(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005337
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】運転者支援装置、運転者支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20240110BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B60K35/00 A
G08G1/09 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105483
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雅紀
【テーマコード(参考)】
3D344
5H181
【Fターム(参考)】
3D344AA20
3D344AA30
3D344AB01
3D344AC25
3D344AD13
5H181AA01
5H181BB02
5H181BB04
5H181CC04
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF33
5H181FF40
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL08
5H181LL15
(57)【要約】
【課題】車両環境内の物体により運転者の視線に対して信号機が遮蔽された場合に、信号機を直接視認すべく運転者が適切な行動をとれるようにする。
【解決手段】
自車両の前方の物体を検知する物体検知部24と、信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部25と、運転者の視点位置を検知する視点検知部26と、フロントガラスに虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部27と、を備え、表示制御部は、物体により信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、運転者の視点から信号表示部が視認されるであろうフロントガラス上の位置に、信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部と、
前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、
前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部と、
前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部と、
を備え、
前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、
運転者支援装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記運転者の視点の移動に伴って、前記表示部虚像を、現在の前記運転者の視点に応じた前記推定位置へ移動させる、
請求項1に記載の運転者支援装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、
前記運転者の視点において前記物体により前記信号表示部の全体が遮蔽されているときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示し、
前記運転者の視点から前記信号表示部の少なくとも一部が遮蔽されていないときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示しない、
請求項1に記載の運転者支援装置。
【請求項4】
前記信号情報取得部は、前記自車両の前方に存在する前記信号機の信号表示の状態についての情報を取得し、
前記表示制御部は、前記信号表示の前記状態を示す前記表示部虚像を表示する、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の運転者支援装置。
【請求項5】
運転者支援装置のコンピュータが実行する運転者支援方法であって、
自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知ステップと、
前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する情報取得ステップと、
前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知ステップと、
前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示ステップと、
を有し、
前記表示ステップでは、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、
運転者支援方法。
【請求項6】
運転者支援装置のコンピュータを、
自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部、
前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、
前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部、および、
前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部、
として機能させるプログラムであって、
前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号機の位置の把握を容易にして運転者を支援する運転者支援装置、運転者支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて予防安全技術に関する研究開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、予防安全技術においては、より安全な走行を実現するため、前方車両等の車両環境内の物体により運転者の視線に対して信号機が遮蔽された場合でも、運転者が適切な操縦行動をとれるようにすることが課題となり得る。
