(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053564
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から生成された光受容体および光受容体前駆体
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240408BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023203590
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2021162946の分割
【原出願日】2014-03-14
(31)【優先権主張番号】61/793,168
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509236520
【氏名又は名称】アステラス インスティテュート フォー リジェネレイティブ メディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランツァ, ロバート ピー.
(72)【発明者】
【氏名】リュ, シ-ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ウェイ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、多能性幹細胞からの光受容体細胞および光受容体前駆細胞の生成のための方法が提供することである。光受容体細胞および光受容体細胞の組成物、ならびにその治療的使用のための方法が、さらに提供することである。
【解決手段】
解決手段の例示的な方法は、光受容体細胞および/または光受容体細胞の実質的に純粋な培養物を生成し得る。一局面において、光受容体前駆細胞の実質的に純粋な調製物が提供され、この調製物は、複数の光受容体前駆細胞、および前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地を含み、前記調製物中の前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光受容体前駆細胞の実質的に純粋な調製物であって、
複数の光受容体前駆細胞、および
前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地
を含み、
前記調製物中の前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である、調製物。
【請求項2】
光受容体前駆細胞の調製物であって、
少なくとも50パーセントの光受容体前駆細胞を含む複数の細胞、および
前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地
を含み、
前記光受容体前駆細胞が、免疫細胞化学的にPAX6(+)およびCHX10(-)であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である、調製物。
【請求項3】
光受容体前駆細胞の調製物であって、
多能性幹細胞、網膜神経節細胞、成熟光受容体および/またはアマクリン細胞を実質的に含まない複数の光受容体前駆細胞;ならびに
前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地
を含み、
前記光受容体前駆細胞が、免疫細胞化学的にPAX6(+)およびCHX10(-)であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である、調製物。
【請求項4】
哺乳動物患者における使用に適切な光受容体前駆細胞の医薬調製物であって、
(a)複数の光受容体前駆細胞であって、前記調製物中の前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である、複数の光受容体前駆細胞;ならびに
(b)哺乳動物患者中への移植のために前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するための薬学的に許容される担体
を含む、医薬調製物。
【請求項5】
少なくとも109の光受容体前駆細胞(PRPC)を含む低温細胞調製物であって、
(a)複数の光受容体前駆細胞であって、前記調製物中の前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である、複数の光受容体前駆細胞;ならびに
(b)解凍の際の前記光受容体前駆細胞の生存度と適合性の凍結保存系
を含む、低温細胞調製物。
【請求項6】
前記光受容体前駆細胞が、多能性幹細胞から誘導される、請求項1から5のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項7】
多能性幹細胞が、ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹細胞からなる群より選択される、請求項6に記載の調製物。
【請求項8】
前記光受容体前駆細胞がヒト細胞である、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項9】
前記光受容体前駆細胞の大部分が、qPCRによって検出されるNr2e3、Trβ2、RORβおよびNROについてmRNA転写物陽性である、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項10】
前記光受容体前駆細胞が、網膜神経前駆細胞と比較して、分泌されたタンパク質のイムノアッセイまたはqPCRによるmRNA転写物レベルによって検出されるuPA、テネイシン-C、CXCL16、CX3CL1およびキチナーゼ3様-1から選択される1種または複数のマーカーを、少なくとも2倍多く発現する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項11】
前記光受容体前駆細胞が、細胞培養物中で少なくとも20回の集団倍加を起こす複製能力を有し、前記細胞の25パーセント未満が、20回目の倍加までに、細胞死を起こす、老化する、または表現型的に光受容体でない細胞へと分化する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項12】
前記光受容体前駆細胞が、それぞれグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼのタンパク質またはmRNAレベルよりも少なくとも25パーセント少ない、トランスフェリンタンパク質およびまたはトランスフェリンmRNAレベルを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項13】
前記光受容体前駆細胞は、HLAが遺伝子型的に同一である、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項14】
前記光受容体前駆細胞がゲノム的に同一である、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項15】
前記光受容体前駆細胞が、8kbよりも長い平均末端制限断片長(TRF)を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項16】
前記光受容体前駆細胞が、胎仔由来光受容体と比較して、統計的に有意な減少した含量および/または酵素活性の、(i)細胞周期調節および細胞加齢、(ii)細胞エネルギーおよび/または脂質代謝、ならびに(iii)アポトーシスのうちの1つまたは複数に関与するタンパク質を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項17】
前記光受容体前駆細胞が、胎仔由来光受容体と比較して、統計的に有意な増加した含量および/または酵素活性の、細胞骨格構造およびそれに関連する細胞動態に関与するタンパク質を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項18】
ヒト患者への投与に適切である、請求項4に記載の調製物。
【請求項19】
非ヒト獣医学的患者への投与に適切である、請求項4に記載の調製物。
【請求項20】
前記光受容体前駆細胞が、共通の多能性幹細胞供給源から分化する、請求項6または7に記載の調製物。
【請求項21】
前記光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な前記培地が、ヒト患者における注射に適切な、培養培地、凍結保存剤および生体適合性注射媒体からなる群より選択される、請求項1に記載の調製物。
【請求項22】
前記光受容体前駆細胞が、杆体および錐体の両方へと分化する可塑性を維持する、前記
請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項23】
前記光受容体前駆細胞が、ELOVL4-TG2マウスの網膜下空間中に移植された場合に、外顆粒層へと遊走し、前記ELOVL4-TG2マウスにおいて暗順応および明順応ERG応答を改善する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項24】
発熱物質およびマイコゲンを含まない、請求項4に記載の医薬調製物。
【請求項25】
前記光受容体前駆細胞が、食作用活性を有し、単離された光受容体外節、pHrodo(商標)Red E.coli BioParticlesまたはそれらの両方を貪食する能力を任意選択で有する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項26】
前記光受容体前駆細胞が、1種または複数の神経保護因子を分泌する、前記請求項のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項27】
多能性幹細胞由来光受容体細胞の実質的に純粋な調製物であって、
(a)多能性幹細胞由来光受容体細胞であって、前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+、CHX10-であり、ロドプシン+および/またはオプシン+である、多能性幹細胞由来光受容体細胞;ならびに
(b)前記幹細胞由来光受容体細胞の生存度を維持するのに適切な培地
を含む、調製物。
【請求項28】
哺乳動物患者における使用に適切な光受容体の医薬調製物であって、
(a)多能性幹細胞由来光受容体細胞であって、前記細胞の90%超が、免疫細胞化学的にPAX6+、CHX10-であり、ロドプシン+および/またはオプシン+である、多能性幹細胞由来光受容体細胞;ならびに
(b)哺乳動物患者中への移植のために前記光受容体細胞の生存度を維持するための薬学的に許容される担体
を含む、医薬調製物。
【請求項29】
患者における光受容体の喪失によって引き起こされる疾患または障害を処置する方法であって、請求項4に記載の光受容体前駆細胞の医薬調製物もしくは請求項28に記載の光受容体細胞の医薬調製物またはそれらの両方を投与するステップを含む、方法。
【請求項30】
細胞の前記調製物が、前記患者の網膜下空間中に注射される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
光受容体前駆細胞を生成する方法であって、
個々の細胞球を形成するのに十分な期間にわたって低接着条件または非接着条件との間を交互に繰り返す培養条件下で、次いで接着条件下で眼野前駆細胞を培養するステップ
を含み、
前記培養条件を交互に繰り返すことが、前記細胞の大部分が光受容体前駆細胞になるまで継続され、前記光受容体前駆細胞が、PAX6(+)およびCHX10(-)として特徴付けられ、前記光受容体前駆細胞が、レチノイン酸での処理の際に光受容体細胞へと分化する、方法。
【請求項32】
光受容体前駆細胞を生成する方法であって、
(a)細胞クラスターが個々の細胞球を形成するのに十分な期間にわたって、神経分化培地中で、好ましくは細胞クラスターとして、好ましくは低接着条件または非接着条件下で眼野前駆細胞を培養するステップであって、前記眼野前駆細胞は、免疫染色および/ま
たはフローサイトメトリーによって決定されるPAX6(+)およびRX1(+)およびOCT4(-)およびNANOG(-)として特徴付けられ、好ましくは、SIX3(+)、SIX6(+)、LHX2(+)、TBX3(+)、SOX2(+)およびネスチン+としても特徴付けられる、ステップ;
(b)接着条件下で、好ましくは、ゼラチン、アルギネート、1型コラーゲン、Matrigel(商標)、ポリグリコリド、コラーゲン、フィブリンまたは自己組織化ペプチドなどの生体材料足場上で、培養物中の細胞の大部分がPAX6(+)、CHX10(+)およびSOX2(-)として特徴付けられる網膜神経前駆細胞になるまで、神経分化培地中で前記細胞球を培養するステップ;
(c)その後、前記網膜神経前駆細胞が個々の細胞球を形成するのに十分な期間にわたって、低接着条件または非接着条件の間で培養条件を1回または複数回交互に繰り返し、次いで、接着条件下で細胞球を含む前記網膜神経前駆細胞を培養するステップであって、前記培養条件を交互に繰り返すことが、前記細胞の大部分が光受容体前駆細胞になるまで継続され、前記光受容体前駆細胞が、PAX6(+)およびCHX10(-)として特徴付けられ、好ましくは、qPCRによって検出されるMash1、Nr2e3、Trβ2、RORβおよびNROについてmRNA転写物陽性としても特徴付けられ、前記光受容体前駆細胞が、レチノイン酸での処理の際に光受容体細胞へと分化する、ステップ
を含む、方法。
【請求項33】
前記光受容体前駆細胞が、多能性幹細胞から誘導される、請求項29から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞であり、任意選択でヒト胚性幹細胞またはヒト人工多能性幹細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
多能性幹細胞を実質的に含まない前記光受容体前駆細胞が提供される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記光受容体前駆細胞が、他の細胞型に対して、少なくとも50%純粋、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%純粋である、請求項29から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記光受容体前駆細胞を凍結保存するさらなるステップを含む、請求項29から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
多能性幹細胞由来光受容体前駆細胞の実質的に純粋な培養物を調製するための方法であって、
(a)無フィーダー系において多能性幹細胞を培養して、1つまたは複数の眼野前駆細胞を生成するステップ;
(b)前記1つまたは複数の眼野前駆細胞を培養して、PAX6+およびCHX10+である網膜神経前駆細胞を生成するステップ;
(c)前記網膜神経前駆細胞を培養して、PAX6+およびCHX10-である光受容体前駆細胞(PRPC)を生成するステップ
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、特許法§119(e)の下、「多能性幹細胞から生成された光受容体および光受容体前駆体」との表題の2013年3月15日に出願された米国仮出願第61/793,168号(この全体の内容は、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
網膜疾患は、有糸分裂後のニューロン細胞の喪失に起因して盲目を生じる場合が多い。網膜疾患のなかでは、杆体または錐体ジストロフィー、網膜変性症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、レーバー先天黒内障およびシュタルガルト病である。ほとんどの網膜変性症では、細胞喪失は主に、杆体光受容体および錐体光受容体を含む外顆粒層中である。有糸分裂後のニューロン細胞集団の喪失が存在する場合、光受容体細胞の代替物としての新たな細胞の外因性供給源が必要とされる。
【0003】
光受容体細胞の潜在的な代替物供給源には、幹細胞が含まれる。初期の研究は、喪失された光受容体の代替物としての細胞の可能な供給源としての、マウス細胞、マウス幹細胞または網膜前駆細胞の不均一集団の使用を企図していた。これらの初期の研究は、生後1日目のマウス網膜由来の光受容体先駆細胞の移植(Maclarenら Nature 444巻(9号):203~207頁、2006年)、マウス胚性幹細胞からの網膜先駆細胞のin vitro生成(Ikedaら Proc. Natl. Acad. Sci. 102巻(32号):11331~11336頁、2005年)、生後1日目のマウス網膜からの網膜前駆細胞の生成(Klassenら Invest. Ophthal. Vis. Sci. 45巻(11号):4167~4175頁、2004年)、網膜変性症のRCSラットモデルにおける骨髄間葉系幹細胞の植え込み(Inoueら
Exp. Eye Res. 8巻(2号):234~241頁、2007年)、H1ヒト胚性幹細胞株からの、神経節細胞、アマクリン細胞、光受容体(ここで、総細胞の0.01%が、S-オプシンまたはロドプシンを発現した)、双極細胞および水平細胞を含む網膜前駆細胞の生成(Lambaら Proc. Natl. Acad. Sci.
10巻(34号):12769~12774頁、2006年)ならびに網膜前駆細胞を生成するためのヒト線維芽細胞からの人工多能性幹細胞(iPS)の誘導(Lambaら
PLoS ONE 5巻(1号):e8763頁.doi:10.1371/journal.pone.0008763)を記載した。これらのアプローチには、植え込みのための光受容体前駆細胞または光受容体細胞の均一集団を生成したものは存在しなかった。これらのアプローチには、in vivoでの杆体または錐体機能(例えば、視力における改善を付与することによって検出可能)を示した光受容体前駆細胞または光受容体細胞の均一集団を生成したものは存在しなかった。光受容体および光受容体前駆体が単離され得るドナー由来組織(例えば、屍体、胎仔組織および生動物)の供給は、限定的である。幹細胞は、in vitroで無制限に繁殖および拡大増殖され得、ヒト治療のための非ドナー由来細胞の潜在的に無尽蔵の供給源を提供する。光受容体前駆体または光受容体の均一集団への幹細胞の分化は、移植および網膜疾患の処置のための非ドナー由来細胞の豊富な供給を提供し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Maclarenら Nature(2006年)444巻(9号):203~207頁
【非特許文献2】Ikedaら Proc. Natl. Acad. Sci.(2005年)102巻(32号):11331~11336頁
【非特許文献3】Klassenら Invest. Ophthal. Vis. Sci.(2004年)45巻(11号):4167~4175頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある特定の実施形態では、本発明は、光受容体前駆細胞の実質的に純粋な調製物を提供し、この調製物は、複数の光受容体前駆細胞、およびこれらの光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地を含む。
【0006】
ある特定の実施形態では、本発明は、光受容体前駆細胞の調製物を提供し、この調製物は、少なくとも50パーセントの光受容体前駆細胞を含む複数の細胞、およびこれらの光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地を含む。
【0007】
ある特定の実施形態では、本発明は、光受容体前駆細胞の調製物を提供し、この調製物は、多能性幹細胞、網膜神経節細胞、成熟光受容体および/またはアマクリン細胞を実質的に含まない、即ち、これらの細胞の10%未満またはいずれか、さらにいっそう好ましくは5%未満、2%未満、1%未満、0.1%未満またはさらには0.01%未満の眼野多能性幹細胞(eye field pluripotent stem cell)、網膜神経節細胞、成熟光受容体および/またはアマクリン細胞を含む、複数の光受容体前駆細胞;ならびにこれらの光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地を含む。
【0008】
ある特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物患者における使用に適切な光受容体前駆細胞の医薬調製物を提供し、この医薬調製物は、複数の光受容体前駆細胞;および哺乳動物患者中への移植のためにこれらの光受容体前駆細胞の生存度を維持するための薬学的に許容される担体を含む。
【0009】
ある特定の実施形態では、本発明は、少なくとも109の光受容体前駆細胞、およびこれらの光受容体前駆細胞と適合性であり、解凍の後のかかる細胞の生存度を維持するための凍結保存系を含む低温細胞調製物(cryogenic cell preparation)を提供する。
【0010】
上記調製物の好ましい実施形態では、この調製物中の細胞の少なくとも70%が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性であり(任意選択でではあるが)、さらにいっそう好ましくは、この調製物中の細胞の少なくとも80%、90%、95%または98%が、免疫細胞化学的にPAX6+およびCHX10-であり、qPCRによって検出されるMASH1についてmRNA転写物陽性である(任意選択でではあるが)。
