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特開2024-5338有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005338
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/00 20230101AFI20240110BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240110BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L29/28 300
H01L29/28 100A
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
H01L29/78 627F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105484
(22)【出願日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス:https://meeting.jsap.or.jp/jsap2021a/program ウェブサイトの掲載日:令和3年8月26日 ・集会名:第82回応用物理学会秋季学術講演会 開催日:令和3年9月10日~13日 ・ウェブサイトのアドレス:https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2022/ ウェブサイトの掲載日:令和4年5月10日 ・集会名:第71回高分子学会年次大会 開催日:令和4年5月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊介
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110CC05
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD05
5F110GG05
5F110GG24
5F110GG42
5F110GG57
5F110GG58
5F110HK01
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK04
5F110HK32
5F110HK41
5F110HK42
5F110NN22
5F110QQ16
(57)【要約】
【課題】クリーンルーム等の大規模な施設や、習熟のための訓練を必要とせず、通常の実験環境で、簡単にデバイスを作成することができる有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイスを提供する。
【解決手段】高分子膜を形成する高分子膜形成工程と、高分子膜上に、電極を形成する電極形成工程と、高分子膜上の所定の領域に半導体有機薄膜を形成する半導体有機薄膜形成工程とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子膜を形成する高分子膜形成工程と、
前記高分子膜上に、電極を形成する電極形成工程と、
前記高分子膜上の所定の領域に半導体有機薄膜を形成する半導体有機薄膜形成工程とを、
含むことを特徴とする有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記高分子膜を形成する犠牲層が設けられた基板を準備する基板準備工程と、
前記基板から前記犠牲層を溶解して、前記高分子膜、前記電極、前記半導体有機薄膜からなる有機電気化学トランジスタデバイスを分離する分離工程とを、
含むことを特徴とする請求項1記載の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記高分子膜形成工程は、第一の滴下工程と、第一のアニール工程とからなり、
前記第一の滴下工程は、ポリマー及び紫外線の照射により親水性が変化する金属ナノ粒子を含む第一の混合溶媒を滴下する工程であり、
前記第一のアニール工程は、前記第一の混合溶媒から溶媒を蒸発させる工程であることを
特徴とする請求項1に記載の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記電極形成工程は、第一の親水化処理工程と、第二の滴下工程と、第二のアニール工程とからなり、
前記第一の親水化処理工程は、前記金属ナノ粒子を含む前記高分子膜上の電極を形成される領域に紫外線を照射して、第一の変性領域を形成する工程であり、
前記第二の滴下工程は、前記高分子膜上の前記第一の変性領域に、金属コロイド分散溶媒を滴下する工程であり、
前記第二のアニール工程は、前記金属コロイド分散溶媒の溶媒を蒸発させる工程であることを
特徴とする請求項3に記載の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記半導体有機薄膜形成工程は、第二の親水化処理工程と、第三の滴下工程と、第三のアニール工程とからなり、
前記第二の親水化処理工程は、前記金属ナノ粒子を含む前記高分子膜の前記半導体有機薄膜が形成される領域に紫外線を照射し、第二の変性領域を形成する工程であり、
前記第三の滴下工程は、前記半導体有機薄膜の原料を含む第二の混合溶媒を前記第二の変性領域に滴下する工程であり、
前記第三のアニール工程は、前記第二の混合溶媒から溶媒を蒸発させる工程であることを
特徴とする請求項4に記載の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項6】
高分子膜と、
前記高分子膜上に形成された電極と、
前記高分子膜上に形成された半導体有機薄膜と、
からなることを特徴とする有機電気化学トランジスタデバイス。
【請求項7】
基板を準備する基板準備工程と、
前記基板上の電極パターンを形成する領域以外をマスクで覆い、蒸着により、電極端子部、電極配線、測定電極部からなる電極パターンを形成する電極製造工程と、
絶縁性フィルムで前記電極パターンの前記電極端子部、前記測定電極部以外を覆い、前記絶縁性フィルムを前記基板上に貼り付けるカバー形成工程と、
前記測定電極部上に半導体有機薄膜形を形成する半導体有機薄膜形工程と、
