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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053509
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240408BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159854
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧野 文哉
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF61
2C057AG14
2C057AG44
2C057AN01
2C057AP25
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】接着剤を修復、交換することができると共に部品の一部を容易に交換でき、容易に再生することができる液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射する複数のノズル21を有するノズルプレート20を有するヘッドチップ9と、前記ヘッドチップ9とは異なる他の部材と、前記ヘッドチップ9と前記他の部材とを接着する接着剤701、703と、前記接着剤701、703を可塑化させるための発熱体711、713と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートを有するヘッドチップと、
前記ヘッドチップとは異なる他の部材と、
前記ヘッドチップと前記他の部材とを接着する接着剤と、
前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、
を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記他の部材は、前記ノズルプレートを外部に露出する開口部を有する固定板を含み、
前記接着剤は、前記ヘッドチップを前記固定板に接着する第1接着剤を含み、
前記発熱体は、前記第1接着剤を可塑化させるための第1発熱体を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ヘッドチップを保持するホルダーと、
前記固定板と前記ホルダーとを接着する第2接着剤と、
前記第2接着剤を可塑化させるための第2発熱体と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記他の部材は、前記ホルダーを含み、
前記接着剤は、前記ヘッドチップと前記ホルダーとを接着する第3接着剤を含み、
前記発熱体は、前記第3接着剤を可塑化させるための第3発熱体を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記他の部材は、前記ヘッドチップを保持するホルダーを含み、
前記接着剤は、前記ヘッドチップと前記ホルダーとを接着する第3接着剤を含み、
前記発熱体は、前記第3接着剤を可塑化させるための第3発熱体を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第1発熱体は、前記ヘッドチップに固定されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第1接着剤は、前記開口部の内周面と前記ノズルプレートとの間に配置され、前記固定板と前記ノズルプレートとの間を閉塞する閉塞部を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記第1接着剤は、前記閉塞部とは異なり、前記閉塞部よりも前記開口部から離れて配置された主固定部を含み、
前記第1発熱体は、前記閉塞部を可塑化させるための第1部分と、前記主固定部を可塑化させるための第2部分と、を含み、
前記第1部分と前記第2部分とは、電気的に独立している、
ことを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートをそれぞれが有する複数のヘッドチップと、
前記複数のヘッドチップが固定され、前記複数のノズルプレートのそれぞれを外部に露出する複数の開口部を有する固定板と、
前記複数のヘッドチップを保持するホルダーと、
前記固定板と前記ホルダーとを接着する接着剤と、
前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、
を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記発熱体は、前記ホルダーに固定されている、
ことを特徴とする請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記発熱体は、前記接着剤に接触している、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記発熱体と前記接着剤との間に配置され、前記他の部材、及び、前記ヘッドチップの前記接着剤が塗布された部材のそれぞれよりも熱伝導率が高い伝熱部材を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
媒体に対して液体を噴射する記録動作に寄与する電気的な経路である印刷用経路と、
前記発熱体を含む電気的な経路である加熱経路と、
を備え、
前記加熱経路と前記印刷用経路とは、電気的に独立している、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
前記印刷用経路の端子および前記加熱経路の端子を有するコネクターを備える、
ことを特徴とする請求項13に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項15】
前記発熱体は、電熱線によって構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項16】
前記電熱線と、前記液体噴射ヘッドの外部の電極と前記電熱線とを接続するための中継配線と、を含む電気的な経路である加熱経路を備え、
前記中継配線の電気抵抗率は、前記電熱線の電気抵抗率よりも小さい、
ことを特徴とする請求項15に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項17】
前記接着剤は、絶縁性である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項18】
前記ヘッドチップを構成する複数の部材のうち少なくとも一部の部材同士は、熱硬化型接着剤によって接着されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項19】
前記接着剤の軟化点は、前記液体の沸点よりも低い、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項20】
前記ヘッドチップの前記接着剤が塗布された部材、及び、前記接着剤が塗布された前記他の部材の少なくとも一方は、熱可塑性樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂の融点は、前記接着剤の軟化点よりも高い、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項21】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドを備え、
前記発熱体は、通電されていないことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項22】
前記ヘッドチップと前記他の部材とは積層方向に積層されており、
前記発熱体及び前記接着剤は、前記積層方向に関して、前記ヘッドチップと前記他の部材との間に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項23】
前記発熱体と前記接着剤とは、前記積層方向に見て重なる、
ことを特徴とする請求項22に記載の液体噴射ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを噴射するインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電アクチュエーターや発熱素子等の圧力発生手段によって液体に圧力変化を生じさせることで、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドが知られている。
【0003】
液体噴射ヘッドとしては、液体を噴射するノズルが設けられたノズルプレートおよびノズルに連通する流路が形成された流路部材が積層されたヘッドチップと、ヘッドチップが固定されるとともにノズルを露出するための開口部が形成された固定板と、ノズルプレートと固定板の開口部の内周面との間を閉塞する充填剤と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-188887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体噴射ヘッドを構成する部品同士が接着剤で接合されているため、液体噴射ヘッドの一部の部品、例えば、固定板、ヘッドチップ、充填剤などが故障した場合に、一部の部品の交換または修復を行うことが困難で、液体噴射ヘッドを再生するのが難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートを有するヘッドチップと、前記ヘッドチップとは異なる他の部材と、前記ヘッドチップと前記他の部材とを接着する接着剤と、前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、を備えることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0007】
また、本発明の他の態様は、液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートをそれぞれが有する複数のヘッドチップと、前記複数のヘッドチップが固定され、前記複数のノズルプレートのそれぞれを外部に露出する複数の開口部を有する固定板と、前記複数のヘッドチップを保持するホルダーと、前記固定板と前記ホルダーとを接着する接着剤と、前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、を備えることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0008】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載の液体噴射ヘッドを備え、前記発熱体は、通電されていないことを特徴とする液体噴射装置にある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る液体噴射装置の概略構成図である。
図2】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
図3】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの要部断面図である。
図4】実施形態1に係るヘッドチップの平面図である。
図5】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの要部断面図である。
図6】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの要部断面図である。
図7】実施形態1に係るホルダーの平面図である。
図8】実施形態1に係る中継基板の平面図である。
図9】実施形態1に係る中継基板の平面図である。
図10】実施形態1の液体噴射ヘッドの製造方法を説明する要部断面図である。
図11】実施形態1の液体噴射ヘッドの製造方法を説明する要部断面図である。
図12】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例1を説明する要部断面図である。
図13】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例1を説明する要部断面図である。
図14】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例2を説明する要部断面図である。
図15】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例2を説明する要部断面図である。
図16】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例3を説明する要部断面図である。
図17】液体噴射ヘッドの製造方法の変形例3を説明する要部断面図である。
図18】液体噴射ヘッドの変形例1の要部断面図である。
図19】液体噴射ヘッドの変形例2の要部断面図である。
図20】液体噴射ヘッドの他の変形例の要部断面図である。
図21】発熱体の他の変形例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。また、Z方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つの空間軸の方向については、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向として説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、液体噴射装置1は、液体の一種であるインクを印刷用の媒体Sに噴射・着弾させて、当該媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行うインクジェット式記録装置である。なお、媒体Sとしては、記録用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質を用いることができる。
【0012】
液体噴射装置1は、液体噴射ヘッド2と、液体貯留部3と、制御部4と、媒体Sを送り出す搬送機構5と、移動機構6と、を具備する。
【0013】
液体噴射ヘッド2は、液体貯留部3から供給されるインクを複数のノズル21から媒体Sに噴射する。液体噴射ヘッド2の詳細な構成は後述する。
【0014】
液体貯留部3は、液体噴射ヘッド2から噴射される複数種類、例えば、複数色のインクを個別に貯留する。液体貯留部3としては、例えば、液体噴射装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。
【0015】
制御部4は、特に図示していないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と、半導体メモリー等の記憶装置と、を備えている。制御部4は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することで液体噴射装置1の各要素、すなわち、液体噴射ヘッド2、搬送機構5、移動機構6等を統括的に制御する。
【0016】
搬送機構5は、媒体SをX方向に搬送するものであり、搬送ローラー5aを有する。すなわち搬送機構5は、搬送ローラー5aが回転することで媒体SをX方向に搬送する。なお媒体Sを搬送する搬送機構5は、搬送ローラー5aを備えるものに限られず、例えば、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0017】
移動機構6は、液体噴射ヘッド2をY方向に沿って往復させるための機構であり、搬送体7と搬送ベルト8とを具備する。搬送体7は、液体噴射ヘッド2を収容する略箱形の構造体、いわゆるキャリッジであり、搬送ベルト8に固定される。搬送ベルト8は、Y方向に沿って架設された無端ベルトである。制御部4による制御のもとで搬送ベルト8が回転することで液体噴射ヘッド2が搬送体7と共にY軸方向に往復移動する。なお搬送体7は、液体噴射ヘッド2と共に液体貯留部3を搭載する構成であってもよい。
【0018】
液体噴射ヘッド2は、制御部4による制御のもとで、液体貯留部3から供給されたインクを複数のノズル21(図3参照)のそれぞれからインク滴として+Z方向に噴射する噴射動作を実行する。この液体噴射ヘッド2による噴射動作が、搬送機構5による媒体Sの搬送や移動機構6による液体噴射ヘッド2の往復移動と並行して行われることにより、媒体Sの表面にインクによる画像が形成される、いわゆる印刷が行われる。
【0019】
(液体噴射ヘッド)
図2は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッド2の断面図である。図3は、液体噴射ヘッド2の要部を拡大した断面図である。図4は、ヘッドチップ9を-Z方向に見た平面図である。図5は、図4のA-A′線に準じた液体噴射ヘッド2の断面図である。図6は、図4のB-B′線に準じた液体噴射ヘッド2の断面図である。図7は、ホルダー100を-Z方向に見た平面図である。図8は、中継基板400を+Z方向に見た平面図である。図9は、中継基板400を-Z方向に見た平面図である。
【0020】
