(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053804
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】心理状態の変化の評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A61B5/16 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160234
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】浦元 朋子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 怜
(72)【発明者】
【氏名】熊王 俊男
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PR01
4C038PR04
4C038PS00
(57)【要約】
【課題】ヒトの心理状態の変化を評価する方法の提供。
【解決手段】評価対象による刺激前の評価者の心理状態データを取得する刺激前データ取得ステップと、前記刺激前データ取得ステップの後、前記評価者の五感のいずれかを、前記評価対象によって刺激する刺激ステップと、前記刺激ステップ中又はその後に、前記評価者の心理状態データを取得する刺激後データ取得ステップと、前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データと、前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データとに基づいて、前記評価対象のヒトの心理状態への影響を評価する評価ステップと、を有しており、前記心理状態データが、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目について、その感じる強さを評価した評価点である、心理状態の変化の評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する方法であって、
前記評価対象によって五感のいずれかが刺激される前の評価者の心理状態データを取得する刺激前データ取得ステップと、
前記刺激前データ取得ステップの後、前記評価者の五感のいずれかを、前記評価対象によって刺激する刺激ステップと、
前記刺激ステップ中又はその後に、前記評価者の心理状態データを取得する刺激後データ取得ステップと、
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データと、前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データとに基づいて、前記評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する評価ステップと、
を有しており、
前記心理状態データが、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目について、その感じる強さを評価した評価点であり、
前記評価ステップを、コンピュータが実行する、心理状態の評価方法。
【請求項2】
前記評価点が、前記7項目について、その感じる強さを採点法により評価した評価点である、請求項1に記載の心理状態の評価方法。
【請求項3】
前記評価点が、前記7項目について、その感じる強さを9段階尺度で評価した評価点である、請求項2に記載の心理状態の評価方法。
【請求項4】
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をPA、前記項目(B)の評価点をPB、前記項目(C)の評価点をPC、前記項目(D)の評価点をPD、前記項目(E)の評価点をPE、前記項目(F)の評価点をPF、前記項目(G)の評価点をPGとし、
前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をQA、前記項目(B)の評価点をQB、前記項目(C)の評価点をQC、前記項目(D)の評価点をQD、前記項目(E)の評価点をQE、前記項目(F)の評価点をQF、前記項目(G)の評価点をQGとし、
下記式(1)で求められるXnと、下記式(2)で求められるYnと、を前記評価対象によって刺激される前の前記評価者の心理状態の評価データとし、
下記式(3)で求められるXtと、下記式(4)で求められるYtと、を前記評価対象によって刺激された後の前記評価者の心理状態の評価データとする、請求項2に記載の心理状態の評価方法。
式(1): Xn=(PA+PB)/2+(PC+PD)/2-(PE+PF)/2-PG
式(2): Yn=(PA+PB)/2-(PC+PD)/2-(PE+PF)/2+PG