を含むことを特徴とする有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法。
【請求項8】
基板と、
前記基板に形成された、電極端子部、電極配線、測定電極部からなる電極パターンと、
前記電極端子部、前記測定電極部以外を覆う絶縁性フィルムと、
前記測定電極部上に形成された半導体有機薄膜と、
からなることを特徴とする有機電気化学トランジスタデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳のすぐれた情報処理能力を人工的に実現することを目的とした「ニューロコンピューティング」の研究が、ソフトウェア、ハードウェアの両面から行われている。ハードウェアの面では、脳の神経回路を構成するシナプスの動作を模倣した「神経模倣素子」の研究が注目を集めている。高性能な神経模倣素子として、有機電気化学トランジスタ(OECT;organic electrochemical transistor)が知られている。
【0003】
有機電気化学トランジスタは、上記、神経模倣素子応用のみならず、親水性や生体親和性、フレキシブル性を活かしてバイオセンサへの応用検討も盛んに行われている。
【0004】
有機電気化学トランジスタは、液体電解質から導体または半導体薄膜チャネルへのイオンの注入によってドレイン電流が制御されるトランジスタであり、チャネルへのイオンの注入は、ゲート電極に電圧を印加することによって制御される。膜に移動したイオンは、チャネルの導電率を変調することで、有機電気化学トランジスタの電荷輸送メカニズムが変化する。有機電気化学トランジスタは、マルチビットの記憶メカニズムを示すことから、「神経模倣素子」の設計方針の構築や、動作原理の解明、脳の動作を模倣した新型コンピュータの応用研究が行われている。
【0005】
本発明者は、混合伝導性高分子、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホナート)(poly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate)(PEDOT:PSS)を用いて有機電気化学トランジスタを作製し、動作機構の解析および神経模倣素子に向けた研究を進めている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、バイオセンサ応用を目指し、イオンセンサへの応用検討を進めている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
一方で、従来の、有機電気化学トランジスタデバイスの製造手法としては、クリーンルーム内でのリソグラフィーやイオンエッチング、スクリーン印刷等の微細加工技術が用いられている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yamamoto et al., “Correlation between Transient Response and Neuromorphic Behavior in Organic Electrochemical Transistors”, Adv. Electron. Mater., 2022, 8(4), 2101186
【非特許文献2】山本俊介 他、「高分子ブレンドを用いた電気化学トランジスタの応答時定数制御」、応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集(CD-ROM)、2021年、Vol.82、Page.ROMBUNNO.13p-N207-2
【非特許文献3】Han et al., “Microfabricated Ion-Selective Transistors with Fast and Super-Nernstian Response”, Adv. Mater., 2020, 32, 2004790
【非特許文献4】Youngmin Jo et al., “Influence of bank geometry on the electrical characteristics of printed organic field-effect transistors”, Flex. Print. Electron., 2019, 4, 042001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の非特許文献4に記載の製造手法は、規定された電極サイズの電極を精密に得るには適しているが、クリーンルームなどの大規模な設備が必要で、また、デバイスの作成には習熟が必要で、且つ手間と時間を要するものであった。そのため、デバイスの量産が難しく、応用研究の発展の妨げとなっていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、クリーンルーム等の大規模な施設や、習熟のための訓練を必要とせず、通常の実験環境で、簡単にデバイスを作成することができる有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明に係る有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法は、高分子膜を形成する高分子膜形成工程と、前記高分子膜上に、電極を形成する電極形成工程と、前記高分子膜上の所定の領域に半導体有機薄膜を形成する半導体有機薄膜形成工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
第2の本発明に係る有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法は、基板を準備する基板準備工程と、前記基板上の電極パターンを形成する領域以外をマスクで覆い、蒸着により、電極端子部、電極配線、測定電極部からなる電極パターンを形成する電極製造工程と、絶縁性フィルムで前記電極パターンの前記電極端子部、前記測定電極部以外を覆い、前記絶縁性フィルムを前記基板上に貼り付けるカバー形成工程と、前記測定電極部上に半導体有機薄膜形を形成する半導体有機薄膜形工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クリーンルームなどの大規模な施設や、習熟のための訓練を必要とせず、通常の実験環境で、簡単にデバイスを作成することができる有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法及び有機電気化学トランジスタデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの(a)斜視図、(b)測定を行う際の使用状態を示す(a)のB-B線断面図である。
