(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053869
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】プラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F22G 5/12 20060101AFI20240409BHJP
F22B 35/18 20060101ALI20240409BHJP
G05B 11/32 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
F22G5/12 A
F22B35/18
G05B11/32 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160337
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹友 孝裕
【テーマコード(参考)】
3L021
5H004
【Fターム(参考)】
3L021DA05
3L021FA08
5H004GA05
5H004GB04
5H004HA01
5H004HB01
5H004JA11
5H004LB06
(57)【要約】
【課題】1次制御系の入力の極性と2次制御系の入力の極性とが異なる場合であっても、カスケード制御が有効に機能するプラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムを提供する。
【解決手段】1次制御系51および2次制御系52を有し、プラントの制御を行うプラント制御装置50において、1次制御系51の入力が増加傾向を示し、かつ、2次制御系52の入力が減少傾向を示す場合、2次制御系52の出力の傾向を1次制御系51の入力の増減傾向に対応させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次制御系および2次制御系を有し、プラントの制御を行うプラント制御装置において、
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、
前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、
前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させるプラント制御装置。
【請求項2】
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、
前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、
前記2次制御系の出力を減少傾向から増加傾向に反転させる請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、
前記1次制御系の入力の増加傾向の傾きが所定の値以上であり、かつ、
前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合は、
その時点での前記2次制御系の出力を保持した制御を行う請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、
前記2次制御系の入力が前記2次制御系の入力の設定値である入力設定値以下の場合、
前記2次制御系の出力を増加傾向に反転させる請求項3に記載のプラント制御装置。
【請求項5】
前記1次制御系と前記2次制御系とは、入力を段階的に組合わせるカスケード制御である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプラント制御装置。
【請求項6】
前記プラントは、ボイラであり、
前記1次制御系は、熱交換器出口蒸気温度を入力とする制御系であり、
前記2次制御系は、熱交換器入口蒸気温度を入力とする制御系であって、
前記ボイラの制御を行う請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のプラント制御装置を備えるプラント。
【請求項8】
1次制御系および2次制御系を有し、プラントの制御を行うプラント制御方法において、
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、
前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、
前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させる、
コンピュータが実行するプラント制御方法。
【請求項9】
コンピュータに、請求項8に記載のプラント制御方法を実行させるためのプラント制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラントの制御において、1つの制御ループの出力を、他の制御ループの入力とするカスケード制御が用いられることがある。例えば、ボイラの過熱器で生成される過熱蒸気の温度に対して、カスケード制御を用いて過熱度を制御することがある。特許文献1には、ボイラの蒸気温度制御装置において、PIコントローラを用いてカスケード制御を行うことが開示されている。カスケード制御を行うことにより、外乱や特性の変動の影響が1次フィードバックループに現れる前に2次フィードバックループによって軽減可能である。また、2次フィードバックループによって速応性(入力に対する追従性の速さ)を高め、システム全体の応答特性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2次フィードバックループである2次制御系の速応性がシステム全体に要請される速応性に比べて高くなければ、カスケード制御は有効に機能しない。そのため、1次制御系の入力の増減傾向(極性、正負)と2次制御系の入力の増減傾向が異なる場合、特に1次制御系の入力が増加傾向で2次制御系の入力が減少傾向である場合は、カスケード制御の有効性を失うこととなる。しかし、特許文献1の発明では、1次制御系の入力の増減傾向と2次制御系の入力の増減傾向とが異なる場合についての検討がなされていない。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、1次制御系の入力の増減傾向と2次制御系の入力の増減傾向とが異なる場合、特に1次制御系の入力が増加傾向を示しかつ2次制御系の入力が減少傾向を示す場合であっても、カスケード制御が有効に機能するプラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のプラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムは以下の手段を採用する。