【0011】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞の大部分は、qPCRによって検出されるNr2e3、Trβ2、RORβおよびNROについてmRNA転写物陽性である。
【0012】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、網膜神経前駆細胞と比較して、分泌されたタンパク質のイムノアッセイまたはqPCRによるmRNA転写物レベルによって検出されるuPA、テネイシン-C、CXCL16、CX3CL1およびキチナーゼ3様-1から選択される1種または複数のタンパク質を、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍またはさらには10倍多く発現する。
【0013】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、細胞培養物中で少なくとも10回、20回、30回、50回またはさらには100回の集団倍加を起こす複製能力を有し、これらの細胞の25パーセント未満が、10回目、20回目、30回目、50回目またはさらには100回目の倍加までに、細胞死を起こす、老化する、または表現型的に光受容体でない細胞へと分化する。
【0014】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼについてよりも、少なくとも10、25、50またはさらには75パーセント少ない、トランスフェリンタンパク質およびまたはトランスフェリンmRNAレベルを有する。
【0015】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、HLAが遺伝子型的に同一であり、好ましくは、ゲノム的に同一である。
【0016】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、7kb、7.5kb、8kb、8.5kb、9kb、9.5kb、10kb、10.5kb、11kb、11.5kbまたはさらには12kbよりも長い平均末端制限断片長(TRF)を有する。
【0017】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、胎仔由来光受容体と比較して、統計的に有意な減少した含量および/または酵素活性の、(i)細胞周期調節および細胞加齢、(ii)細胞エネルギーおよび/または脂質代謝、ならびに(iii)アポトーシスのうちの1つまたは複数に関与するタンパク質を有する。
【0018】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、胎仔由来光受容体と比較して、統計的に有意な増加した含量および/または酵素活性の、細胞骨格構造およびそれに関連する細胞動態に関与するタンパク質を有する。
【0019】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、ヒト患者への投与に適切である。
【0020】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、非ヒト獣医学的患者への投与に適切である。
【0021】
上記調製物中の好ましい実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、好ましくは胚性幹細胞および人工多能性幹細胞からなる群より選択される、哺乳動物多能性幹細胞、特にヒト多能性幹細胞から誘導される。
【0022】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、共通の多能性幹細胞供給源から分化する。
【0023】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、杆体および錐体の両方へと分化する可塑性を維持する。
【0024】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、ELOVL4-TG2マウスの網膜下空間中に移植され得、外顆粒層へと遊走し、このELOVL4-TG2マウスにおいて暗順応および明順応ERG応答を改善する。
【0025】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、食作用活性、例えば、単離された光受容体外節、pHrodo(商標)Red E.coli BioParticlesまたはそれらの両方を貪食する能力を有する。
【0026】
ある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、1種または複数の神経保護因子を分泌する。
【0027】
ある特定の実施形態では、光受容体前駆細胞の生存度を維持するのに適切な培地は、ヒト患者における注射に適切な、培養培地、凍結保存剤および生体適合性注射媒体からなる群より選択される。
【0028】
ある特定の実施形態では、この光受容体前駆細胞調製物は、発熱物質およびマイコゲン(mycogen)を含まない。
【0029】
本発明の別の態様は、哺乳動物患者における使用に適切な光受容体の医薬調製物を提供し、この医薬調製物は、多能性幹細胞由来光受容体細胞であって、これらの細胞の70%超、80%超、90%超、95%超またはさらには98%超が、免疫細胞化学的にPAX6+、CHX10-であり、ロドプシン+および/またはオプシン+である、多能性幹細胞由来光受容体細胞;ならびに哺乳動物患者中への移植のためにこれらの光受容体細胞の生存度を維持するための薬学的に許容される担体を含む。
【0030】
本発明のなお別の態様は、網膜色素上皮細胞、および光受容体前駆細胞、光受容体細胞またはそれらの両方のいずれか;ならびに哺乳動物患者中への移植のためにこれらの光受容体細胞の生存度を維持するための薬学的に許容される担体を含む、医薬調製物を提供する。この細胞の調製物は、細胞懸濁物として(一緒に混合されるか、もしくは共同して送達される別々の用量の細胞を有するキットの形態でのいずれか)、または多層細胞移植片として(生体適合性マトリックスもしくは固体支持体上に任意選択で配置されて)、提供され得る。多層細胞移植片の場合、RPE細胞は、単層として、好ましくは極性化単層として提供され得る。
【0031】
本発明のさらに別の態様は、患者における光受容体の喪失によって引き起こされる疾患または障害を処置するための方法を提供し、この方法は、本明細書に記載されるかかる医薬調製物、例えば、光受容体前駆細胞もしくは光受容体細胞またはそれらの両方の調製物を投与するステップを含む。これらの調製物は、局所的に、例えば、患者の眼の網膜下空間中に、患者の硝子体中に注射され得るか、または全身的に、もしくは細胞が持続し得る他の体腔中に送達され得る。
【0032】
光受容体の喪失によって引き起こされる疾患または障害には、黄斑変性症、例えば初期であれ後期段階であれ加齢性黄斑変性症、および網膜色素変性症が含まれる。
【0033】
ある特定の実施形態では、本発明は、以下のステップを含む、光受容体前駆細胞を生成する方法を提供する。
【0034】
(a)細胞クラスターが個々の細胞球(cell sphere)を形成するのに十分な期間にわたって、神経分化培地中で、好ましくは細胞クラスターとして、好ましくは低接着条件または非接着条件下で眼野前駆細胞を培養するステップ;
(b)接着条件下で、好ましくは、マトリックス(例えば、生体材料足場)上で、培養物中の細胞の大部分がPAX6+、CHX10+およびSOX2-として特徴付けられる網膜神経前駆細胞になるまで、神経分化培地中でこれらの細胞球を培養するステップ;
(c)その後、これらの網膜神経前駆細胞が個々の細胞球を形成するのに十分な期間にわたって、低接着条件または非接着条件の間で培養条件を1または複数回交互に繰り返し、次いで、接着条件下で細胞球を含む網膜神経前駆細胞を培養するステップであって、交互に繰り返す培養条件が、これらの細胞の大部分が光受容体前駆細胞になるまで継続され
る、ステップ。
【0035】
好ましい実施形態では、これらの眼野前駆細胞は、免疫染色および/もしくはフローサイトメトリー、または細胞におけるマーカー発現を特徴付けるために使用される他の標準的なアッセイによって決定され得るとおり、例えば、免疫細胞化学的にPAX6+およびRX1+およびOCT4-およびNANOG-として特徴付けられ、さらにいっそう好ましくは、Six3+、Six6+、Lhx2+、Tbx3+、SOX2+およびネスチン+としても特徴付けられる。
【0036】
好ましい実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、例えば免疫細胞化学的に、PAX6+およびCHX10-として特徴付けられ(例えば、免疫染色および/もしくはフローサイトメトリー、または細胞におけるマーカー発現を特徴付けるために使用される他の標準的なアッセイによって決定され得る)、さらにいっそう好ましくは、qPCRによって検出されるMash1、Nr2e3、Trβ2、RORβおよびNROについてmRNA転写物陽性としても特徴付けられる。
【0037】
好ましい実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、レチノイン酸での処理の際に光受容体細胞へと分化することが可能であるとして特徴付けられる。
【0038】
好ましい実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、杆体および錐体の両方へと分化する可塑性を維持する。
【0039】
好ましい実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、ELOVL4-TG2マウスの網膜下空間中に移植された場合に、外顆粒層へと遊走し、対照(細胞注射なし)ELOVL4-TG2マウスと比較して、このELOVL4-TG2マウスにおいて暗順応および明順応ERG応答を改善する。
【0040】
ある特定の実施形態では、これらの接着条件には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアルキレン、ポリフルオロクロロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(polyethyene terephtalate)、セルロース、ガラス繊維、セラミック粒子、生体材料足場、ポリL乳酸、デキストラン、不活性金属繊維、シリカ、ナトロンガラス、ホウケイ酸ガラス、キトサンまたは植物性スポンジのうちの1種または複数を含む、単に例示のためであり得る接着性材料を含む、細胞が接着し得る表面を有する培養系が含まれる。一部の実施形態では、この接着性材料は、静電的に荷電している。ある特定の実施形態では、この生体材料足場は、細胞外マトリックス、例えばコラーゲン(例えば、IV型またはI型コラーゲン)、804G由来マトリックス、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロネクチン(chondronectin)、ラミニンまたはMatrigel(商標)である。他の実施形態では、この生体材料は、ゼラチン、アルギネート、ポリグリコリド、フィブリンまたは自己組織化ペプチドである。
【0041】
ある特定の実施形態では、これらの眼野前駆細胞、ならびに結果として網膜神経前駆細胞および光受容体前駆細胞は、多能性幹細胞、例えば胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から誘導される。
【0042】
好ましい実施形態では、多能性幹細胞を実質的に含まない、即ち、10%未満の多能性幹細胞、さらにいっそう好ましくは5%未満、2%未満、1%未満、0.1%未満またはさらには0.01%未満の多能性幹細胞を含む、光受容体前駆細胞の得られた調製物が提供される。
【0043】
好ましい実施形態では、眼野前駆細胞および網膜神経前駆細胞を実質的に含まない、即ち、これらの細胞の10%未満またはいずれか、さらにいっそう好ましくは5%未満、2%未満、1%未満、0.1%未満またはさらには0.01%未満の眼野前駆細胞および網膜神経前駆細胞を含む、光受容体前駆細胞の得られた調製物が提供される。
【0044】
好ましい実施形態では、この光受容体前駆細胞の得られた調製物の細胞性成分は、他の細胞型(即ち、光受容体前駆細胞ではない細胞)に対して、少なくとも50%純粋、好ましくは少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%純粋である。
【0045】
ある特定の実施形態では、この方法は、光受容体前駆細胞を凍結保存するさらなるステップを含む。これらの細胞は、好ましくは、凍結保存剤を除去するために細胞を任意選択で洗浄した後に、凍結細胞を最終的に解凍することと適合性である凍結保存剤中で凍結され、これらの光受容体は、少なくとも25%の細胞生存度(例えば、培養効率に基づく)、より好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%またはさらには少なくとも90%の細胞生存度を保持する。
【0046】
種々の前駆細胞ならびに光受容体細胞が、凍結保存され得る。一部の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、球として凍結保存される。
【0047】
ある特定の実施形態では、神経分化培地(または本明細書でしばしばそのまま言及される培地)は、D-グルコース、ペニシリン、ストレプトマイシン、GlutaMAX(商標)、N2サプリメント、B27サプリメント、MEM非必須アミノ酸溶液を含み得、任意選択でノギンを含む。
【0048】
この神経分化培地は、ノッチ経路を活性化する薬剤、例えばノッチリガンドまたは抗体を含み得る。
【0049】
ある特定の実施形態では、この神経分化培地は、本質的に無血清の培地、例えばMEDII順化培地であり得る。ある特定の実施形態では、この神経分化培地は、DMEM/F12、FGF-2およびMEDII順化培地を含む。ある特定の実施形態では、この神経分化培地は、およそ10%~およそ50%>の間のMEDII順化培地である。ある特定の実施形態では、このMEDII順化培地は、Hep G2順化培地である。このMEDII培地は、大きい分子量の細胞外マトリックスタンパク質を含み得る。このMEDII培地は、プロリンを含む低分子量成分を含み得る。
【0050】
ある特定の実施形態では、この神経分化培地は、本質的に無血清の細胞分化環境であり、5%未満の血清を含む。
【0051】
ある特定の実施形態では、この神経分化培地は、本質的にLIFを含まない。
【0052】
この神経分化培地は、種々のサプリメント、例えばB27サプリメント(Invitrogen)およびN2サプリメント(これもInvitrogenから)もまた含み得る。B27サプリメントは、他の構成要素のうちで、SOD、カタラーゼおよび他の抗酸化剤(GSH)、ならびに独自の脂肪酸、例えばリノール酸、リノレン酸、リポ酸を含む。N2サプリメントは、例えば、以下のカクテル:トランスフェリン(10g/L)、インスリン(500mg/L)、プロゲステロン(0.63mg/L)、プトレシン(1611mg/L)およびセレナイト(0.52mg/L)で置き換えられ得る。
【0053】
上述の態様および実施形態のある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、
多能性幹細胞供給源、例えば、OCT4、アルカリホスファターゼ、SOX2、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-80を発現する多能性幹細胞(例えば、胚性幹(ES)細胞株または誘導多能性幹(iPS)細胞株であるがこれらに限定されない)から、さらにいっそう好ましくは共通の多能性幹細胞供給源から、分化する。
【0054】
上述の態様および実施形態のある特定の実施形態では、これらの光受容体前駆細胞は、7kb、7.5kb、8kb、8.5kb、9kb、9.5kb、10kb、10.5kb、11kb、11.5kbまたはさらには12kbよりも長い平均末端制限断片長(TRF)を有する。
【0055】
上述の態様および実施形態のある特定の実施形態では、調製物は、ヒト患者への投与に適切であり、より好ましくは、発熱物質を含まないおよび/または非ヒト動物生成物を含まない。
【0056】
上述の態様および実施形態のある特定の実施形態では、調製物は、例えばイヌ、ネコまたはウマであるがこれらに限定されない非ヒト獣医学的哺乳動物への投与に適切である。
【0057】
一態様では、本開示は、眼野前駆細胞を生成する方法を提供し、この方法は、(a)網膜誘導培養培地中で多能性幹細胞を培養するステップを含む。これらの多能性幹細胞は、ヒトであり得る。
【0058】
この網膜誘導培養培地は、インスリンを含み得る。このインスリンは、ヒトであり得る。このインスリンは、約5~50ug/mlのヒトインスリンまたは約25ug/mlの濃度で存在し得る。この網膜誘導培養培地は、DMEM/F12、DMEM/高グルコースまたはDMEM/ノックアウトを含み得る。
【0059】
この網膜誘導培養培地は、D-グルコースを含み得る。この網膜誘導培養培地は、約450mg/mlのD-グルコースまたは約400mg/mlと約500mg/mlとの間のD-グルコースを含み得る。
【0060】
この網膜誘導培養培地は、1種または複数の抗生物質を含み得る。これらの抗生物質には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの一方またはそれらの両方、任意選択で約0~100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約0~100μg/mlの濃度のストレプトマイシン、さらには任意選択で約100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約100μg/mlの濃度のストレプトマイシンが、含まれ得る。
【0061】
この網膜誘導培養培地は、N2サプリメントを含み得る。このN2サプリメントは、約0.1~5%または約1%の濃度で存在し得る。
【0062】
この網膜誘導培養培地は、B27サプリメントを含み得る。このB27サプリメントは、約0.05~2.0%または約0.2%の濃度で存在し得る。
【0063】
この網膜誘導培養培地は、非必須アミノ酸もしくはMEM非必須アミノ酸またはグルタミンもしくはGlutaMAX(商標)を含み得る。この非必須アミノ酸またはMEM非必須アミノ酸は、約0.1mMの濃度で存在し得る。
【0064】
この網膜誘導培養培地は、BMPシグナル伝達インヒビターを含み得る。このBMPシグナル伝達インヒビターは、ノギン、例えばノギンポリペプチド、ドルソモルフィン、LDN-193189およびそれらの任意の組合せからなる群より選択され得る。
【0065】
この網膜誘導培養培地は、ノギン、例えばノギンポリペプチドを含み得る。このノギンは、約5ng/ml~100ng/mlの間または約10ng/ml~100ng/mlの間または約50ng/mlの濃度で存在し得る。
【0066】
一部の実施形態では、この培地は、ノギン、DKK1およびIGF-1を含み得る。一部の実施形態では、この培地は、5ng/mlのノギン、5ng/mlのDKK1および5ng/mlのIGF-1を含み得る。
【0067】
これらの多能性幹細胞は、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞またはヒトSTAP細胞を含み得る。これらの多能性幹細胞は、無フィーダー条件および/もしくは異物フリー条件下で、ならびに/またはMatrigel(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の可溶性調製物)を任意選択で含む基材上で、および任意選択でmTESR1培地中で、インスリンを含む網膜誘導培養培地中で培養される前に、培養され得る。
【0068】
この網膜誘導培養培地は、毎日新たな網膜誘導培養培地で置き換えられ得る。ステップ(a)におけるこの培養するステップは、約1~10日間または約2~7日間または約5~6日間にわたって継続され得る。
【0069】
この方法は、(b)神経分化培地中でこれらの細胞を培養するステップをさらに含み得る。この神経分化培地は、Neurobasal培地を含み得る。
【0070】
この神経分化培地は、D-グルコースを含み得る。この神経分化培地は、約450mg/mlのD-グルコースまたは約400mg/mlと約500mg/mlとの間のD-グルコースを含み得る。
【0071】
この神経分化培地は、1種または複数の抗生物質を含み得る。これらの抗生物質には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの一方またはそれらの両方、任意選択で約0~100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約0~100μg/mlの濃度のストレプトマイシン、さらには任意選択で約100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約100μg/mlの濃度のストレプトマイシンが、含まれ得る。
【0072】
この神経分化培地は、N2サプリメントを含み得る。このN2サプリメントは、約0.1~5%または約2%の濃度で存在し得る。
【0073】
この神経分化培地は、B27サプリメントを含み得る。このB27サプリメントは、約0.05~5.0%、約0.05~2.0%または約2%の濃度で存在し得る。
【0074】
この神経分化培地は、非必須アミノ酸もしくはMEM非必須アミノ酸またはグルタミンもしくはGlutaMAX(商標)を含み得る。この非必須アミノ酸またはMEM非必須アミノ酸は、約0.1mMの濃度で存在し得る。
