(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053538
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】水電解装置および水電解装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/029 20210101AFI20240408BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240408BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20240408BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
C25B15/029
C25B9/00 A
C25B9/65
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148183
(22)【出願日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022159382
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB01
4K021BC01
4K021BC03
4K021BC09
4K021CA08
4K021CA10
4K021DB12
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】水電解装置の性能の低下を抑制する。
【解決手段】水電解装置は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に設けられた電解質膜と、アノード供給流路とアノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、第2の循環流路の途中に設けられ、アノード溶液中の金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、アノード溶液に金属イオンを供給する金属供給源と、第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、アノード溶液中の金属イオンの濃度を測定する濃度センサと、測定された金属イオンの濃度に応じ、第1のバルブの開閉、第2のバルブの開閉、および第3のバルブの開閉を制御する制御装置と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を酸化して酸素を生成するアノードと、
水素イオンを還元して水素を生成するカソードと、
前記アノードに面し、水と金属イオンとを含有するアノード溶液が流れるアノード流路と、
前記カソードに面するカソード流路と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられた電解質膜と、
前記アノード流路の入口に接続されたアノード供給流路と、
前記アノード流路の出口に接続されたアノード排出流路と、
前記アノード供給流路と前記アノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、
前記第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、
前記第2の循環流路の途中に設けられ、前記アノード溶液中の前記金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、
前記アノード溶液に前記金属イオンを供給する金属供給源と、
前記金属供給源と、前記アノード供給流路と、を接続する金属供給流路と、
前記第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、
前記第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、
前記金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、
前記アノード流路から排出される前記アノード溶液中の前記金属イオンの濃度を測定する濃度センサと、
測定された前記金属イオンの濃度に応じ、前記第1のバルブの開閉、前記第2のバルブの開閉、および前記第3のバルブの開閉を制御する制御装置と、
を具備する、水電解装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.05μmol/l未満の場合、前記第1のバルブおよび前記第3のバルブを開け、前記第2のバルブを閉じる第1の動作と、
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.5μmol/lを超える場合、前記第2のバルブを開け、前記第1のバルブおよび前記第3のバルブを閉じる第2の動作と、
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下である場合、前記第1のバルブを開け、前記第2のバルブおよび前記第3のバルブを閉じる第3の動作と、
を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記アノードは、金属を含む第1のアノード触媒層を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記アノード流路を有するアノード流路板をさらに具備し、
