(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053386
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】位置推定システム及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240408BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20240408BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20240408BHJP
B66C 13/48 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G01B11/00 A
G01B11/02 Z
B66C13/22 Y
B66C13/48 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159622
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】坂野 肇
(72)【発明者】
【氏名】渋川 文哉
(72)【発明者】
【氏名】水崎 紀彦
【テーマコード(参考)】
2F065
3F204
【Fターム(参考)】
2F065AA01
2F065AA06
2F065AA12
2F065AA24
2F065AA51
2F065BB05
2F065DD03
2F065GG04
2F065MM07
2F065QQ18
2F065QQ25
2F065QQ29
2F065RR08
3F204AA02
3F204BA06
3F204CA01
3F204DA03
3F204DC06
(57)【要約】
【課題】 コイルの積載状態又は光沢に起因したコイルの位置の推定精度の低下を抑える位置推定システムを提供する。
【解決手段】 位置推定システムは、トロリ4に設置され、レーザLaを用いて床面100の側にある物体までの距離をスキャン計測する距離センサ6aと、床面100の側に載置されている少なくとも1つのコイルCを位置推定対象として特定し、位置推定対象の横断面方向に沿って、トロリ4を移動させながら距離センサ6aにスキャン計測させ、計測点PmごとにレーザLaが位置推定対象のコイル中心Axの高さHを通過した点を仮想通過点Pvとして算出し、位置推定対象に最も近い側にある仮想通過点Pvを、位置推定対象の横断面方向でのコイル端部Peとなり得る端部候補点Pcとして抽出し、端部候補点Pcから推定されたコイル端部Peに基づいて位置推定対象の位置を導出する制御演算部8と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルの位置を推定する位置推定システムであって、
前記コイルを吊って移動するトロリに設置され、レーザを用いて前記床面の側にある物体までの距離をスキャン計測する距離センサと、
前記床面の側に載置されている少なくとも1つの前記コイルを位置推定対象として特定し、前記位置推定対象の横断面方向に沿って、前記トロリを移動させながら前記距離センサにスキャン計測させ、計測点ごとに前記レーザが前記位置推定対象のコイル中心の高さを通過した点を仮想通過点として算出し、前記位置推定対象に最も近い側にある前記仮想通過点を、前記位置推定対象の前記横断面方向でのコイル端部となり得る端部候補点として抽出し、当該端部候補点から推定された前記コイル端部に基づいて前記位置推定対象の前記位置を導出する制御演算部と、
を備える、位置推定システム。
【請求項2】
前記制御演算部は、前記距離センサが複数の位置から計測することで得られた計測データを用いて前記コイル端部をそれぞれ推定し、推定された複数の前記コイル端部の値に対して統計処理を実行することで前記位置推定対象の前記位置の推定に用いられる前記コイル端部を特定する、請求項1に記載の位置推定システム。
【請求項3】
前記制御演算部は、複数の当該仮想通過点を互いに近接するもの同士で複数のグループに分け、複数のフレームごとに算出された前記仮想通過点の算出結果に基づいて、複数の前記グループの中で前記位置推定対象に最も近い側にある前記グループを特定し、特定された前記グループに含まれる複数の前記仮想通過点から抽出された前記端部候補点に基づいて、前記位置推定対象の前記位置の推定に用いられる前記コイル端部を特定する、請求項1又は2に記載の位置推定システム。
【請求項4】
前記制御演算部は、前記距離センサから照射された前記レーザが前記位置推定対象の側面と接するときの接線角度に起因する、前記コイル中心の前記高さでの前記仮想通過点と前記コイル端部との間のずれ量を求め、前記端部候補点に前記ずれ量を反映させることで前記コイル端部を推定する、請求項1又は2に記載の位置推定システム。
【請求項5】
中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルの位置を推定する位置推定方法であって、
前記床面の側に載置されている少なくとも1つの前記コイルを位置推定対象として特定する位置推定対象特定工程と、
前記位置推定対象の横断面方向に沿って、前記コイルを吊って移動するトロリを移動させながら、前記トロリに設置されている距離センサにレーザを用いて前記床面の側にある物体までの距離をスキャン計測させる計測工程と、
前記計測工程で計測された計測点ごとに、前記レーザが前記位置推定対象のコイル中心の高さを通過した点を仮想通過点として算出する仮想通過点算出工程と、
前記位置推定対象に最も近い側にある前記仮想通過点を、前記位置推定対象の前記横断面方向でのコイル端部となり得る端部候補点として抽出する端部候補点抽出工程と、
前記端部候補点から推定された前記コイル端部に基づいて、前記位置推定対象の前記位置を導出するコイル位置導出工程と、
を有する、位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位置推定システム及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば建屋内において、鋼板コイル等のコイルを吊りながら搬送するクレーン等の搬送装置がある。建屋内の敷地では、複数のコイルが、各々の中心軸が床面と平行となるような、いわゆる横置きの姿勢で、2段又は3段程度に積載される。そのため、搬送装置は、すでに載置されている特定のコイルを自動で吊り上げて搬出する場合には、少なくとも当該コイルの位置を把握する必要がある。一方、搬送装置は、特定のコイルを目標位置に自動で吊り下げて搬入する場合には、少なくとも目標位置周辺にある土台となるコイルの位置を把握する必要がある。
【0003】
特許文献1は、スリット状の光を用いてコイルの外周の位置を計測し、計測値を円の方程式に代入して最小2乗法で解くことでコイルの中心位置等を算出する位置・形状認識装置に関する技術を開示している。また、特許文献2は、距離センサを移動させながら直下の物体までの距離を計測させ、距離プロファイルの基準値に対して所定の設定量だけ変化した正及び負の距離変化量の位置に基づいてロール体の中心位置を計測する方法に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-145315号公報
