(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053840
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ロールアイロナーないし洗濯ライン及びその運転制御方法
(51)【国際特許分類】
D06F 65/10 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
D06F65/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160292
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】517260700
【氏名又は名称】アイナックス稲本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂広
(72)【発明者】
【氏名】中田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】東出 暁博
(72)【発明者】
【氏名】南山 正俊
(57)【要約】
【課題】ロールアイロナー及び業務用の洗濯ラインに関し、被洗物の投入が設定された処理速度に対応する投入速度より低減したときに無駄なエネルギー消費を避けながら可能な高速処理を維持できるようにする。
【解決手段】ロールアイロナーを通過している被洗物相互間の通過方向の隙間が設定された処理速度で運転しているときの隙間より広くなったときにロールアイロナーや洗濯ラインの処理速度を下げ、隙間が狭くなったら処理速度を上げる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された処理速度を記憶する設定処理速度設定器に設定された処理速度で連続して通過する被洗物にアイロンがけを行うロールアイロナーにおいて、
現在通過中の被洗物相互間の前記通過する方向の隙間寸法を取得する隙間寸法取得手段と、
最小隙間にその余裕分を加えた目標隙間寸法を設定する目標寸法設定器とを備え、
隙間寸法取得手段が取得した隙間寸法が前記目標隙間寸法を超えたときに、処理速度を前記取得した隙間寸法が前記目標隙間寸法になる調整処理速度に変更する、ロールアイロナー。
【請求項2】
前記調整処理速度が、前記被洗物の前記通過方向の長さと、前記取得した隙間寸法及び目標隙間寸法と、当該隙間寸法を取得したときの処理速度とに基づいて演算される、請求項1記載のロールアイロナー。
【請求項3】
前記隙間寸法取得手段が、最小隙間寸法以下の隙間寸法を継続して取得したときに処理速度を設定処理速度に復帰させる、請求項1記載のロールアイロナー。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のロールアイロナーとその前後に配置されたフィーダ及びフォルダを備えた業務用洗濯ライン。
【請求項5】
設定された処理速度で連続的に被洗物を処理しているロールアイロナーを通過中の被洗物間の当該通過方向の隙間寸法を取得し、取得した現状隙間寸法が制御器に設定された目標寸法を超えたときに、前記隙間寸法が目標寸法ないし目標寸法範囲になる処理速度である調整処理速度を求め、処理速度を当該調整処理速度に変更するとともにロールアイロナーのシリンダないしチェストに供給する熱媒体の温度を当該調整処理速度に対応する温度に変更することを特徴とする、ロールアイロナーないしロールアイロナーを含む洗濯ラインの運転制御方法。
【請求項6】
前記処理速度の変更が、前記熱媒体の温度の変更に要する時間をかけて前記調整処理速度に徐々に変更することを特徴とする、請求項5記載のロールアイロナーないしロールアイロナーを含む洗濯ラインの運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗濯・脱水後の被洗物にアイロンをかけて皺を伸ばすチェスト式ないしベルト式のロールアイロナー並びにそのようなロールアイロナー及びその前後に配置されるフィーダ及びフォルダを備えた洗濯ラインに関するもので、特に被洗物の投入が低減したときに消費エネルギーの低減を可能にした上記装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の洗濯ラインに広く用いられているベルト式ロールアイロナーは、複数本の回転加熱シリンダ(以下、単に「シリンダ」と言う。)と、これらのシリンダに掛け回してシリンダ周面に被洗物を押し付けながらシリンダと同期回転する搬送ベルトとによって構成されている。
【0003】
