(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053602
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ギ酸の製造方法、及び複合体
(51)【国際特許分類】
C07C 51/00 20060101AFI20240409BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240409BHJP
C07C 53/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C07C51/00
C01B32/194
C07C53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159922
(22)【出願日】2022-10-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年4月7日,https://www.atpress.ne.jp/news/305329
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】楫野 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
4G146
4H006
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB04
4G146AB07
4G146CB19
4G146CB34
4G146CB35
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC46
4H006BA10
4H006BA30
4H006BA95
4H006BE41
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造するギ酸の製造方法を提供する。紫外線のみならず一部可視光を吸収できる複合体を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体と、を混合して、光を照射する工程、を含むギ酸の製造方法。カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体とを混合して、光を照射する工程、を含むギ酸の製造方法。
【請求項2】
前記複合体は前記炭素系量子ドットが前記金属有機構造体の表面に吸着されていることを特徴とする、請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項3】
前記金属有機構造体は、アミノ基を含有することを特徴とする、請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項4】
前記金属有機構造体は、平均細孔直径が0.5nm以上5nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項5】
前記光を照射する工程における光の波長が、200nm以上480nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項6】
カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体。
【請求項7】
前記炭素系量子ドットは前記金属有機構造体の表面に吸着されている、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記金属有機構造体は、アミノ基を含有する、請求項6に記載の複合体。
【請求項9】
前記金属有機構造体は、平均細孔直径が0.5nm以上5nm以下である、請求項6に記載の複合体。
【請求項10】
人工光合成用の光触媒として用いる請求項6に記載の複合体。
【請求項11】
請求項10に記載の複合体を含む膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸の製造方法、及び複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素、カーボンニュートラル社会構築に向け、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素を削減することが目標となっている。その中でも、人工光合成は、植物のように太陽光エネルギーを使い、二酸化炭素と水から有機物を生成する技術で、温室効果ガスやエネルギー資源不足に対処する技術として注目が集まっている。人工光合成は、二酸化炭素を原料として使用することで、新たな資源エネルギーを生み出し、二酸化炭素削減も同時に達成できる。
【0003】
例えば、特許文献1には、地球温暖化等の問題を解決するための技術として、銅イオンと、銅イオンに対して結合能を示すペプチドとを有する金属錯体を含む二酸化炭素還元用触媒を利用する発明が開示されている。この特許文献1では、電気化学的方法により、二酸化炭素ガスをメタン等の多電子還元生成物へと還元している。
【0004】
一方、金属有機構造体(metal-organic-framework。以下、単に「MOF」とも称する。)は、無機金属クラスターと有機リンカーから合成されるものであり、ガス貯蔵や分離等の機能を有する有機無機ハイブリッド材料として、近年、研究開発が進められている。例えば、特許文献2には、ガス分離、貯蔵等の為に、MOFヘテロライトを使用することが開示されており、種々のMOFヘテロライトが挙げられている。
【0005】
また、一方で、近年、量子ドット(Quantum Dot:以下、単に「QD」とも称する。)が注目されている。量子ドットは、量子化学、量子力学に従う光学特性を持つ、通常1~10nm程度のナノスケールのコロイド状半導体ナノ結晶であり、10~1000個の分子数の超微細構造を有する人工原子である。量子ドットに紫外線を照射すると、ナノ結晶のサイズに応じて、近紫外から近赤外にわたり広範囲の発光波長の蛍光を発することが知られており、注目が集まっている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-126617号公報
【特許文献2】特表2017-512637号公報
【特許文献3】特表2019-193910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、特許文献1のように電気化学的方法により二酸化炭素を還元させる方法では、大掛かりな装置が必要となる上、様々な還元生成物が生成されるため、還元生成物が効率よく生成されるためには、さらなる改善の余地があった。また、例えば、特許文献2のようにMOFのみを用いる方法や特許文献3のように量子ドットのみを用いる方法では、利用できる光の波長が限られており人工光合成を効率的に行うことができないため、さらなる改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造するギ酸の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、紫外線のみならず一部可視光を吸収できる複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、炭素系量子ドット(以下、C-dotsとも称する。)