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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053595
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】腫瘍転移抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240409BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240409BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K39/395 E
G01N33/53 S
A61K39/395 T
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159914
(22)【出願日】2022-10-04
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】坂本 唯真
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
(57)【要約】
【課題】細胞外小胞を介して生じる腫瘍の転移を抑制する。
【解決手段】転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む、腫瘍転移を抑制するための組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む、腫瘍転移を抑制するための組成物。
【請求項2】
前記腫瘍転移が、脳転移である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む、試料中の転移性腫瘍の細胞外小胞を検出するための試薬。
【請求項6】
前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、請求項5に記載の試薬。
【請求項7】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項5に記載の試薬。
【請求項8】
対象から取り出した試料と、転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体とを接触させて、試料中の前記細胞外小胞を検出する工程を含む、腫瘍転移リスクの判定を補助する方法。
【請求項9】
前記腫瘍転移が脳転移である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移性腫瘍細胞外小胞による腫瘍転移を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌患者において、予後不良を引き起こす要因の一つとして脳転移が知られる。脳転移は、腫瘍細胞が血液脳関門(BBB)を通過して脳に達することが特徴であるが、腫瘍細胞が、BBBを通過するメカニズムは不明とされてきた。BBBは、脳微小血管内皮細胞がタイトジャンクション(密着結合)で連結することによって形成される、バリア構造である。タイトジャンクションは、接合部接着分子(Junctional molecules:JAM-1、JAM-2及びJAM-3)、オクルジン(occludin)、クラウジン(claudins)、及び閉鎖帯タンパク質(zonulaoccludinproteins:ZO-1及びZO-2)等のタンパク質で構成されることが知られ、また、非常に選択的な透過性を有することが知られる(非特許文献1)。
【0003】
エクソソームを含む細胞外小胞(EV)は、内包するタンパク質、mRNA、及びマイクロRNA(miRNA)を運搬することにより細胞間コミュニケーションを媒介することが知られている(非特許文献2)。また、癌細胞から放出される細胞外小胞は、NK細胞の機能を阻害する(非特許文献3)、骨髄前駆細胞のMET癌タンパク質の発現を高めて転移促進性(pro-metastatic)の形質に変化する(非特許文献4)等、癌細胞の悪性度に様々な観点で関与することが報告されている(非特許文献5)。このEVとBBBとの関連について、非特許文献6では、癌由来の細胞外小胞が、BBBの分解を引き起こす要因であることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Arshad F. et al., Patholog. Res. Int. 2011: 920509 (2010)
【非特許文献2】Valadi H. et al., Nat. Cell Biol., 9: 654-659 (2007)
【非特許文献3】Liu Cunren et al., The Journal of Immunology 176 : 1375-1385 (2006)
【非特許文献4】Peinado H. et al., Nat. Med., 18: 883-891 (2012)
【非特許文献5】Yang C. et al., Clin. Dev. Immunol., 2011: 842849 (2011)
【非特許文献6】Tominaga N. et al., Nature Communications, 6: 6716 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、EVを介して生じる腫瘍の転移を抑制することが可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、EVに特異的に結合する抗体が、腫瘍転移を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む、腫瘍転移を抑制するための組成物。
(2)前記腫瘍転移が、脳転移である、(1)に記載の組成物。
(3)前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)前記抗体がモノクローナル抗体である、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む、試料中の転移性腫瘍の細胞外小胞を検出するための試薬。
(6)前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、(5)に記載の試薬。
