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特開2024-5341シール部品の状態監視方法、そのプログラムおよび状態監視装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005341
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】シール部品の状態監視方法、そのプログラムおよび状態監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/26 20060101AFI20240110BHJP
   F15B 20/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01M3/26 M
F15B20/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105491
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】永野 晃広
(72)【発明者】
【氏名】山下 純一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
【テーマコード(参考)】
2G067
3H082
【Fターム(参考)】
2G067AA21
2G067DD02
3H082AA02
3H082CC02
3H082DA10
(57)【要約】
【課題】液圧機器に設置したシール部品による封止状態を予測判定して、その情報をユーザーに提示することで、適切なタイミングでのメンテナンスを可能にする。
【解決手段】液圧機器(4)に設置されたシール部品(16、18、20)の状態監視方法(状態監視装置8)であって、液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品(16)および下流側に配置された第2のシール部品(18)で封止される封止領域(22)内の圧力値を取得する工程と、圧力値の検出状態情報により、封止領域内の封止状態を判定する工程(状態判定部40)と、この封止状態の判定結果に基づいて、第1のシール部品および第2のシール部品の状態を判定する工程と、第1のシール部品および第2のシール部品の状態判定結果に基づく状態監視情報を生成する工程(監視情報生成部42)とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧機器に設置されたシール部品の状態監視方法であって、
前記液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を取得する工程と、
前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定する工程と、
この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定する工程と、
前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態判定結果に基づく状態監視情報を生成する工程と、
を含むことを特徴とするシール部品の状態監視方法。
【請求項2】
前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比する工程と、
前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、前記状態監視情報に該メンテナンス情報を設定する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のシール部品の状態監視方法。
【請求項3】
さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行う工程と、
この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のシール部品の状態監視方法。
【請求項4】
コンピュータにより実現するプログラムであって、
液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を取得する機能と、
前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定する機能と、
この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定する機能と、
前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態判定結果に基づく状態監視情報を生成する機能と、
を前記コンピュータにより実現するためのシール部品の状態監視プログラム。
【請求項5】
前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比する機能と、
前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、前記状態監視情報に該メンテナンス情報を設定する機能と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載のシール部品の状態監視プログラム。
【請求項6】
さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行う機能と、
この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成する機能と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載のシール部品の状態監視プログラム。
【請求項7】
液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を検出装置から取得する圧力情報収集手段と、
前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定するとともに、この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定して、状態監視情報を生成する処理部と、
