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特開2024-53495膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置
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  • 特開-膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置 図1
  • 特開-膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置 図2
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  • 特開-膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置 図4
  • 特開-膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053495
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/031 20210101AFI20240408BHJP
【FI】
C25B11/031
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159834
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】中野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA25
4K011AA30
4K011CA04
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】高信頼性の膜電極接合体を提供する。
【解決手段】実施の形態の膜電極接合体は、第1拡散層と、第1触媒層と、を有する第1電極と、第2拡散層と、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む第2触媒層と、第2触媒層と第2拡散層の間に設けられ、炭素粒子と、第2拡散層の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層と、を有し、水素を発生する第2電極と、第1電極と第2電極の間に設けられた電解質膜であって、第1触媒層は第1拡散層と電解質膜の間に設けられ、第2触媒層は第2拡散層と電解質膜の間に設けられた電解質膜と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1拡散層と、
第1触媒層と、
を有する第1電極と、
第2拡散層と、
貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む第2触媒層と、
前記第2触媒層と前記第2拡散層の間に設けられ、炭素粒子と、前記第2拡散層の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層と、
を有し、水素を発生する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間に設けられた電解質膜であって、前記第1触媒層は前記第1拡散層と前記電解質膜の間に設けられ、前記第2触媒層は前記第2拡散層と前記電解質膜の間に設けられた前記電解質膜と、
を備える膜電極接合体。
【請求項2】
前記第1触媒層は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記疎水性水分管理層の膜厚は10μm以上50μmである請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1に記載の膜電極接合体を用いた、電気化学セル。
【請求項5】
請求項1に記載の膜電極接合体を用いた、スタック。
【請求項6】
請求項1に記載の膜電極接合体を用いた、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学セルは盛んに研究されている。電気化学セルのうち、例えば、固体高分子型水電解セル(PEMEC:Polymer Electrolyte MembraneElectrolysis Cell)は、大規模エネルギー貯蔵システムの水素生成としての利用が期待されている。十分な耐久性と電解特性を確保するため、PEMECの陰極には白金(Pt)ナノ粒子触媒が、陽極にはイリジウム(Ir)ナノ粒子触媒のような貴金属触媒が、一般に使用されている。