(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053735
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】咽喉頭手術練習用模型
(51)【国際特許分類】
G09B 23/32 20060101AFI20240409BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20240409BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G09B23/32
G09B9/00 Z
G09B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160119
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】藤村 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 曜
(72)【発明者】
【氏名】大森 孝一
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】真所 最
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA03
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、咽頭部周辺部位を擬似する粘膜素材と喉頭部周辺部位を疑似する粘膜素材とを固定した状態で、医療器具を外部から口腔内に挿入してそれぞれの前記粘膜素材の所望箇所に対する手術シミュレーションすることができる咽喉頭手術練習用模型を提供することを目的とする。
【解決手段】 本咽喉頭手術練習用模型では、上顎部模型を背臥位に備えたベース部材と、ベース部材に連結されて背側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する咽側模型と、ベース部材に取り外し可能に連結されて下顎部から喉頭部及びその周囲の矢視側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する喉側模型と、を備え、ベース部材に咽側模型と喉側模型とが連結された状態で、外部に開放する口腔部から咽頭部及び喉頭部にわたる模型が形成され、喉側模型は、上下方向に延びてそれぞれ背側から粘膜素材を固定可能な咽頭部形成用固定手段を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
咽頭部周辺部位を擬似する粘膜素材と喉頭部周辺部位を疑似する粘膜素材とを固定した状態で、医療器具を外部から口腔内に挿入してそれぞれの前記粘膜素材の所望箇所に対する手術シミュレーションすることができる咽喉頭手術練習用模型であって、
該咽喉頭手術練習用模型は、
上顎部模型を背臥位に備えたベース部材と
該ベース部材に連結されて背側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する咽側模型と、
前記ベース部材に取り外し可能に連結されて下顎部から喉頭部及びその周囲の矢視側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する喉側模型と、を備え、
前記ベース部材に前記咽側模型と喉側模型とが連結された状態で、外部に開放する口腔部から咽頭部及び喉頭部にわたる模型が形成され、
前記喉側模型は、上下方向に延びて背側から粘膜素材を固定可能な咽頭部形成用固定手段を備え、
前記喉側模型は少なくとも、側方向両側の縁部から下方向に延びる一対の側方形成用枠部と、喉側模型の上部の側方向略中心から下方に延びて前記側方形成用枠部に対して矢視側にオフセットする第一オフセット部と該第一オフセット部より背側にオフセットする第二オフセット部とを有する中心形成用枠部とを備え、
該側方形成用枠部及び中心形成用枠部の第一オフセット部は、背側から粘膜素材を前記咽頭部形成用固定手段により押圧固定可能な複数の留め穴を有し、粘膜素材を前記側方形成用枠部及び前記中心形成用枠部に背側から貼り付けて押圧固定した際に側方形成用枠部と中心形成用枠部との側方向の間で該粘膜素材を下咽頭内腔及び/又は中咽頭内腔の形状に再現するための隙間又は矢視方向の凹みを設ける、