式(3): Xt=(QA+QB)/2+(QC+QD)/2-(QE+QF)/2-QG
式(4): Yt=(QA+QB)/2-(QC+QD)/2-(QE+QF)/2+QG
【請求項5】
前記Xtと前記Xnと前記Ytと前記Ynが、
Xt≧XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリフレッシュさせたと評価し、
Xt≧XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリラックスさせたと評価し、
Xt<XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者にストレスを与えたと評価し、
Xt<XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者の疲労感を増大させたと評価する、請求項4に記載の心理状態の評価方法。
【請求項6】
前記評価対象が、飲料及び音楽からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の心理状態の評価方法。
【請求項7】
評価対象によって五感のいずれかが刺激される前の評価者の心理状態データと、前記評価対象によって五感のいずれかが刺激された後の前記評価者の心理状態データとに基づいて、前記評価対象により引き起こされるヒトの心理状態の変化を評価するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記心理状態データが、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目について、その感じる強さを採点法により評価した評価点であり、
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をPA、前記項目(B)の評価点をPB、前記項目(C)の評価点をPC、前記項目(D)の評価点をPD、前記項目(E)の評価点をPE、前記項目(F)の評価点をPF、前記項目(G)の評価点をPGとし、
前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をQA、前記項目(B)の評価点をQB、前記項目(C)の評価点をQC、前記項目(D)の評価点をQD、前記項目(E)の評価点をQE、前記項目(F)の評価点をQF、前記項目(G)の評価点をQGとし、
下記式(1)で求められるXnと、下記式(2)で求められるYnと、を前記評価対象によって刺激される前の前記評価者の心理状態の評価データとして算出し、
下記式(3)で求められるXtと、下記式(4)で求められるYtと、を前記評価対象によって刺激された後の前記評価者の心理状態の評価データとして算出する、プログラム。
式(1): Xn=(PA+PB)/2+(PC+PD)/2-(PE+PF)/2-PG
式(2): Yn=(PA+PB)/2-(PC+PD)/2-(PE+PF)/2+PG
式(3): Xt=(QA+QB)/2+(QC+QD)/2-(QE+QF)/2-QG
式(4): Yt=(QA+QB)/2-(QC+QD)/2-(QE+QF)/2+QG
【請求項8】
前記Xtと前記Xnと前記Ytと前記Ynが、
Xt≧XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリフレッシュさせたと評価し、
Xt≧XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリラックスさせたと評価し、
Xt<XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者にストレスを与えたと評価し、
Xt<XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者の疲労感を増大させたと評価する、請求項7に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品や音楽等のヒトの五感(味覚、聴覚、嗅覚、視覚、触覚)を刺激するものについて、それらがヒトの心理状態に及ぼす影響を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心の健康に対する関心が高まっている。日々のストレスや精神的疲労の蓄積によって、身体の健康が害されることも多く、心と身体は密接な関係がある。例えば、嗜好品や音楽などを楽しむことにより、心理状態が改善され、ストレスが軽減されて、心の健康が維持・改善される場合がある。しかし、嗜好品や音楽などが心理状態へ与える影響については、未だ不明な点も多い。この心理状態への影響を調べるためには、まず、人間の心理状態をできるだけ正確に測定し評価できることが重要である。
【0003】
