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特開2024-53398凝集剤注入装置、凝集剤注入方法、および、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053398
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】凝集剤注入装置、凝集剤注入方法、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20240408BHJP
   G01N 15/04 20060101ALI20240408BHJP
   G01N 15/0227 20240101ALI20240408BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240408BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20240408BHJP
【FI】
B01D21/30 A
G01N15/04 D
G01N15/02 C
B01D21/01 B
B01D21/01 D
C02F1/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159647
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 美意
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】村山 清一
(72)【発明者】
【氏名】温水 聡美
(72)【発明者】
【氏名】大澤 俊
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA21
4D015BA28
4D015DA04
4D015EA03
4D015EA16
4D015EA32
(57)【要約】

【課題】 水質変動に対する適切なフロックの凝集条件を設定する。
【解決手段】 実施形態による凝集剤注入装置は、浄水施設における被処理水中のフロックを撮影した画像に基づいて、フロックの大きさを表す値と形状値とを算出する画像解析部8と、フロックの大きさを表す値と形状値とを用いて、フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抵抗係数と、フロックと周囲の流体との密度差である有効密度とを演算し、抵抗係数と有効密度とを用いて被処理水中のフロックに掛かる重力と浮力と抗力との力のつり合いの関係に基づいて沈降速度推定値を演算する沈降速度演算部10と、沈降速度推定値に基づいて凝集条件を調整する凝集条件調整部11と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水施設における被処理水中のフロックを撮影した画像に基づいて、前記フロックの大きさを表す値と形状値とを算出する画像解析部と、
前記フロックの大きさを表す値と前記形状値とを用いて、前記フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抵抗係数と、前記フロックと周囲の流体との密度差である有効密度とを演算し、前記抵抗係数と前記有効密度とを用いて前記被処理水中の前記フロックに掛かる重力と浮力と抗力との力のつり合いの関係に基づいて沈降速度推定値を演算する沈降速度演算部と、
前記沈降速度推定値に基づいて凝集条件を調整する凝集条件調整部と、を備えた凝集剤注入装置。
【請求項2】
前記形状値は、前記フロックの円相当径、投影面積、周囲長、包絡周囲長、長径、短径、外接矩形長径、外接矩形短径、円形度、アスペクト比、凹凸度、フェレー径および楕円相当径の少なくともいずれかを含み、
前記画像解析部で算出された前記フロックの大きさを表す値および前記形状値を、前記形状値により補正した補正済の値を算出する形状補正部を更に備え、
前記沈降速度演算部は、補正済の値を用いて前記抵抗係数、前記有効密度および前記沈降速度推定値を演算する、請求項1記載の凝集剤注入装置。
【請求項3】
前記画像解析部は、前記フロックの大きさを表す値は前記フロックの粒径である、請求項1記載の凝集剤注入装置。
【請求項4】
前記フロックの粒径は、前記フロックの粒子1個あたりの粒径、複数の粒子の粒径の代表値あるいは粒径分布である、請求項3記載の凝集剤注入装置。
【請求項5】
前記沈降速度推定値は、前記フロックの粒子1個あたりの沈降速度、複数の粒子の沈降速度の代表値あるいは沈降速度分布を演算する、請求項1記載の凝集剤注入装置。
【請求項6】
前記凝集条件調整部は、前記浄水施設に流入する原水水質の情報を取得し、前記沈降速度推定値と前記原水水質の情報とに基づいて、前記凝集条件を調整する、請求項1記載の凝集剤注入装置。
【請求項7】
前記凝集条件は、凝集剤注入率、pH調整剤の注入率、前記浄水施設の混和池における撹拌機の撹拌強度、前記浄水施設のフロック形成池における撹拌強度の少なくともいずれかを含む、請求項1記載の凝集剤注入装置。
【請求項8】
浄水施設における被処理水中のフロックを撮影した画像に基づいて、前記フロックの大きさを表す値と形状値とを算出し、
前記フロックの大きさを表す値と前記形状値とを用いて、前記フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抵抗係数と、前記フロックと周囲の流体との密度差である有効密度とを演算し、
