(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053894
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】成形品、時計、及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20240409BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240409BHJP
B29C 59/16 20060101ALI20240409BHJP
B29C 59/18 20060101ALI20240409BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240409BHJP
B29C 44/06 20060101ALI20240409BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B32B5/18 101
B32B3/30
B29C59/16
B29C59/18
B29C44/00 F
B29C44/06
A44C5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160386
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 通
(72)【発明者】
【氏名】櫃本 信
(72)【発明者】
【氏名】粟野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲一
【テーマコード(参考)】
4F100
4F209
4F214
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK42A
4F100AK42C
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100AL09C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA01B
4F100CA01C
4F100DD03B
4F100DD03C
4F100DD04B
4F100DD04C
4F100DD08B
4F100DD08C
4F100DJ01B
4F100DJ01C
4F100DJ04B
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4F100EH36
4F100EH46D
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4F100EJ02C
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4F100GB71
4F100HB21B
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4F100HB26B
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4F100HB31D
4F209AB02
4F209AF01
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4F209AG20
4F209PA15
4F209PA16
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4F214AA45
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4F214AD05
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4F214AF01
4F214AG05
4F214AG20
4F214UA37
4F214UB01
4F214UB11
4F214UD18
4F214UF01
(57)【要約】
【課題】強度を確保しながら容易に凹凸形状を形成できる成形品、時計、及び成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂材で形成されるベース層11Aと、樹脂材12aと発泡剤12bとを含み、前記ベース層11Aに積層されるとともに、少なくとも一部の前記発泡剤12bが発泡し、凸部20を有する発泡層12と、を備え、前記ベース層11及び前記発泡層12のうち少なくとも一方を複数有する、成形品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材で形成されるベース層と、
樹脂材と発泡剤とを含み、前記ベース層に積層されるとともに、少なくとも一部の前記発泡剤が発泡した凸部を有する発泡層と、
を備え、
前記ベース層及び前記発泡層のうち少なくとも一方を複数有する、成形品。
【請求項2】
表面に形成される塗装膜をさらに備える、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記ベース層は、第1のベース層と第2のベース層とを有し、
