(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053379
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】スライドファスナー及び止水チェーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A44B 19/32 20060101AFI20240408BHJP
A44B 19/22 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A44B19/32
A44B19/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159609
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小中 稔正
(72)【発明者】
【氏名】荻生 賢志
(72)【発明者】
【氏名】臼田 衛
【テーマコード(参考)】
3B098
【Fターム(参考)】
3B098DC23
3B098DC25
3B098GB23
(57)【要約】
【課題】薄厚の止水フィルムの採用に関わらずスライドファスナーの止水性の低下を抑制する。
【解決手段】スライドファスナー1は、織成及び/又は編成された一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53に一対のコイル状エレメント4m,4nが取り付けられ、一対のファスナーテープ5m,5nの各ファスナーテープ5m,5nのテープ上面51に接着剤7を介して止水フィルム6m,6nが貼り合わされた一対の止水ストリンガー2m,2nと、一対のコイル状エレメント4m,4nの係合のために前進し、その係合解除のために後進するスライダー9を含む。各止水フィルム6m,6nは、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間の隙間S1上に配置されたフィルム端部65を有し、当該フィルム端部65は、接着剤7が固化して成る支持部8により支持され、支持部8は、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間で隙間S1を部分的に占有し、かつフィルム端部65の厚みを超える厚みを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織成及び/又は編成された一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)に一対のコイル状エレメント(4m,4n)が取り付けられ、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の各ファスナーテープ(5m,5n)のテープ上面(51)に接着剤(7)を介して止水フィルム(6m,6n)が貼り合わされた一対の止水ストリンガー(2m,2n)と、
前記一対のコイル状エレメント(4m,4n)の係合のために前進し、その係合解除のために後進するスライダー(9)を備えるスライドファスナー(1)であって、
各止水フィルム(6m,6n)は、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間の隙間(S1)上に配置されたフィルム端部(65)を有し、当該フィルム端部(65)は、前記接着剤(7)が固化して成る支持部(8)により支持され、前記支持部(8)は、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間で前記隙間(S1)を部分的に占有し、かつ前記フィルム端部(65)の厚みの2倍を超える厚みを有する、スライドファスナー。
【請求項2】
前記支持部(8)は、前記ファスナーテープ(5m,5n)の前記テープ上面(51)よりも上方にある上部(88)と、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間で前記上部(88)から下方に膨出した下部(89)を含み、前記下部(89)の最大厚は、前記上部(88)の厚みよりも大きい、請求項1に記載のスライドファスナー。
【請求項3】
前記上部(88)の厚みは、0μmを超え、かつ300μm以下であり、前記下部(89)の厚みは、100μm~400μmの範囲内にある、請求項2に記載のスライドファスナー。
【請求項4】
前記支持部(8)の下面(81)は、前記スライドファスナーの中心線(CL)に向かって上側に傾斜する傾斜領域(82)を含む、請求項1に記載のスライドファスナー。
【請求項5】
前記スライドファスナーの中心線(CL)の両側に設けられた前記傾斜領域(82)は、両者の間に鈍角又は扁平な逆V字を形成するように設けられる、請求項4に記載のスライドファスナー。
【請求項6】
前記支持部(8)は、前記フィルム端部(65)の側面(63)に連続する側面(83)を有し、前記支持部(8)の前記側面(83)の上下幅(TH83)は、前記フィルム端部(65)の前記側面(63)の上下幅(TH63)の2倍を超える、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項7】
前記支持部(8)は、前記フィルム端部(65)の側面(63)に連続する側面(83)を有し、前記支持部(8)は、前記スライドファスナーの中心線(CL)から前記側面(83)よりも離れた位置で最大厚を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項8】
