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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053474
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】めっき部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/44 20060101AFI20240408BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C25D5/44
C23C18/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159788
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】清水 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】高尾 千広
【テーマコード(参考)】
4K022
4K024
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022BA14
4K022CA02
4K022CA04
4K022CA06
4K022CA09
4K022CA12
4K022DA01
4K024AA03
4K024AB01
4K024BA06
4K024DA06
4K024DA10
4K024GA01
(57)【要約】
【課題】めっきの均一性及び密着性が向上すると共に、めっきを行うための前処理を乾式の方法によって製造することができるニッケルめっきアルミニウム部材(めっき部材)を提供する。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されためっき部材であって、前記アルミニウム基材の表面に、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層と、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を含む触媒層とをこの順で有するアルミニウム部材、及び前記アルミニウム部材の前記触媒層上に形成された前記ニッケルめっき皮膜を備えて、前記親水性プライマー層が表面に形成された前記アルミニウム基材の表面粗さRzが3μm以上15μm以下であるめっき部材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき被膜皮膜が形成されためっき部材であって、
前記アルミニウム基材の表面に、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層と、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を含む触媒層とをこの順で有するアルミニウム部材、及び
前記アルミニウム部材の前記触媒層上に形成された前記ニッケルめっき皮膜を備えて、
前記親水性プライマー層が表面に形成された前記アルミニウム基材の表面粗さRzが、3μm以上、15μm以下である、
ことを特徴とするめっき部材。
【請求項2】
前記親水性プライマー層が表面に形成された前記アルミニウム基材の粗面化面積率が、80%以上、100%以下である、
請求項1に記載のめっき部材。
【請求項3】
前記めっき部材の断面のEDX線分析によって得られるアルミニウム、ニッケル、及び酸素の元素プロファイルについて、
アルミニウムの元素プロファイルとニッケルの元素プロファイルが交差する点を前記アルミニウム部材と前記ニッケルめっき皮膜とのAl/Ni界面とし、
ニッケルの元素プロファイルの強度が平坦な範囲にて検出される酸素の元素プロファイル強度の平均値に対する、前記Al/Ni界面にて検出される酸素の強度の最大値の比である酸素強度比が、1.5以上、50以下である、
請求項1に記載のめっき部材。
【請求項4】
前記親水性プライマー層の厚さが、1nm以上、1μm未満である、
請求項1に記載のめっき部材。
【請求項5】
前記触媒層の厚さが、10nm以上、1μm未満である、
請求項1に記載のめっき部材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のめっき部材において、
前記ニッケルめっき皮膜の厚さが、1μm以上、1mm以下であり、
前記ニッケルめっき皮膜が、前記アルミニウム基材の1又は2以上の部分にのみ形成されており、残余の部分には形成されていない、
バスバーとして用いられるめっき部材。
【請求項7】
前記金属は、金、銀、及び銅からなる貴金属、並びに白金、及びパラジウムからなる白金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のめっき部材。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されためっき部材を製造する方法であって、
前記アルミニウム基材の表面にレーザー光を照射して、前記アルミニウム基材の表面を粗面化すると共に、前記アルミニウム基材の表面にアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層を形成する表面改質工程と、
前記親水性プライマー層が形成された前記アルミニウム基材の表面に、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を付与して、前記アルミニウム基材の表面に前記めっき触媒を含む触媒層を形成する触媒付与工程と、
前記アルミニウム基材の表面に前記親水性プライマー層と前記触媒層とが形成されたアルミニウム部材にニッケルめっき処理を施して、前記アルミニウム部材の前記触媒層上に前記ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理工程と、を備え、
前記表面改質工程で前記親水性プライマー層が形成された前記アルミウム基材の表面粗さRzが、3μm以上、15μm以下である、
ことを特徴とするめっき部材の製造方法。
【請求項9】
前記触媒付与工程は、
前記アルミニウム基材に前記金属の金属化合物を含む触媒溶液を塗布して、前記アルミニウム基材に前記金属化合物を付着させる塗布ステップと、
前記金属化合物が付着した前記アルミニウム基材を焼成して、前記アルミニウム基材の表面に前記金属化合物から前記金属の酸化物を得ることで、前記めっき触媒を形成する焼成ステップと、を有する、
請求項8に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項10】
前記金属化合物が、前記金属の有機酸塩である、
請求項9に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項11】
前記焼成ステップにおいて、焼成温度が、250℃以上、500℃以下である、
請求項9に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項12】
前記触媒付与工程は、
前記アルミニウム基材に前記金属からなる金属ナノ粒子を含む触媒溶液を塗布して、前記アルミニウム基材に前記金属ナノ粒子を付着させる塗布ステップと、
前記金属ナノ粒子が付着した前記アルミニウム基材を乾燥させて、前記金属ナノ粒子による前記めっき触媒を形成する乾燥ステップと、を有する、
請求項9に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項13】
前記触媒付与工程は、
前記金属をスパッタリングして、前記アルミニウム基材に前記金属からなる金属皮膜を成膜することで、前記めっき触媒を形成するスパッタステップ、を有する、
請求項9に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項14】
前記めっき処理工程において、前記ニッケルめっき処理が電気めっきである、
請求項9に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項15】
前記金属は、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属のうち、ニッケルの還元反応を触媒する金属である、
請求項9~14のいずれか1項に記載のめっき部材の製造方法。
【請求項16】
前記金属は、金、銀、及び銅からなる貴金属、並びに白金、及びパラジウムからなる白金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である、
請求項9~15のいずれか1項に記載のめっき部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されためっき部材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量で導電性に優れ、資源も豊富であることから、最近では自動車の電動化や工場等の設備の電化のニーズ拡大に伴い、従来の銅を代替したバスバーやヒートシンク等への利用が増えている。アルミニウムは表面に酸化皮膜を形成するため、バスバーとしての利用時には主に接触抵抗を低減する目的で、ヒートシンク等で用いる場合ははんだの実装性を向上する目的で、Niめっき等のめっきが処理される。
【0003】
アルミニウム及びアルミニウム合金(これらをまとめて単にアルミニウムと言う場合がある)上にめっきを行う際は、前述の酸化皮膜が絶縁性であるために、めっきにおけるアルミニウム表面でのめっき金属イオンの還元反応が進行しにくい。更に、酸化皮膜の上に形成した金属層は密着性に乏しいため、アルミニウムの素材表面には均一で密着性のよいめっきが出来ない。そこで、めっきを行う前処理として、アルミニウム材料をジンケート浴と呼ばれる酸化亜鉛を含んだ強アルカリの浴に浸漬することで、アルミニウム表面の酸化皮膜を溶解すると共に、亜鉛の微粒子を析出させることで、表面を亜鉛によって置換するジンケート処理が行われている。ジンケート処理によって析出した亜鉛の微粒子は、めっき金属イオンの還元反応の触媒となることで還元反応が促進されて、亜鉛上に金属層が析出するので、均一で密着性に優れるめっきが可能となる。
【0004】
ただし、ジンケート処理を含んだアルミニウム材料へのめっき工程は、処理工程数が多く、各工程間で水洗を必要とするため、銅等のほかの材料へのめっきと比べ排水処理のコストが大きい。特には、亜鉛粒子を均一に成長させるためにジンケート処理を2回行うダブルジンケート処理が行われているが、この場合、水洗の回数も増加して排水処理のコストがさらに大きくなる。具体的には、ジンケート処理を行う際には、それに先駆けて、アルミニウム材料の脱脂やエッチング、デスマットが行われるが、これらの処理ではその都度の水洗が必要となり(脱脂、“水洗”、エッチング、“水洗”、デスマット、“水洗”)、また、亜鉛剥離を介した2回のジンケート処理でもその都度の水洗が必要となってしまう(一次ジンケート、“水洗”、亜鉛剥離、“水洗”、二次ジンケート、“水洗”)。