【0005】
特許文献1には、障害物に隠れた信号機の情報をユーザに認識させるシステムが開示されている。このシステムでは、自車両が通過する予定の信号機の灯色状態を、道路上に設置されたいわゆる道路インフラ設備である信号機情報送信部から無線受信する。そして、このシステムは、自車両のカメラの進行方向画像に信号機が写っていない場合に、上記無線受信した信号機の灯色状態を示す灯色虚像をヘッドアップディスプレイに表示する。
【0006】
しかしながら、道路インフラ設備等から受信する信号機の灯色状態は、その信号機における灯色の切り替わりタイミングに対する時間差等により、必ずしも現在の実際の灯色状態を表していない場合があり得る。また、自車両が走行する電波環境によっては、信号機の灯色状態を受信できない場合もあり得る。
本願は上記課題の解決のため、前方車両等の車両環境内の物体により運転者の視線に対して信号機が遮蔽された場合に、例えば、信号機を直接視認できる位置へ自車両を移動させるなど、運転者が適切な行動をとれるようにすることを目的としたものである。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部と、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部と、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部と、を備え、前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、運転者支援装置である。
本発明の他の態様によると、前記表示制御部は、前記運転者の視点の移動に伴って、前記表示部虚像を、現在の前記運転者の視点に応じた前記推定位置へ移動させる。
本発明の他の態様によると、前記表示制御部は、前記運転者の視点において前記物体により前記信号表示部の全体が遮蔽されているときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示し、前記運転者の視点から前記信号表示部の少なくとも一部が遮蔽されていないときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示しない。
本発明の他の態様によると、前記信号情報取得部は、前記自車両の前方に存在する前記信号機の信号表示の状態についての情報を取得し、前記表示制御部は、前記信号表示の前記状態を示す前記表示部虚像を表示する。
本発明の他の態様は、運転者支援装置のコンピュータが実行する運転者支援方法であって、自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知ステップと、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する情報取得ステップと、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知ステップと、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示ステップと、を有し、前記表示ステップでは、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、運転者支援方法である。
本発明の他の態様は、運転者支援装置のコンピュータを、自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部、および、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部、として機能させるプログラムであって、前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、プログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両環境内の物体により運転者の視線に対して信号機が遮蔽された場合に、信号機を直接視認すべく運転者が適切な行動をとれるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る運転者支援装置の適用例である車両の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す車両の車室内の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る運転者支援装置の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、信号機の表示部虚像が表示された、ヘッドアップディスプレイの表示画像の一例である。
【
図5】
図5は、信号機の表示部虚像が表示された、ヘッドアップディスプレイの表示画像の他の一例である。
【
図6】
図6は、運転者支援装置における処理の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る運転者支援装置1の適用例である車両2の構成を示す平面図、
図2は、車両2の室内の構成を示す図である。車両2に搭載された運転者支援装置1は、コンピュータであるプロセッサ20により運転者支援方法を実行して、車両2の運転者Dの運転操縦を支援する。運転者支援装置1が搭載された車両2は、本開示における自車両の対応する。
【0011】
車両2は、車両2の進行方向前方の環境を撮像する前方カメラ3と、進行方向前方に存在する物体を検知する物体検知装置であるレーダ4と、車両2の運転席5に着座した運転者Dの画像を撮像する室内カメラ6と、を備える。室内カメラ6は、例えば、ドライバモニタリングカメラ(DMC)である。
【0012】
車両2は、また、ナビゲーション装置7と、フロントガラス8に虚像を投影するヘッドアップディスプレイ9を備える。ヘッドアップディスプレイ9は、本開示における、車両2のフロントガラス8に運転者Dが視認し得る虚像を生成する表示装置に対応する。ヘッドアップディスプレイ9は、例えば、図示しない投光装置をインスツルメントパネル内に備えて、フロントガラス8上に図示点線で示す矩形枠の領域内に虚像を表示する。
【0013】
