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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053642
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】人工皮革、及び人工皮革の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20240409BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240409BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240409BHJP
   A41D 31/00 20190101ALN20240409BHJP
   A41D 31/02 20190101ALN20240409BHJP
   D01C 1/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B5/02 A
B32B5/26
A41D31/00 503B
A41D31/00 504
A41D31/02 A
D01C1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159974
(22)【出願日】2022-10-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】511024377
【氏名又は名称】フロムファーイースト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 信一
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA01
4F055BA02
4F055BA12
4F055EA02
4F055EA24
4F055GA01
4F055GA36
4F100AJ02A
4F100AJ02C
4F100AJ10A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25A
4F100AN02A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA01A
4F100DG01A
4F100DG04C
4F100DG15B
4F100GB33
4F100GB72
4F100GB74
4F100GB81
(57)【要約】
【課題】バガス繊維を使用した人工皮革、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】バガス繊維を含む人工皮革。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガス繊維を含む人工皮革。
【請求項2】
樹脂をさらに含む、
請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
発泡剤をさらに含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項4】
基材としてフェルトを含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項5】
バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、
樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、
前記バガス繊維層と前記樹脂層とが積層した、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項6】
バガス繊維と樹脂との混合層をさらに備える、
請求項5に記載の人工皮革。
【請求項7】
前記バガス繊維が、繊維長さが20mm以上である繊維を含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項8】
前記バガス繊維が、繊維長さが13mm未満である繊維をさらに含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項9】
バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、
前記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合する混合工程と、
前記バガス繊維を解繊する解繊処理工程と、
前記解繊処理済みのバガス繊維を乾燥させて成型する成型工程を有する、
人工皮革の製造方法。
【請求項10】
少なくとも一部の前記バガス繊維に対する前記解繊処理が、攪拌を12時間以上行うものである、
請求項9に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに人工皮革を形成する積層工程を有する、
人工皮革の製造方法。
【請求項12】
圧延工程をさらに備える、
請求項9~11のいずれか一項に記載の人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革、及び人工皮革の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮革は、日常生活において、衣類、鞄等のファッション素材、家具等のインテリア素材から車の部材等に至るまで幅広い用途にて用いられている。従来、皮革として主に天然皮革が用いられており、天然皮革は、加工性・染色性に優れていることに加え、適度な吸湿保湿性、大きな保温断熱性、及び緻密で比重が小さいといった特性を有しており、これらの特性が組み合わさった総合的な優位性から他素材での代替が困難とされてきた。一方で、天然皮革は、動物を殺めた上で動物皮を採取するため、動物愛護や道徳的観点から批判の声が挙がっている。そのため、天然皮革から他の材料を用いた皮革に置き換えようとする動きが強まってきている。
【0003】
天然皮革を代替する皮革としては、編物や織物等を基布としてウレタン樹脂をコーティングした合成皮革や、不織布を基布にウレタン樹脂をコーティングして得られる人工皮革等の開発が進められてきた。しかしながら、昨今においては、社会における環境意識が高まっており、合成皮革や人工皮革の製造過程で排出される二酸化炭素による地球温暖化、化学繊維等の原料として用いられる石油や天然ガス等の化石資源の枯渇、が問題視されている。
【0004】
非化石資源を原料として使用した人工皮革の開発は一定程度行われており、例えば、特許文献1においては、優れた視覚的及び触覚的特性を有し、天然皮革及び/又は合成皮革よりも環境に優しい持続可能な方法で製造でき、少なくとも部分的に生分解可能な人工皮革等を提供することを目的として、所定の植物葉材料等を含む、所定のイミテーションレザー用層複合体、が開示されている。
