(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053772
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20240409BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20240409BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20240409BHJP
H01M 50/169 20210101ALI20240409BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20240409BHJP
H01M 50/176 20210101ALI20240409BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20240409BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20240409BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M50/184 A
H01M50/188
H01M50/193
H01M50/169
H01M50/15
H01M50/176
H01M50/103
H01G11/84
H01G11/78
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160189
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】江原 強
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁
(72)【発明者】
【氏名】永野 泰章
【テーマコード(参考)】
5E078
5H011
【Fターム(参考)】
5E078AA14
5E078AB01
5E078HA05
5E078HA13
5E078LA07
5H011AA09
5H011CC02
5H011CC06
5H011DD01
5H011DD13
5H011FF04
5H011GG01
5H011HH02
5H011JJ07
5H011KK01
(57)【要約】
【課題】蓋部材と端子部材との間を絶縁する樹脂部材の外表面のうち、レーザ光の散乱光が直接届く散乱光到達表面に、焦げ部が生じるのを抑制できる蓄電デバイスの製造方法等を提供すること。
【解決手段】蓄電デバイス1の製造方法は、蓋アセンブリ7のうち蓋部材30で本体部材20の開口部21を塞ぐ閉塞工程S2と、本体部材20の開口部21及び蓋部材30の周縁部31を全周にわたりレーザ溶接する溶接工程S3とを備える。樹脂部材70,80は、外表面70m,80mのうち、レーザ光LBの散乱光LCが直接届く散乱光到達表面70ma,80maの少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域FMとしてなる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する有底筒状の本体部材、及び、上記開口部を閉塞する形態で上記本体部材に全周にわたりレーザ溶接された蓋部材を有するケースと、
上記蓋部材を蓋厚み方向に貫通する挿通孔内に挿通された端子部材と、
上記蓋部材の上記挿通孔を囲む挿通孔周囲部と上記端子部材との間を絶縁しつつ、上記蓋部材の上記挿通孔周囲部及び上記端子部材にそれぞれ接合した樹脂部材と、を備える
蓄電デバイスの製造方法であって、
上記蓋部材に上記樹脂部材を介して上記端子部材を一体化した蓋アセンブリのうち上記蓋部材で、上記本体部材の上記開口部を塞ぐ閉塞工程と、
上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部にレーザ光を照射し、上記開口部及び上記周縁部を全周にわたりレーザ溶接して、上記ケースを形成する溶接工程と、を備え、
上記樹脂部材は、
上記ケースの外部に露出する外表面のうち、上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部のうち上記レーザ光が照射された被照射部位から放射される散乱光が直接届く散乱光到達表面の少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域としてなる
