(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005355
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】肩甲骨位置推定装置及びシート
(51)【国際特許分類】
A47C 7/62 20060101AFI20240110BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20240110BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A47C7/62 Z
B60N2/90
B60N2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105511
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直巳知
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084JA03
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】乗員の肩甲骨の位置を適切に推定可能な肩甲骨位置推定装置等を提供する。
【解決手段】車両のステアリングホイールSWを操作する乗員100が着座するシート1に設けられ乗員の肩甲骨132の位置を推定する肩甲骨位置推定装置を、シートは、乗員の大腿部120及び腰部110が載せられる座面部10と、乗員の上体130後方に配置されるシートバック20とを備え、肩甲骨位置推定装置は、乗員の上体からシートバックが受ける面圧分布を検出する面圧センサ40と、乗員がステアリングホイールを所定角度回動させた際に、面圧センサが検出した面圧が左右で逆方向に変化した領域の近傍に肩甲骨が存在すると推定する肩甲骨位置推定部90とを備える構成とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールを操作する乗員が着座するシートに設けられ前記乗員の肩甲骨の位置を推定する肩甲骨位置推定装置であって、
前記シートは、
前記乗員の大腿部及び腰部が載せられる座面部と、
前記乗員の上体後方に配置されるシートバックと
を備え、
前記肩甲骨位置推定装置は、
前記乗員の上体から前記シートバックが受ける面圧分布を検出する面圧センサと、
前記乗員が前記ステアリングホイールを所定角度回動させた際に、前記面圧センサが検出した面圧が左右で逆方向に変化した領域の近傍に前記肩甲骨が存在すると推定する肩甲骨位置推定部とを備えること
を特徴とする肩甲骨位置推定装置。
【請求項2】
車両のステアリングホイールを操作する乗員が着座するシートに設けられ前記乗員の肩甲骨の位置を推定する肩甲骨位置推定装置であって、
前記シートは、
前記乗員の大腿部及び腰部が載せられる座面部と、
前記乗員の上体後方に配置されるシートバックと
を備え、
前記肩甲骨位置推定装置は、
前記乗員の上体から前記シートバックが受ける面圧分布を検出する面圧センサと、
前記支持部材制御部は、前記乗員が手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させた際に、前記面圧センサが検出した面圧が逆方向に変化した領域の近傍に前記肩甲骨が存在すると推定する肩甲骨位置推定部とを備えること
を特徴とする肩甲骨位置推定装置。
【請求項3】
前記乗員に対して前記ステアリングホイールを所定角度回動させる動作と、前記手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させる動作との少なくとも一つを前記乗員に促す情報を提示する情報提示部を備えること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の肩甲骨位置推定装置。
【請求項4】
前記情報提示部は、前記ステアリングホイールを所定角度回動させる動作と、前記手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させる動作との少なくとも一つを左右方向に少なくとも一回ずつ行うよう前記乗員に促す情報を提示すること
を特徴とする請求項3に記載の肩甲骨位置推定装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の肩甲骨位置推定装置を有するシートであって、
前記シートバック内に設けられ該シートバックの他部に対して硬質な材料で構成された支持部材と、
前記支持部材を前記シートバックに対して上下方向に駆動する支持部材駆動部と、
前記支持部材駆動部を制御して前記支持部材の位置を調節する支持部材制御部と
を備え、
前記支持部材制御部は、前記肩甲骨位置推定部が推定した肩甲骨の位置に応じて前記支持部材の上下方向位置を変化させること
を特徴とするシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員の肩甲骨の位置を推定する肩甲骨位置推定装置、及び、このような肩甲骨位置推定装置を用いて乗員の肩甲骨部を支持するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のシートに関する技術として、例えば、特許文献1には、乗員の体圧値を計測し、その人に適切な体圧値になるように、骨盤、肩甲骨の支え方を調整するため、ヒップポイントの直下でシートクッションに枢支され大腿を下側から支持する底部サポート部材と、シートバックの下方位置でシートバックに枢支され骨盤を後方から支持する下部サポート部材と、シートバックの上方位置でシートバックに枢支された肩甲骨を後方から支持する上部サポート部材と、各サポート部材を駆動する駆動装置を制御する制御装置を有する乗員姿勢調節装置が記載されている。