【0005】
しかしながら、いくつかの天然素材を用いた人工皮革の開発が検討されているものの、天然皮革や化石燃料由来の合成皮革等に比較すると、まだまだ生産量としては十分であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表第2022-512030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、人工皮革の天然素材としてサトウキビに着目した。サトウキビについては、生産量としては年間約12億トンを誇る農産物であり、その搾汁後の残渣であるバガスについても乾燥重量換算で年間1億トン以上生産されているにも関わらず、十分に有効に利用されているとは言い難く、無論、人工皮革に対する応用開発も進んでいるとはいえない。
【0008】
本発明の目的は、バガス繊維を使用した人工皮革、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、バガス繊維を含む人工皮革であり、以下のとおりである。
[1]
バガス繊維を含む人工皮革。
[2]
樹脂をさらに含む、
[1]に記載の人工皮革。
[3]
発泡剤をさらに含む、
[1]又は[2]に記載の人工皮革。
[4]
基材としてフェルトを含む、
[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
[5]
バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、
樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、
前記バガス繊維層と前記樹脂層とが積層した、
[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革。
[6]
バガス繊維と樹脂との混合層をさらに備える、
[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革。
[7]
前記バガス繊維が、繊維長さが20mm以上である繊維を含む、
[1]~[6]のいずれかに記載の人工皮革。
[8]
前記バガス繊維が、繊維長さが13mm未満である繊維をさらに含む、
[1]~[7]のいずれかに記載の人工皮革。
[9] バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、
上記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合する混合工程と、
前記バガス繊維を解繊する解繊処理工程と、
前記解繊処理済みのバガス繊維を乾燥させて成型する成型工程を有する、
人工皮革の製造方法。
[10]
少なくとも一部の前記バガス繊維に対する前記解繊処理が、攪拌を12時間以上行うものである、
[9]に記載の人工皮革の製造方法。
[11]
[9]に記載の人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに人工皮革を形成する積層工程を有する、
人工皮革の製造方法。
[12]
圧延工程をさらに備える、
[9]~[11]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び2の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図2】実施例1及び2の人工皮革についての電子顕微鏡観察(倍率200倍)のプロファイルである。
図3】実施例3の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図4】実施例3の人工皮革の表面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図5】実施例3の人工皮革の裏面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図6】実施例3の人工皮革の断面全体、及び表面付近の断面についての電子顕微鏡観察(前者は倍率50倍、後者は倍率200倍)のプロファイルである。
図7】実施例3の人工皮革の中央付近の断面、及び裏面付近の断面についての電子顕微鏡観察(倍率200倍)のプロファイルである。
図8】実施例5~9の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図9】実施例10~14の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図10】実施例11の人工皮革の表面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図11】実施例11の人工皮革の裏面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図12】実施例11の人工皮革の断面全体、及び表面付近の断面についての電子顕微鏡観察(前者は倍率50倍、後者は倍率200倍)のプロファイルである。
図13】実施例11の人工皮革の中央付近の断面、及び裏面付近の断面についての電子顕微鏡観察(倍率200倍)のプロファイルである。
図14】実施例14の人工皮革の表面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図15】実施例14の人工皮革の裏面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍及び200倍)のプロファイルである。
図16】実施例14の人工皮革の断面全体、及び表面付近の断面についての電子顕微鏡観察(前者は倍率50倍、後者は倍率200倍)のプロファイルである。
図17】実施例14の人工皮革の中央付近の断面、及び裏面付近の断面についての電子顕微鏡観察(倍率200倍)のプロファイルである。
図18】実施例15~17の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図19】実施例15~17の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(実施例15は倍率50倍、実施例16は倍率30倍、実施例17は倍率30倍)のプロファイルである。
図20】実施例18~20の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図21】実施例18~20の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(実施例18は倍率50倍、実施例19は倍率30倍、実施例20は倍率30倍)のプロファイルである。
図22】実施例21~23の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図23】実施例21~23の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍)のプロファイルである。