前記発泡層は、前記第1のベース層と前記第2のベース層との間に配置される、請求項1に記載の成形品。
【請求項4】
前記発泡層は、第1の発泡層と第2の発泡層とを有し、
前記ベース層は、前記第1の発泡層と前記第2の発泡層との間に配置される、請求項1に記載の成形品。
【請求項5】
前記発泡層は前記ベース層上に部分的に設けられる、請求項1に記載の成形品。
【請求項6】
前記発泡層は、第1の発泡層と第2の発泡層とを有し、
前記第2の発泡層は、第1の凸部と第2の凸部とを有し、
前記成形品の第1の凸部に対応する領域と、前記成形品の前記第2の凸部に対応する領域と、では断面視において前記成形品の高さが互いに異なる、請求項1に記載の成形品。
【請求項7】
時計ケースと、
前記時計ケースの表側に設けられるベゼルと、
前記時計ケース内に配置されるモジュールと、
前記時計ケースに取付けられる時計バンドと、
を備え、
前記ベゼルまたは前記時計バンドの少なくとも一部が請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の成形品で構成される、時計。
【請求項8】
成形により、樹脂材で形成されるベース層と、樹脂材と発泡剤とを含み前記ベース層に積層される発泡層と、を有するとともに、前記ベース層及び前記発泡層の少なくとも一方が複数積層された成形体を作成し、
前記成形体にエネルギー照射することで、前記発泡剤の少なくとも一部を発泡させて前記成形体に凸部を形成する、成形品の製造方法。
【請求項9】
前記エネルギー照射において、前記成形体の表面に焦点が当たらない条件でレーザー光を照射する、請求項8に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、時計、及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車や時計等の様々な分野において、成形品に革シボ調、木目調、梨地調などの様々なテクスチャを表現することが行われている。例えば凹凸形状を有するテクスチャを表現する技術として、レーザー、エッチングなどのシボ加工により金型の表面に凹凸形状を形成し、金型の形状を成形品に転写させる技術が知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形品に凹凸形状を有するテクスチャを形成するために金型に凹凸加工を施す方法は、デザイン毎に金型を製作する必要がある。このため、金型及び成形品は製造コストが高くなり、形状や用途の制約も多くなる。また、成形品の製造方法として、例えば樹脂材料に発泡体を混合し、特定領域の発泡体を膨張させることで造形する技術も知られているが、発泡層において発泡率を高めるために発泡体を多く含むと機械的強度が低下する。
【0005】
本発明は強度を確保しながら容易に凹凸形状を形成できる成形品、時計、及び成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態にかかる成形品は、樹脂材で形成されるベース層と、樹脂材と発泡剤とを含み、前記ベース層に積層されるとともに、少なくとも一部の前記発泡剤が発泡した凸部を有する発泡層と、を備え、前記ベース層及び前記発泡層のうち少なくとも一方を複数有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、強度を確保しながら容易に凹凸形状を形成できる成形品、時計、及び成形品の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【
図4】同成形品の製造方法におけるエネルギー照射処理の説明図。
【
図5】同成形品の製造方法におけるエネルギー照射処理の説明図。
【
図6】同成形品の製造方法におけるエネルギー照射処理の説明図。
【
図7】第2実施形態に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【
図8】第1の実施形態の変形例1に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【
図9】第3の実施形態に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【
図10】第1の実施形態の変形例2に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【
図11】第1の実施形態の変形例3に係る成形品の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1実施形態にかかる成形品1及び成形品1の製造方法について図を参照して説明する。
図1及び
図2は第1実施形態に係る成形品1の製造方法を示す説明図であり、
図3は腕時計100の構成を示す斜視図である。
図4乃至
図6は成形品の製造工程の一部であるエネルギー照射処理の説明図である。なお、各図において、適宜構成を拡大、縮小、省略して概略的に示す。
【0010】