ナビゲーション装置7は、GPS受信機を備え、車両2の現在位置を特定し、および、地図情報に基づいて、車両2の環境に存在する信号機の設置位置および信号表示のレイアウトを特定する。ここで、信号機の信号表示とは、信号機が交通参加者に信号を示すための表示をいい、例えば、青黄赤のいわゆる信号灯の色表示や、信号許可方向を示す緑色の矢印表示などをいう。
【0014】
上記地図情報は、例えば、自律運転等に用いられ得るような高精細地図であり、地形、道路、および信号機を含む道路設備の、3次元形状情報を含み得る。ナビゲーション装置7は、上記地図情報を記憶装置に保持しているものとすることができる。あるいは、ナビゲーション装置7は、上記地図情報を、車両2の外部のサーバから無線通信により取得してもよい。
【0015】
図3は、運転者支援装置1の構成を示す図である。運転者支援装置1は、プロセッサ20と、メモリ21と、通信器22と、を有する。メモリ21は、例えば、揮発性及び又は不揮発性の半導体メモリ、及び又はハードディスク装置等により構成される。通信器22は、無線通信器であり、いわゆるV2X通信により、車両2の外部に設置された道路設備との間で通信を行う。これに加えて、通信器22は、車両2の周囲に存在する他の車両との通信を行うものとしてもよい。本実施形態では、通信器22は、V2N(Vehicle-to-Network)通信及び又はV2I(Vehicle-to-Infrastructure)通信等を利用して道路設備と通信し、信号機の信号表示の状態についての情報を取得する。
【0016】
プロセッサ20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを備えるコンピュータである。プロセッサ20は、プログラムが書き込まれたROM(Read Only Memory)、データの一時記憶のためのRAM(Random Access Memory)等を有する構成であってもよい。そして、プロセッサ20は、機能要素又は機能ユニットとして、物体検知部24と、信号情報取得部25と、視点検知部26と、表示制御部27と、を備える。
【0017】
プロセッサ20が備えるこれらの機能要素は、例えば、コンピュータであるプロセッサ20がメモリ21に記憶されたプログラム23を実行することにより実現される。なお、プログラム23は、コンピュータ読み取り可能な任意の記憶媒体に記憶させておくことができる。これに代えて、プロセッサ20が備える上記機能要素の全部又は一部を、それぞれ一つ以上の電子回路部品を含むハードウェアにより構成することもできる。
【0018】
物体検知部24は、車両2の進行方向の前方(以下、単に前方という)に存在する物体(以下、前方物体ともいう)を検知する。物体の検知に際し、物体検知部24は、検知範囲を車両2の前方に広がる所定の視野角の範囲内に限定してもよい。上記物体は、例えば、車両2の前方を走行する前方車両のほか、車両2の前方に存在する建物、街路樹、街路灯などであり得る。物体検知部24は、前方カメラ3からの画像及び又はレーダ4からのセンシングデータに基づき、車両2の前方に存在する物体の存在を認識すると共に、当該物体の位置および大きさを算出する。
【0019】
信号情報取得部25は、車両2の前方における信号機の存在についての情報を取得する。具体的には、信号情報取得部25は、ナビゲーション装置7と協働して、車両2の前方に信号機が存在することを検知する。例えば、ナビゲーション装置7は、車両2の現在位置および地図情報に基づき、車両2の現在位置から所定の距離範囲内において車両2の進行方向の前方に信号機があると判断したときに、その信号機の識別情報、設置位置、形状、サイズ、及び又は信号表示のレイアウトの情報を、信号情報取得部25、視点検知部26、および表示制御部27へ通知するものとすることができる。
【0020】
信号情報取得部25は、車両2の前方に信号機が存在することを検知したときに、通信器22を介して道路設備(たとえば、道路インフラを管理するサーバ)と通信し、上記検知した信号機の識別情報を用いて、当該信号機の信号表示の状態(以下、信号表示状態ともいう)についての情報を取得する。
【0021】
視点検知部26は、室内カメラ6が撮影した運転者Dの画像に基づき、車両2の運転席5に着座した運転者Dの視点位置を検知する。視点位置は、例えば、運転者Dの両目間の中央位置とすることができる。視点検知部26は、また、そして、視点検知部26は、上記信号機の少なくとも一部が上記物体により運転者の視点に対して遮蔽されているときは、遮蔽通知を表示制御部27へ送る。
【0022】
表示制御部27は、フロントガラス8に虚像を生成する表示装置であるヘッドアップディスプレイ9の動作を制御する。
本実施形態では、表示制御部27は、まず、信号情報取得部25が信号機の存在を検知したときに、当該信号機の設置位置および大きさ、物体検知部24が検知した物体の位置および大きさ、及び視点検知部26が検知した運転者Dの視点位置に基づき、上記信号機の少なくとも一部が上記物体により運転者の視点に対して遮蔽されているか否かを判断する。
【0023】
そして、表示制御部27は、運転者Dの視点において信号機の信号表示部が上記物体により遮蔽されているときに、表示装置であるヘッドアップディスプレイ9により、上記物体が存在しないとしたならば運転者Dの視点から上記信号表示部が視認されるであろうフロントガラス8上の位置(以下、推定位置という)に、上記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する。ここで、信号表示部とは、信号機において信号の表示が行われる部分、すなわち、上述した信号表示が設けられている部分をいう。例えば、信号表示部とは、信号表示である青黄赤の灯体、及び又は進行許可方向を示す矢印表示の灯体が設けられた部分をいう。
【0024】
図4は、前方物体により信号機が遮蔽されている場合にヘッドアップディスプレイ9に表示される表示部虚像の一例を示す図である。
図4では、前方の交差点の手前に、車両2の前方に存在する前方物体としての前方車両10が、走行又は停車している。前方の交差点には信号機11が設置されているが、信号機11は、運転者Dの視点からは、前方車両10に遮蔽されて直接視認することができない。
【0025】
