからスライドリーダ16の上昇限界位置を検出した検出信号を受けると、直ちにスライドシリンダ21を縮小してスライドリーダ16の下降動作を実行させる。そして、上昇限界に達した直後のスライドリーダ16の下降速度は、直前の上昇速度(0.3m/min)に、速度差(0.2m/min)の分だけ加速した速度である0.5m/minに設定される。
【0030】
一方、このタイミングで動作が下降から上昇に転じたオーガ25の上昇速度は、直前の下降速度(0.5m/min)に、速度差(0.2m/min)の分だけ減速した速度である0.3m/minに設定される。これにより、スライドリーダ16が下降に転じた後、つまり、スライドシリンダ21の運動方向が逆転した後においては、スライドリーダ16の下降速度が支配的になるが、オーガ25とスライドリーダ16とを速度差をもって同時に加減速したことでバランスがとれ、0.2m/minの一定速度を維持した状態で、掘削作業が継続できるようになる。
【0031】
スライドリーダ16が昇降限界に達した後の逆転動作は、油圧モータ駆動と油圧シリンダ駆動との両方の駆動速度を変更するものであるから、変更前後の掘削速度が一定となるように、対象毎に作動油の供給量を調整するための油圧制御がなされる。例えば、流量制御弁(例えばソレノイドバルブ)の開度を調整し、切替後においても目標速度を維持できる流量が確保される。このとき、掘削速度制御プログラムの調整値において、各アクチュエータの運動特性に起因した追従遅れの発生量が加味され、きめ細かく速度制御がなされる。
【0032】
以下では、一例として、地盤改良工法における杭打機11の自動運転を行う場合について説明する。まず、現場に搬入された状態の杭打機11は、ベースリーダ15を水平に倒した輸送姿勢になっており、当然ながら、この状態のままでは作業が行えない。こうした輸送姿勢は、図示は省略するが、スライドリーダ16及びオーガ25が両方とも下降限界位置に保持され、トレーラなどで輸送する際の輸送制限を満足できるものとなっている。
【0033】
このようなコンパクト性のある輸送姿勢から掘削作業が可能な作業姿勢に変更するためには、運転操作によってベースリーダ15を起立させた後、スライドリーダ16及びオーガ25を上昇させて、それぞれ上昇限界に位置させる(
図1)。そして、用意したロッド(施工部材23)を吊り込み、オーガ25の出力軸に連結する。ロッドは、継ぎ足し可能に形成されていることから、例えば、スライドリーダ16の長さの2倍の長尺で用いることができる。また、図示は省略するが、スライドリーダ16を下降限界に位置させた状態で段取り作業を行うこともできる。こうして、ロッドは、下端に掘削ヘッド28が取り付けられて完成状態となり、スライドリーダ16の前面において、回転可能かつ昇降可能に保持される。
【0034】
ここで、掘削作業を進める際に、オーガ25を上昇限界位置Hxから下降限界位置Lxに移動させれば、作業1回あたりの昇降ストロークXが最大(Xmax)で得られる。一方、スライドリーダ16を上昇限界位置Hyから下降限界位置Lyに移動させれば、作業1回あたりの昇降ストロークYが最大(Ymax)で得られる。したがって、オーガ25の最大昇降ストロークは、昇降駆動用油圧モータを回転駆動した昇降装置による移動量Xmaxと、スライドシリンダ21を伸縮駆動したスライドリーダ16による移動量Ymaxとの合算で得られる。
【0035】
施工管理装置の電源が入って起動すると、基本プログラムが実行され、ディスプレイにログイン画面が表示される。ここで、作業者IDによりシステムにログインするとともに、メニュー画面から目的に応じて条件を設定すると、必要な施工管理プログラムや施工計画データなどがダウンロードされ、図示は省略するが、ディスプレイには施工計画杭配置画面(杭選択画面)が表示される。
【0036】
施工計画杭配置画面は、施工現場の全体が表示されるように縮尺が調整された表示画面であって、二次元座標で図形的に表示されている。例えば、円形で表された複数の杭表示体は施工地点を示し、円の内側の数字は施工順序、外側の数字は杭番号をそれぞれ示している。所定の杭番号を施工する場合、杭打機11を施工地点(杭芯)に位置合わせした後、タッチパネルの操作で対象の杭表示体を選択する。そして、表示を施工画面に切り替えた状態で、実施工データを作成しながら目標深度に到達するまで計画通りに掘削作業が進められる。画面上には、「杭番号」や「深度」、「施工トルク」などの各種数値データやグラフが表示される。
【0037】
ここで、掘削速度制御プログラムを実行した自動運転の具体的な動作について、
図2に示す2つの駆動方式の対応関係を表すグラフも参照しながら説明する。
図2は、定速制御モードの連続動作を例示的に表すグラフである。