ことを特徴とする咽喉頭手術練習用模型。
【請求項2】
前記喉側模型の上部には、前記一対の側方形成用枠部から中央に向かって矢視側に高い喉側本体を設け、
該喉側本体は、背側から粘膜素材を前記咽頭部形成用固定手段により押圧固定可能な複数の留め穴を有し、粘膜素材を前記側方形成用枠部及び前記中心形成用枠部及び前記喉側本体に背側から貼り付けて押圧固定した際に粘膜素材を下咽頭内腔及び/又は中咽頭内腔の形状に再現する、
ことを特徴とする請求項1に記載の咽喉頭手術練習用模型。
【請求項3】
前記喉側模型は、
該喉側模型全体をその下方を支点にして矢視方向に開閉可能に前記ベース部材に対して枢結可能とすることで前記咽側模型に対して所望の傾斜角度に位置決め可能な揺動機構と、
前記側方形成用枠部を前記中心形成用枠部に対して互いに側方両側に離間又は接近させて所望の側方位置に位置決め可能な幅間可変機構と、
前記喉側模型全体を前記ベース部材に対して上下方向に移動させて前記咽側模型に対して所望の上下位置に位置決め可能な上下可変機構と、を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の咽喉頭手術練習用模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咽喉頭手術の事前シミュレーションや研修用シミュレーションに用いるものであり、種々の想定患者に適合し、取り外して洗浄可能な咽喉頭手術練習用模型に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻腔や口腔から連続する喉頭部及び咽頭部に腫瘍等病変が生じることがあり、この病変を切除する手術にあたり、事前シミュレーションや研修用シミュレーションに用いる患者模型としての手術シミュレータ(咽喉頭手術練習用模型)が存在する。
【0003】
従来の手術シミュレータでは、腫瘍等病変部に電気メスや、鉗子、内視鏡等の手術器具を経口アクセスして、内視鏡の画像を見ながら切除練習(切除シミュレーション)していた。従来の切除シミュレーションでは概ね咽頭部後壁等の咽側模型と喉頭部を含む咽頭部前壁側等の喉側模型とが組み合わされており、咽側及び喉側の形状をそれぞれ患者内腔形状に擬似させる方法として、咽側模型及び喉側模型それぞれに豚粘膜等の生体組織を養生テープ等で固定して、病変相当の位置に口腔側からアクセスし、切除することで擬似的な事前又は研修用シミュレーションを行っていた。
【0004】
しかしながら、従来の手術シミュレータにおいて豚粘膜等の生体組織を固定する場合、単に生体組織等の粘膜素材を貼り付けにより固定しているに過ぎず、疑似的に病変位置へアクセスシミュレーションすることには有益であるが、切除等の手技を実行する際の複雑な作業を実行しようとすると、力が作用して粘膜素材がずれる等、その固定性が低いことによる問題が生じていた。また、粘膜素材を単に貼り付けただけの場合、実際の病変部位近傍の形状を高精度に再現できているとは言えず、特定部位を切除する際の手術シミュレータとして十分なものではなかった。
【0005】
とりわけ、喉頭展開した状態(喉頭鏡を経口的に挿入して内腔を拡げて固定した状態)での梨状陥凹等の中咽頭・下咽頭内腔における複雑な起伏形状を十分には再現できず、新たな固定・調整機構を有して内腔形状を再現し得る装置の開発に対する医療現場での現実的・潜在的ニーズが大きかった。さらに、従来の手術シミュレータでは、切除等作業中に粘膜素材のズレやハガレが生じやすく、固定性を十分に確保できないことによる問題が多く生じており、この点でも新たな装置の提供が求められていた。
【0006】
実際に特許文献1~5のような手術対象を固定する手術シミュレータや手術対象及びその周辺を再現する手術シミュレータも存在するが、いずれも咽喉頭手術を目的とするものではなく、これらを代替えて咽喉頭手術用のシミュレータとすることはできない。特に特許文献4では、咽頭部や喉頭部周辺を再現しているが咽喉頭手術を対象とするものではなく、喉頭展開した状態での中咽頭・下咽頭内腔を再現するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2020/080318公報
【特許文献2】特表2021-507294号公報
【特許文献3】国際公開WO2019/234937公報
【特許文献4】特開2018-120205号公報