を備えることを特徴とするシール部品の状態監視装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比し、前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、状態監視画面に該メンテナンス情報を設定することを特徴とする請求項7に記載のシール部品の状態監視装置。
【請求項9】
前記処理部は、さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行い、この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成することを特徴とする請求項7に記載のシール部品の状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、液圧機器の稼働部分に設置されたシール部品の状態を監視し、交換処理などの時期を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、油圧シリンダなど液圧を利用してピストンを所定方向に作動させる圧液機器は、シリンダチューブ内においてピストンロッドとシリンダケースとの隙間に複数のパッキンなどのシール部品を配置することで、作動液の漏出を防止している。斯かる作動液の漏出は、液圧機器が設定通り動作できなくなるほか、十分な力を維持できなくなるため、たとえば搬送する資材の重さに耐えられなくなることで、作業への影響や安全性が確保できなくなるなどの影響を与えるおそれがある。
従来、斯かる液圧機器には、漏出状態を監視し、漏出が検出された場合にはアラート情報を通知して、パッキンの交換、その他補修処理を実行させるものがある。
【0003】
このような漏出監視技術として、シリンダチューブ内にある検出空間の作動流体の圧力を検出し、検出した圧力変動によるパラメータに基づいて作動液が漏れていることを判定するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-194484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液圧機器内に設置されたシール部品により封止された部分の圧力値を計測し、その圧力値の変化をもってシール部品から作動液の漏出状態を監視することを可能にしている。液圧機器では、シール部品が漏出状態となったときに動作を停止させてシール部品を交換させるメンテナンスを行うことになる。斯かるメンテナンスは、専門の業者などに依頼し、液圧機器の分解、シール部品の交換、組立てなどの作業が必要になり、液圧機器を利用した作業を復旧するまでに多大な時間を要することになる。そのため、液圧機器を利用した作業では、機器の使用中にシール部品が寿命となってシール性能が低下するのを回避する必要がある。
【0006】
しかしながら、圧力値の変動に基づいて作動液の漏出を監視する技術では、シール部品のメンテナンスまでの時期を事前に判断することや、現在のシール部品の状態に対してメンテナンスを行うか否かをユーザーに判断させるのが困難である。また、メンテナンスの時期判断として、液圧機器を利用した作業に対して予めメンテナンス処理を行わせるなど、本来のシール部品の性能が低下する前にメンテナンス情報の提示やメンテナンス指示を出せば、作業の中断回避や作業の安全率を高めることができるが、コスト高となるほか、作業負荷の増加など、液圧機器の利便性を損なうおそれがある。
また、従来、液圧機器内部を封止するシール部品の状態を把握し、作動液が漏出するタイミングを正確に予測するためには、複数のセンサーにより多くの情報を収集するなど、シール部品の状態を監視するための装置の高コスト化や予測処理が複雑化するなどの課題があった。
【0007】
斯かる課題に対し、本開示の技術の発明者は、シール部品で封止された領域内の圧力値の変動状態を示す情報が、シール部品の封止機能の状態予測、およびシール部品のメンテナンスタイミングを推定するための指標として利用できるとの知見を得た。
【0008】
斯かる課題について、特許文献1には開示も示唆もなく、また特許文献1に開示された構成では斯かる課題を解決することができない。
【0009】
そこで、本開示の技術の目的は、上記課題および上記知見に基づき、液圧機器に設置したシール部品による封止状態を予測判定して、その情報をユーザーに提示することで、適切なタイミングでのメンテナンスを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示のシール部品の状態監視方法の一側面は、液圧機器に設置されたシール部品の状態監視方法であって、前記液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を取得する工程と、前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定する工程と、この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定する工程と、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態判定結果に基づく状態監視情報を生成する工程とを含む。
【0011】
上記シール部品の状態監視方法において、前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比する工程と、前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、前記状態監視情報に該メンテナンス情報を設定する工程とを含む。
上記シール部品の状態監視方法において、さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行う工程と、この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成する工程とを含む。
【0012】