本開示のプラント制御装置は、1次制御系および2次制御系を有し、プラントの制御を行うプラント制御装置において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させる。
【0007】
本開示のプラントは、前述のプラント制御装置を備える。
【0008】
本開示のプラント制御方法は、1次制御系および2次制御系を有し、プラントの制御を行うプラント制御方法において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させ、コンピュータが実行する。
【0009】
本開示のプラント制御プログラムは、コンピュータに前述のプラント制御方法を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、1次制御系の入力が増加傾向であり、2次制御系の入力が減少傾向であっても、2次制御系の出力の増減傾向を1次制御系の入力の増減傾向に対応した傾向に変更するため、1次制御系の制御が所望の制御管理値を取得し、制御の有効性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の幾つかの実施形態におけるプラントを示す図である。
【
図2】本開示の幾つかの実施形態におけるボイラの蒸気系統を示す図である。
【
図3】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の機能の一例を示す図である。
【
図5】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の制御のタイムチャートを図である。
【
図6】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の制御のタイムチャートを図である。
【
図7】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の増減傾向を示す図である。
【
図8】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の概略構成を示す図である。
【
図9】本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係るプラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。以降の説明で、上や上方とは鉛直方向上側を示し、下や下方とは鉛直方向下側を示すものであり、鉛直方向は厳密ではなく誤差を含むものである。
【0013】
図1は、本開示の幾つかの実施形態におけるボイラを示す図である。
図1に示すように、本開示の実施形態では、発電プラント(プラント)1に固体燃料を主燃料とするボイラを備えるとする。
【0014】
本実施形態のボイラ10は、固体燃料を粉砕した微粉燃料をバーナにより燃焼させ、この燃焼により発生した熱を給水や蒸気と熱交換して過熱蒸気を生成することが可能なボイラである。固体燃料としては、バイオマス燃料や石炭などが使用される。
【0015】
ボイラ10は、火炉11と燃焼装置20と燃焼ガス通路12を有している。火炉11は、四角筒の中空形状をなして鉛直方向に沿って設置されている。火炉11の内壁面を構成する火炉壁101は、複数の伝熱管と、伝熱管同士を接続するフィンとで構成され、微粉燃料の燃焼により発生した熱を、伝熱管の内部を流通する水や蒸気と熱交換して回収すると共に、火炉壁101の温度上昇を抑制している。
【0016】
燃焼装置20は、火炉11の下部領域に設置されている。本実施形態では、燃焼装置20は、火炉壁101に装着された複数のバーナ21A、21B、21C、21D、21E、21F(以下、一括して「バーナ21」と記載する場合がある。)を有している。バーナ21は、火炉11の周方向に沿って均等間隔で配設されたもの(例えば、四角形の火炉11の各コーナ部に設置された4個)を1セットとして、鉛直方向に沿って複数段配置されている。なお、
図1では、図示の都合上、1セットのバーナのうちの2個のみを記載し、各セットに符合21A、21B、21C、21D、21E、21Fを付している。火炉11の形状やバーナ21の段数、一つの段におけるバーナ21の数、バーナ21の配置などは、この実施形態に限定されるものではない。
【0017】
バーナ21A、21B、21C、21D、21E、21Fは、それぞれ、複数の微粉燃料供給管22A、22B、22C、22D、22E、22F(以下、一括して「微粉燃料供給管22」と記載する場合がある。)を介して、複数のミル(粉砕機)31A、31B、31C、31D、31E、31F(以下、一括して「ミル31」と記載する場合がある。)に連結されている。ミル31は、例えば、内部に粉砕テーブル(図示省略)が駆動回転可能に支持されていて、粉砕テーブルの上方に複数の粉砕ローラ(図示省略)が粉砕テーブルの回転に連動回転可能に支持されて構成されている竪型ローラミルである。粉砕ローラと粉砕テーブルが協働して粉砕された固体燃料は、ミル31に供給される一次空気(搬送用ガス、酸化性ガス)により、ミル31が備える分級機(図示省略)に搬送される。分級機では、バーナ21での燃焼に適した粒径以下の微粉燃料と、該粒径より大きな粗粉燃料とに分級される。微粉燃料は、分級機を通過して、一次空気と共に微粉燃料供給管22を介してバーナ21に供給される。分級機を通過しなかった粗粉燃料は、ミル31の内部で、自重により粉砕テーブル上に落下し、再粉砕される。
【0018】
バーナ21の装着位置における火炉11の炉外側には、風箱(エアレジスタ)23が設けられており、この風箱23には風道(空気ダクト)24の一端部が連結されている。風道24の他端部には、押込通風機(FDF:Forced Draft Fan)32が連結されている。押込通風機32から供給された空気は、風道24に設置された空気予熱器42で加熱され(詳細は後述する)、風箱23を介してバーナ21に二次空気(燃焼用空気、酸化性ガス)として供給され、火炉11の内部に投入される。
【0019】
