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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053696
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】高周波加熱方法及び高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/40 20060101AFI20240409BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20240409BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H05B6/40
C21D9/32 A
C21D9/32 B
C21D1/10 A
C21D1/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160075
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】506138786
【氏名又は名称】鳥取県金属熱処理協業組合
(71)【出願人】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】生田 智章
(72)【発明者】
【氏名】福江 智輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 賢吾
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB19
3K059AB27
3K059AB28
3K059AC33
3K059AD01
3K059CD52
3K059CD72
4K042AA18
4K042BA01
4K042BA03
4K042CA15
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC05
4K042DF02
4K042EA01
4K042EA03
(57)【要約】
【課題】 凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体の凸部周面温度を凹部周面温度より高く保持できる高周波誘導加熱方法及び高周波誘導加熱装置を提案する。
【解決手段】 凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体10を該複雑形状円筒体10の凸部12周面に中空円筒状収容体23の内周面が当接または離間した態様で嵌装して、複雑形状円筒体10の凸部12周面に配設した環状加熱コイル23で高周波誘導加熱する方法と装置である。複雑形状円筒体10を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体23に複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接して嵌装して高周波誘導加熱して、複雑形状円筒体10の凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持した状態で熱処理する。中空円筒状収容体23を構成する磁束密度制御部材22は構成する非磁性導体または強磁性導体のいずれかである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体を該複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱する高周波誘導加熱方法であって、
前記複雑形状円筒体を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体に前記複雑形状円筒体の凹部周面に前記中空円筒状収容体の内周面が当接または離間した態様で嵌装して、前記複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱して、前記複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【請求項2】
前記凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体は、円筒鋼を成形加工したものであることを特徴とする請求項1に記載する高周波誘導加熱方法。
【請求項3】
前記磁束密度制御部材は、非磁性導体または強磁性導体のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載した高周波誘導加熱方法。
【請求項4】
凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体を該複雑形状円筒体の凸部周面に配設した加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱する高周波誘導加熱装置であって、前記複雑形状円筒体は凹部周面を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体の内周面に当接または離間した態様で嵌装されていることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
前記磁束密度制御部材は、非磁性導体または強磁性導体のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載した高周波誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複雑薄肉形状部品の高周波誘導加熱処理法による熱処理方法及び高周波誘導加熱処理を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車等の動力伝達部材では必要とされる機械的強度等を付与するために熱処理(焼入硬化処理)が施される。この焼入硬化処理としては、歯車等の動力伝達部材の表面に炭素を拡散して浸透させる浸炭焼き入れ処理が一般的に行われている。しか しながら、浸炭焼き入れ処理は、加熱炉内で部材を高温雰囲気下で行う熱処理であり、エネルギー効率が低いという問題がある。一方、誘導加熱(高周波誘導加熱 )による部材の熱処理(高周波焼入れ)は、部材を直接加熱することができるため、エネルギー効率が高い。このため、環境負荷の観点から浸炭焼入れ処理から高周波焼入れ処理に転換が進んでいる。
【0003】
特許文献1には、転がり軸受の軌道輪などの鋼製リング状部材を同軸的に複数保持したリング部材を温度制御して高周波誘導加熱する熱処理方法が開示されている。
ところで、炭素鋼からなる歯車をその外周に沿って配設した加熱コイルにより高周波加熱を行った場合には、エッジ効果のため歯底(エッジ部)が加熱され、オーステナイト結晶の粗大化により衝撃強度の低下が生じるという問題がある。このため、特許文献2には、歯車の上下に電磁波吸収部材を配設して高周波誘導加熱を行うことにより、歯底(エッジ部)付近の電磁束密度を低減して、歯底(エッジ部)の温度を低減する方法が開示されている。
