(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053492
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電解装置の運転方法、電解システムの運転方法及び電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20240408BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20240408BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B11/031
C25B11/061
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159826
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA30
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB03
4K021CA06
4K021DB12
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】長寿命の電解装置の運転方法を提供する。
【解決手段】実施形態の電解装置の運転方法は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、カソードと、アノードとカソードの間に設けられた電解質膜と、を有する膜電極接合体を用い、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して1.45V以下の低電位をアノードに印加する第1工程と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して2.0V以上の高電位をアノードに印加する第2工程と、を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードの間に設けられた電解質膜と、
を有する膜電極接合体を用い、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して1.45V以下の低電位を前記アノードに印加する第1工程と、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して2.0V以上の高電位を前記アノードに印加する第2工程と、
を行う電解装置の運転方法。
【請求項2】
前記低電位は0.1V以上である、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項3】
前記高電位は3.0V以下である、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項4】
前記低電位と前記高電位の間で変化する三角波状の電位を、前記アノードと前記カソードの間に印加する、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項5】
前記低電位と前記高電位の間で変化する方形波状の電位を、前記アノードと前記カソードの間に印加する、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項6】
前記カソードは、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項7】
前記アノードと前記カソードに接続された電源を用いて、前記低電位及び前記高電位を印加する、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項8】
前記高電位を3秒以上60秒以下印加する、
請求項1記載の電解装置の運転方法。
【請求項9】
貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードの間に設けられた電解質膜と、
を有する膜電極接合体と、
前記アノード及び前記カソードに接続された電源と、
前記電源に接続された制御回路と、
を備え、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して前記電源を用いて1.45V以下の低電位を前記アノードに印加する第1工程と、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して2.0V以上の高電位を前記電源を用いて前記アノードに印加する第2工程と、
をおこなう電解システムの運転方法。
【請求項10】
貴金属及び貴金属の酸化物の少なくとも一方と非貴金属及び非貴金属の酸化物の少なくとも一方を含む複数の第1触媒層を含むアノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードの間に設けられた電解質膜と、
を有する膜電極接合体と、
前記アノードと前記カソードに接続された電源と、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して1.45V以下の低電位を印加する第1工程と、前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して2.0V以上の高電位を印加する第2工程と、を行うように前記電源を制御する制御回路と、
