IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KTX株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社リンコーの特許一覧 ▶ 林 弘美の特許一覧 ▶ 唐沢 伸の特許一覧

特開2024-53374蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体
<>
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図1
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図2
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図3
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図4
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図5
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図6
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図7
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図8
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図9
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図10
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図11
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図12
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図13
  • 特開-蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053374
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体
(51)【国際特許分類】
   G09F 13/04 20060101AFI20240408BHJP
   E01F 9/524 20160101ALI20240408BHJP
   E01F 9/553 20160101ALI20240408BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20240408BHJP
   B29C 39/12 20060101ALI20240408BHJP
   G09F 13/20 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G09F13/04 Z
E01F9/524
E01F9/553
B29C39/24
B29C39/12
G09F13/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159602
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000168115
【氏名又は名称】KTX株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517266779
【氏名又は名称】株式会社リンコー
(71)【出願人】
【識別番号】516240592
【氏名又は名称】林 弘美
(71)【出願人】
【識別番号】599012684
【氏名又は名称】唐沢 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 弘美
(72)【発明者】
【氏名】唐沢 伸
【テーマコード(参考)】
2D064
4F204
5C096
【Fターム(参考)】
2D064AA03
2D064AA22
2D064BA01
2D064CA03
2D064DA06
2D064DA08
2D064EA02
2D064EB31
2D064JA01
4F204AA13
4F204AA21
4F204AA28
4F204AA33
4F204AB16A
4F204AD05
4F204AD08
4F204AG03
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB12
4F204EB22
4F204EF05
4F204EK13
4F204EK17
5C096AA06
5C096AA27
5C096BA01
5C096BA04
5C096BB02
5C096BB38
5C096CB06
5C096CC37
5C096CG02
5C096EA03
5C096EB03
5C096EB05
5C096EB08
5C096FA03
(57)【要約】
【課題】透明保護層を立体的な形状とすることにより蓄光層からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすく、かつ、その際に特に文字、記号などの案内表示を有するものである場合に、案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できる蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】平面状の蓄光層側を底面とし立体状の透明層側を上側構造体とする蓄光標識構造体の製造方法であって、鋳型を準備する鋳型準備ステップと、鋳型に上側構造体を構成する透明層形成材料を流し込む透明層形成材料流込みステップと、流し込まれた透明層形成材料を固化する固化ステップと、透明層の面に標識表示シートを載置する標識表示シート載置ステップと、載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込む蓄光層形成材料流込みステップと、を含む蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の蓄光層側を底面とし立体状の透明層側を上側構造体とする蓄光標識構造体の製造方法であって、
鋳型を準備する鋳型準備ステップと、
鋳型に上側構造体を構成する透明層形成材料を流し込む透明層形成材料流込みステップと、
流し込まれた透明層形成材料を固化する固化ステップと、
透明層の面に標識表示シートを載置する標識表示シート載置ステップと、
載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込む蓄光層形成材料流込みステップと、
を含む蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項2】
さらに反射層形成ステップを有する請求項1に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項3】
固化ステップと、標識表示シート載置ステップとの間に再度薄膜を形成する程度の薄膜透明層形成材料流込みステップを有する請求項1又は請求項2に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項4】