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記閉塞工程に先立って、前記蓋部材の前記挿通孔内に前記端子部材を挿通した状態で、前記樹脂部材をインサート成形して、前記蓋アセンブリを形成する蓋アセンブリ形成工程を更に備え、
上記蓋アセンブリ形成工程は、
上記樹脂部材の前記外表面を成形する表面成形面のうち、前記平滑化領域を成形する平滑化領域成形面を鏡面仕上げとした金型を用いて、上記平滑化領域を含む上記樹脂部材を成形する
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記樹脂部材は、
前記外表面の全面を、前記平滑化領域としてなる
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記閉塞工程に先立って、前記蓋部材の前記挿通孔内に前記端子部材を挿通した状態で、前記樹脂部材をインサート成形して、前記蓋アセンブリを形成する蓋アセンブリ形成工程を更に備え、
上記蓋アセンブリ形成工程は、
上記樹脂部材の前記外表面を成形する表面成形面の全面を鏡面仕上げとした金型を用いて、上記外表面の全面が前記平滑化領域となった上記樹脂部材を成形する
蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
開口部を有する有底筒状の本体部材、及び、上記開口部を閉塞する形態で上記本体部材に全周にわたりレーザ溶接された蓋部材を有するケースと、
上記蓋部材を蓋厚み方向に貫通する挿通孔内に挿通された端子部材と、
上記蓋部材の上記挿通孔を囲む挿通孔周囲部と上記端子部材との間を絶縁しつつ、上記蓋部材の上記挿通孔周囲部及び上記端子部材にそれぞれ接合した樹脂部材と、を備える
蓄電デバイスであって、
上記樹脂部材は、
上記ケースの外部に露出する外表面のうち、上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部のうちレーザ光が照射された被照射部位から放射される散乱光が直接届く散乱光到達表面の少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域としてなる
蓄電デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイスであって、
前記樹脂部材は、
前記外表面の全面を、前記平滑化領域としてなる
蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースに樹脂部材を介して端子部材が固設された、電池やキャパシタなどの蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスとして、直方体箱状のケースに樹脂部材を介して正負の端子部材がそれぞれ固設された角形の電池が知られている。具体的には、ケースは、矩形環状の開口部を有する有底角筒状の本体部材と、開口部を閉塞する形態で本体部材に全周にわたりレーザ溶接された矩形板状の蓋部材とからなる。また正負の端子部材は、蓋部材に穿設された一対の挿通孔内にそれぞれ挿通されて、ケース内部からケース外部に延びている。そして、一対の樹脂部材が、蓋部材と正負の端子部材との間をそれぞれ絶縁しつつ、蓋部材及び端子部材にそれぞれ接合している。関連する従来技術として、例えば特許文献1が挙げられる(特許文献1の
図1、
図2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような電池の製造過程において、予め端子部材を固設しておいた蓋部材で、本体部材の開口部を塞ぎ、本体部材の開口部と蓋部材の周縁部とを全周にわたりレーザ溶接する際に、レーザ光の散乱光が、蓋部材と端子部材との間を絶縁する樹脂部材の外表面に直接届いて、この散乱光が直接届いた散乱光到達表面に、焦げ部が生じることがある。