【特許文献5】国際公開WO2017/204311公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みて創作されたものであり、咽喉頭手術の術前シミュレーションや研修用シミュレーションに用いる咽喉頭手術練習用模型(手術シミュレータ)であって、手術対象となる粘膜素材を容易かつ安定的に装着させることができながら、喉頭展開した状態における咽頭部及びその周囲の内腔を十分に再現することができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため具体的に本発明は、
咽頭部周辺部位を擬似する粘膜素材と喉頭部周辺部位を疑似する粘膜素材とを固定した状態で、医療器具を外部から口腔内に挿入してそれぞれの前記粘膜素材の所望箇所に対する手術シミュレーションすることができる咽喉頭手術練習用模型を提供する。
【0010】
該咽喉頭手術練習用模型は、
上顎部模型を背臥位に備えたベース部材と
該ベース部材に取り外し可能に連結されて背側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する咽側模型と、
前記ベース部材に連結されて下顎部から喉頭部及びその周囲の矢視側の咽頭部近傍の内腔形状を再現する喉側模型と、を備え、
前記ベース部材に前記咽側模型と喉側模型とが連結された状態で、外部に開放する口腔部から咽頭部及び喉頭部にわたる模型が形成され、
前記喉側模型は、上下方向に延びてそれぞれ背側から粘膜素材を固定可能な咽頭部形成用固定手段を備え、
前記喉側模型は少なくとも、側方向両側の縁部から下方向に延びる一対の側方形成用枠部と、喉側模型の上部の側方向略中心から下方に延びて前記側方形成用枠部に対して矢視側にオフセットする第一オフセット部と該第一オフセット部より背側にオフセットする第二オフセット部とを有する中心形成用枠部とを備え、該側方形成用枠部及び中心形成用枠部の第一オフセット部は、背側から粘膜素材を前記咽頭部形成用固定手段により押圧固定可能な複数の留め穴を有し、粘膜素材を前記側方形成用枠部及び前記中心形成用枠部に背側から貼り付けて押圧固定した際に側方形成用枠部と中心形成用枠部との側方向の間で該粘膜素材を下咽頭内腔及び/又は中咽頭内腔の形状に再現するための隙間又は矢視方向の凹みを設ける。
【0011】
本発明の咽喉頭手術練習用模型では、従来、特に再現が十分でなかった梨状陥凹等の中咽頭から下咽頭内腔の再現性を高めるために喉側模型(例えば実施形態における喉側模型16)の側方両側(幅方向両側)に一対の側方形成用枠部(例えば実施形態における側方形成用枠部18)と、側方中心(幅方向中心)に側方形成用枠部より矢視側に高い中心形成用枠部の第一オフセット部(例えば実施形態における中心形成用枠部20のブラケット20a)と、第一オフセット部より矢視側に低い中心形成用枠部の第二オフセット部(例えば実施形態における中心形成用枠部20の大径部20c)と、一対の側方形成用枠部と中心形成用枠部の間に隙間又は矢視側の凹み(例えば実施形態における隙間又は凹み32)と、を設けて、側方形成用枠部及び第一オフセット部それぞれに咽頭部形成用固定手段(例えば実施形態におけるピン40及びクリップ41)で粘膜素材を安定的に装着することができ、粘膜素材を下咽頭内腔~中咽頭内腔の形状に再現することができる。
【0012】
また、咽喉頭手術練習用模型は、咽側模型と喉側模型とのいずれもが脱着可能であるため、取り外した状態で粘膜素材を装着することができ模型への粘膜素材の装着作業が容易であり、手術シミュレーション実行後に洗浄して何度も使用できる点でも有利である。
【0013】
また、前記喉側模型の上部には、前記一対の側方形成用枠部から中央に向かって矢視側に高い喉側本体を設け、
該喉側本体は、背側から粘膜素材を前記咽頭部形成用固定手段により押圧固定可能な複数の留め穴を有し、粘膜素材を前記側方形成用枠部及び前記中心形成用枠部及び前記喉側本体に背側から貼り付けて押圧固定した際に粘膜素材を下咽頭内腔及び/又は中咽頭内腔の形状に再現する、ことが好ましい。
【0014】