(7)前記抗体がモノクローナル抗体である、(5)又は(6)に記載の試薬。
(8)対象から取り出した試料と、転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体とを接触させて、試料中の前記細胞外小胞を検出する工程を含む、腫瘍転移リスクの判定を補助する方法。
(9)前記腫瘍転移が脳転移である、(8)に記載の方法。
(10)前記細胞外小胞が、乳癌細胞由来の細胞外小胞である、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む組成物を対象に投与することを含む、対象の腫瘍転移を抑制する方法。
(12)前記組成物が、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物である、(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物によれば、EVを介して生じる腫瘍の転移を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】転移性腫瘍由来EVに対する各抗体を添加した、in vitro BBB模倣培養系における、経内皮電気抵抗(TEER)を示す棒グラフである。EV及び各抗体を含むPBS溶液を添加する前のTEERの値をブランク値として、各条件におけるTEER測定値からブランク値を減じた値(ΔTEER)を示す。各試験はn=2又は3で実施し、グラフはその平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。
図2】各濃度の抗体#706、#697を添加したin vitro BBB模倣培養系における、経内皮電気抵抗(TEER)を示す棒グラフである。各試験はn=3又は4で実施し、グラフはその平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。図中の「*」は、コントロールと比較したウェルチのt検定においてP<0.05であったことを示す。
図3】各濃度の抗体#706、#697を添加したin vitro BBB模倣培養系における、透過係数(Papp)を示す棒グラフである。各試験はn=3又は4で実施し、グラフはその平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。
図4】各条件で培養したin vitro BBB培養系について、抗ZO-1抗体を用いて蛍光染色した蛍光画像(400倍)を示す。Aは、EVを添加せず、コントロールIgGのみを添加した培養系、Bは、陰性対照、Cは、EVと抗体#706とを添加した培養系、Dは、EVと抗体#695とを添加した培養系の蛍光画像である。
図5】各抗体の、マウスを用いたin vivoでのバリア機能評価の実験手順を示す概要図である。
図6】非転移性EV又は高脳転移性EV、及び抗EV抗体#706又は#697を投与したマウスにおける、脳の蛍光物質浸透度を測定した結果を示すプロット図である。グラフの縦軸は、未処理の脳における蛍光強度を1として算出した相対値を示す。各試験はn=3~5(液漏検体を除外)で実施し、グラフはその平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。図中の「***」は、ウェルチのt検定においてP<0.005であったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]定義
本明細書において、「細胞外小胞(EV)」とは、生細胞から分泌される脂質二重膜構造を有する小胞を指す。EVは、その産生機構の違いから、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体の3種類に大別される。エクソソームは、エンドソーム由来の直径50~150nm程度の小胞、マイクロベシクルは、細胞から直接分泌される直径0.1~1μm程度の小胞、アポトーシス小体は細胞死により生じる直径程度の1~4μm程度の細胞断片である。特に記載のない限り、本明細書において、EVは、これらのいずれも包含するものとする。
【0010】
本明細書において、「転移性腫瘍」は、原発巣以外の臓器に転移しやすい性質を有する腫瘍を指す。特に、転移しやすい腫瘍を高転移性腫瘍、転移を生じにくい腫瘍を非転移性腫瘍と称する。本明細書において「癌」は、腫瘍のうち、上皮性悪性腫瘍、脊髄由来の造血器悪性腫瘍などを包含する。本明細書において、腫瘍の原発臓器は特に限定されず、腫瘍としては、白血病、リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫など)、多発性骨髄腫等の造血細胞悪性腫瘍;乳癌;子宮体癌;子宮頚癌;卵巣癌;食道癌;胃癌;虫垂癌;大腸癌(大腸癌、直腸癌など);肝癌(肝細胞癌など)胆嚢癌;胆管癌;膵臓癌;副腎癌;消化管間質腫瘍;中皮腫;喉頭癌、口腔癌(口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌など)等の頭頚部癌;唾液腺癌;副鼻腔癌(上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌など);甲状腺癌;腎臓癌;肺癌;骨肉腫;前立腺癌;精巣腫瘍(睾丸癌);腎細胞癌;膀胱癌;横紋筋肉腫;皮膚癌;又は、肛門癌等が挙げられる。
【0011】
癌のステージは、ステージ分類(臨床進行期分類)により決定される。ステージ分類は、例えば、癌の大きさ(T)、周辺リンパ節への転移(N)、及び遠隔臓器への転移(M)(TNM分類)等に基づいて、各癌(臓器)について詳細な判定基準が定められており、この内容は当業者に広く知られている(米国立がんセンターウェブサイトCancer staging, http://www.cancer.gov/cancertopics/factsheet/detection/staging; AJCC Cancer Staging Manual(American Joint Committee on Cancer)の最新版を参照のこと)。例えば、乳癌の場合、ステージ判定基準は以下のとおりである。ステージ0:非浸潤がん:乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもの(パジェット病を含む);ステージI:しこり2cm以下でリンパ節に転移なし;ステージIIA:しこり2cm以下で腋窩リンパ節に転移あり、又はしこり2.1~5cmでリンパ節に転移なし;ステージIIB:しこり2.1~5cmで腋窩リンパ節に転移あり、又はしこり5.1cm以上でリンパ節に転移なし;ステージIIIA:しこり5.1cm以上で腋窩リンパ節に転移あり、又はしこりの大きさ問わず腋窩リンパ節転移が強い、または腋窩リンパ節転移を認めず、胸骨傍リンパ節に転移あり;ステージIIIB:しこりの大きさ問わず皮膚や胸壁に浸潤のあるもの;ステージIIIC:しこりの大きさ問わず鎖骨下リンパ節や鎖骨上リンパ節に転移が拡がっているもの;ステージIV:乳房から離れたところに転移しているもの。