燃焼ガス通路12は、火炉11の鉛直方向上部に連結されている。燃焼ガス通路12には、燃焼ガスの熱を回収するための熱交換器として、過熱器102A、102B、102C(以下、一括して「過熱器102」と記載する場合がある。)、再熱器103A、103B(以下、一括して「再熱器103」と記載する場合がある。)、節炭器104が設けられており、火炉11で発生した燃焼ガスと各熱交換器の内部を流通する給水や蒸気との間で熱交換が行われる。なお、各熱交換器の配置や形状は、
図1に記載した形態に限定されない。
【0020】
燃焼ガス通路12の下流側には、熱交換器で熱回収された燃焼ガスが排出される煙道13が連結されている。煙道13には、風道24との間に空気予熱器(エアヒータ)42が設けられており、風道24を流れる空気と、煙道13を流れる燃焼ガスとの間で熱交換を行い、ミル31に供給する一次空気やバーナ21に供給する二次空気を加熱することで、水や蒸気との熱交換後の燃焼ガスから、さらに熱回収を行う。
【0021】
また、煙道13には、空気予熱器42よりも上流側の位置に、脱硝装置43が設けられていてもよい。脱硝装置43は、アンモニア、尿素水等の窒素酸化物を還元する作用を有する還元剤を、煙道13内を流通する燃焼ガスに供給し、還元剤が供給された燃焼ガス中の窒素酸化物(NOx)と還元剤との反応を、脱硝装置43内に設置された脱硝触媒の触媒作用により促進させることで、燃焼ガス中の窒素酸化物を除去、低減するものである。
煙道13の空気予熱器42より下流側には、ガスダクト41が連結されている。ガスダクト41には、燃焼ガス中の灰などを除去する電気集じん機などの集じん装置44や硫黄酸化物を除去する脱硫装置46などの環境装置、また、それらの環境装置に排ガスを導くための誘引通風機(IDF:Induced Draft Fan)45が設けられている。ガスダクト41の下流端部は、煙突47に連結されており、環境装置で処理された燃焼ガスが、排ガスとして系外に排出される。
【0022】
ボイラ10において、複数のミル31が駆動すると、粉砕、分級された微粉燃料が、一次空気と共に微粉燃料供給管22を介してバーナ21に供給される。また、空気予熱器42で加熱された二次空気が、風道24から風箱23を介してバーナ21に供給される。バーナ21は、微粉燃料と一次空気とが混合した微粉燃料混合気を火炉11に吹き込むと共に、二次空気を火炉11に吹き込む。火炉11に吹き込まれた微粉燃料混合気が着火し、二次空気と反応することで火炎を形成する。火炉11内の下部領域で火炎が形成され、高温の燃焼ガスが火炉11内を上昇し、燃焼ガス通路12に流入する。なお、本実施形態では、酸化性ガス(一次空気、二次空気)として空気を用いるが、空気よりも酸素割合が多いものや逆に少ないものであってもよく、供給される燃料量に対する酸素量の比率を適正な範囲に調整することで、火炉11において安定した燃焼が実現される。
【0023】
また、火炉11のバーナ21の装着位置より上方には、火炉11内に燃焼用追加空気(AA:Additional Air)を供給するための複数のアディショナル空気ポート(AAポート)25が設けられている。アディショナル空気ポート25には、風道24から分岐したアディショナル空気ダクト(AAダクト)26の端部が連結されており、押込通風機32から供給された空気の一部を、燃焼用追加空気として、アディショナル空気ダクト26を介してアディショナル空気ポート25に供給することができる。
【0024】
燃焼ガス通路12に流入した燃焼ガスは、燃焼ガス通路12の内部に配置された過熱器102、再熱器103、節炭器104で水や蒸気と熱交換した後、煙道13に排出され、脱硝装置43で窒素酸化物が除去され、空気予熱器42で一次空気及び二次空気と熱交換した後、さらにガスダクト41に排出され、集じん装置44で灰などが除去され、脱硫装置46で硫黄酸化物が除去された後、煙突47から系外に排出される。なお、燃焼ガス通路12における各熱交換器及び煙道13からガスダクト41における各装置の配置は、燃焼ガス流れに対して、必ずしも上述の記載順に配置されなくともよい。
【0025】
図2は、本開示の幾つかの実施形態におけるボイラの蒸気系統を示す図である。なお、
図1では燃焼ガス通路12内の過熱器102A、102B、102Cの位置を正確に示しているものではなく、各過熱器の燃焼ガス流れに対する配置順も
図1の記載に限定されるものではない。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の発電プラント1は、ボイラ10に設けられた過熱器(熱交換器)102と、ボイラ10で生成した蒸気によって回転駆動される蒸気タービン111と、蒸気タービン111に連結され蒸気タービン111の回転力によって発電を行う発電機113と、蒸気タービン111で用いられた蒸気を水に戻す復水器112と、を備える。本実施形態では、過熱器102はボイラ10側から順に第1過熱器102A、第2過熱器102B、第3過熱器102C(以下、一括して「過熱器(熱交換器)102」と記載する場合がある。)として設けられている。
【0027】
蒸気タービン111は、例えば、高圧タービン(図示せず)と中圧タービン(図示せず)と低圧タービン(図示せず)とから構成される。ボイラ10の過熱器102で加熱された蒸気が主蒸気加減弁100を介して供給され高圧タービンを回転駆動した後、ボイラ10の再熱器103(
図1参照)で再過熱され、中圧タービン、及び低圧タービンを回転駆動する。低圧タービンには、復水器112が連結されており、低圧タービンを回転駆動した蒸気が、この復水器112で冷却水(例えば、海水や河川水など)との熱交換によって凝縮されて復水となる。復水器112は、給水ラインを介して節炭器104(
図1参照)に連結されている。
【0028】
過熱器102には、各熱交換器で過熱された蒸気の温度(以下、第3過熱器102Cの出口における過熱蒸気の温度を「主蒸気温度」または「出口蒸気温度(熱交換器出口蒸気温度)」と言う。)を制御するための手段が設けられている。例えば、過熱された蒸気に混合噴射される水(以下、主蒸気温度制御のために噴射される水を「過熱器スプレイ水」と言う。)の量を調整することで、蒸気温度を制御するスプレイ調節弁が設けられている。過熱器スプレイ水は、例えば、ボイラ10への給水の一部が供給される。
【0029】
なお、過熱器スプレイ水が混合噴射される位置は、第3過熱器102Cの出口に限定されず、主蒸気温度の制御が可能な位置であればよく、例えば、汽水分離器(図示せず)の出口から蒸気タービン111の高圧タービン(図示せず)の入口の間のいずれかの位置に設置される。本実施形態では、第1過熱器102Aの入口、第2過熱器102Bの入口、および第3過熱器102Cの入口の位置に設置されるものとする。