本咽喉頭手術練習用模型は、上述したような前記側方形成用枠部及び前記中心形成用枠部の第一オフセット部及び第二オフセット部の構成に加えて、さらに、上部に中心に向かって矢視側に高くなる喉側本体を設け、ここに複数の留め穴を設けて、適宜所望の留め穴で固定することで下咽頭内腔~中咽頭内腔のより詳細な形状を再現することを可能としている。とりわけ喉側模型の上部にある喉側本体の種々の位置で粘膜素材を固定することができるため、梨状陥凹等の患者ごとに複雑に変化する内腔を再現でき、より精度の高い手術シミュレーションを実行することができる。
【0015】
さらに、前記喉側模型は、
該喉側模型全体をその下方を支点にして矢視方向に開閉可能に前記ベース部材に対して枢結可能とすることで前記咽側模型に対して所望の傾斜角度で位置決め可能な揺動機構と、
前記側方形成用枠部を前記中心形成用枠部に対して互いに側方両側に離間又は接近させて所望の側方位置に位置決め可能な幅間可変機構と、
前記喉側模型全体を前記ベース部材に対して上下方向に移動させて前記咽側模型に対して所望の上下位置に位置決め可能な上下可変機構と、を備える、ことが好ましい。
【0016】
本咽喉頭手術練習用模型は、喉側模型を開閉可能にして所望の傾斜角度で位置決めできるようにする揺動機構(例えば実施形態における揺動機構30)と、喉側模型の側方形成枠部を側方両側に接近・離間可能にして所望の側方位置に位置決めできるようにする幅間可変機構(例えば実施形態における幅間可変機構28)と、喉側模型を上下方向に移動可能にして所望の上下位置に位置決めできるようにする上下可変機構(例えば実施形態における上下可変機構26)とを備えており、これらの揺動機構及び幅間可変機構及び上下可変機構により喉側模型の位置や大きさを手術シミュレーションごとに調整でき、1台の模型で想定患者に応じた詳細な手術シミュレーションを実行することができる。また、上記幅間可変機構や上下可変機構により再現を所望する内腔等が異なっても粘膜素材を装着する際の張力等を調整して、微調整することもできる点でも有利である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の咽喉頭手術練習用模型によれば、豚粘膜等の粘膜素材を容易かつ安定的に装着させながら、種々の想定患者の喉頭展開した状態における咽頭部及びその周囲の内腔を高精度に再現することができる。さらに、本発明の咽喉頭手術練習用模型では、手術シミュレーション実行後に取り外して洗浄できるため反復使用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態例としての咽喉頭手術練習用模型を左斜め矢視方向から見た斜視図を示している。
【
図2】本咽喉頭手術練習用模型の咽側模型及び喉側模型を開放した状態を示す
図1と同視点の斜視図を示している。
【
図4】(a)は、咽側模型及びベース部材を矢視方向表側から見た天面図、(b)は、喉側模型を背方向裏側から見た底面図を示している。
【
図5】咽側模型に粘膜素材を位置決めした様子を示す写真図を示している。
【
図6】喉側模型が開いた状態で取り外された様子を示す斜視図を示している。
【
図7】喉側模型を下方背側から見た部分斜視図を示している。
【
図8】喉側模型に粘膜素材を装着した状態を示す
図7と略同視点の写真図を示している。
【
図9】粘膜素材を装着した状態を示す
図1と略同視点の写真図を示している。
【
図10】粘膜素材の装着に用いる留め具の一例であるピン及びクリップの斜視写真図を示している。
【
図11a】幅間可変機構により側方形成用枠部が閉じた様子を示した矢視方向表側から見た天面図示している。
【
図11b】幅間可変機構により側方形成用枠部が側方に開いた様子を示した矢視方向表側から見た天面図示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、上述する本発明の咽喉頭手術練習用模型10(以下、「手術シミュレータ10」とも称する。)の概要について
図1~
図11を参照しつつ説明する。
図1には、本咽喉頭手術練習用模型10を左斜め矢視方向から見た斜視図、
図2には、本咽喉頭手術練習用模型10の咽側模型13及び喉側模型16を開放した状態を示す
図1と同視点の斜視図、
図3は、
図2の側面図、
図4(a)は、咽側模型13及びベース部材12を矢視方向表側から見た天面図、
図4(b)は、喉側模型16を背方向裏側から見た底面図、
図5は、咽側模型に粘膜素材を位置決めした様子を示す写真図、
図6は喉側模型16が開いた状態で取り外された様子を示す斜視図、
図7は喉側模型16を下方背側から見た部分斜視図、