【0012】
本明細書において、「脳転移」及び「脳への転移」とは、脳以外の部位に発症した原発巣から癌細胞が離脱して脳内に浸潤し、脳内で増殖すること、又は脳内で増殖した状態を意味する。脳以外の部位に原発巣を有する癌患者に脳転移があるか否かは、当業者周知の画像診断方法により決定することができる。例えば、脳以外の部位に原発巣を有する癌患者にガドリニウム造影剤などを投与して、CTやMRI等の画像から脳内の腫瘍形成が確認された場合には脳転移があると決定することができる。
【0013】
本明細書において「対象」とは、転移性腫瘍に罹患した哺乳類動物を指す。哺乳類とは、ヒト及びヒト以外を包含する、脊索動物門脊椎動物亜門哺乳網に属する動物を指し、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される哺乳類動物などが含まれる。本明細書における対象は、好ましくは、ヒトである。本明細書において、「対象」がヒトの場合、「患者」とも称する。これに対して、癌を発症していないヒトを「健常人」と称する。本明細書における健常人は、必ずしも他の疾患にも罹患していないことを必要とするものではないが、好ましくは、癌以外の疾患にも罹患していない健康なヒトである。
【0014】
本明細書において「抗体」は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり得、抗体のイムノグロブリンクラスは、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD、又はIgYのいずれのイムノグロブリンクラス(アイソタイプ)であってもよく、また、IgGの場合、いずれのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)であってもよい。また、抗体は、モノスペシフィック、バイスペシフィック(二重特異性抗体)、トリスペシフィック(三重特異性抗体)であってもよい。本明細書における「抗体」の用語は、必ずしもインタクトな抗体である必要はなく、抗原結合性断片も包含するものとする。抗原結合性断片としては、例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、Fab、一本鎖Fv(以下、「scFv」という)、(タンデム)バイスペシフィック一本鎖Fv(sc(Fv))、一本鎖トリプルボディ、ナノボディ、ダイバレントVHH、ペンタバレントVHH、ミニボディ、(二本鎖)ダイアボディ、タンデムダイアボディ、バイスペシフィックトリボディ、バイスペシフィックバイボディ、デュアルアフィニティリターゲティング分子(DART)、トリアボディ(又はトリボディ)、テトラボディ(又は[sc(Fv))、若しくは(scFv-SA)ジスルフィド結合Fv(以下、「dsFv」という)、コンパクトIgG、重鎖抗体、又はそれらの重合体を挙げることができる。
【0015】
抗体の由来動物は、特に限定されず、非ヒト抗体、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコ、サル、ラクダ、アルパカ、鳥類、魚類等であってもよい。また、非ヒト抗体のアミノ酸配列とヒト抗体のアミノ酸配列を有する抗体(キメラ抗体及びヒト化抗体など)、又はヒト抗体であってもよい。
【0016】
本明細書において、「試料」とは、対象から体外に取り出された試料であれば、特に限定されないが、例えば、血液(例えば、全血、血清、血漿)、尿、糞便、乳汁、生検組織、摘出組織又は細胞抽出液、あるいはこれらの混合物を指す。
【0017】
[2]腫瘍転移を抑制するための組成物
本発明の第1の実施形態は、転移性腫瘍の細胞外小胞(EV)に特異的に結合する抗体を含む、腫瘍転移を抑制するための組成物である。好ましくは、本実施形態の組成物は、腫瘍、特に悪性腫瘍に罹患した対象における、腫瘍転移を抑制する治療方法に使用するための、医薬組成物である。
【0018】
治療対象の腫瘍について、その原発巣は特に限定されないが、乳癌であることが好ましい。治療対象となる腫瘍のステージは、特に限定されない。
【0019】
本実施形態の組成物で使用される抗体は、転移性腫瘍のEVに特異的に結合する抗体である。抗体の由来動物は特に限定されないが、非ヒト抗体とすることが好ましい。また、抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。なお、ここでいうモノクローナル抗体は、その抗原結合性断片も包含するものとする。
【0020】
本実施形態の組成物で抑制される腫瘍転移は、特に限定されず、いかなる臓器への転移であってもよいが、特に脳転移であることが好ましい。特に、本実施形態の組成物は、BBBの破壊を伴う腫瘍転移の抑制に使用されることが好ましい。
【0021】
本実施形態において、抗体が特異的に結合するEVは、いずれの転移性腫瘍由来のEVであってもよいが、治療対象の腫瘍と同種の腫瘍由来のEVであることが好ましい。例えば、治療対象の腫瘍が乳癌である場合は、乳癌細胞に由来するEVに特異的に結合する抗体を使用することが好ましい。ここでいう、転移性の乳癌細胞は、特に限定されず、臨床検体由来のものであってもよく、市販の細胞株(例えば、MCF7、MDA-MB-231、D3H2-L、BMD2a等)であってもよい。
【0022】
本発明の組成物は、前記抗体に加えて、必要に応じて薬学的に許容される担体を含有してもよい。ここでいう「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0023】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、リン脂質、リゾリン脂質、コレステロール、脂肪酸、プルロニック(登録商標)、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
