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特開2024-53416エピタキシャルウエハ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053416
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】エピタキシャルウエハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20240408BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20240408BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20240408BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B33/02
H01L21/365
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159685
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 家弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BB10
4G077FE02
4G077FE11
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC03
5F045AC11
5F045AC13
5F045AC15
5F045AC16
5F045AC17
5F045AC19
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AE29
5F045DA59
5F045DP04
5F045DQ06
5F045DQ08
5F045EB03
5F045EC05
5F045EK06
5F045GH06
5F045HA16
5F152LL03
5F152LN22
5F152MM18
5F152NN19
5F152NN30
5F152NQ17
5F152NQ20
(57)【要約】
【課題】β-Ga系のエピタキシャルウエハの製造方法であって、HVPE法におけるエピタキシャル膜の酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより不活性化した基板中のドナー不純物をより効果的に再活性化させることのできるエピタキシャルウエハの製造方法、及びその方法により製造されたエピタキシャルウエハを提供する。
【解決手段】一実施の形態として、HVPE法により、β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板10をGaClガス及びOガスに曝し、基板10の主面11上にβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜12を成長させ、エピタキシャルウエハ1を形成する工程と、前記エピタキシャルウエハ1に、窒素雰囲気下で1200℃以上の温度でアニール処理を施す工程と、を含む、エピタキシャルウエハの製造方法を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVPE法により、β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板をGaClガス及びOガスに曝し、前記基板の主面上にβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜を成長させ、エピタキシャルウエハを形成する工程と、
前記エピタキシャルウエハに、窒素雰囲気下で1200℃以上の温度でアニール処理を施す工程と、
を含む、
エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項2】
前記アニール処理の温度が1400℃以下である、
請求項1に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項3】
β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板と、
前記基板上のβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜と、
を備え、
前記基板のドナー濃度が前記ドナー不純物の濃度の80%以上であり、
前記エピタキシャル膜のCl濃度が1×1014cm-3以上であり、
前記基板及び前記エピタキシャル膜のH濃度が3×1017cm-3以下である、
エピタキシャルウエハ。
【請求項4】
前記基板の面内のドナー濃度の最大値と最小値の中心値からの、前記基板の面内のドナー濃度のばらつきが10%以下である、
請求項3に記載のエピタキシャルウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウエハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法により、β-Ga系単結晶基板の主面上にβ-Ga系単結晶膜を成長させる技術が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に技術においては、β-Ga系単結晶基板をGaの原料ガスとしての塩化ガリウム系ガス及び酸素の原料ガスである酸素含有ガスに曝し、β-Ga系単結晶基板の主面上にβ-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる。
【0003】