【特許文献2】特開2001-335281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、複数のコイルが積載されているとき、位置を特定したいコイルの斜め上段に、予め別のコイルが載置されていることもあり得る。この場合、特許文献1に開示されている認識装置では、上段側のコイルによって距離センサの測定範囲の一部が遮られることがある。このとき、コイルが光沢のある鋼板コイルである場合などで、迷光又は複数反射等の光学的事象により、距離センサによる計測データに大きな誤差が生じると、結果としてコイルの位置の推定精度が低下するおそれがある。特に、コイルの横断面方向での他方の片側の計測データが無いことから、横断面方向での位置ずれが大きくなることが想定される。
【0006】
特許文献2に開示されている計測方法では、未検出範囲が広いため、コイル端部に相当する、距離変化量が最大となる位置を正確に算出することが難しい。また、特許文献2に開示されている計測方法でも、位置を特定したいロール体の斜め上段に予め別のロール体が載置されている場合、位置を特定したいロール体の横断面方向での一方の片側しか検出されない。特に、距離センサから照射されたレーザがロール体に当たる角度が浅くなると、レーザがロール体に当たっているにも関わらず計測不可となり、情報が疎になる部分が境界付近で発生する。そのため、このような積載状態下では、実際上、正又は負の距離変化量の位置のいずれかを検出することができず、結果としてロール体の中心位置を精度よく計測することができないおそれがある。更に、ロール体が光沢のある鋼板コイルである場合、迷光又は複数反射等の光学的事象により、距離センサによる計測データに大きな誤差が生じるおそれもある。
【0007】
そこで、本開示は、コイルの積載状態又は光沢に起因したコイルの位置の推定精度の低下を抑える位置推定システム及び位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルの位置を推定する位置推定システムであって、コイルを吊って移動するトロリに設置され、レーザを用いて床面の側にある物体までの距離をスキャン計測する距離センサと、床面の側に載置されている少なくとも1つのコイルを位置推定対象として特定し、位置推定対象の横断面方向に沿って、トロリを移動させながら距離センサにスキャン計測させ、計測点ごとにレーザが位置推定対象のコイル中心の高さを通過した点を仮想通過点として算出し、位置推定対象に最も近い側にある仮想通過点を、位置推定対象の横断面方向でのコイル端部となり得る端部候補点として抽出し、端部候補点から推定されたコイル端部に基づいて位置推定対象の位置を導出する制御演算部と、を備える。
【0009】
上記の位置推定システムでは、制御演算部は、距離センサが複数の位置から計測することで得られた計測データを用いてコイル端部をそれぞれ推定し、推定された複数のコイル端部の値に対して統計処理を実行することで位置推定対象の位置の推定に用いられるコイル端部を特定してもよい。制御演算部は、複数の仮想通過点を互いに近接するもの同士で複数のグループに分け、複数のフレームごとに算出された前記仮想通過点の算出結果に基づいて、複数のグループの中で位置推定対象に最も近い側にあるグループを特定し、特定されたグループに含まれる複数の仮想通過点から抽出された端部候補点に基づいて、位置推定対象の位置の推定に用いられるコイル端部を特定してもよい。また、制御演算部は、距離センサから照射されたレーザが位置推定対象の側面と接するときの接線角度に起因する、コイル中心の高さでの仮想通過点とコイル端部との間のずれ量を求め、端部候補点にずれ量を反映させることでコイル端部を推定してもよい。
【0010】
本開示の他の態様は、中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルの位置を推定する位置推定方法であって、床面の側に載置されている少なくとも1つのコイルを位置推定対象として特定する位置推定対象特定工程と、位置推定対象の横断面方向に沿って、コイルを吊って移動するトロリを移動させながら、トロリに設置されている距離センサにレーザを用いて床面の側にある物体までの距離をスキャン計測させる計測工程と、計測工程で計測された計測点ごとに、レーザが位置推定対象のコイル中心の高さを通過した点を仮想通過点として算出する仮想通過点算出工程と、位置推定対象に最も近い側にある仮想通過点を、位置推定対象の横断面方向でのコイル端部となり得る端部候補点として抽出する端部候補点抽出工程と、端部候補点から推定されたコイル端部に基づいて、位置推定対象の位置を導出するコイル位置導出工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、コイルの積載状態又は光沢に起因したコイルの位置の推定精度の低下を抑える位置推定システム及び位置推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る位置推定システムを含む搬送装置を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る位置推定システムの制御ブロック図である。
【
図3】建屋内の敷地における複数のコイルの配置例を示す図である。
【
図4A】搬出工程にて搬送対象又は位置推定対象となるコイルを示す図である。
【
図4B】搬入工程にて搬送対象又は位置推定対象となるコイルを示す図である。
【
図7】計測工程における計測移動の基本動作を説明する図である。
【
図9】コイル端部推定工程のフローチャートである。
【
図11】端部候補点及びコイル端部を説明するための図である。
【
図12A】トロリがコイル端部の外側に位置している場合のずれに関する図である。
【
図12B】トロリがコイル端部の内側に位置している場合のずれに関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、いくつかの例示的な実施形態について図面を参照して説明する。ここで、各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については図示を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る位置推定システム又は位置推定方法が適用される装置の一例としての搬送装置1の構成を示す斜視図である。
図2は、搬送装置1における制御の流れを概略的に示す制御ブロック図である。
【0015】
搬送装置1は、工場又は倉庫等の建屋内の上部に設置され、搬送対象を円筒状のコイルCとした天井クレーンである。なお、搬送装置1は、搬送対象を荷と見立てたときには、荷役装置と呼称される場合もある。本実施形態に係る位置推定システム又は位置推定方法は、搬送装置1に適用される。このとき、位置の推定対象は、搬送装置1における搬送対象、すなわちコイルCである。なお、位置の推定対象は、コイルと呼称されるものに限定されるものではなく、例えばロールと呼称されるもの等を含む。本実施形態の例では、コイルCは、薄い鋼板が円筒状に巻かれた鋼板コイルである。