【0024】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
【0025】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
【0026】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
【0027】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0028】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0029】
このような担体は、主として前記剤形形成を容易にし、また剤形及び薬理効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0030】
本実施形態の組成物は、前記抗体の効果を失わない範囲において、他の薬剤、例えば、癌転移抑制剤又は抗癌剤を含有することもできる。他の癌転移抑制剤又は抗癌剤としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、チオテパ等のナイトロジェンマスタード類、及び、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバシン、プロカルバシン、テモゾロミド、カルムスチン、ストレプトゾトシン、ベンダムスチン等のニトロウレア類を含むアルキル化薬;シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなどの白金化合物;エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、デカフール、デカフール・ウラシル、デカフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、5-フルオロウラシル(5-FU)、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサートなどの代謝拮抗薬;イリノテカン、エトポシド、エリブリン、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチンなどの植物アルカロイド又は微小管阻害薬;アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルピシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマルドキソルビシンなどの抗癌性抗生物質;シプリューセル-T等の癌ワクチン;イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ等の分子標的薬;アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、ブレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾールなどのホルモン剤;インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン、ウベニメクス、乾燥BCG、レンチナンなどの生物学的応答調節剤を挙げることができる。
【0031】
本実施形態の組成物の剤形は、前記抗体及び他の付加的な成分の効果を維持できる形態であれば特に限定しない。経口投与のための剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。皮下投与のための剤形としては、例えば、注射剤、湿布剤、経皮吸収剤等が挙げられる。筋肉内投与のための剤形としては、注射剤が挙げられる。
【0032】
本実施形態の組成物は、前記抗体を腫瘍転移の抑制に効果的で、かつ、重篤な副作用が生じない量で含むことが好ましい。特に限定されないが、例えば、0.01~1mg/日/kg体重程度とすることができる。本実施形態の組成物の投与回数は、腫瘍転移が十分に抑制され、かつ、重篤な副作用が生じない回数とすることが好ましい。例えば、1日1~3回程度とすることができる。また投与期間は、特に限定されないが、例えば、4週間程度とすることができる。
【0033】
本実施形態の組成物は、転移性腫瘍に罹患した対象に投与することにより、腫瘍転移を抑制することが可能である。本発明は、さらに、本実施形態の組成物を製造する方法を包含する。本実施形態の組成物を製造する方法、特に抗体の調製方法、製剤の方法等は、いずれも当業者にとって公知の方法とすることができる。
【0034】
[3]転移性腫瘍の細胞外小胞の検出試薬
本発明の第2の実施形態は、転移性腫瘍の細胞外小胞(EV)に特異的に結合する抗体を含む、試料中の転移性腫瘍の細胞外小胞を検出するための試薬である。
【0035】
本実施形態の検出試薬は、好ましくは、腫瘍に罹患した対象から取り出した試料について、転移性腫瘍由来のEVの有無を検出するために使用される。ここで、対象が罹患する腫瘍について、その原発巣は特に限定されないが、乳癌であることが好ましい。腫瘍のステージは、特に限定されない。
【0036】
本実施形態において、試料は、特に限定されないが、血液、特に血清又は血漿、あるいは組織であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の検出試薬に含まれる抗体は、転移性腫瘍のEVに特異的に結合する抗体である。抗体の由来動物は特に限定されないが、非ヒト抗体とすることが好ましい。また、抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。なお、ここでいうモノクローナル抗体は、その抗原結合性断片も包含するものとする。
【0038】
本実施形態において、抗体が特異的に結合するEVは、いずれの転移性腫瘍由来のEVであってもよいが、対象が罹患する腫瘍と同種の腫瘍由来のEVであることが好ましい。例えば、対象の腫瘍が乳癌である場合は、乳癌細胞に由来するEVに特異的に結合する抗体を使用することが好ましい。ここでいう、転移性の乳癌細胞は、特に限定されず、臨床検体由来のものであってもよく、市販の細胞株(例えば、MCF7、MDA-MB-231、D3H2-L、BMD2a等)であってもよい。