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、本体部材と蓋部材とをレーザ溶接してケースを形成する際に、蓋部材と端子部材との間を絶縁する樹脂部材の外表面のうち、レーザ光の散乱光が直接届く散乱光到達表面に、焦げ部が生じるのを抑制することができる蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、開口部を有する有底筒状の本体部材、及び、上記開口部を閉塞する形態で上記本体部材に全周にわたりレーザ溶接された蓋部材を有するケースと、上記蓋部材を蓋厚み方向に貫通する挿通孔内に挿通された端子部材と、上記蓋部材の上記挿通孔を囲む挿通孔周囲部と上記端子部材との間を絶縁しつつ、上記蓋部材の上記挿通孔周囲部及び上記端子部材にそれぞれ接合した樹脂部材と、を備える蓄電デバイスの製造方法であって、上記蓋部材に上記樹脂部材を介して上記端子部材を一体化した蓋アセンブリのうち上記蓋部材で、上記本体部材の上記開口部を塞ぐ閉塞工程と、上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部にレーザ光を照射し、上記開口部及び上記周縁部を全周にわたりレーザ溶接して、上記ケースを形成する溶接工程と、を備え、上記樹脂部材は、上記ケースの外部に露出する外表面のうち、上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部のうち上記レーザ光が照射された被照射部位から放射される散乱光が直接届く散乱光到達表面の少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域としてなる蓄電デバイスの製造方法である。
【0007】
上述の蓄電デバイスの製造方法では、外表面の散乱光到達表面の少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域とした樹脂部材を有する蓋アセンブリを用いる。これにより、溶接工程において、平滑化領域では、レーザ光の散乱光が直接届いても反射され易く、樹脂部材に吸収され難くなる。このため、平滑化領域で焦げ部が生じ難く、散乱光到達表面に焦げ部が生じるのを抑制することができる。
【0008】
なお、樹脂部材の外表面のうち「平滑化領域」とするのは、散乱光到達表面の少なくとも一部であればよく、散乱光到達表面の一部のみでもよいし、散乱光到達表面の全面でもよく、更には、散乱光到達表面を含む外表面の全面でもよい。また平滑化領域の表面粗度Raは、0.3μm以下、更には0.1μm以下とするのが好ましい。レーザ光の散乱光が平滑化領域で更に反射され易くなって、平滑化領域で焦げ部が更に生じ難くなるからである。
【0009】
また、散乱光到達表面など樹脂部材の外表面の表面粗度Raを0.6μm以下とする手法としては、例えば以下の手法が挙げられる。
(1)樹脂部材を成形する金型のうち、樹脂部材の外表面を成形する表面成形面を鏡面加工する。
(2)樹脂部材の外表面を研磨する。
(3)樹脂部材の外表面を薬剤で処理する。
(4)樹脂部材の外表面に赤外線を照射して表面を溶融させる。
(5)樹脂部材の外表面に熱板を押し付けて表面を溶融させる。
また、樹脂部材の外表面の表面粗度Raは、公知の接触式粗さ計で測定することができる。また、公知の非接触式粗さ計で測定することもできる。
「蓄電デバイス」としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池や、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ、全固体電池などが挙げられる
【0010】
(2)更に(1)に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、前記閉塞工程に先立って、前記蓋部材の前記挿通孔内に前記端子部材を挿通した状態で、前記樹脂部材をインサート成形して、前記蓋アセンブリを形成する蓋アセンブリ形成工程を更に備え、上記蓋アセンブリ形成工程は、上記樹脂部材の前記外表面を成形する表面成形面のうち、前記平滑化領域を成形する平滑化領域成形面を鏡面仕上げとした金型を用いて、上記平滑化領域を含む上記樹脂部材を成形する蓄電デバイスの製造方法とすると良い。
【0011】
上述の蓄電デバイスの製造方法では、蓋アセンブリ形成工程において、表面成形面の平滑化領域成形面を鏡面仕上げとした上述の金型を用いて、平滑化領域を有する樹脂部材を成形する。このため、樹脂部材を成形するのと同時に、樹脂部材の外表面に平滑化領域を成形することができる。
【0012】
(3)更に(1)に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、前記樹脂部材は、前記外表面の全面を、前記平滑化領域としてなる蓄電デバイスの製造方法とすると良い。