前記アノード流路板は、前記アノード流路の内面に金属を含む第2のアノード触媒層を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記アノード溶液は、0.05μS/cm以上0.7μS/cm以下の導電率を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記アノード溶液中の前記金属イオンの濃度は、0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲に調整される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記金属は、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属である、請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記金属イオンは、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの2価の金属イオンである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
水電解装置の制御方法であって、
前記水電解装置は、
水を酸化して酸素を生成するアノードと、
水素イオンを還元して水素を生成するカソードと、
前記アノードに面し、水と金属イオンとを含有するアノード溶液が流れるアノード流路と、
前記カソードに面するカソード流路と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられた電解質膜と、
前記アノード流路の入口に接続されたアノード供給流路と、
前記アノード流路の出口に接続されたアノード排出流路と、
前記アノード供給流路と前記アノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、
前記第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、
前記第2の循環流路の途中に設けられ、前記アノード溶液中の前記金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、
前記アノード溶液に前記金属イオンを供給する金属供給源と、
前記金属供給源と、前記アノード供給流路と、を接続する金属供給流路と、
前記第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、
前記第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、
前記金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、
を具備し、
前記方法は、
前記アノード流路から排出される前記アノード溶液中の前記金属イオンの濃度を測定し、測定された前記金属イオンの濃度に応じ、前記第1のバルブの開閉、前記第2のバルブの開閉、および前記第3のバルブの開閉を制御する、
水電解装置の制御方法。
【請求項10】
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.05μmol/l未満の場合、前記第1のバルブおよび前記第3のバルブを開け、前記第2のバルブを閉じ、
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.5μmol/lを超える場合、前記第2のバルブを開け、前記第1のバルブおよび前記第3のバルブを閉じ、
前記測定された前記金属イオンの濃度が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下である場合、前記第1のバルブを開け、前記第2のバルブおよび前記第3のバルブを閉じる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アノードは、金属を含む第1のアノード触媒層を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記アノード流路を有するアノード流路板をさらに具備し、
前記アノード流路板は、前記アノード流路の内面に金属を含む第2のアノード触媒層を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記アノード溶液は、0.05μS/cm以上0.7μS/cm以下の導電率を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のバルブの開閉、前記第2のバルブの開閉、および前記第3のバルブの開閉を制御することにより、前記アノード溶液中の前記金属イオンの濃度を、0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲に調整する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記金属は、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記金属イオンは、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの2価の金属イオンである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水電解装置および水電解装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水を酸素や水素に変換する水電解装置等の電気化学反応装置の開発が進められている。水電解装置は、例えば、アノードと、カソードと、電解質膜と、を有する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備える。水電解装置は、例えばアノードにより水を酸化して水素イオンと酸素を生成し、カソードにより水素イオンを還元して水素を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-167620号公報
【特許文献2】特許第7125021号公報