上記目的を達成するため、本開示のシール部品の状態監視プログラムの一側面は、コンピュータにより実現するプログラムであって、液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を取得する機能と、前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定する機能と、この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定する機能と、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態判定結果に基づく状態監視情報を生成する機能とを前記コンピュータにより実現する。
【0013】
上記シール部品の状態監視プログラムにおいて、前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比する機能と、前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、前記状態監視情報に該メンテナンス情報を設定する機能とを含む。
上記シール部品の状態監視プログラムにおいて、さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行う機能と、この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成する機能とを含む。
【0014】
上記目的を達成するため、本開示のシール部品の状態監視装置の一側面は、液圧機器の設定された作動方向に対し、上流側に配置された第1のシール部品および下流側に配置された第2のシール部品で封止される封止領域内の圧力値を検出装置から取得する圧力情報収集手段と、前記圧力値の検出状態情報により、前記封止領域内の封止状態を判定するとともに、この封止状態の判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品の状態を判定して、状態監視情報を生成する処理部とを備える。
【0015】
上記シール部品の状態監視装置において、前記処理部は、前記圧力値の検出状態情報と設定された閾値とを対比し、前記圧力値の検出状態情報が前記閾値を超えている場合、前記閾値に関係付けられたメンテナンス情報を読み出し、状態監視画面に該メンテナンス情報を設定する。
上記シール部品の状態監視装置において、前記処理部は、さらに、検出した圧力値の変動状態を監視し、前記圧力値の変動状態が設定条件に達したときに、前記封止領域内の封止状態の判定を行い、この判定結果に基づいて、前記第1のシール部品および前記第2のシール部品に対する状態監視情報を生成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のいずれかのような効果が得られる。
【0017】
(1) シール部品による封止領域で検出した圧力値の検出状態情報から、封止機能の状態や、封止しているシール部品がメンテナンス時期かなどの状況を推定することができる。
(2) 液圧機器の使用予定に対し、シール部品による封止機能の状態を推定することで、メンテナンス処理を行うか否かなど、液圧機器を利用した作業とメンテナンス時期とを計画的に設定でき、利便性が高められる。
(3) 少なくとも1のセンサーによる検出圧力値の変動から封止領域の状態やシール部品のメンテナンスタイミングを予測でき、液圧機器のシール部品の管理について、低コスト化や処理の単純化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】Aは第1の実施形態に係る状態監視システムの構成例を示しており、Bは状態判定部に形成される機能構成例を示す図である。
図2】状態監視システムの機能構成例を示している。
図3】Aはシール部品の一部を表す断面図であり、Bはシール部品が配置された液圧機器内部の構成例を示している。
図4】液圧機器内部における、シール部品の配置構成と、封止機能の状態例を示している。
図5】検出した圧力値の変動状態を示す図である。
図6】Aは閾値DBの一例を示しており、Bは監視処理DBの構成例を示している。
図7】状態情報画面を示す図である。
図8】状態監視処理を示すフローチャートである。
図9】第2の実施形態に係る状態監視装置の処理部の構成例を示している。
図10】検出した圧力値の遷移パターン例を示している。
図11】状態監視処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1の実施形態〕
図1は、第1の実施形態に係る状態監視システムの構成例を示している。図1に示す内容は一例であり、本開示の技術が斯かる内容に限定されない。
状態監視システム2は、液圧機器4に設置されたシール部品による封止状態を監視するとともに、シール部品の破断などによる封止状態が変化する時期を予測し、ユーザーに通知することで、液圧機器4を適切な状態で利用可能に維持させるシステムの一例である。この状態監視システム2には、たとえば図1Aに示すように、液圧機器4、液圧機器4内部の圧力値を測定する検出装置6、状態監視装置8を含む。
【0020】
液圧機器4は、封止状態の監視対象であって、油などの流体を作動液として流動させることで生じる圧力を利用し、アクチュエータを設定方向に動作させる機構、またはこの機構を備えた装置であり、たとえば油圧によって、アクチュエータを伸縮させる油圧シリンダ自体、または油圧シリンダを複数備えた建設機器などが含まれる。この液圧機器4は、たとえば筐体10に形成された開口部12内に、アクチュエータの一例である円筒状のシャフト14が挿入されており、このシャフト14が図示しないポンプなどによって圧送された作動液の圧力により、開口部12に沿って往復運動をする。筐体10には、開口部12に面した一部であって、シャフト14の周面の一部に接触または接近状態でシール部品16、18、20が設置されている。
【0021】
シール部品16、18、20は、液圧機器4の開口部12からシャフト14を通じて外部に作動液が漏出するのを阻止する手段である。このうちシール部品16は、本開示の第1のシール部品の一例であり、たとえばシャフト14の動作方向に対して開口部12の上流、すなわち筐体10の内部側に配置されている。シール部品18は、本開示の第2のシール部品の一例であり、たとえばシャフト14の動作方向に沿って、筐体10の外部側に配置されており、シール部品16を通過した作動液を遮断する手段である。シール部品20は、開口部12の下流側であり、筐体10の外装面に近い位置に配置されており、たとえばシール部品18を通過した作動液を遮断する機能のほか、主に外部から開口部12内に異物が侵入するのを阻止する、所謂ダストシール機能を備える。