人間の心理状態を評価する方法としては、アンケート調査などによる主観的な気分評価が一般的である。この際に用いられる感情モデルの1つに、ラッセルの円環モデルがある。ラッセルの円環モデルは、快/不快、覚醒/沈静の2つの直交する軸からなる平面上に全ての感情が配置されているモデルである。例えば、嗜好品を楽しんだ後に、その時点における心理状態を、円環モデル中に直感的にプロットすることで、当該嗜好品による心理状態の変化を計測することができる。
【0004】
その他、非特許文献1では、様々な音楽により引き起こされる情動を、調べた結果が報告されている。当該報告では、米国人のグループと中国人のグループに対して、2168曲の音楽サンプルを聴かせて、どのような感情が沸き起こるかについて調べている。評価者は、音楽サンプルを、それぞれ13のタイプの感情(楽しい、元気が出る、悲しい、美しいなど)のいずれかに分類した。そして、音楽サンプルごとに、全評価者の何%がどの感情タイプの分類したかを数値化している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cowen, et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2020, vol.117(4), p.1924-1934.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ラッセルの円環モデルでは、心理状態が円環モデルの平面上で可視化でき、心理状態の変化が可視化しやすいという利点があるが、平面上の座標へのプロットは主観的になりやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、飲食品や音楽等のヒトの五感を刺激するものについて、それらにより引き起こされるヒトの心理状態の変化を、よりバイアスがかかりにくい手法で評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、感情モデルの平面上にプロットする方法ではなく、7項目の感情について採点法により評価し、得られた評価点を、快/不快、覚醒/沈静の直交する2軸からなる平面上のプロットに変換することで、嗜好品等により引き起こされる心の変化を、ラッセルの円環モデルを使用した従来の評価方法よりも評価者の心理状態をより的確に評価し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は下記の態様を含む。
[1] 評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する方法であって、
前記評価対象によって五感のいずれかが刺激される前の評価者の心理状態データを取得する刺激前データ取得ステップと、
前記刺激前データ取得ステップの後、前記評価者の五感のいずれかを、前記評価対象によって刺激する刺激ステップと、
前記刺激ステップ中又はその後に、前記評価者の心理状態データを取得する刺激後データ取得ステップと、
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データと、前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データとに基づいて、前記評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する評価ステップと、
を有しており、
前記心理状態データが、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目について、その感じる強さを評価した評価点であり、
前記評価ステップを、コンピュータが実行する、心理状態の評価方法。
[2] 前記評価点が、前記7項目について、その感じる強さを採点法により評価した評価点である、前記[1]の心理状態の評価方法。
[3] 前記評価点が、前記7項目について、その感じる強さを9段階尺度で評価した評価点である、前記[2]の心理状態の評価方法。
[4] 前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をPA、前記項目(B)の評価点をPB、前記項目(C)の評価点をPC、前記項目(D)の評価点をPD、前記項目(E)の評価点をPE、前記項目(F)の評価点をPF、前記項目(G)の評価点をPGとし、
前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をQA、前記項目(B)の評価点をQB、前記項目(C)の評価点をQC、前記項目(D)の評価点をQD、前記項目(E)の評価点をQE、前記項目(F)の評価点をQF、前記項目(G)の評価点をQGとし、
下記式(1)で求められるXnと、下記式(2)で求められるYnと、を前記評価対象によって刺激される前の前記評価者の心理状態の評価データとし、