特許文献2には、車両用シートに設けられ、着座者の肩を押すために膨出する袋体の固定状態を安定させるため、空気の封入によって膨出するエアセルがシートバックに設けられ、エアセルは、所定方向に延出し、その延出方向における両端部に突出部を備えることが記載されている。また、エアセルは、延出方向両端部に設けられた突出部の各々が車両用シートの幅方向において互いに離れた固定位置に固定されることでシートバック内に取り付けられることが記載されている。
特許文献3には、上半身をハンドルに接近した窮屈姿勢における操舵性を改善させるため、運転席のシートバックにおいて、運手者を支持する支持面の少なくとも左右上部のショルダ部を、左右それぞれを独立して車両後方へ変位可能なシートバック変位手段を有し、支持面の少なくとも操舵方向側のショルダ部を車両後方へ変位させる操舵支援制御を行う操舵支援装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-137286号公報
【特許文献2】特開2020- 23322号公報
【特許文献3】特開2007-331650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車等の車両のステアリング操作(ハンドル操作)のしやすさを向上するために、操作反力が入力される人体背部の肩甲骨周辺の支持剛性を高め、ステアリング操作時の人体のヨー方向(鉛直軸回りの自転方向)の動きを抑制することが好ましい。
一方、肩甲骨を支持する部材の位置が不適切であり、例えば第1脊椎から第3脊椎の高さに位置する肩峰を支持すると、乗員に違和感を与えるため、肩甲骨が存在する第4脊椎から第7脊椎の高さの位置を、乗員の体格が異なる場合であっても精度よく推定する必要がある。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、乗員の肩甲骨の位置を適切に推定可能な肩甲骨位置推定装置、及び、乗員の肩甲骨を適切に支持可能なシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る肩甲骨位置推定装置は、車両のステアリングホイールを操作する乗員が着座するシートに設けられ前記乗員の肩甲骨の位置を推定する肩甲骨位置推定装置であって、前記シートは、前記乗員の大腿部及び腰部が載せられる座面部と、前記乗員の上体後方に配置されるシートバックとを備え、前記肩甲骨位置推定装置は、前記乗員の上体から前記シートバックが受ける面圧分布を検出する面圧センサと、前記乗員が前記ステアリングホイールを所定角度回動させた際に、前記面圧センサが検出した面圧が左右で逆方向に変化した領域の近傍に前記肩甲骨が存在すると推定する肩甲骨位置推定部とを備えることを特徴とする。
乗員がステアリング操作(典型的には、ステアリングホイールを正面から見たときの左右端部を把持した状態から、ステアリングホイール角にして例えば90°程度)を行うと、乗員背部の肩甲骨部からシートバックへ伝達される面圧は、転舵外側(右転舵の場合は左側)では増大し、転舵内側では減少する。
本発明によれば、このように操舵操作時特有の面圧が左右で逆方向に変化する現象を捉えることにより、乗員の肩甲骨の位置を適切に推定することができる。
【0006】
本発明の他の一態様に係る肩甲骨位置推定装置は、車両のステアリングホイールを操作する乗員が着座するシートに設けられ前記乗員の肩甲骨の位置を推定する肩甲骨位置推定装置であって、前記シートは、前記乗員の大腿部及び腰部が載せられる座面部と、前記乗員の上体後方に配置されるシートバックとを備え、前記肩甲骨位置推定装置は、前記乗員の上体から前記シートバックが受ける面圧分布を検出する面圧センサと、前記支持部材制御部は、前記乗員が手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させた際に、前記面圧センサが検出した面圧が逆方向に変化した領域の近傍に前記肩甲骨が存在すると推定する肩甲骨位置推定部とを備えることを特徴とする。
本発明においても、実際にステアリングホイールを操作した場合と同様の面圧変化がシートバックに生じることから、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0007】
本発明において、前記乗員に対して前記ステアリングホイールを所定角度回動させる動作と、前記手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させる動作との少なくとも一つを前記乗員に促す情報を提示する情報提示部を備える構成とすることができる。
これによれば、乗員に各操作の実行を促すことにより、確実に肩甲骨部の左右面圧差を生じさせ、肩甲骨の位置を推定することができる。
この場合、前記情報提示部は、前記ステアリングホイールを所定角度回動させる動作と、前記手を前記ステアリングホイールのリムに沿って所定角度回動させる動作との少なくとも一つを左右方向に少なくとも一回ずつ行うよう前記乗員に促す情報を提示する構成とすることができる。