【0022】
液圧機器4には、シャフト14の外周部と開口部12との間であって、シール部品16とシール部品18との間に封止領域22が形成されている。この封止領域22は、潤滑性を保つためにシャフト14の表面を通じて流れる微量な作動液や、シール部品16の劣化や破断により筐体10の内部から流出してくる作動液を滞留させる空間部である。この封止領域22には、たとえばシャフト14が開口部12に沿って往復運動すると、その動作方向に従って、作動液が筐体10の内部側から封止領域22側への流入と、封止領域22から筐体10の内部への排出が繰り返し生じる。このとき封止領域22には、作動液が流動する方向に対する作動圧が負荷される。
【0023】
さらに筐体10には、封止領域22に向けて一端側を連通させたセンシングホール24が形成されている。このセンシングホール24は、封止領域22に到達した作動液を貯める収納部の一例である。そしてセンシングホール24は、封止領域22と直接繋がっていることから、作動液の流入により生じる作動圧を受ける。このセンシングホール24は、開口部12側とは逆の他端側を検出装置6のセンサー30に接続している。
【0024】
検出装置6は、液圧機器4の封止領域22に作用する圧力値を検出する手段の一例であり、センサー30、データ回収部32、データ処理部34を備える。
センサー30は、センシングホール24に流入した作動液によって生じる作動圧を検出する手段の一例である。センサー30で検出した圧力値はデータ回収部32を通じてデータ処理部34に送信される。このデータ回収部32は、たとえばセンサー30で検出したデータをデータ処理部34側に中継送信するための通信機器である。
データ処理部34は、データ回収部32を通じて得た圧力値やその他識別情報などを処理して圧力情報を生成するデータ処理機能や、生成した圧力情報を外部の状態監視装置8側に送信し、または状態監視装置8に対してデータの回収依頼を通知する通信装置の一例である。
【0025】
<状態監視装置8について>
【0026】
状態監視装置8は、検出装置6を通じて取得した圧力値などの情報を利用して、圧力値の検出状態情報による封止領域22の封止状態の判定処理機能、シール部品16またはシール部品18の状態判定機能の一例である交換時期の予測処理機能を備える。
この状態監視装置8は、たとえば圧力情報収集手段36、処理部38を備えており、たとえばPC(Personal Computer)やサーバーなど、通信機能を備えたコンピュータで構成されており、収集した情報を処理するプロセッサ、記憶部、通信部、入出力部(I/O)などを備える。
プロセッサは、記憶部にあるOS(Operating System)や状態監視プログラムの演算処理を行うことで、封止領域22の状態判定やシール部品16、18の状態判定、および寿命予測機能を実現する。
また記憶部は、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random-Access Memory)などの記憶素子を備えた記録媒体の一例である。この記憶部には、たとえばOSや状態監視プログラムのほか、判定基準である閾値データベース(DB)60(図6A)や、検出した圧力情報などを格納する監視処理データベース(DB)70(図6B)が格納される。そのほか記憶部には、状態監視画面を構成する状態情報やメンテナンス情報のフォーマットデータなどのデータベースが格納されてもよい。
通信部は、たとえば検出装置6と通信して圧力情報を受信するほか、外部のデータベースや登録された端末装置やその他の機器などと無線通信または有線接続により音声データや画像データなどの情報を送受信するための機能部である。
I/Oは、プロセッサの制御により、図示しない機器や表示装置などに接続され、生成した状態監視画面を表示させるほか、外部機器から状態監視処理に必要なデータの取込みなどを行う手段の一例である。
【0027】
圧力情報収集手段36は、検出装置6で収集した圧力値などの圧力情報を取込む手段の一例であり、プロセッサからの制御指示により通信部を利用してデータの受信処理が実行される。圧力情報の収集は、たとえば検出装置6との間で有線、または無線を介し、電話回線やインターネット、LPWA(Low Power Wide Area)などの無線通信規格を利用するほか、液圧機器4が使用される作業領域内で利用されるプライベート回線、Bluetooth(登録商標)や赤外線通信などの近距離無線通信回線を利用してもよい。
【0028】
処理部38は、封止領域22の状態判定やシール部品16、18の寿命予測などの状態判定を行う状態判定部40や、状態監視画面などの情報を生成する監視情報生成部42を備える。
状態判定部40は、たとえば図1Bに示すように、圧力値検出状態判定部41で構成されており、取得した圧力情報に含まれる圧力値や、その圧力値の遷移状態を利用して、封止領域22の状態判定や、シール部品16、18に対して交換が必要な状態か否かなどの寿命予測を含む状態判定を行う。シール部品16、18の寿命は、たとえばシールが破断するまでの期間やシャフト14の動作回数のほか、メンテナンスに移行させるためのアラート情報を生成させるタイミング、その他設定した状態に達することを示している。
監視情報生成部42は、状態判定部40の判定結果に基づき、シール部品16、18の状態情報や、この状態情報に基づく寿命情報、メンテナンス情報などの状態監視画面や音声通知情報などを生成する機能部の一例である。このメンテナンス情報は、たとえばシール部品16、18による封止機能の状態の判定結果に応じて、「正常」、「交換」、「限界」などの指示情報を文字や図形、色の表示情報を利用して表される。
【0029】
そのほか、状態監視システム2は、たとえば図2に示すように、作業機械を構成する複数の液圧機器4A、4B、4Cをまとめて監視および状態判定を行うようにしてもよい。この場合、各液圧機器4A、4B、4Cに設置したセンサー30が、データ回収部32を通じてデータ処理部34側に圧力値の情報を通知すると、1または複数の状態監視装置8が液圧機器4A、4B、4Cを特定する識別情報に関連付けて検出した圧力値を利用して、状態情報や状態監視情報を生成する。
【0030】
