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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053499
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20240408BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C11/03 C
B60C11/03 200A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159838
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】小島 良太
(72)【発明者】
【氏名】須田 侑也
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC19
3D131EB03U
3D131EB46V
3D131EB46X
3D131EB66X
3D131EB67X
3D131EB68X
3D131EB72V
3D131EC01U
(57)【要約】
【課題】本発明は、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の空気入りタイヤは、センター領域でのトレッド部の踏面に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝を有し、ショルダー領域での前記トレッド部の踏面に、トレッド端からタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が変化する部分を有し、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝を設け、前記トレッド部の踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態の際のタイヤ幅方向断面にて、両トレッド端からタイヤ幅方向内側にトレッド幅の25%ずつのタイヤ幅方向領域をショルダー領域とし、2つの前記ショルダー領域の間の領域をセンター領域とするとき、
前記センター領域での前記トレッド部の踏面に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝を有し、
前記ショルダー領域での前記トレッド部の踏面に、トレッド端からタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が変化する部分を有し、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝を設け、
前記トレッド部の踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しないことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記閉鎖横溝は、タイヤ幅方向長さが異なる、少なくとも2種類からなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数本の閉鎖横溝は、タイヤ周方向に交互にタイヤ幅方向の位置をずらして千鳥状に配置されている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ周方向に投影した際に一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する前記閉鎖横溝間で、前記閉鎖横溝のタイヤ幅方向内側の終端位置が異なる、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記傾斜溝と、前記複数の閉鎖横溝の各々との最短距離は、いずれも10mm~50mmの範囲内にある、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばスポーツタイヤにおいては、ウェット性能を向上させるために、タイヤ周方向に連続して延びる周方向主溝を設けたパターンが広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-231271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなパターンでは、タイヤ周方向に長い成分を有する周方向主溝の開口部を起点とした摩耗肌の悪化が生じてしまう場合があった。また、周方向主溝が存在すること自体や上記摩耗肌の悪化によって、接地面積が減少し、陸部の剛性が低下してしまう。このようなことから、上記のようなパターンにおいては、グリップ性能が低下してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態の際のタイヤ幅方向断面にて、両トレッド端からタイヤ幅方向内側にトレッド幅の25%ずつのタイヤ幅方向領域をショルダー領域とし、2つの前記ショルダー領域の間の領域をセンター領域とするとき、
前記センター領域での前記トレッド部の踏面に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝を有し、