【0016】
複数のコイルCは、建屋内の敷地で一時的に保管される。以下、複数のコイルCの配置、及び、搬送装置1の各部の動作の説明のために、各方向を次のように規定する。Z方向は、鉛直方向に沿った方向である。XY平面は、Z方向に垂直な水平面である。X方向とY方向とは、XY平面上で互いに垂直である。
【0017】
図3は、建屋内の敷地における複数のコイルCの配置例を示す斜視図である。敷地には、水平面である床面100がある。各々のコイルCは、自身の中心軸が床面100と平行となる姿勢で、床面100の側に設置される。本実施形態では、各々のコイルCが床面100の側に設置されているとき、各々のコイルCの軸方向は、Y方向に沿い、軸方向に対して垂直な横断面は、XZ平面と平行である。また、各々のコイルCは、床面100の側に設置されているとき、X方向に沿って並ぶ。更に、各々のコイルCは、1段、又は、Z方向に沿って複数段に積載される。
図3の例示では、複数のコイルCが最大で3段に積載されている。このうち、最下段のコイルCは、それぞれ、一組を構成する2つの棒状の枕木110を介して床面100上に載置される。枕木110の延伸方向は、コイルCの軸方向に沿っている。また、一組を構成する2つの枕木は、X方向で互いに隣り合う。このような枕木110の組は、載置するコイルCの位置決めを行うことができ、また、コイルCの転がりを抑止することができる。一方、中段のコイルCは、それぞれ、X方向で互いに隣り合う最下段の2つのコイルCに支えられながら載置される。同様に、最上段のコイルCは、X方向で互いに隣り合う中段の2つのコイルCに支えられながら載置される。
【0018】
搬送装置1は、敷地内にすでに載置されている特定のコイルCの位置を推定し、その後、推定された位置にあるコイルCを把持した状態で吊り上げて別の場所に移動させることができる。このように所望のコイルCを吊り上げて別の場所に移動させる動作を、以下「吊上げ動作」と表現する場合がある。また、搬送装置1は、敷地内で特定のコイルCを載置する目標位置を推定し、その後、別の場所から移動させてきたコイルCを、推定された目標位置に吊り下げて載置させることができる。このようにコイルCを目標位置に吊り下げて載置させる動作を、以下「吊下げ動作」と表現する場合がある。
【0019】
搬送装置1は、ガーダ2と、ランウェイ3と、トロリ4と、トング5と、距離センサとしての第1センサ6a及び第2センサ6bと、運転室7と、制御演算部8とを備える。
【0020】
ガーダ2は、建屋内の天井付近で、トロリ4を移動自在に支持する構造体である。ガーダ2は、X方向に沿ってそれぞれ延び、かつ、Y方向で離間しつつ互いに対向する2つの直線状の剛体部を含む。この場合、2つの剛体部は、不図示であるが、X方向の一方の端部と他方の端部との両側で互いに一体化されている。ガーダ2のX方向の少なくとも一方の端部は、モータ等のガーダ用アクチュエータ25(
図2参照)を備える。
【0021】
ランウェイ3は、建屋内の天井付近で、ガーダ2を移動自在に支持する走行レールである。ランウェイ3は、Y方向に沿ってそれぞれ延び、かつ、X方向で離間しつつ互いに対向する2箇所の位置に設置されている。ランウェイ3は、例えば、建屋の壁部に設置される場合もあるし、建屋内の床面100上に設けられた高架台に設置される場合もある。ガーダ2のX方向の一方の端部は、一方のランウェイ3上に位置し、ガーダ2のX方向の他方の端部は、他方のランウェイ3上に位置する。ガーダ用アクチュエータ25が制御演算部8からの移動指令に基づいて駆動することで、ガーダ2は、ランウェイ3上をY方向に沿って移動することができる。以下、Y方向に沿った、ランウェイ3に対するガーダ2の移動方向を「走行方向」と表記する。
【0022】
トロリ4は、ガーダ2上で2つの剛体部に支持されながらX方向に沿って移動自在で、かつ、トング5をZ方向に沿って移動自在に支持する構造体である。トロリ4は、モータ等のトロリ用アクチュエータ26(
図2参照)を備える。トロリ用アクチュエータ26が制御演算部8からの移動指令に基づいて駆動することで、トロリ4は、ガーダ2の剛体部上をX方向に沿って移動することができる。ガーダ2は、Y方向に沿って移動することができるので、トロリ4は、XY平面上の目標とする座標位置に移動することができる。以下、X方向に沿った、ガーダ2に対するトロリ4の移動方向を「横行方向」と表記する。
【0023】
トング5は、コイルCを把持して昇降する把持部である。ここで、トロリ4は、ワイヤーロープ9を介してトング5を吊り上げたり吊り下げたりするための回転ドラム(不図示)と、回転ドラムに回転力を与えるモータ等のトング用アクチュエータ27(
図2参照)とを備える。トング用アクチュエータ27が制御演算部8からの昇降指令に基づいて駆動することで、トング5は、トロリ4の高さを基準としてZ方向に沿って移動することができる。
【0024】
また、トング5は、基部10と、一対のアームである第1アーム11a及び第2アーム11bとを備える。基部10は、ワイヤーロープ9に接続され、かつ、第1アーム11a及び第2アーム11bを支持する。第1アーム11a及び第2アーム11bは、それぞれ、基部10からZ方向に沿って下方に延びており、互いにY方向で対向する。第1アーム11aは、基部10のY方向の一方の端部に接続され、第2アーム11bは、基部10のY方向の他方の端部に接続される。第1アーム11a及び第2アーム11bは、それぞれ、Z方向に沿った姿勢を維持しながら、Y方向に沿ってスライドすることができる。
【0025】
また、不図示であるが、第1アーム11a及び第2アーム11bの各々のZ方向下方の端部には、Y方向に沿って互いに対向する吊り具爪が設置されている。第1アーム11a及び第2アーム11bは、2つの吊り具爪を搬送対象のコイルCのコイル孔CHの延長上に位置させた状態で互いに接近することで、各々の吊り具爪をコイル孔CHに進入させることができる。つまり、第1アーム11a及び第2アーム11bは、互いの接近により搬送対象のコイルCを把持することができる。以下、第1アーム11a及び第2アーム11bがコイルCを把持する位置にある状態を、アームの閉状態という。一方、第1アーム11a及び第2アーム11bは、互いに離間することで、各々の吊り具爪をコイル孔CHから退避させて、コイルCの把持を解除することができる。以下、第1アーム11a及び第2アーム11bがコイルCの把持を解除した位置にある状態を、アームの開状態という。トロリ4は、モータ等のコイル把持用アクチュエータ28(
図2参照)を備える。コイル把持用アクチュエータ28が制御演算部8からのアーム開閉指令に基づいて駆動することで、トング5は、アームの開状態と閉状態とを変更することができる。
【0026】
距離センサとしての第1センサ6a及び第2センサ6bは、それぞれ、トロリ4に設置され、床面100の側にある物体までの距離をスキャン計測する。第1センサ6aと第2センサ6bとは、互いに同種のセンサであり、トロリ4における設置位置が互いに異なる。本実施形態における第1センサ6a及び第2センサ6bは、レーザLa(
