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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053466
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/38 20060101AFI20240408BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F16F1/38 Z
F16F7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159775
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】久米 廷志
(72)【発明者】
【氏名】水崎 雅薫
(72)【発明者】
【氏名】堀部 裕矢
(72)【発明者】
【氏名】太田 峻輔
【テーマコード(参考)】
3J059
3J066
【Fターム(参考)】
3J059AD04
3J059BA42
3J059BC01
3J059BC04
3J059BC06
3J059DA18
3J059EA02
3J059EA06
3J059EA20
3J059GA02
3J059GA09
3J066AA07
3J066BA01
3J066BB01
3J066BB04
3J066BC05
3J066BD05
3J066BE01
(57)【要約】
【課題】中間スリーブに対するブラスト処理や吹付け処理等を中間スリーブの全体に有効に施すことで安定した品質を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との径方向間を周方向に延びる筒状の中間スリーブ18が本体ゴム弾性体16に固着された筒形防振装置10であって、中間スリーブ18には、軸方向に延びるスリット22が形成されており、スリット22には中間スリーブ18のスリット22に対する周方向両側部分を相互に連結する連結部24が設けられており、連結部24が周方向に対して傾斜して延びる傾斜部28を備えている。
【選択図】図11A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる筒状の中間スリーブが該本体ゴム弾性体に固着された筒形防振装置であって、
前記中間スリーブには、軸方向に延びるスリットが形成されており、
該スリットには、該中間スリーブの該スリットに対する周方向両側部分を相互に連結する連結部が設けられており、
該連結部が周方向に対して傾斜して延びる傾斜部を備えている筒形防振装置。
【請求項2】
前記中間スリーブは、軸方向の向きが不問とされる対称形状とされている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記連結部の前記傾斜部は、周方向に対する傾斜角度が一定とされている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記連結部の前記傾斜部が軸方向に対して傾斜して延びている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記連結部の前記傾斜部が軸方向に延びており、
該連結部には、該傾斜部の軸方向外側に湾曲接続部が設けられており、
該傾斜部の両端が該湾曲接続部によって前記中間スリーブの前記スリットに対する周方向両側部分に連結されている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間を周方向に延びる筒状部を備えており、該筒状部が本体ゴム弾性体によって該インナ軸部材及び該アウタ筒部材に連結される筒形防振装置用の中間スリーブであって、
前記筒状部には、軸方向に延びるスリットが形成されており、
該スリットには、該筒状部の該スリットに対する周方向両側部分を相互に連結する連結部が設けられており、
該連結部が周方向に対して傾斜して延びる傾斜部を備えている中間スリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンションブッシュやエンジンマウント等に適用される筒形防振装置と、筒形防振装置用の中間スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のサスペンションブッシュやエンジンマウント等に適用される筒形防振装置が知られている。筒形防振装置は、例えば実開平2-034839号公報(特許文献1)に開示されたブッシュのように、インナ軸部材(内筒)とアウタ筒部材(外筒)が本体ゴム弾性体(ゴム状弾性体)で連結された構造を有している。
【0003】
