(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053453
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】製造方法および塑性加工方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/05 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
D06M11/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159751
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆弘
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AB01
4L031BA08
4L031DA11
(57)【要約】
【課題】繊維と氷とを含む充填材において、圧縮強さを良好にする。
【解決手段】製造方法は、塑性加工の対象となる被加工材の空隙に充填する充填材を製造する方法であって、繊維と氷とを圧密することで充填材を製造する工程を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性加工の対象となる被加工材の空隙に充填する充填材を製造する方法であって、
繊維と氷とを圧密することで充填材を製造する工程を含む
製造方法。
【請求項2】
前記工程では、水を保持させて凍結した繊維を圧密することで、前記充填材を製造する
請求項1の製造方法。
【請求項3】
前記工程では、前記凍結した繊維と、氷片とを圧密することで、前記充填材を製造する
請求項2の製造方法。
【請求項4】
前記工程では、氷点下以下まで冷却した繊維と、氷片とを圧密することで、前記充填材を製造する
請求項1の製造方法。
【請求項5】
前記工程では、前記被加工材の空隙に充填された前記氷と前記繊維とを圧密することで、前記充填材が製造される
請求項1の製造方法。
【請求項6】
被加工材を塑性加工する方法であって、
繊維と氷とが圧密された充填材が、被加工材の空隙に充填された状態で、当該被加工材を塑性変形する工程を含む
塑性加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工に用いられる充填材の製造方法および当該充填材を用いて塑性加工する塑性加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工材を所定の形状に塑性変形する各種の塑性加工方法が従来から提案されている。例えば被加工材(例えば管状の被加工材)の内側の空隙に充填材を充填した後に、被加工材を各種の加工(例えば、押し出し加工、曲げ加工および引き抜き加工など)により塑性変形させる塑性加工方法が知られている。そして、被加工材を塑性変形させた後に、被加工材の空隙に充填していた充填材を除去する。
【0003】
充填材は、被加工材の不正な変形を抑制するために用いられ、被加工材の変形に耐え得る強度と延性とが必要になる。充填材としては、例えば金属(例えば鉛や低融点金属)が用いられていた。しかし、金属中に有害物質(例えば鉛やカドミウム)が含有されることが環境面からも問題であった。したがって、近年は、以上のような塑性加工方法は用いられにくいという事情があった。
【0004】
以上の事情から、塑性加工方法において金属以外の充填材が望まれていた。そこで、例えば、特許文献1には、金属に代えて繊維強化氷を加工部材の空隙に充填する技術が開示されている。繊維強化氷は、水と繊維とを混合したスラリーを凍結させた氷である。具体的には、被加工材の空隙にスラリーを充填した後に、氷点下の温度でおいて冷却することで、当該空隙に繊維強化氷が充填された状態にする。そして、被加工材の空隙に繊維強化氷が充填された状態で、当該被加工材を塑性変形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、水と繊維とを含むスラリーを調整する際に繊維を均一に混合することが難しい場合があった。繊維を均一に混合することが難しい原因としては、(1)水の比重と繊維の比重とが相違すること、(2)繊維濃度が高くなると、水と繊維とを撹拌する際に抵抗が高くなること、および、(3)繊維同士が絡みつきやすいことである。そして、繊維が均一に混合されないと、繊維強化氷の圧縮強さが低下する恐れがあった。以上の事情を考慮して、本発明では、繊維と氷とを含む充填材において、圧縮強さを良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明に係る製造方法は、塑性加工の対象となる被加工材の空隙に充填する充填材を製造する方法であって、繊維と氷とを圧密することで充填材を製造する工程を含む。