【0075】
この神経分化培養培地は、BMPシグナル伝達インヒビターを含み得る。このBMPシグナル伝達インヒビターは、ノギン、例えばノギンポリペプチド、ドルソモルフィン、LDN-193189およびそれらの任意の組合せからなる群より選択され得る。
【0076】
この神経分化培養培地は、ノギン、例えばノギンポリペプチドを含み得る。このノギンは、約10ng/ml~100ng/mlの間または約50ng/mlの濃度で存在し得る。
【0077】
これらの細胞は、約10~60日間または約15~35日間または約24日間にわたって、この神経分化培地中で培養され得る。
【0078】
これらの眼野前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。
【0079】
これらの眼野前駆細胞は、マーカーPAX6およびRX1の一方またはそれらの両方を発現する。したがって、これらの眼野前駆細胞は、PAX6(+)および/またはRX1(+)であり得る。これらの眼野前駆細胞は、SIX3(+)、SIX6(+)、LHX2(+)、TBX3(+)および/またはネスチン(+)のうち1つまたは複数であり得る。これらの眼野前駆細胞は、SOX2(+)およびOCT4(-)およびNanog(-)のうち1つまたは複数であり得る。これらの眼野前駆細胞は、ヒトであり得る。
【0080】
この方法は、これらの眼野前駆細胞を網膜神経前駆細胞へと分化させるステップをさらに含み得る。
【0081】
別の一態様では、本開示は、例えば、上述の段落に記載されるような、本明細書に記載される方法を使用して生成される眼野前駆細胞を含む組成物を提供する。別の一態様では、本開示は、任意選択でヒトである眼野前駆細胞を含む組成物を提供する。
【0082】
これらの眼野前駆細胞は、ヒトであり得る。これらの眼野前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。これらの眼野前駆細胞は、マーカーPAX6およびRX1の一方またはそれらの両方を発現する。したがって、これらの眼野前駆細胞は、PAX6(+)および/またはRX1(+)であり得る。これらの眼野前駆細胞は、SIX3(+)、SIX6(+)、LHX2(+)、TBX3(+)および/またはネスチン(+)のうち1つまたは複数であり得る。これらの眼野前駆細胞は、SOX2(+)およびOCT4(-)およびNanog(-)のうち1つまたは複数であり得る。これらの眼野前駆細胞は、凍結保存され得る。
【0083】
別の一態様では、本開示は、それを必要とする個体の処置の方法を提供し、この方法は、眼野前駆細胞を含む組成物(例えば、本明細書に記載される組成物または本明細書に記載される方法を使用して生成される組成物)を、この個体に投与するステップを含む。この組成物は、眼、網膜下空間または静脈内に投与され得る。かかる個体は、加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症を有し得、かかる黄斑変性症は、初期または後期段階であり得る。かかる個体は、網膜色素変性症、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障または視神経症を有し得る。
【0084】
別の一態様では、本開示は、網膜神経前駆細胞または光受容体前駆細胞を生成する方法を提供し、この方法は、(a)神経分化培地中で眼野前駆細胞を培養するステップを含む。この神経分化培地は、Neurobasal培地を含み得る。
【0085】
この神経分化培地は、D-グルコースを含み得る。この神経分化培地は、約450mg/mlのD-グルコースまたは約400mg/mlと約500mg/mlとの間のD-グルコースを含み得る。
【0086】
この神経分化培地は、1種または複数の抗生物質を含み得る。これらの抗生物質には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの一方またはそれらの両方、任意選択で約0~10
0単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約0~100μg/mlの濃度のストレプトマイシン、さらには任意選択で約100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約100μg/mlの濃度のストレプトマイシンが、含まれ得る。
【0087】
この神経分化培地は、N2サプリメントを含み得る。このN2サプリメントは、約0.1~5%または約2%の濃度で存在し得る。
【0088】
この神経分化培地は、B27サプリメントを含み得る。このB27サプリメントは、約0.05~5.0%、約0.05~2.0%または約2%の濃度で存在し得る。
【0089】
この神経分化培地は、非必須アミノ酸もしくはMEM非必須アミノ酸またはグルタミンもしくはGlutaMAX(商標)を含み得る。この非必須アミノ酸またはMEM非必須アミノ酸は、約0.1mMの濃度で存在し得る。
【0090】
この神経分化培養培地は、任意選択で、外因的に添加されたBMPシグナル伝達インヒビターを含まない。この神経分化培地は、任意選択で、外因的に添加されたノギン、例えばノギンポリペプチドを含まない。
【0091】
ステップ(a)は、(i)細胞が球を形成するまで眼野前駆細胞を培養するステップ、および(ii)これらの球を接着条件下でプレートするステップを含み得る。
【0092】
ステップ(i)は、低接着性プレート上で細胞を培養するステップを含み得る。ステップ(i)は、懸滴で細胞を培養するステップを含み得る。ステップ(i)の培養物は、培養細胞を、機械的または酵素的に単一細胞懸濁物へと分解することによって形成され得る。ステップ(i)は、1~10、3~8または約5日間にわたって継続され得る。
【0093】
ステップ(ii)は、Matrigel(商標)上にこれらの球をプレートするステップを含み得る。ステップ(ii)は、ラミニンまたはコラーゲン上にこれらの球をプレートするステップを含み得る。ステップ(ii)は、この培養物がコンフルエントになるまで継続され得る。
【0094】
ステップ(i)および(ii)は、交互に繰り返す様式で反復され得る。
【0095】
これらの細胞は、約10~60日間または約15~35日間または約25日間にわたって、この神経分化培地中で培養され得る。
【0096】
これらの網膜神経前駆細胞は、これらの眼野前駆細胞から分化し得、漸増する数でこの培養物中に存在し得る。これらの網膜神経前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。
【0097】
これらの網膜神経前駆細胞は、マーカーPAX6およびRX1の一方またはそれらの両方を発現し得る。したがって、この神経前駆細胞は、PAX6(+)および/またはCHX10(+)であり得る。この網膜神経前駆細胞は、SOX2(-)であり得る。この網膜神経前駆細胞は、Tuj1(+)またはTuj1(-)であり得る。
【0098】
これらの細胞は、約10~330日間または約15~300日間または約10~100日間または約15~100日間または約100日間にわたって、この神経分化培地中で培養され得る。
【0099】
これらの光受容体前駆細胞は、これらの網膜神経前駆細胞から分化し、漸増する数でこの培養物中に存在し得る。これらの光受容体前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。
【0100】
これらの光受容体前駆細胞は、PAX6(+)および/またはCHX10(-)であり得る。これらの光受容体前駆細胞は、マーカーNr2e3、Trβ2、Mash1、RORβおよび/またはNROのうちの1種または複数を発現し得、したがって、Nr2e3(+)および/またはTrβ2(+)および/またはMash1(+)および/またはRORβ(+)および/またはNRO(+)であり得る。
【0101】
これらの細胞は、少なくとも約130日間、少なくとも約160日間、少なくとも約190日間またはそれ超にわたって、この神経分化培地中で培養され得、それによって、これらの光受容体前駆細胞は、杆体を形成する能力を保持したまま、錐体へと分化する減少した能力を示すか、またはかかる能力を示さない。
【0102】
この方法は、これらの光受容体前駆細胞を光受容体へと分化させるステップをさらに含み得る。
【0103】
これらの眼野前駆細胞は、多能性幹細胞、例えばES細胞もしくはiPS細胞またはSTAP細胞から分化し得、この多能性幹細胞、例えばES細胞もしくはiPS細胞またはSTAP細胞は、任意選択でヒトであり得る。
【0104】
別の一態様では、これらの網膜神経前駆細胞は、ヒトであり得る。
【0105】
別の一態様では、本開示は、本明細書に記載される任意の方法、例えば、上述の段落に記載される方法に従って生成される網膜神経前駆細胞を含む組成物を提供する。別の一態様では、本開示は、任意選択でヒトである網膜神経前駆細胞を含む組成物を提供する。
【0106】
これらの網膜神経前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。
【0107】
これらの網膜神経前駆細胞は、PAX6およびCHX10マーカーの一方またはそれらの両方を発現し得、したがって、PAX6(+)および/またはCHX10(+)であり得る。これらの網膜神経前駆細胞は、SOX2(-)であり得る。これらの網膜神経前駆細胞は、Tuj1(+)またはTuj1(-)であり得る。
【0108】
これらの網膜神経前駆細胞は、凍結保存され得る。
【0109】
別の一態様では、本開示は、それを必要とする個体の処置の方法を提供し、この方法は、網膜神経前駆細胞を含む組成物、例えば、本明細書に記載される組成物または本明細書に記載される方法に従って生成される組成物を、この個体に投与するステップを含む。この組成物は、眼、網膜下空間または静脈内に投与され得る。これらの光受容体前駆細胞は、ヒトであり得る。かかる個体は、加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症を有し得、かかる黄斑変性症は、初期または後期段階であり得る。かかる個体は、網膜色素変性症、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障または視神経症を有し得る。
【0110】
別の一態様では、本開示は、本明細書に記載される方法、例えば、上述の段落に記載さ
れる方法に従って生成される光受容体前駆細胞を含む組成物を提供する。別の一態様では、本開示は、任意選択でヒトである光受容体前駆細胞を含む組成物を提供する。
【0111】
これらの光受容体前駆細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。
【0112】
これらの光受容体前駆細胞は、PAX6(+)および/またはCHX10(-)であり得る。これらの光受容体前駆細胞は、Nr2e3、Trβ2、Mash1、RORβおよび/またはNROマーカーのうちの1種または複数を発現し、したがって、Nr2e3(+)および/またはTrβ2(+)および/またはMash1(+)および/またはRORβ(+)および/またはNRO(+)であり得る。
【0113】
これらの光受容体前駆細胞は、凍結保存され得る。
【0114】
別の一態様では、本開示は、それを必要とする個体の処置の方法を提供し、この方法は、光受容体前駆細胞を含む組成物、例えば、本明細書、例えば上述の段落に記載される組成物、または本明細書、例えば上述の段落に記載される方法に従って生成される組成物を、この個体に投与するステップを含む。この組成物は、眼、網膜下空間または静脈内に投与され得る。かかる個体は、加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症を有し得、かかる黄斑変性症は、初期または後期段階であり得る。かかる個体は、網膜色素変性症、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障または視神経症を有し得る。
【0115】
別の一態様では、本開示は、光受容体細胞を生成する方法を提供し、この方法は、(a)光受容体分化培地中で光受容体前駆細胞を培養するステップを含む。この光受容体分化培地は、Neurobasal培地を含み得る。
【0116】
この光受容体分化培地は、D-グルコースを含み得る。この光受容体分化培地は、約450mg/mlのD-グルコースまたは約400mg/mlと約500mg/mlとの間のD-グルコースを含み得る。
【0117】
この光受容体分化培地は、1種または複数の抗生物質を含み得る。これらの抗生物質には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの一方または複数または全て、任意選択で約0~100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約0~100μg/mlの濃度のストレプトマイシン、さらには任意選択で約100単位/mlの濃度のペニシリンおよび任意選択で約100μg/mlの濃度のストレプトマイシンが、含まれ得る。
【0118】
この光受容体分化培地は、N2サプリメントを含み得る。このN2サプリメントは、約0.1~5%または約2%の濃度で存在し得る。
【0119】
この光受容体分化培地は、B27サプリメント(例えば、処方番号080085-SA)を含み得る。このB27サプリメントは、約0.05~5.0%、約0.05~2.0%または約2%の濃度で存在し得る。
【0120】
この光受容体分化培地は、非必須アミノ酸もしくはMEM非必須アミノ酸またはグルタミンもしくはGlutaMAX(商標)を含み得る。GlutaMAX(商標)は、L-グルタミンの安定化形態であるL-アラニル-L-グルタミンである。この非必須アミノ酸またはMEM非必須アミノ酸は、約0.1mMの濃度で存在し得る。
【0121】
この光受容体分化培地は、フォルスコリンを含み得る。このフォルスコリンは、約1~100μMの間または約5μMの濃度で、この光受容体分化培地中に存在し得る。
【0122】
この光受容体分化培地は、BDNFを含み得る。このBDNFは、約1~100ng/mlの間または約10ng/mlの濃度で、この光受容体分化培地中に存在し得る。
【0123】
この光受容体分化培地は、CNTFを含み得る。このCNTFは、約1~100ng/mlの間または約10ng/mlの濃度で、この光受容体分化培地中に存在し得る。
【0124】
この光受容体分化培地は、LIFを含み得る。このLIFは、約5~50ng/mlの間または約10ng/mlの濃度で、この光受容体分化培地中に存在し得る。
【0125】
この光受容体分化培地は、DATPを含み得る。このDATPは、約1~100μMの間または約10μMの濃度で、この光受容体分化培地中に存在し得る。
【0126】
これらの光受容体前駆細胞は、任意選択でヒトである網膜神経前駆細胞から分化し得る。これらの光受容体細胞は、ヒトであり得る。
【0127】
一部の実施形態では、光受容体前駆細胞は、光受容体分化培地中での培養の前に、ND培地中のレチノイン酸およびタウリンで予め処理される。このレチノイン酸は、約100~1000ng/mlの濃度で使用され得、タウリンは、約20~500μMの濃度で使用され得る。この培養ステップは、一部の実施形態では、約1~2週間にわたって起こり得る。この培地は、一部の場合には、2日毎に交換され得る(例えば、半分を交換)。次いで、この培地は、レチノイン酸およびタウリンを欠くND培地に交換され得、これらの細胞は、さらなる約1~2週間にわたって、またはコンフルエントになるまで、培養され得る。
【0128】
別の一態様では、本開示は、任意選択でヒトである、本明細書、例えば上述の段落に記載される方法に従って生成された光受容体細胞を含む組成物を提供する。
【0129】
これらの光受容体細胞は、PAX6(-)であり得る。これらの光受容体細胞は、この培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%を構成し得る。これらの光受容体細胞は、凍結保存され得る。
【0130】
別の一態様では、本開示は、それを必要とする個体の処置の方法を提供し、この方法は、光受容体細胞を含む組成物、例えば、本明細書、例えば上述の段落に記載される組成物、または本明細書、例えば上述の段落に記載される方法によって生成される組成物を、この個体に投与するステップを含む。この組成物は、眼、網膜下空間または静脈内に投与され得る。かかる個体は、加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症を有し得、かかる黄斑変性症は、初期または後期段階であり得る。かかる個体は、網膜色素変性症、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障または視神経症を有し得る。
【0131】
別の一実施形態では、本発明は、ヒト起源の光受容体前駆細胞(PRPC)または光受容体細胞(PR)の、好ましくは、マウス線維芽細胞フィーダープラットフォーム上で増殖させなかった細胞に起源する非ドナー由来光受容体前駆細胞または光受容体細胞の、実質的に純粋な調製物に関する。例えば、この調製物は、85%~95%純粋であり得る。一実施形態では、本発明は、マウス線維芽細胞フィーダープラットフォームから誘導された細胞の必要性を省く、ヒト起源のPRPCまたはPRの実質的に純粋な調製物を調製す
る方法に関する。本発明の方法でフィーダー系を置き換えることで、例えば、75%~100%または85%~95%の、より高い均一性の光受容体細胞を生成する。無フィーダー幹細胞の分化は、外因性誘導因子の導入の非存在下でも生じ得、これは、先行技術を超えた実質的な改善である。しかし、ノギンの任意選択の添加は、幹細胞の分化を加速し得るが、分化を生じさせるために必要というわけではない。得られた光受容体前駆細胞は、免疫細胞化学的にPAX6陽性(PAX6(+))およびCHX10陰性(CHX10(-))として、独自に特徴付けられる。
【0132】
カラー図面(複数可)を伴うこの特許または特許出願公開のコピーは、請求および必要な手数料の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【
図1】
図1は、異なる条件下で分化した細胞における眼野転写因子の転写物のリアルタイムPCR分析を示す図である。
【
図2】
図2は、分化している細胞の形態学を示す図である。(A)細胞分化の1日後に、コロニー周縁部にある細胞は、円柱形状であった(矢印)。(B)分化の10日後に、縁の細胞は、大きく平らになり(矢頭)、中心部の細胞は、小さくコンパクトであった(矢印)。(C)ロゼット様構造が、21日目に形成した。
【
図3-1】
図3は、分化の開始の21日後の培養細胞が、眼野転写因子を発現したことを示す図である。(A)PAX6(緑色)およびRX1(赤色)の同時発現は、図面のカラー版から明らかである。(B)細胞の93%が、二色フローサイトメトリー分析によって示されるように、PAX6およびRX1を同時発現した。(C)細胞は、ネスチン(赤色)を発現した。(D)細胞は、SOX2(赤色)を発現した。(C)および(D)の両方において、DAPI(青色)は、細胞核を標識する。(E)眼野転写因子の転写物のRT-PCR分析:RX1、PAX6、LHX2、SIX3、SIX6、TBX3およびSOX2。
【
図3-2】
図3は、分化の開始の21日後の培養細胞が、眼野転写因子を発現したことを示す図である。(A)PAX6(緑色)およびRX1(赤色)の同時発現は、図面のカラー版から明らかである。(B)細胞の93%が、二色フローサイトメトリー分析によって示されるように、PAX6およびRX1を同時発現した。(C)細胞は、ネスチン(赤色)を発現した。(D)細胞は、SOX2(赤色)を発現した。(C)および(D)の両方において、DAPI(青色)は、細胞核を標識する。(E)眼野転写因子の転写物のRT-PCR分析:RX1、PAX6、LHX2、SIX3、SIX6、TBX3およびSOX2。
【
図4】
図4は、分化の開始の30日後の培養細胞が網膜神経前駆体マーカーを発現したことを示す図である。(A)細胞の形態学。Matrigel(商標)上にプレートした後、ニューロンが細胞凝集体の外に遊走した(矢印)。いくつかの上皮様細胞(矢頭)が、細胞凝集体の周囲に観察される。(B)上パネル、遊走しているニューロンの位相差画像;下パネル、遊走しているニューロンは、Tuj1(赤色)を発現した。(C)細胞は、図面のカラー版から明らかなように、PAX6(赤色)およびCHX10(緑色)を同時発現した。
【
図5】
図5は、分化の開始の3カ月後の培養細胞を示す図である。(A)細胞の形態学。(B)細胞は、一部の細胞の赤色染色を示すが緑色染色は示さない図面のカラー版から明らかなように、PAX6を発現するがCHX10は発現しない。(C)リカバリンの発現は、図面のカラー版から明らかなように、細胞体の細胞質に限定される。d)、網膜神経前駆体(RNPs)および光受容体前駆細胞(PhRPsとして示される)におけるロドプシン、オプシンおよびリカバリンの転写物のリアルタイムRT-PCT分析。
【
図6】
図6は、分化した細胞が光受容体細胞マーカーを発現することを示す図である。細胞は、(A)ロドプシン(赤色)、(B)ロドプシン(赤色)およびリカバリン(緑色)、(C)オプシン(緑色)、ならびに(D)ホスホジエステラーゼ6Aアルファサブユニット(PDE6a)(赤色)を発現した。DAPI(青色)は、細胞核を標識する。これらのマーカーの発現は、図面のカラー版から明らかである。
【
図7】
図7は、ELOVL4-トランスジェニックマウスにおける動物研究の模式図を示す図である。
【
図8】
図8は、網膜下細胞注射の1カ月後に記録された暗順応ERG強度-応答関数を示す図である。PBS(黒色線)または光受容体前駆細胞(PhRPsとして示される、灰色線)を投与したELOVL4-TG2マウスからの暗順応a波(上パネル)およびb波(下パネル)についての刺激強度曲線。