また、筒形防振装置において、例えばねじり方向の低動ばね特性と軸直角方向の高動ばね特性との両立等を目的として、筒状の中間スリーブが採用される場合がある。中間スリーブは、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間を周方向に延びるように配されて、本体ゴム弾性体によってそれらインナ軸部材及びアウタ筒部材と連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2-034839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、中間スリーブは、全周に亘って連続する筒状であってもよいが、例えば特許文献1には、周方向の一部がスリットで分割された中間スリーブ(中間筒)が示されている。これによれば、アウタ筒部材の縮径加工時に、スリット幅が狭くなることで中間スリーブの縮径変形が許容されて、アウタ筒部材と中間スリーブの径方向間のゴムだけでなく、中間スリーブとインナ軸部材の径方向間のゴムにも予圧縮を及ぼすことが可能となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように中間スリーブにスリットを形成してC字筒状にすると、例えば、本体ゴム弾性体を加硫接着するための下処理として、多数の中間スリーブを一括でブラスト処理(ブラスト材の吹付けによる粗面処理)等する際に、ブラスト処理設備のドラム内でスリットに他の中間スリーブが入り込む場合がある。そして、スリットに他の中間スリーブが入り込むと、中間スリーブ同士の重なり合う部分が十分に処理されない場合もあるという、新規な課題が明らかになった。
【0007】
本発明の解決課題は、中間スリーブに対するブラスト処理等を中間スリーブの全体に有効に施すことで安定した品質を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【0008】
また、他の中間スリーブがスリットに入り込み難くされた、新規な構造の筒形防振装置用の中間スリーブを提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる筒状の中間スリーブが該本体ゴム弾性体に固着された筒形防振装置であって、前記中間スリーブには、軸方向に延びるスリットが形成されており、該スリットには、該中間スリーブの該スリットに対する周方向両側部分を相互に連結する連結部が設けられており、該連結部が周方向に対して傾斜して延びる傾斜部を備えているものである。
【0011】
アウタ筒部材を縮径して本体ゴム弾性体に径方向の予圧縮を及ぼす際に、スリット幅が狭くなるように中間スリーブが変形することで、中間スリーブも縮径されて、本体ゴム弾性体における中間スリーブよりも内周側の部分も有効に予圧縮される。しかも、連結部が周方向に対して傾斜する傾斜部を備えていることにより、傾斜部の角度変化を伴う連結部のせん断変形によって、中間スリーブの縮径変形を許容することができる。それゆえ、連結部の周方向での圧縮によって中間スリーブの縮径変形を許容する場合に比して、より小さな力でも中間スリーブの縮径変形を有効に生じさせることができると共に、中間スリーブの縮径時に変形態様の安定化が図られる。
【0012】
例えば、多数の中間スリーブに同時にブラスト処理等を施す際に、多数の中間スリーブを処理設備のドラムに収容した状態でドラムを動かしながら処理を行う場合がある。この際に、本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、スリットの途中に連結部が設けられていることによって、中間スリーブのスリットに対する他の中間スリーブの入り込みが連結部によって途中で阻止される。それゆえ、他の中間スリーブをスリットから外れ易くすることができて、ブラスト処理等が、スリットに対する他の中間スリーブの入り込みによって部分的に不十分になるのを防ぐことができる。従って、所期の品質を有する筒形防振装置を安定して得ることができる。また、仮に中間スリーブのスリットに対して他の中間スリーブが入り込んだ状態に保持されて、他の中間スリーブがスリットから外れなかったとしても、他の中間スリーブは連結部によってスリットの途中までしか入り込まないことから、入り込みによってブラスト処理等が及ばない面積が低減される。
【0013】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記中間スリーブは、軸方向の向きが不問とされる対称形状とされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、スリットと連結部が設けられた中間スリーブであっても、インナ軸部材、アウタ筒部材、本体ゴム弾性体等に対する相対的な軸方向の向きを規定する必要がなく、製造が容易になると共に、中間スリーブが誤った向きとされることもない。
【0015】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記連結部の前記傾斜部は、周方向に対する傾斜角度が一定とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、傾斜部の傾斜角度が一定とされていることによって、中間スリーブの縮径変形時に、傾斜部において局所的な応力集中による曲げや折れ等の変形が生じ難い。
【0017】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記連結部の前記傾斜部が軸方向に対して傾斜して延びているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、傾斜部が周方向に対してだけでなく軸方向に対しても傾斜していることで、傾斜部とスリット内面との間がスリットの軸方向端に向けて拡開する形状となる。それゆえ、例えば、傾斜部とスリット内面との間に他の中間スリーブが入り込んだとしても、他の中間スリーブがスリットに入り込んだ状態に保持され難く、容易に分離する。