前記抵抗係数と前記有効密度とを用いて前記被処理水中の前記フロックに掛かる重力と浮力と抗力との力のつり合いの関係に基づいて前記フロックの沈降速度推定値を演算し、
前記沈降速度推定値に基づいて凝集条件を調整する、凝集剤注入方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項8記載の方法を実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集剤注入装置、凝集剤注入方法、および、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
凝集は、浄水施設や産業排水処理など、水を清澄化するために広く使われている技術である。浄水施設を例に挙げると、粘土鉱物やプランクトンといった水中の懸濁濁質は、水中では分散した状態にあるが、凝集剤やpH調整剤、塩類などの薬剤を添加して粒子表面の荷電状態を中和すると、粒子同士が互いに接触しやすい表面状態となる。さらに、被処理水を撹拌してせん断力を加え、粒子同士を衝突合一して集塊化し、大きな凝集物(フロック)へと成長させる。成長したフロックは重力沈降によって分離され、上澄水は砂ろ過などの分離工程を経て清澄水となる。
【0003】
フロックの粒径や密度は、凝集剤の注入率やpHといった水質の影響と、撹拌強度による水理条件の影響とを受けて変化するため、流入する原水の水質変動に合わせて凝集剤の注入率や撹拌強度を調整する必要がある。例えば、凝集剤注入率を増加させるとフロックの粒径は大きくなるが、同時にフロックの密度が低下する。このため、沈澱池におけるフロックの重力沈降に関わる沈降速度を適切に維持する凝集剤注入率と撹拌強度とはリアルタイムに変化する。
【0004】
現状の浄水施設の運用は、熟練技術者の経験値や、それまでの運用実績に基づいて行われているが、技術継承の難しさや、気候の変動に伴う経験したことのない水質変動が起こりつつあり、運用を自動化することが検討されている。
【0005】
浄水施設の運用、特に凝集剤の注入率設定を自動化するためには、水質変動に対して、適切な凝集条件を抽出する必要がある。適切な凝集条件を設定するために水質を把握する手段としては、濁度計やpH計のようなオンライン信号を出力できるセンサを用いることが一般的である。しかし、水質の中には、既存のオンラインセンサで検知できないような水質項目もある。そこで、水質の把握に加え、被処理水を撮影した画像からフロックを検知し、画像解析結果を適切な凝集条件の設定に反映することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3199897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水源の水質変動に対して、浄水施設の処理水水質を清澄に保つには、混和池、フロック形成池において懸濁物質を大きなフロックに成長させたうえで、沈澱池において、フロックを沈降分離させる必要がある。沈澱池で分離可能なフロックを形成するためには、フロックの沈降速度が重要な指標となるが、沈澱池では水平流だけでなく上下方向の対流が発生しており、沈澱池におけるフロックの沈降速度を直接測定するのは困難である。
【0008】
剛体粒子を用いた実験結果に基づいて作成されたストークスの沈降速度式を応用して、フロックの沈降速度を表した数式も提案されているが、球形形状と抗力係数を仮定しているのに対し、フロックは剛体粒子と異なり網目構造を有するため、正確なフロックの沈降速度を演算することが難しかった。
【0009】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、水質変動に対する適切なフロックの凝集条件を設定する凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態による凝集剤注入装置は、浄水施設における被処理水中のフロックを撮影した画像に基づいて、前記フロックの大きさを表す値と形状値とを算出する画像解析部と、前記フロックの大きさを表す値と前記形状値とを用いて、前記フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抵抗係数と、前記フロックと周囲の流体との密度差である有効密度とを演算し、前記抵抗係数と前記有効密度とを用いて前記被処理水中の前記フロックに掛かる重力と浮力と抗力との力のつり合いの関係に基づいて沈降速度推定値を演算する沈降速度演算部と、前記沈降速度推定値に基づいて凝集条件を調整する凝集条件調整部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態の凝集剤注入装置が適用された浄水施設の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図2図2は、一実施形態の凝集剤注入装置の一構成例を概略的に示す図である。
図3図3は、図2に示す凝集剤注入装置の凝集物撮影部の一構成例を概略的に示す図である。
図4図4は、一実施形態の凝集剤注入装置の画像解析部における前処理前の画像と前処理後の画像との一例を示す図である。
図5図5は、粒子の形状値の一例を説明するための図である。
図6図6は、一実施形態の凝集剤注入方法の一例について説明するためのフローチャートである。
図7図7は、フロックの円相当径に対する沈降速度について、測定値と第1実施形態の凝集剤注入装置により演算された値との一例を示す図である。