また、特許文献3には、被加熱物の加熱したくない箇所や過加熱を防止する箇所の外周面に対応する位置に、高周波による磁束と逆向きの磁束を発生させる渦電流が流れるように非鉄金属からなるリングを巻装する方法が開示されている。
【0004】
凹凸周面からなる円盤、例えば歯車では、凸部を選択的に焼入れすることが求められる。しかしながら、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の被加熱部材を凸部周面に配設した加熱コイルによる高周波加熱において、凸部周面温度を凹部周面温度よりも高く保持する加熱方法については、特許文献1から3のいずれにも開示されていない。また、凸部周面温度を凹部周面温度よりも高く保持できる凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の被加熱部材の適切な形態についても開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015- 67882号公報
【特許文献2】特開平8 -295925号公報
【特許文献3】特開2002-343550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体を凸部周面に配設した加熱コイルによる高周波加熱において、凸部周面温度を凹部周面温度よりも高く保持する高周波誘導加熱方法及び高周波誘導加熱装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の課題は、以下の態様(1)乃至(5)により解決できる。具体的には、
【0008】
(態様1) 凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体を該複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱する高周波誘導加熱方法であって、前記複雑形状円筒体を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体に前記複雑形状円筒体の凹部周面に前記中空円筒状収容体の内周面が当接または離間した態様で嵌装して、前記複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱して、前記複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することを特徴とする高周波誘導加熱方法である。
複雑形状円筒体を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体に複雑形状円筒体の凹部周面に前記中空円筒状収容体の内周面が当接または離間した態様で嵌装して、複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルで高周波誘導加熱することで、磁束密度を複雑形状円筒体の凸部周面で高くすることができ、複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持した高周波誘導加熱をすることができるからである。
【0009】
(態様2) 前記凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体は、円筒鋼を成形加工したものであることを特徴とする態様1に記載する高周波誘導加熱方法である。
凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層する態様以外に、円筒鋼をプレス加工、切削加工等で成形する態様も選択できるからである。
【0010】
(態様3) 前記磁束密度制御部材は、非磁性導体または強磁性導体のいずれかであることを特徴とする態様1または態様2のいずれかに記載した高周波誘導加熱方法である。
磁束密度制御部材として磁性が異なる材質を選択することで、磁束密度制御部材を当接または離間した複雑形状円筒体の磁束密度を選択的に制御できるからである。これにより、複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)及び凹部周面温度(Tc)を適切に制御した高周波誘導加熱を実現できるからである。
【0011】
(態様4) 凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体を該複雑形状円筒体の凸部周面に配設した加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱する高周波誘導加熱装置であって、前記複雑形状円筒体は凹部周面を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体の内周面に当接または離間した態様で嵌装されていることを特徴とする高周波誘導加熱装置である。
複雑形状円筒体を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体に複雑形状円筒体の凹部周面に前記中空円筒状収容体の内周面が当接または離間した態様で嵌装して、複雑形状円筒体の凸部周面に配設した環状加熱コイルで高周波誘導加熱することで、磁束密度を複雑形状円筒体の凸部周面で高くすることができ、複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持できる高周波誘導加熱装置とすることができるからである。
【0012】
(態様5) 前記磁束密度制御部材は、非磁性導体または強磁性導体のいずれかであることを特徴とする態様4に記載した高周波誘導加熱装置である。
磁束密度制御部材として磁性が異なる材質を選択することで、磁束密度制御部材を当接または離間した複雑形状円筒体の磁束密度を選択的に制御できるからである。これにより、複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)及び凹部周面温度(Tc)を適切に制御できる高周波誘導加熱装置となるからである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体(以下、単に「複雑形状円筒体」という。)を磁束密度制御部材からなる中空円筒状収容体(以下、単に「中空円筒状収容体」という。)に嵌装して、複雑形状円筒体の凹部周面に中空円筒状収容体の内周面を当接または離間して、凸部周面に配設した加熱コイルによる高周波誘導加熱を行うことで、複雑形状円筒体の凸部周面温度を凹部周面温度よりも高く保持した高周波誘導加熱をすることができる。
また、中空円筒状収容体を構成する磁束密度制御部材の磁性を選択することで、複雑形状円筒体の磁束密度を選択的に制御でき、これにより、複雑形状円筒体の凸部周面温度(Tv)及び凹部周面温度(Tc)を適切に制御できる高周波誘導加熱方法及び高周波誘導加熱装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体の一形態を示す斜視図である。
