(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053807
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】船舶推進装置
(51)【国際特許分類】
B63H 5/16 20060101AFI20240409BHJP
B63H 25/38 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B63H5/16 Z
B63H25/38 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160240
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 卓慶
(72)【発明者】
【氏名】川淵 信
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】細野 和樹
(57)【要約】
【課題】船幅方向にはたらく力を発生させる機能を備えつつ、前後方向直進時の抵抗を低減することができる船舶推進装置を提供する。
【解決手段】船舶推進装置は、船体の底部に設けられ、船体の前後方向に延びるとともに船幅方向に間隔あけて設けられた複数の側板を有し、隣り合う側板同士の間に前後方向に延びる流路が形成されたダクトと、各流路にそれぞれ設けられて、流路内に前後方向の流れを発生させる複数のプロペラと、各側板の後縁に沿って上下方向に延びる軸線回りに回動可能に設けられて、軸線の径方向に延びる複数の舵と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の底部に設けられ、前記船体の前後方向に延びるとともに船幅方向に間隔あけて設けられた複数の側板を有し、隣り合う前記側板同士の間に前後方向に延びる流路が形成されたダクトと、
各前記流路にそれぞれ設けられて、前記流路内に前後方向の流れを発生させる複数のプロペラと、
各前記側板の後縁に沿って上下方向に延びる軸線回りに回動可能に設けられて、前記軸線の径方向に延びる複数の舵と、
を備える、船舶推進装置。
【請求項2】
各前記舵の舵角が連動するように、各前記舵を前記軸線回りに回動させる駆動機構を備える、請求項1に記載の船舶推進装置。
【請求項3】
前記舵の上縁の後端部には、前後方向に延びる溝が形成され、
前記駆動機構は、
各前記溝に上方から差し込まれ、前記溝内で前後方向に移動可能な複数のピンと、
複数の前記ピンの上端部を連結し、船幅方向にスライド移動可能なスライドバーと、
前記スライドバーを船幅方向にスライド移動させる直動機構と、
を有する、請求項2の船舶推進装置。
【請求項4】
前記舵の上縁の後端部には、前後方向に延びる溝が形成され、
前記駆動機構は、
各前記溝に上方から差し込まれ、前記溝内で前後方向に移動可能な複数のピンと、
複数の前記ピンの上端部を連結し、船幅方向にスライド移動可能なスライドバーと、
複数の前記舵のうち一の前記舵を前記軸線回りに回動させる回動機構と、
を有する、請求項2の船舶推進装置。
【請求項5】
複数の前記側板のうち、船幅方向で最も舷側側に位置する前記側板は、
前後方向に延び、後端が前記プロペラよりも後方に位置する側板本体と、
前記側板本体の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸と、
前記扉軸に前記扉軸を中心として第一状態と第二状態との間で回動可能に設けられ、前記第一状態では前記側板本体に沿って配置され、前記第二状態では前記扉軸と前記側板本体との間の開口を開放するとともに前記流路を閉塞する位置に配置される扉体と、
を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の船舶推進装置。
【請求項6】
船体の底部に設けられ、前記船体の前後方向に延びるとともに船幅方向に間隔あけて設けられた複数の側板を有し、隣り合う前記側板同士の間に前後方向に延びる流路が形成されたダクトと、
各前記流路にそれぞれ設けられて、前記流路内に前後方向の流れを発生させる複数のプロペラと、
を備え、
複数の前記側板のうち、船幅方向で最も舷側側に位置する前記側板は、
前後方向に延び、後端が前記プロペラよりも後方に位置する側板本体と、
前記側板本体の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸と、