前記接着剤(7)は、熱硬化性の接着剤である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項9】
前記止水フィルム(6m,6n)の厚みは、20μm~100μmの範囲内にある、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項10】
前記支持部(8)の厚みは、150μm~400μmの範囲内にある、請求項9に記載のスライドファスナー。
【請求項11】
前記支持部(8)の下面(81)は、前記ファスナーテープ(5m,5n)のテープ下面(52)よりも前記テープ上面(51)寄りに位置付けられる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項12】
前記支持部(8)の最大厚は、前記フィルム端部(65)の厚みの3倍以上である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項13】
前記支持部(8)は、前記隙間(S1)から前記対向側縁部(53)に向かうテープ内方に前記接着剤(7)が前記ファスナーテープ(5m,5n)の組織に浸透して固化することで前記ファスナーテープ(5m,5n)に固着している、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項14】
前記一対のファスナーテープ(5m,5n)それぞれは、前記接着剤(7)が浸透した上部(58)と、撥水剤が付着した下部(59)を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項15】
前記上部(58)には前記撥水剤が含まれない、請求項14に記載のスライドファスナー。
【請求項16】
前記支持部(8)は、前記接着剤(7)のみから成る、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項17】
織成及び/又は編成された一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)に一対のコイル状エレメント(4m,4n)が取り付けられた一対のファスナーストリンガーから成るファスナーチェーン(10)において前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の両方のファスナーテープ(5m,5n)のテープ上面(51)に対して共通の所定厚の止水フィルム(6)を接着剤(7)を介して貼り合わせる第1工程と、
前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間の隙間(S1)の直上の位置で切断具により前記止水フィルム(6)を切断する第2工程を含み、
前記止水フィルム(6)は、前記接着剤(7)から成る支持部(8’)により支持された状態で切断され、
前記支持部(8’)は、前記止水フィルム(6)の切断前又は切断後、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間で前記隙間(S1)を部分的に占有し、かつ前記止水フィルム(6)の厚みの2倍を超える厚みを有する、止水チェーンの製造方法。
【請求項18】
前記接着剤(7)は、予め前記止水フィルム(6)の下面に成膜されている、請求項17に記載の止水チェーンの製造方法。
【請求項19】
前記第1工程において、前記ファスナーチェーン(10)の幅方向に沿う張力が少なくとも前記止水フィルム(6)に付与される、請求項17に記載の止水チェーンの製造方法。
【請求項20】
前記止水フィルム(6)、前記接着剤(7)、及び前記ファスナーテープ(5m,5n)の積層体をその積層方向において加圧する工程を更に含む、請求項17乃至19のいずれか一項に記載の止水チェーンの製造方法。
【請求項21】
織成及び/又は編成された一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)に一対のコイル状エレメント(4m,4n)が取り付けられ、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の各ファスナーテープ(5m,5n)のテープ上面(51)に接着剤(7)を介して止水フィルム(6m,6n)が貼り合わされた一対の止水ストリンガー(2m,2n)と、
前記一対のコイル状エレメント(4m,4n)の係合のために前進し、その係合解除のために後進するスライダー(9)を備えるスライドファスナー(1)であって、
各止水フィルム(6m,6n)は、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間の隙間(S1)上に配置されたフィルム端部(65)を有し、当該フィルム端部(65)は、前記接着剤(7)が固化して成る支持部(8)により支持され、前記支持部(8)は、前記一対のファスナーテープ(5m,5n)の対向側縁部(53)の間で前記隙間(S1)を部分的に占有し、かつ前記フィルム端部(65)の厚みを超える厚みを有する、スライドファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スライドファスナー及び止水チェーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テープ本体上に反応性ホットメルト接着剤を介してフィルム部材を貼り合わせる技術が開示されている。同文献の段落0094には、フィルム部材の長さ方向においてフィルム部材にテンションを付与することが開示されている。
【0003】
