(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053558
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】鋼管の連結構造および鋼管継手用の鋼管製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
E02D5/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171448
(22)【出願日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2022159412
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久積 和正
(72)【発明者】
【氏名】北濱 雅司
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041CA01
2D041CB01
2D041DB02
2D041DB11
(57)【要約】
【課題】鋼管の連結構造において、継手部材の構造性能を確保しながら低コスト化を可能にする。
【解決手段】第1および第2の鋼管を軸方向に連結する鋼管の連結構造は、第1の鋼管に接合される内嵌部材と、第2の鋼管に接合される外嵌部材とを備える。内嵌部材は、外嵌部材の内側に嵌合する第1の嵌合部を含み、外嵌部材は、内嵌部材の外側に嵌合する第2の嵌合部を含み、第1および第2の嵌合部は、軸方向についての抜け止め構造を有し、内嵌部材および外嵌部材は、溶接部が鋼管の軸方向に延びるベンドロール管で形成され、ベンドロール管を形成する鋼材の降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下であり、溶接部における溶融凝固部のベンドロール管の周方向における幅は、径方向の全厚にわたり1mmよりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の鋼管を軸方向に連結する鋼管の連結構造であって、
前記第1の鋼管の前記軸方向の端部に接合される内嵌部材と、前記第2の鋼管の前記軸方向の端部に接合される外嵌部材とを備え、
前記内嵌部材は、前記外嵌部材の内側に嵌合する第1の嵌合部を含み、前記外嵌部材は、前記内嵌部材の外側に嵌合する第2の嵌合部を含み、前記第1および第2の嵌合部は、前記軸方向についての抜け止め構造を有し、
前記内嵌部材および前記外嵌部材は、溶接部が前記軸方向に延びるベンドロール管で形成され、前記ベンドロール管を形成する鋼材の降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下であり、
前記溶接部における溶融凝固部の前記ベンドロール管の周方向における幅は、径方向の全厚にわたり1mmよりも大きい、鋼管の連結構造。
【請求項2】
前記ベンドロール管の板厚は30mm以上70mm以下である、請求項1に記載の鋼管の連結構造。
【請求項3】
前記溶接部は、前記内嵌部材および前記外嵌部材の周方向の剛性が相対的に低い部分に配置される、請求項1に記載の鋼管の連結構造。
【請求項4】
前記抜け止め構造は、前記第1の嵌合部の外側で前記周方向について第1の間隙部分を挟んで複数形成される第1の突出部と、前記第2の嵌合部の内側で前記周方向について第2の間隙部分を挟んで複数形成される第2の突出部とを含み、
前記第1および第2の突出部は、前記内嵌部材を前記外嵌部材の内側に嵌合させた状態で所定の位置まで回転させたときに互いに係合するように構成され、
前記溶接部は、前記第1の間隙部分および前記第2の間隙部分に位置する、請求項3に記載の鋼管の連結構造。
【請求項5】
前記溶接部は、前記内嵌部材および前記外嵌部材の周方向の剛性が相対的に低い部分に配置される、請求項2に記載の鋼管の連結構造。
【請求項6】
前記抜け止め構造は、前記第1の嵌合部の外側で前記周方向について第1の間隙部分を挟んで複数形成される第1の突出部と、前記第2の嵌合部の内側で前記周方向について第2の間隙部分を挟んで複数形成される第2の突出部とを含み、