を備える電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、電解装置の運転方法、電解システムの運転方法及び電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学セルは盛んに研究されている。電気化学セルのうち、例えば、固体高分子型水電解セル(PEMEC:Polymer Electrolyte MembraneElectrolysis Cell)は、大規模エネルギー貯蔵システムの水素生成としての利用が期待されている。十分な耐久性と電解特性を確保するため、PEMECの陰極には白金(Pt)ナノ粒子触媒が、陽極にはイリジウム(Ir)ナノ粒子触媒のような貴金属触媒が、一般に使用されている。また、アンモニアからも水素を得る方法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. Watanabe et al. J. Electrochem. Soc, 143, No. 12, 3847-3852 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、長寿命の電解装置の運転方法、電解システムの運転方法及び電解システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電解装置の運転方法は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、カソードと、アノードとカソードの間に設けられた電解質膜と、を有する膜電極接合体を用い、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して1.45V以下の低電位をアノードに印加する第1工程と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して2.0V以上の高電位をアノードに印加する第2工程と、を行う。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】実施形態の触媒ユニットの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。尚、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
【0008】
本明細書中の物性値は、温度が25[℃]で、圧力が1[atom]における値である。各部材の厚さは、積層方向の距離の平均値である。
【0009】
(実施形態)
実施形態の電解装置の運転方法は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、カソードと、アノードとカソードの間に設けられた電解質膜と、を有する膜電極接合体を用い、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して1.45V以下の低電位をアノードに印加する第1工程と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して2.0V以上の高電位をアノードに印加する第2工程と、を行う。実施形態の電解システムの運転方法は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、カソードと、アノードとカソードの間に設けられた電解質膜と、を有する膜電極接合体と、アノード及びカソードに接続された電源と、電源に接続された制御回路と、を備え、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して電源を用いて1.45V以下の低電位をアノードに印加する第1工程と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して2.0V以上の高電位を電源を用いてアノードに印加する第2工程と、をおこなう。実施形態の電解システムは、貴金属及び貴金属の酸化物の少なくとも一方と非貴金属及び非貴金属の酸化物の少なくとも一方を含む複数の第1触媒層を含むアノードと、カソードと、アノードとカソードの間に設けられた電解質膜と、を有する膜電極接合体と、アノードとカソードに接続された電源と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して1.45V以下の低電位を印加する第1工程と、アノードの電位を基準電位として、カソードに対して2.0V以上の高電位を印加する第2工程と、を行うように電源を制御する制御回路と、を備える。
【0010】
以下、実施形態において、水電解を例に説明する。
【0011】
なお、実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアの電解装置の運転方法に利用可能である。実施形態の膜電極接合体1は、アンモニア合成用の電解装置の膜電極接合体として利用可能である。実施形態の電解装置の運転方法は、超純水をアノードに供給し、アノードで水を分解してプロトンおよび酸素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、カソードに供給した窒素とプロトン、電子が結びつきアンモニアが生成されるアンモニア合成用の電気分解に用いられる電解装置の運転方法に、利用可能である。