は、優れた光吸収能力、励起子を複数生成できる能力、大きさの揃った構造体を有していることから、人工光合成に適する可能性のある材料として検討を行った。しかしながら、炭素系量子ドットのみだと、紫外線領域の吸収を得意とするものが多く、可視光領域での吸収には改善の余地があった。一方で、MOFは、新しいタイプの超多孔性の有機無機ハイブリッド材料であり、構造がナノメートルの分子で制御でき、表面積が非常に大きいため、MOFと炭素系量子ドットとを複合化できないか検討を行った。そして、炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体とすることで、炭素系量子ドット単体と比べてピーク波長が長波長側へシフトして、紫外線のみならず一部可視光を吸収できるようになること、つまり太陽光を効率よく吸収できることを見出した。また、二酸化炭素を効率的に光触媒である量子ドットの反応可能距離に近づけることになり反応量を増やすことが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、二酸化炭素を含む水溶液とそのような複合体とを混合して、太陽光等の光を照射することで、その光を有効に利用して、二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の態様を含むものである。
【0011】
1.二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体と、を混合して、光を照射する工程、を含むギ酸の製造方法。
【0012】
2.前記複合体は前記炭素系量子ドットが前記金属有機構造体の表面に吸着されていることを特徴とする、1.に記載のギ酸の製造方法。
【0013】
3.前記金属有機構造体は、アミノ基を含有することを特徴とする、1.又は2.に記載のギ酸の製造方法。
【0014】
4.前記金属有機構造体は、平均細孔直径が0.5nm以上5nm以下であることを特徴とする、1.~3.いずれか1つに記載のギ酸の製造方法。
【0015】
5.前記光を照射する工程における光の波長が、200nm以上480nm以下であることを特徴とする、1.~4.いずれか1つに記載のギ酸の製造方法。
【0016】
6.カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体。
【0017】
7.前記炭素系量子ドットは前記金属有機構造体の表面に吸着されている、6.に記載の複合体。
【0018】
8.前記金属有機構造体は、アミノ基を含有する、6.又は7.に記載の複合体。
【0019】
9.前記金属有機構造体は、平均細孔直径が0.5nm以上5nm以下である、6.~8.いずれか1つに記載の複合体。
【0020】
10.人工光合成用の光触媒として用いる6.~9.いずれか1つに記載の複合体。
【0021】
11.10.に記載の複合体を含む膜。
【発明の効果】
【0022】
本発明のギ酸の製造方法によると、二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造することができる。また、本発明の複合体によると、炭素系量子ドット単体と比べてピーク波長が長波長側へシフトして、紫外線のみならず一部可視光を吸収できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】実施例1のTEM写真をNマッピングしたものである。
【
図6】比較例1に使用したC-dotsの励起光別の蛍光分布を示すグラフである。
【
図7】実施例1に使用したMOF-801/C-dots複合体の励起光別の蛍光分布を示すグラフである。
【
図8】比較例1のC-dots単体の赤外線吸収スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
<複合体>
本発明の複合体は、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含むものである。二酸化炭素を効率よく吸着させる観点から、本発明の複合体は、前記炭素系量子ドットが前記金属有機構造体の表面に吸着されていることが好ましい。ここで、表面に吸着するとは、炭素系量子ドットがMOF表面に物理吸着しているものだけではなく、化学反応により炭素系量子ドットがMOF表面に結合(化学吸着)しているものを含む。推測ではあるものの、MOF/C-dots複合体の構造は、MOFの細孔の大きさにもよるが、MOFの細孔直径が炭素系量子ドットのサイズよりも小さい場合は、MOFの構造が規則正しく並んでいることから炭素系量子ドットがMOF表面に吸着し、炭素系量子ドット同士の間隔が一定に近づいていると考えられる。この吸着により、炭素系量子ドット単体と比べてピーク波長が長波長側へシフトして、紫外線のみならず一部可視光を吸収できるようになると考えられる。ここで、炭素系量子ドットは、カルボキシル基の部分とアミノ基の部分とを各1つ以上有するため、カルボキシル基とアミノ基との相互作用によりダイマー化することもあり、ダイマー化した状態でMOF表面に吸着する場合もある。このダイマー化により長波長側へのレッドシフトにさらなる好影響を与えると考えられる。一方、MOFの細孔直径が炭素系量子ドットのサイズよりも大きい場合は、MOFの細孔内に一部の炭素系量子ドットが取り込まれる場合もあるが、基本的には上記と同様となっていると考えられる。このような複合体に、光が照射されると、表面に吸着している炭素系量子ドットが二酸化炭素と反応して、ギ酸を発生させると考えられる。
【0026】
本発明の複合体は、紫外線のみならず可視光までを幅広く用いて実用化する観点から、好ましくは200nm以上480nm以下の波長を吸収するような複合体、より好ましくは360nm以上480nm以下の波長を吸収するような複合体である。また、本発明の複合体の吸収波長は、炭素系量子ドット単体よりも長波長側にシフトすることが好ましい。
【0027】
本発明では、吸収波長をコントロールする観点から、炭素系量子ドットのみの水分散体と複合体の水分散体とで構成されることが好ましい。0.0003質量%水分散の炭素系量子ドットに、炭素系量子ドットとMOFの複合体を分散させることで紫外線域から可視光までの光を有効に利用できるようになる。炭素系量子ドットのみは紫外線域を、複合体が可視光域を受け持つ観点から、このときの炭素系量子ドットとMOF複合体の濃度は、粒径が200nm程度の場合で0.01質量%から1質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の複合体は、ダイマー化によるレッドシフトを向上させる観点から、さらに、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドット単体を添加した混合物としても良い。これに用いる炭素系量子ドットは、複合体に用いたものと同一でも良いし異なっていても良いが、光触媒機能等を向上させる観点から、複合体に用いたものと同一であることが好ましい。
【0029】
(炭素系量子ドット)
本発明の複合体は、炭素系量子ドットを含む。量子ドットは、量子化学、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの粒子のことを指し、粒子サイズによって光学特性を調節することが可能であるため、粒径に依存した特徴的な発光特性を持つ。本発明では量子ドットのうち、炭素原子間のπ結合に起因して、粒径に依存した発光特性を有する炭素系量子ドットを使用することができる。
