(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053424
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】接合材用金属粒子
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20240408BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240408BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240408BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20240408BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240408BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240408BHJP
C22C 30/04 20060101ALI20240408BHJP
B22F 9/10 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
C22C9/02
B22F1/00 R
C22C30/02
C22C30/04
B22F9/10
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159706
(22)【出願日】2022-10-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BB05
4K017CA01
4K017DA01
4K017ED02
4K017FA02
4K017FA03
4K017FA05
4K017FA08
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD04
4K018CA02
4K018HA08
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、金属間化合物の脆さを克服して優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合材用金属粒子を提供する。
【解決手段】Sn、Sn-Cu合金およびSbを含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶を有する金属粒子であり、その組成がCu0.7~15質量%、Ni0.1~5質量%、Sb0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnであり、母相の組成がSn85~99.9質量%、Cu5質量%以下、Sb0.1~14質量%であり、かつ母相および金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる金属粒子によって上記課題を解決した。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snと、Sn-Cu合金と、Sb、BiまたはGaと、を含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶を有する、接合材用金属粒子であって、
前記金属粒子の組成が、Cu0.7~15質量%、Ni0.1~5質量%、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnであり(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
前記母相の組成がSn85~99.9質量%、Cu5質量%以下、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%であり、
前記母相中に前記金属間化合物が包含されて存在し、
粒子径が1μm~50μmであり、かつ
前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる、
ことを特徴とする接合材用金属粒子。
【請求項2】
前記金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Sb 0~3質量%、
Ni 0.1~6.5質量%、
Ge 0.001~0.1質量%、
Si 0.001~0.1質量%、
Ti 0.001~0.1質量%、
であることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子。
【請求項3】
Snと、Sn-Cu合金と、Sb、BiまたはGaと、を含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成、を有し、金属体または合金体を接合する接合構造部であって、
前記接合構造部の組成が、Cu8~45質量%、Ni0.1~5質量%、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnであり(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
前記母相の組成がSn85~99.9質量%、Cu5質量%以下、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%であり、
前記母相中に前記金属間化合物が包含されて存在し、
前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる
ことを特徴とする接合構造部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材用金属粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT(Internet of Things)の進展や、一層の省エネルギーが求められる中で、その技術の核心を担うパワー半導体の重要性が益々高まっている。しかしながら、その活用には多くの課題がある。パワー半導体は、高電圧、大電流の大きな電力を扱うことと超高速伝送から、多くの熱を発して高温となる。現行のSiパワー半導体に求められる耐熱性は約175℃程度への対応であるが、約200℃の温度に耐えるSiパワー半導体の開発が進められており、また、SiCやGaNのような次世代のパワー半導体は高速通信伝送にはデバイスの表裏面に金を使用し伝送特性を維持し、極高温耐熱性250~500℃に耐えることが要求される。