*、p<0.001(対PBS)。
【
図9】
図9は、全身性細胞注射の1カ月後に記録された暗順応ERG強度-応答関数を示す図である。PBS、光受容体前駆細胞(PhRPsとして示される)またはレチノイン酸処理光受容体前駆細胞(PhRPs-RA)を投与したELOVL4-TG2マウスからの暗順応a波(上パネル)およびb波(下パネル)についての刺激強度曲線。ブランクは、未処置マウスを示す。#、p<0.01(対PBS)。
【
図10-1】
図10A~Bは、光受容体前駆細胞の全身性注射が、細胞移植の1カ月後と2カ月後との間に杆体機能を回復させることを示す図である。PBS(PBS)またはレチノイン酸処理光受容体前駆細胞(PhRPs-RA)を投与したELOVL4-TG2マウスからの、細胞注射の1カ月後および2カ月後におけるa波(A)およびb波(B)の暗順応ERG振幅。
【
図10-2】
図10Cは、全身性細胞注射の2カ月後に記録された暗順応ERG強度-応答関数を示す図である。PBSまたはレチノイン酸処理光受容体前駆細胞(PhRPs-RA)を投与したELOVL4-TG2マウスからの、暗順応a波(上パネル)およびb波(下パネル)についての刺激強度曲線。ブランクは、未処置マウスを示す。ベースラインは、4週間目に記録されたレベルである。
*、p<0.001(対PBS)。
【
図11】
図11は、PBSまたはレチノイン酸処理光受容体前駆体(PhRPs-RA)を投与したELOVL4-TG2マウスからの、細胞注射の1カ月後および2カ月後におけるa波(上パネル)およびb波(下パネル)の明順応ERG振幅を示す図である。
*、p<0.001(対PBS 2カ月)。
【
図12】
図12は、未処置ELOVL4-TG2マウス(ブランク)およびPBS、光受容体前駆細胞(PhRPs)またはレチノイン酸処理光受容体前駆細胞(PhRPs-RA)を投与したマウスからの、細胞注射の1カ月後および2カ月後における、OCTによって測定される全中心網膜厚さを示す図である。
【
図13】
図13(A)は、PBS(左パネル)およびレチノイン酸処理光受容体前駆細胞(右パネル)を投与したELOVL4-TG2マウスからの、細胞注射の2カ月後における網膜HE染色の代表的画像を示す図である。ONL、外顆粒層。INL、内顆粒層。
図13(B)は、未処置ELOVL4-TG2マウス(ブランク)およびPBSまたはレチノイン酸処理光受容体前駆体(PhRPs-RA)を投与したマウスからの、細胞注射の2カ月後における網膜のONLの厚さの定量を示す図である。
【
図14】
図14は、RCSラットにおける動物研究の模式図を示す図である。
【
図15】
図15は、ヒトES細胞由来光受容体前駆細胞の移植後の宿主光受容体細胞の保全を示す図である。DAPIで染色したP90における網膜切片:(A)外顆粒層(ONL)は、対照ラットでは0~1層にまで低減される。(B)静脈内細胞注射後の、2~4細胞の深さの、RCSラットにおけるレスキューされたONL細胞。(C)3~5細胞の深さの、硝子体内細胞注射を受けているRCSラットにおけるレスキューされたONL細胞。INL、内顆粒層;GL、神経節細胞層。
【
図16】
図16は、ヒトES細胞由来光受容体前駆細胞の移植後の宿主杆体光受容体細胞外節(OS)の保全を示す図である。ロドプシン(緑色)について染色したP90における網膜切片。(A)対照ラットにおける杆体OSの完全な喪失(矢印)。(B)光受容体前駆細胞の静脈内注射後のRCSラット網膜における宿主杆体光受容体細胞のOSにおけるロドプシンの発現(矢印)。(C)光受容体前駆細胞の硝子体内移植後のRCSラット網膜における宿主杆体光受容体細胞のOSにおけるロドプシンの発現(矢印)。ロドプシンの発現は、図面のカラー版から明らかである。
【
図17】
図17は、ヒトES細胞由来光受容体前駆細胞の移植後の宿主錐体光受容体細胞外節(OS)の保全を示す図である。オプシン(緑色)について染色したP90における網膜切片。(A)対照ラットにおける錐体OSの完全な喪失(矢印)。(B)光受容体前駆細胞の静脈内注射後のRCSラット網膜における宿主錐体光受容体細胞のOSにおけるオプシンの発現(矢印)。(C)光受容体前駆体の硝子体内移植後のRCSラット網膜における宿主錐体光受容体細胞のOSにおけるオプシンの発現(矢印)。オプシンの発現は、図面のカラー版から明らかである。
【
図18】
図18は、RCSラットの硝子体中に移植されたヒトES細胞由来光受容体前駆細胞が、成熟杆体光受容体細胞に分化したことを示す図である。ロドプシン(A中の緑色)、リカバリン(B中の緑色)について染色したP90における網膜切片。ヒト細胞を、抗HuNU抗体(赤色)で標識した。DAPIは、全ての核を標識した。ロドプシンおよびリカバリンの発現ならびにDAPIによる染色は、図面のカラー版から明らかである。
【
図19】
図19は、実施例1~2において光受容体発生のために使用した全体的方法を示し、このプロセスの各ステップにおいて使用した培地をさらに示す図である。
【
図20】
図20は、実施例1~2において光受容体細胞および光受容体前駆細胞の発生のタイミングを示す図である。
【
図21-1】
図21は、実施例において使用した培養培地および培地サプリメントの成分を示す図である。
【
図21-2】
図21は、実施例において使用した培養培地および培地サプリメントの成分を示す図である。
【
図21-3】
図21は、実施例において使用した培養培地および培地サプリメントの成分を示す図である。
【
図21-4】
図21は、実施例において使用した培養培地および培地サプリメントの成分を示す図である。
【
図21-5】
図21は、実施例において使用した培養培地および培地サプリメントの成分を示す図である。
【
図22】
図22は、ヒト多能性幹細胞からのin vitro分化の間の、ESC、眼野前駆細胞、網膜神経前駆細胞、光受容体前駆細胞および光受容体細胞の遺伝子発現パターンを示す図である。
【
図23】
図23は、対照(生体粒子なし)と比較した、37℃および4℃におけるhES-RPEおよびhES-光受容体前駆体によるpHrodo(商標)Red E.coli BioParticles(Invitrogen)蛍光生体粒子の食作用の相対的な程度を示すフローサイトメトリーヒストグラムを提供する図である。光受容体前駆細胞についてのヒストグラムは、RPE細胞と同様に、蛍光シグナルの強度が、4℃の比較的非許容的な温度から37℃の生理学的に適切な温度へと細胞をシフトする際に増加することを示し、これは、光受容体前駆細胞が生体粒子を貪食することが可能であることを示している。これらの生体粒子は、脱落した外節および眼におけるドルーゼンの代用品である。
【発明を実施するための形態】
【0134】
本発明は、光受容体細胞(PRC)および光受容体前駆細胞(PRPC)を生成するための方法を提供する。これらの方法には、多能性幹細胞、眼野(EF)前駆体および網膜神経前駆細胞を含む初期の前駆体からのin vitro分化が関与する。本明細書に提供される方法は、上述の前駆体(幹細胞を含む)集団のいずれかを、出発材料として使用し得る。
【0135】
本発明はさらに、初代眼野(EF)前駆体および網膜神経前駆体細胞(即ち、より未成熟の前駆体のin vitro分化からではなく、対象から得られた細胞を指す、初代細
胞)からin vitroで光受容体細胞(PRC)および光受容体前駆細胞(PRPC)を生成することを企図する。
【0136】
光受容体の発生は、表現型的に(例えば、マーカー発現プロファイルによって)および/または機能的にその各々が規定され得る、いくつかの発生段階を介して生じる。この発生は、
図22中に模式的に示される。in vitroで、多能性幹細胞は、EF前駆体へと分化し、これは次に、網膜神経前駆細胞へと分化し、これは次に、光受容体前駆細胞へと分化し、これは次に、光受容体細胞へと分化する。
【0137】
前駆細胞とは、本明細書で使用する場合、有糸分裂を保持し、同じ分化能もしくはより限定的な分化能のより多くの前駆細胞を生じ得るか、または最終運命の細胞系列へと分化し得る細胞を指す。用語、前駆体および先駆体は、互換的に使用される。これらの段階の各々における細胞は、本明細書中でより詳細に議論される。
【0138】
本明細書で提供される光受容体前駆細胞(光受容体前駆体とも呼ばれる)および光受容体細胞は、種々のin vivoおよびin vitroの方法において使用され得る。例えば、これらの光受容体前駆細胞は、黄斑変性症および網膜色素変性症が含まれるがこれらに限定されない網膜の状態を処置するために、in vivoで使用され得る。これらの光受容体前駆細胞および光受容体細胞は、推定の治療的または予防的処置候補を同定するためのスクリーニングアッセイにおいてin vitroで使用され得る。
【0139】
本発明はさらに、本明細書に記載される方法によって得られる光受容体前駆細胞および光受容体細胞を提供する。多能性幹細胞のin vitro分化によって得られる光受容体前駆細胞および光受容体細胞、または眼野前駆細胞などのそれらの分化した子孫。眼野前駆細胞は、多能性幹細胞のin vitro分化からそれ自体得られ得るか、または対象から得られた初代眼野前駆体であり得る。
【0140】
本発明は、初代供給源から取得されたのではない、または初代供給源からは取得可能でない、光受容体前駆細胞の集団および光受容体細胞の集団を提供する。これらの集団は、その細胞内容において、均一またはほぼ均一であり得る。例えば、かかる集団中の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%が、光受容体前駆細胞であり得る。別の例として、かかる集団中の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または約100%が、光受容体細胞であり得る。これらの集団中のこれらの細胞は、単一のハプロタイプのものであり得る。例えば、これらは、HLAが一致していてもよい。これらの集団中のこれらの細胞は、遺伝的に同一であり得る。
【0141】
本開示は、例えば多能性幹細胞であるがこれに限定されない前駆細胞を直接分化させる開示された方法の能力に基づいて、種々の細胞集団の実質的に純粋(または均一)な調製物を提供する。本明細書で使用する場合、指向性の分化は、前駆細胞集団が、かかる前駆細胞に提供された因子または他の刺激に一部起因して、所望の系統へとまたは所望の系統に向けて分化し、それによって、他の望ましくない、したがって潜在的に汚染性の系列への分化を回避することを意図する。本明細書に提供される方法は、胚様体(EB)を生成することなしに、例えば多能性幹細胞の眼野前駆体への分化を駆動する。EBは、以下に記載するように、胚性幹(ES)細胞が含まれるがこれに限定されない多能性幹細胞の分化の間に形成し得、中胚葉、外胚葉および内胚葉の系列の前駆体を含む細胞を典型的に含む、3次元細胞クラスターである。EBの3次元の性質は、本明細書に記載される非EBベースの方法において生じるのとは異なる細胞-細胞相互作用および異なる細胞-細胞シグナル伝達を含む異なる環境を創出し得る。さらに、EB内の細胞は、類似の用量の外因
的に添加された薬剤、例えば、周囲の培地中に存在する分化因子を全てが受けるわけではない可能性があり、これは、EBの発生の間に、種々の分化事象および決定を生じ得る。
【0142】
対照的に、前駆細胞を培養する本発明の培養方法は、EB形成を必要とせず、好ましくはEB形成を回避する。その代り、これらの方法は、かかる培地中の因子を含む周囲の培地との等しい接触を細胞に提供する条件下で、細胞を培養する。これらの細胞は、一例として、培養物表面に付着して、単層またはほぼ単層として増殖し得る。
【0143】
およそ等しい程度まで、その周囲の培地およびしたがってかかる培地中の因子と接触する、前駆細胞の全てまたは大部分の能力は、類似の回数でおよび類似の程度まで分化する前駆細胞を生じる。前駆細胞の集団に関するこの類似の分化タイムラインは、かかる細胞が同期化されていることを示す。これらの細胞は、一部の場合にも、細胞周期が同期化され得る。かかる共時性は、その細胞組成において均一またはほぼ均一である細胞の集団を生じる。一例として、本明細書に記載される方法は、細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または約100%が目的の特定の細胞である細胞集団を生成し得る。目的の細胞は、例えば、細胞内マーカーまたは細胞外マーカーの発現によって、表現型的に規定され得る。目的の細胞は、眼野前駆細胞、神経網膜前駆細胞、光受容体前駆細胞または光受容体細胞であり得る。
【0144】
本明細書で使用する場合は、細胞の大部分とは、細胞の少なくとも50%を意味し、実施形態に依存して、細胞の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または約100%を含み得る。
【0145】
本発明の方法を使用して達成され得る純度の程度は、かかる細胞集団が治療目的または予防目的のためにin vivoで使用される場合に、特に重要である。高い細胞純度の集団を得る能力は、不必要な細胞喪失を生じ得る富化ステップまたは選択ステップなどの別の操作を実施することを回避する。これは、細胞集団が小さい可能性がある場合または細胞数が限定的であり得る場合、特に重要である。
【0146】
定義:本明細書で定義するように、単数形は、例示目的のために提供されるが、その語句の複数形のバージョンにも適用され得る。以下の定義は、当業者に理解されるその用語の従来の定義を補完することを意味する。
【0147】
「光受容体前駆細胞(PRPC)の実質的に純粋な調製物」。本明細書で使用する場合、この語句は、細胞が少なくとも75%純粋もしくは好ましくは少なくとも85%純粋、少なくとも95%純粋である、または約85%~95%純粋である、細胞の調製物(例えば、細胞を含む組成物)を指す。例えば、純度のレベルは、例えば、PRPCのマーカー(本出願において同定されるマーカーまたは当技術分野で公知の他のマーカーを含む)などの1種または複数のマーカーを発現する細胞または発現しない細胞を検出することによって、調製物中の細胞の総数に対する、上記1種または複数のマーカーを発現する、調製物中の細胞の割合を決定することによって、定量され得る。任意選択で、非PRPC細胞を示すマーカーの発現もまた検出され得、それによって、これらの細胞の検出および/または定量を促進する。利用され得る例示的な方法には、蛍光活性化細胞選別(FACS)、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーションおよび当技術分野で公知の他の適切な方法が含まれるがこれらに限定されない。任意選択で、純度の決定は、調製物中に存在する非生存細胞を無視して実施され得る。
【0148】
「ヒト起源の光受容体細胞(PR)の実質的に純粋な調製物」。本明細書で使用する場合、この語句は、細胞が少なくとも75%純粋もしくは好ましくは少なくとも85%純粋
、少なくとも95%純粋である、または約85%~95%純粋である、細胞の調製物(例えば、細胞を含む組成物)を指す。例えば、純度のレベルは、例えば、PRのマーカー(本出願において同定されるマーカーまたは当技術分野で公知の他のマーカーを含む)などの1種または複数のマーカーを発現する細胞または発現しない細胞を検出することによって、調製物中の細胞の総数に対する、上記1種または複数のマーカーを発現する、調製物中の細胞の割合を決定することによって、定量され得る。任意選択で、非PR細胞を示すマーカーの発現もまた検出され得、それによって、これらの細胞の検出および/または定量を促進する。利用され得る例示的な方法には、蛍光活性化細胞選別(FACS)、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーションおよび当技術分野で公知の他の適切な方法が含まれるがこれらに限定されない。任意選択で、純度の決定は、調製物中に存在する非生存細胞を無視して実施され得る。
【0149】
「胚様体」とは、非付着条件下で、例えば、低接着性基材上または「懸滴」中で多能性細胞を培養することによって形成され得る、多能性細胞(例えば、iPSCまたはESC)の凝集塊またはクラスターを指す。これらの培養において、多能性細胞は、胚様体と命名された細胞の凝集塊またはクラスターを形成し得る。その全体が参照によって本明細書に組み込まれる、Itskovitz-Eldorら、Mol Med. 2000年2月;6巻(2号):88~95頁を参照のこと。典型的には、胚様体は、多能性細胞の固体凝集塊またはクラスターとして最初に形成し、時間と共に、胚様体のうちいくつかは、流体で満たされた腔を含むようになり、文献中で、後者の前者は「単純な」EBとして言及され、後者は「嚢胞性」胚様体として言及される。
【0150】
用語「胚性幹細胞」(ES細胞またはESC)は、当技術分野で使用されるように本明細書中で使用される。この用語は、ヒト胚盤胞または桑実胚の内部細胞塊から誘導された細胞を含み、細胞株として連続的に継代されたものを含む。ES細胞は、卵細胞と精子との受精から、ならびにDNA、核移植、単為生殖を使用して、またはHLA領域中にホモ接合性を有するES細胞を生成するための手段によって、誘導され得る。ES細胞はまた、細胞を生成するための、精子および卵細胞の融合、核移植、単為生殖、雄性発生、またはクロマチンの再プログラミングおよび再プログラミングされたクロマチンの原形質膜中への引き続く取り込みによって生成された、接合体、卵割球または胚盤胞段階の哺乳動物胚から誘導された細胞である。胚性幹細胞は、その供給源またはそれらを生成するために使用される特定の方法に関わらず、(i)3種全ての胚葉の細胞へと分化する能力、(ii)少なくともOct4およびアルカリホスファターゼの発現、ならびに(iii)免疫不全動物中に移植した場合に奇形腫を生成する能力、に基づいて同定され得る。本発明の実施形態において使用され得る胚性幹細胞には、ヒトES細胞(「ESC」または「hES細胞」)、例えばMA01、MA09、ACT-4、No.3、H1、H7、H9、H14およびACT30胚性幹細胞が含まれるがこれらに限定されない。さらなる例示的な細胞株には、NED1、NED2、NED3、NED4、NED5およびNED7が含まれる。NIH Human Embryonic Stem Cell Registryもまた参照のこと。使用され得る例示的なヒト胚性幹細胞株は、MA09細胞である。MA09細胞の単離および調製は、Klimanskayaら(2006年)「Human Embryonic Stem Cell lines Derived from
Single Blastomeres」Nature 444巻:481~485頁中に以前に記載された。本発明の例示的な実施形態に従って使用されるヒトES細胞は、GMP標準に従って誘導および維持され得る。
【0151】
用語「ES細胞」は、それらの細胞が胚の破壊を介して生成されたことを暗示せず、それを意味すると推論すべきではない。反対に、種々の方法が利用可能であり、ヒト胚などの胚の破壊なしにES細胞を生成するために使用され得る。一例として、ES細胞は、着床前遺伝子診断(PGD)のための卵割球の抽出と類似の様式で、胚から誘導された単一
の卵割球から生成され得る。かかる細胞株の例には、NED1、NED2、NED3、NED4、NED5およびNED7が含まれる。使用され得る例示的なヒト胚性幹細胞株は、MA09細胞である。MA09細胞の単離および調製は、Klimanskayaら(2006年)「Human Embryonic Stem Cell lines Derived from Single Blastomeres.」Nature 444巻:481~485頁中に以前に記載されている。Chungら、2008年、Cell Stem Cell、2巻:113頁もまた参照のこと。これらの株は全て、胚破壊なしに生成されたものである。
【0152】
本明細書で使用する場合、用語「多能性幹細胞」には、その多能性幹細胞を誘導する方法とは無関係に、組織由来幹細胞、胚性幹細胞、胚由来幹細胞、人工多能性幹細胞および刺激惹起性多能性獲得(STAP)細胞が含まれるがこれらに限定されない。この用語には、かかる細胞を生成するために使用される方法とは無関係に、上述の細胞の機能的特徴および表現型特徴を有する多能性幹細胞もまた含まれる。多能性幹細胞は、以下である幹細胞として機能的に定義される:(a)免疫不全(SCID)マウス中に移植した場合に奇形腫を誘発することが可能である;(b)3種全ての胚葉の細胞型へと分化することが可能である(例えば、外胚葉、中胚葉および内胚葉の細胞型に分化することができる);および(c)胚性幹細胞の1つまたは複数のマーカーを発現する(例えば、Oct4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3表面抗原、SSEA-4表面抗原、nanog、TRA-1-60、TRA-1-81、SOX2、REX1などを発現する)。ある特定の実施形態では、多能性幹細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。例示的な多能性幹細胞は、例えば当技術分野で公知の方法を使用して生成され得る。例示的な多能性幹細胞には、胚盤胞段階の胚のICMから誘導された胚性幹細胞、ならびに卵割段階または桑実胚段階の胚の1つまたは複数の卵割球から(任意選択で胚の残部を破壊することなく)誘導された胚性幹細胞が含まれる。かかる胚性幹細胞は、受精によって、または体細胞核移植(SCNT)、単為生殖および雄性発生を含む無性生殖的手段によって生成された胚性材料から生成され得る。さらなる例示的な多能性幹細胞には、因子(本明細書で再プログラミング因子と称される)の組合せを発現させることによって体細胞を再プログラミングすることによって生成された人工多能性幹細胞(iPSC)が含まれる。iPSCは、胎仔、出生後、新生仔、若年または成体の体細胞を使用して生成され得る。
