(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053603
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】車両近接報知装置、車両近接報知方法、及び、移動体装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240409BHJP
B60Q 5/00 20060101ALI20240409BHJP
G10K 15/04 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
H04R3/00 310
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 650A
B60Q5/00 640Z
G10K15/04 302J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159930
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】今野 文靖
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA01
5D220AB01
(57)【要約】
【課題】予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整できる車両近接報知装置などを提供する。
【解決手段】車両近接報知装置10は、第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得する取得部と、第2音源信号に対して模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する模擬信号処理部113と、模擬信号の第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する第3フィルタ部117と、模擬信号の第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する第4フィルタ部118と、第1音声信号と第3音声信号との間の第1差分、及び、第2音声信号と第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、模擬信号の音圧を調整することで出力用音声信号を生成する音圧調整部114と、出力用音声信号をスピーカへ出力する出力部120と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配置されたスピーカに前記車両の外部へ向けて警報音を出力させることで前記車両の近接を報知する車両近接報知装置であって、
第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、前記スピーカで出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得する取得部と、
前記第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、前記特定の信号処理と、前記スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する模擬信号処理部と、
前記模擬信号の前記第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する第3フィルタ部と、
前記模擬信号の前記第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する第4フィルタ部と、
前記第1音声信号と前記第3音声信号との間の第1差分、及び、前記第2音声信号と前記第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、前記模擬信号の前記第1周波数帯域の音圧、及び、前記模擬信号の前記第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成する音圧調整部と、
前記出力用音声信号を前記スピーカへ出力する出力部と、を備える
車両近接報知装置。
【請求項2】
さらに、
前記第1音源信号の前記第1周波数帯域を抽出することで前記第1音声信号を生成する第1フィルタ部と、
前記第1音源信号の前記第2周波数帯域を抽出することで前記第2音声信号を生成する第2フィルタ部と、を備える
請求項1に記載の車両近接報知装置。
【請求項3】
前記第1周波数帯域は、所定の周波数未満の低周波数帯域に含まれ、
前記第2周波数帯域は、前記所定の周波数以上の高周波数帯域に含まれる
請求項1または2に記載の車両近接報知装置。
【請求項4】
前記第1周波数帯域及び前記第2周波数帯域は、1/3オクターブ毎に区切られた複数の周波数帯域のうちの互いに隣接しない周波数帯域である
請求項3に記載の車両近接報知装置。
【請求項5】
車両に配置されたスピーカに前記車両の外部へ向けて警報音を出力させることで前記車両の近接を報知する車両近接報知方法であって、
第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、前記スピーカで出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得し、
前記第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、前記特定の信号処理と、前記スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成し、