【0012】
なお、実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアを電解して水素を生成する電解装置の運転方法に利用可能である。実施形態の膜電極接合体1は、アンモニアを電解して水素を生成する装置に利用可能である。実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアをカソードに供給し、カソードでアンモニアを分解してプロトンおよび窒素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、アノードでプロトンと電子が結びつき水素が生成されるアンモニア分解用の電気分解に用いられる電解装置の運転方法に、利用可能である。
【0013】
図1は、実施形態の電解システム100の模式図である。電解システム100は、電解装置90と、制御回路3と、を備える。電解装置90は、膜電極接合体1と、電源2と、制御回路3と、第1供給装置4と、第2供給装置5と、を有する。
【0014】
膜電極接合体1は、アノード1Aと、カソード1Bと、アノード1Aとカソード1Bの間に配置された電解質膜1Cと、を含む。さらに、膜電極接合体1は、アノード1Aの拡散層としての第1拡散層1Dと、カソード1Bの拡散層としての第2拡散層1Eと、を含む。
【0015】
アノード1A及びカソード1Bは、貴金属元素を含む触媒層を有する。触媒層は、第1拡散層1D又は第2拡散層1Eに設けられている。アノードの触媒層は、電解質膜1Cと第1拡散層1Dの間に設けられている。カソードの触媒層は、電解質膜1Cと第2拡散層1Eとの間に設けられている。第1拡散層1D及び第2拡散層1Eは、それぞれ、アノードの触媒層及びカソードの触媒層の基板としても機能する。
【0016】
電解質膜1Cは、プロトン伝導性を有する電解質膜が好ましい。プロトン伝導性を有する電解質膜としては、例えばスルホン酸基を有するフッ素樹脂(例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、およびアシブレック(旭硝子社製)など)や、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物を使用することができる。
【0017】
アノード1Aには、例えば、水が供給される。アノード1Aで、水から、プロトン、酸素と電子が生成される。カソード1Bでは、アノード1Aで生成されたプロトンと電子が反応し、水素が生成される。生成された、水素及び酸素のいずれか一方又は両方は、例えば、燃料電池用燃料として利用される。
【0018】
第1拡散層1Dとしては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第1拡散層1Dは、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第1拡散層1Dは、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0019】
第2拡散層1Eとしては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第2拡散層1Eは、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第2拡散層1Eは、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0020】
アノード1A及びカソード1Bに含まれる触媒層は、高出力の観点から、貴金属元素を含む触媒層が好ましい。アノード1A及びカソード1Bに含まれる触媒層は、例えば、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuなどの貴金属元素からなる群のうちの少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。より具体的には、アノード1A及びカソード1Bに含まれる触媒層は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層が含まれることが好ましい。かかる多孔質触媒層は担体に担持されておらず貴金属多孔体またはシート状貴金属で構造形成された担体レス触媒層である。多孔質触媒層は、多孔体構造または多層のシート状貴金属の間に空隙層が存在する積層構造を持つユニットで構成されている。貴金属触媒を使用した場合は少ない使用量においても、膜電極接合体の高い特性と高い耐久性を保つことが可能である。
【0021】
図2(A)に貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像を示す。
図2(B)及び
図2(C)に、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層多孔体構造のSEM像を示す。空隙層を含む積層構造の場合は、隣接のナノシート同士は部分的に一体化することが望ましい。積層構造内部へナノセラミックス材料層の導入、または隣接ナノシートまたは材料層の間に、繊維状カーボンを含む多孔質ナノカーボン層を配置したほうは耐久性、ロバスト性がより向上できる。かかる貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層は、アノード1Aに含まれる触媒層及びカソード1Bに含まれる触媒層に用いることが可能である。