これによれば、ステアリングホイールの回動動作等を左右それぞれ行わせることにより、肩甲骨の位置推定精度を向上することができる。
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係るシートは、請求項1又は請求項2に記載の肩甲骨位置推定装置を有するシートであって、前記シートバック内に設けられ該シートバックの他部に対して硬質な材料で構成された支持部材と、前記支持部材を前記シートバックに対して上下方向に駆動する支持部材駆動部と、前記支持部材駆動部を制御して前記支持部材の位置を調節する支持部材制御部とを備え、前記支持部材制御部は、前記肩甲骨位置推定部が推定した肩甲骨の位置に応じて前記支持部材の上下方向位置を変化させることを特徴とする。
これによれば、支持部材の高さを乗員の肩甲骨の位置に応じて適切に設定し、乗員背部の肩甲骨部の支持剛性を高め、ステアリング操作のしやすさを向上することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、乗員の肩甲骨の位置を適切に推定可能な肩甲骨位置推定装置、及び、乗員の肩甲骨を適切に支持可能なシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明を適用した肩甲骨位置推定装置を有するシートの実施形態の模式的側面視図である。
【
図3】実施形態の肩甲骨位置推定装置及びシートにおける制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】実施形態の肩甲骨位置推定装置及びシートの動作を示すフローチャートである。
【
図5】乗員による転舵動作前後のシートバック面圧分布の一例を模式的に示す図である。
【
図6】乗員による転舵動作時における左右肩甲骨部のシートバック荷重の推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した肩甲骨位置推定装置、及び、シートの実施形態について説明する。
実施形態のシート1は、例えば、乗用車等の自動車の前席(運転席)用の座席として用いられ、乗員100(ドライバ)が着座するものである。
実施形態の肩甲骨位置推定装置は、シート1に着座した状態の乗員100の肩甲骨132の位置を推定するものである。
図1は、実施形態のシートの模式的側面視図である。
図2は、
図1のII-II部矢視図である。なお、
図2においては、乗員100は図示を省略している。
【0012】
実施形態のシート1は、座面部10、シートバック20、ヘッドレスト30、面圧センサ40、肩甲骨支持部材50等を有して構成されている。
座面部10は、着座者である乗員100の腰部110及び大腿部120が載せられる部分である。
シートバック20は、乗員100の上体130の背部131に沿って配置された背もたれ状の部分(バックレスト)である。
シートバック20は、座面部10の後端部近傍から上方へ伸びて形成されている。
ヘッドレスト30は、シートバック20の上端部から上方へ突出して設けられ、乗員100の頭部140の後部を支持する部分である。
【0013】
また、乗員100の前方側には、乗員100が腕150によって操舵操作を行うステアリングホイールSWが設けられている。
乗員100がステアリングホイールSWで操舵操作を行うと、その操作反力は、肩甲骨132から背部131を介してシートバック20を後方に押圧するよう入力される。
【0014】
面圧センサ40は、シートバック20における乗員100の背部131と当接する面部に設けられ、背部131からシートバック20が受ける面圧(体圧)分布を測定する面圧測定部である。
面圧センサ40は、例えば、受けた圧力に応じて抵抗値が変化する感圧導電性インク電極対などの感圧素子を、膜状のセンサシートの面方向に沿ってマトリクス状に配列して構成することができる。
【0015】
肩甲骨支持部材50は、乗員100の背部131における肩甲骨132近傍の領域を支持する部材である。
肩甲骨支持部材50は、シートバック20の背部131に対向する面部に沿って設けられ、シートバック20の他部(ウレタンフォーム等)よりも硬質な材料によって、例えばパネル状の硬質部材として形成されている。
肩甲骨支持部材50が設けられた領域においては、シートバック20のウレタンフォーム部等の弾性変形が抑制されることにより、乗員100の背部131から入力される荷重に対するシートバック20の剛性が向上する。
肩甲骨支持部材50は、シートバック20の左右方向における中心線に対称に例えば一対が設けられている。
【0016】
肩甲骨支持部材50は、乗員の体格の個人差に適合するため、シートバック20に対して、上下方向相対変位可能に取り付けられている。
肩甲骨支持部材50には、アクチュエータ51(
図2、
図3参照)が備えられる。
アクチュエータ51は、肩甲骨支持部材50をシートバック20に沿って上下方向に駆動し、移動させる機能を有する。
アクチュエータ51は、例えば、電動モータ及び減速ギヤ列などを有する電動アクチュエータとして構成することが可能であるが、これに限定はされず、他種のアクチュエータを用いてもよい。
本実施形態においては、乗員100の肩甲骨の位置(高さ)を推定し、アクチュエータ51によって肩甲骨支持部材50の高さを自動的に調整する機能を有する。