前記模擬信号の前記第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成し、
前記模擬信号の前記第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成し、
前記第1音声信号と前記第3音声信号との間の第1差分、及び、前記第2音声信号と前記第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、前記模擬信号の前記第1周波数帯域の音圧、及び、前記模擬信号の前記第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成し、
前記出力用音声信号を前記スピーカへ出力する
車両近接報知方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の車両近接報知装置と、
前記特定のスピーカと、を備える
移動体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載され、車両の接近を外部に報知する警報音を出力する車両近接報知装置および車両近接報知方法と、車両近接報知装置を備える移動体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車及びハイブリッド自動車は低騒音であるため、自車ロードノイズが小さい低速走行時には歩行者等が車両の接近に気づき難いという問題がある。このため、電気自動車及びハイブリッド自動車等の低騒音車には、走行時に車両の走行状態を想起させる連続音である警報音を発生させることで車両の接近を歩行者等に警告する車両近接報知装置が備えられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-208636号公報
【特許文献2】特開平11-285093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような車両近接報知装置では、規定の周波数において規定の音圧の音が出力されることが求められている。様々な音源の音を警報音として設定する場合、各音源の音について規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整する必要がある。
【0005】
そこで、本開示は、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整することができる車両近接報知装置などを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両近接報知装置は、車両に配置されたスピーカに前記車両の外部へ向けて警報音を出力させることで前記車両の近接を報知する車両近接報知装置であって、第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、前記スピーカで出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得する取得部と、前記第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、前記特定の信号処理と、前記スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する模擬信号処理部と、前記模擬信号の前記第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する第3フィルタ部と、前記模擬信号の前記第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する第4フィルタ部と、前記第1音声信号と前記第3音声信号との間の第1差分、及び、前記第2音声信号と前記第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、前記模擬信号の前記第1周波数帯域の音圧、及び、前記模擬信号の前記第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成する音圧調整部と、前記出力用音声信号を前記スピーカへ出力する出力部と、を備える。
【0007】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の車両近接報知装置などは、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧が出力されるように調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る車両近接報知装置を備える車両の模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る車両近接報知装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るスピーカの音圧周波数特性を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係るスピーカの音圧周波数特性を模擬した模擬信号処理の模擬フィルタの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る車両近接報知装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る音圧調整処理の具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