この場合、図示のように、表示制御部27は、ヘッドアップディスプレイ9により、運転者Dの視点から見たフロントガラス8上の信号機11の推定位置に、その信号機11の表示部虚像12を表示する。
これにより、運転者Dは、前方に存在する信号機11が遮蔽されていること、および、信号機11の信号表示部を直接視認するために自身の視点を移動すべき方向を容易に把握することができる。その結果、運転者Dは、その方向へ頭を移動したり自車両を移動させるなど、上記直接視認のための適切な行動をとることができる。
【0026】
表示制御部27は、また、運転者Dの視点が移動したときは、当該視点の移動に伴って、現在の運転者Dの視点に応じた推定位置へ表示部虚像を移動させる。
例えば、
図4の状態において、運転者Dが図示左方向へ視点を移動した場合には、上記移動の後の視点に対応する推定位置は、
図4における表示部虚像12の位置よりも左へ移動する。具体的には、表示制御部27は、上記のような視点の移動の情報を視点検知部26から取得して新たな推定位置を算出し、例えば、
図5に示すように、表示部虚像12の位置を、
図4に示す位置より左側へ移動する。
【0027】
これにより、運転者Dは、車両2の移動を含め、自身の視点をどこまで移動させれば信号機11の信号表示部を直接視認することができるかを、容易に把握することができる。
【0028】
ここで、表示制御部27は、運転者Dの視点において前方物体により信号機の信号表示部の全体が遮蔽されているときは、上記信号機の表示部虚像を表示する。一方、運転者Dの視点から信号表示部の少なくとも一部が遮蔽されていないときは(すなわち、運転者Dにより直接視認され得るときは)、表示制御部27は、上記信号機の表示部虚像を表示しないものとすることができる。
【0029】
これにより、運転者Dの視点に対して信号表示部が完全に遮蔽されている場合にのみ表示部虚像が表示されることとなる。一方で、信号表示部の一部が遮蔽されておらず、当該一部が運転者Dから直接視認される得る場合(すなわち、運転者Dが、当該一部を直接視認することにより信号表示部の位置を把握し得る場合)には、表示部虚像は表示されない。このため、信号表示部の一部が遮蔽されていないときは、遮蔽されていない信号表示部の部分に表示部虚像が重なって表示されることがないので、表示部虚像を表示することで却って直接視認を妨げてしまったり、運転者Dの状況把握を混乱させてしまう、といった事態を防止することができる。
【0030】
表示制御部27は、また、ヘッドアップディスプレイ9に表示部虚像を表示するときは、信号情報取得部25が取得したその信号機の信号表示状態についての情報に基づき、
図4および
図5に示すように、その信号機の信号表示の現在の状態を示す表示を含んだ表示部虚像を表示してもよい。
図4および
図5において、ハッチングした円形は、信号表示の現在の状態を示す表示の一例であり、点灯した信号灯を示す。
これにより、運転者Dの視点の移動または前方物体の移動に伴って、信号機の信号表示部が遮蔽された状態から直接視認できる状態へ変化したときに、運転者Dに違和感を感じさせないようにすることができる。
【0031】
次に、運転者支援装置1における動作の手順について説明する。
図6は、運転者支援装置1のコンピュータであるプロセッサ20が実行する運転者支援方法の処理の手順を示すフロー図である。本処理は、繰り返し実行される。
【0032】
処理を開始すると、まず、信号情報取得部25は、車両2の進行方向の前方に信号機があるか否かを判断する(S100)。そして、信号機がないときは(S100、NO)、信号情報取得部25は、ステップS100を繰り返す。一方、車両2の前方に信号機があるときは(S100、YES)、信号情報取得部25は、地図情報から、その前方の信号機の設置位置、形状、サイズ、信号表示のレイアウト、及び又は信号表示状態、などの情報を取得する(S102)。また、物体検知部24は、車両2の前方に前方車両等の物体(前方物体)があるか否かを判断する(S104)。
【0033】
そして、前方物体があるときは(S104、YES)、物体検知部24は、その前方物体の位置及びサイズを算出する(S106)。また、視点検知部26は、車両2の運転者Dの視点位置を検知する(S108)。
【0034】
次に、表示制御部27は、物体検知部24が算出した前方物体の位置及びサイズと、視点検知部26が検知した運転者Dの視点位置と、信号情報取得部25が取得した信号機の設置位置、形状、サイズ等の情報と、に基づき、運転者Dの視点において前方物体により信号機の信号表示部の全体が遮蔽されているか否かを判断する(S110)。
【0035】
そして、信号表示部の全体が遮蔽されているときは(S110、YES)、表示制御部27は、ヘッドアップディスプレイ9により、運転者Dの視点から見たフロントガラス8上の信号機の推定位置に、その信号機の表示部虚像を表示する(S112)。
【0036】
次に、信号情報取得部25は、依然として車両2の前方に信号機があるか否かを判断する(S114)。そして、(例えば、車両2が信号機を通り過ぎたこと等により)前方に信号機がなくなったときは(S114、YES)、物体検知部24は、依然として車両2の前方に物体(前方物体)があるか否かを判断する(S116)。そして、(例えば、前方物体である前方車両が移動したこと等により)前方物体がなくなったときは(S116、NO)、フロントガラス8上に表示した表示部虚像を消去して(S118)、本処理を終了する。
【0037】
一方、ステップS114において、前方に信号機がなくなったときは(S114、NO)、表示制御部27は、ステップS116に処理を移し、表示部虚像を消去して本処理を終了する。
【0038】
また、一方、ステップS104において前方物体がないとき(S104、NO)、および、ステップS110において信号表示部の全体が遮蔽されていないとき、すなわち、信号表示部の少なくとも一部が遮蔽されていないときは(S110、NO)、それぞれ、物体検知部24および表示制御部27は、本処理を終了する。
【0039】
ここで、上述したステップS104及びS106は、本開示における物体検知ステップに対応する。また、上述したステップS100およびS108は、それぞれ、本開示における情報取得ステップおよび物体検知ステップに対応する。また、ステップS110およびS112は、本開示における表示ステップに対応する。