図8図8は、フロックの沈降速度について、測定値と第1実施形態の凝集剤注入装置により演算された値との偏差の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の凝集剤注入装置が適用された浄水施設の一構成例を概略的に示すブロック図である。
【0013】
浄水施設は、例えば、着水井1と、混和池2と、フロック形成池3と、沈澱池4と、ろ過池5と、配水池6と、pH調整剤注入機12と、凝集剤注入機13と、撹拌機14と、流量計15と、原水濁度計16と、pH計17と、沈澱水濁度計18と、ろ過水濁度計19と、を備えている。
【0014】
着水井1は、水源から取水した原水を一時的に貯留する。原水には粘土やプランクトンなどから構成される懸濁物質が含まれており、後段の凝集沈殿処理によって清澄水と沈降汚泥に分離処理される。着水井1では、硫酸、塩酸などの酸や炭酸ガス、苛性ソーダや消石灰などの塩基(pH調整剤)が注入され、後段の混和池2において注入される凝集剤に対して、処理水のpH域が適切な範囲となるように処理水のpH調整がなされる。
【0015】
混和池2では凝集剤注入機13から凝集剤が注入されるとともに、撹拌機14により被処理水に凝集剤が撹拌混合されて、処理水中の懸濁物質が凝集する。混和池2から排出された被処理水はフロック形成池3へ送水される。なお、混和池2において形成されるフロックの性質は、凝集剤注入率、pHなどの水質条件に加え、撹拌機14による撹拌強度や、混和池2における処理水の滞留時間などの物理条件の影響を受ける。
【0016】
フロック形成池3では、撹拌機14によって被処理水にゆっくりとした撹拌を与えることでフロック同士の衝突合一を促し、さらに大きいフロックへと集塊化される。フロック形成池3から排出された被処理水は沈澱池4へ送水される。フロック形成池3は、通常、プロセスの後段にいくにしたがって、撹拌機器の回転数が小さくなるように、インバーターで調節したり、減速機によって回転数を調整したりできるように設計される。
【0017】
沈澱池4では、フロック形成池3で大きく成長したフロックが重力によって沈降分離される。フロックの性質や、沈澱池4における被処理水の滞留時間の関係で、沈降しなかったフロックはろ過池5へと流出する。
【0018】
ろ過池5は、沈澱池4で固液分離しきれなかった被処理水中に残存する微粒子を、砂やガーネット、アンスラサイトなどのろ材によってろ過(吸着処理)する。ろ過池5でろ過され清澄になった処理水は配水池6に貯留され、塩素を添加された後に配水される。
【0019】
流量計15、原水濁度計16およびpH計17は、着水井1と混和池2との間の流路に設置されている。沈澱水濁度計18は、沈澱池4の出口に設置されている。ろ過水濁度計19は、ろ過池5の出口に設置されている。流量計15で測定された原水流量、原水濁度計16で測定された原水濁度、およびpH計17で測定された原水pHなどの原水の水質情報と、沈澱水濁度計18で測定された沈澱池出口濁度およびろ過水濁度計19で測定されたろ過池出口濁度などの凝集沈澱処理後の水質情報とは、後述する凝集条件調整部11に供給される。
【0020】
凝集剤注入機13は、凝集条件調整部11において演算された凝集剤注入率に従って、混和池2に凝集剤を注入する。凝集剤注入機13は、例えば、凝集剤を注入するためのポンプを備え、インバーターや凝集剤を注入するバルブの開度によって、凝集剤注入率を調整できる。凝集剤は、水中の凝集対象の物質を荷電中和してファンデルワールス力によって接触しやすい状態とし、さらに架橋作用によって微細なフロックを集め、大きな粒子へと成長させる。処理対象である原水中の懸濁物質の量に対して、凝集剤注入率を適切に調整する必要がある。
【0021】
撹拌機14は、凝集条件調整部11で演算された撹拌強度に基づいて、混和池2とフロック形成池3とにおける撹拌機14の回転数や駆動力を調整する。撹拌機14は、混和池2においては凝集剤と原水を急速に撹拌混合し、微細なフロックを形成するものであり、フラッシュミキサーやハドル型撹拌機などが想定され、インバーターを搭載して回転数を調整し、撹拌強度を調整できるものとする。フロック形成池3における撹拌機14は、混和池2から流入する微細なフロックを緩やかな流れにおいて衝突合一させ、さらに大きな粒径のフロックへ成長させる。フロック形成池3の撹拌機14は、フロキュレーターなどの緩い回転流を与えてフロックを成長させる撹拌機や、迂流のように屈曲部のある構造物に水を流し、直線部と、屈曲部で得られる流れの反転の作用によってフロックを大きく成長するものであってもよい。
【0022】
pH調整剤注入機12は、凝集条件調整部11で演算されたpH目標値に従って、着水井1と混和池2とpH調整剤を注入する。pH調整剤注入機12は、例えば薬品を注入するためのポンプを備え、インバーターや凝集剤を注入するバルブの開度によって、pH調整剤注入率を調整できる。凝集剤の電荷の状態から凝集を促進しやすいpH域があるため、被処理水を適切なpH域に調整する必要がある。
【0023】
凝集剤注入装置は、少なくとも一つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリとを備え、ソフトウエアにより若しくはソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより、以下に説明する種々の機能を実現することができる。
【0024】
凝集剤注入装置は、凝集物撮影部7と、画像解析部8と、形状補正部9と、沈降速度演算部10と、凝集条件調整部11と、を備えている。
凝集物撮影部7は、混和池2およびフロック形成池3から採取された処理水中のフロックの画像を撮影する。凝集物撮影部7は、撮影されたフロックの画像のデータを画像解析部8へ送信する。
