(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053728
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】乗降調査装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240409BHJP
G06Q 50/40 20240101ALI20240409BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160108
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】721012531
【氏名又は名称】近藤 真子
(72)【発明者】
【氏名】茨木 宏治
(72)【発明者】
【氏名】信國 謙司
(72)【発明者】
【氏名】武藤 清義
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 光暁
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC20
5L049CC42
5L050CC20
5L050CC42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バス利用者の乗車地点と降車地点を把握するOD調査において、過去においては数々の提案があるが、いずれも人力に頼るところが多く、いまだに現金精算を行う場合が多い状況では正確に乗降記録を把握することが出来ないことを解決する乗降調査装置を提供する。
【解決手段】乗降調査装置12は、乗車口2と降車口3の各々に設置する乗車カメラ9と降車カメラ10の映像に対し、画像認識部13により顔認証及び人体認証を行うとともに、乗車口2に設けられた整理券発券機4及びICカードリーダー6並びに降車口3に設けられた現金投入口5、ICカードリーダー7及び磁気カードリーダー8で利用状況も把握する事により乗降調査を自動的に行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転手の手動による起動もしくはGPS位置情報により自動的に次に停車する停留所の案内放送を行い、系統別停留所番号もしくは停留所名を記憶する停留所放送装置と、運賃納入用の現金投入口、整理券発券機、ICカード読み取り機、磁気カード読み取り機等の運賃精算用補助装置が乗降口に設置される路線バス車両において、
乗車口及び降車口に設置する第1及び第2のカメラ映像より乗客の顔認証を行う第1の手段と、乗客の服装及び骨格形状を含む人体の特徴を識別する第2の手段と、第2の手段により乗客の手を検出し、前記運賃精算用補助装置に乗客の手が近接したことを検知する第3の手段を持ち、第1、第2の手段により得られる降車時の乗客の特長量情報を降車以前に乗車した乗客の特長量情報、前記第3の手段の情報、前記停留所放送装置からの停留所番号のリストと照合することにより、降車する乗客が乗車した停留所を特定することを特徴とする乗降調査装置。
【請求項2】
前記カメラの映像より乗客の手を検出する手段に加えて、肘を検出する手段を有し、前方の乗降口におけるカメラ画像の一定座標範囲内において、左右どちらかの手の位置が肘の位置よりも上になる事があり、かつ、どの運賃清算用補助装置にも手を近接せずに通過した場合は、定期券もしくはシルバーパス等の無料パスを運転手に提示したと想定することを特徴とする乗降調査装置。
【請求項3】
前記乗降調査装置において、第1の手段により認証する乗客の性別、年齢、の推定情報、乗車年月日時刻、乗車停留所名、降車停留所名、前記運賃精算用補助装置のうちの使用した装置もしくは、無料パス使用の想定、さらに温度湿度及び車両の前面ワイパーの作動状況より判断する気象情報をリストとして記録する事を特徴とする乗降調査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路線バスにおける乗客の乗降調査を自動で行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路線バスにおける乗務員不足の問題は都市部でも地方でも顕在化していて、乗り合いバス事業者は限られた労働力と車両数で効率的な運行を行うことが求められている。このためバス事業者はバス路線の利用特性とその変化を的確に把握し、継続してサービスを改善するマーケティング活動が重要となっている。乗合バス事業者は現在でも交通系ICカードの利用データ、年に一度行っているOD調査に基づくデータは保有しているが、データの粒度が粗く、十分に活用されているとは言えない。