【0005】
また、電子部品や大型のバスバーの場合は、めっきが必要な箇所が限定されるので、部分めっきを行うことがある。しかしながら、一般的にアルミニウム材料へのめっきはジンケート処理等の処理工程が多く、各工程の浴は強酸性と強アルカリ性であるため、このような過酷な処理浴への繰り返しの浸漬に耐えるマスキング材料は限られ、加えて大型部材や複雑形状の部材へのマスキングは工程に手間がかかり、高価になってしまうという問題もある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基板上に形成されるNiめっきとの密着性を高めるための触媒形成として、Al-Zn合金からなる下地層をスパッタリングにより形成している。また、この特許文献1では、Niめっきの密着性を高めるため、下地層形成のために基板表面への酸処理による高粗度化処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-035428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1では、湿式処理であるジンケート処理に替えて、乾式処理であるスパッタリングによって、Niめっきのための触媒を形成する。しかしながら、スパッタリングではバッチ処理が必要となるなど、手間が掛かってしまうばかりか、コストも増大してしまう。また、特許文献1では、実際に、硝酸や塩酸、硫酸等の酸を用いた酸処理による高粗度化を行った上で、スパッタリングにより下地層を形成しており、これによりアンカー効果でNiめっきとの密着性を得ているが、このような酸処理を行うと廃液のpHの調整や、金属やスラッジの回収が必要になるなど、排水処理に手間やコストが掛かってしまい、作業環境を整えるだけでも様々な制約が生じてしまう。
【0009】
そのため、本発明の目的は、Niめっきの均一性及び密着性が向上すると共に、めっきを行うための前処理を乾式の方法によって製造することができる、ニッケルめっきアルミニウム部材(本明細書においては単にめっき部材と言う)を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このようなニッケルめっきアルミニウム部材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されためっき部材であって、
前記アルミニウム基材の表面に、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層と、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を含む触媒層とをこの順で有するアルミニウム部材、及び
前記アルミニウム部材の前記触媒層上に形成された前記ニッケルめっき皮膜を備えて、
前記親水性プライマー層が表面に形成された前記アルミニウム基材の表面粗さRzが、3μm以上、15μm以下である、
ことを特徴とするめっき部材。
[2]前記親水性プライマー層が表面に形成された前記アルミニウム基材の粗面化面積率が、80%以上、100%以下である、[1]に記載のめっき部材。
[3]前記めっき部材の断面のEDX線分析によって得られるアルミニウム、ニッケル、及び酸素の元素プロファイルについて、
アルミニウムの元素プロファイルとニッケルの元素プロファイルが交差する点を前記アルミニウム部材と前記ニッケルめっき皮膜とのAl/Ni界面とし、
ニッケルの元素プロファイルの強度が平坦な範囲にて検出される酸素の元素プロファイル強度の平均値に対する、前記Al/Ni界面にて検出される酸素の強度の最大値の比である酸素強度比が、1.5以上、50以下である、[1]に記載のめっき部材。
[4]前記親水性プライマー層の厚さが、1nm以上、1μm未満である、[1]に記載のめっき部材。
[5]前記触媒層の厚さが、10nm以上、1μm未満である、[1]に記載のめっき部材。
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載のめっき部材において、
前記ニッケルめっき皮膜の厚さが、1μm以上、1mm以下であり、
前記ニッケルめっき皮膜が、前記アルミニウム基材の1又は2以上の部分にのみ形成されており、残余の部分には形成されていない、
バスバーとして用いられるめっき部材。
[7]前記金属は、金、銀、及び銅からなる貴金属、並びに白金、及びパラジウムからなる白金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のめっき部材。
[8]アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されためっき部材を製造する方法であって、
前記アルミニウム基材の表面にレーザー光を照射して、前記アルミニウム基材の表面を粗面化すると共に、前記アルミニウム基材の表面にアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層を形成する表面改質工程と、
前記親水性プライマー層が形成された前記アルミニウム基材の表面に、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を付与して、前記アルミニウム基材の表面に前記めっき触媒を含む触媒層を形成する触媒付与工程と、
前記アルミニウム基材の表面に前記親水性プライマー層と前記触媒層とが形成されたアルミニウム部材にニッケルめっき処理を施して、前記アルミニウム部材の前記触媒層上に前記ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理工程と、を備え、
前記表面改質工程で前記親水性プライマー層が形成された前記アルミウム基材の表面粗さRzが、3μm以上、15μm以下である、
ことを特徴とするめっき部材の製造方法。
[9]前記触媒付与工程は、
前記アルミニウム基材に前記金属の金属化合物を含む触媒溶液を塗布して、前記アルミニウム基材に前記金属化合物を付着させる塗布ステップと、
前記金属化合物が付着した前記アルミニウム基材を焼成して、前記アルミニウム基材の表面に前記金属化合物から前記金属の酸化物を得ることで、前記めっき触媒を形成する焼成ステップと、を有する、[8]に記載のめっき部材の製造方法。
[10]前記金属化合物が、前記金属の有機酸塩である、[9]に記載のめっき部材の製造方法。
[11]前記焼成ステップにおいて、焼成温度が、250℃以上、500℃以下である、[9]に記載のめっき部材の製造方法。
[12]前記触媒付与工程は、
前記アルミニウム基材に前記金属からなる金属ナノ粒子を含む触媒溶液を塗布して、前記アルミニウム基材に前記金属ナノ粒子を付着させる塗布ステップと、
前記金属ナノ粒子が付着した前記アルミニウム基材を乾燥させて、前記金属ナノ粒子による前記めっき触媒を形成する乾燥ステップと、を有する、[9]に記載のめっき部材の製造方法。
[13]前記触媒付与工程は、
前記金属をスパッタリングして、前記アルミニウム基材に前記金属からなる金属皮膜を成膜することで、前記めっき触媒を形成するスパッタステップ、を有する、[9]に記載のめっき部材の製造方法。
[14]前記めっき処理工程において、前記ニッケルめっき処理が電気めっきである、[9]に記載のめっき部材の製造方法。
[15]前記金属は、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属のうち、ニッケルの還元反応を触媒する金属である、[9]~[14]のいずれか1項に記載のめっき部材の製造方法。
[16]前記金属は、金、銀、及び銅からなる貴金属、並びに白金、及びパラジウムからなる白金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である、[9]~[15]のいずれか1項に記載のめっき部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材を用いながら、アルミニウム基材の粗面化やめっき触媒の付与といっためっきを行うための前処理を全て乾式の方法にして、ニッケルめっき皮膜を備えためっき部材を得ることができる。そのため、従来のジンケート処理を用いた方法に比べて、水洗で発生する排水の量を大幅に減らすことができて、排水処理の手間やコストを削減することができ、環境への対応を含めた設備面でも有利である。しかも、得られためっき部材は、ニッケルめっき皮膜の密着性に優れたものとすることができ、銅を代替したアルミニウムによるバスバーやヒートシンク等への利用を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)は、レーザー光を照射して粗面化したアルミニウム基材の表面の拡大写真であり、図1(b)は、粗面化面積率を求める際の様子を説明する模式図である。
図2図2は、アルミニウム基材の濡れ性の様子を示す拡大写真であり、図2(a)は粗面化していないアルミニウム基材の場合であり、図2(b)はレーザー光を照射したアルミニウム基材の場合である。
図3図3(a)は、めっきの密着性試験の様子を示す模式説明図であり、図3(b)は、めっき未剥離面積率を求める様子を説明するための模式図である。
図4図4(a)は、はんだ濡れ性試験の様子を示した写真であり、図4(b)は、実際に凝固させたはんだの様子を示す拡大写真である。
図5図5は、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面における酸素強度比を求めるにあたり使用した断面試料のSEM写真の一例である(実施例1)。
図6図6は、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面における酸素強度比を求める際に使用した元素プロファイルの一例である(実施例1)。
図7図7は、めっき部材について、アルミニウム基材の粗面化面積率とめっき未剥離面積率との関係性を示すグラフである。
図8図8は、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面のSEM写真である〔(a)は300倍、(b)は1000倍、(c)は3000倍〕。
図9図9は、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面のEDX分析の結果である。
図10図10(a)は、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面を示す断面SEM写真であり、図10(b)は図10(a)の一部(破線囲み部分)を拡大したものである。
図11図11は、アルミニウム部材が有する水和酸化物の膜厚を測定する様子を示した断面SEM写真である(実施例3)。
図12図12は、リン酸クロム酸処理を行ったアルミニウム基材の表面のSEM写真である〔(a)は1000倍、(b)は3000倍〕。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のめっき部材について、その製造方法と共に詳しく説明する。本発明の以下に説明する構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.めっき部材]