標識表示シート載置ステップは、薄膜透明層形成材料流込みステップで流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に標識表示シートと、透明層との間に空気の泡が挟まらないように空気の泡を標識表示シート外に追い出す泡追出サブステップを有する請求項3に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の蓄光標識構造体の製造方法によって製造された蓄光標識構造体。
【請求項6】
蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、
少なくとも透明層と、蓄光層と、両層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、
を有する請求項1に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項7】
蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、
少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、
を有する請求項2に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項8】
蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、
少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、
を有する請求項3に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項9】
蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、
少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、
を有する請求項4に記載の蓄光標識構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の蓄光標識構造体の製造方法によって製造された蓄光標識構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光標識構造体の製造方法及びこの製造方法によって製造された蓄光標識構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光標識構造体は、一般に、蓄光層の上層に透明保護層を配置してなる(さらに、蓄光層の下層に反射層を配置する例が多い)。透明保護層は、主に蓄光層の損傷・劣化や汚れを防止することを目的として配置されるものであるが、透明保護層を立体的な形状、例えば蓄光層で形作られる標識を見せるためにレンズ効果を奏する立体的形状とすることにより、蓄光層からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすくすることができるという利点もある。特に、蓄光標識構造体が文字、記号などの案内表示を有するものである場合には、この案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できるようになることから、かかる構造のものは特に有用である。
【0003】
ところで、蓄光標識構造体は、大規模震災による停電時や、2022年2月に新潟県村上市長政(ながまさ)の三幸製菓荒川工場で起こった火災などの事例に備えるため設置ニーズが高まっており、短期間で安価に大量生産できることが求められている。特に前記三幸製菓荒川工場の事例では改善策として随所に蓄光材料を利用した避難経路指示を設けることによってより避難の確実性を向上するという策がとられた。このように、蓄光材料を利用した避難標識は多量に必要とされるので、安価であるという点も重要となってくる。
かかる要請に沿う蓄光標識構造体の製造方法として、鋳型を準備するとともに、鋳型の開口を包含するように将来的に標識の側面を保護する枠材を設置して液状の透明保護材、蓄光材等を鋳型並びに枠材領域に流し込んで固化させ、枠材ごと離形させて蓄光標識構造体を得るという方法が知られている。かかる方法によれば、短期間に大量生産できるが枠材を必要とするために枠材の材料コスト、設置コストなどが発生するためさらに安価に生産できないかということが検討されてきた。
【0004】
特許文献1には、蓄光標識構造体の製造方法に関し、鋳型上に金属製などの枠を立設し、鋳型の窪み及び枠内に液状の透明保護材を流し込んで固化させた後、その上面に液状の蓄光材を流し込んで固化し、その上面に液状の反射材を流し込んで固化する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-125791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された発明は、透明保護層を立体的な形状とすることにより、蓄光層からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすくすることができる点で優れたものである。しかし、特許文献1には、蓄光標識構造体が文字、記号などの案内表示を有するものである場合についての言及がなく、このような案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できるようにすることについての課題認識がない。また、特許文献1の発明にかかる蓄光標識構造体は、蓄光標識構造体ごとに基材(枠)が備えられるため、基材を備えず透明保護層及び蓄光層(またはこれらに加えて反射層)のみを備える蓄光標識構造体に比べて相対的に製造コストがかさむという問題もある。
【0007】
さらに、蓄光標識構造体が文字、記号などの案内表示を有するものである場合には、表示内容を明りょうに認識できるようにするため、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにすることが望ましいが、特許文献1に記載された発明では、案内表示を有するものである場合についての発想がないため当然ではあるが、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにするという課題認識も見られない。
【0008】
そこで、本発明の解決すべき課題は、透明保護層を立体的な形状とすることにより蓄光層からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすく、かつ、その際に特に文字、記号などの案内表示を有するものである場合に、案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できる蓄光標識構造体の製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明のさらなる課題は、鋳型に透明保護材、蓄光材(またはこれに加えて反射材)を流し込んで固化・離形させることで、基材を備えず、相対的に製造コストが安価で済み、短期間で大量生産が可能な蓄光標識構造体の製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明のさらなる課題は、かかる蓄光標識構造体の製造方法において、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、第一の発明は、平面状の蓄光層側を底面とし立体状の透明層側を上側構造体とする蓄光標識構造体の製造方法であって、鋳型を準備する鋳型準備ステップと、鋳型に上側構造体を構成する透明層形成材料を流し込む透明層形成材料流込みステップと、流し込まれた透明層形成材料を固化する