図24】実施例21~23の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率100倍)のプロファイルである。
図25】実施例24~26の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図26】実施例24~26の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍)のプロファイルである。
図27】実施例24~26の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率100倍)のプロファイルである。
図28】実施例27~32の人工皮革についての引張試験のプロファイルである。
図29】実施例27~32の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率50倍)のプロファイルである。
図30】実施例27、30、及び31の人工皮革の断面についての電子顕微鏡観察(倍率200倍)のプロファイルである。
図31】実施例27~32の人工皮革の断面の構造に関する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
1.人工皮革
本実施形態において、人工皮革とは、天然皮革に代替することを目的とする材料であって、触感が天然皮革に近いものであり、基材として不織布を用いるものを意味する。また、人工皮革は、好ましくは伸び率(%)が長さ方向および幅方向ともに1.5%以上であり、かつ伸長回復率が長さ方向及び幅方向ともに80%以上である。
【0013】
本実施形態の人工皮革は、バガス繊維を含み、また、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。以下、人工皮革を構成する各成分について詳説する。
【0014】
1.1.バガス繊維
本実施形態において、バガス繊維の原料となるバガスとは、サトウキビ搾汁後の残渣であり、典型的には製糖工場におけるサトウキビを原料とした製糖過程で排出されるリグノセルロース系バイオマスを意味する。なお、製糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む第2圧搾機以降の圧搾機に食い込まれた細裂も含まれる。圧搾工程より排出されるバガスは、サトウキビの種類、収穫時期等により、サトウキビに含まれる水分、糖分、といった各成分及びその組成比が異なるが、本実施形態の人工皮革においては、主要成分であるリグノセルロースから構成されるサトウキビ茎部を主に用いるため、サトウキビの種類や収穫時期等によらず、バガス全般を任意に用いることができる。そのため、バガスは、黒糖工場において排出されるサトウキビ圧搾後に残るバガスであってもよい。また、実験室レベルの小規模な実施では、サトウキビから糖液を圧搾した後のバガスを用いてもよい。
【0015】
本実施形態において、バガス繊維とは、バガスからリグニン成分を除去した後に得られる不織布であり、解繊処理を行う前の繊維、及び解繊処理を経て得られる繊維の両方を含む概念を意味する。
【0016】
1.1.1.長い繊維
本実施形態のバガス繊維は、長い繊維を含んでいてもよい。本実施形態において、長い繊維とは、以下の工程1及び2により得られる繊維を意味し、繊維長さが20mm以上である繊維を含む。
<工程1>
バガスに対して、強アルカリ性水溶液を添加して混合して加熱攪拌を行った後、酸性溶液により中和する。
<工程2>
上記工程1を経たバガス繊維を、水に浸漬させ、マグネットスターラー付きオイルバスにて、12時間以上かけて解繊処理を行う。
【0017】
1.1.2.短い繊維A
本実施形態のバガス繊維は、短い繊維Aを含んでいてもよい。本実施形態において、短い繊維Aとは、以下の工程1及び2により得られる繊維であり、繊維長さが13mm未満である繊維を含む。
<工程1>
バガスに対して、強アルカリ性水溶液を添加して混合して加熱攪拌を行った後、酸性溶液により中和する。
<工程2>
上記工程1を経たバガス繊維を、水に浸漬させ、粉砕機に1分間以上かけて解繊処理を行う。
【0018】
バガス繊維が、長い繊維と短い繊維Aとを含む場合、短い繊維Aの含有量は、長い繊維1.0質量部に対して、好ましくは0.3~6.0質量部であり、より好ましくは0.5~5.0質量部であり、さらにより好ましくは1.0~4.0質量部であり、よりさらに好ましくは1.0~3.0質量部である。短い繊維Aの含有量が、バガス繊維1.0質量部に対して、0.3質量部以上であることにより、応力(MPa)及び伸び率(%)に優れる傾向にあり、樹脂の含有量が、バガス繊維1.0質量部に対して、6.0質量部以下であることにより、応力(MPa)に優れる傾向にある。
【0019】
1.1.3.短い繊維B
本実施形態のバガス繊維は、短い繊維Bを含んでいてもよい。本実施形態において、短い繊維Bとは、以下の工程1及び2により得られる繊維であり、繊維長さが13mm未満である繊維を含む。
<工程1>
バガスに対して、強アルカリ性水溶液を添加して混合して加熱攪拌を行った後、酸性溶液により中和する。
<工程2>
上記工程1を経たバガス繊維を、水に浸漬させ、粉砕機に1分間以上かけて解繊処理を行う。その後、解繊した繊維が均一化する目的で、マグネットスターラー付きオイルバスにて、12時間以上かけて解繊処理を行う。
【0020】
1.2.樹脂
本実施形態の人工皮革は、バインダーとして樹脂を含んでいてもよい。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂(アクリル酸エステル共重合樹脂等)、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂(スチレン-アクリル共重合樹脂等)等が挙げられ、その中でも、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及び(メタ)アクリル系樹脂の少なくともいずれかが好ましい。また、樹脂の使用態様としては、特に限定されないが、例えば、エマルジョン型、溶液型、粉末型等が挙げられるが、エマルジョン型を用いることが好ましい。それらの樹脂は、1種単独でも用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。
【0021】
本実施形態における樹脂は、二酸化炭素による地球温暖化、及び化石資源の枯渇防止の観点からは、バイオ原料由来の樹脂を用いることが好ましい。バイオ原料由来の樹脂としては、特に限定されないが、例えば、上述の樹脂の原料をバイオ原料にしたもの等が挙げられる。なお、本実施形態において、バイオ原料由来の樹脂とは、少なくとも1重量%以上のバイオ原料由来のモノマーを用いて製造された樹脂を意味する。
【0022】