特許文献1には、β-Ga系単結晶膜を成長させる際の雰囲気に水素が含まれていると、β-Ga系単結晶膜の表面の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、酸素の原料ガスとして水素を含まないOガスを用いることが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-91740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、酸素の原料ガスとしてOガスを用いる場合、β-Ga系単結晶膜のエピタキシャル成長中にβ-Ga系単結晶基板がOガスに曝されることにより、β-Ga系単結晶基板中のドナー不純物が不活性化してしまう。そのため、β-Ga系単結晶膜の形成後、窒素雰囲気下でアニール処理を施してβ-Ga系単結晶基板中のドナー不純物を再活性化する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、β-Ga系単結晶からなる基板上にβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜が形成されたエピタキシャルウエハの製造方法であって、HVPE法におけるエピタキシャル膜の酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより不活性化した基板中のドナー不純物をより効果的に再活性化させることのできる方法、及びその方法により製造されたエピタキシャルウエハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記のエピタキシャルウエハの製造方法、及びエピタキシャルウエハを提供する。
【0008】
[1]HVPE法により、β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板をGaClガス及びOガスに曝し、前記基板の主面上にβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜を成長させ、エピタキシャルウエハを形成する工程と、前記エピタキシャルウエハに、窒素雰囲気下で1200℃以上の温度でアニール処理を施す工程と、を含む、エピタキシャルウエハの製造方法。
[2]前記アニール処理の温度が1400℃以下である、上記[1]に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
[3]β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板と、前記基板上のβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜と、を備え、前記基板のドナー濃度が前記ドナー不純物の濃度の80%以上であり、前記エピタキシャル膜のCl濃度が1×1014cm-3以上であり、前記基板及び前記エピタキシャル膜のH濃度が3×1017cm-3以下である、エピタキシャルウエハ。
[4]前記基板の面内のドナー濃度の最大値と最小値の中心値からの、前記基板の面内のドナー濃度のばらつきが10%以下である、上記[3]に記載のエピタキシャルウエハ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、β-Ga系単結晶からなる基板上にβ-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜が形成されたエピタキシャルウエハの製造方法であって、HVPE法におけるエピタキシャル膜の酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより不活性化した基板中のドナー不純物をより効果的に再活性化させることのできる方法、及びその方法により製造されたエピタキシャルウエハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るエピタキシャルウエハの垂直断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置の垂直断面図である。
図3図3は、エピタキシャルウエハにアニール処理を実施する際のアニール炉内の温度変化を示すグラフである。
図4図4は、エピタキシャル膜の成膜前後と1150~1400℃のアニール処理を施した後の基板中のドナー不純物の活性化率を示すグラフである。
図5図5は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、エピタキシャルウエハ中の不純物濃度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(エピタキシャルウエハの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1の垂直断面図である。エピタキシャルウエハ1は、β-Ga系単結晶からなり、ドナー不純物を含む基板10と、基板10の主面11上にエピタキシャル結晶成長により形成された、β-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜12を有する。
【0012】
ここで、β-Ga系単結晶とは、β-Ga単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたβ-Ga単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたβ-Ga単結晶である、β型の(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)単結晶である。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0013】
基板10は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge-Defined Film-Fed Growth)法等の融液成長法により育成したβ-Ga単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。基板10は、Sn、Si、Ge等のドナー不純物を含む。基板10のドナー濃度は、基板10に含まれるドナー不純物の濃度の80%以上である。
【0014】
エピタキシャル膜12は、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法により、基板10上に成膜される。エピタキシャル膜12は、Sn、Si、Ge等のドナー不純物や、Mg等のアクセプター不純物を含んでもよい。エピタキシャル膜12は、Clが含まれるガスを原料ガスとして用いるHVPE法により形成されるため、1×1014cm-3以上の濃度のClを含む。