【0030】
第1過熱器102Aの入口側には、スプレイ水供給のための配管が接続され、配管には第1過熱器102Aへのスプレイ水供給量を調整するための第1スプレイ調節弁61が設けられている。同様に、第2過熱器102Bの入口側には、スプレイ水供給のための配管が接続され、配管には第2過熱器102Bへのスプレイ水供給量を調整するための第2スプレイ調節弁62が設けられ、第3過熱器102Cの入口側には、スプレイ水供給のための配管が接続され、配管には第3過熱器102Cへのスプレイ水供給量を調整するための第3スプレイ調節弁63が設けられている。
【0031】
第3過熱器102Cの入口側には、第3過熱器102Cの入口蒸気温度(熱交換器入口蒸気温度)を計測する入口蒸気温度センサ68が設けられており、第3過熱器102Cの出口側には、第3過熱器102Cの出口蒸気温度(熱交換器出口蒸気温度)を計測する出口蒸気温度センサ69が設けられている。
【0032】
図3は、本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置のハードウェア構成の一例を示した図である。
図3に示すように、プラント制御装置(Controller)50は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)1100、二次記憶装置(ROM、Secondary storage:メモリ)1200、主記憶装置(RAM、Main Memory)1300、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)1400と、ネットワーク等に接続するための通信部1500とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス1800を介して接続されている。
【0033】
CPU1100は、例えば、バス1800を介して接続された二次記憶装置1200に格納されたOS(Operating System)によりプラント制御装置50全体の制御を行うとともに、二次記憶装置1200に格納された各種プログラムを実行することにより各種処理を実行する。CPU1100は、1つ又は複数設けられており、互いに協働して処理を実現してもよい。
【0034】
主記憶装置1300は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPU1100の実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
【0035】
二次記憶装置1200は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置1200は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。二次記憶装置1200の一例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)フラッシュメモリなどが挙げられる。二次記憶装置1200は、例えば、Windows(登録商標)、iOS(登録商標)、Android(登録商標)等の情報処理装置全体の制御を行うためのOS、BIOS(Basic Input/Output System)、周辺機器類をハードウェア操作するための各種デバイスドライバ、各種アプリケーションソフトウェア、及び各種データやファイル等を格納する。また、二次記憶装置1200には、各種処理を実現するためのプログラムや、各種処理を実現するために必要とされる各種データが格納されている。二次記憶装置1200は、複数設けられていてもよく、各二次記憶装置1200に上述したようなプログラムやデータが分割されて格納されていてもよい。
【0036】
また、プラント制御装置50は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。また、表示部を含み、ランプ、音、特にアラーム音を出力するスピーカーなどの通知部を備えていてもよい。
【0037】
図4は、本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の機能の一例を示した図である。
図4に示すように、プラント制御装置50は、1次制御系51と、2次制御系52と、を備えている。
【0038】
プラント制御装置50が備える機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置1200(
図3参照)などに記憶されており、このプログラムをCPU(プロセッサ)1100(
図3参照)が主記憶装置1300(
図3参照)に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置1200に予めインストールされている形態や、他の非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
【0039】
図4に示される1次制御系51は、出口蒸気温度センサ69が計測する出口蒸気温度が出口蒸気温度設定値に到達するように制御する。2次制御系52は、入口蒸気温度センサ68が計測する入口蒸気温度が入口蒸気温度設定値に到達するように制御する。
【0040】
本実施形態では、プラント制御装置50においてカスケード制御を行うものとする。具体的には、1次制御系51の出力が後段の2次制御系52の設定値に接続される。
【0041】
図5には、本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の制御のタイムチャートが図に示されている。
図5の横軸は、時間を表す。
【0042】
図5(a)は、1次制御系51の入力のプロセス値、2次制御系52の入力のプロセス値のタイムチャートを示す。
図5(a)の縦軸は、1次制御系51および2次制御系52の入力値である各部蒸気温度を示す。1次制御系51の入力は第3過熱器102C(
図2参照)の出口蒸気温度FB1であり、実線で示す。2次制御系52の入力は第3過熱器102Cの入口蒸気温度FB2であり、破線で示す。1次制御系51の設定値である出口蒸気温度設定値S1(後述する
図7の関数器71の出力値)、2次制御系52の設定値である入口蒸気温度設定値S2a(厳密には、後述する
図7の加算器78の出力値)、及び、蒸気温度の警報値をそれぞれ一点鎖線で示す。各部の蒸気温度が