【0008】
[2]前記工程では、水を保持させて凍結した繊維を圧密することで、前記充填材を製造する[1]の製造方法。
【0009】
[3]前記工程では、前記凍結した繊維と、氷片とを圧密することで、前記充填材を製造する[2]の製造方法。
【0010】
[4]前記工程では、氷点下以下まで冷却した繊維と、氷片とを圧密することで、前記充填材を製造する[1]の製造方法。
【0011】
[5]前記工程では、前記被加工材の空隙に充填された前記氷と前記繊維とを圧密することで、前記充填材が製造される[1]の製造方法。
【0012】
[6]本発明に係る塑性加工方法は、被加工材を塑性加工する方法であって、繊維と氷とが圧密された充填材が、被加工材の空隙に充填された状態で、当該被加工材を塑性変形する工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る製造方法は、繊維と氷とを圧密することで充填材が製造されるから、例えば繊維と氷とを含むスラリーを凍らすことで充填材を製造する方法と比較して、充填材中に繊維を均一に分散させることができる。ひいては、充填材の圧縮強さを良好にすることができる。
【0014】
本発明に係る塑性加工方法は、繊維を均一に分散された充填材が用いられるから、多様な塑性加工(特に大きい荷重が必要な塑性加工)においても安定的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る充填材の製造工程(場合A)を説明する模式図である。
【
図2】実施形態に係る充填材の製造工程(場合A)を説明する模式図である。
【
図3】実施形態に係る充填材の製造工程(場合A)を説明する模式図である。
【
図4】実施形態に係る充填材の製造工程(場合B)を説明する模式図である。
【
図5】実施形態に係る充填材の製造工程(場合B)を説明する模式図である。
【
図6】実施例に係る圧縮試験で用いた実験装置の模式図である。
【
図7】実施例に係る圧縮試験の手順を示す説明図である。
【
図8】実施例においてロードセルで測定される荷重の推移を示すグラフである。
【
図9】実施例に係る圧縮試験で得られた公称応力-公称ひずみ線図である。
【
図10】低融点合金および鉛の公称応力-公称ひずみ線図である。
【
図11】変形例に係る製造工程を説明する説明図である
【
図12】変形例に係る製造工程および加工工程を説明する説明図である
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る塑性加工方法について説明する。本発明の塑性加工方法は、被加工材の空隙に充填材が充填された状態で、当該被加工材を所望の形状に塑性変形する。充填材は、被加工材の不正な変形を抑制するために用いられ、被加工材の変形に耐え得る強度と延性とが必要になる。なお、被加工材は、典型的には管である。したがって、被加工材の空隙とは、管の内側(内周面側)をいう。
【0017】
<充填材>
本発明に係る充填材は、繊維と氷とを含む充填材である。具体的には、繊維と氷とを圧密することで充填材が製造される。すなわち、充填材は、氷により相互に接着された多数の繊維の凝集体であるとも換言できる。なお、充填材の製造方法については、後述する。
【0018】
なお、本発明において、「氷」とは、「水が氷点下の温度において固体になったもの」(岩波国語辞典第五版)であり、水の凝固状態にあるものと言うことができる。「水」には、自然水(天然水)、水道水、蒸留水、純水および再生水等の各種の水が含まれる。そして、水の種類に応じて微量に含まれる諸成分は相違し、当該諸成分の種類や含有量に応じて凝固温度には差異がある。なお、本発明に係る充填材は、氷中おける繊維の分散性、氷と繊維との親和性、または、凝固点温度の調整等を踏まえて、補助剤や着色剤等を含有していてもよい。
【0019】