【0013】
上述の蓄電デバイスの製造方法では、樹脂部材の外表面の全面を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域としている。これにより、樹脂部材の外表面のいずれの部位においても、レーザ光の散乱光が反射され易くなり、焦げ部の発生を抑制することができる。
【0014】
(4)更に(3)に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、前記閉塞工程に先立って、前記蓋部材の前記挿通孔内に前記端子部材を挿通した状態で、前記樹脂部材をインサート成形して、前記蓋アセンブリを形成する蓋アセンブリ形成工程を更に備え、上記蓋アセンブリ形成工程は、上記樹脂部材の前記外表面を成形する表面成形面の全面を鏡面仕上げとした金型を用いて、上記外表面の全面が前記平滑化領域となった上記樹脂部材を成形する蓄電デバイスの製造方法とすると良い。
【0015】
上述の蓄電デバイスの製造方法では、蓋アセンブリ形成工程において、表面成形面の全面を鏡面仕上げとした上述の金型を用いて、外表面の全面が平滑化領域となった樹脂部材を成形する。このため、樹脂部材を成形するのと同時に、樹脂部材の外表面の全面に平滑化領域を成形することができる。
【0016】
(5)また他の態様は、開口部を有する有底筒状の本体部材、及び、上記開口部を閉塞する形態で上記本体部材に全周にわたりレーザ溶接された蓋部材を有するケースと、上記蓋部材を蓋厚み方向に貫通する挿通孔内に挿通された端子部材と、上記蓋部材の上記挿通孔を囲む挿通孔周囲部と上記端子部材との間を絶縁しつつ、上記蓋部材の上記挿通孔周囲部及び上記端子部材にそれぞれ接合した樹脂部材と、を備える蓄電デバイスであって、上記樹脂部材は、上記ケースの外部に露出する外表面のうち、上記本体部材の上記開口部及び上記蓋部材の周縁部のうちレーザ光が照射された被照射部位から放射される散乱光が直接届く散乱光到達表面の少なくとも一部を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域としてなる蓄電デバイスである。
【0017】
上述の蓄電デバイスでは、樹脂部材の外表面のうち、散乱光到達表面の少なくとも一部を平滑化領域としている。これにより、樹脂部材の散乱光到達表面で焦げ部の発生が抑制されているので、樹脂部材の本来の外観を保つことができる上、発生した焦げ部を経由して蓋部材と端子部材との間の絶縁抵抗が低下するのを抑制することができる。
【0018】
(6)更に(5)に記載の蓄電デバイスであって、前記樹脂部材は、前記外表面の全面を、前記平滑化領域としてなる蓄電デバイスとすると良い。
【0019】
上述の蓄電デバイスでは、樹脂部材の外表面の全面を平滑化領域としている。これにより、樹脂部材の外表面の全面で焦げ部の発生が抑制されているので、樹脂部材の本来の外観を保つことができる上、発生した焦げ部を経由して蓋部材と端子部材との間の絶縁抵抗が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】実施形態に係る電池の電池高さ方向及び電池幅方向に沿う断面図である。
【
図3】実施形態に係る電池の本体部材の開口部及び蓋部材の周縁部近傍における部分拡大断面図であり、(a)は電池高さ方向及び電池幅方向に沿う部分拡大断面図であり、(b)は電池高さ方向及び電池厚み方向に沿う部分拡大断面図である。
【
図4】実施形態に係る電池の製造方法のフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る電池の製造方法に関し、蓋アセンブリ形成工程で形成される蓋アセンブリを示す説明図である。
【
図6】実施形態に係る電池の製造方法に関し、蓋アセンブリ形成工程において、金型内に溶融樹脂を注入した様子を示す説明図であり、(a)は電池高さ方向及び電池幅方向に沿う部分拡大断面の説明図であり、(b)は電池高さ方向及び電池厚み方向に沿う部分拡大断面の説明図である。
【
図7】実施形態に係る電池の製造方法に関し、閉塞工程において、蓋アセンブリをなす蓋部材で、本体部材の開口部を閉塞した様子を示す説明図である。
【
図8】実施形態に係る電池の製造方法に関し、溶接工程において、本体部材の開口部(長辺開口部)及び蓋部材の周縁部(長辺周縁部)をレーザ溶接する様子を示す説明図であり、(a)はレーザ光の照射を開始した様子を示す説明図であり、(b)はレーザ光の照射で溶融金属部が形成された様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1に本実施形態1に係る電池(蓄電デバイス)1の斜視図を、
