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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053420
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】エクオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/06 20060101AFI20240408BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
C12P17/06
C12N1/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159701
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】村田 英城
(72)【発明者】
【氏名】三橋 和也
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC13
4B064CA02
4B064CC12
4B064CD05
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BB05
4B065BC05
4B065BD26
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】微生物を利用したエクオールの製造において、従来よりも省エネルギーで、効果的にエクオールを製造できる方法の提供。
【解決手段】ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を、該エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物により発酵させる工程を有してエクオールを産生するエクオールの製造方法であって、発酵に使用する培地の殺菌をi)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、又はii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、又はiii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、で行う上記方法により上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を、該エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物により発酵させる工程を有してエクオールを産生するエクオールの製造方法であって、
前記発酵工程前に前記エクオール原料を含む培地を
i)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、又は
ii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、又は
iii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、
の条件で殺菌する工程を有する、上記方法。
【請求項2】
前記殺菌をi)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上で行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記殺菌をii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上で行う請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記殺菌をiii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上で行う請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エクオール原料の粒度が、1mm以下である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エクオール原料の粒度が、250μm以下である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記発酵工程を、水素を含む1種類以上の気体からなる嫌気条件下で行う請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオール生産能を有する微生物、特に嫌気性微生物によるエクオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆、葛などのマメ科の植物に多く含まれているイソフラボン類はポリフェノールの分類のひとつであり、イソフラボンを基本骨格とするフラボノイドである。近年の調査により、イソフラボン類は女性ホルモン作用(エストロゲン)や抗酸化作用を有し、イソフラボン類を摂取することにより、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などに対して予防効果があることが明らかとなっている。
イソフラボン類は、たとえば大豆内では、糖と共有結合した配糖体の形、ダイジン(daidzin)、グリシチン(glycitin)、ゲニスチン(genistin)として存在しており、アグリコンの形ではごく少量存在しているのみである。これら配糖体はさらにマロニル化、アセチル化されているものも存在している。これらの配糖体は、ヒトや動物の体内に入ると消化酵素又は腸内細菌の産生する酵素であるβグルコシダーゼ等の働きにより、それぞれダイゼイン(daidzein)、グリシテイン(glycitein)、ゲニステイン(genistein)となる。さらに、ダイゼインは腸内細菌の働きにより、ジヒドロダイゼイン(dihydrodaidzein)を経て、O-デスメチルアンゴレンシン(O-desmethylangolensin:O-DMA)又はエクオール(equol)へと酵素的に変換されることが知られている。
【0003】
エクオールは、これらの代謝産物の中で最もエストロゲン活性が高いことが知られている。しかしながら、人間の場合、イソフラボンの代謝には個人差があり、上記のようにダイゼインを発酵させてエクオールを産生する能力を有する腸内細菌を保有する人は少なく、その保有率は日本人で約5割、欧米人で約3割程度であることが明らかとなっている。そのため、エクオール産生菌を保有しない人は、大豆等のマメ科食物を摂取してもエクオールを体内で産生することができないという問題点が存在していた。