前記扉軸に前記扉軸を中心として第一状態と第二状態との間で回動可能に設けられ、前記第一状態では前記側板本体に沿って配置され、前記第二状態では前記扉軸と前記側板本体との間の開口を開放するとともに前記流路を閉塞する位置に配置される扉体と、
を有する、船舶推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船体の船尾に設けられたプロペラと、プロペラの前側に取り付けられたダクトと、プロペラの後方に取り付けられた舵を備えた船舶が開示されている。このような船舶では、舵角を取ることで船幅方向にはたらく力を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるような舵を備えた船舶では、船舶の前後方向直進時には、舵に進行方向の流れが当たるため、常時抵抗が生じてしまう。
また、舵の代わりにアジマス推進器やPOD推進器を設ける場合でも、推進器自体に流れが当たり、上記舵の場合と同様に抵抗が生じる。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、船幅方向にはたらく力を発生させる機能を備えつつ、前後方向直進時の抵抗を低減することができる船舶推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る船舶推進装置は、船体の底部に設けられ、前記船体の前後方向に延びるとともに船幅方向に間隔あけて設けられた複数の側板を有し、隣り合う前記側板同士の間に前後方向に延びる流路が形成されたダクトと、各前記流路にそれぞれ設けられて、前記流路内に前後方向の流れを発生させる複数のプロペラと、各前記側板の後縁に沿って上下方向に延びる軸線回りに回動可能に設けられて、前記軸線の径方向に延びる複数の舵と、を備える。
【0007】
本開示に係る船舶推進装置は、船体の底部に設けられ、前記船体の前後方向に延びるとともに船幅方向に間隔あけて設けられた複数の側板を有し、隣り合う前記側板同士の間に前後方向に延びる流路が形成されたダクトと、各前記流路にそれぞれ設けられて、前記流路内に前後方向の流れを発生させる複数のプロペラと、を備え、複数の前記側板のうち、船幅方向で最も舷側側に位置する前記側板は、前後方向に延び、後端が前記プロペラよりも後方に位置する側板本体と、前記側板本体の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸と、前記扉軸に前記扉軸を中心として第一状態と第二状態との間で回動可能に設けられ、前記第一状態では前記側板本体に沿って配置され、前記第二状態では前記扉軸と前記側板本体との間の開口を開放するとともに前記流路を閉塞する位置に配置される扉体と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の船舶推進装置によれば、船幅方向にはたらく力を発生させる機能を備えつつ、前後方向直進時の抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る船舶を船幅方向から見た模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る船舶推進装置を後方から見た模式図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係る船舶推進装置を船幅方向から見た模式図である。
【
図4】本開示の第一実施形態に係る船舶推進装置の後部を示す斜視図である。
【
図5】本開示の第一実施形態に係る、前後方向直進時の船舶推進装置の後部を示す図である。
【
図6】本開示の第一実施形態に係る、旋回時の船舶推進装置の後部を示す図である。
【
図7】本開示の第一実施形態の変形例に係る船舶推進装置の後部を示す斜視図である。
【
図8】本開示の第二実施形態に係る船舶推進装置の後部を示す図である。
【
図9】本開示の第二実施形態に係る、前後方向直進時の船舶推進装置の後部を示す斜視図である。
【
図10】本開示の第二実施形態に係る、旋回時の船舶推進装置の後部を示す斜視図である。
【
図11】本開示の第三実施形態に係る船舶推進装置の後部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
(船舶)
以下、本開示の実施形態に係る船舶推進装置10を備えた船舶1について、
図1から
図6を参照して説明する。
図1に示すように、船舶1は、船体2と、船舶推進装置10と、を備える。