従来の車両近接報知装置は、警報音を発生するスピーカと、警報音に対応する信号を出力する音源と、音源から出力された信号を増幅してスピーカに出力するアンプとを備えている。
【0011】
特許文献1に記載されている車両用警報音源は、車外スピーカ及び車内スピーカと、車内の減音したい位置に設けたマイクと、適応型コントローラを備えている。車両用警報音源は、基準信号により増幅器を介して車外スピーカから警告音を発生する。このとき、適応型コントローラは、基準信号及びマイクの入力により車内空間伝達系の伝達特性に対する逆伝達特性を同定し、マイクの入力が最小になるように、増幅器を介して車内スピーカの出力音を制御している。
【0012】
また、特許文献2に記載されている車載用警報音装置は、警報音の指向特性を制御するための制御音を生成し、信号処理によって警報音の指向特性を所望の特性に変更している。
【0013】
このように、車外に対して警報音を発生することにより歩行者等に車両の接近を知らせることができる。
【0014】
また、電気自動車及びハイブリッド自動車等の低騒音車から出力される警報音に関しては、北米NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)において、最小音圧値の規定が検討されている。例えば、1/3オクターブの8周波数バンドに対して最小音圧値が規定され、所定の計測方法で計測した場合に最小音圧値以上の警報音が出力される必要がある。したがって、警報音の音圧を最小音圧値よりも小さくすることはできない。そこで、最小音圧値以上の警報音を出力しつつ、搭乗者へ与える不快感を低減する技術が求められる。
【0015】
上記の従来技術では、様々な音源の音を警報音として設定する場合、各音源について規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されているか否かを確認しながら、音圧を調整することで決定したパラメータを音源毎に記憶しておく必要がある。このように、音源毎の音圧調整が必要となり音圧調整に手間がかかる。また決定したパラメータを記憶しておく記憶部の記憶領域を確保する必要がある。
【0016】
上記課題を解決するために、本開示の第1の態様に係る車両近接報知装置は、車両に配置されたスピーカに前記車両の外部へ向けて警報音を出力させることで前記車両の近接を報知する車両近接報知装置であって、第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、前記スピーカで出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得する取得部と、前記第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、前記特定の信号処理と、前記スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する模擬信号処理部と、前記模擬信号の前記第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する第3フィルタ部と、前記模擬信号の前記第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する第4フィルタ部と、前記第1音声信号と前記第3音声信号との間の第1差分、及び、前記第2音声信号と前記第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、前記模擬信号の前記第1周波数帯域の音圧、及び、前記模擬信号の前記第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成する音圧調整部と、前記出力用音声信号を前記スピーカへ出力する出力部と、を備える。
【0017】
これによれば、予め音圧調整がされていない第2音源信号に基づいて得られた模擬信号の第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧が、予め音圧調整がされている第1音源信号における第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧に近づくように模擬信号に対して音圧を調整する音圧調整処理を行う。このため、第2音源信号に基づく警報音でも、第1周波数帯域の音圧、及び、第2周波数帯域の音圧を、予め規定を満たすように調整されている第1音源信号に基づく音に近づけることができる。よって、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整することができる。
【0018】
また、本開示の第2の態様に係る車両近接報知装置は、第1の態様に係る車両近接報知装置であって、さらに、前記第1音源信号の前記第1周波数帯域を抽出することで前記第1音声信号を生成する第1フィルタ部と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域を抽出することで前記第2音声信号を生成する第2フィルタ部と、を備える。
【0019】
このため、第1音声信号及び第2音声信号を第1音源信号に基づいて生成することができる。よって、第1音声信号及び第2音声信号を記憶しなくても、生成した第1音声信号及び第2音声信号を音圧調整部による音圧調整処理に用いることができるため、第1音声信号及び第2音声信号を記憶しておく記憶装置の記憶容量を確保する必要が無い。
【0020】