特許文献2には、芯紐に撥水剤又は撥油剤を付着させることが開示されている。同文献では、ファスナーチェーンの表面にポリウレタンフィルム等の液密層を接着又は溶着している(同文献の段落0025,0034参照)。
【0004】
特許文献3には、低融点樹脂層と高融点樹脂層とから構成された積層合成樹脂フィルムをファスナーテープに貼り合わせ、低融点樹脂層をファスナーテープに溶着させることが開示されている。同文献の
図7には、ファスナーテープの側縁から積層合成樹脂フィルムにより部分的に被覆された状態が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/048936号
【特許文献2】特許第4689631号公報
【特許文献3】特許第3580725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薄厚の止水フィルムの使用によって、その貼り合わせに伴うファスナーテープの柔軟性の低下を抑制することができ、これと同時にスライドファスナーの軽量化も促進可能である。しかしながら、止水フィルムの端部同士の接触確率が低下し、また止水フィルムの端部が変形し易くなるおそれもある。例えば、スライドファスナーの長期使用におけるスライダーの開閉操作の繰り返しに応じて止水フィルムの端部が変形すると、スライドファスナーの止水性が低下してしまう。本願発明者は、薄厚の止水フィルムの採用に関わらずスライドファスナーの止水性の低下を抑制するという技術的課題を新たに見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[態様1]本開示の一態様に係るスライドファスナーは、織成及び/又は編成された一対のファスナーテープの対向側縁部に一対のコイル状エレメントが取り付けられ、前記一対のファスナーテープの各ファスナーテープのテープ上面に接着剤(好ましくは、熱硬化性の接着剤)を介して止水フィルムが貼り合わされた一対の止水ストリンガーと、前記一対のコイル状エレメントの係合のために前進し、その係合解除のために後進するスライダーを含む。各止水フィルムは、前記一対のファスナーテープの対向側縁部の間の隙間上に配置されたフィルム端部を有し、当該フィルム端部は、前記接着剤が固化して成る支持部により支持され、前記支持部は、前記一対のファスナーテープの対向側縁部の間で前記隙間を部分的に占有し、かつフィルム端部の厚みを超える厚み(例えば、フィルム端部の厚みの2倍を超える厚み)を有する。
【0008】
[態様2]態様1において、前記支持部は、前記ファスナーテープの前記テープ上面よりも上方にある上部と、前記一対のファスナーテープの対向側縁部の間で前記上部から下方に膨出した下部を含み、前記下部の最大厚は、前記上部の厚みよりも大きい。
【0009】
[態様3]態様1又は2において、前記上部の厚みは、0μmを超え、かつ300μm以下であり、前記下部の厚みは、100μm~400μmの範囲内にある。
【0010】
[態様4]態様1乃至3のいずれかにおいて、前記支持部の下面は、前記スライドファスナーの中心線に向かって上側に傾斜する傾斜領域を含む。
【0011】
[態様5]態様1乃至4のいずれかにおいて、前記スライドファスナーの中心線の両側に設けられた前記傾斜領域は、両者の間に鈍角又は扁平な逆V字を形成するように設けられる。
【0012】
[態様6]態様1乃至5のいずれかにおいて、前記支持部は、前記フィルム端部の側面に連続する側面を有し、前記支持部の前記側面の上下幅は、前記フィルム端部の前記側面の上下幅の2倍を超える。
【0013】
[態様7]態様1乃至6のいずれかにおいて、前記支持部は、前記フィルム端部の側面に連続する側面を有し、前記支持部は、前記スライドファスナーの中心線から前記側面よりも離れた位置で最大厚を有する。
【0014】
[態様8]態様1乃至7のいずれかにおいて、前記接着剤は、熱硬化性の接着剤である。
【0015】
[態様9]態様1乃至8のいずれかにおいて、前記止水フィルムの厚みは、20μm~100μmの範囲内にある。
【0016】
[態様10]態様1乃至9のいずれかにおいて、前記支持部の厚みは、150μm~400μmの範囲内にある。
【0017】
上述の態様2~10は、態様1を前提とせずに態様1とは独立した特徴として理解することもできる。
【0018】
[態様11]本開示の別態様に係る止水チェーンの製造方法は、織成及び/又は編成された一対のファスナーテープの対向側縁部に一対のコイル状エレメントが取り付けられた一対のファスナーストリンガーから成るファスナーチェーンにおいて前記一対のファスナーテープの両方のファスナーテープのテープ上面に対して共通の(所定厚の)止水フィルムを接着剤(好ましくは、熱硬化性の接着剤)を介して貼り合わせる第1工程と、前記一対のファスナーテープの対向側縁部の間の隙間の直上の位置で切断具により前記止水フィルムを切断する第2工程を含み、前記止水フィルムは、前記接着剤から成る支持部により支持された状態で切断され、前記支持部は、前記止水フィルムの切断前又は切断後、前記一対のファスナーテープの対向側縁部の間で前記隙間を部分的に占有し、かつ止水フィルムの厚みを超える厚みを有する。
【0019】
上述の態様2~10を態様11に付加することもできる。上述の態様2~10は、態様11を前提とせずに態様11とは独立した特徴として理解することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一態様によれば、薄厚の止水フィルムの採用に関わらずスライドファスナーの止水性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の一態様に係るスライドファスナーの概略的な上面図である。