【0038】
また、
図2(A)(B)は、それぞれ二次元座標グラフの横軸を時間変化(t)としている。一方、縦軸については、
図2(A)は、オーガ25及びスライドリーダ16の昇降速度(v)とし、オーガ25の昇降を実線で表し、スライドリーダ16の昇降を破線で表している。さらに、
図2(B)は、オーガ25及びスライドリーダ16の昇降ストロークX,Y(l)としている。さらに、時間変化においてM1及びM2は、
図1の矢印M1及び矢印M2で表したオーガ25及びスライドリーダ16の昇降動作(方向)に対応するものである。
【0039】
作業開始は、ディスプレイのタッチパネル操作によって、例えば、定速制御モードを選択した状態で、計測ボタンを操作した後、運転操作レバーの傾動操作を行う。これによりオーガ25で掘削ヘッド28を回転駆動しつつスライドリーダ16に対して静止させ、低速度域でも比較的安定した速度で駆動できる油圧シリンダで駆動されるスライドリーダ16をベースリーダ15に対して下降させ、掘削ヘッド28によって地盤に掘削孔を形成しながら、掘削土を地盤改良剤と混合撹拌していく。
【0040】
このとき、初期状態から時刻t0において、
図2(A)の実線グラフのように、オーガ25は静止し(下降速度が0m/min)、
図2(A)の点線グラフのように、スライドリーダ16の下降速度が0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。このとき、オーガ25は上昇限界位置Hxに留まり、下降限界位置Lyを起点としたスライドリーダ16のストロークYは、
図2(B)の点線グラフのように徐々に減少していく。そして時間t0に達したとき、ストロークYが最小になって、リーダ昇降位置センサがスライドリーダ16の下降限界位置Lyを検出する。その後、時間t1(M1)において、
図2(A)の実線グラフのように、オーガ25の下降速度が0.5m/minで、
図2(A)の点線グラフのように、スライドリーダ16の上昇速度が0.3m/minで、両方を同時に昇降させ、オーガ25とスライドリーダ16との速度差を得て、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。このとき、上昇限界位置Hxを起点としたオーガ25のストロークXが、
図2(B)の実線グラフのように徐々に増加していく。一方、下降限界位置Lyを起点としたスライドリーダ16のストロークYについても、
図2(B)の点線グラフのように徐々に増加していく。そして、時間t1に達したとき、ストロークYが最大(Ymax)になって、リーダ昇降位置センサがスライドリーダ16の上昇限界位置Hyを検出する。
【0041】
ここで、速度制御部は、リーダ昇降位置センサからスライドリーダ16の上昇限界に達した検出信号を受けると、直ちにスライドシリンダ21を縮小してスライドリーダ16を下降させる。このとき、上昇限界に達した直後のスライドリーダ16の下降速度は、直前の上昇速度(0.3m/min)に、速度差(0.2m/min)の分だけ加速した速度である0.5m/minに設定される。一方、このタイミングでオーガ25の昇降動作を下降から上昇に逆転させ、該上昇速度は、直前の下降速度(0.5m/min)に、速度差(0.2m/min)の分だけ減速した速度である0.3m/minに設定される。このとき、オーガ25とスライドリーダ16とを速度差をもって同時に加減速してバランスをとり、
図2(A)に示すように、時間t1において、切替前後の掘削速度(DSライン)が0.2m/minの一定速度に維持される。
【0042】
その後、時間t1から時間t2(M2)において、
図2(A)の実線グラフのように、オーガ25の上昇速度が0.3m/minで、
図2(A)の点線グラフのように、スライドリーダ16の下降速度が0.5m/minで、両方を同時に昇降させ、オーガ25とスライドリーダ16との速度差を得て、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。このとき、オーガ25のストロークXが、
図2(B)の実線グラフのように徐々に減少していく。一方、上昇限界位置Hyを起点としたスライドリーダ16のストロークYについても、
図2(B)の点線グラフのように徐々に減少していく。そして、時間t2に達したとき、ストロークYが最小になって、リーダ昇降位置センサがスライドリーダ16の下降限界位置Lyを検出する。
【0043】