【0003】
一方、接合材に関して言えば、上述のようなSiCやGaNのような次世代のパワー半導体に求められる高い耐熱性を有する接合材は存在しない。
例えば、特許文献1に開示されているSnAgCu系接合材(粉末はんだ材料)では、約125℃程度に対応したパワー半導体に適用可能であるに過ぎず、次世代のパワー半導体に適用することができない。
【0004】
一方、本出願人は特許文献2において、外殻と、コア部とからなり、前記コア部は、金属又は合金を含み、前記外殻は、金属間化合物の網目状から成り、前記コア部を覆っており、前記コア部は、Sn又はSn合金を含み、前記外殻は、SnとCuとの金属間化合物を含む、金属粒子を提案している。この金属粒子により形成された接合部は、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度を維持することができる。
しかし、金属間化合物は脆いという弱点があり、この問題点を解決すれば、更に高い耐熱性、接合強度及び機械的強度を有する接合材を提供できることになる。
【0005】
そこで本出願人はさらに特許文献3において、SnおよびSn-Cu合金を含む母相中に、Sn、CuおよびNiからなる金属間化合物を有し、前記母相におけるSn-Cu合金および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる金属粒子を提案した。しかし、260℃加熱雰囲気以上では、金属間化合物を囲っている母相が収縮し、エンドタキシャル接合の崩壊が起きボイドの発生を助長することが判明した。したがって、高温下での過酷な環境下で使用された場合、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度を維持することができなくなる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-268569号公報
【特許文献2】特許第6029222号公報
【特許文献3】特許第6799649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、金属間化合物の脆さを克服して優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合材用金属粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、母相の収縮を起こさせない膨張金属(Sb、BiまたはGa)を母相に存在させることにより、上記エンドタキシャル接合の崩壊を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、Snと、Sn-Cu合金と、Sb、BiまたはGaと、を含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶を有する、接合材用金属粒子であって、
前記金属粒子の組成が、Cu0.7~15質量%、Ni0.1~5質量%、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnであり(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
前記母相の組成がSn85~99.9質量%、Cu5質量%以下、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%であり、
前記母相中に前記金属間化合物が包含されて存在し、
粒子径が1μm~50μmであり、かつ
前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる、
ことを特徴とする接合材用金属粒子を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、金属間化合物の脆さを克服して優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合材用金属粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた本発明の金属粒子をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした断面のSTEM像である。
【
図2】本発明の金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を説明するための図である。
【
図3A】実施例1で得られた金属粒子1断面のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3B】実施例1で得られた金属粒子1の断面のSTEM像および部分分析結果である。
【
図4A】実施例1で得られた金電極-銅基板の接合構造部を冷熱サイクル試験(TCT)に供した後の、接合構造部断面の光学顕微鏡像である。
【
図4B】実施例1で得られた接合構造部の断面のSTEM像および部分分析結果である。
【
図5】実施例2で得られた銅基板-シリコン基板の接合構造部を冷熱サイクル試験(TCT)に供した後の、接合構造部断面の光学顕微鏡像である。
【
図6A】実施例3で得られた金属粒子3をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした断面のSTEM像である。
【
図6B】実施例3で得られた金属粒子3断面のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図7】比較例で得られた金電極-銅基板の接合構造部を冷熱サイクル試験(TCT)に供した後の、接合構造部断面の光学顕微鏡像である。
【
図8】本発明における接合構造部の構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