図8は喉側模型16に粘膜素材11を装着した状態を示す
図7と略同視点の写真図、
図9は粘膜素材11を装着した状態を示す
図1と略同視点の写真図、
図10は粘膜素材11の装着に用いる留め具の一例であるピン40及びクリップ41の写真図、
図11aは幅間可変機構28により側方形成用枠部18が閉じた様子を示した矢視方向表側から見た天面図、
図11bは幅間可変機構28により側方形成用枠部18が側方両側に開いた様子を示した矢視方向表側から見た天面図、を示している。
【0020】
なお、本明細書で示す方向位置は、
図1右上に示す体軸基準で上下方向、側方向、矢視又は背方向と表記するものとし、それぞれ咽喉頭手術練習用模型10を基準とする長手方向、幅方向、上下方向が相当する。
【0021】
図1、
図9等に示すように本咽喉頭手術練習用模型10は概ね、咽喉近傍の各模型を装着したベース部材12を手術練習用の台等に設置して手術シミュレーションを行う。本咽喉頭手術練習用模型10は、咽頭部後壁を再現した咽側模型13と喉頭部及び咽頭部後壁を再現した喉側模型16とをそれぞれベース部材12に開閉可能に装着している。
【0022】
《咽側模型13について》
咽側模型13は、喉側模型16と接続された状態では
図1や
図4(a)等に示すように咽頭部模型本体14とその上方に上顎部模型15とが結合して構成されている。まず、上顎部模型15は、上顎部15bから上咽頭部15bにより口腔部上側から上咽頭部近傍を再現しており、上顎部15aの背側と上咽頭部15aの上部とがネジ締結されている。また、上顎部15aの上縁部とベース部材12の上縁表面とは、蝶番15cで結合されており、蝶番15cの枢結軸15dを中心に揺動することで上顎部模型15がベース部材12に対して開閉する(
図3矢印A参照)。なお、上顎部模型15が閉鎖したときその上咽頭部15aの縁部側方両側に設けた固定部15eでベース部材12にネジ締結される(
図4(a)参照)。
【0023】
上顎部模型15の上咽頭部15bは、
図4(a)や
図2等に示すようにその下方に咽頭部模型本体14が連結されている。咽頭部模型本体14は、中咽頭から下咽頭を再現したものであり、背側に凸になって湾曲する咽頭部本体上部14aと咽頭部本体上部14aの側方両側で一対になって下方に延びる咽頭部本体下部14bとで構成されている。そして、咽頭部本体下部14bに豚粘膜等の粘膜素材11を装着して咽頭部後壁を疑似して、口腔部50(
図1参照)から電気メスや鉗子、内視鏡等の手術器具を挿入した際に、咽頭部本体上部14aが手術器具を案内して粘膜素材11にアクセスさせる(口腔部や粘膜素材についての詳細は後述する)。
【0024】
咽頭部本体下部14bに装着する粘膜素材11は、代表的には豚の胃袋等の粘膜素材をカットしたものであり、咽頭部近傍の腫瘍等病変を再現し、切除等の手術シミュレーションを実行する対象である。また、電気メスで病変想定位置をマーキングや切除したり、鉗子でつまんだりできるものであれば、豚粘膜以外の生体組織でも良く、人工素材でも良い。この粘膜素材11を咽頭部本体下部14bの背側から貼り付けて、粘膜素材の手術対象側表面が矢視側に露出するように位置決めする。具体的には咽頭部模型本体14に粘膜素材11を位置決めした写真図である
図5に参照するように、粘膜素材11は、咽頭部模型本体14をベース部材12側に閉鎖する際に粘膜素材11の手術対象面を矢視側に向けて咽頭部下部14bとベース部材12との間に挟み込んで固定部15eをネジ締結することで位置決めする。
【0025】
《喉側模型16について》
次に喉側模型16について
図1~
図3、
図4(b)、
図6~9,
図11を参照しつつ説明する。
【0026】
喉側模型16は、喉頭部やその周囲の咽頭部前壁を再現するものであり、
図3の矢印Bに示すように咽側模型13同様、ベース部材12に対して揺動開閉することができる。具体的に喉側模型16は、ベース部材12の下方に設けられた揺動機構30の枢軸部30aを中心に揺動し、矢視側に開放又は背側に閉鎖することができる。この揺動機構30は、ベース部材12の下端の下端基台26d(後述)に重ねてネジ締結される固定部30bと、その上方の揺動部30cと、揺動部30cと協働回転し、固定部30bと枢結して側方両縁を超えて延びる枢軸部30aとで構成される。開放時には揺動部30cが枢軸部30aを中心にベース部材12から離間して矢視方向(