ポリウレタン系樹脂としては、合成皮革等の表皮層に用いられ得るものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂に対してポリ塩化ビニル系樹脂や合成ゴム等を混合して用いてもよい。
【0023】
また、バイオ原料由来のポリウレタン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、従来公知の方法を用いて、植物資源を含む生物由来の資源(バイオマス)から微生物発酵を利用して1,4-ブタンジオール等のジオールを生産・回収した上で、当該ジオールをポリウレタンの合成用のモノマーとして用いて製造されたもの等が挙げられる。
【0024】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、合成皮革等の表皮層に用いられ得るものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等を使用することができる。上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0025】
また、バイオ原料由来のポリ塩化ビニル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、従来公知の方法を用いて、植物資源を含む生物由来の資源(バイオマス)をガス化して合成ガスを生成し、この合成ガスをエタノールに変換することにより、バイオエタノールを得た上で、当該バイオエタノールを脱水処理して得られたバイオエチレンを合成用のモノマーとして用いて製造されたもの等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体をモノマーとする重合体、又は(メタ)アクリル酸誘導体と、(メタ)アクリル酸誘導体と共重合可能なその他のモノマーと、の共重合体であってもよい。
【0027】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸誘導体と重合可能なその他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物、アクリルアミド類、複素環式ビニル化合物、ビニル化合物、及びα-オレフィン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、及びp-メチルスチレン等が挙げられる。アクリルアミド類としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、及びダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。複素環式ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビニルピロリドン等が挙げられる。ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、及びビニルアミド等のビニル化合物が挙げられる。α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0029】
また、バイオ原料由来の(メタ)アクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、バイオディーゼル燃料製造時に副生するグリセリンから、触媒あるいは超臨界水を用いた脱水反応によりアクロレインを製造した後、当該アクロレインを従来公知のプロピレン法における反応触媒により酸化して得られるアクリル酸を合成用のモノマーとして用いて製造されたもの等が挙げられる。
【0030】
樹脂の含有量としては、バガス繊維1.0質量部に対して、好ましくは1.0~20質量部であることが好ましく、より好ましくは2~16質量部であり、さらにより好ましくは3.0~12質量部であり、よりさらに好ましくは3.0~9.0質量部である。樹脂の含有量が、バガス繊維1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることにより、応力(MPa)及び伸び率(%)に優れる傾向にあり、樹脂の含有量が、バガス繊維1.0質量部に対して、20質量部以下であることにより、応力(MPa)に優れる傾向にある。
【0031】
1.3.発泡剤
本実施形態の人工皮革は、発泡剤を含んでいてもよい。そのような発泡剤としては、特に限定されないが、無機系発泡剤及び有機系発泡剤が挙げられる。本実施形態の人工皮革が、発泡剤を含むことにより、応力(MPa)が小さく柔らかい人工皮革を得ることができる傾向にある。
【0032】
無機系発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、カルシウムアジド等が挙げられる。
【0033】
有機系発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、N,N′-ジニトロペンタメチレンテトラミン、p,p′-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。
【0034】
1.4.フェルト
本実施形態の人工皮革は、基材としてフェルトを含んでいてもよい。フェルトとは、主に動物繊維を圧縮してシート状にした不織布を意味する。フェルトに用いられる動物繊維としては、特に限定されないが、例えば、絹・羊毛・アルパカ・アンゴラ・カシミヤ・モヘア等が挙げられる。フェルトとしては特に限定されないが、例えば、市販のものを用いることができる。
【0035】
フェルトを用いることにより、本実施形態の人工皮革の伸び率(%)及び応力(MPa)を向上させることができる傾向にある。
【0036】
1.5.その他の成分
本実施形態の人工皮革は、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、上記樹脂以外の樹脂、オイル、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機または有機の充填剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤等が挙げられる。
【0037】
1.6.層構造
本実施形態の人工皮革は、2層以上の層を有する多層構造を有していてもよい。そのような多層構造としては、特に限定されないが、例えば、バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、上記バガス繊維層と上記樹脂層とが積層されたもの等が挙げられる。その中でも、応力(MPa)及び伸び率(%)のバランスに優れる観点からは、バガス繊維層と樹脂層を交互に積層させて合計3層以上としたものが好ましく、合計4層以上としたものがより好ましい。なお、バガス繊維を主成分とするバガス繊維層とは、バガス繊維を少なくとも80%以上、好ましくは90%以上含む層を意味する。樹脂を主成分とする樹脂層についても同様である。