前記ショルダー領域での前記トレッド部の踏面に、トレッド端からタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が変化する部分を有し、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝を設け、
前記トレッド部の踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しないことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【0007】
ここで、「トレッド端」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した、最大負荷状態における、接地面のタイヤ幅方向両端をいう。
また、「トレッド幅」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態における両トレッド端間のタイヤ幅方向距離をいう。
また、「踏面」とは、上記最大負荷状態で路面と接することとなる接地面のタイヤ周方向の全域にわたる面をいう。
また、「周方向主溝」とは、タイヤ周方向に連続して延びる溝のうち、上記基準状態での溝幅(開口幅)が2mm以上のものをいう。
また、「閉鎖横溝」とは、センター領域でのトレッド部の踏面に設けられた、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して5°以下の傾斜角度で延び、両端が他の溝に連通することなく終端する溝のうち、上記基準状態での溝幅(開口幅)が2mm以上のものをいう。
また、「傾斜溝」とは、ショルダー領域でのトレッド部の踏面に設けられた、トレッド端からタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する溝のうち、上記基準状態での溝幅(開口幅)が2mm以上のものをいう。
また、「他の溝に連通することなく」とは、傾斜溝のような他の種類の溝のみならず、他の閉鎖横溝にも連通しないことを意味するものであり、「他の溝」の「溝」は、上記基準状態での溝幅(開口幅)が2mm以上のものをいう。
【0008】
本明細書において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「ホイール」の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
また、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。
【0009】
(2)前記閉鎖横溝は、タイヤ幅方向長さが異なる、少なくとも2種類からなる、上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0010】
(3)前記複数本の閉鎖横溝は、タイヤ周方向に交互にタイヤ幅方向の位置をずらして千鳥状に配置されている、上記(1)又は(2)に記載の空気入りタイヤ。
【0011】
(4)タイヤ周方向に投影した際に一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する前記閉鎖横溝間で、前記閉鎖横溝のタイヤ幅方向内側の終端位置が異なる、上記(3)に記載の空気入りタイヤ。
【0012】
(5)前記傾斜溝と、前記複数の閉鎖横溝の各々との最短距離は、いずれも10mm~50mmの範囲内にある、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させた、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッド部の踏面を示す展開図である。
図2】本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッド部の踏面を示す展開図である。
図3】本発明の別の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッド部の踏面を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。本発明の空気入りタイヤは、特には限定されないが、スポーツ用の空気入りラジアルタイヤとして特に好適に用いられる。なお、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)の内部構造については、慣例に従い、通常の構造とすることができるため、詳細な説明を省略するが、本実施形態のタイヤは、一対のビード部と、一対のビード部に連なる一対のサイドウォール部と、一対のサイドウォール部間に連なるトレッド部と、を備える。また、本実施形態のタイヤは、一対のビード部間をトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された、1層以上のベルト層からなるベルトを備える。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッド踏面を示す展開図である。図1のトレッドパターンは、特には限定されないが、後輪用のタイヤとして好適に用いられるものである。