【特許文献3】特開2017-115232号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】東芝レビュー、Vol.77、No.4(2022年7月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、水電解装置の性能の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の水電解装置は、水を酸化して酸素を生成するアノードと、水素イオンを還元して水素を生成するカソードと、アノードに面し、水と金属イオンとを含有するアノード溶液が流れるアノード流路と、カソードに面するカソード流路と、アノードとカソードとの間に設けられた電解質膜と、アノード流路の入口に接続されたアノード供給流路と、アノード流路の出口に接続されたアノード排出流路と、アノード供給流路とアノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、第2の循環流路の途中に設けられ、アノード溶液中の金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、アノード溶液に金属イオンを供給する金属供給源と、金属供給源と、アノード供給流路と、を接続する金属供給流路と、第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、アノード流路から排出されるアノード溶液中の金属イオンの濃度を測定する濃度センサと、測定された金属イオンの濃度に応じ、第1のバルブの開閉、第2のバルブの開閉、および第3のバルブの開閉を制御する制御装置と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】積層体の形成方法の例を説明するための断面模式図である。
【
図4】アノード流路板の他の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0009】
なお、本明細書において、「接続する」とは、特に指定する場合を除き、直接的に接続することだけでなく、間接的に接続することも含む。
【0010】
図1は、水電解装置の構成例を示す模式図である。
図1に示す水電解装置1は、膜電極接合体100と、アノード溶液供給系統200と、制御装置300と、を有する。
【0011】
膜電極接合体100は、電極10と、電極20と、電解質膜30と、を有する。
【0012】
図2は、電極10の構造例を示す断面模式図である。
図2は、X軸と、X軸と直交するY軸と、X軸およびY軸と直交するZ軸と、を示す。また、
図2は、電極10のX-Z断面の一部を示す。
【0013】
図2に示す電極10は、基材11と、積層体12と、を有する。電極10は、水電解装置のアノードとしての機能を有する。
【0014】
基材11の例は、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料や、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料を用いて形成された基板である。基材11は、これらの材料を有するメッシュ基板や多孔質基板であってもよい。
【0015】
積層体12は、基材11の上に設けられる。積層体12は、触媒層121と、空隙層122と、を有する。
図2は、複数の触媒層121および複数の空隙層122を示す。複数の触媒層121のそれぞれおよび複数の空隙層122のそれぞれは、基材11の上に交互に積層されている。なお、複数の触媒層121は、X軸方向およびY軸方向の少なくとも一つの方向において、端部同士が部分的に結合していてもよい。これにより、積層方向の圧力による積層体12の変形を抑制できる。また、積層体12は、複数の触媒層121の間にこれらを接続する触媒ピラーを有していてもよい。これにより、触媒層121の剥離を抑制できる。
【0016】
触媒層121は、酸化対象物質の酸化を促進させるアノード触媒を有する。触媒層121の積層数は、特に限定されないが、例えば5層以上20層以下である。触媒層121の厚さは、例えば4nm以上50nm以下である。
【0017】
アノード触媒の例は、少なくとも一つの貴金属またはその酸化物を含む。貴金属の例は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、金(Au)、タンタル(Ta)が挙げられる。これらの触媒材料は、複数含有されていてもよい。水電解装置の場合、アノード触媒は、例えば水の酸化反応を促進させる材料である。
【0018】
空隙層122は、複数の触媒層121の間に設けられる。空隙層122は、空間を形成する。空隙層122の平均厚さは、例えば1nm以上100nm以下である。
【0019】
積層体12の平均厚さは、例えば10nm以上900nm以下である。10nm未満であると触媒量が少なく、反応効率が低下する。900nmを超えると拡散性が悪く、触媒層121への水の供給や酸素ガスの排出性能が悪くなり、性能が低下する。
【0020】
基材11、触媒層121、および空隙層122の寸法や組成は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、蛍光X線分析法(XRF)、透過型電子顕微鏡(TEM)の元素マッピングおよびTEMの高角度散乱暗視野法(HAADF)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)ライン分析を用いて測定可能である。
【0021】
図3は、積層体12の形成方法の例を説明するための断面模式図である。積層体12は、
図3に示すように、触媒層121の前駆体層121aと、造孔材層122aと、をスパッタリングを用い、交互に形成し、その後前駆体層121aを残しながら造孔材層122aを除去することにより形成可能である。この方法は、触媒層121および造孔材層122aのナノメートルオーダーでの膜厚制御が可能であり、さらに組成や酸化状態の制御も容易であるため、触媒層121の設計自由度を向上させることができる。
【0022】
前駆体層121aは、アノード触媒を有する。前駆体層121aがアモルファスである場合、熱処理を行うことにより、結晶構造を配向させてもよい。イリジウム酸化物を含む触媒を用いる場合、スパッタリング装置のチャンバー内に酸素ガスを添加する反応性スパッタリングが好適である。
【0023】
造孔材層122aは、造孔材を含有する。造孔材の例は、少なくとも一つの非貴金属またはその酸化物を含む。非貴金属の例は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、シリコン(Si)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、錫(Sn)、ストロンチウム(Sr)を含む。また、造孔材層122aは、例えば酸やアルカリ等の薬剤を用いた選択エッチングにより触媒層121を残しながら除去可能である。なお、造孔材層122aの溶解を促進させるために熱処理を行ってもよい。