成形品1は、立体的な形状を有する物体である。成形品1は、例えば腕時計の部品に用いられる。成形品1は、例えばシート状、板状、柱状、球状などの各種形状に構成され、表面に凹凸形状を有する立体的なテクスチャが形成される。例えばテクスチャは、幾何学形状、文字等の図柄や模様を呈する。
【0011】
例えば成形品1は、所定形状に構成される積層体で構成される。成形品1は、成形体10と成形体10の表面に形成される塗装膜14と、を有する。
成形体10は、ベース層11A、11Bと発泡層12とを積層して備え、ベース層11A,11B及び発泡層12の少なくとも一方を複数有する積層体である。本実施形態にかかる成形体10は、第1のベース層11Aと、第1のベース層11A上に形成される発泡層12と、発泡層12上に形成される第2のベース層11Bと、を備える3層構造の積層体である。本実施形態において一例として成形品1は、帯状に構成される。また、成形体10において、成形型と接触する表層部にはスキン層10aがそれぞれ形成される。一例として第1のベース層11Aの表層部と、第2のベース層11Bの表層部とにスキン層10aが形成される。
【0012】
ベース層11A,11Bは、例えばシート状の媒体である。ベース層11A、11Bは、発泡層12と塗装膜14とを支持する支持体であって、成形品1の強度を保持する。
【0013】
ベース層11A,11Bを構成する成形材料は、例えばポリウレタンエラストマーあるいはシリコンエラストマーなどである。なお、ベース層11A,11Bは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のプラスチックフィルム等で構成されていても良い。なお、複数のベース層11A,11Bは同じ材料で形成されてもよく、異なる材料で形成されていてもよい。
【0014】
発泡層12は、一対のベース層11A、11Bの間に配される。例えば発泡層12は、第1のベース層11Aの一方側である表側の主面上に積層される。例えば発泡層12は、樹脂材料で構成されるバインダ12aと、バインダ12a内に分散配置された発泡剤12bと、を含む。バインダ12aを構成する樹脂材料は、例えばポリウレタンエラストマーあるいはシリコンエラストマーなどである。なお、バインダ12aを構成する樹脂材料は、ベース層11A,11Bの樹脂材料と同じであっても、異なる材料であってもよい。例えばバインダ12aを構成する樹脂材料は、エチレン酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の熱可塑性樹脂である。
【0015】
発泡剤12bは、例えば、プロパン、ブタン等の低沸点で気化する物質を、熱可塑性樹脂の外殻に内包した発泡剤である。発泡剤12bは、熱膨張性のマイクロカプセル(マイクロパウダー)であり、一例として粒径が約5~50μmに構成される。発泡剤12bは、発泡層12内に、例えば3~30質量%程度混合される。一例として本実施形態においてバインダ12aと発泡剤12bとは85:15の比率で混合される。発泡剤12bは、例えば80℃から220℃程度の温度に加熱されると、内包している物質が気化し、その圧力によって発泡及び膨張する。すなわち、発泡剤12bを含む発泡層12は、吸収した熱量に応じて膨張する。
【0016】
塗装膜14は、例えばインク等の塗布材で構成される層である。塗装膜14は、第2のベース層11Bの表面のスキン層10a上に印刷等によりインクが塗布されて形成される。
【0017】
本実施形態にかかる成形品1Aは、発泡層12が、第1のベース層11Aと第2のベース層11Bとの間に配置されているので、外部から衝撃が加わった場合でも、発泡層12が直接衝撃の影響を受けることは無い。
【0018】
次に、成形品1を部品として用いた腕時計100について、
図3を参照して説明する。例えば腕時計100は、時計ケース101と、時計ケース101の表面に設けられるベゼル102と、時計ケース101内に収容されるモジュール103と、モジュール103の表側を覆うカバー104と、時計ケース101の外周部の対向する2箇所にねじ、ピン、ばね棒などの連結部材によってそれぞれ連結される一対のバンド部材106a,106bと、一対のバンド部材106a、106bを連結する連結部106cと、を有する時計バンド106と、を備える。例えば腕時計100のバンド部材106a,106b及びベゼル102の少なくとも一部が成形品1で構成される。すなわち、成形品1で構成されるバンド部材106a,106bまたはベゼル102は、ベース層11A,11Bと、発泡層12と、塗装膜14とを有する。
【0019】
次に、本実施形態における成形品1の製造方法について説明する。成形品1の製造方法は、ベースとなる成形体10を形成する成形処理と、成形体10にエネルギーを照射することで凹凸形状を形成するエネルギー照射処理と、成形体10の表面に塗装膜14を形成する塗装処理と、を備える。
【0020】