図2図1に示す有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法を示す、(a) 図1(a)のA-A線断面図、(b) 図1(a)のB-B線断面図である。
図3】本発明の第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの(a)斜視図、(b)測定を行う際の使用状態を示す断面図である。
図4】(a)~(f)図3に示す有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法を示す、図5(g-1)のB-B線断面図である。
図5図3に示す有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法の、(g-1)半導体有機薄膜を形成する際に、混合溶媒Cを滴下したときの斜視図、(g)~(j)図4(a)~(f)の続きの製造方法を示す、(g-1)のB-B線断面図である。
図6】(a)図1に示す有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法の、基板上に電極を形成後の斜視図、(b)図1に示す有機電気化学トランジスタデバイスが完成したときの斜視図である。
図7】(a)図3に示す有機電気化学トランジスタデバイスを製造後、ゲル上に載置した、有機電気化学トランジスタとしての状態を示す斜視図、(b)図3に示す有機電気化学トランジスタデバイスを用いた測定での出力を示す、ドレイン電圧Vとドレイン電流Iとの関係を示すグラフ、(c)図3に示す有機電気化学トランジスタの、ゲート電圧Vとトランスコンダクタンスgmとの関係を示す伝達曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、かかる実施形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、図面は参考図であって、寸法、形状、配置などは、図面によって限定されるものではない。
【0015】
<第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス>
図1は、第1実施形態にかかる、本発明の基板上に形成した有機電気化学トランジスタデバイス10Aを示す。
図1(a)は、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの測定基板の斜視図であり、図1(b)は、実際有機電気化学トランジスタデバイス10Aを用いて測定を行う際の模式図であって、図1(a)のB-Bの線分に相当する箇所の断面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの測定基板は、基板21と、基板21上に設けられた電極端子部22、電極配線23、測定電極部24からなる電極と、電極配線23を覆い、測定電極部24に対応する位置にウェルとなる開孔部(開放)が設けられたカバー26とからなる。
【0017】
この測定基板の測定電極部24上に、図1(b)に記載の半導体有機薄膜28を設けて、有機電気化学トランジスタデバイス10Aを形成する。
【0018】
基板21は、図1(a)では、平面視では、長方形の薄板で構成されるが、形状はどのようなものでもよい。基板21の材料としては、例えば、ガラス、シリコン、有機高分子等のポリマー、セラミックス等の絶縁性材料が挙げられる。基板21の寸法は、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの用途および目的に応じて適宜設定される。
【0019】
電極は、基板21上の一方の面に配置される。基板21に配置される電極は、二つのラインで構成される電極を一組にして配置される。当該組は一つでも複数でもよく、目的に応じて任意の組配置することができる。
【0020】
電極の電極端子部22は、外部の電源と接続する部位であり、幅広い面積で形成されるが、面積としては、電源と接続できれば、どのような形状、大きさであってもよい。
【0021】
電極配線23は、電極端子部22と測定電極部24とを接続する長手方向に延びる導電ラインである。
【0022】
測定電極部24は、ウェルとなる位置に露出する部位で、測定する際の電子の授受が起きる部位である。測定電極部24は、例えば、平面視、長方形状を有するが、どのような形状であってもよい。測定電極部24の表面積は、例えば、0.5mm以上、100mm以下である。
【0023】
一組の電極のそれぞれの測定電極部24は、それぞれ、ソース電極およびドレイン電極になる。ソース電極およびドレイン電極は、互いに間隔を隔てて配置されている。ソース電極とドレイン電極との間隔は、例えば、20μm以上、1mm以下で形成される。
【0024】
電極を構成する電極端子部22、電極配線23、測定電極部24の材料としては、例えば、金属、炭素系化合物などが挙げられ、好ましくは、金、銀、白金、アルミニウム等が挙げられる。電極は、基板21に形成するとき、全ての組の電極を同じ材質で製造する方が簡易で、コストも抑制できる。
【0025】
具体的な電極の膜厚は、例えば、0.1mm以下、30nm以上である。電極の各部位の厚みは、同一であっても、同一でなくてもよい。形成した電極の組内の二つの電極のうち、どちらをソース電極又はドレイン電極にしてもよい。
【0026】
カバー26は、基板21の電極が形成された面において、電極配線23、及び、測定電極部24の周囲を被覆するように配置されている。カバー26は、基板21との接着面に粘着層27が設けられており、粘着層27が基板21、電極上で接着されることにより、液体の流通が遮断され、測定電極部24を区画する。
【0027】
