(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053584
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】グラスラン
(51)【国際特許分類】
B60J 10/76 20160101AFI20240409BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20240409BHJP
B60J 10/27 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/50
B60J10/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159894
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】矢島 翔也
【テーマコード(参考)】
3D201
【Fターム(参考)】
3D201AA21
3D201CA23
3D201DA10
3D201DA31
3D201DA36
(57)【要約】
【課題】ドアガラスを少し開けた状態で、ドアを閉じた際や高速走行時のドアガラスの振動に伴うバタツキ音を抑制しつつドアガラスの円滑な摺動性(昇降性)を確保できるグラスランを提供する。
【解決手段】車内側側壁13の内側面側に、車外側側壁方向へ傾斜状に突設された車内側シールリップ18,19と、車外側側壁の内側面側に、車内側側壁方向へ傾斜状に突設された車外側シールリップ16と、を備え、ドアガラス4の両側面を、各シールリップの先端部16b、18b、19bによって摺動状態に保持し、各シールリップは、車外側側壁と車内側側壁に向かって直線状に形成され、断面円弧状に形成された各先端部の先端面16c、18c、19cがドアガラスの両側面に線接触状態で摺動可能とし、車内側側壁と車外側側壁の各内側面の方向への倒れを可能にするノッチ部17,20,21がそれぞれ形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、前記底壁の幅方向の両端縁に設けられた車内側側壁及び車外側側壁と、前記車内側側壁の内側面側に少なくとも2つ以上設けられて、前記車外側側壁の方向へ傾斜状に突出した車内側シールリップと、前記車外側側壁の内側面側に少なくとも1つ以上設けられ、前記車内側側壁の方向へ傾斜状に突出した車外側シールリップと、を備え、前記底壁方向へ進入したドアガラスの両側面を、前記各車内側シールリップの先端部と車外側シールリップの先端部によって摺動状態に支持するグラスランであって、
前記車内側シールリップと車外側シールリップは、それぞれが前記車外側側壁と車内側側壁に向かって直線状に形成されていると共に、前記各先端部の断面円弧状に形成された各先端面が前記ドアガラスの両側面に線接触状態で摺動可能とし、前記車内側側壁と車外側側壁に結合されたそれぞれの基端部に、前記車内側側壁の内側面と車外側側壁の内側面の方向への倒れを可能にする薄肉部がそれぞれ形成されていることを特徴とするグラスラン。
【請求項2】
請求項1に記載のグラスランであって、
前記各車内側シールリップは、各先端部の各先端面が前記ドアガラスの側面に当接した状態で、前記各薄肉部を介して前記車内側側壁方向へ倒れた際に、互いに干渉しない位置に設けられていることを特徴とするグラスラン。
【請求項3】
請求項1に記載のグラスランであって、
前記車外側シールリップと前記各車内側シールリップは、それぞれの先端部の先端面が前記ドアガラスの両側面に当接する前の自由状態時における立ち上がり傾斜角度が、前記ドアガラスの進入方向線を基準として約65度~75度になるように設定されていることを特徴とするグラスラン。
【請求項4】
請求項1に記載のグラスランであって、
前記車外側シールリップは、前記基端部から先端面の方向に延びて前記ドアガラスの一側面に当接可能な当接面が延出方向に沿って円弧状に形成されている一方、
前記各車内側シールリップは、前記それぞれの基端部から各先端面の方向に延びて前記ドアガラスの他側面に当接可能な各当接面が延出方向に沿ってそれぞれ円弧状に形成されていることを特徴するグラスラン。
【請求項5】