【
図2】スライドファスナーの概略的な部分下面図であり、コイル状エレメントの係合状態を示す。
【
図3】
図1の一点鎖線III-IIIに沿う概略断面模式図であり、左右のファスナーテープの間の隙間の近傍の拡大図も併せて示す。
【
図4】縫糸によってコイル状エレメントがファスナーテープの地組織に縫い付けられた状態を示す模式図である。
【
図5】スライダーの内部構造を示す模式図であり、連結柱とフランジ間のエレメント通路にコイル状エレメントが導入されることを併せて示す。
【
図6】ファスナーテープの下部に撥水剤が付着した形態を示す概略図である。
【
図7】スライドファスナーの製造工程を示す概略的な工程図である。
【
図8】スライドファスナーの製造工程を示す概略的な工程図である。
【
図9】止水フィルムに張力が付与された状態を示す模式図である。
【
図10】止水フィルムへの張力の付与が解除された後の状態を示す模式図である。
【
図11】止水フィルムに張力が付与された状態を示す別の模式図である。
【
図12】
図11に示す状態で止水フィルム及び支持部が切断された後の状態を示す模式図である。
【
図13】サンプルの断面写真であり、止水フィルムの切断前の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の非限定の実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本明細書に開示されたスライドファスナーにのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々なスライドファスナーにも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0023】
本願明細書では、スライドファスナー1を開閉させるスライダー9の移動方向を前後方向とする。スライドファスナー1の幅方向に平行な方向を左右方向とする。スライドファスナー1の厚み方向に平行な方向を上下方向とする。尚、上下方向は、前後方向及び左右方向の両方向に直交する。上下方向は、必ずしも鉛直方向(重力方向)を意味しない。例えば、スライドファスナー1の長手方向が鉛直方向に配される時、スライドファスナー1に関する上下方向は(鉛直方向に直交する)水平方向に含まれる。このように、本明細書で参照する方向は、鉛直方向とは無関係である。尚、後述の説明のように前後方向、左右方向、上下方向以外の方向も適宜参照される。
【0024】
図1乃至
図5を参照して説明する。スライドファスナー1は、所定の左右幅で前後方向に長く延びる可撓性を有する長尺パーツであり、一対の止水ストリンガー2m,2nと、少なくとも一つのスライダー9を有する。各止水ストリンガー2m,2nは、コイル状エレメント4m,4n、ファスナーテープ5m,5n、及び止水フィルム6m,6nを含む。止水フィルム6m,6nが接着剤7を介してファスナーテープ5m,5nに貼り合わされている。スライダー9の前進により一対のコイル状エレメント4m,4nが係合し(同時に、止水ストリンガー2m,2nが閉鎖され)、その後進により一対のコイル状エレメント4m,4nの係合が解除される(同時に、止水ストリンガー2m,2nの閉鎖が解除される)。尚、図示例では、ファスナーテープ5m,5nが平坦であるが、所謂、隠しスライドファスナーとするために中心線CL近傍で折返しを形成することもできる。
【0025】
一対のコイル状エレメント4m,4nは、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53に取り付けられ、典型的には、二重環縫いによって縫い付けられる。各コイル状エレメント4m,4nは、モノフィラメントが螺旋状に巻かれて成り、上脚41、下脚42、係合頭部43、及び反転部44から成る単位U1の連続配列を含む(
図2乃至
図4参照)。係合頭部43は、モノフィラメントの塑性変形によって前後方向で幅広に成形された噛合部を有し、左右のコイル状エレメント4m,4nの係合を可能とする。コイル状エレメント4m,4nの内部には芯紐49が挿入されてコイル状エレメント4m,4nの機械的な強度或いは縫糸Y1によるファスナーテープ5m,5nへの取付強度が高められる。二重環縫いの場合、縫糸Y1は、少なくとも1本の針糸Y11と少なくとも1本のルーパー糸Y12を含み得る(
図4参照)。
【0026】
上脚41及び下脚42は、ファスナーテープ5m,5nの幅方向に延び、テープ外方端とテープ内方端を有する。係合頭部43は、上脚41のテープ外方端と下脚42のテープ外方端を連結するように上下方向に延びる。反転部44は、隣接する単位U1の間において下脚42のテープ内方端と上脚41のテープ内方端を連結するように湾曲して延びる。テープ外方は、一つのファスナーテープに関して、そのファスナーテープのテープ面上に位置する点から対向側縁部53に交差(例えば、直交)してそのテープ面外に位置する点に向かう方向を意味する。テープ内方は、一つのファスナーテープに関して、そのファスナーテープのテープ面外に位置する点から対向側縁部53に交差(例えば、直交)してそのテープ面上に位置する点に向かう方向を意味する。
【0027】
スライダー9は、必ずしもこの限りではないが、上翼板91、下翼板92及びこれらを連結する連結柱93を有する。連結柱93は、上翼板91の前端部と下翼板92の前端部の間を上下方向に延びて連結し、これにより、Y字状のエレメント通路が形成される(
図5参照)。連結柱93の左右両側に2個の前口が設けられ、これらの前口の反対側には1個の後口が設けられる。上翼板91には連結柱93から後方に延びる仕切り条91aを設けることができる(
