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特開2024-53736離着陸危険度判定システム、離着陸危険度判定プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053736
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】離着陸危険度判定システム、離着陸危険度判定プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法
(51)【国際特許分類】
   B64F 1/36 20240101AFI20240409BHJP
【FI】
B64F1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160121
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 緑
(72)【発明者】
【氏名】玉山 雅人
(57)【要約】
【課題】都市複雑空間における離着陸の危険度を高精度に判定する離着陸危険度判定システム、離着陸危険度予測プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る離着陸危険度判定システムは、警戒指数判定部を具備する。前記警戒指数判定部は、事前に生成された相関関係であって、垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に複数が配置され、風による圧力変動を検出する圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数の相関関係と、前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動に基づいて前記警戒指数を判定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
事前に生成された相関関係であって、垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に複数が配置され、風による圧力変動を検出する圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数の相関関係と、前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動に基づいて前記警戒指数を判定する警戒指数判定部
を具備する離着陸危険度判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記相関関係を生成する相関解析部をさらに具備し、
前記相関解析部は、前記垂直離着陸空間の風況を示す風況動画に基づいて指定された前記警戒指数と、前記風況動画の撮影期間において前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動から前記相関関係を生成する
離着陸危険度判定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記垂直離着陸空間内に配置され、風況に応じて視覚的変化を生じる風況提示物体を撮影し、前記風況動画を生成する風況動画生成部と、
前記垂直離着陸機の熟練操縦者が前記風況提示物体を参照して判定した警戒指数と前記風況提示物体の状態についての機械学習により生成された学習則を利用して前記風況動画を前記警戒指数に変換する警戒指数変換部と
をさらに具備する離着陸危険度判定システム。
【請求項4】
請求項1に記載の離着陸危険度判定システムであって、
所定時間後に前記複数の圧力センサが検出すると推定される圧力変動を予測する圧力変動予測部をさらに具備し、
前記警戒指数判定部は、さらに前記圧力変動予測部が予測した圧力変動と前記相関関係に基づいて前記警戒指数を判定する
離着陸危険度判定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記圧力変動算出部は、前記複数の圧力センサが配置された領域の周辺領域の風況をCFD(Computational Fluid Dynamics)解析により算出し、前記圧力変動を予測する
離着陸危険度判定システム。
【請求項6】
請求項1に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記複数の圧力センサをさらに具備する
離着陸危険度判定システム。
【請求項7】
請求項6に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記垂直離着陸空間は、高層ビル群を構成する高層ビルの屋上に位置し、
前記複数の圧力センサは、前記高層ビル及び前記高層ビルの周囲の高層ビルの外壁又は屋上に配置されている
離着陸危険度判定システム。
【請求項8】
請求項1に記載の離着陸危険度判定システムであって、
前記警戒指数判定部が決定した警戒指数を前記垂直離着陸機又は前記垂直離着陸機の運行管理システムに送信する警戒指数送信部をさらに具備する
離着陸危険度判定システム。
【請求項9】
事前に生成された相関関係であって、垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に複数が配置され、風による圧力変動を検出する圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数の相関関係と、前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動に基づいて前記警戒指数を判定する警戒指数判定部
として情報処理装置を動作させる離着陸危険度判定プログラム。
【請求項10】
垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に、風による圧力変動を検出する圧力センサを複数配置し、