【0039】
本実施形態の検出試薬の用途は特に限定されないが、特に、脳転移のリスクの判定を補助する試薬であることが好ましい。すなわち、本実施形態の検出試薬は、BBBの破壊を伴う腫瘍転移のリスクの判定補助に使用されることが好ましい。
【0040】
本実施形態の検出試薬は、試料中の転移性腫瘍のEVの免疫測定のための検出試薬である。このような免疫測定としては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このような免疫測定としては、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例えば、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。上記の免疫測定の原理及び具体的な方法は、いずれも当業者にとって周知である。
【0041】
本実施形態の検出試薬によるEVの検出は、定性的であっても定量的であってもよい。定性的方法としては、例えば、試料から得られるシグナルを予め設定したカットオフと比較することで、試料中のEVの存在の有無を判定する方法をとり得る。定量的手法としては、既知量のEVを含む標準液について、試料と同様に免疫測定を行い、試料と標準液より得られるシグナル強度を比較して試料中のEV量を算出する方法をとり得る。この場合、本実施形態の検出試薬は、標準液を含んでいてもよい。
【0042】
本発明は、さらに、本実施形態の試薬を製造する方法を包含する。本実施形態の試薬を製造する方法、特に抗体の調製方法等は、当業者にとって公知の方法とすることができる。
【0043】
[4]腫瘍転移リスクの判定を補助する方法
本発明の第3の実施形態は、対象から取り出した試料と、転移性腫瘍の細胞外小胞(EV)に特異的に結合する抗体とを接触させて、試料中の前記細胞外小胞を検出する工程を含む、腫瘍転移リスクの判定を補助する方法である。
【0044】
本実施形態の方法において、対象は、腫瘍に罹患した対象であることが好ましい。特に乳癌に罹患した対象であることが好ましい。本実施形態において、試料は、特に限定されないが、血液、特に血清又は血漿、あるいは組織であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の方法で使用される抗体は、転移性腫瘍のEVに特異的に結合する抗体である。抗体の由来動物は特に限定されないが、非ヒト抗体とすることが好ましい。また、抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。なお、ここでいうモノクローナル抗体は、その抗原結合性断片も包含するものとする。
【0046】
本実施形態において、抗体が特異的に結合するEVは、いずれの転移性腫瘍由来のEVであってもよいが、対象が罹患する腫瘍と同種の腫瘍由来のEVであることが好ましい。例えば、対象の腫瘍が乳癌である場合は、乳癌細胞に由来するEVに特異的に結合する抗体を使用することが好ましい。ここでいう、転移性の乳癌細胞は、特に限定されず、臨床検体由来のものであってもよく、市販の細胞株(例えば、MCF7、MDA-MB-231、D3H2-L、BMD2a等)であってもよい。
【0047】
本実施形態の方法は、試料中の転移性腫瘍のEVの免疫測定の工程を含む。このような免疫測定としては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このような免疫測定としては、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例えば、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。上記の免疫測定の原理及び具体的な方法は、いずれも当業者にとって周知である。
【0048】
本実施形態の方法において、転移性腫瘍のEVの検出は、定性的であっても定量的であってもよい。定性的方法としては、例えば、試料から得られるシグナルを予め設定したカットオフと比較することで、試料中のEVの存在の有無を判定する方法をとり得る。定量的手法としては、既知量のEVを含む標準液について、試料と同様に免疫測定を行い、試料と標準液より得られるシグナル強度を比較して試料中のEV量を算出する方法をとり得る。この場合、本実施形態の方法は、標準液中のEVを検出する工程、及び標準液の検出結果より、試料中のEV量を算出する工程を含んでいてもよい。
【0049】
本実施形態の方法は、より具体的には、第3の実施形態の試薬を使用して実施することが可能である。
【0050】
本実施形態の方法により、試料中に含まれる転移性腫瘍のEVの有無又はその量より、対象における腫瘍転移リスクの判定を補助することが可能である。腫瘍転移リスクの判定基準は、腫瘍のステージによって異なるものとしてもよい。例えば、乳癌の脳転移の判定を行う場合、ステージIVの乳癌患者は、既に遠隔臓器への転移がある患者、又は血中への癌細胞の浸潤がある患者であるが、脳への転移はまだ確認できていない患者が想定される。この場合、本実施形態の方法でEVが陰性又はカットオフ未満である場合、脳転移は生じていない可能性が高いという判定を支持することができ、また陽性又はカットオフ以上である場合、脳転移が生じている可能性が高いという判定を支持することができる。一方、ステージI~IIIの乳癌患者は、遠隔転移に生じていない患者であるが、本実施形態の方法でEVが陰性又はカットオフ未満である場合、将来の脳転移のリスクが低いという判定を支持することができ、また陽性又はカットオフ以上である場合、将来の脳転移のリスクが高いという判定を支持することができる。
【0051】
[5]腫瘍転移を抑制する方法
本発明の第4の実施形態は、転移性腫瘍の細胞外小胞に特異的に結合する抗体を含む組成物を対象に投与することを含む、対象の腫瘍転移を抑制する方法である。より具体的には、本実施形態の方法は、第1の実施形態の組成物を対象に投与することを含む。本実施形態の方法に使用される抗体の構造、製造方法等、ならびに組成物の用法・用量等の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、「[2]腫瘍転移を抑制するための組成物」の項に記載した通りである。