まず、成形処理の前処理としてベース層11A,11Bを構成する成形材料と、発泡層12を構成する発泡材料とを準備する。成形材料は、例えばポリウレタンエラストマーあるいはシリコンエラストマーなどである。発泡材料は、例えば、ポリウレタンエラストマー、シリコンエラストマー等の樹脂材料で構成されるバインダ12aに、マイクロカプセル等の発泡剤12bを混合することで得られる。発泡剤12bの混合比は、3~30質量%の範囲であり、本実施形態において一例としてバインダ12aと発泡剤12bとは85:15の比率で混合する。
【0021】
成形処理として、成形体10の形状に対応する型を準備し、型内に、成形材料と発泡材料とを配し、インサート成形または2色成形により、成形体10を形成する。成形処理において、発泡剤12bを未発泡状態としたままで射出成形を行うことで、成形材料で構成されるベース層11Aと、発泡材料で構成される発泡層12と、成形材料で構成されるベース層11Bと、が積層された成形体10が形成される。成形体10は、バンド部材を構成する場合には、成形体10は、一方向に長く所定の幅及び厚さを有する帯状に形成される。
【0022】
次に、エネルギー照射処理として、照射装置200を用いて、作成した成形体10にエネルギー線を照射する。例えば照射装置200は、YVO4レーザーなどのレーザー光を照射する照射ヘッド201と、照射ヘッド201の条件を制御する制御部202と、を備える。例えば制御部202は各種の処理回路を有し、予め設定された図柄データ対応する条件となるように、レーザー光の照射位置や強度を調整する。
【0023】
レーザー光照射により、図柄データに対応する照射領域の発泡層12に含まれる発泡剤12bを選択的に発泡させ、照射部位の発泡剤12bのみを膨張させることで、非照射部位との差によって、凹部または凸部を有する凹凸部が形成され、立体的なテクスチャが表れる。すなわち、所望の図柄に対応する部位の発泡剤12bのみを膨張させて凹凸部の一例としての突起状の凸部20を形成し、一方で非照射部位の発泡剤12bは膨張しないため、結果として非照射部位が凹部21を形成する。このように凸部20あるいは凹部21によって、成形体10の表面に凹凸部を有する立体的なテクスチャが形成される。
【0024】
例えばエネルギー照射処理は、レーザー光のピークが成形体10の表面に当たらない条件に設定される。すなわち、レーザー光にピークがある場合、焦点が成形体10の表面に一致すると、発泡プロセスが起こる前に成形体10の樹脂表面を瞬間的に焦がし、アブレーションを起こしてしまうことがあるため、ピークをずらすことにより、アブレーションを回避する条件とする。具体例として、
図4に示すように、照射装置200の制御部202は、レーザー光の焦点を、成形体10の表面から外れる位置となるように、調整する。例えば制御部202は、エネルギー照射処理において、照射ヘッド201と成形体10の位置関係を調整する。
【0025】
あるいは、例えば他の実施形態として
図5に示すように、ピークを有さないビーム形状のレーザー光とすることで、ピークを避ける照射条件としてもよい。例えば
図5の右側に示すように、ピークを有さない、いわゆるトップハット形状とすることで、
図5の左側に示すガウシアン形状のレーザー光のようにピークを有する形状と比べて、ピークが成形体10の表面に当たることを防止できる。
【0026】
また、他の実施形態として
図6に示すように、レーザー光のピークが成形体10の表面に当たらない条件として、レーザー発振を連続波とし、あるいは高周波数帯としてもよい。
図6は、連続波と、高周波帯と、低周波帯の波形を示す説明図である。
図6に示すように、連続波や高周波帯の波形は、低周波帯の波形と比べてピークがなく、樹脂表面でアブレーションを起こすことを回避することができる。
【0027】
これらのように、エネルギー照射処理においてレーザー光のピークを当てないように、例えば照射装置200の制御部202によってレーザー光の形状や位置設定や波長等の条件を調整することにより、アブレーションを避けながら、所望の発泡剤12bを膨張させることができ、凹凸形状を有するテクスチャを形成できる。
【0028】
続いて、エネルギー照射によりテクスチャが形成された成形体10の表面に、印刷または塗装を行なうことで、塗装膜14を形成する。具体的にはインクジェットヘッド等の印刷処理により、成形体10の表面に塗布材を塗布することで、成形品1が完成する。
【0029】
以上のように構成された成形品及び成形品の製造方法によれば、発泡剤を混合した発泡材料を未発泡状態で成形し、エネルギー線を用いた部分発泡により立体テクスチャを発現させることにより、図柄データに応じて様々な凹凸形状を実現でき、デザイン性を向上することができる。すなわち、エネルギー線による後発泡により凹凸を実現するため、様々な立体テクスチャ表現が可能である。また、発泡層において発泡率を高めるために発泡体を多く含むと機械的強度が低下することもあるが、ベース層11Aと発泡層12とベース層11Bとを積層して一体に構成することで、高い強度を確保できる。また、例えば一般的に樹脂を融除し凹凸を発現させるレーザーテクスチャ技術は樹脂表層が低分子化し密着を阻害する為、テクスチャ表面への印刷/塗装が困難となるが、本実施形態によれば樹脂表層を低分子化するのではなく、発泡剤12bを発泡させることで凹凸を発現させることから、テクスチャ表面への印刷や塗装が可能である。このため、印刷や塗装との組み合わせにより、簡単な方法で複雑な外観表現を提供することができる。