【0015】
また、エピタキシャル膜12は、酸素の原料ガスとして、Hを含まないOガスを用いて形成される。このため、基板10及びエピタキシャル膜12に含まれるHの濃度は低く、3×1017cm-3以下である。
【0016】
(気相成長装置の構造)
以下に、本発明の本実施の形態に係るエピタキシャル膜12の成長に用いる気相成長装置の構造の一例について説明する。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置2の垂直断面図である。気相成長装置2は、HVPE法用の気相成長装置であり、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び排気ポート24を有する反応炉20と、反応炉20の周囲に設置され、反応炉20の内部を加熱する加熱手段26を有する。
【0018】
反応炉20は、Ga原料が収容された反応容器25が配置され、ガリウムの原料ガスが生成される原料反応領域R1と、基板10が配置され、エピタキシャル膜12の成長が行われる結晶成長領域R2を有する。反応炉20は、例えば、石英ガラスからなる。
【0019】
反応容器25は、例えば、石英ガラスであり、反応容器25に収容されるGa原料は金属ガリウムである。
【0020】
加熱手段26は、反応炉20の原料反応領域R1と結晶成長領域R2を加熱することができる。加熱手段26は、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0021】
第1のガス導入ポート21は、Clガス又はHClガスであるCl含有ガスを不活性ガスであるキャリアガス(Nガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。第2のガス導入ポート22は、酸素の原料ガスであるOガスを不活性ガスであるキャリアガス(Nガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。第3のガス導入ポート23は、エピタキシャル膜12にSi等のドーパントを添加するための塩化物系ガス(例えば、四塩化ケイ素等)を不活性ガスであるキャリアガス(Nガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0022】
(エピタキシャル膜の成長)
以下に、本実施の形態に係るエピタキシャル膜12の成長工程の一例について説明する。
【0023】
まず、加熱手段26を用いて反応炉20の原料反応領域R1の雰囲気温度を所定の温度、例えば500~900℃に保った状態で、第1のガス導入ポート21からキャリアガスを用いてCl含有ガスを導入し、原料反応領域R1において、上記の雰囲気温度下で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させ、GaClガスを生成する。
【0024】
なお、エピタキシャル膜12を成長させる際の雰囲気に水素が含まれていると、エピタキシャル膜12の表面の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、水素を含まないClガスをCl含有ガスとして用いることが好ましい。
【0025】
また、金属ガリウムとCl含有ガスの反応から、GaClガス以外の塩化ガリウム系ガスであるGaClガス、GaClガス、及び(GaClガスも生成されるが、これらの塩化ガリウム系ガスのうちでGaClガスの分圧が圧倒的に高くなるため、GaClガス以外のガスはGa系単結晶の成長にほとんど寄与しない。
【0026】
次に、加熱手段26を用いて反応炉20の結晶成長領域R2の雰囲気温度を所定の温度、例えば800~1100℃に保った状態で、結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成されたGaClガスと、第2のガス導入ポート22から導入されたOガスとを混合させ、その混合ガスに基板10を曝し、基板10の主面11上にエピタキシャル膜12をエピタキシャル成長させる。このとき、反応炉20を収容する炉内の結晶成長領域R2における圧力を、例えば、1atmに保つ。
【0027】
ここで、Si、Al等の添加元素を含むエピタキシャル膜12を形成する場合には、GaClガス及びOガスに併せて、第3のガス導入ポート23より、添加元素の原料ガス(例えば、四塩化ケイ素(SiCl)等の塩化物系ガス)も結晶成長領域R2に導入する。
【0028】
酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより、HOガス等の水素を含むガスを用いる場合と比較して、エピタキシャル膜12を成長させる際の雰囲気に含まれる水素に起因する、エピタキシャル膜12の表面の平坦性及び結晶成長駆動力の低下を抑えることができる。
【0029】
次に、エピタキシャルウエハ1を気相成長装置2からアニール炉へ移し、エピタキシャル膜12の成膜中に基板10がOガスに曝されることにより不活性化した基板10中のドナー不純物を再活性化するために、窒素雰囲気下で1200℃以上の温度でアニール処理を施す。
【0030】
図3は、エピタキシャルウエハ1にアニール処理を実施する際のアニール炉内の温度変化を示すグラフである。図3に示されるように、室温からアニール処理の温度Tまで温度を上昇させ、温度Tで時間tの間保持し、その後、室温まで下降させる。ここで、アニール処理の温度Tは例えば、1200℃以上、1400℃以下の範囲内にある。また、温度Tを保持する時間tは、例えば、1時間以上、10時間以下の範囲内にある。
【0031】
図4は、エピタキシャル膜12の成膜前後(成膜前、成膜後と表記)と1150~1400℃のアニール処理を施した後の基板10中のドナー不純物の活性化率を示すグラフである。
【0032】
ドナー不純物の活性化率は、全てのドナー不純物のうちの実際にドナーとして機能しているドナー不純物の割合であり、ドナー不純物の濃度に対するドナー濃度の割合に等しい。エピタキシャル膜12の成膜前のドナー濃度はドナー不純物の濃度にほぼ等しく、ドナー不純物の活性化率はほぼ100%である。