図2および図3に示すように、液体噴射ヘッド2は、ノズル21からインクをインク滴として噴射する4つのヘッドチップ9と、4つのヘッドチップ9を保持するホルダー100と、ヘッドチップ9に液体を供給する流路部材200と、を具備する。また、液体噴射ヘッド2は、ホルダー100と流路部材200とを接続するシール部材300と、ホルダー100と流路部材200との間に配置された中継基板400と、中継基板400とシール部材300との間に配置された液体加熱部500と、ヘッドチップ9の+Z方向に設けられた固定板600と、を具備する。
【0021】
流路部材200は、本実施形態では、第1流路部材201と、第2流路部材202と、第3流路部材203と、を具備する。第1流路部材201、第2流路部材202および第3流路部材203は、液体を噴射する+Z方向にこの順番で積層されている。なお、流路部材200は、特にこれに限定されるものではなく、単一の部材であってもよく、2つ以上の複数の部材で構成されていてもよい。また、流路部材200を構成する複数の部材の積層方向も特に限定されず、例えば、X軸方向、Y軸方向であってもよい。
【0022】
流路部材200は、液体貯留部3とヘッドチップ9との間で液体を流通させる流路210を有する。この流路210は、第1流路部材201に設けられた第1流路211と、第2流路部材202に設けられた第2流路212と、第3流路部材203に設けられた第3流路213と、を有する。
【0023】
第1流路部材201は、-Z方向を向く面に液体貯留部3に接続される接続部204を有する。本実施形態では、接続部204は、-Z方向に向かって針状に突出したものである。なお、接続部204には、インクカートリッジなどの液体貯留部3が直接、接続されてもよく、また、インクパック、インクタンクなどの液体貯留部3がチューブ等の供給管などを介して接続されてもよい。第1流路部材201は、一端が接続部204の-Z方向の端部に開口し、他端が第1流路部材201の+Z方向を向く面に開口する第1流路211を有する。この第1流路211に液体貯留部3からのインクが供給される。なお、第1流路211は、後述する第2流路212の位置に応じて、Z軸方向に延びる流路や、Z軸方向に直交する方向、すなわち、X軸方向およびY軸方向で規定されるXY平面に沿って延設された流路等で構成されている。以降、Z軸方向に延びる流路を垂直流路と称し、XY平面に沿って延設された流路を水平流路と称する。また、水平流路は、延設方向に、水平面に向かう成分(別称、ベクトル)が存在することを言う。つまり、水平流路は、XY平面に沿った流路だけでなく、Z軸方向およびXY平面に沿った方向の双方に対して傾斜した流路も含まれる。また、流路の延設方向とはインクが流れる方向を言う。
【0024】
第2流路部材202は、第1流路部材201の+Z方向を向く面に固定される。第2流路部材202は、第1流路211に連通する第2流路212を有する。第2流路212は、一端が第2流路部材202の-Z方向を向く面に開口し、他端が、第2流路部材202の+Z方向を向く面に開口して設けられている。また、第2流路212の他端側には、第1流路211よりも内径が広く拡幅された第1液体溜まり部212aが設けられている。
【0025】
第3流路部材203は、第2流路部材202の+Z方向を向く面に固定される。また、第3流路部材203は、第2流路212に連通する第3流路213を有する。第3流路213は、一端が第3流路部材203の-Z方向を向く面に開口し、他端が、第3流路部材203の+Z方向を向く面に開口して設けられている。また、第3流路213の一端側は、第1液体溜まり部212aに応じて拡幅された第2液体溜まり部213aとなっている。そして、第1流路部材201と第2流路部材202との間、すなわち、第1液体溜まり部212aと第2液体溜まり部213aとの間には、インクに含まれるゴミや気泡などの異物を除去するためのフィルター206が設けられている。このため、第2流路212から供給されたインクは、フィルター206を介してゴミや気泡などの異物が除去された状態で第3流路213に供給される。
【0026】
また、第3流路213は、第2液体溜まり部213aよりもヘッドチップ9側、すなわち、第2流路212とは反対側で、2つに分岐されており、第3流路213は第3流路部材203のホルダー100側の面に2つの排出口214として開口する。
【0027】
すなわち、1つの接続部204に対応する流路210は、第1流路211、第2流路212及び第3流路213を有し、流路210は、ホルダー100側で2つの排出口214として開口する。
【0028】
また、第3流路部材203のホルダー100側、すなわち、+Z方向を向く面には、ホルダー100に向かって突出する第1突起部207が設けられている。第1突起部207は、分岐された第3流路213毎に設けられており、第1突起部207の+Z方向を向くそれぞれの先端面に排出口214が開口する。
【0029】
このような流路210が設けられた第1流路部材201、第2流路部材202及び第3流路部材203は、例えば、接着剤や、溶着等によって一体的に接合されている。なお、第1流路部材201、第2流路部材202及び第3流路部材203をネジやクランプ等で固定することもできるが、接着剤や溶着等によって接合することで第1流路211から第3流路213に至るまでの接続部分からインクが漏出するのを抑制することができる。
【0030】
このように本実施形態では、1つの流路部材200は4つの接続部204を有し、1つの流路部材200は4つの独立した流路210を有する。そして、各流路210がホルダー100側で2つに分岐されて、合計8個の排出口214が設けられている。ちなみに、本実施形態では、流路210をフィルター206よりもヘッドチップ9側で2つに分岐した構成を例示したが、特にこれに限定されず、フィルター206よりもヘッドチップ9側で流路210が3つ以上に分岐されていてもよい。もちろん、1つの流路210がフィルター206よりも接続部204側で2つ以上に分岐されていてもよい。また、1つの流路210は分岐されていなくてもよい。
【0031】
ホルダー100は、+Z方向を向く面に開口する凹形状の保持部101を有する。このような保持部101内に複数のヘッドチップ9が接着剤である第3接着剤703によって接着されている。本実施形態では、ホルダー100の保持部101内には、4個のヘッドチップ9が第3接着剤703によって固定されている。4個のヘッドチップ9は、それぞれ同じ構造を有する。
【0032】
ホルダー100に保持された4個のヘッドチップ9は、X軸方向に関して同じ位置で、Y軸方向に並んで配置されている。つまり、保持部101は、4個のヘッドチップ9に共通して設けられている。もちろん、保持部101は、ヘッドチップ9毎に独立して設けられていてもよい。なお、4個のヘッドチップ9の配置は、特にこれに限定されず、例えば、X軸方向およびY軸方向の両方向において異なる位置に配置されていてもよい。また、複数のヘッドチップ9は、X軸方向に沿って千鳥状に配置されていてもよい。ここで複数のヘッドチップ9が千鳥状に配置されているとは、X軸方向に並設されたヘッドチップ9を交互にY軸方向にずらして配置することである。つまり、X軸方向に並設されたヘッドチップ9の列が、Y軸方向に2列並設され、2列のヘッドチップ9の一方の列をX軸方向に半ピッチずらして配置することである。このように複数のヘッドチップ9をX軸方向に沿って千鳥状に配置することで、2つヘッドチップ9のノズルをX軸方向で部分的に重複させて、X軸方向に亘って連続したノズルの列を形成することができる。また、ホルダー100に固定するヘッドチップ9の数は、特にこれに限定されず、1つのホルダー100に対してヘッドチップ9が1個であっても、また、2個以上の複数であってもよい。
【0033】
なお、各ヘッドチップ9とホルダー100とは、詳しくは後述するが、Z軸方向で対向する面同士が接着剤である第3接着剤703によって接着されている。つまり、ヘッドチップ9の-Z方向を向く面と、ホルダー100の保持部101の+Z方向を向く底面と、が第3接着剤703によって接着されている。
【0034】
また、ホルダー100は、流路部材200の流路210に接続される接続流路110を有する。ホルダー100の-Z方向を向く面には、-Z方向に向かって突出する第2突起部102が設けられている。第2突起部102は、第1突起部207に対応して、流路210毎、すなわち、第1突起部207毎にそれぞれ設けられている。また、接続流路110の一端は第2突起部102の先端面に開口し、他端は保持部101の+Z方向を向く底面に開口している。このような接続流路110は、各流路210の排出口214に独立して設けられている。すなわち、1つの流路210は、2つの排出口214を有するため、2つの排出口214のそれぞれに連通する接続流路110が設けられている。
【0035】
そして、1つのヘッドチップ9に対応する2つの接続流路110のうち、一方の接続流路110は、本実施形態では、Z軸方向に沿って直線状に形成されている。また、他方の接続流路110は、途中にXY平面に沿って延設された水平流路を有する。本実施形態では、ホルダー100は、ホルダー本体120と、ホルダー本体120の-Z方向を向く面に固定された流路形成部材130と、を具備し、他方の接続流路110の水平流路は、ホルダー本体120と流路形成部材130との積層界面に形成されている。もちろん、ホルダー100は、単一の部材で構成されていてもよく、3個以上の複数の部材で構成されていてもよい。また、他方の接続流路110は、途中に水平流路を有するものとしたが、特にこれに限定されず、接続流路110は、垂直流路のみで構成されていてもよく、2以上の水平流路を有するものであってもよい。また、一方の接続流路110は、水平流路を有するものであってもよい。
【0036】
また、1つのヘッドチップ9に対応する2つの接続流路110の間には、配線基板80を挿通するために配線部材挿通孔104が設けられている。配線部材挿通孔104は、詳しくは後述するヘッドチップ9の接続口43に連通して、配線基板80をホルダー100の中継基板400側に挿通するためのものである。
【0037】
このようなホルダー100は、樹脂材料を成型により安価に形成することができる。もちろん、ホルダー100は、金属材料等で形成されていてもよい。また、ホルダー本体120と流路形成部材130とを接着剤で固定する場合には、当該接着剤は熱硬化型接着剤であることが好ましい。これにより、詳しくは後述する第3発熱体713から伝わる熱によって、ホルダー本体120と流路形成部材130とを固定する接着剤が可塑化してしまうのを防止できる。
【0038】
シール部材300は、流路部材200とホルダー100との間に配置される。シール部材300は、流路部材200の流路210とホルダー100の接続流路110とを接続する継手として機能する。
【0039】
シール部材300は、液体噴射ヘッド2に用いられるインクに対して耐液体性を有し、且つ弾性変形可能な材料を用いることができる。シール部材300は、接続流路110毎に管状部分301を有する。管状部分301は、内部に連通流路310が設けられている。そして、管状部分301の連通流路310を介して流路部材200の流路210とホルダー100の接続流路110とが連通される。流路部材200の第1突起部207の先端面と、ホルダー100の第2突起部102の先端面と、の間で、管状部分301はZ軸方向に所定の圧力が付与された状態で保持されている。このように流路210と連通流路310とはシール部材300にZ軸方向に圧力が付与された状態で接続され、連通流路310と接続流路110とはシール部材300にZ軸方向に圧力が付与された状態で接続される。したがって、流路210と接続流路110とは連通流路310を介して液密な状態で連通される。
【0040】
なお、本実施形態の管状部分301は、1つの流路部材200に対して複数個が一体的になるように、流路部材200側で板状部分によって連結されている。また、本実施形態では、1つの流路部材200に流路210の排出口214が8個設けられているため、8個の管状部分301が一体的に設けられたシール部材300となっている。
【0041】
また、中継基板400は、シール部材300とホルダー100との間に配置される。中継基板400には、配線基板80が接続される。中継基板400は、配線基板80が挿通される第1挿通孔401と、シール部材300の管状部分301が挿入される第2挿通孔402と、を有する。第1挿通孔401は、各ヘッドチップ9に対して1個、第2挿通孔402は、各ヘッドチップ9に対して2個、設けられている。第1挿通孔401および第2挿通孔402は、中継基板400をZ軸方向に貫通して設けられる。
【0042】
本実施形態では、中継基板400は、リジッド基板からなり、4個のヘッドチップ9に共通して1個設けられている。もちろん、中継基板400は、ヘッドチップ9毎または複数のヘッドチップ9で構成される群毎に分割して設けてもよく、分割した中継基板400同士をフレキシブル基板で接続した、所謂、リジットフレキシブル基板であってもよい。
【0043】
また、中継基板400は、図8に示すように、-Z方向を向く面にヘッドチップ9の配線基板80の図示しない配線が接続される印刷配線410と、詳しくは後述する発熱体が接続される基板上配線420と、液体加熱部500に接続される液体加熱部用中継配線430とを有する。配線基板80は、第1挿通孔401に中継基板400の+Z方向を向く面側から挿通され、中継基板400の-Z方向を向く面で印刷配線410および基板上配線420と電気的に接続される。
【0044】
また、中継基板400は、図9に示すように、+Z方向を向く面に詳しくは後述する発熱体に接続される基板上配線420を有する。なお、中継基板400の+Z方向を向く面および-Z方向を向く面の何れか一方または両方には、図示しない電子部品が実装されている。
【0045】
また、中継基板400は、コネクター440を有する。コネクター440は、本実施形態では、中継基板400のY軸方向の両端部およびZ軸方向の両面のそれぞれに設けられている。印刷配線410、基板上配線420および液体加熱部用中継配線430は、コネクター440の内部の図示しない端子に接続される。本実施形態では、印刷配線410、基板上配線420の一部および液体加熱部用中継配線430は、同じコネクター440内の端子に接続される。図8及び図9に示すように、このコネクター440には、液体噴射装置1の一部であって液体噴射ヘッド2の外部に配置された外部配線4aが接続される。この外部配線4aによって、制御部4と、印刷配線410及び液体加熱部用中継配線430とが電気的に接続される。なお、外部配線4aと基板上配線420とは、電気的に接続されない。つまり、外部配線4aとコネクター440とを接続することで、液体噴射装置1が印刷を行うことが可能な通常の使用状態において、基板上配線420にはコネクター440を介して電力が供給されていない。外部配線4aは、例えば、フレキシブルフラットケーブル等のフレキシブル基板である。もちろん、記録動作に用いる印刷配線410および液体加熱部用中継配線430と、詳しくは後述する発熱体用の基板上配線420とは、異なるコネクターの端子に接続されていてもよい。また、異なるコネクターを用いる場合には、コネクターの形状や大きさを変更することで、誤って外部配線4aを発熱体用の基板上配線420に接続される端子を備えるコネクターに接続してしまうのを抑制することができる。
【0046】
液体加熱部500は、中継基板400とシール部材300との間に配置される。液体加熱部500は、液体噴射ヘッド2の内部を流れるインクを加熱するためのものであり、例えば、発熱抵抗体を樹脂等のシートで挟み込んだ面状ヒーターが用いられる。
【0047】
このような液体加熱部500は、中継基板400を介して外部と接続されている。図8に示すように、中継基板400は、-Z方向を向く面に、一端がコネクター440に接続された液体加熱部用中継配線430を有する。液体加熱部500は、中継基板400の液体加熱部用中継配線430の他端に不図示のフレキシブル基板を介して電気的に接続され、コネクター440および液体加熱部用中継配線430を介して外部配線4aから電源が供給される。これにより、液体加熱部500が発熱し、液体加熱部500からシール部材300を介して流路部材200内のインクが加熱される。なお、液体加熱部500からの熱を流路部材200に効率的に伝えるために、シール部材300は、熱伝導性を有する材料から構成されることが好ましい。
【0048】
ここで液体噴射ヘッド2から噴射するインクに代表される液体には、液体の種類に応じて噴射に適した粘度がある。液体の粘度は、温度と相関関係にあるため、温度が低いほど粘度が高くなり、温度が高いほど粘度が低くなる特性がある。このため、通常使用する液体の粘度に適するように設計された液体噴射ヘッド2が、低温環境に置かれた場合や、粘度の高い液体を噴射する場合に、液体加熱部500が液体噴射ヘッド2の内部を流れる液体を加熱する。これにより、液体噴射ヘッド2から噴射する液体の粘度を低下させて、液体噴射ヘッド2から噴射する液体の噴射特性を向上することができる。このため、中継基板400に設けられた液体加熱部用中継配線430は、媒体Sに対して液体を噴射する記録動作に寄与する電気的な経路である「印刷用経路」に含まれる。
【0049】
なお、液体加熱部500は、本実施形態では、中継基板400とシール部材300との間に設けるようにしたが、特にこれに限定されず、流路部材200とシール部材300との間に設けるようにしてもよく、ホルダー100とシール部材300との間に設けるようにしてもよい。また、液体加熱部500は、流路部材200の-Z方向を向く面や側面などの外周面に設けるようにしてもよく、液体噴射ヘッド2の外部、つまり、液体噴射ヘッド2に接触せずに設けられていてもよい。また、液体噴射装置1は、液体加熱部500を備えていなくてもよい。