請求項4に記載のグラスランであって、
前記車外側シールリップの円弧状の当接面と前記各車内側シールリップの円弧状の各当接面のそれぞれの曲率半径が約35R~45Rの範囲に設定されていることを特徴とするグラスラン。
【請求項6】
請求項1に記載のグラスランであって、
前記車外側側壁の内側面に前記車外側シールリップの他に、第2の車外側シールリップが設けられ、前記第2の車外側シールリップは、車外側シールリップと同じ構造に形成されていると共に、前記各車外側シールリップは、各先端部の各先端面が前記ドアガラスの側面に当接した状態で、前記車外側シールリップの基端部に有する薄肉部と第2の車外側シールリップの基端部に設けられた薄肉部を介して前記車外側側壁方向へ倒れた際に、互いに干渉しない位置に設けられていることを特徴とするグラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車体開口部を開閉するドアのドアパネル(サッシュ部)の内周部に取り付けられて、ドアガラスを摺動案内するグラスランの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、この種の従来のグラスランとしては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このグラスラン30は、自動車用ドアのドア本体やドアサッシュ部に取り付けられており、
図12に示すように、底壁31と、該底壁31の車内外側幅方向の両端縁からほぼ直角方向に延びた車外側側壁32及び車内側側壁33と、を有し、ドアサッシュ部に底壁31側から内部に押し込んで嵌着保持された断面ほぼチャンネル状に形成されている。前記車外側側壁32と車内側側壁33の各下端部には、それぞれチャンネル状空間の内方に向けて延出し、ドアガラス34の両側面に弾接して該ドアガラス34との間をシールするそれぞれ1枚の車外側シールリップ35と車内側シールリップ36が互いに内方へ突設されている。
【0004】
また、前記底壁31の内底面31aには、先端部37aがドアガラス34の先端部の車内側側面34aに弾接するガイドリップ37が突設されている。このガイドリップ37は、断面ほぼS字形状に折曲形成されて、底壁31側の基部37bのセンターラインXがドアガラス34のセンターラインYよりも車外側に位置するように配置され、これにより、全体がドアガラス34のセンターラインY方向へ弾性変形し易いように形成されている。したがって、ガイドリップ37の先端部37aが適度な力でドアガラス34の先端部の車内側側面34aに弾接することが可能になり、ドアガラス34の摺動性を良好に維持しつつ、ドアガラス34を半開き状態にしてドアを閉じた際のドアガラス34の振動によるバタツキ音を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-8372号公報(
図4)
【特許文献2】特開2021-24388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載のグラスラン30にあっては、前記ガイドリップ37を設けてドアガラス34の半開き状態におけるドア閉時のドアガラス34のバタツキ音を防止するようになっているものの、ガイドリップ37は底壁31の内底面31aに突設されているだけであるから、基部37bを中心として車内外方向へ撓み変形し易くなる。このため、ドアを閉じた際の、ドアガラス34の特に車内方向への反力を効果的に抑制することができず、バタツキの発生を十分に抑えられない。また、車内側側壁33の車内側シールリップ36は、一つだけ設けられているに過ぎないから、前記ドア閉時のドアガラス34の車内方向への反力を十分に抑えることができない。
【0007】
そこで、特許文献2に記載されたグラスランのように、車内側側壁の先端部と内側面に2枚の車内側シールリップを設けて、ドア閉じ時におけるドアガラスの車内方向への反力を抑える力を大きくしてドアガラスのバタツキの発生を抑えることも考えられる。
【0008】
しかし、これら2枚の車内側シールリップは、ドアガラスの昇降時に、該ドアガラスの側面に対して撓み変形しながら面接触状態で摺動するようになっている。このため、各車内側シールリップとドアガラスの側面との間の摺動摩擦抵抗が大きくなって、ドアガラスの円滑な摺動性(昇降性)が得られないといった技術的課題を招来している。