図7参照)を用いて距離を計測するレーザ距離センサの一例としてのLiDAR(Light Detection And Ranging)である。
【0027】
第1センサ6a及び第2センサ6bにおける計測時のスキャン方向は、位置推定対象となるコイルCの横断面方向、すなわち、横行方向に沿う。この場合、第1センサ6aと第2センサ6bとは、X方向で一定の間隔を開けてトロリ4に設置される。本実施形態の例では、X方向でトロリ4の本体部分を挟んで互いに反対側に位置するように、第1センサ6aがトロリ4のX方向のプラス側に向かう側面に設置され、第2センサ6bがトロリ4のX方向のマイナス側に向かう側面に設置される。このような設置関係によれば、トロリ4が支持しているトング5に検出範囲を遮られづらく、トング5がコイルCを把持しているときもコイルCに検出範囲を遮られづらいという利点がある。また、トロリ4の横行方向に沿ったスキャン計測時の視野角は、プラスマイナス45[deg]程度とする。
【0028】
運転室7は、ガーダ2の一方の端部に固定され、搬送装置1を運転する運転者を常駐させる。運転室7には、制御演算部8又はユーザインターフェース20等が設置されている。ユーザインターフェース20は、運転者が操作する入力部を含み、運転者が入力した指令情報を制御演算部8へ送信することができる。また、ユーザインターフェース20は、制御演算部8から送信された推定位置情報を表示することができる。
【0029】
制御演算部8は、ユーザインターフェース20を介した運転者からの搬送指示等、又は、第1センサ6a等の距離センサから取得した計測データに基づいて、搬送装置1に含まれる各構成要素の動作を制御する。制御演算部8は、駆動制御部21と、推定演算部22とを含む。
【0030】
駆動制御部21は、搬送装置1に含まれる各種アクチュエータに対して動作信号を送信する。まず、駆動制御部21は、ユーザインターフェース20より、搬送指示又はコイル情報を受信し、当該搬送指示又は当該コイル情報に基づいて、トロリ4及びトング5を向かわせる大まかな位置を特定することができる。また、駆動制御部21は、推定演算部22より、当該推定演算部22が導出したコイルCの載置位置又は目標位置を受信することができる。
【0031】
また、駆動制御部21は、ガーダ用アクチュエータ25に対して、ガーダ2の移動目標となる移動位置を指示し、当該移動位置へガーダ2を移動させることができる。駆動制御部21は、トロリ用アクチュエータ26に対して、トロリ4の移動目標となる移動位置を指示し、当該移動位置へトロリ4を移動させることができる。駆動制御部21は、トング用アクチュエータ27に対して、トング5の移動目標となる昇降位置を指示し、当該昇降位置へトング5を移動させることができる。また、駆動制御部21は、コイル把持用アクチュエータ28に対して、トング5におけるアームの所望の開閉状態を指示し、アームを開閉させることができる。
【0032】
推定演算部22は、第1センサ6a等の距離センサから計測データを取得し、当該計測データに基づいて、本実施形態に係る位置推定システムの動作又は位置推定方法に関するコイルCの位置の推定演算を実行する。また、推定演算部22は、算出したコイルCの載置位置又は目標位置を、駆動制御部21に送信することができる。更に、推定演算部22は、推定演算に際して必要なコイル情報を、ユーザインターフェース20から受信することができる。すなわち、搬送装置1の例示では、本実施形態に係る位置推定システムは、少なくとも、第1センサ6a等の距離センサと、推定演算部22とによって構成されることになる。
【0033】
次に、本実施形態に係る位置推定システムの動作、及び、本実施形態に係る位置推定方法の流れについて説明する。
【0034】
搬送装置1は、自動搬送時の主動作として、上記のとおり、吊上げ動作と、吊下げ動作とを実施する。以下、吊上げ動作に関する搬送工程を「搬出工程」と表記し、吊下げ動作に関する搬送工程を「搬入工程」と表記する。
【0035】
図4Aは、搬出工程において、搬送対象又は位置推定対象となるコイルCを例示する、複数のコイルCの側面図である。
図4Aの例示では、7つのコイルCが床面100の側に載置されている。このうち、下段のコイルCとして、第1コイルC1、第2コイルC2、第3コイルC3及び第4コイルC4が、それぞれ、X方向に沿って並列に、枕木110を介して床面100上に載置されている。また、上段のコイルCとして、第5コイルC5、第6コイルC6及び第7コイルC7が、それぞれ、下段のいずれか2つのコイルCに支持されつつ載置されている。具体的には、第5コイルC5は、第1コイルC1と第2コイルC2とを土台として載置されている。第6コイルC6は、第2コイルC2と第3コイルC3とを土台として載置されている。第7コイルC7は、第3コイルC3と第4コイルC4とを土台として載置されている。
【0036】
ここで、
図4Aの例示では、搬送対象、すなわち、搬送装置1により吊上げられて載置位置から搬出されるコイルCは、上段の第6コイルC6であるものと想定する。この場合、本実施形態における位置推定対象は、搬送対象である第6コイルC6と、第6コイルC6のX方向での両隣に位置する第5コイルC5及び第7コイルC7との計3つのコイルCである。このうち、第6コイルC6の推定位置は、搬出時に、未把持状態のトング5を向かわせる位置として参照される。一方、第5コイルC5及び第7コイルC7の推定位置は、搬出時に、第6コイルC6と、第5コイルC5又は第7コイルC7との接触を回避するために予め把握される位置として参照される。
【0037】
図4Bは、搬入工程において、搬送対象となったコイルCが搬入される目標位置、及び、位置推定対象となるコイルCを例示する、複数のコイルCの側面図である。
図4Bの例示では、第1コイルC1、第2コイルC2、第3コイルC3、第4コイルC4、第5コイルC5及び第7コイルC7の6つのコイルCが、それぞれ、
図4Aの例示と同様に、床面100の側に載置されている。そして、
図4B中、二点鎖線で描かれ、
図4Aでの第6コイルC6に相当する領域が、目標位置である。以下、目標位置に載置されるコイルCを、便宜上、第6コイルC6と表記する。
【0038】
この場合、本実施形態における位置推定対象は、目標位置に載置される第6コイルC6を支持する第2コイルC2及び第3コイルC3と、第6コイルC6のX方向での両隣に位置する第5コイルC5及び第7コイルC7との計4つのコイルCである。このうち、第2コイルC2及び第3コイルC3の推定位置は、搬入時に、目標位置として参照される。一方、第5コイルC5及び第7コイルC7の推定位置は、搬入時に、第6コイルC6と、第5コイルC5又は第7コイルC7との接触を回避するために予め把握される位置として参照される。
【0039】
図5は、搬送工程のフローチャートである。搬送工程には、吊上げ動作を含む搬出工程の場合と、吊下げ動作を含む搬入工程の場合とがある。以下、搬送工程に含まれる工程ごとに、搬送工程が搬出工程である場合と搬入工程である場合とに分けて説明する。
【0040】