また、本開示の第3の態様に係る車両近接報知装置は、第1の態様または第2の態様に係る車両近接報知装置であって、前記第1周波数帯域は、所定の周波数未満の低周波数帯域に含まれ、前記第2周波数帯域は、前記所定の周波数以上の高周波数帯域に含まれる。
【0021】
このため、法規を満たした音を第2音源信号に基づいて生成することができる。
【0022】
また、本開示の第4の態様に係る車両近接報知装置は、第3の態様に係る車両近接報知装置であって、前記第1周波数帯域及び前記第2周波数帯域は、1/3オクターブ毎に区切られた複数の周波数帯域のうちの互いに隣接しない周波数帯域である。
【0023】
このため、法規を満たした音を第2音源信号に基づいて生成することができる。
【0024】
本開示の第5の態様に係る車両近接報知方法は、車両の車室外に配置されたスピーカに警報音を出力させることで前記車両の近接を報知する車両近接報知方法であって、第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、前記スピーカで出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された第1音声信号と、前記第1音源信号の前記第2周波数帯域が抽出された第2音声信号とを取得し、前記第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、前記特定の信号処理と、前記スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成し、前記模擬信号の前記第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成し、前記模擬信号の前記第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成し、前記第1音声信号と前記第3音声信号との間の第1差分、及び、前記第2音声信号と前記第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、前記模擬信号の前記第1周波数帯域の音圧、及び、前記模擬信号の前記第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成し、前記出力用音声信号を前記スピーカへ出力する。
【0025】
これによれば、予め音圧調整がされていない第2音源信号に基づいて得られた模擬信号の第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧が、予め音圧調整がされている第1音源信号における第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧に近づくように模擬信号に対して音圧を調整する音圧調整処理を行う。このため、第2音源信号に基づく警報音でも、第1周波数帯域の音圧、及び、第2周波数帯域の音圧を、予め規定を満たすように調整されている第1音源信号に基づく音に近づけることができる。よって、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整することができる。
【0026】
本開示の第6の態様に係る移動体装置は、第1の態様または第2の態様に記載の車両近接報知装置と、前記特定のスピーカと、を備える。
【0027】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよく、システム、集積回路、コンピュータプログラム及び非一時的な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0028】
以下の実施の形態では、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧が出力されるように調整することができる車両近接報知装置について説明する。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0030】
(実施の形態)
実施の形態では、車両に搭載される車両近接報知装置について説明する。
【0031】
図1は、実施の形態に係る車両近接報知装置を備える車両の模式図である。
【0032】
車両40は、移動体装置の一例であって、車両近接報知装置10と、スピーカ30とを備える。車両40は、具体的には、自動車であるが、特に限定されない。
【0033】
スピーカ30は、車両近接報知装置10から出力された音声信号に応じて音を出力する。スピーカ30は、車両40の車室外、例えばエンジンルームなどに配置されている。よって、スピーカ30は、車両40の近接を報知する警報音を、車両40の外部に出力する。スピーカ30は、音声信号である電気信号を機械振動に変換する機能を有し、電気信号に基づいた音圧の警報音を出力する。
【0034】
なお、車両40が有する車室41は、車両40の乗員が入る空間である。つまり、車室41は、車両40の乗員が存在する空間である。
【0035】
[1.構成]
次に、車両近接報知装置10の構成について
図1に加えて
図2を参照しながら説明する。
図2は、実施の形態に係る車両近接報知装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0036】
車両近接報知装置10は、スピーカ30から警報音を出力させることで車両40の近接を車両40の周囲の人に報知する装置である。
【0037】
車両近接報知装置10は、