【0022】
アノード1A及びカソード1Bに含まれる多孔体触媒層は、例えば、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuなどの貴金属元素からなる群のうちの少なくとも1種の金属を含む金属、合金と金属酸化物のうちのいずれか1種を含む。この多孔体触媒層はPtを少なくとも含むことが好ましく、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuなどの貴金属元素からなる群のうちの少なくとも1種の金属とPtを含むことがより好ましい。このような触媒材料は、触媒活性、導電性および安定性に優れている。前述の金属は、酸化物として用いることもでき、2種以上の金属を含む複合酸化物または混合酸化物であってもよい。最適な貴金属元素は、膜電極接合体が使用される反応に応じて適宜選択することができる。例えば、燃料電池のカソードとして酸素還元反応を行う場合、PtUM1-uで示される組成を有する触媒が望ましい。ここで、uは、0<u≦0.9であり、元素Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Ta、W、Hf、Si、Mo、Ti、Zr、Nb、V、Cr、AlおよびSnよりなる群のうちの少なくとも1種である。この触媒は、0原子%より多く90原子%以下のPt、および10原子%以上100原子%未満の元素Mを含んでいる。燃料電池のアノードとして水素酸化反応を行う場合、PtvM1-vで示される組成を有する触媒が望ましい。ここで、vは、0<v≦0.6であり、元素Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Ta、W、Hf、Si、Mo、Ti、Zr、Nb、V、Cr、AlおよびSnよりなる群のうちの少なくとも1種である。元素Mは、一種でも二種以上の元素の組合わせでも良い。
【0023】
電源2は、アノード1A及びカソード1Bに接続されている。電源両極間に電位サイクルを有する電圧を印加する手段である。電源2は、例えば、バッテリー(二次電池)や発電機と、インバータ回路やコンバータ回路を組み合わせた構成である。インバータ回路やコンバータ回路が、バッテリーや発電機からの電力を、電位サイクルを有する波形に変換する。電源2がアノード1Aとカソード1Bに印加する電圧は、制御回路3で制御される。
【0024】
制御回路3は、電源2に接続されている。制御回路3は、電源2の、例えば、インバータ回路やコンバータ回路を制御して、電源2の出力を制御する。制御回路3は、例えば、ソフトウェア又はハードウェアによって制御されている。制御回路3は、例えば、マイコンやSoC(System on Chip)などの集積回路を有する。制御回路3は、制御回路3内の集積回路を用いて、電源2の出力を制御する。また、制御回路3はコンピュータを有していても良い。かかる場合、制御回路3は、制御回路3内のコンピュータを用いて、電源2の出力を制御する。また、制御回路3は、第1供給装置4及び第2供給装置5と接続されていてもよい。かかる場合、制御回路3は、第1供給装置4及び第2供給装置5を制御しても良い。
【0025】
第1供給装置4は、第1拡散層1Dと接続されている。例えば、電解システム100が水電解システムである場合、第1供給装置4は、第1拡散層1Dを介して、アノード1Aへ水を供給する。第1供給装置4は、例えば、ポンプ、ブロアー及びバルブを有する。例えば、制御回路3が、ポンプ、ブロアー及びバルブを制御することによって、アノード1Aへの水の供給量は制御される。
【0026】
第2供給装置5は、第2拡散層1Eとされている。第2供給装置5は、第2拡散層1Eを介して、カソード1Bへ気体又は液体を供給する。第2供給装置5は、例えば、ポンプ、ブロアー及びバルブを有する。例えば、制御回路3が、ポンプ、ブロアー及びバルブを制御することによって、カソード1Bへの気体又は液体の供給量は制御される。なお、第2供給装置5は、設けられていなくてもかまわない。
【0027】
次に、実施形態の電解装置の運転方法について説明する。かかる電解装置の運転方法は、触媒層のクリーニング及びエージング(活性化)処理を行う運転方法である。かかる運転方法は、アノード1Aとカソード1Bに接続した電源2を用いて電位サイクルを有する電圧を印加する運転工程を有する。
【0028】
電位サイクルは、アノード1Aの電位を基準電位として、カソード1Bに対して低電位をアノード1Aに印加する第1工程と、アノード1Aの電位を基準電位として、カソード1Bに対して高電位を印加するアノード1Aに印加する第2工程と、の繰り返しを含む。アノード1Aの電位を基準電位として、アノード1Aとカソード1B間に電位サイクルを有する電圧が印加される。電位サイクルは、低電位と高電位を含み、低電位と高電位を跨ることが好ましい。
【0029】
触媒層には、電解装置の使用中に、高分子等の不純物が吸着することがある。また、触媒層の作成中に、不純物の混入が発生することがある。この不純物によって、触媒の表面が覆われると、触媒活性が低下する。実施形態の電解装置の運転方法による、触媒層のクリーニング又はエージング(活性化)処理によって、触媒層中の不純物が除去される。そのため、膜電極接合体1の特性が回復もしくは向上する。