図5参照)。コイル状エレメント4m,4n(特にその係合頭部43)は、スライダー9の連結柱93に接触し得る。
図5に示すように仕切り条91aが設けられる場合、スライダー9内において後述のフィルム端部65及び/又は支持部8が仕切り条91aに接触し、スライダー9内での水密性が高められ得る。また、支持部8によってフィルム端部65が補強されて仕切り条91aとの接触に耐えることができる。尚、
図3に図示のように仕切り条91aを省略することもできる。
【0028】
スライドファスナー1の幅方向においてコイル状エレメント4m,4nの移動路を制限するためにフランジ94,95を設けることができる。下翼板92の左右側縁には前後方向に延びる(上側に突出した)フランジ94が設けられる。上翼板91の左右側縁にも前後方向に延びる(下側に突出した)フランジ95が設けられる。これらのフランジ94とフランジ95が上下方向で対向して配置されてファスナーテープ5m,5nの通過を許すテープ通路96が形成される。尚、フランジ94,95の一方を省略することも可能である。ファスナーテープ5m,5nに関してコイル状エレメント4m,4nが設けられる側のフランジ94の高さを大きくし、反対側のフランジ95の高さを小さくすると良い。
【0029】
図3に戻って説明する。ファスナーテープ5m,5nは、テープ上面51とテープ下面52を有し、これによりその厚みが画定される。テープ上面51には接着剤7を介して止水フィルム6m,6nが貼り合わされる。テープ下面52にはコイル状エレメント4m,4nが設けられる。また、ファスナーテープ5m,5nは、その幅方向(左右方向)においてコイル状エレメント4m,4nが取り付けられる側縁部53と、これ以外の残部のテープ主体部54に区分可能であり、側縁部53は、テープ主体部54よりも幅狭であり得る。
【0030】
止水フィルム6m,6nは、水といった液体が浸透しない樹脂フィルム(好適には、熱硬化性樹脂から成るフィルム)である。止水フィルム6m,6nは、有利には、十分な可撓性と機械的な強度を有するポリウレタンフィルムである。止水フィルム6m,6nは、例えば、剥離紙上にフィルムとして予め成膜されたものである。幾つかの場合、止水フィルム6m,6nの上面がその下面に比べてより高い平滑度を有する。別の場合、止水フィルム6m,6nの上面がエンボス加工された非平滑面である(その下面は、平滑面又は非平滑面であり得る)。止水フィルム6m,6nは、可視光(可視域(360nm~830nm)に属する光)に対して透明な透明フィルムであり得る(例えば、透明フィルムは、可視光について70%又は80%又は90%以上の透過率を有する)。止水フィルム6m,6nは、スライドファスナー1の中心線CLに沿って延びる側面63を有する。中心線CLの左右両側の側面63同士は、僅かな隙間を空けて対面し、或いは、部分的に接触し得る(例えば、上下方向及び/又は前後方向において局所的に接触し得る)。止水フィルム6m,6nの厚みは、好適には、20μm~100μmの範囲内にあり、より好適には、20μm~70μmの範囲内にある。側面63は、止水フィルム6の切断により形成された面である。
【0031】
止水フィルム6m,6nは、ファスナーテープ5m,5nの対向側面56を超えてスライドファスナー1の中心線CLに向かって突出したフィルム端部65と、これ以外の残部のフィルム主体部66を有する。フィルム端部65の直下にはファスナーテープ5m,5nが存在せず、ファスナーテープ5m,5nの間の隙間S1が存在する。フィルム主体部66の直下にはファスナーテープ5m,5nが存在する。好適には、止水フィルム6m,6nは、ファスナーテープ5m,5nのテープ上面51の全域を被覆する。
【0032】
接着剤7は、熱可塑性及び熱硬化性の接着剤であり得る。より好ましくは、接着剤7は、熱硬化性であり、加熱による架橋反応の進行により硬化し、硬化後はその状態を維持する(即ち、再び高温になっても軟化しない)。接着剤7は、例えば、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂又はエポキシ系樹脂である。止水フィルム6m,6nと同じ種類の接着剤(例えば、ポリウレタン系樹脂)を用いることによりファスナーテープ5m,5nからの止水フィルム6m,6nの剥離強度を高めることができる。止水フィルム6m,6nが透明フィルムである場合、接着剤7も透明な接着剤(例えば、無機又は有機顔料を含有しないもの)を用いることが好ましく、これによりファスナーテープ5m,5nの色を上手く表出させることができる。
【0033】
接着剤7は、ファスナーテープ5m,5nと止水フィルム6m,6nの間に中間層71として形成され得る。中間層71の厚みは、好適には、50μm~300μmの範囲内にあり、より好適には、120μm~200μmの範囲内にある。中間層71の厚みはある範囲で変動し得る。例えば、その最大厚は、止水フィルム6m,6nの厚みよりも大きく、その最小厚は、止水フィルム6m,6nの厚みよりも小さい。中間層71は、ファスナーテープ5m,5nのテープ上面の全域に形成され、或いは局所的に又は部分的に形成され得る。中間層71の厚みは、ファスナーテープの地糸による織り及び/又は編み組織によってできる表面の凹凸や各地糸の構成繊維内への接着剤の含侵によって変化する。
【0034】