図2に示すように、取得部111と、記憶部112と、模擬信号処理部113と、音圧調整部114と、第1フィルタ部115と、第2フィルタ部116と、第3フィルタ部117と、第4フィルタ部118と、音量ピッチ制御部119と、出力部120とを備える。車両近接報知装置10は、例えば、DSP等のプロセッサによって実現されるが、マイクロコンピュータまたは専用回路によって実現されてもよいし、プロセッサ、マイクロコンピュータ、及び専用回路のうちの2つ以上の組み合わせによって実現されてもよい。
【0038】
取得部111は、記憶部112から第1音源を取得し、第1音源信号を生成する。また、取得部111は、記憶部112から第2音源を取得し、第2音源信号を生成する。第1音源信号及び第2音源信号は、車両40の近接を外部に報知する1つの警報音に対応する音声信号である電気信号である。警報音は、例えば、エンジン音である。第1音源には、疑似エンジン音または電子音が用いられ、第1音源信号は、例えば、300Hz~800Hzの低音部と1kHz~5kHzの高音部との周波数成分で構成されている。第1音源は、警報音として、第1周波数特性を有する第1の音を示す第1音声信号を発生させる。第1周波数特性は、例えば、所定の周波数Fth未満の低周波数帯域に含まれる第1周波数F1での音圧が第1の音圧以上であり、かつ、所定の周波数Fth以上の高周波数帯域に含まれる第2周波数F2での音圧が第2の音圧以上である周波数特性である。
【0039】
所定の周波数Fthは、例えば、1kHzである。また、第1周波数帯域の基準となる第1周波数F1、および、第2周波数帯域の基準となる第2周波数F2は、1/3オクターブ毎に区切られた複数の周波数帯域のうち互いに隣接しない周波数である。第1周波数F1は、例えば、630Hzである。第2周波数F2は、例えば、1kHzである。
【0040】
記憶部112は、第1音源信号、及び、第2音源信号を記憶している。記憶部112は、不揮発性の記憶装置である。第2音源信号は、スピーカ30から規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように予め音圧が調整されていない音声信号である。
【0041】
なお、第1音源信号は、特定の信号処理がされた後にスピーカ30で出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される音声信号である。つまり、第1音源信号は、規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように予め音圧が調整された音声信号である。さらに言い換えると、第1音源信号は、特定の信号処理として、予め音圧が調整されることで決定されたパラメータで音圧調整部114に信号処理されて、スピーカ30に出力されると、規定の周波数において規定の音圧以上の音がスピーカ30から出力される。
【0042】
模擬信号処理部113は、第2音源信号に対して、特定の信号処理と、特定のスピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する。模擬信号処理部113は、第1音源信号に対して、模擬信号処理を行わない。
【0043】
図3は、実施の形態に係るスピーカの音圧周波数特性を示す図である。
図4は、実施の形態に係るスピーカの音圧周波数特性を模擬した模擬信号処理の模擬フィルタの一例を示す図である。
【0044】
模擬信号処理では、模擬信号処理部113は、
図4に示されるようなスピーカ30の音圧周波数特性を模擬した模擬信号処理を行うことで、スピーカ30から出力された後の音声信号を模擬した模擬信号を生成する。模擬フィルタには、二次のハイパス/ローパスフィルタが用いられてもよいし、一次または三次などのスピーカのフィルタが用いられてもよい。模擬フィルタは、スピーカ30の再生能力に合わせて、低域のフィルタ有り、かつ、高域のフィルタ無しなどの組み合わせが用いられてもよい。模擬フィルタは、FIRフィルタなどが用いられてもよく、厳密にスピーカ30の特性が模擬されてもよい。
【0045】
第1フィルタ部115は、取得部111により取得された第1音源信号の第1周波数帯域を抽出することで第1音声信号を生成する。これにより、第1フィルタ部115は、第1音声信号を取得する。つまり、第1フィルタ部115は、第1音声信号を取得する取得部としての機能も有する。
【0046】
第2フィルタ部116は、取得部111により取得された第1音源信号の第2周波数帯域を抽出することで第2音声信号を生成する。これにより、第2フィルタ部116は、第2音声信号を取得する。つまり、第2フィルタ部116は、第2音声信号を取得する取得部としての機能も有する。
【0047】
音圧調整部114は、模擬信号に対して所定の音圧調整を行い、音圧調整後の出力用音声信号を生成する。音圧調整部114は、最初に入力された模擬信号に対しては音圧調整を行わなくてもよい。つまり、音圧調整部114は、最初に入力された模擬信号を、出力用音声信号として出力してもよい。
【0048】
第3フィルタ部117は、出力用音声信号(あるいは初期の模擬信号)の第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する。
【0049】
第4フィルタ部118は、出力用音声信号(あるいは初期の模擬信号)の第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する。
【0050】