図3の矢印B時計回り)に揺動し、閉鎖時には揺動部30cがベース部材12に対して水平になるまで接近して背側方向(
図3の矢印B反時計回り)に揺動する、ことで開閉動作が実行される。
【0027】
ベース部材12に対する揺動部30cを所定の傾斜角度で位置決めしたい場合には、枢軸部30aの一方の側部で枢軸部30a及び揺動部30cの揺動をロック又は解除するレバー部30dにより揺動部30cを所定の傾斜角度になった状態で固定する。これにより喉側模型16をベース部材12に対して開閉及び所定の傾斜角度で位置決めでき、その結果、上顎部模型13に対して喉側模型16を矢視方向所定の傾斜角度で位置決めすることができ、後述する下顎部17の上顎部模型13に対する矢視方向位置を調整することができる。その結果、本咽喉頭手術練習用模型10では、種々存在する患者の矢視方向のサイズに適合する手術シミュレーションを容易に行うことができる。
【0028】
また、揺動部30cの背側には、ベース部材12に対して喉側模型16を上下方向(
図3の矢印C方向)に移動及び位置決め可能とする上下可変機構26が装着されている。上下可変機構26は、ベース部材12の下方で上下方向直線に延びるレール部26aと、レール部26a上で滑動自在に配設されたスライダ部材26bと、スライダ部材26bに載置固定されて下方に延びる板状の担持部26cと、担持部26cの下縁部で担持固定されて前述する揺動機構30の固定部30bが重ねて固定される下端基台26dと、レール部材26aに対してスライダ部材26dを位置決めする位置決め部材26eとで構成されている。
【0029】
この上下可変機構26により、喉側模型16はベース部材12に対して上下方向所定の場所に位置決めすることができ、咽側模型13の上顎部模型15に対する下顎部17(後述)に上下方向位置部調整することができる。その結果、本咽喉頭手術練習用模型10では、種々存在する患者の上下方向のサイズ(口腔部の大きさ等)に適合する手術シミュレーションを容易に行うことができる。
【0030】
また、
図6に示すように揺動機構30の上端には喉側模型16の下端部16aと連結するためのアタッチメント27が装着されており、そのアタッチメントの上端部27aから内部下方に延びる磁石で構成された連結用穴27bが設けられている。喉側模型16の下端部16aからは、アタッチメント27の連結用穴27bに挿入可能な磁性金属製の連結用軸部16bが下方に突出しており、連結用軸部16bが連結用穴27bに挿入され、磁力で結合することで喉側模型16がアタッチメント27に連結される。手術シミュレーションを終了した際には磁力に抗してアタッチメント27から喉側模型16を上方に抜去することができ(
図6参照)、喉側模型16から豚粘膜等の粘膜素材(後述)を取り外して、洗浄することができる。
【0031】
次にアタッチメント27に連結される喉側模型16の構成について説明する。
図1及び
図4(b)等に示すように喉側模型16は概ね、上方から下顎骨を疑似する下顎部17と、下顎部17の下方と連続する喉側本体21と、下顎部17から喉側本体21の側方両側それぞれ下方に延びて一対の側方形成用枠部18と、喉側本体21の中心から下方に延びる中心形成用枠部20と、下顎部17の矢視外部から挿入されて中心形成用枠部20の上方に設けられる喉頭鏡模型19と、側方形成用枠部18及び中心形成用枠部20それぞれの下端を連結して側方両側に延びる幅間可変機構28と、で構成されている。
【0032】
まず、下顎部17は、前述する咽側模型13の上顎部15aの下方に隙間を空けて開口した状態で位置決めされ、両者で口腔部50(
図1参照)を形成する。下顎部17の下方で連続する喉側本体21は、咽頭頭部前壁近傍の形状を擬似するように矢視側中央を凸になるよう湾曲させている。
【0033】
喉側本体21の上部は側方両側にわたって配設されており(後述するように幅間可変機構28で分割されることもある)、その下部は後述する粘膜素材11で梨状陥凹等の咽頭前壁側内腔形状を擬似するための隙間又は凹み32が形成されている。また、喉側本体21は、それぞれの側部に沿って下方に延びる側方形成用枠部18が結合している。
【0034】
また、喉側本体21は、その下部の側方向中央で下方に延びる中心形成用枠部20が連結している。この中心形成用枠部20は、その上端が喉頭鏡模型19の先端と連結して粘膜素材11を装着した際に側方向中央部を担持して咽頭部前壁中央を擬似する大径部20cを有し、上下方向中間位置に側方両側に側方形成用枠部18近傍まで延びるブラケット20aが設けられている。