下記式(3)で求められるXtと、下記式(4)で求められるYtと、を前記評価対象によって刺激された後の前記評価者の心理状態の評価データとする、前記[1]の心理状態の評価方法。
式(1): Xn=(PA+PB)/2+(PC+PD)/2-(PE+PF)/2-PG
式(2): Yn=(PA+PB)/2-(PC+PD)/2-(PE+PF)/2+PG
式(3): Xt=(QA+QB)/2+(QC+QD)/2-(QE+QF)/2-QG
式(4): Yt=(QA+QB)/2-(QC+QD)/2-(QE+QF)/2+QG
[5] 前記Xtと前記Xnと前記Ytと前記Ynが、
Xt≧XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリフレッシュさせたと評価し、
Xt≧XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリラックスさせたと評価し、
Xt<XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者にストレスを与えたと評価し、
Xt<XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者の疲労感を増大させたと評価する、前記[4]の心理状態の評価方法。
[6] 前記評価対象が、飲料及び音楽からなる群より選択される1種以上である、前記[1]~[5]のいずれかの心理状態の評価方法。
[7] 評価対象によって五感のいずれかが刺激される前の評価者の心理状態データと、前記評価対象によって五感のいずれかが刺激された後の前記評価者の心理状態データとに基づいて、前記評価対象により引き起こされるヒトの心理状態の変化を評価するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記心理状態データが、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目について、その感じる強さを採点法により評価した評価点であり、
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をPA、前記項目(B)の評価点をPB、前記項目(C)の評価点をPC、前記項目(D)の評価点をPD、前記項目(E)の評価点をPE、前記項目(F)の評価点をPF、前記項目(G)の評価点をPGとし、
前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データのうち、前記項目(A)の評価点をQA、前記項目(B)の評価点をQB、前記項目(C)の評価点をQC、前記項目(D)の評価点をQD、前記項目(E)の評価点をQE、前記項目(F)の評価点をQF、前記項目(G)の評価点をQGとし、
下記式(1)で求められるXnと、下記式(2)で求められるYnと、を前記評価対象によって刺激される前の前記評価者の心理状態の評価データとして算出し、
下記式(3)で求められるXtと、下記式(4)で求められるYtと、を前記評価対象によって刺激された後の前記評価者の心理状態の評価データとして算出する、プログラム。
式(1): Xn=(PA+PB)/2+(PC+PD)/2-(PE+PF)/2-PG
式(2): Yn=(PA+PB)/2-(PC+PD)/2-(PE+PF)/2+PG
式(3): Xt=(QA+QB)/2+(QC+QD)/2-(QE+QF)/2-QG
式(4): Yt=(QA+QB)/2-(QC+QD)/2-(QE+QF)/2+QG
[8] 前記Xtと前記Xnと前記Ytと前記Ynが、
Xt≧XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリフレッシュさせたと評価し、
Xt≧XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者をリラックスさせたと評価し、
Xt<XnかつYt≧Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者にストレスを与えたと評価し、
Xt<XnかつYt<Ynの場合、前記評価対象は、前記評価者の疲労感を増大させたと評価する、前記[7]のプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る評価方法により、飲食品や音楽等により引き起こされる心理状態の変化を、的確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】X軸方向の快/不快軸とY軸方向の動/静軸からなる感情モデル平面(4象限マップ)である。
【
図2】評価対象の刺激による心理状態の変化を評価する方法の手順の一態様を示すフローチャートである。
【
図3】評価対象の刺激による心理状態の変化を評価する方法の手順の一態様を示すフローチャートである。
【
図4】実施例1において、アンケートに使用した用紙である。