【0050】
固定板600は、詳しくは後述するが、ホルダー100の保持部101が開口する+Z方向を向く面と、複数のヘッドチップ9の+Z方向を向く面とに接着される。固定板600とヘッドチップ9とは接着剤である第1接着剤701で接着される。また、固定板600とホルダー100とは接着剤である第2接着剤702で接着される。つまり、固定板600は、本実施形態では、複数のヘッドチップ9を覆うと共に、保持部101の+Z方向の開口を覆う大きさを有する。固定板600は、複数の板状部材がZ軸方向に積層されることで構成されていてもよい。
【0051】
本実施形態のヘッドチップ9の一例について説明する。なお、ヘッドチップ9の各方向について、液体噴射ヘッド2に搭載された際の方向、すなわち、X方向、Y方向およびZ方向に基づいて説明する。
【0052】
図3および図4に示すように、ヘッドチップ9は、圧力室基板10、保護基板30、流路形成基板15、ノズルプレート20、ケース部材40、コンプライアンス基板45、振動板50等の複数の積層部材がZ軸方向に積層されている。これら複数の積層部材は、少なくとも1箇所が接着剤によって接着されている。本実施形態では、全ての積層部材は、接着剤によって接着されているが、図3では、振動板50と保護基板30とを接着する接着剤である第1積層用接着剤91、および、ケース部材40と流路形成基板15とを接着する接着剤である第2積層用接着剤92のみを図示している。もちろん、積層部材同士は、接着剤による接着に限定されず、熱溶着や直接接合等によって接合されていてもよい。また、積層部材を積層する接着剤は、例えば、加熱することで硬化する熱硬化型接着剤、有機溶剤が蒸発することで硬化する溶剤揮散型接着剤、空気中の水分と反応して接着する湿気硬化型接着剤、本剤と硬化剤とを混合することで化学反応により硬化する反応型接着剤などを用いることができる。積層部材として紫外線透過性を有する部材を用いた場合には、積層部材を接着する接着剤として紫外線硬化型接着剤を用いることもできる。また、積層部材を接着する接着剤として熱可塑性接着剤を用いることもできるが、積層部材を接着する熱可塑性接着剤としては、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703が可塑化する温度よりも高い温度で可塑化するものを用いる必要がある。ただし、ヘッドチップ9を構成する複数の積層部材のうち少なくとも一部の積層部材同士を熱硬化型接着剤で接着することで、詳しくは後述する発熱体からの熱が熱硬化型接着剤に伝わったとしても熱硬化型接着剤が可塑化することがなく、積層部材の間からインクの漏出や、積層部材同士の位置ズレや分解などを抑制することができる。また、熱硬化型接着剤は、比較的耐インク性が高いため、熱硬化型接着剤のインクによる劣化を抑制することができる。
【0053】
圧力室基板10は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。圧力室基板10には、複数の圧力室12がX軸方向に沿って並んで配置されている。複数の圧力室12は、+Y方向の位置が同じ位置となるように、+X方向に沿った直線上に配置されている。また、圧力室基板10には、圧力室12が+X方向に並設された列が、複数列、本実施形態では、2列、+Y方向に並設されている。
【0054】
圧力室基板10の+Z方向を向く面には、流路形成基板15とノズルプレート20とが順次積層されている。
【0055】
流路形成基板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。また、流路形成基板15には、複数の圧力室12が共通して連通する共通液室となるマニホールドSRの一部を構成する第1マニホールド部17と第2マニホールド部18とが設けられている。第1マニホールド部17は、流路形成基板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、流路形成基板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向を向く面に開口して設けられている。
【0056】
さらに、流路形成基板15には、圧力室12のY軸方向の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通して、マニホールドSR内のインクを圧力室12に供給する。
【0057】
このような流路形成基板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。なお、流路形成基板15は、圧力室基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように圧力室基板10と流路形成基板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0058】
ノズルプレート20は、流路形成基板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向を向く面に設けられている。
【0059】
ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。本実施形態では、複数のノズル21は、+X方向に沿って一列となるように並んで配置されたノズル列が+Y方向に離れて2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、+Y方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置されたノズル21において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。このようなノズルプレート20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。なお、ノズルプレート20は、流路形成基板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このようにノズルプレート20と流路形成基板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0060】
圧力室基板10の-Z方向を向く面には、振動板50と圧電アクチュエーター60とが順次積層されている。すなわち、圧力室基板10、振動板50および圧電アクチュエーター60とは、この順に-Z方向に積層されている。なお、圧力室基板10と振動板50とは一体として形成してもよい。具体的には、シリコン基板で形成された圧力室基板10の+Z方向側の面をエッチングすることにより、圧力室基板10の+Z方向側の面に圧力室12としての-Z方向に凹む凹部を形成し、当該凹部の底面部分を振動板50として機能させるようにしてもよい。
【0061】
圧電アクチュエーター60は、振動板50側である+Z方向側から-Z方向側に向かって順次積層された第1電極61と圧電体層62と第2電極63とを具備する。圧電アクチュエーター60が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段となっている。このような圧電アクチュエーター60は、圧電素子とも言い、第1電極61と圧電体層62と第2電極63とを含む部分を言う。また、第1電極61と第2電極63との間に電圧を印加した際に、圧電体層62に圧電歪みが生じる部分を活性部65と称する。これに対して、圧電体層62に圧電歪みが生じない部分を非活性部と称する。本実施形態では、圧力室12毎に活性部が形成されている。そして、一般的には、活性部65の何れか一方の電極を活性部65毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部65に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極61が個別電極を構成し、第2電極63が共通電極を構成している。もちろん、第1電極61が共通電極を構成し、第2電極63が個別電極を構成してもよい。このような圧電アクチュエーター60の各電極からは、引き出し配線であるリード電極70が引き出されている。リード電極70の圧電アクチュエーター60に接続された端部とは反対側の端部には、可撓性を有する配線基板80が接続されている。配線基板80は、圧電アクチュエーター60を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路81が実装された、COF(Chip On Film)からなる。
【0062】
振動板50の-Z方向を向く面には、振動板50と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。本実施形態では、振動板50と保護基板30とは、第1積層用接着剤91によって接着されている。本実施形態の第1積層用接着剤91は、熱硬化型接着剤からなる。保護基板30は、圧電アクチュエーター60を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、+X方向に並んで配置される圧電アクチュエーター60の列毎に独立して設けたものであり、+Y方向に2つ並設されている。また、保護基板30には、+Y方向に並んで配置される2つの保持部31の間に+Z方向に貫通する貫通孔32が設けられている。圧電アクチュエーター60の電極から引き出されたリード電極70の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、リード電極70と配線基板80の図示しない配線とは、貫通孔32内で電気的に接続される。配線基板80の他端部は、上述したように、中継基板400の印刷配線410および基板上配線420と電気的に接続される。圧電アクチュエーター60の各電極とリード電極70を介して接続された配線基板80の配線は、途中で駆動回路81に接続される。また、駆動回路81には、中継基板400の印刷配線410を介して印刷信号等が入力される。つまり、印刷配線410、リード電極70、圧電アクチュエーター60、駆動回路81、リード電極70と印刷配線410とを電気的に接続する配線基板80の図示しない配線、液体加熱部用中継配線430および液体加熱部500は、媒体Sに対してインクを噴射する記録動作に寄与する電気的な経路である「印刷用経路」に含まれる。なお、特に図示していないが、例えば、液体噴射ヘッド2の内部の温度を検出するセンサーやこれに接続される配線が設けられている場合には、これらも「印刷用経路」に含まれる。
【0063】
ケース部材40は、+Z方向に見た平面視において上述した流路形成基板15と略同一形状を有し、上述した流路形成基板15にも接合されている。本実施形態では、ケース部材40は、流路形成基板15に第2積層用接着剤92によって接着されている。本実施形態の第2積層用接着剤92は、熱硬化型接着剤からなる。
【0064】
このようなケース部材40は、+Z方向を向く面に開口して、圧力室基板10および保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。そして、凹部41に圧力室基板10等が収容された状態で凹部41の+Z方向を向く面が、流路形成基板15によって封止されている。ケース部材40には、凹部41の+Y方向側および-Y方向側のそれぞれに第3マニホールド部42が設けられている。第3マニホールド部42は、+Z方向に向かう面に開口して設けられている。そして、流路形成基板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18と、ケース部材40に設けられた第3マニホールド部42と、によってマニホールドSRが構成されている。マニホールドSRは、圧力室12の列毎に1個ずつ、合計2個設けられている。各マニホールドSRは、圧力室12が並んで配置される+X方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールドSRとを連通する供給連通路19は、+X方向に並んで配置されている。
【0065】
また、ケース部材40には、マニホールドSRに連通して各マニホールドSRにインクを供給するための導入口44が設けられている。導入口44は、本実施形態では、マニホールドSR毎に設けられている。つまり、1つのヘッドチップ9には、2個の導入口44が設けられている。
【0066】
また、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板80が挿通される接続口43が設けられている。接続口43は、Y軸方向において2つの第3マニホールド部42の間に、Z軸方向に亘って貫通して設けられている。
【0067】
また、流路形成基板15の第1マニホールド部17および第2マニホールド部18が開口する+Z方向を向く面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の+Z方向側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、ステンレス鋼(SUS)等の金属などの硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールドSRに対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールドSRの一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0068】
また、コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20を外部に露出する開口部45aを有する。開口部45aは、-Z方向に見てノズルプレート20よりも若干大きな開口面積を有する。このため、第1露出開口部の開口縁部と、ノズルプレート20の周縁部との間には、流路形成基板15の+Z方向を向く面が露出されている。
【0069】
このようなヘッドチップ9のコンプライアンス基板45の+Z方向を向く面に、固定板600が接着剤である第1接着剤701によって接着されている。固定板600とコンプライアンス基板45とを接着する第1接着剤701は、熱可塑性接着剤からなる。熱可塑性接着剤は、所定の温度に加熱されると樹脂が軟化または溶融し、温度が下がると固化する特性を有する。また、第1接着剤701は、絶縁性を有することが好ましい。これにより、第1発熱体711を流れる電流が、ノズルプレート20や固定板600に伝わるのを抑制することができる。なお、特に図示していないが、固定板600とコンプライアンス部49との間の空間は大気開放されているため、マニホールドSR内の圧力変動に応じてコンプライアンス部49は+Z方向および-Z方向に変位可能である。
【0070】
また、特に図示していないが、固定板600の+Z方向を向く面には、インクに対して撥液性を有する撥液膜が形成されている。なお、ノズルプレート20の+Z方向を向く面にも、同様に撥液膜が形成されている。
【0071】
固定板600は、コンプライアンス基板45の開口部45aと連通してノズルプレート20を外部に露出する開口部601を有する。開口部601は、本実施形態では、ノズルプレート20全体を露出する大きさ、つまり、コンプライアンス基板45の開口部45aと略同じ大きさを有する。また、開口部601は、ノズルプレート20毎に独立して設けられている。1枚の固定板600には、4個のヘッドチップ9が接着されるため、4個の開口部601が設けられている。
【0072】
また、固定板600とコンプライアンス基板45を接着する第1接着剤701は、ノズルプレート20と固定板600の開口部601の内周面との間に設けられ、固定板600とノズルプレート20との間を閉塞する閉塞部701Aを含む。本実施形態では、開口部601は、ノズルプレート20よりも大きな開口を有するため、閉塞部701Aは、開口部601の内周面とノズルプレート20の側面との間に流路形成基板15の表面が露出しないように設けられている。
【0073】
また、第1接着剤701は、閉塞部701Aよりも開口部601から離れて配置された主固定部701Bを含む。主固定部701Bは、固定板600とコンプライアンス基板45との間で両者を接着する。つまり、主固定部701Bは、Z軸方向に見て、第1接着剤701のコンプライアンス基板45と固定板600とが重なる部分であり、閉塞部701Aは、Z軸方向に見て、第1接着剤701の開口部601の内周面とノズルプレート20との間に重なる部分である。また、閉塞部701Aは、固定板600の-Z方向を向く面において、コンプライアンス基板45の開口部45aの内周面とノズルプレート20の側面との間の部分も含む。本実施形態では、第1接着剤701の閉塞部701Aと主固定部701Bとは、一体的に設けられているが、もちろん、閉塞部701Aと主固定部701Bとは、分割されるように離れた位置に配置されていてもよい。
【0074】
また、液体噴射ヘッド2の第1接着剤701が設けられた部分には、第1接着剤701を加熱して可塑化させるための発熱体である第1発熱体711を有する。本実施形態では、第1発熱体711は、閉塞部701Aを加熱して可塑化させるための第1部分711Aと、主固定部701Bを加熱して可塑化させるための第2部分711Bと、を含む。
【0075】
第1部分711Aは、流路形成基板15の+Z方向を向く面であって、ノズルプレート20とコンプライアンス基板45の開口部45aとの間に露出された表面に設けられている。つまり、第1部分711Aは、Z軸方向において第1接着剤701の閉塞部701Aに重なる位置に、閉塞部701Aに直接、接触して配置されている。また、第1発熱体711と第1接着剤701とは、Z軸方向に見て重なって配置されている。