【0019】
第五の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記連結部の前記傾斜部が軸方向に延びており、該連結部には、該傾斜部の軸方向外側に湾曲接続部が設けられており、該傾斜部の両端が該湾曲接続部によって前記中間スリーブの前記スリットに対する周方向両側部分に連結されているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、湾曲接続部の変形を伴う傾斜部の角度変化によって、比較的に小さな力で中間スリーブを効率的に縮径加工することができる。
【0021】
第六の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間を周方向に延びる筒状部を備えており、該筒状部が本体ゴム弾性体によって該インナ軸部材及び該アウタ筒部材に連結される筒形防振装置用の中間スリーブであって、前記筒状部には、軸方向に延びるスリットが形成されており、該スリットには、該筒状部の該スリットに対する周方向両側部分を相互に連結する連結部が設けられており、該連結部が周方向に対して傾斜して延びる傾斜部を備えているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置用の中間スリーブによれば、他の中間スリーブの筒状部がスリットの全体にわたって入り込むのを連結部によって防ぐことができて、中間スリーブのスリットに入り込んだ他の中間スリーブがスリットから外れ易くなる。
【0023】
なお、第六の態様に係る中間スリーブにおいて、第二~第五の各態様に示した構成を採用することにより、第二~第五の各態様と同様の効果を得ることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、筒形防振装置において、他の中間スリーブのスリットへの入り込みを防ぐことで、中間スリーブに対するブラスト処理等を中間スリーブの全体に有効に施して、安定した品質を実現することができる。
【0025】
また、筒形防振装置用の中間スリーブにおいて、筒状部のスリットに他の中間スリーブの筒状部が入り込むのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置の正面図
図2図1のII-II断面図
図3図1のIII-III断面図
図4図2のIV-IV断面図
図5図2のV-V断面図
図6図1に示す筒形防振装置を縮径加工前の状態で示す正面図
図7図6のVII-VII断面図
図8図6のVIII-VIII断面図
図9図7のIX-IX断面図
図10図7のX-X断面図
図11A図6に示す筒形防振装置を構成する中間スリーブの平面図
図11B図1に示す筒形防振装置を構成する中間スリーブの平面図
図12】本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置を縮径加工前の状態で示す正面図
図13図12のXIII-XIII断面図
図14図13のXIV-XIV断面図
図15A図12に示す筒形防振装置を構成する中間スリーブの平面図
図15B図15Aに示す中間スリーブを縮径加工後の状態で示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1図5には、本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置10が示されている。筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、前後方向とは図2中の左右方向を、それぞれ言う。なお、図6図10には、筒形防振装置10におけるアウタ筒部材14を縮径加工する前の状態(本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品)が示されており、以下では、縮径加工前の筒形防振装置10における各部材及び部位について説明をした後、アウタ筒部材14の縮径加工による変形について説明する。
【0029】
インナ軸部材12は、金属や合成樹脂によって形成された硬質の部材であって、厚肉小径の略円筒形状とされている。インナ軸部材12は、軸方向の向きが不問とされた対称形状とされている。
【0030】
アウタ筒部材14は、金属や合成樹脂によって形成された硬質の部材であって、インナ軸部材12に比して薄肉大径の略円筒形状とされている。アウタ筒部材14は、インナ軸部材12に比して軸方向の長さが短くされている。アウタ筒部材14は、軸方向の向きが不問とされた対称形状とされている。アウタ筒部材14の軸方向両端部の外周面は、軸方向外方へ向けて小径となるテーパ形状とされている。
【0031】