【0153】
ある特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞へと再プログラミングするために使用され得る因子には、例えば、Oct4(時にOct3/4と呼ばれる)、Sox2、c-MycおよびKlf4の組合せが含まれる。他の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞へと再プログラミングするために使用され得る因子には、例えば、Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の組合せが含まれる。ある特定の実施形態では、少なくとも2種の再プログラミング因子が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞において発現される。他の実施形態では、少なくとも3種の再プログラミング因子が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞において発現される。他の実施形態では、少なくとも4種の再プログラミング因子が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞において発現される。他の実施形態では、さらなる再プログラミング因子が同定され、体細胞を多能性幹細胞へと再プログラミングするために、単独で、または1種もしくは複数の公知の再プログラミング因子と組み合わせて使用される。人工多能性幹細胞は、機能的に定義され、これには、種々の方法(組込みベクター、非組込みベクター、化学的手段など)のいずれかを使用して再プログラミングされた細胞が含まれる。多能性幹細胞は、寿命、有効性、ホーミングを増加させるため、同種免疫応答を予防もしくは低減させるため、またはかかる多能性細胞から分化した細胞(例えば、光受容体、光受容体前駆細胞、杆体、錐体など、および例えば実施例において本明細書に記載される他の細
胞型)中に所望の因子を送達するために、遺伝子改変または他の方法で改変され得る。
【0154】
「人工多能性幹細胞」(iPS細胞またはiPSC)は、体細胞中への再プログラミング因子のタンパク質形質導入によって生成され得る。ある特定の実施形態では、少なくとも2種の再プログラミングタンパク質が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞中に形質導入される。他の実施形態では、少なくとも3種の再プログラミングタンパク質が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞中に形質導入される。他の実施形態では、少なくとも4種の再プログラミングタンパク質が、体細胞を首尾よく再プログラミングするために、体細胞中に形質導入される。
【0155】
多能性幹細胞は、任意の種由来であり得る。胚性幹細胞は、例えば、マウス、複数の種の非ヒト霊長類、およびヒトにおいて首尾よく誘導されており、胚性幹様細胞は、多数のさらなる種から生成されている。したがって、当業者は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ(飼いイヌおよび野生のイヌ)、ネコ(飼いネコおよび野生のネコ、例えば、ライオン、トラ、チーター)、ウサギ、ハムスター、スナネズミ、リス、モルモット、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海洋哺乳動物(イルカ、クジラなど)などが含まれるがこれらに限定されない任意の種から、胚性幹細胞および胚由来幹細胞を生成できる。ある特定の実施形態では、この種は、絶滅危惧種である。ある特定の実施形態では、この種は、現在絶滅した種である。
【0156】
同様に、iPS細胞は、任意の種由来であり得る。これらのiPS細胞は、マウスおよびヒトの細胞を使用して首尾よく生成されている。さらに、iPS細胞は、胚性、胎仔、新生仔および成体の組織を使用して首尾よく生成されている。従って、任意の種由来のドナー細胞を使用して、iPS細胞を容易に生成することができる。したがって、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ(飼いイヌおよび野生のイヌ)、ネコ(飼いネコおよび野生のネコ、例えば、ライオン、トラ、チーター)、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海洋哺乳動物(イルカ、クジラなど)などが含まれるがこれらに限定されない任意の種から、iPS細胞を生成することができる。ある特定の実施形態では、この種は、絶滅危惧種である。ある特定の実施形態では、この種は、現在絶滅した種である。
【0157】
人工多能性幹細胞は、任意の発生段階の事実上任意の体細胞を出発点として使用して生成され得る。例えば、この細胞は、胚、胎仔、新生仔、若年性または成体のドナー由来であり得る。使用され得る例示的な体細胞には、線維芽細胞、例えば、皮膚試料もしくは生検によって取得される皮膚線維芽細胞、滑膜組織由来の滑膜細胞、包皮細胞、頬細胞または肺線維芽細胞が含まれる。皮膚および頬は、適切な細胞の容易に入手可能で容易に取得可能な供給源を提供するが、事実上任意の細胞が使用され得る。ある特定の実施形態では、体細胞は、線維芽細胞ではない。
【0158】
人工多能性幹細胞は、体細胞において1種もしくは複数の再プログラミング因子を発現させるまたはかかる1種もしくは複数の再プログラミング因子の発現を誘発することによって生成され得る。この体細胞は、線維芽細胞、例えば、皮膚線維芽細胞、滑膜線維芽細胞もしくは肺線維芽細胞、または非線維芽細胞性体細胞であり得る。この体細胞は、少なくとも1、2、3、4、5種の再プログラミング因子の発現を(例えば、ウイルス形質導入ベクター、組込みベクターまたは非組込みベクターなどを介して)引き起こすこと、および/または少なくとも1、2、3、4、5種の再プログラミング因子との接触を(例えば、タンパク質形質導入ドメイン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、カチオン性両親媒性物質、脂質二重層含有との融合、界面活性剤透過処理などを使用し
て)引き起こすことによって、再プログラミングされ得る。再プログラミング因子は、Oct3/4、Sox2、NANOG、Lin28、c MycおよびKlf4から選択され得る。再プログラミング因子の発現は、体細胞を、再プログラミング因子の発現を誘発する少なくとも1種の薬剤、例えば有機小分子薬剤と接触させることによって誘発され得る。
【0159】
さらなる例示的な多能性幹細胞には、因子(「再プログラミング因子」)の組合せを発現させることまたはかかる因子の組合せの発現を誘発することによって体細胞を再プログラミングすることによって生成された人工多能性幹細胞が含まれる。iPS細胞は、細胞バンクから取得され得る。iPS細胞の作製は、分化した細胞の生成における最初期ステップであり得る。iPS細胞は、組織にマッチしたPHRPSまたは光受容体細胞を生成することを目的として、特定の患者またはマッチしたドナー由来の材料を使用して特異的に生成され得る。iPSCは、意図したレシピエントにおいて実質的に免疫原性でない細胞から生成され得、例えば、自家細胞からまたは意図したレシピエントに対して組織適合性の細胞から生成され得る。
【0160】
体細胞は、再プログラミング因子が(例えば、ウイルスベクター、プラスミドなどを使用して)発現され、その再プログラミング因子の発現が(例えば、有機小分子を使用して)誘発される組み合わせのアプローチを使用しても、再プログラミングされ得る。例えば、再プログラミング因子は、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを使用する感染によって、体細胞において発現され得る。また、再プログラミング因子は、非組込みベクター、例えばエピソームプラスミドを使用して、体細胞において発現され得る。例えば、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる、Yuら、Science. 2009年5月8日;324巻(5928号):797~801頁を参照のこと。再プログラミング因子が非組込みベクターを使用して発現される場合、この因子は、ベクターを用いた体細胞のエレクトロポレーション、トランスフェクションまたは形質転換を使用して、この細胞において発現され得る。例えば、マウス細胞では、組換えウイルスベクターを使用した4種の因子(Oct3/4、Sox2、c mycおよびKlf4)の発現が、体細胞を再プログラミングするために十分である。ヒト細胞では、組換えウイルスベクターを使用した4種の因子(Oct3/4、Sox2、NANOGおよびLin28)の発現が、体細胞を再プログラミングするために十分である。
【0161】
再プログラミング因子が細胞において発現されると、この細胞は培養され得る。時間と共に、ES特徴を有する細胞が培養皿中に出現する。この細胞は、例えば、ES形態に基づいて、または選択可能もしくは検出可能なマーカーの発現に基づいて、選択および継代培養され得る。この細胞は、ES細胞と似た細胞の培養物を生成するために培養され得る-これらは、推定iPS細胞である。
【0162】
iPS細胞の多能性を確認するために、この細胞は、多能性の1つまたは複数のアッセイにおいて試験され得る。例えば、この細胞は、ES細胞マーカーの発現について試験され得る;この細胞は、SCIDマウス中に移植した場合に奇形腫を生成する能力について評価され得る;この細胞は、3種全ての胚葉の細胞型を生成するように分化する能力について評価され得る。一旦多能性iPSCが得られると、これは、本明細書に開示される細胞型、例えば、光受容体前駆細胞、光受容体細胞、杆体、錐体など、および例えば例において本明細書に記載される他の細胞型を生成するために使用され得る。
【0163】
刺激惹起性多能性獲得(STAP)細胞は、亜致死性刺激、例えば低pH曝露を用いて体細胞を再プログラミングすることによって生成される多能性幹細胞である。この再プログラミングは、体細胞中への核移行も体細胞の遺伝子操作も必要としない。Obokat
aら、Nature、505巻:676~680頁、2014年に対して参照がなされ得る。
【0164】
「幹細胞」は、増殖し得および/または成熟細胞へと分化し得る、任意選択でヒト起源である多能性細胞を指すために本明細書で使用される。
【0165】
「成体幹細胞」とは、成体組織から単離された多分化能細胞を指し、骨髄幹細胞、臍帯血幹細胞および脂肪幹細胞が含まれ得、ヒト起源である。
【0166】
「網膜」とは、光受容体、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、ミューラーグリア細胞および神経節細胞から構成される3つの顆粒層へと層状化した、眼の神経細胞を指す。
【0167】
「先駆細胞」とは、最終運命の細胞系列へと分化することが可能な細胞を指す。本発明の実施形態では、「眼野前駆細胞」は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化し、マーカーPAX6およびRX1を発現する。本発明の実施形態では、「網膜神経前駆細胞」とは、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化した、細胞マーカーPAX6およびCHX10を発現する細胞を指す。本発明の実施形態では、「光受容体前駆体」とは、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化した、マーカーCHX10を発現しない(即ち、CHX10(-))が、マーカーPAX6を発現する細胞を指す。これらの細胞は、網膜神経前駆体段階においてCHX10を一過的に発現するが、このCHX10発現は、光受容体前駆体段階へと細胞が分化するとオフになる。また、「光受容体」とは、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化した、細胞マーカーロドプシンまたは3種の錐体オプシンのいずれかを発現し、杆体または錐体のcGMPホスホジエステラーゼを任意選択で発現する、有糸分裂後の細胞を指し得る。これらの光受容体は、光受容体において見出されるマーカーリカバリンもまた発現し得る。これらの光受容体は、杆体光受容体および/または錐体光受容体であり得る。
【0168】
疾患の「徴候」とは、本明細書で使用する場合、患者の試験の際に発見可能な疾患を示す任意の異常;疾患の主観的指標である症状とは対照的な疾患の客観的指標を広く指す。
【0169】
疾患の「症状」とは、本明細書で使用する場合、患者によって経験され、疾患を示す、構造、機能または感覚における、任意の病的現象または正常からの逸脱を広く指す。
【0170】
「治療」、「治療的」、「処置すること」、「処置する」または「処置」とは、本明細書で使用する場合、疾患を処置すること、疾患もしくはその臨床症状の発達を停止もしくは低減させること、および/または疾患を救済すること、疾患もしくはその臨床症状の退縮を引き起こすことを広く指す。治療は、予防(prophylaxis)、予防(prevention)、処置、治癒、改善、低減、軽減ならびに/または疾患、疾患の徴候および/もしくは症状からの救済を提供することを包含する。治療は、進行している疾患の徴候および/または症状を有する患者における徴候および/または症状の軽減を包含する。治療は、「予防(prophylaxis)」および「予防(prevention)」もまた包含する。予防(prophylaxis)には、患者における疾患の処置に引き続いて起こる疾患を予防すること、または患者における疾患の発生率もしくは重症度を低減させることが含まれる。用語「低減された」とは、治療の目的のために、徴候および/または症状における臨床的に顕著な低減を広く指す。治療には、再燃または再発性の徴候および/もしくは症状を処置することが含まれる。治療は、徴候および/または症状の出現をいつでも排除すること、ならびに既存の徴候および/または症状を低減させることならびに既存の徴候および/または症状を排除することを包含するが、これらに限定されない。治療には、慢性疾患を処置すること(「維持」)および急性疾患を処置することが含まれる。例えば、処置には、再燃または徴候および/もしくは症状の再発を処置また
は予防することが含まれる。
【0171】
本発明に従って、したがって本明細書に提供される調製物のうちの1つまたは複数を使用して処置される状態には、加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症が含まれるがこれらに限定されず、かかる黄斑変性症は、初期または後期段階であり得る。処置される他の状態には、網膜色素変性症、網膜異形成、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障、視神経症および眼に影響を与える外傷が含まれるがこれらに限定されない。
【0172】
細胞マーカー:発現について評価され得る例示的な細胞マーカーには、以下が含まれる:タンパク質および/またはmRNAにおいて評価され得る、PAX6、RX1、SIX3、SIX6、LHX2、TBX3、SOX2、CHX10、ネスチン、TRベータ2、NR2E3、NRL、MASH1、RORベータ、リカバリン、オプシン、ロドプシン、杆体および錐体のcGMPホスホジエステラーゼ(その各々の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、Fischer AJ、Reh TA、Dev Neurosci.
2001年;23巻(4~5号):268~76頁;Baumerら、Development. 2003年7月;130巻(13号):2903~15頁、Swaroopら、Nat Rev Neurosci. 2010年8月;11巻(8号):563~76頁、AgathocleousおよびHarris、Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 2009年.25巻:45~69頁を参照のこと)。これらのマーカー識別子は、文献中および当技術分野において、特に、光受容体、杆体、錐体、光受容体分化、光受容体前駆体、神経分化、神経幹細胞、多能性幹細胞および文脈によって示される他の分野に関連する文献を含み得る、これらの遺伝子識別子が本明細書で列挙される文脈に関連する分野において、一般に使用される。さらに、これらのマーカーは、例えば、文脈が他を示す場合を除き、一般にはヒトである。これらの細胞マーカーは、当業者に周知の技術である、従来の免疫細胞化学的方法または従来のPCR法を使用して同定され得る。
【0173】
細胞培養培地:本発明の実施形態では、これらの細胞は、種々の細胞培養培地中で、貯蔵、増殖または分化される。網膜誘導培地は、眼野前駆細胞への幹細胞生成のために利用される。この網膜誘導培地は、D-グルコース、ペニシリン、ストレプトマイシン、N2サプリメント(例えば、0.1~5%)、B27サプリメント(例えば、0.005~0.2%)、MEM非必須アミノ酸溶液を含み得、任意選択でインスリンおよび/またはノギンを含み、DMEM/F12(Invitrogen)または類似の基本培地中であり得る。例えば、この網膜誘導培地は、少なくともインスリンを含み得る。さらに、細胞の生存および/または分化した細胞の収量を促進し得るインスリン濃度は、変動または増加され得る。例えば、このインスリン濃度は、広範にわたって変動し得、生存および/または分化が、これらの属性のいずれかまたはそれらの両方を改善するインスリン濃度を同定するために、モニタリングされ得る。ノギンの添加は、必要ではないと考えられるが、眼野転写因子の発現を増加させることが観察された。
【0174】
DMEM/F12、Neurobasal培地、N2血清サプリメントおよびB27血清サプリメントの成分は、
図21中に提供される。本発明は、これらの特定の培地およびサプリメント、またはこれらの成分を含むか、これらの成分から本質的になるか、もしくはこれらの成分からなる培地もしくはサプリメントの使用を企図すると理解すべきである。
【0175】
本明細書に記載される方法は、例えば、ヒトノギン、ヒトインスリンなどのヒト因子を使用し得る。
【0176】
ノギンは、報告によれば、高い親和性でBMP2、BMP4およびBMP7に結合して、TGFβファミリーの活性を遮断する、分泌型BMPインヒビターである。SB431542は、報告によれば、ACTRIB、TGFβR1およびACTRIC受容体のリン酸化を遮断することによって、TGFβ/アクチビン/Nodalを阻害する小分子である。SB431542は、内因性のアクチビンおよびBMPシグナルを遮断することによって、アクチビン媒介性およびNanog媒介性の多能性ネットワークを不安定化し、BMP誘導性のトロホブラスト、中胚葉および内胚葉細胞運命を抑制すると考えられる。上述の活性のうちの1つまたは複数を有する薬剤は、例えば、開示された方法の文脈において使用される場合、ノギンおよびSB431542の一方またはそれらの両方の機能を置き換えまたは強化し得ることが予測される。例えば、出願人らは、タンパク質ノギンおよび/または小分子SB4312542が、以下の3つの標的領域のうちのいずれかまたは全てに影響を与える1種または複数のインヒビターによって置き換えまたは強化され得ることを想定している:1)受容体へのリガンドの結合を防止すること;2)受容体の活性化を遮断すること(例えば、ドルソモルフィン)、および3)SMAD細胞内タンパク質/転写因子の阻害。例示的な潜在的に適切な因子には、天然の分泌型BMPインヒビターコーディン(BMP4を遮断する)およびフォリスタチン(アクチビンを遮断する)、ならびにそれらのアナログまたは模倣物が含まれる。ノギンの効果を模倣し得るさらなる例示的な因子には、BMP2、BMP4および/またはBMP7を隔離するドミナントネガティブ受容体または遮断抗体の使用が含まれる。さらに、受容体のリン酸化を遮断することに関して、ドルソモルフィン(または化合物C)は、幹細胞に対して類似の影響を有することが報告されている。SMADタンパク質の阻害は、可溶性インヒビター、例えばSIS3(6,7-ジメトキシ-2-((2E)-3-(1-メチル-2-フェニル-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル-プロパ-2-エノイル))-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、Smad3の特異的インヒビター(Specific Inhibitor of Smad3)、SIS3)、インヒビターSMAD(例えば、SMAD6、SMAD7、SMAD10)のうちの1種もしくは複数の過剰発現、または受容体SMAD(SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、SMAD8/9)のうちの1種に対するRNAiを使用しても、もたらされ得る。神経前駆体を生成するために適切であると予測される因子の別の組合せは、神経冠幹細胞を生成するために効果的であることが以前に示されている、白血病抑制因子(LIF)、GSK3インヒビター(CHIR 99021)、化合物E(γセクレターゼインヒビターXXI)およびTGFβインヒビターSB431542のカクテルを含む(Liら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2011年5月17日;108巻(20号):8299~304頁)。さらなる例示的な因子には、SB431542の誘導体、例えば、1つまたは複数の追加されたまたは異なる置換基、類似した官能基などを含み、1種または複数のSMADタンパク質に対する類似の阻害効果を有する分子が含まれ得る。適切な因子または因子の組合せは、例えば、多能性細胞をこの因子(複数可)と接触させ、眼野前駆細胞表現型の採用、例えば、特徴的遺伝子発現(本明細書に記載されるマーカーの発現、眼野前駆細胞プロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現などを含む)、または本明細書に開示される細胞型、例えば網膜神経前駆細胞、光受容体前駆体、杆体前駆体、錐体および/もしくは杆体を形成する能力をモニタリングすることによって、同定され得る。