【0076】
第2部分711Bは、コンプライアンス基板45の固定基板47の+Z方向を向く表面に形成されている。つまり、第2部分711Bは、Z軸方向において第1接着剤701の主固定部701Bに重なる位置に、主固定部701Bに直接、接触して配置されている。つまり、第1発熱体711および第1接着剤701は、固定板600とヘッドチップ9との積層方向であるZ軸方向に関して、固定板600とヘッドチップ9との間に配置される。
【0077】
このような第1発熱体711は、電熱線によって形成されている。第1発熱体711は、流路形成基板15の表面および固定基板47の表面に成膜することで形成してもよく、電熱線を貼り付けることで形成してもよい。また、第1発熱体711を設ける部材が樹脂材料や金属材料で形成される場合には、第1発熱体711はインサート成形によって一体的に設けることもできる。このような第1発熱体711としては、例えば、室温(20℃)において電気抵抗率が1.00×10-6Ω・m以上であることが好ましい。このような電熱線は、例えば、ニクロム線やカンタル線などが挙げられる。室温(20℃)において、ニクロム線の電気抵抗率は1.06~1.10×10-6Ω・m程度であり、カンタル線の電気抵抗率は1.40×10-6Ω・m程度である。なお、第1発熱体711を設ける部材が導電性を有する材料で形成される場合には、第1発熱体711は、絶縁性を有する膜やシートを介して設けるようにすればよい。また、第1発熱体711が絶縁性を有する外装で被覆されている場合には、導電性を有する部材に直接、貼り付けることもできる。
【0078】
第1発熱体711の第1部分711Aには、図4および図5に示すように、第1部分用入力配線721Aと第1部分用出力配線721Bとが接続されている。
【0079】
第1部分用入力配線721Aは、第1部分711Aの+X方向の端部に一端が接続され、他端が振動板50上で配線基板80の端部と接続されるように形成されている。この第1部分用入力配線721Aは、流路形成基板15とコンプライアンス基板45との間、流路形成基板15の+X方向の端面、流路形成基板15の-Z方向を向く表面、圧力室基板10の+X方向の端面、振動板50の+X方向の端面、および、振動板50を向く-Z方向の表面に亘って延設されている。
【0080】
第1部分用出力配線721Bは、第1部分711Aの-X方向の端部に一端が接続され、他端が振動板50上で配線基板80の端部と接続されるように形成されている。この第1部分用出力配線721Bは、流路形成基板15とコンプライアンス基板45との間、流路形成基板15の-X方向の端面、流路形成基板15の-Z方向を向く表面、圧力室基板10の-X方向の端面、振動板50の-X方向の端面、および、振動板50を向く-Z方向の表面に亘って延設されている。
【0081】
このような第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bは、第1部分711Aよりも電気抵抗率が低い。例えば、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bの断面積を、第1部分711Aの断面積よりも大きくすることで電気抵抗率を低くしてもよい。また、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bとして、第1部分711Aよりも電気抵抗率の低い材料を用いるようにしてもよい。発熱体を構成する電熱線よりも電気抵抗率の低い、発熱体に接続された中継配線を構成する材料としては、例えば、銀(1.59×10-8Ω・m)、銅(1.68×10-8Ω・m)、金(2.44×10-8Ω・m)、アルミニウム(2.65×10-8Ω・m)、白金(1.06×10-7Ω・m)、スズ(1.09×10-7Ω・m)等が好適である。なお、これら電気抵抗率の大小に関する規定は、以降において同様である。
【0082】
また、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bの他端部のそれぞれは、配線基板80の図示しない配線と電気的に接続される。この配線基板80の図示しない配線は、中継基板400の基板上配線420である第1部分用中継配線421Aを介して液体噴射ヘッド2の外部の電極、つまりは外部配線と電気的に接続される。なお、ここでの外部配線は、前述の外部配線4aとは異なる。第1部分用中継配線421Aは、1つのヘッドチップ9に対して2本設けられている。
【0083】
中継基板400のコネクター440の図示しない内部には、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bのそれぞれと第1部分用中継配線421Aを介して電気的に接続された入力端子および出力端子を有する。このため、本実施形態の第1部分711Aの「中継配線」は、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bと、第1部分用入力配線721Aおよび第1部分用出力配線721Bのそれぞれと第1部分用中継配線421Aとを接続する配線基板80の図示しない配線と、中継基板400の第1部分用中継配線421Aと、コネクター440の第1部分用中継配線421Aに電気的に接続された図示しない入力端子および出力端子と、を含む。また、本実施形態の第1部分711Aに対応する「加熱経路」は、第1部分711Aと前述の第1部分711Aの「中継配線」とを含む。
【0084】
第1発熱体711の第2部分711Bには、図4および図6に示すように、第2部分用入力配線721Cと第2部分用出力配線721Dとが接続されている。
【0085】
第2部分用入力配線721Cは、第2部分711Bの+X方向の端部に一端が接続され、他端が振動板50上で配線基板80の端部と接続されるように形成されている。この第2部分用入力配線721Cは、コンプライアンス基板45の+X方の端面、流路形成基板15の+X方向の端面、流路形成基板15の-Z方向を向く表面、圧力室基板10の+X方向の端面、振動板50の+X方向の端面、および、振動板50の-Z方向を向く表面に亘って延設されている。
【0086】
第2部分用出力配線721Dは、第2部分711Bの-X方向の端部に一端が接続され、他端が振動板50上で配線基板80の端部と接続されるように形成されている。この第2部分用出力配線721Dは、コンプライアンス基板45の-X方向の端面、流路形成基板15の-X方向の端面、流路形成基板15の-Z方向を向く表面、圧力室基板10の-X方向の端面、振動板50の-X方向の端面、および、振動板50の-Z方向を向く表面に亘って延設されている。
【0087】
このような第2部分用入力配線721Cおよび第2部分用出力配線721Dのそれぞれは、第2部分711Bよりも電気抵抗率が低い。
【0088】
また、第2部分用入力配線721Cおよび第2部分用出力配線721Dの他端部のそれぞれは、配線基板80の図示しない配線と電気的に接続される。この配線基板80の図示しない配線は、中継基板400に設けられた基板上配線420である第2部分用中継配線421Bを介して液体噴射ヘッド2の外部の電極、つまりは外部配線と電気的に接続される。前述した通り、ここでの外部配線は、外部配線4aとは異なる。第2部分用中継配線421Bは、1つのヘッドチップ9に対して2本設けられている。
【0089】
中継基板400のコネクター440の図示しない内部には、第2部分用中継配線421Bを介して第2部分用入力配線721Cおよび第2部分用出力配線721Dのそれぞれと電気的に接続された入力端子および出力端子を有する。このため、本実施形態の第2部分の「中継配線」は、第2部分用入力配線721Cおよび第2部分用出力配線721Dと、第2部分用入力配線721Cおよび第2部分用出力配線721Dのそれぞれと第2部分用中継配線421Bとを接続する配線基板80の図示しない配線と、中継基板400の第2部分用中継配線421Bと、コネクター440の第2部分用中継配線421Bに電気的に接続された図示しない入力端子および出力端子とを含む。また、本実施形態の第2部分711Bに対応する「加熱経路」は、第2部分711Bと前述の「中継配線」とを含む。また、中継配線の電気抵抗率を、第1発熱体711の電気抵抗率よりも小さくすることで、中継配線での電力消費を低減して、第1発熱体711を効率よく発熱させることができる。
【0090】
また、本実施形態の第1部分711Aと第2部分711Bとは、電気的に独立している。ここで、第1部分711Aと第2部分711Bとが電気的に独立しているとは、一方に通電した場合に、他方に通電されないものを言う。具体的には、直流電源の場合、第1発熱体711の第1部分711Aと、これに接続される中継配線と、これに接続されるコネクター440の入力端子および出力端子とを含む電気的な第1経路と、第1発熱体711の第2部分711Bと、これに接続される中継配線と、これに接続されるコネクター440の入力端子および出力端子とを含む電気的な第2経路とが混線していないことを言う。また、第1部分711Aと第2部分711Bとが電気的に独立しているとは、交流電源の場合、第1部分711Aに接続されたコネクター440の出力端子と第2部分711Bに接続されたコネクター440の出力端子とが同じグランドに接続されていても良いが、グランドを除く区間において混線していないことを言う。なお、グランドを除く区間とは、第1部分711Aに接続されたコネクター440の入力端子からグランドの直前までの区間、及び、第2部分711Bに接続されたコネクター440の入力端子からグランドの直前までの区間を指す。これら電気的に独立していることに対する規定は、以降において同様である。
【0091】
もちろん、第1部分711Aと第2部分711Bとは、電気的に接続されていてもよい。例えば、第1部分711Aと第2部分711Bとは、連続して設けられていてもよく、一部で電気的に接続されていてもよい。また、第1部分711Aの中継配線と第2部分711Bの中継配線とを途中で混線させることで、第1部分711Aと第2部分711Bとを電気的に接続してもよい。中継配線を混線させるとは、第1部分用入力配線721Aと第2部分用入力配線721Cとを導通させると共に、第1部分用出力配線721Bと第2部分用出力配線721Dとを導通させるものを含む。また、中継配線を混線させるとは、第1部分用中継配線421Aと第2部分用中継配線421Bとを導通させることを含む。さらに、コネクター440内の入力端子同士および出力端子同士を導通させるようにしてもよい。このように第1部分711Aと第2部分711Bとを電気的に接続することで、固定板600とヘッドチップ9との接着状態を解除する際に、第1部分711Aと第2部分711Bとの両方に電力を同時に供給することができ、解除作業を容易に行うことができる。
【0092】
ただし、本実施形態のように第1部分711Aと第2部分711Bとを電気的に独立させることで、第1接着剤701の閉塞部701Aと主固定部701Bとを個別に加熱して可塑化することができる。したがって、閉塞部701Aに生じたクラック(別称、ひび)を可塑化して修復する際などに、主固定部701Bが可塑化するのを抑制して、固定板600とヘッドチップ9との接着が解除されるのを抑制することができる。
【0093】
また、第1部分711Aに対応する加熱経路は、印刷用経路とは電気的に独立して設けられている。つまり、印刷時に印刷経路に通電されたとしても、第1発熱体711の第1部分711Aには、通電されない。
【0094】
同様に、第2部分711Bに対応する加熱経路は、印刷用経路とは電気的に独立して設けられている。つまり、印刷時に印刷経路に通電されたとしても、第1発熱体711の第2部分711Bには、通電されない。
【0095】
なお、本実施形態では、第1発熱体711は、ヘッドチップ9に設けるようにしたが、特にこれに限定されず、固定板600に設けるようにしてもよい。ただし、液体噴射ヘッド2においては、固定板600は外部に露出しているため故障し易く交換する頻度が高い。このため、第1発熱体711をヘッドチップ9に設けることで、固定板600を交換する毎に第1発熱体711が交換されるのを抑制し、交換時のコストを低減することができる。また、固定板600とヘッドチップ9を構成する積層部材との材料は特に限定されないが、固定板600としては、剛性が高い金属等が好ましく、圧力室基板10、保護基板30および流路形成基板15等は、高精度な加工が可能なシリコン基板を用いることが好ましい。このため、第1発熱体711の第1部分711A、第1部分用入力配線721A、第1部分用出力配線721B、第2部分用入力配線721C、第2部分用出力配線721Dは、シリコン基板側に形成し易い。
【0096】
また、固定板600とホルダー100とは、接着剤である第2接着剤702で接着されている。つまり、ホルダー100の保持部101が開口する+Z方向を向く面と、固定板600の-Z方向を向く面とが、第2接着剤702によって接着されている。このような第2接着剤702としては、第1接着剤701と同様に、熱可塑性接着剤からなる。第2接着剤702は、絶縁性を有することが好ましい。これにより、第2発熱体712を流れる電流が、固定板600に伝わるのを抑制することができる。固定板600とホルダー100とは第2接着剤702によって接着されているため、ホルダー100に対して固定板600を位置決めしてから固定することができる。
【0097】
また、液体噴射ヘッド2の第2接着剤702が設けられた部分には、第2接着剤702を加熱して可塑化する第2発熱体712を有する。本実施形態では、第2発熱体712は、ホルダー100の+Z方向を向く面の第2接着剤702によって接着される領域に設けられている。もちろん、第2発熱体712は、固定板600側に設けるようにしてもよい。ただし、上述のように、第2発熱体712をホルダー100に設けることで、固定板600を交換する毎に第2発熱体712が交換されるのを抑制し、交換時のコストを低減することができる。第2発熱体712および第2接着剤702は、固定板600とホルダー100との積層方向であるZ軸方向に関して、固定板600とホルダー100との間に配置される。また、第2発熱体712と第2接着剤702とは、Z軸方向に見て重なって配置されている。
【0098】
このような第2発熱体712は、電熱線によって形成されている。第2発熱体712は、ホルダー100の表面に成膜することで形成してもよく、電熱線を貼り付けることで形成してもよい。また、第2発熱体712を設ける部材が樹脂材料や金属材料で形成される場合には、第2発熱体712はインサート成形によって一体的に設けることもできる。このような第2発熱体712としては、例えば、電気抵抗率が1.00×10-6Ω・m以上であることが好ましい。なお、第2発熱体712を設ける部材が導電性を有する材料で形成される場合には、第2発熱体712は、絶縁性を有する膜やシートを介して設けるようにすればよい。また、第2発熱体712が絶縁性を有する外装で被覆されている場合には、導電性を有する部材に直接、貼り付けることもできる。
【0099】
第2発熱体712には、図3および図7に示すように、第2発熱体用入力配線722Aと第2発熱体用出力配線722Bとが接続されている。第2発熱体用入力配線722Aは、一端が第2発熱体712に接続され、他端が、ホルダー100の-Z方向を向く面まで、保持部101の内面および配線部材挿通孔104の内面に亘って延設されている。第2発熱体用出力配線722Bも同様に、一端が第2発熱体712に接続され、他端がホルダー100の-Z方向を向く面まで、保持部101の内面および配線部材挿通孔104の内面に亘って延設されている。
【0100】
このような第2発熱体用入力配線722Aおよび第2発熱体用出力配線722Bのそれぞれの他端部は、中継基板400の+Z方向を向く面に形成された基板上配線420である第2発熱体用中継配線422に接続されている(図9参照)。つまり、第2発熱体用中継配線422は、中継基板400に2本設けられている。また、第2発熱体用中継配線422は、中継基板400の+Z方向を向く面に固定されたコネクター440を介して外部配線と接続される。前述した通り、ここでの外部配線は、外部配線4aとは異なる。
【0101】
中継基板400のコネクター440の図示しない内部には、第2発熱体用中継配線422を介して第2発熱体用入力配線722Aおよび第2発熱体用出力配線722Bと電気的に接続された入力端子および出力端子を有する。このため、本実施形態の第2発熱体712の「中継配線」は、第2発熱体用入力配線722Aおよび第2発熱体用出力配線722Bと、中継基板400の第2発熱体用中継配線422と、コネクター440の第2発熱体用中継配線422に電気的に接続された図示しない入力端子および出力端子とを含む。また、本実施形態の第2発熱体712に対応する「加熱経路」は、第2発熱体712と前述の「中継配線」とを含む。第2発熱体712に対応する加熱経路は、印刷用経路とは電気的に独立して設けられている。つまり、印刷時に印刷経路に通電されたとしても、第2発熱体712には、通電されない。なお、第2発熱体712の中継配線の電気抵抗率を第2発熱体712の電気抵抗率よりも小さくすることで、中継配線での電力消費を低減して、第2発熱体712を効率よく発熱させることができる。
【0102】