また、アンモニアからも水素を得る方法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. Watanabe et al. J. Electrochem. Soc, 143, No. 12, 3847-3852 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高信頼性の膜電極接合体、電気化学セル、スタック及び電解装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の膜電極接合体は、第1拡散層と、第1触媒層と、を有する第1電極と、第2拡散層と、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む第2触媒層と、第2触媒層と第2拡散層の間に設けられ、炭素粒子と、第2拡散層の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層と、を有し、水素を発生する第2電極と、第1電極と第2電極の間に設けられた電解質膜であって、第1触媒層は第1拡散層と電解質膜の間に設けられ、第2触媒層は第2拡散層と電解質膜の間に設けられた電解質膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態の膜電極接合体の模式断面図である。
図2】第1実施形態の触媒ユニットの顕微鏡写真である。
図3】第2実施形態の電気化学セルの模式図である。
図4】第3実施形態のスタックの模式図である。
図5】第4実施形態の電解装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。尚、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
【0008】
本明細書中の物性値は、温度が25[℃]で、圧力が1[atom]における値である。各部材の厚さは、積層方向の距離の平均値である。
【0009】
(第1実施形態)
本実施形態の膜電極接合体は、第1拡散層と、第1触媒層と、を有する第1電極と、第2拡散層と、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む第2触媒層と、第2触媒層と第2拡散層の間に設けられ、炭素粒子と、第2拡散層の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層と、を有し、水素を発生する第2電極と、第1電極と第2電極の間に設けられた電解質膜であって、第1触媒層は第1拡散層と電解質膜の間に設けられ、第2触媒層は第2拡散層と電解質膜の間に設けられた電解質膜と、を備える。
【0010】
以下、実施形態において、水電解を例に説明する。
【0011】
なお、実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアの電解装置の運転方法に利用可能である。実施形態の膜電極接合体100は、アンモニア合成用の電解装置の膜電極接合体として利用可能である。実施形態の電解装置の運転方法は、超純水をアノードに供給し、アノードで水を分解してプロトンおよび酸素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、カソードに供給した窒素とプロトン、電子が結びつきアンモニアが生成されるアンモニア合成用の電気分解に用いられる電解装置の運転方法に、利用可能である。
【0012】
なお、実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアを電解して水素を生成する電解装置の運転方法に利用可能である。実施形態の膜電極接合体100は、アンモニアを電解して水素を生成する装置に利用可能である。実施形態の電解装置の運転方法は、アンモニアをカソードに供給し、カソードでアンモニアを分解してプロトンおよび窒素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、アノードでプロトンと電子が結びつき水素が生成されるアンモニア分解用の電気分解に用いられる電解装置の運転方法に、利用可能である。
【0013】
図1は、本実施形態の膜電極接合体100の模式断面図である。図2は、本実施形態の触媒ユニットの顕微鏡写真である。
【0014】
図1及び図2を用いて、本実施形態の膜電極接合体100について説明する。
【0015】
膜電極接合体100は、第1電極2と、第2電極12と、電解質膜20と、を有する。
【0016】
第1電極2は、例えば、アノード電極である。第1電極2は、第1拡散層4と、第1触媒層6と、を有する。
【0017】
第2電極12は、例えば、カソード電極である。第2電極12は、第2拡散層14と、第2触媒層16と、疎水性水分管理層18と、を有する。
【0018】
電解質膜20は、第1電極2と第2電極12の間に設けられている。第1触媒層6は、第1拡散層4と電解質膜20の間に設けられている。第2触媒層16は、第2拡散層14と電解質膜20の間に設けられている。疎水性水分管理層18は、第2触媒層16と第2拡散層14の間に設けられている。
【0019】
ここで、X方向(X軸)と、X方向(X軸)に垂直に交差するY方向(Y軸)と、X方向(X軸)及びY方向(Y軸)に垂直に交差するZ方向(Z軸)を定義する。第1電極2の第1拡散層4、第1触媒層6、電解質膜20、第2電極12の第2拡散層14、第2触媒層16及び疎水性水分管理層18は、例えば、X方向及びY方向に延伸する。第1電極2の第1拡散層4、第1触媒層6、電解質膜20、第2電極12の第2拡散層14、第2触媒層16及び疎水性水分管理層18は、例えば、X方向及びY方向に延びる。また、第1電極2、電解質膜20及び第2電極12は、例えば、Z方向に積層されている。
【0020】