【0017】
上記基準状態の際のタイヤ幅方向断面にて、両トレッド端TEからタイヤ幅方向内側にトレッド幅の25%ずつのタイヤ幅方向領域をショルダー領域Sとし、2つのショルダー領域Sの間の領域をセンター領域Cとする。
【0018】
図1に示すように、このタイヤは、トレッド部の踏面1に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有していない。このようなパターンを基調とすることにより、タイヤ周方向に長い成分を有する周方向主溝の開口部を起点とする摩耗肌の悪化が生じる現象をなくし、また、トレッド部の踏面1のネガティブ率を小さくして、接地面積を確保し、陸部の剛性を確保することができる。従って、グリップ性能を向上させることができる。本実施形態において、トレッド部の踏面1のネガティブ率(溝がないとした場合の踏面1全体の面積に対する、溝面積の割合)は、特には限定されないが、例えば10~30%とすることができる。
【0019】
また、センター領域Cでのトレッド部の踏面1に、タイヤ幅方向に(傾斜せずに)延び又はタイヤ幅方向に対して5°以下の傾斜角度で延び(図示例ではタイヤ幅方向に傾斜せずに延びている)、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝2を有している。このような複数本の閉鎖横溝2をセンター領域Cに設けることにより、排水性を確保することができるため、周方向主溝を有しないパターンであっても、ウェット性能を大きく低下させなくて済む。また、タイヤ幅方向に延びている(又はタイヤ幅方向に対して上記の低角度で傾斜して延びている)ため、いずれの旋回方向に対しても開口部を起点とする摩耗肌の悪化が生じにくい。また、両端が他の溝に連通することなく終端しているため、陸部の剛性を高めることができる。よって、グリップ性能を向上させることができる。図示例では、閉鎖横溝2は、直線状に延びている。また、図示例では、タイヤ赤道面CL上には、閉鎖横溝2が位置していない。換言すると、タイヤ赤道面CL上は、タイヤ周方向に連続した陸部である。この構成によれば、タイヤ赤道面CLでの陸部の剛性を確保して、グリップ性能を高めることができる。
【0020】
閉鎖横溝2の溝幅(開口幅)は、特には限定されないが、例えば、4~20mmとすることができる。閉鎖横溝2の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば2~7mmとすることができる。
【0021】
図示例で、複数本の閉鎖横溝2は、タイヤ周方向に交互にタイヤ幅方向の位置をずらして千鳥状に配置されている。より具体的には、複数本の閉鎖横溝2は、タイヤ周方向に交互に、タイヤ赤道面CLを境界とするタイヤ幅方向一方側の半部(図示左側)に重心(トレッド踏面1の平面視での閉鎖横溝2の図形の重心)が(図1では全体が)位置する閉鎖横溝2aと、タイヤ幅方向他方側の半部(図示右側)に重心が(図1では全体が)位置する閉鎖横溝2bとが、配置されている。このような構成によれば、センター領域Cでの陸部の剛性分布を均一化することができる。
【0022】
図示例で、閉鎖横溝2は、タイヤ幅方向長さが異なる、少なくとも2種類からなる。これにより、閉鎖横溝2をタイヤ周方向に並べて配置した際に、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間で、閉鎖横溝2のタイヤ幅方向の少なくとも一方側の終端位置が異なる。このような構成によれば、センター領域Cでの陸部の剛性分布を均一化することができる。図示例では、タイヤ周方向に投影した際に互いに一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間(図示例では、閉鎖横溝2a間、閉鎖横溝2b間)で、タイヤ幅方向内側端同士のタイヤ幅方向位置が揃っており、一方で、タイヤ幅方向外側端同士のタイヤ幅方向位置は異なっている。一方で、タイヤ周方向に投影した際に互いに一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間で、タイヤ幅方向内側端同士のタイヤ幅方向位置が異なり、且つ、タイヤ幅方向外側端同士のタイヤ幅方向位置も異なるように配置することもできる。あるいは、タイヤ周方向に投影した際に互いに一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間で、タイヤ幅方向内側端同士のタイヤ幅方向位置が異なり、且つ、タイヤ幅方向外側端同士のタイヤ幅方向位置が揃うように配置することもできる。
【0023】
ここで、タイヤ周方向に投影した際に一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間(図示例では、閉鎖横溝2a間、閉鎖横溝2b間)のタイヤ周方向のピッチ間隔は、特には限定されないが、例えば10~50mmとすることができる。タイヤ周方向のピッチ間隔を10mm以上とすることで陸部の剛性を確保することができ、一方で、50mm以下とすることで、排水性を向上させ、また、陸部が大きいことで接地端に圧が集中してしまい、陸部の中心付近の接地圧が低くなって浮き上がりが生じてしまうのを抑制することができる。
