(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053494
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電極、膜電極接合体、電気化学セル、スタック、電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/053 20210101AFI20240408BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20240408BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20240408BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240408BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240408BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240408BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240408BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
C25B11/053
C25B11/056
C25B11/03
C25B1/23
C25B3/26
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/00 G
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159828
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】丁 香美
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA07
4K011AA11
4K011AA30
4K011AA35
4K011BA01
4K011BA02
4K011BA07
4K011BA08
4K011CA04
4K011DA01
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4K021AB25
4K021AC02
4K021AC05
4K021DB05
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】実施形態は、特性に優れた電極を提供する。
【解決手段】 実施形態の電極は、基材と、基材上に、シート層とギャップ層が交互に積層した触媒層を有し、触媒層は、クラック又は/及び穴が存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に、シート層とギャップ層が交互に積層した触媒層を有し、
前記触媒層は、クラック又は/及び穴が存在する電極。
【請求項2】
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、0.3%以上60%以下である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、1%以上50%以下である請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、5%以上45%以下である請求項1に記載の電極。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極と、
電解質膜を用いた膜電極接合体。
【請求項6】
前記クラック又は/及び穴に電解質膜が食い込んでいる請求項5に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
請求項5に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
【請求項8】
請求項5に記載の膜電極接合体を用いたスタック。
【請求項9】
請求項7に記載の電気化学セルを用いたスタック。
【請求項10】
請求項8に記載のスタックを用いた電解装置。
【請求項11】
請求項9に記載のスタックを用いた電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極、膜電極接合体、電気化学セル、スタック、電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学セルは盛んに研究されている。電気化学セルのうち、例えば、固体高分子型水電解セル(PEMEC:Polymer Electrolyte MembraneElectrolysis Cell)は、大規模エネルギー貯蔵システムの水素生成としての利用が期待されている。十分な耐久性と電解特性を確保するため、PEMECの陰極には白金(Pt)ナノ粒子触媒が、陽極にはイリジウム(Ir)ナノ粒子触媒のような貴金属触媒が、一般に使用されている。また、アンモニアからも水素を得る方法が検討されている。他にも、二酸化炭素の電気分解によって、有機物や一酸化炭素を得る方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、特性の高い電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電極は、基材と、基材上に、シート層とギャップ層が交互に積層した触媒層を有し、触媒層は、クラック又は/及び穴が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図5】実施形態の繊維上に触媒層が設けられた部材の模式図。
【