第1拡散層4としては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第1拡散層4は、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第1拡散層4は、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0021】
本実施形態の第1拡散層4は、チタンを含むバルブメタルの多孔質基材であることが特に好ましい。
【0022】
第1拡散層4の膜厚は、例えば、50μm以上200μm以下である。
【0023】
第1触媒層6は、第1拡散層4と電解質膜20の間に設けられている。第1触媒層6は、触媒金属を有する。第1触媒層6は、触媒金属の粒子で、触媒金属が担体に担持されていないことが好ましい。第1触媒層6は、多孔質な触媒層、又は多孔体構造又は空隙層を含む積層構造を有することが好ましい。触媒金属としては、特に限定されないが、例えば、Ir、Ru及びPtからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。触媒金属は、金属、合金又は金属酸化物であることが好ましい。
【0024】
第1触媒層6の面積当たりの金属量は、0.02[mg/cm]以上1.0[mg/cm]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm]以上0.5[mg/cm]以下である。この質量の和は、例えば、ICP質量分析装置(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometer:ICP-MS)で測定することが出来る。
【0025】
第1触媒層6の膜厚は、例えば、0.1μm以上20μm以下である。
【0026】
第1触媒層6の気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、第1拡散層4と第1触媒層6の間に、図示しない中間層が設けられていてもかまわない。
【0028】
第2拡散層14としては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第2拡散層14は、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第2拡散層14は、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0029】
第2触媒層16は、触媒金属を有する。第2触媒層16は、触媒金属の粒子で、触媒金属が担体に担持されていないことが好ましい。第2触媒層16は、多孔質な触媒層であることが好ましい。触媒金属としては、特に限定されないが、例えば、Pt、Rh、Os、Ir、Pd及びAuからなる群から選択される1種以上を含む。このような触媒材料からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。触媒金属は、金属、合金又は金属酸化物であることが好ましい。
【0030】
第2触媒層16の面積当たりの金属量は、0.02[mg/cm2]以上1.0[mg/cm2]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm2]以上0.5[mg/cm2]以下である。この質量の和は、例えば、ICP質量分析装置(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometer:ICP-MS)で測定することができる。
【0031】
第2触媒層16の気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0032】
第2触媒層16の膜厚は、例えば、0.1μm以上2μm以下である。
【0033】
図2(A)に貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像を示す。図2(B)及び図2(C)に、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層多孔体構造のSEM像を示す。空隙層を含む積層構造の場合は、隣接のナノシート同士は部分的に一体化することが望ましい。積層構造内部へナノセラミックス材料層の導入、または隣接ナノシートまたは材料層の間に、繊維状カーボンを含む多孔質ナノカーボン層を配置したほうは耐久性、ロバスト性がより向上できる。かかる貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層は、第1触媒層6及び第2触媒層16に用いることが可能である。
【0034】
疎水性水分管理層18は、多孔質な疎水性の層である。疎水性水分管理層18は、炭素粒子と、第2拡散層14の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、撥水性材料と、を含む。疎水性水分管理層18中の炭素繊維が第2拡散層14の重量の1wt%未満である場合、拡散不足により、発生した水素ガスが流路側へうまく排出されず、電解質膜と触媒層の間にガスが滞り、電解質膜と触媒層の剥離を引き起こす。また、疎水性水分管理層18中の炭素繊維が第2拡散層14の重量の20wt%を超える場合、疎水性水分管理層の空隙率が増え、導電性が低下してしまう。