また、本実施形態において推定されるコイルCの位置は、床面100上に設定された原点P
0を基準としたクレーン座標系で規定される。本実施形態では、原点P
0は、
図1に示すようにトロリ4の移動範囲の一部の角に設定されるものとする。クレーン座標系は、X方向に対応した横行方向と、Y方向に対応した走行方向と、Z方向に対応した高さ方向とで表される。
【0041】
制御演算部8は、ユーザインターフェース20を介した運転者からの搬送指示により、搬送工程を開始する。
【0042】
まず、制御演算部8は、位置推定対象特定工程S100を実行する。位置推定対象特定工程S100では、制御演算部8は、搬送指示に基づいて、当該搬送工程が搬出工程であるのか搬入工程であるのかを特定する。搬送工程が搬出工程である場合、制御演算部8は、いずれのコイルCを搬送対象とするかを特定する。一方、搬送工程が搬入工程である場合、制御演算部8は、搬送対象であるコイルCをいずれの目標位置に搬入するかを特定する。次に、制御演算部8は、搬出工程において搬送対象となるコイルCの載置位置、又は、搬入工程において搬送対象であるコイルCが載置される目標位置に基づいて、位置が推定されるべきコイルC、すなわち位置推定対象を特定する。
【0043】
また、位置推定対象特定工程S100では、制御演算部8は、ユーザインターフェース20側の上位系に保存されているデータベースより、位置推定対象となるコイルCごとのコイル情報を取得する。ここで、コイル情報とは、コイルCの大まかな載置位置若しくは目標位置に関する情報、又は、コイルCのサイズに関する情報等をいう。
【0044】
次に、制御演算部8は、1次平面移動工程を実行する。1次平面移動工程では、制御演算部8は、コイルCの載置位置又は目標位置の上方位置に向かうようにトロリ4を移動させる。搬送工程が搬出工程である場合、いずれのコイルCも吊っていないトロリ4が、搬送対象となるコイルCの載置位置の上方位置に向かって移動される。一方、搬送工程が搬入工程である場合、搬送対象であるコイルCを吊っているトロリ4が、床面100の側に予め設定されている目標位置の上方位置に向かって移動される。1次平面移動工程は、高速移動工程S200と、計測移動工程S300と、補正移動工程S400を含む。
【0045】
高速移動工程S200は、搬送指示から特定された大まかな載置位置又は目標位置の上方位置まで、計測移動工程S300での移動速度よりも早い速度でトロリ4を移動させる工程である。このとき、駆動制御部21は、大まかな載置位置又は目標位置の上方位置に相当するXY座標を移動位置として、ガーダ用アクチュエータ25又はトロリ用アクチュエータ26を駆動させる。移動位置としてのXY座標位置は、以後の計測移動工程S300が開始される位置となる。つまり、この段階では、制御演算部8は、コイルCの載置位置又は目標位置を具体的には把握していない。制御演算部8は、高速移動工程S200の後、計測移動工程S300に移行する。
【0046】
計測移動工程S300は、位置推定対象に指定されたコイルCの位置を推定する工程を含む工程である。この計測移動工程S300については、以下で詳説する。制御演算部8は、計測移動工程S300の後、補正移動工程S400に移行する。
【0047】
補正移動工程S400は、計測移動工程S300終了時点のトロリ4の位置から、計測移動工程S300において推定されたコイルCの位置に基づいて決定されたトロリ4の目標座標に、トロリ4を補正移動させる工程である。このとき、駆動制御部21は、トロリ4の目標座標に相当するXY座標を移動位置として、ガーダ用アクチュエータ25又はトロリ用アクチュエータ26を駆動させる。この補正移動工程S400の終了により、搬送対象であるコイルCを載置位置から吊り上げるとき、又は、搬送対象であるコイルCを目標位置に吊り下げるときのトロリ4のXY座標位置が確定する。
【0048】
次に、制御演算部8は、トング下降工程S500を実行する。トング下降工程S500では、制御演算部8は、計測移動工程S300において推定されたコイルCの位置に基づいて決定されたトング5の目標座標に、トング5を下降させる。このとき、駆動制御部21は、トング5の目標座標に相当するZ座標を昇降位置として、トング用アクチュエータ27を駆動させる。このトング下降工程S500の終了により、搬送工程が搬出工程である場合、トング5は、搬送対象であるコイルCを把持することができる位置にある。一方、搬送工程が搬入工程である場合、搬送対象であるコイルCが目標位置に載置された状態となる。
【0049】
次に、制御演算部8は、トング操作工程S600を実行する。搬送工程が搬出工程である場合、トング操作工程S600は、トング5に、搬送対象であるコイルCを把持させる工程である。一方、搬送工程が搬入工程である場合、トング操作工程S600は、トング5にコイルCの把持を解除させて、当該コイルCを目標位置に完全に載置させる工程である。このとき、駆動制御部21は、適宜、コイル把持用アクチュエータ28を駆動させて、トング5によるアームの開状態と閉状態とを変更させる。
【0050】
次に、制御演算部8は、トング上昇工程S700を実行する。トング上昇工程S700では、搬送工程が搬出工程である場合、コイルCを把持したトング5が最上位まで上昇される。一方、搬送工程が搬入工程である場合、コイルCを把持していないトング5が最上位まで上昇される。このときも、駆動制御部21は、トング用アクチュエータ27を駆動させることで、トング5を上昇させることができる。
【0051】
そして、制御演算部8は、2次平面移動工程S800を実行する。2次平面移動工程S800では、駆動制御部21は、コイルCの載置位置又は目標位置の上方位置から離れるようにトロリ4を移動させる。搬送工程が搬出工程である場合、2次平面移動工程S800は、搬送対象であるコイルCを吊っているトロリ4が、所望の位置にコイルCを搬送すべく移動される。一方、搬送工程が搬入工程である場合、コイルCを吊っていないトロリ4が、所望の位置に退避される。これにより、一連の搬送工程が終了する。
【0052】
次に、計測移動工程S300について詳説する。
【0053】
図6は、計測移動工程S300のフローチャートである。計測移動工程S300では、距離センサである第1センサ6a又は第2センサ6bが、位置推定対象であるコイルCの横断面方向に沿って移動しながら、複数のフレーム分、スキャン計測し、コイルCの位置が推定される。つまり、計測移動工程S300では、距離センサによる計測工程S310と、計測工程S310で得られた計測データに基づいてコイルCの位置を導出するまでの工程とが並行する。
図6では、互いに時系列に沿って、計測工程S310の流れが左側に表記され、コイルCの位置を導出するまでの流れが右側に表記されている。
【0054】
図7は、計測工程S310における計測移動の基本動作を説明する斜視図である。なお、
図7は、搬送装置1の斜視図である
図1の描画に対応している。
図7では、搬送工程が搬入工程である場合で、かつ、計測移動工程S300において、第1センサ6aがスキャン計測をする場合を例示する。
【0055】