前記第1および第2の突出部は、前記内嵌部材を前記外嵌部材の内側に嵌合させた状態で所定の位置まで回転させたときに互いに係合するように構成され、
前記溶接部は、前記第1の間隙部分および前記第2の間隙部分に位置する、請求項5に記載の鋼管の連結構造。
【請求項7】
前記内嵌部材のうち前記第1の鋼管に接合される接合部の板厚が前記第1の鋼管の板厚よりも厚く、かつ前記外嵌部材のうち前記第2の鋼管に接合される接合部の板厚が前記第2の鋼管の板厚よりも厚いか、
前記内嵌部材のうち前記第1の鋼管に接合される接合部の板厚が前記第1の鋼管の板厚よりも厚いか、または
前記外嵌部材のうち前記第2の鋼管に接合される接合部の板厚が前記第2の鋼管の板厚よりも厚い、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の鋼管の連結構造。
【請求項8】
鋼管継手用の鋼管製造方法であって、
降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下である鋼板を板巻き加工する工程と、
前記板巻き加工された鋼板の端部同士を幅1mmよりも大きい溶融凝固部が形成されるように溶接することによって前記鋼板をベンドロール管にする工程と
を含む、鋼管継手用の鋼管製造方法。
【請求項9】
前記ベンドロール管の板厚は30mm以上70mm以下である、請求項8に記載の鋼管継手用の鋼管製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の連結構造および鋼管継手用の鋼管製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管同士を連結する方法として溶接が一般的であるが、鋼管径が拡大すると溶接時間が大幅に増加し、溶接工の技量や天候によって溶接品質にばらつきが生じるという問題がある。また、空頭制限のある現場では連結箇所が多くなり作業時間の短縮が求められる。そこで、現場での溶接作業を伴わず短時間での施工が可能な機械式継手を用いた鋼管接合方法が提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、鋼管の軸方向端部に予め溶接された内嵌部材および外嵌部材を用いた連結構造が記載されている。この方法では、内嵌部材を外嵌部材の内側に嵌合させた状態で回転させたときに、内嵌部材の外側および外嵌部材の内側でそれぞれ周方向に複数形成された突出部が互いに係合することによって鋼管同士が連結される。このような連結構造は、鋼管同士を溶接する場合に比べて施工性が高く、また十分な曲げ耐力を確保できるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-29250号公報
【特許文献2】特開2015-143466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような連結構造における継手部材は、突出部などを形成したことによる断面欠損があっても十分な引張力、圧縮力、およびせん断力を伝達して曲げ耐力を発揮できるように、強度を高める合金材料を使用したり、継手部材として用いられる鋼管を鍛造によって成形したり、熱処理を行ったりすることによって製造される。しかしながら、合金材料はそれ自体が高価であり、鋼管と継手部材との間の溶接においても継手部材の強度に合わせた高強度の溶接材料が必要になる。また、溶接時の予熱および後熱も必要になることによって余分なコストが生じる上、作業性も低くなる。鍛造による成形や熱処理も、コストが高くなる点では同様である。
【0005】
そこで、本発明は、継手部材の構造性能を確保しながら低コスト化を可能にした鋼管の連結構造および鋼管継手用の鋼管製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]第1および第2の鋼管を軸方向に連結する鋼管の連結構造であって、上記第1の鋼管の上記軸方向の端部に接合される内嵌部材と、上記第2の鋼管の上記軸方向の端部に接合される外嵌部材とを備え、上記内嵌部材は、上記外嵌部材の内側に嵌合する第1の嵌合部を含み、上記外嵌部材は、上記内嵌部材の外側に嵌合する第2の嵌合部を含み、上記第1および第2の嵌合部は、上記軸方向についての抜け止め構造を有し、上記内嵌部材および上記外嵌部材は、溶接部が上記軸方向に延びるベンドロール管で形成され、上記ベンドロール管を形成する鋼材の降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下であり、上記溶接部における溶融凝固部の上記ベンドロール管の周方向における幅は、径方向の全厚にわたり1mmよりも大きい、鋼管の連結構造。