【0024】
図1に示すように、このタイヤは、ショルダー領域Sでのトレッド部の踏面1に、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延びる、複数本のショルダー横溝3をさらに有している。このようなショルダー横溝3を設けることで、周方向主溝を有しないパターンにおいてウェット性能を大きく低下させないようにすることがさらにできる。図示例では、ショルダー横溝3は、直線状に延びている。
本例では、ショルダー横溝3は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延びており、これにより、旋回時の車両装着時外側の横剛性を高めることができ、また、排水性を向上させることができる。この観点からは、ショルダー横溝3は、タイヤ幅方向外側から内側に向かって図示上側に傾斜する場合には、5°以下の傾斜角度、タイヤ幅方向外側から内側に向かって図示下側に傾斜する場合には、40°以下の傾斜角度で、タイヤ幅方向に対して傾斜して延びることが好ましい。
【0025】
ショルダー横溝3の溝幅(開口幅)は、特には限定されないが、例えば、5~20mmとすることができる。ショルダー横溝3の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば2~7mmとすることができる。
ここで、本例では、閉鎖横溝2の溝幅は、ショルダー横溝3の溝幅より小さい。この構成によれば、センター領域Cの陸部の剛性を高めに確保して、グリップ性能をさらに向上させ得る。なお、「閉鎖横溝の溝幅は、ショルダー横溝の溝幅より小さい」とは、閉鎖横溝の溝幅の平均値が、ショルダー横溝の溝幅の平均値よりも小さいことを意味し、平均値は、溝面積を、溝中心線(溝幅の中点を結んでなる線)の延在長さで除した値をいう。
【0026】
図示例で、ショルダー横溝3は、タイヤ幅方向長さが異なる、少なくとも2種類からなる。これにより、ショルダー横溝3をタイヤ周方向に並べて配置した際に、タイヤ周方向に隣接するショルダー横溝3間で、ショルダー横溝3のタイヤ幅方向内側端位置が異なる。このような構成によれば、ショルダー領域Sでの陸部の剛性分布を均一化することができる。
【0027】
ここで、タイヤ周方向に隣接するショルダー横溝3間のタイヤ周方向のピッチ間隔は、特には限定されないが、例えば10~50mmとすることができる。タイヤ周方向のピッチ間隔を10mm以上とすることで陸部の剛性を確保することができ、一方で、50mm以下とすることで、排水性を向上させることができる。
【0028】
図1に示すように、このタイヤは、ショルダー領域Sでのトレッド部の踏面1に、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が変化する部分を有し(図示例では、タイヤ幅方向全域にわたって徐々に傾斜角度が変化しているが、屈曲した形状であっても良い)、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝4を有している。このような傾斜溝4を設けることにより、軸力の損失を極力抑えつつも、周方向主溝を有しないパターンにおいてウェット性能を大きく低下させないようにすることがさらにできる。図示例では、傾斜溝4のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、タイヤ幅方向外側から内側に向かって漸増している。本例では、傾斜溝4は、トレッド端TEから、ショルダー横溝3のうち延在長さが最も長いもののタイヤ幅方向内側端に対応するタイヤ幅方向位置付近までは、ショルダー横溝3と略平行に延びており、これにより、傾斜溝4とショルダー横溝3とのタイヤ周方向の距離が略一定となるため、陸部の剛性の均一化を図ることができる。また、旋回時の車両装着時外側の横剛性を高めることができる。また、本例では、傾斜溝4は、ショルダー横溝3のうち延在長さが最も長いもののタイヤ幅方向内側端に対応するタイヤ幅方向位置付近よりもタイヤ幅方向内側においては、タイヤ幅方向に対する傾斜角度の変化率が大きくなり、傾斜溝4のタイヤ幅方向内側端付近では、タイヤ幅方向に対して45°以上、好ましくは60°以上の傾斜角度で傾斜して延び、これにより、ショルダー領域Sの中でもセンター領域Cに近い領域にて、溝の周方向成分を増大させて、排水性を高めることができる。
【0029】
傾斜溝4の溝幅(開口幅)は、特には限定されないが、例えば、5~25mmとすることができる。傾斜溝4の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば2~7mmとすることができる。また、傾斜溝4の一部に、面取り部を設けても良く、これにより、陸部の端で発生する局所的な接地圧の上昇によって陸部の摩耗肌の悪化を招くのを抑制することができる。
【0030】