さらに、ホルダー100とヘッドチップ9とは、上述のように第3接着剤703によって接着されている。このため、ホルダー100とヘッドチップ9との間に働く応力を第3接着剤703が吸収することで、ヘッドチップ9のアライメント精度を向上させることができる。ヘッドチップ9は、ケース部材40の-Z方向を向く面と、ホルダー100の保持部101の+Z方向を向く底面と、が第3接着剤703を介して接着されている。この第3接着剤703によってホルダー100の接続流路110とヘッドチップ9の導入口44とが液密に接続されている。つまり、第3接着剤703は、接続流路110の開口および導入口44の開口の周囲に周方向に亘って連続して設けることで、接続流路110と導入口44との連通部分をシールするシール部材としても機能する。このようなホルダー100とヘッドチップ9とを接着する第3接着剤703は、熱可塑性接着剤からなる。第3接着剤703は、絶縁性を有することが好ましい。なお、第3接着剤703は、接続流路110と導入口44との連通部分の周囲に設けるだけではなく、ケース部材40の-Z方向を向く面の全面に亘って設けるようにしてもよい。
【0103】
液体噴射ヘッド2の第3接着剤703が設けられた部分には、第3接着剤703を加熱して可塑化させるための発熱体である第3発熱体713を有する。本実施形態では、第3発熱体713は、ホルダー100の保持部101の+Z方向を向く底面の第3接着剤703によって接着される領域、すなわち、接続流路110の開口の周囲に亘って環状に設けられている。つまり、本実施形態では、導入口44に対して1つの第3発熱体713が設けられており、ホルダー100には合計8個の第3発熱体713が設けられている。もちろん、第3発熱体713は、複数のヘッドチップ9に対応して連続して1つ設けるようにしてもよい。また、第3発熱体713は、ヘッドチップ9のケース部材40に設けるようにしてもよい。なお、第3接着剤703をケース部材40の-Z方向を向く面の全面に亘って設けた場合には、第3発熱体713は、ホルダー100のケース部材40の-Z方向を向く面にZ軸方向で対向する領域に亘って設けるようにすればよい。つまり、第3発熱体713および第3接着剤703は、ホルダー100とヘッドチップ9との積層方向であるZ軸方向に関して、固定板600とヘッドチップ9との間に配置される。また、第3発熱体713と第3接着剤703とは、Z軸方向に見て重なって配置されている。
【0104】
このような第3発熱体713は、電熱線によって形成されている。第3発熱体713は、ホルダー100の表面に成膜することで形成してもよく、電熱線を貼り付けることで形成してもよい。また、第3発熱体713を設ける部材が樹脂材料や金属材料で形成される場合には、第3発熱体713はインサート成形によって一体的に設けることもできる。このような第3発熱体713としては、例えば、電気抵抗率が1.00×10-6Ω・m以上であることが好ましい。なお、第3発熱体713を設ける部材が導電性を有する材料で形成される場合には、第3発熱体713は、絶縁性を有する膜やシートを介して設けるようにすればよい。また、第3発熱体713が絶縁性を有する外装で被覆されている場合には、導電性を有する部材に直接、貼り付けることもできる。
【0105】
1つのヘッドチップ9の2つの導入口44に対応する2つの第3発熱体713は、図7に示すように、接続配線723Aによって互いに電気的に接続されている。接続配線723Aは、保持部101の+Z方向を向く底面に形成されている。また、1つのヘッドチップ9に対応する2つの第3発熱体713には、第3発熱体用入力配線723Bと第3発熱体用出力配線723Cとが接続されている。第3発熱体用入力配線723Bは、一端が-Y方向に位置する一方の第3発熱体713に接続され、他端がホルダー100の-Z方向を向く面まで、保持部101の内面および配線部材挿通孔104の内面に亘って延設されている。第3発熱体用出力配線723Cは、一端が+Y方向に位置する他方の第3発熱体713に接続され、他端がホルダー100の-Z方向を向く面まで、保持部101の内面および配線部材挿通孔104の内面に亘って延設されている。このような第3発熱体用入力配線723Bおよび第3発熱体用出力配線723Cは、ヘッドチップ9に対応して対をなす第3発熱体713のそれぞれに設けられている。
【0106】
このような接続配線723A、第3発熱体用入力配線723Bおよび第3発熱体用出力配線723Cは、第3発熱体713よりも電気抵抗率が低い。
【0107】
このような第3発熱体用入力配線723Bおよび第3発熱体用出力配線723Cのそれぞれの他端部は、中継基板400の+Z方向を向く面に形成された基板上配線420である第3発熱体用中継配線423に接続されている(図9参照)。つまり、中継基板400は、ヘッドチップ9毎に2本の第3発熱体用中継配線423を有する。そして第3発熱体用中継配線423は、中継基板400の+Z方向を向く面に固定されたコネクター440を介して外部配線と接続される。前述と同様に、ここでの外部配線は、外部配線4aとは異なる。
【0108】
すなわち、中継基板400のコネクター440の図示しない内部には、第3発熱体用中継配線423を介して第3発熱体用入力配線723Bおよび第3発熱体用出力配線723Cと電気的に接続された入力端子および出力端子を有する。このため、本実施形態の第3発熱体713の「中継配線」は、第3発熱体用入力配線723Bおよび第3発熱体用出力配線723Cと、中継基板400の第3発熱体用中継配線423と、コネクター440の第3発熱体用中継配線423に電気的に接続された図示しない入力端子および出力端子を含む。また、本実施形態の第3発熱体713に対応する「加熱経路」は、第3発熱体713と前述の「中継配線」とを含む。この第3発熱体713に対応する加熱経路は、印刷用経路とは電気的に独立して設けられている。つまり、印刷時に印刷経路に通電されたとしても、第3発熱体713には、通電されない。なお、第3発熱体713の中継配線の電気抵抗率を第3発熱体713の電気抵抗率よりも小さくすることで、中継配線での電力消費を低減して、第3発熱体713を効率よく発熱させることができる。
【0109】
図示しない外部配線は、液体噴射装置1の一部ではない不図示の電源装置と、コネクター440の第1部分用中継配線421Aに電気的に接続された入力端子および出力端子、コネクター440の第2部分用中継配線421Bに電気的に接続された入力端子および出力端子、コネクター440の第2発熱体用中継配線422に電気的に接続された入力端子および出力端子、および、コネクター440の第3発熱体用中継配線423に電気的に接続された図示しない入力端子および出力端子とを電気的に接続しており、この外部配線を介して電源装置から第1部分用中継配線421A、第2部分用中継配線421B、第2発熱体用中継配線422および第3発熱体用中継配線423に電力を供給することで第1部分711A、第2部分711B、第2発熱体712および第3発熱体713が発熱する。なお、この外部配線は、印刷用経路には電気的に接続されない。また、複数の発熱体の各加熱経路は、互いに電気的に独立しているため、第1部分711A、第2部分711B、第2発熱体712および第3発熱体713のうち一部のみを選択的に発熱させることが可能である。
【0110】
このような構成の液体噴射ヘッド2では、発熱体を発熱させて接着剤を加熱することで、接着剤を可塑化することができる。本実施形態では、発熱体として第1発熱体711、第2発熱体712および第3発熱体713を設けた。このため、第1発熱体711は、第1接着剤701を可塑化し、第2発熱体712は第2接着剤702を可塑化し、第3発熱体713は、第3接着剤703を可塑化することができる。また、本実施形態では、これら第1発熱体711、第2発熱体712および第3発熱体は、それぞれ電気的に独立するようにした。このため、第1発熱体711による第1接着剤701の可塑化、第2発熱体712による第2接着剤702の可塑化、第3発熱体による第3接着剤703の可塑化は、それぞれ独立して行うことができる。また、第1発熱体711および第3発熱体713は、ヘッドチップ9毎に電気的に独立して設けるようにした。このため、第1発熱体711による第1接着剤701の可塑化と、第2発熱体712による第2接着剤702の可塑化と、をヘッドチップ9毎に独立して行うことができる。さらに、1つのヘッドチップ9に対して設けられた第1発熱体711の第1部分711Aと第2部分711Bとは、電気的に独立するようにした。このため、第1部分711Aによる閉塞部701Aの可塑化と、第2部分711Bによる主固定部701Bの可塑化と、を独立して行うことができる。
【0111】
ここで、接着剤の可塑化とは、接着剤の軟化および溶融化を含む。接着剤の軟化とは、接着剤が加熱されることにより柔らかくなることである。また、接着剤の溶融化とは、接着剤が加熱されることにより液状化することである。例えば、第1接着剤701の閉塞部701Aがインクの攻撃によってクラック等が発生した際に、第1発熱体711によって第1接着剤701の閉塞部701Aを加熱して溶融化することで、閉塞部701Aのクラックを修復することができる。もちろん、主固定部701Bについても同様である。また、第2発熱体712についても同様に、第2発熱体712によって第2接着剤702を溶融化することで、第2接着剤702のクラックを修復することができる。第3発熱体713についても同様に、第3発熱体713によって第3接着剤703を溶融化することで、第3接着剤703のクラックを修復することができる。
【0112】
また、第1発熱体711によって第1接着剤701を可塑化し、第2発熱体712によって第2接着剤702を可塑化することで、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着を解除することができる。
【0113】
ここで、固定板600は、例えば、以下の理由により故障する場合がある。
【0114】
液体噴射装置1において、媒体Sを搬送中に媒体Sの詰まり、所謂、紙ジャムが発生し、媒体Sが固定板600に接触することで固定板600が変形する。
【0115】
液体噴射装置1において、インクをノズル21から吸引する図示しない吸引キャップを固定板600に当接した際の荷重が、何らかの理由により想定以上の大きさとなることによって変形する。
【0116】
液体噴射装置1において、ノズルプレート20および固定板600の+Z方向を向く面を図示しないワイパーブレード等の払拭部材で払拭することで、固定板600の表面に形成された撥液膜が剥離する。
【0117】
このような固定板600に故障が発生した際に、第1発熱体711によって第1接着剤701を可塑化し、第2発熱体712によって第2接着剤702を可塑化することで、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着状態を解除し、固定板600を新品に交換することができる。すなわち、第1発熱体711および第2発熱体712が第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化することで、故障した固定板600をホルダー100およびヘッドチップ9から取り外す。そして、新品の固定板600を、第2接着剤702および第1接着剤701のそれぞれを介してホルダー100およびヘッドチップ9のそれぞれに当接させた状態で、第1発熱体711および第2発熱体712の発熱を停止する。これにより、第1接着剤701および第2接着剤702の温度を下げて硬化させて、ホルダー100およびヘッドチップ9と新品の固定板600とを接着することができる。なお、固定板600を交換する場合には、第1接着剤701および第2接着剤702の可塑化は、軟化させることが好ましい。第1接着剤701および第2接着剤702を軟化させることで、固定板600を交換した際に、第1接着剤701および第2接着剤702を容易に除去して、新たな固定板600を新たな第1接着剤701および第2接着剤702で接着することができる。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702を軟化して固定板600を取り外すと、固定板600とヘッドチップ9およびホルダー100との何れか一方に第1接着剤701および第2接着剤702が付着し、第1接着剤701および第2接着剤702それぞれが塊となって除去し易い。これに対して、例えば、第1接着剤701および第2接着剤702を溶融化して固定板600を取り外すと、固定板600とヘッドチップ9およびホルダー100との両方に第1接着剤701および第2接着剤702が付着し、両方に付着した第1接着剤701および第2接着剤702を拭き取らなくてはならないと共に、綺麗に拭き取るのが煩雑になってしまう。
【0118】
なお、上述した例では、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着状態を解除して、固定板600を新品に交換する構成を説明したが、特にこれに限定されない。例えば、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着状態を解除して、ホルダー100およびヘッドチップ9が接着されたユニットを新品に交換するようにしてもよい。また、第1接着剤701および第2接着剤702は、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着状態を解除した際に、新品に交換するようにしてもよい。
【0119】
また、固定板600とホルダー100およびヘッドチップ9との接着状態を解除した後、第3発熱体713によって第3接着剤703を可塑化することで、ホルダー100とヘッドチップ9との接着状態を解除することができる。
【0120】
ここで、ヘッドチップ9は、例えば、以下の理由により故障する場合がある。
【0121】
圧電アクチュエーター60が寿命により正常に動作しなくなる。
【0122】
液体噴射装置において、ノズルプレート20を払拭部材によって払拭することで、ノズルプレート20の表面の撥液膜が剥がれる。
【0123】
このようなヘッドチップ9の故障が発生した際に、第3発熱体713によって第3接着剤703を可塑化することで、ヘッドチップ9とホルダー100との接着状態を解除し、ヘッドチップ9を新品に交換することができる。つまり、第3発熱体713が第3接着剤703を可塑化することで、故障したヘッドチップ9をホルダー100から取り外す。そして、新品のヘッドチップ9を、第3接着剤703を介してホルダー100に当接させた状態で、第3発熱体713の発熱を停止する。これにより、第3接着剤703の温度を下げて硬化させて、ホルダー100と新品のヘッドチップ9とを接着することができる。なお、ヘッドチップ9を交換する場合には、固定板600の交換と同様に、第3接着剤703の可塑化は、軟化させることが好ましい。第3接着剤703を軟化させることで、ヘッドチップ9を交換した際に、第3接着剤703を容易に除去して、新たなヘッドチップ9を新たな第3接着剤703で接着することができる。
【0124】
なお、上述した例では、ホルダー100とヘッドチップ9との接着状態を解除して、ヘッドチップ9を新品に交換する構成を説明したが、特にこれに限定されない。例えば、ホルダー100とヘッドチップ9との接着状態を解除して、ホルダー100を新品に交換するようにしてもよい。また、第3接着剤703は、ホルダー100とヘッドチップ9との接着状態を解除した際に、新品に交換するようにしてもよい。
【0125】
また、本実施形態では、ヘッドチップ9毎に設けられた対となる第3発熱体713は、ヘッドチップ9毎に電気的に独立している。このため、故障したヘッドチップ9に対応する第3発熱体713に選択的に通電して第3接着剤703を選択的に可塑化することができる。したがって、故障したヘッドチップ9のみを交換することができ、正常なヘッドチップ9を含む全てのヘッドチップ9を同時に交換する必要がない。また、故障したヘッドチップ9を交換する際に、正常なヘッドチップ9がホルダー100から取り外されるのを抑制することができるため、故障したヘッドチップ9の交換を容易に行うことができる。
【0126】
なお、第1接着剤701、第2接着剤702、第3接着剤703は、インクの沸点よりも低い軟化点を有する材料を用いるのが好ましい。これは、第1発熱体711、第2発熱体712、および第3発熱体713のそれぞれによって、第1接着剤701、第2接着剤702、第3接着剤703を可塑化する際に、インクの沸点よりも低い温度で加熱することで、液体噴射ヘッド2内に残留するインクを異物化させないようにすることができる。したがって、インクの異物化によるインクの噴射不良等を抑制することができる。特に、インクの流路を構成する第3接着剤703は、インクの沸点よりも低い軟化点を有する材料を用いるのが好ましい。
【0127】
また、ヘッドチップ9の第3接着剤703が塗布された部材であるケース部材40、および、第3接着剤703が塗布されたホルダー100の少なくとも一方が熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂の融点は、第3接着剤703の軟化点よりも高いことが好ましい。このように熱可塑性樹脂の融点を、第3接着剤703の軟化点よりも高くすることで、第3発熱体713が第3接着剤703を可塑化した際に、熱可塑性樹脂が溶融されるのを抑制することができる。なお、熱可塑性樹脂の軟化点は、第3接着剤703の軟化点よりも高いことがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点は、第3接着剤703の融点よりも高いことが好ましい。さらに好ましくは、熱可塑性樹脂の軟化点は、第3接着剤703の融点よりも高いことが好適である。
【0128】