【0038】
また、本実施形態の人工皮革がバガス繊維層と樹脂層を交互に積層させて合計3層以上を有する場合、該バガス繊維層はそれぞれ、少なくとも1層の長い繊維を含む層と、少なくとも1層の短い繊維を含む層を有することが好ましい。
【0039】
上記多層構造を有する人工皮革の製造方法については、特に限定されないが、例えば、本実施形態の製造方法が、後述する混合工程を有していれば、その後の成型工程においてバガス繊維と樹脂との層分離が起こるため、上記成型工程を行うことにより、少なくとも2層を有する人工皮革を得ることができる。また、3層以上の層を有する多層構造の人工皮革を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、後述するように、成型工程を経て得られた人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに、本実施形態の人工皮革を形成する工程である積層工程を行うことにより得ることができる。
【0040】
加えて、本実施形態の人工皮革は、バガス繊維層と樹脂層が相互に均一に混ざり合った混合層を有することがさらに好ましい。該混合層の厚みが人工皮革の厚みに対して占める割合は、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは35%以上である。
【0041】
上記混合層を有する人工皮革の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、後述するように、成型工程を経て得られた人工皮革に対して、後述する圧延工程を行うことにより得ることができる。
【0042】
2.人工皮革の製造方法
本実施形態の人工皮革の製造方法は、バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、上記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合する混合工程と、上記バガス繊維を解繊する解繊処理工程と、上記解繊処理済みのバガス繊維を乾燥させて成型する成型工程を有する。なお、本実施形態において、アルカリ処理とは、強アルカリ性水溶液を添加してリグニン成分の除去を行うことを意味する。
【0043】
2.1.脱リグニン処理工程
脱リグニン工程は、バガスに対してアルカリ処理を行い、バガスからリグニン成分を除去し、バガス繊維を得る工程である。
【0044】
強アルカリ性水溶液としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることができる。また、バガス繊維を強アルカリ性水溶液で処理した後、酸性溶液を加えて中和することが好ましい。
【0045】
2.2.混合工程
本実施形態の人工皮革の製造方法は、バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合する混合工程を有していてもよい。上記混合は、従来公知の方法により行うことができ、特に限定されないが、例えば、混合用の容器に各成分を入れ、混合攪拌すること等が挙げられる。上記混合工程は、脱リグニン処理工程の後かつ解繊処理工程の前に行ってもよく、解繊処理工程の後かつ成型工程の前に行ってもよい。
【0046】
2.3.解繊処理工程
解繊処理工程は、少なくとも上記脱リグニン処理工程を経たバガス繊維に対して物理的刺激を加えることにより、バガス繊維を解繊する工程である。上記物理的刺激としては、特に限定されないが、例えば、粉砕機による粉砕や、スターラー等を用いた攪拌、等が挙げられる。
【0047】
2.3.1.長い繊維を抽出するための解繊処理工程
長い繊維を得る観点からは、比較的強度の弱い物理的刺激を与えることが好ましく、スターラー等による攪拌を用いることが好ましい。攪拌においては、従来公知のスターラー等を用いることができ、その回転数としては、好ましくは100rpm以上1500rpm以下であり、より好ましくは300rpm以上1200rpm以下であり、さらに好ましくは500rpm以上1000rpm以下である。それにより、繊維長が物理的刺激により比較的切断されることがなく、長い繊維を得ることができる傾向にある。
【0048】
また、攪拌時間としては、好ましくは8時間以上20時間以下であり、より好ましくは10時間以上18時間以下であり、さらに好ましくは12時間以上16時間以下である。攪拌時間が6時間以上であることにより解繊された繊維を得やすい傾向にある。また、攪拌時間が20時間以下であることにより、繊維長が短くなりすぎることを防止することができる傾向にある。
【0049】
2.3.2.短い繊維A又は短い繊維Bを抽出するための解繊処理工程
短い繊維A又は短い繊維Bを得る観点からは、比較的強度の高い物理的刺激を与えることが好ましく、粉砕機による粉砕を用いることが好ましい。粉砕においては、従来公知の粉砕機を用いることができ、粉砕時の回転数としては、好ましくは回転数14,000rpm以上26,000rpm以下であり、より好ましくは回転数16,000rpm以上24,000rpm以下であり、さらに好ましくは回転数18,000rpm以上22,000rpm以下である。回転数10,000rpm以上であることにより、繊維長が短い繊維を得ることができる傾向にあり、回転数26,000rpm以下であることにより、繊維長が短くなりすぎることを防止することができる傾向にある。
【0050】
また、粉砕時間としては、好ましくは30秒以上10分以下であり、より好ましくは1分以上5分以下であり、さらに好ましくは3分以上4分以下である。粉砕時間が30秒以上であることにより繊維長が短い繊維を得ることができる傾向にある。粉砕時間が10分以下であることにより、繊維長が短くなりすぎることを防止することができる傾向にある。
【0051】
さらに、上記粉砕機による粉砕と、スターラー等を用いた攪拌と、を組み合わせて解繊処理を行うことが好ましい。その際のスターラー等を用いた攪拌条件としては上述の長い繊維を抽出するための条件と同様の条件を用いることができる。
【0052】
2.4.成型工程
成型工程は、上記解繊処理済みのバガス繊維を乾燥させて成型する工程である。具体的には、特に限定されないが、例えば、篩を用いて紙すきと同様の操作(以下、単に紙すき、ともいう。)により不要な液体成分を分離した後に、乾燥機を用いて乾燥させること等が挙げられる。
【0053】
紙すきに用いる篩の目開きとしては、好ましくは200~380μmであり、より好ましくは230~350μmであり、さらに好ましくは260~320μmである。目開きが200μm以上であることにより、不要な液体成分を効率よく除去することができ、目開きが380μm以下であることにより、バガス繊維が篩を通過して収率が下がること等を防止することができる傾向にある。
【0054】