ここで、タイヤ周方向に隣接する傾斜溝4間のタイヤ周方向のピッチ間隔は、特には限定されないが、例えば10~50mmとすることができる。タイヤ周方向のピッチ間隔を10mm以上とすることで陸部の剛性を確保することができ、一方で、50mm以下とすることで、排水性を向上させることができる。タイヤ周方向に隣接する傾斜溝4間には、ショルダー横溝3が2~4本配置されていることが好ましい。図示例では、タイヤ周方向に隣接する傾斜溝4間には、ショルダー横溝3が3本配置されており、3本のショルダー横溝3は、タイヤ幅方向長さがそれぞれ異なり、3本のうち、タイヤ周方向一方側(図示上側)のショルダー横溝3ほどタイヤ幅方向長さが短く、従って、タイヤ幅方向内側端位置が、よりタイヤ幅方向外側に位置している。そして、上述のように、本例では、傾斜溝4のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、タイヤ幅方向外側から内側に向かって漸増しているため、各ショルダー横溝3と傾斜溝4との最短距離が略一定となり、剛性の低い部分や排水性の低い部分が生じないようになっている。
【0031】
図示例では、傾斜溝4と、複数の閉鎖横溝2の各々との最短距離は、いずれも10mm~50mmの範囲内にある。10mm以上とすることで、陸部の剛性をより高めることができ、一方で、50mm以下とすることで、排水性をより高めることができる。
【0032】
上述の通り、本実施形態の空気入りタイヤによれば、トレッド部の踏面1に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しない構成であるため、グリップ性能を向上させることができる。また、センター領域Cでのトレッド部の踏面1に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜角して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝2を有しているため、排水性を確保して、ウェット性能を大きく低下させなくて済み、また、グリップ性能を向上させることもできる。そして、ショルダー領域Sでのトレッド部の踏面1に、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝4を有しているため、軸力の損失を極力抑えつつも、周方向主溝を有しないパターンにおいてウェット性能を大きく低下させないようにすることがさらにできる。
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させることができる。
【0033】
図2は、本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤトレッド部の踏面を示す展開図である。図2のトレッドパターンは、特には限定されないが、前輪用のタイヤとして好適に用いられるものである。図2の実施形態のタイヤも、トレッド部の踏面1に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しない。また、図2の実施形態のタイヤも、センター領域Cでのトレッド部の踏面1に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝2を有している。また、ショルダー領域Sでのトレッド部の踏面1に、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝4を有している。従って、図1の実施形態のタイヤと同様に、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させることができる。
【0034】
図2の実施形態においては、閉鎖横溝2の溝幅(開口幅)は、特には限定されないが、例えば、4~20mmとすることができる。閉鎖横溝2の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば2~7mmとすることができる。
【0035】
図2の実施形態においても、複数本の閉鎖横溝2が、タイヤ周方向に交互にタイヤ幅方向の位置をずらして千鳥状に配置された構成を基本としている。より具体的には、複数本の閉鎖横溝2は、タイヤ周方向に交互に、タイヤ赤道面CLを境界とするタイヤ幅方向一方側の半部(図示左側)に重心が位置する閉鎖横溝2aと、タイヤ幅方向他方側の半部(図示右側)に重心が位置する閉鎖横溝2bとが、配置されている。このような構成によれば、センター領域Cでの陸部の剛性分布を均一化することができる。
図示例で、複数本の閉鎖横溝2aは、タイヤ周方向一方側(図示上側)からタイヤ周方向他方側(図示下側)に向かって、タイヤ幅方向の延在長さが短い方から順次配置されたタイヤ周方向部分をなし、且つ、当該タイヤ周方向部分において、閉鎖横溝2bは、タイヤ周方向一方側(図示上側)からタイヤ周方向他方側(図示下側)に向かって、タイヤ幅方向の延在長さが長い方から順次配置されている。このような構成によれば、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2aと閉鎖横溝2bと(これらはタイヤ周方向に投影しても重ならない)の一対からなる合計のタイヤ幅方向の延在長さが略一定となるため、タイヤ周方向の剛性分布を均一化することができる。また、閉鎖横溝2aのタイヤ幅方向の少なくとも一方の端(図示例では、タイヤ幅方向内側端、又は、タイヤ赤道面CLを跨いで延在する場合は、タイヤ幅方向の他方の半部でのタイヤ幅方向外側端)の位置もずれて位置するため、この点でも剛性の均一化が図られる。閉鎖横溝2bについても同様である。