計測工程S310では、第1センサ6aが、トロリ4の横行方向での移動に合わせて、すでに載置されているコイルCを上方で横切りながらスキャン計測し、多数の視点での計測データを得る。
図7では、枕木110上に、位置推定対象となり得る3つのコイルCが載置されている。また、特定の視野角で規定されるスキャン範囲が、レーザLaの照射範囲として示されている。更に、
図7では、3つのコイルC上に、Y方向で並ぶ3スキャン分のライン状の点群が示されている。ただし、実際には、4ライン以上の多くのラインで計測がなされてもよい。このように多数の計測ラインを並べることで、他の計測ラインと比べて点群のバラツキが大きい計測ラインが生じた場合、バラツキが大きい計測ラインを、コイルCの位置推定に用いられる計測データから予め除外し、位置推定精度を高めることができる。
【0056】
ここで、トロリ4が、X方向において最も原点P0に近い側に寄った場合を想定する。この場合、トロリ4の直下に位置推定対象のコイルCが載置されていたとすると、第1センサ6aは、トング5が把持しているコイルCにレーザLaの照射範囲が遮られることで、直下のコイルCを検出することが難しいこともあり得る。このような場合、第1センサ6aに代えて、トロリ4においてX方向で第1センサ6aの反対側に設置されている第2センサ6bが距離センサとして用いられることで、直下のコイルCを好適に検出することができる。
【0057】
計測移動工程S300の開始に伴って、計測工程S310が開始されると、次に、推定演算部22は、位置の推定を要するコイルCごとに、コイルCの位置を導出する。ここでは、一例として、搬入工程に関する
図4Bに示す複数のコイルCを参照し、位置推定対象が第2コイルC2である場合について説明する。
【0058】
まず、推定演算部22は、座標変換工程S320を実行する。座標変換工程S320では、計測工程S310にて逐一取得された多数の視点での計測データが、第1センサ6a等の距離センサの位置で補正されることで、建屋に固定された座標に変換される。当該座標変換により、孤立ノイズ、又は、搬送装置1の構造体の一部に相当する点群を、予め除去することができる。
【0059】
次に、推定演算部22は、頂点高さ推定工程S330を実行する。頂点高さ推定工程S330では、第2コイルC2の頂点部Ptの高さTzが推定される。なお、コイルCの頂点部Ptは、
図4A、
図4B及び
図11では、白抜きの三角印で示されている。
【0060】
図8は、頂点高さ推定工程S330のフローチャートである。
【0061】
まず、推定演算部22は、点群切り出し工程S331を実行する。点群切り出し工程S331は、計測情報としての計測データから点群を切り出す工程である。
図4Bでは、当該工程において切り出された切り出し範囲Arが、破線の矩形領域で示されている。このとき、切り出し範囲Arは、位置推定対象特定工程S100で予め取得されたコイル情報に基づいて、第2コイルC2の想定されるコイル中心Axと、周囲のコイルCの一部とを含むように設定される。
【0062】
次に、推定演算部22は、特定部位抽出工程S332を実行する。特定部位抽出工程S332は、切り出し範囲Arに含まれる点群Amのうち、特定部位として、例えば角度30度以下となるなだらかな部分の構成点を抽出する工程である。
図4Bでは、当該工程で抽出されたなだらかな部分が、破線の楕円領域Rに含まれる構成点群で示されている。
【0063】
次に、推定演算部22は、移動平均算出工程S333を実行する。移動平均算出工程S333は、X方向に複数の点で、移動フィルタで所定幅W内の中央値、すなわち移動平均を算出する工程である。
【0064】
そして、推定演算部22は、頂点高さ導出工程S334を実行する。頂点高さ導出工程S334は、移動平均算出工程S333で算出された移動平均に基づいて、最も高い位置の点としての頂点部Ptに関する高さTzとX方向の座標Txとを導出する工程である。このような頂点高さ推定工程S330の一連の流れにより、推定演算部22は、第2コイルC2の頂点部Ptの高さTzを推定することができる。
【0065】
次に、計測移動工程S300に戻り、推定演算部22は、頂点高さ推定工程S330の後、コイル半径情報取得工程S340を実行する。コイル半径情報取得工程S340では、推定演算部22は、頂点高さ推定工程S330において頂点部Ptの高さTzが推定された第2コイルC2のコイル半径rに係る情報を取得する。コイル半径rに係る情報は、ユーザインターフェース20から受信したコイル情報に含まれていてもよい。又は、コイル半径rに係る情報は、予め入庫時にコイルCごとに計測されていてもよいし、例えばトング5に予め設置されている計測機を用いて実測されたものであってもよい。
【0066】
次に、推定演算部22は、コイル端部推定工程S350を実行する。コイル端部推定工程S350では、第2コイルC2のコイル端部Peが推定される。コイル端部Peは、コイルCにおいて、X方向すなわちトロリ4の横行方向で最も端に位置する部位である。なお、コイル端部Peは、
図4A、
図4B、
図11、
図12A及び
図12Bでは、黒塗りの菱形印で示されている。
【0067】
図9は、コイル端部推定工程S350のフローチャートである。
【0068】
まず、推定演算部22は、コイル中心高さ算出工程S351を実行する。コイル中心高さ算出工程S351は、第2コイルC2の頂点部Ptの高さTzからコイル半径rを減算することで、コイル中心Axの高さHを算出する工程である。
【0069】
次に、推定演算部22は、仮想通過点算出工程S352を実行する。仮想通過点算出工程S352は、複数の仮想通過点Pvを算出する工程である。
【0070】
図10は、仮想通過点Pvを説明するための概念図である。
図10では、床面100上に枕木110を介して第2コイルC2及び第3コイルC3が並列に載置されているときに、第2コイルC2及び第3コイルC3に支持されるように載置された第1コイルC1が位置推定対象となった場合が例示されている。ここで、距離センサである第1センサ6a又は第2センサ6bのいずれかが、第1コイルC1を含む範囲を1スキャン分、レーザLaを用いて計測したと想定する。このとき、仮想通過点Pvは、複数の計測点Pmごとに第1コイルC1のコイル中心Axの高さHを通過した点に相当する。
【0071】
次に、推定演算部22は、端部候補点抽出工程S353を実行する。端部候補点抽出工程S353は、複数の仮想通過点Pvの中から端部候補点Pcを抽出する工程である。
【0072】
図11は、端部候補点Pc、及び、当該端部候補点Pcから推定され得るコイル端部Peを説明するための図である。
【0073】
図11中の上図は、単一のフレームに含まれる複数の仮想通過点Pvの中から端部候補点Pcを抽出する場合を例示するグラフである。上図において、各々原点P
0を基準として、横軸はX方向の位置であり、縦軸はZ方向の位置である。また、上図では、推定され得るコイルCeのコイル中心Axが、おおよそ、X=6.0[m]、Z=1.9[m]の位置にある場合を例として、コイルCeの一部と、コイルCeの頂点部Ptとが示されている。更に、X軸上に、仮想通過点算出工程S352で算出された複数の仮想通過点Pvがプロットされている。