【0030】
本発明における炭素系量子ドットは、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾されている。炭素系量子ドットとしては、グラフェン構造を有するグラフェン量子ドット、グラフェン構造を有しないカーボン量子ドット等が挙げられる。MOFとの吸着性の観点から、官能化グラフェン量子ドット及び官能化カーボン量子ドットからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾されたグラフェン量子ドット、並びに、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾されたカーボン量子ドットからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【0031】
これらの炭素系量子ドットは、シグマ-アルドリッチ社、冨士色素株式会社、GSアライアンス株式会社、フナコシ株式会社、キシダ化学株式会社などから、市販されており、これらを何れも使用することができる。実用性の観点からは、炭素系量子ドットが後述の水系溶媒に分散された水分散体の形態であるものを使用することが好ましく、そのような形態のものを市販品として入手することも可能である。
【0032】
炭素系量子ドットは、特に制限されないものの、適度な吸光度を得ることと、励起子を複数生成できる観点から、MOF表層に存在することが好ましい。炭素系量子ドットの含有量は、複合体を100質量%としたときに、0質量%より多く100質量%より少なくなるようにすることが好ましい。
【0033】
(グラフェン量子ドット)
グラフェン量子ドットとしては、非官能化グラフェン量子ドット、官能化グラフェン量子ドット、原初の(pristine)グラフェン量子ドット、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、MOFとの吸着性の観点から、官能化グラフェン量子ドットであることが好ましい。
【0034】
官能化グラフェン量子ドットは1つ以上の官能基で官能化されていてもよい。官能基には、カルボキシル基、アミノ基、酸素基、カルボニル基、非晶質炭素、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、エステル、ポリ(プロピレンオキシド)、およびこれらの組み合わせが含むことができる。MOFとの吸着性の観点から、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するよう表面修飾されたグラフェン量子ドットであることが好ましい。
【0035】
また、グラフェン量子ドットには、1つ以上のアルキル基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットが含まれる。アルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、およびこれらの組み合わせが含まれる。幾つかの態様において、アルキル基にはオクチル基(例えば、オクチルアミン)が含まれる。
【0036】
また、グラフェン量子ドットは、1種以上のポリマー前駆体で官能化することができる。例えば、グラフェン量子ドットは1種以上のモノマー(例えば、ビニルモノマー)で官能化することができる。
【0037】
グラフェン量子ドットは、重合するポリマー前駆体で官能化することにより、ポリマー官能化グラフェン量子ドットを形成することができる。例えば、重合するビニルモノマーで端部を官能化することにより、端部官能化ポリビニルの付加物を形成することができる。
【0038】
グラフェン量子ドットは、1種以上の親水性官能基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットを含む。親水性官能基には、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0039】
グラフェン量子ドットは、1種以上の疎水性官能基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットを含む。疎水性官能基には、アルキル基、アリール基、およびこれらの組み合わせが含まれる。疎水性官能基には1種以上のアルキルアミドまたはアリールアミドが含まれる。
【0040】
グラフェン量子ドットは端部官能化グラフェン量子ドットを含む。端部官能化グラフェン量子ドットには、前述した1種以上の疎水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、前述したような1種以上の疎水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、やはり前述したような1種以上の親水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、それらの端部上にある1種以上の酸素の付加物が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、それらの端部上にある1種以上の非晶質炭素の付加物が含まれる。
【0041】
グラフェン量子ドットは、アルキルアミドまたはアリールアミドなどの1種以上のアルキル基またはアリール基で端部が官能化されている。アルキル基またはアリール基を用いるグラフェン量子ドットの端部官能化は、グラフェン量子ドットの端部におけるアルキルアミドまたはアリールアミドのカルボン酸との反応によって行われる。
【0042】
グラフェン量子ドットには原初の(pristine)グラフェン量子ドットが含まれる。原初のグラフェン量子ドットは、合成後に未処理のままのグラフェン量子ドットを含む。原初のグラフェン量子ドットは、合成後にいかなる追加の表面変性も行われていないグラフェン量子ドットを含む。
【0043】
グラフェン量子ドットは様々な発生源から得ることができる。例えば、グラフェン量子ドットには、石炭由来のグラフェン量子ドット、コークス由来のグラフェン量子ドット、およびこれらの組み合わせが含まれる。グラフェン量子ドットにはコークス由来のグラフェン量子ドットが含まれる。グラフェン量子ドットには石炭由来のグラフェン量子ドットが含まれる。石炭には、(これらに限定はされないが)無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、変性瀝青炭、アスファルテン、アスファルト、泥炭、亜炭、ボイラー用炭、石化油(petrified oil)、カーボンブラック、活性炭、およびこれらの組み合わせが含まれる。炭素源は瀝青炭である。炭素には瀝青炭が含まれる。
【0044】
グラフェン量子ドットは様々な直径を有することができる。例えば、グラフェン量子ドットは約1nmから約100nmまでの範囲の直径を有することが好ましく、約1nmから約50nmまでの範囲の直径を有することがより好ましく、約1nmから約20nmまでの範囲の直径を有することが更に好ましい。
【0045】
グラフェン量子ドットはまた、様々な構造を有することもできる。例えば、グラフェン量子ドットは結晶質の構造を有していてもよく、例えば結晶質の六方晶構造を有する。グラフェン量子ドットは単層又は複層を有していてもよく、例えばグラフェン量子ドットはおよそ2つの層からおよそ4つの層までを有する。
【0046】