本実施形態に係る繊維は、水を保持可能な繊維である。繊維が水を保持する態様は、繊維の内部に水が保持されている態様、および、繊維の表面に水が保持されている態様(すなわち繊維の表面が水で被覆される態様)の何れであってもよい。
【0020】
水を保持可能であれば繊維自体は、親水性および疎水性の何れの繊維であってもよい。なお、疎水性の繊維を用いる場合には、表面に親水性を持たせるための(すなわち表面に水素結合供与体または水素結合受容体を表面に付与するための)表面処理を行った繊維を用いる。繊維の表面処理には、公知の物理化学処理やコーティング処理が任意に採用される。疎水性の繊維の表面に親水性をもたせることで、繊維の表面で水を保持することが可能になる。
【0021】
充填材に用いられる繊維としては、公知の繊維であれば任意であり、例えば、天然自然繊維(例えば、ケナフ、バガスおよび稲わら等の草本植物の繊維、または、杉やエゾマツ等の木質材の繊維)、紙、古紙、再生紙等の紙由来の繊維、パルプ繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維、カーボンナノチューブ繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、および、金属繊維等が例示される。なお、パルプ繊維の場合には、水中で古紙を離解したものとして用いることもできる。繊維の大きさ(繊維長や繊維径)は、上記に例示した各種の繊維で一般的に採用される得る範囲内である。
【0022】
充填材における繊維および氷の含有量は、充填材の圧縮強さを十分に維持する観点から、以下の通りである。充填材中の繊維の含有量は、例えば10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは15質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上50質量%以下である。一方で、充填材中の氷の含有量は、例えば10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは20質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上75質量%以下である。
【0023】
充填材の圧縮強さは、例えば25MPa以上であり、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは35MPa以上である。なお、充填材の圧縮強さの上限値は、特に限定されないが、例えば100MPa程度である。
【0024】
充填材における公称ひずみが0.2のときの公称応力は、例えば15MPa以上であり、好ましくは20MPa以上であり、より好ましくは25MPa以上である。なお、充填材における公称ひずみが0.2のときの公称応力の上限値は、特に限定されないが、例えば100MPa程度である。
【0025】
圧縮強さと、公称ひずみが0.2のときの公称応力とは、圧縮試験を用いて得られる公称応力-公称ひずみ線図から算出される。圧縮試験は、例えば、加工最大圧力と想定される圧力下における氷の融点より低い温度で、静的条件(例えばφ25h25の試験片の場合1mm/min以下の圧縮速度)、または、一般的な塑性加工のひずみ速度とされる純静的条件10-4~10-1S-1以下の速度で行う。
【0026】
なお、圧縮強さおよび公称ひずみが0.2のときの公称応力は、特に、鉛や低融点合金と同等の約20MPa以上であると、鉛や低融点合金の充填材の代替物として性能が良好であると言える。
【0027】
<塑性加工方法>
本実施形態の塑性加工方法は、上述した充填材を製造する工程(以下「製造工程」という)と、充填材が空隙に充填された状態で被加工材を所望の形状に塑性変形する工程(以下「加工工程」という)と、塑性変形後の被加工材から充填材を除去する工程(以下「除去工程」という)とを含む。
【0028】
(1)製造工程
製造工程は、繊維と氷とを圧密することで充填材を製造する。本実施形態の製造工程では、水を保持させて凍結した繊維(以下「凍結繊維」)を圧密することで充填材を製造する。本実施形態では、充填材を被加工材の空隙中で製造する場合を例示する。具体的には、凍結繊維を被加工材の空隙に充填した後に圧密することで、充填材を製造する。すなわち、充填材の製造と、被加工材の空隙への被加工材の充填とが同時に行われる。