【0040】
[他の実施形態]
表示制御部27は、前方カメラ3が撮像する車両2の前方の画像(前方画像)に基づいて、前方の信号機の信号表示部が前方物体により遮蔽されているか否かを判断してもよい。例えば、表示制御部27は、信号情報取得部25が車両2の前方における信号機の存在を検知した場合に、前方カメラ3が撮像した前方画像を参照し、前方画像に信号機の信号表示部が写っていないときに、信号表示部が遮蔽されていると判断することができる。
【0041】
信号情報取得部25は、道路設備から信号表示の状態についての情報を取得することに代えて又は加えて、例えば、通信器22を介したV2VやV2I通信により他車両のカメラや街灯カメラが撮像した信号機の画像を取得し、当該画像から、その信号機の信号表示の状態についての情報を得るものとしてもよい。
【0042】
なお、本発明は上記の実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0043】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0044】
(構成1)自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部と、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部と、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部と、を備え、前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、運転者支援装置。
構成1の運転者支援装置では、車両環境内の物体により運転者の視線に対して信号機が遮蔽された場合には、表示部虚像により信号表示の位置が運転者に示される。このため、構成1の運転者支援装置によれば、運転者は、信号機の信号表示を直接視認すべく、適切な視点移動の方向を容易に把握して、その方向へ頭を移動したり自車両を移動させるなど、適切な行動をとることができる。
【0045】
(構成2)前記表示制御部は、前記運転者の視点の移動に伴って、前記表示部虚像を、現在の前記運転者の視点に応じた前記推定位置へ移動させる、構成1に記載の運転者支援装置。
構成2の運転者支援装置によれば、運転者は、自身の視点をどこまで移動させれば信号機の信号表示部を直接視認することができるかを、容易に把握することができる。
【0046】
(構成3)前記表示制御部は、前記運転者の視点において前記物体により前記信号表示部の全体が遮蔽されているときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示し、前記運転者の視点から前記信号表示部の少なくとも一部が遮蔽されていないときは、前記信号機の前記表示部虚像を表示しない、構成1または2に記載の運転者支援装置。
構成3の運転者支援装置によれば、遮蔽されていない信号表示部の部分に表示部虚像が重なって表示されることがない。このため、構成3の運転者支援装置では、表示部虚像を表示することで却って直接視認を妨げてしまったり、運転者の状況把握を混乱させてしまう、といった事態を防止することができる。
【0047】
(構成4)前記信号情報取得部は、前記自車両の前方に存在する前記信号機の信号表示の状態についての情報を取得し、前記表示制御部は、前記信号表示の前記状態を示す前記表示部虚像を表示する、構成1ないし3のいずれかに記載の運転者支援装置。
構成4の運転者支援装置によれば、運転者の視点の移動または物体の移動に伴って、信号機の信号表示部が遮蔽された状態から直接視認できる状態へ変化したときに、運転者に違和感を感じさせないようにすることができる。
【0048】
(構成5)運転者支援装置のコンピュータが実行する運転者支援方法であって、自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知ステップと、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する情報取得ステップと、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知ステップと、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示ステップと、を有し、前記表示ステップでは、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、運転者支援方法。
構成5の運転者支援方法によれば、運転者は、信号機の信号表示を直接視認すべく、適切な視点移動の方向を容易に把握して、その方向へ頭を移動したり自車両を移動させるなど、適切な行動をとることができる。
【0049】
(構成6)運転者支援装置のコンピュータを、自車両の前方に存在する物体を検知する物体検知部、前記自車両の前方における信号機の存在についての情報を取得する信号情報取得部と、前記自車両の運転者の視点位置を検知する視点検知部、および、前記自車両のフロントガラスに前記運転者が視認し得る虚像を生成する表示装置の動作を制御する表示制御部、として機能させるプログラムであって、前記表示制御部は、前記運転者の視点において、前記物体により前記信号機の信号表示部が遮蔽されているときは、前記表示装置により、前記物体が存在しないとしたならば前記運転者の視点から前記信号表示部が視認されるであろう前記フロントガラス上の位置である推定位置に、前記信号表示部の虚像である表示部虚像を表示する、プログラム。
構成6のプログラムによれば、車両環境内の物体により遮蔽された信号表示を直接視認すべく運転者が適切な行動をとれるようにすることのできる運転者支援装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…運転者支援装置、2…車両、3…前方カメラ、4…レーダ、5…運転席、6…室内カメラ、7…ナビゲーション装置、8…フロントガラス、9…ヘッドアップディスプレイ、10…前方車両、11…信号機、12…表示部虚像、20…プロセッサ、21…メモリ、22…通信器、23…プログラム、24…物体検知部、25…信号情報取得部、26…視点検知部、27…表示制御部。