グラフェン量子ドットは、様々な量子収率を有することもできる。グラフェン量子ドットは約30~80%までの範囲の量子収率を有することが好ましい。また、グラフェン量子ドットの水分散体における蛍光特性は、励起光300nm~420nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長が380nm~650nmであることが好ましい。グラフェン量子ドットは、好ましくは200nm以上480nm以下の波長を吸収するように、より好ましくは300nm以上400nm以下の波長を吸収するように調製することができる。
【0047】
グラフェン量子ドットは粉末の形態であってもよく、ペレットの形態であってもよい。グラフェン量子ドットは液体状態であってもよく、分散液、溶液、溶融した状態であってもよい。分散性の観点からは、グラフェン量子ドットが後述の水系溶媒に分散された水分散体の形態であることが好ましく、そのような形態のものを市販品として入手することも可能である。
【0048】
グラフェン量子ドットを形成するために、様々な方法を利用することができる。例えば、グラフェン量子ドットを形成する工程は、炭素源を酸化剤に曝し、その結果としてグラフェン量子ドットを形成することを含むことができる。炭素源には、石炭、コークス、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0049】
酸化剤には酸が含まれ、酸には、硫酸、硝酸、リン酸、次亜リン酸、発煙硫酸、塩化水素酸、オレウム、クロロスルホン酸、およびこれらの組み合わせが含まれる。また、酸化剤には、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、次亜リン酸、硝酸、硫酸、過酸化水素、およびこれらの組み合わせが含まれる。好ましい酸化剤は過マンガン酸カリウム、硫酸および次亜リン酸の混合物である。
【0050】
酸化剤の存在下で炭素源を音波処理することによって炭素源は酸化剤に曝される。酸化剤の存在下で炭素源を加熱することが含まれる。加熱は少なくとも約100℃の温度において行われる。
【0051】
グラフェン量子ドットを形成するさらなる方法の使用も想定することができる。例えば、グラフェン量子ドットを形成するさらなる方法は、国際特許出願であるPCT/US2014/036604号に開示されている。グラフェン量子ドットを製造するさらなる適当な方法は、次の参考文献にも開示されている:ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 7041-7048;および、Nature Commun. 2013, 4:2943, 1-6。
【0052】
(カーボン量子ドット)
カーボン量子ドットは、グラフェンのような環状構造を持っていない量子ドットである。pH値によってグラフェン量子ドットより影響を受け易く、発光強度、ピーク位置が変化する性質を有する。
【0053】
本発明におけるカーボン量子ドットとしては、非官能化カーボン量子ドット、官能化カーボン量子ドット、原初の(pristine)カーボン量子ドット、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、MOFとの吸着性の観点から、官能化カーボン量子ドットであることが好ましい。
【0054】
官能化カーボン量子ドットは1つ以上の官能基で官能化されていてもよい。官能基には、酸素基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、非晶質炭素、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、エステル、ポリ(プロピレンオキシド)、およびこれらの組み合わせが含まれるが、MOFとの吸着性の観点から、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するよう表面修飾されたカーボン量子ドットであることが好ましい。
【0055】
カーボン量子ドットは様々な直径を有することができる。例えば、カーボン量子ドットは約1nmから約100nmまでの範囲の直径を有することが好ましく、約1nmから約50nmまでの範囲の直径を有することがより好ましく、約1nmから約30nmまでの範囲の直径を有することが更に好ましい。
【0056】
カーボン量子ドットはまた、様々な量子収率を有することもできる。カーボン量子ドットは約20~50%までの範囲の量子収率を有することが好ましい。また、カーボン量子ドットの水分散体における蛍光特性は、励起光300nm~420nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長が380nm~600nmであることが好ましい。
【0057】
カーボン量子ドットの製造方法は、グラフェン量子ドットの製造方法と大差はなく、使用原料や製造条件がグラフェン構造を形成し易いか否かの違いのみである。
【0058】
従って、両者を含む炭素系量子ドットは、例えば、炭素ターゲットをレーザーアブレーション(laserablation)後、化学処理を実施して製造する手法(特表2012-501863号公報)や蝋燭の煤から製造する手法(H. Liu, et al., Angew. Chem.Int. Ed. 2007, 46, 6473-6475.)、グラファイト酸化物を化学処理して製造する手法(G. Eda, et al., Adv. Mater.2010, 22, 505-509.)、グラファイト酸化物を前駆体とする化学反応から製造する手法(特開2012-136566号公報)、フラーレンの転換反応から製造する手法(J. Lu, et al., Nature Nanotech.2011, 6, 247-252.)、更に、炭素繊維や活性炭など、より安価な炭素原料を化学処理して製造する手法(J. Peng, et al., Nano Lett. 2012, 12, 844-849.、Z.A. Qiao, ChemCommun. 2010, 46,8812-8814.、Y. Dong, et al., Chem. Mater.2010, 22, 5895-5899.)で製造することも可能である。
【0059】
なお、これらの手法は、大別してトップダウン(top-down)の手法であるが、有機前駆体分子のポリマー化から炭素量子ドットを製造するボトムアップ(bottom-up)の手法(G. A. Ozin, et al., J. Mater. Chem., 2012, 22, 1265-1269.)でも製造可能である。
【0060】
また、炭素材と過酸化水素とを混合し、過酸化水素により炭素を分解反応させ、炭素量子ドット生成液を調製する工程と、炭素量子ドット生成液中の炭素量子ドットと過酸化水素を分離して分解反応を停止させ、炭素量子ドットを取得する工程と、を含む炭素量子ドットの製造方法(特開2014-133685号公報)で製造することも可能である。
【0061】
カーボン量子ドットは粉末の形態であってもよく、ペレットの形態であってもよい。カーボン量子ドットは液体状態であってもよく、分散液、溶液、溶融した状態であってもよい。分散性の観点からは、カーボン量子ドットが後述の水系溶媒に分散された水分散体の形態であることが好ましく、そのような形態のものを市販品として入手することも可能である。
【0062】
(水系溶媒)