幾つかの場合、止水フィルム6m,6nの下面には接着剤シートが予め貼り合わされており、又は接着剤が接着剤層として成膜されており、少なくとも止水フィルム6m,6nと接着剤を含む積層体がファスナーテープ5m,5n上に貼り合わされ、その後、厚み方向で加圧される。接着剤又は接着剤シートがファスナーテープ5m,5nの組織に浸透して一体化する形態も想定される。この場合、ファスナーテープ5m,5nと止水フィルム6m,6nの間で接着剤7が中間層71として認識できないか、又は、認識し難くなる。
【0035】
本実施形態では、止水フィルム6m,6nは、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間の隙間S1上に配置されたフィルム端部65を有する。このフィルム端部65は、接着剤7が固化して成る支持部8により支持される。また、この支持部8は、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間で隙間S1を部分的に占有し、かつフィルム端部65の厚みを超える厚みを有する。つまり、支持部8は、隙間S1を部分的に占有して厚肉化されている。これにより、薄厚の止水フィルムの採用に関わらずスライドファスナーの止水性の低下を抑制することができる。
【0036】
切断具で一枚の止水フィルム6を切断して止水フィルム6m,6nを形成するに際してこの切断前に支持部8が厚肉化されている場合、止水フィルム6が支持部8によってより安定に支持され、止水フィルムの切断精度が高められる。
【0037】
接着剤7の塗布量を増加し、或いは、ファスナーテープ5m,5n、接着剤7、及び止水フィルム6m,6nの積層体をより大きな力で加圧することで支持部8をより厚く形成することができる。好適には、接着剤7の固化に伴うファスナーテープ5m,5nの柔軟性の低下が問題とならないように支持部8が適度な厚みで形成される。支持部8の厚みは、止水フィルム6m,6nの厚みの1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、又は2倍を超え、好適には、150μm~400μmの範囲内にあり、より好適には、150μm~300μmの範囲内にある。場合によっては、支持部8の最大厚がフィルム端部65の厚みの3倍以上であり得、これによりフィルム端部65をより確実に又はより安定して支持することができる(フィルム端部65の厚みは、典型的には、止水フィルム6m,6nの厚みに等しい)。好適には、ファスナーテープ5m,5n間の隙間S1は200~600μmの範囲内になるように調整される。尚、支持部8は、フィルム端部65の下面の全域に固着し得る。また、支持部8は、ファスナーテープ5m,5nの対向側面56を部分的に被覆するように形成され、典型的には、隙間S1から対向側縁部53に向かうテープ内方に接着剤7がファスナーテープ5m,5nの組織に浸透して固化することでファスナーテープ5m,5nに固着する。
【0038】
支持部8は、ファスナーテープ5m,5nのテープ上面51よりも上方にある上部88と、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間で上部88から下方に膨出した下部89を含み得る。
図3では、上部88の厚みと下部89の厚みが同等であるが、これに限られない。幾つかの場合、下部89の最大厚(又は平均厚)が上部88の厚みよりも大きい。これにより支持部8の厚肉化を更に促進することができる。尚、止水フィルム6m,6nとファスナーテープ5m,5nの間に接着剤7から成る中間層71が形成される時、上部88は、この中間層71と同層の部分であり、中間層71の厚み範囲(最大厚と最小厚から定まる厚み範囲)内の厚みを有し得る。下部89の最大厚が上部88の厚みよりも小さくても支持部8による止水フィルム6m,6nの支持の効果は得られる。
【0039】
上部88の厚みは、好適には、0μmを超え、かつ300μm以下であり、より好適には、50μm~200μmの範囲内にある。下部89の厚みは、好適には、100μm~400μmの範囲内にあり、より好適には、150μm~300μmの範囲内にある。
【0040】
支持部8(及びその下部89)は、その下方に位置するコイル状エレメント4m,4nを臨む下面81と、止水フィルム6m,6nの側面63に連続する(例えば、同じく、スライドファスナー1の中心線CLに沿って延びる)側面83と、止水フィルム6m,6nの下面に固着した上面84を有する。下面81は、スライドファスナーの中心線CLに向かって上側に傾斜する傾斜領域82を含むことができる。中心線CP1の左右両側の傾斜領域82は、鈍角θを形成し、或いは、扁平な逆V字を形成する。左右両側の傾斜領域82は、同一の斜度を有する必要はなく、異なる斜度を有することができる。側面83は、止水フィルム6が切断される時に支持部8’(
図9参照)が一緒に切断されて形成される面である。止水フィルム6m,6nの側面63と同様、側面83は、前後方向に連続的に延びる。中心線CLの左右両側の側面83同士は、僅かな隙間を空けて対面し、或いは、部分的に接触し得る(例えば、上下方向及び/又は前後方向において局所的に接触する)。下面81は、ファスナーテープ5m,5nのテープ下面52よりもテープ上面51寄りに位置付けられ得る。支持部8が上部88に加えて下部89を有することにより支持部8の側面83が下方に延長され、中心線CLの左右両側の側面83の接触確率が高められる。
【0041】