【0004】
これらの課題を克服するために、乳酸菌等の嫌気性微生物を用いて体外的にエクオールを産生させる試みがなされている(特許文献1~4)。
【0005】
微生物の培養を行う場合、原料培地の滅菌を行う。日本薬局法に基づく滅菌温度・時間の最低条件は、115℃・30分、または121℃・15分、または126℃・10分であり、一般的には、このような条件で、培地を滅菌処理して培養を行う。温度が100℃以上である為、耐圧設備で実施する必要がある。また、高い温度で熱に対して安定でない培地成分が分解するため、過剰量の成分添加が必要であった。滅菌後は、培養温度まで冷却する必要が有る為、温度が高いほど、無駄なエネルギーを使用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-204296号公報。
【特許文献2】特表2006-504409号公報。
【特許文献3】特開2008-61584号公報。
【特許文献4】特開2010-104241号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、微生物を利用したエクオールの製造において、従来よりも使用するエネルギーを削減し、効率良くエクオールを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、より低い温度で殺菌した方が、培地成分の分解を抑えることができ、エクオールの生産速度が高くなること、また、必要な成分量も減らすことができることを見出し、次の発明を見出した。
【0009】
<1> ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を、該エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物により発酵させる工程を有してエクオールを産生するエクオールの製造方法であって、
前記発酵工程前に前記エクオール原料を含む培地を
i)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、又は
ii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、又は
iii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、
の条件で殺菌する工程を有する、上記方法。
【0010】
<2> 上記<1>において、殺菌をi)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、好ましくは60分以上16時間以下、より好ましくは60分以上5時間以下、で行うのがよい。
<3> 上記<1>において、殺菌をii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、好ましくは30分以上16時間以下、より好ましくは30分以上5時間以下、で行うのがよい。
<4> 上記<1>において、殺菌をiii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、好ましくは10分以上10時間以下、より好ましくは10分以上2時間以下、で行うのがよい。
【0011】
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、エクオール原料の粒度が、1mm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは100μm以下であるのがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、発酵工程を、水素を含む1種類以上の気体からなる嫌気条件下で行うのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微生物を利用したエクオールの製造において、従来よりも使用するエネルギーを削減し、効率良くエクオールを製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を、該エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物により発酵させる工程を有してエクオールを産生するエクオールの製造方法を提供する。
該方法は、発酵工程前にエクオール原料を含む培地を
i)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、又は
ii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、又は
iii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、
の条件で殺菌する工程を有する。
【0014】
殺菌工程の条件は従来、115℃・30分、又は121℃・15分、又は126℃・10分、などの温度・時間条件であった。これに対して、本発明は、従来よりも低い温度条件下で行うため、従来よりも使用するエネルギーを削減し、効率良くエクオールを製造する方法を提供することができる。また、後述するとおり、本発明の殺菌条件によると、エクオールの生産性を向上させることができる。さらに、本発明により、安価かつ大量にエクオールを製造することが可能となり、より多くの人々に、エクオールを供給することができるようになる。エクオールは、飲食品又は医薬品等としてそのまま摂取することにより、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害等を予防できるものと考えられる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のエクオール製造方法は、上述したとおり、殺菌工程及び発酵工程を有する。
なお、本発明の方法は、発酵工程及び殺菌工程以外の工程を有してもよい。例えば、エクオール原料を調製する工程、前培養工程、得られたエクオールを回収する工程などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0016】
<殺菌工程>
殺菌工程は、発酵工程前に、エクオール原料を含む培地を殺菌する工程である。
殺菌工程での培地には、エクオール原料を含む他、後述する炭素源、窒素源などを含んでもよい。なお、殺菌工程での培地には、エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物は含まれない。
【0017】
殺菌工程は、後に設ける発酵工程で、エクオールを産生する能力を有する微生物が増殖し、エクオールを産生するにあたり影響を及ぼさない程度に、エクオール原料を含む培地に存在するエクオールを産生する能力を有さない微生物を殺菌できて、かつ、培地に含まれる微生物の増殖・代謝に影響する成分がかかる熱によって分解を受けない程度である以下の条件であるのがよい。