本発明のめっき部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材の表面に、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層と、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を含む触媒層とをこの順で有するアルミニウム部材、及び該アルミニウム部材の触媒層上に形成されたニッケルめっき皮膜を備えたものであり、親水性プライマー層が表面に形成されたアルミニウム基材の表面粗さRzが3μm以上、15μm以下である。
【0015】
[1-1.アルミニウム部材]
<アルミニウム基材>
本発明のめっき部材は、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜とを備えたものであり、アルミニウム部材は、アルミニウム基材の表面に親水性プライマー層と触媒層とをこの順で有する。このアルミニウム部材に使用されるアルミニウム基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。アルミニウム基材には、純度100%の純アルミニウムから、合金元素の種類や添加量が異なるアルミニウム合金まで種々のものが存在する。その素材は制限されず、これを用いて形成されるめっき部材の用途や、その用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決定することができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等を用いることもできる。
【0016】
このうち、例えば、バスバーのような導電部材やヒートシンクのような冷却部材として用いる場合、電子伝導性や熱伝導性に優れ、加工が容易な展伸材であることが望ましく、なかでも、1000系合金、3000系合金、5000系合金、6000系合金を用いるのが好ましい。また、めっき部材の用途にもよるため特に制限されないが、アルミニウム基材の厚みの目安としては、一般に、0.3mm~40mm程度のものを用いることができる。
【0017】
また、アルミニウム基材は、その表面粗さRzが、通常、3μm以上、15μm以下である。アルミニウム基材の表面粗さRzが3μm以上であれば、最終的に得られるニッケルめっき皮膜の密着性が向上し、一方で、表面粗さRzが15μm以下であれば、そのニッケルめっき皮膜をアルミニウム部材の触媒層上に均一に形成することができる。つまり、表面粗さRzが下限値以上であれば、いわゆるアンカー効果が発現するが、表面粗さRzが上限値を超えて、アルミニウム基材の表面積が過度に増加すると、触媒層を形成する金属又は金属化合物の濡れ広がりが不足してしまい、触媒付与の均一性が担保できなくなる。このような観点から、アルミニウム基材の表面粗さRzは、好ましくは4μm以上、より好ましくは6μm以上、さらに好ましくは8μm以上であり、好ましくは14μm以下、より好ましくは12μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。なお、この表面粗さRzはJIS B 0601-2001に準拠する最大高さを表す。また、表面粗さRzは実施例で説明する方法で測定することができる。
【0018】
ここで、本発明におけるめっき部材の製造方法では、アルミニウム基材の表面を粗面化すると共に、後述する親水性プライマー層を形成する、表面改質を行う。アルミニウム基材の表面において、粗面化を受けると共に、親水性プライマー層が形成された領域、すなわち表面改質を受けた箇所の面積の合計を、ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理範囲の面積で除算することで、「粗面化面積率(%)」を求めることができる。粗面化面積率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であり、100%以下になるようにするのが好ましい。粗化処理をレーザー処理のみで行った場合には、レーザー光の照射によって形成された「スポットの投影面積」が、表面改質を受けた箇所の合計面積を表し、スポットの箇所とスポットの無い箇所とを合わせた「粗化処理対象範囲の投影面積」が、めっき処理範囲を表すとして、この場合の粗面化面積率は、下記の式で算出される。なお、レーザー処理に加えて、サンドブラスト処理やワイヤブラシ研削といった親水性プライマー層の形成を伴わないその他の粗化処理を行った場合には、粗化処理を受けた箇所のうち、レーザー光の照射によって形成された「スポットの投影面積」が、表面改質を受けた箇所の合計面積を表すとして、粗面化面積率は下記の式によって同様に算出される。粗面化面積率が上記数値範囲となるようにすることで、親水性プライマー層によりアルミニウム基材の濡れ性を向上させるとともに、表面の凹凸によってアンカー効果をより確実に発現させてニッケルめっき皮膜の密着性を更に向上させることができる。
粗面化面積率(%)=(スポットの投影面積/粗化処理対象範囲の投影面積)×100
【0019】
<親水性プライマー層>
アルミニウム基材の表面には、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群より選ばれる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層を有する。この親水性プライマー層は、その上に触媒層を形成する上での金属又は金属酸化物の濡れ性を高める役割を担う。
【0020】
一般に、アルミニウムは、自然酸化皮膜を有するほか、陽極酸化によって形成された陽極酸化皮膜を有したり、熱間圧延によって形成された圧延酸化皮膜を有したりする場合がある。本発明では、所定の表面粗さRzを有するアルミニウム基材を得るにあたり、後述するようなレーザー光の照射によりアルミニウム基材の表面を粗面化する上で形成される(粗面化と同時に形成される)水和酸化物皮膜を親水性プライマー層とするのが好適である。或いは、レーザー光の照射によって水和酸化物皮膜を形成した後、例えば、リン酸クロム酸処理を施して水和酸化物皮膜を除去したり、水和酸化物皮膜の膜厚を薄くしたり等の処理を施した後に残るような酸化物皮膜を親水性プライマー層として利用してもよい。
【0021】
また、めっき部材の用途によって導電性が必要となる場合、上記のような親水性プライマー層を形成する水和酸化物皮膜や酸化物皮膜は電気抵抗を高めてしまうおそれがある。特に、バスバー等の導電部材として利用する場合、大電流を流したときに発熱するなどの問題が生じることから、これらを考慮して、ニッケルめっき皮膜を形成する界面での電気抵抗の増大を抑えて導電性を確保する観点から、親水性プライマー層の厚さは、好ましくは1μm未満である。一方で、触媒層を形成する上での濡れ性を高める機能を発揮させる観点から、親水性プライマー層の厚さは、好ましくは1nm以上である。親水性プライマー層の厚さは実施例で説明する方法で測定することができる。より具体的に、親水プライマー層がアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜の場合には、親水性プライマー層は、好ましくは1μm未満、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。親水プライマー層がアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜の場合には、親水性プライマー層は、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下であり、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。
【0022】
本発明のめっき部材は、アルミニウム基材に設けられた親水性プライマー層を介した触媒層上にニッケルめっき皮膜を備えたものである。そのため、この親水性プライマー層の存在がアルミニウム基材の濡れ性を向上させ、後述する触媒層と共にニッケルめっき皮膜の均一性を高めることになる。このような親水性プライマー層の存在については、めっき部材の断面のエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)によって得られるアルミニウム、ニッケル、及び酸素の各元素プロファイルをもとに、次のようにして確認することができる。
【0023】
めっき部材の厚み方向の断面を提示する断面試料に対して、めっき部材の厚み方向に沿ってEDX線分析を行うことで、断面の元素プロファイルを得る。この元素プロファイルにおいて、アルミニウムの元素プロファイルとニッケルの元素プロファイルが交差する点をアルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面(Al/Ni界面)とする。ニッケルめっき皮膜が形成されている領域に相当する、ニッケルの元素プロファイルの強度が平坦な範囲にて検出される酸素の元素プロファイル強度の平均値(i)と、Al/Ni界面にて検出される酸素の強度の最大値(ii)との比から、酸素強度比〔(ii)/(i)〕を算出する。この酸素強度比〔(ii)/(i)〕が1.5以上であれば、親水性プライマー層を形成する水和酸化物皮膜や酸化物皮膜のような酸素含有皮膜が存在すると判断する。酸素強度比は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。一方で、Al/Ni界面で検出される酸素の実質的な存在量を考慮すると、この酸素強度比〔(ii)/(i)〕は50以下であるのが好ましい。酸素強度比は、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。
【0024】
<触媒層>
親水性プライマー層の上には、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を含んだ触媒層を備える。この触媒層は、ニッケルめっき皮膜を形成する際に、ニッケルの還元反応の触媒として機能するものである。このような金属又は金属酸化物を形成する金属としては、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属であるのがよく、好ましくは、金、銀、及び銅からなる貴金属であるか、白金、及びパラジウムからなる白金属であるか、これらからなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の金属であるのがよい。
【0025】