音圧調整部114は、第1音声信号と第3音声信号との間の第1差分を算出し、かつ、第2音声信号と第4音声信号との間の第2差分を算出する。そして、音圧調整部114は、第1差分及び第2差分が小さくなるように、模擬信号の第1周波数帯域の音圧、及び、模擬信号の第2周波数帯域の音圧を調整することで、出力用音声信号を生成する。具体的には、音圧調整部114は、LSM(Least Squares Method)演算を行うことで、第1音声信号と第3音声信号との間の第1差分、及び、第2音声信号と第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、模擬信号の第1周波数帯域の音圧、及び、模擬信号の第2周波数帯域の音圧を調整する。
【0051】
ここで、第1周波数帯域は、所定の周波数未満の低周波数帯域に含まれる。また、第2周波数帯域は、所定の周波数以上の高周波数帯域に含まれる。
【0052】
音量ピッチ制御部119は、出力用音声信号の音量を所定の音量に、かつ、出力用音声信号のピッチを所定のピッチに調整する。
【0053】
出力部120は、音量ピッチ制御部119により調整された出力用音声信号をスピーカ30から出力する。出力部120は、調整された出力用音声信号を増幅させてから、増幅された出力用音声信号をスピーカ30に出力してもよい。
【0054】
[2.動作]
図5は、実施の形態に係る車両近接報知装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0055】
車両近接報知装置10は、第1音源信号及び第2音源信号を取得する(S11)。
【0056】
次に、車両近接報知装置10は、第1音源信号に対して第1フィルタ処理を行い、第1音声信号を生成する(S12)。
【0057】
次に、車両近接報知装置10は、第1音源信号に対して第2フィルタ処理を行い、第2音声信号を生成する(S13)。
【0058】
次に、車両近接報知装置10は、第2音源信号に対して、特定の信号処理と、特定のスピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する(S14)。
【0059】
次に、車両近接報知装置10は、出力用音声信号(あるいは初期の模擬信号)の第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する(S15)。
【0060】
次に、車両近接報知装置10は、出力用音声信号(あるいは初期の模擬信号)の第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する(S16)。
【0061】
次に、車両近接報知装置10は、第1音声信号、第2音声信号、第3音声信号、及び、第4音声信号に基づいて、第2音源信号に対して音圧調整処理を行うことで、出力用音声信号を生成する(S17)。なお、ステップS15及びステップS16は、ステップS17の処理の後の出力用音声信号に対して行われてもよい。
【0062】
次に、車両近接報知装置10は、出力用音声信号の音量を所定の音量に、かつ、出力用音声信号のピッチを所定のピッチに調整する(S18)。
【0063】
次に、車両近接報知装置10は、音量ピッチ制御部119により調整された出力用音声信号をスピーカ30から出力する(S19)。
【0064】
なお、ステップS12及びステップS13は、ステップS14の後に行われてもよい。ステップS12、ステップS13、ステップS15及びステップS16は、並行して行われてもよい。
【0065】
図6は、実施の形態に係る音圧調整処理の具体例を示すフローチャートである。
【0066】
車両近接報知装置10は、第1音声信号と第3音声信号との第1差分を算出する(S21)。
【0067】
次に、車両近接報知装置10は、第1差分が所定値以上であるか否かを判定する(S22)。
【0068】
車両近接報知装置10は、第1差分が所定値以上であると判定した場合(S22でYes)、出力用音声信号の第1周波数の音圧を第1音源信号の第1周波数の音圧に近づくように調整する(S23)。
【0069】
車両近接報知装置10は、第1差分が所定値未満であると判定した場合(S22でNo)、または、ステップS23の後で、第2音声信号と第4音声信号との第2差分を算出する(S24)。
【0070】
次に、車両近接報知装置10は、第2差分が所定値以上であるか否かを判定する(S25)。
【0071】
車両近接報知装置10は、第2差分が所定値以上であると判定した場合(S25でYes)、出力用音声信号の第2周波数の音圧を第1音源信号の第2周波数の音圧に近づくように調整する(S26)。
【0072】
車両近接報知装置10は、第2差分が所定値未満であると判定した場合(S25でNo)、または、ステップS26の後で、音圧調整処理を終了する。
【0073】
なお、ステップS21~S23の処理と、ステップS24~S26の処理とは、並行して行われてもよいし、ステップS24~S26の処理がステップS21~S23の処理よりも先に行われてもよい。
【0074】
[3.効果など]
本実施の形態に係る車両近接報知装置10は、車両40に配置されたスピーカ30に車両40の外部へ向けて警報音を出力させることで車両40の近接を報知する。車両近接報知装置10は、取得部と、模擬信号処理部113と、第3フィルタ部117と、第4フィルタ部118と、音圧調整部114と、出力部120とを備える。取得部は、第1音声信号と、第2音声信号とを取得する。第1音声信号は、第1音源信号であって、特定の信号処理がされた後に、スピーカ30で出力されたときに、第1周波数帯域における音圧が規定の第1音圧より大きく、かつ、第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域における音圧が規定の第2音圧より大きくなるように出力される第1音源信号の第1周波数帯域が抽出された音声信号である。第2音声信号は、第1音源信号の第2周波数帯域が抽出された音声信号である。模擬信号処理部113は、第1音源信号とは異なる第2音源信号に対して、特定の信号処理と、スピーカの特性を模擬するための信号処理とを含む模擬信号処理を行うことで模擬信号を生成する。第3フィルタ部117は、模擬信号の第1周波数帯域を抽出することで第3音声信号を生成する。第4フィルタ部118は、模擬信号の第2周波数帯域を抽出することで第4音声信号を生成する。音圧調整部114は、第1音声信号と第3音声信号との間の第1差分、及び、第2音声信号と第4音声信号との間の第2差分が小さくなるように、模擬信号の第1周波数帯域の音圧、及び、模擬信号の第2周波数帯域の音圧を調整することで出力用音声信号を生成する。出力部120は、出力用音声信号をスピーカ30へ出力する。