【0024】
造孔材は、前駆体層121aにも含有されてもよい。前駆体層121aの原料および造孔材の原料を含む混合スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより、造孔材を有する前駆体層121aを形成できる。これにより、選択エッチングにより前駆体層121a中の造孔材も除去されて触媒層121を多孔質化することができる。よって、触媒層121の表面積を増やすことができる。
【0025】
電極10の基材11は、アノード溶液が流れるアノード流路41に面して設けられる。電極10の積層体12は、電解質膜30に面して設けられる。アノード流路41は、アノード流路板40の表面に設けられた溝を有する。アノード流路41は、図示しない入口と出口とを有する。アノード流路41の入口は、アノード供給流路P1に接続される。アノード流路41の出口は、アノード排出流路P2に接続される。アノード流路41の形状は、特に限定されないが、例えばアノード流路板40の表面に沿ってサーペンタイン形状を有していてもよい。
【0026】
電極20は、水電解装置のカソードとしての機能を有する。電極20は、カソード触媒を有する。カソード触媒の例は、例えば白金(Pt)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属またはその酸化物が挙げられる。カソード触媒は、例えば基材の上にカソード触媒層として形成される。基材としては、電極10の基材11に適用可能な材料を用いることができる。なお、粒子状のカソード触媒をプロトン伝導性の有機物からなるバインダーと混合してカソード触媒層を形成してもよい。バインダーの例は、ポリビニルアルコール(PVA)を含む。
【0027】
電極20の基材は、カソード流路51に面して設けられる。電極20のカソード触媒層は、電解質膜30に面して設けられる。カソード流路51は、カソード流路板50の表面に設けられた溝を有する。カソード流路51は、図示しない出口を有する。カソード流路51の出口は、例えば図示しない生成物回収器に接続される。カソード流路51の形状は、特に限定されないが、例えばカソード流路51の表面に沿ってサーペンタイン形状を有していてもよい。
【0028】
電解質膜30は、電極10と電極20との間に設けられる。電解質膜30は、例えば電極10と電極20との間でイオンを移動させることが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜を用いることができる。電極10および電極20の触媒層の一部は、電解質膜30に含浸していてもよい。これにより、電極10および電極20と電解質膜30との密着性を高めることができる。
【0029】
電極10および電極20は、それぞれ、アノード集電体60およびカソード集電体70に電気的に接続される。アノード集電体60およびカソード集電体70は、電流導入部材を介して電源80に電気的に接続されている。電源80は、通常の系統電源や電池等の電力源に限定されず、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を有していてもよい。電源80は、上記電力源と、上記電力源の出力を調整して電極10および電極20の間の電圧を制御するパワーコントローラ等を有していてもよい。
【0030】
電極10、電極20、電解質膜30、アノード流路板40、カソード流路板50、アノード集電体60、およびカソード集電体70は、互いに積層されていてもよい。この積層体を電解セルともいう。上記積層体は、図示しない一対の支持板で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられていてもよい。
【0031】
アノード溶液供給系統200は、アノード溶液収容器201、流量制御器202と、濃度センサ203と、イオンフィルタ204と、バルブ205と、バルブ206と、金属供給源207と、バルブ208と、循環流路P3と、金属供給流路P4と、を有し、アノード溶液が、アノード供給流路P1、アノード流路41、アノード排出流路P2、循環流路P3を介して循環するように構成されている。アノード溶液供給系統200は、循環流路P3を介してアノード供給流路P1とアノード排出流路P2とを接続する。アノード供給流路P1、アノード排出流路P2、または循環流路P3の途中にバルブやポンプを形成して各流路の圧力や各流路を流れる流体の流量を制御してもよい。
【0032】
アノード溶液収容器201は、アノード流路41の出口からアノード排出流路P2を介して排出されるアノード溶液を含む流体(アノード排液ともいう)を収容するタンクを有する。流量制御器202は、アノード供給流路P1、アノード排出流路P2、および循環流路P3の少なくとも一つの途中に設けられ、アノード溶液の流量を制御する。アノード溶液は、アノード供給流路P1を介してアノード流路41に導入される。なお、アノード供給流路P1、アノード排出流路P2、および循環流路P3の少なくとも一つの途中に圧力制御器を設けてアノード流路41の圧力を制御してもよい。アノード溶液収容器201は、図示しないアノード溶液供給源に接続され、アノード溶液供給源からアノード溶液収容器201にアノード溶液を補充してもよい。
【0033】
アノード溶液は、少なくとも水(H2O)を含む溶液であることが好ましい。アノード溶液は、例えば超純水であってもよい。
【0034】