触媒層は、金属又は金属酸化物からなる皮膜により形成されたものであってもよく、金属又は金属酸化物からなる粒子により形成されたものであってもよい。例えば、スパッタリングにより形成されるものを挙げることができる。また、酢酸銅水溶液を塗布し、熱処理(焼成)して酢酸銅を析出させるなど、触媒の前駆体を含んだ溶液を用いて、熱処理して形成されたものを挙げることができる。また、金属ナノ粒子のような金属粒子を分散した液を塗布して乾燥させて形成されるものを挙げることができる。また、触媒層は、スパッタリングにより被膜状に形成されるものであってもよく、触媒の前駆体を含んだ溶液を用いて粒子状または繊維状に形成されるものであってもよく、金属粒子を分散した液を用いて粒子状に形成されるものであってもよい。なお、触媒層は、親水性プライマー層を有するアルミニウム基材の少なくとも一部に形成されていればよく、アルミニウム基材の全体に形成されていなくても構わない。ただし、ニッケルめっき皮膜の密着性を向上させる観点からは、触媒層は、アルミニウム基材の表面に形成された親水性プライマー層の全体に形成されていることが望ましい。
【0026】
また、この触媒層の厚さについては、ニッケルめっき皮膜が良好に形成されるのであれば特に制限はないが、上述したようなニッケルの還元反応の触媒としてより確実に機能することなどを考慮すれば、好ましくは2nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。一方で、金属酸化物の場合、例えば酸化銅(I)には電子伝導性があるとは言え、金属に比べると抵抗が高い。そのため、触媒層による電気抵抗の増大を招くおそれもあることから、めっき部材を導電部材として利用することなどを考慮すれば、好ましくは1μm未満、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。ちなみに、触媒層が金属酸化物からなる皮膜である場合には、金属酸化物の線膨張係数の小ささに起因して、熱サイクル環境下での線膨張係数差により界面に相応の内部応力が発生し、アルミニウム基材側との界面であったり、ニッケルめっき皮膜との界面、若しくは触媒層内にクラックが発生して、めっき剥離が生じることも考えられるが、触媒層の厚みが1μm未満であれば、このようなめっき剥離が防止されやすくなる。
なお、触媒層が金属からなる場合には、これらの問題が発生するおそれはないが、効果が飽和するなどの経済的な観点を含めて、その厚さの上限、下限は上記と同程度であるのがよいということができる。
【0027】
触媒層の目付量については、ニッケルめっき皮膜が良好に形成されるのであれば特に制限はないが、好ましくは0.002g/m2以上、より好ましくは0.02g/m2以上、さらに好ましくは0.1g/m2以上であり、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは10g/m2以下であり、さらに好ましくは2g/m2以下である。触媒層の目付量が上記数値範囲の下限値以上であることで、上述したようなニッケルの還元反応の触媒としてより確実に機能しやすくなる。また、触媒層の目付量が上記数値範囲の上限値以下であることで、触媒層による電気抵抗の増大を抑えてめっき部材を導電部材として利用しやすくなり、触媒層の形成に伴うコストの増加を防ぐことができる。また、触媒層が金属酸化物からなる皮膜である場合に、金属酸化物の線膨張係数の小ささに起因するめっき剥離が防止されやすくなる。
【0028】
[1-2.ニッケルめっき皮膜]
本発明におけるめっき部材では、アルミニウム部材の触媒層上に形成されたニッケルめっき皮膜を備える。このニッケルめっき皮膜は、アルミニウム基材の少なくとも一部に設けられた親水性プライマー層を介した触媒層上に形成されていればよく、めっき部材の表面の全てがニッケルめっき皮膜で覆われずに、部分的にめっき皮膜を備えたものであってもよい。また、ニッケルめっき皮膜の膜厚については特に制限されないが、例えば、バスバーのような導電部材やヒートシンクのような冷却部材として用いるなど、電子伝導性や熱伝導性等に優れたニッケルめっき皮膜とする上で、ニッケルめっき皮膜の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μ以上である。一方で、これらの特性からすれば、ニッケルめっき皮膜は厚くなればなるほど好都合であるが、効果が飽和するなどの経済的な観点から、ニッケルめっき皮膜の厚さは、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0029】
ここで、本発明のめっき部材について、配電盤や制御盤において大容量の電流を分岐する際などに使用されるバスバーとする場合、上述したように、ニッケルめっき皮膜の厚さは1μm以上、1mm以下であるのがよく、また、配電盤や制御盤における接続端子との接点となる箇所に当該ニッケルめっき皮膜が形成された、部分めっきの対応となるようにするのがよい。すなわち、コストを考慮すれば、このような接点を構成する箇所以外の残余の部分にはニッケルめっき皮膜が存在する必要はない。なお、ニッケルめっき皮膜が存在しない部分については、親水性プライマー層や触媒層が形成されないようにしてもよく、或いは、これらの一方又は両方は存在してニッケルめっき皮膜だけが形成されないようにしてもよい。
【0030】
[2.めっき部材の製造方法]
本発明におけるめっき部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材の表面にレーザー光を照射して、アルミニウム基材の表面を粗面化すると共に、該アルミニウム基材の表面にアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群よりなる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層を形成する表面改質工程と、親水性プライマー層が形成されたアルミニウム基材の表面に金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を付与して、めっき触媒を含む触媒層を形成する触媒付与工程と、これらの工程によりアルミニウム基材の表面に親水性プライマー層と触媒層とが形成されたアルミニウム部材に対してニッケルめっき処理を施して、アルミニウム部材の触媒層上にニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理工程とを備えており、表面改質工程で親水性プライマー層が形成されたアルミウム基材の表面粗さRzが3μm以上、15μm以下となるようにする。
【0031】
[2-1.表面改質工程]
先ず、表面改質工程では、アルミニウム基材の表面にレーザー光を照射して、アルミニウム基材の表面を粗面化すると共に、該アルミニウム基材の表面に前述の親水性プライマー層を形成する。レーザー光を照射するレーザー処理では、アルミニウム基材の表面に付着している油脂や汚れを吹き飛ばしたり、有機物等を分解したりするようなクリーニング効果が期待できるため、従来のジンケート処理に先駆けて行う脱脂やエッチング、デスマットが必要なくなり、それに伴う水洗が不要になる。
【0032】
また、レーザー光を照射するレーザー処理では、アルミニウム基材を表面粗さRzが3μm以上、15μm以下となるようにする粗面化すると同時に、アルミニウム基材の表面には空気中の水分と反応してアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜が形成される。このレーザー処理については、上述した表面粗さRzが得られるような条件であればよく、それに伴って水和酸化物皮膜が形成されるため特に制限はないが、例えば、波長600~1500nm程度の近赤外レーザーを発振できるレーザー装置を用いるのが好適である。
【0033】
このようなレーザー処理により、アルミニウム基材の表面にはアルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜が形成されるため、この水和酸化物皮膜を後の触媒付与工程で触媒層を形成するための親水性プライマー層としてそのまま利用することができるが、親水性プライマー層厚を低減し電気伝導性を向上する目的から、リン酸クロム酸水溶液を用いて水和酸化物皮膜を除去し、その後に残るアルミニウム酸化物を含んだ酸化物皮膜を親水性プライマー層として利用するようにしてもよい。ここで、リン酸クロム酸水溶液を用いた処理について特に制限はなく、リン酸とクロム酸とを含んだ混合水溶液による公知のリン酸クロム酸処理と同様にすることができる。リン酸クロム酸処理としては、例えば、JIS H 8688:2013「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の単位面積当たりの質量測定方法」に記載されている、試験液、試験装置、試験の前処理、及び手順の処理を利用することができる。
【0034】
リン酸クロム酸水溶液による処理を行う場合を含めて、この表面改質工程では、好ましくは、アルミニウム水和酸化物を含む水和酸化物皮膜、及びアルミニウム酸化物を含む酸化物皮膜からなる群より選ばれる少なくとも一種の皮膜を含む親水性プライマー層の厚さが1nm以上、1μm未満となるようにするのがよい。
【0035】
表面改質工程では、親水性プライマー層によってアルミニウム基材の濡れ性を向上させると共に、表面の凹凸によってアンカー効果をより確実に発現させてニッケルめっき皮膜の密着性を更に向上させることが望ましい。この観点から、めっき処理範囲において、実際にレーザー光が照射されて表面改質を受けた箇所(スポット)の面積の合計が、下記の式で表される粗面化面積率で、好ましくは、80%以上、100%以下となるようにするのがよい。
粗面化面積率(%)=(スポットの投影面積/粗化処理対象範囲の投影面積)×100
【0036】
[2-2.触媒付与工程]
次に、触媒付与工程では、親水性プライマー層が形成されたアルミニウム基材の表面に、金属又は金属酸化物からなるめっき触媒を付与して、アルミニウム基材の表面にめっき触媒を含む触媒層を形成する。上述したように、触媒層は、ニッケルめっき皮膜を形成する際に、ニッケルの還元反応の触媒として機能するものであるから、金属又は金属酸化物を形成する金属としては、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属であるのがよい。好ましくは、金、銀、及び銅からなる貴金属であるか、白金、及びパラジウムからなる白金属であるか、これらから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の金属である。
【0037】
アルミニウム基材の表面にめっき触媒を含む触媒層を形成する方法については特に制限されないが、例えば、次のような3つの方法を挙げることができる。
すなわち、第1の触媒付与方法として、アルミニウム基材に前述した金属の金属化合物を含む触媒溶液(触媒前駆体溶液)を塗布して、アルミニウム基材に金属化合物を付着させる塗布ステップと、金属化合物が付着したアルミニウム基材を焼成して当該金属の酸化物を得ることで、アルミニウム基材の表面にめっき触媒となる触媒層を形成する焼成ステップと、を有する方法である。
【0038】