カバー26は、測定電極部24に対応する位置に、ウェルとなる開孔部(開放)Cがレーザーカッターなどの任意の切断手段で設けられ、平面視で略矩形形状である。開孔部Cは、測定電極部24を区画できるものであればどのような形状であってもよい。カバー26は、測定電極部24の測定ウェルを区画する。なお、カバー26は、測定電極部24を区画するウェルを、別の部材を用いて形成する場合は、開孔部は不要で、電極配線23のみ被覆する、単純な矩形形状であるものを用いてもよい。カバー26の材料として、例えば、上記した絶縁性材料(例えば、フッ素系ポリマー、シリコーン系ポリマーなど)が挙げられる。
【0028】
また、粘着層としては、化学的に安定な耐水性の材質であればよく、例えばシリコーン系粘着剤が用いられる。
【0029】
カバー26は、電極配線23等を覆うことのできる大きさであれば、どのような大きさでもよい。また、カバー26の厚みは、カバー26でウェルを形成するのであれば、厚めのもの、例えば、0.1mm以上3mm以下のものを、カバー26とは別部材でウェルとなる外壁を形成する場合は、薄めのもの、例えば、0.1mm以上3mm以下のものを用いればよい。また、カバー26を複数枚貼り付けたものを用意して、厚みを調整してもよい。
【0030】
図1(a)では、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの測定用基板を示しているが、実際に、有機電気化学トランジスタデバイス10Aとして供するには、図1(b)に示すように、さらに、半導体有機薄膜28を測定電極部24上に形成する。
【0031】
半導体有機薄膜28としては、有機電気化学トランジスタとして機能するものであればどのようなものでもよく、ポリチオフェン系の導電性高分子、例えば、ポリ(3-4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリ3-アルキルチオフェン(P3AT)、ポリ3-カルボキシアルキルチオフェンなどが挙げられる。
【0032】
測定では、カバー26又は別部材により形成されるウェル内に、電解液29を導入し、電解液29にゲート電極を挿入し、また、一組の電極の一方をソース電極、他方をドレイン電極として、電圧電流発生器等で制御することで、有機電気化学トランジスタデバイス10Aとして機能することができる。
【0033】
電解液29としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の他、塩化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウムなどの無機塩を含む水溶液等を用いることができる。
【0034】
<第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法>
次に、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの製造方法について述べる。
図2に有機電気化学トランジスタデバイス10Aの測定用基板の製造方法を示す。
図2の(a)は、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの製造方法における、図1(a)に示す線分A-Aでの断面図であり、図2(b)は、図1(a)に示す線分B-Bでの断面図である。
【0035】
まず、電極製造工程として、基板21を洗浄、乾燥等したのち、電極形成面をシャドウマスク等で電極となる部位以外を覆う。次に、蒸着などの薄膜形成手法で、電極を形成する。
【0036】
蒸着後、シャドウマスクを除去すると、図2(a-1),(b-1)に示されるように、基板21上に、電極となる、電極配線23、測定電極部24及び電極端子部22のパターンが形成される。
【0037】
次に、カバー形成工程として、市販の絶縁性フィルムを用いて、カバー26を形成する。カバー26は基板21の接着面に、粘着層27を有している。カバー26は、レーザーカッターなどの切断手段で、測定電極部24に対応する位置に開孔部Cを形成する。そのように形成したカバー26を、図2(a-2),(b-2)に示すように、電極が形成された基板21上に貼り付ける。
【0038】
電極区画形成工程として、測定電極部24が開口部Cからカバー26に覆われず露出するようにして、図2(a-3),(b-3)に示すように、カバー26を基板27に固定する。
【0039】
以上で、測定用基板が形成される。
測定用基板形成後、半導体有機薄膜形工程に移る。
【0040】
半導体有機薄膜形工程では、半導体有機薄膜の材料を分散、溶解した混合物を測定電極部24(ウェル内)に滴下する。
【0041】
混合物は、前述の半導電性高分子水分散液に、添加材や界面活性剤、架橋剤を含んでもよい。
【0042】
添加剤は、導電率を向上させる機能を有するものであってもよい。半導体有機薄膜としてPEDOT:PSSを用いる場合は、PEDOT:PSSの導電性を向上させるものして、例えば、エチレングリコール(EG)、メチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ソルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
半導電性高分子を分散させる界面活性剤としては、周知の陰イオン系界面活性剤が用いられ、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSA)が挙げられる。
【0044】
架橋剤は、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GOPS)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0045】
カバー26で構成される開口部Cの壁面が、滴下された混合物が流れ出すことを抑制する堰部の役割を行う。また、均一な厚みの半導体有機薄膜を構成するために、スピンコート等を行ってもよい。また、スピンコートを行う場合には、周囲を別部材で囲繞して行ってもよい。
【0046】
また、膜厚を所期の厚みとするため、滴下(スピンコート)後、水分を蒸発(アニール)させたのち、複数回、滴下、蒸発の工程を繰り返してもよい。半導体有機薄膜28の厚みは、測定電極部24が直接電解液29と接触しないように被覆されればどのような厚みでも問題ないが、測定電極部24からの厚みは50nm以上、10μm以下であるのが好ましい。