【0011】
(船体)
船体2は、水上に浮かぶように箱型に形成された構造体である。船体2は、水平面に沿う一方向に延びている。船体2は、船首3と、船尾4と、船底5と、を有する。船首3は、船体2の長手方向一方側の部分である。船尾4は、船体2の長手方向の他方側の部分である。
【0012】
以下では、船舶1の長手方向を、船舶1の前後方向D、又は単に「前後方向D」と称して説明する場合がある。さらに、船首3側を船舶1の前側、前方とし、船尾4側を船舶1の後側、後方とする。また、水平方向のうち前後方向Dに交差(直交)する方向を、船体2の船幅方向W、又は単に「船幅方向W」と称して説明する場合がある。また、水平面に交差する鉛直上下方向を、単に「上下方向」と称して説明する場合がある。
【0013】
船底5は、船体2の下側の底部を構成している。船底5は、前後方向Dに延びて船首3と船尾4とを接続している。船底5の後方には、センタースケグ6が設けられている。センタースケグ6は、船底5の船幅方向W中央(センターライン上)に配置されている。センタースケグ6は、前後方向Dに延びている。
【0014】
(船舶推進装置)
船舶推進装置10は、船底5の後部の下面に設置されている。
図2に示すように、船舶推進装置10が設置される船底5の下面は、水平面に沿っている。船舶推進装置10は、センタースケグ6を挟んで船幅方向W両側に1つずつ設けられている。この2つの船舶推進装置10は、センタースケグ6を挟んで対称に形成されている。船舶推進装置10は、ダクト20と、プロペラ30と、舵軸40と、舵41と、駆動機構50と、を備える。
【0015】
(ダクト)
ダクト20は、船体2の底部に設けられている。ダクト20は、船底5の下面に重ねて取り付けられた上板21と、上板21から下方に離間した位置に配置された下板22と、上板21と下板22とを上下方向に接続する複数の側板23と、を有する。
【0016】
上板21は、船幅方向Wに延びる矩形板状に形成されている。下板22は、矩形板状に形成されている。下板22の前縁は上板21の前縁と同じ前後方向D位置に位置し、下板22の船幅方向W両側の側縁は上板21の船幅方向W両側の側縁と同じ船幅方向W位置に位置するが、下板22の後縁は、上板21の後縁よりも後方に位置する。
【0017】
(側板)
側板23は、船体2の前後方向Dに延びるとともに船幅方向Wに間隔あけて複数設けられている。本実施形態では、側板23は全て同一形状に形成されている。なお、同一形状とは、厳密に同一な形状だけでなく、寸法誤差がある形状も含むものとする。
【0018】
複数の側板23のうち船幅方向W両外側の側板23は、上板21の船幅方向W両外側の側縁と下板22の船幅方向W両外側の側縁とを上下方向に接続する。側板23の前縁は、上板21の前縁及び下板22の前縁と同じ前後方向D位置に位置する。また、側板23の後縁は、上板21の後縁と前後方向Dで同じ位置に位置し、下板22の後縁よりも前方に位置している。
【0019】
ダクト20内には、隣り合う側板23同士の間に前後方向Dに延びる流路Pが形成されている。本実施形態では、複数の側板23は、船幅方向Wに等間隔に配置されている。このため、ダクト20の内に形成された各流路Pは、全て同一形状をなしている。各図面では、ダクト20の内面形状、及び流路Pの形状は模式的に図示されている。実際は、例えば、
図3に示すように、各流路Pを形成するダクト20の内面は、後述するプロペラ翼32から前後方向D両側に離間するにしたがって、船幅方向W及び上下方向に広がるように形成されている。このため、流路Pの前後方向Dに垂直な断面形状は、プロペラ翼32が配置される前後方向D位置では円形状(例えば真円状)をなし、プロペラ翼32から前後方向D両端部に向かうにしたがって矩形状に近づくように形成されている。流路Pの前後方向Dに垂直な断面形状は、前後方向D両端部では矩形状(例えば正方形状)をなしている。
また、ダクト20には、複数のプロペラ30と、複数の舵41とが設けられている。
【0020】
(プロペラ)
図3に示すように、プロペラ30は、各流路Pにそれぞれ回転可能に設けられて、流路P内に前後方向Dの流れを発生させる。これにより、プロペラ30は、前後方向Dの推進力を船舶1に発生させる。これにより、船舶1は前方に向けて航行を開始する。プロペラ30は、プロペラ軸31と、プロペラ翼32と、を有する。
【0021】
プロペラ軸31は、前後方向Dに延びている。プロペラ翼32は、プロペラ軸31の外周側に設けられている。プロペラ翼32は、プロペラ軸31の軸線回りに回転する。