【0029】
凍結繊維は、水を保持させた状態で繊維を凍結することで製造する。凍結繊維の具体的な製造方法は、以下の通りである。まず、繊維に水を保持させる。具体的には、所望する量の繊維と水とを計量して、計量後の水に繊維を浸すことで、繊維に水を保持させる。水に繊維を浸すことで、繊維と水とを含む混合物が得られる。上述した通り、繊維の内部または繊維の表面に水を保持させる。
【0030】
水と繊維とを含む混合物中の繊維の含有量は、例えば10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは15質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上50質量%以下である。一方で、水と繊維とを含む混合物中の水の含有量は、例えば10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは20質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上75質量%以下である。
【0031】
以下の説明では、水を保持した繊維状態の繊維を「含水繊維」と表記する。湿ってはいるが水でべとべとしてないような状態になるまで繊維に完全に水を保持(含水)させて含水繊維とすることが好ましい。以上のような含水繊維を容器内で凍結することで、繊維同士が相互にばらばらになった凍結繊維が製造できる。製造された凍結繊維20は、例えば数ミリ程度のフレーク状になる。なお、凍結繊維は、適宜に砕いて使用してもよい。繊維の凍結には、公知の任意の冷凍機が用いられる。繊維を凍結する条件(温度や時間)は、繊維を凍結可能であれば任意である。
【0032】
ここで、計量した水が繊維に全て保持された場合(以下「場合A」という)と、計量した水の全てが繊維に保持されなかった場合(以下「場合B」という)とに場合分けして、説明する。なお、場合Aおよび場合Bの双方において、繊維は水を保持している状態である。
【0033】
[場合A]
【0034】
図1から
図3は、場合Aの製造工程を説明するための模式的な工程図である。製造工程において、被加工材10における一方(下形)の開口は任意の部材で塞がれている。
【0035】
図1に例示される通り、場合Aでは、まず、凍結繊維20を被加工材10の空隙に充填する。凍結繊維20は、例えば、被加工材10の空隙に十分(高さ方向の全体にわたり)に充填される。
【0036】
次に、被加工材10の空隙に充填された凍結繊維20を圧密する。圧密することで、凍結繊維20同士の間にあった隙間がなくなる(または十分に少なくなる)。凍結繊維20を圧密する方法は、任意である。例えば、
図2に例示される通り、被加工材10の空隙に挿入可能な押圧部材R(例えばパンチ)で、空隙内の凍結繊維20を押圧する。パンチは、例えば、プレス機に接続され、プレス機により下方に移動する。
【0037】
凍結繊維20の圧密は、凍結繊維20の凝集体の高さが変化しなくなるまで(すなわち十分に凍結繊維20が圧密されたと判断されるまで)続けられる。そして、凍結繊維20が圧密されると、
図3に例示される通り、多数の繊維が氷で相互に接着された充填材30が被加工材10の空隙に充填される。なお、充填材30が所望される高さになっていない場合には、追加で凍結繊維20を充填した後に、再度圧密を行うことも想定され得る。また、充填材30が被加工材10の変形に耐え得る強度を有していれば、充填材30における空隙(すなわち繊維間の隙間)の有無や空隙率は任意である。
【0038】
以上の説明から理解される通り、場合Aは、水を保持させて凍結した凍結繊維20を圧密することで、充填材30を製造する方法である。なお、被加工材10における高さ方向の全体にわたり充填材30が充填されている必要はなく、少なくとも被加工材10における塑性加工の対象となる部分に充填材30が充填されていればよい。
【0039】
[場合B]
図4および
図5は、場合Bの製造工程を説明するための模式的な工程図である。場合Aと同様に、場合Bにおいても、被加工材10における一方(下形)の開口は任意の部材で塞がれている。
【0040】