【
図5】実施例1において、各楽曲を聴く前と聴いた後のアンケート結果から求められた心理状態を、4象限マップにプロットした結果を示した図である。
【
図6】実施例2において、精神課題を行う前と行った後とその後に飲料を飲んだ後のアンケート結果から求められた心理状態を、4象限マップにプロットした結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様における心理状態の評価方法は、ヒトの五感のいずれかを刺激するものを評価対象とし、当該評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する方法である。本発明においては、ラッセルの円環モデルに基づいて、心理状態を、
図1に示すように、X軸方向の快/不快軸とY軸方向の動/静軸からなる平面上を、X≧0かつY≧0の快活象限、X≧0かつY<0のくつろぎ象限、X<0かつY≧0のストレス象限、X<0かつY<0の疲労象限の4つの感情象限に分ける。そして、評価対象の刺激によって、評価者の心理状態がどの象限の方向へ変化したかによって、当該評価対象により引き起こされた心理状態の変化を評価する。
【0013】
評価者の心理状態は、
図1に示す感情モデル平面(4象限マップ)の上に直接プロットするのではなく、より刺激により引き起こされる変化として評価者が感得しやすい7項目の感情について、当該感情の強さをアンケート形式で評価する。アンケートで得られた評価点を、4象限マップ上のプロットに変換することによって、心理状態をより的確に表すことができる。
【0014】
具体的には、評価者は、(A)快活な気分(楽しくて快活な気分)、(B)集中した気分(頭がさえて、やる気がある状態)、(C)くつろいだ気分(穏やかで落ち着いている状態)、(D)安心した気分(やさしく、親しみやすい)、(E)眠気(退屈、けだるい)、(F)沈んだ気分(憂鬱、落ち込み)、及び、(G)ストレス(緊張、イライラ)の7項目について、当該感情の強さを評価する。評価項目を7つに限定しているため、評価者の負担を抑えることができる。
【0015】
本発明においては、前記の7つの評価項目について、当該感情の強さを採点法により評価する。各項目の評価を、感情の強さを数値で示すことにより、心理状態をより詳細に表すことができ、評価対象による心理状態の変化をより精度良く評価することができる。採点法で行う場合、評価尺度は特に限定されるものではなく、例えば、5~9段階の尺度で行うことができる。より細かい心理状態の変化を評価できるため、9段階尺度(1が全く感じない、9が非常に強く感じる)で行うことが好ましい。
【0016】
項目(A)~(G)の7項目の評価点から、下記式により、4象限マップの快/不快軸の値(X快/不快値)と動/静軸の値(Y動/静値)に変換する。この変換により、評価者の心理状態が、4象限マップ上にプロットできる。下記式中、「[項目(Z]」は、項目(Z)の評価点を表す。
【0017】
[X快/不快値]=([項目(A)]+[項目(B)])/2+([項目(C)]+[項目(D)])/2-([項目(E)]+[項目(F)])/2-[項目(G)]
[Y動/静値]=([項目(A)]+[項目(B)])/2-([項目(C)]+[項目(D)])/2-([項目(E)]+[項目(F)])/2+[項目(G)]
【0018】
具体的には、本発明に係る心理状態の評価方法は、下記のステップを有する。
評価対象によって五感のいずれかが刺激される前の評価者の心理状態データを取得する刺激前データ取得ステップ(
図2中、「S1a」)。
前記刺激前データ取得ステップの後、前記評価者の五感のいずれかを、前記評価対象によって刺激する刺激ステップ(
図2中、「S2a」)。
前記刺激ステップ中又はその後に、前記評価者の心理状態データを取得する刺激後データ取得ステップ(
図2中、「S3a」)。
前記刺激前データ取得ステップで得た心理状態データと、前記刺激後データ取得ステップで得た心理状態データとに基づいて、前記評価対象によるヒトの心理状態の変化を評価する評価ステップ(
図2中、「S4a」)。
【0019】
ここで、「評価者の心理状態データ」とは、評価者による、(A)快活な気分、(B)集中した気分、(C)くつろいだ気分、(D)安心した気分、(E)眠気、(F)沈んだ気分、及び、(G)ストレスの7項目についての評価点のセットである。また、「評価者の心理状態データを取得する」とは、評価者が、アンケート形式で、これらの7項目についての評価点をつけることを意味する。
【0020】
刺激前データ取得ステップで得た項目(A)の評価点をPA、項目(B)の評価点をPB、項目(C)の評価点をPC、項目(D)の評価点をPD、項目(E)の評価点をPE、項目(F)の評価点をPF、項目(G)の評価点をPGとすると、評価対象による刺激前の評価者の心理状態は、4象限マップ中、快/不快軸の値が下記式(1)のXn値、動/静軸の値が下記式(2)のYn値に位置する。この[Xn、Yn]を、評価対象による刺激前の評価者の心理状態の評価データとして算出する。