支持部8の側面83の上下幅TH83は、フィルム端部65の側面63の上下幅TH63の2倍を超え、又は3倍、又は4倍を超える。これにより左右の支持部8同士の接触確率が高められる。尚、支持部8の側面83の上下幅TH83は、フィルム端部65の側面63の上下幅TH63の8倍未満、又は7倍未満、又は6倍未満であり得る。追加又は代替として、支持部8は、スライドファスナーの中心線CLからその側面83よりも離れた位置で最大厚TH8を有することができ、これにより、ファスナーテープ5m,5nへの固着強度が高められる。尚、止水フィルム6の厚みと同様、フィルム端部65の側面63の上下幅TH63は、20μm~100μmの範囲内にあり、より好適には、20μm~70μmの範囲内にある。支持部8の厚みと同様、支持部8の側面83の上下幅TH83は、150μm~400μmの範囲内にあり、好適には、150μm~300μmの範囲内にある。支持部8の最大厚TH8についても同様である。
【0042】
左右両側の傾斜領域82が鈍角θを成す扁平な逆V字状に形成される場合、支持部8’(
図9参照)の切断箇所の厚みが小さくなって安定して切断が行え、及び/又は、ファスナーテープ5m,5nの側面56との支持部8’の固着部の厚みが大きくなり固着強度が高められる。傾斜領域82は、支持部8の側面83と支持部8の最大厚の位置の間に形成される。支持部8の最大厚の位置とファスナーテープ5m,5nの側面56の間には別の傾斜領域85が形成される場合がある。この場合においても、支持部8の最大厚の位置がファスナーテープ5m,5nの側面56の近くに位置すれば、ファスナーテープ5m,5nへの支持部8の固着強度が高められる。
【0043】
好適には、左右の側面83の離間距離は、60μm以下であり、例えば、0~30μmの範囲内にある。左右の側面83の離間距離=0は、それらの側面83が接触していることを意味する。左右の側面83が、スライドファスナー1の長手方向で不規則又は規則的に接触及び非接触を繰り返す場合、それらの間の離間距離の平均値は、2μm以上であり得る。例えば、10cmの長さのスライドファスナー1において1cm間隔で側面83間の距離を計測し、その平均値を算出することができる。
【0044】
連結柱93は、上翼板91との連結箇所付近において
図5の点線で示すように太く設計される場合がある。このような場合、支持部8が連結柱93の壁面に接触して水密性が高められ得る。しかしながら、スライダー9の摺動抵抗が増加してしまうおそれがある。この点について、上述のように支持部8の下面81に傾斜領域82を形成することにより連結柱93の壁面との接触面積を低減することができる。追加又は代替として、
図5に示すように、連結柱93から後方に延びる仕切り条91aが上翼板91の下面から下方に突出して形成され得る。この場合、支持部8が仕切り条91aの側面に接触して水密性が高められるものの、同じく、スライダー9の摺動抵抗が増加してしまうおそがある。上述と同様、支持部8の下面81に傾斜領域82を形成することにより連結柱93の壁面との接触面積を低減することができる。尚、仕切り条91aの左右幅は、隙間S1の左右幅よりも大きい。
【0045】
図6を参照して説明する。幾つかの場合、
図6に図示のように、接着剤7がファスナーテープ5m,5nの上部58に浸透して固化し、この上部58には液体が浸透しないか、或いは浸透し難くなる。ファスナーテープ5m,5nを介した液体の浸透(例えば、隙間S1からファスナーテープ5m,5nの組織に液体が浸透してファスナーテープ5m,5nのテープ下面52に到達する流路の形成)を阻止するため、ファスナーテープ5m,5nの下部59に対して撥水剤を付着させることができる。ファスナーテープ5m,5nの下部59の全域に限らず、ファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53に限定して撥水剤を付着させることもできる。ファスナーテープ5m,5nの上部58と下部59の境界は、接着剤7の有無に基づいて定めることができる(図示の直線的な境界は説明の便宜のために引いたものに過ぎない)。撥水剤の付与のために、スプレー・コーティング、撥水液への止水ストリンガー2m,2nの浸漬といった様々な方法を採用することができる。
【0046】
ファスナーテープ5m,5nに接着剤7を介して止水フィルム6m,6nを貼り合わせた後に撥水剤を付与させることによって撥水剤の使用量を削減することができ、また芯紐49及びコイル状エレメント4m,4nにも撥水剤を付着させることができるが、この方法に限られない。ファスナーテープ5m,5nを予め撥水液に浸漬しておき、その後、止水フィルム6m,6nを貼り合わせることもできる。この場合、ファスナーテープ5m,5nの上部58にはファスナーテープ5m,5nの組織及び接着剤7に加えて撥水剤が存在することになる。念のため述べれば、撥水剤の付与は省略可能である。
【0047】
スライドファスナー1の操作について説明する。スライダー9が前進して左右のコイル状エレメント4m,4nが係合する時、左右のファスナーテープ5m,5nの間には隙間S1が形成されて接触しない。しかしながら、この隙間S1の直上には止水フィルム6m,6nのフィルム端部65が配されており、隙間S1への流体の進入が阻止又は抑制される。また、フィルム端部65には上述の支持部8が固着している。従って、フィルム端部65の間の隙間を介して液体が流入することが更に抑制される。
【0048】
スライドファスナー1の中心線CLの左右両側に設けられたフィルム端部65が接触することは必須ではないが、スライドファスナー1の長さ方向にその中心線CLに沿って局所的又は断続的に接触することは想定されている。スライドファスナー1の中心線CLの左右両側に設けられた支持部8同士の接触についても同様である。カッターといった切断具による切断に伴って、止水フィルム6m,6nの一部が削られ、支持部8も部分的に削られるが、依然として局所的又は断続的な接触は生じ得る。
【0049】