この点については、後に詳しく説明する。
【0017】
また、シート1に対向して配置された車両の内装部材であるインストルメントパネル60には、カメラ70が設けられている。
カメラ70は、例えば、CMOSやCCD等の固体撮像素子や、その出力処理回路、撮像用光学系(レンズ群)などを有する。
カメラ70は、シート1に着座した乗員100を撮像し、得られた画像データを後述するドライバモニタリングシステム80に伝達する。
【0018】
図3は、実施形態の肩甲骨位置推定装置及びシートにおける制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
肩甲骨位置推定装置、及び、シート1の制御システムは、上述した面圧センサ40、アクチュエータ51に加え、ドライバモニタリングシステム80、シート制御ユニット90等を有して構成されている。
【0019】
ドライバモニタリングシステム80は、カメラ70が撮像した画像に基づいて、シート1に着座した着座者(ドライバ)100の顔認識による識別や、体格に関する情報の取得を行う画像処理装置である。
ドライバモニタリングシステム80は、例えば、乗員100の肩部の上部(上体130の上端部付近)に存在する第1胸椎の高さ位置を判別する機能を有する。
【0020】
シート制御ユニット90は、面圧センサ40,ドライバモニタリングシステム80,舵角センサ91等からの情報に基づいて、アクチュエータ51を制御するものである。
シート制御ユニット90は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記録部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンとして構成することができる。
シート制御ユニット90は、本発明の肩甲骨位置推定部、支持部材制御部として機能する。
シート制御ユニット90の機能、動作については、後に詳しく説明する。
【0021】
シート制御ユニット90には、舵角センサ91、画像表示装置92が接続されている。
舵角センサ91は、ステアリングホイールSWの回転角度を検出する角度エンコーダである。
舵角センサ91は、ステアリングホイールSWの回転を図示しないステアリングギアボックスに伝達するステアリングコラム(ステアリングシャフト)に設けられる。
舵角センサ91は、例えば、電動パワーステアリング装置や、車体挙動制御装置などの制御に用いられるが、その出力は、シート制御ユニット90にも伝達される。
画像表示装置92は、例えば、インストルメントパネル60等に設けられ、乗員100に対して文字、記号、絵柄等の画像情報を提示するLCD、有機ELディスプレイ等の情報提示部である。
【0022】
以下、実施形態の肩甲骨位置推定装置及びシートの動作について説明する。
図4は、実施形態の肩甲骨位置推定装置及びシートの動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0023】
<ステップS01:乗員に左右転舵を指示>
シート制御ユニット90は、画像表示装置92を用いて、運転席のシート1に着座した乗員100(ドライバ)に対し、ステアリングホイールSWを中立状態から左側(反時計回り)に90°回動させて中立位置に戻し、さらに中立状態から右側(時計回り)に90°回動させて戻す転舵(操舵)操作を促す表示を出力する。
このとき、乗員100の手は、中立状態におけるステアリングホイールSWの左右側部を把持したまま、持ち替えを行わないよう乗員100に対して注意喚起が行われる。
舵角センサ91の出力に基づいて、シート制御ユニット90が、上記操舵操作が完了したことを判別した後に、ステップS02に進む。
【0024】
<ステップS02:所定高さ範囲での面圧左右逆転有無判断>
シート制御ユニット90は、面圧センサ40によって操舵操作中に計測された面圧データに基づいて、シートバック20の所定の高さ範囲において、乗員100の人体中心の左右で逆方向の面圧変化がみられた領域があるか判別する。
ここで、所定の高さ範囲は、一般的な体格の人体において肩甲骨が存在し得る範囲であって、例えば、座面部10からのシートクッション20の表面に沿った距離が455±15mmの範囲とすることができる。
【0025】
図5は、乗員による転舵動作前後のシートバック面圧分布の一例を模式的に示す図である。
図5において、濃淡は面圧の大きさ(濃いほど大きい)を示している。
図5に示すように、乗員100が右転舵を行った場合には、座面部10からの高さ455±15mmの範囲において、右側では所定以上の面圧が発生している領域が減少するとともに、左側ではこのような領域が増大するとともに、その中心部ではさらに面圧が高くなっていることがわかる。
【0026】
図6は、乗員による転舵動作時における左右肩甲骨部のシートバック荷重の推移の一例を示す図である。
図6において、横軸は時間を示し、縦軸は荷重(面圧が生じている範囲の面圧を面積で積分したもの)を示している。
図6に示すように、転舵動作の開始、進行に応じて、旋回方向逆側では操作反力が肩甲骨132を介してシートバック20に入力されることで、荷重が増加し、旋回方向側では荷重が減少することがわかる。
シート制御ユニット90が、上述した左右逆方向の面圧変化を認識した場合は、ステップS03に進み、それ以外の場合は、ステップS04に進む。
【0027】