本発明において、水系溶媒は、環境および人体への影響などを考慮すると、水であるか又は主に水を含むものが好ましい。水系溶媒の全量に対する水の含有量は、水系溶媒の全量に対して、好ましくは80w/w%以上100w/w%以下であり、より好ましくは85w/w%以上99.9w/w%以下であり、さらに好ましくは90w/w%以上99.5w/w%以下である。本発明に用いる水は、特に限定されず、例えば、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
【0063】
また、本発明における水系溶媒は、従来の周知の任意成分を特に限定されることなく含むことができ、例えば、分散剤、酸、塩、有機溶媒等の任意の物質を含んでいてもよい。有機溶媒の例としては、水と混和性のある有機溶媒であることが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、γ-ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、スルホラン、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、N-メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等が挙げられる。
【0064】
(水分散体)
本発明では、安定性の観点からは、上述の炭素系量子ドットと上述の水系溶媒とを含む水分散体の形態であることが好ましく、上述に記載の通り、水分散体として市販されているものをそのまま用いることも可能である。また、分散性を向上させるために、水分散体をさらに上述の水系溶媒で希釈して、炭素系量子ドットの濃度を調整してから使用することも可能である。水分散体の全量に対する炭素系量子ドットの含有量は、製造効率及び作業性の観点から、水分散体の全量に対して好ましくは1w/w%以上30w/w%以下、より好ましくは5w/w%以上20w/w%以下である。水分散体は、従来の周知の任意成分を特に限定されることなく含むことができ、例えば、分散剤、酸、塩、有機溶媒等の任意の物質を含んでいてもよい。本発明における水分散体は、当該技術分野で慣用の方法により、たとえば、炭素系量子ドットと水系溶媒とその他必要に応じて任意の成分とを混合撹拌することにより製造できる。
【0065】
(金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks))
本発明の複合体は、金属有機構造体(MOF)を含む。金属有機構造体は、金属原子と有機配位子とが相互作用することで、高表面積を有する多孔質の配位ネットワーク構造を有する。MOFは多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)といわれることもある。
【0066】
MOFとしては、特に限定されないものの、金属原子(金属イオンであってもよい。)と、2以上の配位性官能基を有する有機配位子とが連続的に結合している構造体である。MOFは、典型的には、内部に複数の空孔を有する多孔質体である。MOFは、空孔内に何らかの機能性分子を包接していてもよい。MOFは、空孔内に水分子を包含することも可能である。
【0067】
MOFを構成する金属原子(金属イオンであってもよい。)としては、特に限定されないものの、水溶液中でもMOF構造を維持できるものが好ましく、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、コバルト、ニオブ、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、ベリリウム、カルシウム、セリウム、及びクロム等が挙げられる。MOFを構成する金属原子は1種でもよく2種以上でもよい。MOFの金属原料としては、ジルコニウム、アルミニウム、Fe2+/Fe3+、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Co2+等の金属イオンを有する錯体や金属含有二次構造単位(SBU)が好適であるが、細孔内に水分子を安定して包含できる観点から、ジルコニウム、アルミニウムが好ましく、ジルコニウムがより好ましい。
【0068】
有機配位子の配位性官能基は、金属原子に配位可能な官能基であり、カルボキシル基、イミダゾール基、水酸基、スルホン酸基、ピリジニル基、三級アミノ基、アミド結合等が挙げられる。有機配位子としては、典型的には、2以上の配位性官能基が、剛直構造を有する骨格(例えば芳香族環、不飽和結合等)に置換したものが用いられる。例えば、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、フェニール化合物を有する任意のジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、6-ブロモベンズイミダゾール、2-メチルイミダゾール、テレフタル酸、2-アミノテレフタル酸、5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)、4,4′-ビフェニルジカルボン酸、4,4″-p-テルフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボキシル酸、メチルイミダゾール、フマル酸、ナフタレンジカルボン酸、ヘキサアザトリフェニレン、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、5-シアノ-ベンゼンジカルボン酸、5-エチル-1,3 ベンゾジカルボン酸、テレフェニル-3,3′,5,5′-テトラカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、2,2′-ジアミノ-4,4′-スチルベンジカルボン酸、2,2′-ジニトロ-スチルベンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、3,3′,5,5′-テトラカルボキシジフェニルメタン、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、4,4′,4″-s-トリアジン-2,4,6-トリイル-三安息香酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、ビフェニル-3,3′,5,5′-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4,5-トリカルボン酸、5-ブロモイソフタル酸、マロン酸等が挙げられる。
【0069】