また、図示左上から右下に向かう矢印で示しているように、タイヤ周方向に対して傾斜した連続した陸部が形成されるため、陸部の剛性を確保しつつも、タイヤ周方向には連続した陸部が形成されないようにして、陸部の剛性のさらなる均一化を図ることができる。なお、本例では、上記タイヤ周方向部分の一方側及び他方側の端部では、千鳥状ではなく、閉鎖横溝2aがタイヤ周方向に連続で配置されている部分、及び、閉鎖横溝2bがタイヤ周方向に連続で配置されている部分がある。また、ショルダー横溝3や傾斜溝4は、所定の単位パターンがそのままタイヤ周方向に繰り返し配置される一方で、閉鎖横溝2は、タイヤ幅方向に平行な線に対して対称(線対称)に繰り返し配置することが好ましい。このとき、上記のタイヤ周方向に対して傾斜した連続した陸部は、ジグザグ状となる。これにより、タイヤの回転方向が指定されないパターンとすることができる。
【0036】
図2の実施形態において、タイヤ周方向に投影した際に一部が重なり合う、タイヤ周方向に隣接する閉鎖横溝2間(図示例では、閉鎖横溝2a間、閉鎖横溝2b間)のタイヤ周方向のピッチ間隔は、特には限定されないが、例えば10~50mmとすることができる。タイヤ周方向のピッチ間隔を10mm以上とすることで陸部の剛性を確保することができ、一方で、50mm以下とすることで、排水性を向上させ、また、陸部が大きいことで接地端に圧が集中してしまい、陸部の中心付近の接地圧が低くなって浮き上がりが生じてしまうのを抑制することができる。
【0037】
図2の実施形態では、ショルダー横溝3は、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して5°以下の傾斜角度で延びている点で、図1に示した実施形態と異なっている。このように、タイヤ幅方向に延びている(又はタイヤ幅方向に対して上記の低角度で傾斜して延びている)場合には、いずれの旋回方向に対しても開口部を起点とする摩耗肌の悪化が生じにくい。図示例では、ショルダー横溝3は、直線状に延びている。
ショルダー横溝3の上記以外の構成については、図1に示した実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0038】
図2の実施形態における、傾斜溝4の構成については、図1に示した実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0039】
図3は、本発明の別の実施形態にかかる空気入りタイヤトレッド部の踏面を示す展開図である。図3のトレッドパターンは、特には限定されないが、前輪用のタイヤとして好適に用いられるものである。図3の実施形態のタイヤも、トレッド部の踏面1に、タイヤ周方向に連続して延びる、周方向主溝を有しない。また、図3の実施形態のタイヤも、センター領域Cでのトレッド部の踏面1に、タイヤ幅方向に延び又はタイヤ幅方向に対して傾斜して延び、両端が他の溝に連通することなく終端する、複数本の閉鎖横溝2を有している。また、ショルダー領域Sでのトレッド部の踏面1に、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延び、タイヤ幅方向に対して45°以上の傾斜角度で傾斜して延びる部分を有する、複数本の傾斜溝4を有している。従って、図1図2の実施形態のタイヤと同様に、ウェット性能を大きく低下させることなく、グリップ性能を向上させることができる。
【0040】
図3の実施形態の閉鎖横溝2は、溝幅が比較的大きい点で、図1に示した実施形態と異なっている。具体的には、閉鎖横溝2の溝幅は、ショルダー横溝3の溝幅に等しいか、ショルダー横溝3の溝幅より大きい。この構成によれば、センター領域Cの排水性をさらに高めることができる。なお、図1の場合と同様に、閉鎖横溝の溝幅とショルダー横溝の溝幅とは、閉鎖横溝の溝幅の平均値とショルダー横溝の溝幅の平均値とで比較する。
図3の実施形態における、閉鎖横溝2のその他の構成については、図1に示した実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0041】
図3に実施形態における、ショルダー横溝3の構成については、図2に示した実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
図3の実施形態においては、ショルダー横溝3は、タイヤ幅方向に投影した際に、閉鎖横溝2とタイヤ周方向の位置が異なるように配置されている。これにより、タイヤ周方向の剛性分布を均一化することができる。
【0042】
図3の実施形態における、傾斜溝4の構成については、図1図2に示した実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、図1図3の実施形態では、閉鎖横溝2は、いずれも千鳥状の配置としているが、必ずしも千鳥状の配置に限定されず、タイヤ周方向の位置の揃った2列の閉鎖横溝2を配列した構成とすることもできる。その他、種々の変更、変形等が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:踏面、
2:閉鎖横溝、
3:ショルダー横溝、
4:傾斜溝、
CL:タイヤ赤道面、
TE:トレッド端
図1
図2
図3