[2]上記ベンドロール管の板厚は30mm以上70mm以下である、[1]に記載の鋼管の連結構造。
[3]上記溶接部は、上記内嵌部材および上記外嵌部材の周方向の剛性が相対的に低い部分に配置される、[1]に記載の鋼管の連結構造。
[4]上記抜け止め構造は、上記第1の嵌合部の外側で上記周方向について第1の間隙部分を挟んで複数形成される第1の突出部と、上記第2の嵌合部の内側で上記周方向について第2の間隙部分を挟んで複数形成される第2の突出部とを含み、上記第1および第2の突出部は、上記内嵌部材を上記外嵌部材の内側に嵌合させた状態で所定の位置まで回転させたときに互いに係合するように構成され、上記溶接部は、上記第1の間隙部分および上記第2の間隙部分に位置する、[3]に記載の鋼管の連結構造。
[5]上記溶接部は、上記内嵌部材および上記外嵌部材の周方向の剛性が相対的に低い部分に配置される、[2]に記載の鋼管の連結構造。
[6]上記抜け止め構造は、上記第1の嵌合部の外側で上記周方向について第1の間隙部分を挟んで複数形成される第1の突出部と、上記第2の嵌合部の内側で上記周方向について第2の間隙部分を挟んで複数形成される第2の突出部とを含み、上記第1および第2の突出部は、上記内嵌部材を上記外嵌部材の内側に嵌合させた状態で所定の位置まで回転させたときに互いに係合するように構成され、上記溶接部は、上記第1の間隙部分および上記第2の間隙部分に位置する、[5]に記載の鋼管の連結構造。
[7]上記内嵌部材のうち上記第1の鋼管に接合される接合部の板厚が上記第1の鋼管の板厚よりも厚く、かつ上記外嵌部材のうち上記第2の鋼管に接合される接合部の板厚が上記第2の鋼管の板厚よりも厚いか、上記内嵌部材のうち上記第1の鋼管に接合される接合部の板厚が上記第1の鋼管の板厚よりも厚いか、または上記外嵌部材のうち上記第2の鋼管に接合される接合部の板厚が上記第2の鋼管の板厚よりも厚い、[1]から[6]のいずれか1項に記載の鋼管の連結構造。
[8]鋼管継手用の鋼管製造方法であって、降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下である鋼板を板巻き加工する工程と、上記板巻き加工された鋼板の端部同士を幅1mmよりも大きい溶融凝固部が形成されるように溶接することによって上記鋼板をベンドロール管にする工程とを含む、鋼管継手用の鋼管製造方法。
[9]上記ベンドロール管の板厚は30mm以上70mm以下である、[8]に記載の鋼管継手用の鋼管製造方法。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、鋼管の軸方向についての抜け止め構造を有する継手部材において、溶接部が軸方向に延びるベンドロール管を使用することによって、例えば鋼管と同等の低強度材料で継手部材を形成することができるため、鋼管の連結構造における構造性能を確保しつつ、低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋼管の連結構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1の例において継手部材を構成する鋼管の製造工程の例を示す図である。
【
図3】
図1の例において継手部材を構成する鋼管の寸法の例について説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態において適用可能な継手構造の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の一実施形態に係る鋼管の連結構造を示す斜視図である。本実施形態に係る鋼管の連結構造1は、鋼管21,22を軸方向に連結する。鋼管21,22の製造工程は特に限定されるわけではなく、例えば、螺旋状に形成された溶接部を有するスパイラル鋼管であってもよいし、直線状に形成された溶接部を有する電縫管やUO鋼管であってもよい。連結構造1は、内嵌部材3と、外嵌部材4とを含む。なお、以下の説明において、軸方向は、鋼管21,22の軸方向を意味し、z方向として図示される。周方向は、軸方向の回りに回転する方向であり、y方向として図示される。また、径方向は、軸方向に直交する方向であり、x方向として図示される。鋼管21,22、内嵌部材3および外嵌部材4は、連結後の状態において同軸になるように配置されるため、軸方向、周方向および径方向はこれらの部材について共通になる。