【0021】
式(1): Xn=(PA+PB)/2+(PC+PD)/2-(PE+PF)/2-PG
式(2): Yn=(PA+PB)/2-(PC+PD)/2-(PE+PF)/2+PG
【0022】
刺激後データ取得ステップで得た項目(A)の評価点をQA、項目(B)の評価点をQB、項目(C)の評価点をQC、項目(D)の評価点をQD、項目(E)の評価点をQE、項目(F)の評価点をQF、項目(G)の評価点をQGとすると、評価対象による刺激後の評価者の心理状態は、4象限マップ中、快/不快軸の値が下記式(3)のXt値、動/静軸の値が下記式(4)のYt値に位置する。この[Xt、Yt]を、評価対象による刺激後の評価者の心理状態の評価データとして算出する。
【0023】
式(3): Xt=(QA+QB)/2+(QC+QD)/2-(QE+QF)/2-QG
式(4): Yt=(QA+QB)/2-(QC+QD)/2-(QE+QF)/2+QG
【0024】
評価者の心理状態は、評価対象によって、4象限マップ中、[Xn、Yn]から[Xt、Yt]へ変化している。
Xt≧XnかつYt≧Ynの場合には、評価者の心理状態は、快活象限方向へ移動する。この場合、評価対象は、評価者をリフレッシュさせたと評価する。
Xt≧XnかつYt<Ynの場合には、評価者の心理状態は、くつろぎ象限方向へ移動する。この場合、評価対象は、前記評価者をリラックスさせたと評価する。
Xt<XnかつYt≧Ynの場合には、評価者の心理状態は、ストレス象限方向へ移動する。この場合、評価対象は、前記評価者にストレスを与えたと評価する。
Xt<XnかつYt<Ynの場合には、評価者の心理状態は、疲労象限方向へ移動する。この場合、評価対象は、前記評価者の疲労感を増大させたと評価する。
【0025】
本発明に係る心理状態の評価方法における評価対象は、ヒトの五感のいずれかを刺激するものであれば、特に限定されるものではない。当該評価対象としては、具体的には、味覚を刺激するものとして、飲料、食品等が挙げられる。聴覚を刺激するものとして、音楽等が挙げられる。嗅覚を刺激するものとして、香粧品等が挙げられる。視覚を刺激するものとして、写真、絵画、映像等が挙げられる。触覚を刺激するものとして、衣類、生活雑貨、家具等が挙げられる。当該評価対象は、1種類であってもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、音楽を聴きつつ、飲料を飲んだ場合の心理状態の変化を評価することができる。また、例えば、コーヒー飲料を飲みながらチョコレートを食べた場合の心理状態の変化を評価することもできる。その他、様々な椅子に座った状態での心理状態の変化を評価し、椅子のファブリック素材や形状が心理状態へ及ぼす影響を調べることもできる。本発明における評価対象としては、特に、飲料、食品、及び音楽からなる群より選択される1種以上が好ましく、飲料及び音楽からなる群より選択される1種以上がより好ましい。
【0026】
本発明に係る心理状態の評価方法は、2種類以上の評価対象について、連続して評価することもできる。例えば、評価者は、刺激前の評価者の心理状態を評価した後(
図3中、「S1b」)、音楽を聴き(音楽刺激)(
図3中、「S2b」)、その後音楽刺激後の評価者の心理状態を評価し(
図3中、「S3b」、「S4b」)、次いで、飲料を飲み(飲料刺激)(
図3中、「S2c」)、その後飲料刺激後の評価者の心理状態を評価する(
図3中、「S3c」、「S4c」)。音楽刺激後の心理状態を評価した後、必要に応じて、飲料刺激までの間に所定時間のインターバルを置いてもよい。これにより、音楽刺激による心理状態変化と、音楽刺激後に飲料刺激を行うことによる心理状態の変化を評価することができる。
【0027】
本発明に係る心理状態の評価方法では、心理状態を、7項目の感情の強度を採点法により評価するため、心理状態の変化をより細かく評価することができる。このため、本発明に係る心理状態の評価方法では、刺激を受ける際の外部環境の影響も調べることができる。例えば、同種のコーヒー飲料を飲んだ場合であっても、周りに複数の人が存在している環境で飲んだ場合の心理状態の変化と、他に人がいない環境で飲んだ場合の心理状態の変化との違いも、本発明に係る心理状態の評価方法では評価することができる。
【0028】
なお、評価ステップ(
図2及び
図3のステップS4)の評価は、ヒトが行ってもよく、例えばコンピュータなどがプログラムを実行することにより、行ってもよい。当該プログラムとしては、P
A、P
B、P
C、P
D、P
E、P
F、P
G、Q
A、Q
B、Q
C、Q
D、Q
E、Q
F、Q
Gに基づいて、前記式(1)~(4)により、[Xn、Yn]と[Xt、Yt]を算出するプログラムが好ましい。
【0029】