この方法のように触媒溶液の塗布と焼成によれば、特に水洗を必要とせずに、アルミニウム基材の表面にめっき触媒を付与することができる。また、先の表面改質工程でアルミニウム基材の表面に形成された親水性プライマー層により濡れ性が高まっていることから、めっき触媒を均一に付与することができて、ニッケルめっき皮膜の面積率を向上させることもできる。なかでも、大面積に塗布してめっき触媒を形成することができることから、生産性の面でも有利である。
【0039】
ここで、第1の触媒付与方法の塗布ステップで用いる金属化合物として、好ましくは、前述した金属の有機酸塩であるのがよい。有機酸塩は水やエタノール等の安価な溶媒への溶解性があり、また、焼成時に窒素酸化物や硫黄酸化物、ハロゲン化合物等の有害物を生成する有害性が低いために好適である。有機酸塩を構成する有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸;こはく酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸等のジカルボン酸;乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸等のヒドロキシ酸等が挙げられる。前述した貴金属、白金属のうち、銅を例に有機酸塩を具体的に示せば、例えば、ギ酸銅〔(HCOO)2Cu・4H2O〕、酢酸銅〔(CH3COO)2Cu・H2O〕、プロピオン酸銅〔Cu(C2H5COO)2・H2O〕、クエン酸銅〔C6H4O7Cu2・2.5H2O〕、乳酸銅〔Cu(C3H5O3)2・2H2O〕、酒石酸銅〔CuC4H4O6・3H2O〕、グルコン酸銅〔[HOCH2(HCOH)4COO]2Cu〕、シュウ酸銅〔CuC2O4・0.5H2O〕のほか、フマル酸銅、マレイン酸銅、アジピン酸銅、リンゴ酸銅、こはく酸銅、酪酸銅等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができ、なかでも、好ましくは、ギ酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、乳酸銅、酒石酸銅、クエン酸銅、グルコン酸銅である。
【0040】
また、この塗布ステップにおいてアルミニウム基材に金属化合物を付着させる手段については特に制限はなく、浸漬、スプレー塗装、インクジェット、フローコーター等の公知の方法を挙げることができる。
【0041】
一方、第1の触媒付与方法における焼成ステップについては、アルミニウム基材の表面に付着した金属化合物から当該金属の酸化物を得ることができる熱処理が可能なものであれば特に制限はなく、例えば、電気炉やヒートガンによる連続的な加熱を行うようにしてもよく、アルミニウム基材に与える熱影響を抑制したい場合には、赤外線等を用いたフラッシュ加熱を行ったり、キセノンフラッシュランプや赤外線ゴールドイメージ炉等を用いたりするようにしてもよい。また、この焼成ステップにおける具体的な熱処理温度(焼成温度)については金属化合物の種類に応じて適宜設定可能であり、例えば、上述した銅の有機酸塩から酸化銅を得る場合には300℃程度の熱処理が求められる。一方で、加熱によるアルミニウム基材の軟化等を考慮すれば、焼成ステップにおける熱処理温度は250℃以上、500℃以下であるのが好ましい。
【0042】
また、アルミニウム基材の表面にめっき触媒を含む触媒層を形成する第2の触媒付与方法として、アルミニウム基材に金属ナノ粒子を含む触媒溶液を塗布して、アルミニウム基材に金属ナノ粒子を付着させる塗布ステップと、金属ナノ粒子が付着したアルミニウム基材を乾燥させて、金属ナノ粒子によるめっき触媒となる触媒層を形成する乾燥ステップと、を有する方法が挙げられる。
【0043】
この第2の触媒付与方法で用いられる金属ナノ粒子としては、前述したように、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属であって、ニッケルの還元反応を触媒する金属であればよく、好ましくは、金、銀、銅の貴金属、白金、パラジウム等の白金属のうちの1種類又は2種以上からなるものであるのがよい。
【0044】
このような金属ナノ粒子を含む触媒溶液を塗布するにあたっては、前述の第1の触媒付与方法での塗布ステップと同様、浸漬、スプレー塗装、インクジェット、フローコーター等の公知の方法を挙げることができる。また、第2の触媒付与方法では、触媒溶液中に含まれる金属ナノ粒子がアルミニウム基材に塗布されてそのままめっき触媒となるため、塗布ステップ後の乾燥ステップでは、溶媒を揮発させるのに必要な加熱処理で構わない。例えば、このような金属ナノ粒子を含む触媒溶液として、銀ナノ粒子インクを含んだ市販品のマーカーペン(三菱製紙製商品名:Circuitry Marker)等を用いることができるが、この場合には、アルミニウム基材の表面の必要箇所に銀ナノ粒子インクを塗布すれば、その後の自然乾燥により溶媒が揮発するため、インクの塗布後がそのまま乾燥ステップとなって、めっき触媒を有する触媒層を形成することができる。
【0045】
更に、アルミニウム基材の表面にめっき触媒を含む触媒層を形成する第3の触媒付与方法としては、前述の金属をスパッタリングして、アルミニウム基材に金属皮膜を成膜することで、めっき触媒となる触媒層を形成するスパッタステップを有する方法が挙げられる。第3の触媒付与方法によれば、比較的に厚さが薄く、目付量が少ない触媒層を、緻密で欠陥の少ない形で形成することができる。
【0046】
第3の触媒付与方法でスパッタリングする金属としては、前述したように、ニッケルめっき浴に溶解しない電位的に貴な金属であって、ニッケルの還元反応を触媒する金属であればよく、好ましくは、金、銀、銅の貴金属、白金、パラジウム等の白金属のうちの1種類又は2種以上からなるものであるのがよい。特には、第3の触媒付与方法には、比較的に高価な、金、白金、又はパラジウムを好適に用いることができる。
【0047】
これらの方法によりアルミニウム基材の表面にめっき触媒として形成される触媒層の厚さについては、先に述べたとおりであり、金属酸化物からなる場合、金属からなる場合共に、好ましくは2nm以上、1μm未満であるのがよい。特には、上述した第1の触媒付与方法及び第2の触媒付与方法によって触媒層を形成する場合には、触媒層の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、好ましくは1μm未満、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。また、上述した第3の触媒付与方法によって触媒層を形成する場合には、触媒層の厚さは、触媒層の厚さは、好ましくは2nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
【0048】
上述した方法によりアルミニウム基材の表面に形成される触媒層の目付量については、先に述べたとおりであり、好ましくは0.002g/m2以上であり、好ましくは100g/m2以下である。特には、上述した第1の触媒付与方法及び第2の触媒付与方法によって触媒層を形成する場合には、触媒層の目付量は、好ましくは0.01g/m2以上、より好ましくは0.05g/m2以上、さらに好ましくは0.1g/m2以上であり、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは50g/m2以下、さらに好ましくは10g/m2以下である。また、上述した第3の触媒付与方法によって触媒層を形成する場合には、触媒層の目付量は、好ましくは0.002g/m2以上、より好ましくは0.001g/m2以上、さらに好ましくは0.02g/m2以上であり、好ましくは20g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下、さらに好ましくは2g/m2以下である。
【0049】
また、触媒付与工程でアルミニウム材の表面に付与されるめっき触媒からなる触媒層は、めっき部材の用途によってニッケルめっき皮膜が必要となる箇所に部分的に設けるようにしてもよく、アルミニウム材の表面の全てに設けるようにしてもよい。
【0050】
[2-3.めっき処理工程]
次いで、めっき処理工程では、先の表面改質工程及び触媒付与工程により、アルミニウム基材の表面に親水性プライマー層と触媒層とが形成されたアルミニウム部材に対して、ニッケルめっき処理を施して、アルミニウム部材の触媒層上にニッケルめっき皮膜を形成する。ここでのめっき処理としては、ニッケルめっき皮膜を形成するための方法と同様にすることができ、公知のめっき浴(めっき液)を用いることができ、また、電気めっきによる処理であってもよく、無電解めっきによる処理であってもよいが、バスバーのような導電部材やヒートシンクのような冷却部材として利用する場合、耐食性に優れるなどの観点から、好ましくは、電気めっきによりニッケルめっき皮膜を形成するのがよい。本発明では、触媒付与工程による触媒層の存在によって、めっき処理の際の副反応の水素発生を抑えて効率良くニッケルが還元されるため、電気エネルギーが低減され、めっき浴の分解を抑制することができる。
【0051】
本発明では、前述したように、ニッケルめっき皮膜は、アルミニウム部材の一部に設ける(部分めっきする)ようにしてもよい。ニッケルめっき皮膜を部分的に設ける部分めっきを行う場合には、ニッケルめっき皮膜が不要な箇所をマスキングして、アルミニウム部材をめっき浴に浸漬するようにすればよい。
【0052】
或いは、マスキングを不要として部分めっきを行う方法として、筆めっきによるめっき処理を利用することもできる。この筆めっきとは、電気めっきを利用したものであり、電源に接続した金属棒にめっき液を染み込ませた布等を巻き付けて、部分めっきが必要な箇所にこれを触れさせてめっき処理を行うものである。筆めっきによればめっき皮膜が不要な箇所をマスクする手間を省くことができる。また、これによればめっき液が触れた箇所の洗浄のみで済ますことも可能となり、めっき処理後の洗浄やそれに伴う排水処理を削減することができる。
【0053】
また、ニッケルめっき皮膜の膜厚については、上述したように特に制限はないが、例えば、バスバーのような導電部材やヒートシンクのような冷却部材として用いる場合には、好ましくは、1μm以上、1mm以下であるのがよい。
【0054】
[3.作用効果]
本発明のめっき部材では、アルミニウム基材の表面が粗面化されていることで、アンカー効果によりニッケルめっき皮膜の密着性を向上させることができる。しかも、本発明では、アルミニウム基材に親水性プライマー層と触媒層を介してニッケルめっき皮膜が形成されているため、水和酸化物皮膜又は酸化物皮膜の親水性作用により均一なめっき皮膜を備えるめっき部材を提供することができる。
【0055】
また、本発明のめっき部材によれば、アルミニウム基材にニッケルめっき皮膜が形成されているため、例えば、バスバー等で主として利用されている銅基材の場合と比べて軽量でありながら、接触抵抗に優れためっき部材を提供することができる。更に、本発明では、アルミニウム基材の表面における表面改質をレーザー光の照射による乾式処理によって行うため、ジンケート処理での水洗を伴う湿式の前処理を行うことがなく、排水量を大幅に低減してめっき部材を提供することが可能になる。