固化ステップと、透明層の面に標識表示シートを載置する標識表示シート載置ステップと、載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込む蓄光層形成材料流込みステップと、を含む蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第二の発明は、第一の発明を基礎として、さらに反射層形成ステップを有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第三の発明は、第一又は第二の発明を基礎として、固化ステップと、標識表示シート載置ステップとの間に再度薄膜を形成する程度の薄膜透明層形成材料流込みステップを有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第四の発明は、第三の発明を基礎として、標識表示シート載置ステップは、薄膜透明層形成材料流込みステップで流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に標識表示シートと、透明層との間に空気の泡が挟まらないように空気の泡を標識表示シート外に追い出す泡追出サブステップを有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第五の発明は、第一の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法によって製造された蓄光標識構造体を提供する。
第六の発明は、第一の発明を基礎として、蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、少なくとも透明層と、蓄光層と、両層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、を有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第七の発明は、第二の発明を基礎として、蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、を有する請求項2に記載の蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第八の発明は、第三の発明を基礎として、蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、を有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第九の発明は、第四の発明を基礎として、蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、を有する蓄光標識構造体の製造方法を提供する。
第十の発明は、第六の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法によって製造された蓄光標識構造体を提供する。
さらに、上記の解決手段に加えて、上記方法で製造される蓄光標識構造体の底部付近に構成される側面の高さができるだけ低くなるように構成する。例えば、標識の全高に対して側面の高さは4分の1以下、より好ましくは5分の1以下となる様に構成する。これは、標識の設置面から垂直起立する側面が最も設置面である床面に沿って生じる足蹴りや、壁面に沿って生じる手による払い行為などの衝撃に対して脆弱だからである。従って、前記立体状の透明層は最も衝撃に対して強い上面視円形の凸レンズ状に形成されるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明保護材を立体的な形状とすることにより蓄光材からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすく、かつ、その際に特に文字、記号などの案内表示を有するものである場合に、案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できる蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【0013】
また、さらに本発明によれば、鋳型に透明保護材、蓄光材(またはこれに加えて反射材)を流し込んで固化・離形させることで、基材を備えず、相対的に製造コストが安価で済み、短期間で大量生産が可能な蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【0014】
また、さらに本発明によれば、かかる蓄光標識構造体の製造方法において、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにする方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図2】鋳型準備ステップにおいて準備される鋳型の形状の一例を示す断面図
図3】実施形態1の製造方法によって製造される蓄光標識構造体の構成の一例を示す図
図4】実施形態2の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図5】実施形態2の蓄光標識構造体の形状の一例を示す断面図
図6】実施形態3の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図7】実施形態3の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図8】実施形態1の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図9】実施形態2の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図10】実施形態3の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図11】実施形態3の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図
図12】実施形態1の蓄光標識構造体のより具体的な形状の一例を示す断面図
図13】蓄光層の側面が斜めに広がっている蓄光標識構造体が衝撃に対して脆弱であることを説明するための図
図14】蓄光標識構造体の側面部分が垂直のものの方が蓄光層の側面が斜めに広がっているものより視認性に優れていることを説明するための図
【符号の説明】
【0016】
S0101 鋳型準備ステップ
S0102 透明層形成材料流込みステップ
S0103 固化ステップ
S0104 標識表示シート載置ステップ
S0105 蓄光層形成材料流込みステップ
0300 蓄光標識構造体
0301 透明層
0302 標識表示シート
0303 蓄光層
0504 反射層
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下のとおりである。実施形態1は主に請求項1、請求項5、請求項6、請求項10などに関し、実施形態2は主に請求項2、請求項7などに関し、実施形態3は主に請求項3、請求項4、請求項8、請求項9などに関する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
<実施形態1>
【0018】
本実施形態は、主に請求項1、請求項5、請求項6、請求項10などに関する。
【0019】
<実施形態1:概要>