図6】実施形態の繊維上に触媒層が設けられた部材の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、同一部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
【0008】
明細書中の物性値は、温度が25[℃]で、圧力が1[atom]における値である。各部材の厚さは、積層方向の距離の平均値である。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態は、電極に関する。
図1に実施形態の電極100の模式断面図を示す。電極100は、基材1と、触媒層2を有する。触媒層2は、実施形態において、水電解の電極反応における触媒として用いられている。
【0010】
第1実施形態の電極100は、水電解のアノードとして用いられる。触媒層2に燃料電池用の触媒がさらに含まれると実施形態の電極100は、燃料電池の酸素極としても用いられる。実施形態の電極100は、アンモニアを電解生成するアノードとしても利用可能である。実施形態の電極は、アンモニア合成用の電解装置のアノードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、超純水をアノードに供給し、アノードで水を分解してプロトンおよび酸素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、カソードに供給した窒素とプロトン、電子が結びつきアンモニアが生成するアンモニア合成用の電気分解に用いられる膜電極接合体のアノードに実施形態の電極100は利用可能である。実施形態の電極100は、アンモニアを電解して水素を生成するカソードとしても利用可能である。実施形態の電極は、水素発生装置のカソードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、アンモニアをカソードに供給し、カソードでアンモニアを分解してプロトンおよび窒素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、アノードでプロトンと電子が結びつき水素が生成するアンモニア分解用の電気分解に用いられる膜電極接合体のカソードに実施形態の電極100は利用可能である。他にも、二酸化炭素を電気分解してメタノールやエチレンなどの有機物や一酸化炭素を生成する電解装置のアノードにも利用可能である。
【0011】
基材1としては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。基材1は、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。電極100は、例えば、水電解セルの陽極としても使用されるため、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。基材1は、バルブメタルの繊維1Aを複数含み繊維1Aが基材1を構成していることが好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0012】
基材1のバルブメタルとして耐久性の高いTiが好ましい。基材1は、例えば、Tiメッシュ、Ti繊維からなるクロース、又は、Ti焼結体などが用いられる。基材1の空隙率は、物質の移動を考慮すると、20[%]以上95[%]以下であれば良く、40[%]以上90[%]以下がより好ましい。例えば、基材1が金属繊維1Aを絡み合わせた金属不織布の場合、繊維径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。基材1が粒子焼結体の場合、粒子径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。
【0013】
基材1の上にコーティング層を付けても良い。導電性のある緻密なコーティング層によって電極100の耐久性を向上させる。コーティング層は特に限定されないが、金属材料、酸化物、窒化物などセラミックス材料、カーボンなどを使用できる。コーティング層において、異なる材料から構成された多層構造または傾斜構造を形成させて、耐久性を更に高めることができる。
【0014】
触媒層2は、Ir及びRuを主成分とする貴金属酸化物と非貴金属酸化物を含む。触媒層2と基材1の間には、図示しない中間層が設けられていてもよい。
【0015】
触媒層2の貴金属量は、0.01[mg/cm2]以上3.0[mg/cm2]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm2]以上0.5[mg/cm2]以下である。この質量の和は、ICP-MSで測定することができる。
【0016】
触媒層2の気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0017】
触媒層2は、シート層2Aとギャップ層2Bが交互に積層した構造を有する。触媒層2の積層構造を
図2の触媒層2の模式断面図に示す。シート層2Aとギャップ層2Bは、略平行に並んで積層している。ギャップ層2Bは、大部分が空洞であるが、一部、シート層2Aがはみ出してシート層2Aが連結している。シート層2Aは、ギャップ層2B中に存在する柱状体2Cによって連結し、積層構造が維持される。
【0018】
シート層2Aは、シート状に凝集した触媒粒子が並んだ層である。シート層2A中にも一部空隙がある。ギャップ層2Bは、シート層2Aの間に挟まれた領域であり、シート層2Aとは異なり、触媒粒子の規則的な構造を有しない。
【0019】
シート層2Aの1層の平均厚さは、4[nm]以上50[nm]以下であることが好ましい。ギャップ層2Bの1層の平均厚さは、4[nm]以上50[nm]以下であることが好ましい。シート層2Aの1層の平均厚さは、ギャップ層2Bの1層の平均厚さよりも厚いことが好ましい。一部のギャップ層2Bは、一部のシート層2Aの厚さより厚い場合が有る。