【0056】
また、本発明のめっき部材の製造方法では、レーザー光を照射するレーザー処理によってアルミニウム基材の表面を粗面化することで、アンカー効果によりニッケルめっきの密着性を向上させる。それにより、ジンケート処理等の水洗を伴う湿式の前処理が不要となり、排水量を大幅に低減することができる。特に、本発明のめっき部材の製造方法によれば、レーザー処理による表面改質工程によってアルミニウム基材の表面の酸化皮膜を除去すると共に、水和酸化物皮膜を形成することができるため、触媒付与工程において、金属化合物又は金属粒子を含む溶液に対する濡れ性が高まることで、均一かつ極薄の触媒析出層(触媒層)が形成できて、その後に形成するニッケルめっき皮膜の密着性を向上させることができる。
【0057】
また、本発明におけるめっき部材の製造方法では、アルミニウム部材の表面に触媒層を形成したことで、めっき処理工程における副反応の水素発生を抑えて、効率よくニッケルが還元されるため、電気エネルギーを低減すると共に、めっき浴の分解が抑制することができる。しかも、本発明のめっき部材の製造方法においては、表面改質工程をレーザー光の照射によって行うため、アルミニウム基材の一部分のみの表面改質工程を行うことができる。更に、表面改質工程に続く、触媒付与工程及びめっき処理工程についても一部分のみに行うことで、部分めっきが可能となる。
【実施例0058】
以下、実施例、比較例及び試験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
【0059】
[評価方法]
<1.アルミニウム基材の表面粗さ>
キーエンス製デジタルマイクロスコープ VHX-6000を用いて、500倍の3D深度合成データを作成し、データ内の長さ約600μmの任意の直線のプロファイルよりレーザー処理後のアルミニウム基材の粗さ(JIS B 0601-2001に準拠する最大高さRz)を算出した。
【0060】
<2.アルミニウム基材の粗面化面積率>
キーエンス製デジタルマイクロスコープ VHX-6000を用いて、500倍の画像より粗面化面積率を算出した。ここで、粗面化面積率は、下記式で表されるものであり、レーザー光の照射によりアルミニウム基材の表面に形成されたスポット(レーザー光の照射箇所)の投影面積を粗化処理対象範囲の投影面積で割った値から算出した。図1(a)には、実際にレーザー光を照射して粗面化したアルミニウム基材の拡大写真が示されている。また、図1(b)は粗面化面積率を求める際の様子を示す模式説明図である。粗面化面積率が100%のものを○(良)、80%以上のものを△(可)、80%未満のものを×(不可)と判定した。
粗面化面積率(%)=(スポットの投影面積/粗化処理対象範囲の投影面積)×100
【0061】
<3.アルミニウム基材の濡れ性>
アルミニウム基材をレーザー処理した後、触媒付与工程で用いる処理液(酸化銅水溶液、又は銀ナノインク)を塗付する際に、濡れ性に劣ると液滴がアルミニウム基材の表面全体に濡れ広がらず、一部にのみ留まって乾燥してしまい、触媒層が厚く不均一に形成されることになる。一方で、濡れ性に優れれば、液滴がアルミニウム基材の表面全体に均一に濡れ広がり、触媒層が薄く均一に形成されることになる。
【0062】
そこで、実施例、比較例におけるそれぞれのアルミニウム基材の濡れ性を評価するために、イオン交換水を2μL滴下して協和界面科学製自動接触角計DMo-602を用いてθ/2法により接触角を測定した。その際、同一基材表面の3点の接触角を測定して平均値を算出した。接触角の平均値が20°未満であれば合格とし、20°以上を不合格と判定した。図4には、この濡れ性の様子を示す一例が拡大写真で示されており、図2(a)はレーザー光を照射していないアルミニウム基材の場合であり、図2(b)はレーザー光を照射したアルミニウム基材の場合である。
【0063】
<4.触媒層の目付量>
アルミニウム基材の表面に形成された触媒層の目付量について評価した。触媒付与工程の前後のアルミニウム基材の重量を測定し、前後の重量差を触媒層の目付量とした。
【0064】
<5.めっき均一性>
アルミニウム基材の表面に形成されたニッケルめっき皮膜について目視にて評価して、粗化処理及び触媒付与しためっき対象範囲に対して全面(100%)にめっき皮膜が形成されている場合を合格とし、わずかでもめっき未着部のある場合を不合格と判定した。
【0065】
<6.めっきの密着性試験>
ニッケルめっき皮膜のアルミニウム基材に対する密着性を評価するために、以下のような密着性試験を行った。すなわち、JIS H8504:1999「めっきの密着性試験方法」15.1 テープ試験方法に準拠し、試料のめっき面にニチバン製セロハンテープを貼り付け、めっき皮膜が形成されためっき面に対して垂直になるように強く引張り、セロハンテープを瞬時に引き剥がした。そのとき、目視により、めっきが完全にアルミニウム基材に残存した場合を○(良)、めっきが9割以上残存した場合を△(可)、めっきの残存が9割未満の場合(めっきが1割超剥離した場合)を×(不可)と判定した。また、セロハンテープを引き剥がした際、下記式のように、セロハンテープを貼り付けたテープ貼着面積に対して剥離せずにめっき皮膜が残っためっき未剥離面積の割合を示すめっき未剥離面積率を求めた。図3(a)には、この密着性試験の様子を示す模式説明図が示されており、図3(b)は、めっき未剥離面積率を求める様子を表す模式説明図である。
めっき未剥離面積率(%)=(めっき未剥離面積/テープ貼着面積)×100
【0066】
<7.はんだ濡れ性試験>
バスバー等の導電部材は、その表面にはんだで端子等を実装することが多い。一般に、アルミニウムははんだ濡れ性が乏しいため、はんだ濡れ性の向上目的でアルミニウム基材にニッケルめっき皮膜を形成した場合のはんだ濡れ性の向上について、次のようにして評価した。
先ず、実施例及び比較例で得られためっき部材を20mm角に裁断して試料板とし(参考としたアルミニウム基材については15mm角とした)、これをアズワン製デジタルホットプレート ND-1Aの天板上に静置し、300℃に加熱した。次いで、石崎電機製作所製ヤニ入り鉛フリーはんだ SURE3AG(線形1.6mmΦ)をニッパーで約2mmに裁断し、得られたはんだ片をデジタルホットプレート上の試料板に載せて、はんだ片を完全に溶融させた。そして、デジタルホットプレートから試料板を静かに取り上げて、空冷してはんだを凝固させた。
【0067】
このようにして各試験板上で凝固させたはんだについて、協和界面科学製自動接触角計DMo-602を用いてθ/2法により接触角を測定した。その際、同一試料板で場所を変えて凝固させたはんだの3点の接触角の平均値を算出した。接触角の平均値が50°未満の場合を合格とし、50°以上を不合格とした。図4(a)には、はんだ濡れ性試験の様子を示す一例が写真で示されている。また、図4(b)は、実際に凝固させたはんだの様子を示す拡大写真である。
【0068】
<8.排水量>
実施例、比較例に係るめっき部材の製造過程で生じた排水量について、次のようにして評価した。
先ず、めっき部材を製造するにあたり、水洗で発生した排水を樹脂製タンクに保持し、タンクの目盛りより排水量を計測した。そして、各実施例、比較例で計測された排水量を、従来のアルミニウム基材に対するめっき処理のためのダブルジンケートプロセス(比較例3)における排水量で割った値を排水量比として、この排水量比が0.5未満(ダブルジンケートプロセスの1/2未満)であれば排水レスめっきプロセスであるとして合格とし、0.5以上であれば不合格と判定した。
【0069】
<9.アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面における酸素強度比>
アルミニウム基材の濡れ性の違いについて影響する因子を調べるために、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分分析(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray spectroscopy;SEM-EDX)によるめっき部材の断面の元素プロファイルを測定した。
先ず、実施例、比較例においてニッケルめっき皮膜を形成した各めっき部材について、それぞれ日本電子製クロスセクションポリッシャIB-09020CPに取り付けて、アルゴンイオンビームを照射して切削し、厚み方向を調べるための断面試料を作製した。
【0070】
次いで、得られた断面試料について、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子製FE-SEM JSM-7200F)を用いて観察した。その際、加速電圧15kVで断面のEDX線分析を行い、元素の分布を調べた。AlとNiの元素プロファイルが交差する点をAl/Ni界面とし、ニッケルめっき皮膜の箇所に該当するNiの強度が平坦な範囲での酸素の強度の平均値(i)と、Al/Ni界面で検出される酸素の強度の最大値(ii)との比(酸素強度比)〔(ii)/(i)〕を求めた。この酸素強度比〔(ii)/(i)〕が1.5以上であれば、これらの界面に親水性プライマー層を形成する酸素含有皮膜が存在すると判定し、1.5未満では、界面に親水性プライマー層を形成する酸素含有皮膜が存在しないと判定した。なお、下記の実施例、比較例において、界面に存在する酸素含有皮膜は、レーザー光を照射する表面改質工程によって、粗化処理と同時に形成されるアルミニウムの水和酸化物皮膜の存在によるものと考えられる。または、下記の実施例、比較例において、界面に存在する酸素含有皮膜は、レーザー光の照射によって形成された水和酸化物皮膜がリン酸クロム酸処理によって取り除かれてかわりに形成される、アルミニウム酸化物を含んだ酸化物皮膜の存在によるものと考えられる。上述したように、この水和酸化物皮膜や酸化物皮膜の存在により、触媒付与工程で用いる処理液がアルミニウム基材の表面で均一に濡れ広がり、めっきの均一性を高めるものと推測される。
【0071】
この界面における酸素強度比について、図5及び図6には、実施例1での測定の様子が示されている。このうち、図5は、実施例1のめっき部材に係る断面試料のSEM写真であり、中央に示した線分析の軌跡(白色破線)に沿って元素の分布を調べた。また、図6は、酸素強度比〔(ii)/(i)〕を求めるにあたって使用した酸素(O)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)の元素プロファイルである。
【0072】
<10.アルミニウム基材のSEM観察/水和酸化物皮膜の厚さの測定>
レーザー光を照射して表面改質したアルミニウム基材について、その表面における水和酸化物の存在を確認するために、レーザー光を照射した後のアルミニウム基材をSEM観察した。また、レーザー光の照射後にリン酸クロム酸処理を行った後のアルミニウム基材について、その表面における酸素含有皮膜の存在を確認するために、リン酸クロム酸処理を行った後のアルミニウム基材をSEM観察した。観察には電界放出型走査電子顕微鏡(カールツァイス製FE-SEM ULTRA-Plus)を用い、加速電圧3kVで表面の二次電子像を取得した。また、表面のSEM-EDX分析についても行った。