【0009】
本発明は、前記従来のグラスランの技術的課題に鑑みて案出されたもので、ドアガラスを少し開けた状態で、ドアを閉じた際や高速走行時のドアガラスの振動に伴うバタツキ音を抑制しつつドアガラスの円滑な摺動性(昇降性)を確保できるグラスランを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願請求項1に記載の発明は、底壁と、前記底壁の幅方向の両端縁に設けられた車内側側壁及び車外側側壁と、前記車内側側壁の内側面側に少なくとも2つ以上設けられて、前記車外側側壁の方向へ傾斜状に突出した車内側シールリップと、前記車外側側壁の内側面側に少なくとも1つ以上設けられ、前記車内側側壁の方向へ傾斜状に突出した車外側シールリップと、を備え、前記底壁方向へ進入したドアガラスの両側面を、前記各車内側シールリップの先端部と車外側シールリップの先端部によって摺動状態に支持するグラスランであって、
前記車内側シールリップと車外側シールリップは、それぞれが前記車外側側壁と車内側側壁に向かって直線状に形成されていると共に、前記先端部の断面円弧状に形成された各先端面が前記ドアガラスの両側面に線接触状態で摺動可能とし、前記車内側側壁と車外側側壁に結合されたそれぞれの基端部に、前記車内側側壁の内側面と車外側側壁の内側面の方向への倒れを可能にする薄肉部がそれぞれ形成されていることを特徴としている。
【0011】
この発明の態様によれば、ドアガラスの両側面に対して、車外側シールリップと例えば2つの車内側シールリップによって支持し、特に、車外側シールリップと各車内側シールリップは、直線的に形成されて、その各先端部が撓み変形することなく、各先端部の各先端面が線接触状態でかつ突っ張った状態で当接する。このため、ドアガラスを半開きした状態でのドア閉時や高速走行時の車内外の差圧に起因したドアガラスの振動に伴う車内方向と車外方向への変位による運動エネルギーを効果的に吸収できる。この結果、ドアガラスのバタツキによる異音の発生を抑制することができる。
また、車外側シールリップと車内側シールリップは、その先端面でドアガラスの両側面に対して線接触状態で摺動することから、摺動摩擦抵抗が低減されてドアガラスの円滑な摺動性が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、ドアガラスを少し開けた状態で、ドアを閉じた際や高速走行時のドアガラスの振動に伴うバタツキによる異音の発生を抑制しつつドアガラスの円滑な摺動性(昇降性)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るグラスランが組み付けられた自動車のフロントドアの側面図である。
【
図2】第1実施形態のグラスランのみを簡略化して車外側から視た正面図である。
【
図3】
図1のサッシュ部の後側の縦枠部のA-A線断面図である。
【
図4】本実施形態のグラスランの内部にドアガラスが進入した状態を示す断面図である。
【
図5】同グラスランの内部に進入したドアガラスが車内外方向へ僅かに振動した状態におけるドアガラスに対する車外側シールリップと車内側シールリップの当接位置を示す断面図である。
【
図6】同グラスランの内部に進入したドアガラスが大きく振動して車外側シールリップと車内側シールリップが最大に倒れた状態を示す断面図である。
【
図7】本願発明者が車外側シールリップと車内側シールリップの傾斜角度を変えてドアガラスに対する反力と建付けとの関係を実験した結果を示す特性図である。
【
図8】本発明の第2実施形態のグラスランを示す断面図である。
【
図9】本実施形態のグラスランの内部にドアガラスが進入した状態を示す断面図である。
【
図10】同グラスランの内部に進入したドアガラスが車内外方向へ僅かに振動した状態におけるドアガラスに対する車外側シールリップと車内側シールリップの当接位置を示す断面図である。
【
図11】同グラスランの内部に進入したドアガラスが振動して車外側シールリップと車内側シールリップが最大に倒れた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるグラスランの実施形態を図面に基づいて詳述する。本実施形態では、グラスランを、自動車のプレスドアのフロントドアのサッシュ部に取り付けられるものに適用したものを示している。