スライドファスナー1の製法について説明する。まず、ファスナーチェーン10の両方のファスナーテープ5m,5nのテープ上面に対して共通の止水フィルム6を接着剤7を介して貼り合わせる(
図7参照)。この貼り合わせ工程は、止水フィルム6と接着剤層をこの順で剥離紙上に形成した積層体をファスナーテープ5m,5nに貼り合わせることで実施することもできる。接着剤層とファスナーテープが直接触する態様で貼り合わせが行われる。止水フィルム6が形成された剥離紙の主面が平滑面である場合、剥離紙の平滑面が止水フィルム6の上面に転写されて平滑面になる。止水フィルム6及び接着剤層は、いずれも熱硬化性樹脂であり得るが、必ずしもこの限りではない。尚、ファスナーチェーン10は、コイル状エレメント4m,4n同士が係合した状態の止水フィルム6m,6nから構成される。
【0050】
次に、ファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間の隙間S1の直上の位置でファスナーチェーン10の中心線CLに沿ってカッターといった切断具101により止水フィルム6を切断する(
図8参照)。このようにして個々のファスナーテープ5m,5n上に個々の止水フィルム6m,6nが貼り合わされた止水チェーンが得られる。オプションとして、加圧手段を用いて止水ストリンガー2m,2n(止水フィルム6m,6n、接着剤7、及びファスナーテープ5m,5nの積層体)を厚み方向(換言すれば、積層体の積層方向)で加圧することができ、これによりファスナーテープ5m,5nに対して止水フィルム6m,6nがより強く密着し、かつ支持部8の形成が促進される。加圧手段は、バネといった弾性手段によって付勢された加圧ロールを含み得る。例えば、加圧ロールと(回転軸が所定位置に固定された)送りロールの間で止水ストリンガー2m,2nを送ることにより、止水ストリンガー2m,2nがその厚み方向で加圧される。他の加圧手段も採用可能である。
【0051】
貼り合わせ工程において、ファスナーチェーン10の幅方向に沿う張力を少なくとも止水フィルム6に付与し、かつこの張力の付与を解除することもできる。
図9に示すようにファスナーチェーン10の中心線CLから離れる方向(
図9の矢印参照)に接着剤7付きの止水フィルム6(止水フィルム6と接着剤シート7’の積層体)を左右両側に引っ張って張った状態としてファスナーテープ5m,5n上に貼り合わせることができる。この張力の付与を解除すると、止水フィルム6が張った状態から僅かに弛み、
図10に示すようにファスナーテープ5m,5nが中心線CLに近づく方向に僅かに変位する。この結果、支持部8’にはその中心線CLの左右両側に傾斜領域82’が形成される。
【0052】
続いて、カッターといった切断具を用いてファスナーチェーン10の中心線CLに沿って止水フィルム6及び支持部8’を切断する。止水フィルム6は、接着剤7が固化して成る支持部8’により支持された状態で切断される。支持部8’は、一対のファスナーテープ5m,5nの対向側縁部53の間で隙間S1を部分的に占有して厚肉化されている。従って、止水フィルム6を安定して切断することができ、その切断精度が高められる。隙間S1が支持部8’により完全に占有されていないことで切断具の刃先をその隙間S1に適切な深度で位置付け易くなり、コイル状エレメント4m,4nを傷つけることなく止水フィルム6を切断することが促進される。また、支持部8’、特にテープ側縁部53の側面56と接触して支持部8’が形成されていることでテープ側縁部53を傷つけることなく切断することが促進される。
【0053】
支持部8’に傾斜領域82’を形成する具体的な方法は上述の方法に限られない。ファスナーテープ5m、5nに接着剤7を介して止水フィルム6を貼り付けた後、かつ接着剤7が固化する前、
図11に示すように止水フィルム6付きの左右のファスナーテープ5m,5nを左右両側に引っ張ることもできる。この操作によって止水フィルム6が張った状態となり、場合によっては、その中央付近にて薄肉となる(例えば、止水フィルム6の上面の僅かな凹みが形成される(
図11参照))。止水フィルム6をその中央部分(例えば、凹み)で切断すると、隙間S1上の各止水フィルム6がファスナーチェーン10の中心線CLから離れる方向に動き、支持部8’を形成していた接着剤7も同様に動き、ファスナーテープ5m,5nの側面56に沿って下方に流動する(
図12参照)。この結果、中心線CLの左右両側に傾斜領域82’が形成される。
【0054】
図13は本実施例に係るファスナーテープ間の支持部を示す断面写真である。実際の商品と形態は同じであるが、その構造を分かりやすくするため、ファスナーテープ5m、5n、止水フィルム6、接着剤シート7’をそれぞれ異なる色にした。隙間S1に形成された支持部8の形態と、それが接着剤により形成されたものであることが良く理解できる。
【0055】
上述の開示を踏まえ、当業者は、各特徴及び各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 :スライドファスナー
2m :止水ストリンガー
2n :止水ストリンガー
4m :コイル状エレメント
4n :コイル状エレメント
5m :ファスナーテープ
5n :ファスナーテープ
6 :止水フィルム
6m :止水フィルム
6n :止水フィルム
7 :接着剤
8 :支持部
8’ :支持部
9 :スライダー
10 :ファスナーチェーン
51 :テープ上面
52 :テープ下面
53 :側縁部
58 :上部
59 :下部
65 :フィルム端部
81 :下面
82 :傾斜領域
82’ :傾斜領域
84 :上面
88 :上部
89 :下部
CL :中心線
CP1 :中心線
S1 :隙間
θ :鈍角