【0075】
これによれば、予め音圧調整がされていない第2音源信号に基づいて得られた模擬信号の第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧が、予め音圧調整がされている第1音源信号における第1周波数帯域及び第2周波数帯域のそれぞれの音圧に近づくように模擬信号に対して音圧を調整する音圧調整処理を行う。このため、第2音源信号に基づく警報音でも、第1周波数帯域の音圧、及び、第2周波数帯域の音圧を、予め規定を満たすように調整されている第1音源信号に基づく音に近づけることができる。よって、予め音圧調整が行われていない音源の音を規定の周波数において規定の音圧以上の音が出力されるように調整することができる。
【0076】
例えば、予め用意した第1音源とは異なる第2音源を警報音として設定したい場合であっても、上記の音圧調整処理が行われるため、規定の周波数において規定の音圧以上となるような法規を満たした警報音が出力されるように容易に調整することができる。よって、第2音源を様々な音源に設定することができ、警報音の自由度が向上するという効果も奏される。
【0077】
また、本実施の形態に係る車両近接報知装置10は、さらに、第1フィルタ部115と、第2フィルタ部116とを備える。第1フィルタ部115は、第1音源信号の第1周波数帯域を抽出することで第1音声信号を生成する。第2フィルタ部116は、第1音源信号の第2周波数帯域を抽出することで第2音声信号を生成する。
【0078】
このため、第1音声信号及び第2音声信号を第1音源信号に基づいて生成することができる。よって、第1音声信号及び第2音声信号を記憶しなくても、生成した第1音声信号及び第2音声信号を音圧調整部による音圧調整処理に用いることができるため、第1音声信号及び第2音声信号を記憶しておく記憶装置の記憶容量を確保する必要が無い。
【0079】
また、本実施の形態に係る車両近接報知装置10において、第1周波数帯域は、所定の周波数未満の低周波数帯域に含まれる。第2周波数帯域は、所定の周波数以上の高周波数帯域に含まれる。
【0080】
このため、法規を満たした音を第2音源信号に基づいて生成することができる。
【0081】
また、本実施の形態に係る車両近接報知装置10において、第1周波数帯域及び第2周波数帯域は、1/3オクターブ毎に区切られた複数の周波数帯域のうちの互いに隣接しない周波数帯域である。
【0082】
このため、法規を満たした音を第2音源信号に基づいて生成することができる。
【0083】
[変形例]
上記実施の形態において、車両近接報知装置10は、第1フィルタ部115及び第2フィルタ部116を備えるとしたが、第1フィルタ部115及び第2フィルタ部116を備えない構成であってもよい。この場合、記憶部112は、第1音源信号に対して第1フィルタ処理が予め行われることで生成された第1音声信号と、第1音源信号に対して第2フィルタ処理が予め行われることで生成された第2音声信号とを記憶していてもよい。そして、この場合、取得部111は、記憶部112に記憶されている第1音声信号及び第2音声信号を取得し、第1音声信号及び第2音声信号を音圧調整部114に出力する。
【0084】
また、上記実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0085】
また、各構成要素は、回路(または集積回路)でもよい。これらの回路は、全体として1つの回路を構成してもよいし、それぞれ別々の回路でもよい。また、これらの回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0086】
また、本発明の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0087】
例えば、本発明は、車両近接報知装置(コンピュータまたはDSP)が実行する車両近接報知方法として実現されてもよいし、上記車両近接報知方法をコンピュータまたはDSPに実行させるためのプログラムとして実現されてもよい。
【0088】
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、上記実施の形態において説明された車両近接報知装置の動作における複数の処理の順序は、変更されてもよいし、複数の処理は、並行して実行されてもよい。
【0089】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示は、電気自動車及びハイブリッド自動車等の低騒音車等に搭載される車両近接報知装置に適用できる。
【符号の説明】
【0091】
10 車両近接報知装置
30 スピーカ
40 車両
41 車室
111 取得部
112 記憶部
113 模擬信号処理部
114 音圧調整部
115 第1フィルタ部
116 第2フィルタ部
117 第3フィルタ部
118 第4フィルタ部
119 音量ピッチ制御部
120 出力部