【0015】
図1は本実施形態に係るグラスランが組み付けられた自動車のフロントドアの側面図、
図2は本実施形態のグラスランのみを簡略化して車外側から視た正面図である。
【0016】
図1に示すように、自動車の左側のフロントドア1のドア本体2の上端部にはロール成形によって形成された横断面ほぼコ字形状のサッシュ部3が設けられている。このサッシュ部3とドア本体2の上端縁とにより窓開口が形成されており、この窓開口の内周縁及びドア本体2の内部にドアガラス4を昇降案内するグラスラン5が取り付けられている。なお、本発明のグラスランは、左側のフロントドア1の他に、図外の右側のフロントドアや左右リアドアにも適用可能である。
【0017】
第1実施形態に係るグラスラン5は、
図2に示すように、サッシュ部3の横枠部に対応する第1押出成形部6と、フロントドア1の前側の縦枠部に対応する第2押出成形部7と後側の縦枠部に対応する第3押出成形部8と、によって構成されている。第1押出成形部6の前端部と第2押出成形部7の上端部は、第1型成形部9によって結合され、第1押出成形部6の後端部と第3押出成形部8の上端部は、第2型成形部10によって結合されている。
【0018】
図3は
図1のサッシュ部の後側の縦枠部のA-A線断面図、
図4は本実施形態のグラスランの内部にドアガラスが進入した状態を示す断面図、
図5はグラスランの内部に進入したドアガラスが車内外方向へ僅かに振動した状態におけるドアガラスに対する車外側シールリップと車内側シールリップの当接位置を示す断面図、
図6はグラスランの内部に進入したドアガラスが大きく振動して車外側シールリップと車内側シールリップが最大に倒れた状態を示す断面図である。
【0019】
グラスラン5は、
図3及び
図4に示すように、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)によって断面ほぼコ字形状(チャンネル形状)に形成されており、平板状の底壁11と、該底壁11の幅方向の両端部に連結された車外側側壁12及び車内側側壁13と、を有している。底壁11の幅方向の両端部と車外側側壁12及び車内側側壁13との連結箇所の内側には、車外側側壁12と車内側側壁13により自由状態で展開可能とする一対の溝部14a、14bが形成されている。前記車内側側壁13は、幅方向の長さLと肉厚Wが車外側側壁12のそれよりも大きく形成されて、車外側側壁12とは非対称形状に形成されている。
【0020】
底壁11は、ドアガラス4との当接面となる内底面11aがほぼ平坦状に形成されていると共に、外面の車内側側壁13との連結位置にはサッシュ部3の内面に弾接してシールするリップ部15が突設されている。
【0021】
車外側側壁12は、底壁11と幅方向で反対側に位置する先端部12bに1つの車外側シールリップ16が一体に設けられている。この車外側シールリップ16は、肉厚W1が比較的大きく形成され、かつ直線状に突出形成されてドアガラス4の一側面4aに当接しない
図3に示す自由状態では車内側側壁13の内側面13aに向かって底壁11方向へ立ち上がり傾斜状に突出している。車外側シールリップ16は、その傾斜角度θが前記自由状態においてドアガラス4の進行方向線Zを基準として65度~75度の範囲内に設定されており、本実施形態では約70度に設定されている。
【0022】
また、車外側シールリップ16は、先端面16cの曲率半径が小さな円弧面状に形成されている。
【0023】
さらに、車外側シールリップ16の基端部16aには、昇降時におけるドアガラス4の一側面4aから伝達された押圧力によって車外側側壁12の方向へ倒れを許容する薄肉部であるノッチ部17が形成されている。
【0024】
車外側シールリップ16は、基端部16aのノッチ部17の形成位置と反対側の位置から先端部16bの先端面16cの方向に延びて前記ドアガラス4の一側面4aに当接可能な当接面16dが延出方向に沿って円弧状に形成されている。この円弧状の当接面16dは、ドアガラス4の一側面4aに対して線接触状態で当接すると共に、その曲率半径が本実施形態では約40Rに設定されている。ここで40Rとは、半径が40mmであることを示し、この曲率半径の数値特定の根拠についても、後述する本願発明者による実験結果に基づいている。