【0020】
触媒層2は、貴金属酸化物として、Ir酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含み、任意にRu酸化物を含むことが好ましい。触媒層2に含まれる貴金属のうちIrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。
【0021】
触媒層2は、非貴金属酸化物として、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Al及びZnからなる群より選ばれる1種以上の非貴金属の酸化物を含むことが好ましい。触媒層2に含まれる非貴金属は、Niが含まれ、任意に、Co、Mn、Fe、Cu、Al及びZnからなる群より選ばれる1種以上が含まれることが好ましい。触媒層2に含まれる非貴金属のうちNi、Co及びMnの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。
【0022】
図3は、電極100の模式図である。
図3は、基材1の繊維1A上に触媒層2が設けられた部材の拡大模式図である。
図3の模式図に示すように、実施形態の電極100は、基材1の繊維1A上に部分的に被覆した触媒層2が設けられている。触媒層2の面には、クラック又は/及び穴が存在する。
【0023】
基材1の触媒層2側に位置する繊維1Aは、
図3の模式図に示すように触媒層2が設けられていて、基材1の中心側から触媒層2側とは反対側に位置する繊維1Aには、触媒層2が設けられていない。
【0024】
触媒層2は、シート層2Aが複数積層しており、シート層2Aが触媒層2の内部への物質移動をし難くする場合がある。実施形態の触媒層2は、きれいな膜状ではなく、クラック又は/及び穴を有することが好ましい。繊維1Aに触媒層2が設けられた面積の0.3%以上60%以下にクラック又は/及び穴が存在する。クラック及び/又は穴が存在すると、クラック又は/及び穴から触媒層2の内部に物質が移動しやすく、触媒の利用効率が高まることが好ましい。クラックは、触媒層2に形成された線状の欠損部である。穴は、クラックを除く触媒層2の欠損部である。
【0025】
仮想的に20層で穴やクラックの無い完璧なシート層2Aが積層した触媒であった場合、表面の1層は反応するが、内部の19層はほとんど反応に寄与しない。そこにクラックが存在すると、クラックから水などが浸入し電解反応が促進される。上記観点から繊維1Aに触媒層2が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、1%以上50%以下が好ましく、5%以上45%以下がより好ましい。
【0026】
繊維1Aに触媒層2が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、以下の様に求めることができる。
図4に電極100の分析スポットを示す。
図4に示される電極100の面内の9個の観察スポット(A1~A9)を断面観察して求められる。
【0027】
各スポットは、正方形状で少なくとも1mm
2の領域を有する。そして、
図4に示すように、電極長さD1と電極幅D2(D1≧D2)とした場合、電極100の幅方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD3(=D1/10)の距離のところに仮想線を引き、電極100の長さ方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD4(=D2/10)の距離のところに仮想線を引き、さらに、電極100の中心を通る幅方向に平行な仮想線を引き、電極100の中心を通る長さ方向に平行な仮想線を引き、仮想線の交点9点を中心とする領域を観察スポットA1~A9とする。SEMによる観察断面は、
図4の面に対して垂直方向である。
【0028】
各スポットの断面画像の中心に最も近く触媒層2が設けられた繊維1Aを5つ選択する。選択する繊維1Aで繊維の断面が明確に観察できない繊維は観察対象から除外する。繊維1Aの触媒層2が設けられている範囲AからBの長さL1を定める。そして、範囲AからBにおいて、クラック及び/又は穴が存在する部分を除いた長さL2を定める。各スポットで5つの繊維1Aについて、L2/L1を計45カ所求める。求めた45カ所のL2/L1の平均値を触媒層2が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率とする。
【0029】
図5に繊維1A上に触媒層2が設けられた部材の模式図を示す。
図5の部材は、2部のクラックと1部の穴が存在する。触媒層2が設けられている部分をまず観察し、繊維1Aの触媒層2が設けられている範囲AからBの長さ(外周辺の長さ)L1を求める。そして、クラック及び穴によって開口している部分の繊維の長さL3を求め、L1ーL3からL2を求め、L2/L1を算出する。
【0030】
図6に繊維1A上に触媒層2が設けられた部材の模式図を示す。
図6の部材は、1部の穴が存在する。穴の周りの触媒層2は剥離している。触媒層2が設けられている部分をまず観察し、繊維1Aの触媒層2が設けられている範囲AからBの長さ(外周辺の長さ)L1を求める。剥離の程度が小さい場合は、触媒層2が設けられている部分として取り扱う。剥離によって、繊維1Aの表面から5μm以上触媒層2が離間している部分は、穴又はクラックの一部として触媒層2が設けられていない部分として取り扱う。そして、クラック及び穴によって開口している部分の繊維のC-D間の長さL3を求め、L1ーL3からL2を求め、L2/L1を算出する。
【0031】
触媒層2の表面にクラックが存在することが好ましい。クラックが存在すると、触媒の欠損が生じるが、触媒層2の断面に大きな開口部を形成することができる。クラックの長さが長いと、触媒層2の内部の触媒の利用効率が高まる。触媒層2には、繊維1Aの直径の5倍以上の長さのクラックが存在することが好ましい。