i)温度:70℃以上80℃未満、時間:60分以上、好ましくは60分以上16時間 時間以下、より好ましくは60分以上5時間以下、又は
ii)温度:80℃以上90℃未満、時間:30分以上、好ましくは30分以上16時間以下、より好ましくは30分以上5時間以下、又は
iii)温度:90℃以上100℃未満、時間:10分以上、好ましくは10分以上10時間以下、より好ましくは10分以上2時間以下。
殺菌工程は、発酵工程を行う槽で行ってもよいし、別の装置を用いて行ってもよい。長時間の加熱とする場合には、自動温度調整機能のついた装置を用いるのがよい。
【0018】
<<エクオール原料>>
本発明の方法において、原料として、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を用いる。
該エクオール原料は、文字通り、エクオールの原料として用いられるものであれば、その形態は問わない。
エクオール原料は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいればよく、その形態は問わない。例えば、ダイゼイン配糖体そのもの、ダイゼインそのもの、又はジヒドロダイゼインそのものであっても、それらを含有するもの、例えば大豆、大豆加工物、大豆胚軸、大豆胚軸加工物、例えば大豆抽出物、大豆胚軸抽出物、大豆胚軸抽出物精製物が挙げられ、具体的には市販イソフラボンであってもよい。
【0019】
エクオール原料は、水に溶解し難いため、及び/又は、発酵工程での反応効率のため、粒度は細かい方がよく、例えば好ましくは1mm以下、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは100μm以下であるのがよいが、特にその粒度に限定されない。粒度は、培地に懸濁した後に、上記粒度になることが望ましい。
【0020】
<<培地>>
培地は、後述の発酵工程でエクオールを発酵させるのに適した培地であれば特に限定されず、例えば実施例において用いた培地等を使用することができる。また、使用するエクオール生産菌が栄養要求性や特性を有するのであれば、それに適した栄養成分を添加することができる。
【0021】
本発明で用いられる培地には、水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
ソルボース、フラクトース、グルコース等の糖類;
メタノール等のアルコール類;
吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸等有機酸類、またはこれらの塩。
【0022】
炭素源として培地に加える有機物の濃度は、効率的に培地中の微生物、特に嫌気性微生物を発育させるために適宜調節することができる。
【0023】
培地には、窒素源を加えることができる。
本発明において、窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。好ましい無機窒素源は、アンモニウム塩、及び硝酸塩である。より好ましい無機窒素源は、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダである。一方、好ましい有機窒素源はアミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類、肉エキス、肝臓エキス、消化血清末等である。より好ましい有機窒素源はアルギニン、システイン、シスチン、シトルリン、リジン、酵母エキス、ペプトン類である。
【0024】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、エクオールの製造に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。たとえば、ビタミン等の補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、嫌気性微生物の増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0025】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
【0026】
これらの無機化合物やビタミン類、あるいは増殖補助因子を添加して培養液を製造する方法として、従来公知の手法を用いることができる。培地は、液体、半固体、あるいは固体とすることができる。本発明において、好ましい培地の形態は、液体培地である。
【0027】
本発明の培地は、デキストリン類を含むことができる。デキストリン類を含む培地で嫌気性微生物を培養すれば、培養後に改めて培養物にデキストリン類を接触させることなく、エクオールおよびデキストリン類を含む液を調製することができる。
デキストリン類の培地への添加は、微生物の培養前および培養中に行うことができる。
【0028】
本発明の培地に、消泡剤 好ましくは、大豆油、より好ましくは、ビタミンE入り大豆油を含めることができる。
【0029】
<<前培養工程>>
本発明の方法は、発酵工程前に、殺菌工程とは別に、エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物をエクオールの生産能力を損失せず、かつ十分に増殖するのに適した条件で培養する工程(「前培養工程」などともいう。本明細書において、「エクオール原料を資化してエクオールを産生する能力」を、単に「エクオール産生能」という場合がある。)を有してもよい。
エクオールの生産能力を損失せず、かつ十分に増殖するのに適した条件とは、エクオールの生成活性を持つ微生物、例えば嫌気性微生物の生存と活動が維持される条件をいう。より具体的には、嫌気性微生物の生存が可能な気相条件(嫌気性条件)が維持され、当該嫌気性微生物の活性と増殖を支持するための栄養素が与えられることをいう。
微生物の生存、例えば嫌気性微生物の生存に適した種々の培地組成が公知である。したがって、後述するエクオールの産生能を有する微生物、例えば嫌気性微生物について、当業者は、適切な培地組成を選択することができる。たとえば、後段の発酵工程で使用する培地と同等の成分を有する培地や、実施例において用いた培地等を使用することができるがこれらに限定されない。
【0030】
本願の方法において、後述の微生物、特に嫌気性微生物は、公知の微生物の培養方法にしたがって培養することができる。工業的な製造には、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム (continuous fermentation system)を使用することもできる。