【0047】
以上のようにして、測定電極部24上に半導体有機薄膜28を構成する。その後、純水に有機電気化学トランジスタデバイス10Aを浸漬して不要な化合物を洗浄、除去し、乾燥後、有機電気化学トランジスタデバイス10Aとして供する。
【0048】
以上のようにして、有機電気化学トランジスタデバイス10Aが製造される。
製造された、有機電気化学トランジスタデバイス10Aは、ウェル内に電解液29を導入し、ゲート電極となる部位を電解液29に挿入し、電極端子部22及びゲート電極に電圧電流発生器を接続して、有機電気化学トランジスタデバイスとして機能する。
【0049】
なお、有機電気化学トランジスタデバイス10Aの製造手法は、前述の手法に限られず適宜変更可能である。例えば、カバー26で覆ってから半導体有機薄膜28を形成したが、カバー26で覆う前に、測定電極部24上に、半導体有機薄膜の材料を溶解した混合物を滴下して、スピンコートすることで、半導体有機薄膜28を形成し、その後、開孔部Cを設けたカバー26で覆い、貼り付けて、有機電気化学トランジスタデバイス10Aを形成してもよい。なお、その場合、半導体有機薄膜28を形成する基板21、電極の領域を親水処理など行って、その箇所のみ半導体有機薄膜28を形成するようにしてもよい。
【0050】
<第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス>
前述のように、第1実施形態では、クリーンルームなどの設備がない環境でも有機電気化学トランジスタデバイス10Aが得られるが、蒸着工程などを必要としている。また、有機電気化学トランジスタデバイスは今後、生体などに用いられることが予想され、生体適合材料のみで、製造される有機電気化学トランジスタデバイスが求められる。第2実施形態では、蒸着を用いずに、生体適合材料のみで柔軟性のある有機電気化学トランジスタデバイス10Bを、湿式プロセスに基づく簡易な製造方法で作成するものである。
【0051】
第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス10Bについて述べる。
図3(a)は、有機電気化学トランジスタデバイス10Bであり、図3(b)は、有機電気化学トランジスタデバイス10Bを用いて測定を行う際の模式図である。
なお、第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス10Aと同じ機能を有するものは、同じ用語で記載する。
【0052】
図3(a)に示すように、有機電気化学トランジスタデバイス10Bは、高分子膜36と、高分子膜36に設けられた電極端子部32、電極配線33、測定電極部34からなる電極、電極の電極配線33の一部と、測定電極部34周辺に設けられた半導体有機薄膜38とからなる。
【0053】
高分子膜36は、疎水性ポリマーであり、好適な例として、ポリ(ビニリデンフルオリド-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)等が用いられる。
【0054】
高分子膜36は、紫外線(UV)照射により親水化する物質を含む。好適な物質として、光触媒機能を生じる、酸化チタン(TiO2)ナノ粒子が好ましい。
【0055】
高分子膜36は、光触媒を安定化する添加剤となる高分子を含んでいてもよい。例えば、メタクリル酸2-アミノエチルポリマー(PAEMA)、ポリドーパミン等が挙げられる。
【0056】
高分子膜36の膜厚は特に限定はないが、0.1μm以上100μm以下である。
【0057】
図3(b)に示すように、測定に用いる際には、有機電気化学トランジスタデバイス10Bを、電解液を含んだゲル41上に、高分子膜36の電極の設けられていない面を接触させる形で載置し、電解液42を測定電極部34に接触させないようにしつつ、半導体有機薄膜38とゲル41との間で、通電(イオン伝導)可能な状態になるように滴下し、ゲル41に、ゲート電極44を差し込んで、測定端子部32、ゲート電極44を所定の電圧電流発生器に接続する。二つの測定電極部34を、それぞれソース電極、ドレイン電極とし、ゲート電極44と共に制御することで、測定に供することができる。
【0058】
電極は、導電性粒子、好ましくは、金コロイドを分散させた溶媒をアニールすることで形成される。金コロイドの粒径は、10nm以上100nm以下であればよい。導電性粒子は金に限定されず、白金、銀、その他の金属ナノ粒子、もしくは炭素が用いられる。
【0059】
ゲル41は、水相のハイドロゲルとして調製される。ハイドロゲルは、水相から形成されるネットワーク構造を有していれば、軟質ゲル(膨潤ゲルを含む)、硬質ゲル(例えば、ケイ酸が部分脱水されたシリカゲルなど)のいずれであってもよい。
【0060】
ゲルは、周知の材質のゲル、例えば、ポリアクリルアミド化合物、ポリアクリル酸塩化合物、ポリアミノ酸化合物などの合成高分子、寒天、ゼラチン、アガロース、カラギナン、アルギン酸などの天然高分子などが用いられ、また、それらを単独使用または併用したものいずれであってもよい。
【0061】
なお、前述の手法では、ゲル41上に電解液42を滴下して半導体有機薄膜38とゲル41との間で、電気的な接続を取る形で行っているが、電解液42を含んだゲル41を直接、半導体有機薄膜38と接触する形で用いてもよい。また、ゲル41を用いなくてもよく、例えば、第1実施形態のときと同様に、半導体有機薄膜38上に所定の部材からなるウェルを形成し、ウェル内に電解液42を保持した上で、ゲート電極44を挿入してもよい。
【0062】
<第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの製造方法>
次に、有機電気化学トランジスタデバイス10Bの製造方法について述べる。
図4,5に有機電気化学トランジスタデバイス10Bの製造方法を示す。
図4、5の(a)~(j)は、測定電極部34となる箇所(参考として、製造途中の平面図である図5の(g-1)に示す線分D-D)での断面図について示している。
【0063】
まず、基板準備工程として、犠牲層35が設けられた基板31を準備する。基板31は、第1実施形態で基板21として用いられたものと同じ材質であってもよく、好適には、ガラス、シリコンウェハなどが挙げられる。また、基板31の大きさ、形状は、有機電気化学トランジスタデバイス10Bが製造できる大きさ、形状であれば、特に限定されない。