図6図10に示すように、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に挿通されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間には、筒状の中間スリーブ18が配されている。中間スリーブ18は、金属や合成樹脂によって形成された硬質の部材であって、全体として略円筒形状を有する筒状部20を備えている。本実施形態の中間スリーブ18の筒状部20は、アウタ筒部材14よりも更に薄肉とされている。筒状部20は、アウタ筒部材14よりも軸方向寸法が小さくされている。筒状部20は、インナ軸部材12よりも大径且つアウタ筒部材14よりも小径とされており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間を周方向に延びている。筒状部20は、インナ軸部材12の外周面に対して外周へ離隔していると共に、アウタ筒部材14の内周面に対して内周へ離隔している。
【0032】
図11Aに示すように、中間スリーブ18の筒状部20には、周方向の一部にスリット22が形成されている。スリット22は、筒状部20の軸方向に延びており、筒状部20の軸方向両端に開口している。スリット22の軸方向両端の開口は、筒状部20の周方向において相互に略同じ位置に配置されている。
【0033】
スリット22には、連結部24が設けられている。連結部24は、筒状部20に一体的に設けられて、全体として周方向に延びており、筒状部20におけるスリット22の幅方向両側の壁部(スリット22を周方向に外れた両側部分)を相互に連結している。スリット22は、連結部24によって軸方向の両側に二分されており、筒状部20の軸方向各一端に開口する分割スリット22a,22bによって構成されている。換言すれば、連結部24は、スリット22を構成する分割スリット22a,22bの軸方向間を周方向に延びて設けられており、分割スリット22a,22bを相互に隔てている。分割スリット22a,22bは、筒状部20の軸方向端から軸方向の途中まで延びており、反対側の軸方向端までは達していない。なお、スリット22の幅方向とは、スリット22の形成部分における筒状部20の周方向を言う。
【0034】
連結部24の両端部は、中間スリーブ18におけるスリット22の幅方向(筒状部20の周方向)の両側部分につながる接続端部26,26とされている。連結部24における接続端部26,26の間には、傾斜部28が設けられている。傾斜部28は、周方向に対して傾斜して延びている。本実施形態の傾斜部28は、周方向に対する傾斜角度θ1が90度よりも小さくされており、軸方向に対しても傾斜している。本実施形態の傾斜部28は、周方向に対する傾斜角度θ1が全長にわたって略一定とされて、直線的に延びている。傾斜部28の幅寸法は、接続端部26の幅寸法以下とされており、特に接続端部26における傾斜部28とは反対側の端部の幅寸法(軸方向寸法)よりも小さくされている。接続端部26は、傾斜部28の幅方向端縁と連続する形状を有しており、一方の分割スリット22aの軸方向長さが図11A中の左方から右方へ向けて徐々に大きくなっていると共に、他方の分割スリット22bの軸方向長さが図11A中の左方から右方へ向けて徐々に小さくなっている。
【0035】
本実施形態の中間スリーブ18は、連結部24の中央を通って筒状部20の径方向(図11A中の紙面直交方向)に延びる対称軸Lに関する180度の回転対称形状とされており、軸方向の向きが不問とされる形状となっている。
【0036】
中間スリーブ18が配されたインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間には、図6図10に示すように、本体ゴム弾性体16が形成されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体16の径方向の中間には、中間スリーブ18が加硫接着されており、本体ゴム弾性体16が中間スリーブ18の内周側と外周側に分けられている。これにより、本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12と中間スリーブ18の筒状部20とを連結する内周ゴム30と、中間スリーブ18の筒状部20とアウタ筒部材14とを連結する外周ゴム32とを含んで構成されている。中間スリーブ18は、表面の略全体が本体ゴム弾性体16によって覆われており、内周ゴム30と外周ゴム32とが一体的に連続している。
【0037】
内周ゴム30の軸方向両端部には、軸方向外方へ向けて開口しながら周方向に連続して延びる内周すぐり溝34が形成されている。また、外周ゴム32の軸方向両端部には、軸方向外方へ向けて開口しながら周方向に延びる外周すぐり溝36が形成されている。本実施形態の内周すぐり溝34と外周すぐり溝36は、軸方向内側の底面が何れも略半円弧状の凹状面とされている。中間スリーブ18の筒状部20の軸方向端部は、内周すぐり溝34と外周すぐり溝36の径方向間にまで延び出している。また、本実施形態では、内周すぐり溝34の軸方向の深さ寸法が外周すぐり溝36よりも僅かに小さくされているが、内周すぐり溝34と外周すぐり溝36の深さ寸法は、相互に同じであってもよいし、外周すぐり溝36の方が小さくてもよい。
【0038】