【0035】
疎水性水分管理層18の膜厚は10μm以上50μm以下であることが好ましい。10μm未満である場合、疎水性水分管理層18の撥水機能が弱く、アノードから電解質膜を通じて移動してきた水分が十分に排出されず、拡散過電圧が上がり、セル電圧が上昇する。また、50μmより大きい場合、ガスが拡散しにくくなるため拡散過電圧が上がり、セル電圧が上昇する。
【0036】
炭素粒子は、例えば、カーボンブラックである。炭素粒子としては、例えば、ケッチェンブラック(商標)、アセチレンブラック、バルカン(商標)、活性炭等が使用できる。
【0037】
炭素繊維としては、例えば、単層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファーバーが使用できる。
【0038】
撥水性材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂が使用できる。
【0039】
炭素粒子及び炭素繊維の平均一次粒径は、10nm以上300nm以下が好ましい。炭素粒子及び炭素繊維の平均一次粒径は、25nm以上200nm以下、30nm以上150nm以下、30nm以上100nm以下がさらにより好ましい。炭素繊維は、長辺と短辺の比(長辺/短辺)が10以上のものである。炭素粒子は、長辺と短辺の比が10未満のものである。
【0040】
炭素粒子の平均一次粒径は、各粒子又は各繊維の内接円直径と外接円直径の平均値から求められる。炭素繊維の平均一次粒径は、炭素繊維の直径から求められる。疎水性水分管理層18の厚さの半分の位置の断面をSEMで観察することが好ましい。
【0041】
なお、第2拡散層14と疎水性水分管理層18の間又は疎水性水分管理層18と第2触媒層16の間に、図示しない中間層が設けられていてもかまわない。
【0042】
電解質膜20は、プロトン伝導性膜である。電解質膜20としては、スルホン酸基、スルホンイミド基及び硫酸基からなる群より選ばれる1種以上を有するフッ素系ポリマー又は芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。電解質膜20としては、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーが好ましい。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、ナフィオン(商標 デュポン社製)、フレミオン(商標 旭化成社製)、セレミオン(商標 旭化成社製)、アクイビオン(aquivion)(商標 Solvay Specialty Polymers社)又は、アシプレックス(商標 旭硝子社製)などを使用することができる。
【0043】
電解質膜20の膜厚は、膜の透過特性や耐久性などの特性を考慮して適宜決定することができる。電解質膜20の厚さは、強度、耐溶解性及び膜電極接合体の出力特性の観点から、20[μm]以上500[μm]以下が好ましく、50[μm]以上300[μm]以下がより好ましく、80[μm]以上200[μm]以下がさらにより好ましい。
【0044】
電解質膜20は、第1電極2の側に貴金属領域を含むことが好ましい。貴金属領域は貴金属粒子を含む。貴金属領域は、電解質膜20の表面に存在することが好ましい。貴金属領域は1つの領域で構成されていることが好ましいが、複数の分離した領域で構成されていてもよい。
【0045】
貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上を含む合金の粒子を含んでもよい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt粒子が好ましい。貴金属粒子は、Re粒子が好ましい。貴金属粒子は、Rh粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ir粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pd粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ru粒子が好ましい。
【0046】
貴金属粒子は、第2電極12の側で発生して電解質膜20を通る水素を酸化させる。貴金属粒子によって水素リークを抑えることができる。貴金属粒子が第1電極2の側に存在するため、カソード側から排出される水素を酸化させにくい。なお、貴金属粒子が存在する領域は、第2電極12の側の電解質膜20にも設けられていてもよい。
【0047】
次に、本実施形態の作用効果を記載する。
【0048】
第2電極12が、水素を発生する用途に用いられる場合を考える。これは、例えば、膜電極接合体100が水電解装置に用いられる場合である。具体的には、第1電極2で、水から、プロトン、酸素及び電子が生成される。また、第2電極12では、第1電極2で生成されたプロトンと電子が反応し、水素が生成される。ここで、第2電極12の第2触媒層16は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む。
【0049】