【0030】
なお、上述した実施形態は例示であり、発明の範囲を限定するものではない。
(第2の実施形態)
例えば成形体10の積層構造は上述の一対のベース層11A,11B間に発泡層12が配されると3層構造に限られるものではない。例えば第2の実施形態として、
図7に示す成形品1B及び成形体10Bのように4層構造としてもよい。本実施形態にかかる成形体10Bは、ベース層11A,11Bと発泡層12A,12Bとをそれぞれ2層ずつ備える。すなわち、成形体10Bは、第1のベース層11A、第2のベース層11B、第1の発泡層12A、及び第2の発泡層12Bを備え、第1のベース層11Aと第2の発泡層12Bの表層部にそれぞれスキン層10aが形成される。本実施形態において、複数の発泡層12A,Bを備えるため、エネルギー照射の条件によって、第1の発泡層12Aと第2の発泡層12Bとの膨張状態を選択的に設定できる。例えば2層以上の発泡層12A,12Bを有する場合には、レーザー光Laの焦点の深さ方向の位置を設定することで、表側の発泡層12Bのみを膨張させることもでき、裏側の発泡層12Aのみを膨張させることもできる。また、異なる部位を異なる照射条件で照射することにより、部位毎に、膨張の度合いを設定することができる。例えば第1の発泡層12A及び第2の発泡層12Bをそれぞれ部分的に膨張させることで、複雑なテクスチャを表現することもできる。また、例えば表側の発泡層12Bのみを膨張させる部位、裏側の発泡層12Aのみを発泡させる部位、あるいは第1の発泡層12A及び第2層の発泡層12Bを膨張させる部位を、選択的に設けることで、高さや外観の異なる凸部20を組み合わせることができる。発泡層は、第1の発泡層12Aと第2の発泡層12Bとを有し、第2の発泡層12Bは、第1の凸部と第2の凸部とを有しており、これらは互いに高さがほぼ同じである。しかし、第1の発泡層12Aは、第2の凸部に対応する領域しか発泡していない。従って、成形品1Bの第1の凸部に対応する領域は、成形品1Bの第2の凸部に対応する領域よりも断面視で高さが低く、互いに異なる高さとなっている。
【0031】
すなわち本実施形態において、レーザー光をデフォーカスし、焦点を深層部に合わせることで、深層側の発泡層12Aを膨張させ、表層側の発泡層12Bを膨張させないように設定することが可能である。
【0032】
また、照射するレーザーの波長を調整することで、膨張させる部位を深さ方向で設定することも可能である。例えば長波長の赤外波長とし、一例として波長10640nmのCO2レーザーを用いることで、深層部までエネルギーを伝達して深層部の発泡剤12bを膨張させることが可能となる。
【0033】
なお、多層構造とした場合には、複数の発泡層12において使用する発泡剤の発泡温度を調節することにより、発泡状態を調整することもできる。例えば表層側の第2の発泡層12Bの発泡温度を、深層側の第1の発泡層12Aの発泡温度よりも高い温度とすることで、深層側の第1の発泡層12Aの発泡を促すことが可能である。
【0034】
(第1の実施形態の変形例1)
また、例えば第1の実施形態の変形例1として
図8に示す成形品1C及び成形体10Cのように、例えば発泡層12はベース層11A上の全面ではなく、部分的に設けられてもよい。本実施形態において、例えば部分成形により、ベース層11の一部分に発泡層12を重ねた積層体を作成する。
【0035】
本実施形態にかかる成形品1Cは、発泡層12が、第1のベース層11Aと第2のベース層11Bとの間に配置されているので、外部から衝撃が加わった場合でも、発泡層12が直接衝撃の影響を受けることは無い。
【0036】
(第3の実施形態)
また、第3の実施形態として
図9に示す成形品1D及び成形体10Dは、一層のベース層11と2層の発泡層12A,12Bとを積層して備える構成である。すなわち積層方向に、おいて一対の発泡層である第1の発泡層12Aと第2の発泡層12Bとの間に、ベース層11が挟まれる構成である。本実施形態において、レーザー照射を行う表側の第1の発泡層12Aとは反対側の裏側の第2の発泡層12Bは、全体的に発泡剤12bが発泡しており、表側の第1の発泡層12Aは部分的に発泡している。例えば成形品1D及び成形体10Dを作成する工程において、射出成型時に予め裏側の第2の発泡層12Bのみを発泡させ、次工程でベース層11と表層側の未発泡の第1の発泡層12Aとを積層して成形し、レーザー照射により表層側の第1の発泡層12Aを部分的に膨張させる。この際、一次成形で発泡層12Aの両面に出来たスキン層10aのうち、裏面側のスキン層10aはそのまま残り、表面側のスキン層10aはベース層11と一体化されるので、発泡層12Aとベース層11との間のスキン層10aは事実上存在しなくなる。従って、二次加工後の成形体10Dにおいて、スキン層10aは表裏面のみ存在することになる。
【0037】