前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と、前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数をトレーニングデータと検証用データに分割し、
前記トレーニングデータを用いて最適化問題を解き、
前記検証用データを用いて前記複数の圧力センサの近似性能を評価し、近似性能が不十分な場合、前記複数の圧力センサの配置を調整する
離着陸危険度判定システム構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市複雑空間における垂直離着陸機の離着陸危険度を予測する離着陸危険度判定システム、離着陸危険度予測プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市空間内を、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の小型機が往来するアーバンエアモビリティ(UAM=Urban Air Mobility)構想が進められている。都市空間では、構造物間のビル風や吹きおろしの影響等、自由空間では発生しない特殊乱気流が発生する。UAMの安全な離着陸を支援するために、UAMの離着陸場であるVertiport空間(20m×20m×20m程度)における気流の情報を提供する気流情報提供システムが望まれている。
【0003】
既存の気流情報提供技術として、CFD(Computational Fluid Dynamics;数値流体力学)技術がある(例えば、特許文献1参照)。CFD技術は、流体の運動に関する方程式をコンピュータで解くことによって流れを観察する数値解析及びシミュレーション技術であり、非定常高解像度風況解析を可能とする。数値計算ではなく、気流の直接観測の方法としては、ドップラーライダー又はドップラーソーダを利用したリモートセンシングがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-45049号公報
【特許文献2】特開2014-159725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CFD技術を都市複雑空間における局所的な気流予測に利用する場合、都市空間特有の形状複雑性と熱環境(アスファルト、ビルの排熱等)の不確定性により、境界条件が定まらず、計算精度の信頼性は期待できない。計算コストも莫大で実用は不可能である。したがって、現在のCFD技術のみでは都市複雑空間の局所的な気流を高精度で予測することは困難である。
【0006】
また、リモートセンシングを利用する場合、レーザ光は雨や霧で散乱するため、ドップラーライダーの精度は天候に左右される。また、ドップラーライダー及びドップラーソーダ共に20m以下の近距離の測定は困難である。さらに機器設置・保守のコストは実装の壁となる。空間スキャン機能の搭載も可能であるが高速処理向きでないため、多点同時観測は不可能である。都市空間低層においては、リモートセンシングではカバーできない死角空域が避けられない。さらに、悪天候が計測精度低下に影響するケースもある。
【0007】
気象庁も独自の観測網とCFD解析を用いて数値予測を実施しているが、最も細かい局地モデル(LFM=Local Forecast Model)でも、2kmメッシュ、予測頻度は1時間毎で、時空間解像度、実況性ともに不十分である。WRF(Weather Research and Forecasting)を用いた高解像度化(200mメッシュ、9時間先まで)、ライダー走査による観測点補強による高解像度化(100mメッシュ、1時間先まで)の試みもあるがまだ実験段階である。このため、都市空間における局所風況把握には解像度が粗すぎる。このように、従来技術のみでは、都市複雑空間におけるVertiport空間の局所風況提示は困難である。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、都市複雑空間における離着陸の危険度を高精度に判定する離着陸危険度判定システム、離着陸危険度予測プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る離着陸危険度判定システムは、警戒指数判定部を具備する。
前記警戒指数判定部は、事前に生成された相関関係であって、垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に複数が配置され、風による圧力変動を検出する圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数の相関関係と、前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動に基づいて前記警戒指数を判定する。
【0010】
前記離着陸危険度判定システムは、
前記相関関係を生成する相関解析部をさらに具備し、
前記相関解析部は、前記垂直離着陸空間の風況を示す風況動画に基づいて指定された前記警戒指数と、前記風況動画の撮影期間において前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動から前記相関関係を生成してもよい。
【0011】
前記離着陸危険度判定システムは、
前記垂直離着陸空間内に配置され、風況に応じて視覚的変化を生じる風況提示物体を撮影し、前記風況動画を生成する風況動画生成部と、
前記垂直離着陸機の熟練操縦者が前記風況提示物体を参照して判定した警戒指数と前記風況提示物体の状態についての機械学習により生成された学習則を利用して前記風況動画を前記警戒指数に変換する警戒指数変換部と
をさらに具備してもよい。
【0012】
前記離着陸危険度判定システムは、
所定時間後に前記複数の圧力センサが検出すると推定される圧力変動を予測する圧力変動予測部をさらに具備し、