この場合、第2電極12から水素ガスが発生する際に、電解質膜20と第2触媒層16の界面が剥離することがあった。電解質膜20と第2触媒層16の界面が剥離した場合には、膜電極接合体100の電気抵抗が大幅に増加してしまうという問題があった。これは、第2触媒層16が貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層である場合に、触媒が担体に担持されていないために、触媒層の強度が弱いことに起因するものと考えられる。
【0050】
そこで、本実施形態の膜電極接合体100においては、第2電極12が、第2触媒層16と第2拡散層14の間に設けられ、炭素粒子と、第2拡散層14の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層18を有する。
【0051】
これによれば、適切な重量を有する炭素繊維が導入されているため、水素ガス透過性が改善する。これにより、電解質膜20と第2触媒層16の剥離が抑制される。
【0052】
本実施形態の膜電極接合体によれば、高信頼性の膜電極接合体を提供することが可能となる。
【0053】
(第2実施形態)
本実施形態の電気化学セルは、第1実施形態の膜電極接合体を備える電気化学セルである。ここで、第1実施形態と重複する内容の記載は省略する。
【0054】
図3に本実施形態の電気化学セル200の模式断面図を示す。水電解を例に電気化学セル200を以下説明するが、水以外にアンモニアなどを分解しても水素を発生させることができる。
【0055】
本実施形態の電気化学セル200は、膜電極接合体100と、セパレータ23と、セパレータ24と、シール80と、シール82と、を備える。
【0056】
第1電極2には、例えば、水が供給される。第1電極2で、水から、プロトン、酸素と電子が生成される。第2電極12では、第1電極2で生成されたプロトンと電子が反応し、水素が生成される。生成された、水素及び酸素のいずれか一方又は両方は、例えば、燃料電池用燃料として利用される。セパレータ23とセパレータ24を用いて、膜電極接合体100はZ方向及び-Z方向に締め付けられている。
【0057】
本実施形態の電気化学セル200によれば、高信頼性の電気化学セル200を得ることが可能になる。
【0058】
(第3実施形態)
本実施形態のスタックは、第1実施形態の膜電極接合体100を備えるスタックである。ここで、第1実施形態及び第2実施形態と重複する内容の記載は省略する。
【0059】
図4は、本実施形態のスタック300を示す模式断面図である。スタック300は、膜電極接合体100又は電気化学セル200を複数個、直列に接続したものである。膜電極接合体100や電気化学セル200の両端に締め付け板31及び締め付け版32が取り付けられている。
【0060】
本実施形態のスタック300によれば、長寿命のスタック300を得ることが可能になる。
【0061】
(第4実施形態)
第4実施形態は、電解装置に関する。ここで、第1乃至第3実施形態と重複する内容の記載は省略する。
【0062】
図5に、本実施形態の電解装置400の模式図を示す。電解装置400は、例えば、水素発生装置である。電解装置400は、電気化学セル200又はスタック300を備える。電解装置400は、例えば、水電解用の電解装置である。なお、例えば、アンモニアから水素を発生させる電解装置の場合は、膜電極接合体100を用いた別構成の装置を採用することが好ましい。
【0063】
スタック300には、電源41が取り付けられている。電源41により、スタック300に電圧が印加される。スタック300のアノード側には、発生したガスと未反応の水を分離する気液分離装置42及び混合タンク43がつながっている。混合タンク43には、水を供給するイオン交換水製造装置44からポンプ46で送液がおこなわれる。そして、気液分離装置42から逆止弁47を通して、混合タンク43で混合して、アノードへの循環がおこなわれる。
【0064】
アノードで生成された酸素は、気液分離装置42を通過した後に、酸素ガスとなる。一方、カソードからは、気液分離装置48に接続された水素精製装置49を用いて、高純度水素を生成する。水素精製装置49と接続した弁50を有する経路を経て、不純物が排出される。運転温度を安定に制御するため、スタック及び混合タンクの加熱や、熱分解時の電流密度等の制御をおこなうことができる。
【0065】
本実施形態の電解装置400によれば、長寿命の電解装置400を得ることが可能となる。
(実施例)
【0066】
以下、実施例を説明する。
【0067】
アノード(第1電極2)の作製
サイズが25[cm]×25[cm]、厚み200[μm]のTi不織布基材を、拡散層板材90として準備した。かかる拡散層板材90に、スパッタリングでニッケルとイリジウムをスパッタしシート層を形成した。その後ニッケルのみをスパッタしギャップ層を形成した。このシート層及びギャップ層形成の工程を40回繰り返し面積当たりのIrが0.2[mg/cm]になるように積層構造を得た。続いて硫酸で洗浄することでニッケルを抜いた触媒構造(第1触媒層6)を得た。これにより、第1電極2を得た。
【0068】
カソード(第2電極12)の作製