【0025】
前記車外側側壁12は、底壁11の一端部との連結部の外面にサッシュ部3の内面に当接保持される第1保持用突部12cが設けられていると共に、先端部12bの外面にもサッシュ部3の折り返し状に折曲された一側壁の先端部3aに嵌合保持される第2保持用突部12dが設けられている。また、前記先端部12bの内面には、ドアガラス4が車外方向へ過度に移動した際に、該ドアガラス4の一側面4aに当接支持する支持リップ12eが設けられている。車外側側壁12の内側面12aには、車外側シールリップ16がドアガラス4の押圧力によって内側面12a方向へ過度に倒れた際に当接する波形状の凸部12fが形成されている。
【0026】
車内側側壁13は、
図3及び
図4に示すように、底壁11と幅方向で反対側に位置する先端部13bと内側面13aの所定位置に2つの車内側シールリップ18,19が設けられている。この2つの第1、第2の車内側シールリップ18、19は、それぞれの肉厚W2がほぼ同一でかつ前記車外側シールリップ16の肉厚W1よりも大きく形成されて剛性がさらに高くなっている。また、各車内側シールリップ18、19は、直線状に形成されてドアガラス4の他側面4bに当接しない自由状態では車外側側壁12の内側面12aに向かって底壁11方向へ立ち上がり傾斜状に突出している。各車内側シールリップ18、19は、その傾斜角度θ、θが前記車外側シールリップ16と同じく
図3に示す自由状態においてドアガラス4の進行方向線Zを基準として約65度~75度の範囲に設定され、本実施形態では約70度に設定されている。
【0027】
各車内側シールリップ18、19は、各先端部18b、19bの先端面18c、19cの曲率半径が小さな円弧面状に形成されている。
【0028】
各車内側シールリップ18、19は、それぞれの基端部18a、19aに進入時のドアガラス4の他側面4bからの伝達された押圧力によって車内側側壁13の内側面13a方向への倒れを許容する薄肉部である2つのノッチ部20,21が形成されている。
【0029】
各車内側シールリップ18,19は、各基端部18a、19aの各ノッチ部20、21の形成位置と反対側の位置から各先端部18b、19bの各先端面18c、19cの方向に延びてドアガラス4の他側面4bに当接可能な各当接面18d、19dが延出方向に沿ってそれぞれ円弧状に形成されている。この各当接面18d、19dは、ドアガラス4の他側面4dに対して線接触状態で当接すると共に、その曲率半径が車外側シールリップ16の当接面16dと同じく約40Rに設定されている。この40Rとは、半径が40mmであることは前述の通りである。
【0030】
また、各車内側シールリップ18、19は、
図6に示すように、ドアガラス4の他側面4bからの過度な押圧力によって内側面13a側へ倒れた際でも、互いに干渉しない位置に離れて設けられている。
【0031】
車内側側壁13は、外面の底壁11の一端部の近傍と、これよりも先端部13b側寄りにサッシュ部3の内面にそれぞれ当接する2つの保持リップ13c、13dが突設されていると共に、先端部13bの外面には、サッシュ部3の他側壁の折曲端部3bに係合する係合リップ13eが設けられている。車内側側壁13の内側面13aには、各車内側シールリップ18、19がドアガラス4の押圧力によって内側面13a方向へ過度に倒れた際に当接する波形状の凸部13f、13gがそれぞれ形成されている。
【0032】
前記車外側シールリップ16や車内側シールリップ18、19のそれぞれの傾斜角度θを約70度に設定した理由などについては、後述する作用効果の項で具体的に説明する。
〔本実施形態のグラスランの作用効果〕
以下、本実施形態のグラスラン5の作用効果を
図4~
図7に基づいて説明する。
【0033】
図7は本願発明者が車外側シールリップと車内側シールリップの傾斜角度を変えてドアガラスに対する反力(押圧力)と建付けとの関係を実験した結果を示す特性図である。
【0034】
本実施形態のグラスラン5によれば、