【0032】
触媒層2に含まれる各金属元素の濃度は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)で求めることができる。
【0033】
触媒層2にクラック及び/又は穴を有する電極100は、例えば以下の方法で得られる。基材1上にスパッタで実質的にシート層2Aの前駆体であって貴金属酸化物を含むシート層前駆体と実質的にギャップ層2Bの前駆体であって非貴金属酸化物を主体とするギャップ層前駆体を交互に形成し、酸処理で非貴金属酸化物を溶出させる。酸による溶出後、加熱を行う。加熱は、非還元性雰囲気(例えば大気中)で行うことが好ましい。加熱温度が低いとクラック又は/及び穴がほとんど形成されず、加熱温度が高いと触媒層2が剥離して脱離してしまう。
【0034】
(第2実施形態)
第2実施形態は、膜電極接合体(MEA)に関する。
図7に実施形態の膜電極接合体200の模式図を示す。膜電極接合体200は、第1電極11、第2電極12及び電解質膜13を有する。第1電極11は、アノード電極であり、第2電極12は、カソード電極であることが好ましい。第1電極11に第1実施形態の電極100を用いることが好ましい。実施形態の膜電極接合体200は、水素発生又は酸素発生を行う電気化学セル又はスタックに用いられることが好ましい。
【0035】
第1電極11に第1実施形態の基材1及び触媒層2を有する電極100を用いることが好ましい。第1電極11として用いる電極100の触媒層2は、電解質膜13側に設けられている。触媒層2は、電解質膜13と直接的に接していることが好ましい。触媒層2のクラック及び/又は穴の内部には、電解質膜13が食い込んでいてもよい。
【0036】
第1触媒層11Bの気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。第1触媒層11Bの面積当たりの金属量が上記の範囲内で、気孔率が高いとかカソード(第2電極12)で発生した水素が電解質膜13を通って、アノード(第1電極11)にリークした際に、第1触媒層11Bが粗密であるため、第1触媒層11B及び第1基材11Aを水素が通り抜けやすい。実施形態のリーク対策を講じた場合、空孔率が高いことに起因して水素がリークしやすい第1触媒層11Bを用いても水素のリークを効率的に抑えることができる。水素がリークしにくい触媒層を第1触媒層11Bに用いた場合でも、実施形態の膜電極接合体100は、水素リークは効果的に抑制できる。
【0037】
第2電極12は、第2基材12Aと第2触媒層12Bを有する。第2基材12A上に第2触媒層12Bが設けられている。第2触媒層12Bは、電解質膜13側に設けられている。第2触媒層12Bは、電解質膜13と直接的に接していることが好ましい。
【0038】
第2基材12Aとしては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第2基材12Aは、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第2基材12Aは、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。第2基材12Aは、炭素微粒子と撥水性樹脂(PTFEやナフィオンなどのフッ素樹脂)を含むカーボン層(MPL層)を有する。カーボン層は、例えば、カーボンペーパーと第2触媒層12Bとの間に設けられている。
【0039】
第2触媒層12Bは、触媒金属を有する。第2触媒層12Bは、触媒金属の粒子で、触媒金属が担体に担持されていないことが好ましい。第2触媒層12Bは、多孔質な触媒層であることが好ましい。触媒金属としては、特に限定されないが、例えば、Pt、Rh、Os、Ir、Pd及びAuからなる群から選択される1種以上を含む。このような触媒材料からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。触媒金属は、金属、合金又は金属酸化物であることが好ましい。第2触媒層12Bは、例えば、シート状の触媒層とギャップ層が交互に積層した触媒ユニットを複数有することが好まし。
【0040】
第2触媒層12Bの面積当たりの金属量は、0.02[mg/cm2]以上1.0[mg/cm2]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm2]以上0.5[mg/cm2]以下である。この質量の和は、ICP-MSで測定することができる。
【0041】
第2触媒層12Bの気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0042】
電解質膜13は、プロトン伝導性膜である。電解質膜13としては、スルホン酸基、スルホンイミド基及び硫酸基からなる群より選ばれる1種以上を有するフッ素系ポリマー又は芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。電解質膜13としては、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーが好ましい。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、ナフィオン(商標 デュポン社製)、フレミオン(商標 旭化成社製)、セレミオン(商標 旭化成社製)、アクイビオン(aquivion)(商標;Solvay Specialty Polymers社)又は、アシプレックス(商標 旭硝子社製)などを使用することができる。
【0043】
電解質膜13の厚さは、膜の透過特性や耐久性などの特性を考慮して適宜決定することができる。強度、耐溶解性及びMEAの出力特性の観点から、電解質膜13の厚さは、20[μm]以上500[μm]以下が好ましく、50[μm]以上300[μm]以下がより好ましく、80[μm]以上200[μm]以下がさらにより好ましい。