前記警戒指数判定部は、さらに前記圧力変動予測部が予測した圧力変動と前記相関関係に基づいて前記警戒指数を判定してもよい。
【0013】
前記圧力変動算出部は、前記複数の圧力センサが配置された領域の周辺領域の風況をCFD(Computational Fluid Dynamics)解析により算出し、前記圧力変動を予測してもよい。
【0014】
前記離着陸危険度判定システムは、
前記複数の圧力センサをさらに具備してもよい。
【0015】
前記垂直離着陸空間は、高層ビル群を構成する高層ビルの屋上に位置し、
前記複数の圧力センサは、前記高層ビル及び前記高層ビルの周囲の高層ビルの外壁又は屋上に配置されていてもよい。
【0016】
前記離着陸危険度判定システムは、
前記警戒指数判定部が決定した警戒指数を前記垂直離着陸機又は前記垂直離着陸機の運行管理システムに送信する警戒指数送信部
をさらに具備してもよい。
【0017】
本発明の一形態に係る離着陸危険度判定プログラムは、
事前に生成された相関関係であって、垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に複数が配置され、風による圧力変動を検出する圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数の相関関係と、前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動に基づいて前記警戒指数を判定する警戒指数判定部
として情報処理装置を動作させる。
【0018】
本発明の一形態に係る離着陸危険度判定システム構築方法は、
垂直離着陸機が離着陸する垂直離着陸空間の周囲に、風による圧力変動を検出する圧力センサを複数配置し、
前記複数の圧力センサがそれぞれ検出した圧力変動と、前記垂直離着陸空間に対する前記垂直離着陸機の離着率困難性を示す警戒指数をトレーニングデータと検証用データに分割し、
前記トレーニングデータを用いて最適化問題を解き、
前記検証用データを用いて前記複数の圧力センサの近似性能を評価し、近似性能が不十分な場合、前記複数の圧力センサの配置を調整する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、都市複雑空間における離着陸の危険度を高精度に判定する離着陸危険度判定システム、離着陸危険度予測プログラム及び離着陸危険度判定システム構築方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る離着陸危険度判定システムの構成を示すブロック図である。
図2】垂直離着陸空間の模式図である。
図3】垂直離着陸空間及び垂直離着陸機の模式図である。
図4】実況担当領域の模式図である。
図5】前記離着陸危険度判定システムが備える圧力センサの斜視図である。
図6】前記圧力センサの配置を示す模式図である。
図7】前記離着陸危険度判定システムの動作を示す模式図である。
図8】前記離着陸危険度判定システムの風況動画撮影部による風況動画の撮影を示す模式図である。
図9】前記離着陸危険度判定システムにおける警戒指数の判定方法の模式図である
図10】前記離着陸危険度判定システムの警戒指数変換部による風況提示物体の認識結果を示す模式図である。
図11】前記離着陸危険度判定システムの構築手順を示すフローチャートである
図12】離着陸危険度判定システムのシステム構成例を示す模式図である
図13】第1の実施形態の変形例に係る離着陸危険度判定システムの動作を示す模式図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係る離着陸危険度判定システムの構成を示すブロック図である。
図15】実況担当領域及びその周囲を示す模式図である。
図16】前記離着陸危険度判定システムの圧力変動予測部よる圧力場の低次元化を示す模式図である。
図17】前記圧力変動予測部による縮約圧力場の動特性のモデル化を示す模式図である。
図18】前記圧力変動予測部による圧力変動の予測アルゴリズムの設計手順を示すフローチャートである。
図19】前記離着陸危険度判定システムの動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る離着陸危険度判定システムについて説明する
【0022】
[離着陸危険度判定システムの構成]
図1は本実施形態に係る離着陸危険度判定システム100の構成を示すブロック図である。同図に示すように離着陸危険度判定システム100は、圧力センサ群110、実験用情報処理装置120、危険度判定用情報処理装置130及び風況動画生成部140を備える。
【0023】
離着陸危険度判定システム100は「垂直離着陸空間」の離着陸危険度を判定するシステムである。垂直離着陸空間は「Vertiport空間」とも呼ばれ、垂直離着陸機が離着陸する空間である。垂直離着陸機はヘリコプター、ドローン及びeVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の垂直離着陸が可能な航空機を含み、有人機及び無人機の両方を含む。
【0024】
図2及び図3は垂直離着陸空間151の模式図である。図2に示すように垂直離着陸空間151は高層ビル152の屋上に設けられた垂直離着陸場153上の空間である。垂直離着陸場153は例えばヘリポートである。図3に示すように垂直離着陸空間151は立方体形状を有し、垂直離着陸機154が垂直離着陸場153への垂直離着陸を実行する空間である。垂直離着陸空間151の一辺は例えば20mである。
【0025】
垂直離着陸空間151は「実況担当領域」中に設けられている。図4は実況担当領域を示す模式図である。同図に示すように高層ビル152が林立する高層ビル群155において複数の高層ビル152上に垂直離着陸空間151が設けられている。以下、この高層ビル群155を囲む領域を実況担当領域156とする。実況担当領域156は例えば半径200mの領域である。
【0026】