図4に示すように、グラスラン5の内部に進入したドアガラス4の一側面4aと他側面4bに対して、1つの車外側シールリップ16と2つの車内側シールリップ18、19によって摺動可能に支持しており、特に、車外側シールリップ16と各車内側シールリップ18、19は、直線状に形成されて、その各先端部16b、18b、19bが撓み変形することなく、各先端部16b、18b、19bの各先端面16c、18c、19cが線接触状態でかつ突っ張った状態で当接支持している。
【0035】
このため、ドアガラス4を半開きした状態で、ドアを閉じた際や、高速走行時の車内外の差圧に起因してドアガラス4が振動すると、この振動に伴うドアガラス4の車内方向と車外方向への変位による運動エネルギーを、前記各シールリップ16、18、19によって効果的に吸収することができる。この結果、ドアガラス4のバタツキによる異音の発生を抑制することができる。
【0036】
しかも、各シールリップ16,18、19は、円弧状の各先端面16c、18c、19cが昇降時におけるドアガラス4に両側面4a、4bに対して、前述した特許文献2の従来のグラスランのように、面接触で摺動するのではなく、線接触状態で摺動することから、摺動摩擦抵抗が小さくなってドアガラス4の円滑な摺動性が得られる。
【0037】
前述した各車内側シールリップ18、19と車外側シールリップ16の自由状態における傾斜角度の設定については、
図7に示すように、本願発明者が傾斜角度θを種々変えた実験結果から導き出されたものである。
【0038】
すなわち、各シールリップ16、18、19の傾斜角度θを、約60度に設定した場合は、
図7の破線で示すように、各先端部16b、18b、19bのドアガラス4の両側面4a、4bとの摺動初期(接触初期T)の反力である押圧力の立ち上がりが低くなる。このため、ドアガラス4との水密性、つまりシール性が悪化して水漏れのおそれがある。また、その後の各シールリップ16,18,19による押圧力についても、大きくならず比較的低い状態となることから、前述したドアガラス4のバタツキの反力を吸収する力が弱く、このバタツキを効果的に抑制することができないことが分かった。
【0039】
また、各シールリップ16、18、19の傾斜角度θを、約80度に設定した場合には、
図7の一点鎖線で示すように、各シールリップ16、18、19の大きな角度によって各先端部16b、18b、19bのドアガラス4の両側面4a、4bとの摺動初期(T)の押圧力の立ち上がりが急激に高くなる。したがって、各シールリップ16、18、19によるドアガラス4との間のシール性は確保することができるものの、その後も、ドアガラス4に対する各シールリップ16、18、19の高い押圧力が維持されてしまう。このため、ドアガラス4との摺動摩擦抵抗が過度に大きくなって、ドアガラス4の昇降時の円滑な摺動性が得られないことが分かった。
【0040】
さらに、各シールリップ16、18、19の傾斜角度θを70度に設定した場合には、
図7の実線で示すように、各シールリップ16、18、19のドアガラス4に対する摺動初期(T)の押圧力の立ち上がりが傾斜角度θを約80度に設定した場合と同じく高くなっている。このため、各シールリップ16、18、19によるドアガラス4との間のシール性が確保できる。その後は、各シールリップ16、18、19の押圧力は、フラット状に低下することから各シールリップ16、18、19の先端部16b、18b、19bとドアガラス4の両側面4a、4bとの摺動摩擦抵抗が小さくなって円滑な摺動性が得られることが分かった。この傾斜角度70度の前後角度でもほぼ同じ結果が得られた。
【0041】
そこで、本発明では、各シールリップの傾斜角度を約65度~75度とし、本実施形態では約70度に設定したものである。
【0042】
また、前述したように、各シールリップ16、18、19の円弧状の各当接面16d、18d、19dの曲率半径を約40Rに設定した理由は、同じく本願発明者の実験によるものであって、初期状態のドアガラス4の両側面4a、4bに対する各シールリップ16,18,19の各先端面16c、18c、19cとのそれぞれの当接位置であるシールポイント(
図4のP位置)が、ドアガラス4の振動によっても大きく移動させないようにしたためである。
【0043】
すなわち、