【0044】
電解質膜13は、第1電極11側に貴金属領域を含むことが好ましい。貴金属領域は貴金属粒子を含む。貴金属領域は、電解質膜13の表面に存在することが好ましい。貴金属領域は1つの領域で構成されていることが好ましいが、複数の分離した領域で構成されていてもよい。
【0045】
貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上を含む合金の粒子を含んでもよい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt粒子が好ましい。貴金属粒子は、Re粒子が好ましい。貴金属粒子は、Rh粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ir粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pd粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ru粒子が好ましい。
【0046】
貴金属粒子は、カソード側で発生して電解質膜13を通る水素を酸化させる。貴金属粒子によって水素リークを抑えることができる。貴金属粒子がアノード側に存在するため、カソード側から排出される水素を酸化させにくい。貴金属粒子が存在する領域は、第2電極12(カソード)側の電解質膜13にも存在していてもよい。
【0047】
貴金属粒子の平均外接円直径は、0.5[nm]以上50[nm]以下が好ましく、1[nm]以上10[nm]以下がより好ましく、1[nm]以上5[nm]以下がさらにより好ましい。
【0048】
耐久性の高い電極100を膜電極接合体200のアノードに用いることで、高い活性で長時間運転が可能となる。
【0049】
(第3実施形態)
第3実施形態は、電気化学セルに関する。
図8に第2実施形態の電気化学セル300の断面図を示す。水電解を例に電気化学セル300を以下説明するが、水以外にアンモニアなどを分解しても水素を発生させることができる。
【0050】
図8に示すように実施形態2の電気化学セル300は、第1電極(アノード)11と、第2電極(カード)12と、電解質膜13と、ガスケット21、ガスケット22、セパレータ23と、セパレータ24と、を有する。ガスケット21として、第1電極11のシール材を用いてもよい。ガスケット22として、第2電極12のシール材を用いてもよい。
【0051】
第1電極(アノード)11と、第2電極(カード)12と、電解質膜13が接合した膜電極接合体200を用いることが好ましい。アノード給電体をセパレータ23と別に設けてもよい。カソード給電体をセパレータ24と別に設けてもよい。
【0052】
図8の電気化学セル300は、図示しない電源がセパレータ23とセパレータ24と接続し、アノード11とカソード12で反応が生じる。アノード11には、例えば、水が供給され、アノード12で、水が、プロトン、酸素と電子に分解される。電極の支持体と給電体が多孔質体であり、この多孔質体が流路板として機能する。生成した水と未反応の水は、排出され、プロトンと電子はカソード反応に利用される。カソード反応は、プロトンと電子が反応し、水素を生成する。生成した、水素及び酸素のいずれか一方又は両方は、例えば、燃料電池用燃料として利用される。
【0053】
(第4実施形態)
第4実施形態は、スタックに関する。
図9は、第4実施形態のスタック400を示す模式断面図である。
図9に示す第3実施形態のスタック400は、MEA200又は電気化学セル300を複数個、直列に接続したものである。MEAや電気化学セルの両端に締め付け板31、32が取り付けられている。
【0054】
一枚のMEA200からなる電気化学セル300での水素生成量は少ないため、複数のMEA200又は複数の電気化学セル300を直列に接続したスタック400を構成すると、大量の水素を得ることができる。
【0055】
(第5実施形態)
第5実施形態は、電解装置に関する。
図10に、第5実施形態の電解装置の概念図を示す。電解装置500には、電気化学セル300又はスタック400が用いられる。
図10の電解装置は水電解用である。水電解用の電解装置について説明する。例えば、アンモニアから水素を発生させる場合は、電極100を用いた別構成の装置を採用することが好ましい。また、二酸化炭素を電気分解してメタノールやエチレンなどの有機物や一酸化炭素を生成する電解装置電解装置にも実施形態の電極は利用可能である。
【0056】
図10に示すように水電解用単セルを直列に積層したものをスタック400として用いる。スタック400には、電源41取り付けられ、アノード・カソード間に電圧が印加される。スタック400のアノード側には、発生したガスと未反応の水を分離する気液分離装置42、混合タンク43がつながっており、混合タンク43には、水を供給するイオン交換水製造装置44からポンプ46で送液し、気液分離装置42から逆止弁47を通して、混合タンク43混合してアノードへ循環させる。アノードで生成した酸素は、気液分離装置42を経て、酸素ガスが得られる。一方、カソード側には、気液分離装置48に連続して水素精製装置49を接続して、高純度水素を得る。水素精製装置49と接続した弁50を有する経路を経て不純物が排出される。運転温度を安定に制御するためスタック及び混合タンクの加熱や、熱分解時の電流密度等の制御することができる。
【0057】
以下、実施形態の実施例を説明する。
【0058】
(実施例A)
アノード(第1電極11)の作製