図4に示すように垂直離着陸空間151が高層ビル群155内に位置する場合、都市空間特有の形状複雑性や熱環境(アスファルト、ビルの排熱等)の不確定性により、既存のCFD(Computational Fluid Dynamics;数値流体力学)技術で垂直離着陸空間151の離着陸危険度を判定することは困難である。しかしながら、本実施形態に係る離着陸危険度判定システム100は、このような垂直離着陸空間151における離着陸危険度の判定に好適である。
【0027】
圧力センサ群110は、風による圧力変動を検出する圧力センサの群である。図5は圧力センサ群110を構成する圧力センサ111の模式図であり、図5(a)は側面図、図5(b)は底面図である。同図に示すように、圧力センサ111は第1ポート112、第2ポート113、圧力センサ素子114、GPSモジュール115及びアンテナ116を備える。
【0028】
第1ポート112は圧力センサ111の筐体外部に設けられた圧力孔117と圧力センサ素子114を接続する。図5に示すように圧力センサ111の底面は半球面形状を有し、圧力孔117はその中央に設けられている。圧力孔117の周囲には乱流を生成するボルテックスジェネレータ118が設けられている。第2ポート113は圧力センサ111の筐体内部(圧力孔117と高度差がない無風地点)と圧力センサ素子114を接続する。
【0029】
圧力センサ素子114はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等からなり、第1ポート112と第2ポート113の圧力差を検出する。圧力孔117を風が通過すると、風速に応じて第1ポート112と第2ポート113の圧力差が変動するため、圧力センサ素子114は風による圧力変動を検出することができる。
【0030】
圧力センサ素子114の計測範囲は例えば±500Paである。なお、圧力センサ111の検出値に対する騒音による音圧外乱を検討すると、音圧0dB(基準音圧)が20×10-6Paに対し、100dB(大型ドローン、ヘリコプター)は2Paであり影響は小さい。また、120dB(耐え難い音響)は20Paであり、影響はあるが、第1ポート112と第2ポート113の圧力差で相殺可能である。
【0031】
GPS(Global Positioning System)モジュール115はGPS衛星から信号を受信し、時刻及び自己位置を取得する。アンテナ116は圧力センサ素子114の出力、即ち上記圧力変動を時刻及び自己位置と共に実験用情報処理装置120及び危険度判定用情報処理装置130に送信する。
【0032】
圧力センサ111は実況担当領域156内において垂直離着陸空間151の周囲に複数が配置される。図6は圧力センサ111の配置を示す模式図である。同図に示すように圧力センサ111は垂直離着陸空間151が設けられた高層ビル152及びその周囲の高層ビル152の外壁及び屋上に配置されている。圧力センサ111は比較的小型(数cm角程度)であるため、配置の自由度は大きい。
【0033】
実験用情報処理装置120は事前の実験に用いられる情報処理装置であり、図1に示すように警戒指数変換部121及び相関解析部122を備える。後述するように警戒指数変換部121は「風況動画」を警戒指数に変換し、生成した警戒指数を相関解析部122に供給する。相関解析部122は圧力センサ群110から供給された圧力変動と、警戒指数変換部121から供給された警戒指数から圧力変動と警戒指数の相関関係を生成し、生成した相関関係を危険度判定用情報処理装置130に供給する。
【0034】
危険度判定用情報処理装置130は垂直離着陸空間151の離着陸危険度判定に用いられる情報処理装置であり、図1に示すように警戒指数判定部131及び警戒指数送信部132を備える。後述するように警戒指数判定部131は圧力センサ群110の圧力変動と相関解析部122から供給された相関関係から垂直離着陸空間151の警戒指数を判定する。警戒指数送信部132は警戒指数判定部131が判定した警戒指数を外部に送信する。なお、危険度判定用情報処理装置130は警戒指数送信部132を備えないものであってもよい。
【0035】
実験用情報処理装置120及び危険度判定用情報処理装置130の各構成は、CPU(Central Processing Unit)及びRAM(Random Access Memory)等から構成される情報処理装置のハードウェアとソフトウェアの協働により実現される機能的構成である。また、実験用情報処理装置120と危険度判定用情報処理装置130は別の情報処理装置であってもよく、一つの情報処理装置であってもよい。
【0036】
風況動画生成部140は動画撮影が可能なカメラを備え、後述する「風況動画」を生成する。風況動画生成部140は生成した風況動画を警戒指数変換部121に供給する。
【0037】
[離着陸危険度判定システムの動作]
離着陸危険度判定システム100の動作について説明する。図7は離着陸危険度判定システム100の動作を示す模式図である。同図に示すように離着陸危険度判定システム100の動作は準備フェーズP1と警戒指数判定フェーズP2を含む。
【0038】
準備フェーズP1は警戒指数判定フェーズP2の事前準備を行うフェーズである。準備フェーズP1では、垂直離着陸空間151の風況を示す動画である「風況動画」の撮影と圧力センサ111による圧力変動の検出を行う。図8は風況動画の撮影を示す模式図である。同図に示すように、垂直離着陸空間151内に風況提示物体161が配置されている。
【0039】
風況提示物体161は風況に応じて視覚的変化を生じる物体であり、例えば吹き流しである。また、風況提示物体161は風車やバルーン等、風況に応じて視覚的変化を生じる他の物体であってもよい。風況提示物体161のサイズは、垂直離着陸機154のサイズに応じて選択され、例えば吹き流しの場合、垂直離着陸機154のサイズと同等のサイズのものが好適である。風況提示物体161は1つでもよいが、図8に示すように垂直離着陸空間151の鉛直方向及び水平方向にそれぞれ複数を配置すると好適である。風況提示物体161は例えば伸縮ポールを用いて各位置に配置することができる。