本実施形態の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法は、平面状の蓄光層側を底面とし立体状の透明層側を上側構造体とする蓄光標識構造体の製造方法であって、鋳型を準備するステップと、鋳型に上側構造体を構成する透明層形成材料を流し込むステップと、流し込まれた透明層形成材料を固化するステップと、透明層の面に標識表示シートを載置するステップと、載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込むステップと、を含む。さらに、本実施形態の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法は、上記のステップに加え、蓄光層形成材料流込ステップの後に蓄光層形成材料固化ステップと、少なくとも透明層と、蓄光層と、両層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す取出ステップと、を有するものを含む。また、本実施形態の発明に係る蓄光標識構造体は、これらの製造方法によって製造されるものである。
【0020】
<実施形態1:処理の流れ>
(鋳型準備ステップ)
図1は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図である。まず、鋳型準備ステップS0101において、鋳型を準備する。鋳型の材料には特に限定はなく、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属やセラミックスが用いられる。また、鋳型の形状にも特に限定はないが、後述のように、鋳型の凹部の一部を満たすように透明層の形成材料を流し込み、その後の工程を経て蓄光標識構造体を離型した際にその最頂部となる透明層が立体状となるようにする必要があることから、凹部の形状は少なくとも透明層の形成材料を流し込む部分が立体状であることが必要である。かかる凹部の形状として、例えば、凹部が略平凸レンズ形状ないしドーム形状、略円錐形状、略円錐台形状のものなどが考えられる。
【0021】
図2は、鋳型準備ステップにおいて準備される鋳型0210の形状の一例を示す断面図である。このうち(a)は凹部0211が略平凸レンズ形状、(b)は凹部0211が略円錐形状、(c)は凹部0211が略円錐台形状のものを示す。
【0022】
(透明層形成材料流込みステップ)
図1に戻り、次に透明層形成材料流込みステップS0102において、前記ステップS0101にて準備した鋳型に上側構造体を構成する液状の透明層形成材料を流し込む。前述のように、この流込みは鋳型の凹部の一部を満たすように行われる。これは、その上層に標識表示シートを載置し、さらに蓄光層を形成するためのスペースを残しておくためである。ただし、透明層を立体状のものとすることでレンズ効果を奏するようにする必要があることから、透明層形成材料を流し込む分量は、凹部の深さの相当部分を占める程度であることが望ましく、例えば、凹部の深さの4分の3以上、より好ましくは5分の4以上とすることが考えられる。具体的には、例えば、凹部の深さが約15ミリメートルである場合において、透明層形成材料を流し込む深さが約11.5~14.5ミリメートル、より好適には約12~14.5ミリメートルとすることが考えられる。凹部の深さがこれと異なる場合も、概ね上記に応じた比率とすることが望ましい。
【0023】
液状の透明層形成材料としては、例えば熱可塑性樹脂である透明樹脂を加熱して液化したものや常温で液体の熱硬化性樹脂である透明樹脂が挙げられる。ここで「常温」とは、概ね摂氏5度から35度の範囲内の温度をいう。より具体的な材料としては、熱可塑性樹脂である透明樹脂として例えば透明アクリル樹脂、透明シリコーン樹脂、透明ポリカーボネイト樹脂、透明AS(Acrylonitrile Styrene)樹脂、透明ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂などが挙げられる。また、常温で液体の熱硬化性樹脂として、例えば、信越化学工業株式会社製のフェニルシリコーン(製品名X-32-3360AB)からなる液材を用いることが考えられる。なお、「透明」には無色透明と有色透明を含む。
【0024】
また、この透明層は、蓄光層からの発光を透過させるものであるので、その発光輝度を減衰させることがないように、蓄光層の主成分をなす樹脂と同一材料からなる樹脂を用いることが望ましい。
【0025】
(固化ステップ)
次に、固化ステップS0103にて、前記ステップS0102にて流し込まれた透明層形成材料を固化する。その際、熱可塑性樹脂である透明樹脂を加熱して液化したものを用いる場合は、鋳型の凹部に流し込んだ後、常温で静置して固化する方法を用いることができる。その際の温度及び静置時間の一例としては、これを摂氏23度で24時間静置することが考えられる。また、常温で液体の熱硬化性樹脂である透明樹脂を用いる場合は、当該透明樹脂を受け皿に流し込んで加熱して硬化させる方法などを用いることができる。加熱温度・加熱時間としては、例えば、摂氏150度で約30分加熱処理を行うことが考えられる。また、これらの場合において、硬化を促進するために凝固剤を加えてもよい。
【0026】
(標識表示シート載置ステップ)
次に、標識表示シート載置ステップS0104において、前記ステップS0103にて固化した透明層の面に標識表示シートを載置する。
【0027】
標識表示シートは、標識が示そうとする誘導案内などの内容を文字、記号、ピクトグラムなどで表示するためのシート状部材である。典型的には不透光性のものが用いられるが半透光性のものであってもよい。材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)が用いられる。その厚みは、例えば0.01ミリメートルから1ミリメートル程度、より好適には0.02ミリメートルから0.3ミリメートル程度である。
【0028】
標識表示シートは、一方では蓄光層に密着して剥がれにくいようにすることが望ましく、他方で透明層との間に気泡が生じないようにすることが望ましい。そのための具体的方法については後述する((標識表示シートと透明層の間に気泡が生じないための方法)の項参照)。
【0029】
(蓄光層形成材料流込みステップ)
さらに、蓄光層形成材料流込みステップS0105において、前記ステップS0104にて載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込む。流し込む分量は、鋳型の凹部が満杯となるまでの分量である。したがって、透明層形成材料を流し込む分量が凹部の深さの4分の3以上である場合は凹部の深さの4分の1以下、透明層形成材料を流し込む分量が凹部の深さの5分の4以上である場合は凹部の深さの5分の1以下となる。具体的には、凹部の深さが約15ミリメートルである場合において、透明層形成材料の厚みが約11.5ミリメートルであれば蓄光層形成材料を流し込む分量は、約3.5ミリメートル、透明層形成材料の厚みが約12ミリメートルであれば蓄光層形成材料を流し込む分量は約3ミリメートルとなる。ただし、標識標示シートの上面に流し込まれる分量は標識標示シートの厚み(例えば約0.1ミリメートル)を除いたものとなる。
【0030】
蓄光層形成材料は、例えば液状の樹脂に蓄光粉末を混合したものである。蓄光粉末としては、例えば、アルミン酸ストロンチウム系蓄光粉末が用いられる。なお、アルミン酸ストロンチウム系蓄光粉末とは、アルミン酸ストロンチウム塩を母結晶として、少量のユーロピウム(Eu)、ディスプロシウム(Dy)、ホウ素(B)などを添加したものをいう。
【0031】
液状の樹脂としては、透明層形成材料に用いる樹脂として上述したところと同様に、例えば熱可塑性樹脂である透明樹脂を加熱して液化したものや常温で液体の熱硬化性樹脂である透明樹脂が挙げられ、それぞれの具体例も透明層形成材料について上述したところと同様である。