アノード溶液が水を含む場合、水の酸化反応を継続すると水電解装置の性能が低下する場合がある。そこで、本実施形態におけるアノード溶液は、少なくとも一つの金属イオンをさらに含む。上記少なくとも一つの金属イオンは、例えば、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンから選ばれる少なくとも一つの2価の金属イオンを含む。上記少なくとも一つの金属イオンを含むことにより、アノード溶液の酸化作用を促進できる。また、上記少なくとも一つの金属イオンを含むことで、アノード溶液中の導電性能が増加し、セル抵抗が減少するため、セル電圧が低下して性能が向上する。アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度は、0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下に調整されることが好ましい。0.05μmol/l未満であるとアノード溶液の酸化作用として効果が乏しいため、セル性能として効果が見られない。0.5μmol/lを超えると電解質膜30に上記少なくとも一つの金属イオンが付着し、イオン移動性能が低下するため、性能が低下する。アノード溶液は、ニッケルイオンと異なるいずれの金属イオンの濃度がニッケルイオン濃度よりも低いことが好ましい。
【0035】
濃度センサ203は、例えばアノード排出流路P2の途中に設けられる、またはアノード排出流路P2に接続される。濃度センサ203は、アノード流路41から排出されるアノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を検知し、検知信号を制御装置300に送る。濃度センサ203の例は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光センサやイオンクロマトグラフィーが挙げられる。これに限定されず、イオン濃度計、吸光度センサ、導電率計を用いて得られた測定結果から濃度を算出してもよい。水電解装置は、系内からニッケルイオン等の金属イオンと異なる他のイオンの混入をできる限り抑制することが好ましいた、装置のインラインに設置して測定する場合、導電率計を用いて濃度を算出することにより、装置コストを削減できる。
【0036】
循環流路P3は、循環流路P31と循環流路P32に分岐する。循環流路P31および循環流路P32は、互いに並列に接続される。循環流路P31は、イオンフィルタ204を介さずアノード供給流路P1に接続される。循環流路P32は、イオンフィルタ204を介してアノード供給流路P1に接続される。
【0037】
イオンフィルタ204は、循環流路P32の途中に設けられる。イオンフィルタ204は、アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの一部を除去することができる。イオンフィルタ204の例は、主にイオン交換樹脂を用いたフィルタが使われる、また、逆浸透膜(RO膜)を用いたフィルタや活性炭とイオン交換樹脂を組み合わせたフィルタ等が用いられる。
【0038】
バルブ205は、循環流路P31の途中に設けられる。バルブ206は、循環流路P32の途中であってイオンフィルタ204の前段に設けられる。バルブ205の開閉およびバルブ206の開閉は、制御装置300からの制御信号により制御される。
【0039】
金属供給源207は、金属供給流路P4を介してアノード供給流路P1に接続される。金属供給源207は、アノード溶液に上記少なくとも一つの金属イオンを供給する。金属供給源207は、アノード溶液中の少なくとも一つの金属の濃度よりも高い濃度を有する上記少なくとも一つの金属イオンを含む水をアノード供給流路P1に供給してもよい。少なくとも一つの金属は、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンから選ばれる少なくとも一つの金属を含む。金属供給源207は、アノード溶液中の少なくとも一つのニッケル濃度よりも高い濃度を有するニッケルを含む水をアノード供給流路P1に供給してもよい。
【0040】
バルブ208は、金属供給流路P4の途中に設けられる。バルブ208の開閉は、制御装置300からの制御信号により制御される。
【0041】
制御装置300は、濃度センサ203からの検知信号に応じてバルブ205、バルブ206、およびバルブ208のそれぞれの開閉を制御する制御信号をバルブ205、バルブ206、およびバルブ208に送る。これにより、アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を所定の範囲内に調整できる。
【0042】
制御装置300は、例えばプロセッサ等を用いたハードウェアを用いて構成されてもよい。なお、各動作を動作プログラムとしてメモリ等のコンピュータ読み取りが可能な記録媒体に保存しておき、ハードウェアにより記録媒体に記憶された動作プログラムを適宜読み出すことで各動作を実行してもよい。
【0043】
次に、水電解装置の制御方法について説明する。水電解装置による電解を行う場合、制御装置300からの制御信号に基づいてバルブ205が開けられ、バルブ206およびバルブ208が閉じられる。これにより、アノード供給流路P1を介してアノード流路41にアノード溶液を供給し、電源80により電極10と電極20との間に電圧を印加して電流を供給する。アノード溶液は、電極10に供給される。電極10と電極20との間に電流を流すと、以下に示す電極10付近での酸化反応および電極20付近での還元反応が生じる。ここでは、水を酸化して水素イオンを生成し、水素イオンを還元して水素を生成する場合について説明するが、他の副反応が生じる場合もある。
【0044】
水(H2O)を酸化して水素イオン(H+)を生成する場合の反応過程について述べる。電極10と電極20との間に電源80から電流を供給すると、アノード溶液と接する電極10で水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。電極10で生成された酸素は、空隙層122を通って、電極10の外部に排出される。排出された酸素は、図示しないアノード生成物収集器により回収されてもよい。
2H2O → 4H++O2+4e- …(1)
【0045】
電極10で生成されたH+は、電極10内に存在するアノード溶液、電解質膜30、を移動し、電極20付近に到達する。電源80から電極20に供給される電流に基づく電子(e-)と電極20付近に移動したH+とによって、水素イオンの還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、水素イオンが還元されて水素が生成される。電極20で生成された水素は、カソード流路51の出口から排出される。排出された水素は、図示しないカソード生成物収集器により回収されてもよい。