図2に電池1の全体の断面図を、
図3に電池1のうち本体部材20の開口部21及び蓋部材30の周縁部31近傍の部分拡大断面図を示す。なお、以下では、電池1の電池高さ方向AH、電池幅方向BH及び電池厚み方向CHを、
図1~
図3に示す方向と定めて説明する。この電池1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角型(直方体状)で密閉型のリチウムイオン二次電池である。
【0022】
電池1は、ケース10と、ケース10内に収容された電極体40と、ケース10のケース上部11に樹脂部材70,80を介して支持された正負の端子部材50,60等から構成されている。電極体40は、ケース10内で、絶縁フィルムからなり、電池高さ方向AHの上側AH1に開口する袋状の絶縁ホルダ5に覆われている。またケース10内には、電解液3が収容されており、その一部は電極体40内に含浸され、残りはケース10のケース底部12上に溜まっている。
【0023】
このうちケース10は、金属(本実施形態ではアルミニウム)からなる直方体箱状であり、電池高さ方向AHの上側AH1に位置する矩形状のケース上部11と、これに対向し、電池高さ方向AHの下側AH2に位置する矩形状のケース底部12と、これらの間を結ぶ4つの矩形状のケース側部(一対のケース長側部13,14及び一対のケース短側部15,16)とを有する。
【0024】
ケース10は、本体部材20と蓋部材30とから構成されている。本体部材20は、電池高さ方向AHの上側AH1に矩形環状の開口部21を有する有底角筒状であり、ケース10のうちケース底部12、ケース長側部13,14及びケース短側部15,16をなしている。一方、蓋部材30は、矩形板状であり、ケース10のケース上部11をなしている。蓋部材30は、本体部材20の開口部21を閉塞する形態で本体部材20に全周にわたりレーザ溶接されており、蓋部材30と本体部材20との間に溶融固化部18が形成されている。具体的には、本体部材20の矩形環状の開口部21のうち一対の長辺開口部21bと、蓋部材30の矩形環状の周縁部31のうち一対の長辺周縁部31bとがそれぞれ溶接されて溶融固化部18が形成されている(
図3(b)参照)。また本体部材20の開口部21のうち一対の短辺開口部21cと、蓋部材30の周縁部31のうち一対の短辺周縁部31cとがそれぞれ溶接されて溶融固化部18が形成されている(
図3(a)参照)。
【0025】
蓋部材30には、ケース10の内圧が開弁圧を超えたときに破断して開弁する安全弁19が設けられている。また蓋部材30には、ケース10の内外を連通する注液孔30kが形成されており、アルミニウムからなる円板状の封止部材39で気密に封止されている。
また蓋部材30のうち、電池幅方向BHの一方側BH1の端部近傍及び他方側BH2の端部近傍には、それぞれ蓋厚み方向DHに貫通する矩形状の挿通孔33h,34hが設けられている。一方の挿通孔33h内には、アルミニウムからなる正極の端子部材50が挿通されており、樹脂部材70を介して蓋部材30と絶縁された状態で蓋部材30に固設されている。また他方の挿通孔34h内には、銅からなる負極の端子部材60が挿通されており、樹脂部材80を介して蓋部材30と絶縁された状態で蓋部材30に固設されている。
【0026】
これらの端子部材50,60は、それぞれ蓋部材30上に配置された矩形板状の外部端子部51,61と、主にケース10内に配置され、蓋部材30の挿通孔33h,34h内を経由して外部端子部51,61に繋がる内部端子部52,62とを有する。正極の内部端子部52は、ケース10内で電極体40の正極タブ40aに接合し導通している。一方、負極の内部端子部62は、ケース10内で電極体40の負極タブ40bに接合し導通している。
【0027】
正極の樹脂部材70は、蓋部材30の挿通孔33hを囲み、一対の長辺周囲部33eと一対の短辺周囲部33fとを有する矩形環状の挿通孔周囲部33と、端子部材50との間を絶縁しつつ、蓋部材30の挿通孔周囲部33及び端子部材50にそれぞれ接合している。同様に、負極の樹脂部材80は、蓋部材30の挿通孔34hを囲み、一対の長辺周囲部34eと一対の短辺周囲部34fとを有する矩形環状の挿通孔周囲部34と、端子部材60との間を絶縁しつつ、蓋部材30の挿通孔周囲部34及び端子部材60にそれぞれ接合している。