【0032】
なお、上述のように、発光輝度を減衰させないとの観点から、蓄光層形成材料の主成分をなす樹脂は、透明層形成材料である樹脂の材料と同一であることが望ましい。例えば、透明層形成材料と、蓄光層形成材料の主成分をなす樹脂とがともにフェニルシリコーン樹脂であるものが考えられる。
【0033】
(蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含む製造方法)
本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法には、以上に説明した各ステップに加え、蓄光層形成材料固化ステップ及び取出ステップを含むものが含まれる。
図8は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図であって、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものである。このうち、ステップS0801からS0805までのステップは、図1に示したステップS0101からS0105までのステップと同様であるから、説明を省略する。
(蓄光層形成材料固化ステップ)
次に、蓄光層形成材料固化ステップS0806において、前記ステップS0805にて流し込んだ蓄光層形成材料を固化する。具体的な固化の方法は、前述した透明層形成材料の固化ステップS0103における方法と同様である。なお、この蓄光層形成材料固化ステップにおいては、流し込む前の混合時に混合した蓄光材料と異なる種類の蓄光材料を追加して入れることなどによって蓄光の分布についていろいろなバリエーションを生み出すことも可能となる。
(取出ステップ)
次に、取出ステップS0807において、前記ステップS0806までの処理によって得られた、少なくとも透明層と、蓄光層と、両層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す。なお、取出しを容易にするために、透明層形成材料を流し込む前に鋳型の凹部にシリコーン系離形剤などの離形剤を塗布しておいてもよい。
【0034】
(標識表示シートと透明層の間に気泡が生じないための方法)
上述のように、標識表示シートはその表示内容が明確に認識できるものである必要があることから、その上層に蓄光層形成材料を流し込む際に標識表示シートと蓄光層形成材料の間に気泡が生じないようにすることが望ましい。このための方法はいくつか考えられるところ、例えば、第一の方法として、標識表示シートの表裏の表面粗度に違いを設ける方法が考えられる。また、第二の方法として、標識表示シート載置ステップの前に、固化した透明層上に再度薄膜を形成するステップを設ける方法が考えられる。第二の方法については別の実施形態にて後述することとし(実施形態3参照)、ここでは第一の方法について説明する。
【0035】
既述のように、標識表示シートは、一方では蓄光層に密着して剥がれにくくする必要があるとともに、他方では透明層との間に気泡が応じることで案内内容を認識しにくくることを防ぐ必要がある。このための方法として、標識表示シートの表裏の表面粗度に違いを設けること、すなわち、蓄光層に接する側は表面粗度を相対的に大きく(粗く)してその摩擦力により標識表示シートが蓄光層に密着して剥がれにくくするとともに、透明層に接する側は表面粗度を相対的に小さく(滑らかに)して配置に際して透明層との間に気泡が生じないようにすることが考えられる。
【0036】
具体的には、例えば、表面粗度の評価方法を定めた規格であるJIS B 0601-2001に基づく算術平均粗さ(Ra)で示される表面粗度が、以下であるものが考えられる。なお、算術平均粗さ(Ra)とは、曲線の一部を測定長さで切り出し、その区間の凸凹状態の平均値を表したものをいう。測定は、接触式測定法、すなわち測定対象物に対して、触針の先端を接触させることで部品の表面の状態を測定する方法を用いて、触針の上下方向の変化・変位を検出することにより可能である。
【0037】
まず、蓄光層に接する側の算術平均粗さは、これを4~10マイクロメートル程度、より好適には6~7マイクロメートル程度とすることが考えられる。これは、あまり表面の粗度を気にしなくてもよい仕上げの程度である並仕上げ(算術平均粗さ約6.3マイクロメートル)にほぼ匹敵する粗さでよいということを意味する。一方、透明層に接する側の算術平均粗さは、これを3マイクロメートル程度以下、より好適には1~2マイクロメートル程度とすることが考えられる。これは、より表面の滑らかさが求められる仕上げの程度である上仕上げ(算術平均粗さ約1.6マイクロメートル)ないしさらにそれ以上の表面の滑らかさが求められる仕上げの程度である精密仕上げ(算術平均粗さ約0.2マイクロメートル)にほぼ匹敵する滑らかさを要するということを意味する。このような構成により、一方では蓄光層に密着して剥がれにくく、他方では透明層との間に気泡が応じることで案内内容を認識しにくくなることがない標識表示シートを実現することができる。
【0038】
なお、上の構成とは異なるが、標識表示シートとして、裏面(蓄光層に接する面)側に接着剤を備えたシートを用いてもよい。この場合も、表面(透明層に接する面)側は、表面粗度が上と同様の滑らかさを有することが望ましいが、裏面側のシート自体の表面粗度は特に限定されない。かかるシートの好適例として、スリーエム社製のスコッチカル(登録商標)スリーエム社製のスコッチカル(登録商標)フィルムXLシリーズを用いることができる。
【0039】
<実施形態1:構成>
(全般)
次に、上述の処理の流れに示した製造方法によって製造される蓄光標識構造体の構成について説明する。
【0040】
図3は、本実施形態の製造方法によって製造される蓄光標識構造体の構成の一例を示す図である。本図に示すように、当該蓄光標識構造体0300は、透明層0301と、標識表示シート0302と、蓄光層0303とからなる。このうち、図3(a)は、上述の各ステップにおける処理の結果、鋳型の中にこれら透明層・標識表示シート・蓄光層からなる蓄光標識構造体が形成されている状態を示す断面図である。また、図3(b)は、この蓄光標識構造体を鋳型から離形し、路面又は床面に設置して使用する状態の向きにしたものを示す断面図であり、図3(c)は同じく斜視図である。
【0041】
蓄光標識構造体の形状や寸法は、使用対象となる標識などの形状や寸法に適するように適切に設計されるが、構成される側面の高さができるだけ低くなるように構成することが望ましい。例えば、標識の全高に対して側面(蓄光層部分)の高さは4分の1以下、より好ましくは5分の1以下となる様に構成する。これは、標識の設置面から垂直起立する側面が最も設置面である床面に沿って生じる足蹴りや、壁面に沿って生じる手による払い行為などの衝撃に対して脆弱だからである。従って、前記立体状の透明層は最も衝撃に対して強い上面視円形の凸レンズ状に形成されるように構成することが好ましい。
例えば、図2(a)に示したような上面視円形の凸レンズ型の形状の場合において、その寸法として、底面半径約40ミリメートル、高さ約15ミリメートルのものが考えられる。このうち側面(蓄光層)が占める高さは、約0.5ミリメートル以上3.5ミリメートル以下、より好適には約0.5ミリメートル以上3ミリメートル以下であることが考えられる。この場合、透明層が占める高さは約11.5ミリメートル以上14.5ミリメートル以下、より好適には約12ミリメートル以上14.5ミリメートル以下となる。
【0042】