【0073】
また、水和酸化物皮膜の厚さについては、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面を示す断面SEM写真において、アルミニウム基材とニッケルめっき皮膜とに挟まれる水和酸化物皮膜からなる層について、最も厚い箇所と最も薄い箇所を含めた10点の膜厚を測定して、その平均値を求めた。
【0074】
[実施例1]
<表面改質工程>
板厚0.6mmのアルミニウム合金6101-T6を50mm角に切断してアルミニウム基材とした。このアルミニウム基材に対して、キーエンス製レーザマーカ MD-F5200を用いて、基材片側の表面にレーザー光を照射して表面改質を行った。このレーザマーカの主な仕様は下記のとおりであり、また、それぞれの実施例及び比較例において、表1に示した4種類の照射方法によりアルミニウム基材の片側ほぼ全面にあたる25×50mmの粗化処理対象範囲にレーザー光を照射した。
レーザー種類:Yb(イッテルビウム添加ファイバーレーザ)
波長 :1090nm
出力 :50W
パルス周波数:60kHz
【0075】
【表1】
【0076】
ここで、表1中の掃引モードについては、キーエンス製Marking Builder3のユーザーズマニュアル(p.35)に記載されるとおりであるが、ここでの「交差」は、レーザー光を照射しながら「左→右」に一方向に移動させ、次いで、所定の間隔(ピッチ)を開けて(上方又は下方にずらして)、反対方向「右→左」にレーザー光を照射しながら移動させ、これを繰り返して、粗化処理対象範囲内をレーザー光の照射軌跡が所定の間隔を空けて並ぶようにする。これをx方向の照射とすれば、今度は「上→下」、「下→上」として、同様の間隔で交互にレーザー光を照射しながら移動させて、x方向のレーザー光の照射軌跡と交差する(直交する)y方向の照射軌跡が形成されるようにする。
【0077】
一方の「斜線」は、所定の間隔を空けながら「左→右」(又は「右→左」)に同じ向きで一方向にレーザー光を照射しながら移動させて、粗化処理対象範囲内のx方向だけにレーザー光の照射軌跡が並ぶようにする。そして、例えば「交差3600」とは、掃引速度が3600mm/sであることを表す。また、「交差3600強」とは、他の照射方法に比べてレーザーパワー(%)を高めた場合を意味する。なお、表1中のデフォーカスとは、焦点をずらしてスポット径を調整することを表す。
【0078】
本実施例1では、表2に示したように、レーザー光の照射方法「交差3600」にてアルミニウム基材の表面を表面改質した。その際、上述したように、粗面化と同時に空気中の水分と反応して、アルミニウム基材の表面には水和酸化物の皮膜が形成されて、親水性プライマー層をなす。このようにして親水性プライマー層が形成されたアルミウム基材について、前述の方法により、表面粗さRz、粗面化面積率、及び、基材の濡れ性を測定した。結果を表2に示す。
【0079】
<触媒付与工程>
次に、親水性プライマー層が形成されたアルミニウム基材について、粗化処理対象範囲を含めるようにして、浸漬処理によって0.25mol/Lの酢酸銅水溶液を塗布した。次いで、室温で自然乾燥させた後、300℃に保持した電気炉内に静置し、アルミニウム基材の表面に付着した酢酸銅を大気中で焼成して酸化銅にすることで、めっき触媒となる触媒層を形成した。実施例1において、触媒層の目付量は、1.0mg/m2であった。
【0080】
<めっき処理工程>
上記のようにしてアルミニウム基材の表面に親水性プライマー層と触媒層とが形成されたアルミニウム部材に対して、次のようにして、ニッケルめっき皮膜を形成するめっき処理を施した。
先ず、親水性プライマー層と触媒層とが形成されたアルミニウム部材の片側表面のうち、25mm×50mmのめっき対象エリアが露出するように、アルミニウム部材の片側表面の残り部分と裏面とをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープでマスキングした。
【0081】
次に、スルファミン酸ニッケル4水和物450g/L、塩化ニッケル6水和物10g/L、ほう酸35g/Lを含み、スルファミン酸を適量添加してpH=4.0~4.5になるように調製した水溶液をアクリル製槽内で循環しながら40℃で保持して、上記でマスキングしたアルミニウム部材を陰極にし、山本鍍金試験機製住友SKニッケルを陽極にして、電流密度2.8A/dmで5分30秒通電して電気めっきを行った。通電終了後にマスキングしたアルミニウム部材を取出し、イオン交換水で30秒間流水洗した後、ハンドドライヤーで乾燥させたところ、これによりめっき対象エリアには膜厚約3μmのNiめっき皮膜が形成された。
【0082】
上記のようにしてアルミニウム部材にニッケルめっき皮膜を備えた実施例1に係るめっき部材について、前述の方法により、めっき均一性、めっきの密着性、及び、はんだ濡れ性を評価すると共に、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面における酸素強度比を測定した。また、本実施例1でめっき部材を得る際に発生した排水量を後述する比較例3のダブルジンケートプロセスで発生した排水量と比較した排水量比を求めた。結果を表2にまとめて示す。
【0083】
【表2】
【0084】
[実施例2]
実施例1で行った酸化銅焼成のかわりに、銀ナノ粒子をインクに含む三菱製紙製マーカーペンCircuitry Markerを用いて、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面に銀ナノ粒子インクを塗布し、自然乾燥させて銀ナノ粒子をめっき触媒とする触媒層を形成した。実施例2において、触媒層の目付量は、0.9mg/m2であった。この触媒付与工程以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0085】
[実施例3]
実施例1で行った酸化銅焼成のかわりに、日立製イオンスパッタ装置E102を用いて、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面に真空下で白金を3分間スパッタして、白金をめっき触媒とする触媒層を形成した。実施例3において、触媒層の目付量は、0.2mg/m2であった。この触媒付与工程以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0086】
[実施例4、5]
表面改質工程におけるレーザー光の照射方法を実施例1で採用した「交差3600」から「斜線2700」(実施例4)、「交差4500」(実施例5)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4、5に係るめっき部材をそれぞれ製造した。各種評価を表2に示す。
【0087】
[実施例6]
触媒付与工程として、実施例1で行った酸化銅焼成のかわりに、銀ナノ粒子をインクに含む三菱製紙製マーカーペンCircuitry Markerを用いて、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面に銀ナノ粒子インクを塗布し、自然乾燥させて銀ナノ粒子をめっき触媒とする触媒層を形成した。また、めっき処理工程として、奥野製薬工業製無電解ニッケルめっき液 トップニコロンSDB-LFを用意し、90℃に保持して、マスキングしたアルミニウム部材を10分間浸漬する無電解めっきを行い、その後、マスキングしたアルミニウム部材を取出し、イオン交換水で30秒間流水洗した後、ハンドドライヤーで乾燥させて対象エリアに膜厚約3μmのNiめっき皮膜を形成した。これら以外は実施例1と同様にして、実施例6に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0088】
[実施例7]
表面改質工程として、実施例1と同様にしてアルミニウム基材にレーザー光を照射することで粗面化すると共に、アルミニウム基材の表面に水和酸化物の皮膜を形成した後、リン酸クロム酸処理を施した。その際、りん酸35ml/L、及び酸化クロム(VI)20g/Lからなるリン酸クロム酸水溶液に沸騰石を投入して加熱し、沸騰した液にレーザー処理化後の基材を10分間浸漬して、基材表面の水和酸化物皮膜を除去した。その後、イオン交換水で30秒間流水洗した。このようなリン酸クロム酸処理により、レーザー光を照射する粗面化により形成された水和酸化物の皮膜は取り除かれて、かわりにアルミニウム酸化物を含んだ酸化物皮膜が形成されて、これを親水性プライマー層とする以外は実施例1と同様にして、実施例7に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0089】
[比較例1]
表面改質工程におけるレーザー光の照射方法を実施例1で採用した「交差3600」から「交差9000」に変更し、また、触媒付与工程として、実施例1で行った酸化銅焼成のかわりに、日立製イオンスパッタ装置E102を用いて、レーザー光を照射したアルミニウム基材の表面に真空下で白金を3分間スパッタして、白金をめっき触媒とする触媒層を形成する以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0090】
[比較例2]
表面改質工程を含めずに(粗面化を行わず、かつ親水性プライマー層を形成しない)、触媒付与工程、及びめっき処理工程を行った以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0091】
[比較例3]
板厚0.6mmのアルミニウム合金6101-T6を50mm角に切断したアルミニウム基材に対してニッケルめっき皮膜を形成するにあたり、前処理として従来のジンケート処理(ダブルジンケートプロセス)を行った。この前処理は(i)表面調整、(ii)エッチング、(iii)デスマット、(iv)1次ジンケート、(v)亜鉛剥離、(vi)2次ジンケートの各処理からなり、それぞれの処理後に毎回イオン交換水による30秒間の流水洗を実施した。(i)~(vi)の各処理の内容は以下のとおりである。
【0092】
(i)上記のアルミニウム基材を室温の20質量%硝酸水溶液に3分間浸漬して表面調整した。
(ii)上記(i)の処理後のアルミニウム基材を50℃に保持した5質量%水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して、基材表面の酸化皮膜を溶解させた(エッチング)。
(iii)上記(ii)の処理後のアルミニウム基材を室温の20質量%硝酸水溶液に30秒間浸漬し、上記(ii)の処理でアルミニウム基材の表面に付着したスマット(添加元素等の化合物残渣等)を溶解除去した(デスマット)。
(iv)上記(iii)の処理後のアルミニウム基材を25℃に保持した上村工業製ジンケート液AZ-301-3Xの33.3体積%水溶液に30秒間浸漬し、亜鉛皮膜を置換析出させた(1次ジンケート)。