【0010】
内嵌部材3および外嵌部材4は、それぞれ鋼管21,22の軸方向の端部に互いに相対するように、溶接部23,24で接合されている。内嵌部材3を外嵌部材4の内側に嵌合させた状態で軸方向の回りに所定の位置まで回転させ、図示しない回転抑止キーで固定することによって、内嵌部材3および外嵌部材4にそれぞれ接合された鋼管21,22が連結される。内嵌部材3は、鋼管21に接合される接合部31と、接合部31に続いて形成され外嵌部材4の内側に嵌合する嵌合部32(第1の嵌合部)とを含む。本実施形態において、嵌合部32は、軸方向における鋼管21とは反対側の端部に向かって外径が徐々に小さくなる縮径部321と、縮径部321の外側に突出し、周方向について間隙部分323を挟んで複数形成される突出部322(第1の突出部)とを含む。突出部322の長さ(周方向の寸法)は、周方向における突出部322の間隙部分323の長さ(周方向の寸法)よりも小さい。
【0011】
一方、外嵌部材4は、鋼管22に接合される接合部41と、接合部41に続いて形成され内嵌部材3の外側に嵌合する嵌合部42(第2の嵌合部)とを含む。本実施形態において、嵌合部42は、軸方向における鋼管22とは反対側の端部に向かって内径が徐々に大きくなる拡径部421と、拡径部421の内側に突出し、周方向について間隙部分423を挟んで複数形成される突出部422(第2の突出部)とを含む。突出部422の長さ(周方向の寸法)は、周方向における突出部422の間隙部分423の長さ(周方向の寸法)よりも小さい。内嵌部材3を外嵌部材4の内側に嵌合させた状態で軸方向の回りに所定の位置まで回転させたときに突出部322,422が互いに係合するように、突出部322,422の長さおよび間隔(周方向の寸法)、厚さ(軸方向の寸法)、ならびに突出高さ(径方向の寸法)は互いに対応している。このような構成によって、突出部322,422は、軸方向についての抜け止め構造を構成する。なお、他の実施形態において抜け止め構造は必ずしも突出部によって形成されなくてもよく、例えば内嵌部材3と外嵌部材4との間で荷重を伝達するねじやせん断キー、またはせん断プレートなどによって形成されてもよい。
【0012】
継手部材である内嵌部材3および外嵌部材4は、例えば鋼管を切削加工することによって製造される。内嵌部材3の場合は鋼管の外周面が、外嵌部材4の場合は鋼管の内周面がそれぞれ切削加工され、突出部322,422などが形成される。本実施形態において、内嵌部材3および外嵌部材4を構成する鋼材はCrやMoなどの合金材料の使用や熱処理によって強度を高めたものではなく、例えば鋼管21,22と同等の強度である。具体的には、例えば、内嵌部材3および外嵌部材4は、成分組成が質量%で0.05≦C≦0.25、Si≦0.55、0.6≦Mn≦2.0、P≦0.035、S≦0.035の条件を満たす鋼材で形成される。この鋼材の炭素当量Ceqは下記式(1)から求められ、Ceq≦0.47%、好ましくはCeq≦0.44%、より好ましくはCeq≦0.40%、さらに好ましくはCeq≦0.38%である。式(1)中の各元素表示は含有量(質量%)を示す。なお、以下の説明において%は別途記載がない限り質量%を意味する。
Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 ・・・(1)
【0013】