【0025】
画像解析部8は、凝集物撮影部7から受信した画像データを用いた画像解析により、フロックの大きさや形状値を取得する。画像解析部8は、画像解析の結果得られたフロックの大きさや形状値を形状補正部9と沈降速度演算部10とへ送信する。
【0026】
形状補正部9は、画像解析部8から受信したフロックの大きさや形状値を用いて、補正済粒径と補正済形状値(例えば補正済投影面積)を演算する。形状補正部9は、フロックの大きさや形状値と、演算した補正済粒径の値と補正済形状値とを沈降速度演算部10へ送信する。フロックの大きさ(粒径)や形状値を補正する必要がない場合には、形状補正部9は省略されても構わない。
【0027】
沈降速度演算部10では、フロックの大きさ(若しくは補正済粒径の値)と形状値(若しくは補正済形状値)とを用いて、フロックの沈降速度の推定値を演算する。沈降速度演算部10で演算された沈降速度の推定値は、凝集条件調整部11に伝送される。なお、沈降速度演算部10は、形状補正部9で演算された補正済のフロックの大きさと形状値とを用いて沈降速度の推定値を演算してもよく、画像解析部8から受信したフロックの大きさや形状値を用いて沈降速度の推定値を演算してもよい。沈降速度演算部10は、演算した沈降速度の値を凝集条件調整部11へ送信する。
【0028】
凝集条件調整部11は、沈降速度演算部10で演算された沈降速度を用いて、混和池2における凝集剤注入率、混和池2とフロック形成池とにおける撹拌強度、着水井1あるいは混和池2で注入されるpH調整剤の目標値となるpHを演算する。なお、凝集条件調整部11では、沈降速度演算部10で演算された沈降速度の推定値に加え、流量計15で測定された原水流量や、原水濁度計16で測定された原水濁度や、pH計17で測定された原水pHなどの原水の水質情報と、沈澱水濁度計18で測定された沈澱池出口濁度や、ろ過水濁度計19で測定されたろ過池出口濁度などの凝集沈澱処理後の水質情報を演算に使用することができる。
【0029】
図2は、一実施形態の凝集剤注入装置の一構成例を概略的に示す図である。
図3は、図2に示す凝集剤注入装置の凝集物撮影部の一構成例を概略的に示す図である。
凝集物撮影部7は、イメージセンサ71と、レンズ72と、光源73と、水槽74と、を備えている。
【0030】
水槽74は、レンズ72と光源73との間に配置され、フロックを含む被処理水を収容する。本実施形態では水槽74は、透明アクリル水槽である。測定対象となるフロックは、混和池2の出口付近、フロック形成池3との間の配管からの分岐、フロック形成池3の池のいずれかから水槽74に採取できる。採取の方法は、定積容量ポンプや、自然流下やサイフォンのようにフロックを壊さないで移送できる機構が望ましい。
【0031】
イメージセンサ71は画像素子で構成され、例えば高速カメラ、webカメラ、産業用のモニタリングカメラ、マシンビジョンカメラ、CCDカメラなどであり得る。イメージセンサ71は、HUBを介してパーソナルコンピュータ(PC)に接続され、撮影した画像データを出力することができる。イメージセンサ71により撮影された画像情報は、画像解析部8に伝送される。
【0032】
レンズ72は、イメージセンサ71と測定対象のフロックとの間に配置され、焦点位置や焦点深度を調整する。なお、奥行方向のフロックの重なりを軽減するため、イメージセンサ71とレンズ72との間にリングを挟み、被写界深度を調整してもよい。
【0033】
光源73は、イメージセンサ71により測定対象のフロックを撮影可能な明るさとなるように水槽74内のフロックを照明する。光源73は、例えばLED光源やハロゲンランプ、蛍光ランプなどの光源73や、光ファイバーなどの発光部を有するものなど、照度を増加できるものであれば良く、測定対象の粒子濃度や色彩に応じて波長や照度を選定、調整できるものが望ましい。光源73の形状は、例えば複数の点光源を線状に並べた光源であってもよく、平面状の面光源であってもよく、必要に応じて拡散板を併用して照度を均一化し、照射範囲を大きくしてもよい。
【0034】
画像解析部8は、画像前処理部81と、粒径演算部82と、形状値演算部83とを備えている。
画像前処理部81は、凝集物撮影部7から取得した画像データを用いて、画像形式の返還、解析範囲の設定、二値化、ノイズ除去などの前処理を行う。
【0035】
図4は、一実施形態の凝集剤注入装置の画像解析部における前処理前の画像と前処理後の画像との一例を示す図である。
画像P1は、凝集物撮影部7でのフロックの撮影画像であり、画像P2は画像P1を二値化した画像である。画像P2中の縦線は、フロックの軌跡を表している。
【0036】
粒径演算部82は、前処理後の画像P2を用いて、少なくとも一つのフロックの粒径を演算する。フロックの粒径はフロックの大きさを示す値である。粒径演算部82は、フロック1粒あたりの粒径を演算してもよく、累積頻度分布90%、50%などの代表粒径を演算してもよく、複数のフロック(粒子)の粒径情報からなる粒径分布を演算してもよい。複数のフロックの粒径情報を用いる場合は、中心粒径(累積頻度分布50%径)の他に、平均粒径、最頻値、上下限値などの値を、フロックの大きさを示す値(例えば代表粒径)として用いることができる。
【0037】
形状値演算部83は、前処理後の画像P2を用いて、少なくとも一つのフロックの形状値を演算する。フロックの形状値は、フロックの円相当径、投影面積、周囲長、包絡周囲長、長径、短径、外接矩形長径、外接矩形短径、円形度、アスペクト比、凹凸度(包絡度)、フェレー径、楕円相当径(長径、短径)の少なくともいずれかを含み得る。