<シール部品16について>
作動液の封止機能を備えるシール部品16は、たとえば図3Aに示すように一面側に溝を備え、この溝により2つの切片が形成されることで、断面が「U」字形状となった胴体部50を備える。このシール部品16は、たとえば硬質のゴムや樹脂材料、そのほか、金属材料などを利用しており、シャフト14の周面に沿って配置されることで、開口部12とシャフト14との間の隙間を封止するため、円環形状などで形成されている。シール部品16の一部に形成された溝は、筐体10に形成された配置溝内において、その壁面とシャフト14に対して密着状態となるように、弾性変形可能にするための手段である。さらにシール部品16には、たとえば2つの切片部の一部に、溝と交差方向に向けて、所定幅の切り欠き52、54が形成されている。この切り欠き52、54は、背圧防止溝の一例であり、たとえば図3Bに示すように、シャフト14が図中の左方向、すなわち筐体10の内部側に動作するときに、封止領域22やシール部品16が配置される筐体10の溝内部に存在する作動液Omを通過させ、筐体10の内部側に戻すための流路として機能する。
【0031】
<封止機能に応じた作動液Omの流入について>
液圧機器4には、たとえば図4Aに示すように、シール部品16の封止機能が十分な場合、開口部12内の作動液Omがシール部品16により開口部12の上流側で堰き止められている。このとき、状態監視システム2では、たとえば封止領域22内に作動液Omが流入せず、または微量が流入するに過ぎないため、小さな圧力上昇が検出される。この場合、シール部品16の状態判定、および封止状態の判定では、たとえば「正常」の判定結果が出される。
【0032】
次に、液圧機器4は、たとえば図4Bに示すように、シール部品16が経年変化や一部破損などにより封止機能が低下、または全く封止機能が発揮されない状態になると、シャフト14とシール部品16との間の隙間に作動液Omが流入する。このとき開口部12では、シール部品18が作動液Omを遮断することで、封止領域22内に作動液Omが溜まって、外部への漏出が阻止される。封止領域22およびシール部品18には、作動液Omがシャフト14の動作方向に合わせて流動することで、作動圧の負荷と解除が繰り返される。この場合、シール部品18の状態判定、および封止状態の判定では、たとえばシール部品16が機能していないことから、「交換」の判定結果が出される。
【0033】
さらに、液圧機器4は、たとえば図4Cに示すように、シール部品18が経年変化や一部破損などにより封止機能が低下、または全く封止機能が発揮されない状態になると、シール部品20側に向け作動液Omが流入する。シール部品20は、シール部品16、18よりも作動液Omの封止機能が低いため、完全な封止が行えない場合がある。この場合、封止状態の判定では、たとえばシール部品16、18が機能していないことから、「限界」の判定結果が出される
【0034】
<封止状態の判定について>
図5は、検出した圧力値の変動状態を示している。図5に示す圧力値や、その変動状態は一例である。
封止領域22で検出した圧力値は、たとえば図5に示すように、シャフト14の移動方向に応じた作動液Omの流動により、大きな変動状態となる。この圧力値のグラフでは、たとえば左側の値が小さい「状態I」と、右側の値が大きい「状態II」を示している。これは、シール部品16の封止機能に応じて封止領域22内に流入する作動液Omの流量の影響によるものである。すなわち圧力値が小さい「状態I」は、シール部品16の封止機能が十分にある場合である。また、「状態II」は、シール部品16の封止機能が低下、または破断して封止機能が発揮されていない場合である。
【0035】
なお、状態監視装置8は、たとえば常時継続的に検出装置6から圧力値を収集してもよく、または設定された時間ごと、またはユーザーからの指示、その他設定条件を契機に圧力値を収集すればよい。
【0036】
シール部品16、18の状態監視処理では、検出した圧力値の変動状態を利用して、封止領域22の封止状態を判定するとともに、シール部品16、18の状態の判定および寿命予測を行う。封止領域22の状態判定では、たとえば圧力値の変動状態として、既に取得している状態判定結果に基づき、圧力値に対する閾値Pxを設定し、検出された圧力値と比較する。
そして、圧力値検出状態判定部41は、たとえば検出された圧力値が閾値Px以上であるかを判断するとともに、閾値Pxを超えた回数をカウントし、このカウント値が設定数であるカウント閾値以上となったときにシール部品16、18の状態が変化したものと判断し、状態判定の結果や寿命予測情報を設定する。圧力値検出状態判定部41は、たとえば現在の判定結果が「正常」である場合、閾値Px以上となった数が設定値未満であれば、シール部品の状態が「状態I」であると判定する。圧力値検出状態判定部41は、たとえば現在の判定結果が「正常」である場合、検出される圧力値は「状態I」の範囲内にあるため、作動液Omを封止しているシール部品16が破断などにより「状態II」へ移行するタイミングをシール部品16の寿命として予測する。圧力値検出状態判定部41は、たとえば現在の判定結果が「交換」である場合、検出される圧力値は「状態II」の範囲内にあるため、作動液Omを封止しているシール部品18が破断などにより、作動液Omが外部に漏出する図示しない「状態III」へ移行するタイミングをシール部品18の寿命として予測する。
【0037】
<データベースについて>
状態監視装置8は、たとえば図示しない記憶部内に、状態判定や寿命予測に利用するための閾値が格納される閾値DB60や、収集した圧力値や判定結果などを格納する監視処理DB70を備える。
【0038】
閾値DB60は、たとえば図6Aに示すように、圧力閾値部62、カウンター閾値部64、状態情報部66を備える。
圧力閾値部62は、取得した圧力値と対比する閾値を格納する領域であり、たとえば液圧機器4の状態監視処理において、封止状態の判定のための閾値Pxが設定される。この圧力閾値部62には、たとえば単一の圧力閾値「Px」が設定される場合のほか、状態判定結果ごとに異なる閾値を設定してもよい。
カウンター閾値部64は、設定された圧力閾値Pxを超えた圧力値のカウント数に対する閾値を格納する領域である。このカウンター閾値は、シール部品16、18に対する寿命予測、状態判定に利用される値であり、たとえばカウンター閾値「nx」「ny」、「nz」が設定される。