【0003】
OD調査とは、起点(Origin)と終点(Destination)の組み合わせ、すなわち、バス利用者の乗車地点と降車地点を把握する調査のことで、調査方法には以下のような方法が採られている。
【0004】
調査員による乗客へのカード配布式:特許文献2に記載されている方法で、調査員1~2名がバスに乗車し、乗客が乗車した際に停留所番号を示すカード(ビンゴカード式が多い)を手交し、乗客が乗車中に回答して、降車時に調査員が回収する。降車地停留所を識別するため、バス停ごとに別の回収袋に分けるなどの方策が必要となる。乗客がカードの受け取りを拒否した場合には調査員が自ら記録する必要がある。全便を調査して便ごとの利用動態や平均乗車密度を調べるためには、調査員を多数配置する必要がある。費用と労力を要するため頻繁に実施できない。
【0005】
調査員による乗客へのアンケート配布または聞き取り方式:調査員が車内で乗客にアンケート用紙を配布、回収する方法。乗客が少ない路線以外では精度が落ちる。調査票の配布と説明に時間を要し、受け取り拒否の可能性があるほか、調査員が対応可能な乗客数に限りがあって、混雑時などには精度が落ちてしまう。
【0006】
運転士又は添乗調査員による目視記録方式:目視のみで乗降停留所ペアを記録する方法。乗客が少ない路線でしか実施できず、運転士の負担が大きく、安全運転に支障が出る。
【0007】
このようにOD調査は人力による調査が主で、機器による調査についてはいくつかの方式が試みられているが、それぞれに弱点があり、一般化していない。
【0008】
バーコード付き整理券:特許文献1に記載されている方法で、乗客が乗車時に受け取る整理券に乗車停留所を示すバーコードを停留所ごとに変更しながら印刷して交付し、降車時に回収する方式。整理券発券機の大幅な改造と、降車時に当該整理券のバーコードを読み取る装置が新たに必要となる。利用者の属性情報は得られない。
【0009】
自動カウンタからの調査:赤外線やカメラなどで乗車してくる乗客と降車する乗客を把握する方法。赤外線では乗車停留所と降車停留所を紐づけることができない。カメラ映像の場合は映像を目視することで乗降停留所を紐づけることが可能だが、バスの運行中の映像をすべて確認する必要があり、労力と時間を要する。
【0010】
ICカードログの集計:交通系ICカードの乗降記録によりODを分析する手法。ICカードによる運賃支払いを行っている乗客のデータのみが正確に取得できるが、現金支払いの乗客や定期券利用者の乗降停留所を把握することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7-160917
【特許文献2】特開2005-246798
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Realtime Multi-Person 2D Pose Estimation using Affinity Field The Robotics Institute, Carnegie Mellon University
【非特許文献2】顔認証を用いた自然な動作の入退出管理 静岡理工科大学 情報学部 ipsj.ixsq.nii.ac.jp IPSJ-Z82-1ZG-04.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来のOD調査には、労力と手間がかかるという問題があり、かつ、乗降人数の属性や正確な乗降者数を測定することができず、利用している券種を弁別することができないため、長期間に渡る調査を高い精度で行うことができていない。本発明は上述の従来技術の問題点を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
乗降口に設置した監視カメラにより乗客を判別し、乗客の乗車停留所と降車停留所のリストを作成する。乗客の判別は顔認証技術を基本とし、服装検知として服装の色、ICカードリーダー現金投入口等の運賃精算補助装置の使用状況から判断する。
【0015】
近年、カメラ映像による画像認識技術は飛躍的な性能の向上が見られ、顔の中の目、鼻、口などの特徴点の位置や大きさを元に照合をおこなう顔認証は実用技術となり、
各社が販売するソフトウェアは様々な特徴を加え、精度を競っている。