かかる蓄光標識構造体は、透明層が立体的に形成され、標識の全高の太宗を占めるため、そのレンズ効果により、蓄光層及びその上に載置される標識表示シートが浮き上がって見える。これにより、蓄光標識構造体は、斜め上方向からでも明るく視認することができるとともに、標識表示シートの表示内容を明確に認識することが容易となる。
【0043】
かかる蓄光標識構造体の特徴として、基材を備えない点も挙げられる。これにより、また、透明層が立体形状であるため斜め上から表示内容を明確に認識することができる。
【0044】
(蓄光標識構造体のより具体的な形状について:全般)
ところで、蓄光標識構造体の形状として、透明層が立体的形状であってレンズ効果を奏するようにするため、全体が略平凸レンズ形状ないしドーム形状、略円錐形状、略円錐台形状のものなどが考えられること、また、蓄光標識構造体の底部付近に構成される側面の高さができるだけ低くなるように構成すること、例えば、標識の全高に対して側面の高さは4分の1以下、より好ましくは5分の1以下となる様に構成することが望ましいことについては、すでに述べた通りである。その際、当該側面部分の形状として、側面が垂直のもの、側面が斜めに広がっているものなどが考えられる。
【0045】
図12は、本実施形態の蓄光標識構造体のより具体的な形状の一例を示す断面図である。本図に示すものは、蓄光標識構造体1200の全体形状が略平凸レンズ形状の場合であり、このうち(a)に示すものは、側面部分1205が垂直のもの、(b)に示すものは、側面部分1205が斜めに広がっているものである。いずれも本実施形態の蓄光標識構造体として好適なものであるが、さらに厳密に比較すると、(a)に示す形状ものがより好適である。以下にその理由を説明する。
【0046】
(蓄光標識構造体のより具体的な形状について:上から加わる力に対する耐衝撃性の観点から)
本実施形態の蓄光標識構造体は、例えば屋内の床面などに設置されるところ、人が誤って重量物をその上に落としたり、誤って強く踏みつけたりすることも考えられる。その場合、図12(b)に示すような側面部分が斜めに広がっている形状の場合、蓄光標識構造体の外縁部分が極めて薄く鋭角的な形状となることから、かかる衝撃に脆弱であることが考えられる。
【0047】
図13は、側面部分が斜めに広がっている蓄光標識構造体が衝撃に対して脆弱であることを説明するための図である。
【0048】
図13(a)に示すように、本例の蓄光標識構造体1300は、側面部分1305が斜めに広がっているものであり、蓄光標識構造体の外縁部分(図中概ね破線円Aで示す部分)が極めて薄く鋭角的な形状となっている。このため、図13(b)に示すように、上から重量物1320を落としたり、足で強く踏みつけたりすると、当該先端部分がめくれあがったり、破損したりするおそれがある(図中概ね破線円Bで示す部分参照)。これに対し、本図では図示を省略するが、図12(a)に示したような側面部分が垂直のものにあっては、外縁部分も他の部分と同じ厚みを保っているため、重量物の落下や強い踏付けなどに対する脆弱性は相対的に少ないといえる。
【0049】
(蓄光標識構造体のより具体的な形状について:視認性の観点から)
本実施形態の蓄光標識構造体は、立体形状を有する透明層のレンズ効果により、標識標示シートを斜め上方向からでも明確に視認できる点に一つの特徴がある。この点、蓄光標識構造体の側面部分はかかる効果に直接寄与することがない部分である。この観点からも、当該側面部分が垂直のものの方が、側面部分が斜めに広がっているものよりも相対的に優れているといえる。
【0050】
図14は、蓄光標識構造体の側面部分が垂直のものの方が蓄光層の側面が斜めに広がっているものより視認性に優れていることを説明するための図である。このうち、図14(a)は、蓄光標識構造体1400が設置された床面1430上を人1440が歩いており、(1)の状態から(4)に示すように次第に蓄光標識構造体に接近していく状態を示す。
【0051】
図14(b)及び(c)は、この時に人から見えている蓄光標識構造体の外観を示す。このうち(b)は、概ね(a)の(1)の状態のときに見えている外観を示しており、左側は、図12(b)に示したような側面部分が垂直のものの場合、右側は、図12(a)に示したような側面部分が斜めに広がっているものの場合である。どちらの場合においても、上に述べた標識標示シートの明確な視認性には直接寄与しない側面部分1405が見えているものの、右側のものは、標識標示シート及びこれを覆う透明層の向こう側(図では上側)にも当該側面部分が現れているなど、相対的に側面部分が見えている部分の割合が多くなっている。
【0052】
この傾向は、人が蓄光標識構造体に近づいていくほど顕著となり、図14(a)の(4)に示したような、人がほぼ真上から蓄光標識構造体を見下ろす状態のとき、その効果の違いが最大となる。
【0053】
すなわち、図14(c)は、(a)の(4)の状態のときに見えている外観を示すものであるところ、左側の側面部分が垂直のものの場合は、側面部分は全く現れず、全面に透明層で覆われた標識表示シートが現れるのに対し、右側の側面部分が斜めに広がっているものの場合は、その周囲に視認の必要のない側面部分1405が現れることとなる。
なお、以上では、蓄光標識構造体の全体形状が略平凸レンズ形状のものの例で説明したが、他の略円錐形状、略円錐台形状のものなどの場合も、上と同様に考えることができる。
さらに、以上の場合において、当該側面の高さにおいて蓄光層の高さが占める割合については適宜設計されればよく、例えば、蓄光層の側面全体が垂直であり、かつ透明層の側面はすべて傾斜しているものであってもよいし、蓄光層の側面全体とその上層の透明層の側面の一部(蓄光層と面一である)が垂直であってもよい。
【0054】
<実施形態1:効果>
本実施形態の発明によれば、透明保護材を立体的な形状とすることにより蓄光材からの発光を斜め上方向などの周囲から視認しやすく、かつ、その際に特に文字、記号などの案内表示を有するものである場合に、案内表示の内容を斜め上方向などの周囲からでも明確に視認できる蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【0055】
また、さらに本実施形態の発明によれば、鋳型に透明保護材、蓄光材を流し込んで固化・離形させることで、基材を備えず、相対的に製造コストが安価で済み、短期間で大量生産が可能な蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【0056】
また、さらに本実施形態の発明によれば、かかる蓄光標識構造体の製造方法において、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにする方法を提供することが可能となる。
<実施形態2>
【0057】
本実施形態は、主に請求項2、請求項7などに関する。
【0058】
<実施形態2:概要>
本実施形態の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法は、実施形態1の蓄光標識構造体の製造方法と基本的に共通するが、さらに反射層形成ステップを有するものである。
【0059】
<実施形態2:処理の流れ>
(全般)
図4は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図である。このうち、ステップS0401からS0405までにかかる処理は実施形態1について図1に示したステップS0101からS0105までの処理と同様であるから、説明を省略する。
【0060】
次に、反射層形成ステップS0406において、蓄光層形成材料の上面に反射層を形成する。反射層は、蓄光層から入射してくる光を反射するためのものであり、これにより蓄光標識構造体の発光輝度を高めることができる。