【0040】
この風況提示物体161を、風況動画生成部140がカメラ162によって撮影し、風況動画を生成する。カメラ162は風況提示物体161を撮影できる位置に配置され、図8に示すように垂直離着陸空間151の下方中央部や垂直離着陸空間151の外部に配置される。カメラ162の数は1つでも複数でもよい。以下、風況動画が撮影されている期間を「撮影期間」とする。風況動画の撮影速度は例えば30Hzである。風況動画生成部140は生成した風況動画を警戒指数変換部121(図1参照)に出力する。
【0041】
警戒指数変換部121は、風況動画を「警戒指数」に変換する。警戒指数は、垂直離着陸機154の離着率危険度を示す指数であり、例えば「1:容易」、「2:要熟練」、「3:危険」のような指数である。指数は5段階や10段階であってもよい。警戒指数は垂直離着陸機154の操縦に熟練した者(以下、熟練操縦者)が、風況動画の一部(例えば30秒間)を切り出した動画において風況提示物体161を視認しながら判定することができる。
【0042】
図9は警戒指数の判定方法の例を示す模式図である。熟練操縦者は例えば、図9に示す上段の風況提示物体161aのみから警戒指数を判定し、次に下段の風況提示物体161bのみから警戒指数を判定し、さらに、全体の風況提示物体161a及び161bから警戒指数を判定することができる。熟練操縦者はこの他の手法で警戒指数を判定してもよい。
【0043】
図10は警戒指数変換部121による風況提示物体161の認識結果を示す模式図である。警戒指数変換部121は図10(a)及び(b)に示すように、画像認識処理等により風況動画において風況提示物体161の風による状態変化を認識する。図10(a)及び(b)は警戒指数変換部121が認識した風況提示物体161の形状163を示し、警戒指数変換部121は形状163の変化を風による状態変化として認識することができる。警戒指数変換部121はこの認識結果と熟練操縦者が判定した警戒指数を関連付けて教師データを生成し、蓄積した教師データから学習則を生成する。
【0044】
学習則は例えば、「全ての風況提示物体161の形状変化が一定量以下であれば警戒指数:1(容易)」、「上段の風況提示物体161の形状変化が一定量以上、下段の同形状変化が一定量以下であれば警戒指数:2(要熟練)」、「上段の風況提示物体161の形状変化が一定量以下、下段の同形状変化が一定量以上であれば警戒指数:3(危険)」のような内容となる。
【0045】
警戒指数変換部121は風況動画生成部140から風況動画が供給されると、風況動画に学習則を適用して一定時間毎に警戒指数に変換し、「警戒指数時系列」を生成する。警戒指数変換部121は生成した警戒指数時系列を相関解析部122に供給する。
【0046】
圧力センサ群110の各圧力センサ111は、風況動画の撮影期間に風による圧力変動を検出する。即ちカメラ162による風況動画の撮影と各圧力センサ111による圧力変動の検出は同期されている。圧力変動の検出速度は例えば10Hzである。図7において各圧力センサ111が検出した圧力変動を「多点圧力変動H1」として示す。圧力センサ群110は多点圧力変動H1である「多変数時系列」を相関解析部122(図1参照)に出力する。
【0047】
相関解析部122は圧力センサ群110から供給された多点圧力変動H1と警戒指数変換部121から供給された警戒指数の相関解析を実行し、圧力変動と警戒指数の相関関係を生成する。相関解析部122は、これらの圧力変動と警戒指数についてLasso回帰法等の最適化問題を解くことにより、圧力変動と警戒指数の相関関係を生成することができる。この際、相関解析部122は、「この圧力センサ111の圧力変動は警戒指数との相関が大きい」、「この圧力センサ111の圧力変動は警戒指数との相関が小さい」、「この圧力センサ111の圧力変動は警戒指数との相関がない」のように各圧力センサ111の最適化が可能である。
【0048】
離着陸危険度判定システム100は準備フェーズP1において以上のように動作する。準備フェーズP1は垂直離着陸空間151毎に実行される。準備フェーズP1の実行期間、即ち風向動画の撮影期間は数週間から数か月程度が好適である。
【0049】
警戒指数判定フェーズP2は、垂直離着陸空間151の警戒指数を判定するフェーズである。警戒指数判定フェーズP2では、風況提示物体161は垂直離着陸空間151から除去されている。図7に示すように警戒指数判定部131は、圧力センサ群110から各圧力センサ111が検出した多点圧力変動H2が供給されると、相関解析部122が生成した相関関係と多点圧力変動H2から警戒指数を判定する。この相関関係は上述のように各圧力センサ111が検出した圧力変動と警戒指数の相関関係であるため、警戒指数判定部131は多点圧力変動H2にこの相関関係を適用することで警戒指数を判定することができる。
【0050】
警戒指数判定部131は圧力センサ群110から多点圧力変動H2が供給されると、リアルタイム(例えば1秒毎)に警戒指数を判定することができる。警戒指数判定部131は常に警戒指数の判定を実行してもよく、外部から警戒指数の問い合わせがあったときのみ警戒指数の判定を実行してもよい。また、多点圧力変動H2の一部又は全部が規定値を超える場合にのみ警戒指数の判定を実行してもよい。
【0051】
警戒指数送信部132は、警戒指数判定部131が判定した警戒指数132を外部に送信する。送信先は直接、又はコンピュータネットワークを介して接続された他の情報処理装置、垂直離着陸機154、垂直離着陸機154の運行管理システム等であり特に限定されない。
【0052】
例えば、垂直離着陸機154が有人機である場合、操縦者が特定の垂直離着陸空間151から離陸、又は特定の垂直離着陸空間151に着陸しようとする際に、警戒指数送信部132が当該垂直離着陸空間151の警戒指数を垂直離着陸機154に送信することができる。垂直離着陸機154の操縦者は警戒指数を参照して離陸又は着陸を実行する、離陸又は着陸を中止する、近隣の垂直離着陸空間151へ着陸する等の判断を行うことができる。また、警戒指数送信部132が垂直離着陸機154の運行管理システムに警戒指数を送信すると、運行管理者が警戒指数を参照して前記判断を行うこともできる。