【0038】
図5は、粒子の形状値の一例を説明するための図である。
フロックの投影面積は、前処理後の画像P2におけるフロックの面積である。フロックの円相当径はフロックの投影面積と同じ面積の円の直径である。フロックの周囲長は、前処理後の画像P2におけるフロックの外周(エッジ)の長さである。フロックの包絡周囲長は、画像P2においてフロックを凸型に直線で囲んだ包絡線の長さである。外接矩形長径は、画像P2においてフロックに外接する矩形の長辺の長さである。外接矩形短径は、画像P2においてフロックに外接する矩形の短辺の長さである。
【0039】
フロックの円形度は、図形の複雑さを表すための数値の一つであって、最大値が1であり図形が複雑になるほど数値が小さくなる。円形度は、4π×フロックの投影面積/周囲長により算出される。フロックのアスペクト比はフロックの長径と短径との比であり、フロックの長径/フロックの短径により算出される。フロックの凹凸度(包絡度)は、フロックの包絡周囲長と周囲長との比であり、フロックの包絡周囲長/フロックの周囲長により算出される。フロックのフェレー径は、画像P2におけるフロックに外接する長方形の縦の長さ(垂直フェレー径)と横の長さ(水平フェレー径)である。フロックの楕円相当径はフロックの投影面積と同じ面積の楕円の長径および短径である。
なお、上記形状値はフロックの形状を表す値の一例であって、これらの値を組み合わせた値を用いてもよく、上記以外の他の値を形状値として用いても構わない。
【0040】
粒径演算部82で演算された粒径の値と、形状値演算部83で演算された形状値とは、形状補正部9および沈降速度演算部10に送信される。また、画像解析部8によって得られたフロックの投影面積、粒径、形状値は、後述する凝集条件調整部11に伝送され、凝集条件の調整に使用されてもよい。
【0041】
形状補正部9は、フロックの形状値を用いて、フロックの粒径や投影面積を補正し、補正済粒径を算出する。形状補正部9は、例えば下記式1のように、形状値と粒径との積算や除算等によって補正を行う。
【0042】
【数1】
d:粒径 d´:補正済粒径 A:投影面積 A´:補正済投影面積
ε、σ:形状値 αi(i=1,2,3,4)、βj(j=1,2):定数
形状補正部9は、補正済粒径と補正済投影面積との値を沈降速度演算部10へ送信する。
【0043】
沈降速度演算部10は、有効密度演算部101と、抗力係数演算部102と、沈降速度演算部103とを備えている。
有効密度演算部101は、下記式2より、フロックと周囲の流体(水)との密度差である有効密度Δρ(kg/m)を算出する。
Δρ=(ρ-ρ)=18μν/gd…(式2)
Δρ:有効密度(kg/m) ρ:フロックの密度(kg/m
ρ:水の密度(1.00kg/m) g:重力加速度(980cm/s
μ:水の粘性係数(0.01005g/cm・s,20℃)
ν:水の動粘性係数(0.01007cm/s,20℃)
【0044】
抗力係数演算部102は、下記式3により、フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抵抗係数を演算する。なお、下記式3においてレイノルズ数Reは下記式4により演算される。
Cd=24/Re…(式3)
Cd:抗力係数(-) Re: レイノルズ数(-)
Re=ν/vd …(式4)
ν:動粘性係数(m/s) v:沈降速度(m/s) d:代表径(m)
抗力係数演算部102は、上記式4において、代表粒径dに代えて補正済粒径d´を用いてもよい。
【0045】
沈降速度演算部103は、有効密度Δρと抵抗係数Cdとの値を用いて、水中の粒子(被処理水中のフロック)に掛かる重力と浮力と抗力との力のつり合い((重力)=(浮力)+(抗力))の関係に基づく下記式5よりフロックの沈降速度の推定値vを演算する。
【数2】
g:重力加速度(9.8m/s) V:粒子体積(m) A:投影面積(m
ρ:周囲の流体の密度(kg/m
【0046】
粒子体積V(m)と投影面積A(m)とは、画像解析部8で演算されたフロックの大きさの値と形状値、若しくは、画像解析部8で演算されたフロックの大きさの値と形状値とを用いて算出された値である。なお、沈降速度演算部103は、上記式5において、投影面積Aに代えて補正済投影面積A´を用いてもよい。上記式1-5において、粒子の体積、投影面積、代表径等の粒子の大きさを表す値として形状値で補正済の値を用いることで、フロックの形状値を反映した沈降速度を得ることができる。
【0047】
沈降速度演算部103は、フロック1粒あたりの沈降速度を演算してもよく、複数のフロックの沈降速度の累積頻度分布において90%の沈降速度、50%の沈降速度などの代表沈降速度を演算してもよく、沈降速度分布および沈降速度分布における平均値、最頻値、上限値、下限値などであってもよい。
【0048】
凝集条件調整部11は、凝集剤注入率調整部111と、撹拌強度調整部112と、pH調整部113とを備えている。
凝集条件調整部11は、例えば、沈降速度演算部10で演算された沈降速度の値(沈降速度推定値)が、沈降速度の目標値よりも小さい場合、凝集剤注入率、あるいは混和池撹拌強度、あるいはフロック形成池撹拌強度、pH目標値を増減して、沈降速度の目標値が達成されるように調整する。沈降速度の目標値は、例えば、フロックの沈降速度が沈澱池4での分離限界にあたる最小沈降速度を下回らないように設定される。
【0049】
具体的には、凝集条件調整部11は、沈降速度推定値が沈降速度の目標値よりも小さい場合、フロックの粒径と閾値とを比較した結果に応じて異なる対応を行う。