図5(a)に示される警報値を超えると、アラーム音が出力されるなどユーザに対して注意喚起を促す警報が発信される。
図5(a)の例では、出口蒸気温度FB1が増加傾向を示すたびに、そのピーク値前後で警報値を超えている。
【0043】
図5(a)に示されるように、時間t0において、1次制御系51の入力である出口蒸気温度FB1は増加傾向を示し、2次制御系52の入力である入口蒸気温度FB2は減少傾向を示す。時間t2において、出口蒸気温度FB1はピークを迎えた後に減少傾向を示す。時間t3において、入口蒸気温度FB2は減少傾向から増加傾向へ転換する。遅れて時間t5において、出口蒸気温度FB1は減少傾向から増加傾向へ転換する。時間t8において、入口蒸気温度FB2はピークを迎えた後に減少傾向を示す。遅れて時間t10において、出口蒸気温度FB1はピークを迎えた後に減少傾向を示す。つまり、1次制御系51の入力である第3過熱器102C(
図2参照)の出口蒸気温度FB1は、2次制御系52の入力である第3過熱器102Cの入口蒸気温度FB2の増減傾向から遅れて増減傾向が現れる。
【0044】
図6(b)は、1次制御系51の入力である出口蒸気温度FB1の時間微分値のタイムチャートを示し、
図6(c)は、2次制御系52の入力である入口蒸気温度FB2の時間微分値のタイムチャートを示す。
図5(a)及び
図6(b)に示されるように、出口蒸気温度FB1が増加傾向にある場合は、出口蒸気温度FB1の微分値は正の値(+側)にあり、出口蒸気温度FB1が減少傾向にある場合は、出口蒸気温度FB1の微分値は負の値(-側)にある。同様に、
図5(a)及び
図6(c)に示されるように、入口蒸気温度FB2が増加傾向にある場合は、入口蒸気温度FB2の微分値は正の値(+側)にあり、入口蒸気温度FB2が減少傾向にある場合は、入口蒸気温度FB2の微分値は負の値(-側)にある。
【0045】
図7及び8には、本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の概略構成が示されている。
図7及び8を参照し、本開示のプラント制御装置50の制御処理について説明する。
【0046】
図7に示されるように、MWD(Mega Watt Demand、要求発電機出力、要求ボイラ負荷)70がプラント制御装置50に入力される。関数器71は、予め設定されたMWD70と出口蒸気温度設定値との関係から、入力されたMWD70に対応する出口蒸気温度設定値S1を出力する。
【0047】
入力72において、出口蒸気温度センサ69の計測値であって1次制御系51の入力である出口蒸気温度FB1が入力される。出口蒸気温度FB1はBに遷移するとともに、偏差Δ1を出力する減算器73に入力される。
【0048】
減算器73は、出口蒸気温度設定値S1と出口蒸気温度FB1との偏差であるΔ1を出力する。偏差Δ1は、Cに遷移する。偏差Δ1は、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1よりも高い場合に、負の値として出力される。
【0049】
偏差Δ1は、調節器(Iコントローラ)76にて積分されて、1次制御系51の出力として加算器78に入力される。調節器76の出力値は、第3過熱器102Cにおける制御設定値と出口蒸気温度FB1の偏差量(状態値)を加味した値となる。
【0050】
関数器77は、予め設定されたMWD70と入口蒸気温度設定値との関係から、入力されたMWD70に対応する入口蒸気温度設定値である入口蒸気温度設定値S2を出力する。
【0051】
加算器78は、関数器77から出力された入口蒸気温度設定値S2に対して、1次制御系51の出力である調節器76の出力値を加算して補正後の入口蒸気温度設定値S2aとして出力し、その出力値はDへ遷移する。例えば、加算器78に、1次制御系51の出力値として負の値が入力されると、加算器78の出力値である補正後の入口蒸気温度設定値S2aは、関数器77から出力される補正前の入口蒸気温度設定値S2よりも低い値となる。このように、1次制御系51の出力を2次制御系52の設定値に接続したカスケード制御を行う。
【0052】
図8に示されるように、
図7のBから遷移した出口蒸気温度FB1は、微分器80で微分され、その微分値が正の値(+側)、すなわち出口蒸気温度FB1が増加傾向であった場合は1が、微分値が負の値(-側)、すなわち出口蒸気温度FB1が減少傾向であった場合はゼロが、出力される。出力値は、Aに遷移するとともに、論理演算器83に入力される。
【0053】
比較器81は、出口蒸気温度設定値S1と出口蒸気温度FB1との大小を比較する。すなわち、
図7のCから遷移した偏差Δ1が正の値の場合は出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1より小さく、負の値の場合は出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1よりも大きいと判定できる。比較器81は、入力値が正の値の場合はゼロを、入力値が負の値またはゼロの場合は1を出力する。出力値は、Eに遷移するとともに、論理演算器83に入力される。
【0054】
入力87において、入口蒸気温度センサ68の計測値であって2次制御系52の入力である入口蒸気温度FB2が入力される。入口蒸気温度FB2は微分器88に入力されるとともに、減算器89に入力される。
【0055】
入口蒸気温度FB2は微分器88で微分され、その微分値が正の値(+側)、すなわち入口蒸気温度FB2が増加傾向であった場合はゼロが、微分値が負の値(-側)、すなわち入口蒸気温度FB2が減少傾向であった場合は1が、出力される。出力値は、論理演算器83に入力される。
【0056】
一方、減算器89は、入口蒸気温度FB2と
図7のDから遷移した補正後の入口蒸気温度設定値S2aとの偏差であるΔ2を出力する。偏差Δ2は、比較器91と乗算器93に入力される。
【0057】
比較器90は、入口蒸気温度FB2と補正後の入口蒸気温度設定値S2aとの大小を比較する。すなわち、偏差Δ2が正の値の場合は入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aよりも大きく、負の値の場合は入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aよりも小さいと判定できる。比較器90は、入力値が正の値の場合は1を、入力値が負の値またはゼロの場合はゼロを出力する。出力値は、論理演算器83に入力される。