【0053】
垂直離着陸機154が遠隔操作される無人機である場合、警戒指数送信部132が操縦用端末に警戒指数を送信すると、操縦者は警戒指数を参照して上記のような判断を行うことができる。また、垂直離着陸機154が自律航行可能な無人機である場合、警戒指数送信部132が運行管理システムに警戒指数を送信すると、運行管理者は警戒指数を参照して上記のような判断を行うことができる。また、警戒指数送信部132が自律航行可能な無人機に警戒指数を送信し、無人機自身が上記のような判断を行ってもよい。なお、警戒指数を取得しようとするユーザが危険度判定用情報処理装置130を操作する場合、警戒指数送信部132は設けられなくてもよい。
【0054】
[離着陸危険度判定システムによる効果]
離着陸危険度判定システム100では上述のように、圧力センサ群110が検出した多点圧力変動H2から垂直離着陸空間151の警戒指数を判定することができる。垂直離着陸空間151の風況を提示する風況提示物体161は準備フェーズP1においてのみ垂直離着陸空間151に配置され、警戒指数判定フェーズP2では垂直離着陸空間151に配置されない。このため、風況提示物体161が垂直離着陸機154の離着陸の障害になることが防止されている。
【0055】
一方で、離着陸危険度判定システム100では、準備フェーズP1において風況提示物体161を用いて判定された警戒指数と圧力センサ群110が検出する圧力変動の相関関係を生成しておくことで、警戒指数判定フェーズP2では圧力センサ群110が検出する圧力変動から高精度に警戒指数を判定することができる。
【0056】
圧力センサ111としては市販の圧力センサを利用することができ、小型低コストセンサの多点ばらまき型観測網を形成することができる。ただし、単なるばらまきではなく、観測網の最適化が実施されている。離着陸危険度判定システム100では垂直離着陸空間151の風況を、風況提示物体161を用いて可視化し、実測に基づいて観測網を設計することにより、CFD計算のみでは困難な高精度実況を実現可能である。
【0057】
[離着陸危険度判定システムの構築手順]
離着陸危険度判定システム100の構築手順について説明する。図11は離着陸危険度判定システム100の構築手順を示すフローチャートである。同図に示すように、まず垂直離着陸空間151の周囲に、複数の圧力センサ111を配置する(St101)。圧力センサ111は設置可能な場所に経験則に基づいて配置することができる。
【0058】
続いて、圧力センサ111が風による圧力変動を検出し、カメラ162が風況動画を撮影する(St102)。圧力変動の検出と風況動画の撮影は同期させる。さらに、熟練操縦者に風況動画に対して警戒指数を判定させ、警戒指数変換部121が圧力変動に対する警戒指数の学習則を生成させる。続いて、警戒指数変換部121が学習則を用いて風況動画を警戒指数(1変数時系列y)へ変換する(St103)。
【0059】
続いて相関解析部122が、圧力センサ111が検出した圧力変動に対して不適切信号の除去等、圧力データ行列の前処理を実行し、多変数時系列xを生成する(St104)。相関解析部122は多変数時系列xと1変数時系列yをトレーニングデータと検証用データに分割する(St105)。さらに、相関解析部122はトレーニングデータを用いてLasso回帰法を実行する(St106)。
【0060】
続いて、相関解析部122は検証用データを用いて近似性能を評価する(St107)。近似性能が不十分な場合(St108;No)、Lasso回帰法実行ステップ(St106)で選ばれた圧力センサ111以外の圧力センサ111の配置を調整し、圧力変動検出及び風況動画撮影ステップ(St102)へ戻る。近似性能が十分な場合(St108;Yes)、相関解析部122は実装用アルゴリズムを作成し、耐故障性等実用面を考慮した冗長配置を行う(St109)。離着陸危険度判定システム100は以上のようにして構築が可能である。なお、St106ではLasso回帰法以外の手法で最適化問題を解いてもよい。
【0061】
[離着陸危険度判定システムのシステム構成例]
離着陸危険度判定システム100のシステム構成例について説明する。図12は離着陸危険度判定システム100のシステム構成例を示す模式図である。同図に示すように圧力センサ群110は無線通信により実験用情報処理装置120に接続されており、実験用情報処理装置120は圧力センサ群110から多点圧力変動H1(図7参照)を取得する。また、実験用情報処理装置120は無線通信又は有線通信により図示しない風況動画生成部140と接続され、風況動画生成部140から風況動画を取得する。実験用情報処理装置120はこれらから圧力変動と警戒指数の相関関係を生成する。
【0062】
さらに圧力センサ群110は、移動通信回線171を介してインターネット172に接続されており、多点圧力変動H2(図7参照)をインターネット172上にアップロードする。危険度判定用情報処理装置130はインターネット172に接続されており、インターネット172から多点圧力変動H2を取得する。危険度判定用情報処理装置130は事前に実験用情報処理装置120から上記相関関係を取得して保持しており、インターネット172から取得した多点圧力変動H2に上記相関関係を適用することで警戒指数を特定することができる。なお、上記相関関係は多点圧力変動H2と共にインターネット172上にアップロードされていてもよい。
【0063】
ここに示す離着陸危険度判定システム100のシステム構成例は一例であり、上述した離着陸危険度判定システム100の動作を実現できるものであればどのような構成であってもよい。危険度判定用情報処理装置130は上述のように垂直離着陸機154やその運行管理システムに搭載されていてもよい。