4H++4e- → 2H2 …(2)
【0046】
ここで、アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を調整する方法について説明する。
【0047】
アノード流路41から排出される上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の測定値が0.05μmol/lよりも低い場合、第1の動作として、制御装置300からの制御信号に基づいて、バルブ206は閉じられ、バルブ205およびバルブ208は開けられる。これにより、アノード溶液は、循環流路P31を通り、アノード流路41から排出される上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の測定値が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲内になるまで、金属供給源207から金属供給流路P4を介して上記少なくとも一つの金属イオンがアノード溶液に供給される。この間、上記電圧の印加を停止してもよい。
【0048】
アノード流路41から排出される金属イオン濃度の測定値が0.5μmol/lよりも高い場合、第2の動作として、制御装置300からの制御信号に基づいて、バルブ205およびバルブ208は閉じられ、バルブ206は開けられる。これにより、アノード溶液は、循環流路P32を通り、アノード流路41から排出される上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の測定値が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲内になるまで、イオンフィルタ204によりアノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンが除去される。この間、上記電圧の印加を停止してもよい。
【0049】
アノード流路41から排出される上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の測定値が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲内の場合、第3の動作として、制御装置300からの制御信号に基づいて、バルブ206およびバルブ208は閉じられ、バルブ205は開けられる。これにより、アノード溶液は、循環流路P31を通り、アノード供給流路P1を介してアノード流路41に供給され、電解動作が継続される。
【0050】
以上が水電解装置の制御方法例の説明である。本実施形態の水電解装置では、アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を所定の範囲内に制御できるため、水電解装置の性能を向上できる。
【0051】
触媒層121がニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンから選ばれる少なくとも一つの金属を含有していてもよい。例えば、触媒層121の前駆体層121aに上記少なくとも一つの金属を添加し、例えば酸やアルカリ等の薬剤を用いた選択エッチングにより触媒層121の金属が残存する条件で造孔材層122aを溶解させることにより触媒層121は形成可能である。触媒層121中の上記少なくとも一つの金属の残存量をイリジウム等の貴金属との質量比で0.072以上0.293以下に調整することにより、選択エッチングを複数回行うことなく上記少なくとも一つの金属を残存させることができるため、形成工程を簡略化できる。
【0052】
アノード流路板40は、
図1に示す構成に限定されない。
図4は、アノード流路板40の他の例を示す断面模式図である。
図4に示すアノード流路板40は、アノード流路41を形成する溝の内面に少なくとも一つの金属を含有する触媒層42を有する。上記少なくとも一つの金属は、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンから選ばれる。
【0053】
触媒層42は、例えばアノード流路41を形成する溝の内面に粒子状の上記少なくとも一つの金属を付着することにより形成される。付着手法としてはスプレーによって流路に吹き付ける方法や、粒子状の上記少なくとも一つの金属と付着しやすいように有機物からなる接着剤と混合し、内面に吹き付ける方法が挙げられる。接着剤の例は、ポリビニルアルコール(PVA)などの有機物を含む。また、イオンの移動を促進するためにナフィオンに代表されるようなイオン交換樹脂を用いるとより好ましい。溝のみに上記少なくとも一つの金属を担持する方法は、上記少なくとも一つの金属とイオン交換樹脂とを混合したインクをアノード流路41に流通させ、その後乾燥処理や加熱処理を行って、アノード流路41を形成する溝の内面のみに上記少なくとも一つの金属の層を形成する方法が挙げられる。なお、アノード流路41を形成する溝の内面に凹凸表面を形成することにより、上記少なくとも一つの金属を付着しやすくすることができる。
【0054】
触媒層42を形成することにより、アノード流路41においても電極10と同様な酸化反応を起こすことが可能である。よって、水電解装置の性能の低下を抑制できる。
【0055】
電解動作を継続すると、触媒層42の上記少なくとも一つの金属は、アノード流路板40から徐々に剥がれる場合がある。この場合、上記少なくとも一つの金属は、アノード溶液中で少なくとも一つの金属のイオンとして存在するため、アノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の低下を抑制できる。さらに、触媒層42の上記少なくとも一つの金属の剥離によりアノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度の測定値が0.5μmol/lを超える場合には、上記の制御方法により上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を低減してアノード溶液中の上記少なくとも一つの金属イオンの濃度を0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下に調整することが可能である。