【0028】
これらの樹脂部材70,80は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)からなり、蓋部材30上に配置された矩形板状の外部絶縁部71,81と、ケース10の内部及び蓋部材30の挿通孔33h,34h内に配置され、外部絶縁部71,81と繋がる内部絶縁部72,82とを有する。このうち外部絶縁部71,81は、端子部材50,60の外部端子部51,61と蓋部材30の挿通孔周囲部33,34との間を絶縁している。一方、内部絶縁部72,82は、端子部材50,60の内部端子部52,62と蓋部材30の挿通孔周囲部33,34との間を絶縁している。
【0029】
樹脂部材70のうち、ケース10の外部に露出する外表面70mは、電池高さ方向AHの上側AH1を向く第1外表面70m1と、電池厚み方向CHを向く第2外表面70m2及び第3外表面70m3と、電池幅方向BHの一方側BH1を向く第4外表面70m4及び他方側BH2を向く第5外表面70m5とを有する。また樹脂部材80のうち、ケース10の外部に露出する外表面80mは、電池高さ方向AHの上側AH1を向く第1外表面80m1と、電池厚み方向CHを向く第2外表面80m2及び第3外表面80m3と、電池幅方向BHの他方側BH2を向く第4外表面80m4及び一方側BH1を向く第5外表面80m5とを有する。
【0030】
本実施形態の樹脂部材70,80では、外表面70m,80mのうち、第1外表面70m1,80m1を除く部位、即ち、第2外表面70m2,80m2、第3外表面70m3,80m3、第4外表面70m4,80m4及び第5外表面70m5,80m5が、散乱光到達表面70ma,80maである。これらの散乱光到達表面70ma,80maは、後述するように、本体部材20の開口部21及び蓋部材30の周縁部31のうちレーザ光LBが照射された被照射部位Pから放射される散乱光LCが直接届く部位である。そして、本実施形態の樹脂部材70,80では、散乱光到達表面70ma,80maの全面を含む外表面70m,80mの全面が、表面粗度Raが0.6μm以下(具体的には0.1μm)の平滑化領域FMとなっている。これにより、外表面70m,80mの全面において、焦げ部BP(
図8(b)参照)の発生が抑制されている。
【0031】
電極体40は、扁平な直方体状であり、各々電池高さ方向AH及び電池幅方向BHに拡がる矩形状をなす、複数の正極板41と複数の負極板42とを、樹脂製の多孔質膜からなるセパレータ43を介して交互に電池厚み方向CHに積層した積層型の電極体である。各正極板41は、上側AH1に延出する正極集電部41rを有し、各々の正極集電部41r同士が厚み方向に重なって前述の正極タブ40aを形成している。この正極タブ40aは、前述のように正極の端子部材50の内部端子部52に接続している。また各負極板42は、上側AH1に延出する負極集電部42rを有し、各々の負極集電部42r同士が厚み方向に重なって前述の負極タブ40bを形成している。この負極タブ40bは、前述のように負極の端子部材60の内部端子部62に接続している。
【0032】
本実施形態の電池1では、樹脂部材70,80のうち、散乱光到達表面70ma,80maを含む外表面70m,80mの全面を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域FMとしている。これにより、樹脂部材70,80の外表面70m,80mの全面で焦げ部BPの発生が抑制されているので、樹脂部材70,80の本来の外観を保つことができる上、発生した焦げ部BPを経由して蓋部材30と端子部材50,60との間の絶縁抵抗が低下するのを抑制することができる。
【0033】
次いで、上記電池1の製造方法について説明する(
図4~
図8参照)。まず「蓋アセンブリ形成工程S1」(
図4参照)において、蓋アセンブリ7を形成する(
図5及び
図6(a)(b)参照)。即ち、蓋部材30及び端子部材50,60を用意し、樹脂部材70,80をインサート成形して、蓋部材30に樹脂部材70,80を介して端子部材50,60を一体化させる。具体的には、蓋部材30は、アルミニウム板を用い、プレス加工により注液孔30k、挿通孔33h,34h及び安全弁19を形成して得る。また正極の端子部材50はアルミニウム板を、負極の端子部材60は銅板を、それぞれプレス加工して得る。