沈降速度推定値が沈降速度の目標値よりも小さく、かつ、フロックの粒径が閾値よりも小さい場合、凝集剤注入率の不足、撹拌強度過剰、若しくは、pH目標値が低い状態である。したがって、凝集条件調整部11は、凝集剤注入率調整部111により凝集剤注入率を増加、撹拌強度調整部112により撹拌強度を低下、および、pH調整部113によるpH目標値の上昇、の少なくともいずれかの対応をとる。
【0050】
沈降速度推定値が沈降速度の目標値よりも小さく、かつ、フロックの粒径が閾値以上である場合、凝集剤注入率の過剰、撹拌強度不足、若しくは、pH目標値が高い状態である。したがって、凝集条件調整部11は、凝集剤注入率調整部111により凝集剤注入率を低下、撹拌強度調整部112により撹拌強度を増加、および、pH調整部113によるpH目標値の低下、の少なくともいずれかの対応をとる。
【0051】
なお、沈降速度推定値が沈降速度目標値を達成している(目標値よりも大きい)場合は、凝集条件は適切であるとし、凝集条件調整部11により凝集剤注入率等の調整を行わなくてもよい。凝集条件調整部11において沈降速度の目標値に上限を設けて、沈降速度推定値が目標の範囲内に収まることを確認しながら、凝集剤注入率等を微減し、薬品のコスト削減や消費電力の削減を図ってもよい。
【0052】
また、凝集剤注入率調整部111は、投影面積、粒径、形状値などの項目に対して、予め凝集に適している値の範囲を有していてもよく、各項目が適切な範囲内の値となるように、凝集剤注入率、撹拌強度およびpHを調整してもよい。本実施形態ではフロックの撮影画像を定量化できるため、画像から受ける印象や感覚の違いによらず、凝集条件を調整することができる。また、画像解析から得られた投影面積、粒径、形状値などの項目に対応する凝集剤注入率、撹拌強度およびpHの実績値を蓄積することにより、現在の運転状況と過去の運転実績との比較が容易になる。
【0053】
また、凝集物撮影部7で撮影されたフロックの撮影画像に基づき、大きさや形状から凝集条件の適不適を運転員が判断し、適不適の情報を凝集条件調整部11にGUI等を用いて入力可能としてもよい。運転員により凝集条件が適切であると判断された場合には、凝集条件調整部11は凝集条件を変更せず、運転員により凝集条件が不適切であると判断された場合には、凝集条件調整部11は凝集条件を変更する。例えば、運転員によりフロックの大きさが「大きすぎる」と判断された場合であれば、凝集条件調整部11は凝集剤注入率を減少させる、あるいはpH目標値を低下させる、あるいは撹拌強度を大きくするなどの関係を予め凝集条件調整部11に設定しておく。逆に、運転員によりフロックの大きさが「小さすぎる」と判断された場合であれば、凝集剤注入率を増加する、あるいはpH目標値を上昇させる、あるいは撹拌強度を小さくするなどの関係が予め凝集条件調整部11に設定される。
【0054】
画像撮影されたフロックを運転員が確認するプロセスを経ることで、運転員の判断を介入させることが可能となり、凝集条件を調整する運転員の負荷を軽減しつつもこれまでの実績に沿った運転管理を行うことができる。また画像として運転情報を記録することができ、運転管理に活用することができる。
【0055】
次に、一実施形態の凝集剤注入方法の一例について説明する。
図6は、一実施形態の凝集剤注入方法の一例について説明するためのフローチャートである。
画像解析部8は、凝集物撮影部7で撮影された画像情報を取得すると、取得した画像情報のデータを用いて、画像形式の変換や解析範囲の設定、二値化、ノイズ除去などの前処理を行う(ステップS1)。
【0056】
続いて、画像解析部8は、例えば、前処理後の画像におけるフロックの領域やエッジのピクセル数から投影面積と形状値とを測定する。続いて、画像解析部8は、得られた投影面積や形状値に基づいて、フロックの粒径を演算するとともに(ステップS2)、種々の形状値の少なくとも一つを演算する(ステップS3)。
【0057】
画像解析の結果、得られた粒径や形状値などの解析値は、形状補正部9により粒径を形状値で補正する等、形状値を反映した値に補正処理される(ステップS4)。
【0058】
補正済粒径および補正済形状値は、沈降速度演算部10に供給される。沈降速度演算部10は、補正済粒径および補正済形状値を用いて、フロックと周囲の流体の密度差である有効密度Δρを演算するとともに(ステップS5)、フロックが沈降する時にかかる上向きの力である抗力を決める抗力係数Cdを演算する(ステップS6)。
【0059】
沈降速度演算部10は、補正済粒径、有効密度Δρ、抗力係数Cdを用いて、フロックの沈降速度の推定値を算出する(ステップS7)。
【0060】
なお、凝集条件によってはフロックが球形に近い場合もあるため、形状値による粒径等の補正を介さず、ステップS2で演算された粒径を用いてステップS5で有効密度Δρを演算してもよく、ステップS2で演算された粒径を用いてステップS6で抗力係数Cdを演算してもよい。
【0061】
凝集条件調整部11は、沈降速度演算部10で演算された沈降速度が、沈澱池4での分離限界にあたる最小沈降速度よりも小さい場合、凝集剤注入機13による凝集剤注入率あるいは撹拌機14の回転数による撹拌強度、pH調整剤注入機12によるpH調整を行い、沈降速度の目標値が達成されるように凝集条件を調整する。
【0062】
次に、本実施形態の凝集剤注入装置および凝集剤注入方法による試験結果の一例について説明する。