上述したプロペラ30の駆動方式は特に限定されない。プロペラ30は、外周駆動であってもよく、中心軸駆動であってもよい。
外周駆動の場合、例えばプロペラ軸31が固定され、プロペラ翼32は、図示しない駆動源によってプロペラ軸31に対して回転する。また、プロペラ軸31が設けられていなくてもよく、この場合、前後方向Dに延びる軸線回りにプロペラ翼32が回転可能に設けられる。
中心軸駆動の場合、プロペラ軸31とプロペラ翼32は、図示しない駆動源によって一体に回転する。
【0022】
なお、プロペラ翼32は、図示されるように、プロペラ軸31に1段のみ設けられていてもよく、前後方向に複数段設けられていてもよい。
【0023】
(舵軸)
図4に示すように、舵軸40は、各側板23の後縁の付近であって、各側板23の後縁よりも後方に設けられている。舵軸40は、船底5の下面から下方に延びる円柱状に形成されている。
以下では、舵軸40の軸線Oを単に「軸線O」と称し、軸線Oの径方向を「径方向」と称して説明する場合がある。軸線Oは、各側板23の後縁に沿って上下方向に延びている。
【0024】
ここで、船体2の垂直軸周り回転中心位置Cから舵軸40までの前後方向Dの長さを「腕の長さL1」とする。腕の長さL1は、概ね垂線間長Lppの1/2となる。
また、本実施形態では、舵軸40は、全て船底5に固定され、各舵軸40には、舵41が回転可能に取り付けられている。
【0025】
(舵)
舵41は、各側板23の後縁に沿って上下方向に延びる軸線O回りに回動可能に設けられている。舵41は、舵軸40から径方向に延びている。舵41は、上下方向に延在する板状の部材である。また、舵41は、上下方向から見て、舵軸40から離間するにしたがって滑らかに湾曲しながら先細る形状をなしている。このため、各舵41の船幅方向W両外側を向く2つの舵面41aは、流線形状をなしている。また、各舵41は、下板22の上方に配置されている。
【0026】
舵41の上縁の後端部には、舵41の上縁に沿って前後方向Dに延びる溝42が形成されている。溝42は、上方に向けて開口している。
この舵41は、船体2に設けられた駆動機構50によって軸線O回り駆動される。
【0027】
(駆動機構)
駆動機構50は、各舵41の舵角が連動するように、各舵41を軸線O回りに回動させる。駆動機構50は、ピン51と、スライドバー52と、直動機構53と、を有する。
【0028】
(ピン)
ピン51は、駆動機構50に複数設けられている。ピン51は、舵41毎に1つずつ設けられている。各ピン51は、対応する各溝42に上方から差し込まれ、前後方向Dに移動可能とされている。本実施形態のピン51は、円柱状に形成されている。複数のピン51の上端部は、船幅方向Wに延びるスライドバー52によって連結されている。
【0029】
(スライドバー)
スライドバー52は、船体2の底部に設けられている。スライドバー52には、全てのピン51の上端部が固定されている。スライドバー52は、船幅方向Wにスライド移動可能に設けられている。本実施形態のスライドバー52は、断面矩形の棒状に形成されている。スライドバー52は、船体2内に設けられた直動機構53に連結されている。
【0030】
(直動機構)
直動機構53として、例えばボールねじ等が挙げられる。直動機構53は、スライドバー52を船幅方向Wにスライド移動させる。スライドバー52が船幅方向Wにスライド移動すると、全てのピン51がスライドバー52の移動方向に一律に移動する。これらのピン51の動きに追従して、舵41の後端部がスライドバー52の移動方向に移動し、全ての舵41が一律に軸線O回りに回動する。
【0031】
(船舶推進装置の動作)
以下、船舶1の旋回時における船舶推進装置10の動作について、
図5、
図6を参照して説明する。
図5に示すように、船舶1が前後方向Dに直進している時は、舵41は各側板23に沿って配置される。このため、側板23に沿う高速流は、舵41によってその流れを妨げられることなく、舵41に沿って前後方向Dにスムーズに流れる。
この状態から、
図6に示すように、駆動機構50によって各舵41が連動して同一の向きに一律に回動する。すると、高速流が舵41の舵面41aに交差するように当たり、各舵41は船幅方向Wの力を受ける。各舵41の舵面41aが高速流から受けた船幅方向Wにはたらく力(船幅方向Wの横力)の総和が、舵力となる。本実施形態の複数の舵41による舵力は、プロペラ30と前後方向に重なる位置に従来の舵を設ける場合と同程度の舵力となる。この舵力に舵41の腕の長さL1(≒0.5Lpp)をかけたモーメントが、船体2の回転モーメントとなる。これにより、船舶1は、任意の方向に旋回される。例えば