【0031】
本願の方法において、嫌気性微生物を用いる場合には、発酵槽内への酸素の混入を防ぐのがよい。発酵槽は、通常用いられる発酵槽がそのまま利用できる。また、本願の方法においては、水の沸点である100℃を越えることなく殺菌工程を実施することから、第一種圧力容器でなくとも良い。内容物を加熱するためのジャケットや内部コイルを有した装置であれば、好適に使用することができる。
発酵槽内に混入する酸素を、窒素等の不活性気体で置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることができる。
【0032】
<発酵工程>
本発明の方法は、上記殺菌工程後に、また、存在する場合、前培養工程後に、発酵工程を有する。
発酵工程は、上述のエクオール原料を、エクオール産生能を有する微生物により発酵させる工程である。
なお、上述したとおり、発酵工程は、殺菌工程で行った槽で行ってもよいし、別の装置を用いて行ってもよい。
【0033】
<<微生物>>
本発明の方法における発酵工程は、エクオール産生能を有する微生物を用いる。
本発明の方法において用いる微生物は、上記エクオール原料からエクオールを産生する能力を有する微生物であれば、特に限定されない。
微生物として、嫌気性微生物を挙げることができる。該嫌気性微生物は、例えば、37℃付近(例えば30~42℃)の温度でエクオールを産生することができる。
【0034】
なお、エクオール産生能は、培養物中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン、エクオール等を定量することにより確認することができる。これらの定量は、当業者であれば、例えばWO2012/033150、特開2012-135217、特開2012-135218、特開2012-135219等の記載に基づき行うことができる。これらの定量方法の一例を以下に示す。
【0035】
例えば、培養液に酢酸エチルを加えて、激しく攪拌した後遠心し、酢酸エチル層を取り出す。必要に応じて同培養液に同様の操作を数回行い、それら酢酸エチル層を合わせてエクオール抽出液を得ることができる。この抽出液をエバポレーターで減圧下に濃縮、乾固し、メタノールに溶解させる。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜等の膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー測定サンプルとすることができる。高速液体クロマトグラフィーの条件は例えば以下のものを例示することができるがこれに限定されない。
【0036】
[高速液体クロマトグラフィー条件]
カラム:Phenomenox Luna 5uC18、2.0mm×150mm(島津ジーエルシー)
移動相:水/メタノール[55:45,v/v]
流速:0.2mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV280nm
保持時間:ジヒドロダイゼインが13.8分、ダイゼインが19.6分、グリシテインが22.5分、エクオールが25.6分、ゲニステインが35.0分
【0037】
エクオール産生する能力を有する微生物として、以下の属に分類される微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属
バクテロイデス(Bacteroides)属
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属
クロストリジウム(Clostridium)属
エガセラ(Eggerthella)属
エンテロコッカス(Enterococcus)属
エンテロハブダス(Enterorhabdus)属
ユーバクテリウム(Eubacterium)属
フィネゴルディア(Finegoldia)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属
ラクトコッカス(Lactococcus)属
パラエガセラ(Paraeggerthella)属
ペディオコッカス(Pediococcus)属
プロテウス(Proteus)属
シャーペア(Sharpea)属
スラキア(Slackia)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ベイロネラ(Veillonella)属
【0038】
エクオールを産生する能力を有する微生物として、具体的には、以下の微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)
バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)
クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp. )
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)
エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)
エンテロハブダス・ムコシコラ(Enterorhabdus mucosicola)
ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)
フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)
ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)
ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)
ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)
ラクトコッカス・エスピー(Lactococcus sp.)
パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)
シャーペア・アザブエンシス(Sharpea azabuensis)
スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)
スラキア・イソフラボニコンバーテンス(Slackia isoflavoniconvertens)
スラキア・エスピー(Slackia sp.)
ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)
ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)
ベイロネア・エスピー(Veillonella sp.)