特に、Cの上限値として、通常の鋼材は0.25%以下であるが、好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.15%以下であっても良い。また、Cの下限値として、0.05%以上が好ましいが、より好ましくは0.1%以上である。また、Mnの上限値として、2.0%以下が好ましいが、より好ましくは1.7%以下、さらに好ましくは1.65%以下である。また、Pの上限値として、0.035%以下が好ましいが、より好ましくは0.02%以下である。また、Sの上限値として、0.035%以下が好ましいが、より好ましくは0.006%以下である。また、Siの上限値として、0.55%以下が好ましいが、より好ましくは0.35%以下である。また、Niの上限値として、0.8%以下が好ましいが、より好ましくは0.4%以下である。また、Vの上限値として、0.1%以下が好ましい。上述のように内嵌部材3および外嵌部材4を構成する鋼材はCrやMoなどの合金材料の使用によって強度を高めたものではないため、Crの含有量は0.4%未満、好ましくは0.2%以下、Moの含有量は0.15%未満、好ましくは0.08%以下である。このような鋼材は降伏点または0.2%耐力の少なくとも一方が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下であり、例えばJIS G3106に規定するSM400A、SM400B、SM400C、SM490A、SM490B、SM490C、SM490YA、SM490YB、SM520B、SM520CおよびSM570などの溶接構造用圧延鋼材やJIS G3140に規定するSBHS400およびSBHS500などの橋梁用高性能鋼材を含む。なお、上記のような鋼材の成分組成や規格は一例であり、ベンドロール管に成形することが可能であれば鋼材は必ずしも上記の成分組成や規格によって限定されない。また、上記の鋼材は継手部材である内嵌部材3および外嵌部材4を構成するものであって、鋼管21,22を構成する鋼材とは異なりうる。
【0014】
ここで、上述した鋼材の降伏点および0.2%耐力を含む機械特性の測定方法について説明する。鋼管に成形された鋼材(溶接部33,43,53は除く)について、JIS Z2241に示される引張試験方法に基づいて軸方向の機械特性を調査する。引張試験に用いられる試験片は、径方向の板厚の1/4または3/4の位置において軸方向に対して採取され、JIS Z2241の11号、12号(12A号、12B号及び12C号)、4号又は5号、14号(14A号、14B号及び14C号)試験片のいずれかを用いる。ただし、4号試験片は、径14mm(標点距離50mm)とする。また、5号試験片を鋼管から採取する場合、平らにしてから試験片に加工したものを使用する。引張試験では、0.2%耐力と上降伏点及び下降伏点をそれぞれ測定し、3個の試験片のデータの平均値を取ることで機械特性を評価する。
【0015】
図2は、
図1の例において継手部材を構成する鋼管の製造工程の例を示す図である。
図2には、鋼板51を板巻き加工して鋼管52にする工程が示されている。板巻き加工では、例えば予め用意された金型を鋼板51の外周面から押し付けることによって鋼板51を鋼管52の形状に加工してもよいし、鋼板51を内周面からプレス曲げを行うことにより塑性化させながら徐々に所定の曲率に加工して鋼管52の形状にしてもよい。この工程において、鋼板51の端部同士は溶接部53で接合され、溶接部53は鋼管52の軸方向(図中のz方向)に延びる。このようにして成形された鋼管をベンドロール管ともいう。ベンドロール管を構成する鋼材は、その降伏点または0.2%耐力が215MPa以上550MPa以下、引張強さが400MPa以上720MPa以下となる比較的低強度の溶接構造用圧延鋼材などである。これらの鋼材の炭素当量CeqはCeq≦0.47%、好ましくはCeq≦0.44%、より好ましくはCeq≦0.40%、さらに好ましくはCeq≦0.38%と低いため溶接性が高く、鋼板51の端部同士の溶接において予熱および後熱も不要になる。また鋼板51の端部同士を接合された鋼管52の溶接部53においても高強度の溶接材料を用いなくてもよく、鋼管継手用の製造の効率化および低コスト化が可能になる。なお、ベンドロール管は最初から継手部材に使用される長さに成形されていてもよいし、所定の長さよりも長く成形されたあとに継手部材に使用される長さに切断されてもよい。後者の場合、長く成形されたベンドロール管の長さは、陸送での法令による一般制限を考慮して12m以下とすることが望ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0016】