図6の例では、舵力が船幅方向W右側に発生する。このため、船体2は、回転中心位置Cを中心として、舵力とは反対方向の船幅方向W左側に旋回する。
【0032】
(作用効果)
以下、本実施形態の船舶推進装置10の作用効果について説明する。
【0033】
本実施形態では、船舶推進装置10は、ダクト20と、複数のプロペラ30と、複数の舵41と、を備える。ダクト20は、船体2の底部に設けられ、船体2の前後方向Dに延びるとともに船幅方向Wに間隔あけて設けられた複数の側板23を有する。ダクト20には、隣り合う側板23同士の間に前後方向Dに延びる流路Pが形成されている。複数のプロペラ30は、各流路Pにそれぞれ設けられて、流路P内に前後方向Dの流れを発生させる。複数の舵41は、各側板23の後縁に沿って上下方向に延びる軸線O回りに回動可能に設けられて、軸線Oの径方向に延びている。
【0034】
本実施形態によれば、旋回時には、舵41を側板23に交差するように回動させることにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが舵41に交差するように当たり、船幅方向Wにはたらく力が生じる。一方で、前後方向D直進時には、舵41を側板23に沿って配置することにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが舵41に沿ってスムーズに流れる。これにより、前後方向D直進時の抵抗が低減される。したがって、本実施形態の船舶推進装置10は、船幅方向Wにはたらく力を発生させる機能を備えつつ、前後方向D直進時の抵抗を低減することができる。よって、前後方向D直進時の推進効率の低下が抑制される。
【0035】
本実施形態では、船舶推進装置10は、各舵41の舵角が連動するように、各舵41を軸線O回りに回動させる駆動機構50を備える。
【0036】
これにより、船舶推進装置10は、舵41の向きを揃えて、舵41を一律に回動することができる。このため、各舵41がプロペラ30の流れから受ける力の大きさを揃えることができるので、船幅方向Wにはたらく力の制御が容易となる。
【0037】
本実施形態では、舵41の上縁の後端部には、前後方向Dに延びる溝42が形成されている。駆動機構50は、複数のピン51と、スライドバー52と、直動機構53と、を有する。複数のピン51は、各溝42に上方から差し込まれ、溝42内で前後方向Dに移動可能とされている。スライドバー52は、複数のピン51の上端部を連結し、船幅方向Wにスライド移動可能とされている。直動機構53は、スライドバー52を船幅方向Wにスライド移動させる。
【0038】
これにより、船舶推進装置10は、直動機構53によってスライドバー52を船幅方向Wにスライドさせることにより、各舵41を連動して回動させることができる。よって、簡素な構成で舵41の向きを揃えて、舵41を一律に回動可能とすることができる。
【0039】
続いて、第一実施形態の変形例について、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、駆動機構50は、直動機構53に代えて回動機構54を有する。
【0040】
回動機構54は、複数の舵41のうち一の舵41を軸線O回りに回動させる。より詳細に説明すると、舵軸40のうち1つに回動機構54が連結されており、この舵軸40のみ、回動機構54の駆動力を受けて船体2に対して軸線O回りに回動する。他の舵軸40は、第一実施形態と同様に船底5に固定されている。また、回動機構54によって回動する舵軸40に連結された舵41のみ、舵軸40とともに軸線O回りに回動する。
【0041】
このように回動機構54によって一の舵41が回動すると、この舵41に設けられたピン51が舵41の動きに連動して船幅方向Wに移動する。このピン51は、スライドバー52によって他のピン51と連結されているため、スライドバー52と他のピン51も同じ向きに移動する。これらのピン51の動きに追従して、他の舵41も軸線O回りに回動する。このようにして、本変形例でも、すべての舵41が一律に軸線O回りに回動する。
【0042】