本試験では、凝集物撮影部7の水槽74として、外寸17cm×40cm×35cm、厚さ1cmの透明アクリル水槽を用いた。撮影機材は、高さ調整用のジャッキの上に小型CCDカメラを置き、水槽の外側から水中を撮影した。レンズは、8μm以上2cm以下の粒子を撮影できるものを選定した。奥行方向のフロックの重なりを軽減するため、カメラとレンズの間にはリングを挟み、被写界深度が3mmになるように調整した。光源は面光源とし、撮影対象の背後から照射するバックライト方式とした。カメラによる撮影画像は、パソコンに出力および記録した。
【0063】
撮影対象は、河川水の懸濁粒子を模擬したカオリンを水道水中に分散させた模擬水と、ポリ塩化アルミニウム(PACl)で凝集させたフロックとした。フロックの凝集条件は、カオリン100mg/Lに対してPACl注入率は50mg/L、急速撹拌は150rpmで1分、緩速撹拌は50rpmで5分とした。なお上記PACl注入率は、ジャーテストによる予備試験において、フロックの沈降性や上澄み水の清澄性から適切と判断した値とした。フロックは、初速度を持たないように、静止水面に滴下して沈降させた。
【0064】
図7は、フロックの円相当径に対する沈降速度について、測定値と第1実施形態の凝集剤注入装置により演算された値との一例を示す図である。
ここでは、上記試験と同様の条件で測定したフロックの円相当径d(cm)に対する沈降速度の測定値v_me(cm/s)と、本実施形態の凝集剤注入装置により演算された円相当径d(cm)に対する沈降速度推定値v1(cm/s)、v2(cm/s)とを示している。
【0065】
沈降速度推定値v1は、沈降速度演算部10が画像解析部8により算出されたフロックの粒径と形状値とを用いて演算した沈降速度推定値である。沈降速度推定値v2は、沈降速度演算部10が形状補正部9により補正された補正済粒径と補正済投影面積とを用いて演算した沈降速度推定値である。形状補正部9は、例えば円相当径を円形度で補正した値とする補正を行っている。
【0066】
沈降速度推定値v1は、粒径dが0.1cmよりも大きい粒子に対しては、測定値との差異が小さい値となった。沈降速度推定値v2は、フロックが球形であることを仮定した沈降速度推定値v1よりも全般的に小さく算出され、測定値に近い結果が得られた。
【0067】
図8は、フロックの沈降速度について、測定値と第1実施形態の凝集剤注入装置により演算された値との偏差の一例を示す図である。
ここでは、下記式6を用いて、フロックの沈降速度の測定値v_meと、第1実施形態の凝集剤注入装置により演算された沈降速度推定値v1、v2との偏差e1、e2を算出した結果を、粒子の円相当径の範囲毎に比較している。
e=Σ(v_me-vi)…(式6)
i=1~n
v_me:沈降速度の測定値(cm/s)
【0068】
図8では、第一縦軸は範囲ごとの偏差の平均値、第二縦軸は円相当径の範囲に存在する粒子のカウント数を示す。フロックの円相当径が小さいと、沈降速度も小さい傾向にあり、偏差も小さい値となることから、円相当径の範囲ごとに偏差e1、e2の比較を行った。この結果から、円相当径が0.1~0.2cmの粒子に対して、沈降速度推定値v2は沈降速度推定値v1よりも測定値v_meに近い計算結果であった。一方で、円相当径が0~0.05cmの微小な粒子や、円相当径が0.2~0.3cmの大きな粒子に対しては、沈降速度推定値v1と沈降速度推定値とで測定値v_meとの偏差に大きな差が無かった。
【0069】
上記のように、本実施形態では、分離対象であるフロックを撮影した画像を画像解析し、フロックの大きさや形状を表す値といった物理情報から、フロックの沈降速度の推定値を精度よく算出することができる。
【0070】
また、本実施形態では、フロックの大きさに関する粒径、投影面積、体積を形状値によって補正することにより、フロックの形状や大きさの影響を沈降速度推定値の演算に反映することができ、沈降速度をより精度良く推定することができる。沈降速度の推定精度が向上すると、凝集条件をより適切に設定でき、凝集剤注入率や汚泥処分費などの処理コストの適正化と処理水水質の維持につながる。
【0071】
したがって、本実施形態によれば、浄水施設における凝集条件を適切に調整し、処理水質の担保と、凝集剤、pH調整剤、撹拌に伴う電力コスト、汚泥処分費の削減を実現することができる。
【0072】
また、フロックの性状や沈降速度は、凝集剤注入率やpH、撹拌強度といった凝集条件の影響を受けるが、浄水場の混和池、フロック形成池のフロックを撮影し、画像解析の結果から沈降速度を推定するため、沈澱池出口よりも早い段階で凝集条件の適不適を判断することができる。さらに、原水の水質変動に対して、凝集条件を迅速に調整できることからも、凝集剤注入率やpH調整注入率、撹拌強度を適正化でき、薬剤費や電力コストなどの処理コストを低減することができる。
【0073】
すなわち、本実施形態によれば、水質変動に対する適切なフロックの凝集条件を設定する凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【0074】
次に、第2実施形態の凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムについて説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
本実施形態の凝集剤注入装置は、凝集条件調整部11において、沈澱池4への流入流量(m/h)と沈澱池4の底面積(m)とを用いて、沈降速度の下限値Vmin(m/s)を設定する点において上述の第1実施形態と異なっている。
【0076】