図1には、鋼板の板巻き加工時の溶接部が内嵌部材3の溶接部33および外嵌部材4の溶接部43として示されている。既に述べたように、溶接部33,43は、鋼管21,22の軸方向(図中のz方向)に延びている。本実施形態では、溶接部33,43を内嵌部材3および外嵌部材4の周方向(図中のy方向)の剛性が相対的に低い部分、より具体的には突出部322の間の間隙部分323(第1の間隙部分)および突出部422の間の間隙部分423(第2の間隙部分)に位置する。
【0017】
ここで、本実施形態に係る連結構造1において、軸方向についての抜け止め構造は突出部322,422によって構成される。つまり、連結構造1の曲げ耐力は、突出部322,422の係合によって引張力、圧縮力、およびせん断力が伝達されることによって発揮される。従って、一般的に構造上の弱点になりやすく、荷重を直接的に伝達する突出部322,422の間の間隙部分323,423に溶接部33,43が位置することによって、連結構造1の曲げ耐力に与える影響は小さくなり、例えば鋼管21,22と同等の強度の鋼材で内嵌部材3および外嵌部材4が形成されていたとしても十分な引張力、圧縮力、およびせん断力を伝達して曲げ耐力を発揮することができる。さらに、継手の材料強度が低くなることによって、従来の高強度材料を使用した継手と比較して相対的に肉厚になり、継手の剛性が上昇するため、嵌合部における局部的な変形が抑制され、十分な荷重伝達が可能となる。その結果、設計で想定していない継手部材の局部変形に伴う継手の離脱(ジャンプアウト)の発生を防止することができ、適切な構造性能を確保できる。なお、鋼管21,22の材料強度と内嵌部材3および外嵌部材4の材料強度とは必ずしも同等でなくてもよく、内嵌部材3および外嵌部材4の材料強度が鋼管21,22の材料強度よりも大きくてもよいし、鋼管21,22の材料強度が内嵌部材3および外嵌部材4の材料強度よりも大きくてもよい。さらに、内嵌部材3の材料強度と外嵌部材4の材料強度とが異なっていてもよい。いずれの場合も、上記の例と同様に、突出部322,422の間の間隙部分323,423に溶接部33,43が位置することによって連結構造1の曲げ耐力に与える影響が小さくなり、連結構造1が十分な引張力、圧縮力、およびせん断力を伝達して曲げ耐力を発揮することができる。
【0018】
その一方で、上記のように継手部材について強度を高める合金材料を使用せず、鋼板の板巻き加工によって元になる鋼管を製造し、また熱処理もしないことによって、継手部材の低コスト化が可能になる。また、継手部材である内嵌部材3および外嵌部材4が鋼管21,22と同等の強度の鋼材で形成されることによって、内嵌部材3および外嵌部材4と鋼管21,22とを接合する溶接部23,24に高強度の溶接材料を用いなくてもよく、また上述の通り内嵌部材3および外嵌部材4を形成する鋼材の炭素当量Ceqは0.47%以下、好ましくはCeq≦0.44%、より好ましくは0.40%以下、さらに好ましくはCeq≦0.38%と低いため溶接性が高く、溶接時の予熱および後熱も不要になることでさらに低コスト化が可能になる。また、一般的に材料の強度が低い場合は硬度も低くなるため、切削加工の負荷が小さくなる。
【0019】
図3は、
図1の例において継手部材を構成する鋼管の寸法の例について説明するための図である。本実施形態で継手部材に使用されるベンドロール管の場合、鋼管52の板厚d(内嵌部材3および外嵌部材4の最大板厚)は鋼管21,22の板厚よりも厚く、例えば、一般的にスパイラル鋼管として製造される上限の30mmまたはそれ以上でありうる。また、鋼管52の板厚dは、鋼管杭として内周面あるいは外周面への張り出し部分が大きくなって施工性を阻害しないように70mmまたはそれ以下でありうる。上述の通り、継手の材料強度が低くなることによって、従来の高強度材料を使用した継手と比較して相対的に肉厚になり、継手の剛性が上昇するため、嵌合部における局部的な変形が抑制され、十分な荷重伝達が可能となる。その結果、設計で想定していない継手部材の局部変形に伴う継手の離脱(ジャンプアウト)の発生を防止することができ、適切な構造性能を確保できる。