状態情報部66は、圧力閾値およびカウンター閾値に対して関連付けて登録された判定結果を格納する領域である。設定された状態情報は、たとえば現在設定されている状態判定結果に対して、どの圧力閾値、またはカウンター閾値を利用するかの判断に利用される。具体的には、設定された状態情報が「I」である場合、状態情報部66の「I」に関連付けられた圧力閾値「Px」、またはカウンター閾値「nx」を読み出して状態判定や寿命予測を行う。また、状態監視処理では、たとえば状態判定や寿命予測処理を行っている期間の状態監視情報を示すメンテナンス情報として、状態「I」をユーザーに提示してもよい。
【0039】
監視処理DB70には、たとえば図6Bに示すように、機器名部72、位置情報部74、識別情報部76、検出時間部78、圧力値部80、状態判定部82、カウンター部84などで構成される。また、この監視処理DB70は、これらの情報部の全てを含む場合に限られず、これらの情報部の一部で構成されてもよい。
【0040】
機器名部72は、液圧機器4、または液圧機器4が搭載された作業装置などを特定する名称などを格納する領域の一例である。
位置情報部74は、機器名部72に登録された液圧機器4または作業装置などの配置位置を特定するための位置情報を格納する領域の一例である。この位置情報は、たとえば緯度や経度などの座標情報のほか、液圧機器4などを用いるプラントなどの作業現場内で利用される情報が含まれる。
識別情報部76は、シール部品を特定する情報の一例であり、液圧機器4に搭載されたシール部品16、18、20のそれぞれに設定された識別番号や種類、型番などが登録される。
検出時間部78は、状態監視処理の実行タイミングなどを表す情報であり、時刻情報のほか、日付などを含んでもよい。より具体的には、検出時間部78には、たとえばセンサー30より圧力値の検出、または圧力情報の生成、状態監視装置8が検出装置6から圧力情報を収集したタイミングなどが含まれる。
圧力値部80は、センサー30で検出した圧力値やその遷移状態などのデータを格納する領域である。
状態判定部82は、圧力値の変動情報と圧力閾値を利用して判定された状態判定の結果が格納される領域である。
カウンター部84は、状態判定において、圧力値が設定した圧力閾値を超えたカウント数を登録する領域である。
【0041】
<状態監視情報について>
図7は、状態情報画面を示している。この状態情報画面は一例であり、本開示の技術が斯かる構成に限定されない。
この状態情報画面90は、本開示の状態監視情報の一例であり、シール部品16、18の状態判定結果のほか、シール部品16、18の寿命情報の一例として、メンテナンス指示を表す「正常」、「交換」、「限界」などの情報が含まれてよい。この状態情報画面90は、たとえば図7に示すように、半円またはそれに近い曲面状の帯グラフなどで構成されており、シール部品16、18の状態判定結果および寿命予測を表す情報として、3つの表示領域92、94、96に区分されている。このうち表示領域92は、たとえば状態判定の「状態I」を表すとともに、メンテナンス指示の「正常」状態を示す情報である。また表示領域94は、状態判定の「状態II」を表すとともに、メンテナンス指示の「交換」状態を示す情報である。さらに、表示領域96は、状態判定の「状態III」を表すとともに、メンテナンス指示の「限界」状態を示す情報である。
【0042】
そのほか、状態情報画面90には、現在の判定結果がどの表示領域92、94、96を示しているのかを指し示すゲージ表示部や、ユーザーに対して現在、または過去に発せられたメンテナンス指示情報などを含むアラート表示部などを表示してもよい。このゲージ表示部を用いた状態情報画面90では、たとえば封止領域22の状態判定およびシール部品16、18の寿命判定の実行中において、閾値以上の圧力値を検出したカウント数に応じて、各表示領域92、94、96内で指し示す位置を変移させてもよい。
また、状態情報画面90は、グラフによる表示領域92、94、96で構成される場合に限られず、たとえば封止領域22の状態判定結果、シール部品16、18の寿命予測情報などをテキスト情報と、サーバーなどへのアクセスを導くリンク情報などで構成されてもよい。
【0043】
<状態監視処理について>
図8は、状態監視処理例を示している。図8に示す処理は、本開示の状態監視方法、状態監視プログラムの一例であり、斯かる処理手順や処理内容に本開示の技術が限定されない。
この状態監視処理では、たとえば状態監視装置8が検出装置6から圧力値の検出情報を取得すると(S101)、その情報を監視処理DB70に登録する(S102)。状態判定部40は、たとえば監視処理DB70に登録された機器情報や状態判定結果である状態情報とともに、閾値DB60に登録された圧力閾値を読み出し(S103)、登録した圧力値が圧力閾値を超えているかを判定する(S104)。そして状態判定部40は、圧力値が圧力閾値を超えている場合(S104のYES)、監視処理DB70のカウンター部84に対してカウント数を+1足す(S105)。
状態判定部40は、圧力値が圧力閾値を超えない場合(S104のNO)は、次の圧力値を読み出す。
【0044】
さらに、状態判定部40は、登録されたカウント数と、閾値DB60のカウンター閾値とを対比し(S106)、カウント数がカウンター閾値を超えている場合(S106のYES)、判定対象となっているシール部品16、またはシール部品18が寿命になっていると予測して状態監視情報を生成する(S107)。この状態監視情報には、圧力閾値との対比結果に基づく封止領域22の状態判定結果、シール部品16、18の状態判定結果なども含まれる。さらに状態判定部40は、これらの判定結果に基づき、ユーザーに対してシール部品16、18の交換などを指示するメンテナンス情報を生成し、設定する(S108)。
【0045】
<第1の実施形態の効果>
斯かる構成によれば、以下のような効果が得られる。
(1) 検出した圧力値に基づいて、封止領域22の状態やシール部品16、18の寿命などの状態を判定し、その判定結果を利用してメンテナンス情報を設定することで、液圧機器4に対してメンテナンスすべきタイミングやその内容をユーザーに周知させることができ、安全性を高められる。