本実施形態における液体噴射ヘッド2では、ヘッドチップ9と接着されるホルダー100および固定板600が、「ヘッドチップとは異なる他の部材」に相当する。また、第1接着剤701、第3接着剤703が、「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤」に相当する。さらに、第1発熱体711、第3発熱体713が「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤を可塑化させるための発熱体」に相当する。但し、固定板600のみを「ヘッドチップとは異なる他の部材」としてもよく、第1接着剤701のみを「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤」とし、第1発熱体711のみを「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤を可塑化させるための発熱体」としてもよい。同様に、ホルダー100のみを「ヘッドチップとは異なる他の部材」とし、第3接着剤703のみを「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤」とし、第3発熱体713のみを「ヘッドチップと他の部材とを接着する接着剤を可塑化させるための発熱体」としてもよい。
【0129】
また、本実施形態における液体噴射ヘッド2では、第2接着剤702が、「固定板とホルダーとを接着する接着剤」に相当する。また、第2発熱体712が「固定板とホルダーとを接着する接着剤を可塑化させるための発熱体」に相当する。
【0130】
(液体噴射ヘッドの製造方法)
実施形態1の液体噴射ヘッド2の製造方法の一例として、固定板600の交換方法を具体的に説明する。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。また、図10および図11は、液体噴射ヘッド2の製造方法を示す要部断面図である。
【0131】
図10に示すように、第1発熱体711および第2発熱体712を発熱させて第1接着剤701および第2接着剤702を加熱し、第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化させる加熱工程を行う。また、加熱工程によって第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化することで、ホルダー100およびヘッドチップ9と固定板600との接着状態を解除する分解工程を行う。つまり、加熱工程では、複数のヘッドチップ9とホルダー100とを接着する第3接着剤703は可塑化しない。
【0132】
ここで、加熱工程では、液体噴射ヘッド2が内蔵する第1発熱体711および第2発熱体712に電力を供給することによって第1発熱体711および第2発熱体712を発熱させる。また、加熱工程では、第1部分用中継配線421A、第2部分用中継配線421B、第2発熱体用中継配線422のそれぞれのコネクター440の外部に露出される不図示の入力端子および出力端子を介して第1発熱体711および第2発熱体712に電力を供給して、第1発熱体711および第2発熱体712を発熱させる。このコネクター440の外部に露出される不図示の入力端子および出力端子は、「液体噴射ヘッドの外部に露出されるとともに発熱体に接続された中継配線の端部」の一例である。液体噴射ヘッド2が内蔵する第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化させるため、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱している状態で分解工程を行うことができる。そのため、加熱工程と分解工程とを並行して行うことができ、分解工程を行っている最中に第1接着剤701および第2接着剤702の温度が低下しないため、分解工程を容易に行うことができる。
【0133】
また、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702は可塑化するが、ヘッドチップ9および固定板600が可塑化しない温度で、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702が可塑化する温度は、ヘッドチップ9を構成する積層部材および固定板600が可塑化する温度よりも低い温度となるように、第1接着剤701、第2接着剤702、ヘッドチップ9および固定板600の材料を選択する。なお、第1接着剤701および第2接着剤702が可塑化する温度とは、溶融化する温度である融点または軟化する温度である軟化点のことである。また、ヘッドチップ9および固定板600が可塑化する温度とは、軟化点のことである。つまり、加熱工程で、第1接着剤701および第2接着剤702を軟化させる場合には、第1接着剤701および第2接着剤702の軟化点は、ヘッドチップ9および固定板600の軟化点よりも低くなるようにする。また、加熱工程で、第1接着剤701および第2接着剤702を溶融化させる場合には、第1接着剤701および第2接着剤702の融点は、ヘッドチップ9および固定板600の軟化点よりも低くなるようにする。これにより、加熱工程で、第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化した際に、ヘッドチップ9および固定板600が可塑化するのを抑制して、ヘッドチップ9および固定板600が可塑化によって変形や分解されるのを抑制することができる。
【0134】
また、本実施形態では、第1接着剤701および第2接着剤702の可塑化する温度と、ヘッドチップ9および固定板600の可塑化する温度とを規定したが、特にこれに限定されず、第3接着剤703とホルダー100およびヘッドチップ9との組み合わせにおいても同様の規定を行うことができる。つまり、加熱工程では、第3接着剤703は可塑化するが、ヘッドチップ9およびホルダー100は、可塑化しない温度で第3発熱体を加熱すれば良い。
【0135】
また、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92が熱可塑性接着剤である場合、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702は軟化するが、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92は溶融化しない温度で、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702の軟化点は、積層部材同士を接着する接着剤の融点よりも低い。このように積層部材同士を接着する接着剤の融点よりも低い軟化点の第1接着剤701および第2接着剤702を用いることで、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱した際に、積層部材同士を接着する接着剤が溶融化することがなく、ヘッドチップ9が分解されることや積層部材の位置ズレ等が生じるのを抑制することができる。
【0136】
また、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92が熱可塑性接着剤である場合、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702は溶融化するが、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92は溶融化しない温度で、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱するようにしてもよい。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702の融点は、積層部材同士を接着する接着剤の融点よりも低い。このように積層部材同士を接着する接着剤の融点よりも低い融点の第1接着剤701および第2接着剤702を用いることで、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱した際に、積層部材同士を接着する接着剤が溶融化することがなく、ヘッドチップ9が分解されることや積層部材の位置ズレ等が生じるのを抑制することができる。
【0137】
また、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92が熱可塑性接着剤である場合、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702は溶融化するが、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤および第2積層用接着剤は軟化しない温度で、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱するようにしてもよい。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702の融点は、積層部材同士を接着する接着剤の軟化点よりも低い。このように積層部材同士を接着する接着剤の軟化点よりも低い融点の第1接着剤701および第2接着剤702を用いることで、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱した際に、積層部材同士を接着する接着剤が軟化することがなく、ヘッドチップ9が分解されることや積層部材の位置ズレ等が生じるのを抑制することができる。
【0138】
また、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92が熱可塑性接着剤である場合、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702は軟化するが、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤、例えば、第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92は軟化しない温度で、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱することが好ましい。つまり、第1接着剤701および第2接着剤702の軟化点は、積層部材同士を接着する接着剤の軟化点よりも低い。このように積層部材同士を接着する接着剤の軟化点よりも低い軟化点の第1接着剤701および第2接着剤702を用いることで、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱した際に、積層部材同士を接着する接着剤が軟化するのを抑制することができる。したがって、積層部材同士を接着する接着剤が軟化するのを抑制することで、積層部材同士を接着する接着剤が溶融化するのを抑制した場合に比べて、ヘッドチップ9が分解されるのをさらに抑制すると共に積層部材の位置ズレ等が生じるのをさらに抑制することができる。第1接着剤701および第2接着剤702を溶融化ではなく軟化させることで、第1接着剤701および第2接着剤702を塊として除去しやすくなる。
【0139】
なお、上述した第1接着剤701および第2接着剤702の融点または軟化点と、ヘッドチップ9の積層部材を接着する接着剤の融点または軟化点と、の規定は、第3接着剤703についても同様の規定を行うことができる。また、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703の融点または軟化点と、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤の融点または軟化点と、を規定したが、特にこれに限定されない。例えば、ホルダー100および固定板600の何れか一方または両方が、複数の積層部材を接着剤で積層して構成されている場合には、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703の融点または軟化点は、ホルダー100の積層部材同士を接着する接着剤又は固定板600の積層部材同士を接着する接着剤の融点または軟化点と比較してもよい。
【0140】
また、上述した例では、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703の温度と、積層部材同士を接着する接着剤の温度とを比較したが、特にこれに限定されない。例えば、積層部材同士を接着する接着剤が可塑化する前に、分解工程を行うようにすればよい。すなわち、例えば、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703が可塑化する温度と、積層部材同士を接着する接着剤が可塑化する温度と、が同じであっても、発熱体から遠い位置に配置された積層部材同士を接着する接着剤が可塑化するまでの時間は、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703が可塑化するまでの時間に比べて長い。したがって、両者の可塑化する温度が同じであっても、積層部材同士を接着する接着剤が可塑化する前に、第1接着剤701、第2接着剤702および第3接着剤703を可塑化して分解工程を行うことができる。
【0141】
次に、図11に示すように、分解工程によって取り外した固定板600を新品の固定板600Aに交換する交換工程を行う。交換工程では、新品の固定板600Aをホルダー100およびヘッドチップ9に第1接着剤701および第2接着剤702によって接着する。つまり、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を加熱して可塑化した状態で、新品の固定板600Aをヘッドチップ9およびホルダー100に当接させる。そして、固定板600Aをヘッドチップ9およびホルダー100に当接させた状態で、第1発熱体711および第2発熱体712による第1接着剤701および第2接着剤702の加熱を停止することで、第1接着剤701および第2接着剤702の温度を低下させることで硬化させて、新品の固定板600Aとヘッドチップ9およびホルダー100とを接着する。なお、加熱工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する温度は、交換工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する温度よりも低いことが好ましい。つまり、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702を軟化させて、分解し易くし、交換工程では、第1接着剤701および第2接着剤702を溶融化させることで、固定板600Aとヘッドチップ9およびホルダー100との接着強度を向上することができる。
【0142】
また、加熱工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する時間は、交換工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する時間よりも短いことが好ましい。つまり、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702を短い時間で加熱して軟化させて、分解し易くし、交換工程では、第1接着剤701および第2接着剤702を比較的長い時間で加熱して溶融化させることで、固定板600Aとヘッドチップ9およびホルダー100との接着強度を向上することができる。
【0143】
また、第1接着剤701および第2接着剤702は、交換工程で新品に交換してもよい。新品の第1接着剤701および第2接着剤702を用いる場合には、新品の第1接着剤701および第2接着剤702は、第1発熱体711および第2発熱体712によって加熱することなく、外部のヒーター等の加熱手段によって加熱して可塑化することで塗布してもよい。第1接着剤701および第2接着剤702を交換する場合にも、加熱工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する温度は、交換工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する温度よりも低いことが好ましい。または、第1接着剤701および第2接着剤702を交換する場合にも、加熱工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する時間は、交換工程で第1接着剤701および第2接着剤702を加熱する時間よりも短いことが好ましい。これによれば、加熱工程において、第1接着剤701および第2接着剤702を交換し易い。
【0144】
このように液体噴射ヘッド2の一部品である固定板600を新品に交換することで、液体噴射ヘッド2の再生が可能になる。したがって、液体噴射ヘッド2全体を交換する場合に比べて廃棄物を減少させることができると共にコストを低減することができる。
【0145】
なお、本実施形態では、固定板600を新品の固定板600Aに交換するようにしたが、これに限定されない。例えば、ヘッドチップ9およびホルダー100を新品に交換するようにしてもよい。交換工程は、ヘッドチップ9およびホルダー100と、固定板600との何れか一方を新品に交換すればよい。
【0146】