【0016】
顔認証の手順概要は以下。
全体画像の中から鼻、目、口の可能性を持つ矩形領域を様々な大きさで判定し、最終的に顔に近い特徴を持つ矩形領域を検出する。(
図2)
判定方法は
図3に示すHaar-Like検出器のパターンを全画像の中から検出していく方法で、結果的に目及び鼻から顔を含む矩形領域が決定される(
図4)
【0017】
特徴点の抽出と特徴量の決定(
図5)
顔の矩形領域から特徴点を抽出し、各特徴点間の角度、距離の割合、および輝度の勾配等のデータを特徴量とする。
【0018】
乗客の識別の為に顔認証だけではなく、服装の色判断を加えることの先行事例として(0012)の非特許文献2がある
乗客がカメラに正面の顔を映す、この事例で言う積極認証の場合の正解判定率が71.3%
正面の顔ではない場合の非積極認証の判定率が52.8%に対し、非積極認証の場合でも服装の色を加えた場合は67.6%になったとしている。
【0019】
バス車両での実際の運用でも乗客が必ずカメラに顔を向けるわけではない。ゲートを開閉する為の入退出管理では無いのでそれを強要出来ない。帽子や服装を認証の要素に含めると効果を発揮するが、社内で帽子や上着を脱ぐ場合を考慮すると完全ではない。
【0020】
運賃精算補助装置の使用の判定は姿勢推定アルゴリズムというものを利用する。このアルゴリズムはライブラリとして入手可能である。このライブラリはカメラ画像の中の人間の関節点を抽出し、人のポーズを解析するものである。骨格認識、骨格検知とも呼ばれる。
(参考文献(0012)非特許文献1)
【0021】
この姿勢推定アルゴリズムはOpenPoseが代表的であり、ディープラーニングのフレームワークであるCaffeで動くことを想定して開発されたものである。従って、人体部分のモデルはcaffemodelという記述になる。Caffeは現在Pytorchに統合されているのでPytorch版も存在する。近年ではGoogle社を始め数社から同様のアルゴリズムが公開されているが、本提案ではOpenPoseをベースに手の検出を行っている。
図6にOpenPoseの出力画像例を示す。画面では右手の検出を行っており、バス車両の現金投入口に右手を近づけているのがわかる。
【0022】
OpenPoseでは体の関節の他、手、足、鼻、耳、心臓等の画面上の座標を取得することが可能である。本提案では左右それぞれ手の位置の座標を検出する。
【0023】
乗客が、現金による支払いか、交通系ICカードによる支払いか、磁気カードによる支払いか、無料パスによるものかは乗降調査の目的の一つであるが、乗客が乗車口と降車口において別な手段を取ることは無いのでこれを判別要素として含める。これは乗車時に整理券を取った乗客は降車時に現金もしくは磁気カードで支払う。乗車時も降車時も交通系ICカードを使う筈といった判別方法となる。
【0024】
技術的には乗客が乗降時に整理券発券機、現金投入口、ICカードリーダー、磁気カードリーダー等の運賃精算補助装置に手を近づけたかどうかで判別する。乗降口に設置したカメラ映像から(0020)~(0022)で紹介した技術により手を検出し、ICカードリーダー、磁気カードリーダー、現金投入口、整理券発券機のカメラ映像上の位置を特定し、検出した手がそれらに近接するかどうかで判別する。乗降時にどの機械にも近接しないで乗務員に掲示する動作をして通過した場合は、定期券または無料パスと想定する。
【0025】
前方運転手横の乗降口ではシルバーパス等の無料パスやICカードリーダーを利用できない定期券の場合、運転手に提示することにより入退出を行う。
前述OpenPoseにおいては手の位置に加えて肘の位置も検出可能であるので、無料パス及び定期券の提示動作は手の位置が肘の位置よりも上になることで検出する。
【0026】
上記検出は顔の位置がカメラ画像上の設定する範囲にある場合に行う。
【0027】
上記の要素技術に依り下記手順で乗降調査のリストを作成する。
【0028】
路線バスには次の停留所を案内する放送装置が設置されている。この放送装置には
系統番号とそのすべての停留所番号が記憶されており、実際の放送は停留所に近づいたタイミングで運転手が放送を起動する。近年ではGPSの位置情報を元に自動で行う装置も存在する。本提案事例ではバスが停車してドアが開いたタイミングで停留所の番号を乗降調査装置に送信する。
【0029】
乗降調査装置は乗車口に設置されたカメラと接続され、停留所の番号を受け取ったタイミング以後カメラ映像を監視する。カメラ映像より