図4に例示される通り、場合Bでは、凍結繊維20とともに、計量した水のうち繊維に保持されなかった分と同量の水を凍結した氷のフレーク(以下「氷片40」という)を、被加工材10の空隙に充填する。なお、含水繊維と、繊維に保持されなかった分の水とは、例えばフィルター等で適宜に分離する。繊維に保持されなかった分の水の量は、適宜に計量され、繊維に保持されなかった分の水そのものを計量することで特定してもよいし、凍結繊維の重量から特定してもよい。
【0041】
氷片40については、隙間なく圧密する観点からは、例えば、粒子状(球状)になるように製造することが好ましく、繊維長さや繊維径より小さくなるように製造することがより好ましい。なお、氷片40の製造には、凍結繊維20の製造と同様に、公知の任意の冷凍機が用いられる。
【0042】
凍結繊維20と氷片40とは、十分に撹拌された状態(すなわち凍結繊維20が均一に分散された状態)で被加工材10の空隙内に充填されるようにする。
【0043】
次に、被加工材10の空隙に充填された凍結繊維20と氷片40とを圧密する。凍結繊維20および氷片40を圧密する方法は、任意である。例えば、
図5に例示される通り、場合Aと同様に、押圧部材Rを用いて空隙内の凍結繊維20と氷片40とを押圧する。
【0044】
そして、凍結繊維20および氷片40が圧密されると、場合A(
図3)と同様に、多数の繊維が氷で相互に接着された充填材30が被加工材10の空隙内で製造される。なお、充填材30が被加工材10の変形に耐え得る強度を有していれば、充填材30における空隙(すなわち繊維間の隙間)の有無や空隙率は任意である。
【0045】
以上の説明から理解される通り、場合Bは、水を保持させて凍結した凍結繊維20と、氷片40とを圧密することで、充填材30を製造する方法である。
【0046】
なお、凍結繊維20を圧密することで充填材30を製造する製造工程には、氷片40を用いずに凍結繊維20を圧密する場合Aと、凍結繊維20を氷片40とともに圧密する場合Bとの双方が包含される。場合Aおよび場合Bの何れの方法においても、繊維と氷とが所望する割合で含有された充填材30が製造できる。
【0047】
ここで、水と繊維とを混合させたスラリーを空隙に充填した後に凍結することで充填材を得る方法(以下「比較例」という)を想定する。なお、比較例は、例えば特許文献1である。比較例では、以下の(1)~(3)の原因により、繊維を均一に混合することが難しい場合があった。
(1)水の比重と繊維の比重とが相違すること
(2)繊維濃度が高くなると、水と繊維とを撹拌する際に抵抗が高くなること
(3)繊維の種類によっては繊維同士が絡みつきやすいこと
そして、繊維が均一に混合されないと、繊維強化氷の圧縮強さが低下する恐れがあった。
【0048】
それに対して、本実施形態の製造工程では、凍結繊維を圧密することで充填材が製造されるから、比重の影響もなく、充填材の繊維濃度が高い場合においても凍結繊維が均一に分散された状態で圧密され、さらには、凍結繊維同士が絡みにくい。したがって、比較例と比較して、繊維が均一に分散した充填材を得ることができる。ひいては、充填材の圧縮強さが良好になる。なお、場合Bでは、所望する氷の含有量に応じた水の全量が繊維に保持されない場合でも、所望する含有量で氷が含有される充填材を製造できるという利点がある。
【0049】
また、比較例では、水と繊維とを混合させたスラリーを被加工材の空隙内で凍結することで充填材を得ることから、充填材を得る時間が長時間にわたる。それに対して、本実施形態では、被加工材の空隙内に凍結繊維を投入後に圧密することで充填材が得られるから、比較例と比較して、充填材を得るまでの時間が短時間で済む。なお、本実施形態に係る製造工程では、例えば1秒~1分程度で充填材が得られる。
【0050】
本発明は、塑性加工の対象となる被加工材の空隙に充填する充填材を製造する方法であって、上述した製造工程を含む製造方法としても観念できる。
【0051】
(2)加工工程
加工工程では、被加工材の空隙に充填材が充填された状態で、当該被加工材を所望の形状に塑性変形する。具体的な塑性加工の手法は、所望する形状に応じて、適宜に変更し得る。例えば、特許文献1(特許6837655号公報)に記載の各種の手法(例えば、押し出し加工,曲げ加工,ねじり加工,引き抜き加工など)が、本実施形態の塑性加工方法においても適用できる。
【0052】
(3)除去工程
除去工程では、塑性加工後の被加工材から充填材を除去する。被加工材から充填材が除去可能であれば、除去の方法は任意である。例えば、被加工材から抜去して充填材を除去してもよいし、氷を融解させて充填材を流動化させて除去してもよい。