【0034】
次に、上金型DE1及び下金型DE2を有する金型DEのうち、下金型DE2の所定位置に、まず蓋部材30を配置する(
図6(a)(b)参照)。続いて、下金型DE2に配置した蓋部材30の挿通孔33h,34h内に、端子部材50,60をそれぞれ挿通する。その後、下金型DE2の上に上金型DE1を重ねて金型DEを閉じる。次に、溶融樹脂MRを金型DE内に注入し、その後に冷却して、樹脂部材70,80を成形する。その後、上金型DE1を上方に移動させて、蓋部材30に樹脂部材70,80を介して端子部材50,60を一体化した複合成形品7Yを、下金型DE2から取り出す。
【0035】
このインサート成形において、樹脂部材70,80の外表面70m,80mは、上金型DE1の内面Diの一部(表面成形面Dim)により成形される。具体的には、樹脂部材70,80の外表面70m,80mのうち、第1外表面70m1,80m1は、それぞれ、上金型DE1の表面成形面Dimのうち、第1表面成形面Dim1(
図6(a)(b)参照)で成形される。また外表面70m,80mのうち第2外表面70m2,80m2は、それぞれ、表面成形面Dimのうち第2表面成形面Dim2(
図6(b)参照)で成形される。また外表面70m,80mのうち第3外表面70m3,80m3は、それぞれ、表面成形面Dimのうち第3表面成形面Dim3(
図6(b)参照)で成形される。また外表面70m,80mのうち第4外表面70m4,80m4は、それぞれ、表面成形面Dimのうち第4表面成形面Dim4(
図6(a)参照)で成形される。また外表面70m,80mのうち第5外表面70m5,80m5は、それぞれ、表面成形面Dimのうち第5表面成形面Dim5(
図6(a)参照)で成形される。本実施形態では、上金型DE1の表面成形面Dimの全面(第1表面成形面Dim1、第2表面成形面Dim2、第3表面成形面Dim3、第4表面成形面Dim4及び第5表面成形面Dim5)が、後述する平滑化領域FMを成形する平滑化領域成形面Dimbである。
【0036】
本実施形態では、上金型DE1の内面Diの全面を鏡面仕上げとしているため、表面成形面Dimの全面(平滑化領域成形面Dimb)が、鏡面仕上げとされている。これにより、上金型DE1の表面成形面Dimにより成形される樹脂部材70,80の外表面70m,80mの全面(第1外表面70m1,80m1、第2外表面70m2,80m2、第3外表面70m3,80m3、第4外表面70m4,80m4及び第5外表面70m5,80m5)が、表面粗度Raが0.6μm以下(具体的には0.1μm)の平滑化領域FMとなる。
【0037】
次に、正極板41、負極板42及びセパレータ43を積層して形成した電極体40を用意し、電極体40の正極タブ40a及び負極タブ40bに、上述した複合成形品7Yの端子部材50,60の内部端子部52,62をそれぞれ溶接して接続する(
図5参照)。その後、この電極体40を袋状の絶縁ホルダ5で包む。かくして、蓋部材30、端子部材50,60、樹脂部材70,80、電極体40及び絶縁ホルダ5からなる蓋アセンブリ7が形成される。
【0038】
次に「閉塞工程S2」(
図4参照)において、本体部材20を用意し、蓋アセンブリ7のうち、絶縁ホルダ5で覆われた電極体40を本体部材20内に挿入し、蓋部材30で本体部材20の開口部21を塞ぐ(
図7参照)。具体的には、蓋部材30の周縁部31のうち一対の長辺周縁部31bを、それぞれ本体部材20の開口部21のうち一対の長辺開口部21bに対向させると共に、蓋部材30の周縁部31のうち一対の短辺周縁部31cを、それぞれ本体部材20の開口部21のうち一対の短辺開口部21cに対向させて、蓋部材30で本体部材20の開口部21を塞ぐ。
【0039】
次に「溶接工程S3」(
図4参照)において、蓋部材30の蓋厚み方向DHの外側DH1(電池高さ方向AHの上側AH1)から、本体部材20の開口部21及び蓋部材30の周縁部31にレーザ光LBを照射し、開口部21及び周縁部31を溶融させ混合し溶融金属部18Zを形成した後に固化させて溶融固化部18を形成するレーザ溶接を全周にわたり行って、ケース10を形成する(
図8(a)(b)参照)。
【0040】