【実施例0052】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明の範囲を実施例の範囲に限定することを意図するものではない。
【0053】
実施例1 乳癌由来細胞外小胞(EV)の調製
培養に用いた器具類は全て、オートクレーブによる滅菌処理を施し、溶液類の調製には超純水製造装置(MiliQ Labo、Millipore)により精製した超純水を用いた。
【0054】
BMD2a細胞(MDA-MB-231-luc-D3H2LNより樹立、Nature Communications 6:6716(2015))を150mmディッシュへ5-10×10細胞播種し、10%FBS(BioSera、FB1061/500)、ペニシリン 100 unit/mL、ストレプトマイシン 100μg/mL(1%P/S、SIGMA、カタログ番号:P0781)を含むRPMI1640培地(GIBCO、カタログ番号:11875093)を用いて5%CO、37℃の条件下で静置培養した。5-7日培養後に、PBS(GIBC、カタログ番号:14190144)を用いて3度洗浄し、2mM L-グルタミン(GIBCO、カタログ番号:25030081)及び1%P/Sを含むAdvanced RPMI培地(Gibco、カタログ番号:12633012)に培地を交換した。また、MCF-7細胞(JCRB細胞バンク、カタログ番号:JCRB0134)は10%FBS、1%P/Sを含むDMEM培地(GIBCO、カタログ番号:11965092)を用いて150mmディッシュへ1×10細胞播種し、同様に培養した。5-7日培養後に、洗浄後2mM L-グルタミン及び1%P/Sを含むAdvanced DMEM培地(Gibco、カタログ番号:12491015)に培地を交換した。何れの細胞も72時間培養後に、培養上清を回収し、室温にて2,000×gで10分間遠心した。遠心後の上清を0.22μm Stericup(Millipore、カタログ番号:S2GPU01RE)にてフィルター濾過した。フィルター濾過した培養上清を超遠心機を用いて4℃、110,000×gで70分間遠心して得られたEVペレットをPBSにて再懸濁した。EV懸濁液の蛋白質濃度はMicro BCA(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:23235-1P)にて、また粒子数はNanoSight(Quantum Design、カタログ番号:NS300)を用いて測定した。
【0055】
実施例2 BMD2a細胞由来EV認識抗体の作製
5匹のICRマウス(雌、4週齢、日本チャールズリバー)に、1匹につき約20μg/100μLのBMD2a細胞由来EVを、麻酔下でFootpad内に50μLずつ両足に投与した。週一回で合計5回の投与を実施した。
【0056】
T175フラスコで10%FBS、1%P/Sを含むRPMI1640培地にて5%CO、37℃の条件下で培養していたPAI細胞(JCRB細胞バンク、カタログ番号:JCRB0113)を回収し、RPMI1640/1%P/Sで2度洗浄後に細胞数を計測した。免疫マウスよりリンパ節(膝下、鼠頚)を摘出し、全て10mLのRPMI1640/1%P/Sを入れた100mmディッシュに入れ、スライドグラス2枚の摺り部分にリンパ節を挟みこみ、すり合わせて細胞をほぐした。セルストレーナーを通しながら50 mLチューブに回収した後に、RPMI1640/1%P/Sで2度洗浄後に細胞数を計測した。
【0057】
8×10細胞のリンパ節細胞と1.34×10細胞のPAI細胞を混和し最終容量が5.34mLとなるようにRPMI1640/1%P/Sに希釈した。133.5μLの10mg/mLのPronase(CALBIOCHEM、カタログ番号:537088)を加えて37℃で2分間処理した後に、267μLのLow IgG FBS(-)(GIBCO、カタログ番号:16250-078)を加えた。150×gで室温にて3分間遠心後に、上清を除いて10mLのCytofusion Buffer(BTX、カタログ番号:47-0001)で懸濁した。さらに150×gで室温にて3分間遠心し、上清を除いて5.4mLのCytofusion Bufferで懸濁した。1.8mLずつElectrofusion チャンバーに入れて、4℃で以下の条件にて電気融合を実施した。
使用機器:ECM2001 Electro Cell Manipulator(BTX Harvard Apparatus)
電源:35V AC
時間:20秒
直流電圧:3000V
直流パルス幅:10μ秒
パルス数:1回
チャンバー:1リピートにつき10mmギャップ
【0058】
融合した細胞(ハイブリドーマ)を400mLのHAT培地(KBM300/1×HAT/15%Low IgG FBS/1%P/S)(コスモバイオ、カタログ番号:COS-005、コスモバイオ、カタログ番号:16213004)中に回収した。200μL/ウェルで96ウェルプレート20枚に播種し、5%CO、37℃条件下で培養した。4-6日後に培地交換、9-12日後にELISAによるスクリーニングを実施した。
【0059】
ハイブリドーマのクローニングは、常法に従い限外希釈法で実施した。クローニング後のハイブリドーマについて拡大培養を行い、抗体精製用に培養上清を回収した。
【0060】
抗体精製については、培養上清に等容量の結合バッファー(20mMリン酸バッファー(pH7.0))を混合し、予め結合バッファーで平衡化した50%ProteinG(GE Healthcare、カタログ番号:17-0618-05)を適量(事前に抗体濃度測定キット(SIGMA-Aldrich、カタログ番号:11333151001)にて抗体濃度を測定した上で、抗体10mgにつき、ProteinG 1mLを目安とした)添加した後に、室温で2時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を精製用ディスポーザブルカラム(PIERCE、カタログ番号:29920)に添加後、結合バッファーで洗浄した。洗浄後、溶出バッファー(0.1Mグリシン-HClバッファー(pH2.7))を添加し、500μLずつ各分画を回収し、直ちに中和バッファー(1M Tris-HCl(pH 9.0))を25μLずつ各フラクションに添加して中和した。各分画の280nmの吸光度を測定し、蛋白質のピークが見られた分画についてSlide-Alyzer Dialysis Cassettes(PIERCE、カタログ番号:66003)で一晩の透析を実施し、透析サンプルの280nmの吸光度を再測定して抗体濃度を算出した。