【0074】
図11中の下図は、複数のフレームごとに抽出された端部候補点Pcを
図11中の上図の横軸に合わせてプロットしたグラフである。下図では、一例として、フレーム番号が1番から12番までの12のフレームについて抽出された端部候補点Pcが示されている。このうち、フレーム番号が1番の列にプロットされている3つの端部候補点Pcは、上図に例示されている各々の端部候補点Pcに対応している。なお、実際の計測移動工程S300では、より多数のフレームごとに端部候補点Pcが抽出される。
【0075】
まず、推定演算部22は、ある単一のフレームに関して、連続する複数の仮想通過点Pvを、互いに近接するもの同士で複数のグループに分ける。
図11の上図では、第1グループG1、第2グループG2及び第3グループG3の3つのグループが例示されている。ここで、互いに隣接するグループ同士の間には、仮想通過点Pvが算出されていない領域が生じている。このような領域は、例えば、位置推定対象のコイルが1段目にある場合、そのコイルの下側にある床面100の凹凸により計測が難しくなるところが発生し、第1センサ6a等の距離センサが計測点Pmを検出できなかったことで生じたと考えられる。その後、推定演算部22は、グループごとに、位置推定対象である第2コイルC2に最も近い側にある仮想通過点Pvを、コイル端部Peの推定の際に参照される端部候補点として抽出する。
【0076】
次に、推定演算部22は、補正量算出工程S354を実行する。補正量算出工程S354は、端部候補点Pcに適用されて、最終的に推定されるコイル端部Peを導出するための補正量Xmodを算出する工程である。補正量Xmodは、式(1)に示すように、接線角度θtによる仮想点ずれSe(θt)で表される。
【0077】
【0078】
図12A及び
図12Bは、Se(θ
t)を説明するための概念図である。なお、
図12A及び
図12Bでは、床面100上に枕木110を介して載置されている第1コイルC1が位置推定対象である場合を例示している。
図12Aは、第1センサ6a等の距離センサを設置したトロリ4が、第1コイルC1のコイル端部Peの外側、すなわち、コイル端部PeよりもX方向でプラス側に位置している場合のSe(θ
t)に関する図である。
図12Bは、第1センサ6a等の距離センサを設置したトロリ4が、第1コイルC1のコイル端部Peの内側、すなわち、コイル端部PeよりもX方向でマイナス側に位置している場合のSe(θ
t)に関する図である。
【0079】
この場合、Se(θt)は、式(2)で表される。ただし、rは、コイル半径である。また、第1センサ6a等からのi番目の計測点相対位置が(Xr(i),Zr(i))で表されるものとすると、接線角度θtは、式(3)で表される。
【0080】
【0081】
【0082】
また、
図12A及び
図12Bでは、一例として、反射ゴーストが発生した場合に生じ得る計測点ずれが例示されている。いわゆる反射ゴーストが発生すると、計測点が第1コイルC1の内側に入るような形で検出される。このときの仮想通過点は、実際のコイルと接している仮想通過点ではないため、Se(θ
t)による補正は、実際の幾何学的な関係を無視した補正となり、補正後の位置のばらつきは、θ
tが変わることによりむしろ大きくなる。なお、
図12A及び
図12Bでは、反射ゴーストの影響を受けた補正後のコイル端部Pgが示されている。
【0083】
そして、推定演算部22は、コイル端部導出工程S355を実行する。コイル端部導出工程S355は、端部候補点Pcに補正量X
modを適用することでコイル端部Peを導出する工程である。
図11では、グループごとに、端部候補点Pcに補正量X
modが適用されることで、矢印に沿って端部候補点Pcの位置からコイルCeの内側に導出されたコイル端部Peが示されている。つまり、搬入工程に関する
図4Bの例では、端部候補点Pcから、幾何計算によりコイル端部Peが推定されることになる。
【0084】
上記のコイル端部推定工程S350は、計測工程S310中の各視点での計測データについて実行される。そして、推定演算部22は、推定したコイル端部Peに係るデータを蓄積させる。
【0085】
そして、計測移動工程S300に戻り、計測工程が終了した後(S360)、推定演算部22は、コイル位置導出工程S370を実行する。ここで、計測工程終了は、トロリ4が計測移動の終点に到達したときであってもよい。コイル位置導出工程S370では、推定演算部22は、計測工程S310中に得られた複数視点での計測データを統計処理することで、最終的に採用されるコイル端部Peを導出する。
【0086】
例えば、
図11を参照すると、推定演算部22は、複数の場所で計測したフレームごとに算出された仮想通過点Pvの算出結果に基づいて、複数のグループの中で位置推定対象である第2コイルC2に最も近い側にあるグループを特定する。例えば、フレームごとに算出された仮想通過点Pvが一定範囲に多く集まっている場合には、最終的に採用されるべきコイル端部Peを導出するグループであると考えられる。
【0087】
より具体的には、
図11の下図を参照すると、複数のフレームごとに抽出された端部候補点Pcの傾向として、第2グループG2内の端部候補点Pcは、他のグループ内の端部候補点Pcよりも多く抽出され、かつ、密度が最も高いことがわかる。ここで、端部候補点Pcの密度が高いとは、統計的に、端部候補点Pcのばらつきが小さいことをいう。一方、第1グループG1又は第3グループG3内の端部候補点Pcは、第2グループG2内の端部候補点Pcに比べて、密度が小さい。そこで、推定演算部22は、複数のグループのうち第2グループG2が第2コイルC2に最も近い側にあると推定する。次に、推定演算部22は、第2グループG2に含まれる端部候補点Pcから、平均などにより推定されたコイル端部Peを最終的に採用する。そして、推定演算部22は、最終的に採用が決定されたコイル端部Peと、第2コイルC2のコイル半径rとから、第2コイルC2の位置を導出する。
【0088】
一方、フレームごとに算出された仮想通過点Pvが、一定範囲に集まっているが、上記のような実際の幾何学的な関係を無視したSe(θ
t)による補正に起因し、補正後の位置のばらつきが大きくなるなどの影響により、反射ゴーストが生じているとも考えられる。
図11に示す例では、第1グループG1に含まれる仮想通過点Pvが、反射ゴーストの影響を受けている。したがって、第1グループG1に含まれる端部候補点Pcから推定されたコイル端部Pe、すなわち、
図12Aに例示されているようなコイル端部Pgは、最終的には不採用とされる。
【0089】
なお、ここまで、搬入工程に関する
図4Bに示す複数のコイルCを参照することで、計測移動工程S300について説明した。一方で、搬送工程が搬出工程である場合でも、
図4Aに示すように各部を規定することで、同様に計測移動工程S300を実行させることができる。
【0090】
次に、本実施形態に係る位置推定システム及び位置推定方法の効果について説明する。
【0091】