<ステップS04:ドライバモニタリングシステムにより肩甲骨位置推定>
シート制御ユニット90は、面圧センサ40、及び、ドライバモニタリングシステム80の出力を用いて乗員100の肩甲骨位置を、計算式を用いて推定する。
この計算式では、脊椎高さの統計値を用い、肩峰を除いた肩甲骨の上端を第4胸椎、肩甲骨の下端を第7胸椎としている。
また、肩峰を除く肩甲骨の上端から下端までの距離と、第4胸椎から第7胸椎までの距離は同一であると考える。
ドライバモニタリングシステム80は、上述したように、カメラ70の撮像画像に基づいて、乗員100の第1胸椎の高さを推定可能となっている。
また、面圧センサ40が検出した面圧分布において、座面部10から例えば215乃至220mmの高さに面圧の局所的な低下がある場合、これが第3腰椎の高さに相当すると考えられる。なお、第1胸椎の高さを、ドライバモニタリングシステム80に代えて、あるいは、ドライバモニタリングシステム80と併用して、面圧センサ40によって推定することも可能である。
この場合、第1胸椎の高さから第4胸椎(肩甲骨上端)までの距離は、以下の式により算出することができる。
(第1胸椎の高さ~第4胸椎の高さ)
=(第1胸椎の高さ~第3腰椎の高さ)/(第1胸椎の高さ~第3腰椎の高さの統計推定値)
×(第1胸椎の高さ~第4胸椎の高さの統計推定値)
肩甲骨位置の演算後、ステップS05に進む。
【0028】
<ステップS05:支持位置調整実行>
シート制御ユニット90は、ステップS03又はステップS04において求めた肩甲骨132の位置(高さ)に応じて、肩甲骨支持部材50が乗員100の背部131における肩甲骨132近傍の領域に対向するよう、アクチュエータ51を制御して高さの調整を実行する。
この場合、肩甲骨132と肩甲骨支持部材50とが、車両前面視において、少なくとも一部で重畳して配置されるよう調整する構成とすることができる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0029】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)乗員100がステアリング操作(典型的には、ステアリングホイールSWを正面から見たときの左右端部を把持した状態から、ステアリングホイールSW角にして例えば90°程度)を行うと、背部131の肩甲骨132近傍からシートバック20へ伝達される面圧は、転舵外側(右転舵の場合は左側)では増大し、転舵内側では減少する。
本実施形態によれば、このように操舵操作時特有の面圧が左右で逆方向に変化する現象を捉えることにより、乗員100の肩甲骨132の位置を適切に推定することができる。
(2)乗員100に対して、ステアリングホイールSWを所定角度回動させる動作を促す情報を提示する画像表示装置92を備えることにより、乗員100に確実に操舵操作を行わせ、肩甲骨132の位置を適切に推定することができる。
(3)ステアリングホイールSWを所定角度回動させる動作を左右方向に少なくとも一回ずつ行うよう前記乗員に促すことにより、肩甲骨132の位置推定精度を向上することができる。
(4)肩甲骨支持部材50の高さを、推定された乗員100の肩甲骨132の位置に応じて調節することにより、乗員100の背部131の肩甲骨部132の支持剛性を高め、ステアリング操作のしやすさを向上することができる。
【0030】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)肩甲骨位置推定装置及びシートの構成は、上述した実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。
これらを構成する各要素の形状、構造、材質、製法、数量、配置等は、実施形態の構成から適宜変更することができる。
(2)実施形態においては、乗員が実際にステアリングホイールを回動させる動作(転舵動作)を行った際のシートバックの面圧変化を用いて肩甲骨の位置を推定しているが、乗員が実際にステアリングホイールを回転させなくとも、乗員が手をステアリングホイールのリムに沿って滑らせる動作を行った場合であっても、実施形態と同様に肩甲骨の位置を推定することが可能である。
この場合、情報提示部は、実際の転舵動作に代えて、上述した模擬的な転舵動作を行うことを促す情報を出力するようにしてもよい。
また、ステアリングホイールを回動させる動作又は模擬的な転舵動作の回動角度は、実施形態のように例えば90°には限定されず、適宜変更することができる。
(3)実施形態においては、乗員に対して転舵動作を促す情報を提示して、肩甲骨の位置を推定するための転舵動作を行わせているが、このような構成に限らず、例えば、ドライビングサイクル中に通常行われる転舵動作時のシートバック面圧の変化に基づいて肩甲骨の位置を推定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 シート 10 座面部
20 シートバック 30 ヘッドレスト
40 面圧センサ 50 肩甲骨支持部材
51 アクチュエータ 60 インストルメントパネル
70 カメラ 80 ドライビングモニタリングシステム
90 シート制御ユニット 91 舵角センサ
92 画像表示装置
100 乗員 110 腰部
120 大腿部 130 上体
131 背部 132 肩甲骨
140 頭部 150 腕
SW ステアリングホイール