先に、本明細書における用語法は、特に説明がない場合であっても、以下による。
(1)金属というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、金属間化合物を含むことがある。
(2)ある単体の金属元素に言及する場合、完全に純粋に当該金属元素のみからなる物質だけを意味するものではなく、微かな他の物質を含む場合もあわせて意味する。すなわち、当該金属元素の性質にほとんど影響を与えない微量の不純物を含むものを除外する意味ではないことは勿論、たとえば、母相という場合、Snの結晶中の原子の一部が他の元素(たとえば、Cu)に置き換わっているものを除外する意味ではない。例えば、前記他の物質または他の元素は、金属粒子中、0~0.1質量%含まれる場合がある。
(3)エンドタキシャル接合とは、金属・合金となる物質中(本発明では母相)に金属間化合物が析出し、この析出の最中にSn-Cu合金と金属間化合物とが結晶格子レベルで接合し、結晶粒を構成することを意味している。エンドタキシャルという用語は公知であり、例えばNature Chemisry 3(2): 160-6、2011年の160頁左欄最終パラグラフに記載がある。
【0013】
本発明の金属粒子は、Snと、Sn-Cu合金と、Sb、BiまたはGaと、を含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶を有することを特徴とする。
【0014】
図1は、下記実施例1で得られた本発明の金属粒子をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした断面のSTEM像である。
図1で示される金属粒子の粒子径は、およそ5μmであるが、本発明の金属粒子の粒子径は、例えば好適には1μm~50μmの範囲である。
図1の金属粒子を参照すると、該金属粒子は、Sn、Sn-Cu合金およびSbを含む母相140中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶120を有している。
【0015】
本発明の金属粒子は、例えばその組成が、Cu0.7~15質量%、Ni0.1~5質量%、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnである。ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る。
【0016】
本発明の金属粒子は、例えばCu8質量%、Sb、BiまたはGa5質量%、Ni0.1質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%および残部がSnからなる組成の原材料から製造することができる。例えば、該原材料を溶融し、これを窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させることにより得られる。
【0017】
本発明の金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を
図2を参照して説明する。粒状化室1は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋2を有する。蓋2の中心部には垂直にノズル3が挿入され、ノズル3の直下には皿形回転ディスク4が設けられている。符号5は皿形回転ディスク4を上下に移動可能に支持する機構である。また粒状化室1のコーン部分の下端には生成した粒子の排出管6が接続されている。ノズル3の上部は粒状化する金属を溶融する電気炉(高周波炉:従来はセラミックるつぼを使用したが、本発明ではカーボンるつぼを使用している)7に接続されている。混合ガスタンク8で所定の成分に調整された雰囲気ガスは配管9及び配管10により粒状化室1内部及び電気炉7上部にそれぞれ供給される。粒状化室1内の圧力は弁11及び排気装置12、電気炉7内の圧力は弁13及び排気装置14によりそれぞれ制御される。ノズル3から皿形回転ディスク4上に供給された溶融金属は皿形回転ディスク4による遠心力で微細な液滴状になって飛散し、減圧下で冷却されて固体粒子になる。生成した固体粒子は排出管6から自動フィルター15に供給され分別される。符号16は微粒子回収装置である。
【0018】
溶融金属を高温溶解から冷却固化させる過程は、本発明の金属粒子を形成するために重要である。
例えば次のような条件が挙げられる。
溶解炉7における金属の溶融温度を600℃~800℃に設定し、その温度を保持したまま、ノズル3から皿型回転ディスク4上に溶融金属を供給する。
皿形回転ディスク4として、内径35mm、回転体厚さ5mmの皿形ディスクを用い、毎分8万~10万回転とする。
粒状化室1として、9×10-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15~50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10-1Pa以下とする。
【0019】
また、本発明の金属粒子における母相の組成は、Sn85~99.9質量%、Cu5質量%以下(例えば0.3~5質量%)、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%および不可避不純物0.1質量%以下であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の金属粒子における金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Sb 0~3質量%、
Ni 0.1~6.5質量%、
Ge 0.001~0.1質量%、
Si 0.001~0.1質量%、
Ti 0.001~0.1質量%、
であるであることが好ましい。
また、本発明の金属粒子における金属間化合物の割合は、金属粒子全体に対し、例えば20~60質量%であり、30~40質量%が好ましい。
前記金属間化合物は、前記母相中に包含されて存在する。
【0021】
前記母相および金属間化合物の組成および割合は、前記金属粒子の製造条件に従うことにより満たすことができる。