被洗物はロールアイロナーに連続して投入されるように設計されるが、現実の洗濯工場では、一般的に就業時間内の20%~30%は空き時間ができると言われている。被洗物が通過しない空き時間においてもシリンダや搬送ベルトが回転していると無駄な放熱があり、エネルギーを無駄に消費していることになる。そこで従来は、空き時間に回転を止めるもしくは可能な限り低速回転にすることで、シリンダからの無駄な放熱を防ぎ、シリンダの蒸気消費量を低減して省エネを図ってきた。
【0004】
例えば特許文献1には、ロールアイロナーの蒸気使用量を低減して洗濯工場の省エネを図るために、ベルト式ロールアイロナーの運転プログラムに省エネ運転モードを持たせて、人手による切替スイッチの操作により、またはある時間継続して被洗物が投入されない場合に、搬送ベルトを停止又は微速にする技術を提案している。
【0005】
特許文献1は、搬送ベルトを停止しないで微速にする場合として、搬送ベルトが長時間停止するとシリンダに当たっている部分と離れている部分とに温度差ができる問題を避けたい場合としており、熱放散が停止したときと同程度になる程度の微速にするとしている。
【0006】
一方で近年、洗濯ラインの処理量を高めるために、処理速度が50m/minを超える能力を持つロールアイロナーやフィーダ及びフォルダが使用されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】登録実用新案公報第3118050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で提案されているような従来技術では、ロールアイロナー内に完全に被洗物がない場合には省エネが可能となるが、被洗物が投入されている間についての省エネの考慮がされていない。
【0009】
具体的には、例えばロールアイロナーの前にフィーダが接続されている洗濯ラインにおいて高速で処理(例えば50m/min)を行う場合、一般的には一台のロールアイロナーに付属する投入ステーションに4人の投入者を配置して被洗物の投入を行っているが、4人のうちに作業に慣れていない人がいる、または一時的に1人抜けてしまうといった場合、ロールアイロナーが高速処理しているにも関わらず、投入が追いつかないということが起こる。
【0010】
また、例えばベルト式ロールアイロナーであれば、高速処理が可能なようにシリンダ数を多くし、被洗物を高速で搬送して被洗物が必要とするシリンダ温度及び接触時間でのアイロンがけができるようにしている。このような場合、被洗物の投入が間に合わないと、シリンダから無駄な熱放散が起こって熱エネルギーが無駄に消費され、必要以上の設定処理速度で機械を運転することによる電気の無駄も生ずる。
【0011】
この発明は、高速運転されるロールアイロナー及びそのようなアイロナーを含む洗濯ラインに被洗物の投入遅れが生じたときにその遅れ状態に応じてロールアイロナーやフォルダの処理速度を下げて省エネ運転を行わせることにより、無駄なエネルギー消費を避けながら可能な高速処理を維持できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、ロールアイロナー5を通過している被洗物相互間の当該通過方向の隙間寸法(通過中の被洗物の先端と先行する被洗物の後端との間の寸法。以下及び添付図において単に「隙間」と言う。)に応じてロールアイロナー5や洗濯ラインの処理速度を自動調整することにより、上記課題を解決している。一般的には、処理速度と共にシリンダ11ないしチェストに供給する蒸気その他の加熱媒体(例えば加熱オイルや加熱ガス)の温度を調整する。
【0013】
この発明のロールアイロナー5の制御器8は、処理速度調整手段26を備えている。処理速度調整手段26は、本来の処理速度である設定処理速度を記憶する設定処理速度設定器21を備える他、現在通過中の被洗物相互間の隙間を取得する隙間寸法取得手段22と、実質的に正常な運転のために必要な被洗物間の最小隙間にその余裕寸法である隙間マージンを加えた寸法の目標寸法を設定する目標寸法設定器25とを備えている。処理速度調整手段26は、隙間寸法取得手段22が取得した隙間が目標寸法を超えたときに処理速度を設定処理速度より低い調整処理速度に変更する。
好ましいこの発明のロールアイロナーの制御器は、更に、シリンダやチェストに供給する熱媒体の温度調整手段(熱媒体が蒸気のときは蒸気圧調整手段27)を備え、処理速度と共に熱媒体温度を設定温度より低い調整温度に変更する。
【0014】
隙間は、ロールアイロナーの被洗物投入口に設けた光電センサや近接センサなどの投入センサ16とシリンダの径とエンコーダや回転計で検出した回転数とを併せて検知できる。すなわち、投入センサ16の被洗物を検出しない間の時間とシリンダの周速から隙間の寸法が演算できる。また、カメラを用いて洗濯ラインを前後して通過する被洗物を撮影した映像から検知することもできる。