【0064】
犠牲層35は、薬液等に浸漬した際に、溶解して、基板31と高分子膜36とを分離できるものであればどのようなものであってもよい。薬液は、製造した有機電気化学トランジスタデバイス10Bと化学的な反応を起こさないものであるのが好ましく、好適には、水(純水)である。犠牲層35としては、好適には、水に溶けるものであればよく、例えば、ポリ(アクリル酸ナトリウム塩)、ポリビニルアルコール、ポリ(スチレンスルホン酸)が挙げられる。
【0065】
基板31は、最初から犠牲層35を有したものを用いてもよく、また、犠牲層35を、スピンコートなどを用いて薄膜形成したものであってもよい。
【0066】
次に、高分子膜形成工程を行う。高分子膜形成工程は、第一の滴下工程と、第一のアニール工程とからなる。
【0067】
第一の滴下工程では、図4(a)に示すように、犠牲層35が設けられた基板31上に高分子膜36の原料となるポリマー、金属ナノ粒子、及び添加剤を含む混合溶媒Aが滴下される。金属ナノ粒子を含む高分子膜36を作成する際には、金属ナノ粒子を安定して分散させる安定剤を含ませるのが好ましい。好適な安定剤としては、アセチルアセトン等のジケトン類、アミン類、チオール類が挙げられる。
【0068】
混合溶媒Aは、超音波処理などで金属ナノ粒子が均一に分散した状態で滴下される。滴下された混合溶媒Aは、均一な厚みの高分子膜36が得られるように、スピンコートを行い薄膜化するのが好ましい。
【0069】
次に、第一のアニール工程を行い、混合溶媒Aの溶媒を蒸発させ、高分子膜36を得る。第一のアニール工程は、大気下環境で自然に溶媒を蒸発させてもよいし、また、送風機、ホットプレート、オーブン等の乾燥機などで、溶媒を蒸発させてもよい。
【0070】
犠牲層31上に高分子膜36が形成された段階で、電極形成工程を行う。電極形成工程は、第一の親水化処理工程と、第二の滴下工程と、第二のアニール工程とからなる。
【0071】
第一の親水化処理工程は、図4(c)に示すように、金属ナノ粒子を含む高分子膜36の電極を形成する領域に紫外線を照射する。紫外線を照射する際に、電極となる位置以外を覆うマスクなどを高分子膜36上に載置して行うのが好ましい。照射する紫外線の強度は、20mW/cm以上60mW/cm以下で行うのが好ましい。高分子膜36に紫外線を照射することで、紫外線が照射されていない領域に比して親水化率の向上した変性領域50が、高分子膜36上に、電極を形成する領域のパターンとなって形成される。
【0072】
図4(d)に示すように、第二の滴下工程では、変性領域50が設けられた高分子膜36上に、電極の材料となる、金属コロイド分散溶媒Bが滴下される。分散溶媒Bは分散を安定化する安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。滴下された、金属コロイド分散溶媒Bは、高分子膜36での親水度の違いから、変性領域50に集合する。
【0073】
次に、図4(e)に示すように、第二のアニール工程を行うことで、溶媒Bが蒸発し、電極(測定電極部34)パターンが得られる。第二のアニール工程も、第一のアニール工程と同様の手法を用いてもよい。
【0074】
高分子膜36上に電極パターンが形成された段階で、半導体有機薄膜形成工程を行う。半導体有機薄膜形成工程は、第二の親水化処理工程と、第三の滴下工程と、第三のアニール工程とからなる。
【0075】
第二の親水化処理工程では、図4(f)に示すように、半導体有機薄膜が形成される領域に紫外線を照射し、高分子膜36に変性領域50を形成する。高分子膜36を形成する領域は、図5の(g-1)に示すように、電極配線33の一部周辺を含む領域と、測定電極部34及びその周辺の領域、基板31の測定電極部34が形成された端部である。
【0076】
紫外線照射して変性領域50を形成して親水化する際には、親水化しない領域を覆うマスクなどを用いて、紫外線照射を行うのが好ましい。紫外線強度は、第一の親水化処理工程と同等であってもよい。
【0077】
第二の親水処理工程が終了後、第三の滴下工程を行う。第三の滴下工程は、図5(g)に示すように、半導体有機薄膜の原料を含む混合溶媒Cを、第二の親水処理を行った領域に滴下する。混合溶媒Cは、第1実施形態で半導体有機薄膜を形成する際に用いたものと同様に、導電性高分子水分散液に、添加剤や、架橋剤を含む溶媒である。混合溶媒Cは、測定電極部34及び第二の親水処理により高分子膜36で変性された領域に塗布、保持される。
【0078】
次に、第三のアニール工程を行う。第三のアニール工程では、図5の(h)に示すように、第一のアニール工程、第二のアニール工程と同様にして、溶媒を蒸発させる。このようにして、半導体有機薄膜37を形成する。所期の膜厚の導電性高分子が得られるように、第三の滴下工程と、第三のアニール工程とを複数回行ってもよい。
【0079】
最後に、分離工程を行う。分離工程は、基板31と、有機電気化学トランジスタデバイス10Bとを分離させる工程である。
【0080】
分離工程は、図5の(i)に示すように基板31上に作成した有機電気化学トランジスタデバイス10Bを、犠牲層35を溶解する薬液を保持する液槽51内に入れる。基板31と有機電気化学トランジスタデバイス10Bとをつなぐ犠牲層35は、薬液により溶解され、犠牲層溶解物35´となる。そのため、基板31と、有機電気化学トランジスタデバイス10Bとは分離する。液槽51の薬液から有機電気化学トランジスタデバイス10Bを取り出し、水洗い等行うことで、有機電気化学トランジスタデバイス10Bが得られる。
【0081】
作成した有機電気化学トランジスタデバイス10Bを、図3(b)に示すように電極を挿入したゲル41上に載置し、電解液42で半導体有機薄膜37とゲル41との電気的な通電(イオン伝導)をとった上で、電極34をそれぞれソース電極、ドレイン電極となるように電流電圧発生器を接続し、ゲル41に挿入した電極34に所定の機器を接続して、ゲート電極44とすることで、有機電気化学トランジスタデバイス10Bに供することができる。
【0082】