乾燥温度としては、好ましくは25~55℃であり、より好ましくは30~50℃であり、さらに好ましくは35~45℃である。乾燥温度が25℃以上であることにより、不要な液体成分を効率よく蒸発させて除去することができ、乾燥温度が55℃以下であることにより、バガス繊維の熱による変性等を防止することができる傾向にある。
【0055】
2.5.積層工程
積層工程とは、上記成型工程を経て得られた人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに、本実施形態の人工皮革を形成する工程である。なお、人工皮革は合計で3層以上形成してもよい。
【0056】
それぞれの層を形成する人工皮革は、それぞれ互いに、樹脂の割合、並びに、バガス繊維中の、長い繊維の割合、短い繊維Aの割合、及び短い繊維Bの割合、等において同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0057】
2.6.圧延工程
圧延工程は、上記成型工程を経て得られた人工皮革、又は上記積層工程を経て得られた人工皮革に対して、圧延機を用いて圧延する工程をいう。
【0058】
圧延率としては、好ましくは30~65%であり、より好ましくは40~60%であり、さらに好ましくは45~50%である。圧延率が30%以上であることにより、応力(MPa)が向上する傾向にあり、圧延率が65%以下であることにより、破断することなく伸び率(%)に優れる傾向にある。
【0059】
2.7.その他の工程
本実施形態の人工皮革の製造方法は、必要に応じてその他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、特に限定されないが、例えば、起毛処理工程、帯電防止機能付与工程、染色工程、穴開け加工処理工程、エンボス加工工程、レーザー加工工程、ピンソニック加工工程、及びプリント加工工程等が挙げられる。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
また、以下の実施例において、バガス繊維の重量(g)は、脱リグニン処理を行う前の乾燥時のバガス繊維の重量を意味する。
【0062】
1.バガス繊維を含む人工繊維
[実施例1]
本実験においては、沖縄県内で収穫したサトウキビを搾汁した後の残渣(ゆがふ製糖株式会社製)をバガスとして用いた。
【0063】
(脱リグニン処理)
上記のバガス20gに対して、イオン交換水600gに水酸化ナトリウム24gを溶解させた3.8%水酸化ナトリウム水溶液を添加して混合した後、理工産業株式会社製のスターラー付きオイルバスMH-10E・R150HBS型(以下、単にオイルバス、ともいう。)を100℃に設定して45分間反応させた。上記反応後、約40℃の温水に浸漬させて洗浄した後、イオン交換水600gと過酸化水素60gからなる9.1%過酸化水素水溶液を添加して混合し、オイルバスを100℃に設定して45分間反応させた。上記反応後、90~100℃の温水に浸漬させて繊維を洗浄することにより、バガス繊維を得た。
【0064】
(樹脂の混合、解繊処理)
上記の脱リグニン処理を行ったバガス繊維20gとDIC株式会社製ボンコート400-E(以下、単にアクリルゴム、ともいう。)4gとを混合し、30秒間、大阪ケミカル株式会社のラボ用ポータブル粉砕機OML-2型(以下、単にミキサー、ともいう。)を用いて解繊した。
【0065】
(人工皮革の成型)
その後、水を入れた容器(幅:37cm、奥行き:25cm、高さ:11.4cm;以下の実施例においても同様のものを用いた。)に流し込み、篩(IIDA MANNUFACTURING CO.のIIDA TESTING SIEVE APERTURE425μm,WIRE DIA 294μm;以下、単に篩、ともいう。)を用いて紙すきの要領で5回バガス繊維を掬い、アズワン株式会社製の定温乾燥機OFW-450B(以下、単に乾燥機、ともいう。)を用いて40℃で48時間、乾燥させることにより実施例1に相当する人工皮革を作製した。
【0066】
2.発泡剤を使用した人工皮革
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じバガスについて、実施例1と同様の脱リグニン処理を行った。
【0067】
続いて、脱リグニン処理後のバガス繊維6gに、ウレタン4g、発泡剤2gを加えて混合し、1分間、ミキサーを用いて解繊した。その後は、実施例1と同様の操作により、実施例2に相当する人工皮革を作製した。
【0068】
[参考例]
また、参考例として、パイナップルレザー(フロムファーイースト社製)を準備した。
【0069】
3.フェルトを使用した人工皮革
[実施例3、4]
実施例1で用いたものと同じバガスを用意した。
【0070】
(脱リグニン処理)
上記バガスに対して実施例1と同様の脱リグニン処理を行った。
【0071】
(解繊処理)
上記脱リグニン処理を行ったバガス繊維を1分間ミキサーにかけて解繊した。
【0072】
(樹脂の混合、人工皮革の成型)
上記にて解繊したバガス繊維3gとボンコート9gを混合し、その上からフェルト(大創産業社製)を浸漬後、乾燥機にて60℃で24時間乾燥させた。乾燥後、上記バガス繊維と上記フェルトとを接着させるために、熱プレス機にて130℃で、5MPaにより5分間プレスすることにより、実施例3に相当する人工皮革を作製した。
【0073】
実施例3の操作においてフェルトを用いなかったこと以外は同様の操作により、実施例4に相当する人工皮革を作製した。
【0074】
4.バガス繊維と樹脂とを含む人工皮革
[実施例5~14]
実施例1で用いたものと同じバガスを用意した。
【0075】
(脱リグニン処理)
上記バガスに対して実施例1と同様の脱リグニン処理を行った。
【0076】
(解繊処理)
上記の脱リグニン処理を行ったバガス繊維を1分間ミキサーにかけて解繊処理Aを行った。そのように得られたバガス繊維を以下「短い繊維A」と称する。
【0077】
(樹脂の混合、人工皮革の成型)
上記により解繊処理を行った短い繊維Aに対して、以下の混合比となるようにアクリルゴムを加えて、薬さじを用いて空気が入らないように混合した後、乾燥機にて60℃で48時間乾燥させた。乾燥後、熱プレス機にて130℃で、5Mpaにより5分間プレスすることにより、人工皮革を作製した。混合比については、バガス繊維:アクリルゴムがそれぞれ、1:4、1:6、1:8、1:10、1:12、の比率になるように実施例5~9に相当する人工皮革を作製した。
【0078】
実施例5~9と同様の脱リグニン処理、を行ったバガス繊維を1分間、ミキサーにかける代わりに、水に浸漬させ、アズワン株式会社製のVOLTEGAパワースターラーVPS-15OS3(以下、単にマグネットスターラー、ともいう。)にて、12時間かけて解繊処理を行った。そのように得られたバガス繊維を以下、「長い繊維」と称する。
【0079】
(樹脂の混合、人工皮革の成型)