1)顔認証技術による特徴量、2)服装検知による特徴 3)前述の補助装置の使用情報と運転手への提示動作の有無を生成し乗降調査装置内の記憶装置に保存する。
【0030】
乗降調査装置は降車口に設置されたカメラと接続され、停留所の番号を受け取ったタイミングより、カメラ映像を監視する。カメラ映像より
1)顔認証技術による特徴量、2)服装検知による特徴 3)前述の補助装置の使用情報と運転手への提示動作の有無を生成し乗降調査装置内の記憶装置に保存するとともに、乗車時に記録した乗客リストから1)2)のそれぞれの項目別に一致率を計算し、3)の情報と矛盾が無い乗客の中から一致率の和の一番高い乗客を抽出し、同一人物とする。
【0031】
乗降調査装置内には温度湿度センサーモジュールが接続され温度と湿度を記録する。
【0032】
フロントワイパーを作動するスイッチの接点は乗降調査装置のIO端子に接続され、乗降調査装置はフロントワイパーが作動中かどうかを把握する。
【0033】
乗降調査装置は、乗車口映像もしくは降車口映像における顔認証技術により推定する乗客の推定性別、推定年齢、及び乗車年月日時刻、乗車停留所名(番号)、降車停留所名(番号)、使用した運賃支払い補助装置もしくは何も使用しなかった記録、運転手への提示動作の有無、温度湿度センサーの情報、フロントワイパー動作による降雨情報
をリストとして生成し乗降調査装置内のデータ保存部に乗降調査リストとして保存する。
【0034】
乗降調査装置はWifiもしくはLTE無線通信部を持ち、集計分析の為に乗降調査リストをクラウドシステムや事業所に送信する。
【発明の効果】
【0035】
本提案によれば、運転手も乗客も乗降調査に何ら関与することなく正確なOD調査を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【発明を実施するための形態】
【実施例0037】
図1に全体のシステム構成を示す。
路線バスには「次は○○です。次停まります」等の放送を行う停留所案内放送装置1が設置されている。この装置には系統毎の情報が運行前にセットされる為、系統番号及びその系統の全ての停留所の番号が記録されている。
【0038】
乗車口2に路線バスの乗車口付近の装置を示す。この場合はバス後方の乗車口から入り、バス前方の降車口3で料金を精算するタイプの路線バスを想定している。従って、交通系ICカードを使用する乗客の為にICカードリーダー6が設置され、現金及び磁気カードで精算する場合に備えて整理券発券機4が設置される。乗車カメラ9は整理券発券機4、ICカードリーダー6の位置がわかり、出来るだけ乗客の顔が映るような位置に設置される。
【0039】
降車口3に路線バスの降車口付近の装置を示す。交通系ICカードで精算する乗客の為にICカードリーダー7が設置され、現金精算用の現金投入口5が設置される。又磁気カードで精算出来るように磁気カードリーダー8が設置される。降車カメラ10は現金投入口5、ICカードリーダー7、磁気カードリーダー8の位置がわかり、出来るだけ乗客の顔が映るような位置に設置される。
【0040】
9及び10のカメラは乗降調査装置12内の画像認識部13に接続される。画像認識部13は
画像処理用のコンピュータであり、近年ではGPU(Graphics Processing Unit)という画像処理に特化した演算部をもち画像認識等の計算に能力を発揮する。
【0041】
停留所案内放送装置1、フロントワイパー作動スイッチ接点情報11、温度湿度センサー14の情報を加えた前述(0028)から(0030)に示した方法により生成した乗降調査リストをデータ記憶部15に記憶し、無線通信装置16より運行終了時等適宜のタイミングで営業所もしくは解析センター等に転送する。
【0042】
本例は後ろから乗車して前の降車口で精算するタイプについて説明したが、前から乗車する統一料金のタイプのバスにおいては整理券発券機が無いだけで、カメラ映像の顔認証をベースとして乗車した乗客と降車した乗客を結び付け乗降リストを作成するという事において差異は無い。
本提案によれば、これらの画像認識技術を用いて従来のOD調査における人力の部分を代替し、精度の高い調査を継続的に行い、人流を把握し、運行の効率化を図ることが可能となる。
長大なルートや数多くのバス停を経由して時間がかかる系統は、利用者の利便性、速達性が損なわれ、運転士の勤務時間が長くなり安全確保の面からも好ましくない。通しで乗車している人数が少ないのであれば系統を分割することが可能となる。