本変形例では、舵41の上縁の後端部には、前後方向Dに延びる溝42が形成されている。駆動機構50は、複数のピン51と、スライドバー52と、回動機構54と、を有する。複数のピン51は、各溝42に上方から差し込まれ、溝42内で前後方向Dに移動可能とされている。スライドバー52は、複数のピン51の上端部を連結し、船幅方向Wにスライド移動可能とされている。回動機構54は、複数の舵41のうち一の舵41を軸線O回りに回動させる。
【0043】
これにより、船舶推進装置10は、回動機構54によって1つの舵41を回動させることにより、各舵41を連動して回動させることができる。よって、簡素な構成で舵41の向きを揃えて、舵41を一律に回動可能とすることができる。
【0044】
<第二実施形態>
以下、本開示の第二実施形態に係る船舶推進装置210について、
図8から
図10を参照して説明する。前述した実施形態と同様の構成については、同一の名称及び同一の符号を付す等して説明を適宜省略する。
【0045】
図8から
図10に示すように、本実施形態の船舶201では、船舶推進装置210は、ダクト220を構成する複数の側板23のうち、船幅方向Wで最も舷側側に位置する側板23(以下、端側板223と称する。)は、側板本体224と、扉軸225と、扉体226と、扉回動機構227と、を有する。端側板223は、センタースケグ6を挟んで船幅方向W左側の船舶推進装置210では、船体2の左舷側に設けられ、センタースケグ6を挟んで船幅方向W右側の船舶推進装置210では、船体2の右舷側に設けられている。
【0046】
側板本体224は、前後方向Dに延び、後端がプロペラ30よりも後方に位置する板状の部材である。
扉軸225は、側板本体224の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びている。すなわち、側板本体224と扉軸225との間には、開口が形成されている。扉軸225は、船底5の下面から下方に向けて延びている。また、扉軸225は、舵軸40の前方に、舵軸40と前後方向Dに重なる位置に設けられている。
【0047】
扉体226は、扉軸225の下端に固定され、扉軸225を中心として第一状態P1と第二状態P2との間で回動可能に設けられている。扉体226は、第一状態P1では側板本体224に沿って配置され、第二状態P2では扉軸225と側板本体224との間の開口を開放するとともに流路Pを閉塞する位置に配置される。本実施形態では、扉体226は、第二状態P2では側板本体224に対して垂直に配置され、流路Pの後方に開口した出口全体を閉塞する。
【0048】
扉回動機構227は、扉軸225の上端に連結されている。扉回動機構227は、扉軸225を回転させ、扉軸225と一体の扉体226を、扉軸225回りに回動させることができる。
【0049】
本実施形態では、複数の側板23のうち、船幅方向Wで最も舷側側に位置する側板23は、前後方向Dに延び、後端がプロペラ30よりも後方に位置する側板本体224と、側板本体224の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸225と、扉軸225に扉軸225を中心として第一状態P1と第二状態P2との間で回動可能に設けられ、第一状態P1では側板本体224に沿って配置され、第二状態P2では扉軸225と側板本体224との間の開口を開放するとともに流路Pを閉塞する位置に配置される扉体226と、を有する。
【0050】
本実施形態によれば、船体2の向きを転向する時には、扉体226を第二状態P2にすることにより、扉体226はプロペラ30による流れを扉軸225と側板本体224との間の開口を通じて船幅方向W外側に導くことができる。これにより、船幅方向Wにはたらく力が発生する。なお、第二状態P2にある扉体226によって生じる船幅方向Wにはたらく力は、船体2の船幅方向Wの推進力として作用する。このため、船体2は、この船幅方向Wにはたらく力と同じ向きに横移動する。一方で、前後方向D直進時には、扉体226を第一状態P1にして側板本体224に沿って配置することにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが扉体226に沿ってスムーズに流れる。これにより、前後方向D直進時の抵抗が低減される。したがって、本実施形態の船舶推進装置210は、船幅方向Wにはたらく力を発生させる機能を備えつつ、前後方向D直進時の抵抗を低減することができる。よって、前後方向D直進時の推進効率の低下が抑制される。
【0051】