本体ゴム弾性体16は、中間スリーブ18のスリット22と対応する部分に、空所38,38が形成されている。空所38,38は、本体ゴム弾性体16の各一方の軸方向端面に開口しており、分割スリット22a,22bの各一方に対応する部分に形成されている。本実施形態の空所38は、アウタ筒部材14が縮径加工される前の状態において、図6に示すような略菱形の開口形状を有していると共に、図9図10に示すように、連結部24側の端部が奥方へ行くに従って平面になっていくことで、軸方向の奥方では断面形状が略三角形になっている。要するに、空所38の断面形状は、開口から軸方向の奥方へ向けて、菱形から三角形に徐々に変化している。空所38の開口形状は、上下方向の対角線が左右方向の対角線よりも長い扁平な菱形とされている。空所38は、一部がスリット22内に位置していると共に、中間スリーブ18の筒状部20よりも内周側及び外周側まで広がっている。
【0039】
本体ゴム弾性体16の加硫成形後に、アウタ筒部材14に対して縮径加工(絞り加工)が施されることによって、図1図5に示す筒形防振装置10が形成される。筒形防振装置10は、アウタ筒部材14の縮径加工によって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間に配された本体ゴム弾性体16に径方向の予圧縮が及ぼされており、本体ゴム弾性体16の成形後の熱収縮等に起因する引張応力が低減されることから、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られている。アウタ筒部材14の縮径加工の方法は、特に限定されるものではないが、アウタ筒部材14の外周面に径方向の8方向で押し当てられる治具によってアウタ筒部材14を内周側へ押圧して縮径させる、八方絞り等の縮径方法が採用され得る。
【0040】
アウタ筒部材14が縮径変形すると、アウタ筒部材14と中間スリーブ18の間に配された外周ゴム32が径方向で圧縮されて、外周ゴム32の耐久性の向上が図られる。また、外周ゴム32の弾性(圧縮に対する反力)が中間スリーブ18の筒状部20に及ぼされることによって、筒状部20にも縮径方向の力が作用する。筒状部20は、縮径方向の入力に対して、図11Bに示すようにスリット22の幅が狭くなるように変形する。その結果、アウタ筒部材14の縮径加工によって中間スリーブ18の筒状部20も縮径変形して、中間スリーブ18とインナ軸部材12の間に配された内周ゴム30も径方向で圧縮されることから、内周ゴム30の耐久性の向上が図られる。このように、中間スリーブ18にスリット22が形成されていることによって、本体ゴム弾性体16の外周ゴム32と内周ゴム30の両方が予圧縮されて、耐久性の向上が有利に実現される。
【0041】
中間スリーブ18に縮径方向の力が及ぼされると、スリット22において筒状部20を周方向に連続させる連結部24は、傾斜部28の傾斜角度がθ1(図11A参照)からθ1よりも大きいθ2(図11B参照)に変化するように変形する。これにより、連結部24の両端間の周方向距離が短くなって、スリット22の周方向幅寸法が小さくなる。このように、連結部24が周方向に対して傾斜した傾斜部28を備えていることにより、中間スリーブ18の縮径に際して、連結部24は、周方向での圧縮変形ではなく、傾斜部28の角度変化を伴うせん断変形を生じるようになっている。それゆえ、連結部24を周方向で圧縮する場合に比して、より小さな力で中間スリーブ18を縮径することができる。なお、縮径加工後の中間スリーブ18における傾斜部28の傾斜角度θ2は、本実施形態において90度より小さくされている。
【0042】
中間スリーブ18の縮径によって、スリット22と対応する部分に形成された空所38,38は、図1図4図5に示すように、周方向の幅寸法が小さくなるように変形する。スリット22(分割スリット22a,22b)に空所38,38が形成されていることで、スリット22がゴムで充填されている場合よりも、中間スリーブ18の縮径変形に必要な力が小さくされている。蓋し、スリット22がゴムで充填されていると、当該ゴムの圧縮ばねが中間スリーブ18の縮径に対する抗力として作用することから、より大きな力が必要となるからである。本実施形態では、中間スリーブ18の縮径後にも幅狭となった空所38,38が軸方向端面に開口した状態で残っているが、例えば、各空所38の周方向両側の壁内面が相互に密着して、空所38,38が実質的に消失するようにしてもよい。
【0043】
筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に周方向に延びる中間スリーブ18が配されていることにより、軸直角方向のばねと、周方向(ねじり方向)のねじりに対するばねとの比をより大きく設定可能とされている。即ち、筒形防振装置10は、中間スリーブ18を備えていることによって、軸直角方向の高動ばね化と、ねじり方向の低動ばね化とを、両立して実現し易くなっている。このような筒形防振装置10は、例えば、自動車のサスペンションブッシュやエンジンマウント等に好適に採用される。
【0044】
ところで、中間スリーブ18は、本体ゴム弾性体16の成形前に、本体ゴム弾性体16の接着性を高めるための下処理として、ブラスト処理が施される。ブラスト処理は、中間スリーブ18の表面にブラスト材(研磨剤)を吹き付けることによって、中間スリーブ18の表面の被膜の剥離や粗面化を図ることで、本体ゴム弾性体16の接着強度を向上させる処理である。