【0039】
上記記載の微生物のうち、例えばエガセラ(Eggerthellaceae)科に分類される微生物、ビフィドバクテリアセアエ(Bifidobacteriaceae)科に分類される微生物、クロストリジアセアエ(Clostridiaceae)科に分類される微生物、コーリオバクテリアセアエ(Coriobacteriaceae)科に分類される微生物、エンテロコッカセアエ(Enterococcaceae)科に分類される微生物、ユーバクテリアセアエ(Eubacteriaceae)科に分類される微生物、モルガネラセアエ(Morganellaceae)科に分類される微生物、ペプトニフィラセアエ(Peptoniphilaceae)科に分類される微生物、ラクトバチラセアエ(Lactobacillaceae)科に分類される微生物、ストレプトコッカセアエ(Streptococcaceae)科に分類される微生物、ベイロネラセアエ(Veillonellaceae)科に分類される微生物、又はこれらの類縁微生物が挙げられる。好ましくは、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属、バクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属、クロストリジウム属、コリオバクテリウム属、エガセラ属、エンテロコッカス属、ユーバクテリウム属、フィネゴルディア属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、パラエガセラ属、ペディオコッカス属、プロテウス属、シャーペア属、スラキア属、ストレプトコッカス属、ベイロネア属、又はこれらの類縁微生物に分類される微生物であるのがよい。さらに好ましくは、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス、バクテロイデス・オバツス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロングム、クロストリジウム・エスピー、エガセラ・エスピー、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロハブダス・ムコシコラ、ユーバクテリウム・エスピー、フィネゴルディア・マグナ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・インテスティナリス、ラクトバチルス・ムコサエ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・エスピー、ラクトコッカス・ガルビエ、ラクトコッカス・エスピー、パラエガセラ・エスピー、ペディオコッカス・ペントサセウス、プロテウス・ミラビリス、シャーペア・アザブエンシス、スラキア・エクオリファシエンス、スラキア・イソフラボニコンバーテンス、スラキア・エスピー、ストレプトコッカス・コンステラタス、ストレプトコッカス・インターメディウス、ベイロネア・エスピーであるのがよい。
【0040】
上記記載の微生物のうち、特に以下に記載する微生物のいずれか又はこれらの菌と同様の種としての性質を有する類縁の菌をより好ましい微生物として挙げることができる。
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)DSM 19450株
バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)E-23-15株
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidibacterium breve)ATCC 15700株
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)BB536株
クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)HGH136株
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)Julong 732株
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)YY7918株
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)D1株
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)INIA P333株
エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)EPI1株
エンテロハブダス・ムコシコラ(Enterohabdus mucosicola)Mt1B8株
ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)D2株
フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)EPI3株
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)DPPMA114株
ラクトバチルス・インテスティナリス(Lactobacillus intestinalis)KTCT13676BP株
ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)EPI2株
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)JS1株
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)DPPMA24W株
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)DPPMASL33株
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)DPPMAAZ1株
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)INIA P540株
ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)Niu-O16株
ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)20-92株
パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)SNR40-432株
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)CS1株
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)LH-52株
シャーペア・アザブエンシス(Sharpea azabuensis)ST18株
スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)DSM 24851株
スラキア・イソフラボニコンバーテンス(Slackia isoflavoniconvertens)DSM 2200
6株
スラキア・エスピー(Slackia sp.)FJK1株
スラキア・エスピー(Slackia sp.)NATTS株
スラキア・エスピー(Slackia sp.)YIT11861株
スラキア・エスピー(Slackia sp.)TM-30株
ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)E-23-17株
ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)A6G-225株
ベイロネア・エスピー(Veillonella sp.)EP株。
【0041】
なお、上記微生物は、その寄託番号に示された寄託機関から入手することができる。各受託番号は、当該微生物が、それぞれ次の寄託機関に寄託されていることを示す。
FERM 特許生物寄託センター;International Patent Organism Depositary (IPOD)
http://unit.aist.go.jp/pod/ci/index.html
DSM German Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)
http://www.dsmz.de/
KCCM Korean Culture Center of Microorganisms
【0042】
<<発酵工程での気相>>
本発明の方法、特に本発明の方法の発酵工程は、エクオール産生菌が生育し、かつエクオールを生産できる条件であれば制限はない。該条件が嫌気下条件である場合には、例えば水素を含む1種類以上の気体からなる嫌気下で行うのがよい。この場合、気相を構成する気体は、水素を含む1種類以上の気体からなれば特に限定されないが、水素及び水素以外の1種以上の気体を有するのがよい。水素以外の気体として、嫌気条件を達成できるガスであれば、特に制限はなく、二酸化炭素、窒素、一酸化炭素等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0043】
効率よくエクオールを回収するためには、気相を構成する混合気体の発酵槽への通気量は0.001~2.0V/V/Mガス量/液量/分であることが好ましい。
【0044】
本発明では、発酵槽の温度は特に制限されるものではないが、上記微生物がエクオール産生能を発揮できる温度であるのがよく、例えば30℃~40℃、好ましくは33℃~38℃であるのがよい。
【0045】
本発明において、微生物を培養する際は常圧で行うこともできるが、加圧する場合、加圧条件は、当該微生物が生育できる条件であれば特に限定されるものではない。好ましい加圧条件としては、0.2MPa以下の範囲を挙げることができるがこれに限定されない。
【0046】
本発明の培養方法により得られた発酵培養物は、必要に応じて加熱乾燥処理あるいは噴霧乾燥処理、凍結乾燥処理により固形状にして使用することができる。加熱乾燥処理は、例えば回転ドラム乾燥機を、噴霧乾燥処理は、例えばスプレー乾燥機を、凍結乾燥処理は凍結乾燥機を使用して行うことができる。乾燥方法は、液体を乾燥できる乾燥機ならば、どのような乾燥機でも良い。乾燥処理された発酵培養物は、必要に応じて粉砕化処理に供してもよい。
【実施例0047】
本発明を以下、実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(前培養)
表1に示した組成で、pH6.9に調整した培地を、10mL嫌気性微生物培養用18mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて121℃、15分間滅菌した。この培地に、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200spmで18時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0048】
【表1】
【0049】
(本培養)
<殺菌工程>
表1に示した組成にダイゼイン1.2g/L、及びL-アルギニン3g/Lを添加し、pH6.9に調整した培地15Lを容量30Lの発酵槽に入れ、それぞれの殺菌条件で培地を殺菌した。
<発酵工程>
この培地に、上記前培養液を植菌し、37℃にて嫌気発酵を行った。発酵工程後に得られた本培養液中のエクオール濃度をHPLC法にて分析した。
【0050】
結果を表2に示す。実施例1より、殺菌温度が低い方がエクオール生産能力が高いことを確認した。
【0051】
【表2】
【0052】
〔実施例2〕
(前培養)
表1に示した組成で、pH6.9に調整した培地を、10mL嫌気性微生物培養用18mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて121℃、15分間滅菌した。この培地に、スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equlifaciens)DSM 24851株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200spmで36時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0053】
(本培養)
<殺菌工程>
表1に示した組成にダイゼイン1.2g/L、及びL-アルギニン3g/Lを添加し、pH6.9に調整した培地15Lを容量30Lの発酵槽に入れ、それぞれの殺菌条件で培地を殺菌した。
<発酵工程>
この培地に、上記前培養液を植菌し、37℃にて嫌気発酵を行った。発酵工程後に得られた本培養液中のエクオール濃度をHPLC法にて分析した。
【0054】
結果を表3に示す。実施例2より、殺菌温度が低い方がエクオール生産能力が高いことを確認した。
【0055】
【表3】
【0056】
〔実施例3〕
(前培養)
表1に示した組成で、pH6.5に調整した培地を、10mL嫌気性微生物培養用18mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラ
スチックキャップをはめて121℃、15分間滅菌した。この培地に、ラクトコッカス・エスピー(Lactococcus sp.)DCL株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200spmで24時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0057】
(本培養)
<殺菌工程>
粉末状大豆胚軸70g/L、及びL-アルギニン3g/L、ビタミンE入り大豆油2g/Lを添加し、pH6.5に調整した培地15Lを容量30Lの発酵槽に入れ、それぞれの殺菌条件で培地を殺菌した。
<発酵工程>
この培地に、上記前培養液を植菌し、37℃にて嫌気発酵を行った。発酵工程後に得られた本培養液中のエクオール濃度をHPLC法にて分析した。
【0058】
結果を表4に示す。実施例3より、殺菌温度が低い方がエクオール生産量が高まることを確認した。
【0059】
【表4】
【0060】
〔実施例4〕
(前培養)
表5に示した組成で、pH6.9に調整した培地を、10mL嫌気性微生物培養用18mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて121℃、15分間滅菌した。この培地に、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200spmで36時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0061】
【表5】
【0062】
(本培養)
<殺菌工程>
表5に示した組成にダイゼイン1.2g/L、及びL-アルギニン3g/Lを添加し、pH6.9に調整した培地1Lを容量2Lの発酵槽に入れ、それぞれの殺菌条件で培地を殺菌した。
<発酵工程>
この培地に、上記前培養液を植菌し、37℃にて嫌気発酵を行った。発酵工程後に得られた本培養液中のエクオール濃度をHPLC法にて分析した。
結果を表6に示す。実施例1より培地成分を減じたが、殺菌温度が低い方がエクオール生産能力が高くなること、並びに同等の生産性を有することを確認した。
【0063】
【表6】