【0015】
更に、ロールアイロナー5の前後に配置されるフィーダ(投入機)1には被洗物の長さと供給時の隙間を検知しているものがあり、そのようなフィーダから隙間を取得することができる。また、フォルダ(畳み機)7が検知している被洗物の長さと処理時間の間隔から隙間を演算することもできる。
【0016】
ロールアイロナー5内を通過する被洗物の隙間が目標隙間より大きい場合は、ロールアイロナー5の処理速度に比べて投入速度が追いついていないと判断でき、逆に隙間が設定した最小隙間の場合は、投入速度がロールアイロナー5の処理速度に十分追いついていると判断できる。
【0017】
すなわち、本発明は、処理中の被洗物間の隙間を設定した最小隙間と最小隙間+α(αは余裕寸法。以下「隙間マージン」とも言う。)の間に維持されるように、洗濯ラインの処理速度を調整することにより、ロールアイロナーないし洗濯ラインへの被洗物の投入速度が変化したときにその変化に対応して処理速度を変化させ、更にシリンダやチェストに供給する蒸気その他の熱媒体の温度を変化させることにより、被洗物の投入速度がロールアイロナーないし洗濯ラインの処理速度に追いついていないときの無駄なエネルギー消費を避けることを可能にしたものである。
【0018】
なお、最小隙間は、フィーダ1やフォルダ7の仕様で決定される場合には、当該フィーダやフォルダから情報を取得して自動設定する。ロールアイロナー側で設定するときは、正常に運転が継続されているときに計測された最小の隙間を最小隙間とするなどの方法で自動設定することができる。もちろん、ロールアイロナーの構造や実績データを参考にして決定することもできる。
【発明の効果】
【0019】
この発明により、運転中であっても、設定処理速度に対するロールアイロナーの性能を満たすだけの被洗物が投入されないときには、その投入量に応じてロールアイロナーや洗濯ラインの不要な高速運転を避けることができるだけでなく、シリンダやチェストで消費される熱エネルギーを低減でき、無駄な機械部品の損傷や劣化を防ぎ、機械寿命ものばすことができる。
【0020】
更に、エネルギー消費を低下した省エネ運転の後で投入量が回復したときには、その回復の程度に応じた処理速度になるので、高速処理が損なわれることもない。
【0021】
更に、この発明では、処理速度の変化を必要最小限にすることが可能で、洗濯ラインのより安定した運転が可能になるという効果もある。すなわち、洗濯ラインでは、フィーダやフォルダと連動する運転になるため、頻繁な処理速度変更は困難であり、熱媒体温度の変更には時間がかかるために処理速度変更時に時間差が生じてしまうという問題があるが、そのような問題を低減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】
図3の手順によるロールアイロナーの動作を示す動作線図
【
図5】処理速度を徐々に変化させる手順の例を示すフローチャート
【
図6】
図5の手順を含む
図3の手順によるロールアイロナーの動作を示す動作線図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、シリンダに供給する熱媒体として蒸気を用いるベルト式ロールアイロナーを例にして、この発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は、シーツやタオルなどのリネン製品(被洗物)の洗濯ラインを模式的に示した図である。連続式洗濯機で洗濯されて脱水機、乾燥機を経て1ロット毎に
図1の洗濯ラインに送り込まれる被洗物は、フィーダ1の投入ステーション2で、人手によりフィーダ1に投入される。高速運転される洗濯ラインでは、4人の作業者3が投入作業を行うのが一般的である。
【0024】
投入された被洗物は、上辺両角を把持して拡開するチャック(把持具)及び下方に作用する負圧で展開され、コンベア4を経てロールアイロナー5に投入され、アイロンがけされた被洗物はコンベア6でフォルダ7に送られ、折りたたまれて完成品となる。
【0025】
図のロールアイロナー5は、6本のシリンダ11と各シリンダに被洗物を押しつける搬送ベルト12とを有するベルト式ロールアイロナーで、13は装置の筐体、14は被洗物の投入口、15は排出口である。ロールアイロナー5内を通過する被洗物は、その両面が交互にシリンダ11に押接されて搬送され、コンベア6でフォルダ7に送られて折りたたまれる。
【0026】
ロールアイロナー5の先頭のシリンダ11aへの被洗物投入口には、被洗物を検出する投入センサ16が設けられている。このセンサ16のオンオフのタイミング、すなわち被洗物の上辺を検出したタイミングと下辺を検出したタイミング及び制御器8が認識している被洗物の搬送速度から被洗物の長さ及び被洗物相互間の間隔(隙間)を演算で求めることができる。