【0061】
実施例3 ELISAによるBMD2a細胞由来EV認識抗体のスクリーニング
1μg/mLになるように2mM CaCl/PBSで希釈したHis-tag-Tim4精製蛋白質(Sino Biological、カタログ番号:12161-H08H)を、MAXISORP NUNC-IMMUNO Plate(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:439454)に100μL/ウェル添加し、室温で1時間以上反応させた。反応後に溶液を除去し、Blocking One(ナカライテスク、カタログ番号:03953-95)を200μL/ウェル添加し、室温で1時間以上反応させた。1.0×10個/mLとなるように、50倍希釈したBlocking One/0.005%Tween20/2mM CaCl/PBSで調製したBMD2a細胞由来EVまたはMCF-7細胞由来EV希釈液を、100μL/ウェル添加し、4℃下で一晩反応させた。その後、PBS-T(タカラバイオ、カタログ番号:T9183)で3回洗浄した後に、ハイブリドーマ培養上清あるいは抗体希釈液を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間以上反応させた。PBS-Tで3回洗浄し、二次抗体として抗マウスIg-HRP標識抗体(VECTOR、カタログ番号:BA-1400)を5%Blocking One/PBS-T希釈液で4000倍希釈したものを100μL/ウェルで添加し、室温で1時間以上反応させた。PBS-Tで3回洗浄した後に、TMB Substrate(A液:B液を9:1で希釈、BIO-RAD、カタログ番号:172-1067)を50μL/ウェル添加し、室温で15分程度発色した後に、必要に応じて0.5N硫酸を50μL/ウェル加えて発色を停止させた。マイクロプレートリーダー(VersaMax、モレキュラーデバイス社)で吸光度(650nm、発色を停止させた場合は450nm)を測定した。BMD2a細胞由来EVに対する吸光度値がMCF-7細胞由来EVに対する吸光度値よりも高いものを、BMD2a細胞由来EV認識抗体として選抜した。上記スクリーニングの結果、100クローンの抗体を取得することができた。
【0062】
実施例4 EVの受容細胞への接着を阻害する抗体のスクリーニング
BMD2a細胞由来EV(0.05μg/μL)と4μM PKH67(Diluent C液にて希釈、Sigma Aldrich、カタログ番号:KH67GL-1KT)を体積比1:1量で混合し、室温にて5分間静置した。混合液から限界濾過法(VIVACON 500 100K、Sartorius)にて未反応のPKH67を除去し、0.2μmフィルターを通して標識EVを回収し、Micro BCAにて蛋白質濃度を測定した。ヒト脳微小血管内皮細胞(ScienCell、カタログ番号:1000)をコラーゲンIコーティング96ウェルプレート(Greiner bio one、カタログ番号:655956)へ、1ウェルあたり4×10細胞播種し、EGM-2培地(Lonza、カタログ番号:CC-3162)を用いて5%CO、37℃条件下で一晩培養した。ELISA法により選抜した抗体(285クローン)が1ウェルあたり1μg、標識EVが2μgとなるようにEGM-2培地を用いて調整した。抗体に代えて同濃度のコントロールIgG(Biolegend、カタログ番号:401414)を添加したものを陰性対照とした。
【0063】
プレートを室温にて15分間静置し、上清除去後、ヒト脳微小血管内皮細胞へ100μL/ウェルで添加した。5%CO、37℃下で1時間静置し、上清を除去後、Hoechist33258(Life Technologies、カタログ番号:H3569)と4%パラホルムアルデヒドPBS(富士フィルム和光純薬、カタログ番号:163-20145)を体積比1:1000となるように混合した溶液を添加し、室温にて15分間静置して標本を固定した。PBSにて3回洗浄し、100μLのPBSを添加し、プレートシールを用いて密封した後に、Operetta CLS(PerkinElmer)を用いて標識EV結合細胞数を計数した。
【0064】
285クローンの抗体のうち10クローンの抗体を添加した条件において、陰性対照と比較して標識EVと結合する細胞数が顕著に低く、これらの抗体がEVの細胞接着阻害効果を有することが確認された。
【0065】
実施例5 In vitro BBB模倣培養系を用いた、EVのBBB破壊を抑制する抗体のスクリーニング
In vitro BBB模倣培養系は、BBBキットRBT-24(ファーマコセル株式会社)を用いて、添付文書に従い培養を行うことで調製した。培養4日目にEndOhm-6(WPI)及びMillicell-ERS2(Millipore)を用いて経内皮電気抵抗(TEER)を測定し、ブランク値とした。その後、EV及び実施例4でスクリーニングした10クローンの各抗体(#35、#37、#704、#706、#151、#104、#495、#668、#697)のPBS希釈液をBBBキットのupper chamber内に添加し、5%CO、37℃条件下で24時間または36時間培養し、TEERを測定した。対照として、各抗体に代えてコントロールIgGをEV有り又はEVなしのPBSに希釈したものを同様に添加して培養を行った。
【0066】
図1に、各抗体を添加したin vitro BBB模倣培養系における、経内皮電気抵抗(TEER)を示す。縦軸は、各抗体を添加した条件におけるTEER測定値からブランク値を減じた値(ΔTEER)を示す。TEERは、PBSを添加することで経時的に上昇するが、通常、EVの存在下では、BBBの破壊により、上昇が見られないか、低下する傾向がある。しかし、抗体#706、#697の2クローンを添加した系では、EVの存在下であってもTEERが上昇することが確認された。これにより、これらの抗体が、EVのBBB破壊を阻害する機能を有することが示唆された。
【0067】
実施例6 抗EV抗体によるBBB破壊抑制効果の確認
実施例5と同様に、in vitro BBB模倣培養系を調製した。培養4日目に、EV及び抗体#706、#697の各抗体の希釈液を、図2に示す濃度でBBBキットのupper chamber内に添加し、5%CO、37℃条件下で24時間または36時間培養し、TEERを測定した。上記抗体に代えてコントロールIgGを使用した系を陰性対照とした。また、比較として、EVを添加せず、抗体のみを添加した系についても測定を行った。