なお、有機電気化学トランジスタデバイス10Bの製造手法は前述の手法に限られず適宜変更可能である。前述の例では、分離工程を設けたが、基板31を切り離さず用いる場合は、分離工程はなくてもよい。その場合、犠牲層35を含まない基板31を用いて、基板31に直接、高分子膜36を形成してもよい。
【0083】
以下に実際の実験での実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例に限定されない。
【実施例0084】
[第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの製造]
第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス10Aを製造するため、基板21を準備する。基板21はガラス製で、長さ300μm、幅1.0mm、厚み100nmである。
【0085】
基板21上に3組の電極対を作成するため、電極パターンを形成したシャドウマスクを基板21に載置し、真空蒸着装置(大阪真空, VKS-2000)により、接着層としてチタンおよび金を蒸着した。シャドウマスクを取り除き、4組の電極対が形成された基板21を得た。図6の(a)に、実際、基板21上に電極を形成した状態の写真を示す。
【0086】
得られた、金電極の電極パターンが形成された基板21に、測定電極部24となる位置をレーザーカッターでカットし、開孔部を形成したフッ素樹脂シートテープ(NITOFLON(登録商標)日東電工株式会社)を、電極端子部22が露出し、開孔部から測定電極部24が露出するように貼り付け、測定電極部24を区画した。図6(b)には、実際作成した、第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス基板の完成した写真を示す。
【0087】
その後、半導体有機薄膜28作成用の混合物として、PEDOT:PSS(Clevios PH1000、Heraeus)水分散液に、添加剤として、5%のEG、0.25%のDBSA、架橋剤GOPS(1vol%)を混合したものを準備し、超音波混合を行った。作成した混合溶媒を、シートテープで区画された、測定電極部24に滴下しスピンコート行った。スピンコートは、最初の10 秒間は回転数400rpmで行った後、回転数を1000rpmに上げ、全体で70秒間行った。その後、130℃で30分ホットプレートに入れ、溶媒を飛ばした後、純水に浸漬して残留物を除去し、第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス10Aを得た。
【0088】
半導体有機薄膜28の構造の同定は、紫外可視分光光度計(Ultra violet-visible spectrophotometer(UV-Vis)、「V-670」:日本分光株式会社)、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy (FT-IR)、「FT/IR-4200」:日本分光株式会社)、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy(XPS)、「PHI 5600」:PerkinElmer Inc.)、原子間力顕微鏡(atomic force microscope (AFM)、「SPA400」:Seiko Instruments Inc.)で行い、PEDOT:PSSの均質な膜が得られていることを確認した。
【0089】
[第1実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスでの測定(使用方法)]
測定電極部24上に半導体有機薄膜28が形成されたウェル(開孔部)に、電解液29として、PBS(0.01MpH=7.4)を導入し、電解液29に、ゲート電極Ag/AgClを挿入した。
【0090】
有機電気化学トランジスタ測定は、ファラデーケージ内で実行した。電圧電流発生器(Keysight B1500A)を使用して、作成した有機電気化学トランジスタデバイス10Aに高分子膜上の電極をソース電極、ドレイン電極になるように接続し、また、ゲート電極にも接続した上で、特性を測定した。
【0091】
測定では、正のゲート電圧を印加すると、電解液29からの陽イオンの注入による半導体有機薄膜28の脱ドーピングから生じ、それに伴いドレイン電流が減少することを示す空乏に伴う出力曲線、伝達曲線が得られた。
【0092】
作成した有機電気化学トランジスタの動作は従来報告されているものと同様であり、正常な動作が確認された。本製造手法で作成したデバイスは、クリーンルームで作成したデバイスと遜色なく、有機電気化学トランジスタ測定が可能であることが確認できた。
【実施例0093】
[第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイスの製造]
第2実施形態の有機電気化学トランジスタデバイス10Bを製造するため、ガラススライドからなる基板31を準備する。基板31は、長さ25mm、幅25mm、厚み1nmである。
【0094】
基板31上に、犠牲層35を作成する。犠牲層35として、ポリ(アクリル酸ナトリウム塩)(PAA-Na、Aldrich)1.2wt%水溶液を調整し、スピンコートにより、基板31全体に薄膜化する。大気環境下で曝露し、水溶液を蒸発させ、犠牲層35となる薄膜を生成した。
【0095】
犠牲層35上に高分子膜36を作成するため、メタクリル酸 2-アミノエチルポリマー(PAEMA)、酸化チタン(TiO2)ナノ粒子(Aldrich)、ならびに、酢酸エチル(富士フィルム和光純薬)およびアセトン(富士フィルム和光純薬)から合成したアセチルアセトンを含有する分散液を作成した。分散液は、5wt%のTiO2粉末と同重量のPAEMAをアセトンに溶解して調製した。
【0096】
分散液を30分間超音波処理し、5日間撹拌した。分散した、TiO2ナノ粒子のサイズ(凝集物も含む)は、動的光散乱(ELS-8000; Otsuka Electronics Co. Ltd)の測定から、40nm~200nmであった。超音波処理した分散液に、5wt%のPVDF-HFP(Aldrich)溶液(1:1v/v)をさらに混合し、攪拌した。
【0097】