【0027】
制御器8は、処理速度調整手段26及び蒸気圧調整手段27を備えている。処理速度調整手段26は、設定(高速)処理速度設定器21、隙間寸法取得手段22、最小隙間設定器23と隙間マージン設定器24とからなる目標寸法設定器25、最低処理速度設定器31、被洗物長さ取得手段32、現状処理速度取得手段33及び調整処理速度演算手段34を含んでいる。調整処理速度(省エネ運転速度)は、被洗物の投入速度が洗濯ラインの本来の処理速度である設定処理速度に追いつかないときのロールアイロナーないし洗濯ラインの処理速度である。
【0028】
被洗物の有無を検出している投入センサ16を備えた
図1のロールアイロナーの被洗物長さ取得手段32及び隙間寸法取得手段22は、投入センサ16のオンオフ信号のタイミング差と現状処理速度取得手段33が取得した被洗物の搬送速度から被洗物の長さ及び現状隙間とを取得する。
【0029】
最小隙間設定器23に設定される最小隙間は、オペレータが入力して設定することができるが、フィーダ1から取得することもできる。フィーダ1は、コンベア4に送り出される被洗物の下辺(後辺)を検出してから次の被洗物を送り出す間隔を設定して運転されているものもあり、その場合は、その設定状態を取得して必要な演算を行うことにより、最小隙間を設定できる。
【0030】
また、洗濯ラインが正常に運転されているときに取得した隙間の最小値を最小隙間とすることもできるし、フィーダ1が送出待ち被洗物をストックとして溜めることができる構造のフィーダであれば、そのストックが有る状態のときにロールアイロナー5で取得した隙間を最小隙間として設定することもできる。隙間マージンαは、処理速度の変動などを考慮した隙間の余裕分で、適切な値を設定する。隙間マージンαの設定に替えて、実質的には最小隙間+αの値となる目標隙間を設定するようにしても良い。
【0031】
調整処理速度演算手段34には、現状の隙間が目標隙間である最小隙間+αより大きいときに現状隙間から目標隙間にするための例えば下記のような演算式が登録されている。
調整処理速度sa(m/min)は、
sa = sg *(L+gmin+α)/(L+g)
ここで、
g:現状隙間(mm)
sg:現状処理速度(m/min)
L:被洗物の送り方向の長さ(mm)
gmin:最小隙間(mm)
α:設定した隙間マージンα(mm)
で求められる。なお、上式は、sg/(L+g)=sa/(L+gmin+α)から導出される。
【0032】
なお、洗濯ラインは、設定処理速度設定器に設定された最高処理速度と最低処理速度設定器31に設定された最低処理速度との間の処理速度で運転される。
【0033】
図3は、ロールアイロナーないし洗濯ラインの運転手順を示すフローチャートである。
図3において、シリンダの加熱などの各機械の準備運転を行って洗濯ラインを起動すると、ロールアイロナーは、制御器8に蒸気圧を設定蒸気圧、処理速度を設定処理速度に設定(ステップs1)された状態で必要な場合に設定される待ち時間が経過(ステップs2)したあと、通常運転モード(ステップs3)で運転を開始し、ステップs4で検出された隙間と目標隙間(最小隙間+隙間マージンα)との比較を行う。
【0034】
隙間が目標隙間以下の場合は、ステップs4のNoのループの繰り返しによる設定処理速度での運転が継続される(
図4のa区間の動作)。被洗物の投入が設定処理速度に追いつかないでステップs4の判定がYesになると、隙間のばらつきによる検出誤りを避けるために設定した待ち時間の間、ステップs5のNoからステップs4に戻るループを繰り返し、待ち時間が経過してもステップs4のYesが維持されていれば、ステップs6で隙間が目標隙間になる調整処理速度が演算される。
【0035】
演算された処理速度が設定されている最低処理速度より大きければ、ステップs7のYesを経てステップs8で演算後の処理速度及び当該処理速度に対応する蒸気圧に変更され、隙間が最小隙間+αの省エネ運転モードになる。演算された処理速度が最低処理速度以下であれば、ステップs7のNoを経てステップs9で、最低処理速度及び最低処理速度に対応する蒸気圧に変更され、最低処理速度での省エネ運転モードになる。この状態で停止信号が入っていれば機械を停止するが、通常はステップs10、ステップs11及びステップs12がNoとなるので、上記の省エネ運転モードでの運転が継続される。
【0036】
この省エネ運転中に、更に何らかの事態により隙間が開いてきて目標隙間より大きくなったときは、ステップs12がYesとなって、ステップs6又はステップs9で新たな調整処理速度が演算され、ステップs13の待ち時間を待って新たな処理速度での省エネ運転が行われる。