【0045】
このブラスト処理において、多数の中間スリーブ18を一括で処理する場合がある。例えば、ブラスト処理設備が多数の中間スリーブ18を収容可能なドラム(処理容器)を備えており、当該ドラムを回転等させてドラム内で多数の中間スリーブ18を動かしながら、それら中間スリーブ18にブラスト材を吹き付けることにより、それら多数の中間スリーブ18にブラスト処理を一括で行うことができる。
【0046】
ところが、例えば、軸方向に直線的に延びるスリットを備えた従来構造の中間スリーブにおいて、上述のように多数の中間スリーブを一括でブラスト処理しようとすると、中間スリーブのスリットに他の中間スリーブ18が入り込んで重なった状態に保持されることで、当該重なり合い部分にブラスト処理が及ばない場合があった。その結果、本体ゴム弾性体16の中間スリーブに対する接着強度にばらつきが生じたり、本体ゴム弾性体16が部分的に中間スリーブから剥離するおそれもあった。
【0047】
そこで、本実施形態の中間スリーブ18は、スリット22を構成する分割スリット22a,22bの軸方向間に連結部24が設けられており、連結部24によってスリット22が軸方向に貫通していない構造とされている。これによって、中間スリーブ18のスリット22に対して他の中間スリーブ18(筒状部20)が入り込んだとしても、他の中間スリーブ18が両方の分割スリット22a,22bに亘って連続して入り込むことがなく、他の中間スリーブ18がスリット22から容易に外れて分離するようになっている。それゆえ、中間スリーブ18のスリット22に対する他の中間スリーブ18の入り込みによる重なり合いが保持されるのを防いで、ブラスト処理が中間スリーブ18の全長に及ぶようにすることで、中間スリーブ18に対する安定した下処理によって、本体ゴム弾性体16の中間スリーブ18に対する接着の安定化等を図ることができる。
【0048】
特に本実施形態では、スリット22を構成する分割スリット22a,22bがそれぞれ開口に向けて周方向で拡開する形状とされていることから、スリット22に入り込んだ他の中間スリーブ18が、スリット22からより離脱し易くなっている。
【0049】
また、中間スリーブ18のスリット22に対する他の中間スリーブ18の入り込みが保持されたとしても、他の中間スリーブ18は、一方の分割スリット22a(22b)にのみ入り込むことが可能とされており、両方の分割スリット22a,22bに亘って入り込むことがない。それゆえ、他の中間スリーブがスリットの全体にわたって入り込み得る従来構造の中間スリーブに比して、中間スリーブ18,18同士の重なり合う面積が小さくされて、重なり合いによってブラスト処理が及ばない領域が狭くなることで、接着強度のばらつき等が低減される。なお、理解を容易とするために、中間スリーブ18と他の中間スリーブ18とを区別して説明したが、上記の中間スリーブ18と他の中間スリーブ18は、何れも本実施形態に係る構造を有する実質的に同一のものである。
【0050】
図12図14には、本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置50が、アウタ筒部材14が縮径加工される前の状態で示されている。筒形防振装置50は、中間スリーブ52を備えている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、第一の実施形態と同一の符号を付すことによって説明を省略する場合がある。
【0051】
中間スリーブ52は、略円筒形状とされた筒状部54を備えている。筒状部54は、図15Aに示すように、周方向の一部にスリット56を備えている。スリット56には、軸方向の途中に連結部58が設けられており、スリット56が連結部58の両側に二分されて、分割スリット56a,56bが構成されている。分割スリット56a,56bは、筒状部54の軸方向各一端から軸方向に延びている。
【0052】
連結部58は、筒状部54と一体的に設けられており、分割スリット56a,56bの間を全体として周方向に延びて、スリット56の形成部分において筒状部54を周方向に連続させている。連結部58は、周方向に対して傾斜して延びる傾斜部60と、傾斜部60の両側に設けられた湾曲接続部62,62とを、一体的に備えている。
【0053】
傾斜部60は、周方向に対する傾斜角度θ3が略90度となる軸方向に延びており、本実施形態では、略一定断面で直線的に延びている。傾斜部60の幅寸法は、後述する分割スリット56a,56bの奥方幅狭部66,66が周方向(幅方向)両側に形成されることを考慮すれば、スリット56の幅寸法に対して1/3以下とされていることが望ましい。
【0054】
湾曲接続部62は、傾斜部60の軸方向外側に設けられており、中心角90度の円弧形状とされて、一方の端部が傾斜部60と一体的に連続していると共に、他方の端部が周方向の外側へ向けて延びている。そして、傾斜部60の軸方向両端が、湾曲接続部62を介して、筒状部54におけるスリット56を周方向に外れた両側部分(スリット56の幅方向両側の側壁構成部分)に連結されている。
【0055】