(2) 封止領域22の状態判定結果やシール部品16、18の状態の判定結果をユーザーに提示することで、液圧機器4の信頼性を維持することができる。
(3) 液圧機器4の使用予定に対し、シール部品16、18による封止機能の状態を判定することで、メンテナンス処理を行うか否かなど、液圧機器4を利用した作業とメンテナンス時期とを計画的に設定でき、利便性が高められる
(4) シール部品16、18の交換時期、限界時期とともに、現在の状態から限界時期までの期間などを把握可能に提示することで、利便性が高められる
(5) 少なくとも1のセンサーによる検出圧力値の変動から封止領域22の状態やシール部品16、18のメンテナンスタイミングを予測でき、液圧機器4のシール状態の管理について、低コスト化や処理の単純化が図れる。
【0046】
〔第2の実施形態〕
図9は、第2の実施形態に係る状態監視装置の処理部の構成を示している。図9に示す構成は一例であり、本開示の技術が斯かる内容に限定されない。また、図9において、図1と同様のものには同一符号を付し、その説明を省略する。
【0047】
第2の実施形態に係る状態監視装置8の処理部38には、図9に示すように、状態判定機能として圧力値検出状態判定部41に加えて圧力値変動状態判定部100を備える。
圧力値変動状態判定部100は、検出圧力値の変動状態を監視して封止領域22の状態判定やシール部品16、18の寿命などの状態を判定する機能部の一例である。
すなわち、状態監視装置8では、圧力値検出状態判定部41により圧力値と圧力閾値との対比によって封止領域22の封止状態判定などを実行するとともに、圧力値変動状態判定部100により圧力値の増加や減少などの変動状態から封止領域22の状態を判定する。この圧力値の変動状態は、たとえば連続する圧力値または所定の間隔ごとに選出した圧力値が急激に変動している場合、または圧力値が現在または直近で設定された状態判定結果などで想定される圧力値と大きく異なる場合、この変動情報に基づいて封止領域22の状態判定を行う。
【0048】
圧力値変動状態判定部100は、たとえば取得した圧力値を利用してその値の変動状態を割り出す。このとき圧力値は、たとえば図10に示すように、状態監視処理を始めてから所定タイミングt1までは低い値で推移しているが、このタイミングt1に達したときに急激に増加し、圧力閾値Pxを超えた状態となる。さらに、圧力値は、タイミングt1より後は圧力閾値Pxを超えた値を維持するが、タイミングteに達するときに減少状態となる。また圧力値の変動は、タイミングt1において封止領域22の封止機能が変化して封止領域内に作用する負荷が大きくなったことを表し、さらに、タイミングteにおいて、封止領域22に斯かる圧力が低下したことを示している。
【0049】
このような状態は、たとえばタイミングt1に達するところでシール部品16の劣化、破断もしくは破損して封止領域22内に圧力が負荷された状態であり、このタイミングt1が「状態I」から「状態II」に変化したことを表している。
同様に、圧力値変動状態判定部100は、たとえばタイミングteに達するところでシール部品18の劣化、破断もしくは破損したことで、封止領域22内に貯留されていた圧力が開口部12の下流側に流れていき、シール部品20によって封止され、またはその一部または全部が外部に放出状態となる。すなわち、タイミングteが「状態II」から「状態III」に変化したことを表している。
【0050】
そして状態監視装置8では、たとえば圧力値検出状態判定部41の状態判定に対して、圧力値変動状態判定部100を組み合せて判定処理を行えばよい。すなわち、この圧力値変動状態の情報は、検出圧力値の大きさやその変動状況から、封止領域22の実際の状態を把握するための情報である。圧力値変動状態判定部100による判定処理は、たとえば圧力値検出状態判定部41と同時、または交互に、設定したタイミングで実行すれば良く、そのほか、圧力値検出状態判定部41が状態監視処理を行っているときであって、設定された条件に達したときに圧力値の変動状態を監視する処理を行ってもよい。
【0051】
<状態監視処理について>
図11は、状態監視処理例を示している。図11に示す処理は、本開示の状態監視方法、状態監視プログラムの一例であり、斯かる処理手順や処理内容に本開示の技術が限定されない。
この状態監視処理では、たとえば状態監視装置8が圧力値の取得(S201)、監視処理DB70への登録(S202)、機器情報や状態情報、圧力閾値Pxを読み出す(S203)と、圧力値検出状態判定部41により圧力値が圧力閾値Pxを超えているかを判定する(S204)。この判定により圧力値が圧力閾値Pxを超えている場合(S204のYES)、封止領域22の状態判定に移行する。
また、圧力値が圧力閾値Pxを超えていない場合(S204のNO)、封止領域22内に圧力が作用していない、または小さい圧力が作用した状態であり、シール部品16が十分に機能していると判断して、次の圧力値の取得に移行する。
【0052】
状態判定では、たとえば直近の判定結果として「状態II」が設定されている場合(S205YES)、圧力値変動状態判定部100が監視処理DB70に格納されている圧力値を参照し、その値が低下傾向にあるかを判断する(S206)。低下傾向か否かの判断は、たとえば直近で検出した圧力値所定の設定値以上に減少しているかを判断すればよい。状態判定部40は、圧力値変動状態判定部100の判定結果により圧力値が低下傾向でない場合(S206のNO)、監視処理DB70のカウンター部84のカウント数に+1を加算する(S207)。また、状態判定部40は、設定された判定結果が「状態II」ではない場合(S205のNO)、すなわち「状態I」の場合には、監視処理DB70のカウンター部84のカウント数に+1を加算する(S207)。カウンター部84に記録されたカウント数がシール部品16、18の寿命判定に利用される。
【0053】
そして、判定処理では、カウンター部84に登録されたカウント数がカウンター閾値(nx、ny)を超えている場合(S208のYES)、封止領域22の状態、シール部品16、18の寿命に達したものと判定した状態監視情報を生成する(S209)とともに、その判定結果に応じたメンテナンス情報(「交換」や「限界」など)を設定する(S210)。
【0054】