上記にて得られた短い繊維Aと長い繊維を、短い繊維Aと長い繊維の比率が、それぞれ、短い繊維A:長い繊維=1:0、1:1、1:2、1:3、1:4の比率になるように混合した。そのそれぞれの混合繊維3gに対してアクリルゴム24gを加え、薬さじを用いて空気が入らないように混合した後、乾燥機にて60℃で、48時間乾燥させた。乾燥後,熱プレス機にて130℃で、5Mpaで5分間プレスすることにより、短い繊維A:長い繊維が、1:0、1:1、1:2、1:3、1:4、にそれぞれ対応する実施例10~14に相当する人工皮革を作製した。
【0080】
5.バガス繊維層と樹脂層とが積層した人工皮革
[実施例15~20]
実施例1で用いたものと同じバガスを用意した。
【0081】
(脱リグニン処理)
上記バガスに対して実施例1と同様の脱リグニン処理を行った。
【0082】
上記脱リグニン処理を行ったバガス繊維を、水に浸漬させた後、1分間、上記マグネットスターラーにて、12時間かけて解繊処理を行った。そのように得られたバガス繊維を以下、「長い繊維」と称する。
【0083】
(解繊処理)
脱リグニン処理を行った上記バガス繊維を、水に浸漬させた後、粉砕機に3分間かけて解繊を行った。その後、解繊した繊維が均一化する目的で、解繊した繊維をマグネットスターラーにて12時間かけて撹拌した。そのように得られたバガス繊維を以下「短い繊維B」と称する。
【0084】
(樹脂の混合、人工皮革の成型)
上記にて解繊した長い繊維6gとボンコート6gとを、薬さじを用いて空気が入らないように混合し、トレーに移した後、上述の乾燥機にて60℃で、48時間乾燥させて実施例15を作製した。
【0085】
長い繊維を短い繊維Bに変更したこと以外は同様の操作により、実施例16に相当する人工皮革を得た。
【0086】
(樹脂の混合、人工皮革の成型)
上記により得られた短い繊維B3gとボンコート3gとを薬さじを用いて空気が入らないように混合し、トレーに移した後、上述の乾燥機にて60℃で、12時間乾燥させて乾燥物を得た。続いて、長い繊維3gとボンコート3gとを薬さじを用いて空気が入らないように混合し、上記乾燥物の表面に塗布した。その後、乾燥機にて60℃で、48時間乾燥させて実施例17に相当する人工皮革を得た。
【0087】
ボンコートの量を12gにしたこと以外は実施例15と同様の操作により、実施例18に相当する人工皮革を得た。
【0088】
ボンコートの量を12gにしたこと以外は実施例16と同様の操作により、実施例19に相当する人工皮革を得た。
【0089】
ボンコートの量をそれぞれ6g(合計12g)にしたこと以外は実施例17と同様の操作により、実施例20に相当する人工皮革を得た。
【0090】
6.バガス繊維層と樹脂層とが積層した人工皮革
[実施例21~26]
実施例1で用いたものと同じバガスを用意した。
【0091】
(脱リグニン処理)
上記バガスに対して実施例1と同様の脱リグニン処理を行った。
【0092】
(解繊処理)
まず、上記実施例15において「長い繊維」を作製した場合と同様の操作により、「長い繊維」を作製した。
【0093】
また、上記実施例16において「短い繊維B」を作製した場合と同様の操作により、「短い繊維B」を作製した。
【0094】
(樹脂の混合、人工皮革の成型、圧延)
上記により得られた短い繊維B3gとボンコート3gとを薬さじを用いて空気が入らないように混合して一次混合物を得た後、トレーに移した後、乾燥機にて60℃で、12時間、乾燥させて一次乾燥物を得た。続いて、短い繊維B3gとボンコート3gとを薬さじを用いて空気が入らないように混合して二次混合物を得た後、上記乾燥物の表面に塗布した。その後、上述の乾燥機にて60℃で、48時間乾燥させて二次乾燥物を得た。上記二次乾燥物に対してVevor社の122mm manual rolling mill(以下、単に圧延機、とも称する。)を用いて厚みを調整して実施例21に相当する人工皮革を得た。
【0095】
上記一次混合物を得る際、及び第二次混合物を得る際に、短い繊維Bを長い繊維に変更したこと以外は実施例21と同様の操作により実施例22に相当する人工皮革を得た。
【0096】
上記二次混合物を得る際に短い繊維Bを長い繊維に変更したこと以外は実施例21と同様の操作により実施例23に相当する人工皮革を得た。
【0097】
上記一次混合物を得る際、及び第二次混合物を得る際にボンコートの量を6g(合計12g)に変更したこと以外は実施例21と同様の操作により実施例24に相当する人工皮革を得た。
【0098】
上記一次混合物を得る際、及び第二次混合物を得る際にボンコートの量を6g(合計12g)に変更したこと以外は実施例22と同様の操作により実施例25に相当する人工皮革を得た。
【0099】
上記一次混合物を得る際、及び第二次混合物を得る際にボンコートの量を6g(合計12g)に変更したこと以外は実施例23と同様の操作により実施例26に相当する人工皮革を得た。
【0100】
7.圧延によるバガス人工皮革の機械的性質への影響
[実施例27~32]
まず、実施例23と同様の操作により、二次乾燥物を作製した。
【0101】
(圧延)
上記二次乾燥物を圧延機により圧延する際に、それぞれ圧延率を、0%、9.86%、31.40%、49.36%、61.76%、及び73.53%として圧延を行い、そのそれぞれに対応する実施例27~32に相当する人工皮革を得た。
【0102】
8.評価試験
8.1.引張試験
上記にて得られた実施例1~32の人工皮革を10mm×70mm(試験片の大きさ)にカットし、試験機として株式会社島津製作所のEZ-SXを用いて以下の測定条件の下で、引張試験を行い、当該試験片の試験応力(MPa)、及び伸び率(%)を測定した。なお、試験間距離は50mmで測定を行った。得られた結果をそれぞれ、図1、3、8、9、18、20、22、25、及び28に示す。また、実施例15~17については表1に、実施例18~20については表2に、実施例21~23については表3に、実施例24~26については表4に、及び実施例27~32については表5に、得られた機械的物性をそれぞれ示す。
<測定条件>
荷重容量:2.5kN
引張り速度:0.5~1000mm/min
クロスヘッド最大移動量:1000mm
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
8.2.電子顕微鏡観察
また、実施例1~32に対して日立ハイテクノロジー社製のSEM-EDX(Miniscope TM3030)を用いて電子顕微鏡観察を行い、人工皮革の断面図を観察した。得られた結果をそれぞれ、図2、4、5、6、7、10~17、19、21、23、24、26、27、29、及び30に示す。加えて、図31において、本発明者が想定する実施例27~32の人工皮革の断面の構造に関する概略図を示すが、本発明は上記概略図によって何ら限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
【手続補正書】
【提出日】2023-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維のバガス繊維を含み、
前記バガス繊維が、繊維長さが20mm以上である繊維1と、繊維長さが13mm未満である繊維2と、を含み、