【0022】
本発明の金属粒子は、前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることが好ましい。上述のように、エンドタキシャル接合とは、金属・合金となる物質中(本発明では母相)に金属間化合物が析出し、この析出の最中にSn-Cu合金と金属間化合物とが結晶格子レベルで接合し、結晶粒を構成するものである。エンドタキシャル接合の形成により、金属間化合物の脆さの課題を解決できるとともに、下記で説明するSnの結晶構造の変化による機械的強度の低下も抑制でき、更に高い耐熱性、接合強度及び機械的強度を有する接合材を提供できる。なお、本発明の金属粒子を用いて形成された接合部は、金属粒子のエンドタキシャル接合が維持されることを本発明者らは確認している。
本発明の金属粒子のエンドタキシャル接合は、上述のように、本発明の金属粒子を形成するための、溶融金属を高温溶解から冷却固化させる条件にしたがって形成することができる。
【0023】
また本発明の金属粒子において、エンドタキシャル接合は、前記母相におけるSn-Cu合金と金属間化合物結晶との接合面の全体を100%としたとき、30%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。前記エンドタキシャル接合の割合は、例えば次のようにして算出できる。
下記
図1で示すような金属粒子の断面を電子顕微鏡写真撮影し、Sn-Cu合金と金属間化合物結晶との接合面を任意に50か所サンプリングする。続いて、その接合面を画像解析し、下記実施例で示すようなエンドタキシャル接合が、サンプリングした接合面に対してどの程度存在するのかを調べる。
【0024】
Snの結晶構造は、約13℃~約160℃の温度領域では正方晶(なお、正方晶の結晶構造を有するSnをβ-Snという。)であり、これより低い温度領域になると立方晶(なお、立方晶の結晶構造を有するSnをα-Snという。)に結晶構造が変化する。また、β-Snの結晶構造は、約160℃を超える温度領域で高温相結晶の斜方晶に変化する(なお、斜方晶の結晶構造を有するSnをγ-Snという。)。そして、とりわけ正方晶のβ-Snと立方晶のα-Snの間の相転移時には、大きな体積変化が生じることが一般的に知られている。
本発明の金属粒子は、約160℃以下でも(たとえば、常温でも)高温相結晶を含有している。たとえば、この金属粒子を含む接合材を接合工程で加熱する際に、当該接合材を完全には溶融させない半溶融状態とし、金属間化合物と母相とのエンドタキシャル接合を含む状態とすれば、冷却後の160℃以下の温度領域でも高温相結晶を含む状態を維持する。そして、かかる高温相結晶は、ある程度まで温度を下げても、正方晶の低温相結晶β-Snへの相転移を起こしにくく、正方晶のβ-Snに相転移しないままのSnについては、α-Snへの相転移が生じず、温度の低下によるα-Snへの相転移に伴う大きな体積変化が生じない。したがって、160℃以下の温度領域でも(たとえば、常温でも)高温相結晶を有するSnを含む接合材は、Snを組成に含む他の接合材(すなわち、160℃以下の温度領域でも高温結晶相を意図的には含ませていないもの)よりも、温度変化による体積変化が低減される。
また、電子部品には、Cu、Ag、Au、Niその他さまざまな金属が用いられるが、Snは、これらのさまざまな金属と良好に接合する。
したがって、本発明の金属粒子は、幅広い温度領域で(たとえば、常温でも)高温相結晶相を含有し、正方晶の低温相β-Snが生じることを出来る限り回避することによって、温度変化による正方晶のβ-Snから立方晶のα-Snへの相転移に伴う大きな体積変化を起こしにくいという性質を有し、かつ、電子部品に用いられるさまざまな金属とも良好に接合するため、とりわけ微細な接合箇所の接合材料に有用である。
【0025】
上記Snの結晶構造の変化の抑制による効果は、金属粒子中のエンドタキシャル接合によって良好に奏される。
【0026】
本発明の金属粒子は、シート状あるいはペースト状に加工し、これを接合対象物に接した状態で160℃~180℃を3分以上保持し235℃~265℃で溶融させた上で固化させることにより、良好な接合を形成することができる。
本発明の金属粒子を材料に含むシートは、当該金属粒子を、例えば、以下のようにローラーで圧接することによって得ることができる。すなわち、対向する向きに回転する一対の圧接ローラーの間に、本発明の金属粒子を供給し、圧接ローラーから金属粒子に約100℃から150℃程度の熱を加えて、金属粒子を圧接することによりシートが得られる。
また例えば、Snより導電性が高いCu、Ni合金粒子、水素化Ti粉末と、本発明の金属粒子(IMC粒子)とを組み合わせると、導電性がよく、かつ、比較的幅広い温度領域で体積変化が抑制されることからセラミック等の異質接合材シートを作ることができ、放熱機能を有する接合材として機能する機材を得ることもできる。
【0027】
また、本発明の金属粒子を有機ビヒクル中に混在させて、導電性ペーストを得ることもできる。
【0028】
なお、前記シートまたは前記導電性ペーストは、SnAgCu系合金粒子、Cu、Cu合金粒子、Ni、Ni合金粒子またはこれらの混合物のような他の粒子を加え、金属粒子との混合物としてもよい。これら他の粒子は、必要に応じてSiのような金属でコートされていてもよい。
例えば、Snより導電性が高いCuやNi合金粒子と金属粒子とを組み合わせると、導電性がよく、かつ、比較的幅広い温度領域で体積変化が抑制された金属接合層が得られる。
【0029】
本発明の接合構造部は、前記本発明の金属粒子を用いて形成することができる。
図8は、本発明における接合構造部の構造を説明するための模式断面図である。
図8において、接合構造部300は、対向配置された基板100、500に形成された金属/合金体101、501(
図8ではCu電極)を接合する。接合構造部300は、前記組成を有し、前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることを特徴とし、前記母相が、前記金属体または合金体101、501と接合している。
【0030】