【0035】
次に上記喉側模型16への粘膜素材11の装着方法、及び粘膜素材11を梨状陥凹等の喉頭内腔形状に擬似させる構造を説明する。まず、
図7等に示すように側方形成用枠部18は、それぞれ背側表面(
図7の紙面表側表面)が最もベース部材12に対して低い位置(接近した位置)に配設され、ブラケット20aが矢視側にオフセットされ、ベース部材12に対して高い位置(遠い位置)に配設されている。また、喉側本体21も側方向中心に向かって順次矢視側に向かって高くなっている(ベース部材12に対して離間している)。さらに、中心形成用枠部20の大径部20cが再び背側にオフセットされ、ベース部材12に対して低い位置(接近した位置)に配設されている。
【0036】
また、側方形成用枠部18、中心形成用枠部20のブラケット20a、及び喉側本体21には、それぞれ後述する粘膜素材11を装着するための留め穴18a、20b、及び21aが設けられている。
図6~
図7からもわかるように本例における留め穴18a、20b、及び21aは、後述するピン40を貫通できるようにそれぞれ貫通穴である。
【0037】
側方形成用枠部18の留め穴18aは、側方両側それぞれの側方形成用枠部18の上下方向に沿って共に同じ位置に喉側本体21の上下にわたって複数設けられる。好ましくは、少なくとも側方形成用枠部18の上部と喉側本体21の下端位置近傍の2箇所設けられる。
【0038】
また、中心形成用枠部20のブラケット20aの留め穴20bは、中心形成用枠部20をはさんで側方両側にそれぞれ少なくとも1箇所設けられる。さらに喉側本体21の留め穴21aは、矢視側に湾曲して凸状になる喉側本体21の両側壁において喉頭鏡模型19に至るまでのそれぞれ複数箇所に設けている。
【0039】
次に幅間可変機構28についてその開閉前後を示す
図11及び
図1等を参照しつつ説明する。幅間可変機構28は、側方両側に延びてその下縁部が喉側模型16の下端部16aの上方に結合するベース部材28aに沿ってそれぞれの側方形成用枠部18が互いに接近・離間する。詳細には、ベース部材28aは側方両側それぞれに外側ストッパ部材28b、側方中央部には内側ストッパ部材28cが載置固定されており、外側ストッパ部材28bと内側ストッパ部材28cの間にはベース部材28aに沿って上下に並列に軸部材28dが配設されている。
【0040】
軸部材28dには、その内部に貫通させて軸部材28dに沿ってベース部材28a上で外側ストッパ部材28bと内側ストッパ部材28cの間を滑動する側方両側一対のスライダ部材28eが配設され、この一対のスライダ部材28eがそれぞれ側方形成用枠部18の下端に結合することでスライダ部材28eの滑動に従って側方形成用枠部18も互いに側方向に接近・離間し、側方形成用枠部18の上部にそれぞれ結合する一対の下顎部17も互いに側方向に接近・離間することとなる。この幅間可変機構28により側方形成用枠部18に装着される粘膜素材11に所望の喉頭部形状に応じて適正な側方向の張力を与えることができる。なお、それぞれのスライダ部材28eは外側ストッパ部材28bに接続してスライダ部材28eの滑動をロック及びロック解除し得るロック部材28fが設けられている。
【0041】
次に、粘膜素材11及びその装着方法について説明する。
図8に示すように粘膜素材11は、上記構成の喉側模型16の背側(ベース部材12側)に背側から装着され、手術シミュレーション実行時には粘膜素材11を装着した状態で閉鎖して、
図9に示すようにベース部材12と喉側模型16との間に挟み込んで位置決めする。なお、
図8の例では
図5の例と同様に粘膜素材11として豚粘膜を使用しているが、喉頭部前壁近傍を再現し得るものであればその他の粘膜素材、例えば人工素材でも代替可能である。
【0042】
粘膜素材11の装着は、
図10に示すようなピン40を背側から粘膜素材11を貼り付けた状態で留め穴18a、20b、及び21aに向かって穿し込み、矢視側に抜けたピン41の外周に設けたネジ溝42の所望位置にクリップ41を装着する。これにより種々の粘膜素材11の厚み等が変化しても喉側模型16に安定的に粘膜素材11を固定することができる。なお、ここではピン40とクリップ41で粘膜素材11を固定する方法を例示したが、背側から粘膜素材11を装着した状態で留め穴18a、20b、及び21aに挿入でき、固定できるものであれば他のもので固定しても良い。