【0030】
また、触媒層には、Ni等の、助触媒として機能し得る材料が含まれている。例えば、水電解装置の触媒層にIrとNiを用いることを考える。もしNiがIrと酸化物を形成していれば、かかるNiは助触媒として機能する。しかし、NiがIrと酸化物を形成していない場合、かかるNiは、燃料等の拡散性を阻害し、特性悪化の要因となる。そこで、実施形態の電位サイクルを印加することにより、Irと酸化物を形成していないNiが溶解し、燃料等の拡散性が改善する効果を得ることができる。また、実施形態の電位サイクルを印加することにより、Ir酸化物が溶解し、その後再析出し、触媒表面の原子が再配列したり、高活性の面が出る可能性がある。その場合に、良好なエージング効果があらわれると考えられる。
【0031】
なお、触媒層のクリーニングやエージングによって発生するプロセスは、上記のものに限定されるものではない。
【0032】
上記の電位サイクルの低電位は、1.45V以下であり、高電位は、2.0V以上である。この低電位と高電位の繰り返しを含む電位サイクルによって、触媒層のクリーニング又はエージング処理が行われる。
【0033】
低電位は、0.1V以上1.45V以下が好ましい。低電位において、1.45Vより高い場合、電位が高すぎて低電位状態におけるクリーニング効果と高特性回復が不十分である。また、0.1V未満では顕著な水素発生が起きるため、電極から外部への水素ガスリークのリスクがある。
【0034】
高電位は、2.0V以上3.0V以下が好ましい。高電位において、2.0V未満では、電位が低すぎて高電位状態におけるクリーニング効果と高特性回復が不十分である。また、3.0Vを超えると貴金属の溶出が顕著になり、特性低下を招く可能性があり好ましくない。
【0035】
高電位を印加する時間は、3秒以上60秒以下であることが好ましい。3秒未満では時間が短すぎてクリーニング効果と高特性回復が不十分である。また、60秒を超えると貴金属の溶出が顕著になり、特性低下を招く可能性があり好ましくない。
【0036】
電位サイクルの回数を3~500回繰り返しを行うことが好ましい。5~200回がより好ましい。3回未満はクリーニング効果と高特性回復が不十分である。5回以上であれば、クリーニング効果と高特性回復が十分となる。500回を超えるとシステム運転方法としては効率が悪く、実用性が低い。同観点から電位サイクルの回数は200回以上が好ましい。
【0037】
高電位と低電位のどちらか一方の電位で処理してもクリーニング効果と高特性回復が不十分である。高電位と低電位のどちらか一方の電位で処理した場合、クリーニング効果と高特性回復は、高電位と低電位を繰り返す電位サイクルで処理した場合の1/5以下程度になってしまう。還元処理と酸化処理を繰り返すことによって、高いクリーニング効果と高特性回復が可能となる。
【0038】
電位サイクルの波形は、特に限定されない。例えば、低電位と高電位の間で変化する三角波状の電位を、アノード1Aとカソード1Bの間に印加することが好ましい。また、例えば、低電位と高電位の間で変化する方形波状又は矩形波状の電位を、アノード1Aとカソード1Bの間に印加することが好ましい。また、例えば、低電位と高電位の間で変化するサイン波状の電位を、アノード1Aとカソード1Bの間に印加することが好ましい。
【0039】
なお、ナノ粒子状の貴金属に対して、実施形態の電解装置の運転方法は、多量の貴金属の流出を引き起こす。しかし、貴金属多孔体または貴金属多孔体またはシート状貴金属を含む多孔質触媒層に、実施形態の電解装置の運転方法を用いた場合には、貴金属の流出が大幅に抑制される。この詳細なメカニズムはまだ完全に解明されてない。例えば、ナノシート状貴金属触媒の表面構造と、貴金属多孔体またはナノシート状貴金属から構成された貴金属触媒層の構造が、貴金属の流出を大幅に抑制したと推測される。
(実施例)
【0040】
以下、実施例を説明する。
【0041】
アノード1Aの作製
サイズが25[cm]×25[cm]、厚み200[μm]のTi不織布基材を、第1拡散層1Dとして準備した。かかる第1拡散層1Dに、スパッタリングでニッケルとイリジウムをスパッタしシート層を形成した。その後ニッケルのみをスパッタしギャップ層を形成した。このシート層及びギャップ層形成の工程を40回繰り返し面積当たりのIrが0.2[mg/cm2]になるように積層構造を得た。続いて硫酸で洗浄することでニッケルを抜いた触媒構造(アノード1Aの多孔質触媒層)を得た。このようにして、アノード1Aを得た。
【0042】
カソード1Bの作製
サイズが25[cm]×25[cm]、厚みが190[μm]の炭素層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を、第2拡散層1Eとして準備した。かかる第2拡散層1E上に、Pt(白金)触媒のローディング密度0.1[mg/cm2]になるように、スパッタリング法により空隙層を含む積層構造を持つ触媒層を形成し、多孔質触媒層を有する触媒構造(カソード1Bの多孔質触媒層)を得た。このようにして、カソード1Bを得た。
【0043】