基板100,500は、半導体素子を備え、例えばパワーデバイスなどの電子・電気機器を構成する基板であり、金属/合金体101,501は、電極、バンプ、端子またはリード導体などとして、基板100,500に一体的に設けられている接続部材である。パワーデバイスなどの電子・電気機器では、金属/合金体101,501は、一般にはCuまたはその合金として構成される。もっとも、基板100,500に相当する部分が、金属/合金体で構成されたものを排除するものではない。
【0031】
本発明の接合構造部は、本発明の金属粒子を用いて形成することができる。該金属粒子を用いて加熱後に得られる本発明の接合構造部は、該金属粒子の結晶構造と同様の結晶構造を有することが、本発明者らによって確認されている(ただし、金属/合金体101,501がCuを含む場合は接合構造部にCuがさらに加わる)。
【0032】
本発明の接合構造部は、Snと、Sn-Cu合金と、Sb、BiまたはGaと、を含む母相中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiを含む金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成を有し、
前記接合構造部の組成が、Cu8~40質量%、Ni0.1~5質量%、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%、残部がSnであり(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
前記母相の組成がSn85~99.9質量%、Cu5質量%以下、Sb、BiまたはGa0.1~14質量%であり、Ge0.001~0.1質量%、Si0.001~0.1質量%、Ti0.001~0.1質量%であり、
前記母相中に前記金属間化合物が包含されて存在し、
前記母相および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の接合構造部における前記金属間化合物の組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Sb 0~3質量%、
Ni 0.1~6.5質量%、
Ge 0.001~0.1質量%、
Si 0.001~0.1質量%、
Ti 0.001~0.1質量%、
であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の接合構造部における金属間化合物の割合は、接合構造部に対し、例えば20~60質量%であり、30~40質量%が好ましい。
【0035】
本発明の接合構造部は、前記母相におけるSn-Cu合金および前記金属間化合物の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることが好ましい。エンドタキシャル接合は、前記母相におけるSn-Cu合金と金属間化合物との接合面の全体を100%としたとき、30%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0036】
また、本発明の接合構造部は、前記Sn-Cu合金及び/または前記金属間化合物が、金属/合金体101,501とエピタキシャル接合している構造を有するのも好ましい形態である。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0038】
実施例1
原材料としてCu8質量%、Sb5質量%、Ni0.1質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%および残部がSnからなる組成の原材料を用い、
図2に示す製造装置により、直径約3~13μmの金属粒子1を製造した。
その際、以下の条件を採用した。
溶解炉7に溶融るつぼを設置し、その中に上記原材料を入れ、650℃で溶融し、その温度を保持したまま、ノズル3から皿型回転ディスク4上に溶融金属を供給した。
皿形回転ディスク4として、直径35mm、回転盤厚さ3~5mmの皿形ディスクを用い、毎分8万~10万回転とした。
粒状化室1として、9×10
-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15~50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10
-1Pa以下とした。
【0039】
得られた金属粒子1は、前記
図1に示すような断面を有しており、金属粒子1断面のEDSによる元素マッピング分析を行ったところ(
図3A参照)、金属粒子の組成はCu7.32質量%、Sb4.35質量%、Ni0.13質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%、残部Snであることが判明した。
また、金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成は、
Sn 50~65質量%、
Cu 30~45質量%、
Sb 1~2.5質量%、
Ni 0.3~0.5質量%、
Ge 0.001質量%、
Si 0.001質量%、
Ti 0.001質量%
であることが判明した。
【0040】
また、金属粒子1における金属間化合物は、金属粒子中、30~35質量%を占めていた。
【0041】
図3Bは、実施例1で得られた金属粒子1の断面のSTEM像および部分分析結果である。
図3B左下部を参照すると、Sn、Sn-Cu合金およびSbを含む母相140中に、Sn、Cu、Ni、Ge、SiおよびTiからなる金属間化合物120が包含されて存在していることが分かる。また、
図3B右部の拡大図によれば、母相140におけるSn-Cu合金と金属間化合物120との間で、格子定数(および結晶方位)が揃い、それぞれの結晶が、連続的に結晶格子レベルで接合していることが確認された。すなわち、
図3B右部の拡大図によれば、格子の接合が実現していることからエンドタキシャル接合であることが確認され、なおかつ、
図3B左上部の母相140と金属間化合物120の界面の透過型電子回折パターンによれば、その結晶間にはバッファー層がないことも確認された。
【0042】
また
図3Bから、本実施例の金属粒子1におけるSnの少なくとも一部が、常温下でも高温相結晶を含有していることが分かった。