また、状態判定部40は、判定結果として「状態II」が設定されている場合(S205のYES)であって、圧力値変動状態判定部100の判定結果により圧力値が低下傾向の場合(S206のYES)、たとえばシール部品18が破断、または封止機能の低下により封止領域22の状態が「状態III」になったものと判定し、アラートを生成する(S211)。このアラートは、状態監視情報の一例であり、緊急でシール部品16、18、20の交換を促す情報である。状態監視装置8は、アラートが発せられると、監視情報生成部42で通知情報を生成し、液圧機器4を管理者するユーザーの端末装置44(図2)や情報提示部46に対して通知する。
【0055】
なお、圧力値変動状態判定部100による圧力値の変動の判定処理は、「状態III」に移行したことを監視するものに限らない。シール部品16が「正常」(状態I)の判定状態に対し、取得した圧力値の急激な上昇状態を監視し、「交換」(状態II)に移行していることを判定してもよい。
【0056】
<第2の実施形態の効果>
斯かる構成によれば、以下のような効果が得られる。
(1) 第1の実施形態と同様の効果が得られる。
(2) 検出した圧力値と圧力閾値との対比による状態判定、寿命予測機能とともに、圧力値の変動状態を加味することで、封止領域22の状態監視精度が向上し、安全性の向上や信頼性を高めることができる。
(3) 圧力値の変動状態を併せて監視することで、シール部品16、18、20の寿命予測の精度が向上するので、メンテナンス時期を計画的に設定でき、利便性が高められる。

〔変形例〕
【0057】
以上説明した実施形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
【0058】
(1) 上記実施形態では、シール部品16、18に切り欠き52、54を備えることで、シャフト14の前後動作に応じて、作動液が筐体10内部に戻ることで、封止領域22内の圧力値が変動する場合を示したがこれに限らない。本開示のシール部品の状態監視処理では、たとえば切り欠き52、54が形成されていないシール部品16、18を用いた場合であって、筐体10の一部に、封止領域22内に溜まった作動液を液圧機器4の内部に戻す構造を備えたものであってもよい。
【0059】
斯かる構成により、シャフト14の前後動作に連動して、封止領域22内に作動液の流入と排出が行われ、封止領域22内に作用する圧力値が変動する。この圧力値は、たとえばシール部品16の状態に応じた作動液の通過量が影響するため、上記実施形態と同様に、圧力値の変動回数から封止機能の状態の判定が可能となる。そして状態監視処理では、判定結果、寿命予測に基づいて、メンテナンス情報を設定すればよい。
【0060】
(2) 上記実施形態では、液圧機器4の内部に、開口部12に沿って筐体10の内部から外部に向けて3つのシール部品16、18、20が配置され、その内の上流側の2つのシール部品16、18に形成された封止領域22の圧力値を計測する場合を示したがこれに限らない。液圧機器4は、たとえば筐体10の内部に設置された1つのシール部品16と、開口部側に配置されたダストシール機能を持つシール部品20で構成されてもよい。この場合、シール部品20は、たとえば外部から筐体10内部に異物の侵入を阻止する機能とともに、シャフト14に沿って開口部12内から作動液が漏出するのを阻止する機能を備える。状態監視処理では、シール部品16、20の間に形成される封止領域22の圧力を計測し、上記実施形態と同様に圧力値と閾値と対比したカウント数や、圧力値の変動状態に基づいて、封止状態の判定、寿命予測を行い、その判定結果によりメンテナンス情報を含む状態監視情報を生成すればよい。
【0061】
(3) 上記実施形態では、状態情報画面90に状態判定の現在までの結果を、テキストやゲージ表示部を利用して表示する場合を示したがこれに限られない。状態情報画面90には、たとえば閾値との対比によるカウント数、設定された状態を表す情報、圧力閾値Pxなどの情報を利用して、シール部品16、18が寿命に達するまでの残りのカウント数やシャフト14の動作回数の推定値、残りの推定時間などの情報を算出して表示させてもよい。
【0062】
(4) 上記実施形態において、状態判定部40は、シール部品16、18の状態判定処理として、1の閾値Pxを利用し、取得した圧力情報と対比して、「状態I」、「状態II」・・・を判定する場合を示したがこれに限らない。状態判定部40は、たとえばシール部品16、18の封止機能に対して設定する状態に応じて、値の異なる複数の閾値Px、Py、・・・を設定し、状態判定処理を行ってもよい。具体例として、状態判定部40は、たとえば圧力値が閾値Px未満の場合、および閾値Px以上かつ閾値Py未満の状態を「状態I」であると判定し、閾値Py以上かつ閾値Pz未満の状態を「状態II」と判定してもよい。さらに状態判定部40は、より細分化した閾値を設定してもよい。
斯かる構成によれば、取得した圧力値の状態を細分化して判定することで、シール部品16、18の状態や、シール部品16、18で形成される封止領域22の状態を詳細に予測することができる。
【0063】
以上説明したように、本開示の技術の最も好ましい実施形態等について説明した。本開示の技術は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本開示の技術の範囲に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
2 状態監視システム
4、4A、4B、4C 液圧機器
6 検出装置
8 状態監視装置
10 筐体
12 開口部
14 シャフト
16、18、20 シール部品
22 封止領域
24 センシングホール
30 センサー
32 データ回収部
34 データ処理部
36 圧力情報収集手段
38 処理部
40 状態判定部
41 圧力値検出状態判定部
42 監視情報生成部
44 端末装置
46 情報提示部
50 胴体部
52、54 切り欠き
60 閾値データベース(DB)
62 圧力閾値部
64 カウンター閾値部
66 状態情報部
70 監視処理DB
72 機器名部
74 位置情報部
76 識別情報部
78 検出時間部
80 圧力値部
82 状態判定部
84 カウンター部
90 状態情報画面
92、94、96 表示領域
100 圧力値変動状態判定部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11