【0058】
比較器91は、入口蒸気温度FB2と補正後の入口蒸気温度設定値S2aとの大小を比較する。すなわち、偏差Δ2が正の値の場合は入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aよりも大きく、負の値の場合は入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aよりも小さいと判定できる。比較器91は、入力値が正の値の場合はゼロを、入力値が負の値またはゼロの場合は1を出力する。出力値は、論理演算器92に入力される。
【0059】
論理演算器92には、Eから遷移した比較器81の出力値と、比較器91の出力値と、Aから遷移した出口蒸気温度FB1の微分値の極性に応じて1またはゼロが入力され、AND(論理積)が演算される。よって、偏差Δ1が負の値またはゼロの場合、かつ、偏差Δ2が負の値またはゼロで、かつ、出口蒸気温度FB1の微分値が正の値の場合にのみ論理演算器92から1が出力され、それ以外の場合はゼロが出力される。換言すれば、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1よりも大きく、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aよりも小さく、かつ、出口蒸気温度FB1が増加傾向である場合にのみ1が出力される。
【0060】
スイッチ94は、通常1を出力し、論理演算器92の出力が1の場合には-1に切り替え、出力する。出力値は、乗算器93に入力される。
【0061】
乗算器93は、偏差Δ2とスイッチ94の出力である1または-1とを乗算し、出力する。すなわち、論理演算器92の出力が1の場合には偏差Δ2に-1を乗算する。このように、2次制御系52の出力について、条件が合致する場合に極性(正負)の反転が行われる。
【0062】
これにより、出口蒸気温度FB1が増加傾向であって、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aまで低下した場合に、偏差Δ2に-1を乗算して極性(正負)を反転させる。この時、乗算器93の入力値である偏差Δ2は負の値であるため、-1を乗算することで+の値となり、第3スプレイ調節弁63の開度を開く方向へ転換させることとなる。
【0063】
一方、論理演算器83には、微分器80の出力と、微分器88の出力と、比較器81と比較器90の出力とが入力され、AND(論理積)が演算される。よって、微分器80の出力が1であり、かつ、微分器88の出力が1であり、かつ、比較器81と比較器90の出力が1である場合にのみ論理演算器83から1が出力され、それ以外の場合はゼロが出力される。換言すれば、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1より高く増加傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が減少傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2a以上である場合にのみ1が出力される。
【0064】
スイッチ85は、通常ゼロを出力し、論理演算器83の出力が1の場合には1に切り替え、出力する。出力値は、保持回路97に入力される。
【0065】
保持回路97では、スイッチ85の出力値に基づき偏差Δ2のHOLDを行うかどうかを判定する。HOLDとは、その時点での偏差Δ2の値を保持することである。保持回路97は、スイッチ85の出力が1である場合は、偏差Δ2の値をHOLDする。すなわち、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1より高く増加傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が減少傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2a以上である場合は、偏差Δ2のHOLDを行い、第3スプレイ調節弁63の開度の絞りを防止する。このように、出口蒸気温度FB1が増加傾向であって入口蒸気温度FB2が減少傾向にある場合、第3スプレイ調節弁63の開度が絞られると、出口蒸気温度FB1がさらに増加して警報値を超える可能性があるため、本実施形態ではHOLDを行い第3スプレイ調節弁63の開度が絞られるのを防止する。保持回路97の判定は、繰り返し行われる。
【0066】
図6(d)には、
図7の減算器73の出力値である偏差Δ1の極性のタイムチャートが示されている。
図6(d)に示されるように、偏差Δ1は、出口蒸気温度設定値S1と出口蒸気温度FB1との偏差であることから、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1を超えている期間、すなわち時間t0からt4までの間は負の値(-側)を示し、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1を下回る期間、すなわち時間t4から時間t7までの間は正の値(+側)を示す。この後についても、同様の傾向を示す。
【0067】
図6(e)には、
図7の減算器89の出力値である偏差Δ2の極性のタイムチャートが示されている。
図6(e)に示されるように、偏差Δ2は、補正後の入口蒸気温度設定値S2aと入口蒸気温度FB2との偏差であることから、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aを超えている期間、すなわち時間t0からt1までの間は正の値(+側)を示し、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2aを下回る期間、すなわち時間t1からt6までの間は負の値(-側)を示す。この後についても、同様の傾向を示す。
【0068】
図6(g)には、
図8の偏差Δ2の比較後出力の極性のタイムチャートが示されている。
図6(g)に示されるように、偏差Δ2の比較後出力の極性値は、
図6(e)の偏差Δ2の極性のタイムチャートと同様の傾向を示す。
【0069】
本実施形態では、前述の制御を行うことにより、偏差Δ2に基づく第3スプレイ調節弁63の開度の制御を行う。
図6(h)には、第3スプレイ調節弁63の開度制御信号のタイムチャートが破線で示されている。