また、上述した分解工程によって固定板600と分解されたヘッドチップ9およびホルダー100に対して、加熱工程、分解工程および交換工程を行うようにしてもよい。つまり、加熱工程では、固定板600が取り外されたヘッドチップ9およびホルダー100に対して、第3発熱体713に通電して発熱させることで、第3接着剤703を加熱して可塑化する。次に、分解工程では、加熱工程によって第3接着剤703を可塑化することで、ホルダー100とヘッドチップ9との接着状態を解除する。その後、交換工程では、ヘッドチップ9およびホルダー100の何れか一方を新品に交換する。なお、本実施形態では、ヘッドチップ9毎に第3発熱体713を設け、各ヘッドチップ9の第3発熱体713は、電気的に独立するようにした。このため、故障したヘッドチップ9のみを選択的にホルダー100から取り外すことができ、故障していないヘッドチップ9とホルダー100との接着状態が解除されるのを抑制することができる。したがって、第3発熱体713を発熱させた際に、故障していないヘッドチップ9がホルダー100に対して位置ズレすることや取り外されることを抑制することができる。もちろん、全てのヘッドチップ9を交換する場合には、各ヘッドチップ9に対応して設けられた第3発熱体713は、電気的に導通していてもよい。なお、ホルダー100に対してヘッドチップ9を取り外す際には、液体噴射ヘッド2の外部からヒーター等の加熱手段によって配線基板80と中継基板400とを接続している半田や導電性接着剤を加熱することで、配線基板80と中継基板400との接続を解除することが好ましい。また、ホルダー100に対するヘッドチップ9の交換だけではなく、ヘッドチップ9に対してホルダー100を交換するようにしてもよい。
【0147】
(変形例1)
図12および図13は、実施形態1の液体噴射ヘッド2の製造方法の変形例1を説明する要部断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0148】
図12に示すように、第2発熱体712および第3発熱体を発熱させて第2接着剤702および第3接着剤703を加熱し、第2接着剤702および第3接着剤703を可塑化させる加熱工程を行う。また、加熱工程によって第2接着剤702および第3接着剤703を可塑化することで、複数のヘッドチップ9および固定板600と、ホルダー100との接着状態を解除する分解工程を行う。つまり、加熱工程では、複数のヘッドチップ9と固定板600とを接着する第1接着剤701は可塑化しない。このため、分解工程では、複数のヘッドチップ9と固定板600とが第1接着剤701によって一体化されたユニットとホルダー100との接着状態を解除して分解する。
【0149】
加熱工程における第2接着剤702および第3接着剤703の可塑化する温度と、ヘッドチップ9、固定板600およびホルダー100の可塑化する温度との関係は、上述した第1接着剤701および第2接着剤702の可塑化する温度と、ヘッドチップ9および固定板600との可塑化する温度との関係と同じである。つまり、第2接着剤702および第3接着剤703の可塑化する温度は、ヘッドチップ9、固定板600およびホルダー100の可塑化する温度よりも低い。これにより、加熱工程で、第2接着剤702および第3接着剤703を加熱した際に、ヘッドチップ9、固定板600およびホルダー100が可塑化するのを抑制することができる。
【0150】
また、加熱工程における第2接着剤702および第3接着剤703が可塑化する融点および軟化点と、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤である第1積層用接着剤91および第2積層用接着剤92が可塑化する融点および軟化点との関係は、上述した第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化する融点および軟化点と、ヘッドチップ9の積層部材同士を接着する接着剤を可塑化する融点および軟化点との関係と同様である。
【0151】
次に、図13に示すように、分解工程によって取り外したヘッドチップ9および固定板600を含むユニットを新品に交換する。交換工程では、新品のユニットをホルダー100に第2接着剤702および第3接着剤703によって接着する。つまり、第2発熱体712および第3発熱体713によって第2接着剤702および第3接着剤703を加熱して可塑化した状態で、新品のユニット、すなわち、新品のヘッドチップ9Aおよび新品の固定板600Aをホルダー100に当接させる。そして、新品のヘッドチップ9Aおよび新品の固定板600Aをホルダー100に当接させた状態で、第2発熱体712および第3発熱体713による第2接着剤702および第3接着剤703の加熱を停止することで、第2接着剤702および第3接着剤703の温度を低下させて硬化させて、新品のヘッドチップ9Aおよび新品の固定板600Aとホルダー100とを接着する。なお、第2接着剤702および第3接着剤703は、交換工程で新品に交換してもよい。新品の第2接着剤702および第3接着剤703を用いる場合には、新品の第2接着剤702および第3接着剤703は、第2発熱体712および第3発熱体によって加熱することなく、外部のヒーター等の加熱手段によって加熱して可塑化することで塗布してもよい。
【0152】
このように複数のヘッドチップ9および固定板600を含むユニットを交換することで、各ヘッドチップ9を交換する場合に比べて、交換作業を簡略化することができる。
【0153】
また、複数のヘッドチップ9および固定板600を含むユニットでは、複数のヘッドチップ9が第1接着剤701によって固定板600に接合されているため、固定板600を介して複数のヘッドチップ9のノズル21の位置が位置決めされている。このため、ユニットを新品に交換することで、ヘッドチップ9同士を高精度に位置決めした状態で、ホルダー100に接着することができる。したがって、ノズル21から噴射される液体の媒体Sへの着弾位置ズレを抑制して高精度な印刷を行うことができる。
【0154】
(変形例2)
図14および図15は、実施形態1の液体噴射ヘッド2の製造方法の変形例2を説明する要部断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0155】
図14に示すように、第1発熱体711および第2発熱体712を発熱させて第1接着剤701および第2接着剤702を加熱することによって第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化させる加熱工程を行う。また、加熱工程によって可塑化した第1接着剤701および第2接着剤702を除去する。具体的には、ホルダー100およびヘッドチップ9と、固定板600との接着状態を解除した後、可塑化した第1接着剤701および第2接着剤702を除去する。このように第1接着剤701および第2接着剤702を除去する場合には、第1接着剤701および第2接着剤702の可塑化は、軟化であることが好ましい。これにより、軟化した第1接着剤701および第2接着剤702は塊として除去し易いからである。
【0156】
次に、図15に示すように、新しい第1接着剤701および第2接着剤702を塗布することでホルダー100およびヘッドチップ9と固定板600とを接着する接着工程を行う。新しい第1接着剤701および第2接着剤702の塗布は、新しい第1接着剤701および第2接着剤702が可塑化した状態で行われる。塗布工程における第1接着剤701および第2接着剤702の可塑化は、第1発熱体711および第2発熱体712によって加熱することで行ってもよく、外部のヒーター等の加熱手段によって加熱することで行ってもよい。
【0157】
つまり、本実施形態では、液体噴射ヘッド2のヘッドチップ9、ホルダー100および固定板600の交換は行わずに、第1接着剤701および第2接着剤702の交換を行う。
【0158】
このように第1接着剤701および第2接着剤702として、熱可塑性接着剤を用いることで、第1接着剤701および第2接着剤702が劣化した場合に、第1接着剤701および第2接着剤702を加熱して可塑化することで、第1接着剤701および第2接着剤702を新品に交換することができる。このため、ヘッドチップ9およびホルダー100と固定板600との接着不良や第1接着剤701および第2接着剤702から内部にインクが侵入することを抑制することができる。したがって、第1接着剤701および第2接着剤702の劣化によって液体噴射ヘッド2の寿命が尽きることなく、第1接着剤701および第2接着剤702を新品に交換して液体噴射ヘッド2の寿命を延ばすことができる。
【0159】
なお、本実施形態では、加熱工程では、第1接着剤701および第2接着剤702を第1発熱体711および第2発熱体712で加熱するようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、外部のヒーター等の加熱手段によって液体噴射ヘッド2の全体、または、第1接着剤701および第2接着剤702の含む部分を部分的に加熱することで、第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化してもよい。
【0160】
なお、変形例2では、第1接着剤701および第2接着剤702を新品に交換したが、同様の加熱工程および塗布工程を行って第3接着剤703を新品に交換してもよい。
【0161】
(変形例3)
図16および図17は、実施形態1の液体噴射ヘッド2の製造方法の変形例3を説明する要部断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0162】
図16に示すように、第1接着剤701の閉塞部701Aにクラック730が生じた場合、図17に示すように、液体噴射ヘッド2が内蔵する第1発熱体711の第1部分711Aに電力を供給して発熱させることで閉塞部701Aを可塑化し、クラック730を塞ぐ加熱工程を行う。この閉塞部701Aのクラック730を塞ぐ加熱工程における閉塞部701Aの可塑化は、溶融化するのが好ましい。このように閉塞部701Aを溶融化することで、軟化させる場合に較べてクラック730を塞ぎ易い。
【0163】
なお、加熱工程では、第1接着剤701のうち、液体噴射ヘッド2の外部に露出されている閉塞部701Aを可塑化するが、液体噴射ヘッド2の外部に露出されていない主固定部701Bを可塑化しない温度で第1接着剤701を加熱する。ヘッドチップ9と固定板600とを接着する主固定部701Bが可塑化しないよう閉塞部701Aを加熱することで、固定板600とヘッドチップ9との位置ズレ等が生じ難い。また、例えば、ホルダー100と固定板600とが接着されていない場合、ヘッドチップ9と固定板600との接着状態が解除されるのを抑制することができる。つまり、固定板600とヘッドチップ9とを分解することが不要な場合に、クラック730の生じた閉塞部701Aのみを可塑化して修復することができる。
【0164】
このように液体噴射ヘッド2の外部に露出する閉塞部701Aのクラック730を塞ぐことで、液体噴射ヘッド2の外部からクラック730を介して内部にインクが侵入するのを抑制することができる。
【0165】
なお、変形例3では、閉塞部701Aを可塑化してクラック730を塞ぐようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、主固定部701Bを可塑化して主固定部701Bに形成されたクラックを塞いでもよく、第2接着剤702を可塑化して第2接着剤702に形成されたクラックを塞いでもよく、第3接着剤703を可塑化して第3接着剤703に形成されたクラックを塞いでもよい。
【0166】
また、変形例3では、閉塞部701Aを溶融化してクラック730を塞ぐようにしたが、変形例2のように、クラック730が生じた閉塞部701Aを加熱工程で可塑化させることで閉塞部701Aを除去する除去工程を行った後、新しい閉塞部701Aを塗布することでノズルプレート20と固定板600とを接着する接着工程を行うことによって、液体噴射ヘッド2の外部からクラック730を介して内部にインクが侵入するのを抑制するようにしてもよい。なお、この際も、加熱工程では、第1接着剤701のうち、液体噴射ヘッド2の外部に露出されている閉塞部701Aを可塑化するが、液体噴射ヘッド2の外部に露出されていない主固定部701Bを可塑化しない温度で第1接着剤701を加熱することが好ましい。
【0167】
(液体噴射ヘッドの変形例1)
図18は、本発明の実施形態1の液体噴射ヘッド2の変形例1の要部を示す断面図である。
【0168】
図18に示すように、第1接着剤701の閉塞部701Aと主固定部701Bとは、互いに隙間を空けて配置されている。
【0169】
このような構成であっても上述した実施形態1と同様の効果を奏する。また、閉塞部701Aと主固定部701Bとが、離れて配置されるため、第1部分711Aを発熱させて閉塞部701Aを可塑化する際に、主固定部701Bが加熱され難く可塑化し難い。このため、閉塞部701Aを可塑化する際に、固定板600とヘッドチップ9との接着状態が解除されるのを抑制することができると共に、固定板600とヘッドチップ9との位置ズレを抑制することができる。
【0170】
(液体噴射ヘッドの変形例2)
図19は、実施形態1の液体噴射ヘッド2の変形例2の要部を示す断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0171】
図19に示すように、固定板600の開口部601は、Z軸方向に見て、ノズルプレート20の外周よりも小さな開口を有する。なお、固定板600の-Z方向を向く面と、ノズルプレート20の+Z方向を向く面とは、接着されていてもよく、接着されることなく当接されていてもよい。
【0172】
また、第1接着剤701は、閉塞部701Aと主固定部701Bとを具備する。主固定部701Bは、固定板600とコンプライアンス基板45とを接着する。閉塞部701Aは、開口部601の内周面とノズルプレート20との間に配置され、固定板600とノズルプレート20との間を閉塞する。つまり、閉塞部701Aは、開口部601の内周面とノズルプレート20の開口部601によって露出された+Z方向を向く面との間の角部を閉塞する。なお、閉塞部701Aは、固定板600とノズルプレート20との間に延設されて両者を接着してもよい。つまり、閉塞部701Aと主固定部701Bとは、間に隙間が形成された別体として形成される。
【0173】
第1発熱体711は、閉塞部701Aを加熱して可塑化する第1部分711Aと、主固定部701Bを加熱して可塑化する第2部分711Bと、を有する。第1部分711Aは、固定板600の開口部601によって露出されたノズルプレート20の+Z方向を向く表面であって、閉塞部701AにZ軸方向に見て重なる位置に配置される。
【0174】
第2部分711Bは、上述した実施形態1と同様に、コンプライアンス基板45に設けられる。つまり、第1部分711Aと第2部分711Bとは、分割して設けられ、両者は電気的にも独立して設けられる。もちろん、第1部分711Aと第2部分711Bとは、第1部分と第2部分とを分割して設け、第1部分と第2部分とを電気的に導通して設けてもよい。
【0175】
このような構成であっても上述した実施形態1と同様の効果を奏する。また、閉塞部701Aと主固定部701Bとが、離れて配置されるため、第1部分711Aを発熱させて閉塞部701Aを可塑化する際に、主固定部701Bが加熱され難く、可塑化し難い。このため、閉塞部701Aを可塑化する際に固定板600とヘッドチップ9との接着状態が解除されるのを抑制することができると共に、固定板600とヘッドチップ9との位置ズレを抑制することができる。
【0176】
(他の変形例)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0177】
例えば、上述した実施形態及び変形例では、ヘッドチップ9とホルダー100とが第3接着剤703によって接着された構成を例示したが、特にこれに限定されず、ヘッドチップ9とホルダー100とが接着剤を用いない固定、例えば、ネジやばね等によって固定されていてもよい。このようにヘッドチップ9とホルダー100とをネジやばね等によって固定した場合、第1発熱体711および第2発熱体712によって第1接着剤701および第2接着剤702を可塑化してヘッドチップ9およびホルダー100から固定板600を取り外すことで、ヘッドチップ9を新品に交換することが可能である。
【0178】
また、上述した実施形態及び各変形例では、発熱体が接着剤に直接、接触する構成を例示したが、特にこれに限定されない。図20は、第2発熱体712と第2接着剤702との変形例を説明する要部断面図である。図20に示すように、第2発熱体712は、ホルダー100の保持部101が開口する+Z方向を向く面に形成される。第2発熱体712と第2接着剤702との間には、伝熱部材800が設けられている。
【0179】
伝熱部材800は、第2接着剤702が接着する部材、つまり、ホルダー100および固定板600のそれぞれよりも熱伝導率が高い材料で形成されている。熱伝導率が高い材料としては、アルミニウムや銅などの金属、窒化アルミニウムや炭化ケイ素などのセラミックスなどが好適である。
【0180】
このように伝熱部材800を設けることで、第2接着剤702に第2発熱体712の熱を広範囲に亘ってばらつきを低減して伝えることができる。したがって、第2発熱体712による第2接着剤702の可塑化を均等に行うことができる。
【0181】
なお、伝熱部材800は、第2発熱体712が固定されたホルダー100と、熱硬化型接着剤704で固定されるのが好ましい。これにより、ホルダー100と伝熱部材800との固定が解除されるのを抑制できる。
【0182】