【実施例0056】
(実施例1)
図1に示す電解セルを有する水電解装置を製造した。電極10は、チタン不織布上にイリジウムとニッケルを交互にスパッタし、ニッケルを酸によってエッチングして触媒層121と空隙層122とを形成した。触媒層121の積層数は、3から20である。電極20は、炭素を担持した白金触媒をガス拡散層に塗布することにより形成した。電解質膜30は、ナフィオンである。アノード流路板40およびカソード流路板50は、チタンの切削加工により形成した。アノード集電体60およびカソード集電体70は、チタン板に金メッキにより形成した。これらの部材を積層し、図示しない支持板により挟み込み、さらにボルトで締め付けた。
【0057】
実施例1の電解装置において、電解セルの温度を80℃に設定し、0.05μmol/lのニッケルイオン濃度を有する水をアノード溶液としてアノード流路41に供給しながら2A/cm2の電流密度で連続的に電解動作を行った。電解動作開始から48時間経過後に電極10と電極20との間の電圧(電解セルの電圧)を測定したところ1.840Vであった。また、アノード溶液の導電率は、0.05μS/cmであった。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様に水電解装置を用い、アノード溶液中のニッケルイオン濃度が0.1μmol/lであること以外は、実施例1と同様の条件で電解動作を行った。さらに、実施例1と同様の方法で電解セルの電圧を測定したところ1.830Vであった。また、アノード溶液の導電率は、0.05μS/cmであった。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様に水電解装置を用い、アノード溶液中のニッケルイオン濃度が0.5μmol/lであること以外は、実施例1と同様の条件で電解動作を行った。さらに、実施例1と同様の方法で電解セルの電圧を測定したところ1.825Vであった。また、アノード溶液の導電率は、0.06μS/cmであった。結果を表1に示す。
【0060】
実施例3では、さらに、電解動作の時間経過による、ニッケルイオン濃度の変化、電解セルの電圧の変化、アノード溶液の導電率の変化をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様に水電解装置を用い、アノード溶液中のニッケルイオン濃度が0μmol/lであること以外は、実施例1と同様の条件で電解動作を行った。さらに、実施例1と同様の方法で電解セルの電圧を測定したところ1.845Vであった。また、アノード溶液の導電率は、0.03μS/cmであった。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様に水電解装置を用い、アノード溶液中のニッケルイオン濃度が1μmol/lであること以外は、実施例1と同様の条件で電解動作を行った。さらに、実施例1と同様の方法で電解セルの電圧を測定したところ1.85Vであった。また、アノード溶液の導電率は、0.1μS/cmであった。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
実施例1-3および比較例1、2の結果からアノード溶液中のニッケルイオン濃度を0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下に制御することにより、セル電圧の上昇を抑制できる。よって、水電解装置の性能の低下を抑制できる。電解セルの電圧は、例えば1.23V以上1.85V未満、より好ましくは、1.23V以上1.84V以下であることが好ましい。また、表2の結果から運転時間が長くなるにつれてNiイオン濃度が低下して電圧が上昇することがわかる。よって、実施形態の電解装置のように、Niイオン濃度を測定して0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下に調整することにより、電圧の上昇を抑制できる。また、アノード溶液は、0.05μS/cm以上0.7μS/cm以下の導電率を有することが好ましい。
【0066】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0067】
上記の実施形態を、以下の技術案にまとめることができる。
(技術案1)
水を酸化して酸素を生成するアノードと、
水素イオンを還元して水素を生成するカソードと、
上記アノードに面し、水と金属イオンとを含有するアノード溶液が流れるアノード流路と、
上記カソードに面するカソード流路と、
上記アノードと上記カソードとの間に設けられた電解質膜と、
上記アノード流路の入口に接続されたアノード供給流路と、
上記アノード流路の出口に接続されたアノード排出流路と、
上記アノード供給流路と上記アノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、
上記第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、
上記第2の循環流路の途中に設けられ、上記アノード溶液中の金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、
上記アノード溶液に上記金属イオンを供給する金属供給源と、
上記金属供給源と、上記アノード供給流路と、を接続する金属供給流路と、
上記第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、
上記第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、
上記金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、
上記アノード流路から排出される上記アノード溶液中の上記金属イオンの濃度を測定する濃度センサと、
測定された上記金属イオンの濃度に応じ、上記第1のバルブの開閉、上記第2のバルブの開閉、および上記第3のバルブの開閉を制御する制御装置と、