沈澱池4の土木設計値と流入する水の流量とから、沈澱池4における滞留時間が求まる。本実施形態では、凝集条件調整部11は、沈澱池4で分離可能な沈降速度の下限値Vmin(m/s)を下記式7により演算する。
Vmin=Q/Ased …(式7)
Q:沈澱池への流入流量(m/h) Ased:沈澱池の底面積(m
【0077】
凝集条件調整部11は、沈降速度演算部10において演算された沈降速度推定値が、下限値Vminよりも大きい場合、凝集条件が適しており、沈降速度推定値が下限値Vminよりも小さい場合、沈澱池4からフロックが流出する恐れがあると判断し、凝集条件を調整する。沈降速度が下限値Vminよりも小さい場合はフロックを大きくする必要があるため、凝集条件調整部11は、凝集剤注入率を増加するなどの調整を行う。
【0078】
ここで、流量計15の測定値である原水流量は、間に分岐がなければ沈澱池4への流入流量と考えられる。沈澱池4への流入流量が変化すると、滞留時間が変化し、分離可能な沈降速度も変化する。凝集条件調整部11は、流量計15で測定された値を用いることにより、上記式7における沈降速度の下限値Vminをリアルタイムに算出することができる。
【0079】
なお、原水濁度計16の測定値である原水濁度は、混和池2における凝集剤の必要量と関連する。原水濁度が高いと、懸濁物質の粒子数が多く、凝集後に形成されるフロックの個数も多くなる。そこで、凝集条件調整部11は、原水濁度計16で測定された原水濁度が高い場合には凝集剤注入率を増やしておき、沈降速度推定値を指標に凝集剤注入率の微調整を行ってもよい。逆に、原水濁度計16で測定された原水濁度が低い場合は凝集剤の必要量も少なくなるため、凝集条件調整部11は、凝集剤注入率を削減しておき、沈降速度推定値を指標に凝集剤注入率の微調整を行ってもよい。
【0080】
また、pH計17で測定される原水pHは、着水井1においてpH調整剤注入機12によるpH調整のフィードバック制御に使用してもよい。凝集条件調整部11は、pH目標値と原水pHとの差分に応じ、pH調整剤注入機12によるpH調整剤の注入率を調整することができる。
【0081】
沈澱水濁度計18で測定される沈澱池出口濁度は、沈澱池4で沈降分離されずに流出したフロックを含む水の濁度を計測する。この沈澱池出口濁度は、沈降速度演算部10で推定した沈降速度が適切であったかと、凝集条件調整部11で調整した凝集条件が適切であったかの確認のために使用することができる。沈澱池出口濁度が、運用上の運転管理値を超過した場合、凝集条件は不適切であるため、凝集条件調整部11において、凝集条件を再調整する。
【0082】
ろ過水濁度計19で測定されるろ過池出口濁度は、沈澱池出口濁度と同様に、運用上の運転管理値として用いられている。ろ過池出口濁度が運転管理値を超過した場合は、沈澱水出口濁度が運転管理値を超過しているか否かで分けられる。沈澱池出口濁度は運転管理値内にあって、ろ過池出口濁度が運転管理値を超過している時は、吸着ろ過の過程でろ過池が閉塞して、ろ過抵抗が上昇している状態であり、ろ過池洗浄のタイミングである。この場合は、沈澱池出口濁度が運転管理値を超過したことがろ過池洗浄のトリガとなり、ろ過池洗浄の動作に入るタイミングを知ることができる。
【0083】
例えば、沈澱池出口濁度とろ過池出口濁度との両方が、運転管理値を超過した場合は、沈澱池4での沈降分離が適切でなく、ろ過池5の処理負荷が増大していることを示すため、凝集条件調整部11で再度凝集条件を調整する。
【0084】
本実施形態の凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムは、上記以外は上述の第1実施形態と同様の構成である。本実施形態によれば、原水の水質情報と、沈澱池4で処理した後の水質情報を凝集条件の調整に用いることで、凝集剤注入装置は凝集条件の変更タイミングを計ることができ、原水水質の変動に対して、適切に凝集条件を調整することができる。
【0085】
すなわち、本実施形態によれば、上述の第1実施形態と同様に、水質変動に対する適切なフロックの凝集条件を設定する凝集剤注入装置、凝集剤注入方法およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【0086】
本実施形態に係るプログラムは、電子機器に記憶された状態で譲渡されてよいし、電子機器に記憶されていない状態で譲渡されてもよい。後者の場合は、プログラムは、ネットワークを介して譲渡されてよいし、記憶媒体に記憶された状態で譲渡されてもよい。記憶媒体は、非一時的な有形の媒体である。記憶媒体は、コンピュータ可読媒体である。記憶媒体は、CD-ROM、メモリカード等のプログラムを記憶可能かつコンピュータで読取可能な媒体であればよく、その形態は問わない。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…着水井、2…混和池、3…フロック形成池、4…沈澱池、5…ろ過池、6…配水池、7…凝集物撮影部、8…画像解析部、9…形状補正部、10…沈降速度演算部、11…凝集条件調整部、12…pH調整剤注入機、13…凝集剤注入機、14…撹拌機、15…流量計、16…原水濁度計、17…pH計、18…沈澱水濁度計、18…沈澱水濁度計、19…過水濁度計、71…イメージセンサ、72…レンズ、73…光源、74…水槽、81…画像前処理部、82…粒径演算部、83…形状値演算部、101…有効密度演算部、102…抗力係数演算部、103…沈降速度演算部、111…凝集剤注入率調整部、112…撹拌強度調整部、113…pH調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8