本実施形態に係る位置推定システムは、中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルCの位置を推定する。位置推定システムは、コイルCを吊って移動するトロリ4に設置され、レーザLaを用いて床面100の側にある物体までの距離をスキャン計測する距離センサとしての第1センサ6a又は第2センサ6bを備える。また、位置推定システムは、制御演算部8を備える。制御演算部8は、床面100の側に載置されている少なくとも1つのコイルCを位置推定対象として特定し、位置推定対象の横断面方向に沿って、トロリ4を移動させながら距離センサにスキャン計測させる。制御演算部8は、計測点PmごとにレーザLaが位置推定対象のコイル中心Axの高さHを通過した点を仮想通過点Pvとして算出する。制御演算部8は、位置推定対象に最も近い側にある仮想通過点Pvを、位置推定対象の横断面方向でのコイル端部Peとなり得る端部候補点Pcとして抽出する。そして、制御演算部8は、端部候補点Pcから推定されたコイル端部Peに基づいて位置推定対象の位置を導出する。
【0092】
また、本実施形態に係る位置推定方法は、中心軸が床面と平行となる姿勢で載置されているコイルCの位置を推定する。位置推定方法は、床面100の側に載置されている少なくとも1つのコイルCを位置推定対象として特定する位置推定対象特定工程S100を有する。位置推定方法は、位置推定対象の横断面方向に沿って、コイルCを吊って移動するトロリ4を移動させながら、トロリ4に設置されている距離センサにレーザLaを用いて床面100の側にある物体までの距離をスキャン計測させる計測工程S310を有する。位置推定方法は、計測工程S310で計測された計測点Pmごとに、レーザLaが位置推定対象のコイル中心Axの高さHを通過した点を仮想通過点Pvとして算出する仮想通過点算出工程S352を有する。位置推定方法は、位置推定対象に最も近い側にある仮想通過点Pvを、位置推定対象の横断面方向でのコイル端部Peとなり得る端部候補点Pcとして抽出する端部候補点抽出工程S353を有する。また、位置推定方法は、端部候補点Pcから推定されたコイル端部Peに基づいて、位置推定対象の位置を導出するコイル位置導出工程S370を有する。
【0093】
まず、本実施形態に係る位置推定システム又は位置推定方法によれば、レーザLaが位置推定対象のコイル中心Axの高さHを通過した点として規定される仮想通過点Pvという概念を導入する。そのため、コイル端部Peに基づいて位置推定対象の位置を推定しようとしたときには、上記例示のように、必ずしも両端のコイル端部Peの位置を特定させる必要がない。そのため、位置推定対象の斜め上段に、予め別のコイルが載置されているような場面があったとしても、片側のコイル端部Peを推定するのみで、コイル位置の推定精度の低下を抑えつつ、コイル位置を導出することができる。
【0094】
また、一般に、コイルに光沢がある場合、レーザを用いた距離センサによる計測では、コイル端部を検出することが難しかったり、迷光又は複数反射等の光学的事象により、実際の位置とは遠く離れた位置が検出されたりすることがあり得る。これに対して、本実施形態に係る位置推定システム又は位置推定方法によれば、コイル端部Peの位置を高精度に推定することができ、結果として、コイル位置の推定精度の低下を抑えることができる。
【0095】
以上のように、本実施形態によれば、コイルの積載状態又は光沢に起因したコイルの位置の推定精度の低下を抑える位置推定システム及び位置推定方法を提供することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る位置推定システムでは、制御演算部8は、距離センサが複数の位置から計測することで得られた計測データを用いてコイル端部Peをそれぞれ推定する。そして、制御演算部8は、推定された複数のコイル端部Peの値に対して統計処理を実行することで位置推定対象の位置の推定に用いられるコイル端部Peを特定してもよい。
【0097】
一般に、レーザを用いた距離センサによる計測時に反射ゴーストが発生した場合、コイル端部の検出位置が安定しない。これに対して、この位置推定システムでは、複数の視点の計測データで個々にコイル端部Peを推定し、それらの推定結果から統計処理によってばらつきが小さい、又は、所定範囲内の密度が多いなどの結果の集合を選び出すことができる。したがって、この位置推定システムによれば、たとえ反射ゴーストが発生しても、コイル位置の推定精度の低下をより抑えやすい。
【0098】
ここで、距離センサが複数の位置から計測することで得られた計測データは、例えば第1センサ6aのように、ある1つの距離センサが移動しながら計測すること得られたデータであってもよい。又は、距離センサが複数の位置から計測することで得られた計測データは、第1センサ6aと第2センサ6bとのように、予め異なる位置に設置されている複数の距離センサがそれぞれ計測することで得られたデータであってもよい。
【0099】
また、本実施形態に係る位置推定システムでは、制御演算部8は、複数の仮想通過点Pvを互いに近接するもの同士で複数のグループに分ける。次に、制御演算部8は、複数のフレームごとに算出された仮想通過点Pvの算出結果に基づいて、複数のグループの中で位置推定対象に最も近い側にあるグループを特定する。そして、制御演算部8は、特定されたグループに含まれる複数の仮想通過点Pvから抽出された端部候補点Pcに基づいて、位置推定対象の位置の推定に用いられるコイル端部Peを特定してもよい。
【0100】
この位置推定システムによれば、制御演算部8は、最終的に採用されるコイル端部Peを、複数のフレームごとに算出された仮想通過点Pvの算出結果に基づいて特定する。したがって、例えば反射ゴーストが発生しても、反射ゴーストの影響を受けた計測データを予め排除し、コイル端部Peの推定精度を向上させることができる。
【0101】
更に、本実施形態に係る位置推定システムでは、制御演算部8は、距離センサから照射されたレーザLaが位置推定対象の側面と接するときの接線角度θtに起因する、コイル中心Axの高さHでの仮想通過点Pvとコイル端部Peとの間のずれ量を求める。そして、制御演算部8は、端部候補点Pcにずれ量を反映させることでコイル端部Peを推定してもよい。
【0102】
ここで、上記のずれ量は、上記例示での接線角度θtによる仮想点ずれSe(θt)に相当する。
【0103】
この位置推定システムによれば、コイル端部Peをより高精度に推定することができるので、特に、片側のコイル端部Peを推定するのみの場合でも、最終的に導出されるコイル位置の推定精度の低下をより抑えることができる。
【0104】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正又は変形をすることが可能である。上記の実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0105】
4 トロリ
6a 第1センサ
6b 第2センサ
8 制御演算部
Ax コイル中心
C コイル
H コイル中心の高さ
La レーザ
Pc 端部候補点
Pe コイル端部
Pm 計測点
Pv 仮想通過点
θt 接線角度
Se(θt) 仮想点ずれ