【0177】
好ましくは、これらの細胞は、神経分化培地を用いた培養の前に、網膜誘導培地で処理されるまたは網膜誘導培地中で培養される。神経分化培地は、網膜神経前駆細胞への眼野前駆細胞生成のために利用される。この神経分化培地は、D-グルコース、ペニシリン、ストレプトマイシン、GlutaMAX(商標)、N2サプリメント、B27サプリメント、MEM非必須アミノ酸溶液を含み得、任意選択でノギンを含む。この神経分化培地は、光受容体前駆細胞への網膜神経前駆細胞生成のためにも利用され得るが、ノギンは含まない。任意選択でレチノイン酸およびタウリンを補充した神経分化培地の使用と、その後のフォルスコリン、BDNF、CNTF、LIFおよびDATPの添加を伴ったD-グル
コース、ペニシリン、ストレプトマイシン、GlutaMAX(商標)、N2サプリメント、B27サプリメント(例えば、処方番号080085-SA)を任意選択で含み得る光受容体分化培地(Invitrogen)の利用とが、光受容体細胞への光受容体前駆細胞生成に利用される。例えば、この光受容体分化培地は、例えば、上述の培地中に存在する量で、または異なるもしくはより多い量で、甲状腺ホルモンを含み得る。例えば、この培地は、外因的に添加された甲状腺ホルモンを含み得る。例示的な実施形態では、この光受容体分化培地は、1種、2種、または3種全てのBDNF、CNTFおよびDATP、例えば、BDNF、CNTF、DATP、BDNFおよびCNTF、CNTFおよびDATP、BDNFおよびDATP、またはBDNF、CNTFおよびDATPの3種全てを含み得、この培地は、任意選択でNeurobasal培地を含み得、および/または任意選択で甲状腺ホルモンを含み得る。
【0178】
神経分化培地の構成要素は、以下のとおりである:N2:1%(100ml当たり1mlのN2)、B27:2%(100ml当たり2mlのB27)およびノギン:50ng/ml。
【0179】
ノギンは、細胞が全て眼野前駆体になった後には、必要とされない。
【0180】
胚性幹細胞(ESC)または成体幹細胞または人工多能性幹細胞(iPS):本明細書で利用するESCまたは成体幹細胞またはiPS細胞は、無フィーダー系で、例えばMatrigel(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の可溶性調製物)または別のマトリックス中で繁殖され得る。さらに、またはあるいは、これらの多能性細胞は、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、コラーゲン、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンVIII、ヘパラン硫酸、Matrigel(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の可溶性調製物)、CellStart、ヒト基底膜抽出物およびそれらの任意の組合せからなる群より選択され得るマトリックス上で培養され得る。このマトリックスは、Matrigel(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の可溶性調製物)を含み得るか、これからなり得るか、または本質的にこれからなり得る。これらの幹細胞は、培養物中で胚様体を形成せず、これは、先行技術を超えた改善である。これらの細胞は、外因性因子の非存在下で眼野前駆細胞へと分化する。一実施形態では、ESCは、ノギンの存在下で眼野前駆細胞へと分化する。
【0181】
眼野前駆細胞(EFPC):EFPCは、ESC、成体幹細胞または誘導多能性細胞(iPC)から、PAX6(+)およびRX1(+)である細胞へと分化する。これらのEFPCは、SIX3(+)、SIX6(+)、LHX2(+)、TBX3(+)ネスチン(+)ならびに/またはSOX2(+)およびOCT4(-)およびNANOG(-)でもあり得る。EFPCへの分化は、DMEM/F12、D-グルコース、ペニシリン、ストレプトマイシン、N2サプリメント、B27サプリメント、MEM非必須アミノ酸およびインスリンを含み得る網膜誘導培地中で生じる。5日目に、細胞がコンフルエンスに達したときに、細胞は、神経分化培地に交換される。好ましくは、EFPCを生成するステップは、以下に記載される神経分化培地中で多能性細胞を培養する前に実施されるが、それは、かかる培養条件が、多能性細胞の生存度に悪影響を与え得ることが観察されているからである。
【0182】
網膜神経前駆細胞(RNPC):RNPCは、外因性因子の非存在下でEFPCから分化する。これらのRNPCは、PAX6(+)およびCHX10(+)である。この段階における細胞は、Tuj1+またはTuj1-であり得る。任意選択で、この方法は、この段階でTuj1+もしくはTuj1-細胞を富化もしくは精製するステップ、および/
または強くTuj1+の細胞を精製もしくは除去するステップ、および/または強くTuj1-の細胞(例えば、低いレベルではあっても検出可能なその発現を欠く細胞)を精製もしくは除去するステップ、およびこれらの集団のうちの一方もしくはもう一方を用いて引き続く方法ステップを進めるステップを含み得る。一実施形態では、ノギンは、EFPCからRNPCへの分化を加速するために添加される。RNPCへの分化は、Neurobasal培地(Invitrogen)、D-グルコース、ペニシリン、ストレプトマイシン、GlutaMAX(商標)、N2サプリメント、B27サプリメントおよびMEM非必須アミノ酸溶液を含み得る神経分化培地中で生じる。ノギンは、5~100μg/mlの最終濃度で添加され得る。
【0183】
光受容体前駆細胞(PhRPC):PhRPCは、ノギンの非存在下で、神経分化培地中で、RNPCから分化し得る。これらのPRPCは、PAX6(+)およびCHX10(-)である。一実施形態では、PRPCの60%、70%、80%、85%、90%または95%は、PAX6(+)およびCHX10(-)である。これらのPRPCは、Nr2e3(+)、Trβ2(+)、Mash1(+)、RORβ(+)および/またはNRO(+)でもあり得る。CHX10の存在は、双極性細胞系列を示唆するが、本発明の方法では、これらのPRPCは、光受容体系列に分化しており、したがって、この段階ではCHX10を有さない。これらの細胞は、球または神経球として増殖され得る(例えば、低付着プレート上、または任意選択で懸滴培養で、低重力環境中で、または他の適切な培養条件下で)。
【0184】
光受容体(PR):PRは、2ステップ分化プロセスでPhRPCから分化し得る:1)神経分化培地にレチノイン酸およびタウリンを2週間添加するステップ、ならびに2)光受容体分化培地の添加。-実施例2を参照のこと。
【0185】
これらのPRは、ロドプシン(+)、リカバリン(+)、PE6a(+)またはオプシン(+)であり得る。このオプシンは、錐体オプシンのいずれかであり得る。これらのPRは、錐体または杆体に向かって二分化能であり得る。この方法によって生成される例示的な光受容体は、PAX6-であり得、これは、いくつかの以前に記載された主張された光受容体細胞とは対照的であり得る。例示的な実施形態において以下に記載するように、2ステップ分化プロセス:1)ND培地およびレチノイン酸およびタウリンを2週間添加するステップ、ならびに2)光受容体分化培地の使用が存在し、これらの方法は、以下の作業例においてさらに例示される。
【0186】
例示的な実施形態では、この方法は、出発時の100万個の多能性細胞当たり、4000万~6000万のEFPC、6000~9000万のRNPC、または5億~10億のPhRPCを生成し得る。
【0187】
例示的な一実施形態では、これらの細胞は、それを必要とするラット、例えばRCSラットまたは疾患の他の動物モデル(例えば、夜盲症または色覚異常について)中に移植され得、視覚機能に対する生じた効果は、視運動応答試験、ERG、輝度閾値記録および/または視覚中枢血流アッセイによって検出され得る。
【0188】
適用および使用
スクリーニングアッセイ
本発明は、網膜前駆細胞の分化をモジュレートする種々の薬剤をスクリーニングするための方法を提供する。この方法は、培養物中で網膜前駆細胞から生成される成熟光受容体を支持および/またはレスキューする治療剤を発見するためにも使用され得る。本発明の目的のために、「薬剤」は、生物学的もしくは化学的化合物、例えば単純または複雑な有機または無機分子、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、ポリヌクレオチド(例えば
、アンチセンス)またはリボザイムを含むがこれらに限定されない意図である。無数の化合物、例えば、ポリマー、例えばポリペプチドおよびポリヌクレオチド、ならびに種々のコア構造に基づく合成有機化合物が合成され得、これらもまた、用語「薬剤」中に含まれる。さらに、種々の天然供給源、例えば、植物または動物の抽出物が、スクリーニングのための化合物などを提供し得る。常に明確に述べているわけではないが、この薬剤は、単独で、または本発明のスクリーニングによって同定された薬剤と同じもしくは異なる生物学的活性を有する別の薬剤と組み合わせて使用されることを理解すべきである。
【0189】
このスクリーニング方法をin vitroで実施するために、細胞の単離された集団が、本明細書に記載したように得られ得る。この薬剤がDNAまたはRNA以外の組成物、例えば上記小分子である場合、この薬剤は、細胞に直接添加され得るか、または添加のために培養培地に添加され得る。当業者に明らかなように、経験的に決定され得る「有効」量が添加されるべきである。この薬剤がポリヌクレオチドである場合、これは、遺伝子銃またはエレクトロポレーションの使用によって直接添加され得る。あるいは、この薬剤は、遺伝子送達ビヒクルまたは上記他の方法を使用して、細胞中に挿入され得る。陽性対照および陰性対照が、薬物または他の薬剤の主張された活性を確認するためにアッセイされ得る。
【0190】
神経感覚網膜構造
これらの光受容体前駆細胞、および任意選択でそれらから分化した光受容体細胞は、神経感覚網膜構造を生成するために使用され得る。例えば、本発明は、網膜色素上皮(RPE)細胞および光受容体細胞(または光受容体前駆細胞)から構成される多層細胞構造の生成を企図する。これらの構造は、疾患についてのモデルとして薬物スクリーニングのために、または医薬調製物としてもしくは医薬調製物中で、使用され得る。後者の場合、この医薬調製物は、RPE-光受容体移植片であり得、これは、「パッチ」などの移植され得る生体適合性固体支持体またはマトリックス(好ましくは、生物吸収性マトリックスまたは支持体)上に配置され得る。
【0191】
さらに示すために、細胞のための生体適合性支持体は、網膜前駆細胞のための生分解性ポリエステルフィルム支持体であり得る。この生分解性ポリエステルは、網膜前駆細胞の増殖および分化を支持するための基材または足場としての使用に適切な任意の生分解性ポリエステルであり得る。このポリエステルは、薄いフィルム、好ましくはマイクロテクスチャ化フィルムを形成することが可能でなければならず、組織または細胞移植に使用される場合には生分解性でなければならない。本発明での使用に適切な生分解性ポリエステルには、ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチド、ポリヒドロキシアルカノエート、ホモポリマーおよびコポリマーの両方、例えばポリヒドロキシブチレート(polyhydoxybutyrate)(PHB)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシバリレート(PHBV)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシヘキサノエート(polyhydroxybutyrate co-hydroxyhexanote)(PHBHx)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクタノエート(polyhydroxybutyrate co-hydroxyoctonoate)(PHBO)およびポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクタデカノエート(PHBOd)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステルアミド(PEA)、脂肪族コポリエステル、例えばポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネート/アジペート(PBSA)、芳香族コポリエステルが含まれる。高分子量および低分子量の両方のポリエステル、置換および非置換ポリエステル、ブロック、分岐鎖またはランダム、ならびにポリエステル混合物およびブレンドが使用され得る。好ましくは、この生分解性ポリエステルは、ポリカプロラクトン(PCL)である。
【0192】
ある特定の実施形態では、この生体適合性支持体は、ポリ(p-キシリレン)ポリマー
、例えばパリレンN、パリレンD、パリレン-C、パリレンAF-4、パリレンSF、パリレンHT、パリレンVT-4およびパリレンCFであり、最も好ましくはパリレン-Cである。
【0193】
ポリマー性支持体は、典型的には、公知の技術を使用して薄いフィルムへと形成され得る。このフィルムの厚さは、有利には、約1ミクロン~約50ミクロンであり、好ましくは厚さ約5ミクロンである。このフィルムの表面は、平滑であり得るか、またはこのフィルム表面は、部分的にもしくは完全にマイクロテクスチャ化され得る。適切な表面テクスチャには、例えば、微小溝または微小柱が含まれる。このフィルムは、切断され得、移植に適切な形状を形成するように成形され得る。
【0194】
これらのRPEおよび/または光受容体細胞もしくは光受容体前駆細胞は、生体適合性足場を形成するために、フィルム上に直接-一緒にまたは順次(例えば、RPE層が形成された後に、光受容体細胞または光受容体前駆細胞)-プレートされ得る。あるいは、このポリマーフィルムは、適切な被覆材料、例えばポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、ビトロネクチンおよびMatrigel(商標)で被覆され得る。これらの細胞は、任意の所望の密度になるようにプレートされ得るが、単一層のRPE細胞(RPE単層)が好ましい。
【0195】
治療的使用
本発明は、この処置を必要とする患者において光受容体細胞を置き換えまたは修復するための方法もまた提供し、この方法は、本発明の光受容体前駆細胞もしくはそれらから誘導された光受容体、またはそれらの組合せを含む医薬調製物を、患者に投与するステップを含む。本明細書に記載されるように、この医薬調製物は、in vitroで移植可能な組織へと形成される細胞の懸濁物または細胞であり得る。多くの場合、これらの細胞は、罹患したまたは変性した網膜の網膜下空間に投与される。しかし、本発明の光受容体前駆細胞は、神経保護効果もまた有するので、これらの細胞は、局所的にではあるが、網膜の外側(例えば、硝子体中)に、または身体の他の部分へのデポーもしくは全身性送達によって、投与され得る。
【0196】
本発明の医薬調製物は、網膜変性症関連疾患を含む視覚系の変質を生じる広範な疾患および障害において使用され得る。かかる疾患および障害は、加齢によって引き起こされ得、その結果、変質の実質的な供給源として同定可能である傷害または疾患は存在しないようである。当業者は、かかる疾患状態を診断するため、および/またはかかる傷害の既知の徴候について調査するための確立された方法を理解する。さらに、文献には、動物の視覚系の局面における、加齢性の衰えまたは変質に関する情報が充実している。用語「網膜変性症関連疾患」は、生得的なまたは出生後の網膜変性症または網膜異常から生じる任意の疾患を指す意図である。網膜変性症関連疾患の例には、網膜異形成、網膜変性症、高齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障、視神経症および外傷が含まれる。
【0197】
さらにまたはあるいは、視覚系成分、例えば神経感覚網膜の変質は、傷害、例えば、視覚系自体(例えば、眼)に対する外傷、頭部もしくは脳に対する外傷、またはより一般的に身体に対する外傷によって引き起こされ得る。特定のかかる傷害は、加齢性傷害であること、即ち、その尤度または頻度が年齢と共に増加することが公知である。かかる傷害の例には、網膜裂孔、黄斑円孔、網膜上膜および網膜剥離が含まれ、その各々は、任意の年齢の動物において生じ得るが、他の点では健康な加齢動物を含む加齢動物において、生じる可能性がより高い、またはより高い頻度で生じる。
【0198】
視覚系またはその成分の変質は、疾患によっても引き起こされ得る。これらの疾患のな
かでも、視覚系に影響を与える種々の加齢性疾患が含まれる。かかる疾患は、若年動物においてよりも高齢動物において、より高い尤度および/または頻度で生じる。例えば、神経感覚網膜層を含む視覚系に影響を与え得、その変質を引き起こし得る疾患の例は、種々の形態の網膜炎、視神経炎、黄斑変性症、増殖性もしくは非増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、進行性網膜萎縮症、進行性網膜変性症、突発性後天性網膜変性症、免疫媒介性網膜症、網膜異形成、脈絡網膜炎、網膜虚血、網膜出血(網膜前、網膜内および/または網膜下)、高血圧性網膜症、網膜炎症、網膜浮腫、網膜芽細胞腫または網膜色素変性症である。
【0199】
上述の疾患の一部は、特定の動物、例えばコンパニオンアニマル、例えば、イヌおよび/またはネコに対して特異的である傾向がある。これらの疾患の一部は、一般的に列挙される、即ち、多くの型の網膜炎または網膜出血が存在し得る;したがって、一部の疾患は、1つの特定の病原因子によって引き起こされるのではなく、疾患の型または結果についてより記述的である。視覚系の1つまたは複数の成分の衰えまたは変質を引き起こし得る疾患の多くは、動物の視覚系に対して、一次的および二次的の両方の、またはより遠隔の影響を有し得る。
【0200】
有利には、本発明の医薬調製物は、光受容体細胞機能の欠如または縮小を補償するために使用され得る。本発明の網膜幹細胞集団および方法によって処置され得る網膜機能不全の例には、以下が含まれるがこれらに限定されない:光受容体変性(例えば、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体-杆体および/または杆体-錐体ジストロフィーならびに黄斑変性症において生じる);網膜剥離および網膜外傷;レーザーまたは日光によって引き起こされる光病変;黄斑円孔;黄斑浮腫;夜盲症および色覚異常;糖尿病または血管閉塞によって引き起こされる虚血性網膜症;早産児/早産に起因する網膜症;例えば、CMV網膜炎およびトキソプラスマ症などの感染性状態;炎症性状態、例えばブドウ膜炎(uveitidies);腫瘍、例えば網膜芽細胞腫および眼黒色腫;ならびに緑内障、外傷性視神経症、ならびに放射線視神経症および網膜症を含む眼神経障害において影響を受ける内部網膜ニューロンの置き換えとして。
【0201】
一態様では、これらの細胞は、処置を必要とする患者において網膜色素変性症の症状を処置または軽減できる。別の一態様では、これらの細胞は、この処置を必要とする患者において黄斑変性症、例えば加齢性黄斑変性症(滲出型または萎縮型)、シュタルガルト病、近視性黄斑変性症などの症状を処置または軽減できる。これらの処置の全てについて、これらの細胞は、患者にとって自家または同種であり得る。さらなる一態様では、本発明の細胞は、他の処置と組み合わせて投与され得る。
【0202】
網膜色素変性症(RP)とは、光受容体の段階的変性に起因する進行性の視力喪失を特徴とする遺伝性の眼障害の不均一な群を指す。米国において推定100,000人が、RPを有する。1つの表題の下でのこの群の障害の分類は、これらの患者において最も一般的に観察される臨床的特徴に基づいている。RPの特徴は、夜盲症および周辺視野の低減、網膜血管の狭小化、ならびに破壊された網膜色素上皮からの網膜中への色素の移動、しばしば網膜血管の隣の、種々のサイズの凝集塊の形成である。
【0203】
典型的には、患者は、杆体光受容体の喪失に起因した、夜間の見えにくさに最初に気が付く;次いで、残りの錐体光受容体が、視覚機能の頼みの綱になる。しかし、数年および数十年かかって、錐体もまた変性し、視覚の進行性の喪失をもたらす。ほとんどのRP患者では、視野欠損は、固視から30°と50°との間の中間周辺において始まる。この欠損領域は、段階的に拡大し、周辺における視覚の島および狭窄した中心視野(トンネル状視野と呼ばれる)を残す。視野が20°もしくはそれ未満まで縮小する場合、および/または中心視野が20/200もしくはそれより悪い場合、その患者は、法的に盲目になる
。
【0204】
遺伝パターンは、RPが、X連鎖(XLRP)、常染色体優性(ADRP)または劣性(ARRP)様式で伝達され得ることを示す。RPの3つの遺伝子型のうちで、ADRPは最も軽症である。これらの患者は、60歳およびそれ超まで、良好な中心視野を保持する場合が多い。対照的に、この疾患のXLRP形態を有する患者は、通常、30~40歳までに法的に盲目になる。しかし、これらの症状の重症度および発症の年齢は、同じ遺伝子型のRPを有する患者の中で大きく変動する。このバリエーションは、推定上全ての罹患成員が同じ遺伝子変異を有する同じ家族内であっても明らかである。RPを誘導する多くの変異が、現在記載されている。これまでに同定された遺伝子のうち、多くが、光受容体特異的タンパク質をコードし、いくつかは、ロドプシン、cGMPホスホジエステラーゼのサブユニットおよびcGMPゲート化Ca2+チャネルなど、杆体における光伝達と関連している。クローニングされた遺伝子の各々において、複数の変異が見出されている。例えば、ロドプシン遺伝子の場合、90の異なる変異が、ADRP患者の中で同定されている。