を具備する、水電解装置。
(技術案2)
上記制御装置は、
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.05μmol/l未満の場合、上記第1のバルブおよび上記第3のバルブを開け、上記第2のバルブを閉じる第1の動作と、
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.5μmol/lを超える場合、上記第2のバルブを開け、上記第1のバルブおよび上記第3のバルブを閉じる第2の動作と、
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下である場合、上記第1のバルブを開け、上記第2のバルブおよび上記第3のバルブを閉じる第3の動作と、
を制御する、技術案1に記載の装置。
(技術案3)
上記アノードは、金属を含む第1のアノード触媒層を有する、技術案1または技術案2に記載の装置。
(技術案4)
上記アノード流路を有するアノード流路板をさらに具備し、
上記アノード流路板は、上記アノード流路の内面に金属を含む第2のアノード触媒層を有する、技術案1ないし技術案3のいずれか一つに記載の装置。
(技術案5)
上記アノード溶液は、0.05μS/cm以上0.7μS/cm以下の導電率を有する、技術案1ないし技術案4のいずれか一つに記載の装置。
(技術案6)
上記アノード溶液中の上記金属イオンの濃度は、0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲に調整される、技術案1ないし技術案5のいずれか一つに記載の装置。
(技術案7)
上記金属は、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属である、技術案3または技術案4に記載の装置。
(技術案8)
上記金属イオンは、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの2価の金属イオンである、技術案1ないし技術案7のいずれか一つに記載の装置。
(技術案9)
水電解装置の制御方法であって、
上記水電解装置は、
水を酸化して酸素を生成するアノードと、
水素イオンを還元して水素を生成するカソードと、
上記アノードに面し、水と金属イオンとを含有するアノード溶液が流れるアノード流路と、
上記カソードに面するカソード流路と、
上記アノードと上記カソードとの間に設けられた電解質膜と、
上記アノード流路の入口に接続されたアノード供給流路と、
上記アノード流路の出口に接続されたアノード排出流路と、
上記アノード供給流路と上記アノード排出流路とを接続する第1の循環流路と、
上記第1の循環流路と並列に接続された第2の循環流路と、
上記第2の循環流路の途中に設けられ、上記アノード溶液中の上記金属イオンの一部を除去するイオンフィルタと、
上記アノード溶液に上記金属イオンを供給する金属供給源と、
上記金属供給源と、上記アノード供給流路と、を接続する金属供給流路と、
上記第1の循環流路の途中に設けられた第1のバルブと、
上記第2の循環流路の途中に設けられた第2のバルブと、
上記金属供給流路の途中に設けられた第3のバルブと、
を具備し、
上記方法は、
上記アノード流路から排出される上記アノード溶液中の上記金属イオンの濃度を測定し、測定された上記金属イオンの濃度に応じ、上記第1のバルブの開閉、上記第2のバルブの開閉、および上記第3のバルブの開閉を制御する、
水電解装置の制御方法。
(技術案10)
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.05μmol/l未満の場合、上記第1のバルブおよび上記第3のバルブを開け、上記第2のバルブを閉じ、
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.5μmol/lを超える場合、上記第2のバルブを開け、上記第1のバルブおよび上記第3のバルブを閉じ、
上記測定された上記金属イオンの濃度が0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下である場合、上記第1のバルブを開け、上記第2のバルブおよび上記第3のバルブを閉じる、技術案9に記載の方法。
(技術案11)
上記アノードは、金属を含む第1のアノード触媒層を有する、技術案9または技術案10に記載の方法。
(技術案12)
上記アノード流路を有するアノード流路板をさらに具備し、
上記アノード流路板は、上記アノード流路の内面に金属を含む第2のアノード触媒層を有する、技術案9または技術案10に記載の方法。
(技術案13)
上記アノード溶液は、0.05μS/cm以上0.7μS/cm以下の導電率を有する、技術案9ないし技術案12のいずれか一つに記載の方法。
(技術案14)
上記第1のバルブの開閉、上記第2のバルブの開閉、および上記第3のバルブの開閉を制御することにより、上記アノード溶液中の上記金属イオンの濃度を、0.05μmol/l以上0.5μmol/l以下の範囲に調整する、技術案9ないし技術案13のいずれか一つに記載の方法。
(技術案15)
上記金属は、ニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属である、技術案11または技術案12に記載の方法。
(技術案16)
上記金属イオンは、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの2価の金属イオンである、技術案9ないし技術案14のいずれか一つに記載の方法。
1…水電解装置、10…電極、11…基材、12…積層体、20…電極、30…電解質膜、40…アノード流路板、41…アノード流路、42…触媒層、50…カソード流路板、51…カソード流路、60…アノード集電体、70…カソード集電体、80…電源、100…膜電極接合体、121…触媒層、121a…前駆体層、122…空隙層、122a…造孔材層、200…アノード溶液供給系統、201…アノード溶液収容器、202…流量制御器、203…濃度センサ、204…バルブ、204…イオンフィルタ、205…バルブ、206…バルブ、207…金属供給源、208…バルブ、300…制御装置。