【0043】
次に、金属粒子1を乾粉圧接してシートを作成し、当該シートを金電極と銅基板との接合に用い、接合構造部を形成して、260℃の高温保持試験(HTS)を行ったところ、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約50MPaから約60MPaまで上昇し、100時間超の時間領域では、ほぼ60MPaで安定するという試験結果が得られた。
また、(-40~200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約50MPaで安定するという試験結果が得られた。
その結果を
図4Aに示す。
図4A下段は
図4A上段の一部拡大図である。
図4Aの結果から、実施例1で作成した接合構造部は、クラック等が全く見られず、このことから、過酷な温度変動に対しても、金属間化合物の脆さを克服して優れた接合強度および機械的強度を維持できることが分かる。
また、実施例1で作成した接合構造部の断面のSTEM像および部分分析結果を
図4Bに示す。
図4Bの左図は、実施例1で作成した接合構造部の断面のSTEM像であり、中央図はその拡大写真であり、右図は更なる拡大写真である。
図4Bの右図から、母相140におけるSn-Cu合金と金属間化合物120との間で、それぞれの結晶が、連続的に結晶格子レベルで接合していることが確認された。すなわち、
図4Bの右図から、格子の接合が実現していることからエンドタキシャル接合であることが確認され、なおかつ、
図4Bの右図の母相140と金属間化合物120の界面の透過型電子回折パターン(Diffraction pattern)によれば、その結晶間にはバッファー層がないことも確認された。
【0044】
実施例2
原材料としてCu15質量%、Sb質量4.26質量%、Ni0.22質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%および残部がSnからなる組成の原材料を用いて、実施例1と同様に金属粒子2を製造した。
また、金属粒子2においても、母相のSn-Cu合金と金属間化合物との間で、
図3Bに示すようなエンドタキシャル接合が確認された。
【0045】
次に、金属粒子2を70質量部と、90質量%Cu・10質量%Ni合金粉末30質量部とを均一に混合し、乾粉圧接してシートを作成した(50μm厚)。当該シートを銅基板とシリコン素子の接合に用い、260℃の高温保持試験(HTS)を行ったところ、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約60MPaから約70MPaまで上昇し、100時間超の時間領域では、ほぼ60MPaで安定するという試験結果が得られた。
また、(-40~200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約50MPaで安定するという試験結果が得られた。
その結果を
図5に示す。
図5下段は
図5上段の一部拡大図である。
図5の結果から、実施例2で作成した接合構造部は、クラック等が全く見られず、このことから、過酷な温度変動に対しても、金属間化合物の脆さを克服して優れた接合強度および機械的強度を維持できることが分かる。
【0046】
実施例3
Cu8質量%、Sb0.3質量%、Ni0.9質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%および残部がSnからなる組成の原材料を用いて、実施例1と同様に金属粒子3を製造した。
【0047】
得られた金属粒子3は、
図6Aに示すような断面を有しており、金属粒子3断面のEDSによる元素マッピング分析を行ったところ(
図6B参照)、金属粒子の組成はCu8.26質量%、Sb1.0質量%、Ni0.09質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%、残部Snであることが判明した。また、金属粒子3においても、母相のSn-Cu合金と金属間化合物との間で、
図3Bに示すようなエンドタキシャル接合が確認された。
また、金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成は、
Sn 50~65質量%、
Cu 30~45質量%、
Sb 0.1~0.5質量%、
Ni 0.3~0.5質量%、
Ge 0.001質量%、
Si 0.001質量%、
Ti 0.001質量%
であることが判明した。
【0048】
次に、金属粒子3を70質量部と、90質量%Cu・10質量%Ni合金粉末30質量部とを均一に混合し、乾粉圧接してシートを作成した(50μm厚)。当該シートを銅基板とシリコン素子の接合に用い、260℃の高温保持試験(HTS)を行ったところ、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約60MPaから約70MPaまで上昇し、100時間超の時間領域では、ほぼ60MPaで安定するという試験結果が得られた。
また、(-40~200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約50MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0049】
比較例
なお比較例として、実施例1の原材料においてCu8質量%、Sb0質量%、Ni0.1質量%、Ge0.001質量%、Si0.001質量%、Ti0.001質量%および残部がSnからなる組成の原材料を用いたこと以外は、実施例1を繰り返し、接合構造部を形成し、(-40~200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)を行い、金電極-銅基板の接合構造部の断面を光学顕微鏡像で観察した。
その結果を
図7に示す。
図7下段は
図7上段の一部拡大図である。
図7の結果から、比較例で作成した接合構造部は、クラックが発生し、このことから、過酷な温度変動に対して接合強度および機械的強度の維持が不可であることが分かった。
【0050】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。