【0061】
反射層の形成は、例えば、蓄光層形成材料が固化した後に行ってもよいし、固化する前に行ってもよい。前者の場合、例えば、液状の反射層形成材料を流し込んで、固化させる方法によってもよいし、反射材を塗布してもよいし、さらに反射シートを貼り付けてもよい。液状の反射層形成材料としては、例えば、酸化チタン粉末などの反射材料を液状の透明樹脂に混合して撹拌したものを用いることができる。
【0062】
後者の場合、例えば、蓄光層形成材料が完全に固化する直前に、当該蓄光層形成材料が固化したの表面にアルコールなどの溶媒に溶かした酸化チタンなどの溶液を流し込んだり塗布したりして反射層を形成したり反射テープの貼付けなどにより配置するようにしてもよい。このように蓄光層形成材料が完全に固化する直前であると、反射層が剥れにくくなるという効果がある。
【0063】
反射層の厚みは、蓄光標識構造体の寸法等に応じて適切に設計されるが、上記いずれの場合でも例えば約0.1~0.2ミリメートルであることが望ましい。このため、流込みの場合は、蓄光層形成材料を流し込むときに同寸法の余積を残しておき、ここに凹部が満杯になるまで液状の反射層形成材料を流し込む。
【0064】
反射材の材料としては、高い反射効果を得るため白色の材料を用いることが望ましい。反射層を配置する際には、反射面が外底面側になるように、すなわち蓄光樹脂側を向くように配置される。特に好適な材料として、酸化チタンが挙げられる。また、反射フィルムとしては、光が透過して反射光量を減殺することがないよう不透光性のものが望ましく、例えば、住友スリーエム社製のスコッチカル(登録商標)フィルム(JS1000シリーズ不透過タイプ・白)などを用いることができる。
【0065】
(蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含む製造方法)
本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法にも、以上に説明したステップに加え、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものが含まれる。
図9は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図であって、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものである。このうち、ステップS0901からS0905までのステップは、図1に示したステップS0101からS0105までのステップと同様であるから、説明を省略する。
(蓄光層形成材料固化ステップ)
次に、蓄光層形成材料固化ステップS0906において、前記ステップS0905にて流し込んだ蓄光層形成材料を固化する。具体的な固化の方法は、実施形態1で図8を用いて説明したステップS0806における処理と同様である。
(反射層形成ステップ)
次に、反射層形成ステップS0907において、蓄光層形成材料の上面に反射層を形成する。本図に示す実施形態の場合は、蓄光層形成材料が固化した後に反射層を形成するととなる。
(取出ステップ)
次に、取出ステップS0908において、前記ステップS0907までの処理によって得られた、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す。なお、取出しを容易にするために、透明層形成材料を流し込む前に鋳型の凹部にシリコーン系離形剤などの離形剤を塗布しておいてもよい点は、実施形態1において述べたところと同様である。
【0066】
<実施形態2:構成>
図5は、本実施形態の蓄光標識構造体の形状の一例を示す断面図である。本図に示すように、本実施形態の蓄光標識構造体0500は、透明層0501、標識標示シート0502、蓄光層0503に加え、反射層0504を備える。
本図の例も、実施形態1において図3に示したのと同様、蓄光標識構造体が上面視円形の凸レンズ型の形状の場合の例である。その寸法例も、図3について示したものと同様でるが、図3には備えられていない反射層の寸法は、例えば、約0.1~0.2ミリメートルである。そこで、液状の反射層形成材料を鋳型の凹部に流し込んで反射層を形成する方法の場合には、そのための余積を設ける必要があることから、蓄光層の厚みは、図3の例(約3.5ミリメートル以下、より好適には約3ミリメートル以下)よりもその分薄い約3.4ミリメートル以下、より好適には約2.9ミリメートル以下程度となる。
【0067】
<実施形態2:効果>
本実施形態の発明によれば、反射層を備える蓄光標識構造体についても、実施形態1で述べたところと同様の効果を有する蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
<実施形態3>
【0068】
本実施形態は、主に請求項3、請求項4、請求項8、請求項9などに関する。
【0069】
<実施形態3:概要>
本実施形態の発明に係る蓄光標識構造体の製造方法は、実施形態1又は実施形態2の蓄光標識構造体と基本的に共通するが、固化ステップと、標識表示シート載置ステップとの間に再度薄膜を形成する程度の薄膜透明層形成材料流込みステップを有する点に特徴がある。さらに、この場合において、標識表示シート載置ステップは、薄膜透明層形成材料流込みステップで流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に標識表示シートと、透明層との間に空気の泡が挟まらないように空気の泡を標識表示シート外に追い出す泡追出サブステップを有するものも本実施形態に含まれる。
【0070】
<実施形態3:処理の流れ>
【0071】
図6は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図である。このうち、ステップS0601からS0603までにかかる処理は実施形態1について図1に示したステップS0101からS0103までの処理と同様であるから、説明を省略する。
【0072】
(薄膜透明層形成材料流込みステップ)
次に、薄膜透明層形成材料流込みステップS0604において、再度薄膜を形成する程度の薄膜透明層形成材料を流し込む。
【0073】
このステップを設ける目的は、透明層と標識表示シートの間に気泡が生じないようにすることにある。
【0074】
薄膜透明層形成材料としては、例えば、液状の透明シリコーン樹脂をもちいることが考えられる。また、このステップにいう「流込み」には、ゲル状の樹脂を充填することも含まれる。したがって、薄膜透明層形成材料として、透明シリコーンゲルフィルムを用いてもよい。透明シリコーンゲルは、透明性、耐候性などに優れているという性質に加え、粘着性、密着性に優れてため、標識表示シートを載置した後にその上に当該フィルムを密着させるようにして配置することで、標識表示シートと透明層の間に気泡が生じないようにすることができる。透明シリコーンゲルとしては、例えば、信越化学工業株式会社製のシリコーンゲル(製品名:KE-1052(A/B))を用いることができる。
薄膜透明層形成材料の厚みは、約0.1~1.0mmであることが望ましく、より好適には約0.2mmである。
次に、標識表示シート載置ステップS0605において、前記ステップS0604にて流し込んだ薄膜透明層形成材料の上面に標識表示シートを載置する。薄膜透明層形成材料として液状の透明シリコーン樹脂などの液状材料を用いた用いた場合は、当該液状材料が完全に固化する直前に標識表示シートを載置することが望ましい。このようにすることで、薄膜透明層形成材料と標識表示シートの間にも気泡が生じず、もって、透明層と標識表示シートの間、すなわち透明層と薄膜透明層形成材料の間及び薄膜透明層形成材料と標識表示シートの間のいずれにも気泡が生じないようにすることができる。