【0037】
省エネ運転モードで運転されている間に、被洗物の供給が回復して隙間が最小隙間になったとき、ステップs11がYesになり、ステップs14の待ち時間を待ってステップs3で設定処理速度及び設定蒸気圧に設定され、ステップs4のNoを繰り返す通常運転モードに復帰する。
【0038】
図4は、
設定処理速度:50m/min(投入速度1200枚/時間で丁度最小隙間で流れることを想定した処理速度)
通常投入作業者:4人
一人当たり投入速度:300枚/時間・人
最小隙間:500mm
隙間マージン(α):50mm
待ち時間:300秒
に設定した洗濯ラインにおいて、
作業者4人(投入速度:1200枚/時間)で運転を開始したあと10分後に投入者が2人になり(投入速度:600枚/時間)、30分後に3人になり(投入速度:900枚/時間)になり、50分後に4人に復帰したときの投入速度と処理速度の変化を
図3の手順でシミュレートした線図である。
【0039】
図4に示した区間a(経過時間10分~15分の区間)は、作業者が4人から2人になって被洗物の投入速度が落ちたため、隙間が500mm+50mmを超えた(3000mm)ことが検出され、隙間が550mmになるように処理速度が演算され、5分後にロールアイロナーの処理速度調整が行われた(50m/min→約25m/min)。
【0040】
区間b(経過時間30分~35分の区間)では、作業者が2人から3人になって被洗物の投入速度が上がり、最小隙間での運転が5分間継続したため、処理速度が設定処理速度の50m/minに戻される。
【0041】
しかし、作業者が所定人数になっていないため、設定処理速度では投入が追いついていない。従って処理速度を設定処理速度に戻した結果、隙間が500mm+50mmを超えた(約1300mm)。そこで区間c(上図の経過時間35分~40分の区間)では、隙間が550mmになる処理速度が演算され、5分後に処理速度の調整がおこなわれた(50m/min→約38m/min)。
【0042】
その後、区間d(上図の経過時間50分~55分の区間)では、作業者が4人に復帰して投入速度が調整処理速度を上回り、最小隙間での運転が5分間継続したため、処理速度を設定処理速度の50m/minに戻されている。その後は、作業者4人の投入速度と処理速度が等しくなって、設定処理速度で安定した運転が継続される。
【0043】
図4では、処理速度が瞬時に変化するように図示されているが、徐々に変化させることが好ましい。特に被洗物が通過しているときに処理速度を急激に変化させるのは困難であり、蒸気圧の変更には時間がかかる。従って、実際の運転では、
図3のステップs3、s8及びs9での処理速度及び蒸気圧の変更は、必要な時間をかけて目標値に徐々に近づくような処理となる。
【0044】
図5は、蒸気圧の変更に要する時間を基準にして処理速度を目標処理速度(s3の通常運転処理速度、s8の調整処理速度、s9の最低処理速度)に徐々に近づける制御の一例を示したフローチャートである。蒸気圧を変更する際には環境の影響を受けやすい(被洗物の枚数や含水率、設備能力、気温など)ため、種々の運転状態及び環境条件で蒸気圧を上げる場合の変化率と下げる場合の変化率とを経験や実験を基にして定めると、それを基にして処理速度の変化率(加速度及び減速度)を求めることができる。
【0045】
そのようにして求めた加速度及び減速度を演算式やテーブルないし手動で設定して
図3のステップs3、s8及びs9の処理を
図5のような手順で行ってやれば、蒸気圧の変化に合わせて処理速度を徐々に変化させることができる。
【0046】
すなわち、ステップs21で処理速度を現状処理速度に設定し、ステップs22とs23で処理速度と目標処理速度との大小関係を調べる。ステップs23がYesであれば、ステップs24~s26を繰り返して短い時間Δt毎に処理速度を設定加速度×Δtずつ加速して行き、処理速度が目標処理速度になった時点で処理を終わり、メインルーチン(
図3)における次のステップに移行する。
【0047】
また、ステップs23がNoであれば、現状処理速度が目標処理速度と一致しているときの処理がステップs22で既に行われているので、ステップs27~s29を繰り返して短い時間Δt毎に処理速度を設定減速度×Δtずつ減速して行き、処理速度が目標処理速度になった時点で処理を終わり、メインルーチン(
図3)における次のステップに移行する。
【0048】
図6には、蒸気圧の指令値の変化と実際の蒸気圧の変化が示されており、指令値が変更されても、実際の蒸気圧はゆっくり変化する。この実際の蒸気圧の変化率に合わせて、手動で
設定加速度:5m/min
2
設定減速度:2.5m/min