一方、継手部材が過剰に肉厚になると、鋼管21,22の剛性に対して継手部材の剛性が極めて大きくなり、継手近傍に作用する荷重が急増する可能性が生じる。この急増した荷重は継手近傍に分布して作用するため、高剛性の継手部材のみならず、継手部材と連結している鋼管21,22への荷重も想定より大きくなり、継手近傍の鋼管21,22が局所的に破損するなど、鋼管全体の挙動が不安定化するリスクが高くなる。このリスクを勘案すると、継手部材の板厚は鋼管21,22の板厚の2倍程度に抑えることが好ましく、鋼管21,22の標準的な最大板厚が30mmであることと合わせて、通常想定されるベンドロール管から後加工工程で継手部材を形成する際に内周面や外周面から切削する総量を10mm程度と考えれば、ベンドロール管の板厚は最大70mm程度とすることが好ましい。また、継手部材に使用されるベンドロール管は、市中材として入手しやすい板厚として40mm以上のものであってもよく、また鋼管杭としての施工性の維持および継手部材への切削量の低減のために板厚が60mm以下のものであってもよい。このとき鋼管21,22の板厚は6mm以上30mm以下、外径は400mm以上1600mm以下である。また、鋼管52の溶接部53(内嵌部材3および外嵌部材4の溶接部33,43)は例えばサブマージアークによって形成され、鋼管52の周方向における溶融凝固部(溶接金属)の幅は径方向の全厚にわたり1mmよりも大きくなる。
【0020】
上述のように本実施形態では継手部材に高価な合金材料を使用しない低強度材料を使用することによって材料コストが低く抑えられており、従って材料コストを抑制するために継手部材を薄肉化する必要はない。継手部材が薄肉化されていないことによって、例えば設計上想定されていない変形によって噛み合わせが悪化し、設計耐力が確保されない事態を回避することができる。継手の噛み合わせをより強固にする場合、継手部材の材料の強度を相対的に低くすることで材料コストを低く抑えたまま厚肉化が可能となる。さらに、継手部材が厚肉化されることで剛性が高くなるため、ベンドロール管を継手部材(内嵌部材3や外嵌部材4)に切削加工するときに残留応力や残留ひずみが解放されても変形を抑制でき、継手部材と鋼管(鋼管21,22)とを溶接するときの継手部材の変形を抑制することができる。加工や溶接時の変形が抑制されることで、熱矯正などの追加工程も不要となり、製品としての所定の寸法精度を満足しているかどうかの検査の効率化とそれに伴う検査コストの削減も図れる。仮に、変形が生じて熱矯正が必要になった場合でも、継手部材を構成する鋼材はCrやMoなどの合金材料の含有量が少ない、または強度向上を目的として直接的に使用していないため、入熱による割れに対する抵抗性も高い。
【0021】
ここで、溶接部33,43,53の特定および鋼管52の周方向における溶融凝固部の幅の測定方法について説明する。溶接部33,43,53の特定は、継手部材の周方向断面から溶接部33,43,53を含む部分で周方向に50mm程度ずつの長さ(全長で100mm程度)の試料を採取し、その断面を表面研磨して適切な方法で腐食させ、この研磨面を目視で観察し、溶融凝固部および熱影響部(溶接によって金属組織や機械特性が変化した、完全に溶融していない鋼管52の母材部)からなる領域を特定する。その後、光学顕微鏡での観察により外面から内面まで板厚方向に1mm間隔で溶融凝固部の周方向の幅を測定する。ここで、代表的な腐食液としてナイタールが挙げられるが、鋼材の成分や種類に応じて適切な腐食液を選択すればよい。溶融凝固部は、腐食液によって母材部および熱影響部と異なる組織形態やコントラストを有する領域として視認できる。例えば、炭素鋼の溶融凝固部は、ナイタールで腐食した断面は、光学顕微鏡で白く観察される領域として特定できる。
【0022】
このようにして、本実施形態では、例えば鋼管21,22と同等の強度の材料で継手部材である内嵌部材3および外嵌部材4を形成することによって、構造性能を確保しつつ低コスト化を実現することができる。このような連結構造によって連結された複数の鋼管は、例えば建築および土木基礎用の鋼管杭や壁構造体、さらに仮設構造物として利用することができる。
【0023】