【0053】
以上の説明から理解される通り、本実施形態に係る塑性加工方法では、圧縮強度が良好な充填材が用いられるから、多様な塑性加工(特に大きい荷重が必要な塑性加工)においても安定的に用いることができる。
【0054】
以下、本実施形態の一例に係る充填材を実施例として詳述する。ただし、本発明は、実施例には限定されない。
【実施例0055】
実施例に係る充填材について圧縮試験を行った。実施例に係る充填材は、繊維の含有量が30重量%になるように製造した。まず、事前準備として、古紙をミルサーで砕いて、離解させてばらばらにしてパルプ繊維を取り出した。そして、このパルプ繊維70gに水30gを含水させて凍結することで凍結繊維を製造した。
【0056】
図6は、圧縮試験で用いた実験装置の模式図である。
図6に例示される通り、実験装置は、円筒状のキャビティ(貫通孔)を有するステンレス製のコンテナと、当該コンテナの下方に配置された受圧板と、キャビティ内に挿入可能なパンチと、パンチの上方側に配置されるロードセルとを具備する。コンテナの下面と、受圧板の上面(コンテナの下面と対向する面)とは、研削および研磨されている。コンテナは上部プレートに支持され、受圧板は下部プレートに支持されている。上部プレートおよび下部プレートは、クッションピン(ノックアウト)で連結される。
【0057】
図7は、充填材の製造から当該充填材の圧縮試験を行うまでの一連の実験手順(工程1~工程4)を説明する説明図である。実験は、コンテナと受圧板とが当接した状態で開始される。工程1では、キャビティの上部から液体窒素(-186℃)を導入し、コンテナを予冷する。次に、圧密時において空隙率が0%となるように重量計算して計量したフレーク状の凍結繊維を、キャビティの上部から投入する。
【0058】
工程2では、パンチを上部プレートの上方からキャビティ内に挿入することで、φ25h25の円筒状の充填材が形成されるように、凍結繊維を圧密する。なお、パンチによる凍結繊維の圧密には、プレス機(サーボプレス)を用いた。
【0059】
工程3では、凍結繊維の圧密が完了すると、ただちにクッションピンが上昇する。そして、コンテナを支持する上部プレートを、パンチの肩部に当接するまで上昇させて、コンテナと受圧板との間に高さ25mmの隙間を作る。コンテナと受圧板との間に高さ25mmの隙間が作られた状態において、パンチの下面とコンテナの下面とは面一の状態にある。
【0060】
工程4では、パンチとコンテナとを一体で下降させることで、充填材の圧縮試験(円筒圧縮試験)を行う。
図8は、ロードセルで測定される荷重の推移を示すグラフである。圧縮試験では、ロードセルにおいて、圧密荷重とクッション圧との和、および、圧縮試験荷重とクッション圧との和が測定される。そして、ロードセルにより測定した荷重からクッション圧を減算することで、目標とする計測値(充填材に加えた荷重)を得ることができる。なお、以上に説明した圧縮試験は、同一の条件により3回繰り返して行った。また、プレス機(サーボプレス)のモーションを制御することで、工程2~工程4を行った。
【0061】
図9は、圧縮試験で得られた充填材の公称応力-公称ひずみ線図の一例を示す。圧密は位置制御により行っているため、荷重を制御できないが、本実験では、圧密圧力(パンチの荷重をパンチ先端の面積で除した値)は77.8MPaに達した。
【0062】
全ての圧縮試験において公称応力-公称ひずみ線図がほぼ重ったことから、公称応力-公称ひずみ線図の再現性が非常に良好であることが確認できた。すなわち、本発明に係る充填材は、非常に安定的に製造できると言える。
【0063】
実施例に係る充填材において、圧縮強さに相当する最大公称応力(3回における平均値)は、プレス機の最大の生産速度で、約46.5MPaとなった。それに対して、比較例(特許文献1)で製造された充填材(繊維強化氷)の最大公称応力(3回における平均値)は、約30MPaであった。すなわち、本発明に係る充填材は、比較例に係る充填材と比較して、圧縮強さが十分に高いことが確認された。以上の結果から、本発明の充填材は、繊維が均一に分散していると言える。
【0064】
実施例に係る充填材において、公称ひずみ0.2のときの公称応力(3回における平均値)は、約28.1MPaであった。
図9には、従来から充填材として用いられている低融点合金(Bi