サイズが25[cm]×25[cm]、厚みが190[μm]の炭素層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を、第2拡散層14として準備した。第2拡散層14上に、炭素粒子としてCabot Vulcan XC 72(平均一次粒子径40nm)炭素繊維としてGSI Creos製のカルベール、撥水剤としてテフロン(登録商標)PTFEディスパージョンを用い、これらを混合したスラリーをカーボンペーパー上に塗布し、350℃で一時間焼成し、疎水性水分管理層18を形成した。次に、疎水性水分管理層18の上に、スパッタリングでニッケルと白金をスパッタしシート層を形成した。その後ニッケルのみをスパッタしギャップ層を形成した。このシート層及びギャップ層形成の工程を10回繰り返し面積当たりのPtが0.1[mg/cm2]になるように積層構造を得た。続いて硫酸で洗浄することでニッケルを抜いた触媒構造(第2触媒層16)を得た。これにより、第2電極12を得た。
【0069】
電解質膜20の作成
電解質膜20としてサイズが30[cm]×30[cm]の、ケマーズ社製Nafion115を用いた。テトラアンミン白金を水で11[wt%]まで薄めた溶液をスプレーで塗布した。スプレー前にテープでマスクをしたNafion115を用いた。スプレー塗布から10分経過後、純水でリンスし、最後に10wt%の硝酸80℃で1時間煮込むことでPt粒子が含浸された電解質膜20を得た。
【0070】
次に、上記の第1電極2、第2電極12及び電解質膜20をホットプレス装置に入れた。160[℃]、20[kg/cm]で3分間のプレスを実施した。その後、25[℃]、20[kg/cm]で3分間プレス冷却を実施した。これにより、膜電極接合体100を得た。
【0071】
次に、測定温度は80[℃]、電流密度2[A/cm]で、膜電極接合体100について、水電気分解の定常運転を行った。アノードに超純水を流量0.05[L/min]で供給した。そして、24時間運転後のセル電圧(V1)を測定した。評価前のセル電圧(VC)と比較して、電圧上昇率(V1)/(VC)を求めた。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示されるように、実施例1乃至実施例10の膜電極接合体では、電圧上昇率はいずれも1.5未満で良好であった。
【0074】
これに対して、比較例1の膜電極接合体では、電圧上昇率が6.23で大きすぎた。比較例1の膜電極接合体では、疎水性水分管理層中の炭素繊維の量が0.5wt%と少なすぎたため、ガス透過性が十分でなかった。そのため、第2触媒層16と電解質膜20の剥離が発生していた。
【0075】
また、比較例2の膜電極接合体では、電圧上昇率が7.14で大きすぎた。比較例2の膜電極接合体では、疎水性水分管理層中の炭素繊維の量が23wt%と多すぎたため、疎水性水分管理層の空隙率が増え、導電性が低下するため、性能低下が起きたと推測している。
【0076】
特に、第1触媒層6に多孔質触媒層を用い、疎水性水分管理層18の膜厚が10μm以上50μm以下である実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例7及び実施例8において、1.3未満の、低い電圧上昇率が得られた。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0078】
なお、上記の実施形態を、以下の技術案にまとめることができる。
技術案1
第1拡散層と、
第1触媒層と、
を有する第1電極と、
第2拡散層と、
貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む第2触媒層と、
前記第2触媒層と前記第2拡散層の間に設けられ、炭素粒子と、前記第2拡散層の重量の1wt%以上20wt%以下の炭素繊維と、を含む疎水性水分管理層と、
を有し、水素を発生する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間に設けられた電解質膜であって、前記第1触媒層は前記第1拡散層と前記電解質膜の間に設けられ、前記第2触媒層は前記第2拡散層と前記電解質膜の間に設けられた前記電解質膜と、
を備える膜電極接合体。
技術案2
前記第1触媒層は、貴金属多孔体又はシート状貴金属を含む多孔質触媒層を含む技術案1記載の膜電極接合体。
技術案3
前記疎水性水分管理層の膜厚は10μm以上50μmである技術案1記載の膜電極接合体。
技術案4
技術案1乃至技術案3いずれか一項に記載の膜電極接合体を用いた、電気化学セル。
技術案5
技術案1乃至技術案3いずれか一項に記載の膜電極接合体を用いた、スタック。
技術案6
技術案1乃至技術案3いずれか一項に記載の膜電極接合体を用いた、電解装置。
【符号の説明】
【0079】
1 :膜電極接合体
2 :第1電極
4 :第1拡散層
6 :第1触媒層
12 :第2電極
14 :第2拡散層
16 :第2触媒層
18 :疎水性水分管理層
20 :電解質膜
21 :導電性材料
23 :セパレータ
24 :セパレータ
31 :締め付け板
32 :締め付け版
41 :電源
42 :気液分離装置
43 :混合タンク
44 :イオン交換水製造装置
46 :ポンプ
47 :逆止弁
48 :気液分離装置
49 :水素精製装置
50 :弁
80 :シール
82 :シール
90 :拡散層板材
100 :膜電極接合体
200 :電気化学セル
300 :スタック
400 :電解装置
図1
図2
図3
図4
図5