また、船舶推進装置210は、扉体226を第二状態P2にして流路Pを閉塞するので、流路Pに流入する流れが低速流の場合でも、プロペラ30の向きを変更せずとも、船幅方向Wの推進力をアジマス推進器やPOD推進器と同程度に大きくすることができる。このため、船舶推進装置210は、それ自体の推進力によって、低速時(停船時や接岸時)に船体2を船幅方向Wに横移動させることができる。例えば、接岸時には左舷側の扉体226を回動して船幅方向W右向きにはたらく力を発生させ、離岸時には右舷側の扉体226を回動して船幅方向W左向きにはたらく力を発生させるといったように、船幅方向Wにはたらく力を適宜調整することもできる。
また、流路Pに流入する流れが低速流の場合、船舶推進装置210は、例えばプロペラ30の回転数や扉体226の角度を調整する等して、扉体226によって生じる船幅方向Wにはたらく力を旋回力として作用させ、低速時(停船時や接岸時)に船体2をその場で回動させることもできる。
【0052】
また、扉体226を開閉させるだけの簡単な機構により、流路Pに流入する流れが低速流の場合でも、十分な船幅方向Wにはたらく力を発生させて、船体2をその場回動させることができる。このため、船首3や船尾4に船幅方向Wに貫通式のバウスラスターやスタンスラスター等の設けることなくその場回動の機能を付与することができるので、構造を簡素化できる。また、船舶1を旋回させる際に、タグボートを用いる必要がなくなる。
【0053】
<第三実施形態>
以下、本開示の第三実施形態に係る船舶推進装置310について、
図11を参照して説明する。前述した実施形態と同様の構成については、同一の名称及び同一の符号を付す等して説明を適宜省略する。
【0054】
図11に示すように、本実施形態の船舶301では、船舶推進装置310には舵軸40及び舵41が設けられてはいないが、第二実施形態と同様に、端側板223は、側板本体224と、扉軸225と、扉体226と、扉回動機構227と、を有する。このように、本実施形態の船舶推進装置310は、第二実施形態と同様の構成を備えるため、第二実施形態と同様の作用効果を発揮することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0056】
なお、上記実施形態では、プロペラ翼32は、プロペラ軸31に1段だけ設けられているとしたが、これに限るものではない。プロペラ翼32は、プロペラ軸31の前後方向D中間部に複数段設けられていてもよい。
【0057】
なお、上記実施形態では、船舶推進装置10、210は、駆動機構50によって舵41を回動させるとしたが、これに限るものではない。各舵41が回動可能となるように設けられていればよく、各舵41は、必ずしもスライドバー52を用いて連動するように構成されていなくてもよい。また、舵41は、人力により回動されるものであってもよい。
【0058】
<付記>
各実施形態に記載の船舶推進装置10、210、310は、例えば以下のように把握される。
【0059】
(1)第1の態様に係る船舶推進装置10、210は、船体2の底部に設けられ、前記船体2の前後方向Dに延びるとともに船幅方向Wに間隔あけて設けられた複数の側板23を有し、隣り合う前記側板23同士の間に前後方向Dに延びる流路Pが形成されたダクト20、220と、各前記流路Pにそれぞれ設けられて、前記流路P内に前後方向Dの流れを発生させる複数のプロペラ30と、各前記側板23の後縁に沿って上下方向に延びる軸線O回りに回動可能に設けられて、前記軸線Oの径方向に延びる複数の舵41と、を備える。
【0060】
本態様によれば、旋回時には、舵41を側板23に交差するように回動させることにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが舵41に交差するように当たり、船幅方向Wにはたらく力が生じる。一方で、前後方向D直進時には、舵41を側板23に沿って配置することにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが舵41に沿ってスムーズに流れる。これにより、前後方向D直進時の抵抗が低減される。
【0061】
(2)第2の態様の船舶推進装置10、210は、(1)の船舶推進装置10、210であって、各前記舵41の舵角が連動するように、各前記舵41を前記軸線O回りに回動させる駆動機構50を備えてもよい。
【0062】
これにより、船舶推進装置10、210は、舵41の向きを揃えて、舵41を一律に回動することができる。
【0063】