具体的な製造方法としては一次成形時に熱を発泡温度(190-220℃)まで加え、基材となる第2の発泡層12Bの発泡剤12bを全体的に発泡させる。そして二次成形、三次成形を行うことで、ベース層11及び表層側の第1の発泡層12Aをさらに積層する。そして、3層構造の積層体にレーザーを照射することで表層側の任意の部分を発泡させて凸部20を形成する。
【0038】
本実施形態において、裏側の第1の発泡層12Aを既発泡状態にして成形することにより柔らかい構造体を実現でき、特に時計用の樹脂バンドなどには有効である。
【0039】
(第1の実施形態の変形例2)
また、第1の実施形態の変形例2として
図10に示す成形品1Eのように、スキン層10aは金型表面温度に依存するので温度制御が可能であるため、一次成形時にスキン層10a以外を発泡させることも可能である。
【0040】
本実施形態にかかる成形品1Eは、発泡層12が、第1のベース層11Aと第2のベース層11Bとの間に配置されているので、外部から衝撃が加わった場合でも、発泡層12が直接衝撃の影響を受けることは無い。
【0041】
(第1の実施形態の変形例3)
また、境界部、すなわちベース層11と発泡層12とが対向する表面は、平滑面に限られるものではなく、凹凸部や波状部を有する構成であってもよい。例えば第1の実施形態の変形例3として
図11に示す成形品1F及び成形体10Fのように、ベース層11Aと発泡層12は境界部にそれぞれアンダーカット部11d、12dを有する。例えばアンダーカット部11d、12dは互いに嵌合する波状または凹凸状の表面を有し、発泡層12とベース層11Aとの接合強度を向上することができる。例えばベース層11Aまたは発泡層12が異なる材質である場合、特に一方に添加剤を含んでいる場合には、接合強度を確保することが難しいが、このようなアンダーカット部11d、12dにより、接合強度を向上できる。また、本実施形態にかかる成形品1Eは、発泡層12が、第1のベース層11Aと第2のベース層11Bとの間に配置されているので、外部から衝撃が加わった場合でも、発泡層12が直接衝撃の影響を受けることは無い。
【0042】
なお、ベース層11、11A、11Bや発泡層12、12A、12Bとして用いる材料は上記実施形態の例示に限られるものではなく、適宜変更可能である。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記]
[1]
樹脂材で形成されるベース層と、
樹脂材と発泡剤とを含み、前記ベース層に積層されるとともに、少なくとも一部の前記発泡剤が発泡した凸部を有する発泡層と、
を備え、
前記ベース層及び前記発泡層のうち少なくとも一方を複数有する、成形品。
【0044】
[2]
表面に形成される塗装膜をさらに備える、[1]に記載の成形品。
[3]
前記ベース層は、第1のベース層と第2のベース層とを有し、
前記発泡層は、前記第1のベース層と前記第2のベース層との間に配置される、[1]に記載の成形品。
[4]
前記発泡層は、第1の発泡層と第2の発泡層とを有し、
前記ベース層は、前記第1の発泡層と前記第2の発泡層との間に配置される、[1]に記載の成形品。
[5]
前記発泡層は前記ベース層上に部分的に設けられる、[1]に記載の成形品。
[6]
前記発泡層は、第1の発泡層と第2の発泡層とを有し、
前記第2の発泡層は、第1の凸部と第2の凸部とを有し、
前記成形品の第1の凸部に対応する領域と、前記成形品の前記第2の凸部に対応する領域と、では断面視において前記成形品の高さが互いに異なる、[1]に記載の成形品。
[7]
時計ケースと、
前記時計ケースの表側に設けられるベゼルと、
前記時計ケース内に配置されるモジュールと、
前記時計ケースに取付けられる時計バンドと、
を備え、
前記ベゼルまたは前記時計バンドの少なくとも一部が請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の成形品で構成される、時計。
[8]
成形により、樹脂材で形成されるベース層と、樹脂材と発泡剤とを含み前記ベース層に積層される発泡層と、を有するとともに、前記ベース層及び前記発泡層の少なくとも一方が複数積層された成形体を作成し、
前記成形体にエネルギー照射することで、前記発泡剤の少なくとも一部を発泡させて前記成形体に凸部を形成する、成形品の製造方法。
[9]
前記エネルギー照射において、前記成形体の表面に焦点が当たらない条件でレーザー光を照射する、[8]に記載の成形品の製造方法。
【符号の説明】
【0045】
-…レーザー
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F…成形品
10、10A、10B、10C、10D、10F…成形体
10a…スキン層
11、11A、11B…ベース層
11d…アンダーカット部
12、12A、12B…発泡層
12a…バインダ
12b…発泡剤
12d…アンダーカット部
14…塗装膜
20…凸部
21…凹部
100…腕時計
101…時計ケース
102…ベゼル
103…モジュール
104…カバー
106…時計バンド
106a、106b…バンド部材
106c…連結部
200…照射装置
201…照射ヘッド
202…制御部