図4に示すように、ドアガラス4をグラスラン5の底壁11方向へ進入させて、車外側シールリップ16と各車内側シールリップ18,19の各先端面16c、18c、19cがドアガラス4の両側面4a、4bに線接触状態で当接した初期状態では、各シールポイントPは各先端面16c、18c、19cの範囲内にある。
【0044】
この状態からドアガラス4に振動を与えて、該ドアガラス4の両側面4a、4bに対する車外側シールリップ16と各車内側シールリップ18,19のシールポイントをみると、
図5に示すように、それぞれのシールポイントP1が前記初期状態の各シールポイントPよりは各当接面16d、18d、19d側に僅かに寄るもののほぼ同じ位置になることが分かった。
【0045】
これに対して、各当接面16d、18d、19dの曲率半径を約40Rより大きく離れた数値に設定した場合、つまり、35R~45Rよりも小さい値あるいは大きな値に設定した場合は、ドアガラス4が車内外方向へ振動した際に、前記シールポイントPが基端部16a、18a、19a方向へ大きく移動するか、あるいは当接面16,18d、19dがドアガラス4の両側面4a、4bに対して平坦状に当接してしまうことが分かった。
【0046】
このように、シールポイントPが大きく移動してしまうと、ドアガラス4に対す押圧力特性が変化してしまい、各シールリップ16,18,19による不安定なシール性になるおそれがある。
【0047】
前述した曲率半径を約40Rにした場合は、
図5に示すように、各シールポイントP1が当初の各先端面16c、18c、19cの各シールポイントPから僅かに移動するものの大きく移動することがなく、当初のシールポイントPとほぼ同じ位置になっている。
【0048】
また、ドアガラス4が大きく振動して、各シールリップ16,18,19が、
図6に示すように、最大に倒れた状態においては、各当接面16d、18d、19dがドアガラス4の両側面4a、4bに当接するが、この各シールポイントP2も前記初期の各シールポイントPから各基端部16a、18a、19a方向へ僅かに移動するだけとなる。
【0049】
したがって、本実施形態では、各当接面16d、18d、19dの曲率半径を約40Rに設定したものである。これによって、各シールリップ16,18、19によるドアガラス4の両側面4a、4bに対する安定かつ良好なシール性が得られる。
【0050】
また、各車内側シールリップ18,19は、
図6に示すように、ドアガラス4の振動に伴って先端部18b、19bがドアガラス4の他側面4bに摺接した際にノッチ部20,21を介して車内側側壁13の内側面13a方向へ倒れたとしても互いに干渉しないことから、ドアガラス4に対する当接反力が変化しない。これによって、ドアガラス4は、昇降時において安定かつ円滑な摺動性が確保できる。
【0051】
換言すれば、両車内側シールリップ18,19が、車内側側壁13の内側面13a方向へ倒れた際に、先端部13b側(下側)の車内側シールリップ18の先端部18bが上側の車内側シールリップ19に重なるように干渉すると、下側の車内側シールリップ18のドアガラス4に対する押圧力(反力)が過度に大きくなって、該ドアガラス4の昇降時の円滑な摺動性が得られないおそれがある。また、ドアガラス4は、車内側シールリップ18、19が重なることによって車内側への可動域が十分に確保できないおそれがある。
【0052】
しかし、本実施形態では、下側の車内側シールリップ18が上側の車内側シールリップ19に干渉せずドアガラス4に対する反力が大きくならないことから、ドアガラス4の昇降時の安定かつ円滑な摺動性が得られると共に、ドアガラス4の車内側への可動域を大きくできる。
【0053】
さらに、本実施形態では、車外側側壁12と車内側側壁13の各内側面12a、13aに、波形状の凸部12f、13f、13gがそれぞれ形成されていることから、
図6に示すように、各車内側シールリップ18、19や車外側シールリップ16が、ドアガラス4の振動による押圧力より車外側や車内側へ過度に変位して各内側面12a、13a方向へ倒れた際に、それぞれの凸部12f、13f、13gに当接することにより、各内側面12a、13aに密着せずに速やかに離間可能になり、シールリップ18,19の離着音の発生を防止できると共に、原状位置への復帰性が良好になる。このため、各シールリップ16、18、19は、ドアガラス4に対する速やかな当接によるシール性と静音性が向上する。