【0068】
また、EVによる作用を観察したタイミングで、BBBキットのupper chamber内の溶液をPBSにて希釈したNaF 400μLに置換し(ナカライテスク、カタログ番号:35817-82、50μg/mL)、upper chamberを1mLのPBSが入った別の24ウェルプレートに移し、5%CO、37℃の条件下で1時間静置した。Upper chamberを浸した24ウェルプレート内の溶液を回収し、96ウェル黒色平底プレート(Corning、カタログ番号:3916)に移してマイクロプレートリーダー(Infinite M200、TECAN)で励起波長490nm、検出波長520nmの蛍光を測定した。見かけの透過係数(Papp:cm/s)は以下の式で算出した。
app=V/(A×Ca0)×C/t
:basolateral側の培地体積(1.5mL)
A:culture insert底面積(1.12cm
a0:初めにapical側に入れた蛍光分子濃度
:回収したbasolateral側の蛍光分子濃度
t:蛍光分子添加時間(秒)
【0069】
図2に、各濃度の抗体#706、#697を添加したin vitro BBB模倣培養系における、経内皮電気抵抗(TEER)を示す。図3に、各濃度の抗体#706、#697を添加したin vitro BBB模倣培養系における、透過係数(Papp)を示す。抗体#706、#697は、いずれも、濃度依存的にTEERを高く維持できる効果を示すことが確認された。また、抗体#706、#697は、いずれも、濃度依存的にPappを低く維持できる効果を示すことが確認された。
【0070】
バリア機能測定後のBBBキットの血管内皮細胞について、upper chamber内の溶液を除去し、4%パラホルムアルデヒドPBS(富士フィルム和光純薬、カタログ番号:163-20145)を添加して室温にて15分間振とうし、固定した。PBSにて洗浄を3回実施し、3%BSA/0.1%TritonX-100/PBS(ブロッキング液)をupper chamber内部に100μL、外部に1mL添加した後、4℃下で一晩静置した。ブロッキング液を除去し、メンブレンをupper chamberから切り取り、48ウェルプレートへ血管内皮細胞側が上面となるように入れた。ブロッキング液を用いて100倍に希釈したウサギ抗ZO-1抗体(Life Technologies、カタログ番号:339100)を100μL添加し、4℃下で24時間静置した。抗体希釈液を除去し、0.1%BSA/PBSを200μL添加し、室温で5分間の振とう洗浄を3回実施した。ブロッキング液を用いて、蛍光標識ヤギ抗ウサギIgG(Life technologies、カタログ番号:A11001)を400倍希釈し、Hoechist33258(Life Technologies、カタログ番号:H3569)と、抗体液:Hoechist33258が体積比で1000:1となるように混合して2次抗体液を調製した。ウェル内の溶液を除去し、2次抗体液を100μL添加して、室温にて1時間遮光静置した。抗体希釈液を除去し、0.1%BSA/PBSを200μL添加し、室温で5分間振とうして洗浄した。洗浄は3回繰り返した。メンブレンの水分を除去し、スライドグラスに設置し、共焦点レーザー顕微鏡(Nicon-A1、400倍)にて蛍光画像を取得した。
【0071】
図4に各条件におけるin vitro BBB培養系の蛍光画像を示す。Aは、EVを添加せず、コントロールIgGのみを添加した培養系、Bは、陰性対照、Cは、EVと抗体#706とを添加した培養系、Dは、EVと抗体#695とを添加した培養系の蛍光画像である。EVを添加しない条件下(A)では、ZO-1の局在、すなわち、タイトジャンクションの局在が見られるのに対して、EV存在下では局在が乱れていた(B)。しかし、さらに抗体#706、#695をそれぞれ添加した培養系では、タイトジャンクションの局在が維持されていた(C、D)。
【0072】
抗体#706、#695を添加したBBB培養系における、経内皮電気抵抗(TEER)、透過係数(Papp)及び蛍光画像の結果より、これらの抗体にBBB破壊抑制効果があることが確認された。
【0073】
実施例7 抗体のin vivo バリア機能評価
実験手順の概要を図5に示す。Scidマウス(雌、6~7週齢、ジャクソンラボラトリ株式会社)に、1匹につき5μgのBMD2a細胞由来EVのみ、または5μgのBMD2a細胞由来EVと250μgの抗体(#697、#706、コントロールIgG(Biolegend、カタログ番号:401414))の混合液を尾静脈内に100μLずつ6時間の間隔をあけて2回投与した。比較対象として、BMD2a細胞由来EVに代えて、非転移性乳癌細胞から同様に取得したEVを用いて同様にマウスに投与した。1回目の投与から24時間後に、蛍光物質Tracer-653(Molecular Targeting Technologies、カタログ番号:TR-1001)の250μM/PBS溶液を1匹につき100μLずつ尾静脈投与し、その24時間後に全脳を摘出した。FUSION FX(VILBER社)にて、脳上部からの蛍光画像を撮像し、脳へと透過した蛍光物質に由来する蛍光強度を測定した。
測定条件
Sensitivity:Supersensitivity
Aperture:0.84-Open
Filter:F-740
Lighting:Epi Near Infrared
Focus:1371
Intensity:5888-23040
【0074】
測定結果のプロットを図6に示す。グラフの縦軸は、未処理の脳における蛍光強度を1として各検体の蛍光強度を算出した相対値を示す。各試験はn=3~5(液漏検体を除外)で実施し、グラフはその平均値を、エラーバーは標準偏差を示す。図中の「***」は、ウェルチのt検定においてP<0.005であったことを示す。図6に示す通り、脳高転移性EVを投与した場合に脳へと透過する蛍光物質量が増加したが、抗体を同時に投与したマウスにおいては、脳へと透過する蛍光物質量は抑制されていた。この結果から、取得抗体はin vivoにおいても転移性EVによるバリア破壊を抑制できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6