2
に設定して
図3のステップs3、s8及びs9の処理を
図5の手順で行った場合をシミュレーションしたグラフである。
【0049】
図6の経過時間(横軸)の各ポイントa~jは、
a:経過時間10分
投入者が4人→2人となった(投入速度が追いついていない状態)
b:経過時間15分
投入者が2人となってから5分経過したので、調整処理速度の演算が行われ、処理速度の指令値が決定した(約25m/min)。また、その処理速度に応じて、蒸気圧の指令値が決定され(例:0.7MPa→0.5MPa)、蒸気圧の指令値は即座に変更される。その後、実際の蒸気圧はゆっくりと下がり、処理速度は設定減速度(2.5m/min
2)で指令値に向かって蒸気圧と同じように下がっていく動作となっている。
c:経過時間25分
速度変化終了点
d:経過時間30分
投入者が2人→3人となった
e:経過時間35分
隙間が最小隙間となり、5分たったので、処理速度の指令値を設定処理速度(50m/min)とした。また、蒸気圧の指令値も0.5MPa→0.7MPaに変更した。ただし、実際の蒸気圧の変更はゆっくりであり、それに合わせ、処理速度は設定加速度5m/min
2で徐々に変化させる。
f:経過時間40分
速度変化終了点。この時点から待ち時間がカウントされる
g:経過時間45分
速度変化終了後、隙間が開いている状態が5分経過したため、新たに調整処理速度が演算され、指令値が変更された。ただし、速度変化は減速度-2.5m/min
2に沿った形で徐々に減速される。蒸気圧に関しては先ほどと同様に指令値はすぐに変わるが、実際はゆっくりと変化していく。
h:経過時間50分
速度変化終了点
i:経過時間60分
投入者が3人→4人となった(処理速度とのバランスがとれる人数)
j:経過時間65分
最小隙間での時間が5分たったので、処理速度を戻す(設定加速度に合わせてゆっくりと戻る)。
【0050】
従来、洗濯ラインにおいて被洗物の通過中に速度と蒸気圧の変更するという運転は行われていないが、処理速度を変更するために被洗物が洗濯ラインから排出されるまで待つという従来の方法では、放熱ロスを増加させ、無駄な待ち時間が生じさせて生産性が低下するおそれがある。
【0051】
一方、蒸気圧の指令値を変化させたときの実際の蒸気圧の変化に合わせて処理速度を変更しないと、場合によっては乾燥が甘くなったり、逆に過乾燥になる場合がある。これに対して
図5で説明した手順で蒸気圧力の変化に合わせて速度をゆっくりと連続的に上昇または下降させることで、被洗物の仕上がり品質を損なうこと無く、被洗物の通過中に速度変更を行うことが可能になる。
【0052】
また、上記の計算式による調整処理速度の演算に必要な被洗物の送り方向の長さを取得するには、ロールアイロナーの投入センサとシリンダの回転距離を検知するエンコーダや近接センサなどとから取得する方法の他、カメラを用いて被洗物を撮影した写真の映像から取得することもでき、更に洗濯ライン上で同期運転されているフィーダやフォルダで計測されていれば、それらのデータから取得することもできる。
【0053】
以上の説明より理解されるように、隙間が最小隙間で所定時間運転されている場合、現状の処理速度に対して投入速度の方が速いと判断されて、処理速度が上がる。
図3、4の例では、現状隙間が最小隙間になったときに一旦設定処理速度に戻してから現状処理速度より速い調整処理速度(省エネ速度)に減速しているが、前述したようにステップs3での処理速度の変更は時間をかけて徐々に設定処理速度に向けて変更する処理になるので、その変更処理の間にも隙間の検出を行って隙間が最小隙間+αになったとき処理速度の変更処理を中断するなどの方法で、設定処理速度に戻らないで調整処理速度を上げることも可能である。
【0054】
省エネ運転時の蒸気圧については、設定処理速度と設定蒸気圧を基本として処理速度を下がった分に応じて、例えば落とした処理速度の割合分だけ蒸気圧を下げる方法や隙間を変数とする別の基準を設けて下げる方法が採用可能である。
【0055】
なお、洗濯ラインの処理速度は、フィーダ1とフォルダ7との連動になる。処理速度を変更する場合は、フィーダ及びフォルダと処理速度同調を行い、徐々に変更していくのが好ましいが、一旦フィーダ、ロールアイロナー及びフォルダを停止して処理速度を変更する期間を設け、その間に変更して再起動する態様も可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 フィーダ(投入機)
5 ロールアイロナー
7 フォルダ(畳み機)
8 制御器
11 シリンダ
16 投入センサ
21 設定処理速度設定器
22 隙間寸法取得手段
25 目標寸法設定器
26 処理速度調整手段
27 蒸気圧調整手段
α 隙間マージン