【0205】
特定の変異とは関係なく、RP患者にとって最も危機的な視力喪失は、錐体の段階的変性に起因する。多くの場合、RPを引き起こす変異が影響を与えるタンパク質は、錐体において発現されることさえない;主要な例は、ロドプシン-杆体特異的視色素である。したがって、錐体の喪失は、杆体特異的変異の間接的な結果であり得る。損傷した光受容体を置き換える能力は、この疾患の処置へのアプローチを提供する。
【0206】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、中心視野の進行性の喪失を引き起こし、55歳を超える人々における視力喪失の最も一般的な原因である。基礎にある病理は、光受容体の変性である。種々の研究は、AMDを発達させる危険性に寄与するとして、遺伝性因子、心血管疾患、環境因子、例えば喫煙および光曝露、ならびに栄養的原因を暗示している。RPE変性は、覆っている光受容体および基礎をなす脈絡膜灌流の両方の変動性の喪失を伴う。視力喪失または視野喪失は、RPEが萎縮すると生じ、RPEが供給する覆っている光受容体細胞の二次的喪失を生じる。RPEおよび光受容体細胞を置き換える能力は、確立されたAMDを処置する手段を提供する。
【0207】
黄斑変性症は、2つの型に大まかに分割される。滲出性-新生血管形態、即ち「滲出型」AMDは、全ての症例の10%を占め、異常な血管増殖が黄斑の下で生じる。しばしば網膜内出血、網膜下液、色素上皮剥離および色素沈着過剰と関連する、脈絡膜新血管新生の網膜下ネットワークの形成が存在する。最終的に、この複合体は縮小し、後極において独特な隆起した瘢痕を残す。これらの血管は、体液および血液を網膜中に漏出させ、したがって、光受容体に対する損傷を引き起こす。滲出型AMDは、迅速に進行する傾向があり、重症の損傷を引き起こし得る;中心視野の迅速な喪失は、たった数カ月間で生じ得る。
【0208】
AMD症例の残りの90%は、萎縮性黄斑変性症(萎縮型)であり、この場合、黄斑領域中に色素異常が存在するが、隆起した黄斑瘢痕は存在せず、黄斑の領域における出血も滲出も存在しない。これらの患者では、網膜色素上皮(RPE)の段階的な消失が存在し、萎縮症の限局性の領域を生じる。光受容体の喪失が、RPEの消失の後に起こるので、罹患した網膜領域は、視覚機能をほとんどまたは全く有さない。萎縮型AMDからの視力喪失は、多年にわたる過程にわたってより段階的に生じる。これらの患者は通常、いくらかの中心視野を保持するが、この喪失は、細部を見る必要がある作業の成績を損なうのに十分に重症であり得る。
【0209】
適切な年齢および臨床的知見が視力、視野または他の視覚機能の喪失を伴う場合、この
状態は、AMDと分類される場合が多い。時折、視覚喪失の発症前のステップは、患者が特徴的ドルーゼンおよび関連する家族歴を有する場合、AMDと分類されてきた。
【0210】
時折、黄斑変性症は、かなり早い年齢で生じる。これらの症例の多くは、遺伝子変異によって引き起こされる。遺伝性黄斑変性症の多くの型が存在し、各々が、それ自体の臨床所見および遺伝的原因を有する。若年性黄斑変性症の最も一般的な形態は、常染色体劣性として遺伝するシュタルガルト病として公知である。患者は通常、20歳未満で診断される。視力喪失の進行は可変性であるが、これらの患者のほとんどは、50歳までに法的に盲目になる。シュタルガルト病を引き起こす変異は、ABCR遺伝子において同定されており、この遺伝子は、光受容体膜を横切ってレチノイドを輸送するタンパク質をコードする。
【0211】
本発明の光受容体前駆細胞は、変性疾患の処置において使用を見出し、前駆細胞として;例えば、目的の光受容体系列への傾倒後に、その分化した子孫(杆体および錐体)として、送達され得る。これらの細胞は、意図した網膜部位、例えば、外顆粒層中にこれらの細胞を移植または遊走させる様式で投与され、機能的に欠損した領域を再構成または再生する。
【0212】
遺伝子操作された前駆細胞または光受容体もまた、変性の部位に遺伝子産物を標的化するために使用され得る。これらの遺伝子産物には、ネイティブの変性しているニューロンをレスキューするための生存促進因子、移植した細胞の生存および部位特異的ニューロンへの分化を促進するように自己分泌様式で作用し得る因子または機能的回復を可能にするために神経伝達物質(複数可)を送達するための因子が含まれ得る。ex vivo遺伝子治療、例えば、これらの前駆細胞または光受容体を培養物中で組換え操作することは、増殖因子ならびにニューロトロフィン、例えばFGF2、NGF、毛様体神経栄養因子(CNTF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)の送達によって、RP、AMDおよび緑内障においてならびに網膜剥離を引き起こす疾患において網膜細胞喪失を予防するための神経保護戦略として効果的に使用され得、これらの因子は、網膜変性症のモデルにおいて細胞死のプロセスを顕著に減速させることが示されている。増殖因子または増殖因子の組合せを合成するように操作された光受容体前駆体および/または光受容体細胞を使用する治療は、神経保護剤の持続的な送達を確実にできるだけでなく、損傷した網膜を再構築することもできる。
【0213】
本発明の方法では、移植される細胞は、ヒト投与のために十分に無菌な条件下で調製した等張賦形剤を含む任意の生理学的に許容される賦形剤中でレシピエントに移行される。医薬製剤における一般原則について、読者には、Cell Therapy: Stem
Cell Transplantation, Gene Therapy, and
Cellular Immunotherapy、G. MorstynおよびW. Sheridan編、Cambridge University Press、1996年を参照されたい。細胞性賦形剤および組成物の任意の付随する要素の選択は、投与に使用される経路およびデバイスに従って適合される。これらの細胞は、注射、カテーテルなどによって導入され得る。これらの細胞は、液体窒素温度で凍結され得、長期間にわたって貯蔵され得、解凍の際に使用が可能である。凍結される場合、これらの細胞は、通常、10% DMSO、50% FCS、40% RPMI 1640培地中に貯蔵される。
【0214】
本発明の医薬調製物は、任意選択で、所望の目的のための書面による指示と共に適切なコンテナ中に包装される。かかる製剤は、光受容体前駆体または光受容体細胞と組み合わせるのに適切な形態で、網膜分化および/または栄養因子のカクテルを含み得る。かかる組成物は、動物中への移行に適した適切な緩衝液および/または賦形剤をさらに含み得る
。かかる組成物は、移植される細胞をさらに含み得る。
【0215】
医薬調製物
PRPCまたは光受容体細胞は、薬学的に許容される担体と共に製剤化され得る。例えば、PRPCまたは光受容体細胞は、単独で、または医薬製剤の成分として、投与され得る。対象化合物は、薬における使用のために、任意の簡便な方法で投与のために製剤化され得る。投与に適切な医薬調製物は、1種または複数の薬学的に許容される無菌等張水性または非水性溶液(例えば、平衡塩類溶液(BSS))、分散物、懸濁物もしくは乳濁物、または使用の直前に無菌の注射可能な溶液もしくは分散物へと再構成され得る無菌粉末と組み合わせて、PRPCまたは光受容体細胞を含み得、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、溶質または懸濁剤もしくは増粘剤を含み得る。例示的な医薬調製物は、ALCON(登録商標)BSS PLUS(登録商標)(水中、各1mL中に、塩化ナトリウム7.14mg、塩化カリウム0.38mg、塩化カルシウム二水和物0.154mg、塩化マグネシウム六水和物0.2mg、リン酸水素二ナトリウム0.42mg、炭酸水素ナトリウム2.1mg、デキストロース0.92mg、グルタチオンジスルフィド(酸化型グルタチオン)0.184mg、塩酸および/または水酸化ナトリウム(pHをおよそ7.4に調節するため)を含む平衡塩類溶液)と組み合わせて、PRPCまたは光受容体細胞を含む。
【0216】
投与される場合、本開示での使用のための医薬調製物は、発熱物質を含まない生理学的に許容される形態であり得る。
【0217】
本明細書に記載される方法において使用されるPRPCSまたは光受容体細胞を含む調製物は、懸濁物、ゲル、コロイド、スラリーまたは混合物中で移植され得る。さらに、この調製物は、所望により、網膜または脈絡膜損傷の部位への送達のために、硝子体液中に粘稠性形態で封入または注射され得る。また、注射の時点で、凍結保存されたPRPCS光受容体細胞は、網膜下注射による投与に望ましい浸透圧および濃度を達成するために、市販の平衡塩類溶液で再懸濁され得る。この調製物は、完全には疾患に至っていなかった中心周囲黄斑の領域に投与され得、投与された細胞の付着および/または生存を促進し得る。
【0218】
これらのPRPCSおよび/または光受容体細胞は、本明細書に記載されるように凍結(凍結保存)され得る。解凍の際に、かかる細胞の生存度は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または約100%であり得る(例えば、解凍後に回収された細胞の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは約100%が生存しているか、または最初に凍結された細胞数の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは約100%が、解凍後に生存状態で回収される)。
【0219】
本開示のPRPCSまたは光受容体細胞は、眼内注射によって、薬学的に許容される眼科製剤中で送達され得る。硝子体内注射によってこの製剤を投与する場合、例えば、溶液は、最小の容量が送達され得るように、濃縮され得る。注射のための濃度は、本明細書に記載される因子に依存して、有効かつ非毒性である任意の量であり得る。患者の処置のためのPRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約104細胞/mLの用量で製剤化され得る。患者の処置のためのPRPCSまたは光受容体細胞の調製物は、少なくとも約103、104、105、106、107、108、109または1010のPRPCSまたは光受容体細胞/mLの用量で製剤化される。例えば、これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、薬学的に許容される担体または賦形剤中に製剤化され得る。
【0220】
本明細書に記載されるPRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約1,000;2,000;3,000;4,000;5,000;6,000;7,000;8,000;または9,000のPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。PRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010または9×1010のPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。PRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約1×102~1×103、1×102~1×104、1×104~1×105または1×103~1×106のPRPCSまたはPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。PRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約10,000、20,000、25,000、50,000、75,000、100,000、125,000、150,000、175,000、180,000、185,000、190,000または200,000のPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。例えば、PRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、少なくとも約50~200μLの容量中に、少なくとも約20,000~200,000のPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。さらに、PRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物は、150μLの容量中に約50,000のPRPCSもしくは光受容体を、150μLの容量中に約200,000のPRPCSもしくは光受容体細胞を、または少なくとも約150μLの容量中に少なくとも約180,000のPRPCSもしくは光受容体細胞を、含み得る。
【0221】
上述の医薬調製物および組成物では、PRPCSもしくは光受容体細胞の数またはPRPCSもしくは光受容体細胞の濃度は、生存細胞を計数し、非生存細胞を排除することによって、決定され得る。例えば、非生存PRPCSまたは光受容体は、生体染色色素(例えば、トリパンブルー)を排除することの失敗によって、または機能的アッセイ(例えば、培養基材に接着する能力、食作用など)を使用して、検出され得る。さらに、PRPCSもしくは光受容体細胞の数またはPRPCSもしくは光受容体細胞の濃度は、1種もしくは複数のPRPCSもしくは光受容体細胞マーカーを発現する細胞を計数し、および/またはPRPCSもしくは光受容体以外の細胞型を示す1種または複数のマーカーを発現する細胞を排除することによって、決定され得る。
【0222】
これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、薬学的に許容される眼科ビヒクル中での送達のために製剤化され得、その結果、この調製物は、眼の罹患領域、例えば、前眼房、後眼房、硝子体、眼房水、硝子体液、角膜、虹彩/毛様体、水晶体、脈絡膜、網膜、強膜、脈絡膜上空間、結膜、結膜下空間、強膜外空間、角膜内空間、角膜外空間、毛様体扁平部、手術誘導性の無血管性領域、または黄斑にこれらの細胞を浸透させるのに十分な期間にわたって、眼表面と接触して維持される。
【0223】
これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、細胞のシート中に含まれ得る。例えば、PRPCSまたは光受容体細胞を含む細胞のシートは、細胞のインタクトなシートがそこから放出され得る基材、例えば、熱応答性ポリマー、例えば熱応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)グラフト表面上でPRPCSまたは光受容体細胞
を培養することによって調製され得、この基材上に、細胞が接着し、培養温度で増殖し、次いで、温度シフトの際に、この表面特徴は変更されて、細胞の培養されたシートの放出を引き起こす(例えば、下限臨界溶液温度(LCST)を下回るまで冷却することによって)(その各々の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、da Silvaら、Trends Biotechnol. 2007年12月;25巻(12号):577~83頁;Hsiueら、Transplantation. 2006年2月15日;81巻(3号):473~6頁;Ide, T.ら(2006年);Biomaterials 27巻、607~614頁、Sumide, T.ら(2005年)、FASEB
J. 20巻、392~394頁;Nishida, K.ら(2004年)、Transplantation 77巻、379~385頁;およびNishida, K.ら(2004年)、N. Engl. J. Med. 351巻、1187~1196頁を参照のこと)。例えば、移植に適切な基材上でこれらの細胞を培養すること、または別の基材(例えば、熱応答性ポリマー)から移植に適切な基材上にこれらの細胞を放出することによって調製される細胞のシートは、移植に適切な基材、例えば、宿主生物中にこのシートが移植される場合にin vivoで溶解し得る基材に対して接着性であり得る。移植に潜在的に適切な例示的な基材は、ゼラチンを含み得る(Hsiueら、上記を参照のこと)。移植に適切であり得る代替的な基材には、フィブリンベースのマトリックスなどが含まれる。細胞のシートは、網膜変性症の疾患の予防または処置のための医薬の製造において使用され得る。PRPCSまたは光受容体細胞のシートは、それを必要とする対象の眼中への導入のために製剤化され得る。例えば、細胞のシートは、PRPCSまたは光受容体細胞のシートの移植と共に、中心窩下膜切除術によってそれを必要とする眼中に導入され得るか、または中心窩下膜切除術後の移植のための医薬の製造のために使用され得る。
【0224】
本明細書に記載される方法に従って投与される調製物の容量は、因子、例えば、投与の様式、P PRPCSまたは光受容体細胞の数、患者の年齢および体重、処置されている疾患の型および重症度に依存し得る。注射によって投与される場合、本開示のPRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物の容量は、少なくとも約1、1.5、2、2.5、3、4または5mLからであり得る。この容量は、少なくとも約1~2mLであり得る。例えば、注射によって投与される場合、本開示のPRPCSまたは光受容体細胞の医薬調製物の容量は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、100、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199または200μL(マイクロリットル)であり得る。例えば、本開示の調製物の容量は、少なくとも約10~50、20~50、25~50または1~200μLからであり得る。本開示の調製物の容量は、少なくとも約10、
20、30、40、50、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190もしくは200μL、またはそれ超であり得る。
【0225】
例えば、この調製物は、1μL当たり少なくとも約1×103、2×103、3×103、4×103、5×103、6×103、7×103、8×103、9×103、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104または9×104のPRPCSまたは光受容体細胞を含み得る。この調製物は、1μL当たり2000のPRPCSもしくは光受容体細胞、例えば、50μL当たり100,000のPRPCSもしくは光受容体細胞、または90μL当たり180,000のPRPCSもしくは光受容体細胞を含み得る。
【0226】
網膜変性症を処置する方法は、免疫抑制剤の投与をさらに含み得る。使用され得る免疫抑制剤には、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン、BASILIXIMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、RITUXIMAB(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムスおよびタクロリムスが含まれるがこれらに限定されない。これらの免疫抑制剤は、少なくとも約1、2、4、5、6、7、8、9または10mg/kgで投薬され得る。免疫抑制剤が使用される場合、これらは、全身的にまたは局所的に投与され得、PRPCSまたは光受容体細胞の投与の前、投与と同時発生的に、または投与後に、投与され得る。免疫抑制的治療は、PRPCSまたは光受容体細胞の投与の後、数週間、数カ月間、数年間または無制限に継続し得る。例えば、患者には、PRPCSまたは光受容体細胞の投与の後、6週間にわたって、5mg/kgシクロスポリンが投与され得る。
【0227】
網膜変性症の処置の方法は、単一用量のPRPCSまたは光受容体細胞の投与を含み得る。また、本明細書に記載される処置の方法は、PRPCSまたは光受容体細胞が、いくらかの期間にわたって複数回投与される治療の過程を含み得る。例示的な治療の過程は、週に1回、隔週で、月に1回、3カ月に1回、半年に1回または年に1回の処置を含み得る。あるいは、処置は、段階的に進行し得、それによって、複数の用量が、最初に投与され(例えば、最初の1週間にわたって日に1回の用量)、引き続いて、より少ないまたはより低頻度の用量が、必要とされる。
【0228】
眼内注射によって投与する場合、これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、患者の生涯にわたって1回または複数回、周期的に送達され得る。例えば、これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、1年に1回、6~12カ月毎に1回、3~6カ月毎に1回、1~3カ月毎に1回または1~4週間毎に1回、送達され得る。あるいは、より高頻度の投与が、特定の状態または障害について望まれ得る。インプラントまたはデバイスによって投与する場合、これらのPRPCSまたは光受容体細胞は、特定の患者および処置されている障害または状態にとって必要な場合、1回投与され得るか、または患者の生涯にわたって1回もしくは複数回、周期的に投与され得る。同様に、経時的に変化する治療レジメンが企図される。例えば、より高頻度の処置が、開始時に必要とされ得る(例えば、日に1回または週に1回の処置)。時間と共に、患者の状態が改善するにつれて、より低頻度の処置が必要とされ得、またはさらにはさらなる処置は必要とされない可能性がある。