図6(h)の破線に示されるように、第3スプレイ調節弁63の開度制御を行う調節器(PIコントローラ)99の出力は、時間t0からt2までの間は正の値(+側)を示し、時間t2からt8までの間は負の値(-側)を示す。このうち、時間t0からt1までの間は、出口蒸気温度FB1が出口蒸気温度設定値S1より高く増加傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が減少傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2a以上であるため、
図8の保持回路97においてHOLDが行われる期間である。
【0070】
また、時間t1からt2までの間は、出口蒸気温度FB1が増加傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が減少傾向であり、かつ、入口蒸気温度FB2が補正後の入口蒸気温度設定値S2a以下であるため、
図7のスイッチ94において-1が出力されて、乗算器93において偏差Δ2に-1が乗算されて極性(正負)が反転される期間である。
【0071】
また
図6(h)において、実線は従来のカスケード制御による第3スプレイ調節弁63の開度のタイムチャートであり、一点鎖線は本実施形態の制御を行った場合の第3スプレイ調節弁63の開度のタイムチャートである。
【0072】
図6(h)の実線及び一点鎖線に示されるように、本実施形態の制御を行うことにより、第3スプレイ調節弁63は開度のピークを超えた後、絞られるのではなく引き続き開度を開ける方向に制御される。これにより、第3スプレイ調節弁63を介してスプレイ水が供給され、出口蒸気温度FB1の増加傾向が抑えられ、出口蒸気温度FB1が警報値を超えるのを抑止する。出口蒸気温度FB1が警報値を超過することを抑止することで、プラント1の高温配管(本実施形態においては第3過熱器102Cを構成する伝熱管等)の寿命消費を抑制して点検頻度を抑えることができ、運用コストを低減することができる。
【0073】
図9には、本開示の幾つかの実施形態におけるプラント制御装置の増減傾向が図に示されている。
図9におけるゾーン1からゾーン4は、
図5及び6のゾーン1からゾーン4に対応している。ゾーン1は、
図5及び6の時間t0からt2の期間および時間t5からt10の期間、ゾーン2は、
図5及び6の時間t0からt2の期間および時間t8からt10の期間、ゾーン3は
図5及び6の時間t2からt5の期間および時間t10以降の期間、ゾーン4は
図5及び6の時間t3からt5の期間を示す。
【0074】
図9に示されるように、ゾーン1の場合は、1次制御系51の入力(出口蒸気温度FB1)は増加傾向にあり、偏差Δ1及び2次制御系52の設定値(補正後の入口蒸気温度設定値S2a、
図7の加算器78の出力Σ1)は減少傾向にあり、2次制御系52の入力(入口蒸気温度FB2)は例えば時間t5からt8の間は増加傾向、時間t8からt10の間は減少傾向にあり、偏差Δ2は順応答となっている。ゾーン1の例えば時間t8からt9の間は出口蒸気温度FB1と入口蒸気温度FB2の差が開く方向にあり、そのまま制御を行うと出口蒸気温度FB1が警報値を超える可能性がある。そこで、本実施形態では、HOLDを行うものとする。
【0075】
ゾーン2の場合は、1次制御系51の入力(出口蒸気温度FB1)は増加傾向にあり、偏差Δ1及び2次制御系52の設定値(補正後の入口蒸気温度設定値S2a、
図7の加算器78の出力Σ1)は減少傾向にあり、2次制御系52の入力(入口蒸気温度FB2)は例えば時間t8からt10の間は減少傾向にあり、偏差Δ2は逆応答となっている。ゾーン2の例えば時間t8からt10の間は出口蒸気温度FB1と入口蒸気温度FB2の差が開く方向にあり、さらに時間t9からt10の間は2次制御系52の入力(入口蒸気温度FB2)は補正後の入口蒸気温度設定値S2aを下回っており、そのまま制御を行うと出口蒸気温度FB1が警報値を超える可能性がある。そこで、本実施形態では、2次制御系52の出力の極性の反転を行うものとする。つまり、警報値超過を抑止する方向に2次制御系内で極性を反転させて第3スプレイ調節弁63へ出力する。
【0076】
ゾーン3の場合は、1次制御系51の入力(出口蒸気温度FB1)は減少傾向にあり、偏差Δ1及び2次制御系52の設定値(補正後の入口蒸気温度設定値S2a、
図7の加算器78の出力Σ1)は増加傾向にあり、2次制御系52の入力(入口蒸気温度FB2)は例えば時間t2からt3の間は減少傾向、時間t3からt5の間は増加傾向にあり、偏差Δ2は順応答となっている。またゾーン4の場合は、1次制御系51の入力(出口蒸気温度FB1)は減少傾向にあり、偏差Δ1及び2次制御系52の設定値(補正後の入口蒸気温度設定値S2a、
図7の加算器78の出力Σ1)は増加傾向にあり、2次制御系52の入力(入口蒸気温度FB2)は例えば時間t2からt5の間は増加傾向にあり、偏差Δ2は順応答となっている。
【0077】
このようにゾーン3及びゾーン4の場合は出口蒸気温度FB1と入口蒸気温度FB2の、差が変わらない、または差が狭まる方向にあるため、通常のカスケード制御を行えばよい。
【0078】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のプラント制御装置、プラント、プラント制御方法およびプラント制御プログラムは、例えば以下のように把握される。
【0079】
本開示の第1態様に係るプラント制御装置(50)は、1次制御系(51)および2次制御系(52)を有し、プラント(1)の制御を行うプラント制御装置において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させる。
【0080】
前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力の傾向を1次制御系の入力の増減傾向に対応させることから、2次制御系の出力の増減傾向を1次制御系の入力の増減傾向に合わせるように変更するため、1次制御系の制御が所望の制御管理値を取得することができる。これにより、制御の有効性を発揮することができる。