この分散液を、紫外線照射によるオゾン洗浄した基板31の犠牲層35上に滴下して、室内環境において回転数1500rpmで60秒間スピンコートをおこなった。スピンコートした基板31を、ホットプレートで、150℃で30分間、乾燥(アニール)させた。作成された高分子膜36は、カンチレバー(SI-DF20; Seiko Instruments Inc.)と、電界放出形走査電子顕微鏡FE-SEM(S-4800; Hitachi Ltd.)とを備えた原子間力顕微鏡(AFM、SPA400; Seiko Instruments Inc.)で同定した。作成された高分子膜36は、SEM画像では、表面にハニカム状の粗い構造と、2~3μmの円形の穴とを有し、その穴の中に、TiO2ナノ粒子を包含していた。AFM測定から、作成された高分子膜36の膜厚は、約700nmであった。
【0098】
作成した高分子膜36に、電極パターンとなるシャドウマスクを載置したうえで、紫外線照射装置(UXM-500SX、Ushio Inc.)により紫外線照射を行った。紫外線照射強度は、40mW/cmとした。紫外線を照射すると、TiO2ナノ粒子の光触媒効果により、紫外線が照射された表面の濡れ性が変化した。濡れ性の変化は、接触角計(DM300、協和インターフェースサイエンス株式会社)で確認を行った。
【0099】
親水性パターンが形成された高分子膜36上に、金ナノ粒子(DryCure Au-J、C-INK)水性分散液を滴下した。金ナノ粒子水性分散液は、高分子膜36上の親水性の違いから電極形成箇所に凝集した。その状態で、金電極形成を完了するため130℃で30分間乾燥(アニール)し、溶媒を蒸発させ、高分子膜36上に金電極パターンを形成した。
【0100】
金電極パターンが形成された高分子膜36に、電極端子部32となる箇所以外に紫外線照射を行った。次に、第一実施例同様に、半導体有機薄膜38の材料としてPEDOT:PSS(Clevios PH1000、Heraeus) 、添加材として5%のEG、0.25%のDBSA、架橋剤GOPS(1vol%)を含有した混合溶媒を作成し、超音波混合後、紫外線照射処理を行った金電極パターンが形成された高分子膜36上に滴下し、スピンコートを行った。
【0101】
スピンコートを回転数1000rpmで30秒行った後、130℃のホットプレートで1分間乾燥(アニール)した。スピンコートとアニールとを2回繰り返し、PEDOT:PSSの膜厚を所期の厚み(200nm)とした。2回のスピンコートの後、130℃のホットプレートで30分間乾燥(アニール)し、PEDOT:PSSからなる半導体有機薄膜38を得た。
【0102】
次に、薬液として水が入れられた液槽に、PEDOT:PSSの半導体有機薄膜38が形成された基板31を浸漬した。PAA-Naからなる犠牲層35を水で溶解して、ガラス基板から高分子膜36、電極34、半導体有機薄膜38からなる有機電気化学トランジスタデバイス10Bを剥離した。
【0103】
これを純水に1日浸漬し、余分な化合物などを洗浄、除去することで、有機電気化学トランジスタデバイス10Bが得られた。得られた有機電気化学トランジスタデバイス10Bは、柔軟性があった。
【0104】
作成した有機電気化学トランジスタデバイス10Bを、電解質としてPBSバッファーに浸したアガロースゲルの表面に載置して付着させた。このアガロースゲルに、ゲート電極44となるAg/AgClワイヤー電極(EP05、World Precision Instruments)を挿入した。図7(a)に有機電気化学トランジスタデバイス10Bをゲル41上に載置した際の、実際の写真を示す。
【0105】
第一実施例同様に、有機電気化学トランジスタ測定は、ファラデーケージ内で実行した。電気的測定はファラデーケージ内で実行され、ソースメジャーメーター(Keithley 2450,2451)を使用して、作成した有機電気化学トランジスタデバイス10Bに高分子膜36上の電極34をソース電極、ドレイン電極になるように接続し、また、ゲート電極44にも接続した上で、特性を測定した。
【0106】
図7(b)は、ゲート電極44としてAg/AgClワイヤー電極を使用して、電解液を浸透させたアガロースゲル41上で動作する有機電気化学トランジスタデバイス10Bの出力であり、(c)は伝達曲線である。図7(b)は、横軸をドレイン電圧Vに対する測定電圧、縦軸をその際のドレイン電流Iとしている。図7(c)は、横軸をゲート電圧Vに対する測定電圧、縦軸をドレイン電流Iとゲート電圧Vの部分導関数として定義されるトランスコンダクタンスgm(gm=∂I/∂V)としている。
【0107】
測定では、正のゲート電圧を印加すると、有機電気化学トランジスタの典型的なベル形状、すなわち、電解質ゲル41からの陽イオンの注入による半導体有機薄膜38の脱ドーピングから生じ、それに伴いドレイン電流が減少することを示す空乏に伴う出力曲線、伝達曲線が得られた。よって、本発明の手法で作成された有機電気化学トランジスタデバイス10Bも、従来のクリーンルームで作成される有機電気化学トランジスタデバイスと同様に、測定可能であることを確認した。
【0108】
[効果]
本発明は、従来、作成するには、クリーンルームなどの大規模な施設や、熟練技術を必要とし、量産が難しかった有機電気化学トランジスタデバイスを通常の環境下で簡単に作成することができるものである。また、安価な有機電気化学トランジスタデバイスを供することでバイオエレクトロニクス分野の研究を大きく発展させる。
【0109】
また、第二実施例に示すように、生体適合材料のみで、安価で柔軟な有機電気化学トランジスタデバイスを湿式プロセスで作成することができる。有機電気化学トランジスタデバイスを生体等に適用する際に本発明のデバイスおよび製造方法は、大きな有用性をもつ。
【0110】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は、係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0111】
10A、10B 有機電気化学トランジスタデバイス
21、31 基板
22、32 電極端子部
23、33 電極配線
24、34 測定電極部
26 カバー
27 粘着層
28、38 半導体有機薄膜
29、49 電解液
35 犠牲層
44 ゲート電極
50 変性領域
51 液槽

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7