【0229】
本明細書に記載される方法は、対象において網膜電図応答、視運動の鋭敏さ閾値または輝度閾値を測定することによって、処置または予防の効力をモニタリングするステップをさらに含み得る。この方法は、これらの細胞の免疫原性または眼におけるこれらの細胞の遊走をモニタリングすることによって、処置または予防の効力をモニタリングするステップもまた含み得る。
【0230】
PRPCまたはPRは、網膜変性症を処置するための医薬の製造において使用され得る。本開示は、盲目の処置における、PRPCまたはPRを含む調製物の使用もまた包含する。例えば、ヒトPRPCまたはPRを含む調製物は、光受容体損傷および盲目を生じるいくつかの視覚変更性の不快と関連する網膜変性症、例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症、例えば、滲出型加齢性黄斑変性症および萎縮型加齢性黄斑変性症を含む)、網膜色素変性症、ならびにシュタルガルト病(黄色斑眼底)、夜盲症および色覚異常を処置するために使用され得る。光受容体損傷および盲目を生じるいくつかの視覚変更性の不快と関連する網膜変性症、例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)、網膜色素変性症およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)を処置するために網膜に投与され得るこの調製物は、少なくとも約5,000~500,000のPRPCまたはPR(例えば、100,00のPRPCまたはPR)を含み得る。
【0231】
本明細書で提供されるPRPCまたはPRは、PRPCまたはPRであり得る。しかし、これらのヒト細胞は、ヒト患者において、ならびに動物モデルまたは動物患者において使用され得ることに留意のこと。例えば、これらのヒト細胞は、網膜変性症のマウス、ラット、ネコ、イヌまたは非ヒト霊長類モデルにおいて試験され得る。さらに、これらのヒト細胞は、獣医薬などの中で、それを必要とする動物を処置するために、治療的に使用され得る。獣医学的対象または患者の例には、イヌ、ネコおよび他のコンパニオンアニマル、ならびに経済的に価値のある動物、例えば家畜およびウマが含まれるがこれらに限定されない。
【0232】
以下は、本発明を説明するための実施例であり、本発明の範囲の限定とみなすべきではない。
【実施例0233】
(実施例1)
光受容体前駆細胞の生成
ヒト胚性幹細胞を、Matrigel(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の可溶性調製物、BD Biosciences)表面上でmTESR1培地(Stem Cell Technology)中で無フィーダー条件下で培養した。80~90%コンフルエンスになったところで、細胞を継代または凍結した。幹細胞の継代を、酵素的(ディスパーゼ)または非酵素的(EDTAベースの細胞解離緩衝液、Invitrogen)技術を使用して実施した。
【0234】
直接分化法を、眼野前駆細胞、網膜神経前駆細胞、光受容体前駆細胞および網膜光受容体細胞の生成に使用した。胚様体の形成は必要としなかった。
【0235】
これらの実施例において光受容体発生のために使用した全体的方法を、
図19中に模式的に示し、この図は、プロセスの各ステップにおいて使用した培地をさらに示す。
【0236】
染色データに基づいて、これらの細胞が、7日目~30日目の間にEFPCになり(この細胞の正体を確認した20日目に実施した染色によって示される)、21日目~45日目の間にRNPCになり(30日目に実施した染色によって示される)、1~4カ月の間にPhRPCになった(90日目に実施した染色に基づく)ことが決定された。
【0237】
さらに、実施例1に記載した方法を使用して異なる細胞型が生じたタイミングは、以下のとおりであったと推定された:
眼野前駆体(EFPC):7~30日/65%~98%純度
網膜神経前駆体(RNPC):21~45日/70%~95%純度
杆体光受容体および錐体光受容体の両方になることが可能な光受容体前駆体(PhRP):1~4カ月/85%~95%純度
杆体光受容体(錐体光受容体ではなく)になるその能力における喪失を有するまたは低減を経験したと考えられる光受容体前駆体(PhRP):5~12カ月/85%~95%純度。
【0238】
0日目:ヒト多能性幹細胞の細胞分化を、15~20%コンフルエンスで誘導した。培養培地を、網膜誘導(RI)培地に交換した:450mg/mlのD-グルコース、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、1%(または任意選択で0.1~5%)のN2サプリメント(Invitrogen)、0.2%(または任意選択で0.05~2.0%)のB27サプリメント、0.1mMのMEM非必須アミノ酸溶液、25μg/ml(または任意選択で5~50μg/ml)のヒトインスリンを補充したDMEM/F12を、RI培地に添加した。Smadインヒビターノギンもまた含め、これは、10~100ng/mlまたは好ましくは50ng/mlの濃度において含めた場合、眼野転写因子の発現を増加させた。
図1に示すように、50ng/mlのノギン、5ng/mlのDkk1、5ng/mlのIGF-1、または5ng/mlのノギン、5ng/mlのDkk1および5ng/mlのIGF-1の組合せを含む異なる因子を含めることは、21日目に、分化した眼野前駆細胞における眼野転写因子の発現のレベルに影響を与えた。これらの条件のうち、50ng/mlのノギンを含めることで、眼野前駆体マーカーの発現が大いに誘導された。
【0239】
このRI培地組成物は以下を含んだ:
N2:1%(100mlの培地当たり1mlのN2)
B27:0.2%(100ml当たり0.2mlのb27)
ヒトインスリン:20μg/ml(N2によって補充された5μg/mlのインスリンに加えて)。インスリンの最終濃度は25μg/mlであった。
【0240】
ノギン:50ng/mlの最終濃度。
【0241】
1日目~4日目:完全な培地交換を、毎日行った。この頻度が好ましいが、特により大きい容量の培地を使用する場合には、より低頻度で、例えば2~3日毎に培地を交換することが適切であり得ると考えられる。細胞コロニーは、以前のステップと同じ濃度でインスリンおよびノギンを含むRI培地中で増殖し続けた。RI培地への1日の曝露の後、コロニー周縁部に位置した細胞は、
図2Aに示すように、伸長し、円柱形状であった。
【0242】
5日目:細胞培養物は、5日目に80~90%コンフルエントになった。培地を神経分化(ND)培地に交換した:450mg/mlのD-グルコース、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、1×GlutaMAX(商標)(L-グルタミン由来の安定化形態のジペプチド、L-アラニル-L-グルタミン)、1%(または任意選択で0.1~5%)のN2サプリメント(1mMのヒトトランスフェリン(ホロ)、0.0861mMのインスリン組換え全鎖、0.002のプロゲステロン、10.01mMのプトレシンおよび0.00301mMのセレナイトを含むBottensteinのN-1処方に基づく、化学的に規定された無血清サプリメント、Invitrogen)、2%(または任意選択で0.05~2.0%)のB27サプリメント(成分は
図21中に列挙した)、0.1mMのMEM非必須アミノ酸溶液を補充したNeurobasal培地(成分は
図21中に列挙した、Invitrogen)。ノギンもまた、50ng/ml(または任意選択で10~100ng/ml)の最終濃度で、ND培地に添加した。
【0243】
6日目~20日目:細胞を、ND培地中で維持した。培地の半分量を、2日毎に交換し
た。細胞コロニーは、ND培地中で増殖し続けた。縁の細胞は、平らで大きくなったが、中心部の細胞は、より小さく、コンパクトな細胞クラスターを形成した(
図2B)。14日目ごろに、コロニーの中心に位置した細胞は、ロゼット様構造を形成し始めた(
図2C)。21日目に、これらの細胞の90%超が、免疫染色およびフローサイトメトリーによって明らかなように、PAX6およびRX1を同時発現した(
図3A~3B)。免疫染色によって、細胞は、ネスチンおよびSOX2について陽性であった(
図3C~3D)。細胞は、ES細胞マーカー(具体的にはOCT4)および網膜神経前駆体マーカー(具体的にはCHX10)について陰性であった。RT-PCRによって、細胞は、眼野転写因子:PAX6、RX1、LHX2、SIX3、SIX6、TBX3およびSOX2を発現した(
図3E)。これらの結果は、これらの細胞が眼野前駆細胞であったことを示している。
【0244】
これらの細胞は、神経分化培地を用いて培養した後に、約7~8日目(ND培地中での約2~3日の培養)から、眼野前駆体になった。これらの時点において、検出可能なpax6/rx1二重陽性細胞が生じる。約14日目の後に(14日目~30日目の間)、高い純度(>90%)の眼野前駆体が生成される。
【0245】
約7日目~30日目の間に、「眼野前駆細胞」即ち「EFPC」が形成される。
【0246】
21日目~24日目:21日目に、細胞を、増殖表面から外し、ノギンなしのND培地中でクラスターになるように機械的に断片化した。細胞クラスターを、100mm超低付着培養ディッシュに移した。細胞クラスターは、懸濁培養中でまとまり、個々の球(固形クラスター)を形成した。23日目に、培養培地の半分を置き換えた。
【0247】
25日目に、球を収集し、死細胞およびデブリを、ND培地でこれらの球を洗浄することによって除去した。細胞球を、ND培地中で、Matrigel(商標)被覆ガラスチャンバスライド(免疫染色のため)または組織培養ディッシュ上にプレートした。球は12時間以内に付着した。これらは、増殖し続け、ニューロン表現型を示し、特に、凝集体の外に遊走している一部の細胞を伴って、軸索様神経突起を延ばした球内の細胞凝集体を示す(
図4A)。細胞継代の間に排除され得る大きい上皮様細胞はほとんど存在しなかった(以下の「2カ月目~3カ月目」を参照のこと)。細胞培養物がコンフルエントになるまで、2日毎に培養培地の半分を交換して、培養物を維持した。球のボールがプレートに付着したことが観察された。
【0248】
30日目に、遊走している細胞は、未成熟および成熟ニューロンを標識するTuj1について陽性であった(
図4B)。凝集体中の細胞は、Tuj1について陰性であった。95%超の細胞(凝集体中の細胞または凝集体の外に遊走している細胞を含む)は、PAX6およびCHX10を同時発現し、これは、それらが網膜神経前駆体になっていたことを示唆している(
図4C)。
【0249】
2カ月目~3カ月目:ND培地中での増殖および細胞継代。以前のステップからの細胞を、コンフルエントになるまで継代した。2ステップ連続継代技術を使用して、非ニューロン表現型の細胞の大部分を排除することによって、高純度神経培養物を生成した。第1のステップ:神経球培養。細胞を、酵素的に(例えば、Accutaseを使用して)または機械的に解離させて、単一細胞および細胞クラスターの混合物にした。細胞を、ND培地中で超低付着ディッシュに移した。ニューロン表現型を有する全ての細胞が、懸濁培養において神経球を形成する。3日目に、培地の半分を交換し、細胞を、5日目まで維持した。第2のステップ:接着培養。神経球を、5日目に収集し、死細胞およびデブリを、ND培地でこれらの球を洗浄することによって除去した。球を、コンフルエントになるまで、Matrigel(商標)被覆組織培養ディッシュ上にプレートした。第1および第
2のステップを交互に繰り返し、細胞を、3カ月目の最後まで、そのように維持した。
【0250】
3カ月目の最後に、これらの細胞は神経表現型を示した。具体的には、これらの細胞は、培養物中で神経突起を形成した(
図5A)。これらは増殖が可能であった。免疫染色によって評価されるように、これらはPAX6を発現したが、CHX10については陰性であった(
図5B)。免疫染色によって、これらの細胞は、細胞体の細胞質において発現されたリカバリンについて陽性であった(
図5C)。これらの細胞は、ロドプシン、オプシンおよびリカバリンmRNAもまた発現した(
図5D)。リアルタイムPCR分析により、杆体および/または錐体光受容体分化を制御する転写因子の発現が、高度に発現されたことが明らかになった(表1)。これらの結果は、これらの細胞が光受容体前駆体であったことを示す。さらに、この時点で、培養物中のこれらの細胞の全てまたは本質的に全てが光受容体前駆体であるというのは、観察に基づいたものであった。
【0251】
【0252】
4カ月目~9カ月目/またはそれ超:光受容体前駆体のin vitro拡大増殖。一部の実験では、これらの細胞を、上記2ステップ連続継代技術(「2カ月目~3カ月目」)を使用して、さらに拡大増殖させた。しかし、時間と共に、これらの細胞は、錐体光受容体へと分化するその能力を失うことが観察された(しかし、これらは、杆体光受容体へと分化する能力を保持する)。具体的には、光受容体前駆体を、2ステップ連続継代技術によって培養物中で9カ月間にわたって維持し、次いで、分化するように誘導した後、これらは、杆体光受容体マーカーを発現した細胞のみを生成し、錐体光受容体マーカーを発現した細胞は生成しなかった。杆体光受容体を優先的に生成する前駆細胞は、杆体形成が望まれる疾患の処置において、または光受容体前駆体運命決定に関与する因子の研究のための試薬として有用であり得るので、この特性は、潜在的に有利に使用され得る。
【0253】
(実施例2)
光受容体前駆細胞の分化:レチノイン酸およびタウリンによる細胞処理。
【0254】
付着した光受容体前駆体を、以下の条件下で、2週間にわたってレチノイン酸で処理した:100ng/ml(または任意選択で10~1000ng/ml)のレチノイン酸お
よび100μM(または任意選択で20~500μM)のタウリンを補充したND培地。培養培地の半分を、2日毎に交換した。
【0255】
光受容体分化培地中で細胞を分化させる:培地を、5μM(または任意選択で1~100μM)のフォルスコリン、10ng/ml(または任意選択で1~100ng/ml)のBDNF、10ng/ml(または任意選択で1~100ng/ml)のCNTF、10ng/ml(または任意選択で5~50ng/ml)のLIFおよび10μM(または任意選択で1~100μM)のDATPを添加した、450mg/mlのD-グルコース、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、1×GlutaMAX(商標)、1%のN2サプリメント(Invitrogen)、2%のB27サプリメント(処方番号080085-SA)を補充したNeurobasal培地(Invitrogen)を含む光受容体分化培地に交換した。培地の半分を、2日毎に交換した。具体的には、各因子の量は、以下のとおりであった:フォルスコリン(5μM)、BDNF(10ng/ml)、CNTF(10ng/ml)、LIF(10ng/ml)およびDATP(10μM)。LIFは、必要ないことが決定されたので、省略してもよい。
【0256】
細胞分化を開始して2週間後、ロドプシン、オプシン(緑色/赤色)、リカバリンおよびホスホジエステラーゼ6Aアルファサブユニット(PDE6a)の発現が、細胞体の細胞質および神経突起中で検出された(
図6A~6D)。これらの遺伝子発現結果は、これらが光受容体細胞であることを示している。
【0257】
(実施例3)
ヒトESC由来網膜神経前駆体の凍結保存。
【0258】
本発明の網膜神経前駆体、本発明の光受容体前駆体および本発明のレチノイン酸処理光受容体前駆体は、動物を含まない凍結保存緩衝液、例えばCryostor CS10、または別の凍結保存緩衝液、例えば90%FBSおよび10%DMSO中で凍結され得る。光受容体前駆体に関して、神経球として細胞を凍結することが有益であることが観察されたが、これは、細胞-細胞接触の利益に起因し得る。好ましくは、これらの神経球を、あまり大きすぎないサイズ、例えば、50~250細胞で凍結した。
【0259】
(実施例4)
シュタルガルト黄斑ジストロフィー動物モデルにおける動物研究。
【0260】
動物研究を、シュタルガルト黄斑ジストロフィー動物モデル、ELOVL4トランスジェニック2(TG2)マウスにおいて実施した(
図7)。
【0261】
光受容体前駆体(実施例1に記載したように生成した)および別々にレチノイン酸およびタウリン処理した光受容体前駆体(即ち、実施例2に記載したように生成した未成熟光受容体細胞)を、Accutaseを使用して単一細胞へと解離させた。細胞を、PBS緩衝液中に再懸濁した。
【0262】
28日齢TG2マウスは、5×105細胞を含む1μlの細胞懸濁物の網膜下空間中への注射、または1×106細胞を含む150μlの細胞懸濁物の尾部静脈中への注射を受けた。全てのマウスは、細胞注射の前にベースラインERGおよびOCT試験を受けた。
【0263】
マウスに、シクロスポリンAを補充した水を与えた(USP改変)。
【0264】
細胞注射の1カ月後に、光受容体前駆体の網膜下注射を受けたマウスは、a波およびb
波の両方の暗順応ERG振幅の顕著な増加によって明らかな、杆体光受容体機能の顕著な改善を示した(
図8)。光受容体前駆体ならびにレチノイン酸およびタウリン処理した光受容体前駆体の尾部静脈注射を受けたマウスは、a波およびb波の両方の暗順応ERG振幅の顕著な増加によって明らかな、杆体光受容体機能の顕著な改善を示した(
図9)。
【0265】
細胞注射の2カ月後に、レチノイン酸処理光受容体前駆体の尾部静脈注射を受けたマウスは、暗順応ERG応答曲線のa波およびb波の両方の振幅のさらなる増加によって明らかなように、杆体光受容体機能のさらなる改善を示した(
図10A~10C)。錐体光受容体の機能は、a波およびb波の両方の明順応ERG振幅の顕著な増加によって明らかなように、顕著に改善された(
図11)。
【0266】
注射の2カ月後、レチノイン酸およびタウリンで処理した未成熟光受容体細胞の尾部静脈注射を受けたマウスは、OCTによって明らかな、全網膜厚さの顕著な増加を示した(
図12)。
【0267】
細胞移植の2カ月後に、レチノイン酸およびタウリンで処理した光受容体前駆体を受けたマウスにおいて、網膜のONL中の光受容体ニューロンの顕著な保全が存在した(
図13)。
【0268】
(実施例5)
色覚障害(色覚異常)の動物モデルおよび夜間視力の改善
実施例1または実施例2に記載した方法に従って生成した細胞を、色覚障害(色覚異常)のマウス、ヒツジ、および/またはイヌモデルにおいて試験する。以下のモデルを使用する:
マウス:(1)cpfl5マウス:CNGA3変異を有する、色覚障害の天然に存在するマウスモデル;(2)CNGA3ノックアウトマウス;(3)GNAT2cpfl3マウス:GNAT2に関連する変異;(4)PDE6C-cpfl1:pde6cに関連する変異。
【0269】
ヒツジ:Awassiヒツジの仔ヒツジ:CNGA3における変異
イヌ:CNGA3中の変異について2種の天然に存在するイヌが同定されている:エスキモー犬およびジャーマン・ショートヘアード・ポインターにおける常染色体劣性イヌ錐体変性。
【0270】
光受容体前駆体(実施例1に記載したように生成した)を、accutaseを使用して単一細胞へと解離させる。細胞を、PBS緩衝液中に再懸濁する。動物は、硝子体腔中への2×105細胞もしくはそれ超の注射、または尾部静脈(例えば、尾部静脈)中への5×106細胞もしくはそれ超の注射を受ける。対照動物は、PBS緩衝液による注射を受ける。1もしくは2カ月後、または他の時点において、視覚機能に対する可能な改善を検出するために、これらの動物に視運動応答性試験を与えて、視覚機能をチェックする。さらに、組織学的分析を実施して、光受容体ニューロンの任意の顕著な保全または光受容体ニューロンの増殖が存在するかどうかを決定し、さらに、硝子体腔中に移植した細胞が注射後に良好な生存を示したかどうかを検出し、これらの細胞がそれらのマーカーを発現している杆体または錐体光受容体細胞へと分化したかどうかを検出した。
【0271】
(実施例6)
光受容体変性ラットモデル、Royal College of Surgeons(RCS)ラットにおける動物研究。
【0272】
光受容体前駆体(実施例1に記載したように生成した)を、accutaseを使用し
て単一細胞へと解離させた。細胞を、PBS緩衝液中に再懸濁した。
【0273】
出生後30日目に、RCSラットは、硝子体腔中への2×105細胞の注射または尾部静脈中への5×106細胞の注射を受けた。対照ラットは、PBS緩衝液による注射を受けた。
【0274】
RCSラットに、シクロスポリンAを補充した水を与えた(USP改変)。
【0275】
細胞注射の1カ月後または2カ月後に、ラットに、視運動応答試験を与えて、視覚機能をチェックした。処置ラットにおいて、視覚機能における顕著な改善は存在しなかった(データ示さず)。
【0276】
視覚機能に対する生じた効果は、視運動応答試験、ERG、輝度閾値記録および/または視覚中枢血流アッセイによって検出され得る。
【0277】
細胞注射の2カ月後、組織学により、細胞処置を投与したRCSラットにおいて、網膜のONL中の光受容体ニューロンの顕著な保全が明らかになった(
図15)。
【0278】
ロドプシン(杆体)およびオプシン(錐体)の免疫染色によって明らかな杆体および錐体光受容体外節の保全が、細胞処置群において観察された(硝子体内注射および尾部静脈注射の両方、
図16および
図17)。
【0279】
硝子体腔中に移植された細胞は、注射の2カ月後に良好な生存を示し、次いで、杆体光受容体マーカーを発現する杆体光受容体細胞へとさらに分化した(
図18)。