得られるMOFの具体例としては、水に溶けにくいMOFが好ましく、例えば、Zr6O4(OH)4(C4H2O4)6)で表されるMOF―801、Zn4O(1,3,5-ベンゼントリベンゾエート)2で表されるMOF-177;IRMOF-Iとしても知られる、Zn4O(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)3で表されるMOF-5;Mg2(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Mg);Zn2(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Zn);Cu2(3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボキシレート)で表されるMOF-505;Zn4O(シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるIRMOF-6;Zn4O(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)3で表されるIRMOF-3;Zn4O(テルフェニルジカルボキシレート)3又はZn4O(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)3で表されるIRMOF-11;Zn4O(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)3で表されるIRMOF-8;Zn(ベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-68;Zn(シクロベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-69;Zn(ベンズイミダゾレート)2で表されるZIF-7;Co(ベンズイミダゾレート)2で表されるZIF-9;Zn2(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-11;Zn(イミダゾレート-2-カルボキシアルデヒド)2で表されるZIF-90;Zn(4-シアノイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)でZIF-82;Zn(イミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-70;Zn(6-メチルベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-79;及びZn(6-ブロモベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-81、Zr6O4(OH)4(bdc)6で表されるUio-66、Al(OH)(PZDC)で表されるMOF-303等が挙げられる。所望のMOFが市販されていれば、市販品を用いてもよい。
【0070】
また、本願発明では、上記の記載のMOFそのものを用いることもできるが、MOFを窒素中などで熱処理してその多孔質をできるだけ保ったまま、触媒として応用することも可能である。本発明におけるMOFは、優れた二酸化炭素吸収能力を得る観点から、アミノ基を含有することが好ましい。アミノ基を含有するMOF(以下、NH2-MOFともいう)としては、ジルコニウム系ではアミノ基が間についたジカルボン酸が好ましく、
Zr6O4(OH)4(bdc)6で表されるUio-66-NH2等が挙げられる。
【0071】
金属有機構造体は、炭素系量子ドットを安定化させる観点から、平均細孔直径が0.5nm以上5nm以下であることが好ましく0.75nm以上3.0nm以下であることがより好ましい。また、金属有機構造体の細孔は、水分子を効率よく吸着させる観点から、水分子を細孔内に取り込むことができるサイズであることが好ましい。
【0072】
金属有機構造体は、光触媒機能等を発揮させる観点から、200nm以上480nm以下の光の一部を透過するもの、又は、480nm以下の光の一部を透過するものであることが好ましい。
【0073】
MOFは公知の方法により合成できるが、本発明で用いるMOFの合成方法は特に限定されない。MOFの合成方法は、溶液法、水熱法が代表的であり、そのほか、固相合成法(メカノケミカル法)、マイクロ波法、超音波法等がある。本発明においては、MOFは塩化ジルコニウムと有機配位子として種々のジカルボン酸化合物をDMF中に混合し、ソルボサーマル法によって合成する方法が好ましい。
【0074】
(任意の添加剤)
本発明の複合体には、上記成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、光触媒等に通常用いられる添加剤を配合することができる。添加剤として、例えば、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、安定化剤、キレート剤、防腐剤、香料、抗酸化剤、着色剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。なお、上記添加剤の含有量は、所望の効果が得られる含有量であれば特に制限されないものの、複合体を100質量%としたときに、0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
(形態)
本発明の複合体の形態は、特に限定されず、用途等に応じて任意に選択することができ、例えば、液状、粉末状、粒子状等のまま使用することもできるし、他の化合物(例えばバインダ樹脂)とともに成膜化したり、シート状、板状、バルク体等として使用することもできる。本発明では、前述のような複合体を含む膜が好ましい。また、本発明では、前述のような複合体を水に分散させた水分散体が好ましい。膜状、板状、バルク体として用いる場合は、二酸化炭素を透過させるように用いることが好ましい。このような形態は、当該技術分野で慣用の方法により調製できる。本発明の膜は、前記複合体を含むことが好ましい。
【0076】
本発明の複合体を充填する容器としては、公知の形状の容器を制限なく使用できる。容器の素材も特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなプラスチック製やガラス製等の素材の容器に充填して提供することもできる。
【0077】
(用途)
本発明の複合体は、幅広い吸収波長を有するため、これらの特性が求められる各種用途に使用することができる。例えば、光触媒、太陽電池、生体イメージング、バイオマーカー、農業などに用いることができる。光触媒として用いる場合、例えば、人工光合成、空気浄化、水質浄化、防汚、セルフクリーニング、住宅の省エネとヒートアイランド対策等が挙げられる。本発明の複合体は、一部可視光を用いて二酸化炭素を還元してギ酸を効率よく発生できる観点から、人工光合成用の光触媒として用いることが好ましい。光触媒として用いる場合、例えば、本発明の複合体を水に分散した状態や、二酸化炭素を透過させる膜状、板状、バルク体で用いることができる。
【0078】
本発明の製造方法により製造されたギ酸は、水素社会構築に向けて寄与できる可能性がある。水素は、特に気体で貯蔵することが非常に困難で、コストが高くなるが、ギ酸は液体であるため、貯蔵しやすく、ギ酸から触媒によって水素を発生させることも可能である。
【0079】
<複合体の製造方法>
以下に、本発明の複合体の製造方法を説明する。本発明の複合体の製造方法は、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと水系溶媒とを含む水分散体と、金属有機構造体とを混合して、気泡が出るまで減圧することで、炭素系量子ドットを金属有機構造体の表面に吸着させる工程を含むものである。または、MOF存在下で炭素系量子ドットを合成することでMOFの細孔内に炭素系量子ドットを含有させるものである(ボトルシップ型)。本発明の複合体の製造方法は、事前に、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと水系溶媒とを含む水分散体を、希釈する工程を含むこともできる。なお、前述に記載した内容と同様であるものについては、ここでの説明は省略する場合もある。