【0033】
図4に示される基板10のドナー不純物の活性化率は、エピタキシャル膜12の成膜前のドナー濃度に対するドナー濃度の割合として求めた。基板10のドナー濃度は、エピタキシャルウエハ1の基板10側に化学機械研磨(CMP)による研磨処理を施した後、基板10に電気化学的容量電圧(ECV)測定を実施することにより得た。
【0034】
なお、図4に係る基板10は、ドナー不純物としてのSn、Si(Siは基板10の原料に意図せずに含まれていたもの)を含むβ-Ga単結晶からなる基板であるが、基板10を構成するβ-Ga系単結晶の種類やドナー不純物の種類によらず、図4と同様の結果が得られる。
【0035】
図4によれば、エピタキシャル膜12の成膜の際に基板10がOガスに曝されることによりドナー不純物の活性化率が12%まで下り、その後のアニール処理によって活性化率が回復している。
【0036】
また、図4によれば、アニール処理の温度が1200℃以上であるときには、基板10中のドナー不純物の活性化率が80%以上、すなわちドナー濃度がドナー不純物の濃度の80%以上になり、また、アニール処理の温度が大きいほど再活性化率が大きくなる。図4におけるアニール処理の温度が1150℃、1200℃、1300℃、1400℃のときの活性化率は、それぞれ45%、84.8%、95.2%、100%である。
【0037】
アニール処理の温度が1400℃を超えるとβ-Ga系単結晶の熱分解量が多くなるため、アニール処理の温度は1400℃以下であることが好ましい。アニール処理の温度が1400℃以下であるときには、β-Ga系単結晶からなるエピタキシャル膜12の熱分解量(熱分解による膜厚の減少量)を1μm以下に抑えることができる。
【0038】
次の表1に、アニール処理の温度が1400℃であるときの、アニール処理の前後のエピタキシャル膜12の膜厚の変化量を示す。表1は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により測定された、エピタキシャル膜12上の5つの異なる位置での膜厚の変化量を示している。
【0039】
【0040】
表1によれば、いずれの位置での膜厚の変化量も1.0μm以下であり、エピタキシャル膜12の熱分解が抑えられていることがわかる。なお、アニール処理前のエピタキシャルウエハ1は無色透明であるが、およそ1200℃以上の温度でアニール処理を施した後には、薄い水色に変化する。
【0041】
1200℃以上の温度でのアニール処理を行うためには、例えば、アルミナ製の電気アニール炉を用いる。石英製の汎用のアニール炉では、石英の耐熱温度のために、1200℃以上のアニール処理を実施することは困難である。通常、石英製の汎用のアニール炉で実施することができるアニール処理の温度は最高で1150℃程度であり、この場合の活性化率は、図4に示されるように、45%程度である。
【0042】
また、エピタキシャルウエハ1の汚染を抑えるため、アニール処理に用いるアニール炉は、アルミナのようなSiやCを含まない材料からなることが好ましい。
【0043】
1200℃以上、1400℃以下の温度でのアニール処理を施した場合、基板10の面内のドナー濃度の最大値と最小値の中心値からの、基板10の面内のドナー濃度のばらつきが10%以下であった。
【0044】
図5は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、エピタキシャルウエハ1中の不純物濃度を表すグラフである。図5に係るエピタキシャルウエハ1の基板10は、Sn、Si(Siは基板10の原料に意図せずに含まれていたもの)をドナー不純物として含む、β-Ga単結晶からなる基板であり、エピタキシャル膜12は、3.0×1015cm-3の濃度のSiをドナー不純物として含む、β-Ga単結晶からなる膜である。
【0045】
図5の横軸はエピタキシャルウエハ1のエピタキシャル膜12の表面13からの深さ(μm)を表し、縦軸は各不純物の濃度(cm-3)を表す。ここで、エピタキシャルウエハ1の基板10とエピタキシャル膜12の界面の深さは、およそ11.3μmである。
【0046】
図5は、Si、Sn、Clのエピタキシャルウエハ1中の濃度を表す。図5によれば、エピタキシャル膜12中のSnの濃度はSIMS分析装置の検出下限値(検出下限:Snと表記)に近く、Snのエピタキシャル膜12への意図しない混入が生じていないことが確かめられた。エピタキシャル膜12の基板10との界面付近の領域のSi、Snの濃度が高くなっているが、これは基板10に含まれるSi、Snがエピタキシャル膜12側に拡散したためであり、問題はない。
【0047】
また、図5によれば、エピタキシャル膜12中におよそ2.9×1016~4.0×1016cm-3の濃度のClが含まれている。これは、エピタキシャル膜12がCl含有ガスを用いるHVPE法により形成されることに起因する。通常、Cl含有ガスを用いない方法やHVPE法以外のCl含有ガスを用いる方法(例えば、SiClガスを用いるMOVPE法)によりβ-Ga系単結晶膜を形成する場合には、β-Ga系単結晶膜中にClが含まれることはなく、少なくとも、1×1014cm-3以上のClが含まれることはない。
【0048】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、エピタキシャル膜12の成膜後に、窒素雰囲気下で1200℃以上の温度でアニール処理をエピタキシャルウエハ1に施すことにより、HVPE法におけるエピタキシャル膜12の酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより不活性化した基板10中のドナー不純物を効果的に再活性化させることができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0050】
1…エピタキシャルウエハ、 10…基板、 11…主面、 12…エピタキシャル膜、 2…気相成長装置、 20…反応炉、 21…第1のガス導入ポート、 22…第2のガス導入ポート、 23…第3のガス導入ポート、 24…排気ポート、 25…反応容器、 26…加熱手段
図1
図2
図3
図4
図5