前記繊維2の含有量が、前記繊維1の含有量1.0質量部に対して、0.3~6.0質量部である、
人工皮革。
【請求項2】
樹脂をさらに含む、
請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
発泡剤をさらに含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項4】
基材としてフェルトを含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、
前記樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、
前記バガス繊維層と前記樹脂層とが積層した、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項6】
前記バガス繊維と前記樹脂との混合層をさらに備える、
請求項5に記載の人工皮革。
【請求項7】
バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、
前記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合して混合物を得る混合工程と、
前記バガス繊維を解繊して単繊維のバガス繊維を得る解繊処理工程と、
前記混合物を乾燥させて成型する成型工程を有し、
前記解繊処理工程は、前記バガス繊維の一部を解繊して繊維長さが20mm以上である繊維1を得る解繊処理工程1と、前記バガス繊維の残部を解繊して繊維長さが13mm未満である繊維2を得る解繊処理工程2と、を含む、
人工皮革の製造方法。
【請求項8】
少なくとも一部の前記バガス繊維に対する前記解繊処理が、攪拌を12時間以上行うものである、
請求項に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに人工皮革を形成する積層工程を有する、
人工皮革の製造方法。
【請求項10】
圧延工程をさらに備える、
請求項のいずれか一項に記載の人工皮革の製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維のバガス繊維を含み、
前記バガス繊維が、繊維長さが20mm以上である繊維1を含む長い繊維と、繊維長さが13mm未満である繊維2を含む短い繊維Aと、を含み、前記短い繊維Aの含有量が、前記長い繊維の含有量1.0質量部に対して、0.3~6.0質量部である、
人工皮革。
【請求項2】
樹脂をさらに含む、
請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
発泡剤をさらに含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項4】
基材としてフェルトを含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、
前記樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、
前記バガス繊維層と前記樹脂層とが積層した、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項6】
前記バガス繊維と前記樹脂との混合層をさらに備える、
請求項5に記載の人工皮革。
【請求項7】
バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、
前記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合して混合物を得る混合工程と、
前記バガス繊維を解繊して単繊維のバガス繊維を得る解繊処理工程と、
前記混合物を乾燥させて成型する成型工程を有し、
前記解繊処理工程は、前記バガス繊維の一部を解繊して繊維長さが20mm以上である繊維1を得る解繊処理工程1と、前記バガス繊維の残部を解繊して繊維長さが13mm未満である繊維2を得る解繊処理工程2と、を含む、
人工皮革の製造方法。
【請求項8】
少なくとも一部の前記バガス繊維に対する前記解繊処理が、攪拌を12時間以上行うものである、
請求項7に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに人工皮革を形成する積層工程を有する、
人工皮革の製造方法。
【請求項10】
圧延工程をさらに備える、
請求項7~9のいずれか一項に記載の人工皮革の製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維のバガス繊維を含み、
前記バガス繊維が、繊維長さが20mm以上である繊維1を含む長い繊維と、繊維長さが13mm未満である繊維2を含む短い繊維Aと、を含み、前記短い繊維Aの含有量が、前記長い繊維の含有量1.0質量部に対して、0.3~6.0質量部であり、
前記長い繊維は、水中攪拌により解繊された単繊維であり、
前記短い繊維Aは、水中粉砕により解繊された単繊維である、
人工皮革。
【請求項2】
樹脂をさらに含む、
請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
発泡剤をさらに含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項4】
基材としてフェルトを含む、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記バガス繊維を主成分とするバガス繊維層と、
前記樹脂を主成分とする樹脂層と、を有し、
前記バガス繊維層と前記樹脂層とが積層した、
請求項2に記載の人工皮革。
【請求項6】
前記バガス繊維と前記樹脂との混合層をさらに備える、
請求項5に記載の人工皮革。
【請求項7】
バガスに対してアルカリ処理を行い、バガス繊維を得る脱リグニン処理工程と、
前記バガス繊維と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を混合して混合物を得る混合工程と、
前記バガス繊維を解繊して単繊維のバガス繊維を得る解繊処理工程と、
前記混合物を乾燥させて成型する成型工程を有し、
前記解繊処理工程は、前記バガス繊維の一部を解繊して繊維長さが20mm以上である繊維1を得る解繊処理工程1と、前記バガス繊維の残部を解繊して繊維長さが13mm未満である繊維2を得る解繊処理工程2と、を含む、
人工皮革の製造方法。
【請求項8】
少なくとも一部の前記バガス繊維に対する前記解繊処理が、攪拌を12時間以上行うものである、
請求項7に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の人工皮革の少なくとも一方の面に、さらに人工皮革を形成する積層工程を有する、
人工皮革の製造方法。
【請求項10】
圧延工程をさらに備える、
請求項7~9のいずれか一項に記載の人工皮革の製造方法。