【0080】
(希釈工程)
本発明では、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと水系溶媒とを含む水分散体は、前述の通り、市販されており、これらをそのまま使用することができる。しかし、水に分散している量子ドットが紫外線域を受け持ち、MOFに配位した量子ドットが可視光(例えば400nm~480nm)を受け持つ観点から、水分散体の全量に対する炭素系量子ドットの含有量を、水分散体の全量に対して好ましくは0.0003質量%以上1.0質量%となるように、好ましくは0.0015質量%以上0.5質量%となるように水系溶媒等でさらに希釈する工程を含むことが好ましい。
【0081】
(表面吸着工程)
本発明の複合体の製造方法は、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと水系溶媒とを含む水分散体と、金属有機構造体とを混合して、気泡が出るまで減圧することで、炭素系量子ドットを金属有機構造体の表面に吸着させる工程を含むことが好ましい。または、MOF存在下で炭素系量子ドットを合成することでMOFの細孔内に炭素系量子ドットを含有させることもできる。例えば、吸着効率を向上させる観点から、前記の通り希釈された炭素系量子ドット水分散体と、前記金属有機構造体との混合は、金属有機構造体を100質量%としたときに、炭素系量子ドットが0質量%より多く100質量%より少なくなるように、混合できる。例えば、生産効率の観点から、混合時の温度は、0℃以上60℃以下が好ましく、常温であることがより好ましい。例えば、吸着効率を向上させる観点から、気泡がでるまで減圧することとは、100Pa以下となるよう減圧することが好ましい。なお、表面吸着工程にて、表面吸着しなかった余分な炭素系量子ドット単体が混合溶液中に含まれる場合もあるが、紫外線域の触媒として働くので、そのまま含まれるようにしておくことが好ましい。
【0082】
<ギ酸の製造方法>
以下に、本発明のギ酸の製造方法を説明する。本発明のギ酸の製造方法は、二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するよう表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体と、を混合して、光を照射する工程、を含む。前記複合体は、前記炭素系量子ドットが前記金属有機構造体の表面に吸着されていることが好ましい。なお、前述に記載した内容と同様であるものについては、ここでの説明は省略する場合もある。
【0083】
(準備工程)
本発明では、二酸化炭素を含む水溶液を準備する工程を含むことが好ましい。二酸化炭素を含む水溶液としては、例えば、二酸化炭素ガスのバブリングを行い、水溶液中に二酸化炭素を溶解したものが挙げられる。二酸化炭素ガスのバブリングする場合は、十分な二酸化炭素量を確保する観点から、5時間以上60時間以下バブリングすることが好ましい。また、その他の例として、炭酸水素リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸水素セシウム(CsHCO3)のような炭酸水素塩や炭酸塩、リン酸、ホウ酸等を溶解することで、二酸化炭素を含む水溶液とすることも可能である。二酸化炭素を含む水溶液は、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を含んでいてもよいし、アルコール溶液であってもよく、二酸化炭素を水に溶解するものであれば特に制限されない。
【0084】
(混合工程)
本発明では、二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するよう表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体と、を混合する工程を含むことが好ましい。そのような混合工程は、当該技術分野で慣用の方法により、行うことができる。例えば、二酸化炭素を含む水溶液に、前述の複合体を添加して、十分に攪拌することにより、各成分を均一に混合することができる。複合体の含有量は、好ましくは0.01質量%以上60質量%以下となるよう、より好ましくは0.1質量%以上50質量%以下となるように、水溶液中に混合することができる。混合時には、従来の周知の任意成分を特に限定されることなく含むことができ、例えば、分散剤、酸、塩、有機溶媒等の任意の物質を含んでいてもよい。
【0085】
本発明では、ダイマー化によるレッドシフトを向上させる観点から、前記混合工程時には、さらに、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するよう表面修飾された炭素系量子ドットを添加することが好ましい。つまり、二酸化炭素を含む水溶液と、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと金属有機構造体とを含む複合体と、さらに、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を各1つ以上有するように表面修飾された炭素系量子ドットと、を混合する工程を含むことが好ましい。
【0086】
(光照射工程)
本発明では、前記混合溶液に光を照射する工程を含むことが好ましい。光を照射する光源には、太陽光等も利用可能だが、効率的に光吸収させる観点から、無機半導体発光ダイオード(LED)ないしレーザーダイオード、有機発光ダイオード(OLED)、ポリマー発光ダイオード(PLED)、LEDランプ・パッケージ、LEDチップないしLEDダイ等が好ましい。光源の波長は、480nm以下若しくは200nm以上480nm以下となるように、前記混合溶液に光を照射することが好ましく、360nm以上480nm以下となるように光照射することがより好ましい。このような波長の光を使用することで、紫外線のみならず一部可視光を利用することができるため、より実用的に用いることが可能となる。
【実施例0087】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0088】
(1)イオンクロマトグラフィーの測定
500mLの水に、実施例1~4及び比較例1~2で得られた試料2gを分散させた。60mL/minの流速で二酸化炭素を水中に48時間吹き込みながら460nm中心波長のLEDライト(24W)を照射した。模式図を
図1に示す。得られた水溶液のギ酸濃度を下記条件にてイオンクロマトグラフィーで定量した。測定結果を表1に示す。
・高速液体クロマトグラフカラムおよび装置
カラム:IC-Pak Ion-Exclusion Column;Waters製
ポンプ:515 HPLC Pump;Waters製
検出器:2432 Conductivity Detector;Waters製
・測定条件
流速:1.0 mL/min
カラム温度:55℃
注入試料量:20 μL
溶媒:1 mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウム水溶液
(2)吸収スペクトルの測定
分光光度計(V-770、日本分光製)を用いて実施例1~4及び比較例1~2で得られた各試料の吸収スペクトルを測定した。測定範囲は、300nmから700nm及び、300nmから500nmとし、測定条件ダブルビームで測定した。測定結果を
図4~
図7に示す。