49Pb
18Sn
12In
21)および鉛(Fine grained Pb)の公称応力-公称ひずみ線図が図示されている。実施例に係る充填材における公称ひずみ0.2のときの公称応力は、低融点合金(Bi
49Pb
18Sn
12In
21)および鉛(Fine grained Pb)の公称ひずみ0.2のときの公称応力よりも上回ることが確認できる。以上のことから、本発明の充填材は、塑性加工において低融点合金や鉛に代えて使用することが可能であると言える。
【0065】
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0066】
(1)前述の形態(場合Aおよび場合B)では、被加工材の空隙内で充填材を得る構成を例示したが、例えば被加工材とは別の金型で製造した充填材を使用する構成も採用される。以上の構成では、被加工材の空隙の形状に対応した金型で、繊維と氷とを圧密することで充填材を得る。そして、得られた充填材を加工工程の際に被加工材の空隙に充填させる。
【0067】
(2)前述の形態では、凍結繊維を(または氷片とともに)圧密することで充填材を製造する方法を例示したが、氷と繊維とが圧密された充填材を製造する方法は以上の例示には限定されない。例えば、疎水性の繊維(すなわち水が保持できない繊維)の場合には、氷点下以下まで冷却した繊維と、所望する量の氷片とを圧密することで、充填材を製造してもよい。以上の方法においても、前述の形態で上述したのと同様の効果が得られる。以上の方法では、特に、水分を保持できない繊維においても充填材が製造できるという利点がある。
【0068】
以上の説明から理解される通り、本発明において、繊維と氷とを圧密することで製造される充填材には、水を保持させた状態で凍結した凍結繊維(すなわち氷が付着または含有された繊維)を(または氷片とともに)圧密する方法、および、繊維とともに氷片を圧密する方法の双方が包含される。
【0069】
(3)前述の形態では、押圧部材により繊維と氷とを圧密することで充填材を製造したが、繊維と氷とを圧密する方法は以上の例示には限定されない。例えば、流体(液体または気体)を用いて繊維と氷とを圧密する方法も採用される。被加工材の空隙(または金型)内で繊維と氷とを所定の流体で圧密した後に、当該流体を放出する。
【0070】
(4)前述の形態において、充填材の製造工程において、氷が融解しないように、事前に被加工材の空隙内を氷点下以下に予冷してもよい。予冷には、例えば液体窒素などが用いられる。
【0071】
(5)前述の形態では、被加工材として管状の部材を例示したが、被加工材は管状の部材には限定されない。被加工材の周囲の空隙に充填材を充填することが可能であれば、被加工材の形状は任意である。
【0072】
(6)
図11は、変形例に係る充填材の製造工程を説明する図である。
図11は、被加工材の空隙内で充填材を製造する場合を想定する。
図11に例示される通り、被加工材の周囲に加工工程で用いられる成形用金型が設置された状態で、充填材の製造工程を行う。成形用金型には、所望する形状に応じた空隙が設けられている。ここで、被加工材の強度が凍結繊維の圧密圧力に対して低い場合がある。この場合、凍結繊維の圧密時に被加工材が予期せぬ変形をしてしまう恐れがある。そこで、凍結繊維の圧密時の内圧に対抗できるように、製造工程においては成形用金型の空隙内に流体圧をかけることが好ましい。空隙に流体圧をかけた状態で凍結繊維を圧密して充填材を製造する。そして、空隙内の流体圧を放出した後に加工工程を行う。
【0073】
または、
図12に例示される通り、充填材の製造工程においては、成型用金型の空隙がない位置で凍結繊維の圧密を行い、加工工程においては、塑性加工の対象となる部分(充填材が充填された部分)を当該空隙の位置に移動させた後に塑性加工を行ってもよい。すなわち、製造工程では、金型で被加工材の外周面を保持することで、被加工材の予期せぬ変形が防止される。
【0074】
なお、製造工程において被加工材の予期せぬ変形を防ぐ方法は、
図11および
図12の構成には例示されない。また、
図11および
図12に例示される通り、凍結繊維の押圧は、上方および下方の双方から押圧部材により行ってもよい。
図11および
図12では、便宜的に押し出し工法により塑性加工を行う場合を例示したが、以上の構成は、その他の各種の工法(例えば曲げ加工など)においても適用できる。