次に、蓄光層形成材料流込みステップS0606において、前記ステップS0605にて載置された標識表示シートを含む面上に蓄光層形成材料を流し込む。
【0075】
(標識表示シート載置ステップ:泡追出サブステップ)
さらに、上の効果をより確実なものとするために、標識表示シート載置ステップは、薄膜透明層形成材料流込みステップで流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に標識表示シートと、透明層との間に空気の泡が挟まらないように空気の泡を標識表示シート外に追い出す泡追出サブステップを有していてもよい。
【0076】
図7は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図であって、薄膜透明層形成材料流込みステップが泡追出サブステップを有する例を示す。このうち、ステップS0701からS0703までにかかる処理は実施形態1について図1に示したステップS0101からS0103までの処理と同様であり、また、ステップS0704における処理は、図6に示したステップS0604における処理と同様であるから、説明を省略する。
【0077】
次に、標識表示シート載置ステップS0705の泡追出サブステップS0706において、薄膜透明層形成材料流込みステップで流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に標識表示シートと、透明層との間に空気の泡が挟まらないように空気の泡を標識表示シート外に追い出す。
【0078】
泡追出しサブステップにおける具体的な処理方法としては、例えば、流し込まれた薄膜透明層形成材料が完全に固化する前に、へらなどを用いて、標識標示シートの面(薄膜透明層材料に面していない側の面)を擦って標識標示シートの下側(透明層側)に生じている気泡を当該シートの縁部から外側に追い出す方法が考えられる。
【0079】
(蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含む製造方法)
本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法にも、以上に説明したステップに加え、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものが含まれる。
【0080】
図10は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図であって、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものである。このうち、ステップS1001からS1003までのステップは、図1に示したステップS0101からS0103までのステップと同様であり、また、ステップS1004からS1006までのステップにおける処理は、図6に示したステップS0604からS0606までのステップにおける処理と同様であるから、説明を省略する。
【0081】
(蓄光層形成材料固化ステップ)
次に、蓄光層形成材料固化ステップS1007において、前記ステップS1006にて流し込んだ蓄光層形成材料を固化する。具体的な固化の方法は、実施形態1で図8を用いて説明したステップS0806における処理と同様である。
【0082】
(取出ステップ)
次に、取出ステップS1008において、前記ステップS1007までの処理によって得られた、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す。なお、取出しを容易にするために、透明層形成材料を流し込む前に鋳型の凹部にシリコーン系離形剤などの離形剤を塗布しておいてもよい点は、実施形態1において述べたところと同様である。
【0083】
(蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含む製造方法:標識表示シート載置ステップが泡追出サブステップを有する場合)
さらに、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法には、標識表示シート載置ステップが泡追出サブステップを有しているものにおいて、図5に説明した各ステップに加え、蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものが含まれる。
【0084】
図11は、本実施形態の蓄光標識構造体の製造方法に係る処理の流れの一例を示す図であって、標識表示シート載置ステップが泡追出サブステップを有しており、かつ蓄光層形成材料固化ステップ・取出ステップを含むものである。このうち、ステップS1101からS1103までのステップは、図1に示したステップS0101からS0103までのステップと同様であり、また、ステップS1104からS1107までのステップにおける処理は、図7に示したステップS0704からS0707までのステップにおける処理と同様であるから、説明を省略する。
【0085】
次に、蓄光層形成材料固化ステップS01108において、前記ステップS1107にて流し込んだ蓄光層形成材料を固化する。具体的な固化の方法は、実施形態1で図8を用いて説明したステップS0806における処理と同様である。
【0086】
(取出ステップ)
次に、取出ステップS1109において、前記ステップS1108までの処理によって得られた、少なくとも透明層と、蓄光層と、蓄光層上の反射層と、透明層と蓄光層の間に標識表示シートが挟まれ固化して一体化した蓄光標識構造体を鋳型から取り出す。なお、取出しを容易にするために、透明層形成材料を流し込む前に鋳型の凹部にシリコーン系離形剤などの離形剤を塗布しておいてもよい点は、実施形態1において述べたところと同様である。
【0087】
<実施形態3:構成>
図示を省略するが、本実施形態の蓄光標識構造体の形状は、実施形態1において図3に示した蓄光標識構造体の形状と基本的に同一であるが、透明層と標識標示シートの間に薄膜透明層が形成されている点に特徴がある。
なお、蓄光層の下面に反射層を備えているものも本実施形態の蓄光標識構造体に含まれる。の一例を示す断面図である。本図に示すように、本実施形態の蓄光標識構造体0500は、透明層0501、標識標示シート0502、蓄光層0503に加え、反射層0504を備える。
【0088】
本実施形態の蓄光標識構造体の寸法も、実施形態1において図3に示したのと基本的に同様であるが、薄膜透明層の厚みは、既述のように、約0.1~1.0ミリメートル、より好適には約0.2ミリメートルである。蓄光標識構造体全体の高さは、この薄膜透明層の厚みを含んで鋳型の凹部を満たす寸法となる。反射層を備え、かつ反射層が液状の反射層形成材料を流し込んで形成される場合における薄膜透明層の厚みを含む蓄光標識構造体全体の高さについても同様である。が上面視円形の凸レンズ型の形状の場合の例である。その寸法例も、図3について示したものと同様でるが、図3には備えられていない反射層の寸法は、例えば、約0.1~0.2ミリメートルである。
【0089】
<実施形態3:効果>
本実施形態の発明によれば、実施形態1、2の発明と同様の効果、特に、案内表示と透明層の間に気泡が入り込まないようにすることについて特に顕著な効果を有する蓄光標識構造体の製造方法を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14