(3)第3の態様の船舶推進装置10、210は、(2)の船舶推進装置10、210であって、前記舵41の上縁の後端部には、前後方向Dに延びる溝42が形成され、前記駆動機構50は、各前記溝42に上方から差し込まれ、前記溝42内で前後方向Dに移動可能な複数のピン51と、複数の前記ピン51の上端部を連結し、船幅方向Wにスライド移動可能なスライドバー52と、前記スライドバー52を船幅方向Wにスライド移動させる直動機構53と、を有してもよい。
【0064】
これにより、船舶推進装置10、210は、直動機構53によってスライドバー52を船幅方向Wにスライドさせることにより、各舵41を連動して回動させることができる。
【0065】
(4)第4の態様の船舶推進装置10は、(2)の船舶推進装置10、210であって、前記舵41の上縁の後端部には、前後方向Dに延びる溝42が形成され、前記駆動機構50は、各前記溝42に上方から差し込まれ、前記溝42内で前後方向Dに移動可能な複数のピン51と、複数の前記ピン51の上端部を連結し、船幅方向Wにスライド移動可能なスライドバー52と、複数の前記舵41のうち一の前記舵41を前記軸線O回りに回動させる回動機構54と、を有してもよい。
【0066】
これにより、船舶推進装置10は、回動機構54によって1つの舵41を回動させることにより、各舵41を連動して回動させることができる。
【0067】
(5)第5の態様の船舶推進装置10、210は、(1)から(4)のいずれかの船舶推進装置10、210であって、複数の前記側板23のうち、船幅方向Wで最も舷側側に位置する前記側板23は、前後方向Dに延び、後端が前記プロペラ30よりも後方に位置する側板本体224と、前記側板本体224の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸225と、前記扉軸225に前記扉軸225を中心として第一状態P1と第二状態P2との間で回動可能に設けられ、前記第一状態P1では前記側板本体224に沿って配置され、前記第二状態P2では前記扉軸225と前記側板本体224との間の開口を開放するとともに前記流路Pを閉塞する位置に配置される扉体226と、を有してもよい。
【0068】
本態様によれば、船体2の向きを転向する時には、扉体226を第二状態P2にすることにより、扉体226はプロペラ30による流れを扉軸225と側板本体224との間の開口を通じて船幅方向W外側に導くことができる。これにより、船幅方向Wにはたらく力が発生する。一方で、前後方向D直進時には、扉体226を第一状態P1にして側板本体224に沿って配置することにより、側板23に沿う前後方向Dの流れが扉体226に沿ってスムーズに流れる。これにより、前後方向D直進時の抵抗が低減される。
【0069】
(6)第6の態様に係る船舶推進装置310は、船体2の底部に設けられ、前記船体2の前後方向Dに延びるとともに船幅方向Wに間隔あけて設けられた複数の側板23を有し、隣り合う前記側板23同士の間に前後方向Dに延びる流路Pが形成されたダクト20と、各前記流路Pにそれぞれ設けられて、前記流路P内に前後方向Dの流れを発生させる複数のプロペラ30と、を備え、複数の前記側板23のうち、船幅方向Wで最も舷側側に位置する前記側板23は、前後方向Dに延び、後端が前記プロペラ30よりも後方に位置する側板本体224と、前記側板本体224の後方に間隔をあけて設けられ、上下方向に延びる扉軸225と、前記扉軸225に前記扉軸225を中心として第一状態P1と第二状態P2との間で回動可能に設けられ、前記第一状態では前記側板本体224に沿って配置され、前記第二状態P2では前記扉軸225と前記側板本体224との間の開口を開放するとともに前記流路Pを閉塞する位置に配置される扉体226と、を有する。
【符号の説明】
【0070】
1…船舶 2…船体 3…船首 4…船尾 5…船底 6…センタースケグ 10…船舶推進装置 20…ダクト 21…上板 22…下板 23…側板 30…プロペラ 31…プロペラ軸 32…プロペラ翼 40…舵軸 41…舵 41a…舵面 42…溝 50…駆動機構 51…ピン 52…スライドバー 53…直動機構 54…回動機構 201…船舶 210…船舶推進装置 220…ダクト 223…端側板 224…側板本体 225…扉軸 226…扉体 227…扉回動機構 301…船舶 310…船舶推進装置 C…回転中心位置 D…前後方向 L1…腕の長さ Lpp…垂線間長 O…軸線 P…流路 P1…第一状態 P2…第二状態 W…船幅方向