本発明に係る心理状態の評価方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよく、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、本発明に係る心理状態の評価方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、フレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0030】
また、評価ステップを実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0031】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【実施例0032】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
喚起される感情が既知の音楽を用い、本発明に係る心理状態の評価方法によって各音楽による心理状態の変化の評価を行った。
【0034】
音楽サンプルとしては、非特許文献1において、喚起される感情が調べられている表1に記載の6曲を使用した。表中、「象限」は、各曲で喚起される主たる感情として非特許文献に開示されている感情である。
【0035】
【0036】
官能評価は、外部環境の各種要因が統一された環境(統一環境)下で、具体的には、温度、湿度、照度等の外部環境が統一され、仕切りで区切られたブース内で実施した。まず、評価者に、
図4に示すアンケートを行い、項目(A)~(G)について、感情の強さを9段階尺度の採点法により評価した。次いで、各楽曲を聴いた後、同じアンケートを再度行い、各項目の感情の強さを評価した。アンケートで得られた各項目の評価点に基づいて、前記式(1)~(4)により、楽曲を聴く前の心理状態の評価データ[Xn、Yn]と、楽曲を聴いた後の心理状態の評価データ[Xt、Yt]を算出した。各心理状態を4象限マップにプロットした結果を
図5に示す。
図5(A)~
図5(F)は、表1に記載の楽曲1~6楽曲である。
【0037】
楽曲1と楽曲2は、いずれも、楽曲を聴いた後には、聴く前よりも、くつろぎ象限方向へと心理状態が変化しており、これらの楽曲によって評価者はリラックスできたと評価された。楽曲3と楽曲4は、いずれも、楽曲を聴いた後には、聴く前よりも、快活象限方向へと心理状態が変化しており、これらの楽曲によって評価者はリフレッシュできたと評価された。楽曲5は、楽曲を聴いた後には、聴く前よりも、ストレス象限方向へと心理状態が変化しており、当該楽曲は評価者にストレスを与えたと評価された。楽曲6は、楽曲を聴いた後には、聴く前よりも、ストレス象限方向へと心理状態が変化しており、当該楽曲は評価者の疲労感を増大させたと評価された。すなわち、全ての音楽で非特許文献1と同様の感情が呼び起こされ、4象限マップの座標上での感情の移行を確認できた。
【0038】
[実施例2]
精神課題をこなした後に連続して飲料を摂取した場合における、当該精神課題と飲料による心理状態の変化を評価した。
【0039】
精神課題としては、Web版トレイルメイキングテスト(https://maruhi.heteml.net/webprog/TMT02002_web/)、飲料サンプルとしては、ホットブラックコーヒー(砂糖、ミルク、クリーム等を添加していないホットコーヒー飲料)を使用した。
【0040】
官能評価は、実施例1と同様の統一環境下で実施した。まず、評価者に、
図4に示すアンケートを行い、項目(A)~(G)について、感情の強さを9段階で評価した。次いで、精神課題を行った後、同じアンケートを再度行い、各項目の感情の強さを評価した。さらに、飲料を飲んだ後も同様のアンケートを行った。アンケートで得られた各項目の評価点に基づいて、前記式(1)~(4)により、精神課題を行う前の心理状態の評価データ[Xn、Yn]、精神課題を行った後の心理状態の評価データ[Xt
1、Yt
1]、飲料を飲んだ後の心理状態の評価データ[Xt
2、Yt
2]を算出した。
【0041】
各心理状態を4象限マップにプロットした結果を
図6に示す。精神課題の前後の心理状態を比べると、Xt
1<Xn、かつ、Yt
1≧Ynであり、評価者の心理状態は、精神課題によりストレス象限方向へ移動しており、当該精神課題は評価者にストレスを与えたと評価された。また、飲料の喫飲の前後の心理状態を比べると、Xt
2>Xt
1、かつ、Yt
2<Yt
1であり、評価者の心理状態は、精神課題によりくつろぎ象限方向へ移動しており、当該飲料は、評価者をリラックスさせたと評価された。
S1a、S1b…刺激前データ取得ステップ、S2a…刺激ステップ、S2b…音楽による刺激ステップ、S2c…飲料による刺激ステップ、S3a、S3b、S3c…刺激後データ取得ステップ、S4a、S4b、S4c…評価ステップ