また、上述した例では、第2接着剤702を設ける領域に伝熱部材800を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、第1接着剤701を設ける領域や第3接着剤703を設ける領域に伝熱部材800を設けるようにしてもよい。
【0183】
第1接着剤701を設ける領域に伝熱部材800を設ける場合には、伝熱部材800は、第1接着剤701が接着する部材、すなわち、流路形成基板15、ノズルプレート20、コンプライアンス基板45、固定板600よりも熱伝導率が高い材料を用いればよい。また、第3接着剤703を設ける領域に伝熱部材800を設ける場合には、伝熱部材800は、第3接着剤703が接着する部材、すなわち、ホルダー100およびケース部材40よりも熱伝導率が高い材料を用いれば良い。
【0184】
また、上述した実施形態及び各変形例では、液体噴射ヘッド2の内部に発熱体を設け、内部に設けられた発熱体によって接着剤を加熱して可塑化するようにしたが、特にこれに限定されず、液体噴射ヘッド2の外部からヒーター等の加熱手段の加熱によって接着剤を可塑化してもよい。ただし、上述した各実施形態のように、液体噴射ヘッド2の内部に発熱体を設けた方が、接着剤を効率よく加熱することができる。また、液体噴射ヘッド2の内部に発熱体を設けることで、外部から液体噴射ヘッド2の全体を加熱する場合に比べて、加熱する必要の無いヘッドチップ9やホルダー100、固定板600を加熱するのを抑制して、加熱による不具合が生じるのを抑制することができる。
【0185】
また、上述した実施形態及び各変形例では、中継基板400に発熱体と外部とをつなぐ基板上配線420を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、発熱体は、中継基板400を介さずに外部と電気的に接続してもよい。また、第1部分用入力配線721A、第1部分用出力配線721B、第2部分用入力配線721C、第2部分用出力配線721D、第2発熱体用入力配線722A、第2発熱体用出力配線722B、第3発熱体用入力配線723B、第3発熱体用出力配線723Cを形成する位置についても、上述したものに限定されるものではない。
【0186】
また、上述した実施形態1では、第1接着剤701によって固定基板47、流路形成基板15及びノズルプレート20と固定板600とを接着することでヘッドチップ9と固定板600とが固定されていたが、特にこれに限定されず、第1接着剤701によって流路形成基板15と固定板600とを接着することだけでヘッドチップ9と固定板600とを固定してもよいし、ノズルプレート20と固定板600とを接着することだけでヘッドチップ9と固定板600とを固定してもよい。
【0187】
また、発熱体として電熱線を用いた場合には、発熱体の単位面積当たりの配線密度を増やすために蛇行させることが好ましい。具体的には、図21に示すように、第1接着剤701の閉塞部701Aが設けられた領域において、第1発熱体711の第1部分711Aは、蛇行して設けられている。なお、第1部分711Aが蛇行して設けられているとは、第1部分711Aが、第1部分用入力配線721A都接続された端部と、第1部分用出力配線721Bとに接続された端部と、の間に直線状に設けられておらず、曲がりくねって設けられていることを言う。図21に示す例では、第1部分711Aは、第1部分用入力配線721A都接続された端部と、第1部分用出力配線721Bとに接続された端部と、を結ぶ線の方向に対して交差する方向に往復して設けられている。このように第1部分711Aを閉塞部701Aが設けられる領域に蛇行して設けることで、第1部分711Aの単位面積当たりの配線密度を増やすことができ、発熱量を増やすことができる。このような発熱体の蛇行は、閉塞部701Aに対する第1部分711Aに限定されず、主固定部701Bに対する第2部分711B、第2接着剤702に対する第2発熱体712、および、第3接着剤703に対する第3発熱体713においても同様に適用するのが好ましい。
【0188】
また、上述した実施形態1では、圧力室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電アクチュエーター60を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力室12内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル21から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル21から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0189】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【0190】
また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
【0191】
(付記)
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0192】
好適な態様である態様1に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートを有するヘッドチップと、前記ヘッドチップとは異なる他の部材と、前記ヘッドチップと前記他の部材とを接着する接着剤と、前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、を備える。これにより、発熱体によって接着剤を可塑化することで、接着剤に生じたクラック等を塞ぐ修復や、接着剤を除去して再塗布することができる。また、発熱体によって接着剤を可塑化することで、ヘッドチップと他の部材との接着状態を解除してヘッドチップまたは他の部材を新品に交換することができる。したがって、液体噴射ヘッドを再生することができる。
【0193】
態様1の具体例である態様2において、前記他の部材は、前記ノズルプレートを外部に露出する開口部を有する固定板を含み、前記接着剤は、前記ヘッドチップを前記固定板に接着する第1接着剤を含み、前記発熱体は、前記第1接着剤を可塑化させるための第1発熱体を含む。これによれば、第1発熱体によって固定板とヘッドチップとを接着する第1接着剤を加熱して可塑化することで、第1接着剤の修復が可能となる。また、第1発熱体によって第1接着剤を可塑化することで固定板とヘッドチップとの接着状態の解除が可能となり、固定板またはヘッドチップを交換することができる。
【0194】
態様2の具体例である態様3において、前記ヘッドチップを保持するホルダーと、前記固定板と前記ホルダーとを接着する第2接着剤と、前記第2接着剤を可塑化させるための第2発熱体と、を備える。これによれば、第2発熱体によって固定板とホルダーとを接着する第2接着剤を加熱して可塑化することで、第2接着剤の修復が可能となる。また、第2発熱体によって第2接着剤を可塑化することで固定板とホルダーとの接着状態の解除が可能となり、固定板またはホルダーを交換することができる。また、ヘッドチップとホルダーとが直接、接着されていない構成では、固定板とホルダーとの接着状態を解除することで、ヘッドチップの交換を行うことができる。
【0195】
態様3の具体例である態様4において、前記他の部材は、前記ホルダーを含み、前記接着剤は、前記ヘッドチップと前記ホルダーとを接着する第3接着剤を含み、前記発熱体は、前記第3接着剤を可塑化させるための第3発熱体を含む。これによれば、第3発熱体によってホルダーとヘッドチップとを接着する第3接着剤を加熱して可塑化することで、第3接着剤の修復が可能となる。また、第3発熱体によって第3接着剤を可塑化することでホルダーとヘッドチップとの接着状態の解除が可能となり、ホルダーまたはヘッドチップを交換することができる。
【0196】
態様1の具体例である態様5において、前記他の部材は、前記ヘッドチップを保持するホルダーを含み、前記接着剤は、前記ヘッドチップと前記ホルダーとを接着する第3接着剤を含み、前記発熱体は、前記第3接着剤を可塑化させるための第3発熱体を含む。これによれば、第3発熱体によってホルダーとヘッドチップとを接着する第3接着剤を加熱して可塑化することで、第3接着剤の修復が可能となる。また、第3発熱体によって第3接着剤を可塑化することでホルダーとヘッドチップとの接着状態の解除が可能となり、ホルダーまたはヘッドチップを交換することができる。
【0197】
態様2の具体例である態様6において、前記第1発熱体は、前記ヘッドチップに固定されている。これによれば、固定板の方がヘッドチップよりも交換頻度が高いため、第1発熱体はヘッドチップに固定されていることで、固定板の交換時に第1発熱体が交換されるのを抑制し、コストを低減することができる。
【0198】
態様2の具体例である態様7において、前記第1接着剤は、前記開口部の内周面と前記ノズルプレートとの間に配置され、前記固定板と前記ノズルプレートとの間を閉塞する閉塞部を含む。固定板とノズルプレートとの間から液体が液体噴射ヘッドの内部に入り込まないように形成された閉塞部にクラックが生じても、閉塞部を可塑化することでクラックを塞いで修復することや、閉塞部を除去して再塗布して液体噴射ヘッドを再生できる。
【0199】
態様7の具体例である態様8において、前記第1接着剤は、前記閉塞部とは異なり、前記閉塞部よりも前記開口部から離れて配置された主固定部を含み、前記第1発熱体は、前記閉塞部を可塑化させるための第1部分と、前記主固定部を可塑化させるための第2部分と、を含み、前記第1部分と前記第2部分とは、電気的に独立している。閉塞部を可塑化した際に、ヘッドチップと固定板との接着が解除されるのを抑制することができる。
【0200】
好適な態様である態様9に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルを有するノズルプレートをそれぞれが有する複数のヘッドチップと、前記複数のヘッドチップが固定され、前記複数のノズルプレートのそれぞれを外部に露出する複数の開口部を有する固定板と、前記複数のヘッドチップを保持するホルダーと、前記固定板と前記ホルダーとを接着する接着剤と、前記接着剤を可塑化させるための発熱体と、を備える。これによれば、発熱体によってホルダーと固定板とを接着する接着剤を可塑化して、接着剤に生じたクラックの修復や、接着剤を除去して再塗布することができる。また、発熱体によって接着剤を可塑化することで、ホルダーと固定板との接着状態を解除してホルダー、または、複数のヘッドチップと固定板とが固定されたユニットを新品に交換することができる。したがって、液体噴射ヘッドを再生することができる。
【0201】
態様9の具体例である態様10において、前記発熱体は、前記ホルダーに固定されている。これによれば、固定板の方がホルダーよりも交換頻度が高いため、発熱体はホルダーに固定されていることで、固定板の交換時に発熱体が交換されるのを抑制し、コストを低減することができる。
【0202】
態様1の具体例である態様11において、前記発熱体は、前記接着剤に接触している。これによれば、発熱体の熱を接着剤に効率よく伝えることができる。
【0203】
態様1の具体例である態様12において、前記発熱体と前記接着剤との間に配置され、前記他の部材、及び、前記ヘッドチップの前記接着剤が塗布された部材のそれぞれよりも熱伝導率が高い伝熱部材を備える。これによれば、発熱体の熱を、伝熱部材を介して広範囲にばらつきを抑制して伝えることができる。
【0204】
態様1の具体例である態様13において、媒体に対して液体を噴射する記録動作に寄与する電気的な経路である印刷用経路と、前記発熱体を含む電気的な経路である加熱経路と、を備え、前記加熱経路と前記印刷用経路とは、電気的に独立している。これによれば、印刷経路に電気を供給している間に、発熱体に電気が供給されるのを抑制して、記録動作中に接着剤が可塑化するのを抑制することができる。
【0205】
態様13の具体例である態様14において、前記印刷用経路の端子および前記加熱経路の端子を有するコネクターを備える。これによれば、部品点数を減少してコストを低減することができる。
【0206】
態様1の具体例である態様15において、前記発熱体は、電熱線によって構成されている。
【0207】
態様15の具体例である態様16において、前記電熱線と、前記液体噴射ヘッドの外部の電極と前記電熱線とを接続するための中継配線と、を含む電気的な経路である加熱経路を備え、前記中継配線の電気抵抗率は、前記電熱線の電気抵抗率よりも小さい。これによれば、中継配線での電力消費を低減して、発熱体を効率よく発熱させることができる。
【0208】
態様1の具体例である態様17において、前記接着剤は、絶縁性である。接着剤を介してノズルプレートや他の部材に電流が流れるのを抑制することができる。したがって、ノズルプレートや他の部材に形成された撥液膜の剥離や劣化を抑制することができる。
【0209】
態様1の具体例である態様18において、前記ヘッドチップを構成する複数の部材のうち少なくとも一部の部材同士は、熱硬化型接着剤によって接着されている。これによれば、発熱体が発熱した際に、ヘッドチップの部材を接着する熱硬化型接着剤が可塑化して、液体の漏出や部材の位置ズレ、分解等を抑制することができる。また、熱硬化型接着剤を用いることで、耐液体性を向上することができる。
【0210】
態様1の具体例である態様19において、前記接着剤の軟化点は、前記液体の沸点よりも低い。これによれば、発熱体を発熱させて接着剤を軟化した際に、液体噴射ヘッド内に残留する液体が異物化するのを抑制することができる。
【0211】
態様1の具体例である態様20において、前記ヘッドチップの前記接着剤が塗布された部材、及び、前記接着剤が塗布された前記他の部材の少なくとも一方は、熱可塑性樹脂であり、前記熱可塑性樹脂の融点は、前記接着剤の軟化点よりも高い。これによれば、発熱体を発熱させて接着剤を軟化した際に、熱可塑性樹脂で形成された部材が発熱体の熱によって破損してしまうのを防止できる。
【0212】
好適な態様である態様21に係る液体噴射装置は、態様1に記載の液体噴射ヘッドを備え、前記発熱体は、通電されていない。これによれば、液体噴射装置を使用中は、発熱体に通電されないことで、接着剤が可塑化するのを抑制することができる。
【0213】
好適な態様である態様22に係る液体噴射ヘッドは、前記ヘッドチップと前記他の部材とは積層方向に積層されており、前記発熱体及び前記接着剤は、前記積層方向に関して、前記ヘッドチップと前記他の部材との間に配置される。これによれば、積層される部品間にある接着剤を発熱体によって加熱して、可塑化させることができるため、積層された部品の分解を容易に行うことができる。
【0214】
態様22の具体例である態様23に係る液体噴射ヘッドは、前記発熱体と前記接着剤とは、前記積層方向に見て重なる。これによれば、積層される部品間にある接着剤を発熱体によって加熱して、可塑化させることができるため、積層された部品の分解を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0215】
1…液体噴射装置、2…液体噴射ヘッド、3…液体貯留部、4…制御部、4a…外部配線、5…搬送機構、5a…搬送ローラー、6…移動機構、7…搬送体、8…搬送ベルト、9、9A…ヘッドチップ、10…圧力室基板、12…圧力室、15…流路形成基板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…凹部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、45a…開口部、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、60…圧電アクチュエーター、61…第1電極、62…圧電体層、63…第2電極、65…活性部、70…リード電極、80…配線基板、81…駆動回路、91…第1積層用接着剤、92…第2積層用接着剤、100…ホルダー、101…保持部、102…第2突起部、104…配線部材挿通孔、110…接続流路、120…ホルダー本体、130…流路形成部材、200…流路部材、201…第1流路部材、202…第2流路部材、203…第3流路部材、204…接続部、206…フィルター、207…第1突起部、210…流路、211…第1流路、212…第2流路、212a…第1液体溜まり部、213…第3流路、213a…第2液体溜まり部、214…排出口、300…シール部材、301…管状部分、310…連通流路、400…中継基板、401…第1挿通孔、402…第2挿通孔、410…印刷配線、420…基板上配線、421A…第1部分用中継配線、421B…第2部分用中継配線、422…第2発熱体用中継配線、423…第3発熱体用中継配線、430…液体加熱部用中継配線、440…コネクター、500…液体加熱部、600、600A…固定板、601…開口部、701…第1接着剤、701A…閉塞部、701B…主固定部、702…第2接着剤、703…第3接着剤、704…熱硬化型接着剤、711…第1発熱体、711A…第1部分、711B…第2部分、712…第2発熱体、713…第3発熱体、721A…第1部分用入力配線、721B…第1部分用出力配線、721C…第2部分用入力配線、721D…第2部分用出力配線、722A…第2発熱体用入力配線、722B…第2発熱体用出力配線、723A…接続配線、723B…第3発熱体用入力配線、723C…第3発熱体用出力配線、730…クラック、800…伝熱部材、S…媒体、SR…マニホールド。
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