電解質膜20としてサイズが30[cm]×30[cm]の、ケマーズ社製Nafion115を用いた。テトラアンミン白金を水で11[wt%]まで薄めた溶液をスプレーで塗布した。スプレー前にテープでマスクをしたNafion115を用いた。スプレー塗布から10分経過後、純水でリンスし、最後に10wt%の硝酸80℃で1時間煮込むことでPt粒子が含浸された電解質膜1Cを得た。
【0044】
次に、上記のアノード1A、カソード1B及び電解質膜1Cをホットプレス装置に入れた。160[℃]、20[kg/cm2]で3分間のプレスを実施した。その後、25[℃]、20[kg/cm2]で3分間プレス冷却を実施した。これにより、膜電極接合体1を得た。
【0045】
得られた膜電極接合体1を、電解システム100に組み込んだ。次に、温度80[℃]でアノードに水を供給し、0.8A/cm2の電流密度において2時間~1日運転させ、コンディショニングを行った。このコンディショニングのときの電圧を、V0として記録した。その後、0.8A/cm2の電流密度において運転させた。20時間発電させた後の電圧を、V1として記録した。その後、表1に示される各種電位サイクル操作を行った後、再度0.8A/cm2の電流密度において運転させ、20時間運転後の電圧をV2として記録した。(V2-V1)/(V0-V1)の値を特性回復率として計算し、記録した。上記試験を5回繰り返して行った。平均の特性回復率を表1にまとめた。
【0046】
【0047】
上記表1に示されるように、実施例1~実施例10においては、良好な回復率が得られた。一方、比較例1においては、低電位が高すぎて、クリーニング効果と高特性回復が不十分であった。また、比較例2においては、高電位が低すぎて、クリーニング効果と高特性回復が不十分であった。
【0048】
特に、低電位が0.1V以上1.45V以下であり、高電位が2.0V以上3.0V以下であり、高電位の印加時間が3秒以上60秒以下である実施例1~実施例6において、良好な結果が得られた。
【0049】
以上説明した実施形態によれば、長寿命の電解装置の運転方法、電解システムの運転方法及び電解システムが提供可能となる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0051】
なお、上記の実施形態を、以下の技術案にまとめることができる。
技術案1
貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含むアノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードの間に設けられた電解質膜と、
を有する膜電極接合体を用い、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して1.45V以下の低電位を前記アノードに印加する第1工程と、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して2.0V以上の高電位を前記アノードに印加する第2工程と、
を行う電解装置の運転方法。
技術案2
前記低電位は0.1V以上である、
技術案1記載の電解装置の運転方法。
技術案3
前記高電位は3.0V以下である、
技術案1又は技術案2記載の電解装置の運転方法。
技術案4
前記低電位と前記高電位の間で変化する三角波状の電位を、前記アノードと前記カソードの間に印加する、
技術案1乃至技術案3いずれか一項記載の電解装置の運転方法。
技術案5
前記低電位と前記高電位の間で変化する方形波状の電位を、前記アノードと前記カソードの間に印加する、
技術案1乃至技術案3いずれか一項記載の電解装置の運転方法。
技術案6
前記カソードは、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む、
技術案1乃至技術案5いずれか一項記載の電解装置の運転方法。
技術案7
前記アノードと前記カソードに接続された電源を用いて、前記低電位及び前記高電位を印加する、
技術案1乃至技術案6いずれか一項記載の電解装置の運転方法。
技術案8
前記高電位を3秒以上60秒以下印加する、
技術案1乃至技術案7いずれか一項記載の電解装置の運転方法。
技術案9
技術案1乃至技術案8いずれか一項記載の電解装置と、
前記アノード及び前記カソードに接続された電源と、
前記電源に接続された制御回路と、
を備える電解システムの運転方法。
技術案10
貴金属及び貴金属の酸化物の少なくとも一方と非貴金属及び非貴金属の酸化物の少なくとも一方を含む複数の第1触媒層を含むアノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードの間に設けられた電解質膜と、
を有する膜電極接合体と、
前記アノードと前記カソードに接続された電源と、
前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して1.45V以下の低電位を印加する第1工程と、前記アノードの電位を基準電位として、前記カソードに対して2.0V以上の高電位を印加する第2工程と、を行うように前記電源を制御する制御回路と、
を備える電解システム。
【符号の説明】
【0052】
1 :膜電極接合体
1A :アノード
1B :カソード
1C :電解質膜
1D :第1拡散層
1E :第2拡散層
2 :電源
3 :制御回路
4 :第1供給装置
5 :第2供給装置
20 :電解質膜
80 :温度
90 :電解装置
100 :電解システム
200 :厚み
M :元素
Toray060 :カーボンペーパー