基材としてサイズが25[cm]×25[cm]、厚み200[μm]のTi不織布基材を用いる。チタン基材にスパッタリングでイリジウムをスパッタしシート層前駆体を形成する。その後ニッケルのみをスパッタしギャップ層前駆体を形成する。このシート層及びギャップ層形成の工程を22回繰り返し面積当たりのIrが0.2[mg/cm2]になるように積層構造を得る。シート層とギャップ層のスパッタ条件を表1、2に示す。続いて硫酸で洗浄することでニッケルを一部溶解させた積層触媒を得る。酸処理後、表3に示す温度条件で加熱処理を行った。酸処理後、シート層前駆体は概ねシート層になる。酸処理後、ギャップ層前駆体は概ねギャップ層になる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
図11に、実施例A-1の電極100を観察したSEM画像を示す。
図12に、比較例A-1の電極100を観察したSEM画像を示す。
図13に、比較例A-2の電極100を観察したSEM画像を示す。適切な加熱処理を行うと、クラックが形成され、クラックによって生じた開口部から水が侵入し、水電解が促進される。
図12の比較例A-1は、加熱処理を行っていないため、平滑な触媒層2の表面が確認される。比較例A-1に関しては、加熱処理を実施していない触媒層であり、実施例と比較すると触媒の利用効率が少し低い。比較例A-2は、加熱温度が高すぎるために、触媒層2が剥がれ落ちてしまい、触媒量が少なく、水電解効率が低下してしまう。
【0063】
カソード(第2電極12)の作製
基材として、サイズが25[cm]×25[cm]、厚みが190[μm]のMPL層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を用意する。この基材上に、Pt触媒のローディング密度0.1[mg/cm2]になるように、スパッタリング法により空隙層を含む積層構造を持つ触媒ユニットを複数含む多孔質触媒層を形成し、多孔質触媒層を有する電極を得る。この電極は実施例及び比較例の標準カソードとして使用する。
【0064】
電解質膜はサイズが30[cm]×30[cm]の、ケマーズ社製Nafion115を用い、アノードとカソードで電解質膜を挟み、ホットプレスを行う。ホットプレス装置に入れ、160[℃]、20[kg/cm2]で3分間プレスを実施し、その後25[℃]、20[kg/cm2]で3分間プレス冷却を行うことでMEAを得る。
【0065】
<単セルの作製>
得られたMEA及びガスケットを流路が設けられている二枚の流路付セパレータの間にセッティングし、PEEC単セル(電気化学セル)を作製する。また、流路付セパレータの水素側の出口には背圧弁がついており、水素の内圧を上げることが可能となっている。
【0066】
次に、実施例A及び比較例Aのアノードを評価した。得られた単セルに対して、一日コンディショニングを行った。その後、60[℃]に維持し、アノードに超純水を0.05[L/min]供給した。電源を用いてアノード・カソード間に2[A/cm2]の電流密度で電流を印加して、48時間運転後のセル電圧(VC)を測定した。セル電圧(VC)を表4に示す。
【0067】
【0068】
(実施例B)
表5に示す条件で加熱処理を行ったこと以外は実施例A-1と同様の条件でアノードを作製し、実施例Aと同様にMEA化した。MEA化した後にサイクリックボルタンメトリーで電荷量を測定した。具体的には電位範囲0.2V~1.2V 、走査速度50mV/sec、回繰り返し数10回で、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。10回目のサイクリックボルタモグラムの総面積を算出した。この総面積を触媒層の電荷量とした。
【0069】
【0070】
【0071】
明細書中、元素の一部は元素記号のみで表している。
【0072】
以下、実施形態の技術案を付記する。
[技術案1]
基材と、
前記基材上に、シート層とギャップ層が交互に積層した触媒層を有し、
前記触媒層は、クラック又は/及び穴が存在する電極。
[技術案2]
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、0.3%以上60%以下である技術案1に記載の電極。
[技術案3]
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、1%以上50%以下である技術案1又は2に記載の電極。
[技術案4]
前記基材は繊維を含み、
前記触媒層は、前記繊維上に設けられていて、
前記繊維に前記触媒層が設けられた面積に占めるクラック又は/及び穴の面積比率は、5%以上45%以下である技術案1ないし3のいずれか1案に記載の電極。
[技術案5]
技術案1ないし4のいずれか1項に記載の電極と、
電解質膜を用いた膜電極接合体。
[技術案6]
前記クラック又は/及び穴に電解質膜が食い込んでいる技術案5に記載の膜電極接合体。
[技術案7]
技術案5又は6に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
[技術案8]
技術案5又は6に記載の膜電極接合体を用いたスタック。
[技術案9]
技術案7に記載の電気化学セルを用いたスタック。
[技術案10]
技術案8に記載のスタックを用いた電解装置。
[技術案11]
技術案9に記載のスタックを用いた電解装置。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。水電解セルとして、PEMECを挙げたが、これ以外の電解セルでも、同様に本発明を適用できる。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 基材
1A 繊維
2 触媒層
11 第1電極
12 第2電極
13 電解質膜
21 ガスケット
22 ガスケット
23 セパレーター
24 セパレーター
31 締め付け板
32 締め付け板
41 電源
42 気液分離装置
43 混合タンク
44 イオン交換水製造装置
46 ポンプ
47 逆止弁
48 気液分離装置
49 水素精製装置
50 弁
100 電極
200 膜電極接合体
300 電気化学セル
400 スタック
500 電解装置