図4は、本発明の実施形態において適用可能な継手構造の例を示す断面図である。図示された例では、内嵌部材3のうち鋼管21に接合される接合部31の板厚が、鋼管21の板厚よりも厚くなっている。内嵌部材3と鋼管21との間の溶接部23では鋼管21の端面に外側から開先が形成され、内側にはリング状の裏当て金231が当接させられている。上記のように接合部31の板厚は鋼管21の板厚よりも厚く、接合部31は鋼管21よりも内側に張り出しているため、接合部31の端面311に裏当て金231を当接させて位置決めすることは容易である。一方、外嵌部材4のうち鋼管22に接合される接合部41の板厚が、鋼管22の板厚よりも厚くなっている。外嵌部材4と鋼管22との間の溶接部24では鋼管22の端面が外側から開先加工され、内側にはリング状の裏当て金241が当接させられている。上記のように接合部41の板厚は鋼管22の板厚よりも厚く、接合部41は鋼管22よりも内側に張り出しているため、接合部41の端面411に裏当て金241を当接させて位置決めすることは容易である。
【0024】
例えば、内嵌部材3や外嵌部材4の接合部31,41にテーパー部分を形成して鋼管21,22側の端部の板厚を鋼管21,22と同じにすることも可能であるが、切削などによってテーパー部分を形成するのには加工コストがかかる。上述のように継手部材について強度を高める合金材料を使用しない場合や、熱処理をしない場合には接合部31,41を含む継手部材の板厚が厚くなりテーパー部分を形成するための切削などの加工量も多くなる傾向がある。このような場合に、上記のようにテーパー部分を形成することなく接合部31,41の板厚が鋼管21,22の板厚よりも厚いままにすることで、加工コストを低減することは有用である。ただし、内嵌部材3や外嵌部材4の接合部31,41にテーパー部分を形成することを否定するものではない。また、内嵌部材3の内周面34や外嵌部材4の外周面44の全体を切削加工せず、黒皮のままにしてもよい。また、突出部322,422が形成されない、内嵌部材3の接合部31の外周面312や、外嵌部材4の接合部41の内周面412も切削加工せず、黒皮のままにしてもよい。
【0025】
ベンドロール管を継手形状に加工する際、内嵌部材3と外嵌部材4とが、軸方向(z方向)および径方向(x方向)において、互いに接触し得る突出部322,422および間隙部分323,423については切削加工で寸法精度を確保する必要があるが、それ以外の部分は黒皮のままにしておくことで加工コストを低減できる。図示された例のように鋼管21,22の端面を開先加工することで、鋼管21,22よりも板厚が大きい内嵌部材3および外嵌部材4の開先加工を不要にでき、継手製作にかかる加工量を最小化できる。
【0026】
なお、図示された例では鋼管21,22の端面が外側から開先加工されて内側から裏当て金231,241が当接させられるが、これとは逆に鋼管21,22の端面を内側から開先加工し、外側から裏当て金を当接させてもよい。また、図示された例では内嵌部材3のうち接合部31の板厚が鋼管21の板厚よりも厚く、かつ外嵌部材4のうち接合部41の板厚が鋼管22の板厚よりも厚くなっているが、これらの構成は個別に採用されてもよい。つまり、例えば内嵌部材3のうち接合部31の板厚が鋼管21の板厚よりも厚い一方で、外嵌部材4のうち接合部41の板厚が鋼管22の板厚以下であってもよい。また、内嵌部材3のうち接合部31の板厚が鋼管21の板厚以下である一方で、外嵌部材4のうち接合部41の板厚が鋼管22の板厚よりも厚くてもよい。また、図示された例では鋼管21,22の外周面と、内嵌部材3の接合部31の外周面312と、外嵌部材4の外周面44が略同一面上に位置しているが、各部材の外形は必ずしも同じでなくてもよい。従って、例えば、外嵌部材4の外周面44が鋼管21,22の外周面または内嵌部材3の接合部31の外周面312よりも外側に張り出していてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…連結構造、21,22…鋼管、23,24…溶接部、231,241…裏当て金、3…内嵌部材、4…外嵌部材、31,41…接合部、311,411…端面、312…外周面、412…内周面、32,42…嵌合部、321…縮径部、421…拡径部、322,422…突出部、323,423…間隙部分、33,43…溶接部、34…内周面、44…外周面、51…鋼板、52…鋼管、53…溶接部。