このような構造の連結部58がスリット56に設けられていることからも分かるように、分割スリット56a,56bは、何れも、軸方向の開口端部が湾曲接続部62よりも軸方向外側に位置して周方向幅寸法の大きい幅広開口部64とされていると共に、軸方向奥方が傾斜部60の周方向側方に位置して周方向幅寸法の小さい奥方幅狭部66とされている。
【0056】
本実施形態では、空所38,38が分割スリット56a,56bの奥方幅狭部66,66と対応する周方向幅寸法で形成されており、幅広開口部64,64における湾曲接続部62,62の軸方向外側に位置する部分がそれぞれ本体ゴム弾性体16と一体形成されたゴムによって充填されている。従って、本実施形態では、分割スリット56a,56bの各横断面形状(大きさを含む)が、幅広開口部64と奥方幅狭部66とによって軸方向で変化している一方、空所38の横断面形状(大きさを含む)は、軸方向奥端の先細部分を除いた略全長に亘って略一定とされている。
【0057】
そして、本体ゴム弾性体16の加硫成形後にアウタ筒部材14が縮径加工されることによって、図15Bに示すように、中間スリーブ52は、スリット56の幅寸法が小さくなるように変形して縮径される。中間スリーブ52の縮径に際して、連結部58は、傾斜部60の周方向に対する傾斜角度がθ3(図15A参照)からθ3よりも小さいθ4(図15B参照)に変化するように変形する。これにより、中間スリーブ52は、連結部が周方向に圧縮される場合に比して、小さな力で縮径変形を許容される。本実施形態では、傾斜部60の長さ方向両側が湾曲接続部62,62で構成されていることから、湾曲接続部62,62の曲率変化を伴う変形によって、傾斜部60の傾斜角度が変化するような連結部58の変形をより小さな入力によって生じさせることができる。
【0058】
このような中間スリーブ52を備えた筒形防振装置50によっても、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の筒形防振装置50は、中間スリーブ52の縮径に際して、筒状部54におけるスリット56の周方向両側部分を軸方向で相対的に変位させる反力を生じ難く、中間スリーブ52の意図しない変形の発生が回避され得る。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、本体ゴム弾性体16に形成される空所38の開口形状は、前記実施形態に示した略菱形に限定されるものではなく、楕円形を含む略円形や略長方形等であってもよい。
【0060】
連結部の具体的な形状や大きさ等は、特に限定されるものではなく、中間スリーブに対する縮径方向の入力の大きさや中間スリーブに必要な縮径変形量等を考慮して適宜に設定され得る。具体的には、例えば、連結部の傾斜部における傾斜角度が変化しており、傾斜部が湾曲形状や屈曲形状とされていてもよい。また、連結部の断面積(幅寸法)を変化させて、変形し易い部分を設けること等も可能であり、例えば、第二の実施形態の連結部58において、湾曲接続部62を傾斜部60よりも幅狭とすることで、湾曲接続部62の変形による傾斜部60の角度変化をより効率的に生じさせることも可能である。
【0061】
前記各実施形態では、スリットが中間スリーブの筒状部において周方向の一部だけに形成されている場合について例示したが、スリットは中間スリーブの筒状部において周方向の複数箇所に設けられていてもよく、各スリットに連結部が設けられる。この場合に、複数のスリット及び連結部の形状や大きさ等は、中間スリーブの縮径変形がバランスよく生じるようにする等の観点から相互に同じであることが望ましいが、相互に異なっていてもよい。
【0062】
連結部は、中間スリーブのブラスト処理等に際して、他の中間スリーブがスリットに入り込むのを抑制するものであればよく、例えば、連結部において断面積が局所的に小さくされた破断予定部を設定する等して、連結部が中間スリーブの縮径時の入力によって破断するようにしてもよい。要するに、本体ゴム弾性体が中間スリーブに固着された筒形防振装置において、連結部は必ずしもスリットの両側を連結する態様に維持されている必要はない。
【0063】
前記実施形態では、中間スリーブのスリットに対する他の中間スリーブの入り込みが発生し得る処理としてブラスト処理を例示したが、例えば、接着剤等の吹付け処理などのブラスト処理以外の中間スリーブに対する処理に際して、中間スリーブのスリットに対する他の中間スリーブの入り込みが抑制されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 筒形防振装置(第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 中間スリーブ
20 筒状部
22 スリット
22a 分割スリット
22b 分割スリット
24 連結部
26 接続端部
28 傾斜部
30 内周ゴム
32 外周ゴム
34 内周すぐり溝
36 外周すぐり溝
38 空所
50 筒形防振装置(第二の実施形態)
52 中間スリーブ
54 筒状部
56 スリット
56a 分割スリット
56b 分割スリット
58 連結部
60 傾斜部
62 湾曲接続部
64 幅広開口部
66 奥方幅狭部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B