【0064】
[変形例]
離着陸危険度判定システム100の変形例について説明する。図13は変形例に係る離着陸危険度判定システム100の動作を示す模式図である。同図に示すように離着陸危険度判定システム100はさらに風速計181備える。風速計181は垂直離着陸空間151内の各位置に配置され、風速3成分(3方向の風速)を計測する。風速計181は例えば超音波風速計である。相関解析部122は警戒指数変換部121から供給された警戒指数と多点圧力変動H1に加え、風速計181が計測した風速3成分の相関関係を生成してもよい。
【0065】
また、上記説明において相関解析部122は、風況動画から変換された警戒指数と多点圧力変動H1の相関関係を生成するとしたがこれに限られず、なんらかの方法で多点圧力変動H1と警戒指数の相関関係を生成するものであればよい。例えば相関解析部122は圧力センサ111が検出した圧力変動に対して熟練操縦者が判定した警戒指数と多点圧力変動H1の相関関係を生成することも可能である。
【0066】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る離着陸危険度判定システムについて説明する。
【0067】
[離着陸危険度判定システムの構成]
図14は本実施形態に係る離着陸危険度判定システム200の構成を示すブロック図である。離着陸危険度判定システム200の構成のうち第1の実施形態に係る離着陸危険度判定システム100と同一の構成については離着陸危険度判定システム100と同一の符号を付し、説明を省略する。図14に示すように離着陸危険度判定システム200は圧力センサ群110、実験用情報処理装置120、危険度判定用情報処理装置230及び風況動画生成部140を備える。危険度判定用情報処理装置230以外の構成は第1の実施形態と同様である。
【0068】
危険度判定用情報処理装置230は垂直離着陸空間151の離着陸危険度判定に用いられる情報処理装置であり、図14に示すように警戒指数判定部231、警戒指数送信部232及び圧力変動予測部233を備える。後述するように警戒指数判定部231は圧力センサ群110の圧力変動と相関解析部122から供給された相関関係から垂直離着陸空間151の警戒指数を判定する。警戒指数送信部232は警戒指数判定部231が判定した警戒指数を外部に送信する。圧力変動予測部233は、一定時間後に各圧力センサ111が検出すると推定される圧力変動を予測する。圧力変動予測部233は予測した圧力変動を警戒指数判定部231に供給する。なお、危険度判定用情報処理装置230は警戒指数送信部232を備えないものであってもよい。
【0069】
実験用情報処理装置120及び危険度判定用情報処理装置230の各構成は、CPU(Central Processing Unit)及びRAM(Random Access Memory)等から構成される情報処理装置のハードウェアとソフトウェアの協働により実現される機能的構成である。また、実験用情報処理装置120と危険度判定用情報処理装置230は別の情報処理装置であってもよく、一つの情報処理装置であってもよい。
【0070】
[圧力変動の予測について]
上記のように、危険度判定用情報処理装置230が備える圧力変動予測部233は一定時間後に各圧力センサ111が検出すると推定される圧力変動を予測する。図15は実況担当領域156(図4参照)及びその周辺領域を示す模式図である。同図に示すように、実況担当領域156の周辺領域を短期予測担当領域251とする。短期予測担当領域251は実況担当領域156を中心とする領域であり、例えば半径3kmの領域である。また、実況担当領域156を含む一定の空間を解析空間252とする。解析空間252内には風による圧力変動を計測する補正用観測ポイント253が設けられている。
【0071】
圧力変動予測部233は風配図等の気象統計により、強風が支配的な風向(図中、矢印)を特定し、同方向に沿った一定空間を解析空間252とする。都市混雑空間である実況担当領域156の外側は、構造物形状を簡略化し、地面粗度として適切に設定することによって、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析によりおおまかな流れ場の把握が可能である。ただし、事前計算のみでは精度が安定しないので、補正用観測ポイント253を追加して精度改善を図る。これにより圧力変動予測部233は、所定時間後に各圧力センサ111が検出すると推定される圧力変動を予測することができる。所定時間は例えば1~5分間である。
【0072】
具体的には圧力変動予測部233は、解析空間252の流れ場の動特性をモデル化し、圧力センサ111の観測値を外挿して、乱れの短時間予測を実現する。図16は圧力変動予測部233よる圧力場の低次元化を示す模式図である。同図に示すように圧力変動予測部233はPOD(Proper Orthogonal Decomposition;固有値直交分解)による特徴空間での低次元化を行い、さらに実(物理)空間での低次元化を行う。p=500×300×100=1500万(格子点数)、t=5min×60s×10Hz=3000(時間ステップ)であり、p>>tであるため、主成分分析を用いて流れの主要特性を失わない範囲でpをrまで縮小する。
【0073】
また、圧力変動予測部233は縮約圧力場の平均的伝搬特性を線形モデル表現し、最小2乗推定と外挿により未来の観測値を予測する。図17はこの予測方法の模式図である。縮約圧力場のNmin.遷移行列A(V,ψ)は、tサンプル時間分の事前のCFDによるデータ行列を用いて次の(式1)により求める。V,ψはそれぞれ解析空間252への流入風の速度と方位を表す。
=Xs,k+N s,k (式1)
【0074】
図18は圧力変動予測部233による圧力変動の予測アルゴリズムの設計手順を示すフローチャートである。同図に示すように圧力変動予測部233は圧力伝搬方程式の状態変数を入れ替え、未知量zと観測量y(既知量)に分割する(St201)。