例えば、ボイラ(10)を用いたプラントにおいて、ボイラに熱交換器(過熱器)(102C)が設けられており、1次制御系が熱交換器の出口蒸気温度を入力として出口蒸気温度の制御を行う制御系、2次制御系が熱交換器の入口蒸気温度を入力として出口蒸気温度の制御を行う制御系であるプラント制御装置において、熱交換器出口温度が増加傾向を示し、熱交換器入口温度が減少傾向を示す場合、熱交換器入口温度と熱交換器入口設定温度との偏差の増減傾向を熱交換器出口温度の増減傾向に対応した傾向とする。熱交換器入口温度と熱交換器入口設定温度との偏差に応じて熱交換器に投入される蒸気量すなわちスプレイ調節弁(63)の開度が制御されることから、これにより、熱交換器入口温度の傾向に従い遅れて増減する熱交換器出口温度が、熱交換器入口温度の減少により蒸気の投入が行われず、熱交換器出口温度が上昇してしまうのを防ぐ。熱交換器の入口側において蒸気投入が行われ、熱交換器出口温度が低下し、熱交換器出口温度制御系が所望の制御管理値を取得することができる。
【0081】
本開示の第2態様に係るプラント制御装置は、前記第1態様において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力を減少傾向から増加傾向に反転させるとしてもよい。
【0082】
1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、2次制御系の入力を減少傾向から増加傾向に反転させることから、1次制御系の入力と同じ増加傾向へ2次制御系の入力の傾向を合わせることができる。また、1次制御系と同じ方向へ2次制御系の操作量を合わせることができ、制御の有効性を発揮することができる。
【0083】
本開示の第3態様に係るプラント制御装置は、前記第1態様または前記第2態様において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記1次制御系の入力の増加傾向の傾きが所定の値以上であり、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合は、その時点での前記2次制御系の出力を保持した制御を行うとしてもよい。
【0084】
1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、1次制御系の入力の増加傾向の傾きが所定の値以上であり、かつ、2次制御系の入力が減少傾向を示す場合は、その時点での2次制御系の出力を保持した制御を行うことから、この条件を満たす場合に2次制御系の出力に変動を加えず、その時点での2次制御系の出力に基づく制御を継続することができる。よって1次制御系の入力の傾向と異なる2次制御系の出力による制御を抑えることができる。また2次制御系の出力の傾向を変更せず、無用な制御の変更を抑止できる。
【0085】
本開示の第4態様に係るプラント制御装置は、前記第1態様から前記第3態様のいずれかにおいて、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が前記2次制御系の入力の設定値である入力設定値以下の場合、前記2次制御系の出力を増加傾向に反転させるとしてもよい。
【0086】
1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、2次制御系の入力が、2次制御系の入力の設定値である入力設定値以下の場合、2次制御系の出力を増加傾向に反転させることから、1次制御系の入力と2次制御系の入力との間の乖離を察知し、1次制御系の入力と同じ増加傾向へ2次制御系の出力の傾向を合わせることができる。また、1次制御系と同じ方向へ2次制御系の操作量を合わせることができ、制御の有効性を発揮することができる。
【0087】
本開示の第5態様に係るプラント制御装置は、前記第1態様から前記第4態様のいずれかにおいて、前記1次制御系と前記2次制御系とは、入力を段階的に組合わせるカスケード制御であるとしてもよい。
【0088】
制御は、カスケード制御であることから、外乱や特性の変動の影響を、1次制御系に現れる前に2次制御系によって軽減可能である。2次制御系によって即応性を高めることができ、制御全体の応答特性が改善される。
【0089】
本開示の第6態様に係るプラント制御装置は、前記第1態様から前記第5態様のいずれかにおいて、前記プラントは、ボイラであり、前記1次制御系は、熱交換器出口蒸気温度を入力とする制御系であり、前記2次制御系は、熱交換器入口蒸気温度を入力とする制御系であって、前記ボイラの制御を行うとしてもよい。
【0090】
本開示の第7態様に係るプラントは、上述のプラント制御装置を備える。
【0091】
本開示の第8態様に係るプラント制御方法(50)は、1次制御系および2次制御系を有し、プラントの制御を行うプラント制御方法において、前記1次制御系の入力が増加傾向を示し、かつ、前記2次制御系の入力が減少傾向を示す場合、前記2次制御系の出力の傾向を前記1次制御系の入力の増減傾向に対応させ、コンピュータが実行する。
【0092】
本開示の第9態様に係るプラント制御プログラム(50)は、コンピュータに、前記第8態様のプラント制御方法を実行させる。
【0093】
上述した実施形態では、本開示のボイラを、燃料に固体燃料を使用するボイラとして説明した。ボイラに使用される固体燃料としては、石炭、バイオマス燃料、石油コークス(PC:Petroleum Coke)燃料、石油残渣などが使用される。
なお、ボイラの燃料としては、固体燃料に限らず、重油、軽油、重質油などの石油類や工場廃液、液化アンモニアなどの液体燃料も使用することができる。また、天然ガスや各種石油ガス、製鉄プロセスなどで発生する副生ガス、水素ガス、アンモニアガスなどの気体燃料も使用することができる。
さらに、これらの各種燃料を組み合わせて使用する混焼ボイラにも適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 発電プラント(プラント)
10 ボイラ
11 火炉
12 燃焼ガス通路
13 煙道
20 燃焼装置
21 バーナ
22 微粉燃料供給管
23 風箱(エアレジスタ)
24 風道(空気ダクト)
25 アディショナル空気ポート
26 アディショナル空気ダクト
31 ミル(粉砕機)
32 押込通風機(FDF)
41 ガスダクト
42 空気予熱器
43 脱硝装置
44 集じん装置
45 誘引通風機(IDF)
46 脱硫装置
47 煙突
50 プラント制御装置
51 1次制御系
52 2次制御系
61 第1スプレイ調節弁
62 第2スプレイ調節弁
63 第3スプレイ調節弁
68 入口蒸気温度センサ
69 出口蒸気温度センサ
100 主蒸気加減弁
101 火炉壁
102 過熱器
102A 第1過熱器
102B 第2過熱器
102C 第3過熱器
103 再熱器
103A 第1再熱器
103B 第2再熱器
104 節炭器
111 蒸気タービン
112 復水器
113 発電機