その際、レーザ光LBの被照射部位Pから放射された散乱光LCが、樹脂部材70,80の外表面70m,80mの一部(第2外表面70m2,80m2、第3外表面70m3,80m3、第4外表面70m4,80m4及び第5外表面70m5,80m5)に直接届く。これらの散乱光到達表面70ma,80maの表面粗度Raが大きいと、具体的には、表面粗度Raが0.6μmよりも大きいと、散乱光LCが散乱光到達表面70ma,80maで反射され難く、樹脂部材70,80に吸収され易いため、散乱光到達表面70ma,80maに焦げ部BPが発生し易い。特に、散乱光到達表面70ma,80maのうち、第2外表面70m2,80m2及び第3外表面70m3,80m3は、レーザ光LBの被照射部位Pに近接しており、高強度の散乱光LCが照射されるため、特に焦げ部BPが発生し易い。
【0041】
これに対し、本実施形態では、樹脂部材70,80の外表面70m,80mの全面(第1外表面70m1,80m1、第2外表面70m2,80m2、第3外表面70m3,80m3、第4外表面70m4,80m4及び第5外表面70m5,80m5)を、表面粗度Raが0.6μm以下、具体的には0.1μmの平滑化領域FMとしている。このため、レーザ光LBの散乱光LCは外表面70m,80mのいずれの部位でも反射され易く、樹脂部材70,80に吸収され難いため、外表面70m,80mのいずれの部位でも、焦げ部BPが発生するのを抑制できる。
【0042】
次に「注液・封止工程S4」において、電解液3を注液孔30kを通じてケース10内に注液し、電解液3を電極体40内に含浸させる。その後、注液孔30kを外部から封止部材39で覆い、封止部材39を全周にわたり蓋部材30に溶接して、封止部材39と蓋部材30との間を気密に封止する。
次に「初充電・エージング工程S5」において、この電池1に充電装置(不図示)を接続して、電池1に初充電を行う。その後、初充電した電池1を所定時間にわたり静置して、電池1をエージングする。かくして、電池1が完成する。
【0043】
本実施形態の電池1の製造方法では、散乱光到達表面70ma,80maを含む外表面70m,80mの全面を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域FMとした樹脂部材70,80を有する蓋アセンブリ7を用いる。これにより、溶接工程S3において、樹脂部材70,80の外表面70m,80mの全面で、レーザ光LBの散乱光LCが直接届いても反射され易く、樹脂部材70,80に吸収され難くなる。このため、の外表面70m,80mのいずれの部位においても、焦げ部BPの発生を抑制することができる。
【0044】
また本実施形態では、蓋アセンブリ形成工程S1において、表面成形面Dimの全面を鏡面仕上げとした上金型DE1を用いて、外表面70m,80mの全面が平滑化領域FMとなった樹脂部材70,80を成形する。このため、樹脂部材70,80を成形するのと同時に、樹脂部材70,80の外表面70m,80mの全面に平滑化領域FMを成形することができる。
【0045】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば実施形態では、樹脂部材70,80のうち、散乱光到達表面70ma,80maの一部のみならず、外表面70m,80mの全面を、表面粗度Raが0.6μm以下の平滑化領域FMとした例を示したが、これに限られない。散乱光到達表面70ma,80maの一部のみ(例えば、第2外表面70m2,80m2及び第3外表面70m3,80m3のみや、第2外表面70m2,80m2、第3外表面70m3,80m3及び第4外表面70m4,80m4のみ)を、平滑化領域FMとしてもよい。
また実施形態では、ケース10内に収容する電極体として、積層型の電極体40を例示したが、電極体は扁平状捲回型の電極体でもよい。また複数の電極体をケース内に収容してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 電池(蓄電デバイス)
7 蓋アセンブリ
7Y 複合成形品
10 ケース
18 溶融固化部
20 本体部材
21 開口部
30 蓋部材
31 周縁部
33,34 挿通孔周囲部
33h,34h 挿通孔
40 電極体
50,60 端子部材
70,80 樹脂部材
70m,80m 外表面
70ma,80ma 散乱光到達表面
LB レーザ光
LC 散乱光
P 被照射部位
BP 焦げ部
FM 平滑化領域
DE 金型
DE1 上金型
Dim 表面成形面
Dimb 平滑化領域成形面
DE2 下金型
S1 蓋アセンブリ形成工程
S2 閉塞工程
S3 溶接工程
S4 注液・封止工程
S5 初充電・エージング工程