〔第2実施形態〕
図8~
図11は本発明の第2実施形態を示し、基本構成は第1実施形態と同じであるが、異なるところは、車外側シールリップ16を1枚増加して2枚としたものである。
【0054】
すなわち、
図8及び
図9に示すように、車外側側壁12の先端部12b側の車外側シールリップ16の他に、車外側側壁12の内側面12aの所定位置、つまり、車内側側壁13の内側面13aに有する第2の車内側シールリップ19と対向する位置に第2の車外側シールリップ22が設けられている。
【0055】
この第2の車外側シールリップ22は、形状や大きさ、約70度の傾斜角度及び先端部22bの先端面22cが円弧状に形成されていること、さらに円弧状の当接面22dの曲率半径などは第1の車外側シールリップ16と同じ構成になっている。また、第2の車外側シールリップ22は、
図11に示すように、ドアガラス4の振動時には、基端部22aに設けられたノッチ部23を介して内側面12a側へ大きく倒れるが、このとき、第1の車外側シールリップ16とは干渉しない位置に形成されている。
【0056】
また、車外側側壁12の内側面12aには、第2の車外側シールリップ22が当接可能な波形状の凸部12gが形成されている。
【0057】
この第2実施形態では、第2の車外側シールリップ22を付加することによって、ドアガラス4との間のシール性がさらに良好になると共に、ドアガラス4を半開き状態でのドア閉じ時や高速走行時でのドアガラス4の車外側への変位による運動エネルギーを、第1の車外側シールリップ16の他に第2の車外側シールリップ22でも線接触状態でかつ突き当て状態で受けて吸収することから、バタツキの発生をさらに効果的に抑制することが可能になる。この結果、バタツキによる異音の発生を抑制できる。
【0058】
また、各車外側シールリップ22の円弧状の各当接面22dの曲率半径も、40Rに設定されていることから、
図10に示すように、ドアガラス4の振動によってシールポイントP2が当初の各先端面22cとのシールポイントPから僅かに移動するものの大きく移動することがない。これによって、各シールリップ16、22、18、19、によるドアガラス4の両側面4a、4bに対する安定かつ良好なシール性が得られる。
【0059】
さらに、各車外側シールリップ16、22は、
図11に示すように、先端部16b、22bの先端面16c、22cがドアガラス4の一側面4aに摺接した際に、各ノッチ部17,23を介して車外側側壁12の内側面12a方向へ倒れたとしても互いに干渉しないことから、前述した各車内側シールリップ18、19と同じくドアガラス4に対する当接反力が変化しない。これによって、ドアガラス4は、常に安定かつ円滑な摺動性が確保できると共に、ドアガラス4の可動域を大きく取ることができる。
【0060】
他の構成は、第1実施形態と同じであるから、第1実施形態と同じ作用効果が得られる。
【0061】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、グラスラン5の断面形状、つまり、底壁11や車内側、車外側の両側壁12,13の長さなどの断面形状を、車体の形状や大きさなどに応じて任意に変更することも可能である。また、車内側シールリップ18、19や車外側シールリップ16の数をさらに任意に増加することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…フロントドア
2…ドア本体
3…サッシュ部
4…ドアガラス
5…グラスラン
11…底壁
11a…内底面
12…車外側側壁
12a…内側面
12b…先端部
13…車内側側壁
13a…内側面
13b…先端部
16…第1の車外側シールリップ
16a…基端部
16b…先端部
16c…先端面
16d…当接面
17…ノッチ部(薄肉部)
18…第1の車内側シールリップ
18a…基端部
18b…先端部
18c…先端面
18d…当接面
19…第2の車内側シールリップ
19a…基端部
19b…先端部
19c…先端面
19d…当接面
20・21…ノッチ部(薄肉部)
22…第2の車外側シールリップ
22a…基端部
22b…先端部
22c…先端面
22d…当接面
P・P1・P2…シールポイント