図2】本願発明の凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体の態様を示す模式図である。
図3】本願発明の複雑形状円筒体を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱装置の態様を示す斜視図である。
図4】本願発明の複雑形状円筒体を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱装置の構成図である。
図5】本願発明の複雑形状円筒体の磁束密度分布の説明図である。
図6】本願発明の複雑形状円筒体の凹周面と中空円筒状収容体の内周面との離間距離と温度分布の説明図である。
図7】本願発明の磁束密度制御部材の磁性と複雑形状円筒体の磁束密度分布の説明図である。
図8】本願発明の複雑形状円筒体の態様と凹凸温度比との関係(磁束密度制御材が非磁性導体)を示すグラフである。
図9】本願発明の複雑形状円筒体の態様と凹凸温度比との関係(磁束密度制御材が強磁性導体)を示すグラフである。
図10】本願発明の複雑形状円筒体の態様と凹凸温度比との関係(磁束密度制御材なし)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)複雑形状円筒体
本願発明は凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体10を複雑形状円筒体10の凸部周面に配設した環状加熱コイルに高周波電流を通じて高周波誘導加熱する高周波誘導加熱方法である。
図1は、本願発明の高周波誘導加熱方法による被加熱処理材である凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体10の一形態を示す斜視図である。複雑形状円筒体10は、周面に凹部11と凸部12が形成されている。
図2に示すように複雑形状円筒体10の形態は、凹部半径(Rc)の凸部半径(Rv)に対する比率(以下、「凹凸比(R)」という。)及び円盤厚み(D)の凸部半径(Rv)に対する比率(以下、「円盤厚み比(L)」という。)設定することで任意に選択することができる。これにより、凹凸比(R)及び円盤厚み比(L)を特定の範囲に選択することで、複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材を配設した高周波誘導加熱により、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することができる。
ここで、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持するとは、凹部周面温度(Tc)に対する凸部周面温度(Tv)の比(以下、「凹凸温度比(Tr)」という。)が1を超えることをいう。
【0016】
本願発明の複雑形状円筒体の構造は、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態であれば、特に限定されない。凹凸比(R)が0.5以上0.99以下、円盤厚み比(L)が0を超え0.15以下である形態を好適に採用することができる。
【0017】
複雑形状円筒体10は、機械部品(例、歯車)としての必要な強度を実現できる炭素鋼(JIS G4051;機械構造用炭素鋼鋼材)で構成される。凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態としては、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した態様、円筒鋼をプレス加工、切削加工等の成形加工した態様を選択できる。
【0018】
(2)高周波誘導加熱装置
図3は、本願発明の複雑形状円筒体10を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱装置20の態様を示す斜視図である。図4は、高周波誘導加熱装置20の構成図であり、それぞれ、(a)側面図、(b)平面図、(c)底面図である。
本願発明の高周波誘導加熱装置20は、複雑形状円筒体10を嵌装する中空円筒状収容体23と、中空円筒状収容体23を着装する駆動機構(図示せず)を備える回転軸21と、中空円筒状収容体23の外周に沿って配設した環状加熱コイル24と、高周波電源(図示せず)を備える。
中空円筒状収容体23の外周面には、複雑形状円筒体10の凸部12が中空円筒状収容体23から突出できる隙間23aが設けられ、複雑形状円筒体10の凹部11が中空円筒状収容体23の周面23bに当接または離間した態様で嵌装される。なお、複雑形状円筒体10の中空円筒状収容体23への嵌装は、中空円筒状収容体23の平面22cまたは底面22dの着脱により行う。
【0019】
(3)高周波誘導加熱方法
本願発明の高周波誘導加熱装置20を用いた高周波加熱方法は、複雑形状円筒体10を中空円筒状収容体23に嵌装し、複雑形状円筒体10を嵌装した中空円筒状収容体23を回転軸21に着装した後、回転軸21を駆動して複雑形状円筒体10及び中空円筒状収容体23を外周に沿って環状に配設した環状加熱コイル24内で回転させて、高周波電源(図示せず)から高周波電流を通電して複雑形状円筒体10を高周波誘導加熱する。
高周波加熱条件は、複雑形状円筒体10の形態、構成材質により適宜選定する。(a)周波数は、30~200kHz (b)投入電力 5~45kW (c)加熱時間 Tc温度が1000℃前後となる時間が好適である。
【0020】
(4)中空円筒状収容体
本願発明の中空円筒状収容体23は磁束密度制御部材22で構成されている。は複雑形状円筒体10を磁束密度制御部材22からなる中空円筒状収容体23に嵌装して、磁束密度制御部材22を複雑形状円筒体10の凹部11周面に当接または離間した態様で配置して、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することを特徴とする高周波誘導加熱方法及び高周波加熱装置である。高周波誘導加熱では、被熱処理材の磁束密度分布が被熱処理材の温度分布に影響を及ぼすため、本願発明においても、中空円筒状収容体23を構成する磁束密度制御部材22の材質、磁束密度制御部材22の複雑形状円筒体10の凹部11周面への配置の態様が重要である。
【0021】
(5)磁束密度制御部材の態様と磁束密度分布
図5は、本願発明の複雑形状円筒体10の磁束密度分布を説明する説明図であり、それぞれ、(a)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接しない態様、(b)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接した態様、(c)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接しない態様における環状加熱コイル23からの磁束(Φ)密度分布、(d)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接した態様における環状加熱コイル24からの磁束(Φ)密度分布、(e)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接しない態様における複雑形状円筒体10の温度分布、(f)複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を当接した態様における複雑形状円筒体10の温度分布である。