(v)上記(iv)の処理後のアルミニウム基材を室温の20質量%硝酸水溶液に30秒間浸漬し、亜鉛皮膜を溶解除去した(亜鉛剥離)。
(vi)上記(v)の処理後のアルミニウム基材を上記(iv)での処理と同様のジンケート液水溶液に30秒間浸漬し、上記(iv)よりも微細かつ均一な亜鉛皮膜を置換析出させた(2次ジンケート)。
【0093】
なお、ここで採用したダブルジンケートプロセスについて、1次ジンケート処理で形成した亜鉛皮膜の亜鉛粒子は粗大であり、この上にめっきすると密着性に乏しいめっきとなる。一方で、1次ジンケート後のめっきを硝酸で溶解除去し、その後再度ジンケート処理を行うと、微細かつ均一な亜鉛粒子で構成される亜鉛皮膜が形成され、この上にめっきすることで、密着性に優れるめっきとなることが知られている〔参考文献:川島,表面技術,vol.64, No.12, p.645「アルミニウムのジンケート処理」(2013)〕。
【0094】
上記(i)~(vi)の処理と各処理後の流水洗を行ったアルミニウム基材について、実施例1と同様のめっき処理工程を行い、めっき対象エリアに膜厚約3μmのNiめっき皮膜が形成された比較例3に係るめっき部材を得た。各種評価について表2に示す。
【0095】
[比較例4]
表面改質工程を行った後、媒付与工程を含めずに(触媒層を形成せずに)めっき処理工程を行った以外は実施例1と同様にして、比較例4に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0096】
[比較例5、6]
表面改質工程におけるレーザー光の照射方法を実施例1で採用した「交差3600」から「交差3600強」(比較例5)、「交差9000」(比較例6)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例5、比較例6に係るめっき部材をそれぞれ製造した。各種評価を表2に示す。
【0097】
[比較例7]
レーザー光を照射する表面改質工程のかわりに、以下のようにしてアルミニウム基材をなし地処理した。すなわち、日本シービーケミカル製ケミクリーナー3712建浴剤を200g/Lに希釈してテフロン(登録商標)ビーカー内で45℃に保持し、板厚0.6mmのアルミニウム合金6101-T6を50mm角に切断したアルミニウム基材を5分間浸漬して、アルミニウム基材の表面がなし地になるよう溶解させた。その後、アルミニウム基材を取り出して、イオン交換水で30秒間流水洗した。
【0098】
上記のなし地処理では、アルミニウム基材の表面に水和酸化物の皮膜が形成されないため、そのままでは濡れ性が不十分であり、触媒付与工程で均一な触媒層を設けることができない。そこで、なし地処理したアルミニウム基材について、高圧下で水蒸気への暴露を行って水和処理した。装置にはエスペック製高度加速寿命試験機EHS-411Mを使用し、アルミニウム基材をそのチャンバー内に静置して、飽和モードで140℃フル加湿の条件でアルミニウム基材を30分間水蒸気に暴露して表面を水和させた。
【0099】
次いで、実施例1と同様の触媒付与工程、及びめっき処理工程を行い、比較例7に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0100】
[比較例8]
レーザー光を照射する表面改質工程のかわりに、アルミニウム基材の粗化処理対象範囲をステンレス製ワイヤブラシで研削し、摩耗粉をエアブローで除去した。次いで、先の比較例7と同様に、ワイヤブラシで研削した後のアルミニウム基材について、高圧下で水蒸気への暴露を行って水和処理した。
次いで、実施例1と同様の触媒付与工程、及びめっき処理工程を行い、比較例8に係るめっき部材を製造した。各種評価を表2に示す。
【0101】
[参考例]
比較参照のために、板厚0.6mmのアルミニウム合金6101-T6を50mm角に切断したアルミニウム基材について、表面改質工程、触媒付与工程、及びめっき処理工程を行わずに参考例として各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
[試験例]
レーザー光を照射する表面改質工程におけるレーザーパワーを30~80%、掃引速度を300~9000mm/sの範囲で任意に変化させて、表面改質の程度を調整した複数のアルミニウム基材を準備し、それ以外は実施例3と同じ条件にして試験用めっき部材を製造した。
得られた各試験用めっき部材について、先に説明しためっきの密着性試験を行い、アルミニウム基材の粗面化面積率とめっき未剥離面積率との関係性について調べた。結果を図7のグラフに示す。めっき未剥離面積率をめっきの密着性の指標とすると、粗面化面積率とめっきの密着性には正の相関があることが分かった。特に、粗面化面積率が80%以上のときには、めっき未剥離面積率は100%を示した。
【0103】
[検討]
これらの実施例、比較例で得られためっき部材について、先ず、図8には、実施例1でレーザー光を照射したアルミニウム基材の表面のSEM写真が示されている。図8(a)、図8(b)によれば、レーザー光を照射して形成されたスポットの様子が確認された。また、その一部を拡大した図8(c)によれば、レーザー光を照射したアルミニウム基材上に数十nmオーダーの水和酸化物と思しき微細なひげ状の凹凸の形成が確認される。また、図9は、このアルミニウム基材のEDX分析の結果が示されており、酸素の強いピークが検出されることから、レーザー光を照射して粗化処理したアルミニウム基材には、アルミニウムの水和酸化物が形成されたと推測される。
【0104】
また、図10は、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面を示す断面SEM写真の一例である。これは実施例3のめっき部材のものであり、図10(a)に示された界面の一部(破線囲み部分)を拡大したものが図10(b)である。図10(b)によれば、ニッケルめっき皮膜との界面において、レーザー光の照射でアルミニウム基材が粗面化された際に形成された水和酸化物の皮膜の存在が確認できる。これによれば、水和酸化物皮膜は厚さ最大200nmの凹凸を有し、最薄の箇所ではその凹凸は数十nm程度に留まるが、最薄の箇所にもニッケルめっき皮膜が形成(充填)されたことが分る。つまり、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面では、いずれもアルミニウム基材側とニッケルめっき皮膜側との間で導通(電気、熱)がとれた状態になっている。
【0105】
更に、図10(b)で示した水和酸化物皮膜の厚さについては、図11のように、アルミニウム部材とニッケルめっき皮膜との界面を示す断面SEM写真において、アルミニウム基材とニッケルめっき皮膜とに挟まれる水和酸化物皮膜からなる層について、最も厚い箇所と最も薄い箇所を含めたpt.1~10の10点の膜厚を測定した結果は表3のとおりであり、その平均値は91.87nmであった。
【0106】
【表3】
【0107】
更にまた、図12には、実施例7でレーザー光を照射した後にリン酸クロム酸処理を行ったアルミニウム基材の表面のSEM写真が示されている。図12(a)では、リン酸クロム酸処理を受けたスポットの様子が確認された。また、その一部を拡大した図12(b)によれば、リン酸クロム処理を受けたアルミニウム基材上は、図8(c)にて確認されていた水和酸化物と思しき微細なひげ状の凹凸が取り除かれて、平滑な表面となっていることが確認された。
【0108】
そして、実施例、比較例で得られためっき部材の各種評価は、次のとおりであった。
先ず、比較例1、6では、表面改質工程においてレーザー光を照射する際の掃引速度が速すぎたためか、アルミニウム基材の粗面化面積率が不足していた。このため、基材の濡れ性が良好であり、めっき皮膜が均一に形成されていたにもかかわらず、ニッケルめっき皮膜が十分な密着性を備えることができずにめっきの剥離が発生した。
【0109】
また、比較例2では、表面改質工程を行っていないため、アルミニウム基材は粗面化されず、かつ水和酸化物の皮膜も存在していない。そのため、アルミニウム基材が濡れ性に乏しく、その後の触媒付与工程では触媒溶液が濡れ広がらず、均一なニッケルめっき皮膜が形成されずに、また、密着性も得られなかったことからめっきの剥離が発生した。なお、均一なめっきが得られなかったため、はんだ濡れ性試験は実施しなかった。
【0110】
また、比較例3については、ダブルジンケート処理によりアルミニウム基材上に形成されるニッケルめっき皮膜は均一性、密着性、はんだ濡れ性ともに合格したが、製造過程での排水量が多いため、排水レスめっきプロセスとしては不合格と判定した。
また、比較例4では、触媒付与を行っておらず、めっき触媒が存在しないため、めっき処理工程では主に水素の発生が進行してしまい、ニッケルめっき皮膜がほとんど形成されなかった。そのため、めっきの密着性試験以降の評価は実施しなかった。
【0111】
一方で、比較例5では、ニッケルめっき皮膜が均一に形成されなかった。これは、レーザー光の照射による表面改質工程での粗面化が過度になり、アルミニウム基材の表面粗さRzが大きくなり過ぎて表面積が増えてしまったためか、触媒付与工程での触媒溶液が十分に濡れ広がらなかったと考えられる。そのため、めっきの密着性試験以降の評価は実施しなかった。
【0112】
また、比較例7、8では、レーザー光を照射するかわりになし地処理(比較例7)、ワイヤブラシ研削(比較例8)を行い、それぞれ水和処理を行っているが、表面粗さRzが小さすぎても(比較例7)、大きくなり過ぎても(比較例8)、結果としてニッケルめっき皮膜は均一に形成されなかった。そのため、めっきの密着性試験以降の評価は実施しなかった。これらの原因については、アルミニウム基材の粗面化だけでなく、粗面化と同時に形成される水和酸化物の皮膜が影響している可能性も考えられる。
なお、比較例1、2、6については、ニッケルめっき皮膜が密着性良く形成されなかったため、酸素強度比に関する断面SEM-EDXによる観察は実施しなかった。
【0113】
それに対して、実施例1~7では、製造過程での排水量を削減しながら、アルミニウム部材の濡れ性が向上して、ニッケルめっき皮膜の均一性、密着性、はんだ濡れ性に優れためっき部材を製造することができた。
以上より、本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材を用いながら、アルミニウム基材の粗面化やめっき触媒の付与といっためっきを行うための前処理を全て乾式の方法にして、ニッケルめっき皮膜を備えためっき部材を得ることができる。そのため、従来のジンケート処理を用いた方法に比べて、水洗で発生する排水の量を大幅に減らして、排水処理の手間やコストを削減することができる。しかも、得られためっき部材は、ニッケルめっき皮膜の密着性に優れたものとすることができ、銅を代替したアルミニウムによるバスバーやヒートシンク等への利用を促進させることができるようになる。
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