【0075】
続いて、次の(式2)に最小二乗法を適用し、z^k-1を計算する(St202)。なお、wは適切な白色ノイズを仮定する。
-A22k―1=A21k―1+w (式2)
【0076】
続いて、次の(式3)により、実況担当領域の観測量(圧力変動)の予測値を算出する(St203)。
y^k+1=A21z^+A22
=A21(A11z^k-1+A12k-1)+A22 (式3)
【0077】
以上のようにして圧力変動予測部233は所定時間後に各圧力センサ111が検出すると推定される圧力変動を予測することができる。
【0078】
[離着陸危険度判定システムの動作]
離着陸危険度判定システム200の動作について説明する。図19は離着陸危険度判定システム200の動作を示す模式図である。同図に示すように離着陸危険度判定システム100の動作は準備フェーズP1と警戒指数判定フェーズP2を含む。
【0079】
準備フェーズP1は警戒指数判定フェーズP2の事前準備を行うフェーズである。準備フェーズP1では離着陸危険度判定システム200は第1の実施形態と同様に動作する。即ち、風況動画生成部140は風況動画を撮影し、警戒指数変換部121に出力する。圧力センサ群110は風況動画生成部140による風況動画の撮影に同期して、風による圧力変動である多点圧力変動H1を相関解析部122に出力する。警戒指数変換部121は学習則を用いて風況動画を警戒指数に変換し、相関解析部122に出力する。相関解析部122は多点圧力変動H1と警戒指数の相関解析を実行し、相関関係を生成する。
【0080】
警戒指数判定フェーズP2では、垂直離着陸空間151の警戒指数を判定するフェーズである。第1の実施形態と同様に、警戒指数判定部131は、圧力センサ群110から各圧力センサ111が検出した多点圧力変動H2が供給されると、相関解析部122が生成した相関関係と多点圧力変動H2から警戒指数を判定する。この相関関係は上述のように各圧力センサ111が検出した圧力変動と警戒指数の相関関係であるため、警戒指数判定部131は多点圧力変動H2にこの相関関係を適用することで警戒指数を判定することができる。
【0081】
警戒指数判定部231は圧力センサ群110から多点圧力変動H2が供給されると、リアルタイム(例えば1秒毎)に警戒指数を判定することができる。警戒指数判定部231は常に警戒指数の判定を実行してもよく、外部から警戒指数の問い合わせがあったときのみ警戒指数の判定を実行してもよい。また、多点圧力変動H2の一部又は全部が規定値を超える場合にのみ警戒指数の判定を実行してもよい。
【0082】
さらに、警戒指数判定フェーズP2では圧力変動予測部233から多点圧力変動H3が供給される。多点圧力変動H3は上述のように圧力変動予測部233が予測した、所定時間後に各圧力センサ111が検出すると推定される圧力変動である。警戒指数判定部231は、多点圧力変動H3が供給されると、相関解析部122が生成した相関関係と多点圧力変動H3から警戒指数を判定する。警戒指数判定部231は多点圧力変動H2と同様に、多点圧力変動H3に上記相関関係を適用することで警戒指数を判定することができる。
【0083】
警戒指数判定部231は圧力変動予測部233から多点圧力変動H3が供給されると、リアルタイム(例えば1秒毎)に所定時間後の警戒指数を判定することができる。警戒指数判定部231は常に所定時間後の警戒指数の判定を実行してもよく、外部から所定時間後の警戒指数の問い合わせがあったときのみ警戒指数の判定を実行してもよい。また、多点圧力変動H3の一部又は全部が規定値を超える場合にのみ所定時間後の警戒指数の判定を実行してもよい。
【0084】
警戒指数送信部232は、警戒指数判定部231が判定した警戒指数232を外部に送信する。送信先は第1の実施形態と同様に直接、又はコンピュータネットワークを介して接続された他の情報処理装置、垂直離着陸機154、垂直離着陸機154の運行管理システム等であり特に限定されない。なお、警戒指数を取得しようとするユーザが危険度判定用情報処理装置230を操作する場合、警戒指数送信部232は設けられなくてもよい。
【0085】
[離着陸危険度判定システムによる効果]
離着陸危険度判定システム200は上述のように、圧力センサ群110が検出した多点圧力変動H2から垂直離着陸空間151の警戒指数を判定することができる。さらに、離着陸危険度判定システム200はCFD技術を利用して短時間(例えば1~5分間)後に圧力センサ群110が検出すると推定される多点圧力変動H3を算出し、多点圧力変動H3から垂直離着陸空間151の警戒指数を判定することができる。
【0086】
したがって、離着陸危険度判定システム200は、現時刻のみならず短時間後の警戒指数を予測して判定することが可能であり、ユーザは短時間後の警戒指数も参照しながら離着陸の判断を行うことが可能となる。この他にも離着陸危険度判定システム200は第1の実施形態に係る離着陸危険度判定システム100と同様の効果を有する。
【0087】
[その他]
離着陸危険度判定システム200の構築手順、システム構成例及び変形例は第1の実施形態に係る離着陸危険度判定システム100と同様である。
【0088】
以上、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
100、200…離着陸危険度判定システム
110…圧力センサ群
111…圧力センサ
120…実験用情報処理装置
121…警戒指数変換部
122…相関解析部
130、230…危険度判定用情報処理装置
131、231…警戒指数判定部
132、232…警戒指数送信部
140…風況動画生成部
151…垂直離着陸空間
152…高層ビル
153…垂直離着陸場
154…垂直離着陸機
155…高層ビル群
156…実況担当領域
161…風況提示物体
162…カメラ
233…圧力変動予測部
251…短期予測担当領域
252…解析空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19