磁束密度制御部材22は、高周波磁場の磁束密度を調整する機能を有する。すなわち、複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を配設しない態様では、磁束(Φ)密度は、凹部11周面で高く、凸部12周面では低い。このため、凸部周面温度(Tv)は凹部周面温度(Tc)より低い(Tv<Tc)。一方、複雑形状円筒体10の凹部11周面に磁束密度制御部材22を配設した態様では、磁束(Φ)密度は、凸部12周面で高く、凹部12周面では低い。このため、凸部周面温度(Tv)は凹部周面温度(Tc)より高い(Tv>Tc)。
【0022】
図6は、複雑形状円筒体の凹周面と中空円筒状収容体の内周面との離間距離と温度分布を説明する説明図である。離間距離を大きくすることにより凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持できる。
【0023】
(5)磁束密度制御部材の材質と磁束密度分布
本願発明の磁束密度制御部材22の材質としては、非磁性導体、強磁性導体のいずれも好適に用いることができる。例えば、非磁性導体(SUS304)、強磁性体(S45C)を用いることができる。
図7は、磁束密度制御部材22の磁性と複雑形状円筒体10の磁束密度分布を説明する説明図である。磁束密度制御部材22を強磁性体(S45C)とした場合は、磁束密度は磁束密度制御部材22の内側(複雑形状円筒体10側)で高くなるのに対して、磁束密度制御部材22を非磁性導体(SUS304)とした場合は、磁束密度は磁束密度制御部材22の外側(環状加熱コイル24側)で高くなる。
【実施例0024】
本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示し、対比した実施態様を比較例として示す。以下、実施態様を表1、表2、図8図9図10により説明する。
なお、複雑形状円筒体の材質は、高炭素鋼S45C、高周波誘導加熱条件は、以下の通りとした。
<高周波焼入れ条件>
(a)周波数 30kHz
(b)投入電力 45kW
(c)加熱時間 Tc温度が1000℃前後となる時間
【0025】
<実施例1-1~1-8、比較例1-1>
円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)の異なる複雑形状円筒体を磁束密度制御部材(非磁性導体:SUS304)で構成される中空円筒状収容体に嵌装して、磁束密度制御部材が複雑形状円筒体の凹部に当接する態様で高周波誘導加熱を行った。円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)と凹凸温度比(Tr)の関係を表1及び図8に示す。なお、図8の枠内は比較例を示す。
【0026】
<実施例2-1~2-10、比較例2-1、2-2>
円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)の異なる複雑形状円筒体を磁束密度制御部材(強磁性導体:S45C)で構成される中空円筒状収容体に嵌装して、磁束密度制御部材が複雑形状円筒体の凹部に当接する態様で高周波誘導加熱を行った。円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)と凹凸温度比(Tr)の関係を表1及び図9に示す。なお、図9の枠内は比較例を示す。
【0027】
<比較例3-1~3-35>
円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)の異なる複雑形状円筒体を中空円筒状収容体に嵌装しないでそのまま高周波誘導加熱を行った。円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)と凹凸温度比(Tr)の関係を表1及び図10に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
<実施例3-1~3-4、比較例2-1>
円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)の異なる複雑形状円筒体を磁束密度制御部材(非磁性導体:SUS304)で構成される中空円筒状収容体に嵌装して、磁束密度制御部材が複雑形状円筒体の凹部と所定の離間距離に配設する態様で高周波誘導加熱を行った。円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)と凹凸温度比(Tr)の関係を表2に示す。磁束密度制御部材を離間することで、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することができる。また、離間距離を大きくすることで、凹凸温度比(Tr)も大きくなる。
【0030】
<実施例4-1~4-2、比較例1-1>
円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)の異なる複雑形状円筒体を磁束密度制御部材(強磁性導体:S45C)で構成される中空円筒状収容体に嵌装して、磁束密度制御部材が複雑形状円筒体の凹部と所定の離間距離に配設する態様で高周波誘導加熱を行った。円盤厚み比(L)及び凹凸比(R)と凹凸温度比(Tr)の関係を表2に示す。磁束密度制御部材を離間することで、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することができる。また、離間距離を大きくすることで、凹凸温度比(Tr)も大きくなる。
【0031】
【表2】
【0032】
<まとめ>
(1)磁束密度制御部材が複雑形状円筒体の凹部に当接する態様で高周波誘導加熱を行うことで、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することができる(表1、実施例1-1~1-9、実施例2-1~2-12、比較例1-1~1-35)。
(2)磁束密度制御部材を複雑形状円筒体の凹部から離間することで、凸部周面温度(Tv)を凹部周面温度(Tc)より高く保持することができる。また、離間距離を大きくすることで、凹凸温度比(Tr)も大きくなる(実施例3-1~3-4、実施例4-1~4-2、比較例1-1、比較例2-1)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明により、凹凸周面からなる円盤を同軸的に複数積層した形態の複雑形状円筒体の高周波誘導加熱方法を提供できる。
【符号の説明】
【0034】
10 複雑形状円筒体
11 凸部
12 凹部
20 高周波誘導加熱装置
21 回転軸
22 磁束密度制御部材
23 中空円筒状収容体
24 環状加熱コイル
25 環状加熱コイル支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10