【0089】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)の測定
TEM試料作製手順およびTEM観察の条件は以下のとおりである。測定結果を
図2~
図3に示す。
<TEM試料作製手順>
大過剰のエタノールに実施例1で得られた試料を分散し、その分散液の上澄みを適量採取してマイクログリッドに滴下、乾燥して観察試料を調製した。
<TEM観察の条件>
マイクログリッド:Cu150P(カーボン蒸着)
装置の機種:Talos F200X S/TEM(ThermoFisher SCIENTIFIC製)
加速電圧:200kV
(4)赤外線分光測定
赤外線分光測定によりC-dotsのカルボキシル基およびアミノ基の存在を確認した。測定条件は以下のとおりである。
<赤外線分光測定の条件>
水系ペースト状の試料(比較例1)を測定部に充填して測定した。測定結果を
図8に示す。
装置の機種:IR Prestige-21(株式会社島津製作所製)
【0090】
<実施例1>
グラフェン量子ドットの水分散体(冨士色素社製FUJI QD GRAPHENE 818、量子ドットの含有量(以下、C-dots濃度ともいう)15質量%)を精製水で希釈して、C-dots濃度が水分散体の全量に対して0.3質量%となるように、水分散体を調製した。前記水分散体(C-dots濃度:0.3質量%)100gにMOF 801(GSアライアンス社製)を3g投入して常温で気泡がでるまで減圧することで、C-dotsを0.3質量%となるようMOFに配位させ、MOF/C-dots複合体を製造した。
【0091】
<実施例2>
実施例1において、MOF 801(GSアライアンス社製)をMOF-NH2(GS UIO66-NH2):GSアライアンス社製、MOFにNH2基が付加されたもの)となるように調製したこと以外は、実施例1と同じ条件でMOF-NH2/C-dots複合体を製造した。
【0092】
<実施例3>
実施例1において、グラフェン量子ドットの水分散体(冨士色素社製FUJI QD GRAPHENE 818、15質量%)を、カーボン系量子ドット(FUJI QD CARBON 308)としたこと以外は、実施例1と同じ条件でMOF/C-dots複合体を製造した。
【0093】
<実施例4>
実施例1において、MOF 801(GSアライアンス社製)をMOF-303(GS MOF-303、Al(OH)(PZDC))となるように調製したこと以外は、実施例1と同じ条件でMOF/C-dots複合体を製造した。
【0094】
<比較例1>
実施例1において、MOFを使用しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件でC-dots単体を製造した。
【0095】
<比較例2>
実施例1において、グラフェン量子ドットを使用しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件でMOF単体を製造した。
【0096】
【0097】
評価結果を表1に示す。
【0098】
表1及び
図1に示す通り、CO
2を含有する水溶液中に、実施例1で得られたMOF/C-dots複合体を分散させ、光を照射することで、二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造することができた。MOF/C-dots複合体を用いたCO
2還元反応式は以下の通りであり、光がMOF/C-dots複合体に照射されることで、C-dots部分で電子が励起され、CO
2を還元してギ酸を発生させると考えられる。
CO
2+2H
++2e
-→HCOOH E=-0.61 V
実施例1における光の吸収については、
図5に示す通りである。比較の為に、C-dots単体のみでの吸収波長(
図4(比較例1))を参照する。
図4に示すとおり、C-dots単体では吸収波長のピークは350nmあたりであることが分かる。しかし、
図5のように、MOF/C-dots複合体とすることで、350nm以上の長い波長(500nmあたりまで)でもゆるやかに吸光度が増加しており、C-dots単体と比べて長波長側へシフトしていることが分かる。これにより、MOF/C-dots複合体とすることで、今回実験で用いた460nm中心波長のLEDライト(24W)であっても、光を吸収することができる。つまり、MOF/C-dots複合体とすることで、紫外線領域だけでなく可視光領域までも幅広く光を吸収できるようになり、太陽光を用いることができるため、幅広い用途で使用可能となる。例えば、太陽光を用いて、人工光合成用の光触媒として用いることが可能となる。
【0099】
さらに、表1に示す通り、実施例2で得られたMOF-NH2/C-dots複合体を用いると、実施例1よりもギ酸濃度が高く収率が上がったことが分かる。これは、MOFがNH2基を含み、NH2基が炭酸水素イオンを炭酸イオンへと誘導すると考えられるため、CO2を吸収しやすくなり、実施例1よりもギ酸濃度が高くなり、収率が上がったと考えられる。また、実施例3では、カーボン系量子ドットを用いてMOF/C-dots複合体を調製したが、ギ酸の発生が確認できた。実施例4では、アルミニウム系のMOFを用いてMOF/C-dots複合体を調製したが、ギ酸の発生が確認できた。以上より、実施例1~4では、二酸化炭素を還元して高収率でギ酸を製造することができた。また、実施例1~4では、紫外線のみならず一部可視光を吸収できた。
【0100】
一方で、比較例1では、C-dots単体であり、
図4にも示す通り、吸収波長のピークは350nmあたりであり、460nm中心波長のLEDライト(24W)では二酸化炭素を還元できないため、表1に示す通り、ギ酸は発生しなかった。また、表1には示していないが、比較例1のC-dots単体の濃度を高めて同様の実験を行った。これにより、C-dots単体(モノマー)がダイマー化してレッドシフトすると考えられるが、自己遮蔽により光が透過せずCO
2の吸収はできず、ギ酸を発生できなかった。比較例2では、MOF単体であり、光吸収しないため、ギ酸は発生しなかった。また、表1には示していないが、カルボキシル基及びアミノ基の官能基を有しないC-dots単体でも、同様に実験を行ったが、水溶液への分散も難しくCO
2の吸収はほぼできなかった。
【0101】
図2に、実施例1のTEM像を示す。
図2より、MOF-801の八面体の構造が、MOF/C-dots複合体となっても維持されていることが分かる。
図3には、
図2のTEM像について、N元素のマッピングした図を示す。
図3から、MOFが存在する箇所に均一にN元素がマッピングされていることが分かる。C-dotsのみにN元素が含まれ、MOF-801にはN元素が含まれていないことから、MOF/C-dots複合体はMOF表面にC-dotsが吸着している構造であることが分かる。
【0102】
図6は、比較例1のC-dots単体の水分散体における励起波長と発光波長の関係を示す図である。励起波長が375nm付近において蛍光強度が最大になり、445nm蛍光を示す。
【0103】
図7は、実施例1のMOF/C-dots複合体において、励起波長が450nm、470nmでの発光強度を示す図である。
図6と比較すると、励起波長がC-dots単体に比べ450nm付近にシフトしている事を示す図である。
【0104】
図8は、比較例1のC-dots単体の赤外線吸収スペクトル図である。C-dotsのアミノ基、カルボキシル基の存在を示す図である。