【0043】
以下、粘膜素材11の装着方法例について具体的に概説する。
まず、喉側模型16は
図6を参照して前述したようにベース部材12から取り外すことができるため、詳細には
図8に示すように喉側模型16の背側を表(
図4や
図11の紙面側)にして予め準備した粘膜素材11の側方両縁部を側方形成用枠部18、粘膜素材11の側方中央下部を中心形成用枠部20の大径部20c、粘膜素材11の側方中央上部を喉側本体21、に貼り付けて、粘膜素材11側から側方形成用枠部18の留め穴18a、中心形成用枠部20のブラケット20aの留め穴20b、喉側本体21の留め穴21a、それぞれにピン40を穿し込み、裏側に突き抜けたピン40の側方形成用枠部18の表面近傍(裏側表面近傍)をクリップ41で固定する。
【0044】
その後、喉側模型16に粘膜素材11が装着された状態で、喉側模型16の下端部16aをアタッチメント27に取り付けて、
図9に示すように閉鎖する。なお、
図9には粘膜素材11にピン40を穿し込んで留め穴18a、20a、21aから喉側模型16の裏側(
図9の矢視側)に突き抜けたピン40の先端をクリップ41で固定した状態が明確になっている。
【0045】
とりわけ、
図8に示すように粘膜素材11の下方では側方形成用枠部18よりも中心形成用枠部20のブラケット20a及び隙間又は凹み32が矢視側にオフセットした後、大径部20cで再び背側にオフセットしており、粘膜素材11の上方では、側方形成用枠部18よりも喉側本体21が矢視側に順次オフセットしているため、粘膜素材11を喉頭部周囲の咽頭前壁近傍の内腔形状、特に留め穴20b近傍で梨状陥凹等の形状、を再現している。このように粘膜素材11で形成された咽頭部前壁近傍の梨状陥凹等の中咽頭内腔及び/又は下咽頭内腔形状の再現箇所に手術器具をアクセスして手術シミュレーションを行うことができる。
【0046】
なお、咽側模型13と喉側模型16とがベース部材12に対して閉鎖し、位置決めを確定する際の最終工程で、上顎部模型15と下顎部17とを仮止め機構33で固定する。仮止め機構33は、上下方向に長いスリット33aとその下方に貫通孔33bを有する。この仮止め機構33は、そのスリット33a内で上顎部模型15の側方両側に突出する突出軸33cが挿入されることで、上顎部模型15に対して相対的に移動するものであり、貫通孔33bの位置を下顎部17に設けた受容穴(図示せず)に合わせてピン等で固定することで上顎部模型15に対する下顎部17を固定する。
【0047】
以上、本発明の咽喉頭手術練習用模型についての実施形態について
図1~
図11を参照しつ説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく特許請求の範囲および明細書等に記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例、改良例が得られることが当業者は理解できるであろう。
【符号の説明】
【0048】
10 咽喉頭手術練習用模型
11 粘膜素材
12 ベース部材
13 咽側模型
14 咽頭部模型本体
14a 咽頭部本体上部
14b 咽頭部本体下部
14c 隙間
15 上顎部模型
15a 上顎部
15b 上咽頭部
15c 蝶番
15d 枢結軸
15e 固定部
16 喉側模型
16a 下端部
16b 連結用軸部
17 下顎部
18 側方形成用枠部
18a 留め穴
19 喉頭鏡模型
20 中心形成用枠部
20a ブラケット(第一オフセット部)
20b 留め穴
20c 大径部(第二オフセット部)
21 喉側本体
21a 留め穴
32 隙間又は凹み
33 仮止め機構
26 上下可変機構
26a レール部
26b スライダ部材
26c 担持部
26d 下端基台
26e 位置決め部材
27 アタッチメント
27a 上端部
27b 連結用穴
28 幅間可変機構
28a ベース部材
28b 外側ストッパ部材
28c 内側ストッパ部材
28d 軸部材
28e スライダ部材
28f ロック部材
30 揺動機構
30a 枢軸部
30b 固定部
30c 揺動部
30d レバー部
33 仮止め機構
33a スリット
33b 貫通孔
33c 突出軸
40 ピン(咽頭部形成用固定手段)
41 クリップ(咽頭部形成用固定手段)
42 ネジ溝
50 口腔部