こうして、速度制御部の油圧制御に従って、以降の動作についても同様に、時間t2から時間t3(M1)において、オーガ25の下降速度が0.5m/minで、スライドリーダ16の上昇速度が0.3m/minで、両方を同時に昇降させ、オーガ25とスライドリーダ16との速度差を得て、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。そして、スライドリーダ16が上昇限界に達したときに、スライドリーダ16及びオーガ25の動作を両方とも逆転し、時間t3から時間t4(M2)において、オーガ25の上昇速度が0.3m/minで、スライドリーダ16の下降速度が0.5m/minで、両方を同時に昇降させ、オーガ25とスライドリーダ16との速度差を得て、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。
【0044】
ここで、速度制御部は、オーガ昇降位置センサからオーガ25の下降限界に達した検出信号を受けると、オーガ25の下降動作を停止させ、直ちにスライドリーダ16の昇降状態をリセットしたうえで、該スライドリーダ16を下降させる。このとき、スライドリーダ16の下降動作について、オーガ25とスライドリーダ16との速度差(0.2m/min)に整合させる油圧制御(油量制御)を実行し、スライドリーダ16のみを単独駆動した状態で、下降限界位置Lyに達するまでの間、0.2m/minの一定速度で掘削が進められる。
【0045】
こうした1回目の作業において、オーガ25及びスライドリーダ16のストローク(Xmax+Ymax)が全て尽きると、例えば、ロッドの中間部の把持を解除したオーガ25を上昇させ、上部を把持させる掴み替えを行う(詳細説明略)。これにより、定速制御モードによる2回目の作業が行える状態となる。
【0046】
このように、本発明の杭打機11の制御装置によれば、ベースリーダ15に装着されたスライドリーダ16を該ベースリーダ15に対して昇降させる油圧シリンダ駆動と、スライドリーダ16に装着されたオーガ25を該スライドリーダ16に対して昇降させる油圧モータ駆動とをそれぞれ制御可能に構成し、一定の掘削速度で掘削を進めるために、オーガ25とスライドリーダ16とを互いに反対方向に、かつ、速度差を設けて同時に昇降させる速度制御部を備えているので、油圧モータ駆動だけでは得られないオーガ25の昇降ストロークを大きくとりながら、オーガ25の下降する速度をスライドリーダ16の上昇する速度で減殺して、掘削速度を安定的かつ正確に低下させることができる。とりわけ、油圧モータが安定して回転する作動油量を維持したまま、掘削速度を限りなく0「ゼロ」に近い極低速域で掘削を進めることが可能となり、一般的な油圧部品をそのまま用いた安価な構成で、低掘削速度で精度の高い定速制御を行うことができる。これにより、従来方式に比べて昇降速度の調整可能範囲が拡大され、現場の多様な地質構造に応じた施工を進めることができる。
【0047】
また、速度制御において、スライドリーダ16が油圧シリンダの全伸長状態及び全縮小状態で定まる昇降限界に達したときに、スライドリーダ16の昇降動作を逆転し、該逆転前の昇降速度に速度差を考慮して加減速された速度で昇降させるので、油圧モータによる昇降動作だけでは得られない低速域での掘削長さを飛躍的に増大させることが可能となり、近年、増加傾向にある低速掘削のニーズにも十分に応えることができる。
【0048】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、制御プログラムは、既存の制御装置にアドオンして機能させる簡易な構成であればよく、杭打機の仕様や掘削具の種類などに応じて適宜変更することができる。また、定速制御は、設定速度に従って実行できればよく、必要に応じて、限定された狭い範囲に適用することができる。さらに、実施例では、一般に定速制御を行う利点の大きい地盤改良を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、鋼管埋設やケーシング掘削などにも適用することができる。この場合、杭打機の仕様について幅広く設定でき、例えば、昇降装置を既知のラックピニオン式として構成することで、多段に配したピニオンギヤをそれぞれ回転駆動する複数の油圧モータを備えることができる。加えて、油圧回路の構成も適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
11…杭打機、12…下部走行体、13…上部旋回体、14…ベースマシン、15…ベースリーダ、16…スライドリーダ、16a…ブラケット、17…リーダサポート、18…ジャッキ、19…カウンタウエイト、20…起伏シリンダ、21…スライドシリンダ、22…トップシーブ、23…施工部材、24…下部ガイド、25…オーガ、25a…回転駆動用油圧モータ、26…昇降用チェーン、27…スイベルジョイント、28…掘削ヘッド、29…キャブ